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特開2022-114219血液検体における炎症指標パラメータの測定方法および測定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022114219
(43)【公開日】2022-08-05
(54)【発明の名称】血液検体における炎症指標パラメータの測定方法および測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/49 20060101AFI20220729BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20220729BHJP
   G01N 33/72 20060101ALI20220729BHJP
【FI】
G01N33/49 C
G01N33/68
G01N33/49 X
G01N33/72 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021010423
(22)【出願日】2021-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】000230962
【氏名又は名称】日本光電工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】永井 豊
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA14
2G045CA11
2G045CA12
2G045CA21
2G045CA25
2G045CA26
2G045DA36
2G045DA37
2G045DA51
(57)【要約】
【課題】血液試料から取得される炎症マーカについての測定結果に基づき、各種炎症性疾患の病態プロセスの進行度合いの判定を可能としうる手段を提供する。
【解決手段】血液検体から赤血球沈降速度(ESR)を測定することと、前記血液検体から前記ESRと異なる炎症マーカを測定することと、前記ESRの測定値および前記炎症マーカの測定値に基づいて、炎症の指標となる炎症指標パラメータを算出することとを含む、血液検体における炎症指標パラメータの測定方法により、上記課題は解決されうる。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液検体から赤血球沈降速度(ESR)を測定することと、
前記血液検体から前記ESRと異なる炎症マーカを測定することと、
前記ESRの測定値および前記炎症マーカの測定値に基づいて、炎症の指標となる炎症指標パラメータを算出することと、
を含む、血液検体における炎症指標パラメータの測定方法。
【請求項2】
前記炎症マーカは、C反応性タンパク(CRP)、好中球/リンパ球比率(NLR)、プロシトカルニン(PCT)、D-ダイマー(DD)、フィブリノゲン(Fib)、好中球数(Neu)、リンパ球数(Ly)および平均血小板容積(MPV)からなる群から選択される1種または2種以上である、請求項1に記載の測定方法。
【請求項3】
前記炎症指標パラメータは、前記ESRに対する前記CRPの比率(CRP/ESR)、または前記NLRに対する前記ESRの比率(ESR/NLR)である、請求項2に記載の測定方法。
【請求項4】
前記比率の値に基づいて炎症の重篤度を予測することをさらに含む、請求項3に記載の測定方法。
【請求項5】
前記血液検体から、白血球数(WBC)、過分葉好中球比率、幼若顆粒球数(IG)、血小板数(Plt)、ヘモグロビンAlc(HbA1c)、免疫グロブリン(Ig)および線維素分解産物(FDP)からなる群から選択される1種または2種以上を測定することをさらに含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の測定方法。
【請求項6】
前記ESRを測定することは、シレクトグラムに基づいて前記ESRを測定することを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の測定方法。
【請求項7】
前記ESRを測定することは、前記シレクトグラムに基づいて算出された赤血球の凝集に関するパラメータと、前記血液検体から測定された赤血球の密度に関するパラメータとを変数とする非線形な関数を用いて前記ESRを算出することを含む、請求項6に記載の測定方法。
【請求項8】
血液検体から赤血球沈降速度(ESR)を測定するESR測定部と、
前記血液検体から前記ESRと異なる炎症マーカを測定する炎症マーカ測定部と、
前記ESRの測定値および前記炎症マーカの測定値に基づいて、炎症の指標となる炎症指標パラメータを算出する炎症指標パラメータ測定部と、
を含む、血液検体における炎症指標パラメータの測定装置。
【請求項9】
前記炎症マーカは、C反応性タンパク(CRP)、好中球/リンパ球比率(NLR)、プロシトカルニン(PCT)、D-ダイマー(DD)、フィブリノゲン(Fib)、好中球数(Neu)、リンパ球数(Ly)および平均血小板容積(MPV)からなる群から選択される1種または2種以上である、請求項8に記載の測定装置。
【請求項10】
前記炎症指標パラメータは、前記ESRに対する前記CRPの比率(CRP/ESR)、または前記NLRに対する前記ESRの比率(ESR/NLR)である、請求項9に記載の測定装置。
【請求項11】
前記炎症マーカ測定部は、前記血液検体から、白血球数(WBC)、過分葉好中球比率、幼若顆粒球数(IG)、血小板数(Plt)、ヘモグロビンAlc(HbA1c)、免疫グロブリン(Ig)および線維素分解産物(FDP)からなる群から選択される1種または2種以上をさらに測定する、請求項8~10のいずれか1項に記載の測定装置。
【請求項12】
前記ESR測定部は、シレクトグラムに基づいて前記ESRを測定する、請求項8~11のいずれか1項に記載の測定装置。
