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特開2022-113506製紙用フェルトの製造方法及びこの製造方法により製造された製紙用フェルト。
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022113506
(43)【公開日】2022-08-04
(54)【発明の名称】製紙用フェルトの製造方法及びこの製造方法により製造された製紙用フェルト。
(51)【国際特許分類】
   D21F 7/08 20060101AFI20220728BHJP
【FI】
D21F7/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021009797
(22)【出願日】2021-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】000229852
【氏名又は名称】日本フエルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【識別番号】100151644
【弁理士】
【氏名又は名称】平岩 康幸
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(72)【発明者】
【氏名】安田 徹
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055CE38
(57)【要約】
【課題】緯方向の曲げ剛性の上昇を抑制し、脱毛防止に優れる製紙用フェルトの製造方法及びこの製造方法によって製造された製紙用フェルトを提供する。
【解決手段】製紙用フェルトの製造方法は、基布と、前記基布の製紙面側に積層され、鞘成分の融点が165~185℃かつ芯成分の融点が鞘成分の融点より高く、繊度が15~20dtexである芯鞘繊維を含む表バット繊維層と、を備えた製紙用フェルトの製造方法であって、基布素材と表バット繊維層素材とを交絡して積層体を得る積層工程と、前記積層体を前記芯鞘繊維の鞘成分の融点より0~10℃高い温度で圧縮処理する圧縮処理工程と、を備える。前記表バット繊維層全体の質量を100%とした場合に、前記芯鞘繊維を、30~50質量%含むことが好ましい。製紙用フェルトは、本発明の製紙用フェルトの製造方法により製造される。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基布と、
前記基布の製紙面側に積層され、鞘成分の融点が165~185℃かつ芯成分の融点が鞘成分の融点より高く、繊度が15~20dtexである芯鞘繊維を含む表バット繊維層と、を備えた製紙用フェルトの製造方法であって、
基布素材と表バット繊維層素材とを交絡して積層体を得る積層工程と、
前記積層体を前記芯鞘繊維の鞘成分の融点より0~10℃高い温度で圧縮処理する圧縮処理工程と、を備えることを特徴とする製紙用フェルトの製造方法。
【請求項2】
前記表バット繊維層全体を100質量%とした場合に、前記芯鞘繊維を、30~50質量%含む請求項1に記載の製紙用フェルトの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の製造方法により製造されたことを特徴とする製紙用フェルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄紙機のプレスパートで使用される製紙用フェルト(以下、「フェルト」ともいう。)の製造方法及びこの製造方法によって製造された製紙用フェルトに関する。更に詳しくは、緯方向の曲げ剛性の上昇を抑制し、脱毛防止に優れる製紙用フェルトの製造方法及びこの製造方法により製造された製紙用フェルトに関する。
【背景技術】
【0002】
製紙用フェルトは、抄紙機のプレスパートで使用される。プレスパートは、前工程のワイヤーパートで形成された湿紙をフェルトとともに一対のプレスロールの間に通過させ、機械的に圧縮することで搾水を行うパートである。
製紙用フェルトは、基布と、基布に短繊維をニードリングして形成したバット繊維層とを備える。
