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特開2022-114271植物及び9,10-α-ケトールリノレン酸の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022114271
(43)【公開日】2022-08-05
(54)【発明の名称】植物及び9,10-α-ケトールリノレン酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/53 20060101AFI20220729BHJP
   C12N 15/60 20060101ALI20220729BHJP
   A01H 5/00 20180101ALI20220729BHJP
   C12N 15/29 20060101ALI20220729BHJP
【FI】
C12N15/53 ZNA
C12N15/60
A01H5/00 A
C12N15/29
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021010502
(22)【出願日】2021-01-26
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】591088098
【氏名又は名称】癸巳化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(72)【発明者】
【氏名】下嶋 美恵
(72)【発明者】
【氏名】太田 啓之
(72)【発明者】
【氏名】井原 雄太
(72)【発明者】
【氏名】若松 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】横山 峰幸
【テーマコード(参考)】
2B030
【Fターム(参考)】
2B030AA02
2B030AB04
2B030AD07
2B030CA17
2B030CB02
2B030CD03
2B030CD09
(57)【要約】
【課題】効率的な9,10-α-ケトールリノレン酸(KODA)生産に利用可能な植物、及びKODAの製造方法を提供する。
【解決手段】9-リポキシゲナーゼ(9-LOX)及び/又はアレンオキシドシンターゼ(AOS)の発現が亢進されている、及び/又は、9-LOX及び/又はAOSの活性が亢進されている植物。前記植物を用いて、KODAを取得することを含む、KODAの製造方法。前記製造方法は、前記植物の細胞を破砕して破砕物を得て、前記破砕物からKODAを取得することを含むことが好ましい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
9-リポキシゲナーゼ(9-LOX)及び/又はアレンオキシドシンターゼ(AOS)の発現が亢進されている、及び/又は、
9-LOX及び/又はAOSの活性が亢進されている植物。
【請求項2】
前記9-LOX及び前記AOSの発現が亢進されている、及び/又は
前記9-LOX及び前記AOSの活性が亢進されている、請求項1に記載の植物。
【請求項3】
遺伝子改変により前記9-LOX及び/又は前記AOSの発現が亢進されている、及び/又は
遺伝子改変により前記9-LOX及び/又は前記AOSの活性が亢進されている、請求項1又は2に記載の植物。
【請求項4】
前記9-LOXが、下記(a)~(c)からなる群から選ばれるタンパク質である、請求項1~3のいずれか一項に記載の植物。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、9-リポキシゲナーゼ活性を有するタンパク質
(c)配列番号1で表されるアミノ酸配列との配列同一性が90%以上であるアミノ酸配列を有し、9-リポキシゲナーゼ活性を有するタンパク質
【請求項5】
前記AOSが、下記(d)~(f)からなる群から選ばれるタンパク質である、請求項1~4のいずれか一項に記載の植物。
(d)配列番号3で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質
(e)配列番号3で表されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、アレンオキシドシンターゼ活性を有するタンパク質
(f)配列番号3で表されるアミノ酸配列との配列同一性が90%以上であるアミノ酸配列を有し、アレンオキシドシンターゼ活性を有するタンパク質
【請求項6】
前記9-LOX及び/又は前記AOSが、オルガネラ移行シグナル配列と連結されている、請求項1~5のいずれか一項に記載の植物。
【請求項7】
前記オルガネラ移行シグナル配列が、葉緑体移行シグナル配列である、請求項6に記載の植物。
【請求項8】
