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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022113648
(43)【公開日】2022-08-04
(54)【発明の名称】光触媒複合材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/02 20060101AFI20220728BHJP
   B01J 37/34 20060101ALI20220728BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20220728BHJP
   B01J 23/89 20060101ALI20220728BHJP
   B01J 27/224 20060101ALI20220728BHJP
   C01B 3/04 20060101ALI20220728BHJP
【FI】
B01J35/02 J
B01J37/34
B01J37/04 102
B01J23/89 M
B01J27/224 M
C01B3/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022001295
(22)【出願日】2022-01-06
(31)【優先権主張番号】P 2021009205
(32)【優先日】2021-01-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】317006683
【氏名又は名称】地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100090158
【弁理士】
【氏名又は名称】藤巻 正憲
(72)【発明者】
【氏名】秋山 賢輔
【テーマコード(参考)】
4G169
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169AA03
4G169AA08
4G169AA09
4G169AA12
4G169BA04A
4G169BA04B
4G169BA48A
4G169BB02A
4G169BB02B
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BB05A
4G169BB05B
4G169BB06A
4G169BB08C
4G169BB11A
4G169BB12C
4G169BB14A
4G169BB14B
4G169BB15A
4G169BB15B
4G169BB20A
4G169BB20B
4G169BC23A
4G169BC25A
4G169BC25B
4G169BC31A
4G169BC32A
4G169BC33A
4G169BC33B
4G169BC54A
4G169BC55A
4G169BC56A
4G169BC58A
4G169BC58B
4G169BC60A
4G169BC62A
4G169BC66A
4G169BC66B
4G169BC67A
4G169BC67B
4G169BC71A
4G169BC74A
4G169BC75A
4G169BC75B
4G169BD05A
4G169BD05B
4G169BD12C
4G169CB81
4G169CC33
4G169DA05
4G169EA01X
4G169EA01Y
4G169EA02Y
4G169EC22X
4G169EC22Y
4G169EC28
4G169FA02
4G169FB05
4G169FB57
4G169FB58
4G169FC02
4G169FC08
4G169FC09
4G169HA02
4G169HB01
4G169HB06
4G169HB10
4G169HC01
4G169HC13
4G169HC28
4G169HD03
4G169HE09
(57)【要約】
【課題】紫外領域から近赤外領域までの広範な波長域において光に対する触媒活性を有し、この光を利用して水を高変換効率で分解することができる光触媒複合材料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】β-FeSi又はFeGeからなる半導体材料で形成された水素発生光触媒3と、TiO等の酸化物、SiCを含む炭化物、又は窒化物で形成された酸素発生光触媒1とが、金、銀又は銅からなる金属層5で接合されている。また、水素発生光触媒3の表面又は酸素発生光触媒1と水素発生光触媒3との接合部の周囲には、CrOx、Cr(OH)x又はこれらの混合物からなる被覆層6が形成されている。そして、Pt等の還元反応助触媒4が水素発生光触媒3に担持され、CoPi又はCoBi等の酸化反応助触媒2が酸素発生光触媒1に担持される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
β-FeSi及びFeGeからなる群から選択された少なくとも1種の半導体材料からなる水素発生光触媒と、
TiO、Fe、WO、BiVO又はTaを含む酸化物、SiCを含む炭化物、及びNb、CuN又はTaを含む窒化物からなる群から選択された少なくとも1種の材料からなる酸素発生光触媒と、
金、銀及び銅からなる群から選択された少なくとも1種の金属材料からなり、前記水素発生光触媒と前記酸素発生光触媒とを接合する接合材と、
前記水素発生光触媒の表面又は前記水素発生光触媒と前記酸素発生光触媒との接合部を覆うようにして形成され、CrO、Cr(OH)又はこれらの混合物からなる被覆層と、
を有することを特徴とする光触媒複合材料。
【請求項2】
前記水素発生光触媒に担持された還元反応助触媒と、
前記酸素発生光触媒に担持された酸化反応助触媒と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の光触媒複合材料。
【請求項3】
前記還元反応助触媒の前記水素発生光触媒に対する担持量は、1乃至50質量%であることを特徴とする請求項2に記載の光触媒複合材料。
【請求項4】
前記酸化反応助触媒の前記酸素発生光触媒に対する担持量が、0.1乃至10質量%であることを特徴とする請求項2に記載の光触媒複合材料。
【請求項5】
前記被覆層は、そのCr成分の量が、光触媒複合材料の全量に対して、0.6乃至10質量%であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光触媒複合材料。
【請求項6】
前記還元反応助触媒及び前記酸化反応助触媒は、光電着担持法により担持されていることを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項に記載の光触媒複合材料。
