(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022113666
(43)【公開日】2022-08-04
(54)【発明の名称】γ-アミノ酪酸入り発酵食品を製造する方法
(51)【国際特許分類】
A23L 33/175 20160101AFI20220728BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20220728BHJP
A21D 2/24 20060101ALI20220728BHJP
A21D 13/06 20170101ALI20220728BHJP
A21D 13/80 20170101ALI20220728BHJP
【FI】
A23L33/175
A23L5/00 J
A23L5/00 K
A21D2/24
A21D13/06
A21D13/80
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022008694
(22)【出願日】2022-01-24
(31)【優先権主張番号】P 2021009577
(32)【優先日】2021-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】500101243
【氏名又は名称】株式会社ファーマフーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】古賀 啓太
(72)【発明者】
【氏名】中村 唱乃
(72)【発明者】
【氏名】山下 裕輔
(72)【発明者】
【氏名】山津 敦史
(72)【発明者】
【氏名】金 武祚
【テーマコード(参考)】
4B018
4B032
4B035
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018MD14
4B018MD19
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(57)【要約】
【課題】 発酵食品中において従来よりもGABA含有量を低減させることなく、GABA入り発酵食品を製造する方法を提供すること。
【解決手段】 γ-アミノ酪酸入り発酵食品を製造する方法であって、保護処理したγ-アミノ酪酸を準備する工程と、保護処理した前記γ-アミノ酪酸と食品原料とを混合する工程と、前記混合物を発酵させる工程とを含む、方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
γ-アミノ酪酸入り発酵食品を製造する方法であって、
保護処理したγ-アミノ酪酸を準備する工程と、
保護処理した前記γ-アミノ酪酸と食品原料とを混合する工程と、
前記混合物を発酵させる工程と
を含む、方法。
【請求項2】
前記保護処理が、微生物によるγ-アミノ酪酸の資化または加熱によるγ-アミノ酪酸の減少からの保護を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記保護処理によって、約6時間発酵したときのγ-アミノ酪酸の減少率が、前記保護処理をしていない場合と比べて、約5%以上抑制される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記保護処理が、コーティング剤による前記γ-アミノ酪酸のコーティングを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記コーティング剤は、硬化油、不溶タンパク、シェラック、乳化剤、及びワックスからなる群より選択される1または複数の組成物またはその混合物である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記保護処理によって得られた前記γ-アミノ酪酸が、約15重量%以上の前記γ-アミノ酪酸と、約5重量%以上のコーティング剤とを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記保護処理によって得られた前記γ-アミノ酪酸が、約50重量%以上の粉末化基材をさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記保護処理によって得られた前記γ-アミノ酪酸が、約80重量%以上の前記γ-アミノ酪酸と、約5重量%以上のコーティング剤とを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記発酵は、約0.5時間以上行われることを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
さらに、発酵させた前記混合物を焼成させる工程を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記発酵食品がパンである、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、γ-アミノ酪酸入り発酵食品を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自然界に広く分布し、食品に添加してもその味を損ねることがないアミノ酸として、近年、γ-アミノ酪酸(GABA、4-アミノ酪酸)が注目されている。GABAは哺乳類の中枢神経系に多く存在する抑制性の神経伝達物質であり、興奮性神経伝達物質の過剰な分泌を抑制して神経の興奮を鎮め、リラックス効果や抗ストレス作用を発揮することが知られている。また、血圧降下作用やコレステロール低下作用、及び免疫力の低下抑制などの多岐にわたる生理活性を有することが知られている。このGABAは野菜や穀物、ヒト体内にも含まれているため、食品に添加しやすく、GABA含有チョコレートや、数多くのサプリメントが販売されている。