一般に、基布には、経糸と緯糸を互いに織り上げた織布や、糸を一方向に配列して糸同士を固定して作成した不織布が用いられる。ニードリングとは、「バーブ」と呼ばれるかぎ状構造をもつニードル針が、そのバーブに短繊維を引っかけて運搬することにより、短繊維同士、および短繊維と基布を機械的に結合する工程をさす。
ニードリング工程の後の仕上げ工程では、フェルトを高温の加熱ロールで圧縮してバット繊維層を高密度に圧縮するとともにバット繊維層表面を平滑にする処理が一般に行われる。
製紙用フェルトは抄紙機での使用中、プレスロールによる圧縮、フェルト洗浄用高圧シャワーによる衝撃、フェルトサクションボックス(吸引装置)との摩擦といった物理的作用を繰り返し受ける。この物理的作用によって、フェルトのバット繊維層から一部の短繊維が脱離し、湿紙に付着する場合がある。こうした繊維が付着した紙に印刷を行うと、繊維が付着した部分にはインキがのらないため、印刷の出来栄えが大きく損なわれる。フェルトから短繊維が脱離する事象は製紙業界では「脱毛」と呼ばれ、製紙用フェルトの課題として従来から指摘されている。
製紙用フェルトの脱毛を防止するための手段としては、低融点繊維を使用することが広く行われている。すなわち、フェルトのバット繊維層に低融点繊維を混紡し、仕上げ工程で低融点繊維の融点より高い温度に昇温したロールでフェルトを圧縮することで、低融点繊維を熱溶融させて繊維同士を融着させる。その結果繊維同士の結合力が向上し製紙用フェルトの使用中における繊維の脱離、すなわち脱毛が抑制される。
【0003】
上記の目的で使用される低融点繊維としては、鞘成分の融点が140℃以下かつ芯成分の融点が鞘成分の融点より高い芯鞘繊維が使用されることが多い(例えば、特許文献1の〔0027〕参照。)。こうすることで、鞘成分の熱溶融に要するエネルギーコストを低く抑えられ、かつ芯成分が十分な繊維強度を保持できることが、こうした芯鞘繊維を用いる利点となっている。
しかし、バット繊維層が低融点繊維を多く含むことで、フェルトの脱毛防止効果はその分向上するが、繊維同士を熱融着させたフェルトは曲げ剛性が高くなり、バット繊維層が低融点繊維を多く含むほど、曲げ剛性値が高くなってしまうという問題がある。
抄紙機へのフェルトの掛け入れ作業はフェルトを折り曲げながら抄紙機の隙間に通さなければならないため、特に緯方向の曲げ剛性が高いフェルトは掛け入れ作業が困難になる。そのため、フェルトの脱毛防止効果を上げるための低融点繊維の含有量には制限があった。また、従来、バット繊維層に含まれる低融点繊維については、家庭紙用抄紙機で使用された場合に、家庭用抄紙機が他の抄紙機よりも使用温度が高いことで、使用中に鞘成分が再溶融したり軟化する問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-182644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、バット繊維層に芯鞘繊維を使用し熱処理により鞘成分を溶融させ繊維同士を融着させたフェルトにおいて、緯方向の曲げ剛性の上昇を抑制し、脱毛防止に優れる製紙用フェルトの製造方法及びこの製造方法によって製造された製紙用フェルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するための手段を鋭意検討した結果、以下の手段により、本発明の完成に至った。すなわち、高融点の所定の繊度の芯鞘繊維を含むバット繊維層素材を用いた積層体を所定の温度で圧縮処理することで、曲げ剛性の上昇を抑制し、脱毛防止に優れる製紙用フェルトを製造できることを見出した。
本発明は、以下の通りである。
1.基布と、
前記基布の製紙面側に積層され、鞘成分の融点が165~185℃かつ芯成分の融点が鞘成分の融点より高く、繊度が15~20dtexである芯鞘繊維を含む表バット繊維層と、を備えた製紙用フェルトの製造方法であって、
基布素材と表バット繊維層素材とを交絡して積層体を得る積層工程と、
前記積層体を前記芯鞘繊維の鞘成分の融点より0~10℃高い温度で圧縮処理する圧縮処理工程と、を備えることを特徴とする製紙用フェルトの製造方法。
2.前記表バット繊維層全体を100質量%とした場合に、前記芯鞘繊維が、30~50質量%である前記1.に記載の製紙用フェルトの製造方法。
