(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022113617
(43)【公開日】2022-08-04
(54)【発明の名称】プロジェクションナットの供給装置
(51)【国際特許分類】
B23P 19/00 20060101AFI20220728BHJP
H01F 7/02 20060101ALI20220728BHJP
【FI】
B23P19/00 301L
H01F7/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021045225
(22)【出願日】2021-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】512035918
【氏名又は名称】青山 省司
(72)【発明者】
【氏名】青山 好高
(72)【発明者】
【氏名】青山 省司
【テーマコード(参考)】
3C030
【Fターム(参考)】
3C030AA05
3C030AA08
(57)【要約】
【課題】供給ロッドの押出し部に磁石吸引力の強い領域を設けて、ナットの保持安定性を向上するとともに、永久磁石の設置管理を改善すること。
【解決手段】供給管13とガイド管8の結合箇所に、ナット1を一時係止する仮止室15が形成され、ストッパ部材14に、ナット1を仮止室15内へ引き込むとともに、仮止室15に一時係止する磁石26が、供給管13の搬送通路の延長上に配置され、供給ロッド5は、非磁性材料製のガイドロッド6を、磁性材料製の摺動ロッド7に圧入した構成とされ、ガイドロッド6と摺動ロッド7の境界部に、押出し部11が形成され、摺動ロッド5の直径方向に通過する磁束線36が、ガイドロッド6の両側に分布することによって、押出し部11に強い吸引力を発生する強化吸引部38を構成した。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロジェクションナットの供給管と、進退作動式の供給ロッドのガイド管がほぼ直角の交差状態で結合している箇所に、ストッパ部材が設けられていることによって、ナットを一時係止する仮止室が形成され、
前記ストッパ部材には、ナットを前記供給管から仮止室内へ引き込むとともに、ナットを仮止室に一時係止する磁石が、供給管の延長線上に配置され、
前記磁石の極性は、ナットが仮止室内へ引き込まれる方向に沿って設定されており、
前記供給ロッドは、ナットのねじ孔を貫通し、ナットを所定の距離にわたって滑降させる非磁性材料製のガイドロッドと、前記ガイドロッドよりも大径で前記ガイド管に設けた支持孔内を摺動する磁性材料製の摺動ロッドから構成され、
前記摺動ロッドと前記ガイドロッドは、断面円形とされており、
前記摺動ロッドの中心部に、前記ガイドロッドの直径よりもわずかに小径の嵌入孔を開け、そこにガイドロッドを圧入してガイドロッドと摺動ロッドの一体化がなされ、
前記ガイドロッドと前記摺動ロッドの境界部に、ナットに押出し力を付与する押出し部が形成され、
前記供給ロッドの進出時に、前記押出し部が前記磁石の近傍を通過するとき、摺動ロッドの押出し部に近い部分を摺動ロッドの直径方向に通過する磁束線が、ガイドロッドの両側に分布することによって、ガイドロッドの両側に磁束密度の高い領域を形成し、この両領域において前記押出し部に強い吸引力を発生する強化吸引部を構成したことを特徴とするプロジェクションナットの供給装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、仮止室に進入してきたプロジェクションナットを、磁石を有するストッパ部材で受け止めて一時係止を行い、進出してきた供給ロッドをプロジェクションナットのねじ孔に貫通させて目的箇所へ供給する、プロジェクションナットの供給装置に関している。
【0002】
以下、本明細書および特許請求の範囲において、プロジェクションナットを単にナットと表現する場合もある。
【背景技術】
【0003】
特開2002-205173号公報には、仮止室に進入してきたナットを、磁石を有するストッパ部材で受け止めて一時係止を行い、進出してきた供給ロッドをナットのねじ孔に貫通させて目的箇所へ供給する、供給装置が記載されている。
【0004】
実用新案登録第3131491号公報には、供給ロッドの大径部に小径部を差し込むことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-205173号公報
