(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022113934
(43)【公開日】2022-08-05
(54)【発明の名称】光熱変色性組成物及びその製造方法、並びにそれを用いたインク及び筆記具
(51)【国際特許分類】
C09D 11/00 20140101AFI20220729BHJP
B43K 7/00 20060101ALI20220729BHJP
B43K 8/02 20060101ALI20220729BHJP
C09D 11/16 20140101ALI20220729BHJP
B01J 13/18 20060101ALI20220729BHJP
【FI】
C09D11/00
B43K7/00
B43K8/02
C09D11/16
B01J13/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021009962
(22)【出願日】2021-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】520072545
【氏名又は名称】フューチャーカラーマテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148862
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100179811
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 良和
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 希
【テーマコード(参考)】
2C350
4G005
4J039
【Fターム(参考)】
2C350GA03
2C350GA04
4G005AA02
4G005AB15
4G005BA03
4G005BB19
4G005DD03Z
4G005DD34Z
4G005EA08
4J039AD03
4J039AD14
4J039AD21
4J039AE03
4J039BC20
4J039BE01
4J039BE22
4J039CA06
4J039CA11
4J039EA29
4J039EA46
4J039GA01
4J039GA02
4J039GA03
4J039GA07
4J039GA24
4J039GA28
(57)【要約】
【課題】光(特に紫外線)や熱で不可逆的に色が変化する光熱変色性組成物、並びにそれを用いたインク及び筆記具を提供する。
【解決手段】本発明に係る光熱変色性組成物は、熱硬化性樹脂で形成された外郭にジアセチレンモノマーの結晶が内包されたナノカプセルを含む。本発明に係る光熱変色性組成物は、非イオン性界面活性剤を水に溶解させた水溶液を調製する工程と、前記水溶液にジアセチレンモノマーを分散させる工程と、前記ジアセチレンモノマーを分散させた前記水溶液に、熱硬化性樹脂モノマー又はプレポリマーを添加する工程と、前記熱硬化性樹脂モノマー又はプレポリマーを硬化させることで、熱硬化性樹脂で形成された外郭に前記ジアセチレンモノマーが内包されたナノカプセルを得る工程と、前記ナノカプセルを冷却して、前記ジアセチレンモノマーを結晶化させる工程とを有する方法により、製造することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)非イオン性界面活性剤を水に溶解させた水溶液を調製する工程と、
(b)前記水溶液にジアセチレンモノマーを分散させる工程と、
(c)前記ジアセチレンモノマーを分散させた前記水溶液に、熱硬化性樹脂モノマー又はプレポリマーを添加する工程と、
(d)前記熱硬化性樹脂モノマー又はプレポリマーを硬化させることで、熱硬化性樹脂で形成された外郭に前記ジアセチレンモノマーが内包されたナノカプセルを得る工程と
(e)前記ナノカプセルを冷却して、前記ジアセチレンモノマーを結晶化させる工程と
を有する
光熱変色性組成物の製造方法。
【請求項2】
前記工程(b)が、
(b1)前記ジアセチレンモノマーを有機溶媒に溶解させたモノマー溶液を調製する工程と、
(b2)前記水溶液に前記モノマー溶液を滴下する工程と
を有する
請求項1に記載の光熱変色性組成物の製造方法。
【請求項3】
前記工程(b)が、
(b3)前記モノマー溶液を滴下した前記水溶液から、前記有機溶媒を除去する工程
をさらに有する
請求項2に記載の光熱変色性組成物の製造方法。
【請求項4】
前記非イオン性界面活性剤が、ポリ(オキシエチレン)アルキルエーテルである
請求項1~3のいずれか1項に記載の光熱変色性組成物の製造方法。
【請求項5】
前記ジアセチレンモノマーが、下記式(1):
【化1】
〔上記式(1)において、Rは、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、又は炭素数2~9のアルコキシアルキル基であり、mは、1~15の整数であり、nは、0~10の整数である。〕
で表される
請求項1~4のいずれか1項に記載の光熱変色性組成物の製造方法。
【請求項6】
前記熱硬化性樹脂が、メラミン樹脂である
請求項1~5のいずれか1項に記載の光熱変色性組成物の製造方法。
【請求項7】
前記工程(b)が、
(b0)前記水溶液に、イオン性界面活性剤を添加する工程
をさらに有する
請求項1~6のいずれか1項に記載の光熱変色性組成物の製造方法。
【請求項8】
前記イオン性界面活性剤が、スチレン-マレイン酸樹脂である
請求項7に記載の光熱変色性組成物の製造方法。
【請求項9】
熱硬化性樹脂で形成された外郭にジアセチレンモノマーの結晶が内包されたナノカプセルを含む
光熱変色性組成物。
【請求項10】
前記ジアセチレンモノマーが、下記式(1):
【化2】
〔上記式(1)において、Rは、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、又は炭素数2~9のアルコキシアルキル基であり、mは、1~15の整数であり、nは、0~10の整数である。〕
