(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022113497
(43)【公開日】2022-08-04
(54)【発明の名称】周波数シンセサイザのクロック周波数を決定する方法
(51)【国際特許分類】
H03L 7/18 20060101AFI20220728BHJP
H03L 7/08 20060101ALI20220728BHJP
H03B 28/00 20060101ALI20220728BHJP
【FI】
H03L7/18
H03L7/08 210
H03B28/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021009784
(22)【出願日】2021-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】000232483
【氏名又は名称】日本電波工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【弁理士】
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【弁理士】
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【弁理士】
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 健介
【テーマコード(参考)】
5J106
【Fターム(参考)】
5J106AA04
5J106BB10
5J106CC02
5J106CC21
5J106CC41
5J106CC53
5J106DD33
5J106FF06
5J106GG09
5J106GG18
5J106HH01
5J106JJ05
5J106KK03
5J106KK26
5J106PP03
5J106QQ08
5J106QQ09
5J106RR01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】周波数シンセサイザの出力信号に含まれるスプリアスの信号レベルを簡便に抑制する方法を提供する。
【解決手段】周波数シンセサイザのクロック周波数を決定する方法は、第1スプリアス特性を生成するステップと、第2スプリアス特性を生成するステップを有する。第1スプリアス特性を生成するステップでは、設定可能なクロック周波数に対する、発振信号の周波数とDDS信号に含まれるN次高調波に起因して発振信号に発生するN次スプリアスの周波数との周波数差の関係を特定してプロットする。第2スプリアス特性を生成するステップでは、第1スプリアス特性において、クロック周波数毎に最も小さい周波数差のデータを抽出する。方法はさらに、周波数シンセサイザのクロック信号のクロック周波数を決定するステップを含み、第2スプリアス特性が示す周波数差の値に基づき、周波数シンセサイザのクロック周波数を決定する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロック信号を出力するクロック信号源と、前記クロック信号源から出力された前記クロック信号に基づいてDDS信号を出力するDDSと、前記DDSから出力された前記DDS信号の周波数を基準として設定された周波数の発振信号を出力するPLL回路とを備える、周波数シンセサイザの前記クロック信号のクロック周波数を決定する方法であって、
設定可能な前記クロック周波数に対する、前記発振信号の周波数と前記DDS信号に含まれるN次高調波(Nは2以上の自然数)に起因して前記発振信号に発生するN次スプリアスの周波数との周波数差の関係を特定してプロットした第1スプリアス特性を生成するステップと、
前記第1スプリアス特性において、前記クロック周波数ごとに最も小さい前記周波数差のデータを抽出して、第2スプリアス特性を生成するステップと、
前記第2スプリアス特性が示す前記周波数差の値に基づき、前記周波数シンセサイザの前記クロック信号の前記クロック周波数を決定するステップと
を有する方法。
【請求項2】
