(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022114039
(43)【公開日】2022-08-05
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H02J 3/00 20060101AFI20220729BHJP
H02J 3/38 20060101ALI20220729BHJP
H02J 13/00 20060101ALI20220729BHJP
【FI】
H02J3/00 170
H02J3/38 110
H02J13/00 301B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021010137
(22)【出願日】2021-01-26
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2019年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「再生可能エネルギーの大量導入に向けた次世代電力ネットワーク安定化技術開発/研究開発項目[1]-2 慣性力等の低下に対応するための基盤技術の開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 将尚
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】片岡 良彦
(72)【発明者】
【氏名】大原 尚
(72)【発明者】
【氏名】里 悠太
(72)【発明者】
【氏名】保坂 直貴
(72)【発明者】
【氏名】草柳 儀隆
【テーマコード(参考)】
5G064
5G066
【Fターム(参考)】
5G064AA04
5G064AC09
5G064BA02
5G064CB03
5G064CB08
5G064DA02
5G066AB02
5G066AE01
5G066AE09
5G066HA13
5G066HB01
(57)【要約】
【課題】電力をランプ状に変化させる外乱に基づいて、交流連系系統の系統慣性を精度よく推定することができる情報処理装置を提供する。
【解決手段】情報処理装置は、1つ以上の発電機を含む交流連系系統内の予め決められた地点における時刻毎の電力をランプ状に変化させる外乱による前記電力の周波数の変化が始まったと推定される第1推定期間よりも前の第1時刻から、前記外乱による前記周波数の変化が終わったと推定される第2推定期間よりも後の第2時刻までの対象期間における前記周波数を示す周波数情報に基づいて、前記交流連系系統の系統慣性を推定する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上の発電機を含む交流連系系統内の予め決められた地点における時刻毎の電力をランプ状に変化させる外乱による前記電力の周波数の変化が始まったと推定される第1推定期間よりも前の第1時刻から、前記外乱による前記周波数の変化が終わったと推定される第2推定期間よりも後の第2時刻までの対象期間における前記周波数を示す周波数情報に基づいて、前記交流連系系統の系統慣性を推定する、
情報処理装置。
【請求項2】
受け付けた操作に応じて、前記第1推定期間、前記第2推定期間、前記第1時刻、前記第2時刻のそれぞれを特定する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記第1推定期間及び前記第2推定期間を推定し、推定した前記第1推定期間及び前記第2推定期間に応じて、前記第1時刻、前記第2時刻のそれぞれを特定する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記外乱は、前記交流連系系統に接続された蓄電池の出力変化である、
請求項1から3のうちいずれか一項に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記第1推定期間における各時刻を前記外乱による前記周波数の変化が始まった周波数変化開始時刻候補とし、前記第2推定期間における各時刻を前記外乱による前記周波数の変化が終わった周波数変化終了時刻候補とし、前記周波数変化開始時刻候補と前記周波数変化終了時刻候補とのそれぞれ毎に、前記第1時刻から前記周波数変化開始時刻候補までの第1対象期間における前記周波数情報が示す前記周波数の波形の直線近似と、前記周波数変化開始時刻候補から前記周波数変化終了時刻候補までの第2対象期間における前記周波数情報が示す前記周波数の波形の二次曲線近似と、前記周波数変化終了時刻候補から前記第2時刻までの第3対象期間における前記周波数情報が示す前記周波数の波形の多項式近似とを行うことにより、前記交流連系系統の系統慣性を推定する、
請求項1から4のうちいずれか一項に記載の情報処理装置。
【請求項6】
最小二乗法に基づいて、前記直線近似、前記二次曲線近似、前記多項式近似のそれぞれを行う、
請求項5に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記対象期間における前記周波数情報と、前記対象期間における時刻毎の電力を示す電力情報とに基づいて、前記交流連系系統の系統慣性を推定する、
請求項1から6のうちいずれか一項に記載の情報処理装置。
【請求項8】
1つ以上の発電機を含む交流連系系統内の予め決められた地点における時刻毎の電力をランプ状に変化させる外乱による前記電力の周波数の変化が始まったと推定される第1推定期間よりも前の第1時刻から、前記外乱による前記周波数の変化が終わったと推定される第2推定期間よりも後の第2時刻までの対象期間における前記周波数を示す周波数情報を取得し、
取得した前記周波数情報に基づいて、前記交流連系系統の系統慣性を推定する、
情報処理方法。
【請求項9】
コンピューターに、
1つ以上の発電機を含む交流連系系統内の予め決められた地点における時刻毎の電力をランプ状に変化させる外乱による前記電力の周波数の変化が始まったと推定される第1推定期間よりも前の第1時刻から、前記外乱による前記周波数の変化が終わったと推定される第2推定期間よりも後の第2時刻までの対象期間における前記周波数を示す周波数情報を取得させ、
取得された前記周波数情報に基づいて、前記交流連系系統の系統慣性を推定させる、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理装置、情報処理方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
交流連系系統の系統慣性を推定する技術についての研究、開発が行われている。交流連系系統は、1つ以上の発電機を含み、これら1つ以上の発電機による同期発電が行われる交流電力系統のことである。また、交流連系系統の系統慣性は、交流連系系統に含まれる1つ以上の発電機それぞれの回転体(すなわち、発電機の回転子、タービン等)の慣性モーメントの総和のことである。
【0003】
ここで、交流連系系統では、交流連系系統に含まれる1つ以上の発電機それぞれの回転体は、すべて同期回転し、系統周波数として1つの周波数を作る。このため、交流連系系統における発電機の脱落等によって交流連系系統の系統慣性が変化すると、系統周波数が動揺する。系統周波数の動揺は、交流連系系統による電力の供給品質、発電機同士の同期の安定性に影響を与えることがある。従って、交流連系系統の系統慣性は、交流連系系統による電力の安定供給の観点から、常に一定値以上であることが求められている。このような事情から、交流連系系統の系統慣性を精度よく推定することが望まれることも少なくない。
【0004】
交流連系系統の系統慣性を推定する方法として、RoCoF(Rate of Change of Frequency)法が知られている。RoCoF法は、系統周波数が動揺した場合における系統周波数についてのRoCoF(すなわち、系統周波数の変化率)を推定し、推定したRoCoFに基づいて、交流連系系統の系統慣性を推定する方法のことである。
【0005】
ここで、交流連系系統に含まれる1つ以上の発電機それぞれの回転体の運動エネルギーは、交流連系系統に含まれる1つ以上の発電機それぞれの回転体の慣性モーメントと見做すことができる。これは、交流連系系統に含まれる1つ以上の発電機それぞれの回転体の運動エネルギーが、回転体の慣性モーメントに、回転体の角速度の二乗(すなわち、回転体の周波数の二乗)を乗じることによって求められるからである。従って、交流連系系統では、交流連系系統の系統慣性を、交流連系系統に含まれる1つ以上の発電機それぞれの回転体の運動エネルギーの総和として算出することができる。そして、このような運動エネルギーの総和は、運動エネルギーの総和を示す数式を時間微分することにより得られる動揺方程式によって、系統周波数についてのRoCoFと関係付けることができる。RoCoF法は、この動揺方程式を用いて、当該RoCoFに基づいて、交流連系系統の系統慣性(より正確には、当該系統慣性と見做すことができる運動エネルギーの総和)を求める方法である。本明細書では、RoCoF法が既知であるため、RoCoF法についてこれ以上の詳細な説明を省略する。
【0006】
なお、交流連系系統において、系統周波数は、通常、時間的に小さく動揺しながらも、常に一定の範囲内の値を保つように制御されている。このため、RoCoF法により交流連系系統の系統慣性を推定するために用いるRoCoFを得るためには、当該範囲から逸脱するほど系統周波数が大きく変化する必要がある。そこで、RoCoF法による交流連系系統の系統慣性の推定では、交流連系系統からの発電機の脱落、交流連系系統に接続される負荷の脱落等のイベントが生じた場合における系統周波数についてのRoCoFが用いられることが多い。何故なら、当該場合、系統周波数は、ランプ状(1次関数的)に大きく変化することが知られているからである。これは、当該場合、代表地点において測定される電力が、ステップ状(階段関数状)に大きく変化するためである。代表地点は、交流連系系統に含まれる地点のうち系統周波数が測定される地点のことであり、例えば、変電所等である。