【請求項13】
前記ESR測定部は、前記シレクトグラムに基づいて算出された赤血球の凝集に関するパラメータと、前記血液検体から測定された赤血球の密度に関するパラメータとを変数とする非線形な関数を用いて前記ESRを算出する、請求項12に記載の測定装置。
【請求項14】
血液検体から赤血球沈降速度(ESR)を測定し、
前記血液検体から前記ESRと異なる炎症マーカを測定し、
前記ESRの測定値および前記炎症マーカの測定値に基づいて、炎症の指標となる炎症指標パラメータを算出する手順をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項15】
請求項14に記載のプログラムが記録されたコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液検体における炎症指標パラメータの測定方法および測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
赤血球沈降速度(以下、ESR(Erythrocyte Sedimentation Rate)とも称する)は、赤沈または血沈としても呼ばれる非特異炎症マーカである。簡便な検査によるものの、炎症、組織の崩壊、血漿タンパク異常などをよく反映することから、初診時や慢性疾患の経過観察などにおける有用性は高く、古くから炎症性疾患のスクリーニングに汎用されている。ESRの値は、抗凝固剤を添加した血液中を赤血球が沈降する速度(1時間値)を血漿層の長さとして測定される。
【0003】
ESRの測定結果には、グロブリンやフィブリノゲンなどの血漿タンパク成分、赤血球形態や容積、赤血球膜の帯電状態などが影響する。血液中の赤血球膜表面は主にシアル酸により負に帯電しており、その周りを正に帯電した電解質が囲んで電気二重層を形成している。赤血球が移動する際に付随する帯電状態の指標はゼータ電位と呼ばれ、赤血球同士は通常、ゼータ電位の反発によって凝集が抑制されている。ここで、正に帯電したγ-グロブリンやフィブリノゲンが血漿中に増加して負に帯電した赤血球膜表面に結合すると、ゼータ電位による赤血球同士の反発は減少し、ESRは上昇する。一方、負に帯電したアルブミンが結晶中に増加すると、赤血球の凝集は抑制され、ESRは低下する。
【0004】
ところで、ESRとは異なる非特異炎症マーカとして、C反応性タンパク(CRP)があり、血漿CRP濃度の測定は、感染性疾患の診断および管理や、一連の非感染性炎症性疾患のモニタリングにおいて臨床的に汎用されている。このCRPはESRよりも反応が速く、また消失も速いことから、急性炎症の場合には、炎症の強さおよび長さを判断するのに最も鋭敏な指標となっており、いまでは急性炎症の診断において、ESRはCRPによって代用されている。一方、ESRは炎症症状が軽快してCRP濃度が低下した後であっても残存フィブリノゲンの影響で長時間にわたって亢進する。これは、急性炎症性疾患時にはタンパク質の合成調節によってフィブリノゲンは上昇してアルブミンは低下するが、これらの蛍光はCRPが正常化した後にも持続するためである。この理由から、ESRは急性炎症の経過観察に有用である。また、リウマチ炎症などの慢性炎症性疾患においてはCRPなどの急性期タンパクの産生量は低く基準範囲を示すことも少なくないが、ESRは明らかに亢進する。このため、ESRはリウマチ炎症の活動性をモニタリングする指標などに活用されており、その寛解の判定などに利用されている。このように、ESRとCRPとは、非特異炎症マーカという点では共通するものの、臨床におけるそれぞれの有用性は異なっており、急性期・慢性期などの異なる場面においてそれぞれが単独で炎症マーカとしての役割を果たしているに過ぎず、これらをともに利用して炎症指標や炎症に関与する病態変容の危険因子の存在の有無を判定することは行われていないのが現状である。
【0005】
なお、ESRやCRPを測定する際の血液検査においては、自動血球分析装置を用いて各種の血液学的パラメータも同時に測定されることが一般的である。近年の自動血球分析装置では、末梢血の赤血球・白血球・血小板の数、およびヘマトクリット値・ヘモグロビン濃度測定が、1回の血液の吸引のみでも取得できるようになっている。また、最近の機器では、血球数測定、ヘマトクリット値、ヘモグロビン濃度、MCV(平均赤血球容積)、MCH(平均赤血球ヘモグロビン量)、MCHC(平均赤血球ヘモグロビン濃度)のみならず、白血球分画の5分類を行うことも可能である。さらに、赤血球や血小板の大小不同や赤芽球まで測定可能な機器も開発されており、高速でしかも正確性、精密性が高く、臨床現場には必須の機器となっている。
【0006】
ここで、測光レオロジーに基づくシレクトグラムを利用してESRを推定する凝集計測機能と、血球数を計測する血球計測機能とを単一の機器内に一体化することも行われている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2005/022125号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の技術においては、ESR測定装置とセルカウンター機能を持った測定アセンブリとで血液試料を流通させるための流路を共有させることで、これらの各装置における測定を同一の血液試料に対して順次行うことを可能としている。しかしながら、特許文献1に記載の技術において、各装置において得られた測定結果についてはそれぞれ独立して参照されることが想定されている。したがって、この技術によって奏される効果は装置の小型化が可能ということにとどまっており、各装置からの測定結果をともに利用して各種炎症性疾患の病態プロセスの進行度合いを判定することは何ら想定されていなかった。
【0009】
