(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022113738
(43)【公開日】2022-08-04
(54)【発明の名称】積層体及び包装袋
(51)【国際特許分類】
B32B 27/32 20060101AFI20220728BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20220728BHJP
【FI】
B32B27/32 E
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090162
(22)【出願日】2022-06-02
(62)【分割の表示】P 2019138972の分割
【原出願日】2019-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】田中 亮太
(72)【発明者】
【氏名】田中 歩実
(72)【発明者】
【氏名】西川 健
(57)【要約】
【課題】ポリオレフィン系のフィルムを主構成とする場合であっても、包装袋としたときに高温のレトルト処理が可能な積層体を提供すること。
【解決手段】第1基材層、第2基材層及びシーラント層をこの順に備え、上記第1基材層、上記第2基材層及び上記シーラント層がいずれもポリオレフィンフィルムを含み、上記第1基材層又は上記第2基材層の上記ポリオレフィンフィルムが、少なくとも一方の表面に無機酸化物層を備え、上記第1基材層、上記第2基材層及び上記シーラント層のそれぞれにおける、120℃で15分間加熱した後の走行方向の熱収縮率が下記式を満たす、積層体。
第2基材層の熱収縮率≦5% ・・・(式1)
第2基材層の熱収縮率≧第1基材層の熱収縮率 ・・・(式2)
第2基材層の熱収縮率≧シーラント層の熱収縮率 ・・・(式3)
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1基材層、第2基材層及びシーラント層をこの順に備え、
前記第1基材層、前記第2基材層及び前記シーラント層がいずれもポリオレフィンフィルムを含み、
前記第1基材層又は前記第2基材層の前記ポリオレフィンフィルムが、少なくとも一方の表面に無機酸化物層を備え、
前記第1基材層、前記第2基材層及び前記シーラント層のそれぞれにおける、120℃で15分間加熱した後の走行方向(MD方向)の熱収縮率が下記式を満たす、積層体。
第2基材層の熱収縮率≦5% ・・・(式1)
第2基材層の熱収縮率≧第1基材層の熱収縮率 ・・・(式2)
第2基材層の熱収縮率≧シーラント層の熱収縮率 ・・・(式3)
(但し、熱収縮率(%)=(加熱前の走行方向長さ-加熱後の走行方向長さ)/加熱前の走行方向長さ×100)
【請求項2】
前記熱収縮率が下記式を満たす、請求項1に記載の積層体。
第2基材層の熱収縮率-第1基材層の熱収縮率≧0.3% ・・・(式4)
第2基材層の熱収縮率-シーラント層の熱収縮率≧0.5% ・・・(式5)
【請求項3】
前記熱収縮率が下記式を満たす、請求項1又は2に記載の積層体。
シーラント層の熱収縮率≦2% ・・・(式6)
【請求項4】
前記第1基材層又は前記第2基材層の前記ポリオレフィンフィルムが、少なくとも一方の表面に前記無機酸化物層と、前記無機酸化物層上にガスバリア性被覆層とを備え、
前記ガスバリア性被覆層が、水酸基含有高分子化合物、金属アルコキシド、シランカップリング剤、及び、それらの加水分解物からなる群より選択される少なくとも1種を含有するガスバリア性被覆層形成用組成物を用いて形成される、請求項1~3のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項5】
前記無機酸化物層が酸化ケイ素を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項6】
レトルトパウチ用である、請求項1~5のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の積層体を製袋してなる包装袋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は積層体及び包装袋に関する。
【背景技術】
【0002】
ベースフィルムとして耐熱性及び強靭性に優れた二軸延伸PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムと、シーラント層としてポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンフィルムとを備える積層体が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで近年、海洋プラスチックごみ問題等に端を発する環境意識の高まりから、プラスチック材料の分別回収と再資源化のさらなる高効率化が求められるようになってきている。すなわち、従来、様々な異種材料を組み合わせることで高性能化を図ってきた包装用の積層体においても、モノマテリアル化が求められるようになってきた。
【0005】
積層体においてモノマテリアル化を実現するためには、構成するフィルムを同一素材とする必要がある。しかしながら、ポリオレフィン系のフィルムを用いて積層体を作製した場合、得られる包装袋が高温のレトルト処理に耐えられない虞がある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、ポリオレフィン系のフィルムを主構成とする場合であっても、包装袋としたときに高温のレトルト処理が可能な積層体を提供することを目的とする。本発明はまた、当該積層体を用いる包装袋を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面は、第1基材層、第2基材層及びシーラント層をこの順に備え、上記第1基材層、上記第2基材層及び上記シーラント層がいずれもポリオレフィンフィルムを含み、上記第1基材層又は上記第2基材層の上記ポリオレフィンフィルムが、少なくとも一方の表面に無機酸化物層を備え、上記第1基材層、上記第2基材層及び上記シーラント層のそれぞれにおける、120℃で15分間加熱した後の走行方向(MD方向)の熱収縮率が下記式を満たす、積層体を提供する。
