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特開2022-113576マラセチアのアゾール系抗真菌薬に対する耐性を判定する方法及び検査キット
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  • 特開-マラセチアのアゾール系抗真菌薬に対する耐性を判定する方法及び検査キット 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022113576
(43)【公開日】2022-08-04
(54)【発明の名称】マラセチアのアゾール系抗真菌薬に対する耐性を判定する方法及び検査キット
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6895 20180101AFI20220728BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20220728BHJP
【FI】
C12Q1/6895 Z
C12Q1/686 Z ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021009899
(22)【出願日】2021-01-25
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(71)【出願人】
【識別番号】521037190
【氏名又は名称】村山 信雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(72)【発明者】
【氏名】加納 塁
(72)【発明者】
【氏名】村山 信雄
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA06
4B063QA18
4B063QQ07
4B063QQ44
4B063QQ61
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR56
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】マラセチアのアゾール系抗真菌薬に対する感受性を、簡便、かつ、短時間で判定する方法を提供する。
【解決手段】マラセチアのアゾール系抗真菌薬に対する耐性を判定する方法であって、対象のマラセチアのゲノムDNAを鋳型として、特定の塩基配列を有するプライマー対を用いて、核酸増幅反応を行い、ERG11遺伝子断片を得る工程(a)と、前記ERG11遺伝子断片の塩基配列を解析する工程(b)と、前記対象のマラセチアのERG11の演繹アミノ酸配列が、特定の箇所に変異を有している場合に、前記対象のマラセチアはアゾール系抗真菌薬に耐性を有すると判定する工程(c)と、を含む、判定方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マラセチアのアゾール系抗真菌薬に対する耐性を判定する方法であって、
対象のマラセチアのゲノムDNAを鋳型として、配列番号1に示される塩基配列からなるプライマー及び配列番号2に示される塩基配列からなるプライマーを用いて、核酸増幅反応を行い、前記核酸増幅反応の増幅産物としてERG11遺伝子断片を得る工程(a)と、
前記ERG11遺伝子断片の塩基配列を解析する工程(b)と、
前記ERG11遺伝子断片の塩基配列から求められる前記対象のマラセチアのERG11のアミノ酸配列が、配列番号4に示されるアミノ酸配列に対して、Ala302Thr変異及び/又はAla302Val変異を有している場合に、前記対象のマラセチアはアゾール系抗真菌薬に耐性を有すると判定する工程(c)と、を含む、判定方法。
【請求項2】
マラセチアのアゾール系抗真菌薬に対する耐性を判定する方法であって、
前記対象のマラセチアのERG11のアミノ酸配列が、配列番号4に示されるアミノ酸配列に対して、Ala302Thr変異を有している場合に、前記対象のマラセチアはアゾール系抗真菌薬に耐性を有すると判定する工程(c’)、を含む、判定方法。
【請求項3】
配列番号1に示される塩基配列からなるプライマー、及び配列番号2に示される塩基配列からなるプライマー、を含む、マラセチアのアゾール系抗真菌薬に対する耐性の検査キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マラセチアのアゾール系抗真菌薬に対する耐性を判定する方法及び検査キットに関する。
【背景技術】
【0002】
マラセチア感染症は、真菌の一種であるマラセチアが皮膚に感染することによって引き起こされる感染症である。マラセチア感染症の症状としては、皮膚炎及び外耳炎等が挙げられる。皮膚炎では、皮膚の痒みを伴う慢性の脂漏性皮膚炎、脱毛、フケ、臭気の発生等が認められ、外耳炎では、痒み、痛み、耳漏、臭気の発生等が認められる(例えば、非特許文献1を参照)。
【0003】
マラセチア感染症の予防方法及び治療方法として、主に、アゾール系抗真菌薬を含有するシャンプーを用いて皮膚を洗う、内服薬を投与する方法が採用されている(例えば、非特許文献1を参照)。アゾール系抗真菌薬を用いた予防や治療を継続すると、アゾール系抗真菌薬に対する耐性を有する耐性菌が出現する場合があることが報告されている(例えば、非特許文献2を参照)。
【0004】
マラセチアのアゾール系抗真菌薬に対する感受性試験の方法としては、患部からマラセチアを分離し、培養した後、アゾール系抗真菌薬存在下でマラセチアを培養してアゾール系抗真菌薬に対する感受性を試験する方法が一般的に知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Bond R, Morris DO, Guillot J, Bensignor EJ, Robson D, Mason KV, Kano R, Hill PB. Biology, diagnosis and treatment of Malassezia dermatitis in dogs and cats Clinical Consensus Guidelines of the World Association for Veterinary Dermatology. Vet Dermatol. 2020; 31:27-e4. doi: 10.1111/vde.12809.