【0003】
GABAは一般的に安定な物質であるが、酵母による発酵食品中のGABAは、発酵の過程で酵母によって消費(資化)されてしまうことが知られている。またGABAと糖の共存下で過熱処理を行うとメイラード反応によってGABAが減少してしまうことも知られている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
そこで本発明者らは、GABAに保護処理を施すことにより、発酵食品中において従来よりもGABA含有量を低減させることなく、GABA入り発酵食品を製造する方法を提供する。
【0005】
したがって、本発明の主要な観点によれば、以下の発明が提供される。
(項目1)
γ-アミノ酪酸入り発酵食品を製造する方法であって、
保護処理したγ-アミノ酪酸を準備する工程と、
保護処理した前記γ-アミノ酪酸と食品原料とを混合する工程と、
前記混合物を発酵させる工程と
を含む、方法。
(項目2)
前記保護処理が、微生物によるγ-アミノ酪酸の資化または加熱によるγ-アミノ酪酸の減少からの保護を含む、上記項目に記載の方法。
(項目3)
前記保護処理によって、約6時間発酵したときのγ-アミノ酪酸の減少率が、前記保護処理をしていない場合と比べて、約5%以上抑制される、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目4)
前記保護処理が、コーティング剤による前記γ-アミノ酪酸のコーティングを含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目5)
前記コーティング剤は、硬化油、不溶タンパク、シェラック、乳化剤、及びワックスからなる群より選択される1または複数の組成物またはその混合物である、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目6)
前記保護処理によって得られた前記γ-アミノ酪酸が、約15重量%以上の前記γ-アミノ酪酸と、約5重量%以上のコーティング剤とを含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目7)
前記保護処理によって得られた前記γ-アミノ酪酸が、約50重量%以上の粉末化基材をさらに含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目8)
前記保護処理によって得られた前記γ-アミノ酪酸が、約80重量%以上の前記γ-アミノ酪酸と、約5重量%以上のコーティング剤とを含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目9)
前記発酵は、約0.5時間以上行われることを特徴とする、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目10)
さらに、発酵させた前記混合物を焼成させる工程を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目11)
前記発酵食品がパンである、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
【0006】
本開示において、上記の1つまたは複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供され得ることが意図される。なお、本開示のさらなる実施形態および利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解すれば、当業者に認識される。
【0007】
なお、上記した以外の本開示の特徴及び顕著な作用・効果は、以下の発明の実施形態の項及び図面を参照することで、当業者にとって明確となる。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、発酵食品の製造に際して、従来よりも発酵食品中のGABA含有量を低減させることなく発酵食品を製造することができる。またこれにより、発酵食品だけではなく、酵母利用食品において、GABAが富化された食品を提供することができ、利用価値が高い。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、非コーティングGABAおよび85%硬化油コーティングGABAの電子顕微鏡写真である。
【
図2】
図2は、クッキー試作時の硬化油コーティングの効果を示すグラフである。
【
図3】
図3は、ホームベーカリーによる食パン試作時の硬化油コーティングの効果を示すグラフである。
【
図4】
図4は、中種法による食パン試作時の硬化油コーティングの効果を示すグラフである。
【
図5】
図5は、ホームベーカリーによる食パン試作時の各種コーティングの効果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示を最良の形態を示しながら説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本開示の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0011】
以下に本明細書において特に使用される用語の定義および/または基本的技術内容を適宜説明する。