で表される
請求項9に記載の光熱変色性組成物。
【請求項11】
前記熱硬化性樹脂が、メラミン樹脂である
請求項9又は10に記載の光熱変色性組成物。
【請求項12】
非イオン性界面活性剤をさらに含む
請求項9~11のいずれか1項に記載の光熱変色性組成物。
【請求項13】
非イオン性界面活性剤が、ポリ(オキシエチレン)アルキルエーテルである
請求項12に記載の光熱変色性組成物。
【請求項14】
イオン性界面活性剤をさらに含む
請求項9~13のいずれか1項に記載の光熱変色性組成物。
【請求項15】
前記イオン性界面活性剤が、スチレン-マレイン酸樹脂である
請求項14に記載の光熱変色性組成物。
【請求項16】
請求項9~15のいずれか1項に記載の光熱変色性組成物を含むインク。
【請求項17】
請求項16に記載のインクを用いた筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光(特に紫外線)や熱で不可逆的に色が変化する光熱変色性組成物、並びにそれを用いたインク及び筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ロイコ染料の顕色性能及び消色性能を利用した感熱消色性インキ組成物が知られている。これは、電子供与体であるロイコ染料と電子受容体である顕色剤と消色剤とを含み、これらの相互作用によって発色・消色といった色相変化を可能とするものである。その色相変化をより緻密にコントロールするため、感熱消色性インキ組成物に含まれる一部の成分をマイクロカプセル化する手法が検討されている。
【0003】
特許文献1には、エステル基、ケトン基、エーテル基及び脂肪族水酸基から選ばれる1種もしくは2種以上の官能基を少なくとも有する物質の液状物を少なくとも内包するマイクロカプセルと、ロイコ染料と、顕色剤と、インキ液媒体とを少なくとも含有する消去可能なインキ組成物が記載されている。特許文献2には、ロイコ染料と、顕色剤と、液媒体と、消色剤と界面活性剤とを内包するマイクロカプセルを少なくとも含有するインキ組成物において、前記消色剤がエステル化合物、ケトン化合物、アミド化合物から選ばれる1種もしくは2種以上の混合物であり、前記界面活性剤がポリエチレングリコール型界面活性剤であるインキ組成物が記載されている。特許文献3には、ロイコ染料と、顕色剤と、液媒体と、極性化合物を内包するマイクロカプセルとからなり、該マイクロカプセルが、カプセル膜材と極性物質との間に、常温固体または沸点150℃以上の常温液体である、水酸基、カルボニル基、アミノ基、ポリオキシアルキレン基より選ばれる1つ以上の親水基を持つ化合物が層状に配置されているインキ組成物が記載されている。特許文献4には、少なくとも極性溶媒を含有する消去液を内包するマイクロカプセルと、該極性溶媒に不溶な樹脂をマイクロカプセル結合剤として含有し、マイクロカプセル凝集体を成形固化した、ロイコ染料インキ筆跡消去用固形消去材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2013/65653号
【特許文献2】特開2013-213080号公報
【特許文献3】特開2014-148593号公報
【特許文献4】特開2014-167071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1~4に記載された組成物は、発色性と消色性を兼ね備えたものであり、そのような特性が有用な用途も考えられるが、一方で、例えば偽造防止インクや温度履歴センサーなど、不可逆な発色や変色が可能な組成物のニーズも存在する。
【0006】
そこで、本発明は、光(特に紫外線)や熱で不可逆的に色が変化する光熱変色性組成物、並びにそれを用いたインク及び筆記具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る光熱変色性組成物の製造方法は、
(a)非イオン性界面活性剤を水に溶解させた水溶液を調製する工程と、
(b)前記水溶液にジアセチレンモノマーを分散させる工程と、
(c)前記ジアセチレンモノマーを分散させた前記水溶液に、熱硬化性樹脂モノマー又はプレポリマーを添加する工程と、
(d)前記熱硬化性樹脂モノマー又はプレポリマーを硬化させることで、熱硬化性樹脂で形成された外郭に前記ジアセチレンモノマーが内包されたナノカプセルを得る工程と
(e)前記ナノカプセルを冷却して、前記ジアセチレンモノマーを結晶化させる工程と
を有する。
【0008】
本発明に係る光熱変色性組成物は、熱硬化性樹脂で形成された外郭にジアセチレンモノマーの結晶が内包されたナノカプセルを含む。本発明に係るインクは、この光熱変色性組成物を含む。本発明に係る筆記具は、このインクを用いたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、光(特に紫外線)や熱で不可逆的に色が変化する光熱変色性組成物、並びにそれを用いたインク及び筆記具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1で得られた光熱変色性組成物(UV照射後)を加熱した際の吸光度変化を示すグラフである。
【
図2】実施例1で得られた光熱変色性組成物(UV照射後)の比色応答性を評価した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る光熱変色性組成物は、熱硬化性樹脂で形成された外郭にジアセチレンモノマーの結晶が内包されたナノカプセルを含む。このような光熱変色性組成物に光(特に紫外線)を照射すると、ジアセチレンモノマーが重合してポリジアセチレンになることで、不可逆的に青色を呈するようになる。さらに、ポリジアセチレンを加熱すると、不可逆的に青色から赤色に変化する。すなわち、本発明に係る光熱変色性組成物は、光(特に紫外線)や熱で不可逆的に色が変化するものである。
【0012】