3.前記1.又は2.に記載の製造方法により製造された製紙用フェルト。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製紙用フェルトの製造方法によれば、緯方向の曲げ剛性の上昇を抑制し、脱毛防止に優れる製紙用フェルトを製造することができる。
更に、表バット繊維層全体を100質量%とした場合に、芯鞘繊維を、30~50質量%含む場合には、より脱毛防止に優れると共に、より搾水性に優れる製紙用フェルトを製造することができる。
また、本発明の製造方法により製造された製紙用フェルトであれば、緯方向の曲げ剛性の上昇を抑制し、脱毛防止に優れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態の製紙用フェルトの製造方法に係り、積層体の模式的断面図である。
図2】実施形態の製造方法に係り、圧縮処理工程を説明する説明図である。
図3】実施形態の製紙用フェルトの模式的断面図である。
図4】(a)実施例の製紙用フェルトの製造方法に係り、基布素材に裏バット繊維層素材を積層した状態を示す模式的断面図、(b)更に表バット繊維層素材を積層した積層体の模式的断面図である。
図5】実施例の製造方法に係り、圧縮処理工程を説明する説明図である。
図6】実施例の製紙用フェルトの模式的断面図である。
図7】(a)試験体を評価するための計測装置の模式的な正面図、(b)右側面図である。
図8】製紙用フェルトの試験体の緯方向の曲げ剛性値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照しながら、本発明を詳しく説明する。
尚、本発明は、かかる図面に記載された具体例に示すものに限られず、目的、用途に応
じて種々変更したものとすることができる。また、同一の構成については同一の符号を用いるものとし、その説明を省略する。
【0010】
[1]製紙用フェルトの製造方法
本発明に係る製紙用フェルトの製造方法は、基布と、鞘成分の融点が165~185℃かつ芯成分の融点が鞘成分の融点より高く、繊度が15~20dtexである芯鞘繊維を含む表バット繊維層と、を備えた製紙用フェルトの製造方法であって、基布素材と、表バット繊維層素材とを交絡して積層体を得る積層工程と、前記積層体を前記芯鞘繊維の鞘成分の融点より0~10℃高い温度で圧縮処理する圧縮処理工程と、を備えている。
【0011】
(1)積層工程
前記積層工程は、例えば図1に示すように、基布素材11の表面側(製紙面側)に表バット繊維層素材12を交絡して積層する工程である。
基布素材11は、経糸と緯糸を互いに織り上げた織布や、糸を一方向に配列して糸同士を固定して作成した不織布とすることができる。基布素材に用いられる糸は、モノフィラメントの単糸又はその撚糸、マルチフィラメントの撚糸、あるいは紡績糸の中から1種類もしくは複数種類を任意に組み合わせて用いることができる。糸に用いられる材質は、特に限定はなく、例えば、ポリアミドやポリエステル等を使用することができる。
【0012】
表バット繊維層素材12は、短繊維から構成され、例えばポリアミドやポリエステル等の熱可塑性樹脂を溶融紡糸し、短繊維化したものとすることができる。本発明の表バット繊維層素材12は、短繊維の一部に、鞘成分121aの融点が165~185℃かつ芯成分122aの融点が鞘成分121aの融点より高く、繊度が15~20dtexである芯鞘繊維12aを使用する。
芯鞘繊維12aは、上記の素材であれば、その材質は特に限定はないが、例えば、「芯」として6ナイロン、「鞘」としては12ナイロンを使用することができる。
ここで、鞘成分121aの融点は165~185℃であり、170~180℃であることが更に好ましい。
鞘成分121aの融点が165℃未満では、家庭紙用抄紙機で使用された場合、他の抄紙機よりも使用温度が高いため、使用中に鞘成分121aが再溶融や軟化するおそれがある。また、鞘成分121aの融点が185℃を超えると、圧縮処理温度が高温になり過ぎ、圧縮処理によってフェルトの基布を構成する糸の強度低下を招くおそれがある。
【0013】
また、芯鞘繊維12aの繊度は15~20dtexであり、16~18dtexであることが更に好ましい。芯鞘繊維12aの繊度が15dtex未満では、表バット繊維層素材12の繊維の量を多くすると剛性が高くなるため、フェルトの曲げ剛性値も大きくなってしまう。すなわち、表バット繊維層素材12の単位重量当たりの芯鞘繊維12aの本数が多くなると、繊維同士の溶融・固着が過剰になるため、フェルトの曲げ剛性が高くなる。