そこで本発明は、血液試料から取得される炎症マーカについての測定結果に基づき、各種炎症性疾患の病態プロセスの進行度合いの判定を可能としうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一形態によれば、血液検体から赤血球沈降速度(ESR)を測定することと、前記血液検体から前記ESRと異なる炎症マーカを測定することと、前記ESRの測定値および前記炎症マーカの測定値に基づいて、炎症の指標となる炎症指標パラメータを算出することとを含む、血液検体における炎症指標パラメータの測定方法が提供される。
【0011】
また、本発明の他の形態によれば、上述した本発明の一形態に係る炎症指標パラメータの測定方法に用いられうる装置が提供される。当該装置は、血液検体から赤血球沈降速度(ESR)を測定するESR測定部と、前記血液検体から前記ESRと異なる炎症マーカを測定する炎症マーカ測定部と、前記ESRの測定値および前記炎症マーカの測定値に基づいて、炎症の指標となる炎症指標パラメータを算出する炎症指標パラメータ測定部とを含む、血液検体における炎症指標パラメータの測定装置である。
【0012】
さらには、本発明のさらに他の形態によれば、上述した本発明の一形態に係る炎症指標パラメータの測定方法における各手順をコンピュータに実行されるためのプログラム、および当該プログラムが記録されたコンピュータ読み取り可能な記録媒体もまた、提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、各種炎症性疾患の病態プロセスの進行度合いの判定に有用な炎症指標パラメータを、血液検体の測定結果に基づいて提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、炎症指標パラメータ測定装置の概略を示すブロック図である。
図2図2は、シレクトグラムの例を示す図である。
図3図3は、炎症指標パラメータ測定装置の構成要素である制御部の構成を示すブロック図である。
図4図4は、炎症指標パラメータの測定方法の手順を示すフローチャートである。
図5図5は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の患者におけるESRおよびCRPの測定データから算出したCRP/ESRの値をプロットしたグラフである。
図6図6は、図5に示したのと同様の母集団について、患者におけるESRおよびNLRの測定データから算出したESR/NLRの値をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0016】
本発明の一形態は、血液検体から赤血球沈降速度(ESR)を測定することと、前記血液検体から前記ESRと異なる炎症マーカを測定することと、前記ESRの測定値および前記炎症マーカの測定値に基づいて、炎症の指標となる炎症指標パラメータを算出することとを含む、血液検体における炎症指標パラメータの測定方法である。また、本発明の他の形態は、血液検体から赤血球沈降速度(ESR)を測定するESR測定部と、前記血液検体から前記ESRと異なる炎症マーカを測定する炎症マーカ測定部と、前記ESRの測定値および前記炎症マーカの測定値に基づいて、炎症の指標となる炎症指標パラメータを算出する炎症指標パラメータ測定部とを含む、血液検体における炎症指標パラメータの測定装置である。ここで、本明細書において、「炎症指標パラメータ」とは、各種炎症性疾患における炎症の状況の指標となるパラメータを意味する。そして、本形態に係る炎症指標パラメータの測定方法や測定装置によって測定された炎症指標パラメータは、炎症の状況の指標として、各種炎症性疾患の重篤度の予測、寛解後の治療終了可能性の判定、および予後管理などの病態プロセスの進行度合いの判定に利用されうる。
【0017】
以下、本形態に係る炎症指標パラメータの測定方法を実施するための好ましい実施形態について、図面を参照しつつ具体的に説明するが、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、下記の具体的な実施形態のみには限定されない。
【0018】
図1は、炎症指標パラメータ測定装置の概略を示すブロック図である。
【0019】
本形態に係る炎症指標パラメータの測定方法は、血液検体から赤血球沈降速度(ESR)を測定すること、および、前記血液検体からESRと異なる炎症マーカを測定することを必須に含む。ここで、「ESRと異なる炎症マーカ」としては、C反応性タンパク(CRP)、好中球/リンパ球比率(NLR)、プロシトカルニン(PCT)、D-ダイマー(DD)、フィブリノゲン(Fib)、好中球数(Neu)、リンパ球数(Ly)および平均血小板容積(MPV)からなる群から選択される1種または2種以上が挙げられる。本実施形態においては、ESRと異なる炎症マーカとして「C反応性タンパク(CRP)」を採用する。
【0020】
炎症指標パラメータ測定装置10は、血液取得部100、血球計数測定部110、シレクトグラム測定部120、CRP反応部130、血液排出部140、操作入力部150、データ出力部160、電源部170、および制御部180を有する。血液取得部100、血球計数測定部110、シレクトグラム測定部120、CRP反応部130、血液排出部140、操作入力部150、データ出力部160、および電源部170は、それぞれ制御部180に接続され、制御部180により制御される。シレクトグラム測定部120および制御部180はESR測定部を構成し、CRP反応部130および制御部180は炎症マーカ測定部としてのCRP測定部を構成する。
【0021】
血液取得部100は、医療従事者などによって炎症指標パラメータ測定装置10の図示しない導入口にセットされた採血管から血液検体を取得し、取得した血液検体を血球計数測定部110、シレクトグラム測定部120およびCRP反応部130に分配する。血液取得部100は、分注部、配管、吸引ポンプ、電磁弁、ノズルなどから構成されており、その具体的な形態について特に制限はない。配管の一端部には、血液検体を希釈する希釈液をノズルを通じて供給するための供給口が設けられていてもよい。
