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  • 特開-透過型砂防ダム 図1
  • 特開-透過型砂防ダム 図2
  • 特開-透過型砂防ダム 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022113939
(43)【公開日】2022-08-05
(54)【発明の名称】透過型砂防ダム
(51)【国際特許分類】
   E02B 7/02 20060101AFI20220729BHJP
【FI】
E02B7/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021009971
(22)【出願日】2021-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(74)【代理人】
【識別番号】100154014
【弁理士】
【氏名又は名称】正木 裕士
(74)【代理人】
【識別番号】100154520
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 祐子
(72)【発明者】
【氏名】里深 好文
(72)【発明者】
【氏名】藤本 将光
(72)【発明者】
【氏名】竹村 庄平
(57)【要約】
【課題】安全性を向上させることができると共に、住民に安心感を与えることができる透過型砂防ダムを提供する。
【解決手段】河川Kの幅方向に一定の間隔をおいて立設された少なくとも一対の袖部101と、一対の袖部101間から上流側に所定間隔をおいて立設された衝撃緩衝壁2と、を有している。そして、袖部101と衝撃緩衝壁2との間には、河川Kの流れに沿う方向に、鋼製部材3が配置されている。そしてさらに、衝撃緩衝壁2の縦幅W1は、袖部101間よりも大きくなるように設定されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
河川の幅方向に一定の間隔をおいて立設された少なくとも一対の袖部と、
前記一対の袖部間から上流側に所定間隔をおいて立設された衝撃緩衝壁と、
を有してなる透過型砂防ダム。
【請求項2】
前記袖部と前記衝撃緩衝壁との間には、前記河川の流れに沿う方向に、鋼製部材が配置されてなる請求項1に記載の透過型砂防ダム。
【請求項3】
前記衝撃緩衝壁の幅は、前記袖部間よりも大きくなるように設定されている請求項1又は2に記載の透過型砂防ダム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透過型砂防ダムに関する。
【背景技術】
【0002】
透過型砂防ダムは、大洪水時に上流側から流れてくる礫や流木等を阻止し、平常時及び中小洪水時には土砂を下流側に流下させて、計画的にダムの空容量を確保する等、土砂を流下させない不透過型砂防ダムにはない種々の利点を有している。
【0003】
このような透過型砂防ダムとして、例えば、特許文献1に記載のものが知られている。この特許文献1に記載の透過型砂防ダムを図3を参照して具体的に説明すると、図3(a)に示すように、透過型砂防ダム100は、河川Kの幅方向に一定の間隔をおいて立設された一対の袖部101と、一対の袖部101間に立設された鋼製部材102と、で構成されている。袖部101は、河川Kの周囲に設けられた図示しない基礎上に立設された剛性に優れたもので、例えば、コンクリート等で形成されている。一方、鋼製部材102は、図3(b)に示すように、鋼管からなる支柱102aと梁102bとを立体的に組んでコンクリート基礎103上に構築したものであり、下流側支柱102a1の上部は、上流側に向かって傾斜している。
【0004】
かくして、このように構成される透過型砂防ダム100は、鋼製部材102によって、平常時及び中小洪水時には土砂を下流側に流下させて、大洪水時に上流側から流れてくる礫や流木等を鋼製部材102及び一対の袖部101によって阻止することができるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7-82725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、激甚災害レベルの大洪水が発生し、想定を上回るような巨礫(例えば、直径2m)等が上流側から流れてきた際、巨礫等が鋼製部材102に直接衝突し、もって、鋼製部材102が破損してしまい、安全性が低下する可能性があるといった問題があった。またさらには、鋼製部材102は、図3(a)に示すように隙間が形成されていることから、上流側が透けて見えることとなり、もって、下流側から透過型砂防ダム100を見る機会の多い住民が不安を覚えるといった問題もあった。
【0007】
そこで、本発明は、上記問題に鑑み、安全性を向上させることができると共に、住民に安心感を与えることができる透過型砂防ダムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記本発明の目的は、以下の手段によって達成される。なお、括弧内は、後述する実施形態の参照符号を付したものであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0009】
請求項1に係る透過型砂防ダムは、河川(K)の幅方向に一定の間隔をおいて立設された少なくとも一対の袖部(101)と、
前記一対の袖部(101)間から上流側に所定間隔をおいて立設された衝撃緩衝壁(2)と、を有してなることを特徴としている。