第2基材層の熱収縮率≦5% ・・・(式1)
第2基材層の熱収縮率≧第1基材層の熱収縮率 ・・・(式2)
第2基材層の熱収縮率≧シーラント層の熱収縮率 ・・・(式3)
(但し、熱収縮率(%)=(加熱前の走行方向長さ-加熱後の走行方向長さ)/加熱前の走行方向長さ×100)
【0008】
一態様において、上記熱収縮率が下記式を満たしてよい。
第2基材層の熱収縮率-第1基材層の熱収縮率≧0.3% ・・・(式4)
第2基材層の熱収縮率-シーラント層の熱収縮率≧0.5% ・・・(式5)
【0009】
一態様において、上記熱収縮率が下記式を満たしてよい。
シーラント層の熱収縮率≦2% ・・・(式6)
【0010】
一態様において、上記第1基材層又は上記第2基材層の上記ポリオレフィンフィルムが、少なくとも一方の表面に上記無機酸化物層と、上記無機酸化物層上にガスバリア性被覆層とを備え、上記ガスバリア性被覆層が、水酸基含有高分子化合物、金属アルコキシド、シランカップリング剤、及び、それらの加水分解物からなる群より選択される少なくとも1種を含有するガスバリア性被覆層形成用組成物を用いて形成されてよい。
【0011】
一態様において、上記無機酸化物層が酸化ケイ素を含んでよい。
【0012】
一態様において、上記積層体はレトルトパウチ用であってよい。
【0013】
本発明の一側面は、また、上記の積層体を製袋してなる包装袋を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ポリオレフィン系のフィルムを主構成とする場合であっても、包装袋としたときに高温のレトルト処理が可能な積層体を提供することができる。また、本発明によれば、当該積層体を用いる包装袋を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る積層体を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、場合により図面を参照しつつ本開示の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。また、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0017】
<積層体>
図1は、一実施形態に係る積層体を示す模式断面図である。
図1に示す積層体100は、第1基材層11、第2基材層12及びシーラント層13をこの順に備える。第1基材層11及び第2基材層12、並びに第2基材層12及びシーラント層13は、それぞれ接着剤層Sで接着されていてよい。第1基材層、第2基材層及びシーラント層がいずれもポリオレフィンフィルムを含む。第1基材層又は第2基材層のポリオレフィンフィルムは、例えば水蒸気や酸素に対するガスバリア性向上の観点から、少なくとも一方の表面に無機酸化物層を備える。無機酸化物層を備えるポリオレフィンフィルムはガスバリア性を有しているため、そのような第1基材層又は第2基材層をガスバリア性基材層ということができる。以下、各層について説明する。
【0018】
[第1基材層11]
第1基材層は支持体の一つとなるフィルムであり、ポリオレフィンフィルムを含む。第1基材層がポリオレフィンフィルムからなるものであってよい。ポリオレフィンフィルムとしては、例えばポリエチレンフィルム(PE)、ポリプロピレンフィルム(PP)、ポリブテンフィルム(PB)等が挙げられる。また、ポリオレフィンフィルムとしては、ポリオレフィンを、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の酸無水物、不飽和カルボン酸のエステル等を用いてグラフト変性して得られる酸変性ポリオレフィンフィルム等が挙げられる。
【0019】
第1基材層を構成するポリオレフィンフィルムは、延伸フィルムであってよく、非延伸フィルムであってよい。但し、耐衝撃性、耐熱性、耐水性、寸法安定性等の観点から、ポリオレフィンフィルムは延伸フィルムであってよい。これによりレトルト処理やボイル処理を施す用途に、積層体をより好適に用いることができる。延伸方法としては特に限定されず、インフレーションによる延伸、または一軸延伸、二軸延伸など、寸法が安定したフィルムが供給可能であれば、どのような方法でもよい。
【0020】
ポリオレフィンフィルム厚さは特に限定されない。用途に応じ、当該厚さを6~200μmとすることができるが、優れた耐衝撃性と優れたガスバリア性とを得る観点から、9~50μmであってよく、12~38μmであってよい。
【0021】
ポリオレフィンフィルムには、その積層面に、バリア性能を損なわない範囲でコロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理などの各種前処理を施したり、易接着層などのコート層を設けても構わない。
【0022】
(密着層)
ポリオレフィンフィルムが無機酸化物層を備える場合、ポリオレフィンフィルムの、無機酸化物層を積層する面には密着層(アンカーコート層)が設けられてよい。密着層はポリオレフィンフィルム上に設けられ、ポリオレフィンフィルムと無機酸化物層との密着性能向上と、ポリオレフィンフィルム表面の平滑性向上との二つの効果を得ることができる。なお、平滑性が向上することで無機酸化物層を欠陥なく均一に成膜し易くなり、高いバリア性を発現し易い。密着層はアンカーコート剤を用いて形成することができる。
【0023】
アンカーコート剤としては、例えば、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂等が挙げられる。アンカーコート剤としては、耐熱性及び層間接着強度の観点から、ポリエステル系ポリウレタン樹脂が好ましい。
【0024】
密着層の厚さは特に限定されないが、0.01~5μmの範囲であることが好ましく、0.03~3μmの範囲であることがより好ましく、0.05~2μmの範囲であることが特に好ましい。密着層の厚さが上記下限値以上であると、より十分な層間接着強度が得られる傾向にあり、他方、上記上限値以下であると所望のガスバリア性が発現し易い傾向にある。