【非特許文献2】Kano R, Yokoi S, Kariya N, Oshimo K, Kamata H. Multi-Azole-Resistant strain of Malassezia pachydermatis isolated from a canine Malassezia dermatitis. Med. Mycol. 2019; 57, 346-350.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のような従来のアゾール系抗真菌薬感受性試験の実施には、専門的な知識及び技術が必要である。また、感受性試験の結果を得るために3週間以上の時間を要していた。
そこで、本発明は、マラセチアのアゾール系抗真菌薬に対する耐性を、簡便に、かつ、短時間で判定可能な、マラセチアのアゾール系抗真菌薬に対する耐性を判定する方法、及びマラセチアのアゾール系抗真菌薬に対する耐性の検査キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の態様を含む。
[1]マラセチアのアゾール系抗真菌薬に対する耐性を判定する方法であって、対象のマラセチアのゲノムDNAを鋳型として、配列番号1に示される塩基配列からなるプライマー及び配列番号2に示される塩基配列からなるプライマーを用いて、核酸増幅反応を行い、前記核酸増幅反応の増幅産物としてERG11遺伝子断片を得る工程(a)と、前記ERG11遺伝子断片の塩基配列を解析する工程(b)と、前記ERG11遺伝子断片の塩基配列から求められる前記対象のマラセチアのERG11のアミノ酸配列が、配列番号4に示されるアミノ酸配列に対して、Ala302Thr変異及び/又はAla302Val変異を有している場合に、前記対象のマラセチアはアゾール系抗真菌薬に耐性を有すると判定する工程(c)と、を含む、判定方法。
[2]マラセチアのアゾール系抗真菌薬に対する耐性を判定する方法であって、前記対象のマラセチアのERG11のアミノ酸配列が、配列番号4に示されるアミノ酸配列に対して、Ala302Thr変異を有している場合に、前記対象のマラセチアはアゾール系抗真菌薬に耐性を有すると判定する工程(c’)、を含む、判定方法。
[3]配列番号1に示される塩基配列からなるプライマー、及び配列番号2に示される塩基配列からなるプライマー、を含む、マラセチアのアゾール系抗真菌薬に対する耐性の検査キット。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、マラセチアのアゾール系抗真菌薬に対する耐性を、簡便、かつ、短時間で判定可能な、マラセチアのアゾール系抗真菌薬に対する耐性を判定する方法、及びマラセチアのアゾール系抗真菌薬に対する耐性の検査キットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】マラセチア感染症の患部の皮膚表面の拭い物及びマラセチア分離株のゲノムDNAを鋳型として、配列番号1からなるプライマー及び配列番号2からなるプライマーを用いてPCRを行い、得られた増幅産物をアガロースゲルを用いて電気泳動し、エチジウムブロマイドを用いてゲルを染色した結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[判定方法]
一実施形態において、本発明は、マラセチアのアゾール系抗真菌薬に対する耐性を判定する方法であって、対象のマラセチアのゲノムDNAを鋳型として、配列番号1に示される塩基配列からなるプライマー及び配列番号2に示される塩基配列からなるプライマーを用いて、核酸増幅反応を行い、前記核酸増幅反応の増幅産物としてERG11遺伝子断片を得る工程(a)と、前記ERG11遺伝子断片の塩基配列を解析する工程(b)と、前記ERG11遺伝子断片の塩基配列から求められる前記対象のマラセチアのERG11のアミノ酸配列が、配列番号4に示されるアミノ酸配列に対して、Ala302Thr変異及び/又はAla302Val変異を有している場合に、前記対象のマラセチアはアゾール系抗真菌薬に耐性を有すると判定する工程(c)と、を含む、判定方法を提供する。
【0011】
<アゾール系抗真菌薬>
本実施形態の判定方法は、マラセチアのアゾール系抗真菌薬に対する耐性を判定する方法である。アゾール系抗真菌薬は、Cytochrome p450に作用して、エルゴステロール合成経路を阻害する。エルゴステロールは真菌細胞膜の重要な構成要素であり、アゾール系抗真菌薬によりエルゴステロール合成が阻害されると、マラセチアの増殖は抑制される。
本実施形態の方法によりマラセチアの耐性が判定されるアゾール系抗真菌薬としては、特に限定されず、例えば、イミダゾール系抗真菌薬、トリアゾール系抗真菌薬等が挙げられる。
イミダゾール系抗真菌薬としては、例えば、ミコナゾール、ケトコナゾール、ルリコナゾール、ラノコナゾール等が挙げられる。
トリアゾール系抗真菌薬としては、例えば、フルコナゾール、イトラコナゾール、ホスフルコナゾール、ボリコナゾール、ポサコナゾール等が挙げられる。
【0012】
(工程(a))
工程(a)では、対象のマラセチアのゲノムDNAを鋳型として、配列番号1に示される塩基配列からなるプライマー及び配列番号2に示される塩基配列からなるプライマーを用いて、核酸増幅反応を行い、前記核酸増幅反応の増幅産物としてERG11遺伝子断片を得る。