【0010】
また、請求項2に係る透過型砂防ダムは、上記請求項1に記載の透過型砂防ダム(1)において、前記袖部(101)と前記衝撃緩衝壁(2)との間には、前記河川(K)の流れに沿う方向に、鋼製部材(3)が配置されてなることを特徴としている。
【0011】
さらに、請求項3に係る透過型砂防ダムは、上記請求項1又は2に記載の透過型砂防ダム(1,1A)において、前記衝撃緩衝壁(2)の幅(W1)は、前記袖部(101)間(幅H1)よりも大きくなるように設定されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
次に、本発明の効果について、図面の参照符号を付して説明する。なお、括弧内は、後述する実施形態の参照符号を付したものであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0013】
請求項1に係る発明によれば、河川(K)の幅方向に一定の間隔をおいて立設された少なくとも一対の袖部(101)間から上流側に所定間隔をおいて衝撃緩衝壁(2)を立設することにより、上流側から下流側に向かって流れてきた巨礫等を含む土石流が衝撃緩衝壁(2)に衝突することとなる。これにより、巨礫等の衝撃を緩衝することができることとなるから、鋼製部材(3)が損傷してしまうリスクを低減させることができ、もって、安全性を向上させることができる。また、上記のような衝撃緩衝壁(2)を立設させることにより、従来のように、一対の袖部(101)の空間(S1)から上流側が透けて見えることがなくなるから、住民に安心感を与えることができる。
【0014】
しかして、本発明によれば、安全性を向上させることができると共に、住民に安心感を与えることができる。
【0015】
また、請求項2に係る発明によれば、袖部(101)と衝撃緩衝壁(2)との間に、河川(K)の流れに沿う方向に、鋼製部材(3)を配置することにより、鋼製部材(3)の幅は小さくても、土砂を下流側に流下させて、巨礫等が下流側に流れないように捕捉しておくことが可能となる。これにより、コストを低減させることができる。
【0016】
さらに、請求項3に係る発明によれば、衝撃緩衝壁(2)の幅(縦幅W1)は、袖部(101)間(幅H1)よりも大きくなるように設定されているから、衝撃緩衝壁(2)に衝突しなかった土石流は、袖部(101)に必ず衝突することとなる。これにより、巨礫等を含んだ土石流が、下流側に流れてしまう事態を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】(a)は、本発明の一実施形態に係る透過型砂防ダムを示す横断面平面図、(b)は、側面図である。
図2】他の実施形態に係る透過型砂防ダムを示す横断面平面図である。
図3】従来の透過型砂防ダムを示し、(a)は斜視図、(b)は側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態に係る透過型砂防ダムを、図面を参照して具体的に説明する。なお、以下の説明において、上下左右の方向を示す場合は、図示正面から見た場合の上下左右をいうものとし、従来の構成と同一の構成には、同一の符号を付すものとする。
【0019】
図1(a)に示す本実施形態に係る透過型砂防ダム1は、例えば図3に示すような河川Kに対して適用されるものである。なお、この河川Kは、上流側から下流側に向けて流水しており、泥流、土砂等の小礫、中礫や、流木、落石等の巨礫を含む各種の流下物が流下している。特に、大雨、台風等に伴う集中豪雨によって土石流が発生した場合、非常に大きな運動エネルギー、流速を有する巨礫等が土石流中に多く含まれて流下するものである。
【0020】
しかして、このような河川Kに対して適用される透過型砂防ダム1は、図1(a)に示すように、河川Kの幅方向(図1(a)に示す上下方向)に一定の間隔をおいて立設された一対の袖部101と、衝撃緩衝壁2と、鋼製部材3と、で主に構成されている。この一対の袖部101は、河川Kの周囲に設けられた図示しない基礎上に立設された剛性に優れたもので、例えば、コンクリート等で形成され、図1(a)に示すように、幅H1の空間S1が形成されるように、一定の間隔をおいて立設されている。
【0021】
一方、衝撃緩衝壁2は、上流側から下流側に向かって流れてくる(図1(a)に示す矢印Y1参照)土石流を受け止め、巨礫(例えば、直径2m)等の衝撃を緩衝するものである。より詳しく説明すると、衝撃緩衝壁2は、河川Kに設けられた図示しない基礎上に立設された剛性に優れたもので、例えば、コンクリート等で形成され、図1(a)に示すように断面視矩形状に形成されている。さらに詳しく説明すると、この衝撃緩衝壁2は、空間S1の幅H1よりもやや大きめの縦幅W1に形成されており、空間S1と対向するように、一対の袖部101から上流側に所定間隔(図1(a)では、幅H2)をおいて立設されている。なお、この幅H2は、例えば、5m以上に設定されており、上記幅H1と略同程度に設定されている。
【0022】
ところで、上記幅H1、幅H2を設定するにあたっては、上流側から下流側に向かって流れてくる(図1(a)に示す矢印Y1参照)土石流の流量によって設定される。なお、この流量は、河川Kの上流側を事前に調査して算定されるものである。
【0023】
