(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022113721
(43)【公開日】2022-08-04
(54)【発明の名称】情報表示装置
(51)【国際特許分類】
G02B 27/01 20060101AFI20220728BHJP
B60K 35/00 20060101ALI20220728BHJP
【FI】
G02B27/01
B60K35/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022085173
(22)【出願日】2022-05-25
(62)【分割の表示】P 2021073748の分割
【原出願日】2017-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】平田 浩二
(57)【要約】
【課題】乗り物に情報を表示する情報表示装置において、観視者の視点移動を軽減し多くの映像情報を得ることが可能な情報表示装置を提供することを目的とする。
【解決手段】乗り物に情報を表示する情報表示装置であって、乗り物のフロントガラスに反射させ虚像の映像情報を表示する第1の情報表示装置と、レーザ光をMEMS素子でフロントガラスにスキャンして実像を得る第2の情報表示装置と、乗り物のインストルメントパネルを用いた第3の情報表示装置とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗り物に情報を表示する情報表示装置であって、
前記乗り物のフロントガラスに反射させ虚像の映像情報を表示する第1の情報表示装置と、レーザ光をMEMS素子で前記フロントガラスにスキャンして実像を得る第2の情報表示装置と、前記乗り物のインストルメントパネルを用いた第3の情報表示装置と、観視者の視点移動を観視する第1のセンサとを備え、
前記第1の情報表示装置は、前記映像情報を表示する映像表示装置から出射された光を前記フロントガラスで反射させることで虚像を前記乗り物の前方に表示させる虚像光学系を備えており、
前記第2の情報表示装置は、走査型ミラー素子でレーザ光をスキャンして前記フロントガラスに実像を表示する実像光学系を備えており、
前記第3の情報表示装置は前記インストルメントパネルとして直視型の映像表示装置を備えており、
前記第1の情報表示装置の映像表示位置が前記フロントガラスの中央付近で、前記第2の情報表示装置の映像表示位置が前記フロントガラスの下部である、ことを特徴とする情報表示装置。
【請求項2】
請求項1に記載の情報表示装置であって、
前記第1から第3の情報表示装置で表示されるそれぞれの映像表示位置の中心が前記乗り物のステアリングの回転中心軸を含む直線付近となるように配置されたことを特徴とする情報表示装置。
【請求項3】
請求項1に記載の情報表示装置であって、
前記第1の情報表示装置の虚像による映像表示は、前記第2の情報表示装置により実像を表示する前記フロントガラスから遠方に位置する実景に虚像を重ねるように表示することを特徴とする情報表示装置。
【請求項4】
請求項1に記載の情報表示装置であって、
前記第1の情報表示装置の虚像による映像が前記第2の情報表示装置による実像による映像の一部または全部と重畳表示されることを特徴とする情報表示装置。
【請求項5】
請求項1に記載の情報表示装置であって、
観視者が前記フロントガラスを介して観視する前記第1の情報表示装置の虚像による映像表示の前記フロントガラス上の水平方向表示寸法は前記第2の情報表示装置による実像表示の水平方向表示寸法より小さいことを特徴とする情報表示装置。
【請求項6】
請求項1に記載の情報表示装置であって、
前記第1のセンサによる観視者の視点移動の情報をもとに、前記第1から第3の情報表示装置で表示されるそれぞれの映像表示位置、表示時間、表示内容が変化することを特徴とする情報表示装置。
【請求項7】
請求項1に記載の情報表示装置であって、
前記乗り物の速度を感知するセンサ出力により前記第2の情報表示装置の映像表示範囲を変更して前記フロントガラスに表示することを特徴とする情報表示装置。
【請求項8】
請求項1に記載の情報表示装置であって、
前記第2の情報表示装置の前記実像光学系は、それぞれ異なる波長のレーザ光を複数備えることを特徴とする情報表示装置。