【0013】
<マラセチア>
本明細書において、マラセチアとは、マラセチア属(Malassezia)の真菌を意味する。本実施形態の判定方法において、判定の対象となるマラセチアは、マラセチア感染症を発症させるマラセチア属の真菌であって、配列番号1に示される塩基配列からなるプライマー及び配列番号2に示される塩基配列からなるプライマーがアニール可能なERG11遺伝子座を有するマラセチア属真菌であればよい。
対象のマラセチアとしては、例えば、M.caprae、M.cuniculi、M.dermatis、M.equina、M.furfur、M.globosa、M.japonica、M.nana、M.obtusa、M.pachydermatis、M.psittaci、M.restricta、M.slooffiae、M.sympodialis、M.yamatoensis等が挙げられる。
これらの中でも、対象となるマラセチアは、M.pachydermatisであることが好ましい。
【0014】
マラセチアは、例えば、動物個体に感染したマラセチアであってもよい。
マラセチアが感染する動物としては、イヌ、ネコ、サル、ウサギ、フェレット、ラット、マウス、モルモット、ハムスター等のペット;ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマ、ヤギ、トリ等の家畜;及びヒト等が挙げられる。これらの中でも、イヌ、ネコが好ましい。
マラセチアは、マラセチア感染症に罹患した動物の病変部位から採取されたマラセチアであることが好ましい。病変部位としては、マラセチア皮膚炎を発症している皮膚、マラセチア外耳炎を発症している外耳等が挙げられる。
【0015】
工程(a)において、核酸増幅反応の鋳型となるマラセチアのゲノムDNAは、核酸増幅反応が可能であれば、精製されたものであってもよく、精製されていないものであってもよい。マラセチアのゲノムDNAは、対象のマラセチアから予め調製したものであってもよい。ゲノムDNAの調製方法は、当業者が適宜選択することができる。
例えば、マラセチア菌体を含む耳垢、落屑等を緩衝液等に浸漬した後、フェノール抽出により浸漬後の緩衝液からタンパク質を除去し、続いて、エタノール沈殿を行うことにより、マラセチアのゲノムDNAを得てもよい。
マラセチアのゲノムDNAは、市販されているDNA分離キット等を用いて、マラセチア菌体を含む耳垢、落屑等から得られたものであってもよい。
あるいは、遺伝子断片を増幅させる反応溶液中にマラセチアを直接入れて、反応溶液中で溶菌したマラセチアから溶出したゲノムDNAを核酸増幅反応の鋳型として用いてもよい。
【0016】
<ERG11遺伝子>
ERG11は、Cytochrome P450の一種であり、ラノステロールを脱メチル化して4,4’-dimethyl cholesta-8,14,24-triene-3-beta-olを生成する反応を触媒する活性を有する。真菌細胞においては、4,4’-dimethyl cholesta-8,14,24-triene-3-beta-olは、その後、チモステロールを経て、細胞膜の構成成分のひとつであるエルゴステロールに変換される。
【0017】
例えば、M.pachydermatis CBS1879株のERG11遺伝子の塩基配列は、配列番号3に示される配列である。配列番号3に示される配列は、NCBI RefSeq ID NW_017253141.1の、539362-540984に対応する配列である。
CBS1879株のERG11遺伝子は、イントロンを有さない。したがって、CBS1879株のERG11をコードするmRNAのコーディング領域の塩基配列は、配列番号3に示される配列である。
【0018】
<核酸増幅反応>
対象のマラセチアのゲノムDNAを鋳型とする核酸増幅反応は、PCRによって行うことが好ましい。
PCRにおいては、配列番号1に示される塩基配列からなるプライマー(以下、「プライマー1」ともいう)及び配列番号2に示される塩基配列からなるプライマー(以下、「プライマー2」ともいう)を用いる。プライマー1はフォワードプライマーであり、プライマー2はリバースプライマーである。それぞれの配列は以下の通りである。
配列番号1: 5’-GCGTAGAAGGTACGGACCAC-3’
配列番号2: 5’-TGTACACACGGAGCTGCTC-3’
PCRの反応溶液は、当業者に公知の反応溶液であってもよい。PCR反応溶液は、例えば、プライマー1、プライマー2及び鋳型DNAに加えて、DNAポリメラーゼ(Taq DNAポリメラーゼ等)、dNTP mixture(dATP、dCTP、dGTP、dTTP)、及びマグネシウム塩(MgCl等)等を含むことができる。
例えば、鋳型DNAがM.pachydermatisのゲノムDNAである場合、配列番号1に示される塩基配列からなるプライマー及び配列番号2に示される塩基配列からなるプライマーを用いて、PCRを行うことにより、約220塩基対のDNA断片が増幅される。
【0019】
PCRの条件は、ERG11遺伝子断片が増幅される条件である限り、特に限定されない。
PCRでは、通常、変性ステップ、アニーリングステップ、及びDNA伸長ステップをこの順で複数回行うことにより、DNA断片を増幅する。