【特許文献2】実用新案登録第3131491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載されている技術においては、磁束線の形態を所定の形状に設定して、より有利な状態でナットを吸引することに関しては、何も記載されていない。つまり、供給ロッドに全域が磁性材料製とされた吸引部を形成し、磁石の磁化作用によって吸引部端面、すなわち押出し面に吸引力を発生させて、ナットを吸着することが記載されている。
【0007】
特許文献1記載の発明においては、吸引部を通過する磁束線の密度が吸引部全域にわたって均一であるために、押出し面全域に発生する吸引力は、どの箇所も同じ値の吸引力となる。したがって、生産数量を高めた増産態勢で操業するときには、供給ロッドの進出速度を高めるとともに、ナットが弾き飛ばされないようにするために、押出し面の吸引力を強くする必要が生じてくる。上記のように、ナットの吸引力が押出し面全域にわたって均一なっているから、押出し面全域の吸引力を強くするためには、磁石の積層個数を増やしたり、磁力の大きな高価な磁石に交換したりしなければならない。
【0008】
特許文献2記載の発明においては、供給ロッドに差し込み構造が採用されているが、磁石を用いて供給ロッドの特定の箇所に、強化されたナット吸着力を発生させることについては、何も配慮されていない。
【0009】
本発明は、上記の問題点を解決するために提供されたもので、供給ロッドの押出し部の特定の箇所に磁石吸引力の強い領域を設けて、ナットの保持安定性を向上するとともに、磁石の設置管理を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載の発明は、
プロジェクションナットの供給管と、進退作動式の供給ロッドのガイド管がほぼ直角の交差状態で結合している箇所に、ストッパ部材が設けられていることによって、ナットを一時係止する仮止室が形成され、
前記ストッパ部材には、ナットを前記供給管から仮止室内へ引き込むとともに、ナットを仮止室に一時係止する磁石が、供給管の延長線上に配置され、
前記磁石の極性は、ナットが仮止室内へ引き込まれる方向に沿って設定されており、
前記供給ロッドは、ナットのねじ孔を貫通し、ナットを所定の距離にわたって滑降させる非磁性材料製のガイドロッドと、前記ガイドロッドよりも大径で前記ガイド管に設けた支持孔内を摺動する磁性材料製の摺動ロッドから構成され、
前記摺動ロッドと前記ガイドロッドは、断面円形とされており、
前記摺動ロッドの中心部に、前記ガイドロッドの直径よりもわずかに小径の嵌入孔を開け、そこにガイドロッドを圧入してガイドロッドと摺動ロッドの一体化がなされ、
前記ガイドロッドと前記摺動ロッドの境界部に、ナットに押出し力を付与する押出し部が形成され、
前記供給ロッドの進出時に、前記押出し部が前記磁石の近傍を通過するとき、摺動ロッドの押出し部に近い部分を摺動ロッドの直径方向に通過する磁束線が、ガイドロッドの両側に分布することによって、ガイドロッドの両側に磁束密度の高い領域を形成し、この両領域において前記押出し部に強い吸引力を発生する強化吸引部を構成したことを特徴とするプロジェクションナットの供給装置である。
【発明の効果】
【0011】
ストッパ部材には、ナットを供給管から仮止室内へ引き込む磁石が、供給管の延長線上に配置されている。磁石は供給ロッドが進出する際において、供給ロッドの片側に配置された状態になっている。そして、磁石の極性は、ナットが仮止室内へ引き込まれる方向に沿って設定されている。摺動ロッドは磁性材料製とされ、ガイドロッドは非磁性材料製とされている。摺動ロッドの中心部に、ガイドロッドの直径よりもわずかに小径の嵌入孔を開け、そこにガイドロッドを圧入してガイドロッドと摺動ロッドの一体化がなされている。ガイドロッドと摺動ロッドの境界部に、ナットに押出し力を付与する押出し部が形成されている。磁束線の通過形態によって、強化吸引部が設けられている。
【0012】
磁石は、その極性が、ナットが仮止室内へ引き込まれる方向に沿って設定されるように取り付けてあるので、供給ロッドが最も後退している時には、磁石の磁束線は供給ロッドの直径方向に通過する形態となっている。供給ロッドの進出により、摺動ロッドの押出し部に近い部分が磁石の磁界内に入ると、当該部分を通過する磁束線は非磁性材料製のガイドロッドを両側に避けた形態となり、ガイドロッドの両側に磁束密度の高い領域が形成される。磁束密度の高い2つの領域は、ガイドロッドの中心軸線を間にした対称とされた位置関係となる。このような磁束腺の分布によって、磁束密度の高い箇所の磁力が、大きなものとなる。つまり、磁力が大きくされている箇所は、押出し部に強い吸引力を発生させる強化吸引部を形成していることとなる。