【請求項7】
Pt、Rh、若しくはIrの塩化物、塩化酸水和物又は硝酸物と、水素発生光触媒との混合水溶液に、犠牲剤として、pHが7における標準酸化還元電位が0~+0.7Vである物質を添加する工程と、
水素発生光触媒にのみ吸収され、酸素発生光触媒を透過する波長の光を照射する工程と、
Cr(VI)イオンを含む水溶液と、還元反応助触媒を水素発生光触媒に担持させた半導体複合材料の粉末を混合させた混合水溶液に、犠牲剤として、中性の水酸基を持つ化合物を添加する工程と、
水素発生光触媒及び酸素発生光触媒のいずれにも吸収される光を照射する工程と、
水溶液から分離回収した複合粉末を大気中で乾燥する工程と、
Co3+若しくはMn2+イオンを生成するCo若しくはMnの塩化物又は硝酸物の水溶液に、リン酸緩衝液、リン酸水溶液、ホウ酸緩衝液、ホウ酸水溶液、アンモニア液、及び水酸化ナトリウム水溶液からなる群から選択された1種の溶液を添加する工程と、
酸素発生光触媒に吸収される波長域の光を照射する工程と、
を有することを特徴とする光触媒複合材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光スペクトルのうち、紫外光から可視光を含み1300nmの近赤外領域に対して光触媒作用を有し、広範な波長領域で水分解可能な光触媒複合材料及びその製造方法に関し、特に、被覆層、還元反応助触媒及び酸化反応助触媒を有して反応効率を著しく高めた光触媒複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
光を照射することにより触媒作用を示す光触媒として、酸化チタン(TiO)を代表とする酸化物、窒化物及び酸窒化物が実用化されている。これらの光触媒は、紫外光から可視光によって光励起される。そうすると、光触媒の価電子帯の電子が伝導帯に励起され、比較的還元力が強い電子と、極めて酸化力が強い正孔が生成する。これらの光励起によって生成した電子が、水中の水素イオンを還元して水素を生成し、正孔が水酸化イオンを酸化することにより酸素を生成する。
【0003】
特許文献1には、水分解用光触媒として、光半導体に対し、酸化反応助触媒及び還元反応助触媒を担持させたものが開示されている。これらの酸化反応助触媒及び還元反応助触媒が、水の酸化反応及び還元反応を触媒し、光触媒による水分解反応速度を向上させることができる。この光触媒は、可視光領域の光を利用して水分解反応を行うものである。
【0004】
一方、特許文献2には、紫外領域から近赤外領域までの太陽光を効率よく利用することができる光触媒複合材料として、β-FeSi又はFeGeからなる半導体材料と、金(Au)、銀(Ag)又は銅(Cu)からなる金属材料との複合材料が開示されている。この特許文献2に記載されたように、光触媒としては、酸化チタンのように、バンド・ギャップが広く(3.0~3.2eV)、伝導帯の標準電極電位が水からの水素発生電位(0 V vs SHE)より負電位側(卑な電位側)に位置し、価電子帯の標準電極電位が水からの酸素発生電位(+1.23 V vs SHE)より正電位側(貴な電位側)に位置しなければ、酸化・還元反応が発現しない。しかし、この酸化チタンは、太陽光スペクトルにおける紫外光域のみが利用可能な帯域となり、大部分の可視光域を活用することができず、変換効率が低い。なお、V vs SHEは水素電極(0 V)を基準とする電位であり、SHEは標準水素電極(standard hydrogen electrode)を指す。
【0005】
そこで、この特許文献2の発明においては、β-FeSiからなる半導体材料と、Auとを接触させた光触媒複合材料が開示されている。このβ-FeSiは、伝導帯の標準電極電位e1が水からの水素発生電位E1(反応物質の還元反応の標準電極電位)よりも負電位側であるが、価電子帯の標準電極電位e2も酸素発生電位E2(酸化反応の標準電極電位)よりも負電位側にある。このため、β―FeSi単独では、水の分解は生じない。しかし、このβ―FeSiに金属としてAuを接合した複合材料は、酸化反応を生じる半導体の価電子帯の標準電極電位が酸素発生電位よりも正電位側に位置するため、水の分解反応が生じる。しかも、この複合材料は、紫外領域から近赤外領域までの太陽光に反応する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5765678号
【特許文献2】特許第5906513号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、この特許文献2に開示された光触媒複合材料においては、紫外光から赤外光までの可視光領域を含む広範囲な波長域に対して、光触媒活性効果を有するものの、その光電変換効率には、更に一層の改善が望まれている。
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、紫外領域から近赤外領域までの広範な波長域において光に対する触媒活性を有し、この光を利用して水を高変換効率で分解して、水素及び酸素を発生させることができる光触媒複合材料及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る光触媒複合材料は、
β-FeSi及びFeGeからなる群から選択された少なくとも1種の半導体材料からなる水素発生光触媒と、
TiO、Fe、WO、BiVO又はTaを含む酸化物、SiCを含む炭化物、及びNb、CuN又はTaを含む窒化物からなる群から選択された少なくとも1種の材料からなる酸素発生光触媒と、
金、銀及び銅からなる群から選択された少なくとも1種の金属材料からなり、前記水素発生光触媒と前記酸素発生光触媒とを接合する接合材と、
前記水素発生光触媒の表面又は前記水素発生光触媒と前記酸素発生光触媒との接合部を覆うようにして形成され、CrOx、Cr(OH)x又はこれらの混合物からなる被覆層と、
を有することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る光触媒複合材料は、好ましくは、
前記水素発生光触媒に担持された還元反応助触媒と、
前記酸素発生光触媒に担持された酸化反応助触媒と、
を有することを特徴とする。
【0011】
また、例えば、前記還元反応助触媒の前記水素発生光触媒に対する担持量は、1乃至50質量%であり、前記酸化反応助触媒の前記酸素発生光触媒に対する担持量が、0.1乃至10質量%であり、前記被覆層は、そのCr成分の量が、光触媒複合材料の全量に対して、0.6乃至10質量%である。
【0012】
そして、例えば、
前記還元反応助触媒及び前記酸化反応助触媒は、光電着担持法により担持されている。