鋼製部材3は、平常時及び中小洪水時には土砂を下流側に流下させて、巨礫等が下流側に流れないように捕捉しておくことができるものである。より詳しく説明すると、鋼製部材3は、図1(b)に示すように、鋼管からなる支柱102aと梁102bとを立体的に組んでコンクリート基礎(図示せず)上に構築し、複数の空間S2を形成した格子状に形成されているものである。そしてさらに、このように形成される鋼製部材3は、図1(a)に示すように、袖部101と衝撃緩衝壁2との間に、河川Kの流れに沿う方向に配置され、一対の袖部101にそれぞれ配置されている。
【0024】
ところで、鋼製部材3の空間S2を設定するにあたっては、巨礫等が下流側に流れないように捕捉しておくことができる大きさに設定する必要がある。この大きさの設定にあたっては、河川Kの上流側を事前に調査して決定されることとなる。そのため、河川Kの上流側を調査した結果、鋼製部材3が不要となる場合もある。
【0025】
かくして、このように構成される透過型砂防ダム1は、図1(a)に示すように全体的に凸型に形成されており、次のように使用される。すなわち、図1(a)に示す矢印Y1方向に上流側から下流側に向かって巨礫等を含む土石流が流れてくると、この土石流は、衝撃緩衝壁2に衝突することとなる。これにより、巨礫等を含む土石流の勢いが弱まり、その勢いが弱まった土石流が、図1(a)に示す上部側の鋼製部材3側に流れ込む(図1(a)に示す矢印Y2方向参照)と共に、図1(a)に示す下部側の鋼製部材3側に流れ込む(図1(a)に示す矢印Y3方向参照)こととなる。この際、巨礫等の衝撃は、衝撃緩衝壁2によって緩衝されているため、緩衝された巨礫等によって、鋼製部材3が損傷してしまうリスクを低減させることができ、もって、一対の鋼製部材3によって、巨礫等を捕捉することが可能となる。なお、衝撃緩衝壁2に衝突しなかった土石流は、衝撃緩衝壁2の縦幅W1が、空間S1の幅H1よりもやや大きめに形成されていることから、一対の袖部101に必ず衝突することとなる。これにより、巨礫等を含んだ土石流が、空間S1を通って下流側に流れてしまう事態を防止することができる。
【0026】
一方、平常時及び中小洪水時には、鋼製部材3に形成されている空間S2、及び、空間S1を通って、土砂を下流側に流下させることができる。
【0027】
しかして、以上説明した本実施形態によれば、河川Wの幅方向に一定の間隔をおいて立設された一対の袖部101の空間S1から上流側に所定間隔をおいて衝撃緩衝壁2を立設することにより、図1(a)に示す矢印Y1方向に上流側から下流側に向かって流れてきた巨礫等を含む土石流が衝突することとなる。これにより、巨礫等の衝撃を緩衝することができることとなるから、鋼製部材3が損傷してしまうリスクを低減させることができ、もって、安全性を向上させることができる。また、上記のような衝撃緩衝壁2を立設させることにより、従来のように、一対の袖部101の空間S1から上流側が透けて見えることがなくなるから、住民に安心感を与えることができる。
【0028】
しかして、以上説明した本実施形態によれば、安全性を向上させることができると共に、住民に安心感を与えることができる。
【0029】
また、本実施形態によれば、衝撃緩衝壁2によって、巨礫等の衝撃を緩衝することができることとなるから、鋼製部材3を用いる場合、鋼製部材3の強度を向上させなくとも良いという効果もある。
【0030】
なお、本実施形態において示した形状等はあくまで一例であり、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。例えば、本実施形態において示した袖部101、衝撃緩衝壁2、鋼製部材3の形状はあくまで一例であり、どのような形状でも良い。
【0031】
また、本実施形態においては、一対の袖部101を立設する例を示したが、それに限らず、一対以上立設するようにしても良い。
【0032】
また、本実施形態においては、鋼製部材3を、袖部101と衝撃緩衝壁2との間に、河川Kの流れに沿う方向に配置し、一対の袖部101にそれぞれ配置するようにしたが、それに限らず、図2に示す透過型砂防ダム1Aのように、一対の袖部101の空間S1に鋼製部材3を配置するようにしても良い。しかしながら、鋼製部材3は、袖部101と衝撃緩衝壁2との間に、河川Kの流れに沿う方向に配置し、一対の袖部101にそれぞれ配置するのが好ましい。図2に示す透過型砂防ダム1Aのように、鋼製部材3を配置した場合、一つの鋼製部材3で、土砂を下流側に流下させると共に、巨礫等が下流側に流れないように捕捉しておかなければならないことから、捕捉した巨礫等が下流側に流れてしまうということがないように、かなりの幅の鋼製部材3を用意しなければならない。そのため、それに応じて、一対の袖部101の空間S1の幅H1も広げる必要があると共に、衝撃緩衝壁2の縦幅W1を広げる必要があり、コストが非常に増大するという問題がある。それに対し、鋼製部材3を、袖部101と衝撃緩衝壁2との間に、河川Kの流れに沿う方向に配置し、一対の袖部101にそれぞれ配置するようにすれば、鋼製部材3の幅は小さくても、土砂を下流側に流下させて、巨礫等が下流側に流れないように捕捉しておくことが可能となり、もって、コストを低減させることができる。それゆえ、鋼製部材3を、袖部101と衝撃緩衝壁2との間に、河川Kの流れに沿う方向に配置し、一対の袖部101にそれぞれ配置するのが好ましい。
【符号の説明】
【0033】
1,1A 透過型砂防ダム
101 袖部
2 衝撃緩衝壁
3 鋼製部材
K 河川
S1 (一対の袖部の)空間
H1 (空間の)幅
H2 幅
W1 (衝撃緩衝壁の)縦幅(幅)
図1
図2
図3