(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022114269
(43)【公開日】2022-08-05
(54)【発明の名称】面状発熱体
(51)【国際特許分類】
H05B 3/20 20060101AFI20220729BHJP
H05B 3/36 20060101ALI20220729BHJP
【FI】
H05B3/20 345
H05B3/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021010499
(22)【出願日】2021-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】313001332
【氏名又は名称】積水ポリマテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106220
【弁理士】
【氏名又は名称】大竹 正悟
(72)【発明者】
【氏名】石久保 雅道
【テーマコード(参考)】
3K034
【Fターム(参考)】
3K034AA02
3K034AA10
3K034AA12
3K034AA15
3K034AA22
3K034BB08
3K034BB13
3K034BB15
3K034BB16
3K034JA09
(57)【要約】
【課題】発熱層を線状薄膜にパターニングした薄膜発熱層を用い、面状発熱体として裏面からの熱の発散を抑制して表面から均一的かつ効率的に熱を輻射できる技術を提供する。
【解決手段】線11aでパターンを形成する薄膜発熱層11と、前記薄膜発熱層11を挟んで熱放射面側となる表面部材12と、前記薄膜発熱層11を挟んで前記放射面側とは反対側となる裏面部材13とを有し、前記表面部材12の熱抵抗R1と前記裏面部材13の熱抵抗R2との間に以下の式(1)
0.006 < R1/R2 < 0.7 ・・・式(1)
が成立する面状発熱体とした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
線でパターンを形成する薄膜発熱層と、
前記薄膜発熱層を挟んで熱放射面側となる表面部材と、
前記薄膜発熱層を挟んで前記放射面側とは反対側となる裏面部材とを有し、
前記表面部材の熱抵抗R1と前記裏面部材の熱抵抗R2との間に以下の式(1)
0.006 < R1/R2 < 0.7 ・・・式(1)
が成立する面状発熱体。
【請求項2】
前記線による発熱部位と前記線で挟まれる非発熱部位とで形成される発熱領域中に前記発熱部位が50%以上の面積を占めている請求項1記載の面状発熱体。
【請求項3】
前記表面部材の表面の所定時間内における温度上昇Tuと、前記表面部材の表面各所の前記温度上昇後における温度差Teと、の関係Tu/Teで定義される総合評価指標Aに関し、
前記発熱領域中に前記発熱部位が50%以上の面積を占める場合に5以上であり、
前記発熱領域中に前記発熱部位が80%以上の面積を占める場合に20.3以上である請求項1又は請求項2記載の面状発熱体。
【請求項4】
前記表面部材の表面の所定時間内における温度上昇Tuと、前記表面部材の表面各所の前記温度上昇後における温度差Teと、前記発熱領域中の前記非発熱部位の割合Rnと、の関係Tu・Rn/Teで定義される総合評価指標Bが1.7以上である請求項1~請求項3何れか1項記載の面状発熱体。
【請求項5】
前記薄膜発熱層が、導電性粒子が高分子マトリクスに分散した導電性インクの硬化体である請求項1~請求項4何れか1項記載の面状発熱体。
【請求項6】
前記パターンが蛇腹状パターンである請求項1~請求項5何れか1項記載の面状発熱体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輻射熱で空気を暖めるヒータ装置等に利用できる面状発熱体に関する。
【背景技術】
【0002】
面状発熱体は平面状に形成された発熱層からの放熱を利用するヒータ装置等に用いられ、発熱層と、熱放射面側から発熱層を保護し被覆する表面部材と、熱放射面とは反対側から発熱層を保護し被覆する裏面部材とから概略構成された部材である。
【0003】
こうした面状発熱体についてはその表面からの放熱を効果的にするために、表面部材には熱伝導率を高めた材料を用い、裏面部材には断熱効果を高めた材料を用いた技術が特許文献1(特開2010-091185号公報)に記載されている。しかし、この技術を線状の発熱層に応用すると表面部材の熱伝導率が高まり、熱が速やかに表面に伝わるため表面部材表面に高温部分と低温部分が生じ易くいわゆる均熱性が悪くなる。