【0013】
本発明に係る光触媒複合材料の製造方法は、
Pt、Rh、若しくはIrの塩化物、塩化酸水和物又は硝酸物と、水素発生光触媒との混合水溶液に、犠牲剤として、pHが7における標準酸化還元電位が0~+0.7Vである物質を添加する工程と、
水素発生光触媒にのみ吸収され、酸素発生光触媒を透過する波長の光を照射する工程と、
Cr(VI)イオンを含む水溶液と、還元反応助触媒を水素発生光触媒に担持させた半導体複合材料の粉末を混合させた混合水溶液に、犠牲剤として、中性の水酸基を持つ化合物を添加する工程と、
水素発生光触媒及び酸素発生光触媒のいずれにも吸収される光を照射する工程と、
水溶液から分離回収した複合粉末を大気中で乾燥する工程と、
Co3+若しくはMn2+イオンを生成するCo若しくはMnの塩化物又は硝酸物の水溶液に、リン酸緩衝液、リン酸水溶液、ホウ酸緩衝液、ホウ酸水溶液、アンモニア液、及び水酸化ナトリウム水溶液からなる群から選択された1種の溶液を添加する工程と、
酸素発生光触媒に吸収される波長域の光を照射する工程と、
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、可視光を含み紫外光から近赤外光の1300nmまでの長波長域に至る広範な波長域で光触媒活性を有する。また、前記水素発生光触媒の表面に、前記還元反応助触媒を含めて覆うようにして、CrO、Cr(OH)又はこれらの混合物からなる被覆層を形成することにより、逆反応(水素と酸素との燃焼反応による水合成)も抑制することができる。更に、水素発生光触媒と酸素発生光触媒との接合部の周囲を前記被覆層で被覆することにより、水中への電荷の漏れを抑制できる。これにより、高い活性で水分解反応を生じさせることができる。
【0015】
更に、還元反応助触媒を水素発生光触媒に選択的に担持させ、酸化反応助触媒を酸素発生光触媒に選択的に担持させることにより、複合光触媒の各構成材料に適切な助触媒を担持させたので、高効率で水素及び酸素を発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係る光触媒複合材料を示す模式図である。
図2】同じく、本発明の他の実施形態に係る光触媒複合材料を示す模式図である。
図3】助触媒を担持していない光触媒複合材料粉末(β-FeSi+TiO:助触媒なし)に対し水中において高圧水銀ランプ光を照射し、発生した水素(◎)及び酸素(×)の発生量を示すグラフ図である。
図4】還元反応助触媒として1質量%のPtを担持させた光触媒複合材料粉末(β-FeSi+TiO+Pt:被覆層なし)に対し水中において高圧水銀ランプ光を照射して、発生した水素(◎)及び酸素(×)の量を示すグラフ図である。
図5】1質量%のPt担持に加えて、被覆層として、2質量%のCr(OH)層を被覆した光触媒複合材料粉末(β-FeSi+TiO+Pt+Cr被覆層)対し水中において高圧水銀ランプ光を照射して、発生した水素(◎、◇)及び酸素(+、×)の量を示すグラフ図である。
図6】被覆層として、2質量%のCr(OH)層を被覆した光触媒複合材料(β-FeSi+TiO+Pt+Cr被覆層)に対し水中において高圧水銀ランプ光を照射して、発生した水素(◇)及び酸素(×)の発生量を示すグラフ図である。
図7】TiO粉末に、酸化反応助触媒として0.1質量%のCoPi又はCoBiを担持させた光触媒複合材料粉末(TiO+CoPi又はCoBi)に対し還元犠牲剤の硝酸銀(AgNO)を添加した水溶液中において高圧水銀ランプ光を照射して、発生した酸素発生量のピーク値を示すグラフ図である。
図8】6H-SiC粉末に、酸化反応助触媒として0.1質量%のCoO、CoPi又はCoBiを担持させた光触媒複合材料粉末(6H-SiC+CoOx、CoPi又はCoBi)に対し還元犠牲剤のAgNOを添加した水溶液中において高圧水銀ランプ光を照射して、発生した酸素発生量のピーク値を示すグラフ図である。
図9】β-FeSi/Au/TiO複合粉末に、1質量%Pt、2質量%CrO被覆層、及び0.1質量%CoBiを担持させた光触媒複合材料(β-FeSi+TiO+Pt+CrO被覆層+CoBi)に対し水中において高圧水銀ランプ光を照射して、発生した水素(◎)及び酸素(×)の発生量を示すグラフ図である。
図10】β-FeSi/Au/TiO複合粉末に、1質量%Pt、2質量%CrO被覆層、及び0.1質量%CoBiを担持させた光触媒複合材料(β-FeSi+TiO+Pt+CrO被覆層+CoBi)に対し水中においてキセノンランプ光を照射して、発生した水素及び酸素の発生量と、TiOにおける水素(◇、○)及び酸素(+、×)の発生量とを比較して示すグラフ図である。
図11】助触媒を担持していない光触媒複合材料(β-FeSi及び6H-SiC並びにAu層)からなる半導体複合粉末に対し、水中において高圧水銀ランプ光を照射して、発生した水素(◆)及び酸素(×)の量を、照射経過時間に対して示したグラフ図である。
図12】β―FeSi水素発生光触媒3、6H-SiC酸素発生光触媒1及びAu層5からなる複合材料に、0.1質量%Coをホウ酸コバルト(CoBi)として担持させた光触媒複合材料(還元反応助触媒4は担持せず)を使用して、これに水中で高圧水銀ランプ光を照射したときの水素(◇)及び酸素(×)の発生量を示すグラフ図である。
図13】β―FeSi水素発生光触媒3、6H-SiC酸素発生光触媒1及びAu層5からなる複合材料に、0.1質量%Coをリン酸コバルト(CoPi)として担持させた光触媒複合材料(還元反応助触媒4は担持せず)を使用して、これに水中で高圧水銀ランプ光を照射したときの水素(◆)及び酸素(×)の発生量を示すグラフ図である。
図14】β-FeSi水素発生光触媒3、6H-SiC酸素発生光触媒1及びAu層5からなる複合材料に、1質量%Ptの還元反応助触媒4を担持させ、4質量%Cr(OH)の被覆層6を形成した粉末に、水中で高圧水銀ランプ光を照射したときの水素(◇)及び酸素(×)の発生量を示すグラフ図である。
図15】β-FeSi水素発生光触媒3、6H-SiC酸素発生光触媒1及びAu層5からなる複合材料に、1質量%Ptの還元反応助触媒4を担持させた後、4質量%CrOxの被覆層6を形成し、酸化反応助触媒2の0.1質量%Coをホウ酸コバルト(CoBi)として担持させた複合粉末に、水中で高圧水銀ランプ光を照射したときの水素(◇)及び酸素(×)の発生量を示すグラフ図である。
図16】β-FeSi水素発生光触媒3、6H-SiC酸素発生光触媒1及びAu層5からなる複合材料に、1質量%Ptの還元反応助触媒4を担持させた後、3質量%Cr(OH)の被覆層6を形成し、酸化反応助触媒2の0.1質量%Coをリン酸コバルト(CoPi)として担持させた複合粉末に、水中で高圧水銀ランプ光を照射したときの水素(◇)及び酸素(×)の発生量を示すグラフ図である。
