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特開2022-114185電車線吊下げ具およびそれを用いたき電線の張替え方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022114185
(43)【公開日】2022-08-05
(54)【発明の名称】電車線吊下げ具およびそれを用いたき電線の張替え方法
(51)【国際特許分類】
   H02G 1/02 20060101AFI20220729BHJP
   B60M 1/28 20060101ALI20220729BHJP
   B60M 1/12 20060101ALI20220729BHJP
【FI】
H02G1/02
B60M1/28 N
B60M1/12 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021010367
(22)【出願日】2021-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000001890
【氏名又は名称】三和テッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】車 遠
(72)【発明者】
【氏名】大石 真歩
【テーマコード(参考)】
5G352
【Fターム(参考)】
5G352AA14
5G352AF01
5G352AF10
(57)【要約】
【課題】電車線を張り替える際に電車線の引き抜き作業に支障をきたすことのない電車線吊下げ具を提供する。
【解決手段】支持構造物(20)より垂下され電車線を吊り下げ支持する電車線吊下げ具(10)において、上部が前記支持構造物に係止される碍子(11)と、碍子の下部に設けられた連結金具(12)と、連結金具に着脱可能に連結される水平軸周りに回転自在な鉛直プレート部材(14)と、内側に電車線が挿通可能な開口を有し、前記連結金具または鉛直プレート部材に連結された水平軸周りに回転自在な環状部材(17)とを備え、環状部材は開口の一部を解放可能に構成した。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持構造物より垂下され電車線を吊り下げ支持する電車線吊下げ具であって、
上部が前記支持構造物に係止される碍子と、
前記碍子の下部に設けられた連結金具と、
前記連結金具に着脱可能に連結される水平軸周りに回転自在な鉛直プレート部材と、
内側に電車線が挿通可能な開口を有し、前記連結金具または前記鉛直プレート部材に連結された水平軸周りに回転自在な環状部材と、
を備え、前記環状部材は前記開口の一部を解放可能に構成されていることを特徴とする電車線吊下げ具。
【請求項2】
前記鉛直プレート部材は、L字状をなすように形成され、中央角部が前記連結金具に回転自在に連結され、
前記環状部材は、L字状の前記鉛直プレート部材の一方の端部に挿通されたピンボルトを中心にして回転自在となるように連結され、
前記鉛直プレート部材の他方の端部に、電車線を保持するU字金具が、水平軸周りに回転自在な状態で連結可能に構成されていることを特徴とする請求項1に記載の電車線吊下げ具。
【請求項3】
前記環状部材は、複数の棒状部材が、環状をなすように順次連結されてなる環状金車であり、
L字状の前記鉛直プレート部材の一方の端部に回転自在に連結されたプレート状の連結部材を備え、
前記環状金車は、前記連結部材の下面に結合され、複数の棒状部材のうちいずれか2つの棒状部材の端部がピンで結合され、前記ピンを引き抜くことで前記開口の一部が解放可能に構成されていることを特徴とする請求項2に記載の電車線吊下げ具。
【請求項4】
前記環状部材は、上端部が前記連結金具にピンボルトによって回転自在に連結された一対の垂下プレートと、前記一対の垂下プレートの下端部間に水平軸周りに回転自在な状態で装着された滑車ローラとを備え、
前記ピンボルトと前記一対の垂下プレートと前記滑車ローラとによって内側に電車線が挿通可能な前記開口が構成され、前記ピンボルトを引き抜くことで前記一対の垂下プレートの上端部間において前記開口の一部が解放されるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の電車線吊下げ具。
【請求項5】
支持構造物より垂下されき電線を吊り下げ支持している既設の吊下げ具の少なくとも一部を請求項1~4のいずれかに記載の電車線吊下げ具に置き換える工程と、
前記電車線吊下げ具によって吊り下げ支持されているき電線を切断するとともに、き電線からき電分岐線を切り離す工程と、
前記電車線吊下げ具に連結されているU字金具からき電線を外して前記環状部材上へ載せ替える工程と、
