(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022113877
(43)【公開日】2022-08-04
(54)【発明の名称】木質構造
(51)【国際特許分類】
E04B 1/26 20060101AFI20220728BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20220728BHJP
【FI】
E04B1/26 G
E04B1/58 508L
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022097898
(22)【出願日】2022-06-17
(62)【分割の表示】P 2018083851の分割
【原出願日】2018-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】辻 靖彦
(57)【要約】
【課題】破壊を抑制するとともに、残留変形を残りにくくする。
【解決手段】
木質構造であって、鋼材は上に凸となる曲線状であり、鋼材は柱を貫通して、一方側梁の下端から他方側梁の下端に至っており、鋼材は、一方側梁及び他方側梁の上端よりも下方の位置において、柱を貫通していることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質部材である柱と、
木質部材であって、前記柱の長手方向と直交する方向の一方側に設けられた一方側梁と、
木質部材であって、前記柱の長手方向と直交する方向の他方側に設けられた他方側梁と、
予め所定の引張応力が付与されて、前記一方側梁と前記柱と前記他方側梁とを連結する曲線状の鋼材と、
を備えた木質構造であって、
前記鋼材は、上に凸となる曲線状であり、
前記鋼材は、前記柱を貫通して、前記一方側梁の下端から前記他方側梁の下端に至っており、
前記鋼材は、前記一方側梁及び前記他方側梁の上端よりも下方の位置において、前記柱を貫通している
ことを特徴とする木質構造。
【請求項2】
請求項1に記載の木質構造であって、
予め所定の引張応力が付与されて、前記一方側梁と前記柱と前記他方側梁とを連結する曲線状の他の鋼材を有し、
前記他の鋼材は、下に凸となる曲線状であり、
前記他の鋼材は、前記柱を貫通して、前記一方側梁の上端から前記他方側梁の上端に至っており、
前記他の鋼材は、前記一方側梁及び前記他方側梁の下端よりも上方の位置において、前記柱を貫通している
ことを特徴とする木質構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質構造に関する。
【背景技術】
【0002】
木造建物等では柱や大梁が別々の部材として製作されることが一般的なため、鉄筋コンクリート造、鉄骨造とは違って、接合部(例えば柱梁接合部)の一体性の確保が困難である。そのため、既往の継手形式によっては継手のガタつきなどにより初期剛性が低下したり、破壊形式が脆性的になったり、大きな力(弾性範囲を超える力)を受けると強度・剛性が大幅に低下したりすることがある。そこで、木造の柱と梁の接合部に、予め引張応力(緊張力)を付与した鋼材を設け、鋼材が元に戻ろうとする圧縮応力(プレストレス)により柱と梁を圧着させる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような木質構造では、鋼材に引張応力を付与する際に、木質の部材のうち引張応力を付与している部位とその周辺の部位との間で破壊(割裂破壊)するおそれがあった。また、鋼材が降伏することにより残留変形が残るおそれがあった。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、破壊を抑制するとともに、残留変形を残りにくくすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するため、本発明の木質構造は、木質部材である柱と、木質部材であって、前記柱の長手方向と直交する方向の一方側に設けられた一方側梁と、木質部材であって、前記柱の長手方向と直交する方向の他方側に設けられた他方側梁と、予め所定の引張応力が付与されて、前記一方側梁と前記柱と前記他方側梁とを連結する曲線状の鋼材と、を備えた木質構造であって、前記鋼材は、上に凸となる曲線状であり、前記鋼材は、前記柱を貫通して、前記一方側梁の下端から前記他方側梁の下端に至っており、前記鋼材は、前記一方側梁及び前記他方側梁の上端よりも下方の位置において、前記柱を貫通していることを特徴とする。