PCRのサイクル数は、配列解析に十分な量のERG11遺伝子断片を得る観点から、20回以上が好ましく、25回以上が好ましく、28回以上がより好ましい。サイクル数は、標的のERG11遺伝子断片以外の領域が増幅することを抑制する観点から、45回以下が好ましく、40回以下がより好ましく、35回以下が更に好ましい。
【0020】
変性ステップでは、PCRの溶液中に含まれる2本鎖DNAが、変性して1本鎖DNAに解離する。
変性ステップの温度は、2本鎖DNAを十分に変性させる観点から、90℃以上が好ましく、92℃以上がより好ましく、94℃以上が更に好ましい。
変性ステップの温度は、PCR溶液中のDNAポリメラーゼの不活化を抑制する観点から、99℃以下が好ましく、98℃以下がより好ましく、96℃以下が更に好ましい。
変性ステップの時間は、2本鎖DNAを十分に変性させる観点から、5秒以上が好ましく、10秒以上がより好ましく、20秒以上が更に好ましい。
変性ステップの時間は、PCR溶液中のDNAポリメラーゼの不活化を抑制する観点から、60秒以下が好ましく、40秒以下がより好ましく、30秒以下が更に好ましい。
【0021】
アニーリングステップでは、プライマー1及びプライマー2が、1本鎖状のDNA(マラセチアのゲノムDNA又は増幅されたERG11遺伝子断片)にアニールする。
アニーリングステップの温度は、プライマーの融解温度(Tm)に応じて、適宜設定することができる。通常、アニーリングステップの温度は、プライマーのTmよりも1~5℃程度低い温度に設定する。アニーリングステップの温度が高すぎると、プライマーが鋳型DNAにアニールすることができない。一方、アニーリングステップの温度が低すぎると、標的領域以外の領域に非特異的にアニールする確率が高くなる。
プライマー1のTmは63.4℃であり、プライマー2のTmは62.8℃であることから、アニーリングステップの温度は、63℃以下が好ましく、61℃以下がより好ましい。
アニーリングステップステップの温度は、プライマー1及びプライマー2がERG11遺伝子以外の領域にアニールすることを抑制する観点から、50℃以上が好ましく、55℃以上がより好ましく、58℃以上が更に好ましい。
アニーリングステップの時間は、通常、10~100秒とすることができ、20~60秒が好ましく、25~40秒がより好ましい。
【0022】
DNA伸長ステップでは、1本鎖状のDNA(マラセチアのゲノムDNA又は増幅されたERG11遺伝子断片)にアニールしたプライマーの3’端末端に連続的にdNTPが結合し、DNAが伸長する。
伸張ステップの温度及び時間は、PCR溶液中のDNAポリメラーゼによるDNAの伸長が十分に進行する限り特に限定されず、PCRで用いるDNAポリメラーゼの種類に応じて、適宜設定することができる。
伸張ステップの温度は、DNAポリメラーゼの最適温度付近で行うことが好ましく、例えば、Taq DNAポリメラーゼである場合、65~75℃が好ましく、68~73℃がより好ましく、71~73℃が更に好ましい。
伸張ステップの時間は、DNAの伸長を十分にする観点から、10~150秒が好ましく、15~120秒がより好ましく、20~90秒が更に好ましい。
【0023】
工程(a)により、核酸増幅反応の増幅産物として、ERG11遺伝子断片を得ることができる。
【0024】
(工程(b))
工程(b)では、ERG11遺伝子断片のDNA配列を解析する。DNA配列の解析方法は特に限定されず、公知の方法で行うことができる。DNA配列の解析は、DNAシーケンサーにより行うことができ、DNAシーケンサーとしては、例えば、サンガー法、ジデオキシ法等を適用したものであってもよい。より具体的には、ダイターミネーター法であってもよい。
工程(b)により、工程(a)で得たERG11遺伝子断片の塩基配列を得ることができる。
【0025】
(工程(c))
工程(c)では、工程(b)のDNA配列の解析結果に基づいて、マラセチアはアゾール系抗真菌薬に耐性を有するか否かを判定する。
【0026】
アゾール系抗真菌薬に耐性を有するマラセチアのERG11は、アゾール系抗真菌薬によるERG11活性の阻害を受けなくなるような変異を有すると考えられる。そのような変異としては、Ala302Thr及びAla302Valが挙げられる。そこで、工程(c)では、前記工程(b)で得られたERG11遺伝子断片の塩基配列の演繹アミノ酸配列が、Ala302Thr及び/又はAla302Valの変異を有している場合に、対象のマラセチアはアゾール系抗真菌薬に耐性を有すると判定する。
【0027】
工程(c)において、基準となる野生型ERG11のアミノ酸配列としては、配列番号4に示されるアミノ酸配列を用いる。配列番号4に示されるアミノ酸配列は、M.pachydermatis strain CBS1879株のERG11のアミノ酸配列である。
「ERG11遺伝子断片の塩基配列から求められる前記対象のマラセチアのERG11のアミノ酸配列が、配列番号4に示されるアミノ酸配列に対して、Ala302Thr変異を有する」とは、配列番号4に示されるアミノ酸配列に対して、ERG11遺伝子断片の塩基配列の演繹アミノ酸配列をアライメントしたときに、配列番号4に示されるアミノ酸配列の第302番目のAlaに対応するアミノ酸が、前記演繹アミノ酸配列においてThrに置換されていることをいう。