そこで、芯鞘繊維12aの繊度が15~20dtexであると芯鞘繊維12aの混紡比率を多くしても緯方向の曲げ剛性値が大きくならないため好ましい。
更に、芯鞘繊維12aの繊度が15dtex未満では、繊維強度が不十分なため、フェルトの使用中にプレスロールによるせん断力やフェルトサクションボックス(吸引装置)による摩擦を受けた際に芯鞘繊維12aの摩耗量が多くなるため好ましくない。
また、芯鞘繊維12aの繊度が20dtexを超えると、単位重量当たりの芯鞘繊維12aの本数が少な過ぎ、芯鞘繊維12a同士および芯鞘繊維12aとその他の短繊維12bとの接触点数が少ないため、繊維同士の溶融・固着によるバット繊維の脱落を防止するには不十分である。
【0014】
すなわち、芯鞘繊維12aは、鞘成分121aの融点が165~185℃であり、かつ繊度が15~20dtexであり、更に好ましくは、鞘成分121aの融点が170~180℃であり、かつ繊度が16~18dtexである。
芯鞘繊維12aは、鞘成分121aの融点が165~185℃であり、かつ繊度が15~20dtexであれば、フェルトの使用中に鞘成分121aが再溶融や軟化するおそれがないことに加え、芯鞘繊維12aの混紡比率を多くしても緯方向の曲げ剛性値が大きくならないため好ましい。
【0015】
表バット繊維層素材12は、芯鞘繊維12aの他に「他の短繊維12b」を含むことができる。「他の短繊維12b」の材質、繊度は特に限定はされず、例えば66ナイロン短繊維、6ナイロン短繊維等の2~20dtexの繊維を使用することができる。
【0016】
表バット繊維層素材12全体を100質量%とした場合に、芯鞘繊維12aを、15~70質量%含むことが好ましく、30~50質量%含むことが特に好ましい。表バット繊維層素材全体の質量を100%とした場合に、芯鞘繊維12aが、15質量%未満では表バット繊維層素材12を構成する短繊維同士の溶融・固着が不十分となり、表バット繊維層素材12から短繊維の脱落を防止することが困難となる。また、70質量%を超えると、繊維同士の溶融・固着箇所が過剰になりフェルト20の開口部の多くが塞がり搾水性能の低下を招く。
【0017】
基布素材11の表面側に表バット繊維層素材12を交絡して積層体10を得るには、例えば、芯鞘繊維12aと他の短繊維12bを混紡した表バット繊維層素材12を、カーディング等の既存のウェブ形成方法によってシート状にし、これをニードリングにより基布素材11の表面と表バット繊維層素材12が一体化した積層体10とすることができる。ここで「交絡」とは、繊維同士が十分に絡み合っている状態を意味し、繊維層を単に重ね合わせただけの状態は、交絡に含まれない。
【0018】
(2)圧縮処理工程
圧縮処理工程は、前記積層体10を前記芯鞘繊維12aの鞘成分121aの融点より0~10℃高い温度で圧縮処理する工程である。
処理温度が融点未満の温度では、芯鞘繊維の溶融・固着によるバット繊維の脱落防止効果を十分に得ることができない。また、圧縮処理温度が融点より10℃を超える温度では、溶融した鞘成分の流動性が高くなり過ぎ、流動化した鞘成分がフェルト内部の空隙を詰まらせ搾水性能の低下を招くおそれがある。
圧縮処理する方法は、特に限定はないが、例えば図2に示すように、芯鞘繊維12aの鞘成分121aの融点より0℃から10℃高い表面温度に昇温させた一対の加熱ロール61、62に通して圧縮し、芯鞘繊維12aの鞘成分121aを熱溶融させ短繊維同士を融着させることができる。その際、積層体10を圧縮させる一対のロール61、62の両方ともが加熱ロールであってもよいし、一方のロール61のみが加熱ロールであってもよい。一方のロール61のみが加熱ロールの場合は芯鞘繊維12aを含む表バット繊維層素材12がそのロール61に接するようにする。
以上の工程により、図3に示すように、基布21と、基布21の製紙面側に積層された表バット繊維層22を備えた製紙用フェルト20が製造される。
【0019】
製紙用フェルトの製造に用いる表バット繊維層素材12に含まれる芯鞘繊維12aは、鞘成分121aの融点が165~185℃かつ芯成分122aの融点が鞘成分121aの融点より高く、繊度が15~20dtexである。そして、基布素材11と表バット繊維層素材12を交絡して得た積層体10を鞘成分121aの融点より0~10℃高い温度で圧縮処理する。