【0007】
かかる木質構造であって、予め所定の引張応力が付与されて、前記一方側梁と前記柱と前記他方側梁とを連結する曲線状の他の鋼材を有し、前記他の鋼材は、下に凸となる曲線状であり、前記他の鋼材は、前記柱を貫通して、前記一方側梁の上端から前記他方側梁の上端に至っており、前記他の鋼材は、前記一方側梁及び前記他方側梁の下端よりも上方の位置において、前記柱を貫通していることとしてもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、破壊を抑制するとともに、残留変形を残りにくくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】
図1Aの柱用板材10Aと梁用板材20Aを透過した見た正面図である。
【
図4】
図4A~4Cは、本実施形態の柱梁接合構造の施工方法の一例を示す図である。
【
図6】柱梁接合構造の第1変形例を示す概略図である。
【
図7】柱梁接合構造の第2変形例を示す概略図である。
【
図8】柱梁接合構造の第3変形例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の説明から明らかなように、少なくとも、次のような発明が含まれる。
【0011】
一方の木質部材と、他方の木質部材と、予め所定の引張応力が付与されて、前記一方の木質部材と前記他方の木質部材とを連結する曲線状の鋼材と、を備えることを特徴とする木質構造。
このような木質構造によれば、破壊を抑制できるとともに、残留変形を残りにくくすることできる。また、鋼材が直線状の場合と比べて、施工における制約を改善でき施工が簡易になる。
【0012】
かかる木質構造であって、前記一方の木質部材及び前記他方の木質部材を前記曲線状に貫通する貫通穴を有し、前記鋼材は前記貫通穴に挿入されていることが望ましい。
このような木質構造によれば、一方の木質部材と他方の木質部材に曲線状の鋼材を配置することができる。
【0013】
かかる木質構造であって、前記一方の木質部材及び前記他方の木質部材は、ぞれぞれ、板状の木質板材が複数積層されて構成されたものであり、前記貫通穴は、複数の前記木質板材のうちの隣接する前記木質板材の境界部分に設けられており、前記隣接する前記木質板材の対向する面のうちの少なくとも一方には、前記貫通穴を構成するための溝部が設けられていることが望ましい。
このような木質構造によれば、貫通穴を加工しやすい。
【0014】
かかる木質構造であって、前記貫通穴が形成された部位における前記一方の木質部材の繊維方向、及び、前記他方の木質部材の繊維方向は、それぞれ、前記一方の木質部材と前
記他方の木質部材を連結する方向と一致していることが望ましい。
このような木質構造によれば、一方の木質部材と他方の木質部材の当接部分に金物などの補強部材を設けなくてもよい。
【0015】
かかる木質構造であって、前記鋼材が、前記一方の木質部材又は前記他方の木質部材に対して固定される支圧面を有し、前記支圧面の法線方向は、前記繊維方向に対して傾いていることが望ましい。
このような木質構造によれば、割裂破壊しにくくできる。
【0016】
かかる木質構造であって、前記曲線を上下反転させた形状に設けられた反転鋼材をさらに有し、前記一方の木質部材と前記他方の木質部材は、前記鋼材と前記反転鋼材とによって連結されていることが望ましい。
このような木質構造によれば、面内力をキャンセルでき安定する。
【0017】
かかる木質構造であって、前記鋼材は、前記曲線の径方向に並ぶように複数設けられており、内側の前記鋼材の長さが、外側の前記鋼材の長さよりも短いことが望ましい。
このような木質構造によれば、破壊を抑制しつつ、プレストレスをより大きくすることができる。
【0018】
かかる木質構造であって、前記一方の木質部材は柱であり、前記他方の木質部材は梁であり、前記鋼材は、前記柱を跨いで設けられることが望ましい。
このような木質構造によれば、鋼材を長くできるので、過大な力が加わった場合でも、鋼材の弾性伸びの範囲で接合部が離間して剛性が低下することで、架構としては健全性が保たれる。
【0019】
かかる木質構造であって、前記一方の木質部材又は前記他方の木質部材の少なくとも一方と、前記鋼材との摩擦により減衰力が発生することが望ましい。
