(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022113537
(43)【公開日】2022-08-04
(54)【発明の名称】樹脂成形品解析方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
B29C 45/76 20060101AFI20220728BHJP
G06F 30/10 20200101ALI20220728BHJP
G06F 30/23 20200101ALI20220728BHJP
【FI】
B29C45/76
G06F17/50 680C
G06F17/50 612H
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021009847
(22)【出願日】2021-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】000219314
【氏名又は名称】東レエンジニアリング株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520167645
【氏名又は名称】東レエンジニアリングDソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 博一
(72)【発明者】
【氏名】山田 高光
(72)【発明者】
【氏名】山川 耕志郎
(72)【発明者】
【氏名】浦上 大輔
【テーマコード(参考)】
4F206
5B046
5B146
【Fターム(参考)】
4F206AM23
4F206JA07
4F206JL02
4F206JL09
5B046AA05
5B046FA06
5B046GA01
5B046JA07
5B046JA09
5B146AA06
5B146DJ03
5B146DJ07
5B146EA08
(57)【要約】
【課題】薄肉の樹脂成形品においても樹脂成形品の成形不良を予測することが可能な樹脂成形品解析方法を提供する。
【解決手段】この樹脂成形品解析方法は、樹脂の流動状態の解析を行う工程と、樹脂の流動状態に基づいて、金型に流入する樹脂の先端部であるフローフロント部の状態情報を取得する工程と、取得したフローフロント部の状態情報に基づいて、樹脂成形品の成形不良を予測する工程と、を備える。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂の流動状態の解析を行う工程と、
前記樹脂の流動状態に基づいて、金型に流入する樹脂の先端部であるフローフロント部の状態情報を取得する工程と、
取得した前記フローフロント部の状態情報に基づいて、樹脂成形品の成形不良を予測する工程と、を備える、樹脂成形品解析方法。
【請求項2】
前記流動状態の解析を行う工程は、射出成形時の樹脂の流動状態の解析を行う工程を含み、
前記フローフロント部の状態情報を取得する工程は、前記樹脂の流動状態に基づいて、樹脂を射出して金型に充填する際に、金型に流入する樹脂の先端部である前記フローフロント部の状態情報を取得する工程を含み、
前記樹脂成形品の成形不良を予測する工程は、取得した前記フローフロント部の状態情報に基づいて、フローマーク、湯ジワ、および、表面転写不良のうち少なくとも1つを含む樹脂成形品の成形不良を予測する工程を含む、請求項1に記載の樹脂成形品解析方法。
【請求項3】
前記樹脂成形品の成形不良を予測する工程では、前記フローフロント部に作用する力に関する情報、および、前記フローフロント部の形状に関する情報のうち少なくとも1つを含む前記フローフロント部の状態情報に基づいて、樹脂成形品の成形不良を予測する、請求項1または2に記載の樹脂成形品解析方法。
【請求項4】
前記フローフロント部に作用する力に関する情報は、圧力、せん断応力、粘性力、慣性力、重力、および、表面張力のうち少なくとも1つを含み、
前記フローフロント部の形状に関する情報は、長さ、体積、表面積、連結状態、および、バウンダリーボックスサイズのうち少なくとも1つを含む、請求項3に記載の樹脂成形品解析方法。
【請求項5】
前記樹脂成形品の成形不良を予測する工程では、前記フローフロント部のせん断応力と、前記フローフロント部の圧力とのバランスに基づいて、樹脂成形品の成形不良を予測する、請求項3または4に記載の樹脂成形品解析方法。