前記9-LOXと前記AOSとが複合体化されている、請求項1~7のいずれか一項に記載の植物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の植物を用いて、9,10-α-ケトールリノレン酸を取得することを含む、9,10-α-ケトールリノレン酸の製造方法。
【請求項10】
前記植物の細胞を破砕して破砕物を得て、前記破砕物から9,10-α-ケトールリノレン酸を取得することを含む、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記破砕物をインキュベーションすることを含む、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
30℃以上の温度で前記破砕物を前記インキュベーションする、請求項11に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物及び9,10-α-ケトールリノレン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
9,10-α-ケトールリノレン酸(以下、KODAともいう。)は、植物において、花芽形成や生長促進に関わることが知られる生理活性物質であり、農業上の利用価値が非常に高いものとして着目されている。
しかし、KODAの生理活性物質としての基礎的知見は集積しているものの、KODAの生産方法についての知見は乏しいのが現状である。
【0003】
図1は、植物におけるKODAの生合成経路の概要を説明する図である。α-リノレン酸を出発物質として、9-リポキシゲナーゼ(以下、9-LOXともいう。)、アレンオキシドシンターゼ(以下、AOSともいう。)等の働きにより、KODAが生合成されることが知られている。
【0004】
一方、アオウキクサ(Lemna paucicostata)は、ストレス条件下でKODAを高蓄積することが知られている。特許文献1ではアオウキクサ由来の9-LOXが開示され、特許文献2ではアオウキクサ由来のAOSが開示されている。特許文献3では、スクリーニングにより得られ、ストレス処理されたアオウキクサ株による、KODAの製造方法が開示されている。
【0005】
また、大腸菌において9-LOX又はAOSを発現させ、活性測定を行ったことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2011/111838号
【特許文献2】国際公開第2011/125785号
【特許文献3】国際公開第2011/111841号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、大腸菌を用いてのKODAの製造方法では、原料のα-リノレン酸を添加する必要があり、α-リノレン酸が高価格であるために、生産されるKODAも高価格となってしまう。また、生育に好適な条件にて培地でのα-リノレン酸濃度を高めることが困難であり、KODAの生産効率を向上させることに制約がある。
また、上記特許文献で示されるアオウキクサにおいては、KODAの生産効率の向上について検討の余地がある。
【0008】
本発明は、上記のような問題点を解消するためになされたものであり、効率的なKODA生産に利用可能な植物、及びKODAの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下の態様を有する。
【0010】
(1)9-リポキシゲナーゼ(9-LOX)及び/又はアレンオキシドシンターゼ(AOS)の発現が亢進されている、及び/又は、
9-LOX及び/又はAOSの活性が亢進されている植物。
(2)前記9-LOX及び前記AOSの発現が亢進されている、及び/又は
前記9-LOX及び前記AOSの活性が亢進されている、前記(1)に記載の植物。
(3)遺伝子改変により前記9-LOX及び/又は前記AOSの発現が亢進されている、及び/又は
遺伝子改変により前記9-LOX及び/又は前記AOSの活性が亢進されている、前記(1)又は(2)に記載の植物。
(4)前記9-LOXが、下記(a)~(c)からなる群から選ばれるタンパク質である、前記(1)~(3)のいずれか一つに記載の植物。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、9-リポキシゲナーゼ活性を有するタンパク質
(c)配列番号1で表されるアミノ酸配列との配列同一性が90%以上であるアミノ酸配列を有し、9-リポキシゲナーゼ活性を有するタンパク質
(5)前記AOSが、下記(d)~(f)からなる群から選ばれるタンパク質である、前記(1)~(4)のいずれか一つに記載の植物。
(d)配列番号3で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質