前記クロック周波数を決定するステップにおいて、前記第2スプリアス特性のうち前記周波数差が極大値を示すデータの前記クロック周波数を、前記クロック信号の前記クロック周波数として決定する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記クロック周波数を決定するステップにおいて、前記第2スプリアス特性のうち前記周波数差が最大値を示すデータの前記クロック周波数を、前記クロック信号の前記クロック周波数として決定する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記PLL回路において、前記発振信号の周波数から離れた周波数に対するスプリアスのゲインの周波数特性を示す離調周波数特性を特定するステップと、
前記離調周波数特性において予め定められたゲイン以下となる第1離調周波数を特定するステップと
を更に備え、
前記クロック周波数を決定するステップにおいて、前記第2スプリアス特性のうち特定された前記第1離調周波数を超える前記周波数差のデータの前記クロック周波数を、前記クロック信号の前記クロック周波数として決定する、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1スプリアス特性を生成するステップと前記第2スプリアス特性を生成するステップとを繰り返して、前記DDSが出力すべき前記DDS信号の周波数のそれぞれについて、前記第2スプリアス特性を生成し、
生成した前記第2スプリアス特性の全てをプロットしてから、前記クロック周波数ごとに最も小さい前記周波数差のデータを抽出して、出力すべき前記DDS信号の周波数に共通する前記第2スプリアス特性を生成するステップを更に備える、
請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周波数シンセサイザのクロック周波数を決定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ダイレクトデジタルシンセサイザ(DDS:Direct Digital Synthesizer)から出力される信号をPLL(Phase Locked Loop)回路の入力信号とする周波数シンセサイザが知られている(特許文献1等を参照)。DDSは、その出力周波数を微細なステップで任意に変更可能である。このため、DDSを用いたPLL方式は、PLL回路の構成要素である位相比較器に入力する信号の周波数、すなわち、比較周波数を高くしたままPLL回路から出力される発振信号の周波数を調整することができ、位相雑音やロックアップタイムの面で有利な方式である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
DDSの出力信号には、当該信号の周波数の高調波に起因するスプリアスが含まれている。スプリアスは、エイリアシングにより、DDSの出力信号の周波数の近傍に多数現れることがある。特に、スプリアスの周波数が、PLL回路におけるループフィルタの帯域内となる場合、PLL回路からの出力信号にもスプリアスが含まれてしまい、当該出力信号に基づいて動作する機器の性能劣化等を引き起こすおそれがある。
【0005】
このようなスプリアスを低減させるには、特許文献1のように、PLL回路から出力される出力信号に所定レベル以上のスプリアスが含まれるか否か、スプリアスの大きさが許容レベルであるか否かを判定する周波数シンセサイザが知られている。しかしながら、このような周波数シンセサイザは、スプリアスを低減させた発振信号を出力するための処理が複雑で、動作完了までの時間が長くなってしまうことがあった。
【0006】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、周波数シンセサイザの出力信号に含まれるスプリアスの信号レベルを簡便に抑制できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様においては、クロック信号を出力するクロック信号源と、前記クロック信号源から出力された前記クロック信号に基づいてDDS信号を出力するDDSと、前記DDSから出力された前記DDS信号の周波数を基準として設定された周波数の発振信号を出力するPLL回路とを備える、周波数シンセサイザの前記クロック信号のクロック周波数を決定する方法であって、設定可能な前記クロック周波数に対する、前記発振信号の周波数と前記DDS信号に含まれるN次高調波(Nは2以上の自然数)に起因して前記発振信号に発生するN次スプリアスの周波数との周波数差の関係を特定してプロットした第1スプリアス特性を生成するステップと、前記第1スプリアス特性において、前記クロック周波数ごとに最も小さい前記周波数差のデータを抽出して、第2スプリアス特性を生成するステップと、前記第2スプリアス特性が示す前記周波数差の値に基づき、前記周波数シンセサイザの前記クロック信号の前記クロック周波数を決定するステップとを有する方法を提供する。