【0022】
血液検体は、あらかじめ患者から採取され、採血管内に収容される。採血管には、抗凝固剤として、たとえばEDTA(Ethylenediamine tetraacetic acid)が添加されうる。
【0023】
血球計数測定部110は、例えば、白血球数などを測定するための第1測定ユニットと、赤血球数などを測定するための第2測定ユニットと、を有しうる。第1測定ユニットおよび第2測定ユニットは、それぞれチャンバおよび検出部を有する。チャンバは、ノズルを通じて注入された血液検体を保持する。検出部は、血液検体の血球を計数する。
【0024】
血液検体は、まず、第1測定ユニットのチャンバに注入され、希釈液により200倍に希釈され、溶血剤により溶血された後、白血球数などが検出部により測定される。さらに、血液検体は、第2測定ユニットのチャンバに注入され、希釈液により4万倍に希釈され、赤血球数などが検出部により測定される。各チャンバは、血液排出部140に接続されており、使用済みの血液検体は、血液排出部140に排出される。
【0025】
血球計数測定部110による測定項目としては、例えば、白血球数(WBC)、赤血球数(RBC)、ヘモグロビン濃度(HGB)、ヘマトクリット値(HCT)、平均赤血球容積(MCV)、平均赤血球ヘモグロビン量(MCH)、平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC)、血小板数(PLT)、平均血小板容積(MPV)、リンパ球パーセント(LY%)、単球パーセント(MO%)、顆粒球パーセント(GR%)、好中球パーセント(NE%)、好酸球パーセント(EO%)、好塩基球パーセント(BA%)、幼若顆粒球パーセント(IG%)、好中球数(NE)、リンパ球数(LY)、単球数(MO)、好酸球数(EO)、好塩基球数(BA)、幼若顆粒球数(IG)、および顆粒球数(GR)などが挙げられるが、これらに限定されない。これらの測定項目のうち、例えば血球数および血球の大きさは電気抵抗法により測定される。HGBは比色法の測定原理に基づいて測定される。HCTは血球パルスにより波高値積算方式(RBCヒストグラムにより算出)で測定される。なお、これらの血球計数の測定技術はいずれも公知であるため説明を省略する。血球計数の測定データは、制御部180に送信される。
【0026】
シレクトグラム測定部120は、例えば、チャンバ、透明管、透過光検出部、配管、および吸引ポンプなどを有しうる。シレクトグラム測定部120は、血液検体のシレクトグラムを測定する。シレクトグラムとは、血液検体にずり応力を印加することで生じさせた血液検体の流れを停止させたときの、停止前後にわたる、血液検体を透過する光の強度の推移を示すグラフである。なお、シレクトグラム測定部120は、単一の測定装置内で上記血球計数測定部110と一体化されていてもよいし、互いに異なる測定装置に備えられていてもよい。これらを一体化して備える市販の装置としては、例えば、全自動血球計数・赤血球沈降速度測定装置 MEK-1305 セルタックα+(日本光電工業株式会社製)がある。
【0027】
チャンバは、ノズルを通じて注入された血液検体を収容する。透明管は、例えば透明のガラス管であり、その下端はチャンバに連通される。チャンバの血液検体は、透明管内を吸引ポンプに吸引されることで、当該血液検体に対して一定のずり応力が印加される。ずり応力が印加されることにより、血液検体は、透明管を一定の流速で流れる。その後、吸引ポンプの停止、または透過光検出部から吸引ポンプの間に設置された電磁弁の切替または遮断により、血液検体の流れが停止される。
【0028】
透過光検出部は、光源と光検出器とを有する。光源は透明管内の血液検体に光を照射する。光検出器は、血液検体に照射された照射光のうち、血液検体を透過した透過光の強度(以下、「透過光強度」とも称する)を検知する。光源は、例えば近赤外線発生器で構成されうる。光検出器は、フォトダイオードで構成されうる。透過光検出部は、透明管内を流れる血液検体の流れが停止される前後にわたって透過光強度を検知し、検知結果を制御部180に送信する。すなわち、透過光検出部は、シレクトグラムを測定し、制御部180に送信する。なお、シレクトグラム測定部120および後述するCRP反応部130はヒータ等によって加温され、測定時の血液検体の温度が一定になるように調節される。
【0029】
図2は、シレクトグラムの例を示す図である。シレクトグラムの横軸は時間を示し、縦軸は透過光強度を示している。図2に示すシレクトグラムの例においては、透過光検出部の光検出器として用いられたフォトダイオードの出力電圧が、透過光強度として示されている。シレクトグラムにおいては、透明管内を流れる血液検体の流れが停止された時間tにおいて、透過光強度が最小値Vminとなる。これは、流れが停止された瞬間においては、赤血球の凝集がほとんど生じていないため、透明管内において均一に分散した赤血球により照射光が反射および吸収されることで、透過光強度が小さくなることに起因する。透過光強度は、時間tにおいて最小値Vminとなった後、増加する。これは、流れが停止されることで赤血球の凝集が開始され、凝集により増大する赤血球の隙間を照射光が透過するためである。ここで、赤血球が凝集するのは、炎症に伴い増加する正に帯電したフィブリノゲン等の血中タンパクにより、負に帯電している赤血球間の反発が妨げられるためである。
【0030】