【請求項6】
前記樹脂成形品の成形不良を予測する工程では、前記フローフロント部のせん断応力および前記フローフロント部の圧力の比に基づいて、樹脂成形品の成形不良を予測する、請求項5に記載の樹脂成形品解析方法。
【請求項7】
前記樹脂成形品の成形不良を予測する工程では、前記フローフロント部の表面積または体積の変化率に基づいて、樹脂成形品の成形不良を予測する、請求項3~6のいずれか1項に記載の樹脂成形品解析方法。
【請求項8】
前記樹脂成形品の成形不良を予測する工程では、前記フローフロント部のせん断応力および前記フローフロント部の圧力の比の変化率と、前記フローフロント部の表面積または体積の変化率との両方に基づいて、樹脂成形品の成形不良を予測する、請求項3~7のいずれか1項に記載の樹脂成形品解析方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載された樹脂成形品解析方法をコンピュータに実行させる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、樹脂成形品解析方法およびプログラムに関し、特に、樹脂成形品の成形不良を予測する樹脂成形品解析方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂成形品の成形不良を予測する樹脂成形品解析方法が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、射出成形における樹脂成形品の充填シミュレーション結果において、充填終了時点における溶融樹脂温度分布に基づいて、成形不良としてのフローマークの発生を予測する射出成形シミュレーション方法(樹脂成形品解析方法)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1の射出成形シミュレーション方法(樹脂成形品解析方法)では、充填終了時点における溶融樹脂温度分布に基づいて、成形不良としてのフローマークの発生を予測するため、樹脂成形品において顕著な温度分布が発生するような肉厚の樹脂成形品(プリズムなどの光学部品)においてフローマークの発生を予測することは可能である。しかしながら、顕著な温度分布が発生しにくい薄肉の樹脂成形品においてはフローマークなどの成形不良を予測することが困難であるという問題点がある。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、薄肉の樹脂成形品においても樹脂成形品の成形不良を予測することが可能な樹脂成形品解析方法およびプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、この発明の第1の局面による樹脂成形品解析方法は、樹脂の流動状態の解析を行う工程と、樹脂の流動状態に基づいて、金型に流入する樹脂の先端部であるフローフロント部の状態情報を取得する工程と、取得したフローフロント部の状態情報に基づいて、樹脂成形品の成形不良を予測する工程と、を備える。
【0008】
この発明の第1の局面による樹脂成形品解析方法では、上記のように、取得したフローフロント部の状態情報に基づいて、樹脂成形品の成形不良を予測することにより、充填終了時点の樹脂の温度分布に基づいて成形不良を予測する場合と異なり、充填時の樹脂のフローフロント部の挙動に基づいて成形不良を予測する。これにより、顕著な温度分布が発生しにくい薄肉の樹脂成形品においても樹脂成形品の成形不良を予測することができる。
【0009】
上記第1の局面による樹脂成形品解析方法において、好ましくは、流動状態の解析を行う工程は、射出成形時の樹脂の流動状態の解析を行う工程を含み、フローフロント部の状態情報を取得する工程は、樹脂の流動状態に基づいて、樹脂を射出して金型に充填する際に、金型に流入する樹脂の先端部であるフローフロント部の状態情報を取得する工程を含み、樹脂成形品の成形不良を予測する工程は、取得したフローフロント部の状態情報に基づいて、フローマーク、湯ジワ、および、表面転写不良のうち少なくとも1つを含む樹脂成形品の成形不良を予測する工程を含む。このように構成すれば、取得したフローフロント部の状態情報に基づいて、フローマーク、湯ジワ、および、表面転写不良のうち少なくとも1つを含む樹脂成形品の成形不良を予測することにより、顕著な温度分布が発生しにくい薄肉の樹脂成形品においてもフローマーク、湯ジワまたは表面転写不良を含む樹脂成形品の成形不良を予測することができる。