【0012】
本明細書において、「約」とは、後に続く数値の±10%を意味する。
【0013】
本明細書において、「発酵食品」とは、酵母による発酵作用を利用して食品材料を発酵させて得られる食品、またはその製造過程において酵母による発酵を経て得られる食品をいう。酵母による発酵作用を利用するものであればよく、清酒、ビール、ワイン、パン、醤油、味噌、キムチ、漬物、酢、発酵調味料、発酵乳、鮒ずし、塩辛などが含まれる。本明細書における発酵食品には、甘味料、酸味料、食塩、調味料、着色料、増粘剤などを適宜添加したものも含まれる。
【0014】
また本明細書において、「固形発酵食品」とは、上記のような発酵食品のうち、その一部または全体が固形または半固形の食品を指し、固体として噛む、舐めるなどして食用に供されるものをいう。固形食品の形態としては、常温(約20~約30℃)において固体であれば特に限定されず、例えば、粉末状、顆粒状、錠状、棒状、板状、ブロック状などの食品を含む。
【0015】
本明細書において、「保護処理」とは、酵母などの微生物によるγ-アミノ酪酸(GABA)の消費(資化)や、加熱によるメイラード反応を伴うGABAの減少から、GABAを保護するための処理をいい、例えばコーティング剤でのGABAのコーティングを含む。
【0016】
本明細書において、「コーティング剤」とは、上記のような保護処理の機能を発揮し得る組成物をいい、例えば、硬化油、不溶タンパク、シェラック、乳化剤、及びワックスなど、並びにそれらの任意の組み合わせが含まれる。
【0017】
(好ましい実施形態)
以下に本開示の好ましい実施形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本開示のよりよい理解のために提供されるものであり、本開示の範囲は以下の記載に限定されるべきでない。したがって、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本開示の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。また、本開示の以下の実施形態は単独でも使用されあるいはそれらを組み合わせて使用することができる。
【0018】
本発明の一局面において、γ-アミノ酪酸入り発酵食品を製造する方法であって、保護処理したγ-アミノ酪酸を準備する工程と、保護処理した前記γ-アミノ酪酸と食品原料とを混合する工程と、前記混合物を発酵させる工程とを含む、方法が提供される。
【0019】
γ-アミノ酪酸(GABA)は野菜や穀物など、自然界に広く分布するアミノ酸であるため、本発明の一実施形態においては、GABAは飲食品に使用可能なものであれば特に由来等は制限されるものではない。例えば、GABAを含有する植物の抽出物または精製物等を用いてもよく、またはグルタミン酸を含有する原料にグルタミン酸脱炭酸酵素または乳酸菌等の当該酵素を有する微生物等を添加して得られる発酵物から調製することもできる。GABA含有製品や市販品のGABAについても、本発明の方法による効果を損なわない範囲において本発明の方法に用いることができる。
【0020】
本発明の一実施形態において、保護処理したγ-アミノ酪酸とは、微生物によるγ-アミノ酪酸の消費(資化)または加熱によるメイラード反応を伴うγ-アミノ酪酸の減少から、γ-アミノ酪酸を保護したものであれば特に限れられるものではない。メイラード反応とは、還元糖とアミノ化合物(アミノ酸、ペプチド、タンパク質)を加熱したときなどに見られる、褐色物質を生み出す代表的な非酵素的反応である。一実施形態において、保護処理として、例えばγ-アミノ酪酸をコーティング剤によってコーティングすることが挙げられる。この場合、コーティング剤としては、γ-アミノ酪酸を微生物による消費(資化)や加熱による減少から保護し得るものであれば特に限られるものではなく、例えば、硬化油、不溶タンパク、シェラック、乳化剤、パラフィンワックス、及びミツロウからなる群より選択される1または複数の組成物またはその混合物を用いることができる。コーティングの手法は特に限られるものではなく、定法に従いGABAをコーティングすることができ、例えばGABAにコーティング剤をスプレーすることによってコーティングすることもできる。一実施形態において、例えば硬化油によってGABAをコーティングする場合、空隙からGABAが溶出しないように、GABA結晶表面を完全またはほぼ完全に被覆するようにコーティングするのが好ましい。
【0021】
また一実施形態において、硬化油としては硬化ナタネ油が好ましく用いることができるが、例えば、植物油、紅花油(サフラワー油)、ブドウ種子油、ひまわり油(サンフラワー油)、オリーブ油、コーン油、ゴマ油、大豆油、大豆胚芽油、高オレイン酸菜種油、シソ油、亜麻仁油、落花生油、紅花油、綿実油、クルミ油、小麦胚芽油、魚油(EPA・DHA)、パーム油、ヤシ油、カカオ脂などの植物油脂、牛脂、ラード、鶏脂、乳脂、藻類油などの動物油脂のほか、ジグリセリドや中鎖脂肪酸トリグリセリド等の合成油や分別油、エステル交換油、水素添加油などを硬化油として用いることができる。
【0022】
一実施形態において、不溶タンパクは、水不溶性タンパク質であればよく、例えば、ツェイン(ゼイン)などを挙げることができる。
【0023】
一実施形態において、ワックスとは、融点の高い油脂状の物質を指し、動物の油脂、植物の油脂、鉱物や石油等由来の蝋質、または合成の炭化水素が含まれる。例えば、ワックスとしては、ミツロウ、カルナバワックス、ライスワックス、キャンデリラワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスなどを挙げることができる。