【0007】
これに関し、交流連系系統においてイベントが生じた時刻として、RoCoFが0.4[Hz/s]を下回った時刻を用いて、RoCoF法により、交流連系系統の系統慣性を推定する方法が知られている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「実測結果に基づく系統周波数特性の推定手法の開発」、電力中央研究所報告、研究報告:T94016、平成7年5月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、このようなイベントは、交流連系系統の系統慣性の推定を行いたい所望の時刻に都合よく発生するわけではない。このため、擬似的なイベントとして、代表地点において測定される電力を変化させる外乱を発生させる装置を交流連系系統に接続する方法が知られている。当該装置は、例えば、蓄電池である。当該装置として蓄電池を交流連系系統に接続した場合、交流連系系統に接続された蓄電池の出力を変化させると、当該電力は、変化する。
【0010】
しかしながら、このような外乱を発生させる装置は、代表地点において測定される電力をステップ状に変化させることが困難であることが多い。例えば、当該装置が蓄電池である場合、当該装置は、電気回路の電圧、電流に起因する制約、蓄電池セルの化学変化速度に起因する制約等の制約により、当該電力をステップ状に変化させることができず、ランプ状に変化させてしまうことが多い。当該装置が当該電力をランプ状に変化させてしまう場合、系統周波数は、1次関数的に変化せず、2次関数的に変化してしまう。その結果、当該外乱を擬似的なイベントとして用いた場合、RoCoF法では、交流連系系統の系統慣性を、精度よく推定することができないことがあった。
【0011】
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、電力をランプ状に変化させる外乱に基づいて、交流連系系統の系統慣性を精度よく推定することができる情報処理装置、情報処理方法、及びプログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様は、1つ以上の発電機を含む交流連系系統内の予め決められた地点における時刻毎の電力をランプ状に変化させる外乱による前記電力の周波数の変化が始まったと推定される第1推定期間よりも前の第1時刻から、前記外乱による前記周波数の変化が終わったと推定される第2推定期間よりも後の第2時刻までの対象期間における前記周波数を示す周波数情報に基づいて、前記交流連系系統の系統慣性を推定する、情報処理装置である。
【0013】
また、本発明の他の態様は、情報処理装置が、受け付けた操作に応じて、前記第1推定期間、前記第2推定期間、前記第1時刻、前記第2時刻のそれぞれを特定する、構成が用いられてもよい。
【0014】
また、本発明の他の態様は、情報処理装置が、前記第1推定期間及び前記第2推定期間を推定し、推定した前記第1推定期間及び前記第2推定期間に応じて、前記第1時刻、前記第2時刻のそれぞれを特定する、構成が用いられてもよい。
【0015】
また、本発明の他の態様は、情報処理装置において、前記外乱は、前記交流連系系統に接続された蓄電池の出力変化である、構成が用いられてもよい。
【0016】
また、本発明の他の態様は、情報処理装置が、前記第1推定期間における各時刻を前記外乱による前記周波数の変化が始まった周波数変化開始時刻候補とし、前記第2推定期間における各時刻を前記外乱による前記周波数の変化が終わった周波数変化終了時刻候補とし、前記周波数変化開始時刻候補と前記周波数変化終了時刻候補とのそれぞれ毎に、前記第1時刻から前記周波数変化開始時刻候補までの第1対象期間における前記周波数情報が示す前記周波数の波形の直線近似と、前記周波数変化開始時刻候補から前記周波数変化終了時刻候補までの第2対象期間における前記周波数情報が示す前記周波数の波形の二次曲線近似と、前記周波数変化終了時刻候補から前記第2時刻までの第3対象期間における前記周波数情報が示す前記周波数の波形の多項式近似とを行うことにより、前記交流連系系統の系統慣性を推定する、構成が用いられてもよい。
【0017】
また、本発明の他の態様は、情報処理装置が、最小二乗法に基づいて、前記直線近似、前記二次曲線近似、前記多項式近似のそれぞれを行う、構成が用いられてもよい。
【0018】
また、本発明の他の態様は、情報処理装置が、前記対象期間における前記周波数情報と、前記対象期間における時刻毎の電力を示す電力情報とに基づいて、前記交流連系系統の系統慣性を推定する、構成が用いられてもよい。
【0019】
また、本発明の他の態様は、1つ以上の発電機を含む交流連系系統内の予め決められた地点における時刻毎の電力をランプ状に変化させる外乱による前記電力の周波数の変化が始まったと推定される第1推定期間よりも前の第1時刻から、前記外乱による前記周波数の変化が終わったと推定される第2推定期間よりも後の第2時刻までの対象期間における前記周波数を示す周波数情報を取得し、取得した前記周波数情報に基づいて、前記交流連系系統の系統慣性を推定する、情報処理方法である。
【0020】
また、本発明の他の態様は、コンピューターに、1つ以上の発電機を含む交流連系系統内の予め決められた地点における時刻毎の電力をランプ状に変化させる外乱による前記電力の周波数の変化が始まったと推定される第1推定期間よりも前の第1時刻から、前記外乱による前記周波数の変化が終わったと推定される第2推定期間よりも後の第2時刻までの対象期間における前記周波数を示す周波数情報を取得させ、取得された前記周波数情報に基づいて、前記交流連系系統の系統慣性を推定させる、プログラムである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、電力をランプ状に変化させる外乱に基づいて、交流連系系統の系統慣性を精度よく推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】情報処理システム1の構成の一例を示す図である。
【
図2】外乱発生装置5により発生させた外乱によって動揺した系統電力の波形の一例を示す図である。
【
図3】外乱発生装置5により発生させた外乱によって動揺した系統周波数の波形の一例を示す図である。
【
図4】
図3に示したグラフ上にフィッティング関数を重畳させた図である。
【
図5】
図2に示したグラフ上に、第2目的関数に最小化により推定されたフィッティング関数を重畳させた図である。
【
図6】情報処理装置20のハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図7】情報処理装置20の機能構成の一例を示す図である。
【
図8】情報処理装置20が交流連系系統Rの系統慣性を推定する処理の流れの一例を示す図である。
【
図9】数値検討に用いたモデル系統を説明するための図である。
【
図10】各発電機から出力された3つの電力に基づいて算出された系統電力の波形を表示したグラフの一例を示す図である。
【
図11】発電機ごとの3つの周波数の加重平均である系統周波数の波形と、当該波形について推定されたフィッティング関数を表示したグラフの一例を示す図である。
【
図12】情報処理装置20が測定装置10から周波数情報と電力情報とを取得する処理の流れの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<実施形態>
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下では、ある地点において測定された電力の周波数と称した場合、当該地点において測定された電圧の周波数、又は、当該地点において測定された電流の周波数のことを意味する。
【0024】
<情報処理システムの構成>
まず、実施形態に係る情報処理システム1の構成について説明する。
図1は、情報処理システム1の構成の一例を示す図である。
【0025】
情報処理システム1は、交流連系系統の系統慣性を推定する。
【0026】
ここで、交流連系系統は、1つ以上の発電機を含み、これら1つ以上の発電機による同期発電が行われる交流電力系統のことである。例えば、日本における中部、北陸、関西、中国、四国、九州から成る範囲の交流電力系統(中西系統と呼ばれることがある)は、交流連系系統の一例である。交流連系系統の系統慣性は、交流連系系統に含まれる1つ以上の発電機それぞれの回転体(すなわち、発電機の回転子、タービン等)の慣性モーメントの総和のことである。以下では、一例として、情報処理システム1が、
図1に示した交流連系系統Rの系統慣性を推定する場合について説明する。
【0027】
交流連系系統Rは、1つ以上の発電機として、発電機PP1~発電機PP4の4つの発電機を含む。交流連系系統Rでは、これら4つの発電機による同期発電が行われる。また、交流連系系統Rでは、これら4つの発電機それぞれの回転体は、すべて同期回転し、系統周波数として1つの周波数を作る。ここで、系統周波数は、回転体の回転についての周波数であるが、代表地点において測定される電力の周波数と実用上等価であることが知られている。このため、系統周波数の測定は、当該電力の周波数を測定することによって行われる。すなわち、系統周波数は、交流連系系統内の予め決められた地点における時刻毎の電力の周波数の一例である。なお、代表地点は、交流連系系統Rに含まれる地点のうち系統周波数が測定される地点のことである。また、交流連系系統Rには、これら4つの発電機に加えて、変電所等の他の設備が含まれている。しかしながら、