【0025】
密着層をポリオレフィンフィルム上に塗工する方法としては、公知の塗工方法が特に制限なく使用可能であり、浸漬法(ディッピング法);スプレー、コーター、印刷機、刷毛等を用いる方法が挙げられる。また、これらの方法に用いられるコーター及び印刷機の種類並びにそれらの塗工方式としては、ダイレクトグラビア方式、リバースグラビア方式、キスリバースグラビア方式、オフセットグラビア方式等のグラビアコーター、リバースロールコーター、マイクログラビアコーター、チャンバードクター併用コーター、エアナイフコーター、ディップコーター、バーコーター、コンマコーター、ダイコーター等を挙げることができる。
【0026】
密着層の塗布量としては、アンカーコート剤を塗工して乾燥した後の1m2あたりの質量が0.01~5g/m2であることが好ましく、0.03~3g/m2であることがより好ましい。アンカーコート剤を塗工して乾燥した後の1m2あたりの質量が上記下限以上であると、成膜が十分となる傾向にあり、他方、上記上限以下であると十分に乾燥し易く溶剤が残留し難い傾向にある。
【0027】
密着層を乾燥させる方法としては、特に限定されないが、自然乾燥による方法や、所定の温度に設定したオーブン中で乾燥させる方法、上記コーター付属の乾燥機、例えばアーチドライヤー、フローティングドライヤー、ドラムドライヤー、赤外線ドライヤー等を用いる方法を挙げることができる。さらに、乾燥の条件としては、乾燥させる方法により適宜選択することができ、例えばオーブン中で乾燥させる方法においては、温度60~100℃にて、1秒間~2分間程度乾燥することが好ましい。
【0028】
密着層として、上記ポリウレタン樹脂に代えて、ポリビニルアルコール系樹脂を用いることができる。ポリビニルアルコール系樹脂としては、ビニルエステル単位がケン化されてなるビニルアルコール単位を有するものであればよく、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)が挙げられる。
【0029】
PVAとしては、例えば、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル等のビニルエステルを、単独で重合し、次いでケン化した樹脂が挙げられる。PVAは、共重合変性又は後変性された変性PVAであってもよい。変性PVAは、例えばビニルエステルと、ビニルエステルと共重合可能な不飽和モノマーを共重合させた後にケン化することで得られる。ビニルエステルと共重合可能な不飽和モノマーとしては、例えばエチレン、プロピレン、イソブチレン、α-オクテン、α-ドデセン、α-オクタデセン等のオレフィン;3-ブテン-1-オール、4-ペンチン-1-オール、5-ヘキセン-1-オール等のヒドロキシ基含有α-オレフィン;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、ウンデシレン酸等の不飽和酸;アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル;ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸;アルキルビニルエーテル、ジメチルアリルビニルケトン、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、ビニルエチレンカーボネート、2,2-ジアルキル-4-ビニル-1,3-ジオキンラン、グリセリンモノアリルエーテル、3,4-ジアセトキシ-1-ブテン等のビニル化合物;塩化ビニリデン、1,4-ジアセトキシ-2-ブテン、ビニレンカーボネート等が挙げられる。
【0030】
PVAの重合度は300~3000が好ましい。重合度が300より小さいとバリア性が低下し易く、また3000超であると粘度が高すぎて塗工適性が低下し易い。PVAのケン化度は90モル%以上が好ましく、95モル%以上がより好ましく、99モル%以上がさらに好ましい。また、PVAのケン化度は100モル%以下であっても、99.9モル%以下であってもよい。PVAの重合度及びケン化度は、JIS K 6726(1994)に記載の方法に準拠して測定できる。
【0031】
EVOHは、一般にエチレンと、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル等の酸ビニルエステルとの共重合体をケン化して得られる。
【0032】
EVOHの重合度は300~3000が好ましい。重合度が300より小さいとバリア性が低下し易く、また3000超であると粘度が高すぎて塗工適性が低下し易い。EVOHのビニルエステル成分のケン化度は90モル%以上が好ましく、95モル%以上がより好ましく、99モル%以上がさらに好ましい。また、EVOHのケン化度は100モル%以下であっても、99.9モル%以下であってもよい。EVOHのケン化度は、核磁気共鳴(1H-NMR)測定を行い、ビニルエステル構造に含まれる水素原子のピーク面積と、ビニルアルコール構造に含まれる水素原子のピーク面積とから求められる。
【0033】
EVOHのエチレン単位含有量は10モル%以上であり、15モル%以上がより好ましく、20モル%以上がさらに好ましく、25モル%以上が特に好ましい。また、EVOHのエチレン単位含有量は65モル%以下が好ましく、55モル%以下がより好ましく、50モル%以下がさらに好ましい。エチレン単位含有量が10モル%以上であると、高湿度下におけるガスバリア性あるいは寸法安定性を良好に保つことができる。一方、エチレン単位含有量が65モル%以下であると、ガスバリア性を高めることができる。EVOHのエチレン単位含有量は、NMR法により求めることができる。
【0034】
密着層としてポリビニルアルコール系樹脂を用いる場合、密着層の形成方法としては、ポリビニルアルコール系樹脂溶液を用いた塗布や、多層押出等が挙げられる。
【0035】
(無機酸化物層)