【0008】
前記クロック周波数を決定するステップにおいて、前記第2スプリアス特性のうち前記周波数差が極大値を示すデータの前記クロック周波数を、前記クロック信号の前記クロック周波数として決定してもよい。
【0009】
前記クロック周波数を決定するステップにおいて、前記第2スプリアス特性のうち前記周波数差が最大値を示すデータの前記クロック周波数を、前記クロック信号の前記クロック周波数として決定してもよい。
【0010】
前記PLL回路において、前記発振信号の周波数から離れた周波数に対するスプリアスのゲインの周波数特性を示す離調周波数特性を特定するステップと、前記離調周波数特性において予め定められたゲイン以下となる第1離調周波数を特定するステップとを更に備え、前記クロック周波数を決定するステップにおいて、前記第2スプリアス特性のうち特定された前記第1離調周波数を超える前記周波数差のデータの前記クロック周波数を、前記クロック信号の前記クロック周波数として決定してもよい。
【0011】
前記第1スプリアス特性を生成するステップと前記第2スプリアス特性を生成するステップとを繰り返して、前記DDSが出力すべき前記DDS信号の周波数のそれぞれについて、前記第2スプリアス特性を生成し、生成した前記第2スプリアス特性の全てをプロットしてから、前記クロック周波数ごとに最も小さい前記周波数差のデータを抽出して、出力すべき前記DDS信号の周波数に共通する前記第2スプリアス特性を生成するステップを更に備えてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、周波数シンセサイザの出力信号に含まれるスプリアスの信号レベルを簡便に抑制できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態に係る周波数シンセサイザ10の構成例を示す。
【
図2】本実施形態に係るPLL回路130に発生するスプリアスのゲインの離調周波数特性の一例を示す。
【
図3】本実施形態に係る周波数シンセサイザ10のクロック周波数を決定するための動作フローの第1例を示す。
【
図4】本実施形態に係るPLL回路130の第1スプリアス特性の一例を示す。
【
図5】本実施形態に係るPLL回路130の第2スプリアス特性の一例を示す。
【
図6】本実施形態に係る周波数シンセサイザ10のクロック周波数を決定するための動作フローの第2例を示す。
【
図7】本実施形態に係る複数の第2スプリアス特性をプロットした結果の一例を示す。
【
図8】本実施形態に係る複数のDDS信号に共通の第2スプリアス特性の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<周波数シンセサイザ10の構成例>
図1は、本実施形態に係る周波数シンセサイザ10の構成例を示す。周波数シンセサイザ10は、スプリアスの信号レベルを低減させつつ、設定された周波数の発振信号を出力する。周波数シンセサイザ10は、クロック信号源110と、ダイレクトデジタルシンセサイザ(DDS)120と、PLL回路130と、制御部140とを備える。
【0015】
クロック信号源110は、クロック信号を出力する。クロック信号源110は、例えば、制御部140から指定された周波数のクロック信号を出力可能なクロック信号源である。クロック信号源110は、一例として、1500MHzから2000MHzの間のクロック周波数のクロック信号を出力する。クロック信号源110が出力するクロック信号は、DDS120の基準クロック信号となる。
【0016】
DDS120は、クロック信号源110から出力されたクロック信号に基づいてDDS信号を出力する。DDS120は、制御部140から受け取った設定データが示す周波数のDDS信号を出力する。DDS信号の周波数は、一例として、600MHzから700MHzの間の周波数である。DDS120がDDS信号を出力する動作は既知なので、ここでは説明を省略する。
【0017】
DDS120が出力するDDS信号には、DDS信号のN次高調波(Nは2以上の自然数)に起因するスプリアスが含まれることがある。このような高次のスプリアスは、N次高調波がクロック周波数で折り返されて発生する。したがって、スプリアスが発生する周波数は、DDS信号の周波数、高調波の次数、及びクロック周波数に応じて変化する。なお、本実施形態において、DDS信号のN次高調波に起因するスプリアスをN次スプリアス、又はスプリアスと呼ぶ。