【0024】
一実施形態において、シェラックはセラックとも呼ばれ、ラックカイガラムシやその近縁種の昆虫が分泌する物質を抽出することで得られる天然由来の樹脂であればよく、好ましくは精製したものを用いることができる。
【0025】
一実施形態において、乳化剤は、脂質を水中で微粒子として分散させ、微粒子の界面を安定化させる界面活性剤の一種であり、本発明のコーティング剤として使用される乳化剤は、食品への使用が許可されている乳化剤であればよく、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチンなどを挙げることができる。
【0026】
一実施形態において、コーティング剤としては、硬化油、不溶タンパク、シェラック、乳化剤、及びワックスなどを単体で用いることもでき、他の実施形態において、不溶タンパクと硬化油との組み合わせ、シェラックと硬化油との組み合わせなど、任意のコーティング剤を組み合わせて用いることもできる。
【0027】
一実施形態において、GABAをコーティング剤によって保護処理する場合には、GABAに対するコーティング剤の量は、微生物によるγ-アミノ酪酸の消費(資化)や加熱によるメイラード反応を伴うγ-アミノ酪酸の減少からの保護の程度や混合される食品に応じて適宜設定することができ、例えば、コーティング剤を約1重量%以上、約3重量%以上、約5重量%以上、約7重量%以上、約10重量%以上、約15重量%以上、約20重量%以上などとすることができる。またコーティングによって得られたGABAは、約5重量%以上、約10重量%以上、約20重量%以上、約30重量%以上、約40重量%以上、約50重量%以上、約60重量%以上、約70重量%以上、約75重量%以上、約80重量%以上、約85重量%以上、約90重量%以上、約95重量%以上、約97重量%以上、約98重量%以上、約99重量%以上のGABAを有することもできる。一実施形態において、保護処理によって得られたGABAは、例えば約20重量%以上のGABAと、約10重量%以上のコーティング剤とを含むこともできる。
【0028】
一実施形態において、GABAを粉末化する場合には、例えば、噴霧乾燥、凍結乾燥、真空(減圧)乾燥、加熱乾燥等の方法を用いることができるが、乾燥性、保存安定性の向上、または吸湿性の低下のため、さらに粉末化基材を添加することができる。
【0029】
一実施形態において、粉末化基材としてはシクロデキストリンなどのデキストリン類を好ましく用いることができ、その含有量はコーティング剤によって保護処理されるGABAの使用目的に応じて適宜変更することができる。例えば、コーティングによって得られたGABAは、約5重量%以上、約10重量%以上、約20重量%以上、約30重量%以上、約40重量%以上、約50重量%以上、約60重量%以上、または約70重量%以上、代表的には約20~80重量%、特に代表的には約30~70重量%の粉末化基材を含むことができる。
【0030】
シクロデキストリンとは、単糖が環状に結合した構造を分子内に有するデキストリンであり、食品への使用可能であって工業的に供給されているものとしてはα-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、分岐シクロデキストリンが挙げられる。
【0031】
また他の実施形態において、GABAの保護処理としては、シクロデキストリンによる包接、糖衣、フィルムコート、またはシームレスカプセルによる処理を挙げることができる。
【0032】
一実施形態において、コーティングなどの保護処理によって得られたGABAは、必要に応じて、例えば、乳化剤、増粘剤、甘味料、酸味料、香料、アミノ酸、果汁、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤等を加えて調製することができる。賦形剤としては、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、微結晶セルロース、硅酸等が挙げられる。結合剤としては、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン液、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、エチルセルロース、リン酸カルシウム、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。崩壊剤としては、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、乳糖等が挙げられる。滑沢剤としては、精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ砂、ポリエチレングリコール等が挙げられる。矯味剤としては、白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸等が挙げられる。またショ糖、異性化糖、グルコース、フラクトース、パラチノース、トレハロース、ラクトース、キシロース等の糖類、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、ラクチトール、パラチニット、還元水飴、還元麦芽糖水飴等の糖アルコール類、アスパルテーム、ステビア、アセスルファムカリウム、スクラロース等の高甘味度甘味料、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、レシチン等の乳化剤、カラギーナン、キサンタンガム、グァーガム、ペクチン、ローカストビーンガム等の増粘(安定)剤、クエン酸、乳酸、リンゴ酸等の酸味料、レモン果汁、オレンジ果汁、ベリー系果汁等の果汁類等を加えることもできる。