このような木質構造によれば、エネルギー吸収でき、揺れを抑制できる。
【0020】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。以下の実施形態では、木質構造として木質の柱と梁との接合構造を例に挙げて説明する。
【0021】
===実施形態===
<<柱梁接合構造について>>
図1A~
図1Cは、本実施形態の柱梁接合構造の説明図である。
図1Aは正面図、
図1Bは、
図1AのA-A断面図、
図1Cは、
図1AのB-B断面図である。また、
図2は、
図1Aの柱用板材10Aと梁用板材20Aを透過して見た正面図である。
【0022】
なお、本実施形態では図に示すように方向を定義する。すなわち鉛直方向をZ方向とし、Z方向と直交する水平方向のうち梁20の長手方向をX方向とし、X方向及びZ方向と直交する方向をY方向とする。
【0023】
本実施形態の木質構造は、例えば木造建物などにおける架構構造(柱と梁で構成された構造)であり、柱10と、梁20と、鋼材30及び鋼材40と、せん断力伝達部材50とを有している。
【0024】
柱10は、梁20や床(不図示)などの鉛直荷重を支える構造部材であり、Z方向(鉛直方向)に沿って立設されている。本実施形態の柱10は、木質部材であり、
図1Bに示すように4つの木質板材(柱用板材10A、10B、10C、及び、柱内梁板材10D)を有している。柱用板材10A、10B、10Cは、長辺がZ方向に沿うように配置された矩形の板状部材であり、
図1Bに示すように、Y方向に積層されている。ただし、梁20との接合部において、柱用板材10Bは不連続となっており、代わりに柱内梁板材10Dが設けられている。柱内梁板材10Dは、
図2に示すように略正方形状の板状部材であり、X方向の両端部には、内側に窪んだ凹部11が設けられている。
【0025】
Y方向に積層された各板材は、不図示の綴り材(例えば、ドリフトピン、ボルト、ビスなど)によって固定されて一体となっている。また、
図1A、
図1Bに示すように、柱用板材10A、10B、10Cの繊維方向は、それぞれ、柱10の長手方向(Z方向)に沿っており、柱内梁板材10Dの繊維方向は、梁20の長手方向(X方向)に沿っている。なお、木材は異方性材料であり、作用する力の方向に対し強度的に強い方向と弱い方向が存在する。例えば、繊維方向については他の方向に比べて強度が強く、繊維直交方向については、他の方向に比べて強度が弱い。前述したように、柱内梁板材10Dは、繊維方向がX方向に沿っているので、X方向が強度的に強い方向である。一方、柱10の柱内梁板材10Dを除く部位は、繊維方向がZ方向に沿っているので、Z方向(鉛直方向)が強度的に強い方向である。
【0026】
梁20は、柱10同士を水平方向につなぐ構造部材である。本実施形態では、柱10と梁20がX方向に並んでいる。すなわち、柱10と梁20がX方向に連結されている。本実施形態の梁20は、柱10と同様に木質部材であり、3つの木質板材(梁用板材20A、20B、20C)を有している。梁用板材20A、20B、20Cは、長辺がX方向に沿うように配置された矩形の板状部材であり、
図1Cに示すように、Y方向に積層されている。なお、梁用板材20BのX方向の端部には、内側に窪んだ凹部21が設けられている。凹部21は、柱内梁板材10Dの凹部11と対向する位置に設けられている。
【0027】
Y方向に積層された各板材(梁用板材20A、20B、20C)は、不図示の綴り材(例えば、ドリフトピン、ボルト、ビスなど)によって固定されて一体となっている。また、各板材の繊維方向は、それぞれ水平方向(ここではX方向)に沿っている。つまり、梁20は、X方向が強度的に強い方向である。
【0028】
図1A~
図1Cに示すように、本実施形態の柱梁接合部分には、隣接する梁用板材20Bとその間の柱内梁板材10Dを円弧状(曲線状に相当)に貫通する貫通穴HA、HBが設けられている。
【0029】
貫通穴HAは、梁用板材20Bと梁用板材20A、及び、柱内梁板材10Dと柱用板材
10Aとの境界部分に形成されている。具体的には、
図2に示すように、梁用板材20Bと柱内梁板材10Dの一方側の表面には、柱10を挟んで隣接する梁用板材20Bの上端と上端とを結ぶ円弧状の溝部Haが形成されている。そして、梁用板材20Bと梁用板材20A、及び、柱内梁板材10Dと柱用板材10Aがそれぞれ重ね合わせられることにより、円弧状の貫通穴HAが形成されている。