【0013】
摺動ロッドの押出し部に近い部分が磁石の磁界内に入った箇所で押出し部の磁化が開始され、摺動ロッドの押出し部に近い部分が磁石の磁界外に出た箇所で押出し部の磁化が終了する。このように押出し部が磁化されている区間が磁化区間である。この磁化区間において押出し部に強化吸引部が形成される。
【0014】
摺動ロッドの押出し部は、ドーナツ型の環形状をなしているが、この形状部分の2箇所の部分が上記強化吸引部となる。この強化吸引部は、供給ロッドの中心軸線を間にした線対称位置に配置されている。
【0015】
上記強化吸引部は、非磁性材料製のガイドロッドの存在によって、磁束線は、非磁性材料製のガイドロッドを通過することなく、左右に分流したような形態になって磁束密度の高い箇所が2箇所に形成されている。このように磁束密度の高い箇所によって形成された強化吸引部の吸引力は、それ以外の領域における吸引力よりも大きな吸引力が確保される。換言すると、強化吸引部とそれ以外の領域における単位面積当たりの吸引力に、大きな差ができることとなる。
【0016】
ナットを吸引する磁石の磁力が小さなものであっても、磁束密度の高い箇所を形成することによって、吸引力が局所的に強化された領域を形成することができ、ナット吸着が確実に実現する。別の見方をすると、押出し部の2箇所に強力な吸引力を発生させることによって、他の押出し部の部分の吸引力は弱くても、十分なナット吸引と保持が可能となる。
【0017】
このように吸引力が強化された領域を形成することによって、吸引力の小さな磁石であっても、大きな吸引力の領域、すなわち強化吸引部を存在させることが可能となる。このため、供給ロッドを高速で進出させるような増産態勢であっても、強い吸引力の領域が押出し部に確保されるので、供給ロッドの進出速度の大小にかかわらず、ナットを確実に押出し部に保持することが可能となる。磁性材料製の部材と非磁性材料製の部材との組み合わせに対して、磁石の磁束線の形態を複合させて、強化吸引部を形成している。
【0018】
供給ロッドの進出時に、押出し部がナットに突き当たった時点では、押出し部は強化吸引部を含む領域に吸引力を保有しているので、ナットは弾き飛ばされることがなく、ナットは磁化区間の間は押出し部に吸着された状態になる。そして、摺動ロッドの押出し部に近い部分が磁化区間を脱出するときの供給ロッド進出位置は常に一定箇所であるから、磁力吸引から開放されたナットは、常に一定箇所から滑降を開始し、これによって電極ガイドピンなどへのナット供給タイミングが正しく維持される。
【0019】
上述の強化吸引部の形成は、吸引力の弱い磁石であっても、押出し部に強い吸引部分を存置することができるので、この吸引磁力が強化された部分がナット吸引の中心的役割を果たして、確実なナットの吸引保持が可能となる。他方、電気抵抗溶接の溶接熱によって永久磁石に減磁現象が発生しても、押出し部に局部的な強化吸引部が形成されているので、この部分がナット吸引の中心的役割を果たすのである。
【0020】
つまり、強化吸引部の吸引力を十分高い値に設定して、強化吸引部が支配的になった吸引力を発揮するようにしておけば、長期にわたって吸引作用が確保できる。
【0021】
磁石には、局部的に磁力が強化された強化吸引部が設けてあるので、磁石が減磁してきても、強化吸引部の吸引能力が高いレベルで維持されている。したがって、磁石の耐用期間が長期化し、交換回数を大幅に低減することができて、磁石の設置管理を改善できる。
【0022】
また、ナットを一時係止する吸引作用によってナットがストッパ部材を擦りながら移動し、そこへ押出し部の吸引力が加算された状態になるので、ナットが弾き飛ばされる現象が発生しないことになる。
【0023】
ナットの仮止室内への引き込みと、磁化区間の形成が、1つの磁石で成立するので、構造的な面での簡素化や原価低減において効果的である。
【0024】
本願発明は、上述のような装置発明であるが、以下に記載する実施例から明らかなように、ナットの移送過程等を特定した方法発明として存在させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】装置全体の断面図と、部分箇所の断面図や外観図である。