ジアセチレンモノマーは、分子内に-C≡C-C≡C-構造を有するモノマー(R1-C≡C-C≡C-R2)である。ジアセチレンモノマーを重合すると、下記反応式に示すようにポリマー(ポリジアセチレン)が得られる。
【0013】
【化1】
〔上記式において、R
1及びR
2は、水素原子又は任意の置換基であり、aは、重合度である。〕
【0014】
ポリジアセチレンを製造するためのジアセチレンモノマーとしては、R
1=R
2となる対称型のジアセチレンモノマーでもよく、R
1≠R
2となる非対称型のジアセチレンモノマーでもよいが、下記式(1)で表されるジアセチレンモノマーが好ましい。
【化2】
〔上記式(1)において、Rは、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、又は炭素数2~9のアルコキシアルキル基であり、mは、1~15の整数であり、nは、0~10の整数である。〕
【0015】
上記式(1)のRとなり得る炭素数1~6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、及びn-ヘキシル基等が挙げられる。なかでも、メチル基及びエチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。上記式(1)のRとなり得るは炭素数2~9のアルコキシアルキル基としては、上記の炭素数1~6のアルキル基における1つの水素基が、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシキ基等の炭素数1~3のアルコキシ基に置換された化合物が挙げられる。なかでも、2-メトキシエチル基及び2-エトキシエチル基が好ましく、2-メトキシエチル基がより好ましい。上記式(1)のRとしては、水素原子、メチル基、エチル基、2-メトキシエチル基、及び2-エトキシエチル基が好ましく、水素原子、メチル基、及び2-メトキシエチル基がより好ましい。
【0016】
上記式(1)で表されるジアセチレンモノマーとしては、下記式(1a)で表されるジアセチレンモノマー、下記式(1b)で表されるジアセチレンモノマー、又は下記式(1c)で表されるジアセチレンモノマーが好ましい。
【0017】
【化3】
〔上記式(1a)において、mは、1~15の整数であり、nは、0~10の整数である。〕
【0018】
【化4】
〔上記式(1b)において、mは、1~15の整数であり、nは、0~10の整数である。〕
【0019】
【化5】
〔上記式(1c)において、mは、1~15の整数であり、nは、0~10の整数である。〕
【0020】
上記式(1a)で表されるジアセチレンモノマーの具体例としては、12,14-ノナコサジイン酸(m=13、n=10)、12,14-ヘプタコサジイン酸(m=11、n=10)、12,14-ペンタコサジイン酸(m=9、n=10)、12,14-トリコサジイン酸(m=7、n=10)、12,14-ドコサジイン酸(m=6、n=10)、12,14-ヘンイコサジイン酸(m=5、n=10)、12,14-エイコサジイン酸(m=4、n=10)、12,14-ノナデカジイン酸(m=3、n=10)、12,14-オクタデカジイン酸(m=2、n=10)、及び12,14-ヘプタデカジイン酸(m=1、n=10)等の12,14-ジイン酸;10,12-ノナコサジイン酸(m=15、n=8)、10,12-ヘプタコサジイン酸(m=13、n=8)、10,12-ペンタコサジイン酸(m=11、n=8)、10,12-トリコサジイン酸(m=9、n=8)、10,12-ドコサジイン酸(m=8、n=8)、10,12-ヘンイコサジイン酸(m=7、n=8)、10,12-エイコサジイン酸(m=6、n=8)、10,12-ノナデカジイン酸(m=5、n=8)、10,12-オクタデカジイン酸(m=4、n=8)、10,12-ヘプタデカジイン酸(m=3、n=8)、10,12-ヘキサデカジイン酸(m=2、n=8)、及び10,12-ペンタデカジイン酸(m=1、n=8)等の10,12-ジイン酸;8,10-ヘプタコサジイン酸(m=15、n=6)、8,10-ペンタコサジイン酸(m=13、n=6)、8,10-トリコサジイン酸(m=11、n=6)、8,10-ドコサジイン酸(m=10、n=6)、8,10-ヘンイコサジイン酸(m=9、n=6)、8,10-エイコサジイン酸(m=8、n=6)、8,10-ノナデカジイン酸(m=7、n=6)、8,10-オクタデカジイン酸(m=6、n=6)、8,10-ヘプタデカジイン酸(m=5、n=6)、8,10-ヘキサデカジイン酸(m=4、n=6)、及び8,10-ペンタデカジイン酸(m=3、n=6)等の8,10-ジイン酸;6,8-ペンタコサジイン酸(m=15、n=4)、6,8-トリコサジイン酸(m=13、n=4)、6,8-ドコサジイン酸(m=12、n=4)、6,8-ヘンイコサジイン酸(m=11、n=4)、6,8-エイコサジイン酸(m=10、n=4)、6,8-ノナデカジイン酸(m=9、n=4)、6,8-オクタデカジイン酸(m=8、n=4)、6,8-ヘプタデカジイン酸(m=7、n=4)、6,8-ヘキサデカジイン酸(m=6、n=4)、及び6,8-ペンタデカジイン酸(m=5、n=4)等の6,8-ジイン酸;4,6-トリコサジイン酸(m=15、n=2)、4,6-ドコサジイン酸(m=14、n=2)、4,6-ヘンイコサジイン酸(m=13、n=2)、4,6-エイコサジイン酸(m=12、n=2)、4,6-ノナデカジイン酸(m=11、n=2)、4,6-オクタデカジイン酸(m=10、n=2)、4,6-ヘプタデカジイン酸(m=9、n=2)、4,6-ヘキサデカジイン酸(m=8、n=2)、及び4,6-ペンタデカジイン酸(m=7、n=2)等の4,6-ジイン酸;2,4-ヘンイコサジイン酸(m=15、n=0)、2,4-エイコサジイン酸(m=14、n=0)、2,4-ノナデカジイン酸(m=13、n=0)、2,4-オクタデカジイン酸(m=12、n=0)、2,4-ヘプタデカジイン酸(m=11、n=0)、及び2,4-ヘキサデカジイン酸(m=10、n=0)、2,4-ペンタデカジイン酸(m=9、n=0)等の2,4-ジイン酸が挙げられる。なかでも、10,12-ジイン酸及び8,10-ジイン酸が好ましい。10,12-ジイン酸としては、10,12-ペンタコサジイン酸及び10,12-トリコサジイン酸が好ましい。8,10-ジイン酸としては、8,10-トリコサジイン酸及び8,10-ヘンイコサジイン酸が好ましい。