図1では、図を簡略化するため、当該他の設備が省略されている。また、交流連系系統Rは、3つ以下の発電機を含む構成であってもよく、5つ以上の発電機を含む構成であってもよい。また、以下では、説明の便宜上、代表地点において測定される電力を、系統電力と称して説明する。
【0028】
発電機PP1~発電機PP4のそれぞれは、例えば、火力発電、水力発電、原子力発電、太陽光発電、地熱発電、潮力発電等により電力の供給を行う発電機である。発電機PP1~発電機PP4のうちの一部又は全部は、互いに同じ種類の発電により電力の供給を行う発電機であってもよく、互いに異なる種類の発電により電力の供給を行う発電機であってもよい。
【0029】
また、情報処理システム1は、RoCoF(Rate of Change of Frequency)法に基づく方法により、交流連系系統Rの系統慣性を推定する。
【0030】
RoCoF法は、系統周波数が動揺した場合における系統周波数についてのRoCoF(すなわち、系統周波数の変化率)を推定し、推定したRoCoFに基づいて、交流連系系統の系統慣性を推定する方法のことである。一般的な交流連系系統において、系統周波数は、通常、時間的に小さく動揺しながらも、常に一定の範囲内の値を保つように制御されている。これは、交流連系系統Rについても同様である。このため、RoCoF法により交流連系系統Rの系統慣性を推定するために用いるRoCoFを得るためには、当該範囲から逸脱するほど系統周波数が大きく変化する必要がある。
【0031】
ここで、交流連系系統Rからの発電機の脱落、交流連系系統Rに接続される負荷の脱落等のイベントが生じた場合、系統電力は、ステップ状(階段関数状)に大きく変化する。その結果、当該場合、系統周波数は、1次関数的に大きく変化する。しかしながら、このようなイベントは、交流連系系統Rの系統慣性の推定を行いたい所望の時刻に都合よく発生するわけではない。このため、情報処理システム1では、擬似的なイベントとして系統電力を変化させる外乱を発生させる装置が交流連系系統Rに接続される。当該装置としては、例えば、蓄電池等が挙げられる。蓄電池を交流連系系統Rに接続した場合、交流連系系統Rに接続された蓄電池の出力を変化させると、当該電力は、変化する。以下では、説明の便宜上、系統電力を変化させる外乱を、単に外乱と称して説明する。
【0032】
しかしながら、このような外乱を与える装置は、系統電力をステップ状に変化させることが困難であることが多い。例えば、当該装置が蓄電池である場合、当該装置は、電気回路の電圧、電流に起因する制約、蓄電池セルの化学変化速度に起因する制約等の制約により、系統電力をステップ状に変化させることができず、ランプ状に変化させてしまうことが多い。当該装置が系統電力をランプ状に変化させてしまう場合、系統周波数は、1次関数的に変化せず、2次関数的に変化してしまう。その結果、外乱を擬似的なイベントとして用いた場合、RoCoF法では、交流連系系統の系統慣性を、精度よく推定することができないことがあった。
【0033】
そこで、情報処理システム1は、外乱による系統周波数の変化が始まったと推定される第1推定期間よりも前の第1時刻から、外乱による系統周波数の変化が終わったと推定される第2推定期間よりも後の第2時刻までの対象期間における系統周波数を示す周波数情報に基づいて、交流連系系統Rの系統慣性を推定する。これにより、情報処理システム1は、系統電力をランプ状に変化させる外乱に基づいて、交流連系系統Rの系統慣性を精度よく推定することができる。
【0034】
情報処理システム1は、外乱発生装置5と、測定装置10と、情報処理装置20を備える。
【0035】
外乱発生装置5は、交流連系系統Rに接続される。外乱発生装置5は、上記のような外乱として、時刻毎の系統電力をランプ状に変化させる外乱を発生させることが可能な装置であれば、如何なる装置であってもよい。外乱発生装置5は、例えば、蓄電池である。なお、代表地点は、交流連系系統Rに含まれる地点のうち、系統周波数を測定可能な地点であれば、如何なる地点であってもよい。ここで、系統周波数は、前述した通り、系統電力の周波数として測定される。このため、代表地点は、交流連系系統Rにより供給される電力を測定可能な地点と換言することができる。例えば、代表地点は、交流連系系統R内に含まれる変電所等である。なお、以下では、説明の便宜上、代表地点において測定装置10により測定されたある物理量X1を、代表地点の物理量X1と称して説明する。物理量X1は、系統周波数、系統電力、電圧、電流、位相角等のことである。また、以下では、説明の便宜上、代表地点の系統周波数を、単に系統周波数と称して説明する。
【0036】
外乱発生装置5は、無線又は有線により、情報処理装置20と通信可能に接続される。そして、外乱発生装置5は、情報処理装置20からの制御に応じて、外乱を発生させる。外乱発生装置5が蓄電池である場合、外乱発生装置5は、情報処理装置20からの制御に応じて、出力を変化させる。これにより、外乱発生装置5は、系統電力をランプ状に変化させる外乱を発生させることができる。なお、外乱発生装置5は、情報処理装置20と異なる装置からの制御により、外乱を発生させる構成であってもよい。この場合、外乱発生装置5は、情報処理装置20と通信可能に接続される構成であってもよく、情報処理装置20と通信可能に接続されない構成であってもよい。
【0037】
ここで、
図2は、外乱発生装置5により発生させた外乱によって動揺した系統電力の波形の一例を示す図である。
図2に示したグラフの横軸は、時刻を示す。当該グラフの縦軸は、系統電力を示す。当該グラフにプロットされた曲線PL1は、系統電力の波形(すなわち、系統電力の時間的な変化)の一例を示す。また、
図2に示した期間Aは、当該外乱によって系統電力が動揺し始める前の動揺前期間の一例を示す。
図2に示した期間Bは、当該外乱によって系統電力が動揺し始めてから系統電力の動揺が終わるまで動揺期間の一例を示す。
図2に示した期間Cは、当該外乱による系統電力の動揺が終わった後の動揺後期間の一例を示す。
図2に示したように、外乱発生装置5により発生させた外乱は、系統電力を、ランプ状に変化させる。換言すると、当該外乱は、系統電力を、1次関数的に変化させる。
【0038】
一方、
図3は、外乱発生装置5により発生させた外乱によって動揺した系統周波数の波形の一例を示す図である。
図3に示したグラフの横軸は、時刻を示す。当該グラフの縦軸は、系統周波数を示す。当該グラフにプロットされた曲線PL2は、系統周波数の波形(すなわち、系統周波数の時間的な変化)の一例を示す。また、
図3に示した期間Aは、
図2に示した動揺前期間である。
図3に示した期間Bは、
図2に示した動揺期間である。
図3に示した期間Cは、
図2に示した動揺後期間である。
図3に示したように、系統電力がランプ状に変化する場合、系統周波数は、2次関数的に変化する。すなわち、系統周波数は、期間Bにおいて、2次関数的に変化する。
【0039】
RoCoF法では、このように系統周波数が2次関数的に変化する期間Bにおいて成り立つ動揺方程式は、外乱発生時において機械入力の変化を無視できるため、以下の式(1)のように表される。
【0040】
【0041】
上記の式(1)におけるfは、系統周波数を示す。式(1)におけるtは、経過時間を示す。すなわち、式(1)の左辺は、RoCoFを示す。式(1)におけるfsは、公称の系統周波数を示す。式(1)におけるEsysは、交流連系系統Rの系統慣性を示す。式(1)におけるΔPeは、外乱発生装置5により発生させた外乱によって変化した系統電力の変化分を示す。
【0042】
ここで、前述した通り、期間Bにおける系統周波数は、2次関数的に変化する。このため、系統周波数は、以下の式(2)に示すように、2次の多項式によって表される。
【0043】
【0044】
上記の式(2)のtiは、期間Bが始まる時刻taからの経過時間を示す。式(2)のb0、b1、b2のそれぞれは、式(2)に示した2次の多項式における実数係数を示す。以下では、説明を簡略化するため、期間Bが始まる時刻taについて、ta=0である場合について説明する。なお、以下の説明の一般性は、このような時刻taの指定を行った場合であっても失われることはない。何故なら、ta≠0である場合、taをti-taに置き換えることにより、ta=0である場合と同様の結果を得ることができるからである。
【0045】
ここで、時刻t
aにおいて、期間Aにおける系統周波数の波形と、期間Bにおける系統周波数の波形とは、連続的に繋がっていなければならない。すなわち、式(1)の系統周波数は、期間A~期間Bにかけて、時間について連続な関数でなければならない。また、期間BにおけるRoCoFは、期間Bにおける系統周波数の波形を示す式(2)の時間についての1階微分によって表される。そして、
図2に示したように、系統電力が期間Aでほぼ一定値且つ期間Bでほぼ直線状に変化し、これらの期間の境界で連続であることから、期間Aにおける系統周波数の勾配と、期間Bにおける系統周波数の勾配とは、連続的に繋がっていなければならない。すなわち、式(1)の時間についての1階微分も、期間A~期間Bにかけて、時間について連続な関数でなければならない。以上のことから、これら2つの勾配の連続性は、以下の式(3)によって表される。
【0046】
【0047】
ta=0である場合、上記の式(3)から、b1=0であることが導かれる。従って、この場合、交流連系系統Rの期間BにおけるRoCoFは、上記の式(2)及び式(3)に基づいて、以下の式(4)のように表すことができる。