本実施形態においては、上記のようにして取得されたシレクトグラムに基づいて、赤血球の凝集に関するパラメータ(以下、「凝集パラメータ」とも称する)を算出する。凝集パラメータには、赤血球の凝集と対応関係にあるパラメータが広く含まれうる。この凝集パラメータを算出するためには、まず、時間tから所定時間経過後の時間tが設定される。当該所定時間は、シレクトグラムにおいて透過光強度の増加速度がある程度低下して飽和する任意の時間として設定されうる。そして、時間tのときの透過光強度が、凝集パラメータを算出する際の凝集パラメータの最大値Vmaxとして設定される。本実施形態において、凝集パラメータとしては、シレクトグラムに基づいて次のように算出されるパラメータAIが採用される。パラメータAIは、シレクトグラムにおいて、時間間隔tA-0を一辺とし、透過光強度の最大値Vmaxと透過光強度の最小値Vminとの差AMPを他辺とする長方形の領域Sの面積に対する、当該領域Sのうちシレクトグラムの曲線より下の領域Bの面積の比(B/S)として算出される。領域Sは、図2において斜線部として示されている。言い換えれば、シレクトグラムにおいて、領域Sのうちシレクトグラムの曲線より上の領域を領域Aとすると、パラメータAIは、領域Aの面積と領域Bの面積との和に対する領域Bの面積の比(すなわち、B/(A+B))として算出される。ただし、凝集パラメータとしては、上述したAIのほか、Bの面積、Aの面積、AMP、および時間t1/2のいずれかが採用されてもよい。なお、時間t1/2は、時間tのときの透過光強度の最小値Vminから透過光強度がAMP/2増加したときの時間である。
【0031】
CRP反応部130は、例えば、チャンバ、試薬保持部、透過光検出部、配管、および吸引ポンプなどを有しうる。CRP反応部130は、血液検体中のCRP量(濃度)を測定する。本実施形態において、CRP反応部130は、ラテックス凝集免疫比濁法により、血液検体中のCRP量(濃度)を測定する。なお、CRP反応部130は、単一の測定装置内で上記血球計数測定部110および/または上記シレクトグラム測定部120と一体化されていてもよいし、互いに異なる測定装置に備えられていてもよい。CRP反応部130を血球計数測定部110およびシレクトグラム測定部120とは別に備える市販の装置としては、例えば、臨床化学分析装置 CHM-4100 セルタックケミ(日本光電工業株式会社製)がある。
【0032】
試薬保持部は、CRPを測定するための試薬を保持する。当該試薬は、CRPに対して特異的に結合する抗体(抗CRP抗体)を含有している。本実施形態において、当該試薬は、上記抗体にラテックス粒子が感作(結合)している抗CRP抗体感作ラテックス(以下、「感作ラテックス」とも称する)である。チャンバは、ノズルを通じて注入された血液検体、およびノズルを通じて試薬保持部から注入された試薬を収容する。
【0033】
透過光検出部は、上述したシレクトグラム測定部120において説明したのと同様の構成を有しうる。CRPの測定時には、ラテックス試薬中の感作ラテックスと血液検体中のCRP抗原とが、抗原抗体反応により結合して凝集する。この凝集塊は時間の経過と共に増大する。本実施形態では、凝集の開始から3分が経過するまでの間、透過光検出部を構成する光源からこの凝集塊に向けて近赤外線が照射され、フォトダイオードによって検知された透過光強度(吸光度)の変化が当該フォトダイオードの出力電圧として制御部180に送信される。ここで、免疫比濁法で生じる抗原抗体反応凝集物は非常に小さく、抗原量の少ない低濃度域での凝集の度合いを光学的に検出することは困難である。この点、μmオーダーの比較的大きなラテックス粒子に抗体を感作(結合)させた感作ラテックスを用いるラテックス凝集免疫比濁法では、抗原抗体反応が見かけ上ラテックスの凝集という形で発現する。このため、低濃度域での抗原量の少ない場合であっても大きな凝集として測定が可能であり、わずかな凝集塊の変化も光学的に捉えることができるという利点がある。
【0034】
血液排出部140は、吸引ポンプ、排出タンク、および配管などを有しうる。なお、上述したように、吸引ポンプは、シレクトグラム測定部120の構成要素を兼ねる。この吸引ポンプは、血球計数測定部110、シレクトグラム測定部120およびCRP反応部から使用済みの血液検体を吸引する。排出タンクは、吸引ポンプによって吸引された使用済みの血液検体を貯留する。
【0035】
操作入力部150は、例えばタッチパネルであり、医療従事者などによる指示およびデータの入力を受け付ける。医療従事者などによる指示には、ESRおよびCRPの測定の指示、並びに血球計数の測定の指示が含まれる。入力されるデータにはESRを算出するための関数が含まれる。後述するように、ESRを算出するための関数は、凝集パラメータおよび赤血球の密度に関するパラメータに基づいてESRを算出するための非線形な関数である。赤血球の密度に関するパラメータは、例えば、HCT、RBC、HGB、および血液検体を透過する透過光の強度の少なくとも1つでありうる。
【0036】
電源部170は、血液取得部100、血球計数測定部110、シレクトグラム測定部120、CRP反応部130、血液排出部140、操作入力部150、データ出力部160、および制御部180に必要な電力を供給する。
【0037】
制御部180は、血液取得部100、血球計数測定部110、シレクトグラム測定部120、CRP反応部130、血液排出部140、操作入力部150、データ出力部160、および電源部170を制御するとともに各部から必要なデータを受信する。
【0038】
図3は、炎症指標パラメータ測定装置の構成要素である制御部の構成を示すブロック図である。図3に示すように、制御部180は、CPU(Central Processing Unit)181、RAM(Random Access Memory)182、ROM(Read Only Memory)183、およびHDD(Hard Disk Drive)184を有し、これらの構成要素はバス185により相互に通信可能に接続される。
【0039】