【0033】
本発明の一実施形態において、保護処理したγ-アミノ酪酸と食品原料との混合物を発酵させる場合には、定法に従って混合物を発酵させることができる。また保護処理したγ-アミノ酪酸と食品原料との混合比も特に限られるものではない。一実施形態において、発酵は酵母(イースト菌)による発酵が好ましい。例えば、一実施形態において、発酵はγ-アミノ酪酸と食品原料との混合物に酵母を添加して、約0.5時間以上、約1時間以上、約2時間以上、約3時間以上、約4時間以上、約5時間以上、約6時間以上、約7時間以上、約8時間以上、約9時間以上、または約10時間以上行うことができるが、特にこのような条件に限られるものではなく、酵母の添加量や発酵時間は食材や製造したい食品に応じて適宜変更することができる。
【0034】
本発明の一実施形態において、発酵食品は、好ましくは酵母による発酵作用を利用して食品材料を発酵させて得られる食品、またはその製造過程において好ましくは酵母による発酵を経て得られる食品であれば特に限られるものではない。特に、発酵を経て最終的に得られる食品が固形物である場合、当該食品に別個にGABAを添加することが困難であるため、本発明の発酵食品は、好ましくは固形発酵食品である。本発明の固形発酵食品としては、好ましくはパンを挙げることができる。
【0035】
本発明の一実施形態において、上記のような保護処理によって、発酵や熱処理によるγ-アミノ酪酸の減少について、保護処理をしていない場合と比べてその減少率を抑制することができる。この減少率の抑制は加熱時間に伴うメイラード反応の程度や発酵時間、発酵の種類、食材、もともと存在していたGABAの量などによって変更するが、例えば保護処理によって、約6時間発酵したときのγ-アミノ酪酸の減少率を、保護処理をしていない場合と比べて、少なくとも約100%、約95%、約90%、約85%、約80%、約75%、約70%、約65%、約60%、約55%、約50%、約45%、約40%、約35%、約30%、約25%、約20%、約15%、約10%、約8%、約7%、約7.51%、約5%、約3%、約1%抑制することができる。
【0036】
本発明の一実施形態において、上記のようにして発酵させた、保護処理したGABAと食品原料との混合物を、さらに焼成させることもできる。焼成における温度や時間は、目的の食品や分量に応じて適宜変更することができ、例えば一般的な家庭用オーブンを用いてクッキーを焼成する場合には約170~約180℃で約10~約30分、パンの場合には約180~約200℃で約10~約30分など、適宜設定することができる。本発明の保護処理したGABAは、このような焼成工程において生じるメイラード反応によるGABAの減少を抑制することができる。本発明の方法によれば、実施例に記載されるとおり、GABAの硬化油コーティング品を用いてクッキーおよびパンを製造すると、クッキーではメイラード反応に対する高い保護効果を確認できている。またパンについては、ホームベーカリーでの製造、また発酵時間の長い中種法での製造の場合ともに、ある程度の保護効果を確認できている。
【0037】
本明細書において「または」は、文章中に列挙されている事項の「少なくとも1つ以上」を採用できるときに使用される。「もしくは」も同様である。本明細書において「2つの値」の「範囲内」と明記した場合、その範囲には2つの値自体も含む。
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0038】
以上、本開示を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本開示を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本開示を限定する目的で提供したのではない。従って、本開示の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例0039】
(実施例1:コーティングGABAの製造)
GABAへの硬化油コーティングは、油脂取り扱い業者にて試作を行った。コーティングに用いるGABA原料はファーマフーズ製の95%純度GABA製品「ラクトギャバン」を用いた。コーティングには硬化ナタネ油を用いて、コーティングGABAにおけるGABA含量が85%および90%になるように行った。硬化油のコーティングは、ラクトギャバン(GABA95%>品)100gに対して、25gの硬化ナタネ油を噴霧することでGABA粉末をコーティングした。また、撥水性の高い乳化剤と硬化油を組み合わせたコーティングについても検討を行った(GABA85%、乳化剤10%、硬化油5%)。
【0040】
(実施例2:コーティング状態の確認)
試作したコーティングGABAについて、実際に硬化油コーティングができているかを確認するため、電子顕微鏡での観察を行った。その結果、コーティングGABA(ワックスコーティングGABA。ラクトギャバンに硬化油コーティングしたもの)では、コントロールとして用いた非コーティングGABA(ラクトギャバン)に比べて、GABA結晶が全体的に丸みを帯びており、GABA結晶表面が硬化油でコーティングされていることが確認できた(
図1)。
【0041】
(実施例3:コーティングGABAを用いたクッキーの製造)