【0048】
【0049】
また、期間Bにおける系統電力は、前述した通り、1次関数的に変化する。このため、当該電力の波形は、系統電力の勾配をr1によって示すと、以下の式(5)のように表すことができる。
【0050】
【0051】
そして、交流連系系統Rの系統慣性は、上記の式(1)、式(4)、式(5)に基づいて、以下の式(6)のように表すことができる。
【0052】
【0053】
従って、情報処理装置20は、r1とb2の2つの未知数を推定することにより、上記の式(6)を用いて交流連系系統Rの系統慣性を推定することができる。すなわち、情報処理装置20は、RoCoF法に基づく方法として、r1とb2の2つの未知数の推定と、式(6)とを用いる方法により、交流連系系統Rの系統慣性を推定する。
【0054】
図1に戻る。測定装置10は、交流連系系統R内の予め決められた代表地点に設けられる。測定装置10は、時刻毎の系統周波数と、時刻毎の系統電力に応じた値(例えば、電圧、電流、位相角、及び系統電力そのもの等)とを測定する。測定装置10は、例えば、PMU(Phasor Measurement Unit)である。以下では、説明の便宜上、測定装置10が測定する値のうち系統周波数を除く測定値を、非周波数測定値と称して説明する。なお、測定装置10は、時刻毎の系統周波数を測定し、時刻毎の非周波数測定値を測定しない構成であってもよい。この場合、情報処理装置20は、測定装置10と異なる他の装置から、時刻毎の非周波数測定値を示す非周波数測定値情報を取得する。また、測定装置10は、時刻毎の系統周波数を測定せず、時刻毎の非周波数測定値を測定する構成であってもよい。この場合、情報処理装置20は、測定装置10と異なる他の装置から、時刻毎の系統周波数を示す周波数情報を取得する。
【0055】
測定装置10は、無線又は有線により、情報処理装置20と通信可能に接続される。
【0056】
情報処理装置20は、時刻毎に測定装置10により測定された系統周波数を示す周波数情報を、測定装置10から取得する。情報処理装置20は、取得した周波数情報を時刻毎に記憶する。また、情報処理装置20は、時刻毎に測定装置10により測定された非周波数測定値を示す非周波数測定値情報を、時刻毎に測定装置10から取得する。情報処理装置20は、取得した非周波数測定値情報を、時刻毎に記憶する。なお、情報処理装置20は、測定装置10が非周波数測定値を測定しない場合、非周波数測定値情報を測定装置10から取得しない。
【0057】
ここで、以下では、一例として、非周波数測定値が、系統電力である場合について説明する。また、以下では、説明の便宜上、非周波数測定値として系統電力を示す非周波数測定値情報を、電力情報と称して説明する。
【0058】
情報処理装置20は、例えば、交流連系系統Rの系統慣性の推定を行う動作モードとして、第1推定モード、第2推定モードの2つの推定モードを有する。なお、情報処理装置20は、当該2つの推定モードのうちのいずれか一方又は両方に代えて、又は、当該2つの推定モードのうちのいずれか一方又は両方に加えて、他の推定モードを有する構成であってもよい。また、情報処理装置20は、当該2つの推定モードのうちのいずれか一方を有する構成であってもよい。
【0059】
第1推定モードは、交流連系系統Rの系統慣性の推定を行う動作モードのうち、測定装置10から取得した周波数情報に基づいて当該系統慣性の推定を伴う動作モードである。
【0060】
第2推定モードは、交流連系系統Rの系統慣性の推定を行う動作モードのうち、測定装置10から取得した周波数情報と、測定装置10から取得した電力情報とに基づいて当該系統慣性の推定を伴う動作モードである。
【0061】
なお、情報処理装置20は、第2推定モードを有さない場合、電力情報を取得しない構成であってもよい。
【0062】
第1推定モードにおいて、情報処理装置20は、予め記憶した周波数情報のうち、受け付けた操作に応じた期間の周波数情報に基づいて、交流連系系統Rの系統慣性を推定する。より具体的には、第1推定モードにおいて、情報処理装置20は、受け付けた操作に応じて、第1推定期間、第2推定期間、第1時刻、第2時刻のそれぞれを特定する。そして、情報処理装置20は、時刻毎の系統周波数を示す周波数情報のうち、特定した第1時刻から、特定した第2時刻までの対象期間における周波数情報に基づいて、当該系統慣性を推定する。これにより、情報処理装置20は、系統電力をランプ状に変化させる外乱に基づいて、交流連系系統Rの系統慣性を精度よく推定することができる。ここで、第1推定期間は、外乱による系統周波数の変化が始まったと推定される期間のことである。第2推定期間は、外乱による系統周波数の変化が終わったと推定される期間のことである。対象期間は、交流連系系統Rの系統慣性の推定を行う対象となる期間のことである。第1時刻は、第1推定期間よりも前の時刻のことであり、対象期間が始まる時刻のことである。第2時刻は、第2推定期間よりも後の時刻のことであり、対象期間が終わる時刻のことである。対象期間は、第1推定期間及び第2推定期間の両方が含まれる期間であれば、如何なる期間であってもよい。例えば、第1時刻は、第1推定期間が始まる時刻よりも数秒前の時刻である。これは、外乱を発生させる前の系統周波数が、ほぼ一定に保たれているためである。また、例えば、第2時刻は、第2推定期間が終わる時刻よりも数秒後の時刻である。これは、外乱による系統周波数の動揺において、外乱から数秒経過後にガバナー等の制御結果が支配的となってしまうためである。
【0063】
また、第1推定モードにおいて、情報処理装置20は、対象期間における周波数情報が示す系統周波数の波形(すなわち、系統周波数の時間的な変化)にフィットさせるフィッティング関数を、最適化問題を解くことにより導出する。これにより、情報処理装置20は、前述の2つの未知数r1、b2のうちのb2を特定する。また、情報処理装置20は、2つの未知数r1、b2のうちのr1を、外乱発生装置5に外乱を発生させた際の外乱発生装置5の出力の変化に基づいて、特定する。そして、情報処理装置20は、特定したr1、b2と、上記の式(6)とに基づいて、交流連系系統Rの系統慣性を推定する。
【0064】
第2推定モードにおいて、情報処理装置20は、予め記憶した周波数情報及び電力情報のうち、受け付けた操作に応じた期間の周波数情報及び電力情報に基づいて、交流連系系統Rの系統慣性を推定する。より具体的には、第2推定モードにおいても、情報処理装置20は、受け付けた操作に応じて、第1推定期間、第2推定期間、第1時刻、第2時刻のそれぞれを特定する。そして、情報処理装置20は、特定した第1時刻から、特定した第2時刻までの対象期間における周波数情報及び電力情報に基づいて、当該系統慣性を推定する。この場合、情報処理装置20は、系統電力をランプ状に変化させる外乱に基づいて、交流連系系統Rの系統慣性を、より確実に精度よく推定することができる。
【0065】
また、第2推定モードにおいて、情報処理装置20は、対象期間における周波数情報が示す系統周波数の波形(すなわち、系統周波数の時間的な変化)にフィットさせるフィッティング関数と、対象期間における電力情報が示す系統電力の波形にフィットさせるフィッティング関数とのそれぞれを、最適化問題を解くことにより導出する。これにより、情報処理装置20は、前述の2つの未知数r1、b2の両方を特定する。そして、情報処理装置20は、特定したr1、b2と、上記の式(6)とに基づいて、交流連系系統Rの系統慣性を推定する。
【0066】
情報処理装置20は、動作モードとして第1推定モードが選択されている場合、取得した周波数情報に基づいて、交流連系系統Rの系統慣性を推定する。また、情報処理装置20は、動作モードとして第2推定モードが選択されている場合、取得した周波数情報及び電力情報に基づいて、交流連系系統Rの系統慣性を推定する。
【0067】
情報処理装置20は、例えば、ワークステーション、デスクトップPC(Personal Computer)、ノートPC等である。なお、情報処理装置20は、これらに代えて、タブレットPC、多機能携帯電話端末(スマートフォン)、携帯電話端末、PDA(Personal Digital Assistant)等であってもよい。
【0068】
<第1推定モードにおける系統慣性の推定方法>
以下、第1推定モードにおける系統慣性の推定方法について説明する。
【0069】
例えば、情報処理装置20のユーザーは、外乱発生装置5が外乱を発生させた後、
図3に示したようなグラフに基づいて、前述の第1推定期間、第2推定期間、第1時刻、第2時刻のそれぞれを決める。このため、情報処理装置20は、受け付けた操作に応じて、
図3に示したようなグラフを表示する。この際、情報処理装置20は、外乱発生装置5が外乱を発生させた時刻を含む期間を示す情報を受け付ける。そして、情報処理装置20は、予め記憶している周波数情報の中から、受け付けた当該期間における時刻毎の系統周波数を示す周波数情報を抽出する。情報処理装置20は、抽出した周波数情報に基づいて、
図3に示したようなグラフを生成し、生成したグラフを表示する。なお、情報処理装置20は、このようなグラフの表示を行わない構成であってもよい。この場合、
図3に示したようなグラフは、他の装置により生成される。
【0070】