「ERG11遺伝子断片の塩基配列から求められる前記対象のマラセチアのERG11のアミノ酸配列が、配列番号4に示されるアミノ酸配列に対して、Ala302Val変異を有する」とは、配列番号4に示されるアミノ酸配列に対して、ERG11遺伝子断片の塩基配列の演繹アミノ酸配列をアライメントしたときに、配列番号4に示されるアミノ酸配列の第302番目のAlaに対応するアミノ酸が、前記演繹アミノ酸配列においてValに置換されていることをいう。
アライメントは、公知の方法で行うことができ、例えば、clustalW等のアライメントプログラムを用いることができる。
【0028】
M.pachydermatis strain CBS1879株のERG11遺伝子の塩基配列は、配列番号3に示される配列である。
配列番号3に示されるERG11遺伝子は、イントロンを有さない。CBS1879株のERG11をコードするmRNAのコーディング領域の塩基配列は、配列番号3に示される配列である。
CBS1879株のERG11の演繹アミノ酸配列は、配列番号4に示される配列である。これは、配列番号3に示される塩基配列から演繹されるアミノ酸配列であり、NCBI RefSeq ID XP_017991977.1に示される配列である。
【0029】
配列番号3に示される塩基配列の904番目のグアニンが、アデニンに変異したM.pachydermatis変異株は、アゾール系抗真菌薬に耐性を有する。
この変異株においては、配列番号4に示されるERG11のアミノ酸配列の第302番目のアミノ酸であるアラニンが、スレオニンに変異している。
【0030】
配列番号3に示される塩基配列の905番目のシトシンが、チミンに変異したM.pachydermatis変異株は、アゾール系抗真菌薬に耐性を有する。
この変異株においては、配列番号4に示されるERG11のアミノ配列の第302番目のアミノ酸であるアラニンが、バリンに変異している。
【0031】
工程(c)では、工程(b)で得られた対象のマラセチアのERG11遺伝子断片の塩基配列を、配列番号3に示される塩基配列に対してアライメントし、配列番号3に示される塩基配列の第302番目のAlaをコードするコドン(904-906の「GCA」)に対応するコドンの変異を確認することで、対象のマラセチアのアゾール系抗真菌薬に対する耐性を判定してもよい。
【0032】
工程(b)のDNA配列の解析結果から、対象マラセチアのERG11遺伝子において、配列番号3に示される塩基配列の904番目のグアニンに対応する塩基が、アデニンに変異していた場合、その対象マラセチアは、アゾール系抗真菌薬に耐性を有すると判定することができる。
対象マラセチアのERG11遺伝子において、配列番号3に示される塩基配列の905番目のシトシンに対応する塩基が、チミンに変異していた場合、その対象マラセチアは、アゾール系抗真菌薬に耐性を有すると判定することができる。
対象のマラセチアのERG11遺伝子断片の塩基配列における、配列番号3に示される塩基配列の904番目、905番目の塩基に対応する塩基は、例えば、ClustalW等のアラインメントプログラムを用いて、対象塩基配列と、配列番号3の塩基配列をアラインメントすること等により特定することができる。
【0033】
本実施形態の判定方法によれば、プライマー1及びプライマー2を用いて対象のマラセチアのERG11遺伝子断片を増幅し、塩基配列解析を行うことにより、対象のマラセチアのアゾール系抗真菌薬に対する耐性を判定することができるため、マラセチアの分離、培養、及び感受性試験を行う必要がない。そのため、マラセチアのアゾール系抗真菌薬に対する感受性を、簡便、かつ、短時間で判定することができる。また、プライマー1及びプライマー2を用いることにより、アゾール系抗真菌薬耐性に関与する変異を含む領域のみを特異的に増幅することができる。
薬剤を用いてマラセチア感染症を治療する前に、本実施形態の判定方法により、当該マラセチア感染症の病変に存在するマラセチアのアゾール系抗真菌薬に対する感受性を判定することにより、より迅速、且つ、的確に、治療に用いる薬剤を選択することができる。
【0034】
また、一実施形態において、本発明は、マラセチアのアゾール系抗真菌薬に対する耐性を判定する方法であって、前記対象のマラセチアのERG11のアミノ酸配列が、配列番号4に示されるアミノ酸配列に対して、Ala302Thr変異を有している場合に、前記対象のマラセチアはアゾール系抗真菌薬に耐性を有すると判定する工程(c’)と、を含む、判定方法を提供する。
アゾール系抗真菌薬としては、上述したものが挙げられる。
判定の対象となるマラセチアとしては、上述のマラセチア属の種が挙げられる。
【0035】
(工程(c’))
工程(c’)では、対象のマラセチアのERG11のアミノ酸配列が、配列番号4に示されるアミノ酸配列に対して、Ala302Thr変異を有している場合に、前記対象のマラセチアはアゾール系抗真菌薬に耐性を有すると判定する。
【0036】
対象のマラセチアのERG11のアミノ酸配列が、配列番号4に示されるアミノ酸配列に対して、Ala302Thr変異を有しているか否かを確認する方法は、特に限定されず公知の方法を用いることができる。
【0037】
例えば、対象のマラセチアにおいて、ERG11をコードする遺伝子又は当該遺伝子から転写されたmRNAの塩基配列を解析し、配列番号3に示される塩基配列の904番目のグアニンに対応する塩基が、アデニンに変異されていた場合、当該ERG11は配列番号4に示されるアミノ酸配列に対して、Ala302Thr変異を有している、と判定することができる。