糖存在下でのコーティングGABAの熱に対する安定性を評価するため、非コーティングGABAおよび90%ワックスコーティングGABAを生地中に練りこんだクッキーの試作を行った。クッキー1枚あたり28mgのGABA含量になるように作製し、170℃で15分焼成した後、GABA含量を測定した。
【0042】
結果を
図2に示した。非コーティングGABAを練りこんだクッキーでは半分程度までGABAが減少したのに対し(残存率52.2%)、コーティングGABAを練りこんだクッキーでは9割程度GABAが残存することが分かった(残存率89.7%)(
図2)。このことから、GABAを硬化油コーティングすることでメイラード反応に対して一定の保護効果を付与することができることが分かった。
【0043】
(実施例4:硬化油コーティングGABAを用いたパンの製造(ホームベーカリー))
コーティングGABAのイースト菌資化に対する安定性を評価するため、非コーティングGABAおよび85%コーティングGABAを生地中に練りこんだパンの試作を行った。
まずは簡易評価のためにホームベーカリーを用いてパンを試作した。クリスタル電気IMB-20Tを用いて食パンのレシピにGABAが生地あたり26.5mg/100gとなるように非コーティングGABAもしくはコーティングGABAを添加した。捏ね上げ時のGABA含量と、焼成後のGABA含量を焼成率で補正した結果の比較を
図3に示した。コーティングをしていない非コーティングGABAではGABA含量が50%程度減少していたのに対し(残存率50.4%)、コーティングGABAでは減少率が30%程度まで抑えられた(残存率71.3%)。以上の結果より、イースト菌によるGABA資化に対しても硬化油コーティングが一定の保護効果があることが分かった。
【0044】
(実施例5:硬化油コーティングGABAを用いたパンの製造(中種法))
ホームベーカリーでのパンの製造は実際の工業生産品と比べて発酵時間が短いため、長時間の発酵における硬化油コーティングGABAの残存量を調べた。中種発酵4時間、本仕込み発酵2時間程度と発酵時間の長い中種法を用いたパンの試作を行い、GABA残存量の評価を行った。GABAとしては、コントロール(非コーティングGABA)として、実製品で使用される可能性の高い20S(GABA含有量20%以上のGABA製品。GABA以外の主要成分としてデキストリンを含む。)を使用し、コーティングGABAは85%硬化油コーティングGABA(ラクトギャバンに硬化油コーティングしたもの)を使用した。また、GABA添加のタイミングは資化性の評価であるため中種捏ね上げ時とした。パンの焼成温度および時間は200℃、30分とした。
【0045】
その結果、
図4に示すとおり、練り上げ時(発酵前)のGABA量を100とした場合、コーティング品では焼成前(発酵後)および焼成後ともに、非コーティング品と比べてGABAの残存率が向上したことがわかる。
【0046】
(実施例6:各種コーティングGABAを用いたパンの製造(ホームベーカリー))
実施例4と同様に、非コーティングGABAと、各種コーティング剤でコーティングしたGABAを生地中に練りこんだパンの試作を行い、コーティングGABAのイースト菌資化に対する安定性を評価した。コーティング剤の種類を変更した以外は実施例4と同様にしてパンの試作を行った。コーティング剤の種類は、(1)ツェイン(不溶タンパク)(4.5%)+菜種硬化油(45.5%)(
図5中、No.2)、(2)セラック(シェラック)(10%)+菜種硬化油(40%)(
図5中、No.3)、(3)ツェイン(不溶タンパク)(2.5%)+パーム硬化油(25%)(
図5中、No.4)、(4)マーガリン混錬(
図5中、No.5)、(5)カルナバワックスコート(ワックス)(15%)(
図5中、No.6)を用いた。
【0047】
非コーティングGABAもしくはコーティングGABAをそれぞれ
図5に示す配合率となるように添加したパン生地を捏ね上げ、捏ね上げ時のGABA含量を100%としたときの焼成後のGABA含量をそれぞれ
図5に示した。
【0048】
コーティングをしていない非コーティングGABAおよびマーガリンでコーティングしたGABAではGABA含量が30%程度減少していたのに対し(残存率70%程度)、不溶タンパク、硬化油、シェラック、及び/またはワックスでコーティングしたコーティングGABAでは減少率が20%程度まで抑えられた(残存率80%程度)。以上の結果より、イースト菌によるGABA資化に対して、硬化油コーティングだけではなく、不溶タンパク、シェラック、またはワックスでコーティングした場合にも保護効果があることが分かった。また、他のコーティングと比較してカルナバワックスコート(ワックス)でコーティングした場合には、焼成後の黒点が生じない点で好ましいことが分かった。
【0049】
(注記)
以上のように、本開示の好ましい実施形態を用いて本開示を例示してきたが、本開示は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願及び他の文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。本願は、日本国特許庁に2021年1月25日に出願された特願2021-9577に対して優先権主張をするものであり、その内容はその全体があたかも本願の内容を構成するのと同様に参考として援用される。
本発明の方法により、発酵食品の製造に際して、従来よりも発酵食品中のGABA含有量を低減させることなく発酵食品を製造することができるため、発酵食品や酵母利用食品の分野において有用である。