【0021】
上記式(1b)で表されるジアセチレンモノマーの具体例としては、12,14-ノナコサジイン酸メチル(m=13、n=10)、12,14-ヘプタコサジイン酸メチル(m=11、n=10)、12,14-ペンタコサジイン酸メチル(m=9、n=10)、12,14-トリコサジイン酸メチル(m=7、n=10)、12,14-ドコサジイン酸メチル(m=6、n=10)、12,14-ヘンイコサジイン酸メチル(m=5、n=10)、12,14-エイコサジイン酸メチル(m=4、n=10)、12,14-ノナデカジイン酸メチル(m=3、n=10)、12,14-オクタデカジイン酸メチル(m=2、n=10)、及び12,14-ヘプタデカジイン酸メチル(m=1、n=10)等の12,14-ジイン酸メチル;10,12-ノナコサジイン酸メチル(m=15、n=8)、10,12-ヘプタコサジイン酸メチル(m=13、n=8)、10,12-ペンタコサジイン酸メチル(m=11、n=8)、10,12-トリコサジイン酸メチル(m=9、n=8)、10,12-ドコサジイン酸メチル(m=8、n=8)、10,12-ヘンイコサジイン酸メチル(m=7、n=8)、10,12-エイコサジイン酸メチル(m=6、n=8)、10,12-ノナデカジイン酸メチル(m=5、n=8)、10,12-オクタデカジイン酸メチル(m=4、n=8)、10,12-ヘプタデカジイン酸メチル(m=3、n=8)、10,12-ヘキサデカジイン酸メチル(m=2、n=8)、及び10,12-ペンタデカジイン酸メチル(m=1、n=8)等の10,12-ジイン酸メチル;8,10-ヘプタコサジイン酸メチル(m=15、n=6)、8,10-ペンタコサジイン酸メチル(m=13、n=6)、8,10-トリコサジイン酸メチル(m=11、n=6)、8,10-ドコサジイン酸メチル(m=10、n=6)、8,10-ヘンイコサジイン酸メチル(m=9、n=6)、8,10-エイコサジイン酸メチル(m=8、n=6)、8,10-ノナデカジイン酸メチル(m=7、n=6)、8,10-オクタデカジイン酸メチル(m=6、n=6)、8,10-ヘプタデカジイン酸メチル(m=5、n=6)、8,10-ヘキサデカジイン酸メチル(m=4、n=6)、及び8,10-ペンタデカジイン酸メチル(m=3、n=6)等の8,10-ジイン酸メチル;6,8-ペンタコサジイン酸メチル(m=15、n=4)、6,8-トリコサジイン酸メチル(m=13、n=4)、6,8-ドコサジイン酸メチル(m=12、n=4)、6,8-ヘンイコサジイン酸メチル(m=11、n=4)、6,8-エイコサジイン酸メチル(m=10、n=4)、6,8-ノナデカジイン酸メチル(m=9、n=4)、6,8-オクタデカジイン酸メチル(m=8、n=4)、6,8-ヘプタデカジイン酸メチル(m=7、n=4)、6,8-ヘキサデカジイン酸メチル(m=6、n=4)、及び6,8-ペンタデカジイン酸メチル(m=5、n=4)等の6,8-ジイン酸メチル;4,6-トリコサジイン酸メチル(m=15、n=2)、4,6-ドコサジイン酸メチル(m=14、n=2)、4,6-ヘンイコサジイン酸メチル(m=13、n=2)、4,6-エイコサジイン酸メチル(m=12、n=2)、4,6-ノナデカジイン酸メチル(m=11、n=2)、4,6-オクタデカジイン酸メチル(m=10、n=2)、4,6-ヘプタデカジイン酸メチル(m=9、n=2)、4,6-ヘキサデカジイン酸メチル(m=8、n=2)、及び4,6-ペンタデカジイン酸メチル(m=7、n=2)等の4,6-ジイン酸メチル;2,4-ヘンイコサジイン酸メチル(m=15、n=0)、2,4-エイコサジイン酸メチル(m=14、n=0)、2,4-ノナデカジイン酸メチル(m=13、n=0)、2,4-オクタデカジイン酸メチル(m=12、n=0)、2,4-ヘプタデカジイン酸メチル(m=11、n=0)、2,4-ヘキサデカジイン酸メチル(m=10、n=0)、及び2,4-ペンタデカジイン酸メチル(m=9、n=0)等の2,4-ジイン酸メチルが挙げられる。なかでも、10,12-ジイン酸メチル及び8,10-ジイン酸メチルが好ましい。10,12-ジイン酸メチルとしては、10,12-ペンタコサジイン酸メチル及び10,12-トリコサジイン酸メチルが好ましい。8,10-ジイン酸メチルとしては、8,10-トリコサジイン酸メチル及び8,10-ヘンイコサジイン酸メチルが好ましい。
【0022】
上記式(1c)で表されるジアセチレンモノマーの具体例としては、12,14-ノナコサジイン酸2-メトキシエチル(m=13、n=10)、12,14-ヘプタコサジイン酸2-メトキシエチル(m=11、n=10)、12,14-ペンタコサジイン酸2-メトキシエチル(m=9、n=10)、12,14-トリコサジイン酸2-メトキシエチル(m=7、n=10)、12,14-ドコサジイン酸2-メトキシエチル(m=6、n=10)、12,14-ヘンイコサジイン酸2-メトキシエチル(m=5、n=10)、12,14-エイコサジイン酸2-メトキシエチル(m=4、n=10)、12,14-ノナデカジイン酸2-メトキシエチル(m=3、n=10)、12,14-オクタデカジイン酸2-メトキシエチル(m=2、n=10)、及び12,14-ヘプタデカジイン酸2-メトキシエチル(m=1、n=10)等の12,14-ジイン酸2-メトキシエチル;10,12-ノナコサジイン酸2-メトキシエチル(m=15、n=8)、10,12-ヘプタコサジイン酸2-メトキシエチル(m=13、n=8)、10,12-ペンタコサジイン酸2-メトキシエチル(m=11、n=8)、10,12-トリコサジイン酸2-メトキシエチル(m=9、n=8)、10,12-ドコサジイン酸2-メトキシエチル(m=8、n=8)、10,12-ヘンイコサジイン酸2-メトキシエチル(m=7、n=8)、10