【0004】
そうした一方で、表面部材の熱抵抗を高めた技術が特許文献2(WO2017/130541号公報)に記載されている。この技術では発熱層の熱が外部に伝わることが低減されるため面状発熱体の温度を高めることができる。しかし、表面部材の熱抵抗が高すぎると相対的に背面から熱が逃げる割合も大きくなり、表面から輻射される熱の電力効率が下がるおそれがある。また、熱伝導率の低い表面部材は面方向の熱伝導性が抑制されて均熱性が悪化するおそれもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-091185号公報
【特許文献2】WO2017/130541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように従来技術では種々の提案がなされているものの面状発熱体の表面から効率的に放熱するための指針は明らかではなく効果的な面状発熱体の設計は困難であった。本発明は、発熱層を線状薄膜にパターニングした薄膜発熱層を用い、面状発熱体として裏面からの熱の発散を抑制して表面から均一的かつ効率的に熱を輻射できる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、線でパターンを形成する薄膜発熱層と、前記薄膜発熱層を挟んで熱放射面側となる表面部材と、前記薄膜発熱層を挟んで前記放射面側とは反対側となる裏面部材とを有し、前記表面部材の熱抵抗R1と前記裏面部材の熱抵抗R2との間に以下の式(1)
0.006 < R1/R2 < 0.7 ・・・式(1)
が成立する。
【0008】
本発明の一態様によれば、線でパターンを形成する薄膜発熱層を構成するため、薄膜発熱層全体に均一に電流が流れ薄膜発熱層全体からの均一な放熱が可能である。また、薄膜発熱層を挟んで熱放射面側となる表面部材と薄膜発熱層を挟んで放射面側とは反対側となる裏面部材とを有するため、薄膜発熱層が表面部材と裏面部材とで覆われ保護されるとともに、表面部材と裏面部材とを所望の形状に形成することで面状発熱体も所望の形状に形成できる。
【0009】
本発明の一態様によれば、表面部材の熱抵抗R1と裏面部材の熱抵抗R2との間に以下の式(1)が成立する。
0.006 < R1/R2 < 0.7 ・・・式(1)
このように表面部材と裏面部材の熱抵抗割合を所定の範囲に収めることで、面状発熱体表面からの効率的で均一な熱放射を実現できる。
【0010】
本発明の一態様によれば、前記線による発熱部位と前記線で挟まれる非発熱部位とで形成される発熱領域中に前記発熱部位が50%以上、又は80%以上の面積を占めている。
発熱領域における薄膜発熱層の面積を50%以上に設定し、表面部材と裏面部材の熱抵抗割合を所定の範囲に収めることで、面状発熱体表面からのより効率的で均一な熱放射を実現できる。又は発熱領域における薄膜発熱層の面積を80%以上に設定し、表面部材と裏面部材の熱抵抗割合を所定の範囲に収めることで、面状発熱体表面からのさらにより効率的で均一な熱放射を実現できる。
【0011】
本発明の一態様によれば、前記表面部材の表面の所定時間内における温度上昇Tuと、前記表面部材の表面各所の前記温度上昇後における温度差Teと、の関係Tu/Teで定義される総合評価指標Aに関し、前記発熱領域中に前記発熱部位が50%以上の面積を占める場合に5以上であり、前記発熱領域中に前記発熱部位が80%以上の面積を占める場合に20.3以上である。
【0012】
本発明の一態様によれば、表面部材の表面の所定時間内における温度上昇Tuと、表面部材の表面各所の温度上昇後における温度差Teと、の関係Tu/Teで定義される総合評価指標Aに関し、発熱領域中に発熱部位が50%以上の面積を占める場合に5以上であり、発熱領域中に発熱部位が80%以上の面積を占める場合に20.3以上としたため、面状発熱体表面からの効率的で均一な熱放射を実現した面状発熱体である。
【0013】
本発明の一態様は、表面部材の表面の所定時間内における温度上昇Tuと、表面部材の表面各所の前記温度上昇後における温度差Teと、前記発熱領域中の前記非発熱部位の割合Rnと、の関係Tu・Rn/Teで定義される総合評価指標Bが1.7以上である。
【0014】
本発明の一態様によれば、表面部材の表面の所定時間内における温度上昇Tuと、表面部材の表面各所の前記温度上昇後における温度差Teと、前記発熱領域中の前記非発熱部位の割合Rnと、の関係Tu・Rn/Teで定義される総合評価指標Bを1.7以上としたため、面状発熱体表面からの効率的で均一な熱放射を実現できる。
【0015】