図17】β-FeSi水素発生光触媒3、6H-SiC酸素発生光触媒1及びAu層5からなる複合材料に、1質量%Ptの還元反応助触媒4を担持させた後、4質量%Cr(OH)の被覆層6を形成し、酸化反応助触媒2の0.1質量%Coをホウ酸コバルト(CoBi)として担持させた複合粉末に、水中でキセノンランプ光を照射したときの水素(◆)及び酸素(×)の発生量を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、添付の図面を参照して具体的に説明する。図1は、本実施形態に係る光触媒複合材料の構造を示す模式図である。粒状又は粉状の例えばSiCからなる酸素発生光触媒1の表面に、多数の粒状又は粉状の例えばβ-FeSiからなる水素発生光触媒3が、例えば金からなる金属層5を介して接合されている。この酸素発生光触媒1の表面には,例えば粒子又は粉末状のCoPiからなる酸化反応助触媒2が担持されており、水素発生光触媒3の表面には、例えば粒子又は粉末状のPtからなる還元反応助触媒4が担持されている。そして、水素発生光触媒3の表面は、還元反応助触媒4を含めて、被覆層6に被覆されている。又は、図2に示すように、被覆層6は、水素発生光触媒3と酸素発生光触媒1との接合部の周囲に被覆されている。
【0018】
水素発生光触媒3は、β-FeSi及びFeGeからなる群から選択された少なくとも1種の半導体材料である。これらの半導体の伝導子帯の標準電極電位が水からの水素発生電位(0 V vs SHE)より卑な電位側に位置し、光照射で励起されたキャリアの電子によって水素イオン還元反応で水素が発生する。また、酸素発生光触媒1は、TiO、Fe、WO、BiVO又はTaを含む酸化物、SiCを含む炭化物、及びNb、CuN又はTaを含む窒化物からなる群から選択された少なくとも1種の材料である。これらの半導体の価電子帯の標準電極電位が水からの酸素発生電位(+1.23 V vs SHE)より貴な電位側に位置し、光照射で励起されたキャリアの正孔によって水の酸化反応で酸素が発生する。
【0019】
水素発生光触媒3と酸素発生光触媒1との接合には、Au層、Ag層又はCu層等の金属層5が使用される。これらの金属は、β-FeSi又はFeGeを酸素発生光触媒1の表面に、例えば、スパッタ法、蒸着法、又はCVD法等で合成する際に、Si又はGeとの共晶反応(Cuでは共析反応)によって、分散した粒子状β-FeSi又はFeGeとなって合成することが可能になる。この金属層5がない場合は、連続的な膜状に被覆された状態で、β-FeSi又はFeGeが合成される。なお、これらの金属は酸素発生光触媒1と水素発生光触媒3との接合界面に挿入される。
【0020】
そして、還元反応助触媒4としては、Pt、Rh,Pd、IrO、RuO、又はNiO等を使用することができる。これらの物質は相互に代替性がある。この還元反応助触媒4の水素発生光触媒3に対する担持量は、例えば、1乃至50質量%である。一方、酸化反応助触媒2としては、リン酸コバルト(通称CoPi)、ホウ酸コバルト(通称CoBi)、Co(OH)、又はMnO等を使用することができる。この酸化反応助触媒4の酸素発生光触媒3に対する担持量は、例えば、0.1乃至10質量%である。これらの物質も相互に代替性がある。
【0021】
被覆層6の材質は、例えば、CrO若しくはCr(OH)又はその混合物である。この被覆層は、そのCr成分の量が、光触媒複合材料の全量に対して0.6乃至10質量%であることが好ましい。また、金属層5は、金、銀又は銅からなる。
【0022】
次に、上述の構造を有する光触媒複合材料の製造方法について説明する。先ず、第1工程においては、粒状又は粉状の多数の酸素発生光触媒1の表面に、金属層5を介して、粒状又は粉状の多数の水素発生光触媒3を接合する。例えば、粒状又は粉状の酸素発生光触媒1の表面に、蒸着法又はアークプラズマ堆積法等により、金、銀又は銅からなる金属材料の粒子(金属層5)を付着させる。その後、蒸着法、スパッタ法、又は化学気相成長法等の既存の半導体合成方法にて、β-FeSi等の半導体材料からなる水素発生光触媒3の粒子を、金属層5上に、Si又はGeとの共晶温度(Cuは共析温度)以上の合成温度で堆積させる。このようにして、酸素発生光触媒1及び水素発生光触媒3が、金属層5で接合された複合光触媒を得る。
【0023】
次に、第2工程においては、水素発生光触媒3の上に、粒子状又は粉末状の還元反応助触媒4を、光電着担持法により、選択的に担持させる。還元反応助触媒4の出発材料であるPt,Rh若しくはIrの塩化物、塩素酸水和物又は硝酸塩と、前記第1工程で得た複合光触媒との混合水溶液に、犠牲剤として、pH7における標準酸化還元電位が0~+0.7Vである物質(例えば、ホルムアルデヒド(HCHO))を添加する。次に、水素発生光触媒3にのみ吸収され、酸素発生光触媒1を透過する波長の光を水溶液中の物質に照射する。水素発生光触媒3であるβ-FeSi及びFeGeにのみ吸収される光としては、波長が450~1500nmの光がある。この波長域の光の照度は、例えば、100W/mである。これにより、水素発生光触媒3のみが光エネルギを吸収して、その表面にのみ、還元反応助触媒4が付着し、還元反応助触媒4が水素発生光触媒3にのみ選択的に担持される。
【0024】
次に,第3工程においては、水素発生光触媒3の表面を、還元反応助触媒4と共に、被覆層6で被覆する。先ず、Cr(VI)イオンを含む水溶液(無水クロム酸、クロム酸カリウム、又はクロム酸ナトリウム等)と、第2工程で得た複合材料(還元反応助触媒4が担持された水素発生光触媒3と、酸素発生光触媒1とが金属層5により接合された複合材の粉末)の水溶液との混合水溶液に、犠牲剤として、中性の水酸基を持つ化合物(メタノール、エタノール、又はプロパノール等)を添加する。この犠牲剤は、反応促進のために添加される。そして、この混合水溶液に、水素発生光触媒3及び酸素発生光触媒1の双方に、吸収される光を照射する。このような光としては、例えば、全波長である擬似太陽光のキセノン光またはハロゲン光がある。このときの照度は、例えば、2kW/mである。その後、水溶液から光触媒複合材料の粉末を分離回収し,大気中で乾燥する。これにより、水素発生光触媒3の表面を、還元反応助触媒4を含めて覆う被覆層6が形成される。
【0025】