【0010】
上記第1の局面による樹脂成形品解析方法において、好ましくは、樹脂成形品の成形不良を予測する工程では、フローフロント部に作用する力に関する情報、および、フローフロント部の形状に関する情報のうち少なくとも1つを含むフローフロント部の状態情報に基づいて、樹脂成形品の成形不良を予測する。このように構成すれば、フローフロント部に作用する力に関する情報、および、フローフロント部の形状に関する情報のうち少なくとも1つを含むフローフロント部の状態情報に基づいて、充填時の樹脂のフローフロント部の挙動を精度よく予測することができるので、樹脂成形品の成形不良を精度よく予測することができる。
【0011】
この場合、好ましくは、フローフロント部に作用する力に関する情報は、圧力、せん断応力、粘性力、慣性力、重力、および、表面張力のうち少なくとも1つを含み、フローフロント部の形状に関する情報は、長さ、体積、表面積、連結状態、および、バウンダリーボックスサイズのうち少なくとも1つを含む。このように構成すれば、射出成型時の樹脂の流動状態に基づいて、圧力、せん断応力、粘性力、慣性力、重力、および、表面張力のうち少なくとも1つを含むフローフロント部に作用する力に関する情報と、長さ、体積、表面積、連結状態、および、バウンダリーボックスサイズのうち少なくとも1つを含むフローフロント部の形状に関する情報との、少なくとも1つを含むフローフロント部の状態情報を、精度よく取得することができる。
【0012】
上記フローフロント部に作用する力に関する情報、および、フローフロント部の形状に関する情報のうち少なくとも1つを含むフローフロント部の状態情報に基づいて、樹脂成形品の成形不良を予測する構成において、好ましくは、樹脂成形品の成形不良を予測する工程では、フローフロント部のせん断応力と、フローフロント部の圧力とのバランスに基づいて、樹脂成形品の成形不良を予測する。このように構成すれば、充填時の樹脂のフローフロント部のせん断応力と、フローフロント部の圧力と、を比較することにより、フローフロント部のせん断応力と圧力とのバランスが崩れた場合に、樹脂成形品の成形不良が発生することを容易に予測することができる。
【0013】
この場合、好ましくは、樹脂成形品の成形不良を予測する工程では、フローフロント部のせん断応力およびフローフロント部の圧力の比に基づいて、樹脂成形品の成形不良を予測する。このように構成すれば、フローフロント部のせん断応力および圧力の比と所定のしきい値とを比較することにより、樹脂成形品の成形不良が発生することを容易に予測することができる。
【0014】
上記フローフロント部に作用する力に関する情報、および、フローフロント部の形状に関する情報のうち少なくとも1つを含むフローフロント部の状態情報に基づいて、樹脂成形品の成形不良を予測する構成において、好ましくは、樹脂成形品の成形不良を予測する工程では、フローフロント部の表面積または体積の変化率に基づいて、樹脂成形品の成形不良を予測する。このように構成すれば、フローフロント部の表面積または体積が急激に変化する場合に、樹脂成形品の成形不良が発生することを容易に予測することができる。
【0015】
上記フローフロント部に作用する力に関する情報、および、フローフロント部の形状に関する情報のうち少なくとも1つを含むフローフロント部の状態情報に基づいて、樹脂成形品の成形不良を予測する構成において、好ましくは、樹脂成形品の成形不良を予測する工程では、フローフロント部のせん断応力およびフローフロント部の圧力の比の変化率と、フローフロント部の表面積または体積の変化率との両方に基づいて、樹脂成形品の成形不良を予測する。このように構成すれば、フローフロント部のせん断応力およびフローフロント部の圧力の比と、フローフロント部の表面積または体積と、のうち、一方の変化率が小さくても、他方の変化率が大きい場合には、成形不良が発生すると予測することができるので、フローフロント部のせん断応力およびフローフロント部の圧力の比の変化率と、フローフロント部の表面積または体積の変化率とのうち一方のみに基づいて成形不良を予測する場合に比べて、精度よく成形不良を予測することができる。