CPU181は、プログラムにしたがって制御部180の各構成要素を制御するとともに、各種演算を行うプロセッサーである。CPU181は、HDD184に記憶された炎症指標パラメータ測定プログラムPを実行することにより、ESRおよびESRとは異なる炎症マーカとしてのCRPを測定する。具体的に、CPU181は、図2に示すようなシレクトグラムから得られる凝集パラメータ、および赤血球の密度に関するパラメータ(例えば、ヘマトクリット値(HCT)など)に基づいて、ESRを算出する。このようにしてESRを算出することで、参照法であるウェスターグレン法による測定値との乖離が小さいESRの測定値を迅速に得ることができる。なお、このようなESRの測定方法の詳細については、その全文が参照により本明細書に引用される、特開2018-124264号公報が適宜参照されうる。
【0040】
続いて、CPU181は、ESRの測定値およびCRP(炎症マーカ)の測定値に基づいて、炎症指標パラメータを算出する。本実施形態において、炎症指標パラメータは、ESRに対するCRPの比率(CRP/ESR)である。後述するように、このようにして算出された炎症指標パラメータ(CRP/ESR)は、各種炎症性疾患の病態プロセスの進行度合いの判定に利用されうる。
【0041】
RAM182は揮発性の記憶デバイスであり、炎症指標パラメータ測定プログラムP、測定データ、並びに、後述するESRを算出するための関数およびCRPを算出するための関数を一時的に記憶する。
【0042】
ROM183は、不揮発性の記憶デバイスであり、炎症指標パラメータ測定プログラムPが実行される際に使用する各種設定データを含む各種データを記憶する。
【0043】
HDD184は、オペレーティングシステム、および炎症指標パラメータ測定プログラムPを含む各種プログラム、並びに測定データ、ESRを算出するための関数、CRPを算出するための関数、および患者の基本情報を含む各種データを格納する。患者の基本情報には、患者のID、氏名、および年齢が含まれる。なお、採血管には患者のIDが印刷されたラベルが添付されており、患者のIDにより採血管および測定データが管理されうる。
【0044】
データ出力部160は、血球計数並びにESRおよびCRPを含む測定データ、各種設定メニュー、各種操作メニュー、およびメッセージを出力する。ここで、出力には、例えば、データ信号としての出力、データが印刷された用紙の出力、およびディスプレイの表示画面への表示が含まれる。データ出力部160には、データ送受信用コネクター、プリンター、およびディスプレイが含まれる。
【0045】
本実施形態において、データ出力部160は、医療従事者などによる指示に応じて、血球計数の測定結果、ESRおよびCRPの測定結果、並びに炎症指標パラメータ(ESR/CRP)の測定結果を併せて表示しうる。
【0046】
図4は、炎症指標パラメータの測定方法の手順を示すフローチャートである。本フローチャートは、炎症指標パラメータ測定プログラムPにしたがって制御部180により実行されうる。
【0047】
制御部180は、血液取得部100により採血管から血液検体を取得し、血球計数測定部110、シレクトグラム測定部120およびCRP反応部130に供給する(S101)。本ステップは、医療従事者などにより操作入力部150に入力された指示に基づいて開始される。以下、説明を簡単にするために、医療従事者などによる指示が炎症指標パラメータとしてのESR/CRPの測定であるものとして説明する。なお、ESRの測定値は、凝集パラメータ、赤血球の密度に関するパラメータ、並びに平均赤血球容積、平均赤血球ヘモグロビン量、平均赤血球ヘモグロビン濃度、およびHGBの少なくとも1つの測定値に基づいて算出されうる。したがって、医療従事者などによる指示がESR/CRPの測定のみであっても、並行して血球計数の測定が行われうる。
【0048】
制御部180は、血球計数測定部110により血球計数(CBC)を測定するとともに、シレクトグラム測定部120によりシレクトグラムを測定して凝集パラメータを算出する(S102)。次に、制御部180は、ステップS102で算出された凝集パラメータをHCTで補正する(S103)。続いて、制御部180は、ステップS103で補正された凝集パラメータをさらに平均赤血球容積で補正する(S104)。そして、制御部180は、ステップS104で補正された凝集パラメータに基づいてESRを算出する(S105)。なお、ステップS103~S105の手順は、凝集パラメータ、赤血球の密度に関するパラメータ、および平均赤血球容積の測定値に基づいてESRを算出する手順と等価である。すなわち、ESRを算出するための関数の変数に、凝集パラメータ、赤血球の密度に関するパラメータ、および平均赤血球容積を代入してESRを算出する手順と等価である。したがって、ステップS103~S105の手順は実質的に同時に実行されうる。
【0049】
一方、制御部180は、ステップS103~S105によるESRの算出と並行して、CRPを算出する。CRP反応部130により血液検体を試薬(感作ラテックス)と反応させて、吸光度(透過光強度)の変化に関するデータを受信する(ステップS106)。続いて、制御部180は、CRPを算出するための関数を参照して、受信した吸光度の変化に関するデータに基づいて、CRPを算出する(S107)。
【0050】
そして、制御部180は、ステップS105において算出されたESRの値と、ステップS107において算出されたCRPの値とを用いて、これらの比率(ESR/CRP)を炎症指標パラメータとして算出する。
【0051】
本実施形態において測定された比率(CRP/ESR)は、炎症指標パラメータとして利用可能である。すなわち、各種炎症性疾患の病態プロセスの進行度合いの判定(各種炎症性疾患の重篤度の予測、寛解後の治療終了可能性の判定、および予後管理など)に利用されうる。以下、この点について、図面を参照しつつ説明する。
【0052】