【
図3】磁石の磁束線の通過状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
つぎに、本発明のプロジェクションナットの供給装置を実施するための形態を説明する。
【実施例0027】
【0028】
最初に、プロジェクションナットについて説明する。
【0029】
鉄製のプロジェクションナット1は、正方形のナット本体2の中央にねじ孔3が開けられ、片側の四隅に溶着用突起4が設けられている。ナット1の断面形状は、
図1(A)や(E)に見やすく図示してある。
【0030】
つぎに、供給ロッドについて説明する。
【0031】
供給ロッド5は、ナット1のねじ孔3を貫通するガイドロッド6と、このガイドロッド6よりも大径の摺動ロッド7が一直線上に一体化されている。ガイドロッド6は、ステンレス鋼のような非磁性材料で作られ、摺動ロッド7は、鉄鋼材のような磁性材料で作られている。
【0032】
ガイドロッド6と摺動ロッド7の境界部に、ナット1に押出し力を付与する押出し部11が形成されている。押出し部11は平面とされており、この平面は、
図1(C)に示すように、供給ロッド5の中心軸線が垂直に交差している仮想平面上に存在している。
図1(D)は、押出し部11の変形例を示している。これは、前記の平面に換えてテーパ面で構成されている。押出し時には、テーパ面がねじ孔3のテーパ孔のテーパ面11aに当たってナット送出がなされる。
【0033】
図2(A)に示すように、ガイドロッド6を摺動ロッド7に圧入して両者の一体化がなされている。摺動ロッド7の中心部にガイドロッド6の直径よりもわずかに小径の嵌入孔23を開け、そこにガイドロッド6を圧入する。通常、このような圧入で両者の一体化は維持できるのであるが、さらに確実化を図るために、
図2(B)に示す構造がある。これは、ガイドロッド6に円周方向の受け入れ溝28を設け、圧入後に摺動ロッド7の外周部を加圧することによって、摺動ロッド7の素材を受け入れ溝28の空間内に膨出させるものである。符号29は、外周部の加圧痕を示し、符号30は、膨出部を示す。
【0034】
供給ロッド5は、ガイド管8内に収容され、ガイド管8に結合したエアシリンダ9によって進退動作をする。ガイド管8に支持孔10が形成され、摺動ロッド7が支持孔10の内面を摺動するように挿入してある。ガイド管8は、装置の機枠などの静止部材12に結合してある。
【0035】
供給ロッド5は、水平面に対して45度傾斜し、それに直交する姿勢の供給管13も45度傾斜している。供給管13とガイド管8は、ほぼ直角の交差状態とされ、溶接などで結合されている。
【0036】
つぎに、仮止室について説明する。
【0037】
金属製の供給管13は、ナット1の形状に適合させてその空間断面が四角くなっており、その先端部がガイド管8の先端部に溶接してある。黒く塗り潰された箇所が溶接箇所である。
図1(A)に示すように、供給管13とガイド管8は、ほぼ直交した交差状態で結合されており、この結合箇所にストッパ部材14を設けることによって仮止室15が形成されている。供給管13の先端側の底部を切除して、仮止室15の出口開口16が形成されている。部品供給源であるパーツフィーダ17から送出されたナット1が、供給管13を経て仮止室15に導かれる。
【0038】
仮止室15は、供給管13の上面部に開けた通孔18を経て支持孔10に連通しており、供給ロッド5が仮止室15を通過できるようになっている。
【0039】
つぎに、ストッパ部材について説明する。
【0040】
ストッパ部材14は厚板状の部材である。ガイド管8の下端部を削り取って平面19が形成され、そこにストッパ部材14を押し付けることによってストッパ部材14が取り付けられている。ガイド管8の外側面に支持部材20が溶接され、そこにねじ込んだ固定ボルト21を締め付けることによって、ストッパ部材14が平面19に押し付けられる。符号22は、緩み止めのロックナットである。
【0041】
ストッパ部材14は、厚板24に受け孔25が開けられ、そこに永久磁石26がはめ込まれ、厚板24の両面に溶接で取り付けたカバー板27によって永久磁石26が封じ込まれている。厚板24、カバー板27は非磁性材料であるステンレス鋼で構成されている。
【0042】