【請求項9】
請求項1に記載の情報表示装置であって、
前記乗り物の周辺を監視する第2のセンサを有し、
前記第2のセンサからの情報を、少なくとも前記第1から第3の情報表示装置に表示可能であることを特徴とする情報表示装置。
【請求項10】
請求項9に記載の情報表示装置であって、
前記第1のセンサによる観視者の視点移動の情報と、前記第2のセンサからの情報とが連動し、少なくとも前記第1から第3の情報表示装置に、前記第2のセンサからの情報を表示可能であることを特徴とする情報表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や電車や航空機等の人を乗せて移動する、所謂、乗り物のフロントガラスに画像を投影する情報表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のフロントガラスに映像光を投写して虚像を形成し、ルート情報や渋滞情報などの交通情報や燃料残量や冷却水温度等の自動車情報を表示する、所謂、ヘッドアップディスプレイ(HUD:Head-Up-Display)装置が、例えば、以下の特許文献1により既に知られている。
【0003】
この種の情報表示装置においては、HUD装置本体を運転者の座席前方のステアリングとウインドガラスの間に配置するため小型化が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術によるヘッドアップディスプレイ装置を実現する凹面ミラーによる虚像生成の原理は、
図20に示すように、凹面ミラー1’の光軸上の点Oに対して焦点F(焦点距離f)の内側に物点ABを配置することで、凹面ミラー1’による虚像を得ることである。この
図20では、説明の都合上、凹面ミラー1’を同じ正の屈折力を持つ凸レンズとみなし、物点と凸レンズ(説明の都合上、
図20では、凹面ミラーで表記)と発生する虚像の関係を示した。
【0006】
従来技術では、凹面ミラー1’で生成する虚像の大きさを拡大するためには物点ABを焦点Fに近づけると良いが、所望の倍率を得るためには、凹面ミラーの曲率半径が小さくなる。この結果、ミラーサイズが小さくなり実効的に拡大率が大きいが観視可能な範囲が小さい虚像しか得られない結果となる。このため、(1)所望の虚像サイズと、(2)必要な虚像の倍率M=b/aを同時に満足するためには、凹面ミラーの寸法は観視範囲に合わせ、映像表示装置との兼ね合いで虚像の倍率を決める必要がある。
【0007】
一方、特許文献1に開示された虚像方式のHUDでは、観視者から観視できる虚像の寸法を大きくするためには、虚像を作り出す凹面ミラーの寸法が大きくなるために装置の容積が大きくなる。
【0008】
また、特許文献1では、所謂速度情報などの情報の虚像を表示するHUDについて開示されているが、観視者が視認できる虚像の観視可能範囲を拡大し、虚像の大きさを拡大し、観視者が眼で見る遠景の実像に虚像を重ねる所謂拡張現実については考慮されておらず、それを実現するためには映像源から凹面ミラーまでの距離を大きくする必要がある。また、近景の実像に虚像を重ねる場合も考えると、視点移動が少なく、多くの映像情報を得ることが可能な映像表示装置を考慮する必要がある。
【0009】
そこで、本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、観視者の視点移動を軽減し多くの映像情報を得ることが可能な映像表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記背景技術及び課題に鑑み、その一例を挙げるならば、乗り物に情報を表示する情報表示装置であって、乗り物のフロントガラスに反射させ虚像の映像情報を表示する第1の情報表示装置と、レーザ光をMEMS素子でフロントガラスにスキャンして実像を得る第2の情報表示装置と、乗り物のインストルメントパネルを用いた第3の情報表示装置とを備え、第1の情報表示装置は、映像情報を表示する映像表示装置から出射された光をフロントガラスで反射させることで虚像を乗り物の前方に表示させる虚像光学系を備えており、第2の情報表示装置は、走査型ミラー素子でレーザ光をスキャンしてフロントガラスに実像を表示する実像光学系を備えており