【0018】
PLL回路130は、DDS120から出力されたDDS信号の周波数を基準として設定された周波数の発振信号を出力する。PLL回路130は、例えば、DDS信号の逓倍の周波数を有する発振信号を出力する。PLL回路130が出力する周波数は、一例として、6000MHzから7000MHzの間の周波数である。PLL回路130は、電圧制御発振器132と、分周器134と、位相比較器136と、ループフィルタ138とを有する。
【0019】
電圧制御発振器132は、入力した電圧に応じた周波数の発振信号を出力する。電圧制御発振器132は、例えば、水晶振動子及び可変容量ダイオードを含み、入力した電圧に基づいて当該可変容量ダイオードの容量値を変化させることにより発振信号の周波数を調節する。電圧制御発振器132は、DDS120から出力されるDDS信号と、分周器134の分周比とに基づいて設定される周波数の発振信号を生成する。電圧制御発振器132は、生成した発振信号を外部に出力するとともに分周器134に供給する。発振信号には、DDS信号に含まれるスプリアスに起因するスプリアスが含まれている。
【0020】
分周器134は、電圧制御発振器132から出力された発振信号の周波数を分周する。分周器134の分周比は、一例として、10である。なお、分周器134は、分周比が可変の分周器であってもよい。この場合、分周器134は、例えば、制御部140によって設定された分周比によって発振信号の周波数を分周する。分周器134は、発振信号を分周した分周信号を位相比較器136に供給する。
【0021】
位相比較器136は、DDS120から出力されたDDS信号の位相と、分周器134から出力された分周信号の位相との位相差に応じた電圧をループフィルタ138に出力する。ループフィルタ138は、位相比較器136から出力された電圧を、電圧制御発振器132を制御するための制御電圧に変換して出力する。ループフィルタ138は、例えば、ローパスフィルタである。以上のようなPLL回路130の動作は既知なので、より詳細な説明は省略する。
【0022】
制御部140は、以上のクロック信号源110、DDS120、PLL回路130を制御して、設定された周波数の発振信号を電圧制御発振器132から出力させる。制御部140は、取得部142と、記憶部144と、設定部146とを有する。
【0023】
取得部142は、周波数シンセサイザ10が出力する発振信号の周波数の設定データを取得する。取得部142は、例えば、ユーザ等が入力デバイス等に入力した設定データを取得する。また、取得部142は、外部の回路等から供給される設定データを取得してもよい。
【0024】
記憶部144は、クロック信号源110、DDS120、及びPLL回路130の設定可能な設定値の情報を記憶する。記憶部144は、例えば、出力すべき発振信号の周波数に関連付けて、対応するクロック信号のクロック周波数、DDS信号の周波数、及びPLL回路130の分周比等の設定値の組み合わせを記憶する。当該組み合わせについては後述する。また、記憶部144は、制御部140が制御動作に用いる設定値、閾値、及びパラメータ等を記憶してよい。
【0025】
設定部146は、クロック信号源110、DDS120、及びPLL回路130のそれぞれに設定値を設定する。設定部146は、例えば、取得部142が取得した設定データが示す発振信号の周波数に対応する各部の設定値の組み合わせを記憶部144から読み出し、読み出した設定値を各部に設定する。
【0026】
以上の制御部140は、集積回路等で構成されていることが望ましい。例えば、制御部140は、FPGA(Field Programmable Gate Array)、DSP(Digital Signal Processor)、及び/又はCPU(Central Processing Unit)を含む。
【0027】