【0030】
貫通穴HBは、梁用板材20Bと梁用板材20C、及び、柱内梁板材10Dと柱用板材10Cとの境界部分に形成されている。具体的には、貫通穴HAと同様に、梁用板材20Bと柱内梁板材10Dの他方側の表面には、柱10を挟んで隣り合う梁用板材20Bの下端と下端とを結ぶ円弧状の溝部Hbが形成されている。そして、梁用板材20Bと梁用板材20C、及び、柱内梁板材10Dと柱用板材10Cがそれぞれ重ね合わせられることにより、貫通穴HAとは上下反転した円弧状の貫通穴HBが形成されている。
【0031】
梁20における貫通穴HAの両端部には定着部23が設けられている。定着部23は、鋼材30の貫通穴HAへの挿入口であるとともに、鋼材30を引張応力が付与された状態で固定する部位であり受圧金物等が配置されている。本実施形態では、定着部23の面(支圧面に相当)の法線が鋼材30の軸方向に沿うように形成されている。すなわち、定着部23の面の法線方向は、梁20の繊維方向(X方向)に対して傾いている。
【0032】
同様に、梁20における貫通穴HBの両端部には定着部24が設けられている。定着部24は、鋼材40の貫通穴HBへの挿入口であるとともに、鋼材40を引張応力が付与された状態で固定する部位であり受圧金物等が配置されている。本実施形態では、定着部24の面の法線が鋼材40の軸方向に沿うように形成されている。すなわち、定着部24の面の法線は、梁20の繊維方向(X方向)に対して傾いている。
【0033】
鋼材30は、貫通穴HAの形状に合うように形成された(すなわち円弧状に湾曲した)鋼製の部材(例えば鋼棒)であり、貫通穴HAに挿入されている。また、鋼材30は予め引張応力(緊張力)が付与されて定着部23に固定されており、元に戻ろうとする力によって、梁用板材20Bと柱内梁板材10D(換言すると梁20と柱10)との間に圧縮応力が発生している。
【0034】
鋼材40も同様に、貫通穴HBの形状に合うように形成された(すなわち円弧状に湾曲した)鋼製部材(例えば鋼棒)であり、貫通穴HBに挿入されている。また、鋼材40は予め引張応力(緊張力)が付与されて定着部24に固定されており、元に戻ろうとする力によって、梁用板材20Bと柱内梁板材10D(換言すると梁20と柱10)との間に圧縮応力が発生している。
【0035】
本実施形態では、鋼材30、40が円弧状であり引張力を付与する方向が梁20の長手方向に対して傾いているので、直線状の場合と比べて、引張応力を付与する際に発生する応力の広がりが大きい。これにより、引張力を付与する際に割裂破壊しにくくなる(破断面が形成されにくい)。
【0036】
また、鋼材30、40が円弧状であることにより、直線状の場合よりも長さが長くなる。よって、弾性領域の範囲が大きくなり、残留変形が残りにくい。
【0037】
なお、本実施形態では、貫通穴HAと貫通穴HBを、上下反転した円弧状(曲線状)に形成しており、この貫通穴HAに挿入された鋼材30と貫通穴HBに挿入された鋼材40にそれぞれ引張応力を付与している。これにより、面内力をキャンセルでき、安定して柱10と梁20とを圧着させることができる。
【0038】
また、仮に、柱10の繊維方向が全てZ方向(鉛直方向)に沿っていると、水平方向(繊維直交方向)の応力に対して弱くなる。よって、柱梁の接合部に圧縮力を加えると、梁が柱に食い込むなど、柱が破損する恐れがあり、柱梁接合部に金属製の部材を配置するなどの対応が必要になる。これに対し、本実施形態では、柱10と梁20との接合部に設けられた柱内梁板材10Dの繊維方向がX方向(梁20の繊維方向)に沿っている。これにより、梁用板材20Bと柱内梁板材10Dの界面部分に補強を行わなくても強度が保てる。
【0039】
せん断力伝達部材50は、柱10と梁20との間でZ方向のせん断力を伝達させるための部材であり、柱内梁板材10Dの凹部11と梁用板材20Bの凹部21との間に設けられている。
【0040】
図3は、変位と応力との関係を示す図である。なお
図3の横軸は変位を示し、縦軸は応力を示している。
【0041】
地震などにより柱10が水平力を受けると、曲げモーメントが柱10と梁20との圧縮応力を超えない範囲(応力がδ0以下の範囲)では、初期剛性を保っている。曲げモーメ
ントが柱10と梁20との圧縮応力を超えると(応力がδ0よりも大きくなると)、柱1
0と梁20との間に隙間が発生し(柱10と梁20の境界が離間し)、剛性が低下する。ただし、鋼材30、40の弾性伸びの範囲に保たれるので、地震後には元の状態に戻り、残留変形が生じない。これにより元の性能を回復できる。