【0016】
この発明の第2の局面によるプログラムは、第1の局面による樹脂成形品解析方法をコンピュータに実行させる。
【0017】
この発明の第2の局面によるプログラムでは、上記第1の局面による樹脂成形品解析方法をコンピュータに実行させることにより、薄肉の樹脂成形品においても樹脂成形品の成形不良を予測することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、上記のように、薄肉の樹脂成形品においても樹脂成形品の成形不良を予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】一実施形態による樹脂成形品解析方法を実施するための構成例を示したブロック図である。
【
図2】一実施形態による充填時の樹脂のフローフロント部の一例を示した図である。
【
図3】一実施形態による成形モデルの第1例を示した図である。
【
図4】一実施形態による成形モデルの第1例の充填パターンを示した図である。
【
図5】一実施形態による成形モデルの第1例のフローフロント部のせん断応力と圧力との比の時間変化を示した図である。
【
図6】一実施形態による成形モデルの第1例のフローフロント部の体積の時間変化を示した図である。
【
図7】一実施形態による成形モデルの第2例を示した図である。
【
図8】一実施形態による成形モデルの第2例のフローフロント部のせん断応力と圧力との比の時間変化を示した図である。
【
図9】一実施形態による成形モデルの第2例のフローフロント部の体積の時間変化を示した図である。
【
図10】一実施形態による成形モデルの第3例を示した図である。
【
図11】一実施形態による成形モデルの第3例のフローフロント部のせん断応力と圧力との比の時間変化を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
図1~
図11を参照して、一実施形態による樹脂成形品解析方法について説明する。
【0022】
本実施形態による樹脂成形品解析方法は、樹脂を射出成形により成形した樹脂成形品の成形不良を予測する方法である。
【0023】
(装置構成例)
本実施形態による樹脂成形品解析方法は、コンピュータ1にプログラム3aを実行させることにより実施することができる。樹脂成形品解析方法は、たとえば、
図1に示すような装置構成によって実施可能である。コンピュータ1は、プログラム3aを実行可能に構成されている。コンピュータ1にプログラム3aを実行させることにより、樹脂成形品解析装置100が構成されている。コンピュータ1にプログラム3aを実行させることにより行われる処理の一部または全部が、専用の演算回路等のハードウェアによって行われてもよい。
【0024】
図1の構成例では、コンピュータ1は、CPU(Central Processing Unit)などからなる1または複数のプロセッサ2と、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)および記憶装置などを含んだ記憶部3とを備える。記憶装置は、たとえば、ハードディスクドライブや半導体記憶装置などである。
【0025】
コンピュータ1は、記憶部3に記憶されたプログラム3aをプロセッサ2に実行させることにより、樹脂成形品解析を行うことが可能である。プログラム3aは、記録媒体7から読み出される他、インターネットなどのネットワークやLAN(Local Area Network)などの伝送経路8を介して外部サーバなどから提供されてもよい。記録媒体7は、光学ディスク、磁気ディスク、不揮発性半導体メモリなどのコンピュータ読み取り可能な記録媒体であり、プログラム3aが記録されている。
【0026】
記憶部3には、プログラム3aの他、樹脂成形品解析を行うために利用される各種の解析用データ3bが記憶されている。解析用データ3bは、樹脂成形条件情報および樹脂成形品の特性を含む樹脂成形情報、成形時の樹脂の状態と樹脂成形品の特性の詳細とのシミュレーションを行う際のパラメータ、製品カテゴリ情報、形状特徴量、最適なパラメータの群、誤差率、解析に用いる数値データ、解析条件のデータなどが記憶されている。
【0027】