この場合に、中性の水酸基を持つ化合物(犠牲剤)を添加しない場合には、被覆層6は還元反応助触媒4を含めて、水素発生光触媒3の表面のみに形成される。例えば、還元反応助触媒4のPtを中心として、水素発生光触媒3であるβ-FeSi粒子のみにCr(OH)xが被着し、Crの担持量はCr(VI)イオン原料の添加量に拘わらず、0.3~0.4質量%の範囲で一定である。即ち、Cr層は、β-FeSi粒子の表面に被覆されるが、それ以上は堆積せず、層厚も変わらない。しかし、この場合、β-FeSi粒子と酸素発生光触媒1であるTiO粒子との接合部分、即ち、金属層5のAu層の部分は、被覆層6で覆われていないので、この部分で、電荷(光励起キャリアの電子と正孔)がリークしてしまう。そうすると、この光励起の電子及び正孔と反応して生成すべき水素及び酸素の発生速度が低くなる。
【0026】
一方、被覆層6の形成時に、犠牲剤としてのメタノールを添加した場合は、水素発生光触媒3としてのβ-FeSi粒子と、酸素発生光触媒1としてのTiO粒子との接合部分であるAu層5にも、Cr(OH)x層が被着し、Cr被覆層6の担持量が増大する。即ち、金属層5も被覆層6で覆われる結果、β-FeSi粒子とTiO粒子との接合部分で、電荷の流出が抑制される。この結果、光励起された電子と正孔が、水の還元反応及び酸化反応に高効率で利用されるため、水素及び酸素の発生速度が高まる。
【0027】
更に詳述すると、Cr(VI)イオンを含む水溶液(無水クロム酸、クロム酸カリウム、又はクロム酸ナトリウム等)中に、酸素発生光触媒1に水素発生光触媒3が接合され還元反応助触媒4が水素発生光触媒3に担持された複合材料を装入し、この複合材料に、水素発生光触媒3及び酸素発生光触媒1の双方に吸収される光(全波長光)を照射すると、水素発生光触媒3で発生した電子が、水素発生光触媒3の表面で、水溶液中のCr6+イオンをCr3+イオンに還元し、この還元反応によりCr(OH)xが生成する。そして、このCr(OH)xがβ-FeSi等の水素発生光触媒3の表面に堆積する。このとき、水溶液中にメタノール等の犠牲剤を添加すると、前述の如く、水素発生光触媒3としてのβ-FeSi粒子と、酸素発生光触媒1としてのTiO粒子との接合部分であるAu金属層5の周囲にも、Cr(OH)x層が被着し、Cr被覆層6の担持量が増大すると共に、接合部の金属層5からの電荷の流出が防止されて、光励起された電荷が水の還元反応及び酸化反応に有効に利用される。このような被覆層6の形成過程において、酸素発生光触媒1で発生した電子と正孔のうち、酸素発生光触媒1の表面には、正孔が蓄積するので、メタノールの酸化反応(CHOH→CHO+H)が促進される。更に、酸素発生光触媒1の表面のうちAu金属層5の周囲でもCr6+の還元反応(Cr6+→Cr3+)が起こり、Cr被覆層6が堆積する。
【0028】
次に、第4工程においては、酸素発生光触媒1の表面に、粒子状又は粉末状の酸化反応助触媒2を、光電着法により、選択的に担持させる。先ず、Co3+若しくはMn2+イオンを生成するCo若しくはMnの塩化物又は硝酸塩の水溶液に、リン酸緩衝液、リン酸水溶液、ホウ酸緩衝液、ホウ酸水溶液、アンモニア液、及び水酸化ナトリウム水溶液のいずれか1種を添加する。そして、酸素発生光触媒1に吸収される波長域の光を混合水溶液に照射する。このような波長域の光としては、キセノン光又はハロゲン光等の擬似太陽光がある。このとき、リン酸水溶液及びホウ酸水溶液が水中で電離して生成したPO 3-等の陰イオンが、酸化物、窒化物、酸窒化物又はSiCといった酸素発生光触媒1の粒子の表面で、正孔と反応して結合するときに、Coイオン等を酸素発生光触媒1の表面に付着させる。β-FeSi等の水素発生光触媒3でも同様に正孔が生成するが、酸素発生触媒と接合している場合には、この正孔は酸素発生触媒で発生した電子と再結合して消滅するので、水素発生光触媒3にはCo等の酸化反応助触媒2は付着しない。これにより、SiC又はTiO等の酸素発生光触媒1の表面に、CoPi,CoBi,Co(OH)又はMnO等の粉末状又は粒子状の酸化反応助触媒2が担持される。これにより,図1に示す構造の光触媒複合材料が得られる。なお、上述の第2工程及び第3工程と、第4工程とは、その順序を入れ替えてもよい。
【0029】
次に、上述のごとく構成された光触媒複合材料の動作について説明する。図1に示すように、本実施形態の光触媒複合材料を水中におき、紫外光域から赤外光域までの波長域の光をこの光触媒複合材料に照射する。そうすると、β-FeSi等の水素発生光触媒3に電子が励起し、SiC等の酸素発生光触媒1に正孔が生成する。そして、β-FeSi等の水素発生光触媒3において、Pt等の還元反応助触媒4の作用により還元反応が促進され、水中のHイオンが電子を受けてHに還元される。また、SiC等の酸素発生光触媒1において、CoPi等の酸化反応助触媒2の作用により酸化反応が促進され、水分子が正孔を受けてOに酸化される。このように、水素発生に適切な物質である水素発生光触媒3に対し、還元反応助触媒4を使用して水素発生の還元反応を促進し、酸素発生に適切な物質である酸素発生光触媒1に対し、酸化反応助触媒2を使用して酸素発生の酸化反応を促進するから、本発明により、紫外光から赤外光までの広い波長域の光に反応して、極めて高効率で、水を水素と酸素に分解することができる。
【0030】
また、本発明においては、CrO層又はCr(OH)層により、水素発生光触媒3を被覆するから、上述の水の分解反応の逆反応である水素と酸素の燃焼反応による水合成反応を阻止することができる。これにより、本発明においては、触媒の高い活性を得て、水の分解反応を高効率でかつ迅速に進行させることができる。
【0031】
次に、本発明の実施例及び実施例から一部の構成物が欠如した比較例の光触媒の水素及び酸素の発生量について説明する。
【0032】
「比較例:図3の光触媒複合材料:水素発生光触媒3+酸素発生光触媒1」
図3は、助触媒を担持していない光触媒複合材料(β-FeSi水素発生光触媒3及びTiO酸素発生光触媒1をAu接合剤(金属層5)により接合)を使用し、この光触媒複合材料に対し水中において高圧水銀ランプ光(波長:350~500nm)を照射して、発生した水素及び酸素の量を、照射経過時間に対して示したグラフ図である。この図3に示すように、水素発生量は照射経過時間と共に若干上昇するが、酸素の発生は認められない。なお、この図3に示す光触媒複合材料は、助触媒2,4を担持しておらず、被覆層6も形成していない。
【0033】
「比較例:図4の光触媒複合材料:水素発生光触媒3+酸素発生光触媒1+還元反応助触媒4」
図4は、β-FeSi水素発生光触媒3にPt還元反応助触媒4を担持させた光触媒複合材料(酸素発生光触媒1はTiO、接合材(金属層5)はAu、酸化反応助触媒2は担持せず)を使用して、これに水中で高圧水銀ランプ光を照射したときの水素及び酸素の発生量を示すグラフ図である。この図4に示すように、水素発生量は、紫外光の照射により、高速度で上昇していく。酸素発生量は、光照射により、徐々にではあるが、経過時間と共に上昇している。このように、Pt還元反応助触媒4を水素発生光触媒3に担持させるだけで、水素の発生量は、Ptを担持させない場合に比して約10倍程度に増加している。