【0042】
特に、本実施形態では、鋼材30、40は柱10を跨いで設けられている。これにより、鋼材30、40を長くできるので、過大な力が加わった場合でも、鋼材30、40の弾性伸びの範囲で接合部が離間して剛性が低下することで、架構として健全性が保たれる。
【0043】
<<柱梁接合構造の施工について>>
以下、図面を参照しつつ、本実施形態の柱梁接合構造(木質構造)の施工方法について説明する。なお、図では、柱10及び梁20のうち、中央部分の板材(柱用板材10B、柱内梁板材10D、梁用板材20B)のみを示している。
【0044】
図4A~4Cは、本実施形態の柱梁接合構造の施工方法の一例を示す図である。
【0045】
まず、
図4Aに示すように、まず柱10を、複数階分(例えば3FL分)の柱10をZ方向(鉛直方向)に沿うように立設する。なお、本実施形態では、柱10の立設にはグルードインロッド(GIR)接合が用いられている。GIRとは、鉄筋や鋼棒を木材(ここでは柱10)の接合部に挿入し、接着剤にて定着させる接合方法である。ただし、GIR接合には限られず、他の接合方法であってもよい。
【0046】
次に、
図4Bに示すように、柱10に梁20をセットする。これにより、柱10と梁20との接合部分に、円弧状の貫通穴HA、HBが形成される。また、柱内梁板材10Dの凹部11と、梁用板材20Bの凹部21との間には、袋部材(不図示)を配置しておく。
【0047】
次に、
図4Cに示すように、せん断力伝達部材50を設ける。ここでは、予め配置した袋部材(不図示)に、チューブ(不図示)などを介して、モルタルを注入している。これにより、袋部材がモルタルで膨らみ、せん断力伝達部材50が形成される。
【0048】
また、円弧状の鋼材30を貫通穴HAに挿入し、例えば、一方側の端部を定着部23に固定した状態で、他方側から引張り(緊張し)、鋼材30に予め所定の引張応力を付与する。そして、他方側の端部を定着部23に固定する。貫通穴HB側も同様に鋼材40を固
定する。
【0049】
次に、梁20の上に床(不図示)を施工する。床の構造は、RC、PC、木、鉄板、それらの合成材など、何れでもよい。
【0050】
他の階(FL)の柱梁接合部についても同様に施工を行う。
【0051】
もし仮に、貫通穴や鋼材が直線状である場合、施工方法に制約がある。例えば、柱と梁を組立てた後に鋼材を挿入できないので、予め柱に鋼材を両端から突出するように設けて置き、梁を横から差し込むなどする必要がある。
【0052】
これに対し、本実施形態では、鋼材30、40、や貫通穴HA、HBが円弧状であるので、施工が簡易になる。すなわち、本実施形態では、柱10と梁20を接合した後に、鋼材30を設置し(貫通穴HAに挿入し)引張応力を付与することができる(鋼材40についても同様)。これにより、鋼材や貫通穴が直線状の場合と比べて、施工が簡易になる。
【0053】
図5A、
図5Bは、施工方法の別の例を示す図である。前述した実施形態と同一構成の部分には同一符号を付し説明を省略する。
【0054】
ここでは、梁20´が用いられている。梁20´は、X方向の端部に外側に突出する凸部22が設けられている。凸部22はせん断力を伝達させるための部位であり、
図5Aに示すように、柱10の凹部11に挿入(嵌合)される。
【0055】
この例では、工場などで予め、柱10に梁20´を取り付け、さらに、円弧状の鋼材30、40を貫通穴HA、HBにそれぞれ挿入して引張応力を付与しておく。そして、現場において
図5Aに示すように柱10を設置した後、
図5Bに示すように隣接する梁20´の端部同士を、追加部材(図に示す連結部材200など)を用いて連結する。梁20´の端部と連結部材200との接合方式は特に限定されない。なお、これには限られず、梁20´を長手方向に長くして、梁20´の端部同士を連結してもよい。
【0056】
この例の場合、工場にて柱梁の接合部分を予め組立てているので、現場における施工がより簡易になる。
【0057】
===その他の実施形態について===
上記実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはいうまでもない。特に、以下に述べる実施形態であっても、本発明に含まれるものである。
【0058】
<柱梁接合構造について>