また、コンピュータ1は、液晶表示装置などの表示部4、キーボードおよびマウスなどの入力装置からなる入力部5、記録媒体7からプログラム3aや各種データを読み取るための読取部6を備えている。読取部6は、記録媒体7の種類に応じたリーダ装置などである。解析条件のデータは、入力部5を用いてユーザが入力することができる。解析用データ3bは、ユーザが作成した記録媒体から読み出したり、ユーザが外部サーバなどに作成しておいて、伝送経路8を介して外部サーバから取得したりしてもよい。
【0028】
(樹脂成形品解析方法)
次に、樹脂成形品解析方法について説明する。本実施形態では、射出成型時の樹脂の流動解析の解析結果に基づいて、樹脂成形品の成形不良を予測する。
【0029】
樹脂成形品解析方法は、3次元CAD情報などから、樹脂成形品の形状を取得し、取得した樹脂成形品の形状を、複数の解析メッシュ(小さな要素)に分割する。この場合、3次元CAD情報から出力された3次元空間内部を複数の解析メッシュ(有限要素メッシュ)で埋めるようにメッシュ生成される。そして、複数の解析メッシュにおいて、射出成型時の樹脂の流動状態の解析を行う。
【0030】
また、樹脂成形品解析方法は、樹脂の流動状態に基づいて、樹脂を射出して金型に充填する際に、金型に流入する樹脂の先端部であるフローフロント部(
図2参照)の状態情報を取得する。具体的には、フローフロント部の状態情報は、フローフロント部に作用する力に関する情報、および、フローフロント部の形状に関する情報のうち少なくとも1つを含む。また、フローフロント部に作用する力に関する情報は、圧力、せん断応力、粘性力、慣性力、重力、および、表面張力のうち少なくとも1つを含む。また、フローフロント部の形状に関する情報は、長さ、体積、表面積、連結状態、および、バウンダリーボックスサイズのうち少なくとも1つを含む。
【0031】
ここで、本実施形態では、樹脂成形品解析方法は、取得したフローフロント部の状態情報に基づいて、フローマーク、湯ジワ、および、表面転写不良のうち少なくとも1つを含む樹脂成形品の成形不良を予測する。また、フローマークは、肉厚変化のある場所で発生する光沢むら、ゲートを中心にして発生する縞模様、および、光沢部と曇り部とが交互に発生する千鳥状のフローマーク、を含む。肉厚変化のある場所で発生する光沢むらは、偏肉部通過前後の樹脂の流速、冷却温度、転写圧の変化により発生する。そこで、金型の温度、および樹脂の温度を大きくするとともに、樹脂の射出速度および圧力を大きくすることにより発生を抑制することが可能である。ゲートを中心にして発生する縞模様は、スプルおよびランナーにおける樹脂の温度低下および粘度の上昇により発生する。そこで、金型の温度、および樹脂の温度を大きくするとともに、樹脂の射出速度および圧力を大きくすることにより発生を抑制することが可能である。千鳥状のフローマークは、フローフロント部の不安定な流動により発生する。そこで、金型の温度、および樹脂の温度を大きくするとともに、樹脂の射出速度および圧力を小さくすることにより発生を抑制することが可能である。このように、フローマークの発生を予測することができれば、フローマークが発生しないように、条件を変更して、改善することができる。また、樹脂成形品の形状について、R部を相対的に肉厚化することにより、フローマークの発生を抑制することが可能である。
【0032】
また、フローフロント部に作用する力に関する情報、および、フローフロント部の形状に関する情報のうち少なくとも1つを含むフローフロント部の状態情報に基づいて、樹脂成形品の成形不良を予測する。
【0033】
また、フローフロント部のせん断応力と、フローフロント部の圧力とのバランスに基づいて、樹脂成形品の成形不良を予測する。具体的には、
図2に示すように、金型10内の流路11を流れる樹脂20のフローフロント部21における法線方向に作用する力(圧力P)および接線方向に作用する力(せん断応力τ)のアンバランスによりフローマーク、湯ジワ、および、表面転写不良などの成形不良が発生するとして、フローフロント部21における圧力Pと、せん断応力τとのバランスが崩れたタイミングにおいて、成形不良が発生すると予測する。
【0034】