切断された旧き電線の一方の端部に新き電線を接続して、前記旧き電線の他方の端部を引っ張って前記電車線吊下げ具から旧き電線を引き抜いて新き電線を張設する工程と、
前記旧き電線と前記新き電線とを切り離す工程と、
前記新き電線とトロリ線との間にき電分岐線を接続する工程と、
前記鉛直プレート部材および前記環状部材を前記吊下げ具の前記連結金具より外し、前記新き電線を前記U字金具に保持させて前記連結金具に結合する工程と、
を有することを特徴とするき電線の張替え方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、き電線や吊架線などの電車線を新設または張替えする際に、電車線を一時的に吊架するために使用する吊下げ具およびそれを用いたき電線の張替え方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道軌道に沿って敷設され走行する電気車へ電力を供給するためのき電線には、軽量化のためにアルミニウム製のき電線を使用したものがある。
一般に、き電線は250メートルおきにき電分岐線を介してトロリ線と接続されているが、アルミニウム製のき電線は銅製のトロリ線と接続されるき電分岐線において、異種金属接触腐食と呼ばれる現象による弱点箇所が発生し、耐久性の点で銅製のき電線に劣る。そこで、アルミニウム製のき電線を銅製のき電線に張り替える工事が実施されることがある。なお、き電線に張り替える工事は、列車の営業運転を妨げないように、列車が走行していない夜間の非営業時間帯に行なわれている。
【0003】
一般に、き電線24は、図8に示すように、電柱20の上部に設けられた腕金21より垂下された碍子11を有する電車線吊下げ具10の下端にU字金具15によって係止されており、電柱に取り付けられた図示しない可動ブラケットの先端部に結合されて支持されているトロリ線と、所定の間隔をおいて設けられたき電分岐線によって電気的に接続されている。
【0004】
従来のき電線の張替え方法においては、図9に示すように、電柱の腕金21に、き電線を支える既設の電車線吊下げ具10と並べて吊り滑車23を吊り下げ、この吊り滑車23に先ずロープを延線し、このロープの端部に新しいき電線の端部を結合してロープを巻き取ることで新しいき電線を予め延線しておく。そして、切替え作業当日に、旧き電線およびき電分岐線を切り離して旧き電線を切断撤去した後、吊り滑車上の新しいき電線を吊下げ具へ移し替え、き電分岐線の接続および各種調整を行うという手順で作業が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-020381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来のき電線張替え方法においては、新旧2本のき電線を電柱などの支持構造物によって一時的に支えることになるので、既設の支持構造物の中には支持強度が不足するものがあり、その場合、必要な強度を有するように支持構造物を建て替える必要があった。そのため、き電線の張替えに要する費用がかさみ、工期も長くなるという課題があった。
なお、従来、電線の延線工法に関する発明として、環状金車を有する吊金車を使用した工法が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されている工法の発明は、送電線の延設に向けなされたもので、距離の長い2本の鉄塔間に送電線を延設するための工法であり、き電線の張替えに適用するのは困難である。具体的には、き電線を張り替える工事は、前述したように、列車が走行していない夜間の非営業時間帯に行う必要があるとともに、き電線の支持構造物は数10メートルおきに立設されており、き電線は多数の支持構造物を跨いで1日で数百メートルを延設する必要があるが、特許文献1に記載されている工法を適用したのではそのような作業を短時間に完了することができない。
【0008】
本発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、き電線の支持構造物を建て替える必要がないとともに、作業効率が向上し短時間に新旧のき電線の移設作業を完了することができるき電線張替え方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、電車線を張り替える際に電車線の引き抜き作業に支障をきたすことのない電車線吊下げ具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため本発明は、
支持構造物より垂下され電車線を吊り下げ支持する電車線吊下げ具において、
上部が前記支持構造物に係止される碍子と、
前記碍子の下部に設けられた連結金具と、