【0034】
「実施例:図5の光触媒複合材料:水素発生光触媒3+酸素発生光触媒1+還元反応助触媒4+被覆層6」
図5は、本発明の実施形態に係る光触媒複合材料の水素発生量及び酸素発生量を示し、これらの水素発生量及び酸素発生量に対する被覆層6の効果を示す図である。この図は、被覆層6としてCr(OH)層を形成したときに、その光照射時に、犠牲剤として、メタノールを使用した場合の効果を示す。この図5の光触媒複合材料は、β-FeSi水素発生光触媒3にPt還元反応助触媒4を担持させ、酸素発生光触媒1としてTiOを使用し、これをAu層(金属層5)によりβ-FeSi水素発生光触媒3に接合したものである。なお、酸化反応助触媒2は担持していない。図中、◎及び◇のプロットは水素の発生量を示し、+及び×のプロットは酸素の発生量を示す。そして、◎及び+は、犠牲剤としてメタノールを使用しなかった場合、◇及び×は、犠牲剤としてメタノールを使用した場合の測定値である。この水素発生量及び酸素発生量は、水中で、光触媒複合材料に紫外光を500μW/cmの照度で照射した場合に得られたものである。被覆層6のCr量を蛍光X線分析した結果、メタノールを使用しなかった場合に形成された被覆層6は、Cr量が0.3~0.4質量%であり、メタノールを使用した場合に形成された被覆層6は、Cr量が1乃至5質量%であった。このように、メタノール添加により、被覆層6は十分に厚く形成されたことがわかる。また、紫外光照射期間の途中(22時間経過後)に、大気中で1時間焼鈍処理を行った。その結果、図5に示すように、焼鈍処理を実施するまでは、水素発生量及び酸素発生量に対するメタノール添加の影響は小さい。しかし、焼鈍処理した後は、メタノールを添加してCr(OH)層を形成した場合は、水素発生量(◇)及び酸素発生量(×)のいずれも、紫外光照射時間と共に、著しく増加している。これに対し、メタノールを添加しなかった場合は、水素発生量(◎)及び酸素発生量(+)のいずれも低い値であった。この相違は、Cr(OH)被覆層の形成時に、メタノールの添加により十分な厚さのCr(OH)層が形成されたことによるものである。また、このメタノールの添加効果は、焼鈍処理により大きく発現することが分かる。この焼鈍処理の条件は、光触媒複合材料の構成材料(水素発生光触媒3又は被覆層6等)により、適宜決めることができる。
【0035】
「実施例:図6の光触媒複合材料:水素発生光触媒3+酸素発生光触媒1+還元反応助触媒4+被覆層6」
図6はメタノールを添加した状態でCr(OH)被覆層を形成した場合において、紫外線の照射の途中で換気を行い、雰囲気をリセットしたときの水素及び酸素の発生量を示すグラフ図である。この図6の光触媒複合材料は、β-FeSi水素発生光触媒3にPt還元反応助触媒4を担持させ、TiO酸素発生光触媒1をβ-FeSi水素発生光触媒3にAu層5により接合したものであり、このβ-FeSi水素発生光触媒3の表面及びβ-FeSi水素発生光触媒3と酸素発生光触媒1との接合部周囲にCr(OH)被覆層6を形成したものである。図中、プロット□は水素発生量、プロット×は酸素発生量を示す。紫外光照射後、22時間経過した時点で、1時間大気中で焼鈍した。よって、紫外光照射後22時間までは、水素発生量及び酸素発生量は図5と同様である。また、焼鈍処理後の水素発生量及び酸素発生量の増加態様も、図5と同様である。図6においては、紫外光照射後、44時間経過した時点で、換気を行い、水分解反応をリセットした。その後、水素発生量及び酸素発生量は、焼鈍直後と同様に高速度で増加した。また、紫外線照射後、70時間経過した時点で、再度換気を行ったが、その後、同様に、水素発生量及び酸素発生量は迅速に上昇した。特に、紫外線照射後44時間経過した後は、換気後の水素及び酸素の発生量の増加態様は、モル比で水素:酸素=2:1であり、水の分解により水素及び酸素が化学量論的比率で発生していることが分かる。このようにして、水素発生の機能を有するβ-FeSi等の水素発生光触媒3に、還元反応助触媒4を担持させ、更に、水素発生光触媒3の表面にCr(OH)被覆層6を被覆したので、水素と酸素との燃焼反応による水合成に起因する逆反応が抑制され、高い活性で水分解反応が生じる。
【0036】
「比較例:図7の単独光触媒:酸素発生光触媒1+酸化反応助触媒2」
図7は、前述の第4工程において、TiO酸素発生光触媒1にCoPi又はCoBi酸化反応助触媒2を担持させた光触媒の効果(酸素発生量)を示す図である。図7において、(ア)はTiO粉末のみの場合、(イ)はCo(NOと、リン酸カリウム(K-Phosphate)とから、CoPi(リン酸コバルト)をTiO粉末の表面に担持させた場合、(ウ)はCo(NOと、HPOとから、CoPi(リン酸コバルト)をTiO粉末の表面に担持させた場合、(エ)はCo(NOと、HBOとから、CoBi(ホウ酸コバルト)をTiO粉末の表面に担持させた場合の酸素発生量を示す。いずれも、紫外光(UV)500μW/cmを2時間照射したときの酸素発生量である。
【0037】
この図7に示すように、酸素発生光触媒1としてのTiO単独の場合に比して、酸化反応助触媒2としてのCoPi又はCoBiを担持させた場合は、酸素発生量が著しく増大している。
【0038】
「比較例:図8の単独光触媒:酸素発生光触媒1+酸化反応助触媒2」
図8は、上記第4工程において、酸素発生光触媒1として、6H-SiC粉末を使用し、この6H-SiC粉末に、CoPi又はCoBiの酸化反応助触媒2を担持させたときの効果(酸素発生量)を示す図である。この図8の単独光触媒(酸素発生光触媒1)は、被覆層6を形成していない。図8において、(ア)は6H-SiC粉末のみの場合、(イ)は6H-SiC粉末の表面にCoOxを担持させた場合、(ウ)はCo(NOと、リン酸カリウム(K-Phosphate)とから、CoPi(リン酸コバルト)を6H-SiC粉末の表面に担持させた場合、(エ)はCo(NOと、HPOとから、CoPi(リン酸コバルト)を6H-SiC粉末の表面に担持させた場合、(オ)はCo(NOと、HBOとから、CoBi(ホウ酸コバルト)を6H-SiC粉末の表面に担持させた場合の酸素発生量を示す。いずれも、紫外光(UV)500μW/cmを2時間照射したときの酸素発生量である。
【0039】