【0038】
解析対象を対象のマラセチアのゲノムDNAとする場合、ゲノムDNAを鋳型として、配列番号3に示される塩基配列の904番目に対応する塩基を含む領域(以下、「G904A変異領域」ともいう)の核酸増幅反応を行ってERG11遺伝子断片を取得し、上記工程(b)と同様の方法で前記ERG11遺伝子断片の塩基配列を解析することができる。ゲノムDNAを鋳型とした核酸増幅反応は、G904A変異領域に特異的なプライマーを用いて、公知の方法により行うことができる。公知の核酸増幅法としては、例えば、PCR法、ICAN法、SDA法、NASBA法、LAMP法等が挙げられるが、これらに限定されない。これらの中でも、核酸増幅法としては、PCR法が好ましい。
【0039】
G904A変異領域に特異的なプライマーは、対象のマラセチアのG904A変異領域を増幅可能なプライマーであれば、特に限定されず、公知の方法により設計することができる。プライマーは、例えば、18~30塩基程度の長さとすることができ、40~60%程度のGC含量に設計することが好ましい。プライマーにより増幅されるERG11遺伝子断片のサイズは、特に限定されないが、塩基配列解析の効率の観点から、30~2000塩基であることが好ましく、50~1000塩基であることがより好ましく、100~500塩基であることが更に好ましい。プライマーは、Primer3等のプライマー設計用ソフトウェアを用いて設計してもよい。
【0040】
核酸増幅反応をPCRにより行う場合、プライマーとしては、配列番号1に示される塩基配列からなるプライマー及び配列番号2に示される塩基配列からなるプライマーを用いることが好ましい。この場合、上記工程(a)と同様に、核酸増幅反応を行うことができる。
【0041】
解析対象を対象のマラセチアのmRNAとする場合、対象のマラセチアからRNAを抽出し、逆転写酵素を用いてcDNAを合成した後、当該cDNAを鋳型として核酸増幅反応を行うことができる。対象のマラセチアからのRNAの抽出は、公知の方法で行うことができ、市販のRNA抽出試薬を用いてもよい。cDNAを鋳型とした核酸増幅反応は、上記ゲノムDNAを鋳型とする場合と同様の方法で行うことができる。
【0042】
核酸増幅反応により取得したG904A変異領域を含む核酸断片は、上記工程(b)と同様の方法で、塩基配列の解析を行い、塩基配列を取得することができる。取得した塩基配列を、配列番号3の塩基配列に対してアライメントし、配列番号3で示される塩基配列の904番目のグアニンに対応する塩基がアデニンとなっている場合(以下、「G904A変異」ともいう)に、対象のマラセチアのERG11のアミノ酸配列が、配列番号4に示されるアミノ酸配列に対して、Ala302Thr変異を有している、と判定することができる。
【0043】
本工程は、対象のマラセチアのERG11のアミノ酸配列が、配列番号4に示されるアミノ酸配列に対して、Ala302Thr変異を有しているか否かを判定することができれば、いかなる方法を用いてもよい。例えば、次世代シーケンサーを用いて、対象のマラセチアのゲノムDNAの塩基配列解析を行い、G904A変異領域の塩基配列を取得してもよい。次世代シーケンサーとは、数千から数百万のDNAを同時並列的に配列決定するシーケンサーである。次世代シークエンサーは、イルミナ社等から市販されているものを公知のものを用いることができる。
【0044】
また、本工程では、G904A変異領域に特異的にハイブリダイズするTaqman(登録商標) probeを設計し、リアルタイムPCRを行ってもよい。G904A変異が存在している場合には、その存在量に応じてシグナルが検出される。そのため、シグナルが検出された場合には、対象のマラセチアはG904A変異(Ala302Thr変異)を有していると判定することができる。
あるいは、G904A変異領域に特異的にハイブリダイズするプローブを用いて、サザンハイブリダイゼーション又はノーザンハイブリダイゼーション等を行うことにより、G904A変異の有無を検出してもよい。
【0045】
本実施形態の判定方法によれば、対象のマラセチアのERG11をコードする核酸の塩基配列を解析することにより、対象のマラセチアのアゾール系抗真菌薬に対する耐性を判定することができるため、マラセチアの分離、培養、及び感受性試験を行う必要がない。そのため、マラセチアのアゾール系抗真菌薬に対する感受性を、簡便、かつ、短時間で判定することができる。
薬剤を用いてマラセチアを治療する前に、本実施形態の判定方法により、マラセチアのアゾール系抗真菌薬に対する感受性を判定することにより、より迅速、且つ、的確に、治療に用いる薬剤を選択することができる。
【0046】
[検査キット]
一実施形態において、本発明は、配列番号1に示される塩基配列からなるプライマー(プライマー1)、及び配列番号2に示される塩基配列からなるプライマー(プライマー2)、を含む、マラセチアのアゾール系抗真菌薬に対する耐性の検査キットを提供する。
【0047】
プライマー1及びプライマー2は、配列番号1及び配列番号2に示される塩基配列に基づき、ホスホロアミダイト法等の公知の核酸合成法により合成することができる。
本実施形態の検査キットは、プライマー1及びプライマー2に加えて、核酸増幅反応に必要な試薬(DNAポリメラーゼ、dNTP、マグネシウム塩)、塩基配列解析に必要な試薬(シーケンス用プライマー)、バッファー類等を含んでいてもよい。