以上の条件により製造されたフェルトは、表バット繊維層素材12中の芯鞘繊維12aの含有量が15~70質量%の広範囲にわたって、緯方向の曲げ剛性値を低く抑えることができ、かつ、表バット繊維層の脱毛を防止することができる。
上記の条件において、鞘成分121aの融点が、170~180℃かつ芯成分122aの融点が鞘成分121aの融点より高く、繊度が16~18dtexであれば、更に緯方向の曲げ剛性値を低く抑えることができ、かつ、更に表バット繊維層の脱毛を防止することができる。
【0020】
(3)その他の工程
以上、表バット繊維層のみを積層した本発明の製紙用フェルトの製造方法を説明したが、本発明の製紙用フェルトは、必要に応じて製紙用フェルトの走行面側に裏バット繊維層を備えることができる。例えば後述の実施例のように、裏バット繊維層素材を基布素材に交絡して積層した後に、上述の製造方法に従って、表バット繊維層を積層して、圧縮処理をすることができる。
【0021】
[2]製紙用フェルト
本発明の製紙用フェルト20は、前述の製紙用フェルトの製造方法によって製造される。製紙用フェルト20は、図3に示すように、基布21と、基布21の製紙面側に交絡して積層された表バット繊維層22と、を備えている。
基布21は、前述の基布素材11から形成され、表バット繊維層22は、表バット繊維層素材12から形成されるものであり、これらの材質及び製造方法については前述の通りである。
表バット繊維層22は、短繊維の一部に、鞘成分の融点が165~185℃かつ芯成分の融点が鞘成分の融点より高く、繊度が15~20dtexである芯鞘繊維を使用している。
鞘成分の融点は165~185℃と高温であるため、例えば、家庭紙用抄紙機での使用のように、他の抄紙機よりも使用温度が高い場合であっても、使用中に鞘成分が再溶融や軟化するおそれがない。
【0022】
また、芯鞘繊維の繊度は15~20dtexであれば、芯鞘繊維の混紡比率を多くしても緯方向の曲げ剛性値が大きくならないため好ましい。また、この繊度であれば繊維強度が十分であり、フェルトの使用中にプレスロールによるせん断力やフェルトサクションボックス(吸引装置)による摩擦を受けても芯鞘繊維の摩耗量を抑制することができる。また、この範囲の繊度であれば、単位重量当たりの芯鞘繊維の本数も適切であり、繊維同士の溶融・固着によるバット繊維の脱落を防止することができる。
【0023】
表バット繊維層22全体の質量を100質量%とした場合に、芯鞘繊維を、15~70質量%含むことが好ましく、30~50質量%含むことが特に好ましい。芯鞘繊維が15質量%以上であれば、表バット繊維層22を構成する短繊維同士の溶融・固着が十分となり、表バット繊維層22から短繊維の脱落を防止することができる。また、70質量%以下であれば、繊維同士の溶融・固着箇所が適切であり、フェルト20の開口部の多くが塞がることなく、十分な搾水性能を備えることができる。
【0024】
実施形態にかかる製紙用フェルト20は、シーム付きフェルトであってもよいが、エンドレスフェルトであることが好ましい。
なお、図6に示す製紙用フェルト40のように、更に基布21の裏面側(走行面側)に裏バット繊維層23を備えることができる。
【実施例0025】
以下で、実施例により更に具体的に説明する。
以下の手順により、製紙用フェルトの試験体を作成して曲げ剛性の試験を行った。
【0026】
(試験体の作成)
(1)積層工程
基布素材11としては、緯糸に直径が0.20mmの6ナイロンモノフィラメントを4本撚り合わせた撚り糸、経糸に0.20mmの6ナイロンモノフィラメントを4本撚り合わせた撚り糸と420デニールの66ナイロンマルチフィラメントを3本撚り合わせた撚り糸の2種類の糸を使用した、目付が540g/mの経2重織の織布を使用した。
図4(a)に示すように、この基布素材11の裏面側に17dtexの66ナイロン短繊維13bからなる短繊維シートを100g/m、ニードルパンチングにより積層して裏バット繊維層素材13を形成した。
表バット繊維層素材12については、実施例として、鞘成分121aの融点が175℃、芯成分122aの融点が215℃である17dtexの芯鞘繊維12aと17dtexの66ナイロン短繊維12bからなり、混紡比率の異なる3種類の短繊維シートを用意した。