本発明の一態様は、導電性粒子が高分子マトリクスに分散した導電性インクの硬化体である薄膜発熱層である。本発明の一態様によれば、導電性粒子が高分子マトリクスに分散した導電性インクの硬化体である薄膜発熱層であるため、所望の形状に薄膜発熱層を形成し易く、また柔軟な高分子マトリクスを用いることで変形が生じても断線し難い薄膜発熱層とすることができる。
【0016】
本発明の一態様は、薄膜発熱層を構成する線のパターンが蛇腹状パターンである。本発明の一態様によれば、薄膜発熱層を構成する線のパターンが蛇腹状パターンであるため、パターン内に均一に電流を流すことができ、また発熱領域内の発熱部位の割合を高めることができることから面状発熱体表面からの効率的で均一な熱放射を実現できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、面状発熱体表面からの効率的で均一な熱放射を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図4】面状発熱体の一利用態様を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の面状発熱体について次の実施形態に基づいて詳しく説明する。
図1には面状発熱体10の概略平面図を、
図2にはその断面図をそれぞれ示す。なお、
図2では層構成を分かり易く示すことを目的に横幅に比べて厚みを厚く表示しているため、その縦横比は実際とは異なる。これらの図で示すように面状発熱体10は、線11aでパターンを形成する薄膜発熱層11と、この薄膜発熱層11を挟んで熱放射面側となる表面部材12と、この薄膜発熱層11を挟んで放射面側とは反対側となる裏面部材13とを有している。
【0020】
表面部材12は、熱放射面側に位置する薄膜発熱層11を覆う部材であり、自動車等の車両の内装に面状発熱体10を組み込んで使用するような場合には、自動車の内装材となる部分としても良いし、そうした内装材のさらに内側に設ける部分として構成しても良い。表面部材12には硬質樹脂、可撓性フィルム又は柔軟なゴムシート、皮革(合成皮革)、フォーム、繊維等を利用することができ、例えばその材質として、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリイミド、合成ゴム、熱可塑性エラストマ、織布、不織布等が挙げられる。面状発熱体10を取付ける車両用内装部品の形状に追従して取付け可能な柔軟性又は伸長性を有した材質とすることは好ましい。そして、こうした材質の表面部材12は後述の熱抵抗を有するものである。
【0021】
裏面部材13は、後述の薄膜発熱層11に対して熱放射面とは反対側に設けた薄膜発熱層11を覆う部材であり、その材質は、表面部材12と同様の材質とすることができるが後述の熱抵抗を有するものであり、発泡体や柔軟な材質とすることは好ましい。
【0022】
表面部材12と裏面部材13はそれぞれ所定の熱抵抗(℃/in2W)を有しており、表面部材12の熱抵抗をR1とし、裏面部材13の熱抵抗をR2とすると、R1とR2との間で、次の式(1)を満たす関係を有している。
【0023】
0.006 < R1/R2 < 0.7 ・・・・ 式(1)
【0024】
R1/R2が0.006より小さくても、R1/R2が0.7より大きくても、面状発熱体10表面からの効率的な熱輻射を達成できないからである。
【0025】
薄膜発熱層11は、金属又は導電性樹脂材料等の薄膜からなる熱発生源を線状パターンに形成したものである。より具体的には、線幅よりも厚さを薄くして膜状の線11aとし、それを所望のパターンに形成した発熱層である。このように形成された薄膜発熱層11は、表面部材12や裏面部材13と一体化したとき線11aどうしの隙間に空気が混入し難くすることができ、後述の均熱性を高めやすいという点で好ましい。これに対して、線幅に対して厚さが薄くない発熱層を設けると、表面部材12や裏面部材13と一体化したときに、発熱層の厚さが大きいため線がある箇所とない箇所の段差が大きくなり、段差に空気が混入しやすくなる懸念がある。そして空気が混入すると前記間隙への熱の伝わりが阻害され、線と隙間の温度差が大きくなり、均熱性が悪くなる。線幅に対して厚さが薄くないために空気が混入しやすい線としては、ニクロム線等の線幅と線高さが略同一長さとなる金属細線を例示できる。
【0026】