【0048】
本実施形態の検査キットは、上記実施形態の判定方法に使用することができる。
【実施例0049】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
[実験例1]
(プライマーの検討)
複数種類のプライマーを用いてPCRを行い、マラセチアのERG11遺伝子断片を増幅し、増幅産物の塩基配列解析を行って、適切なプライマーを検討した。
【0051】
まず、マラセチア株を、Sabouraud’s Dextrose agar培地に播種し、32℃で7日間、培養した。培養により得られた1~2mgの菌体を、溶菌緩衝液(20mM Tris-HCl,pH8.0,1mM EDTA,1% SDS)に入れて、溶菌緩衝液を沸騰させて、溶菌させた。得られた溶菌液に対し、フェノール・クロロホルム抽出、及びエタノール沈殿を行い、DNAを得た。得られたDNAをTE緩衝液(10mM Tris-HCl,pH8.0,1mM EDTA)に溶解させた。
【0052】
続いて、1.5 Unit Taqポリメラーゼ(Takara Taq R001B)、100~200ngのマラセチアのゲノムDNAを含み、最終濃度が、10mM Tris-HCl(pH 8.9)、50mM KCl、1.5mM MgCl、200μM dNTP(dATP、dTTP、dGTP、dCTP)となるように、30μLのPCRの反応溶液を調製した。
上記のように調製した反応溶液に、以下のようにプライマーを添加して、反応溶液1~4を準備した。下記プライマー1~2、5~10は、アクセッション番号AB971864.1としてGenBankに登録される「M.pachydermatis ERG11 mRNA for lanosterol 14-alpha demethylase, complete cds, strain: CBS 1879」の塩基配列情報から設計したプライマーである。各反応溶液に添加したプライマーセットは、配列番号3に示される塩基配列の904番目及び905番目の塩基を含む領域が増幅されるように設定した。
反応溶液中のプライマーの最終濃度は、それぞれ、1μMとした。
【0053】
反応液1:
配列番号1(プライマー1):5’-GCGTAGAAGGTACGGACCAC-3’
配列番号2(プライマー2):5’-TGTACACACGGAGCTGCTC-3’
反応液2:
配列番号5(プライマー5):5’-TCAAGTCAGGTCTCTCGACG-3’
配列番号6(プライマー6):5’-CAGCTACCAGTAGCACTGGA-3’
反応液3:
配列番号7(プライマー7):5’-GTTTGGCAAGGGTGTGGTC-3’
配列番号8(プライマー8):5’-CAGCTACCAGTAGCACTGG-3’
反応液4:
配列番号9(プライマー9):5’-GCGCAGCGTCAGATGAGTG-3’
配列番号10(プライマー10):5’-GGTGTCATAGTCCAGAGGCG-3’
【0054】
PCRは、95℃で1分間加熱し、サイクル(95℃で30秒、60℃で30秒、72℃で30秒)を30回繰り返した後、72℃で2分間保持し、標的領域を増幅した。
【0055】
ExoSAP-IT PCR Product Cleanup Reagent(Thermo Fisher社製)を用いて、PCRにより得られた増幅産物を精製した。
精製したDNAを鋳型として、各プライマーを用いてシーケンシング反応を行った。シーケンシング反応では、反応溶液1の増幅産物についてはプライマー1又はプライマー2を用い、反応溶液2の増幅産物についてはプライマー5又はプライマー6を用い、反応溶液3の増幅産物についてはプライマー7又はプライマー8を用い、反応溶液4の増幅産物についてはプライマー9又はプライマー10を用いた。
ABI PRISM 3130 DNA Analyzer(Thermofisher社製)にて塩基配列を解析した。
【0056】
反応溶液1~4のPCR反応により得られた増幅産物において、ダイレクトシーケンスにより塩基配列を決定することができたのは、反応溶液1の増幅産物のみであった。反応溶液1の増幅産物から決定された塩基配列は、プライマー1及びプライマー2による増幅産物として予測される塩基配列と一致していた。
反応溶液2~4の増幅産物の塩基配列の解析結果は、ノイズが多く、塩基配列を決定することはできなかった。これは、反応溶液2~4のPCR反応では、ERG11遺伝子断片以外の領域も増幅されてしまったためであると推測された。
以上の結果から、プライマー1及びプライマー2を、マラセチアのERG11遺伝子におけるG904A変異(Ala302Thr変異)又はC905T変異(Ala302Val変異)を検出するためのプライマーセットとして選択した。
【0057】
[実験例2]
マラセチア感染症を発症したイヌの皮膚表面の拭い物から得られた8株のマラセチア株(#1~#8)について、Broth microdilution法により、イトラコナゾール、ミコナゾールに対する感受性を解析した。
【0058】
8株のマラセチアを、それぞれ、実験例1と同一の方法で培養した。得られた菌体を、濁度が1.0となるように、0.9% NaClの滅菌溶液に懸濁した。