ポリオレフィンフィルムが無機酸化物層を備える場合、無機酸化物層に含まれる無機酸化物としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化錫等が挙げられる。透明性及びバリア性の観点から、無機酸化物としては、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、及び酸化マグネシウムからなる群より選択されてよい。また、加工時に引っ張り延伸性に優れる観点から、無機酸化物層を酸化ケイ素を用いた層とすることが好ましい。無機酸化物層を用いることにより、積層体のリサイクル性に影響を与えない範囲のごく薄い層で、高いバリア性を得ることができる。
【0036】
無機酸化物層のO/Si比は1.7以上であることが望ましい。O/Si比が1.7以上であると金属Siの含有割合が抑制されて良好な透明性が得られ易い。また、O/Si比は2.0以下であることが好ましい。O/Si比が2.0以下であるとSiOの結晶性が高くなって無機酸化物層が硬くなり過ぎることを防ぐことができ、良好な引張り耐性が得られる。これにより、ガスバリア性被覆層を積層する際に無機酸化物層にクラックが発生することを抑制することができる。また、包装袋に成形後もボイルやレトルト処理時の熱によりポリオレフィンフィルムが収縮することがあるが、O/Si比が2.0以下であることで無機酸化物層が上記収縮に追従し易く、バリア性の低下を抑制することができる。これらの効果をより十分に得る観点から、無機酸化物層のO/Si比は1.75以上1.9以下であることが好ましく、1.8以上1.85以下であることがより好ましい。
【0037】
無機酸化物層のO/Si比は、X線光電子分光法(XPS)により求めることができる。例えば、測定装置はX線光電子分光分析装置(日本電子株式会社製、商品名:JPS-90MXV)にて、X線源は非単色化MgKα(1253.6eV)を使用し、100W(10kV-10mA)のX線出力で測定することができる。O/Si比を求めるための定量分析には、それぞれO1sで2.28、Si2pで0.9の相対感度因子を用いることができる。
【0038】
無機酸化物層の膜厚は、10nm以上50nm以下であることが好ましい。膜厚が10nm以上であると、十分な水蒸気バリア性を得ることができる。また、膜厚が50nm以下であると、薄膜の内部応力による変形によりクラックが発生することを抑制し、水蒸気バリア性の低下を抑制することができる。なお、膜厚が50nmを超えると、材料使用量の増加、及び膜形成時間の長時間化等に起因してコストが増加し易いため、経済的観点からも好ましくない。上記と同様の観点から、無機酸化物層の膜厚は、20nm以上40nm以下であることがより好ましい。
【0039】
無機酸化物層は、例えば真空成膜で形成することができる。真空成膜では、物理気相成長法あるいは化学気相成長法を用いることができる。物理気相成長法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。化学気相成長法としては、熱CVD法、プラズマCVD法、光CVD法等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0040】
上記真空成膜では、抵抗加熱式真空蒸着法、EB(Electron Beam)加熱式真空蒸着法、誘導加熱式真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、デュアルマグネトロンスパッタリング法、プラズマ化学気相堆積法(PECVD法)等が特に好ましく用いられる。但し、生産性を考慮すれば、現時点では真空蒸着法が最も優れている。真空蒸着法の加熱手段としては電子線加熱方式や抵抗加熱方式、誘導加熱方式のいずれかの方式を用いることが好ましい。
【0041】
(ガスバリア性被覆層)
ポリオレフィンフィルムは無機酸化物層上にガスバリア性被覆層を備えてよい。ガスバリア性被覆層は、水酸基含有高分子化合物、金属アルコキシド、シランカップリング剤、及び、それらの加水分解物からなる群より選択される少なくとも1種を含有するガスバリア性被覆層形成用組成物を用いて形成された層である。
【0042】
ガスバリア性被覆層は、ガスバリア性を持った被膜層であり、水酸基含有高分子化合物、金属アルコキシド、シランカップリング剤、及び、それらの加水分解物からなる群より選択される少なくとも1種を含む水溶液或いは水/アルコール混合溶液を主剤とするガスバリア性被覆層形成用組成物(以下、コーティング剤ともいう)を用いて形成される。コーティング剤は、レトルト処理等の熱水処理後のガスバリア性をより十分に維持する観点から、少なくともシランカップリング剤又はその加水分解物を含有することが好ましく、水酸基含有高分子化合物、金属アルコキシド及びそれらの加水分解物からなる群より選択される少なくとも1種と、シランカップリング剤又はその加水分解物とを含有することがより好ましく、水酸基含有高分子化合物又はその加水分解物と、金属アルコキシド又はその加水分解物と、シランカップリング剤又はその加水分解物とを含有することが更に好ましい。コーティング剤は、例えば、水溶性高分子である水酸基含有高分子化合物を水系(水或いは水/アルコール混合)溶媒で溶解させた溶液に、金属アルコキシドとシランカップリング剤とを直接、或いは予め加水分解させるなどの処理を行ったものを混合して調製することができる。
【0043】
ガスバリア性被覆層を形成するためのコーティング剤に含まれる各成分について詳細に説明する。コーティング剤に用いられる水酸基含有高分子化合物としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デンプン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム等が挙げられる。これらの中でもポリビニルアルコール(PVA)をガスバリア性被覆層のコーティング剤に用いた場合、ガスバリア性が特に優れるので好ましい。
【0044】
ガスバリア性被覆層は、優れたガスバリア性を得る観点から、下記一般式(I)で表わされる金属アルコキシド及びその加水分解物からなる群より選択される少なくとも1種を含む組成物から形成されることが好ましい。
M(OR1)m(R2)n-m …(I)