前記連結金具に着脱可能に連結される水平軸周りに回転自在な鉛直プレート部材と、
内側に電車線が挿通可能な開口を有し、前記連結金具または前記鉛直プレート部材に連結された水平軸周りに回転自在な環状部材と、
を備え、前記環状部材は前記開口の一部を解放可能に構成したものである。
【0010】
上記した手段によれば、既設の吊下げ具を、環状部材を備えた本発明の吊下げ具に置き換えることによって、U字金具に保持されていた旧き電線を内側に電車線が挿通可能な開口を有する環状部材に載せ替え、旧き電線を切断して端部に新き電線を接続して他端を引っ張って引き抜くことで、作業に支障をきたすことなく新旧のき電線の張替え作業を容易に実施することができる。
【0011】
ここで、望ましくは、前記鉛直プレート部材は、L字状をなすように形成され、中央角部が前記連結金具に回転自在に連結され、
前記環状部材は、L字状の前記鉛直プレート部材の一方の端部に挿通されたピンボルトを中心にして回転自在となるように連結され、
前記鉛直プレート部材の他方の端部に、電車線を保持するU字金具が、水平軸周りに回転自在な状態で連結可能に構成する。
かかる構成によれば、L字状の鉛直プレート部材にU字金具を付けたまま新旧のき電線の張替え作業を実施できるとともに、旧き電線を環状部材に載せ替えた際に、その重量で鉛直プレート部材が回転してき電線と干渉しない位置に移動されるので、引き抜き作業に支障をきたすのを回避することができる。
【0012】
さらに、望ましくは、前記環状部材は、複数の棒状部材が、環状をなすように順次連結されてなる環状金車であり、
L字状の前記鉛直プレート部材の一方の端部に回転自在に連結されたプレート状の連結部材を備え、
前記環状金車は、前記連結部材の下面に結合され、複数の棒状部材のうちいずれか2つの棒状部材の端部がピンで結合され、前記ピンを引き抜くことで前記開口の一部が解放可能に構成する。
かかる構成によれば、吊下げ具に連結される環状部材として既存の環状金車を利用することができ、それによってコストアップ回避できるとともに、鉛直プレート部材に環状部材を容易かつ確実に結合することができる。
【0013】
あるいは、前記環状部材は、上端部が前記連結金具にピンボルトによって回転自在に連結された一対の垂下プレートと、前記一対の垂下プレートの下端部間に水平軸周りに回転自在な状態で装着された滑車ローラとを備え、
前記ピンボルトと前記一対の垂下プレートと前記滑車ローラとによって内側に電車線が挿通可能な前記開口が構成され、前記ピンボルトを引き抜くことで前記一対の垂下プレートの上端部間において前記開口の一部が解放されるように構成してもよい。
かかる構成によれば、U字金具に保持されていた旧き電線を、環状部材の滑車ローラ上に載せ替えて、旧き電線を切断して端部に新き電線を接続して他端を引っ張って引き抜くことで、作業に支障をきたすことなく新旧のき電線の張替え作業を容易に実施することができる。
【0014】
本出願に係る他の発明は、支持構造物より垂下されき電線を吊り下げ支持している既設の吊下げ具の少なくとも一部を、上記のような構成を有する電車線吊下げ具に置き換える工程と、
前記電車線吊下げ具によって吊り下げ支持されているき電線を切断するとともに、き電線からき電分岐線を切り離す工程と、
前記電車線吊下げ具に連結されているU字金具からき電線を外して前記環状部材上へ載せ替える工程と、
切断された旧き電線の一方の端部に新き電線を接続して、前記旧き電線の他方の端部を引っ張って前記電車線吊下げ具から旧き電線を引き抜いて新き電線を張設する工程と、
前記旧き電線と前記新き電線とを切り離す工程と、
前記新き電線とトロリ線との間にき電分岐線を接続する工程と、
前記鉛直プレート部材および前記環状部材を前記吊下げ具の前記連結金具より外し、前記新き電線を前記U字金具に保持させて前記連結金具に結合する工程と、
を有するようにしたものである。
【0015】
上記のような手順によれば、従来の張替え方法のように、新き電線を張設しておく必要がないため、き電線の支持構造物を建て替える必要がないとともに、作業効率が向上し短時間に新旧のき電線の移設作業を完了することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の電車線吊下げ具によれば、電車線を張り替える際に電車線の引き抜き作業に支障をきたすことがない。また、本発明のき電線の張替え方法によれば、き電線の支持構造物を建て替える必要がないとともに、作業効率が向上し短時間に新旧のき電線の移設作業を完了することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る電車線吊下げ具の第1の実施形態を示すもので、(A)、(B)および(C)はき電線保持状態を示す正面図、側面図および斜視図である。