制御部140の少なくとも一部をコンピュータ等で構成する場合、記憶部144は、一例として、制御部140を実現するコンピュータ等のBIOS(Basic Input Output System)等を格納するROM(Read Only Memory)、及び作業領域となるRAM(Random Access Memory)を含む。また、記憶部144は、OS(Operating System)、アプリケーションプログラム、及び/又は当該アプリケーションプログラムの実行時に参照されるデータベースを含む種々の情報を格納してよい。記憶部144は、HDD(Hard Disk Drive)及び/又はSSD(Solid State Drive)等の大容量記憶装置を含んでよい。CPU等のプロセッサは、記憶部に記憶されたプログラムを実行することによって制御部140として機能する。
【0028】
以上の周波数シンセサイザ10は、記憶部144に記憶されているクロック信号のクロック周波数、DDS信号の周波数、及びPLL回路130の分周比の組み合わせを用いることで、取得した設定データに対応する発振信号を出力する。ここで、DDS信号の周波数、及びPLL回路130の分周比の設定値は、出力すべき発振信号の周波数に対応して決定される。例えば、設定データが示す出力すべき発振信号の周波数が6000MHzの場合、DDS信号の周波数の設定値は600MHz、PLL回路130の分周比の設定値は10である。
【0029】
このような周波数シンセサイザ10のDDS120の出力信号には、当該信号の周波数の高調波に起因するスプリアスが含まれている。スプリアスは、エイリアシングにより、DDSの出力信号の周波数の近傍に多数現れることがある。特に、スプリアスの周波数が、PLL回路130におけるループフィルタの帯域内となる場合、PLL回路からの出力信号にもスプリアスが含まれてしまう。
【0030】
図2は、本実施形態に係るPLL回路130に発生するスプリアスのゲインの離調周波数特性の一例を示す。
図2の横軸は発振信号の周波数から離れた周波数を離調周波数Δfとして示し、縦軸は離調周波数Δfにスプリアスが発生した場合のゲインを示す。スプリアスのゲインの周波数特性は、PLL回路130において、発振信号の周波数から離れた周波数の信号に対するゲインの周波数特性を示す離調周波数特性である。
【0031】
図2に示すように、スプリアスのゲインは、離調周波数Δfが大きくなると、PLL回路130のループフィルタ138の減衰特性により、より小さい値になることがわかる。したがって、スプリアスが発生しても、発生した周波数の位置が発振信号の周波数よりもより離れた周波数であれば、当該スプリアスの信号レベルが低減することがわかる。したがって、例えば、スプリアスが発生する周波数は、発振信号の周波数よりもループフィルタ138のカットオフ周波数以上離れた周波数となることが望ましい。
【0032】
スプリアスが発生する周波数は、DDS信号の周波数、高調波の次数、及びクロック周波数に応じて変化する。したがって、例えば、DDS信号の周波数ごとにクロック周波数を適切に設定することで、スプリアスの信号レベルを低減できる。そこで、このような周波数シンセサイザ10のスプリアスの信号レベルをより低減させるクロック信号のクロック周波数を決定する方法について次に説明する。
【0033】
<DDS信号の周波数ごとにクロック周波数を決定する例>
図3は、本実施形態に係る周波数シンセサイザ10のクロック周波数を決定するための動作フローの第1例を示す。
図3に示す動作フローは、例えば、周波数シンセサイザ10の製造工程において実行される。当該動作フローは、周波数シンセサイザ10の制御部140が実行してもよく、これに代えて、周波数シンセサイザ10とは別個のサーバ等のコンピュータが実行してもよい。本実施形態において、設定可能なクロック周波数は1500MHzから2000MHz、DDS120が出力するDDS信号の周波数は600MHz、650MHz、700MHz、PLL回路130が出力する発振信号の周波数は6000MHz、6500MHz、7000MHzとする。
【0034】
まず、コンピュータは、第1スプリアス特性を生成する(S210)。第1スプリアス特性は、設定可能なクロック周波数に対する、発振信号の周波数とDDS信号に含まれるN次スプリアスの周波数との周波数差の関係を特定してプロットしたクロック周波数特性である。ここで、発振信号の周波数とN次スプリアスの周波数との周波数差をスプリアス離調周波数、又は単に周波数差とする。
【0035】
図4は、本実施形態に係るPLL回路130の第1スプリアス特性の一例を示す。
図4の横軸はクロック周波数を示し、縦軸はスプリアス離調周波数を示す。ここで、DDS120のDDS信号を600MHzとし、PLL回路130が出力する発振信号の周波数を6000MHzとした。