、第3の情報表示装置はインストルメントパネルとして直視型の映像表示装置を備え、第1の情報表示装置の映像表示位置がフロントガラスの中央付近で、第2の情報表示装置の映像表示位置がフロントガラスの下部であるように構成する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、遠景に虚像を重ねるHUD装置と近景に重ねる実像を表示する実像表示装置及びインストルメントパネルの表示を組み合わせることで運転者の視点移動を軽減し安全運転の支援に寄与する情報表示装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1における情報表示装置及び情報表示装置の周辺機器の概略構成図である。
【
図2】実施例1における情報表示装置とフロントガラスと運転者の視点位置を示す概略断面構成図である。
【
図3】実施例1における映像表示位置の概略説明図である。
【
図4】実施例1における他の映像表示位置の概略説明図である。
【
図5】実施例1におけるフロントガラスの曲率半径の違いを説明する図である。
【
図6】実施例1における異なる偏光に対するガラスの入射角度に対する反射率特性である。
【
図7】実施例1における情報表示装置を搭載した自動車の上面図である。
【
図8】実施例1におけるフロントガラスに塗布、接着又は粘着する反射物質の反射特性を示す特性図である。
【
図9】実施例2における情報表示装置の虚像光学系の概略構成図である。
【
図10】実施例3における投写光学装置の基本構成図である。
【
図11】実施例3における2軸駆動のMEMS素子の概略構成図である。
【
図12】実施例3におけるMEMS素子による光束スキャンの概要を説明する説明図である。
【
図13】実施例3における被投影部材(フロントガラス内面)を走査するレーザ光の第1の走査状態の説明図である。
【
図14】実施例3における第1の走査状態での光走査装置の光源光スペクトルである。
【
図16】実施例3における第1の走査状態での光走査装置の光源光の色度表である。
【
図17】実施例3における被投影部材(フロントガラス内面)を走査するレーザ光の第2の走査状態の説明図である。
【
図18】実施例3における第2の走査状態での光走査装置の光源光スペクトルである。
【
図19】実施例3における第2の走査状態での光走査装置の光源光の色度表である。
【
図20】従来技術による虚像光学系の原理を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施例について図面等を用いて詳細に説明する。
【実施例0014】
まず、本実施例における情報表示装置及び情報表示装置の周辺機器の概略構成について説明する。ここでは、その一例として、特に、自動車のフロントガラスに画像を投影する情報表示装置について説明する。
図1(A)は情報表示装置の断面斜視図、
図1(B)は周辺機器の概略構成ブロック図である。
【0015】
図1(B)において、制御装置40は、ナビゲーションシステム60から、自車両が走行している現在位置に対応する道路の制限速度や車線数、ナビゲーションシステム60に設定された自車両の移動予定経路などの各種の情報を、前景情報(即ち、虚像により自車両の前方に表示する情報)として取得する。
【0016】
運転支援ECU62は、周辺監視装置63での監視の結果として検出された障害物に従って駆動系や制御系を制御することで、運転支援制御を実現する制御装置であり、運転支援制御としては、例えば、クルーズコントロール、アダプティブクルーズコントロール、プリクラッシュセーフティ、レーンキーピングアシストなどの周知技術を含む。
【0017】
周辺監視装置63は、自車両の周辺の状況を監視する装置であり、一例としては、自車両の周辺を撮影した画像に基づいて自車両の周辺に存在する物体を検出するカメラや、探査波を送受信した結果に基づいて自車両の周辺に存在する物体を検出する探査装置などである。
【0018】