次に、情報処理装置20のユーザーは、情報処理装置20に表示されたグラフに基づいて、第1推定期間を決める。より具体的には、当該ユーザーは、当該グラフに基づいて、外乱による系統周波数の変化が始まったと推定される期間を、第1推定期間として決める。例えば、当該ユーザーは、目視によって、外乱による系統周波数の変化が始まったと推定される期間を、第1推定期間として決める。なお、第1推定期間の決め方は、これに代えて、外乱による系統周波数の変化が始まったと推定される期間を第1推定期間として決定可能な他の決め方であってもよい。なお、情報処理装置20は、抽出した周波数情報と、機械学習のモデル等とに基づいて、外乱による系統周波数の変化が始まったと推定される期間を第1推定期間として特定する構成であってもよい。すなわち、上記において説明したユーザーによる第1推定期間の決定は、機械学習等の機能によりユーザーの介在なしに自動的に、又は、ユーザーによる部分的な介在を伴い半自動的に、行われてもよい。
図3に示した期間PD11は、当該グラフに基づいて当該ユーザーにより決められた第1推定期間の一例である。
【0071】
また、情報処理装置20のユーザーは、情報処理装置20に表示されたグラフに基づいて、第2推定期間を決める。より具体的には、当該ユーザーは、当該グラフに基づいて、外乱による系統周波数の変化が終わったと推定される期間を、第2推定期間として決める。更に換言すると、当該ユーザーは、当該グラフに基づいて、外乱を直接の原因とした系統周波数の変化が終わったと推定される期間を、第2推定期間として決める。このため、第2推定期間は、第1推定期間よりも後の期間において、系統周波数の変化が二次関数的な変化から一次関数的な変化へと切り替わる前後の期間として決定される。例えば、当該ユーザーは、目視によって、外乱による系統周波数の二次関数的な変化が終わったと推定される期間を、第2推定期間として決める。なお、情報処理装置20は、抽出した周波数情報と、機械学習のモデル等とに基づいて、外乱による系統周波数の二次関数的な変化が終わったと推定される期間を第2推定期間として特定する構成であってもよい。すなわち、上記において説明したユーザーによる第2推定期間の決定は、機械学習等の機能によりユーザーの介在なしに自動的に、又は、ユーザーによる部分的な介在を伴い半自動的に、行われてもよい。
図3に示した期間PD12は、当該グラフに基づいて当該ユーザーにより決められた第2推定期間の一例である。
【0072】
次に、情報処理装置20のユーザーは、決めた第1推定期間よりも前の時刻を、第1時刻として決める。例えば、当該ユーザーは、当該第1推定期間が始まる時刻よりも第1所定時間前の時刻を、第1時刻として決める。第1所定時間は、例えば、0.2秒である。
図3に示した時刻ts1は、当該第1推定期間に基づいて当該ユーザーにより決められた第1時刻の一例である。なお、第1所定時間は、0.2秒より短い時間であってもよく、0.2秒より長い時間であってもよい。また、第1時刻の決め方は、これに代えて、他の決め方であってもよい。また、情報処理装置20は、抽出した周波数情報と、機械学習のモデル等とに基づいて、第1推定期間とともに、第1時刻を特定する構成であってもよい。すなわち、上記において説明したユーザーによる第1時刻の決定は、機械学習等の機能によりユーザーの介在なしに自動的に、又は、ユーザーによる部分的な介在を伴い半自動的に、行われてもよい。
【0073】
次に、情報処理装置20のユーザーは、決めた第2推定期間よりも後の時刻を、第2時刻として決める。例えば、当該ユーザーは、当該第2推定期間が終わる時刻よりも第2所定時間後の時刻を、第2時刻として決める。第2所定時間は、例えば、0.2秒である。
図2に示した時刻te1は、当該第2推定期間に基づいて当該ユーザーにより決められた第2時刻の一例である。なお、第2所定時間は、0.2秒より短い時間であってもよく、0.2秒より長い時間であってもよい。また、第2所定時間は、第1所定時間と同じ時間であってもよく、第1所定時間と異なる時間であってもよい。また、第2時刻の決め方は、これに代えて、他の決め方であってもよい。また、情報処理装置20は、抽出した周波数情報と、機械学習のモデル等とに基づいて、第2推定期間とともに、第2時刻を特定する構成であってもよい。すなわち、上記において説明したユーザーによる第2時刻の決定は、機械学習等の機能によりユーザーの介在なしに自動的に、又は、ユーザーによる部分的な介在を伴い半自動的に、行われてもよい。
【0074】
ここで、第1時刻である時刻ts1から第2時刻である時刻te1までの期間をn-1等分し、時刻ts1を時刻t
1とし、時刻te1を時刻t
nとすることにより、対象区間の任意の時刻を、t
iによって表すことができる。ただし、nは、1以上の整数であれば、如何なる整数であってもよい。そして、iは、1以上n以下の閉区間に含まれる整数のうちのいずれかの整数を示す。なお、
図3に示した期間PD1は、時刻t
1から時刻t
nまでの期間(時刻ts1から時刻te1までの期間)、すなわち、前述の対象期間の一例である。
【0075】
情報処理装置20のユーザーは、このようにして決めた第1推定期間、第2推定期間、第1時刻、第2時刻のそれぞれを、情報処理装置20に入力する。すなわち、情報処理装置20は、受け付けた操作に応じて、第1推定期間、第2推定期間、第1時刻、第2時刻のそれぞれを特定する。情報処理装置20は、特定した第1時刻及び第2時刻に基づいて、対象期間を算出する。情報処理装置20は、予め記憶した周波数情報の中から、算出した対象期間における周波数情報を抽出する。情報処理装置20は、抽出した周波数情報に基づいて、対象期間における系統周波数の波形にフィットさせるフィッティング関数を、目的関数を最小化する最適化問題を解くことにより推定する。以下では、一例として、第1推定モードにおいて、情報処理装置20が最小二乗法を用いて当該最適化問題を解くことによりフィッティング関数を推定する場合について説明する。
【0076】
ここで、情報処理装置20は、情報処理装置20がフィッティング関数を最小二乗法によって推定する際、フィッティング関数に含まれる1つ以上の実数係数とともに、外乱による系統周波数の変化が始まった周波数変化開始時刻と、外乱による系統周波数の変化が終わった周波数変化終了時刻とを未知数(フィッティングパラメーター)として扱う。以下では、説明の便宜上、周波数変化開始時刻の候補を、周波数変化開始時刻候補taによって示す(すなわち、前述の時刻taは、周波数変化開始時刻候補の一例である)。aは、時刻t1~時刻tnのうちの第1推定期間が始まる時刻ta1の添字の整数a1から、時刻t1~時刻tnのうちの第1推定期間が終わる時刻ta2の添字の整数a2までのいずれかの整数を示す。すなわち、周波数変化開始時刻候補taは、第1推定期間に含まれる時刻である。また、以下では、説明の便宜上、周波数変化終了時刻の候補を、周波数変化終了時刻候補tbによって示す。bは、時刻t1~時刻tnのうちの第2推定期間が始まる時刻tb1の添字の整数b1から、時刻t1~時刻tnのうちの第2推定期間が終わる時刻tb2の添字の整数b2までのいずれかの整数を示す。すなわち、周波数変化終了時刻候補tbは、第2推定期間に含まれる時刻である。また、情報処理装置20は、例えば、期間Aにおける系統周波数の波形にフィットさせるフィッティング関数として定数関数、期間Bにおける系統周波数の波形にフィットさせるフィッティング関数として2次の多項式、期間Cにおける系統周波数の波形にフィットさせるフィッティング関数として3次の多項式を用いる。この場合、情報処理装置20がフィッティング関数を最小二乗法によって推定する際の未知数は、定数関数に含まれる1つの実数定数と、2次の多項式に含まれる3つの実数係数と、3次の多項式に含まれる4つの実数係数と、周波数変化開始時刻候補taと、周波数変化終了時刻tbとのそれぞれである。なお、期間Aにおける系統周波数の波形にフィットさせるフィッティング関数は、定数関数に代えて、他の関数であってもよい。また、期間Bにおける系統周波数の波形にフィットさせるフィッティング関数は、2次の多項式に代えて、他の関数であってもよい。また、期間Cにおける系統周波数の波形にフィットさせるフィッティング関数は、3次の多項式に代えて、他の関数であってもよい。例えば、当該フィッティング関数は、ガバナーによる系統周波数の動揺の収束効果を高次成分により吸収する場合、高次の多項式であることが望ましい。一方、例えば、当該フィッティング関数は、期間Cとして短い期間を採用する場合、1次式であってもよい。
【0077】
期間Aにおける系統周波数の波形にフィットさせるフィッティング関数は、実数定数a0を用いて、以下の式(7)のように表される。
【0078】
【0079】
期間Bにおける系統周波数の波形にフィットさせるフィッティング関数は、前述したとおり、実数係数b0、b1、b2を用いて、上記の式(2)のように表される。
【0080】
期間Cにおける系統周波数の波形にフィットさせるフィッティング関数は、実数係数c0、c1、c2、c3を用いて、上記の式(8)のように表される。
【0081】
【0082】
例えば、第1推定期間に含まれるある時刻tx1を周波数変化開始時刻候補taとして選択し、第2推定期間に含まれるある時刻tx2を周波数変化終了時刻候補tbとして選択した場合、最小二乗法により最小化させる目的関数Jrfは、以下の式(9)、式(10)のように定式化される。なお、周波数変化終了時刻候補tbは、系統周波数の変化が二次関数的な変化から一次関数的な変化へと切り替わった時刻の候補の一例である。以下では、説明の便宜上、系統周波数の変化が二次関数的な変化から一次関数的な変化へと切り替わった時刻の候補のことを、周波数変化終了時刻候補と称して説明する。
【0083】
【0084】
【0085】
ここで、上記の式(2)、式(7)、式(8)のそれぞれは、各期間(すなわち、期間A、期間B、期間C)の境界において、連続的に繋がっており、且つ、滑らかでなければならない。
【0086】
すなわち、周波数変化開始時刻候補taにおいて、期間Aと期間Bとの境界では、以下の式(11)によって表される連続条件と、以下の式(12)によって表される滑らか条件とが満たされている。