図5は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する2報の論文(Tan C, Huang Y, Shi F, et al., J. Med. Virol., 2020;17.;https://doi.org/10.1002/jmv.25871、および、Chuan Qin, Luoqi Zhou, Ziwei Hu, Shuoqi Zhang, Sheng Yang, Yu Tao MD, Cuihong Xie, Ke Ma, Ke Shang, Wei Wang, and Dai-Shi Tian, Clinical Infectious Diseases, 2020;71(15):762-8)に掲載された、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の患者におけるESRおよびCRPの測定データから算出したCRP/ESRの値をプロットしたグラフである。図5に示すグラフの作成にあたっては、患者のCRP/ESRの値を、病態のプロセスの進行に応じて来院時、進行時、症状ピーク時、回復時、および寛解時に分類し、症状が軽度のまま回復した患者群(軽症群)と症状が重篤化した後に回復または回復することなく死亡した患者群(重症群)とのそれぞれに分けて、それぞれの算術平均値をプロットした。なお、健常者のデータは、書籍(Barbara Bain Imelda Bates Mike Laffan, Dacie and Lewis Practical Haematology, 12th Edition, ELSEVIER, 26th Sep. 2016)より収集したものである。ここで、健常者においてはCRPの値はほぼゼロに等しく、また、寛解時においてもCRPの値はほぼゼロとなる。このため、図5に示すグラフにおいて、健常者および寛解時のプロットは、軽症群および重症群のいずれについてもほぼゼロとなっている。
【0053】
図5のグラフにおける「来院時」のデータを見ると、軽症群ではCRP/ESRの比率(平均値)が約50であるのに対し、重症群では約75と1.5倍の値を示している。ここで、新たに来院した患者について本発明の一形態に係る炎症指標パラメータの測定方法によりCRP/ESRの値を炎症指標パラメータとして測定することにより、当該患者における炎症の重篤度を予測することができる。例えば、重症化リスクについての下側カットオフ値を、安全を見て30に設定し、「来院時」に測定されたCRP/ESRの値が30以下であった場合には当該患者が重症化する可能性は高くないと判定することができる。このように、重症化のリスクが高くないと思われる患者を簡便な手法によって判別することができれば、貴重な医療資源を浪費することなく医療資源の効率的な利用が達成されうる。一方、重症化リスクについての上側カットオフ値を75に設定し、「来院時」に測定されたCRP/ESRの値が75以上であった場合には当該患者が重症化する可能性が高いと判定することができる。このように、重症化のリスクが高いと思われる患者を簡便な手法によって判別することができれば、重症化リスクの見落としに起因して、症状が急変した場合の手遅れなどの危険性を回避することが可能となる。
【0054】
同様に、図5のグラフにおける「進行時」のデータを見ると、軽症群ではCRP/ESRの比率(平均値)が来院時の約50から約17に減少しているのに対し、重症群では約75から約81へと増加している。また、軽症群と重症群との比較でも、重症群は5倍近い値を示している。ここで、症状が進行した患者について本発明の一形態に係る炎症指標パラメータの測定方法によりCRP/ESRの値を炎症指標パラメータとして測定することにより、当該患者における炎症の重篤度を予測することができる。例えば、重症化リスクについての下側カットオフ値を、安全を見て10に設定し、「進行時」に測定されたCRP/ESRの値が10以下であった場合には当該患者が重症化する可能性は高くないと判定することができる。一方、重症化リスクについての上側カットオフ値を80に設定し、「進行時」に測定されたCRP/ESRの値が80以上であった場合には当該患者が重症化する可能性が高いと判定することができる。さらに別の観点からは、「来院時」に測定されたCRP/ESRの値と「進行時」に測定されたCRP/ESRの値との比率(進行時/来院時)を算出し、この値が1未満であれば当該患者が重症化する可能性は高くないと判定し、この値が1以上であれば当該患者が重症化する可能性が高いと判定することもできる。
【0055】
ここで、上述した実施形態においては、ESRと異なる炎症マーカとして「C反応性タンパク(CRP)」を採用した。ただし、上述したように、ESRと異なる炎症マーカとしては「C反応性タンパク(CRP)」以外にも、好中球/リンパ球比率(NLR)、プロシトカルニン(PCT)、D-ダイマー(DD)、フィブリノゲン(Fib)、好中球数(Neu)、リンパ球数(Ly)および平均血小板容積(MPV)からなる群から選択される1種または2種以上などが用いられうる。これら以外の炎症マーカが用いられてももちろんよい。
【0056】
以下では、本発明の他の実施形態として、「ESRと異なる炎症マーカ」として、CRPに代えて「好中球/リンパ球比率(NLR)」を採用した場合について説明する。なお、「好中球/リンパ球比率(NLR)」の値は、血球計数装置において測定される好中球数(Neu)およびリンパ球数(Ly)の値に基づいて制御部180が算出可能である。
【0057】
図6は、図5に示したのと同様の母集団について、患者におけるESRおよびNLRの測定データから算出したESR/NLRの値をプロットしたグラフである。図6に示すグラフの作成にあたっては、患者のESR/NLRの値を、病態のプロセスの進行に応じて来院時、進行時、症状ピーク時、および回復時に分類し、症状が軽度のまま回復した患者群(軽症群)と症状が重篤化した後に回復または回復することなく死亡した患者群(重症群)とのそれぞれに分けて、それぞれの算術平均値をプロットした。
【0058】