フローフロント部のせん断応力およびフローフロント部の圧力の比に基づいて、樹脂成形品の成形不良を予測する。また、フローフロント部の表面積または体積の変化率に基づいて、樹脂成形品の成形不良を予測する。つまり、フローフロント部のせん断応力およびフローフロント部の圧力の比の変化率と、フローフロント部の表面積または体積の変化率との両方に基づいて、樹脂成形品の成形不良を予測する。
【0035】
たとえば、フローマークの成形不良の発生は、フローフロント部の力のアンバランスの程度と、フローフロント部の形状変化率で決まる。そして、フローフロント部の力の程度は、(フローフロント部の圧力P)/(フローフロント部のせん断応力τ)に基づいて算出される。また、フローフロント部の形状変化率は、フローフロント部の体積Vの時間変化率に基づいて算出される。
【0036】
図3に示す成形モデルの第1例は、平板状の成形モデル30である。
図4に示すように、成形モデル30では、樹脂が供給される側の領域Iと、中間の領域IIと、樹脂が供給される側とは反対側の領域IIIとに便宜的に分けて考える。
図5および
図6に示すように、領域Iでは、圧力P/せん断応力τ(力のバランス)が減少し、フローフロント部21の体積Vが増加する。これは、領域Iでは、樹脂が広がるように流れ始めるためである。領域IIでは、圧力P/せん断応力τ(力のバランス)がわずかながら減少し、フローフロント部21の体積Vが略一定となる。これは、領域IIでは、樹脂のフローフロント部21の形状が変わらずに、並進するように流れるためである。領域IIIでは、圧力P/せん断応力τ(力のバランス)が増加し、フローフロント部21の体積Vが減少する。これは、領域IIIでは、反対側の端部に到達した部分の樹脂から順次流れが止まり始めるためである。
【0037】
この成形モデルの第1例では、圧力P/せん断応力τの変化が大きい場合、圧力P/せん断応力τが所定のしきい値未満となった場合、フローフロント部21の体積Vの変化率(上昇率)が第1所定値以上となった場合、フローフロント部21の体積Vの変化率(下降率)が第2所定値以下となった場合に、樹脂成形品の成形不良が発生すると予測する。
【0038】
図7に示す成形モデルの第2例は、複数(4つ)取りの成形モデル31である。この第2例の成形モデル31では、
図8に示すように、充填時間に対してフローフロント部における圧力P/せん断応力τが変化する。また、
図9に示すように、充填時間に対してフローフロント部における体積Vが変化する。
【0039】
この成形モデルの第2例では、圧力P/せん断応力τの変化が大きい場合、圧力P/せん断応力τが所定のしきい値未満となった場合、フローフロント部21の体積Vの変化率(上昇率)が第1所定値以上となった場合、フローフロント部21の体積Vの変化率(下降率)が第2所定値以下となった場合に、樹脂成形品の成形不良が発生すると予測する。
【0040】
図10に示す成形モデルの第3例は、円板状の成形モデル32である。成形モデル32は、円板状の中心部から放射状に樹脂が充填される。この第3例の成形モデル32では、型内のガスを考慮する場合と、型内のガスを考慮しない場合を考える。この第3例の成形モデル32では、
図11に示すように、充填時間に対してフローフロント部における圧力P/せん断応力τが変化する。
【0041】
この成形モデルの第3例では、型内のガスを考慮すると、フローフロント部における力のバランス(圧力P/せん断応力τ)の変化が大きくなるため、樹脂成形品の成形不良が発生すると予測する。
【0042】
(本実施形態の効果)
次に、本実施形態の効果について説明する。
【0043】
本実施形態では、上記のように、取得したフローフロント部の状態情報に基づいて、フローマーク、湯ジワ、および、表面転写不良のうち少なくとも1つを含む樹脂成形品の成形不良を予測することにより、充填終了時点の樹脂の温度分布に基づいて成形不良を予測する場合と異なり、充填時の樹脂のフローフロント部の挙動に基づいて成形不良を予測する。これにより、顕著な温度分布が発生しにくい薄肉の樹脂成形品においてもフローマーク、湯ジワまたは表面転写不良を含む樹脂成形品の成形不良を予測することができる。
【0044】