図4は、クロック周波数に対して、2次から10次のスプリアスが発生する周波数の位置を発振信号の周波数を基準としてプロットした結果の例を示す。
【0036】
コンピュータは、自身に接続された測定装置等を用いて第1スプリアス特性を生成してもよく、これに代えて、シミュレーションを用いてこのような第1スプリアス特性を生成してもよい。例えば、DDS信号の周波数をFDDS、DDS信号の周波数とN次スプリアスの周波数との差分をFdelta,Np,Fsn(FDDS)とすると、当該差分は、次式のように算出される。ここで、Npはスプリアスの次数、Fsnはクロック信号のクロック周波数、floor()は、小数点以下を切り捨てる関数、mod(x,y)は、xをyで除算した際の余りを求める関数とする。
【0037】
(数1)
Fdelta,Np,Fsn(FDDS)=
-FDDS+mod{floor(FDDS*Np/(Fsn/2)),2}*{(Fsn/2)-mod(FDDS*Np,Fsn/2)}
+[1-mod{floor(FDDS*Np/(Fsn/2)),2}]*mod(FDDS*Np,Fsn/2)
【0038】
ここで、発振信号の周波数は、DDS信号の周波数F
DDSと分周比Mmとを乗算した結果に等しくなる。そこで、コンピュータは、(数1)式で算出された差分F
delta,Np,Fsn(F
DDS)に分周比Mmを乗算することにより、PLL回路130が出力する発振信号の周波数と、当該発振信号に含まれるN次スプリアスの周波数との差分を示すスプリアス離調周波数を算出することができる。
図4は、分周比Mmを10とした場合のクロック周波数と、スプリアス離調周波数との関係を示す図である。
図4より、設定したクロック周波数に対して、各スプリアスの周波数が発振信号の周波数からどのくらい離れているかを特定することができる。
【0039】
次に、コンピュータは、第1スプリアス特性において、クロック周波数ごとに最も小さい周波数差のデータを抽出して、第2スプリアス特性を生成する(S220)。
図5は、本実施形態に係るPLL回路130の第2スプリアス特性の一例を示す。
図5は、
図4に示す第1スプリアス特性において、スプリアス離調周波数が最も小さいデータをクロック周波数ごとに抽出した結果を示す。
図5より、設定したクロック周波数に対して、発振信号の周波数に最も近いスプリアスの周波数を特定することができる。
【0040】
次に、コンピュータは、第2スプリアス特性が示す周波数差の値に基づき、周波数シンセサイザ10のクロック信号のクロック周波数を決定する(S230)。例えば、コンピュータは、第2スプリアス特性のうち周波数差が最大値を示すデータのクロック周波数を、クロック信号のクロック周波数として決定する。
【0041】
図5の例の場合、例えば、スプリアス離調周波数が最大値となるクロック周波数F
1が、PLL回路130の発振周波数6000MHz(DDS信号の周波数600MHz)に対応するクロック周波数として決定される。これにより、PLL回路130が出力する発振信号の周波数に最も近いスプリアスのスプリアス離調周波数を最も大きくすることができ、当該スプリアスの信号レベルを最も抑制することができる。
【0042】
また、コンピュータは、第2スプリアス特性のうち周波数差が極大値を示すデータのクロック周波数を、クロック信号のクロック周波数として決定してもよい。
図5の例の場合、スプリアス離調周波数が極大値となるクロック周波数F
2、F
3、・・・等が、PLL回路130の発振周波数6000MHz(DDS信号の周波数600MHz)に対応するクロック周波数として決定されてよい。これにより、PLL回路130が出力する発振信号の周波数に最も近いスプリアスのスプリアス離調周波数をより大きくすることができ、当該スプリアスの信号レベルをより抑制することができる。
【0043】
コンピュータは、DDS120が出力すべきDDS信号の周波数が他にある場合(S240:Yes)、S210に戻り、他の周波数に対応するクロック周波数を決定する。コンピュータは、例えば、650MHz、700MHzのDDS信号に対応するクロック信号をそれぞれ決定するためにS210からS230の動作を繰り返す。
【0044】
コンピュータは、DDS120が出力すべきDDS信号の周波数に対応するクロック信号を決定した場合(S240:No)、決定したクロック周波数の情報を発振信号の周波数に対応付けて、周波数シンセサイザ10の記憶部144に記憶させる(S250)。以上により、周波数シンセサイザ10の記憶部144には、スプリアスの信号レベルを低減させる適切なクロック信号の情報が格納されることになる。