図6のグラフにおける「来院時」および「進行時」のデータを見ると、軽症群ではESR/NLRの比率(平均値)が約4から約22へと5倍以上増加しているのに対し、重症群では約12から約8へと2/3倍に減少している。ここで、新たに来院した患者について、「来院時」および「進行時」の時点において、本発明の一形態に係る炎症指標パラメータの測定方法によりESR/NLRの値を炎症指標パラメータとして測定することにより、当該患者における炎症の重篤度を予測することができる。例えば、「来院時」に測定されたESR/NLRの値と「進行時」に測定されたESR/NLRの値との比率(進行時/来院時)を算出し、この値が6以上であれば当該患者が重症化する可能性は高くないと判定し、この値が1未満であれば当該患者が重症化する可能性が高いと判定することができる。
【0059】
同様に、図6のグラフにおける「症状ピーク時」および「回復時」のデータを見ると、軽症群ではESR/NLRの比率(平均値)が約22~25と高止まりしているのに対し、重症群では約7~約12と低値を示している。ここで、症状が進行して回復時までの段階の患者について本発明の一形態に係る炎症指標パラメータの測定方法によりESR/NLRの値を炎症指標パラメータとして測定することにより、当該患者が既に重篤化しているか否かを判定したり、当該患者における後遺症の罹患リスクを予測したりすることができる。例えば、後遺症の罹患リスクについての上側カットオフ値を、安全を見て25に設定し、「進行時」~「回復時」に測定されたESR/NLRの値が25以上であった場合には、当該患者が重篤化しておらず、後遺症に罹患する可能性は高くないと判定することができる。一方、後遺症の罹患リスクについての上側カットオフ値を12に設定し、「進行時」~「回復時」に測定されたCRP/ESRの値が12以下であった場合には、当該患者が既に重篤化しており、後遺症に罹患する可能性が高いと判定することができる。なお、COVID-19の患者の多くが好中球過分葉核球のような血球の形態異常を示すことが報告されている。また、このような血球の形態異常は、サイトカインストーム後に生じる宿主免疫系の暴走反応である好中球細胞外トラップ(NETs)が生じていることの指標となることも報告されている(NETsについては、Lee KH, Cavanaugh L, Leung H, et al., Int. J. Lab. Hematol., 2018;40:392-399;https://doi.org/10.1111/ijlh.12800を参照)。したがって、図6を参照しつつ上記で説明した判定において既に重篤化していると判定された患者については、血液検体からフローサイトメトリー法を用いて血球を分類し、好中球過分葉核球の有無(または過分葉好中球比率)を調べることにより、NETsを伴う重度の肺炎が発症しているか否か(またはその危険性が高いか否か)についてもさらに判定することが可能である。同様に、幼若顆粒球数(IG)が敗血症の病態マーカーとして有用であることも報告されている(Ayres LS, Sgnaolin V, Munhoz TP., Int. J. Lab. Hematol. 2019;41:392-396.;https://doi.org/10.1111/ijlh.12990)。したがって、図6を参照しつつ上記で説明した判定において既に重篤化していると判定された患者については、血液検体からフローサイトメトリー法を用いて血球を分類し、幼若顆粒球数(IG)を調べることにより、敗血症が発症しているか否か(またはその危険性が高いか否か)についてもさらに判定することが可能である。このように、本形態に係る炎症指標パラメータの測定方法においては、白血球数(WBC)、過分葉好中球比率、幼若顆粒球数(IG)、血小板数(Plt)、ヘモグロビンAlc(HbA1c)、免疫グロブリン(Ig)および線維素分解産物(FDP)からなる群から選択される1種または2種以上を測定することをさらに含むことが好ましい。このような構成とすることで、上記測定方法によって得られた炎症指標パラメータに基づく各種炎症性疾患の病態プロセスの進行度合いの判定を前提として、当該判定結果の細分類や合併症および/もしくは後遺症などの併発またはそのリスクの有無を判定することにも資することができる。
【0060】
以上、本発明の実施形態に係る炎症指標パラメータ測定方法、炎症指標パラメータ測定装置、炎症指標パラメータ測定プログラム、および当該プログラムを記録した記録媒体について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されない。例えば、上述した実施形態に係る炎症指標パラメータ測定装置10における各種処理を行う手段および方法は、専用のハードウェア回路、またはプログラムされたコンピュータのいずれによっても実現することが可能である。上記プログラムは、例えば、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体によって提供されてもよいし、インターネット等のネットワークを介してオンラインで提供されてもよい。この場合、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されたプログラムは、通常、ハードディスク等の記憶部に転送され記憶される。また、上記プログラムは、単独のアプリケーションソフトとして提供されてもよいし、炎症指標パラメータ測定装置10の一機能としてその装置のソフトウェアに組み込まれてもよい。
【符号の説明】
【0061】
10 炎症指標パラメータ測定装置、
100 血液取得部、
110 血球計数測定部、
120 シレクトグラム測定部、
130 CRP反応部、
140 血液排出部、
150 操作入力部、
160 データ出力部、
170 電源部、
180 制御部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6