また、本実施形態では、上記のように、樹脂成形品の成形不良を予測する工程では、フローフロント部に作用する力に関する情報、および、フローフロント部の形状に関する情報のうち少なくとも1つを含むフローフロント部の状態情報に基づいて、樹脂成形品の成形不良を予測する。これにより、フローフロント部に作用する力に関する情報、および、フローフロント部の形状に関する情報のうち少なくとも1つを含むフローフロント部の状態情報に基づいて、充填時の樹脂のフローフロント部の挙動を精度よく予測することができるので、フローマーク、湯ジワまたは表面転写不良を含む樹脂成形品の成形不良を精度よく予測することができる。
【0045】
また、本実施形態では、上記のように、フローフロント部に作用する力に関する情報は、圧力、せん断応力、粘性力、慣性力、重力、および、表面張力のうち少なくとも1つを含み、フローフロント部の形状に関する情報は、長さ、体積、表面積、連結状態、および、バウンダリーボックスサイズのうち少なくとも1つを含む。これにより、射出成型時の樹脂の流動状態に基づいて、圧力、せん断応力、粘性力、慣性力、重力、および、表面張力のうち少なくとも1つを含むフローフロント部に作用する力に関する情報と、長さ、体積、表面積、連結状態、および、バウンダリーボックスサイズのうち少なくとも1つを含むフローフロント部の形状に関する情報との、少なくとも1つを含むフローフロント部の状態情報を、精度よく取得することができる。
【0046】
また、本実施形態では、上記のように、樹脂成形品の成形不良を予測する工程では、フローフロント部のせん断応力と、フローフロント部の圧力とのバランスに基づいて、樹脂成形品の成形不良を予測する。これにより、充填時の樹脂のフローフロント部のせん断応力と、フローフロント部の圧力と、を比較することにより、フローフロント部のせん断応力と圧力とのバランスが崩れた場合に、フローマーク、湯ジワまたは表面転写不良を含む樹脂成形品の成形不良が発生することを容易に予測することができる。
【0047】
また、本実施形態では、上記のように、樹脂成形品の成形不良を予測する工程では、フローフロント部のせん断応力およびフローフロント部の圧力の比に基づいて、樹脂成形品の成形不良を予測する。これにより、フローフロント部のせん断応力および圧力の比と所定のしきい値とを比較することにより、フローマーク、湯ジワまたは表面転写不良を含む樹脂成形品の成形不良が発生することを容易に予測することができる。
【0048】
また、本実施形態では、上記のように、樹脂成形品の成形不良を予測する工程では、フローフロント部の体積の変化率に基づいて、樹脂成形品の成形不良を予測する。これにより、フローフロント部の体積が急激に変化する場合に、フローマーク、湯ジワまたは表面転写不良を含む樹脂成形品の成形不良が発生することを容易に予測することができる。
【0049】
また、本実施形態では、上記のように、樹脂成形品の成形不良を予測する工程では、フローフロント部のせん断応力およびフローフロント部の圧力の比の変化率と、フローフロント部の体積の変化率との両方に基づいて、樹脂成形品の成形不良を予測する。これにより、フローフロント部のせん断応力およびフローフロント部の圧力の比と、フローフロント部の体積と、のうち、一方の変化率が小さくても、他方の変化率が大きい場合には、成形不良が発生すると予測することができるので、フローフロント部のせん断応力およびフローフロント部の圧力の比の変化率と、フローフロント部の体積の変化率とのうち一方のみに基づいて成形不良を予測する場合に比べて、精度よく成形不良を予測することができる。
【0050】
(変形例)
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0051】
たとえば、上記実施形態では、平板状の成形モデル、複数取りの成形モデル、および、円板状の成形モデルの樹脂成形品の成形不良の発生の予測について説明したが、本発明はこれに限られない。本発明では、他の形状について、樹脂成形品の成形不良を予測してもよい。
【0052】
また、上記実施形態では、フローマーク、湯ジワ、および、表面転写不良のうち少なくとも1つを含む樹脂成型品の成形不良を予測する構成の例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、フローマーク、湯ジワ、および、表面転写不良以外の樹脂成型品の成形不良を予測する構成でもよい。
【符号の説明】
【0053】
1 コンピュータ
3a プログラム
21 フローフロント部