,12-エイコサジイン酸2-メトキシエチル(m=6、n=8)、10,12-ノナデカジイン酸2-メトキシエチル(m=5、n=8)、10,12-オクタデカジイン酸2-メトキシエチル(m=4、n=8)、10,12-ヘプタデカジイン酸2-メトキシエチル(m=3、n=8)、10,12-ヘキサデカジイン酸2-メトキシエチル(m=2、n=8)、及び10,12-ペンタデカジイン酸2-メトキシエチル(m=1、n=8)等の10,12-ジイン酸2-メトキシエチル;8,10-ヘプタコサジイン酸2-メトキシエチル(m=15、n=6)、8,10-ペンタコサジイン酸2-メトキシエチル(m=13、n=6)、8,10-トリコサジイン酸2-メトキシエチル(m=11、n=6)、8,10-ドコサジイン酸2-メトキシエチル(m=10、n=6)、8,10-ヘンイコサジイン酸2-メトキシエチル(m=9、n=6)、8,10-エイコサジイン酸2-メトキシエチル(m=8、n=6)、8,10-ノナデカジイン酸2-メトキシエチル(m=7、n=6)、8,10-オクタデカジイン酸2-メトキシエチル(m=6、n=6)、8,10-ヘプタデカジイン酸2-メトキシエチル(m=5、n=6)、8,10-ヘキサデカジイン酸2-メトキシエチル(m=4、n=6)、及び8,10-ペンタデカジイン酸2-メトキシエチル(m=3、n=6)等の8,10-ジイン酸2-メトキシエチル;6,8-ペンタコサジイン酸2-メトキシエチル(m=15、n=4)、6,8-トリコサジイン酸2-メトキシエチル(m=13、n=4)、6,8-ドコサジイン酸2-メトキシエチル(m=12、n=4)、6,8-ヘンイコサジイン酸2-メトキシエチル(m=11、n=4)、6,8-エイコサジイン酸2-メトキシエチル(m=10、n=4)、6,8-ノナデカジイン酸2-メトキシエチル(m=9、n=4)、6,8-オクタデカジイン酸2-メトキシエチル(m=8、n=4)、6,8-ヘプタデカジイン酸2-メトキシエチル(m=7、n=4)、6,8-ヘキサデカジイン酸2-メトキシエチル(m=6、n=4)、及び6,8-ペンタデカジイン酸2-メトキシエチル(m=5、n=4)等の6,8-ジイン酸2-メトキシエチル;4,6-トリコサジイン酸2-メトキシエチル(m=15、n=2)、4,6-ドコサジイン酸2-メトキシエチル(m=14、n=2)、4,6-ヘンイコサジイン酸2-メトキシエチル(m=13、n=2)、4,6-エイコサジイン酸2-メトキシエチル(m=12、n=2)、4,6-ノナデカジイン酸2-メトキシエチル(m=11、n=2)、4,6-オクタデカジイン酸2-メトキシエチル(m=10、n=2)、4,6-ヘプタデカジイン酸2-メトキシエチル(m=9、n=2)、4,6-ヘキサデカジイン酸2-メトキシエチル(m=8、n=2)、及び4,6-ペンタデカジイン酸2-メトキシエチル(m=7、n=2)等の4,6-ジイン酸2-メトキシエチル;2,4-ヘンイコサジイン酸2-メトキシエチル(m=15、n=0)、2,4-エイコサジイン酸2-メトキシエチル(m=14、n=0)、2,4-ノナデカジイン酸2-メトキシエチル(m=13、n=0)、2,4-オクタデカジイン酸2-メトキシエチル(m=12、n=0)、2,4-ヘプタデカジイン酸2-メトキシエチル(m=11、n=0)、2,4-ヘキサデカジイン酸2-メトキシエチル(m=10、n=0)、及び2,4-ペンタデカジイン酸2-メトキシエチル(m=9、n=0)等の2,4-ジイン酸2-メトキシエチルが挙げられる。なかでも、10,12-ジイン酸2-メトキシエチル及び8,10-ジイン酸2-メトキシエチルが好ましい。10,12-ジイン酸2-メトキシエチルとしては、10,12-ペンタコサジイン酸2-メトキシエチル及び10,12-トリコサジイン酸2-メトキシエチルが好ましい。8,10-ジイン酸2-メトキシエチルとしては、8,10-トリコサジイン酸2-メトキシエチル及び8,10-ヘンイコサジイン酸2-メトキシエチルが好ましい。
【0023】
本発明においては、前述のように、光(特に紫外線)を照射することでジアセチレンモノマーが重合してポリジアセチレンになることで不可逆的に青色を呈する現象、及びさらにポリジアセチレンを加熱することで不可逆的に青色から赤色に変化する現象を利用することから、ジアセチレンモノマーは、光(特に紫外線)照射により重合可能な状態であることが必要である。ジアセチレンモノマーは、結晶状態であれば固相重合を起こすことが知られているが、アモルファス状態では分子間距離が大きすぎて固相重合を起こさないとされている。すなわち、ジアセチレンモノマーは、結晶状態であることが必要である。ただし、光(特に紫外線)照射により固相重合を起こして青色を呈する状態であれば、ジアセチレンモノマーの一部がアモルファス状態であってもよい。
【0024】
本発明において、上記ジアセチレンモノマーの結晶は、熱硬化性樹脂で形成された外郭に内包される。こうすることで、ジアセチレンモノマーの結晶がナノカプセル化され、そのナノカプセルがナノ分散した状態を維持することができる。ナノカプセルの外郭を構成する熱硬化性樹脂の具体例としては、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂が挙げられる。なかでも、メラミン樹脂が好ましい。
【0025】
ナノカプセルの大きさに関しては、散乱強度分布におけるキュムラント法解析の平均粒子径が50~2000nmであることが好ましく、100~1000nmであることがより好ましく、200~600nmであることがさらに好ましい。
【0026】
本発明に係る光熱変色性組成物は、熱硬化性樹脂で形成された外郭にジアセチレンモノマーの結晶が内包されたナノカプセルを含むものであり、光(特に紫外線)を照射することで不可逆的に青色を呈し、さらに加熱することで不可逆的に青色から赤色に変化する限りにおいて、他の成分(例えば製造時に使用された成分や別途配合した成分など)を含んでいてもよい。他の成分の具体例としては、防腐剤、増粘剤、pH調整剤、防錆剤、潤滑剤、消泡剤、老化防止剤、抗菌剤、難燃剤、紫外線吸収剤、離型剤、分散剤、帯電防止剤、染料(蛍光染料を含む)、顔料、無機微粒子、有機微粒子等が挙げられる。