【0087】
【0088】
【0089】
また、周波数変化終了時刻候補tbにおいて、期間Bと期間Cとの境界では、以下の式(13)によって表される連続条件と、以下の式(14)によって表される滑らか条件とが満たされている。
【0090】
【0091】
【0092】
そして、上記の式(10)のベクトルxe(式(10)では、xeのxは、太文字のxによって示されている)に含まれる8つの未知数のうちの4つの未知数を、式(11)~式(14)によって表される4つの条件に基づいて消去することにより、以下の式(15)、式(16)を得ることができる。
【0093】
【0094】
【0095】
また、上記の式(15)、式(16)から、以下の式(17)を得ることができる。
【0096】
【0097】
従って、ベクトルxeは、以下の式(18)のように表すことができる。
【0098】
【0099】
これにより、上記の式(9)として示した目的関数は、上記の式(16)において定義したベクトルx(式(16)では、太文字のxによって示されている)を用いて、以下の式(19)、式(20)のように表すことができる。
【0100】
【0101】
【0102】
なお、上記の式(19)として示した目的関数を最小化するベクトルxは、以下の式(21)を解くことにより得ることができる。なお、式(21)の導出方法については、一般的な最小二乗法における方法と同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0103】
【0104】
ただし、ベクトルxf(上記の式(17)では、xfのxは、太文字のxによって示されている)は、式(17)を解くことにより得られる。
【0105】
ここで、上記の式(19)を最小化することにより得られるフィッティング関数は、周波数変化開始時刻が時刻tx1であり、且つ、周波数変化終了時刻が時刻tx2であると仮定した場合において、対象期間における周波数情報が示す系統周波数の波形に最もフィットする関数である。しかしながら、時刻tx1は、第1推定期間に含まれる時刻のうちの1つに過ぎず、周波数変化開始時刻候補のうちの1つに過ぎない。また、時刻tx2は、第2推定期間に含まれる時刻のうちの1つに過ぎず、周波数変化終了時刻候補のうちの1つに過ぎない。そこで、上記の式(19)を最小化させる最小化問題は、以下の式(22)のように定義することにより、フィッティング関数に含まれる実数定数、実数係数とともに周波数変化開始時刻、周波数変化終了時刻のそれぞれ未知数とした最小化問題として表すことができる。
【0106】
【0107】
ここで、区間[ta1,ta2]は、第1推定期間を示す。そして、区間[ta1,ta2]に含まれる個々の時刻が、周波数変化開始時刻候補taとして選択される時刻である。また、区間[tb1,tb2]は、第2推定期間を示す。そして、区間[tb1,tb2]に含まれる個々の時刻が、周波数変化終了時刻候補tbとして選択される時刻である。
【0108】
上記の式(22)の最小化問題を解くことにより、対象期間における周波数情報が示す系統周波数の波形に最もフィットするフィッティング関数を推定することができるとともに、対象期間における周波数情報が示す系統周波数の波形にフィッティング関数が最もフィットする場合における周波数変化開始時刻候補taと、当該場合における周波数変化終了時刻候補tbとのそれぞれを、周波数変化開始時刻、周波数変化終了時刻とのそれぞれとして推定することができる。これにより、情報処理装置20は、未知数b2を推定することができる。
【0109】
また、情報処理装置20は、外乱発生装置5に外乱を発生させた際の外乱発生装置5の出力の変化に基づいて、系統電力の変化率r1を推定する。なお、情報処理装置20によるr1の推定方法は、他の方法であってもよい。すなわち、情報処理装置20によるr1の推定方法については、既知の方法であってもよく、これから開発される方法であってもよい。また、情報処理装置20は、系統電力の変化率r1を、ユーザーから受け付ける構成であってもよい。
【0110】
そして、情報処理装置20は、推定した未知数r1、b2と、上記の式(6)とに基づいて、交流連系系統Rの系統慣性を推定する。これにより、情報処理装置20は、系統電力をランプ状に変化させる外乱に基づいて、交流連系系統Rの系統慣性を精度よく推定することができる。
【0111】
ここで、
図4は、
図3に示したグラフ上にフィッティング関数を重畳させた図である。
図4において、当該グラフ上に重畳された関数FF1は、第1推定モードにおいて情報処理装置20により推定されたフィッティング関数の一例を示す。
図4に示した時刻tv11は、当該フィッティング関数とともに情報処理装置20により推定された周波数変化開始時刻の一例を示す。
図4に示した時刻tv12は、当該フィッティング関数とともに情報処理装置20により推定された周波数変化終了時刻の一例を示す。
図4を見ると、第1推定モードにおいて、第1時刻から周波数変化開始時刻(すなわち、周波数変化開始時刻候補のうちの1つ)までの第1対象期間における周波数情報が示す系統周波数の波形の直線近似と、当該周波数変化開始時刻から周波数変化終了時刻(すなわち、周波数変化終了時刻候補のうちの1つ)までの第2対象期間における周波数情報が示す系統周波数の波形の二次曲線近似と、当該周波数変化終了時刻から第2時刻までの第3対象期間における周波数情報が示す系統周波数の波形の多項式近似とを、情報処理装置20が行っていることが分かる。
【0112】
なお、期間Cのフィッティング関数として、3次よりも高いm次の多項式を用いる場合、周波数変化終了時刻候補tbにおいて、期間Bと期間Cとの境界では、以下の式(23)によって表される連続条件と、以下の式(24)によって表される滑らか条件とが満たされなければならない。ここで、mは、4以上の整数であれば、如何なる整数であってもよい。
【0113】
【0114】
【0115】
ただし、この場合、上記の式(16)の行列T2(式(16)では、T2のTは、太文字のTによって示されている)は、以下の式(25)のように表される。
【0116】
【0117】
<第2推定モードにおけるイベント発生時刻及び系統慣性の推定方法>
以下、第2推定モードにおける系統慣性の推定方法について説明する。
【0118】
第2推定モードでは、第1推定モードにおける目的関数の最小化によるb2の推定に加えて、別の目的関数の最小化によるr1の推定が行われる。このため、ここでは、第1推定モードにおいてb2を推定するために最小化させる目的関数(すなわち、上記の式(19)に示した目的関数)については、説明を省略する。また、以下では、説明の便宜上、当該目的関数を第1目的関数と称し、当該別の目的関数を第2目的関数と称して説明する。また、以下では、一例として、第2目的関数の最小化が、第1目的関数の最小化と一緒に行われる場合について説明する。なお、第2目的関数の最小化は、第1目的関数の最小化と独立に行われる構成であってもよい。
【0119】
より具体的には、第2推定モードにおいて、情報処理装置20は、
図2に示したような系統電力の波形にフィットするフィッティング関数を推定する。このため、情報処理装置20は、対象期間を算出する。そして、情報処理装置20は、予め記憶した電力情報の中から、算出した対象期間における電力情報を抽出する。情報処理装置20は、抽出した電力情報に基づいて、対象期間における系統電力の波形にフィットさせるフィッティング関数を、以下において説明する第2目的関数を最小化する最適化問題を解くことにより推定する。
【0120】
情報処理装置20は、抽出した電力情報が示す系統電力の波形にフィットさせるフィッティング関数として、前述の期間A、期間B、期間Cのそれぞれ毎に異なる関数を用いる。
【0121】
期間Aにおける系統電力の波形にフィットさせるフィッティング関数は、以下の式(26)に示した定数関数によって表される。
【0122】
【0123】
また、期間Bにおける系統電力の波形にフィットさせるフィッティング関数は、以下の式(27)に示した1次の多項式によって表される。
【0124】
【0125】
また、期間Cにおける系統電力の波形にフィットさせるフィッティング関数は、以下の式(28)に示した定数関数によって表される。
【0126】
【0127】
前述の第2目的関数は、以上のような式(26)~式(28)に基づいて、以下の式(29)、式(30)のように表すことができる。
【0128】
【0129】
【0130】
ここで、系統電力の波形へフィットさせるフィッティング関数は、各期間(すなわち、期間A、期間B、期間C)の境界において、連続的に繋がっている必要がある一方、滑らかである必要がない。上記の式(29)には、このような連続性についての条件が暗に含まれている。上記の式(29)の解は、以下の式(31)のように表される。なお、式(31)の導出方法については、一般的な最小二乗法における方法と同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0131】
【0132】
以上のような第2目的関数は、以下の式(32)のように重みを使うことにより、第1目的関数とともに1つの目的関数Jrとしてまとめることができる。
【0133】
【0134】
ここで、wfとwpはそれぞれ、重みである。wfは、例えば、対象期間における周波数情報が示す系統周波数の分散の逆数である。なお、wfは、当該逆数に代えて、重みとして使用可能な他の値であってもよい。wpは、例えば、対象期間における電力情報が示す系統電力の分散の逆数である。なお、wpは、当該逆数に代えて、重みとして使用可能な他の値であってもよい。そして、上記の目的関数Jrの最小化問題は、以下の式(33)により表される。