永久磁石26は、供給管13の延長線上、すなわち供給管13の通路空間を延長した箇所に配置され、ナット1を供給管13から仮止室15内へ引き込むとともに、ナット1を仮止室15に一時係止する。一時係止されたナット1のねじ孔3は、供給ロッド5と同軸の位置に停止するように、ストッパ部材14の取り付け位置が設定してある。
【0043】
つぎに、磁石の極性と磁束線について説明する。
【0044】
永久磁石26の極性は、ナット1が仮止室15内へ引き込まれる方向に沿って設定されている。
図3に示すように、ナット1が仮止室15内へ引き込まれる方向は、矢線35で示されている。矢線35の方向に沿ってN極とS極が設定されている。このような極性配置になっているので、側面図として見ると、ループ状の磁束線36は供給ロッド5の直径方向の通過形態となる。
【0045】
磁束線36が、摺動ロッド7の押出し部11に近い部分を、摺動ロッド7の直径方向に通過することによって、押出し部11に吸引磁力が発生する。つまり、押出し部11に近い部分が永久磁石26の磁界内に入ると、押出し部11に吸引磁力が発生する。摺動ロッド7の押出し部11に近い部分から離隔した箇所を磁束線36が通過すると仮定すると、磁束線36が押出し部11から離れ過ぎているため、押出し部11には吸引磁力は発生しない。したがって、摺動ロッド7の押出し部11に近い部分というのは、押出し部11に有効な吸引磁力が発生する箇所であり、押出し部11の近くを磁束線36が通過することを意味している。
図3に示した磁束線36の通過位置が、押出し部11に近い部分であり、符号40で示してある。
【0046】
押出し部11に近い部分40を例示すると、摺動ロッド7の端面7aから中心軸線O-O方向伸びる距離Lの区間内に当該部分40が存在している。この距離Lは、端面7aにできるだけ近い箇所が望ましいのであるが、実際にはこの距離Lを、端面7aから摺動ロッド7の直径の1/2に相当する箇所までに設定するのが良好である。一方、摺動ロッド7の直径の1/2を超えた箇所を磁束線36が通過する場合には、押出し部7に有効な吸引力が発生しないこととなる。磁束線36の通過位置は、永久磁石26の縦横厚さの各部寸法、
図3の場合には、とくに中心軸線O-O方向で見た永久磁石26の寸法の選定によって設定することができる。
【0047】
つぎに、強化吸引部について説明する。
【0048】
図4(A)は、
図3の(4)-(4)断面図であり、見やすくするために、断面部分のハッチングは図示していない。
【0049】
通常であれば磁束線36は、供給ロッド5の直径方向に真っ直ぐに通過するのであるが、非磁性材料性であるガイドロッド6を通過することなく、通過しやすい方向の通過形態となる。このため、2方向に分流したような磁束線形態となり、
図4(A)の上側と下側に磁束密度の高い高密度部分37が形成される。このような磁束密度の高まりによって、高密度部分37に対応した押出し部11には、
図4(B)の鎖線ハッチングで示す強化吸引部38が形成される。磁束線36が非磁性材料製のガイドロッド6を避けた磁束形態となることによって形成された、この2つの強化吸引部38は、供給ロッド5の中心軸線O-Oを間にした対称の位置関係となっている。
【0050】
単位面積当たりの吸引力で比較すると、強化吸引部38はそれ以外の箇所39(
図4(B)参照)よりも大きな吸引力を有しており、強化吸引部38の吸引力を所定値以上に設定することにより、ナット1の吸着安定性を高めることが可能となる。
【0051】
摺動ロッド7の押出し部11に近い部分40が永久磁石26の磁界内に入った箇所で押出し部11の磁化が開始され、摺動ロッド7の押出し部11に近い部分40が永久磁石26の磁界外に出た箇所で押出し部11の磁化が終了する。このように押出し部11が磁化されている区間が磁化区間である。この磁化区間において押出し部11に強化吸引部38が形成される。
【0052】
固定電極31上に鋼板部品32が載置され、鋼板部品32から突き出ているガイドピン33にナット1が供給される。なお、固定電極31と対をなす可動電極の図示は省略してある。
【0053】
永久磁石26の磁界の広さを加減することによって、上記磁化区間の長さを変更することができる。
【0054】
つぎに、比較例について説明する。
【0055】
図5は、
図4(A)と同様にして図示した比較例である。
図5に示した摺動ロッド7とガイドロッド6は、ともに磁性材料である鋼鉄材で作られている。そのため、磁束線36は全域にわたって等間隔となり、磁束密度に粗密は形成されていない。このような鋼鉄材製の供給ロッド5を