【0027】
熱硬化性樹脂で形成された外郭にジアセチレンモノマーの結晶が内包されたナノカプセルを含む光熱変色性組成物は、例えば、ジアセチレンモノマーを再沈法にて水中にナノ分散させ、そこに熱硬化性樹脂モノマー又はプレポリマーを配合して重合させることでナノカプセル化し、そのナノカプセルを冷却してジアセチレンモノマーを結晶化させることで製造することができる。以下、その製造方法を具体的に説明する。
【0028】
まず、非イオン性界面活性剤を水に溶解させた水溶液を調製し(工程(a))、その水溶液にジアセチレンモノマーを分散させる(工程(b))。このように、非イオン性界面活性剤を共存させることで、水中では有機相となるジアセチレンモノマーを再沈法にて水中にナノ分散させることができる。
【0029】
非イオン性界面活性剤としては、エステル系非イオン性界面活性剤、エーテル系非イオン性界面活性剤、エステルエーテル系非イオン性界面活性剤、アルカノールアミド系非イオン性界面活性剤、アルキルグリコシド系非イオン性界面活性剤、高級アルコール系非イオン性界面活性剤が挙げられる。なかでも、エーテル系非イオン性界面活性剤が好ましい。
【0030】
エーテル系非イオン性界面活性剤としては、ポリ(オキシエチレン)ラウリルエーテル、ポリ(オキシエチレン)ミリスチルエーテル、ポリ(オキシエチレン)セチルエーテル、ポリ(オキシエチレン)ステアリルエーテル、ポリ(オキシエチレン)オレイルエーテル、ポリ(オキシエチレン)オクチルドデシルエーテル等のポリ(オキシエチレン)アルキルエーテル;ポリ(オキシプロピレン)ラウリルエーテル、ポリ(オキシプロピレン)ミリスチルエーテル、ポリ(オキシプロピレン)セチルエーテル、ポリ(オキシプロピレン)ステアリルエーテル、ポリ(オキシプロピレン)オレイルエーテル、ポリ(オキシプロピレン)オクチルドデシルエーテル等のポリ(オキシプロピレン)アルキルエーテル;ポリ(オキシエチレン)オクチルフェニルエーテル、ポリ(オキシエチレン)ノニルフェニルエーテル等のポリ(オキシエチレン)アルキルフェニルエーテル;ポリ(オキシプロピレン)オクチルフェニルエーテル、ポリ(オキシプロピレン)ノニルフェニルエーテル等のポリ(オキシプロピレン)アルキルフェニルエーテル;ポリ(オキシエチレン)ポリ(オキシプロピレン)グリコールが挙げられる。なかでも、ポリ(オキシエチレン)アルキルエーテルが好ましく、ポリ(オキシエチレン)ステアリルエーテルがより好ましい。
【0031】
水溶液中の非イオン性界面活性剤の濃度は、水溶液にジアセチレンモノマーをナノ分散させることができる濃度とすればよいが、例えば、0.1~10重量%とすることが好ましく、0.5~5重量%とすることがより好ましく、1~3重量%とすることがさらに好ましい。
【0032】
非イオン性界面活性剤を水に溶解させた水溶液にジアセチレンモノマーをナノ分散させる方法としては、ジアセチレンモノマーを有機溶媒に溶解させたモノマー溶液を調製し(工程(b1)、非イオン性界面活性剤を水に溶解させた水溶液に上記のモノマー溶液を滴下する(工程(b2))方法が好ましい。有機溶媒としては、ジアセチレンモノマーを溶解させることを考慮して適宜選択すればよい。有機溶媒としては、ヘキサン等の脂肪族炭化水素;トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン等の芳香族炭化水素;メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル;酢酸エチル、プロピオン酸エチル等のエステル等が挙げられる。なかでも、ジアセチレンモノマーの溶解性及び水との親和性の観点から、ケトンが好ましく、アセトンがより好ましい。モノマー溶液中のジアセチレンモノマーの濃度は、例えば、0.01~0.1Mとすることができる。非イオン性界面活性剤を水に溶解させた水溶液にモノマー溶液を滴下する際には、当該水溶液を攪拌することが好ましい。
【0033】
水溶液に分散させるジアセチレンモノマーの濃度は、5~500mMとすることが好ましい。ジアセチレンモノマーの濃度を5mM以上とすることで、ジアセチレンモノマーの結晶が生成しやすくなる。また、ジアセチレンモノマーの濃度を500mM以下とすることで、ジアセチレンモノマーの凝集を抑えることができる。ジアセチレンモノマーの濃度は、15~100mMとすることがより好ましく、20~50mMとすることがさらに好ましい。
【0034】
さらに、モノマー溶液を滴下して得られた水溶液から有機溶媒を除去する(工程(b3))ことが好ましい。こうすることで、ジアセチレンモノマーが結晶化しやすくなる。水溶液から有機溶媒を除去する方法としては、例えば、エバポレーターを用いて減圧する方法が挙げられる。
【0035】
得られた水溶液に、イオン性界面活性剤を添加することが好ましい(工程(b0))。こうすることで、ジアセチレンモノマーがさらに良好に分散するようになる。なお、ジアセチレンモノマーが重合したポリジアセチレンはイオン性界面活性剤との相互作用によって赤色に変色してしまうが、本発明では、ジアセチレンモノマーの結晶が熱硬化性樹脂によりナノカプセル化されることから、そのような問題は生じない。
【0036】
イオン性界面活性剤の具体例としては、親水基として、カルボン酸、スルホン酸、硫酸、リン酸等の酸構造又はその塩構造を有する陰イオン性界面活性剤;親水基として、アミン、アミン塩、第4級アンモニウム等の塩基構造を有する陽イオン性界面活性剤;その両方の構造を有する両イオン性界面活性剤が挙げられる。なかでも、陰イオン性界面活性剤が好ましい。陰イオン性界面活性剤としては、スチレン-マレイン酸樹脂、イソブチレン-無水マレイン酸樹脂等の高分子界面活性剤を用いることもできる。
【0037】
水溶液中のイオン性界面活性剤の濃度は、水溶液にジアセチレンモノマーを良好にナノ分散させることができる濃度とすればよいが、例えば、0.1~10重量%とすることが好ましく、0.5~5重量%とすることがより好ましく、1~3重量%とすることがさらに好ましい。