【0135】
【0136】
情報処理装置20は、上記の式(33)の最小化問題を解くことにより、未知数b2とともに未知数r1を推定することができる。
【0137】
そして、情報処理装置20は、推定した未知数r1、b2と、上記の式(6)とに基づいて、交流連系系統Rの系統慣性を推定する。これにより、情報処理装置20は、系統電力をランプ状に変化させる外乱に基づいて、交流連系系統Rの系統慣性を精度よく推定することができる。
【0138】
ここで、
図5は、
図2に示したグラフ上に、第2目的関数に最小化により推定されたフィッティング関数を重畳させた図である。
図5において、当該グラフ上に重畳された関数FF2は、第2推定モードにおいて情報処理装置20により推定された当該フィッティング関数の一例を示す。
図5を見ると、情報処理装置20が、期間Aと期間Cにおける系統電力の波形の直線近似と、期間Bにおける系統電力の波形を1次の多項式による近似とを行っていることが分かる。また、
図5を見ると、第2推定モードにおいて、系統電力の波形に、当該フィッティング関数を精度よくフィットさせることができていることが分かる。
【0139】
<情報処理装置のハードウェア構成>
以下、
図6を参照し、情報処理装置20のハードウェア構成について説明する。
図6は、情報処理装置20のハードウェア構成の一例を示す図である。
【0140】
情報処理装置20は、例えば、プロセッサー21と、記憶部22と、入力受付部23と、通信部24と、表示部25を備える。これらの構成要素は、バスを介して相互に通信可能に接続されている。また、情報処理装置20は、通信部24を介して測定装置10等と通信を行う。
【0141】
プロセッサー21は、情報処理装置20の全体を制御する。プロセッサー21は、例えば、CPU(Central Processing Unit)である。なお、プロセッサー21は、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の他のプロセッサーであってもよい。プロセッサー21は、記憶部22に格納された各種のプログラムを実行する。
【0142】
記憶部22は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)、ROM(Read-Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等を含む。なお、記憶部22は、情報処理装置20に内蔵されるものに代えて、USB(Universal Serial Bus)等のデジタル入出力ポート等によって接続された外付け型の記憶装置であってもよい。記憶部22は、情報処理装置20が処理する各種の情報、各種の画像、各種のプログラム等を格納する。
【0143】
入力受付部23は、キーボード、マウス、タッチパッド等の入力装置である。なお、入力受付部23は、表示部25と一体に構成されたタッチパネルであってもよい。
【0144】
通信部24は、例えば、アンテナ、USB等のデジタル入出力ポート、イーサネット(登録商標)ポート等を含んで構成される。
【0145】
表示部25は、例えば、液晶ディスプレイパネル、あるいは、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイパネル等を含む表示装置である。
【0146】
<情報処理装置の機能構成>
以下、
図7を参照し、情報処理装置20の機能構成について説明する。
図7は、情報処理装置20の機能構成の一例を示す図である。
【0147】
情報処理装置20は、記憶部22と、入力受付部23と、通信部24と、表示部25と、制御部26を備える。
【0148】
制御部26は、情報処理装置20の全体を制御する。制御部26は、例えば、取得部261と、推定部262と、表示制御部263と、記憶制御部264を備える。制御部26が備えるこれらの機能部は、例えば、プロセッサー21が、記憶部22に記憶された各種のプログラムを実行することにより実現される。また、当該機能部のうちの一部又は全部は、LSI(Large Scale Integration)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等のハードウェア機能部であってもよい。
【0149】
取得部261は、各種の情報を取得する。例えば、取得部261は、測定装置10から周波数情報を取得する。また、例えば、取得部261は、測定装置10から非周波数測定値情報を取得する。
【0150】
推定部262は、各種の推定を行う。例えば、推定部262は、交流連系系統Rの系統慣性を推定する。
【0151】
表示制御部263は、各種の画像を生成する。表示制御部263は、生成した画像を、表示部25に表示させる。
【0152】
記憶制御部264は、取得部261により取得された各種の情報を、記憶部22に記憶させる。
【0153】
<情報処理装置が交流連系系統の系統慣性を推定する処理>
以下、
図8を参照し、情報処理装置20が交流連系系統Rの系統慣性を推定する処理について説明する。
図8は、情報処理装置20が交流連系系統Rの系統慣性を推定する処理の流れの一例を示す図である。以下では、一例として、情報処理装置20が、
図8に示したステップS110の処理が行われるよりも前のタイミングにおいて、第1推定モードと第2推定モードとの2つの推定モードのうちのいずれか1つを動作モードとして選択する操作を受け付けている場合について説明する。また、以下では、一例として、情報処理装置20のユーザーが、当該タイミングにおいて、第1推定期間、第2推定期間、第1時刻、第2時刻のそれぞれを決めている場合について説明する。また、以下では、一例として、情報処理装置20が、系統電力の変化率r
1を予め受け付けている場合について説明する。
【0154】
推定部262は、第1推定期間、第2推定期間、第1時刻、第2時刻のそれぞれを入力する操作を受け付けるまで待機する(ステップS110)。
【0155】
推定部262は、第1推定期間、第2推定期間、第1時刻、第2時刻のそれぞれを入力する操作を受け付けたと判定した場合(ステップS110-YES)、第1推定期間、第2推定期間、第1時刻、第2時刻のそれぞれを特定する(ステップS120)。
図8では、ステップS120の処理を、「期間及び時刻特定」として示している。
【0156】
次に、推定部262は、ステップS120において特定した第1時刻及び第2時刻に基づいて、対象期間を算出する。そして、推定部262は、情報処理装置20の動作モードに応じて、算出した対象期間における情報を記憶部22から抽出して読み出す(ステップS130)。例えば、情報処理装置20の動作モードが第1推定モードである場合、推定部262は、算出した対象期間における周波数情報を、記憶部22に記憶された周波数情報の中から抽出して読み出す。また、例えば、情報処理装置20の動作モードが第2推定モードである場合、推定部262は、算出した対象期間における周波数情報及び電力情報を、記憶部22に記憶された周波数情報及び電力情報の中から抽出して読み出す。
図8では、ステップS130の処理を、「情報読出」として示している。
【0157】
次に、推定部262は、ステップS130において記憶部22から読み出した情報に基づいて、予め受け付けた操作に応じた動作モードの推定方法によってフィッティング関数の推定を行うことにより、交流連系系統Rの系統慣性の推定を行う(ステップS140)。ここで、当該操作に応じた動作モードが第1推定モードである場合、推定部262は、ステップS140において、当該情報に基づくフィッティング関数の推定によりb2を推定し、推定したb2と、予め受け付けたr1とに基づいて、当該系統慣性の推定を行う。一方、当該操作に応じた動作モードが第2推定モードである場合、推定部262は、ステップS140において、当該情報に基づくフィッティング関数の推定によりb2、r1を推定し、推定したb2、r1に基づいて、当該系統慣性の推定を行う。なお、当該推定方法については、既に説明済であるため、説明を省略する。
【0158】
次に、表示制御部263は、ステップS140において推定部262が推定した系統慣性を示す情報を、表示部25に表示させ(ステップS150)、
図8に示したフローチャートの処理を終了する。
【0159】
<交流連系系統の系統慣性の推定の数値的検証>
以下、
図8に示したフローチャートの処理によって行われた交流連系系統Rの系統慣性の推定の数値的検証について説明する。なお、当該数値的検証には、数式モデルで表現された三つの発電機で構成するモデル系統が使用されている。ここで、
図9は、モデル系統を説明するための図である。今回使用したモデル系統は、発電機G1~発電機G3の3つの発電機と、負荷L1及び負荷L2の2つの負荷とが
図9に示したように接続された交流連系系統Xを数値的に再現している。発電機G1には、計測ユニットP1が設けられている。発電機G2には、計測ユニットP2が設けられている。発電機G3には、計測ユニットP3が設けられている。計測ユニットP1~計測ユニットP3のそれぞれは、PMUである。このようなモデル系統において、発電機G2に機械入力として外乱EXを与える。これにより、モデル系統において計測ユニットP1~計測ユニットP3のそれぞれから出力される周波数及び電力に基づいて、交流連系系統Xの系統慣性を推定した。ただし、当該数値的検証では、これら3つの発電機それぞれの慣性モーメントの比が既知であるとして、当該周波数に基づく系統周波数と、当該電力に基づく系統電力とを算出した。
【0160】
図10は、モデル系統から出力された3つの電力に基づいて算出された系統電力の波形を表示したグラフの一例を示す図である。
