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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022113615
(43)【公開日】2022-08-04
(54)【発明の名称】同期電動機駆動システム
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/08 20060101AFI20220728BHJP
【FI】
H02P27/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021044147
(22)【出願日】2021-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】596137830
【氏名又は名称】有限会社シー・アンド・エス国際研究所
(72)【発明者】
【氏名】新中 新二
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505DD03
5H505DD06
5H505EE41
5H505EE49
5H505HB01
5H505JJ25
5H505JJ28
(57)【要約】
【課題】 限定的な母線電圧をもつ電力変換器で三相同期電動機を高速回転する場合、電力変換器が発生不可能な電圧に対応した初期電圧指令値が生成されることがある。このような初期電圧指令値は、電力変換器が発生可能な電圧に対応した最終電圧指令値に、軽演算負荷で連続的かつ効果的に変換されなければならない。
【解決手段】 本発明は、最終電圧指令値変換器22を、ゼロ相補正器22a、増幅器22b、リミッタ22cという簡単な3機器を用いて構成し、本課題を解決した。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相同期電動機を駆動するための初期電圧指令値を生成する初期電圧指令値生成手段と、
初期電圧指令値が過大な場合には、初期電圧指令値を三相電力変換器で発生可能な電圧に対応しうる最終電圧指令値に変換する電圧指令値変換手段と、
最終電圧指令値に基づき三相電力変換器のためのPWMスイッチング信号を生成するPWMスイッチング信号生成手段と、
PWMスイッチング信号に従い三相電圧を発生し、発生した三相電圧を三相同期電動機に印加する電力変換器と、
を少なくとも有する同期電動機駆動システムであって、
該電圧指令値変換手段が、
初期電圧指令値あるいはこれを処理して得た三相信号に対し、ゼロ相補正処理を行うゼロ相補正手段と、
ゼロ相補正処理後の三相信号あるいはゼロ相補正処理前の初期電圧指令値の大きさをベクトルノルムとして評価し、評価ノルム値に応じ、ゼロ相補正処理後の三相信号あるいはゼロ相補正処理前の初期電圧指令値に対して、評価ノルム値の少なくともある範囲で1を超える正のゲインを乗じ増幅処理する増幅手段と、
該電力変換器の母線電圧をvdcとするとき、ゼロ相補正処理と増幅処理の両処理を施し生成した三相信号の各相信号(u相信号、v相信号、w相信号)に対して、独立に、下限値を「-vdc/2」とし上限値を「+vdc/2」とした非線形なリミッタ処理を行い、最終電圧指令値を生成するリミッタ手段と、
を備えることを特徴する同期電動機駆動システム
【請求項2】
ゼロ相補正処理を受ける三相信号をvt*と表現し、三相信号を構成するu相、v相、w相
三相信号をvtz*と表現するとき、次式
あるいは本式と数学的に等価な関係に従い、該ゼロ相補正手段を構成したことを特徴とする請求項1の記載の同期電動機駆動システム
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三相永久磁石同期電動機、三相同期リラクタンス電動機などの三相同期電動機を、限られた母線電圧をもつ電力変換器(インバータ)を用い高速回転する場合に有用な三相電圧指令値の生成技術に関する。なお、本発明では電力変換器とインバータを同義で使用する。また、本発明が対象とする電力変換器は、三相電圧を発生する電力変換器である。
【背景技術】
【0002】
三相同期電動機を電力変換器で通電駆動する場合、達成可能な最大速度の主要制限要因は、電力変換器の母線電圧である。図1に、三相同期電動機1とこれに電気的に接続された電力変換器24を概略的に示した。同図では、電力変換器の母線電圧vdcを直流電源記号を用い、概略表示した。電力変換器で発生可能な三相電圧は、これを二相電圧に変換し2軸直交のαβ固定座標系上で領域表現する場合、六角形状を成し、その最大値は電力変換器の母線電圧により支配される。
【0003】
例えば、三相電圧を次のように3×1ベクトルとして表現する場合、
【数1】