上記一般式(I)中、R1及びR2はそれぞれ独立に炭素数1~8の1価の有機基であり、メチル基、エチル基等のアルキル基であることが好ましい。MはSi、Ti、Al、Zr等のn価の金属原子を示す。mは1~nの整数である。なお、R1又はR2が複数存在する場合、R1同士又はR2同士は同一でも異なっていてもよい。
【0045】
金属アルコキシドとして具体的には、テトラエトキシシラン〔Si(OC2H5)4〕、トリイソプロポキシアルミニウム〔Al(O-2’-C3H7)3〕などが挙げられる。テトラエトキシシラン及びトリイソプロポキシアルミニウムは、加水分解後、水系の溶媒中において比較的安定であるので好ましい。
【0046】
シランカップリング剤としては、下記一般式(II)で表される化合物が挙げられる。
Si(OR11)p(R12)3-pR13 …(II)
上記一般式(II)中、R11はメチル基、エチル基等のアルキル基を示し、R12はアルキル基、アラルキル基、アリール基、アルケニル基、アクリロキシ基で置換されたアルキル基、又は、メタクリロキシ基で置換されたアルキル基等の1価の有機基を示し、R13は1価の有機官能基を示し、pは1~3の整数を示す。なお、R11又はR12が複数存在する場合、R11同士又はR12同士は同一でも異なっていてもよい。R13で示される1価の有機官能基としては、グリシジルオキシ基、エポキシ基、メルカプト基、水酸基、アミノ基、ハロゲン原子で置換されたアルキル基、又は、イソシアネート基を含有する1価の有機官能基が挙げられる。
【0047】
シランカップリング剤として具体的には、ビニルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、グリシドオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等のシランカップリング剤などが挙げられる。
【0048】
また、シランカップリング剤は、上記一般式(II)で表される化合物が重合した多量体であってもよい。多量体としては三量体が好ましく、より好ましくは1,3,5-トリス(3-トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレートである。これは、3-イソシアネートアルキルアルコキシシランの縮重合体である。この1,3,5-トリス(3-トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレートは、イソシア部には化学的反応性はなくなるが、ヌレート部の極性により反応性は確保されることが知られている。一般的には、3-イソシアネートアルキルアルコキシランと同様に接着剤などに添加され、接着性向上剤として知られている。よって1,3,5-トリス(3-トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレートを、水酸基含有高分子化合物に添加することにより、水素結合によりガスバリア性被覆層の耐水性を向上させることができる。3-イソシアネートアルキルアルコキシランは反応性が高く、液安定性が低いのに対し、1,3,5-トリス(3-トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレートは、ヌレート部はその極性により水溶性ではないが、水系溶液中に分散しやすく、液粘度を安定に保つことができる。また、耐水性能は3-イソシアネートアルキルアルコキシランと1,3,5-トリス(3-トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレートとは同等である。
【0049】
1,3,5-トリス(3-トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレートは、3-イソシアネートプロピルアルコキシシランの熱縮合により製造されるものもあり、原料の3-イソシアネートプロピルアルコキシシランが含まれる場合もあるが、特に問題はない。さらに好ましくは、1,3,5-トリス(3-トリアルコキシシリルプロピル)イソシアヌレートであり、より好ましくは1,3,5-トリス(3-トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートである。このメトキシ基は加水分解速度が速く、またプロピル基を含むものは比較的安価に入手し得ることから1,3,5-トリス(3-トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートは実用上有利である。
【0050】
また、コーティング剤には、ガスバリア性を損なわない範囲で、イソシアネート化合物、あるいは、分散剤、安定化剤、粘度調整剤、着色剤などの公知の添加剤を必要に応じて加えることも可能である。
【0051】
ガスバリア性被覆層の厚さは、50~1000nmであることが好ましく、100~500nmであることがより好ましい。ガスバリア性被覆層の厚さが50nm以上であると、より十分なガスバリア性を得ることができる傾向があり、1000nm以下であると、十分な柔軟性を保持できる傾向がある。
【0052】
ガスバリア性被覆層を形成するためのコーティング液は、例えば、ディッピング法、ロールコート法、グラビアコート法、リバースグラビアコート法、エアナイフコート法、コンマコート法、ダイコート法、スクリーン印刷法、スプレーコート法、グラビアオフセット法等により塗布することができる。このコーティング液を塗布してなる塗膜は、例えば、熱風乾燥法、熱ロール乾燥法、高周波照射法、赤外線照射法、UV照射法、またはそれらの組み合わせにより乾燥させることができる。
【0053】
上記塗膜を乾燥させる際の温度は、例えば、温度50~150℃とすることができ、温度70~100℃とすることが好ましい。乾燥時の温度を上記範囲内とすることで、無機酸化物層やガスバリア性被覆層にクラックが発生することをより一層抑制でき、優れたバリア性を発現することができる。
【0054】
ガスバリア性被覆層は、ポリビニルアルコール系樹脂及びシラン化合物を含むコーティング剤を用いて形成されてよい。コーティング剤には、必要に応じて酸触媒、アルカリ触媒、光重開始剤等を加えてよい。