また、比較例1として、鞘成分121aの融点が175℃、芯成分122aの融点が215℃である3.3dtexの芯鞘繊維12aと、17dtexの66ナイロン短繊維12bからなり、混紡比率の異なる3種類の短繊維シートを用意した。
更に、比較例2、3として、鞘成分121aの融点が135℃、芯成分122aの融点が215℃であり、3.3dtex、17dtexのそれぞれの芯鞘繊維12aと、17dtexの66ナイロン短繊維12bからなり、混紡比率の異なる3種類の合計6種類の短繊維シートを用意した。
次いで、図4(b)に示すように、基布素材11に対して、実施例3種類、比較例9種類それぞれの短繊維シート600g/mを、ニードルパンチングにより交絡して積層することにより、表バット繊維層素材12を形成し、総目付が約1250g/mの12種類の積層体30を得た。
【0027】
(2)圧縮処理工程
次にこの積層体30を、図5に示すように、一対のロール61、62に線圧20kg/cm、ロール速度0.8m/分で2回通過させて圧縮した。ここで、使用した一対のロール61、62のうちの一方のロール61のみが加熱ロールであり、表バット繊維層素材12が加熱したロール61に接するように積層体30を通過させた。
こうして得られたフェルト40の試験体は、図6に示すように、表バット繊維層22、基布21、裏バット繊維層23からなる。
実施例、比較例1~3に係る試験体すべてについて、ロール61の表面温度を鞘成分121aの融点より5℃高い温度に昇温させた。
【0028】
(試験方法)
上記の手順で作製した、実施例3種類、比較例9種類の合わせて12種類のフェルトの試験体40の緯方向の曲げ剛性を評価した。曲げ剛性の評価には、図7(a)、(b)に示す自作の計測装置80を使用した。
図7(a)、(b)は、計測装置80のそれぞれ模式的な正面図、模式的な右側面図である。計測装置80の上部が荷重計81であり、荷重計81に下から加わる荷重が表示部81aに表示される。荷重計81と下部の台座85の間には3cmの間隔が空いている。
荷重計81は、日本電産シンポ株式会社製(型式番号:ハンドヘルド デジタルフォースゲージDFG-50R)を使用した。
計測装置80を使用するには、図7(a)に示すように、縦横10cm四方に切り取ったフェルトの試験体をフェルトの表面22sが内側になるように緯方向(CMD方向)に半分に折り曲げて荷重計81と台座85の3cmの間隔が空いた隙間に挟み込んだ。
次に荷重計81と台座85の上面の間隔が1cmになる位置まで荷重計81を下降させ、荷重計81にかかる荷重の最大値(g/cm)を表示部81aより読み取った。
【0029】
(試験結果)
表1に実施例、比較例1~3の各試験体の緯方向の曲げ剛性値の測定結果を示す。
【0030】
【表1】
【0031】
図8は芯鞘繊維の混紡比率ごとに実施例と比較例の緯方向の曲げ剛性値を比較するために作成したグラフである。
その結果、実施例に係る芯鞘繊維の繊度17dtexのフェルトについては、混紡比率(17~67質量%)に関わらず、曲げ剛性値が低い値に安定して抑制された結果となった。
より具体的には、鞘成分の融点が175℃で、17dtexの芯鞘繊維を使用したフェルトでロール61の表面温度を鞘成分の融点より5℃高い180℃にすると、緯方向の曲げ剛性値が低く曲げ剛性値が302~342g/cmの範囲となった。
したがって、実施例のフェルトであれば、芯鞘繊維の混紡比率に関わらず、脱毛防止を目的に芯鞘繊維の鞘成分を溶融させ、繊維同士を融着させても良好な掛け入れ性を維持することができるという優れた効果を奏することが示された。
一方、比較例1~3のフェルトでは、芯鞘繊維の混紡比率の増加に伴って、緯方向の曲げ剛性値が上昇することになり、芯鞘繊維の鞘成分を溶融させ、繊維同士を融着させた場合には、良好な掛け入れ性を維持することが困難であるといえる。
【符号の説明】
【0032】
10、30;積層体、11;基布素材、12;表バット繊維層素材、12a;芯鞘繊維、121a;鞘成分、122a;芯成分、13;裏バット繊維層素材、20、40;製紙用フェルト、21;基布、22;表バット繊維層、23;裏バット繊維層。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8