(e)配列番号3で表されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、アレンオキシドシンターゼ活性を有するタンパク質
(f)配列番号3で表されるアミノ酸配列との配列同一性が90%以上であるアミノ酸配列を有し、アレンオキシドシンターゼ活性を有するタンパク質
(6)前記9-LOX及び/又は前記AOSが、オルガネラ移行シグナル配列と連結されている、前記(1)~(5)のいずれか一つに記載の植物。
(7)前記オルガネラ移行シグナル配列が、葉緑体移行シグナル配列である、前記(6)に記載の植物。
(8)前記9-LOXと前記AOSとが複合体化されている、前記(1)~(7)のいずれか一つに記載の植物。
(9)前記(1)~(8)のいずれか一つに記載の植物を用いて、9,10-α-ケトールリノレン酸を取得することを含む、9,10-α-ケトールリノレン酸の製造方法。
(10)前記植物の細胞を破砕して破砕物を得て、前記破砕物から9,10-α-ケトールリノレン酸を取得することを含む、前記(9)に記載の製造方法。
(11)前記破砕物をインキュベーションすることを含む、前記(10)に記載の製造方法。
(12)30℃以上の温度で前記破砕物を前記インキュベーションする、前記(11)に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、効率的なKODA生産に利用可能な植物、及びKODAの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】植物におけるKODAの生合成経路の概要を説明する図である。
図2】遺伝子発現用ベクタープラスミドにおけるコンストラクトの構造の概要を示す模式図である。
図3】実施例で作製したLOX/AOS複合体と、その局在の一例を示す模式図である。
図4】タバコ葉一過的発現系を用いたKODA生産性の確認結果を示すグラフである。
図5】タバコ葉一過的発現系を用いたKODA生産性の確認結果を示すグラフである。
図6】タバコ葉一過的発現系を用いたKODA生産性の確認結果を示すグラフである。
図7】インキュベーション温度及び時間とKODA生産量との確認結果を示すグラフである。
図8】実験に使用したシロイヌナズナの地上部の、1個体あたりの新鮮重量を示すグラフである。
図9】シロイヌナズナ形質転換体を用いたKODA生産性の確認結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の植物、及び9,10-α-ケトールリノレン酸の製造方法の実施形態を説明する。
【0014】
≪植物≫
実施形態の植物は、9-リポキシゲナーゼ(9-LOX)及び/又はアレンオキシドシンターゼ(AOS)の発現が亢進されている、及び/又は、9-LOX及び/又はAOSの活性が亢進されている植物である。
【0015】
以下に9,10-α-ケトールリノレン酸(KODA)の構造式を示す。
【0016】
【化1】
【0017】
9-LOXは、リノレン酸の9位にヒドロペルオキシ基を導入するリポキシゲナーゼ活性を有する酵素である。本明細書においては、9-LOXのことを指して、単にLOXということがある。
AOSは、ヒドロペルオキシ化した脂肪酸からアレンオキシドを合成するアレンオキシドシンターゼ活性を有する酵素である。
【0018】
上記実施形態の植物は、9-LOX及び/又はAOSの発現が亢進されている、及び/又は、9-LOX及び/又はAOSの活性が亢進されていることにより、KODAをの高効率な生産に利用可能である。
【0019】
9-LOX及びAOSが、図1に示される生合成経路において、KODAの生産に関与することは既に知られていた。しかし、α-リノレン酸は種々の化合物の合成経路に関与すること、LOX産物は様々な物質の合成反応の基質となること、α-リノレン酸及びAOSはジャスモン酸の合成に関与すること、α-リノレン酸からのKODAの生合成には9-LOX及びAOS以外の反応が関与すること等から、上記実施形態の植物によりKODAの生産性を顕著に向上可能であることは驚くべき知見である。例えば、後述の実施例で示される発現系(図7及び表1参照)では、植物の新鮮重量1gあたり65.49μgものKODAを取得可能である。
【0020】
大腸菌を用いて9-LOX及びAOSを産生させ、それをKODAの製造方法に利用する場合では、原料のα-リノレン酸を添加する必要があった。対して、実施形態の植物は、植物細胞が含有しているα-リノレン酸を原料として利用可能であるので、大腸菌を用いる場合のKODAの製造方法に比べ、安価で効率的にKODAを生産可能である。
【0021】
実施形態の植物の種類は、α-リノレン酸を含有する又は合成可能なものであれば特に制限されない。実施形態の植物は藻類を包含するものであり、藍藻、紅藻、珪藻、緑藻などのあらゆる藻類にも適用可能である。