図2】(A)、(B)および(C)は第1実施形態の電車線吊下げ具のき電線非保持状態を示す正面図、側面図および斜視図である。
図3】本発明に係る電車線吊下げ具の第2の実施形態を示すもので、(A)、(B)および(C)はき電線保持状態を示す正面図、側面図および斜視図である。
図4】(A)、(B)および(C)は第2実施形態の電車線吊下げ具のき電線非保持状態を示す正面図、側面図および斜視図である。
図5】第1実施形態の電車線吊下げ具を用いたき電線の張替え方法の手順を示すフローチャートである。
図6図5のフローチャートのステップS5におけるき電線の引抜き作業の様子を示す図である。
図7】第1実施形態の電車線吊下げ具の変形例を示す正面図である。
図8】従来のき電線吊下げ具を電柱へ取り付けた状態を示す斜視図である。
図9】従来のき電線の張替え方法における張替え途中の状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係る電車線吊下げ具の実施形態について説明する。
図1および図2には、電車線吊下げ具の第1の実施形態が示されている。このうち図1はき電線を保持した状態の電車線吊下げ具を示す図、図2はき電線を外した状態の電車線吊下げ具を示す図である。また、図1および図2において、(A)は第1実施形態の電車線吊下げ具の正面図、(B)はその側面図、(C)は斜視図である。なお、図1および図2においては、図8に示す吊下げ具の2連碍子のうち上側の碍子と、吊下げ具の上端を腕金21に止着する留め金具22の図示を省略している。
【0019】
図1に示すように、第1の実施形態の電車線吊下げ具10は、上端が電車線支持構造物である電柱上部に設けられた腕金などから垂下されるセラミック製の碍子11と、該碍子11の下端に上端がピン結合された逆U字状の連結金具12と、該連結金具12に水平方向のピンボルト13Aによって鉛直面内にて回転自在に連結されたL字プレート14と、L字プレート14の一方の端部にピンボルト13Bによって連結されたU字金具15と、L字プレート14の他方の端部にピンボルト13Cによって回転自在に連結されたベースプレート16と、該ベースプレート16の下面に結合された環状金車17と、を備える。なお、碍子11は、図8に示す既設の吊下げ具の下段の碍子に相当する。
【0020】
また、U字金具15は、図8に示されている既設の電車線吊下げ具10の下部に設けられているU字金具と同じものであり、新旧のき電線の張替え時に既設の電車線吊下げ具10のU字金具をそのまま使用し続けるようにしても良いし、腐食が進んでいる場合には新しいU字金具に交換しても良い。
ベースプレート16は、上面に鉛直方向上方へ突出する一対の平行な係止片16a,16aを有し、係止片16a,16a間にL字プレート14の端部が挿入され、係止片16a,16aおよびL字プレート14を貫通するように挿通された水平方向のピンボルト13Cによって回転自在に連結されている。
【0021】
また、ベースプレート16は、下面両端部に下方へ突出する一対のボス部16b,16bを有し、このボス部16b,16bに挿通された一対のボルトB1,B2によって環状金車17がベースプレート16の下面に結合されている。
環状金車17は、6本の短い棒状ピース17a~17fを互いに関節結合して外形全体が六角形をなすとともに、内側には滑らかな円形の開口が形成されるように構成されている。さらに、環状金車17の6個の棒状ピース17a~17fのうち17aと17fは、挿抜可能なピンPによって連結されており、このピンPを引き抜くと、連結されていた棒状ピース17fを矢印で示すように外側へ回動させることによって円環の一部を開放して、円形の開口の一部を開くことができるように構成されている。
【0022】
き電線の張替えの際には、図8の電車線吊下げ具10の下端からU字金具15を取り外して、図1に示すように、逆U字状の連結金具12にL字プレート14をピンボルト13Aによって連結する。そして、L字プレート14の他方の端部に、ピンボルト13Bによってき電線24を保持したままU字金具15を再結合する。
また、この際に、環状金車17は、ピンPを引き抜いて円環の一部を開放した状態にして、内側にき電線24を挿通させてから、環状金車17を閉じてピンPを挿入して開口した状態になるのを防止する。また、このようにき電線を環状部材に載せ替えた際に、その重量でL字プレート14が回転するため、図2(B)に破線で示すように、U字金具15をL字プレート14に付けたままにしたとしても、き電線24と干渉しない位置に移動させることができるので、引き抜き作業に支障をきたすのを回避することができる。
【0023】