薄膜発熱層11の材質として、金属には銀、銅、ニッケル、アルミニウム、鉄等の金属又は合金類が挙げられ、導電性樹脂材料としては絶縁性バインダーに導電性粒子が分散した導電性インクを硬化させた層(導電性インクの硬化体)やポリチオフェン系導電性高分子(PEDOT/PSS)等の導電性高分子が挙げられる。絶縁性バインダーを構成する高分子マトリクスとしては硬質のものであって良いが、柔軟な架橋ゴムや熱可塑性エラストマであれば曲面を有する形状にも面状発熱体10を形成し易く好ましい。
【0027】
架橋ゴムや熱可塑性エラストマとして、具体的にはシリコーンゴム、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、1,2-ポリブタジエン、スチレン-ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、エチレン―プロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、アクリルゴム、エピクロロヒドリンゴム、フッ素ゴム、又はウレタンゴム等の架橋ゴム、スチレン系熱可塑性エラストマ、オレフィン系熱可塑性エラストマ、エステル系熱可塑性エラストマ、ウレタン系熱可塑性エラストマ、アミド系熱可塑性エラストマ、塩化ビニル系熱可塑性エラストマ、又はフッ素系熱可塑性エラストマ等の熱可塑性エラストマが挙げられる。これらの材質の中でも、伸長性が必要とされる場合にはシリコーンゴムにより薄膜発熱層11を形成することが好ましい。また、表面部材や裏面部材との密着性を高めるために、それらと親和性の良い樹脂を用いることが好ましい。例えば、裏面部材としてウレタンフォームを用いる場合には、絶縁性バインダーにはウレタン系の樹脂を用いることが好ましく、オレフィン系部材に対してはオレフィン系の絶縁性バインダーを用いることが好ましい。
【0028】
導電性粒子には、カーボンや金属等の導電性粉末を用いることができ、低抵抗の金属粉末を用いることが好ましく、金属粉末の中では極めて低い抵抗値を有する銀粉末がより好ましい。
【0029】
線11aでパターンを形成する薄膜発熱層11は、例えば
図1で示す形状のように、線11aを蛇腹状に配線した薄膜発熱層11とすることができる。ここで、線11aでパターンを形成するとは、多角形や円等の線ではない形状とすると、そうした形状の中を電流が流れることで電流の流れ易さに多少が生じるため、そうした形状を除く趣旨である。線幅に対して高さの低い上記のような線11aが平面上に互いに重ならずに直線及び曲線を形成して描くパターンとすることが好ましい。なお、図で示す面状発熱体10aでは線幅を
図1で示す面状発熱体10の場合よりも狭く、線ごとの間隔を広くした態様を示す。
【0030】
また、薄膜発熱層11の線状パターンは、線11aによる発熱部位Hと、線11aで挟まれる非発熱部位Aとで形成される発熱領域HA中に、発熱部位Hが好ましくは50%以上、より好ましくは80%以上の面積を占めるものとして形成される。ここで発熱領域HAを、
図3を用いて説明すると、線状パターンを形成する線11aのうち端子部11bを除く線の部分が発熱部位Hであるので、それら発熱部位によって挟まれる非発熱部位Aを併せた部位(
図3の一点鎖線で囲まれた部位)が発熱領域HAである。
【0031】
そして、発熱領域HAのうち発熱部位Hである線が好ましくは50%以上、より好ましくは80%以上の面積を占めることとしたのは、50%を下回る場合には、面状発熱体表面からの効率的で均一な熱放射がし難くなりバラツキが出易くなると考えられるからであり、80%以上がより好ましいとしたのは、80%を下回る場合よりもより高い熱効率が得られるからである。
【0032】
薄膜発熱層11と、表面部材12及び裏面部材13との積層は、表面部材12の裏面に薄膜発熱層11となる導電性インクを塗布した後、導電性インクを塗布した表面部材12の裏面に裏面部材13となる液状樹脂を射出して固化する等の方法で行うことができ、面状発熱体10を製造できる。
【0033】
表面部材12や裏面部材13の形状や厚みは適宜、所望の形状、厚みに形成でき、面状発熱体10の使われる部位、用途にもよるが、表面部材12の厚みは 0.5~2mmとすることは好ましい。0.5mmよりも薄いと、発熱がダイレクトに表面に伝わってしまい均熱性が十分ではないおそれがあり、2mmよりも厚いと、表面部材12の表面にまで効率的に熱伝達されないおそれがある。一方、裏面部材13の厚みは1~10mmとすることが好ましい。1mmより薄いと、裏面側からの放熱が多くなり、熱量のロスが大きくなる。また10mmより厚くすると、コンパクトな要請に叶わないおそれがある。
【0034】