【0022】
実施形態の植物は、陸上植物であることが好ましい。好適には生育速度や得られる植物体量(バイオマス量)などから種子植物を用いることが効率的生産に有利である。種子植物のうち被子植物としては、例えばヤシ科やイネ科、サトイモ科等の単子葉植物、あるいはマメ科、アブラナ科、キク科、トウダイグサ科、ゴマ科、モクセイ科、ミソハギ科、シソ科、セリ科、アカザ科、アオイ科等の双子葉植物、また裸子植物としては、例えばマツ科、イチョウ科等が挙げられ、双子葉植物(Eudicots)であることがさらに好ましい。
【0023】
より具体的な植物種の例としては、ヤシ科のココヤシ(Cocos nucifera)、パームヤシ(Elaeis guineensi, Elaeis oleifera)等、イネ科のイネ(Oryza sativa, Oryza glaberrima)、トウモロコシ(Zea mays)、ミスカンザス(Miscanthus giganteus)、イヌビエ(Echinochloa crus-galli)等、サトイモ科のアオウキクサ(Lemna aoukikusa)等、マメ科のダイズ(Glycine max)等、アブラナ科のナタネ(Brassica rapa, Brassica napus)、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)、ナガミノアマナズナ(Camelina sativa)、ハクサイ(Brassica rapa var. glabra)、キャベツ(Brassica oleracea var. capitata)、コマツナ(Brassica rapa var. peruviridis)、ミズナ(Brassica rapa var. nipposinica)、クレソン(Nasturtium officinale)等、キク科のヒマワリ(Helianthus annuus)、ベニバナ(Carthamus tinctorius)、レタス(Lactuca sativa)等、トウダイグサ科のヒマ(Ricinus communis)、ヤトロファ(Jatropha curcas)、ゴマ科のゴマ(Sesamum indicum)等、モクセイ科のオリーブ(Olea europea)等、ミソハギ科のクフェア(Cuphea hyssopifolia)等、シソ科のアオジソ(Perilla frutescens var. crispa)、アカジソ(Perilla frutescen var. crispa)、バジル(Ocimum basilicum L.)等、セリ科のミツバ(Cryptotaenia japonica)、コリアンダー(Coriandrum sativum L.)、パセリ(Petroselium crispum)等、アカザ科のホウレンソウ(Spinacia oleracea)等、ナス科のタバコ(Nicotiana tabacum)、トマト(Solanum lycopersicum L.)等が挙げられる。このうち、被子植物が好ましく、より好適には双子葉植物、更に好適にはアブラナ科植物又はナス科植物が挙げられ、このうちアオウキクサ、シロイヌナズナ、トマト、ナタネ、イヌビエ又はタバコがより好ましく、シロイヌナズナ又はタバコがさらに好ましい。
【0024】
一方、野生型であっても高いKODAの生産能力を有するアオウキクサは、平面的に生育するため、単位面積当たりの栽培効率の向上が困難であるという問題がある。また、大量に栽培するには広大な平面スペースが必要であるため、栽培環境が限られる。かかる観点からは、実施形態の植物は、アオウキクサ(Lemna aoukikusa)を除くものであってもよく、アオウキクサ属植物(Lemna)を除くものであってもよく、ウキクサ亜科植物(Lemnoideae)を除くものであってもよく、栽培が容易であることから土壌栽培可能な植物であってよい。
【0025】
遺伝子組換えが容易であり、遺伝子組換えによるα-リノレン酸の含有率向上の可能性を考慮すると、好適な植物として例えば、アオウキクサ、小松菜、タバコ、トマト等が挙げられる。
【0026】
本明細書において、植物とは、植物個体の他、茎、葉、種子、胚、胚珠、子房、茎頂、葯、花粉等の組織や器官等の植物体の一部分、細胞塊、及び植物細胞を包含する概念である。
【0027】
本明細書において、発現又は活性が亢進されていることとは、実施形態の植物に対応する野生型等(野生型の系統又は株を含む)のコントロールの植物に対して、発現又は活性が亢進されていることを意味する。
9-LOXの発現又は活性の亢進、及びAOSの発現又は活性の亢進は、人為的に亢進されていることが好ましく、人為的な遺伝子改変により為されていることが好ましい。その場合のコントロールの植物とは、前記人為的な遺伝子改変が為されていない植物を例示できる。