制御装置40は、このような運転支援ECU62からの情報(例えば、先行車両までの距離及び先行車両の方位、障害物や標識が存在する位置など)を前景情報として取得する。更に、制御装置40には、イグニッション(IG)信号、及び、自車状態情報が入力される。これらの情報の内、自車状態情報とは、車両情報として取得される情報であり、例えば、内燃機関の燃料の残量や冷却水の温度など、予め規定された異常状態となったことを表す警告情報を含んでいる。また、方向指示器の操作結果や自車両の走行速度、更には、シフトポジション情報なども含まれている。
【0019】
以上述べた制御装置40からの映像信号は、自動車の状態及び周囲環境に対応した映像情報であり観視者の観ている遠方実景に虚像で重ねる第1の情報表示装置であるHUD装置100と、近景に実像で重ねる第2の情報表示装置である投写光学装置220、及び第3の情報表示装置である直視型のインスツルメントパネル42に適宜選択的に表示され、観視者である運転者が運転中に起こす視点移動を軽減する。なおこの制御装置40はイグニッション信号が入力されると起動する。以上が、本実施例における情報表示装置全体システムの構成である。
【0020】
図1(A)において、45は車体であって、6は被投影部材であるフロントガラスであり、車体の縦断面のイメージ図である。HUD装置100は、運転者の視点8において自車両の前方に虚像を形成するため、被投影部材6(本実施例では、フロントガラスの内面)にて反射された各種情報を虚像(Virtual Image)として表示する装置である。なお、被投影部材6は、情報が投影される部材であればよく、前述したフロントガラスだけではなく、その他、コンバイナであっても良い。即ち、本実施例のHUD装置100では、運転者の視点8において自車両の前方に虚像を形成して運転者に視認させるものであればよく、虚像として表示する情報としては、例えば、車両情報や監視カメラやアラウンドビュアーなどのカメラ(図示せず)で撮影した前景情報も含む。
【0021】
また、HUD装置100では、情報を表示する映像光を投射する映像表示装置4と、当該映像表示装置4に表示された映像を凹面ミラー1で虚像を形成する際に発生する歪や収差を補正するために補正用の光学素子であるレンズ2及び3が、映像表示装置4と凹面ミラー1の間に設けられている。
【0022】
そして、HUD装置100は、上記映像表示装置4とバックライト光源10を制御する制御装置40とを備えている。なお、上記映像表示装置4とバックライト光源10などを含む光学部品は、以下に述べる虚像光学系であり、光を反射させる凹面形状の凹面ミラー1を含んでいる。また、この凹面ミラー1において反射した光は、フロントガラス6にて反射されて運転者の視点8(正しく観視することができる運転者の視点範囲いわゆるEyeboxでも良い)へと向かう。
【0023】
上記の映像表示装置4としては、例えば、バックライトを有するLCD(Liquid Crystal Display)の他に自発光のVFD(Vacuum Fluorescent Display)などがある。
【0024】
一方、上述した映像表示装置4の代わりに、投写装置によりスクリーンに映像を表示して、前述の凹面ミラー1で虚像とし被投影部材であるフロントガラス6で反射して運転者の視点8と向かわせても良い。このようなスクリーンとしては、例えば、マイクロレンズを2次元状に配置したマイクロレンズアレイにより構成してもよい。
【0025】
より具体的には、虚像の歪みを低減するために凹面ミラー1の形状は、
図1(A)に示す上部(相対的に運転者の視点との距離が短いフロントガラス6の下方で光線が反射する領域)では、拡大率が大きくなるように相対的に曲率半径が小さく、他方、下部(相対的に運転者の視点との距離が長いフロントガラス6の上方で光線が反射する領域)では、拡大率が小さくなるように相対的に曲率半径が大きくなる形状とすると良い。また、映像表示装置4を凹面ミラーの光軸に対して傾斜させることで上述した虚像倍率の違いを補正して発生する歪みそのものを低減することによっても、更に良好な補正が実現できる。
【0026】
図2は、本実施例における情報表示装置とフロントガラスと運転者の視点位置を示す概略断面構成図である。
【0027】
また、
図3は、本実施例における映像表示位置の概略説明図である。
図3は、運転席からフロントガラス6を見た概略図である。
【0028】
図2、
図3に示すように、本実施例においては、ステアリング43の前面のフロントガラス6の中央部近辺の画像表示領域1(a)とフロントガラス6の下部の画像表示領域2(a)とインスツルメントパネル42上の画像表示領域3(a)を有している。