前述の実施形態では、柱内梁板材10Dと梁20との接合面が柱10の外面と一致していたが、これには限られない。
【0059】
図6は、柱梁接合構造の第1変形例を示す概略図である。なお、
図6は
図2に相当する部分の図であり、
図2と同一構成の部分には同一符号を付し説明を省略する。
【0060】
図6の柱10には柱内梁板材10D´が設けられている。柱内梁板材10D´はX方向に長い矩形状の板状部材であり、柱内梁板材10D´のX方向の端は、柱10のX方向の端よりも外側に突出している。この場合、破壊面(柱内梁板材10D´と梁用板材20Bとの境界面)が柱10から離れるため、モーメントが小さくなりプレストレスを抑えるこ
とができる。
【0061】
また、前述の実施形態では、柱10と梁20が、円弧状の鋼材30と鋼材40で連結されていたが、これには限られない。
【0062】
図7は柱梁接合構造の第2変形例を示す概略図である。なお、図では、簡略化のため、木質部材の繊維、定着部、貫通穴の図示を省略している。
【0063】
この変形例では、円弧の半径方向(径方向)にそれぞれ2つの鋼材(鋼材30と30´、及び、鋼材40と40´)が並ぶように配置されている。鋼材30´は鋼材30よりも内側に設けられた円弧状の鋼材であり、鋼材30よりも長さが短い。また、鋼材40´は鋼材40よりも内側に設けられた円弧状の鋼材であり、鋼材40よりも長さが短い。このようにすることにより、部材の破壊を抑制しつつ、プレストレスを大きくすることができる。
【0064】
また、前述の実施形態では、
図1Aや
図2に示すように、柱10と梁20が十字状に交差しており、鋼材30、40が柱10を跨ぐように設けられていたがこれには限られない。
【0065】
図8は、柱梁接合構造の第3変形例を示す概略図である。ここでも、木質部材の繊維、定着部、貫通穴の図示を省略している。
【0066】
この変形例では、柱10のX方向の一方側のみに梁20が接合されている(ト型)。この場合、定着部23の一方(定着部23´)及び、定着部24の一方(定着部24´)は、柱10の鉛直面に形成されることになる。また、図示しないが、梁20が柱10の上端で接合されていてもよい(柱10が梁20の上に出ていなくてもよい)。また、梁20が柱10のX方向側のみでなく、Y方向側にも接合されていてもよい。
【0067】
また、鋼材30、40が柱10に位置していなくてもよい。例えば、梁20を水平方向の複数の位置で分割するように構成し、当該分割した部位を円弧状の鋼材30、40で連結させてもよい。
【0068】
<貫通穴について>
前述の実施形態では、貫通穴HA、HBが円弧状であったが、これには限られず、曲線状であれよい。ただし、円弧状でない場合、貫通穴HA、HBに挿入する鋼材30、40として、穴の形状に沿って変形可能な柔らかい鋼材(例えば、鋼線)が望ましい。一方、円弧状である場合、曲率が一定であるので、同じ曲率の硬い鋼材(例えば、円弧状に形成された鋼棒)を挿入することができる。
【0069】
また、前述の実施形態では、重ね合される板材の一方に溝部Ha、Hbが形成されていたが、重ね合される板材の両方(対向する面同士)に溝部が形成されて、板材(溝部)が重ね合されて、貫通穴HA、HBが形成されてもよい。
【0070】
また、前述の実施形態では、貫通穴HA、HBが、柱10と梁20の複数層に積層された板材の境界部分に形成されていたが、これには限られない。例えば、板材の厚さ方向の中央に孔を掘っていき貫通穴HA、HBを形成するようにしてもよい。ただし、前述の実施形態のようにすると、貫通穴HA、HBを加工しやすい。
【0071】
<減衰力について>
前述の実施形態では、鋼材30と溝部Ha(柱10と梁20の少なくとも一方)、鋼材
40と溝部Hb(柱10と梁20の少なくとも一方)との摩擦により減衰力が発生する。これにより、エネルギー吸収することができ、揺れを抑制することができる。
【0072】
また、上記以外にも減衰力を別途付加してもよい。例えば、貫通穴HA、HB内に粘性体を充填してもよい。また、柱10と梁20との接合面にゴム等の減衰材を設けてもよい。
【符号の説明】
【0073】
10 柱(木質部材)
10A,10B,10C 柱用板材(木質板材)
10D 柱内梁板材(木質板材)
11 凹部
20 梁(木質部材)
20A,20B,20C 梁用板材(木質板材)
21 凹部
22 凸部
23,24 定着部
30 鋼材
40 鋼材
50 せん断力伝達部材
Ha,Hb 溝部
HA,HB 貫通穴