2×3行列として記述される三相二相変換器を、(1)式の3×1ベクトルの左側から作用させれば、変換後の二相電圧として2×1ベクトルを得ることができる。代表的な三相二相変換器は、次の3種である。
【数2】
3種の三相二相変換器は、互いに一定係数による比例関係にあり、三相二相変換器により変換生成された二相電圧もこの一定係数による比例関係を維持する。
【0004】
図2は、母線電圧vdcを持つ電力変換器により発生可能な三相電圧の領域を、最も簡単な(2a)式の三相二相変換器を利用して三相電圧を二相電圧に変換した上で、αβ固定座標系上に描画したものである。同図の六角形の内側が、母線電圧vdcを持つ電力変換器により発生可能な電圧の領域を示している。(2a)式の三相二相変換器を利用した本例では、六角形の中心(αβ固定座標系の原点)から六角形の角までの大きさは母線電圧vdcと等しくなる。電力変換器に、PWMスイッチング信号の生成に利用される最終電圧指令値と等価な電圧を発生させるには、最終電圧指令値は六角形の辺を含む内側に存在しなければならない。
上記の説明より明らかなように、本発明の「六角形」は「電圧発生可能領域を示す六角形」を意味するが、以降も簡単に六角形と呼称する。
【0005】
特に、六角形の内接円内(内接円の縁を含む)に属する最終電圧指令値に基づき発生された電圧により、同期電動機を駆動する場合には、滑らかな駆動が可能である。内接円内に帰属する電圧は、定格速度以下の駆動時に利用される。なお、本発明では、内接円内(内接円の縁を含む)を線形領域と呼び、内接円の外側(内接円の縁を含まない)の領域を非線形領域と呼ぶ。
【0006】
定格速度を超える高速回転を目指す場合、当初生成された初期電圧指令値が内接円外さらには六角形外に存在することが、しばしば起こる。PWMスイッチング信号の生成に利用される最終電圧指令値は、六角形内に存在する必要がある。特に、六角形外の初期電圧指令値は、六角形の辺の1点に該当する最終電圧指令値に変換する必要がある(図2参照)。
【0007】
非線形領域に属する初期電圧指令値を六角形内の1点に変換する方法に関してては、既に多数の方法が報告されている(非特許文献1、特許文献1,2参照)。これらの中には、2×1ベクトルとしての初期電圧指令値に対し、変換前後で位相不変を確保する位相不変法、変換前後の誤差(ノルム評価での誤差)を最小化する最小ノルム誤差法、初期電流指令値が六角形の外接円内に存在することを条件に、変換前後でのノルム不変を確保するノルム不変法などある(非特許文献1参照)。また、初期電圧指令値が内接円内、内接円と六角形の間、六角形外の3領域で異なったルールで最終電圧指令値を決め、不連続に切り替える方法(特許文献1参照)、三相信号としての処理を一切行わず、2軸直交座標系上の二相信号として処理を完結する方法(非特許文献1、特許文献2)がある。
【0008】
これらは、概して、以下のいずれかの問題を有している。(a)複雑である。(b)初期電流指令値が六角形の外接円外に存在する場合には、適用できない。(c)初期電圧指令値が内接円内、内接円と六角形の間、六角形外の3領域の何れに属すかにより、最終電圧指令値の不連続な切替が必要である。(d)初期電圧指令値の増大に応じて、最終電圧指令値は6ステップ駆動用パルス信号に連続的に収斂する特性を有することが望ましいが、この特性を有しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】石田純:「交流電動機の駆動制御装置及び駆動制御方法」、公開特許公報、特開2008-11682(2006-6-30)
【特許文献2】大谷裕樹:「回転電機制御システム」、公開特許公報、特開2012-95485(2010-10-28)
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】X.Guo,M.He,and Y.Yang:“Over modulation strategy of power converters:A review,”IEEE Access,Vol.2018,pp.69528-69544(2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記背景の下になされたものであり、その目的は、次の特性をもつ最終電圧指令値生成機能を備えた同期電動機駆動システムを提供することにある。(a)簡単で実装が容易である。(b)初期電流指令値が六角形の外接円外に存在する場合にも、適用できる。(c)初期電圧指令値が内接円内、内接円と六角形の間、六角形外の3領域の何れに属しても、最終電圧指令値は、単一の生成法により、連続的に生成される。