【0055】
ポリビニルアルコール系樹脂は上記のとおりである。また、シラン化合物としては、シランカップリング剤、ポリシラザン、シロキサン等が挙げられ、具体的には、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等が挙げられる。
【0056】
(印刷層)
第1基材層の第2基材層側には、印刷層を設けることができる。印刷層は、内容物に関する情報の表示、内容物の識別、あるいは包装袋の意匠性向上を目的として、積層体の外側から見える位置に設けられる。印刷方法及び印刷インキは特に制限されず、既知の印刷方法及び印刷インキの中からフィルムへの印刷適性、色調などの意匠性、密着性、食品容器としての安全性などを考慮して適宜選択される。印刷方法としては、例えば、グラビア印刷法、オフセット印刷法、グラビアオフセット印刷法、フレキソ印刷法、インクジェット印刷法などを用いることができる。中でもグラビア印刷法は生産性や絵柄の高精細度の観点から、好ましく用いることができる。
【0057】
印刷層の密着性を高めるため、第1基材層の第2基材層側の表面には、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理などの各種前処理を施したり、易接着層などのコート層を設けても構わない。第1基材層の第2基材層側の表面としては、ポリオレフィンフィルムの表面(第1基材層がガスバリア性基材層でない場合)、ガスバリア性被覆層の表面(第1基材層がガスバリア性基材層である場合)が挙げられる。
【0058】
[第2基材層12]
第2基材層の構成は、第1基材層の構成に関し記載した上記内容を適宜参照することができる。第1基材層がガスバリア性基材層である場合、第2基材層はガスバリア性基材層である必要はなく、逆に第2基材層がガスバリア性基材層である場合、第1基材層はガスバリア性基材層である必要はない。
【0059】
(接着剤層S)
接着剤層を介して、第1基材層と第2基材層とを積層することができる。接着剤の材料としては、例えば、ポリエステル-イソシアネート系樹脂、ウレタン樹脂、ポリエーテル系樹脂などを用いることができる。包装袋をレトルト用途に使用するには、レトルト耐性のある2液硬化型のウレタン系接着剤を好ましく用いることができる。
【0060】
[シーラント層13]
シーラント層は、積層体においてヒートシールによる封止性を付与する層であり、ポリオレフィンフィルムを含む。シーラント層がポリオレフィンフィルムからなるものであってよい。
【0061】
シーラント層の材質としては、熱可塑性樹脂のうちポリオレフィン系樹脂が一般的に使用され、具体的には、低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)、中密度ポリエチレン樹脂(MDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(LLDPE)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-αオレフィン共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体などのエチレン系樹脂や、ポリエチレンとポリブテンのブレンド樹脂や、ホモポリプロピレン樹脂(PP)、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-エチレンブロック共重合体、プロピレン-αオレフィン共重合体などのポリプロピレン系樹脂等を使用することができる。これらの熱可塑性樹脂は、使用用途やボイル、レトルト処理などの温度条件によって適宜選択できる。
【0062】
シーラント層を構成するポリオレフィンフィルムには、難燃剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、酸化防止剤、光安定剤、粘着付与剤等の各種添加材が添加されてよい。
【0063】
シーラント層の厚さは、内容物の質量や、包装袋の形状などにより定められるが、概ね30~150μmの厚さが好ましい。
【0064】
シーラント層の形成方法としては、上述の熱可塑性樹脂からなるフィルム状のシーラント層を一液硬化型もしくは二液硬化型ウレタン系接着剤等の接着剤で貼りあわせるドライラミネート法、フィルム状のシーラント層を無溶剤接着剤を用いて貼りあわせるノンソルベントドライラミネート法、上述した熱可塑性樹脂を加熱溶融させ、カーテン状に押し出し、貼りあわせるエクストルージョンラミネート法等、いずれも公知の積層方法により形成することができる。
【0065】
上記形成方法の中でも、レトルト処理、特に120℃以上の高温熱水処理に対する耐性が高く好ましいのは、ドライラミネート法である。一方、包装袋を85℃以下の温度で処理する用途に用いるのであれば、ラミネート方式は特に制限されない。
【0066】
[各層の熱収縮率]
上記積層体において、第1基材層、第2基材層及びシーラント層のそれぞれにおける、120℃で15分間加熱した後の走行方向(MD方向)の熱収縮率は、下記式を満たす。
第2基材層の熱収縮率≦5% ・・・(式1)
第2基材層の熱収縮率≧第1基材層の熱収縮率 ・・・(式2)
第2基材層の熱収縮率≧シーラント層の熱収縮率 ・・・(式3)
【0067】
ここで、上記熱収縮率(%)とは、下記式により算出される値である。
(加熱前の走行方向長さ-加熱後の走行方向長さ)/加熱前の走行方向長さ×100
熱収縮率の測定手順は以下のとおりである。
(1)測定対象層を20cm×20cmに切り出して測定サンプルとする。
(2)測定サンプルの走行方向に10cmの線を書き込む(加熱前の走行方向長さ)。
(3)測定サンプルを120℃で15分間加熱する。
(4)書き込んだ線の走行方向長さを測定する(加熱後の走行方向長さ)。
(5)上記式より熱収縮率を算出する。
【0068】