き電線の移設作業は、電車線吊下げ具10の下部のL字プレート14からU字金具15を取り外して、U字金具15に保持されていたき電線24を、図2に示すように、環状金車17の下部の棒状ピース17d上へ移動させた後、き電線を新しいものと入れ替える。それから、一旦シメラー等で新き電線の荷重を支えて、ピンボルト13Aを抜いてL字プレート14および環状金車17を外し、新き電線をU字金具15に保持させて逆U字状の連結金具12にピンボルト13Bによって結合する。この際に、環状金車17は、ピンPを引き抜いて円環の一部を開放した状態にして、内側からき電線24を取り外すようにする。これによって、電車線吊下げ具10によってき電線24を垂下する元の状態(図8)に復帰することとなる。
【0024】
図3および図4には、電車線吊下げ具10の第2の実施形態が示されている。このうち図3はき電線を保持した状態の電車線吊下げ具を示す図、図4はき電線を外した状態の電車線吊下げ具を示す図である。また、図3および図4において、(A)は第2の実施形態の電車線吊下げ具の正面図、(B)はその側面図、(C)は斜視図である。
【0025】
図3に示すように、第2の実施形態の電車線吊下げ具10は、セラミック製の碍子11と、該碍子11の下端に上端がピン結合された逆U字状の連結金具12と、該連結金具12にピンボルト13Aによって上端が回転自在に連結された左右一対の「へ」の字状をなす垂下プレート14A,14Bおよび長さの短いI形の中央垂下プレート14Cと、垂下プレート14A,14Bの上端より少し下の位置にピンボルト13Bによって連結されたU字金具15と、垂下プレート14A,14Bの下端にピン18Aによって回転自在に支承された滑車ローラ19と、を備えており、吊り滑車として構成されている。
【0026】
垂下プレート14A,14Bは、上端同士が近接するように配置されており、ピンボルト13Bには、ピンボルト13Aよりも長さが長いものが使用される。
滑車ローラ19は、中央部がくびれた形状を有するように形成されており、図4に示すように、この滑車ローラ19上にき電線24が載置された際に、き電線24が自重でローラ19の中央へ移動するように構成されている。また、中央垂下プレート14Cは、上部にピンボルト13Aが挿通される挿通穴が、また下部にピンボルト13Bを挿通される挿通穴が形成されている。垂下プレート14A,14Bにもピンボルト13Bを挿通される挿通穴が形成されている。
【0027】
さらに、特に限定されるものでないが、垂下プレート14A,14Bのいずれか一方(図では14A)の上端部に前方(もしくは後方)へ突出する突片14dが形成されており、図4に示すように、U字金具15を取り外すことでフリーな状態になった中央垂下プレート14Cを水平にして、中央垂下プレート14Cおよび突片14dに形成されている挿通穴にピン18Bを挿通させることで水平姿勢を保持可能に構成されている。これにより、中央垂下プレート14Cをき電線24と干渉しない位置に移動させることができるので、引き抜き作業に支障をきたすのを回避することができる。
【0028】
上記のような構成を有する第2実施形態の吊下げ具によれば、き電線24を引き抜く際に、中央垂下プレート14Cがき電分岐線を束ねた部分が通過するのを邪魔しないとともに、垂下プレート14A,14Bの間隔が広いため、き電線24を引き抜き易くすることができる。また、滑車ローラ19上にき電線24が載置させる際に、ピンボルト13Aを抜いて中央垂下プレート14Cを外す必要がなくなり、作業効率が向上するという利点がある。
なお、第2の実施形態では、仮設時にU字金具15を支持するためにI形の中央垂下プレート14Cを使用したが、第1の実施形態と同様に、L字形のプレートを使用するようにしても良い。
【0029】
次に、第1の実施形態の電車線吊下げ具10を用いた本発明に係るき電線の張替え方法の作業の手順について、図5図6を用いて説明する。図5はき電線の張替え作業の手順を示すフローチャート、図6はき電線の引抜き作業の様子を示す説明図である。
【0030】
図5のフローチャートに従ったき電線の張替え作業においては、先ず、張替え範囲の電柱の既設の電車線吊下げ具10よりU字金具15とき電線24を外し、予め端部に環状金車17が連結されているL字プレート14の中央角部をピンボルト13Aにより電車線吊下げ具10の下部の逆U字状の連結金具12に取り付けるとともに、L字プレート14の他端に、き電線24を保持したままU字金具15をピンボルト13Bによって取り付け、図1(A)の状態にする(ステップS1)。なお、ステップS1の作業は、き電線を張り替える作業の日の前日までに張替え範囲のすべての電柱の吊下げ具に対して行なっておく。
【0031】