この図8に示すように、酸素発生光触媒1としてのSiC単独の場合に比して、酸化反応助触媒2としてのCoPi又はCoBiを担持させた場合は、酸素発生量が著しく増大している。但し、SiCの場合は、K-Phosphateを使用すると、失活している。従って、酸素発生光触媒1の材料に応じて、適切な方法で酸化反応助触媒を担持させることが必要である。
【0040】
「実施例:図9の光触媒複合材料:水素発生光触媒3+酸素発生光触媒1+還元反応助触媒4+酸化反応助触媒2+被覆層6」
図9は、水素発生光触媒3としてのβ-FeSiと、酸素発生光触媒1としてのTiOとを、金属層5としてのAu層により接合した複合光触媒粉末に、還元反応助触媒4として、1質量%のPtを担持させ、更に、被覆層6として、2質量%のCrO層を水素発生光触媒3に被覆し、更に、Co(NOと、HBOとの反応によりCoBiを光析出させて、酸素発生光触媒1の表面に酸化反応助触媒2としてのCoBiを担持させた光触媒複合材料に対し、紫外光を照射した場合の水素発生量と酸素発生量の変化を示すグラフ図である。
【0041】
この図9に示すように、紫外光の照射時間の経過と共に、水素の発生量と酸素の発生量はいずれも増大していく。この図9に示す発生量の変化パターンは、図6に示す変化パターンの紫外光照射経過時間の22時間後(焼鈍後)の変化パターンに類似している。図6に示す発生量の変化パターンは、水素発生光触媒3に還元反応助触媒4を担持させ、この水素発生光触媒3を被覆層6で被覆した複合光触媒粉末について得られたものであるから、その光触媒効果(光活性効果)と図9に示す複合光触媒の光触媒効果とが同程度であるということは、図9に示す複合光触媒の酸化反応助触媒2であるCoBiの効果が小さいことを意味している。これは、酸素発生光触媒1であるTiOの正孔が十分な酸化ポテンシャルを有しているため、酸化反応助触媒2の効果が小さいためであると考えられる。しかしながら、酸素発生光触媒1がSiCである場合には、特に、酸化反応助触媒2を担持させることによる触媒効果の向上を図ることが有効である。この点は、酸素発生光触媒1としてSiCを使用した図8に示すように、SiC単独の場合(ア)に比して、酸化反応助触媒2としてCoPi又はCoBiを担持させた場合(エ)、(オ)の方が、酸素発生量が著しく高いことから明らかである。
【0042】
「実施例:図10の光触媒複合材料:水素発生光触媒3+酸素発生光触媒1+還元反応助触媒4+酸化反応助触媒2+被覆層6」
図10は、本発明の実施例の光触媒複合材料(β-FeSi+TiO+Pt+CrOx被覆層+CoBi)と、TiO単独の光触媒とに対し、水中で、1200W/mのキセノン光を照射した場合の水素及び酸素の発生量を示す。図中、◇及び○のプロットは水素発生量を示し、+及び×のプロットは酸素発生量を示す。また、◇及び+は、上記実施例の光触媒複合材料についてのものであり、○及び×は、TiO光触媒についてのものである。この図10に示すように、TiO光触媒の場合は、キセノン光に対する水素及び酸素の発生量が少ない。これに対し、本発明の実施例の光触媒複合材料は、キセノン光に対しても優れた光活性効果を示し、照射時間と共に、水素及び酸素の発生量が増大していく。このように、本発明の実施例の光触媒複合材料は、キセノン光についても、図8等に示す紫外光に対する光活性効果と同等の効果を奏する。
【0043】
以上のように、図3乃至図6及び図9乃至図10は、酸素発生光触媒1として、TiOを使用した複合光触媒の水素ガス発生量及び酸素ガス発生量を示す。図3に示すように、水素発生光触媒3及び酸素発生光触媒1からなる光触媒複合材料のみであると、水素及び酸素の発生量は少ない。一方、還元反応助触媒4を担持した図4の光触媒複合材料の場合は、水素の発生量が急激に増加しているが、酸素の発生量は少ない。これに対し、図5の実施例のように、更に、水素発生光触媒3を被覆材6で覆った場合には、製造工程においてメタノールを使用することにより、水素及び酸素の発生量が大きく増加している。図6の実施例の場合は、メタノールを添加した状態でCrOx被覆層6を形成したものであるが、水素及び酸素が十分多量に発生している。これらは、被覆層6の形成時に、メタノールを添加することにより、被覆層6が厚く形成された効果である。一方、図7及び図8に示す光触媒は、β―FeSiを使用しない単独光触媒、即ち、夫々TiO及び6H-SiC単独の光触媒であるが、酸化反応助触媒2を担持することにより、酸素の発生量は増大している。このように、酸化反応助触媒2の担持により、酸素発生光触媒1における酸素発生量が増大することが認められる。しかしながら、当然であるが、水素は発生しない。これらに対し、図9及び図10の実施例の光触媒複合材料は、水素発生光触媒3、酸素発生光触媒1、還元反応助触媒4,酸化反応助触媒2及び被覆層6の全てを備えている。即ち、図9及び図10の光触媒複合材料は、図5及び図6の実施例の光触媒複合材料に対し、酸化反応助触媒2を更に付加したものであるが、水素及び酸素のガスは、いずれも高速度で発生している。次に、酸素発生光触媒1として、6H―SiCを使用した光触媒複合材料のガス発生量について、説明する。
【0044】
「比較例:図11の光触媒複合材料:水素発生光触媒3+酸素発生光触媒1」
図11は、助触媒を担持していない光触媒複合材料(β-FeSi水素発生光触媒3及び6H-SiC酸素発生光触媒1並びにAu接合剤(金属層5))を使用し、この光触媒複合材料に対し水中において高圧水銀ランプ光を照射して、発生した水素及び酸素の量を、照射経過時間に対して示したグラフ図である。この図11に示すように、水素発生量は照射経過時間と共に上昇するが、酸素の発生は認められない。なお、この図11の光触媒複合材料は、還元反応助触媒4及び酸化反応助触媒2と被覆層6が使用されていない。
【0045】
「比較例:図12の光触媒複合材料:水素発生光触媒3+酸素発生光触媒1+酸化反応助触媒2」
「比較例:図13の光触媒複合材料:水素発生光触媒3+酸素発生光触媒1+酸化反応助触媒2」
図12は、β―FeSi水素発生光触媒3に、Au層5を介して6H-SiC酸素発生光触媒1を接合し、この6H-SiC酸素発生光触媒1にCoBi酸化反応助触媒2を担持させた光触媒複合材料(還元反応助触媒4は担持せず)を使用して、これに水中で高圧水銀ランプ光を照射したときの水素及び酸素の発生量を示すグラフ図である。CoBiは、0.1質量%Coをホウ酸コバルト(CoBi)として担持させたものである。なお、被覆層6は形成していない。図12の光触媒複合材料は、紫外光の照射により水素量は順調に増加しているが、酸素ガスは発生していない。また、図13は、CoBi酸化反応助触媒2の代わりに、CoPi酸化反応助触媒2を使用した場合に、水中で高圧水銀ランプ光を照射したときの水素及び酸素の発生量を示すグラフ図である。なお、CoPiは、0.1質量%Coをリン酸コバルト(CoPi)として担持させたものである。この図13に示す光触媒複合材料は、水素及び酸素ガスの発生量が少ない。