第2基材層の熱収縮率は5%以下である。これによりバリア加工をする際にガスバリア性被覆層にクラックが生じ難くなるため、バリア性が良好となる。この観点から、当該熱収縮率は4%以下とすることができ、3%以下であってよい。なお、熱収縮率が非常に小さいフィルムを製膜するにはヒートセット(熱固定)に時間を要するため、生産性が大幅に悪くなるという事情がある。この観点から、第2基材層の熱収縮率の下限は1.5%以上とすることができる。
【0069】
第2基材層の熱収縮率は、第1基材層の熱収縮率以上でありかつシーラント層の熱収縮率以上である。第2基材層を、第2基材層の熱収縮率よりも小さい熱収縮率を有する第1基材層及びシーラント層で挟み込みラミネートすることで、積層体としての熱収縮率を低減することができる。これにより、レトルト処理時にガスバリア機能の低減が抑制されるため、レトルト処理後のバリア性を維持することができる。この観点から、第2基材層の熱収縮率-第1基材層の熱収縮率は0.3%以上とすることができ、0.5%以上であってよい。第2基材層の熱収縮率が第1基材層の熱収縮率より一定以上大きいと、積層体としての収縮率の低減効果が得難くなる。これによりガスバリア機能の低減が抑制し難くなるため、第2基材層の熱収縮率-第1基材層の熱収縮率の上限は1.5%以下とすることができる。また、第2基材層の熱収縮率-シーラント層の熱収縮率は0.5%以上とすることができ、1.0%以上であってよい。第2基材層の熱収縮率がシーラント層の熱収縮率より一定以上大きいと、積層体としての収縮率の低減効果が得難くなる。これにより、ガスバリア機能の低減が抑制し難くなるため、第2基材層の熱収縮率-シーラント層の熱収縮率の上限は3.0%以下とすることができる。
【0070】
シーラント層の熱収縮率は2%以下とすることができる。これにより積層体の熱収縮をより抑制し易くなる。この観点から、当該熱収縮率は1%以下であってよい。
【0071】
上記のとおり、積層体を構成するフィルムは、全てポリオレフィンフィルムとすることができる。そのような積層体は、リサイクル性に優れる単一素材からなる(モノマテリアルの)包装材料と言うことができる。この観点から、積層体の全質量に対し、ポリオレフィン成分以外の成分(例えば、接着剤やインキ成分)の合計質量は10質量%以下とすることができ、7.5質量%以下であってよい。
【0072】
また、上記積層体は、包装袋としたときに高温のレトルト処理が可能であり、レトルトパウチ用途に好適に用いることができる。
【0073】
<包装袋>
包装袋は、上述した積層体を製袋してなるものである。包装袋は、1枚の積層体をシーラント層が対向するように二つ折りにした後、3方をヒートシールすることによって袋形状としたものであってもよく、2枚の積層体をシーラント層が対向するように重ねた後、4方をヒートシールすることによって袋形状としたものであってもよい。包装袋は、内容物として食品、医薬品等の内容物を収容し、レトルト処理やボイル処理などの加熱殺菌処理を施すことができる。
【0074】
レトルト処理は、一般に食品、医薬品等を保存するために、カビ、酵母、細菌などの微生物を加圧殺菌する方法である。通常は、食品等を包装した包装袋を、105~140℃、0.15~0.30MPaで10~120分の条件で加圧殺菌処理をする。レトルト装置は、加熱蒸気を利用する蒸気式と加圧加熱水を利用する熱水式があり、内容物となる食品等の殺菌条件に応じて適宜使い分ける。ボイル処理は、食品、医薬品等を保存するため湿熱殺菌する方法である。通常は、内容物にもよるが、食品等を包装した包装袋を、60~100℃、大気圧下で、10~120分の条件で湿熱殺菌処理を行う。ボイル処理は、通常、熱水槽を用いて100℃以下で処理を行う。方法としては、一定温度の熱水槽の中に浸漬し一定時間処理した後に取り出すバッチ式と、熱水槽の中をトンネル式に通して処理する連続式がある。
【0075】
上記包装袋は特に、120℃以上の温度でレトルト処理を施す用途に好適に用いることができる。上記積層体を用いた包装袋は、レトルト処理を施した場合であっても、優れたバリア性を維持することができる。
【実施例0076】
本開示を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本開示はこれらの例に限定されるものではない。
【0077】
<第1基材層及び第2基材層の準備>
第1基材層及び第2基材層として、以下の延伸ポリプロピレンフィルムを準備した。なお、以下「収縮率」とは、120℃で15分間加熱した後の走行方向(MD方向)の熱収縮率である。
[第1基材層]
OPP(収縮率2.0%):厚さ20μm
OPP(収縮率3.1%):厚さ20μm
OPP(収縮率4.1%):厚さ20μm
EVOH-OPP(収縮率2.0%):厚さ18μm。OPPフィルム上にEVOH層(密着層)が設けられたもの。
[第2基材層]
OPP(収縮率2.6%):厚さ20μm
OPP(収縮率2.6%):厚さ18μm
OPP(収縮率3.8%):厚さ20μm
EVOH-OPP(収縮率2.6%):厚さ18μm。OPPフィルム上にEVOH層(密着層)が設けられたもの。
【0078】
ガスバリア性基材層の製造方法は以下のとおりである。
【0079】
[密着層形成用組成物の調製]
アクリルポリオールとトリレンジイソシアネートとを、アクリルポリオールのOH基の数に対してトリレンジイソシアネートのNCO基の数が等量となるように混合し、全固形分(アクリルポリオール及びトリレンジイソシアネートの合計量)が5質量%になるよう酢酸エチルで希釈した。希釈後の混合液に、さらにβ-(3,4エポキシシクロヘキシル)トリメトキシシランを、アクリルポリオール及びトリレンジイソシアネートの合計量100質量部に対して5質量部となるように添加し、これらを混合することで密着層形成用組成物(アンカーコート剤)を調製した。
【0080】
[ガスバリア性被覆層形成用組成物の調製]
下記のA液、B液及びC液を、それぞれ65/25/10の質量比で混合することで、ガスバリア性被覆層形成用組成物を調製した。
A液:テトラエトキシシラン(Si(OC2H5)4)17.9gとメタノール10gに0.1N塩酸72.1gを加えて30分間攪拌して加水分解させた固形分5質量%(SiO2換算)の加水分解溶液。