【0045】
したがって、このような周波数シンセサイザ10を動作させると、制御部140は、発振信号の周波数に対応するクロック周波数を示すデータを記憶部144から読み出して、クロック信号源110に適切なクロック周波数を設定できる。このように、周波数シンセサイザ10は、複雑な制御動作をすることなく、周波数シンセサイザの出力信号に含まれるスプリアスの信号レベルを簡便に抑制できる。
【0046】
そして、周波数シンセサイザ10は、例えば、6000MHz、6500MHz、7000MHzのうちの何れかの周波数を示す設定データを取得しても、対応するクロック周波数を示すデータを記憶部144から読み出して、適切なクロック周波数に切り替えて設定できる。これにより、周波数シンセサイザ10は、出力すべき発振信号の周波数が複数設定可能であっても、複数の設定に応じてスプリアスの信号レベルを簡便に抑制できる。
【0047】
<共通のクロック周波数を決定する例>
以上の本実施形態に係る周波数シンセサイザ10において、DDS信号の周波数ごとにクロック周波数を決定する例を説明したが、これに限定されることはない。コンピュータは、出力すべき複数の周波数の発振信号に対して、スプリアスの信号レベルを抑制する共通のクロック周波数を決定してもよい。
【0048】
図6は、本実施形態に係る周波数シンセサイザ10のクロック周波数を決定するための動作フローの第2例を示す。第2例の動作フローにおいて、
図3に示された本実施形態に係る第1例の動作フローの動作と略同一のものには同一の符号を付け、説明を省略する。
【0049】
第2例の動作フローの場合、コンピュータは、DDS120が出力すべきDDS信号の周波数のそれぞれについて、第2スプリアス特性を生成する。コンピュータは、例えば、第1スプリアス特性を生成するステップ(S210)と第2スプリアス特性を生成するステップ(S220)とを繰り返して、DDS120が出力すべき600MHz、650MHz、及び700MHzの周波数のDDS信号に対応する3つの第2スプリアス特性を生成する。
【0050】
コンピュータは、DDS120が出力すべきDDS信号の周波数が他にある場合(S310:Yes)、S210及びS220の動作を繰り返す。そして、コンピュータは、DDS120が出力すべきDDS信号の周波数に対応する第2スプリアス特性を生成した場合(S310:No)、次のS320の動作を実行する。
【0051】
コンピュータは、生成した第2スプリアス特性の全てをプロットしてから、クロック周波数ごとに最も小さい周波数差のデータを抽出して、出力すべきDDS信号の周波数に共通する第2スプリアス特性を生成する(S320)。
図7は、本実施形態に係る複数の第2スプリアス特性をプロットした結果の一例を示す。
図7の横軸はクロック周波数を示し、縦軸はスプリアス離調周波数を示す。
【0052】
図7は、
図5に示す第2スプリアス特性に、DDS信号の周波数を650MHz、700MHzとした場合の2つの第2スプリアス特性を更にプロットした結果を示す。
図7より、設定したクロック周波数に対して、複数の周波数の発振信号に発生する各スプリアスの周波数が発振信号の周波数からどのくらい離れているかを特定することができる。
【0053】
そして、コンピュータは、
図7に示す複数の第2スプリアス特性において、クロック周波数ごとに最も小さい周波数差のデータを抽出して、複数のDDS信号に共通の第2スプリアス特性を生成する。
図8は、本実施形態に係る複数のDDS信号に共通の第2スプリアス特性の一例を示す。
図8の横軸はクロック周波数を示し、縦軸はスプリアス離調周波数を示す。
図8より、設定したクロック周波数に対して、複数の周波数の発振信号に発生するスプリアスのうち最も発振信号の周波数に近いスプリアスの周波数を特定することができる。
【0054】
そして、コンピュータは、共通の第2スプリアス特性が示す周波数差の値に基づき、周波数シンセサイザ10のクロック信号のクロック周波数を決定する(S330)。
図8の例の場合、例えば、スプリアス離調周波数が最大値となるクロック周波数F
MAX(1683MHz)が、複数の発振周波数に対応する共通のクロック周波数として決定される。
【0055】