(d)初期電圧指令値の増大に応じ、最終電圧指令値は6ステップ駆動用パルス信号に連続的に収斂する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、三相同期電動機を駆動するための初期電圧指令値を生成する初期電圧指令値生成手段と、初期電圧指令値が過大な場合には、初期電圧指令値を三相電力変換器で発生可能な電圧に対応しうる最終電圧指令値に変換する電圧指令値変換手段と、最終電圧指令値に基づき三相電力変換器のためのPWMスイッチング信号を生成するPWMスイッチング信号生成手段と、PWMスイッチング信号に従い三相電圧を発生し、発生した三相電圧を三相同期電動機に印加する電力変換器と、を少なくとも有する同期電動機駆動システムであって、該電圧指令値変換手段が、初期電圧指令値あるいはこれを処理して得た三相信号に対し、ゼロ相補正処理を行うゼロ相補正手段と、ゼロ相補正処理後の三相信号あるいはゼロ相補正処理前の初期電圧指令値の大きさをベクトルノルムとして評価し、評価ノルム値に応じ、ゼロ相補正処理後の三相信号あるいはゼロ相補正処理前の初期電圧指令値に対して、評価ノルム値の少なくともある範囲で1を超える正のゲインを乗じ増幅処理する増幅手段と、該電力変換器の母線電圧をvdcとするとき、ゼロ相補正処理と増幅処理の両処理を施し生成した三相信号の各相信号(u相信号、v相信号、w相信号)に対して、独立に、下限値を「-vdc/2」とし上限値を「+vdc/2」とした非線形なリミッタ処理を行い、最終電圧指令値を生成するリミッタ手段と、を備えることを特徴する。
【0013】
請求項2の発明は、請求項1記載の同期電動機駆動システムであって、ゼロ相補正処理を受ける三相信号をvt*と表現し、三相信号を構成するu相、v相、w相信号を各々vu*、
と表現するとき、次式
【数3】
あるいは本式と数学的に等価な関係に従い、該ゼロ相補正手段を構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の効果を説明する。後掲の実施形態例で詳しく説明するように、請求項1の本発明による電圧指令値変換手段は、ゼロ相補正手段、増幅手段、リミッタ手段という簡単な3手段のみで構成されており、大変簡単で実装が容易である。初期電圧指令値が内接円内、内接円と六角形の間、六角形外の3領域の何れに属する場合にも、後掲の実施形態例で詳しく説明するように、対応できる。この際、最終電圧指令値の生成ルールは、変更する必要はない。生成ルールの変更がないことに起因して、連続的に大きさが変化する初期電圧指令値に対しては、最終電圧指令値も連続的に変化する。本電圧指令値変換手段が、1を超える正のゲインを乗じ増幅処理する増幅手段を有することより理解されるよに、初期電流指令値が六角形の外接円外に存在する場合にも、本電圧指令値変換手段は無理なく適用できる。しかも、後掲の実施形態例で詳しく説明するように、初期電流指令値の増大に応じ、最終電圧指令値は6ステップ駆動用パルス信号に連続的に収斂すると言う特性も得られる。以上のように、請求項1の本発明によれば、従前の電圧指令値変換手段が有していた多くの課題を、同時に解決できると言う効果を得ることができる。
【0015】
つづいて、請求項2の発明の効果を説明する。ゼロ相補正の方法は、線形領域に属する初期電圧指令値の電圧利用率の改善等に関連して、幾つかの方法が知られている。請求項2の発明は、線形領域に属する初期電圧指令値のために開発されたゼロ相補正法を、新たに、内接円外、六角外を含む非線形領域へ拡張したものである。本ゼロ相補正法は、補正後の三相信号を中心たる振幅ゼロ点へ集める効果がある。ゼロ相補正手段とともに構成されるリミッタ手段は、下限値を「-vdc/2」とし上限値を「+vdc/2」とした非線形なリミッタ処理を行うものである。リミッタ手段は、中心たる振幅ゼロ点を基準に対象にリミッタ処理を行う。以上より、既に明白なように、請求項2の発明のゼロ相補正手段は、同時構成されるリミッタ手段と同様な特性を備えており、両手段は大変相性がよい。この結果、請求項2の発明によれば、対称性の高い最終電圧指令値を生成できると言う効果が得られる。ひいては、請求項1の効果を高めることができると言う効果も得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】 「三相同期電動機に接続された母線電圧vdcをもつ三相電力変換器の概略構成を示す図」
図2】 「母線電圧vdcをもつ三相電力変換器が発生可能な電圧をαβ固定座標系上の六角形内領域として、内接円、外接円ともに、示した図」
図3】 「本発明が対象とする同期電動機駆動システムの構成を示す図」
図4】 「本発明による電圧指令変換器の1構成例を示す図」
図5】 「本発明による増幅器のゲイン特性の3例を示す図」
図6】 「本発明によるリミッタの特性を示す図」
図7】 「本発明による電圧指令変換器の1構成例を示す図」
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を用いて、本発明の好適な実施態様を具体的に説明する。