【0038】
得られた水溶液に、ジアセチレンモノマーを重合するためのラジカル重合開始剤を添加することもできる。ジアセチレンモノマーが重合してポリジアセチレンになることで、不可逆的に青色を呈するようになることから、ラジカル重合開始剤を添加することでそれが容易になる。ただし、ジアセチレンモノマーはラジカル重合開始剤がなくとも紫外線により重合することから、ラジカル重合開始剤を添加しなくてもよい。ラジカル重合開始剤は、熱により開裂してラジカルを発生する熱ラジカル重合開始剤でもよく、光により開裂してラジカルを発生する光ラジカル重合開始剤でもよいが、ポリジアセチレンは熱により不可逆的に青色から赤色に変化してしまうことから、光照射によりラジカル重合を行うことが可能な光ラジカル重合開始剤が好ましい。
【0039】
光ラジカル重合開始剤としては、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン、2-ヒドロキシ-1-(4-(4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)ベンジル)フェニル)-2-メチルプロパン-1-オン)等のα-ヒドロキシアルキルフェノン;ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、アセトフェノン、2,2-ジエトキシアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、2-フェニル-2-(p-トルエンスルホニルオキシ)アセトフェノン、ベンゾイン、2-ベンジル-2-(ジメチルアミノ)-4’-モルホリノブチロフェノン、2-メチル-4’-(メチルチオ)-2-モルフォリノプロピオフェノン、2-イソニトロソプロピオフェノン、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン等のアルキルフェノン;ベンジル、p-アニシル等のベンジル類;ベンゾフェノン、4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’-ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’-ジクロロベンゾフェノン、1,4-ジベンゾイルベンゼン、2-ベンゾイル安息香酸、4-ベンゾイル安息香酸、2-ベンゾイル安息香酸メチル等のベンゾフェノン類;2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキシド等のアシルホスフィンオキシド;1-[4-(フェニルチオ)フェニル]-1,2-オクタジオン-2-(ベンゾイル)オキシム等のオキシムエステル;2-クロロチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン等のチオキサントンが挙げられる。なかでも、α-ヒドロキシアルキルフェノンが好ましく、2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノンがより好ましい。
【0040】
光ラジカル重合開始剤の使用量に関しては、ジアセチレンモノマーをラジカル重合させるために必要な量とすればよいが、ジアセチレンモノマーを効率よくラジカル重合させる観点から、一般的な使用量より多くすることが好ましい。光ラジカル重合開始剤の使用量は、例えば、ジアセチレンモノマーに対して1~150重量%とすることが好ましく、10~100重量%とすることがより好ましい。
【0041】
次いで、ジアセチレンモノマーを分散させた水溶液に、熱硬化性樹脂モノマー又はプレポリマーを添加し(工程(c))、熱硬化性樹脂モノマー又はプレポリマーを硬化させることで、熱硬化性樹脂で形成された外郭にジアセチレンモノマーが内包されたナノカプセルを得る(工程(d))。こうすることで、ジアセチレンモノマーをナノカプセル化することができる。
【0042】
熱硬化性樹脂モノマー又はプレポリマーとしては、ナノカプセルの外郭を構成する熱硬化性樹脂を形成可能なものを用いればよいが、水中に分散させたジアセチレンモノマーを内包するナノカプセルを形成する観点から、熱硬化性樹脂モノマー又はプレポリマーは、水溶性であることが好ましい。熱硬化性樹脂モノマー又はプレポリマーの添加量は、ナノカプセルの外郭を形成するのに十分な量であればよく、例えばジアセチレンモノマーに対して10~300重量%とすることが好ましく、30~200重量%とすることがより好ましく、50~100重量%とすることがさらに好ましい。硬化反応は、熱硬化性樹脂モノマー又はプレポリマーが十分に硬化する条件で行えばよく、光照射により行っても加熱により行ってもよい。
【0043】
そして、得られたナノカプセルを冷却して、ジアセチレンモノマーを結晶化させる(工程(e))。こうすることで、ナノカプセル化されたジアセチレンモノマーの結晶を得ることができる。冷却の温度は、ナノカプセル化されたジアセチレンモノマーが結晶化する温度であればよいが、効率の観点から、水の凝固点(0℃)より低いことが好ましい。
【0044】
以上のような本発明の光熱変色性組成物は、光(特に紫外線)を照射することでジアセチレンモノマーが重合して不可逆的に青色を呈するようになり、さらに加熱することでポリアセチレンが不可逆的に青色から赤色に変化する。ジアセチレンモノマーの重合に際しては、得られるポリジアセチレンの変色温度以上にならないように注意することが好ましい。
【0045】
本発明の光熱変色性組成物の用途としては、その色相変化を利用した用途が考えられる。例えば、本発明の光熱変色性組成物を含むインク、そのインクを用いた筆記具、そのインクで描かれた印刷物などの実施形態が考えられ、より具体的には、食品/医薬品偽造防止用セキュリティインク、ウイルス/菌消毒用殺菌処理の可視化、プリンタブル温度センサー、書き換え可能な二次元コード(例:QRコード(登録商標))を用いた自動物流システム、インクレスなアンケート等のマークカードなどが挙げられる。本発明の光熱変色性組成物を含むインクを用いた印刷方法としては、インクジェット印刷、オフセット印刷、グラビア印刷、凸版印刷、スタンプ印刷などが利用できる。