これにより、周波数シンセサイザ10は、例えば、クロック信号源110のクロック周波数を共通のクロック周波数FMAXにするだけで、複数の周波数の発振信号に含まれるスプリアスの信号レベルを簡便に抑制できる。なお、クロック周波数FMAXに代えて、スプリアス離調周波数が極大値となるクロック周波数を共通のクロック周波数として決定してもよい。
【0056】
なお、クロック信号源110は、共通のクロック周波数のクロック信号だけをDDS120に供給する信号源として構成されていてもよい。これにより、制御部140は、クロック信号源110に出力すべきクロック周波数を設定する必要がなくなる。したがって、周波数シンセサイザ10は、より簡便な制御動作により、複数の周波数の発振信号に発生するスプリアスの信号レベルを抑制できる。
【0057】
以上の本実施形態に係る周波数シンセサイザ10において、発振信号に発生する2次から10次のスプリアスの信号レベルを抑制する例を説明したが、これに限定されることはない。11次以上のスプリアスをプロットした第1スプリアス特性を生成することにより、より高次のスプリアスの信号レベルを抑制してもよく、これに代えて、10次未満のスプリアスをプロットした第1スプリアス特性を生成して、10次未満のスプリアスの信号レベルを抑制してもよい。また、偶数次又は奇数次のスプリアスの信号レベルを抑制してもよい。
【0058】
以上の本実施形態に係る周波数シンセサイザ10において、第2スプリアス特性のスプリアス離調周波数の最大値又は極大値に基づいてクロック信号のクロック周波数を決定する例を説明したが、これに限定されることはない。スプリアスが発生する周波数が発振信号の周波数よりもより離れた位置にあれば、スプリアスの信号レベルを低減できるので、スプリアス離調周波数が最大値又は極大値でない値に基づいてクロック周波数を決定してもよい。例えば、スプリアス離調周波数が最大値又は極大値の近傍の値となるように、クロック周波数を決定してもよい。
【0059】
また、スプリアス離調周波数の値が要求される仕様等に合致する範囲において、クロック周波数を決定してもよい。例えば、コンピュータは、スプリアス離調周波数の値が所定の離調周波数を超える範囲で、クロック周波数を決定する。ここで、所定の離調周波数は、
図2に示すスプリアスのゲインの周波数特性から特定してもよい。
【0060】
この場合、例えば、コンピュータは、上述のS230又はS330の動作の前に、
図2に示すような、発振信号の周波数から離れた周波数に対するスプリアスのゲインの周波数特性を示す離調周波数特性を特定する。コンピュータは、例えば、自身に接続された測定装置等を用いてPLL回路130の周波数特性を測定することによってこのような離調周波数特性を特定する。これに代えて、コンピュータは、シミュレーションを用いてこのような離調周波数特性を特定してもよい。
【0061】
次に、コンピュータは、離調周波数特性において予め定められたゲイン以下となる第1離調周波数を特定する。例えば、スプリアスのゲインを-70dB以下にする場合、コンピュータは、
図2に示す離調周波数特性を用いて、第1離調周波数として10MHzの値を特定する。予め定められたゲインは、例えば、コンピュータの操作者、ユーザ等によってコンピュータに入力される。また、予め定められたゲインは、記憶部144に記憶されていてもよい。
【0062】
そして、コンピュータは、上述のS230又はS330の動作において、第2スプリアス特性のうち特定された第1離調周波数を超える周波数差のデータのクロック周波数を、クロック信号のクロック周波数として決定する。例えば、コンピュータは、スプリアス離調周波数が第1離調周波数である10MHzを超える範囲において、クロック周波数を決定する。この場合、コンピュータは、
図5又は
図8の第2スプリアス特性において、10MHzを超えるデータを用いて、クロック周波数を決定する。これにより、発振信号に発生するスプリアスの周波数におけるゲインを、PLL回路130のゲイン特性の予め定められたゲイン以下にすることができるので、当該スプリアスを簡便に抑制することができる。
【0063】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【符号の説明】
【0064】
10 周波数シンセサイザ
110 クロック信号源
120 DDS
130 PLL回路
132 電圧制御発振器
134 分周器
136 位相比較器
138 ループフィルタ
140 制御部
142 取得部
144 記憶部
146 設定部