【実施形態例1】
【0018】
図3に、駆動対象である三相同期電動機1とこの駆動システム2の概略構成を示した。駆動システム2は、大きくは、初期電圧指令値生成器21、電圧指令値変換器22、PWMスイッチング信号生成器23、電力変換器24から構成されている。初期電圧指令値生成器21は、初期電圧指令値生成手段を実現したものであり、この構成としては、例えば、三相電圧指令値を直接生成する構成もあれば、同期電動機のための電流制御系を構築し、その出力として相電圧指令値を生成する構成もある。電圧指令値変換器22は、本発明の電圧指令値変換手段を実現したものであり、この構成の詳細は後述する。PWMスイッチング信号生成器23は、PWMスイッチング信号生成手段を実現したものであり、三角波比較PWM、空間ベクトルPWMなどを利用して、三相の最終電圧指令値から電力変換器24を構成する6個のインバータ素子(図1参照)をオンオフするための6個のスイッチング信号を生成している。電力変換器24は、6個のスイッチング信号に基づき、6個のインバータ素子(図1参照)をオンオフして三相電圧を発生し、発生の三相電圧を同期電動機1に印加しこれを駆動している。
【0019】
本発明は、駆動システム2の構成要素の中の、特に電圧指令値変換器22に関するものである。請求項1、請求項2の発明に基づいた1実施形態例を図4に示した。同図の電圧指令値変換器22は、左から、ゼロ相補正器22a、増幅器22b、リミッタ22cから構成されている。
【0020】
ゼロ相補正器22aへの入力信号は、初期電圧指令値vt*である。図4の例では、三相の初期電圧指令値を想定している。入力信号として二相の初期電圧指令値を受け取る場合には、二相三相変換処理して、これを三相の初期電圧指令値に変換すればよい。二相三相変換処理は、三相二相変換に使用した2×3行列((2)式参照)の転置行列に所要のスカラー係数を乗じたものである。当業者には、二相三相変換のための3×2行列は周知であるので、これ以上の説明は省略する。ゼロ相補正器22aは、初期電圧指令値vt*に対して、ゼロ相補正処理を施し、ゼロ相補正処理後の三相信号をvtz*として出力している。ゼロ相補正処理としては、請求項2の発明に基づく(3)式を活用すればよい。
【0021】
増幅器22bは、ゲインをgとするならば、入力信号であるゼロ相補正処理後の三相信号vtz*に対して、ゲインgを乗じ、vtzg*として力している。すなわち、次式の処理を遂行している。
【数4】
(4)式は、「ゼロ相補正処理後の三相信号あるいはゼロ相補正処理前の初期電圧指令値の大きさをベクトルノルムとして評価し、評価ノルム値に応じ、ゼロ相補正処理後の三相信号に対して、1を超える正のゲインを乗じ増幅処理する」様子を、数式で表記したものとなっている。(4b)式におけるrinは、図2の六角形内接円の半径に該当する。(4b)式が示すように、評価ノルム値が内接円半径の以下となる場合には、換言するならば初期電圧指令値が線形領域に帰属する場合には、ゲインgは1となり、増幅器は何らの増幅処理をすることなく、入力信号を無処理のまま出力する。増幅器が所期の働きを行うのは、評価ノルム値が内接円半径を超える場合に、換言するならば初期電圧指令値が非線形領域に帰属する場合に、限られている。
【0022】
(4b)式におけるrinは、図2の六角形内接円の半径に該当する。(2a)、(2b)、(2c)式の三相二相変換に対応した内接円半径rinは、各々次式となる。
【数5】
上式が明記しているように、六角形内接円の半径rinは、母線電圧vdcが変動する場合には、母線電圧変動に応じ変化することになる。当然のことながら、(4b)式のベクトルノルムは、利用の(2a)、(2b)、(2c)式に対応した形で、評価されねばならない。この点に注意すれば、ベクトルノルムは、三相の状態あるいは二相の状態のいずれでも評価可能である。(2)式の三相二相変換を前提とする場合、ゼロ相成分の有無は、評価ノルム値に影響を与えない。(4b)式は、この点を数式で明記している。
【0023】
図5に、評価ノルム値に対するゲインgの特性の3例を示した。図中のrcrは、六角形の外接円の半径を意味する(図2参照)。(2a)、(2b)、(2c)式の三相二相変換に対応した外接円半径rcrは、各々次式となる。
【数6】
上式が明記しているように、六角形外接円の半径rcrは、母線電圧vdcが変動する場合には、母線電圧変動に応じ変化することになる。
【0024】