【0029】
本実施例における情報表示装置は、上述したHUD装置100によりフロントガラス6の中央部近辺の
図2、
図3に示す画像表示領域1(a)を反射面として観視者に虚像距離8mで40インチ以上の虚像を提供し観視者が運転中に見ている実景に重ねることで視点移動を抑えることができる。
【0030】
発明者は、市街地走行時の運転者の視点位置変化を計測し、虚像距離の最大値を30mとすれば視点移動を90%抑えられることを実測により求め、高速走行では虚像距離を70m以上にすれば同様に視点移動を抑えることができることを実験により求めた。この時必要な虚像の大きさは350インチ相当になる。
【0031】
以上述べたように、観視者の視点が遠方の領域には、虚像を表示するHUD装置100を用い
図2及び
図3に示した画像表示領域1(a)に表示し、他方、
図2及び
図3に示した画像表示領域2(a)においては、観視者である運転者が実際に見る近景に映像を重畳するためにフロントガラス下部に特定偏波の光束をMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)素子でスキャンする投写光学装置220を用いて実像を映し出す。ここで、MEMSによる映像表示は、基本的にフォーカスフリーであるために、曲率をもつフロントガラス6への投写には有利である。
【0032】
また、映像を映し出すフロントガラス下部には、後に詳細に説明する特定の偏波に対する反射率が他方の偏波に対して異なる特性を有する部材を含有又は車内のガラス面に塗布又は接着又は粘着することで映像光を効率よく反射させ実像を観視者に向ける。ここで、HUD装置100によるフロントガラス6上の画像表示領域1(a)の水平方向表示寸法は、フロントガラス前方の遠方に虚像として焦点を結ぶために、投写光学装置220による実像表示の水平方向表示寸法より小さくなる。
【0033】
また、上述した画像表示領域の分割に替えて、
図4に示したように、HUD装置を用いて虚像を表示する遠方の画像表示領域1(b)の一部または全部と、近景に映像を重畳する画像表示領域2(b)を重ねて表示することで、擬似的に立体表示を行なうことが出来ることを実験により実証した。より良好な表示とするために、虚像の奥行き方向の表示位置と実像の奥行き方向の表示位置を一部重ねると良好な効果が得られた。また、上述した2つの画像表示領域を重ねて表示することで表示画像の連続性が得られ視点移動がスムーズに行なわれるなど新しい効果も得られた。
【0034】
上述したフロントガラス中央部付近に映し出す虚像の表示位置、表示色、表示間隔は観視者の状態を観視する観視用カメラ210により適宜選択され、自動走行状態で制御された自動車が次に行う動作、例えば右左折、停止、加速などの情報を映像表示するだけでなく運転者の健康状態や眠気などをセンシングしこれらの情報により注意喚起の映像表示などを行なう。なお、これらの情報は常に表示する必要がなく、運転者の目線の動きを観視用カメラ210で追尾し必要に応じて必要な場所に表示することが望ましい。
【0035】
乗用車のフロントガラス6は、
図5に示すように、垂直方向の曲率半径Rvと水平方向の曲率半径Rhが異なり、一般には、Rh>Rvの関係にある。このため、
図5に示すように、反射面としてフロントガラス6を捉えると、凹面ミラーのトロイダル面となる。このため、本実施例のHUD装置100では、凹面ミラー1の形状はフロントガラス6の形状による虚像倍率を補正するように、即ち、フロントガラスの垂直方向と水平方向の曲率半径の違いを補正するように水平方向と垂直方向で異なる平均曲率半径とすれば良い。この時、凹面ミラー1の形状は、光軸に対称な球面または非球面(以下に式(2)で示す)形状では光軸からの距離hの関数であり、離れた場所の水平断面と垂直断面形状を個別に制御できないことから、以下に式(1)で示す自由曲面としてミラー面の光軸からの面の座標(x,y)の関数として補正することが好ましい。
【0036】
【0037】
【0038】
ここで、zは面を定義する軸を基準とした座標(x,y)におけるサグ量、cは面を定義する軸の原点における曲率、Kはコーニック定数、Cjは係数である。
【0039】