図10に示したグラフの横軸は、第1時刻からの経過時間を示す。当該グラフの縦軸は、当該系統電力を示す。当該グラフ上の関数FF3は、当該波形の一例を示す。
図10に示したように、当該波形は、モデル系統において、与えた外乱によって系統電力がランプ状に変化していることを表している。
【0161】
一方、
図11は、モデル系統から出力された3つの周波数に応じた系統周波数の波形と、当該波形について推定されたフィッティング関数を表示したグラフの一例を示す図である。
図11に示したグラフの横軸は、第1時刻からの経過時間を示す。当該グラフの縦軸は、系統周波数を示す。当該グラフ上の曲線FF4は、既知の慣性モーメントの比を用いて算出された慣性中心の周波数の波形を示す。また、当該グラフ上の曲線FF5は、当該フィッティング関数の一例を示す。
図11に示したように、曲線FF5は、期間A~期間Cに掛けて、曲線FF4と重なっている。すなわち、
図11を見ると、モデル系統では、上記において説明したRoCoF法に基づく方法によるフィッティング関数の推定が、慣性中心の周波数の波形を精度よく推定することができていることが分かる。ただし、
図11に示したフィッティング関数は、期間Cにおける多項式近似において、一例として、5次の多項式を用いている。この場合、交流連系系統Xの系統慣性の推定誤差は、+9%であった。一方、当該多項式近似において2次の多項式を用いた場合、交流連系系統Xの系統慣性の推定誤差は、17%となった。なお、
図10及び
図11におけるフィッティング関数の推定は、第1推定モードによる方法により行った。しかしながら、
図10及び
図11に示される傾向は、第2推定モードによる方法においても、同様に見られる傾向である。このため、第2推定モードによる方法により推定されたフィッティング関数については、図示による説明を省略する。以上のような数値的検証の結果は、情報処理装置20が、第1推定モードと第2推定モードとのそれぞれにおいて、系統電力を変化させる外乱に基づいて、交流連系系統Rの系統慣性を精度よく推定することができることを意味する。
【0162】
<情報処理装置が測定装置から情報を取得する処理>
以下、
図12を参照し、情報処理装置20が測定装置10から情報を取得する処理について説明する。以下では、一例として、情報処理装置20が測定装置10から周波数情報とともに電力情報を取得する場合について説明する。
図12は、情報処理装置20が測定装置10から周波数情報と電力情報とを取得する処理の流れの一例を示す図である。情報処理装置20は、例えば、測定装置10から情報を取得する処理を開始する操作を受け付けた場合、測定装置10から情報を取得する処理を終了する操作を受け付けるまでの間、所定のサンプリング周期が経過する毎に、
図12に示したフローチャートの処理を繰り返し行う。
【0163】
取得部261は、測定装置10から周波数情報及び電力情報を取得する(ステップS210)。
図11では、ステップS210の処理を、「情報取得」として示している。なお、取得部261は、周波数情報及び電力情報を取得する要求を測定装置10へ出力することにより、周波数情報及び電力情報を測定装置10から取得する構成であってもよい。また、取得部261は、測定装置10から出力された周波数情報及び電力情報を測定装置10から取得する構成であってもよい。
【0164】
次に、記憶制御部264は、ステップS210において取得部261により取得された周波数情報及び電力情報を、記憶部22に記憶させ(ステップS220)、処理を終了する。
図11では、ステップS220の処理を、「情報記憶」として示している。
【0165】
なお、情報処理装置20は、周波数情報と電力情報とのそれぞれを異なるタイミングで取得する構成であってもよい。また、情報処理装置20は、周波数情報と電力情報とのそれぞれを異なるタイミングで記憶部22に記憶させる構成であってもよい。
【0166】
以上のように、実施形態に係る情報処理装置(上記において説明した例では、情報処理装置20)は、1つ以上の発電機(上記において説明した例では、発電機PP1~発電機PP4)を含む交流連系系統(上記において説明した例では、交流連系系統R)内の予め決められた地点(上記において説明した例では、代表地点)における時刻毎の電力(上記において説明した例では、系統電力)をランプ状に変化させる外乱による電力の周波数(上記において説明した例では、系統周波数)の変化が始まったと推定される第1推定期間(上記において説明した例では、期間PD11)よりも前の第1時刻(上記において説明した例では、時刻ts1)から、外乱による周波数の変化が終わったと推定される第2推定期間(上記において説明した例では、期間PD12)よりも後の第2時刻(上記において説明した例では、時刻te1)までの対象期間(上記において説明した例では、期間PD1)における周波数を示す周波数情報に基づいて、交流連系系統の系統慣性を推定する。これにより、情報処理装置は、電力をランプ状に変化させる外乱に基づいて、交流連系系統の系統慣性を精度よく推定することができる。
【0167】
また、情報処理装置は、受け付けた操作に応じて、第1推定期間、第2推定期間、第1時刻、第2時刻のそれぞれを特定する、構成が用いられてもよい。
【0168】
また、情報処理装置は、第1推定期間及び第2推定期間を推定し、推定した第1推定期間及び第2推定期間に応じて、第1時刻、第2時刻のそれぞれを特定する、構成が用いられてもよい。
【0169】
また、情報処理装置では、外乱は、交流連系系統に接続された蓄電池(上記において説明した例では、外乱発生装置5)の出力変化である、構成が用いられてもよい。
【0170】
また、情報処理装置は、第1推定期間における各時刻を外乱による周波数の変化が始まった周波数変化開始時刻候補(上記において説明した例では、周波数変化開始時刻候補ta)とし、第2推定期間における各時刻を外乱による周波数の変化が終わった周波数変化終了時刻候補(上記において説明した例では、周波数変化終了時刻候補tb)とし、周波数変化開始時刻候補と周波数変化終了時刻候補とのそれぞれ毎に、第1時刻から周波数変化開始時刻候補までの第1対象期間における周波数情報が示す周波数の波形の直線近似と、周波数変化開始時刻候補から周波数変化終了時刻候補までの第2対象期間における周波数情報が示す周波数の波形の二次曲線近似と、周波数変化終了時刻候補から第2時刻までの第3対象期間における周波数情報が示す周波数の波形の多項式近似とを行うことにより、交流連系系統の系統慣性を推定する、構成が用いられてもよい。
【0171】
また、情報処理装置は、最小二乗法に基づいて、前記直線近似、前記二次曲線近似、前記多項式近似のそれぞれを行う、構成が用いられてもよい。
【0172】
また、情報処理装置は、対象期間における周波数情報と、対象期間における時刻毎の電力を示す電力情報とに基づいて、交流連系系統の系統慣性を推定する、構成が用いられてもよい。
【0173】
また、情報処理装置は、対象期間における周波数情報と、対象期間における時刻毎の電力を示す電力情報とに基づいて、交流連系系統の系統慣性を推定する、構成が用いられてもよい。
【0174】
以上、この発明の実施形態を、図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない限り、変更、置換、削除等されてもよい。
【0175】
また、以上に説明した装置における任意の構成部の機能を実現するためのプログラムを、コンピューター読み取り可能な記録媒体に記録し、そのプログラムをコンピューターシステムに読み込ませて実行するようにしてもよい。ここで、当該装置は、例えば、外乱発生装置5、測定装置10、情報処理装置20等である。なお、ここでいう「コンピューターシステム」とは、OS(Operating System)や周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピューター読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD(Compact Disk)-ROM等の可搬媒体、コンピューターシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピューター読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバーやクライアントとなるコンピューターシステム内部の揮発性メモリーのように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
【0176】
また、上記のプログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピューターシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピューターシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。
また、上記のプログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、上記のプログラムは、前述した機能をコンピューターシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル又は差分プログラムであってもよい。
【符号の説明】
【0177】
1…情報処理システム、5…外乱発生装置、10…測定装置、20…情報処理装置、21…プロセッサー、22…記憶部、23…入力受付部、24…通信部、25…表示部、26…制御部、261…取得部、262…推定部、263…表示制御部、264…記憶制御部、PP1~PP4…発電機、R…交流連系系統