また、薄膜発熱層11の厚みは導電性インクを硬化させた層である場合は5~200μm、金属や導電性高分子である場合は0.1~50μmとすることは好ましい。それぞれ、下限よりも薄いと、発熱をさせることができず均熱性が充分ではないおそれがあり、また断線のおそれもある。また、上限よりも厚いとその形成が困難である。薄膜発熱層11の線の幅は1mm~50mmとすることは好ましい。1mmよりも細いと、発熱領域HAの80%以上の面積を占めるための線11aの長さが長くなりすぎることから、抵抗値が上昇してしまい十分な発熱をさせることができず、また断線のおそれもある。50mmよりも太いと均一な電流が流れないおそれがある。
【0035】
こうして得られる面状発熱体10は、薄膜発熱層11の端子部11bが図示しない配線に接続されて制御装置に連結される。薄膜発熱層11から放熱が生じると裏面部材13には熱が伝わり難い一方で、表面部材12にはその厚み方向だけでなく面方向にも熱が伝わり易く、表面部材12の表面からの効率的で均一な放熱を実現できる。
【0036】
面状発熱体10は少なくとも上記構成からなるが、薄膜発熱層11の表面部材12又は裏面部材13への接着性改善、あるいは密着性改善、さらには製造方法の改良等のために、薄膜発熱層11と表面部材12、又は薄膜発熱層11と裏面部材13との間に中間層14を設ける構成とすることもできる。一例として中間層14を設けることで、薄膜発熱層11の傷付き、水分、腐食性ガス等との接触を回避することができ、こうした目的によれば、例えばアクリル系又はウレタン系、ポリエステル系などの液状材料から中間層14を塗膜形成できる。
【0037】
あるいはまた、表面部材12や裏面部材13の表面が粗面であって直接、薄膜発熱層11を設け難い場合等では、これらの表面に導電性インクを塗布し易くするために、その表面を平滑にする中間層14を設けることもできる。中間層14はまた、表面部材12と裏面部材13の接着層とすることもできる。なおこうした中間層14の厚みは1~50μmとすることができ、表面部材12や裏面部材13の大きさに比べて小さいため、熱伝達への影響は無視できる。
【0038】
面状発熱体10は、
図4で示すように、自動車1の運転席2の両サイドに有するドア側アームレスト部3とセンターコンソール側アームレスト部4等に設けることで乗員を効率的に暖めることができる。
【0039】
なお、本発明の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは、当業者には容易に理解できるであろう。従って、このような変形例は、全て本発明の範囲に含まれる。
【実施例0040】
次に実施例(比較例)に基づいて本発明をさらに説明する。以下の各表に示す構成からなる面状発熱体を作製して試料1~試料32とした。これらの試料について後述の各種試験を行った。
【0041】
<試料1~試料32の作製>:
表面部材12及び裏面部材13としては各表に記載の樹脂材料シート、具体的には、厚さ1mmのポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム(PET)、厚さ0.5mmのアクリルニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂フィルム(ABS)、厚さ2mmの独立気孔のポリプロピレンフォーム(フォーム)を用いた。また、各部材の熱抵抗値は各表に記載した。薄膜発熱層11は、PET及びABSに対してはウレタン系樹脂にフレーク状銀フィラーが分散した銀インク、ポリプロピレンフォームに対してはポリプロピレン樹脂にフレーク状銀フィラーが分散した銀インクを用い、層厚12μmで
図1の形状では線幅が15mm、
図5の形状では線幅が8.5mmとなるように、
図1又は
図5で示す形状に裏面部材13上に塗布して形成した。パターンAの抵抗値は4.1Ω、パターンBの抵抗値は11.0Ωだった。表面部材12と裏面部材13の接合は両面テープで行った。上記素材の熱伝導率(1・K)は、PETで0.25、ABSで0.16、フォームで0.04であった。
【0042】
<発熱試験>:
各試料について薄膜発熱層11に導電してからの時間と表面部材12が温まる様子について調べた。まず、薄膜発熱層11における一つの線の中心となる位置P1での表面部材12の表面温度を測定し、初期温度として記録した。次に、薄膜発熱層11の端子部11bに電圧12Vを印加し通電する。そして電圧の印加から位置P1での20秒後の温度を測定し、初期温度との差を算出し「20秒昇温」(℃)として記録した。同様に電圧の印加から80秒後の温度を測定し、初期温度との差を算出し「80秒昇温(℃)」として記録した。