再び、
図1(A)に戻り、さらに、映像表示装置4と凹面ミラー1の間に透過型の光学部品として、例えば光学素子2及び光学素子3を配置し、もって、凹面ミラーへの光線の出射方向を制御することで凹面ミラーの形状と合わせて歪曲収差の補正を行なうと同時に、前述したフロントガラス6の水平方向の曲率半径と垂直方向の曲率半径の違いによって生じる非点収差を含めた虚像の収差補正を実現する。
【0040】
一方、
図1(A)及び
図2に示すように太陽50からの光束はフロントガラスでS偏波の殆どが反射され車内に入射する光束はP偏波が殆どとなるため、近景に映像を重畳するためにフロントガラス下部に映像を投写するにはS偏波の光束をMEMS素子に入射させスキャンする投写光学装置220を用いる。この時映像表示にはS偏光を用いる他の理由は、フロントガラスの傾斜角度が40度以上と大きくこの反射率は
図6に示すようにS偏波が高いためである。
【0041】
また、自動車のフロントガラスは、
図5に示すように水平方向の曲率半径Rhと垂直方向の曲率半径Rvが異なることと、
図7に示すように観視者である運転者の位置(
図7ではステアリング43の位置)が水平方向の曲率中心に対して映像の中心が異なるためである。
【0042】
これに対して、上述した投写光学装置220はレーザ光源を用いMEMSにより垂直及び水平方向にスキャンすることでフロントガラス上に映像を映し出すが、
図2及び
図3に示すフロントガラス下部の画像表示領域2(a)にはS偏波に対する反射率がP偏波に対して異なる特性を有する部材を含有又は車内のガラス面に塗布又は接着又は粘着することで映像光を効率よく反射させ実像を観視者に向ける。具体的には
図8に示すようにS偏波のレーザ光の可視光範囲(380nm~780nm)での反射率が特性(1)に示すように平均で10%程度のものから特性(2)に示す20%程度のものが良く、ウインドガラスの室内に接した反射面で反射して観視者である運転者の方向に映像光を反射させるようにする。
【0043】
より具体的には上述した特性を有する光学多層膜を積層したシートまたは、屈折率の異なる複数のシートを積層して同様の効果を持たせても良く、ウインドガラス水平方向に対する拡散特性を垂直方向に対する拡散特性に比べて大きくするためにシート表面に凹凸形状を設けても良い。
【0044】
また、上述したシートの反射率が、紫外線領域(380nmより小)及び近赤外線領域(780nmより大)で高く設定することで、車内への紫外線及び近赤外線の入射を抑え、より快適な環境を実現するためである。
【0045】
以上のように、本実施例は、乗り物に情報を表示する情報表示装置であって、乗り物のフロントガラスに反射させ虚像の映像情報を表示する第1の情報表示装置と、レーザ光をMEMS素子でフロントガラスにスキャンして実像を得る第2の情報表示装置と、乗り物のインストルメントパネルを用いた第3の情報表示装置とを備え、第1の情報表示装置は、映像情報を表示する映像表示装置から出射された光をフロントガラスで反射させることで虚像を乗り物の前方に表示させる虚像光学系を備えており、第2の情報表示装置は、走査型ミラー素子でレーザ光をスキャンしてフロントガラスに実像を表示する実像光学系を備えており、第3の情報表示装置はインストルメントパネルとして直視型の映像表示装置を備え、第1の情報表示装置の映像表示位置がフロントガラスの中央付近で、第2の情報表示装置の映像表示位置がフロントガラスの下部であるように構成する。
【0046】
これにより、遠景に虚像を重ねるHUD装置と近景に重ねる実像を表示する実像表示装置及びインストルメントパネルの表示を組み合わせることで運転者の視点移動を軽減し安全運転の支援に寄与する情報表示装置を提供することが可能となる。
まず、本実施例では、映像光を投射する凹面(自由曲面)ミラー1には、可視光(波長:略400~700nm)を反射すると同時に、特に、各種の波長スペクトルを含む太陽光から、情報表示装置には不要で装置にダメージを与える、例えば、赤外線(IR)や紫外線(UV)などを除去する機能を持たせることが好ましい。この時、可視光の反射率を95%以上とすると光利用効率が高い虚像光学系が実現できる。