図4のものと同じ寸法で製作して、押出し部11に発生する吸引磁力を測定したところ、押出し部11全域にわたって均一な値であることが判明した。このようになるのは、磁束線36の磁束密度に粗密が生じていないことが要因になっているものと考えられる。
【0056】
図4に示した永久磁石26と、
図5に示した永久磁石26を同じ性能にするとともに、供給ロッド5の各部寸法も同じにして比較した。押出し部11に吸着されたナット1に剥離方向(中心軸線O-O方向)の力を作用させると、
図5における吸着ナットは低い剥離力で剥離したが、
図4における吸着ナットは前記の低い剥離力よりも遥かに高い剥離力で剥離した。このような差は、同じ永久磁石26であっても、摺動ロッド7における磁束線36に高密度部分があるかどうか(高密度部分の有無)が要因になっているものと判断される。
【0057】
各部寸法が、縦横が13mm、厚さが5.5mm、ねじ孔の直径が6.5mmとされたナット1を、
図4(A)のような磁束線36のもとで、押出し部11に吸着させたものに、供給ロッド5の中心軸線O-O方向の剥離力を作用させると、5~6グラムの引っ張り力で押出し部11から剥離した。一方、
図5に示した磁束線36のもとで、押出し部11に吸着させたものに、供給ロッド5の中心軸線O-O方向の剥離力を作用させると、3.5~4.5グラムの引っ張り力で押出し部11から剥離した。
【0058】
このような結果は、押出し部11の全域の中で、局部的に高い吸引力の箇所が形成され、それが強化吸引部38となり、剥離しにくさの点で格差があらわれているものと判断される。
【0059】
つぎに、供給動作を説明する。
【0060】
供給ロッド5が最も後退した位置から進出してくると、永久磁石26で一時係止されているナット1のねじ孔3にガイドロッド6が貫通する。この進出が進行して
図3に示すように、摺動ロッド5の押出し部11に近い部分40が永久磁石26の磁界内に入ると、押出し部11に吸引力が発生し、さらに進出して押出し部11がナット1の上面に密着すると、ナット1は押出し部11に吸着される。このときの磁束線36は、前述のような高密度部分37が形成されていることによって、押出し部11の2箇所に強化吸引部38が形成される。
【0061】
このような吸引状態で供給ロッド5が進出して、摺動ロッド5の押出し部11に近い部分40が永久磁石26の磁界外に達すると、押出し部11の吸引磁力は消滅し、これと同時にナット1はガイドロッド6を滑降し始めて、固定電極31のガイドピン33に到達する。
【0062】
なお、上記のエアシリンダ9に換えて、進退出力をする電動モータを採用することもできる。また、上記の永久磁石26を電磁石に置き換えることも可能である。
【0063】
以上に説明した実施例の作用効果は、つぎのとおりである。
【0064】
磁石26は、その極性が、ナット1が仮止室15内へ引き込まれる方向35に沿って設定されるように取り付けてあるので、供給ロッド5が最も後退してガイドロッド6の先端部が磁石26よりも上位に位置している時には、磁石26の磁束線36は供給ロッド5の直径方向に真っ直ぐ通過する形態となっている。
【0065】
供給ロッド5の進出により、摺動ロッド7の押出し部11に近い部分40が磁石26の磁界内に入ると、当該部分40を通過する磁束線36は非磁性材料製のガイドロッド6を両側に避けた形態となり、ガイドロッド6の両側に磁束密度の高い高密度部分37が形成される。磁束密度の高い2つの領域37は、ガイドロッド6の中心軸線O-Oを間にした対称とされた位置関係となる。このような磁束線36の分布によって、磁束密度の高い箇所の磁力が、大きなものとなる。つまり、磁力が大きくされている箇所は、押出し部11に強い吸引力を発生させる強化吸引部38を形成していることとなる。
【0066】
摺動ロッド7の押出し部11に近い部分40が磁石26の磁界内に入った箇所で押出し部11の磁化が開始され、摺動ロッド7の押出し部11に近い部分40が磁石26の磁界外に出た箇所で押出し部11の磁化が終了する。このように押出し部11が磁化されている区間が磁化区間である。この磁化区間において押出し部11に強化吸引部38が形成される。
【0067】
摺動ロッド7の押出し部11は、
図1(C)に示した平面型、