また、発熱領域HA内の複数の任意の位置P2での電圧の印加から80秒後の温度を測定し、初期温度との差を算出し、最も初期温度との差が大きい価をP2における80秒昇温(℃)として記録した。そして、前記P1における80秒昇温(℃)とこのP2における80秒昇温(℃)の差を算出して「80秒均熱性(℃)」として記録した。これらの結果を各表に記した。温度の計測にはサーモグラフィー(日本アビオニクス株式会社製、型番「InfReC R450PRO」)を用いた。
【0043】
<官能試験>:
各試料について薄膜発熱層11に導電してから80秒後に表面部材12の表面に手のひらを当て温かみの感触について評価した。表面全体が十分に温かく均等に温まっていると感じられた場合を「A」、表面全体が均等に温まっていると感じられた場合を「B」、表面にやや温度のむらがあるように感じられた場合を「C」、表面に明らかなむらがあると感じられた場合を「D」とそれぞれ評価した。
【0044】
<昇温と均熱性の評価指標>:
薄膜発熱層11からの熱が効率的に表面部材12の表面に伝わることが好ましく、それはどれだけ早く表面部材12の表面が温まるかで評価することができるため、P1における80秒昇温Tuを評価の指標の一つとした。また、薄膜発熱層11からの熱が表面部材12にくまなく広がることが好ましく、それは表面部材12の表面位置が違っても表面温度差がどれだけ少ないかで評価することができるため、80秒後のP1とP2における温度差である80秒均熱性Teを評価の指標の一つとした。そして、この2つの指標は、80秒昇温の価が大きいと80秒均熱性の価も大きく、80秒昇温の価が小さいと80秒均熱性の価も小さい傾向が強く、この2つの指標のバランスが重要であることから、この2つの指標を統合した80秒昇温Tu/80秒均熱性Teを1つの総合指標(総合評価指標A)として導いた。また、発熱領域中の発熱部位(又は非発熱部位)の割合によってこの指標には差が生じるため、発熱部位の割合の影響を抑えるように、発熱領域中の非発熱部位の割合Rnを乗算したTu・Rn/Teを別の総合指標(総合評価指標B)とし、各試料についてこの総合評価指標A及び総合評価指標Bの価を求めた。その結果を各表に記載した。
【0045】
<表面部材と裏面部材の熱抵抗比;R1/R2>:
各試料の表面部材12及び裏面部材13のそれぞれの熱抵抗を測定し、表面部材12の熱抵抗R1を裏面部材13の熱抵抗R2で割った熱抵抗比R1/R2を算出して各表に記載した。
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
<考察>:
(1)総合評価指標A及びBについて
上記官能試験の結果と上記総合評価指標Bの数値を参照すると、官能試験で優れた結果であるA又はBとなった試料では総合評価指標Bが1.7以上となり、官能試験で劣った結果であるC又はDとなった試料では総合評価指標Bが1.7未満となり、総合評価指標Bが面状発熱体の性能評価として適切な指標として採用できることがわかった。このことより、表面部材の表面の所定時間内における温度上昇をTuとし、表面部材の表面各所の前記温度上昇後における温度差をTeとし、発熱領域中の非発熱部位の割合をRnとすると、TuとTeとRnとの関係Tu・Rn/Teで定義される総合評価指標Bが1.7以上であれば優れた面状発熱体が得られることがわかる。
【0051】
(2)表面部材の熱抵抗と裏面部材の熱抵抗の熱抵抗比R1/R2について
上記官能試験の結果を参照すると、官能試験で優れた結果であるA又はBとなった試料では、薄膜発熱層11が熱抵抗比R1/R2が0.006より大きく、かつ0.7より小さい範囲に入る一方で、官能試験で劣った結果であるC又はDとなった試料では、薄膜発熱層11が熱抵抗比R1/R2が0.006より小さいか、0.7より大きくなり、熱抵抗比R1/R2で面状発熱体の性能評価をできることがわかった。
【0052】
(3)熱抵抗比R1/R2が0.006より大きく、かつ0.7より小さい範囲に入る試料において80秒昇温Tu/80秒均熱性Teで示される総合評価指標Aをみると、薄膜発熱層の面積が94%の試料は、28.4~40.9であった。また、薄膜発熱層の面積が80%の試料は20.3であった。さらにまた、薄膜発熱層の面積が53%の試料は5.5~6.3であった。加えて、また、発熱層としてニクロム線を用いた面積が2.2%の試料は1.2であった。この結果、面積が50%以上の場合に、総合評価指標Aの値が大きいことがわかった。また薄膜発熱層の面積が80%以上の場合には、総合評価指標Aが顕著に優れることがわかった。