しかしながら、その反面、フロントガラスを透して直接凹面(自由曲面)ミラー1を見た場合に、外光が反射して眩しく見え自動車の品位の低下や、太陽光や夜間の対向車のヘッドライトなどの強い光が凹面ミラー1に反射し一部の光線が液晶パネルに戻ることでコントラスト性能など情報表示装置として得られる画像(虚像)の画質低下を招くと共に、映像表示装置4を構成する偏光板や液晶パネルにダメージを与えることになる。このため、凹面(自由曲面)ミラー1の反射率を意図的に低減し90%以下望ましくは85%以下とすることで、上述した問題点を解決できる。
凹面(自由曲面)ミラー1の基材である凹面ミラー支持部1aは、上述した太陽光のうち反射しない波長成分の光を基材が吸収しないように透明性が高いものを選択する。プラスチック製基材であって透明度が高い基材としては、(1)日本ゼオン(株)のZEONEX、(2)ポリカーボネイト、(3)アクリル等がある。吸水率がほぼ0%で熱変形温度が高い、(1)ZEONEXが最適であるが価格が高いため、熱変形温度が同等で吸水率が0.2%程度のポリカーボネイトを工夫して使用すると良い。成形性が最も高く安価なアクリルについては吸湿率が最大であるため防湿膜と反射膜を設けることが必須となる。
凹面(自由曲面)ミラー1の基材が吸湿するのを防止するために反射面に成膜する反射膜に併せて、反対側の面に防湿膜としてSiN(窒化シリコン)を成膜して防湿膜を設けると良い。防湿膜であるSiNは太陽光を通過させるため基材での光吸収が発生せず熱変形を押さえることができる。この結果、ポリカーボネイトやアクリルで成形された凹面(自由曲面)ミラーにおいても吸湿による形状変化を防止することが出来る。
更に、ここでは図示しないが、上述したIRやUVを抑制/除去する機能を備えた凹面(自由曲面)ミラー1に加え、又は、それに代えて、HUD装置100の上部に形成される開口部41に、IRやUVを除去する機能を備えた透光板を設けてもよい。なお、その場合には、IRやUVの抑制機能に加え、外部の塵がHUD装置100内部に侵入することを防止することが可能となる。
このように、上述した凹面ミラー1によれば、開口部41からHUD装置100の内部に侵入する多数のスペクトル成分を含む太陽光のうち、当該HUD装置では不要な成分を除去し、主に可視光成分を選択的に取り出すことが可能となる。
一方、HUD装置の画質を低下させる要因として、映像表示装置4から凹面ミラー1に向かって出射する映像光線が途中に配置された光学素子2の表面で反射して映像表示装置に戻り、再度反射して本来の映像光に重畳されて、画質を低下させることが知られている。このため、本実施例では、光学素子2の表面に反射防止膜を成膜して反射を抑えるだけでなく、光学素子2の映像光入射面と出射面のいずれか一方、若しくは、両方のレンズ面形状を上述した反射光が映像表示装置4の一部分に極端に集光しないような形状の制約を持たせて設計することが好ましい。
次に、映像表示装置4として、上述した光学素子2からの反射光を吸収させるために偏光板を配置した液晶パネルとすれば、画質の低下を軽減できる。また、液晶パネルのバックライト光源10は、映像表示装置4に入射する光の入射方向を凹面ミラー1の入射瞳に効率よく入射するように制御される。更に、光源としては、製品寿命が長い固体光源を採用すると良く、更には、周囲温度の変動に対する光出力変化が少ないLED(Light Emitting Diode)として光の発散角を低減する光学手段を設けたPBS(Polarizing Beam Splitter)を用いて偏光変換を行なうことが好ましい。
液晶パネルのバックライト光源10側(光入射面)と光学素子2側(光出射面)には偏光板を配置して、映像光のコントラスト比を高めている。バックライト光源10側(光入射面)に設ける偏光板には、偏光度が高いヨウ素系のものを採用すれば、高いコントラスト比が得られる。一方、光学素子2側(光出射面)には染料系の偏光板を用いることで、外光が入射した場合や環境温度が高い場合でも、高い信頼性を得ることが可能となる。
映像表示装置4として液晶パネルを用いる場合、特に、運転者が偏光サングラスを着用している場合には、特定の偏波が遮蔽されて映像が見えない不具合が発生する。これを防ぐために、液晶パネルの光学素子2側に配置した偏光板の光学素子側にλ/4板を配置し、もって、特定の偏光方向に揃った映像光を円偏光に変換することが好ましい。