図5(a)は、内接円半径を超える評価ノルム値に対するゲイン特性として、非線形な単調増加特性を採用した例である。同図(b)は、同図(a)を簡略化したもので、内接円半径を超える評価ノルム値に対するゲイン特性として、1次直線で表現される単調増加特性を採用した例である。同図(c)は、同図(b)をさらに簡略化したもので、内接円半径を超える評価ノルム値に対するゲイン特性として、1を超える一定値を実効的に採用した例である。本発明の増幅器のゲイン特性としては、上記3例以外の種々の特性を付与することができる。特異な例ではあるが、外接円半径以上の評価ノルム値に対するゲインとして、無限大に匹敵する十分な大きな値を付与することも可能である。
【0025】
図5より明瞭に理解されるように、ゲインは、評価ノルム値が内接円の半径以下の場合すなわち初期電圧指令値が線形領域に帰属する場合から、評価ノルム値が内接円の半径を超えさらには外接円の半径をも超える場合すなわち初期電圧指令値が非線形領域に帰属する場合まで、適用可能である。ゲインは評価ノルム値に対して連続しており、ゲインの跳躍的変化はない。図5の例は、ゲインの本特性も例示している。
【0026】
リミッタ22cへの入力信号は、ゼロ相補正処理と増幅処理の両処理を施し生成した三相信号である。図4の実施形態例では、本三相信号は増幅器22bの出力信号vtzg*である。リミッタ22cは、入力三相信号vtzg*の各相信号(u相信号、v相信号、w相信号)に対して、独立に、リミッタ処理を施し、処理済信号を最終電圧指令値v-t*として出力する。入力三相信号vtzg*を構成するu相信号をvuzg*とし、このリミッタ処理済信号をv-u*とするならば、請求項1の発明におけるリミッタ処理は次式で厳密に表現される。
【数7】
(7)式のリミッタ特性は、図6のように描画することもできる。(7)式および図6のvdcは、電力変換器の母線電圧である(図1参照)。v相信号、w相信号に対しても、同様のリミッタ処理が独立に実施される。
【実施形態例2】
【0027】
請求項1、請求項2の発明に基づいた電圧指令値変換器22の第2実施形態例を図7に示した。同図の電圧指令値変換器22が、ゼロ相補正器22a、増幅器22b、リミッタ22cの3機器から構成されている点は、図4の第1実施形態例と同様である。両実施形態例の相違は3機器の構成順序にある。図7の構成例では、3機器は、増幅器22b、ゼロ相補正器22a、リミッタ22cの順で構成されている。
【0028】
本実施形態例における増幅器22bは、入力として初期電圧指令値vt*を受けとり、これにゲインgを乗じた値をvtg*とし、出力している。この時のゲインの特性は、図5を援用しつつ説明した第1実施形態例のものと同一である。また、ゲインの具体値を特定するためのノルム評価値の算定も、第1実施形態例のものと同一である((2)、(5)、(6)式参照)。本ゲイン処理は、「ゼロ相補正処理前の初期電圧指令値の大きさをベクトルノルムとして評価し、評価ノルム値に応じ、ゼロ相補正処理前の初期電圧指令値に対して、1を超える正のゲインを乗じた増幅処理」と言い換えることができる。
【0029】
図7の例での初期電圧指令値は、二相信号、三相信号のいずれでもよい。入力信号として二相の初期電圧指令値を受け取る場合には、評価ノルム値の算定には都合がよい。ゲイン処理遂行の直前あるいは直後で二相三相変換処理を行い、出力信号は三相信号とする必要がある。
【0030】
ゼロ相補正器22aは、増幅器22bからの出力vtg*を入力として受け取り、ゼロ相補正処理を施した上で、処理信号をvtzg*として出力している。この時のゼロ相補正処理は、第1実施形態例のものと同一のものが利用できる。具体的には、請求項2の発明に基づく(3)式が示す原理に従い処理すればよい。
【0031】
リミッタ22cへの入力信号は、ゼロ相補正処理と増幅処理の両処理を施し生成した三相信号である。図7の実施形態例では、ゼロ相補正器22aの出力信号vtzg*である。本実施形態例におけるリミッタ処理は、第1実施形態例におけるリミッタ処理と同一であるので、これ以上の説明は省略する。
【実施形態例3】
【0032】
第1、第2実施形態例では、ゼロ相補正処理の具体的方法として、ともに請求項2の発明に基づく方法を使用した。ゼロ相補正処理を受ける三相信号が次の(8b)式のように表現され、かつ同式における振幅Vと周波数ωが既知の場合には、(8c)式のように補正量を定め、(8a)式のように補正処理を遂行してよい。
【数8】
なお、請求項1の発明は、上記以外のゼロ相補正処理の使用を妨げるものではないことを指摘しておく。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、定格速度を超える高速回転を目指す三相同期電動機の駆動に好適である。
【符号の説明】
【0034】
1 三相同期電動機
2 駆動システム
21 初期電圧指令値生成器
22 電圧指令値変換器
22a ゼロ相補正器
22b 増幅器
22c リミッタ
23 PWMスイッチング信号生成器
24 電力変換器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7