図1(D)に示したテーパ面型のいずれもドーナツ型の環形状をなしているが、この形状部分の2箇所の部分が上記強化吸引部38となる。この強化吸引部38は、供給ロッド5の中心軸線O-Oを間にした線対称位置に配置されている。
【0068】
上記強化吸引部38は、非磁性材料製のガイドロッド6の存在によって、磁束線36は、非磁性材料製のガイドロッド6を実質的に通過することなく、左右に分流したような形態になって磁束密度の高い箇所(高密度部分37)が2箇所に形成されている。このように磁束密度の高い箇所によって形成された強化吸引部38の吸引力は、それ以外の領域における吸引力よりも大きな吸引力が確保される。換言すると、強化吸引部38とそれ以外の領域39における単位面積当たりの吸引力に、大きな差ができることとなる。
【0069】
プロジェクションナット1を吸引する磁石26の磁力が小さなものであっても、磁束密度の高い箇所37を局所的に形成することによって、吸引力が強化された領域を形成することができ、ナット吸着が確実に実現する。別の見方をすると、押出し部11の2箇所に強力な吸引力を発生させることによって、他の押出し部11の部分の吸引力は弱くても、十分なナット吸引と保持が可能となる。
【0070】
このように吸引力が強化された領域を形成することによって、吸引力の小さな磁石26であっても、大きな吸引力の領域、すなわち強化吸引部38を存在させることが可能となる。このため、供給ロッド5を高速で進出させるような増産態勢であっても、強い吸引力の領域が押出し部11に確保されるので、供給ロッド5の進出速度の大小にかかわらず、ナット1を確実に押出し部11に保持することが可能となる。磁性材料製の部材と非磁性材料製の部材との組み合わせに対して、磁石26の磁束線36の形態を複合させて、強化吸引部38を形成している。
【0071】
供給ロッド5の進出時に、押出し部11がナット1に突き当たった時点では、押出し部11は強化吸引部38を含む領域に吸引力を保有しているので、ナット1は弾き飛ばされることがなく、磁化区間の間は押出し部11に吸着された状態になる。そして、摺動ロッド5の押出し部11に近い部分40が磁化区間を脱出するときの供給ロッド進出位置は常に一定箇所であるから、磁力吸引から開放されたナット1は、常に一定箇所から滑降を開始し、これによって電極ガイドピン33などへのナット供給タイミングが正しく維持される。
【0072】
上述の強化吸引部38の形成は、吸引力の弱い磁石26であっても、押出し部11に強い吸引部分を存置することができるので、この吸引磁力が強化された部分がナット吸引の中心的役割を果たして、確実なナットの吸引保持が可能となる。他方、電気抵抗溶接の溶接熱によって永久磁石に減磁現象が発生したり、磁石が劣化したりしても、押出し部11に局部的な強化吸引部38が形成されているので、この部分がナット吸引の中心的役割を果たすのである。
【0073】
つまり、強化吸引部38の吸引力を十分高い値に設定して、強化吸引部38が支配的になった吸引力を発揮するようにしておけば、長期にわたって吸引作用が確保できる。
【0074】
磁石26には、局部的に磁力が強化された強化吸引部38が設けてあるので、磁石26が減磁してきても、強化吸引部38の吸引能力が高いレベルで維持されている。したがって、磁石26の耐用期間が長期化し、交換回数を大幅に低減することができて、磁石26の設置管理を改善できる。
【0075】
また、ナット1を一時係止する吸引作用によってナット1がストッパ部材14を擦りながら移動し、そこへ押出し部11の吸引力が加算された状態になるので、ナット1が弾き飛ばされる現象が発生しないことになる。
【0076】
ナット1の仮止室15内への引き込みと、押出し部11への吸着が、1つの永久磁石26で成立するので、構造的な面での簡素化や原価低減において効果的である。
【0077】
図4に示した湾曲した磁束線36の形態でえられる押出し部11全体の吸引力と、
図5に示した直線的な磁束線36の形態でえられる押出し部11全体の吸引力をトータル的に見ると、両者は同じ吸引エネルギーであるが、
図4の押出し部11の強化吸引部38による局部的吸引力が、ナット1の端面に対して強力に作用し、この吸引力が支配的存在になっているものと考えられる。
上述のように、本発明の装置によれば、供給ロッドの押出し部の特定の箇所に磁石吸引力の強い領域を設けて、ナットの保持安定性を向上するとともに、永久磁石の設置管理を改善する。したがって、自動車の車体溶接工程や、家庭電化製品の板金溶接工程などの広い産業分野で利用できる。