感受性の解析は、1% Tween 80を含有するSabouraud’s Dextrose培地を用いて、32℃で72時間培養したこと以外は、Clinical and Laboratory Standards Institute M27-A2のプロトコールに従って行った。
【0059】
感受性解析の結果得られた各マラセチア株の最小発育阻止濃度(Minimal Inhibitory Concentration, MIC)を表1に示す。イトラコナゾールについてはMICが1mg/L以上である場合、ミコナゾールについてはMICが32mg/L以上である場合に、耐性であると判定することができる(Peano A, Johnson E, Chiavassa E et al. J Fungi (Basel). 2020; 25:6(2):93.)。
表1に示すように、試験した7株はいずれも、イトラコナゾールのMICが1mg/L以上であり、且つミコナゾールのMICが32mg/L以上であった。したがって、これらのマラセチア株は、両薬剤に耐性であると判定された。残り1株はトラコナゾールのMICが0.25mg/Lであり、且つミコナゾールのMICが8mg/Lであった。したがって、このマラセチア株は、両薬剤に感受性であると判定された。
【0060】
[実験例3]
実験例2で用いた8株のマラセチア株(#1~#8)について、プライマー1及びプライマー2を用いてPCRを行い、ERG11遺伝子の配列を解析した。
【0061】
8株のマラセチア株を、Sabouraud’s Dextrose agar培地に播種し、32℃で7日間、培養した。培養により得られた1~2mgの菌体を、溶菌緩衝液(20mM Tris-HCl,pH8.0,1mM EDTA,1% SDS)に入れて、溶菌緩衝液を沸騰させて、溶菌させた。得られた溶菌液に対し、フェノール・クロロホルム抽出、及びエタノール沈殿を行い、DNAを得た。得られたDNAをTE緩衝液(10mM Tris-HCl,pH8.0,1mM EDTA)に溶解させた。
【0062】
次に示す手順により、PCRによりERG11遺伝子断片を増幅し、増幅産物の塩基配列解析を行った。
まず、10mM Tris-HCl(pH 8.3)、50mM KCl、1.5mM MgCl、0.001% gelatin、200μM dNTP(dATP、dTTP、dGTP、dCTP)、1.0 Unit Taqポリメラーゼ(Takara社製)、1μMプライマー1、1μMのプライマー2を含む、8個の30μLの反応溶液を用意した。また、反応溶液には、それぞれ、各マラセチア株から得られた100~200ngのDNAを添加した。
【0063】
得られた8種類の増幅産物を、2%アガロースゲルを用いて電気泳動により展開し、エチジウムブロマイドを用いてゲルを染色した。結果を図1に示す。図1中、MはDNAマーカーを示し、#1~#8は、8株のマラセチア株(#1~#8)のゲノムDNAを鋳型とした増幅産物を示す。
図1に示すように、いずれの単離株でも、約220塩基対の単一バンドが検出された。このDNA断片のサイズは、増幅断片の予測サイズと同じであった。この結果から、プライマー1及びプライマー2を用いることにより、臨床サンプルにおいても、ERG11遺伝子における標的領域のみを特異的に増幅できることが確認された。
【0064】
ExoSAP-IT PCR Product Cleanup Reagent(Thermo Fisher社製)を用いて、PCRにより得られた増幅産物を精製した。
精製したDNAを鋳型として、プライマー1を用いてシーケンシング反応を行った後、ABI PRISM 3130 DNA Analyzer(Thermofisher社製)にて塩基配列を解析した。解析の結果得られた各塩基配列を、配列番号3に示される塩基配列と比較し、変異の有無を確認した。配列比較は、National Center for Biotechnology Information(NCBI)のBasic Local Alignment Search Tool(BLAST)により行った。結果を表1に示す。表1には、配列番号3に示される塩基配列に対して検出された変異を、「変異の種類」として記載した。「G904A」は、配列番号3に示される塩基配列の904番目のグアニン(G)に対応する塩基がアデニン(A)に置換している変異を示す。「C905T」は、配列番号3に示される塩基配列の905番目のシトシン(C)に対応する塩基がチミン(T)に置換している変異を示す。
【0065】
表1に示すように、試験した7株は、G904A又はC905Tのいずれかの変異を有していた。これらの7株は、イトラコナゾール及びミコナゾールの両薬剤に耐性を示した(表1のMIC参照)。また残り1株(#8)は両薬剤に感受性をしめし、変異を認めなかった。これらのことからG904A又はC905Tの変異はこれらの薬剤耐性の指標となることが明らかとなった。
【0066】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明によれば、マラセチアのアゾール系抗真菌薬に対する耐性を、簡便に、かつ、短時間で判定可能な、マラセチアのアゾール系抗真菌薬に対する耐性を判定する方法、及びマラセチアのアゾール系抗真菌薬に対する耐性の検査キットを提供が提供される。本発明の判定方法は、マラセチアの治療において、適切な薬剤の選択に利用可能である。
図1
【配列表】
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