次に、き電線の張替え作業の当日になったら、作業者は、張替え範囲の旧き電線24を適当な長さ(例えば300m)に切断するとともに、切断範囲のき電線に接続されているき電分岐線を切り離す(ステップS2)。続いて、作業者は、すべての電車線吊下げ具10の下部のL字プレート14からU字金具15を外し、き電線24を非保持の状態にして環状金車17上に載せ替え、図2(B)の状態にする(ステップS3)。
それから、図6に示すように、ステップS2で切断された旧き電線24の一方の端部に、軌陸車30Aに搭載されたドラム31Aに捲回されている新しいき電線の端部をケーブルグリップ25によって接続するとともに、旧き電線の他方の端部を軌陸車30Bに搭載された空ドラム31Bの外周に係止する(ステップS4)。なお、ステップS3とS4の作業は逆の順序であっても良い。
【0032】
その後、軌陸車30Aのドラム31Aから新き電線を送り出しつつ、旧き電線を空ドラム31Bに巻き取って、電車線吊下げ具10の下部の環状金車17から旧き電線を引き抜いて撤去しつつ新き電線を張設し(ステップS5)、新旧のき電線を切り離す(ステップS6)。
続いて、作業者は、新き電線の弛みやねじれを無くすなどの各種調整を行うとともに、新き電線とトロリ線との間にき電分岐線を接続する作業を行う(ステップS7)。それから、すべての電車線吊下げ具10の下部からL字プレート14を外すとともにL字プレート14からU字金具15を外し、環状金車17上の新き電線の荷重を一旦シメラー等で支えて環状金車17を外し、電車線吊下げ具10の下部の逆U字状の連結金具12に新き電線を保持したU字金具15を取り付け、き電線の端部を隣接するき電線の端部に接続することによって一連の張替え作業が終了する(ステップS8)。
【0033】
上記実施形態のき電線の張替え方法によれば、上記のような手順を繰り返すことで、1日(夜間の非営業時間帯)で数キロメートルの範囲のき電線の張替えを完了することができる。また、従来のき電線の張替え方法のように、一時的にせよ1本の電柱により新旧2本のき電線を支承することがないため、強度が不足するき電線の支持構造物を建て替える必要がないという利点がある
【0034】
さらに、上記実施形態の手順に従うと、ステップS1の作業が終了した時点の状態は、列車の走行に何ら支障を与えるものではないので、昼は列車を走行させつつ夜間の非営業時間帯に張替え範囲のすべての電車線吊下げ具10の取り替えを数日かけて順に実行することができるため、旧き電線(アルミニウムき電線)を新き電線(銅き電線)に張り替える工事を営業列車の運転を中断させることなく実施することができるという利点がある。
【0035】
(変形例)
図7には、電車線吊下げ具の変形例が示されている。
この変形例の電車線吊下げ具10は、図1および図2に示す第1の実施形態の電車線吊下げ具におけるベースプレート16の長さを長くするとともに、6個の棒状ピース17a~17fからなる環状金車17の代わりに、3個の棒状ピース17c~17eからなる半環状の金車17’を使用するようにしたものである。
【0036】
また、図7の変形例においては、ピンPを引き抜くことで、ベースプレート16と棒状ピース17eとの連結を外し、環の一部を開くことができるように構成されている。
このような電車線吊下げ具によれば、第1の実施形態の電車線吊下げ具に比べて、環状金車の上下長さを大きくすることなく内側の開口幅、開口面積を大きくすることができ、仮設時に既設置物との距離を確保しつつ、き電線の引き抜き作業を容易に行うことができるようになるという利点がある。なお、き電線の張替え手順は、図5を用いて説明した上記実施形態と同じで良い。
【0037】
以上本発明者によってなされた発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではない。例えば、図5を用いた上記き電線の張替え手順の説明では、第1の実施形態の電車線吊下げ具を使用してき電線を張り替える場合を例にとって説明したが、第2の実施形態の電車線吊下げ具を使用して、上記と同様な手順でき電線を張り替えることも可能である。また、本発明に係る電車線吊下げ具は、き電線以外の電車線を張り替える場合や、電車線を新設する場合にも利用することができる。
【符号の説明】
【0038】
10 電車線吊下げ具
11 碍子
12 連結金具
13A~13C ピンボルト
14 L字プレート
14A,14B 垂下プレート
14C 中央垂下プレート
15 U字金具
16 ベースプレート
17 環状金車
18A,18B ピン
19 滑車ローラ
20 電柱
21 腕金
22 留め金具
23 吊り滑車
24 き電線
25 ケーブルグリップ
30A,30B 軌陸車
31A,31B ドラム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9