【0046】
「実施例:図14の光触媒複合材料:水素発生光触媒3+酸素発生光触媒1+還元反応助触媒4+被覆層6」
図14は、酸素発生光触媒1として6H-SiCを使用した本発明の実施例において、被覆層6の水素発生量及び酸素発生量に対する効果を示すグラフ図である。即ち、β―FeSi水素発生光触媒3に、Au層5を介して6H-SiC酸素発生光触媒1を接合し、このβ-FeSi水素発生光触媒3にPt還元反応助触媒4を光電着により担持させた後、被覆層6として犠牲剤のメタノールを添加した状態でCr(OH)x層を形成した光触媒複合材料(酸化反応助触媒2は担持せず)について水素及び酸素の発生量を示すグラフ図である。なお、Ptは1質量%、Cr(OH)は4質量%とした。この光触媒複合材料に水中で高圧水銀ランプ光を照射したとき、この図14に示すように、水素発生量は、紫外光の照射により、高速度で上昇していく。即ち、紫外光の25時間照射で水素発生量は4.5μmolまで上昇する。酸素発生量も、光照射により、徐々にではあるが、経過時間と共に上昇しており、25時間で0.5μmolまで上昇する。このように、水素発生光触媒3に被覆層6を形成し、Pt還元反応助触媒4を水素発生光触媒3に担持させることにより、水素ガスの発生量は、図11及び図12に示す光触媒複合材料の場合に比して約4倍程度に増加している。
【0047】
「実施例:図15の光触媒複合材料:水素発生光触媒3+酸素発生光触媒1+還元反応助触媒4+酸化反応助触媒2+被覆層6」
「実施例:図16の光触媒複合材料:水素発生光触媒3+酸素発生光触媒1+還元反応助触媒4+酸化反応助触媒2+被覆層6」
図15は、前述の第4工程において、β-FeSi水素発生光触媒3にPt還元反応助触媒4を担持させ、被覆層6として犠牲剤のメタノールを添加した状態でCr(OH)x層を形成し、酸素発生光触媒1である6H-SiC粉末に、CoBi酸化反応助触媒2を担持させた光触媒複合材料の水素及び酸素の発生量を示すグラフ図である。なお、Ptは1質量%、Cr(OH)は4質量%である。また、図16は、前述の第4工程において、β-FeSi水素発生光触媒3にPt還元反応助触媒4を担持させ、被覆層6として犠牲剤のメタノールを添加した状態でCr(OH)x層を形成し、酸素発生光触媒1である6H-SiC粉末に、CoPi酸化反応助触媒2を担持させた光触媒複合材料の水素及び酸素の発生量を示すグラフ図である。なお、これらの光触媒複合材料において、β-FeSi水素発生光触媒3と6H-SiC酸素発生光触媒1とは、Au層5により接合されている。また、Ptは1質量%、Cr(OH)は3質量%である。これらの光触媒複合材料に水中で高圧水銀ランプ光を照射した場合、図15及び図16に示すように、水素発生量は、紫外光の照射により、高速度で上昇し、酸素発生量も高速度で共に上昇している。特に、図15及び図16の場合は、酸化反応助触媒2を担持しているので、酸素の発生量も25時間の紫外光照射で2μmolまで増加し、高い酸素発生量が得られている。そして、発生水素と酸素のモル量は2:1の水の化学量論組成に対応する。
【0048】
「実施例:図17の複合光触媒:水素発生光触媒3+酸素発生光触媒1+還元反応助触媒4+酸化反応助触媒2+被覆層6」
図17は、本発明の実施例の光触媒複合材料(β-FeSi+6H-SiC+Pt+CrOx被覆層+CoBi+Au)に対し、水中で、1200W/mのキセノン光を照射した場合の水素及び酸素の発生量を示す。なお、この光触媒複合材料は、β-FeSi/Au/6H-SiCの複合粉末に1質量%のPtを担持させた後、4質量%のCr(OH)を形成し、0.1質量%のCoをホウ酸コバルト(CoBi)として担持させたものである。この図17に示すように、本発明の実施例の光触媒複合材料は、キセノン光に対しても優れた光活性効果を示し、照射時間と共に、水素及び酸素の発生量が増大していく。このように、本発明の実施例の光触媒複合材料は、キセノン光についても、図15等に示す紫外光に対する光活性効果と同等の効果を奏する。
【0049】
以上のように、酸素発生光触媒3に6H-SiCを使用した場合も、図11に示すように、水素発生光触媒3と酸素発生光触媒1のみの光触媒複合材料のときは、紫外光の照射時間と共に水素の発生量が増大するものの、酸素の発生量は少ない。また、図12及び図13も、同様に、酸素発生光触媒1に6H-SiCを使用した光触媒複合材料であるが、更に、これに酸化反応助触媒2を担持させても、酸素の発生量は少ない。これに対し、図14は、酸化反応助触媒2を担持しないが、還元反応助触媒4を担持すると共に、被覆層6を形成した光触媒複合材料であるので、水素発生量が25時間の紫外光照射で4.5μmolまで上昇し、酸素発生量が0.5μmolまで上昇する。また、図15及び図16は、水素発生光触媒3、酸素発生光触媒1,還元反応助触媒4,酸化反応助触媒2及び被覆層6の全てを備えているので、紫外光の照射による水素及び酸素の発生量はいずれも高い。また、図17に示すように、キセノン光の照射でも、同様に、水素及び酸素の発生量が高い。即ち、特に、β-FeSiとSiCとの複合粉末においては、Pt又はその代替材料の担持と、Cr(OH)の被覆とによって、水素発生速度が向上し、更に、CoBi又はCoPiの効果によって、酸素発生速度が向上した結果、水分解による水素発生速度:酸素発生速度が2:1となり、高効率で水が分解されたことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によれば、太陽光スペクトルのうち、可視光を含み紫外光から近赤外光の1300nmまでの長波長に至る広範な波長域で光活性を有し、水素発生光触媒を被覆層で被覆したので、高効率で水素及び酸素を発生させることができると共に、逆反応(水素と酸素との燃焼反応による水合成)も抑制することができ、高い活性で水分解反応を生じさせることができる。また、還元反応助触媒を水素発生光触媒に選択的に担持させ、酸化反応助触媒を酸素発生光触媒に選択的に担持させることにより、更に、水素及び酸素の発生量が増大する。このため、本発明は、光触媒を使用した高効率の水分解反応による水素製造技術の開発に寄与する。
【符号の説明】
【0051】
1:酸素発生光触媒
2:酸化反応助触媒
3:水素発生光触媒
4:還元反応助触媒
5:金属層
6:被覆層
図1
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図3
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図17