B液:ポリビニルアルコールの5質量%水/メタノール溶液(水:メタノールの質量比は95:5)。
C液:1,3,5-トリス(3-トリアルコキシシリルプロピル)イソシアヌレートを水/イソプロピルアルコールの混合液(水:イソプロピルアルコールの質量比は1:1)で固形分5質量%に希釈した加水分解溶液。
【0081】
[ガスバリア性OPPの製造]
延伸ポリプロピレンフィルムのコロナ処理面に、上記密着層形成用組成物をグラビアロールコート法にて塗工し、60℃で乾燥及び硬化させ、塗布量が0.1g/m2であるポリエステル系ポリウレタン樹脂からなる密着層を形成した。次に、電子線加熱方式による真空蒸着装置により、厚さ30nmの酸化ケイ素からなる透明な無機酸化物層(シリカ蒸着層)を形成した。シリカ蒸着層としては、蒸着材料種を調整し、O/Si比が1.8である蒸着層を形成した。O/Si比は、X線光電子分光分析装置(日本電子株式会社製、商品名:JPS-90MXV)にて、X線源は非単色化MgKα(1253.6eV)を使用し、100W(10kV-10mA)のX線出力で測定した。O/Si比を求めるための定量分析には、それぞれO1sで2.28、Si2pで0.9の相対感度因子を用いて行った。
【0082】
無機酸化物層としてアルミナ蒸着層を形成する場合は、以下のようにして行った。すなわち、電子ビーム式真空蒸着法により、酸素を導入しながらアルミを蒸発させ、厚み10nmのAlOx蒸着膜を形成した。
【0083】
次に、無機酸化物層上に、上記ガスバリア性被覆層形成用組成物をグラビアロールコート法にて塗工し、オーブン中、張力20N/m、乾燥温度120℃の条件で加熱乾燥させ、厚さ0.3μmのガスバリア性被覆層を形成した。これにより、フィルム基材/密着層/無機酸化物層/ガスバリア性被覆層の積層構造を有するガスバリアフィルムを得た。
【0084】
[ガスバリア性EVOH-OPPの製造]
EVOH-OPPフィルムのEVOH層(密着層)上に、上記と同様にして無機酸化物層(シリカ蒸着層)を形成した。次に、上記と同様にして、無機酸化物層上に、上記ガスバリア性被覆層形成用組成物を用いてガスバリア性被覆層を形成した。これにより、フィルム基材/EVOH層(密着層)/無機酸化物層/ガスバリア性被覆層の積層構造を有するガスバリアフィルムを得た。
【0085】
<シーラント層の準備>
シーラント層として、以下のポリプロピレンフィルムを準備した。
CPP(収縮率0.2%):厚さ70μm
CPP(収縮率1.8%):厚さ70μm
【0086】
<各層の収縮率の測定>
各層の熱収縮率(%)は、以下の手順に従って測定した。
(1)測定対象層を20cm×20cmに切り出して測定サンプルとした。
(2)測定サンプルの走行方向に10cmの線を書き込んだ(加熱前の走行方向長さ)。
(3)測定サンプルを120℃で15分間加熱した。
(4)書き込んだ線の走行方向長さを測定した(加熱後の走行方向長さ)。
(5)下記式より熱収縮率を算出した。
(加熱前の走行方向長さ-加熱後の走行方向長さ)/加熱前の走行方向長さ×100
【0087】
<積層体の製造>
表1に示す各層の組合せに基づき、各実施例及び比較例の積層体を製造した。積層体の製造方法は以下のとおりである。
(実施例1)
第2基材層のコロナ処理面に、第1基材層を、2液型の接着剤(三井化学株式会社製、商品名:主剤A525/硬化剤A52)を介してドライラミネート法によってラミネートし、また第2基材層の非コロナ処理面にシーラント層を同様にラミネートした。第1基材層のガスバリア性被覆層(バリア面)は第2基材層側とした。これにより、第1基材層(ガスバリア性基材層)/接着剤層/第2基材層/接着剤層/シーラント層の積層構造を有する積層体を製造した。
(実施例2)
第2基材層のガスバリア性被覆層上に、第1基材層を、上記2液型の接着剤を介してドライラミネート法によってラミネートし、また第2基材層の非コロナ処理面にシーラント層を同様にラミネートした。これにより、第1基材層/接着剤層/第2基材層(ガスバリア性基材層)/接着剤層/シーラント層の積層構造を有する積層体を製造した。
(実施例7)
各層の組合せを表1のとおり変更し、ガスバリア性被覆層がシーラント層側となるように第2基材層を積層したこと以外は、実施例2と同様にして積層体を製造した。
(比較例4、5)
各層の組合せを表1のとおり変更し、ガスバリア性被覆層がシーラント層側となるように第2基材層を積層し、第1基材層を積層しなかったこと以外は、実施例2と同様にして積層体を製造した。
(その他の実施例及び比較例)
各層の組合せを表1のとおり変更したこと以外は、実施例1又は実施例2と同様にして積層体を製造した。
【0088】
【0089】
<包装袋の製造>
各例で得られた積層体を15cm×10cmのサイズに切り出し、切り出した2枚の包装フィルムを互いのシーラント層が対向するように重ねた。そしてパウチ状に3方インパルスシールした後、内容物として100mlの水道水を入れ、残り一辺をインパルスシールした。これにより、4方シールされたパウチ(包装袋)を作製した。
【0090】
<ガスバリア性評価>
各例で得られたパウチに対し、レトルト装置にて0.2MPa、121℃で30分間レトルト処理を行った。レトルト処理後、パウチ内の水道水を捨て、十分に乾燥させた状態で、ガスバリア性の評価を行った。具体的には、以下のとおり酸素透過度(OTR)及び水蒸気透過度(WTR)を測定した。結果を表2に示す。
酸素透過度:
酸素透過度測定装置(MOCON社製、商品名:OX-TRAN2/20)
温度30℃、相対湿度70%の条件で測定(JIS K-7126、B法)
測定値は単位[cc/m2・day・MPa]で表記。
水蒸気透過度:
水蒸気透過度測定装置(MOCON社製、商品名:PERMATRAN-W 3/33)
温度40℃、相対湿度90%の条件で測定(JIS K-7126、B法)
測定値は単位[g/m2・day]で表記。
【0091】
本発明に係る積層体は、レトルト処理可能な包装袋を実現可能であると共に、その構成フィルムを実質的に全てポリオレフィンフィルムとすることができる。そのような積層体は、単一素材からなる(モノマテリアルの)包装材料と言うことができ、優れたリサイクル性が期待される。