【0046】
さらに、本発明の光熱変色性組成物を含む温度履歴センサー、その温度履歴センサーを用いた管理システムなどの実施形態も考えられる。食品や医薬品などのコールドチェーンにおいて、商品が消費者へ届くまでに様々な業者を経由するが、業者間で統一した温度管理システムがないため、商品の受け渡し時や、温度管理体制の整っていない業者を経由した際に、適正な温度に保たれていない可能性がある。本発明の光熱変色性組成物は、不可逆的に色相が変化することから、これまで適正な温度に保たれているか否かを判断することができ、温度履歴センサーとして機能させることができる。
【実施例0047】
<実施例1>
20mlの純水に、非イオン性界面活性剤であるポリオキシエチレンステアリルエーテル(花王製、商品名:エマルゲン350)0.5gを加え、70℃に加熱しながら攪拌することで、界面活性剤水溶液を得た。また、20mlのアセトンに、ジアセチレンモノマーとして10,12-トリコサジイン酸(TDA、10,12-tricosadiynoic acid)を50mMの濃度になるよう加えることで、モノマー溶液を得た。そして、界面活性剤水溶液に、モノマー溶液を0.5ml/minの滴下速度ですべて加えた。このとき、気化したアセトンを排気するため、反応器は密閉せず、ドラフトチャンバー内で行った。モノマー溶液を全て滴下して得られた混合液をナスフラスコに移し、70℃の恒温水槽を用いてエバポレーターにて減圧することで、混合液中のアセトンを蒸発させて除去した。アセトンの蒸発がなくなって液面が落ち着いた時点で、ゆっくりと大気圧に戻した。こうすることで、分散液NNを得た。分散液NNには凝集体が認められ、分散液NNに含まれる粒子の平均粒子径(散乱強度分布におけるキュムラント法解析の平均粒子径)を測定したところ、2335nmであった。
【0048】
得られた分散液NNに、スチレン-マレイン酸樹脂の35%水溶液(田岡化学製、商品名:Sumirez Resin 402K)を2g、酢酸(関東化学製)を0.24ml加えて90℃に加熱することで、分散液NKを得た。分散液NKには凝集体は認められず、分散液NKに含まれる粒子の平均粒子径(散乱強度分布におけるキュムラント法解析の平均粒子径)を測定したところ、503nmであった。
【0049】
8mLの純水に、メラミン樹脂プレポリマー(DIC製、商品名:アミディアM-3)0.4gを加えることで、プレポリマー溶液を得た。上記で得られた分散液NKに、プレポリマー溶液を0.5ml/minの滴下速度ですべて滴下した。そして、90℃で1時間加熱することで、メラミン樹脂プレポリマーを硬化させた。その後、-20℃の冷凍庫で1時間冷却し、常温で解凍することで、TDAの結晶がメラミン樹脂で被膜されたナノカプセルを含む分散液PKを得た。分散液PKには凝集体は認められず、分散液PKに含まれる粒子の平均粒子径(散乱強度分布におけるキュムラント法解析の平均粒子径)を測定したところ、463nmであった。
【0050】
プラチナ製の万年筆(ソフトペンSTB-800A)のカートリッジ(SPM-200)から、水性染料インクを全て抜き取り、上記で得られた分散液PKを1ml充填した。そして、プラチナ製の万年筆を用いて、分散液PKをメモ用紙に塗布し乾燥させた。その後、その塗布面に254nmの紫外線ランプを1分間照射し、照射直後、室温で17時間後、及び室温で65時間後の色相を目視にて観察した。さらに、65時間経過したサンプルをホットプレートで70℃に加熱した際の色相を目視にて観察し、濃淡度(Gray value、数値が大きいほど濃度が低い)を測定した。結果を表1に示す。
【0051】
<比較例1>
実施例1で得られた分散液NKをカートリッジに充填し、それをメモ用紙に塗布し乾燥させたこと以外は、実施例1と同様に実施した。結果を表1に示す。
【0052】
<比較例2>
実施例1で得られた分散液NNをカートリッジに充填し、それをメモ用紙に塗布し乾燥させたこと以外は、実施例1と同様に実施した。結果を表1に示す。
【0053】
【0054】
以上のように、本発明の光熱変色性組成物(実施例1の分散液PK)は、UV照射により青色を呈し、室温ではその状態は安定しており、さらに70℃で加熱することで赤色に変化することが分かった。一方、ナノカプセル化をしていない光熱変色性組成物(比較例1の分散液NK)は、UV照射により青色を呈するものの、室温でも徐々に赤色へ変化してしまい、濃度も低かった。また、イオン性界面活性剤を添加していない光熱変色性組成物(比較例2の分散液NN)は、UV照射直後から一部が赤色に変化しており、凝集体が存在することからインクとして実用性に欠けたものであった。
【0055】
<加熱分光試験>
実施例1で得られた分散液PKに254nmの紫外線ランプを1分間照射して青色に発色させ、それを純水で30倍に希釈し、23~70℃までの分光スペクトルを紫外可視分光光度計(島津製作所製、商品名:UV-1280)で測定した。その結果を
図1に示すように、初期(23℃)においては波長642nmに吸収ピークを有しているのに対し、加熱することでその吸収ピークが減少し、波長544nmの吸収ピークが現れていることが分かった。これは、分散液PKが加熱により青色から赤色に変化していることと一致する。そして、比色応答性として、以下の式によりCR値を算出し、それをグラフにした結果を
図2に示した。
R=A
642nm/(A
642nm+A
544nm)
CR=(R
0-R)/R
0
なお、上記式において、A
642nm及びA
544nmは、それぞれ波長642nm及び波長544nmの吸光度であり、R
0は、初期(23℃)のR値である。
以上のように、室温(23℃)から70℃に加熱するに従い、色相が青色から紫色を経て赤色に変化し、比色応答性(CR)はなだらかな曲線を示した。