【0028】
9-LOX及びAOSの発現は、植物における9-LOXタンパク質及びAOSタンパク質の発現を指標としてもよく、植物における9-LOXタンパク質をコードする遺伝子及びAOSタンパク質をコードする遺伝子の発現を指標としてもよい。
【0029】
9-LOX及びAOSの活性は、それらの酵素活性を指標とすることができ、例えば、それぞれの酵素の反応速度に基づき、酵素活性を判断できる。
【0030】
LOX産物は様々な物質の合成反応の基質となり、生合成経路でのLOX産物の奪い合いが生じる可能性を考慮すると、9-LOX及びAOSに係る両方の反応が亢進されていることが好ましい。9-LOX及びAOSの発現及び/又は活性を共に亢進させることで、KODAの生産効率を、さらに効果的に向上させることができる。
かかる観点から、前記植物は前記9-LOX及び前記AOSの発現が亢進されている、及び/又は、前記9-LOX及び前記AOSの活性が亢進されているものであることが好ましい。
KODAの生産性をさらに効果的に高める観点からは、前記植物は、前記9-LOX及び前記AOSの発現が亢進されている、並びに、前記9-LOX及び前記AOSの活性が亢進されているものであることが好ましい。
【0031】
実施形態の植物は、9-LOX及び/又はAOSの発現が人為的に亢進されている、及び/又は、9-LOX及び/又はAOSの活性が人為的に亢進されていることが好ましい。
上記の実施形態の植物としては、遺伝子改変により9-LOX及び/又はAOSの発現が亢進されている、及び/又は、遺伝子改変により9-LOX及び/又はAOSの活性が亢進されているものを例示できる。
【0032】
実施形態の植物は、9-LOX遺伝子及び/又はAOS遺伝子(それらの発現制御配列を含む)が人為的に改変されていることが好ましい。
【0033】
植物の遺伝子改変の手法としては、植物の種類等も考慮し、適用可能な種々の手法を用いることができる。例えば、アグロバクテリウム法、パーティクルガン法、エレクトロポレーション法、PEG(ポリエチレングリコール)法等を用いた遺伝子導入法、相同組換え、ゲノム編集技術等を例示できる。
【0034】
実施形態の植物は、異種生物の遺伝子又は発現制御配列が導入(即ち含有)されたトランスジェニック植物であってよい。
【0035】
遺伝子改変による9-LOX及び/又はAOSの発現の亢進としては、コントロールの植物の内在性の9-LOX及び/又はAOSの本来の発現に比べ、その発現が亢進されているものであればよく、内在性の遺伝子(その発現制御配列を含む)に対する改変であってもよく、新たな遺伝子導入によるものであってもよい。
例えば、内在性の9-LOX遺伝子及び/又はAOS遺伝子の発現制御配列の、発現を亢進させる発現制御配列への置き換えや、発現を亢進させる発現制御配列と作動可能に連結した9-LOX遺伝子及び/又はAOS遺伝子の導入、内在性の9-LOX遺伝子及び/又はAOS遺伝子のコピー数の増加等を例示できる。
【0036】
「発現制御配列と作動可能に連結された」とは、連結された遺伝子が発現制御配列の制御のもとに発現されるよう配置されることを云う。
【0037】
発現を亢進させる発現制御配列としては、エンハンサー領域、プロモーター等を例示でき、好ましくはプロモーターである。
発現を亢進させるプロモーターは、植物の種類等に応じて適宜選択することができる。例えば、構成的(恒常的ともいう)発現を誘導するプロモーターであってよく、構成的且つ高発現プロモーターとして用いられるCaMV35Sプロモーター、ダイズのユビキチンプロモーター(Cornejo et. al. 1993., doi.org/10.1007/BF00019304)、シロイヌナズナのef1αプロモーター(Curie et. al., 1991 doi: 10.1093/nar/19.6.1305.)、レタスのユビキチン4プロモーター(Kawazu et. al., 2018, doi: 10.2503/hortj.UTD-022)等を例示できる。
【0038】
遺伝子改変による9-LOX及び/又はAOSの活性の亢進としては、コントロールの植物の内在性の9-LOX及び/又はAOSの本来の活性に比べ、その活性が亢進されているものであればよく、内在性の遺伝子に対する改変であってもよく、新たな遺伝子導入によるものであってもよい。
例えば、内在性の9-LOX遺伝子及び/又はAOS遺伝子の配列の、活性が亢進された(高活性な)9-LOX及び/又はAOSをコードする遺伝子への置き換えや、活性が亢進された9-LOX及び/又はAOSをコードする遺伝子の導入、内在性の9-LOX遺伝子及び/又はAOS遺伝子のコピー数の増加等を例示できる。
【0039】
高活性な9-LOX及びAOSとしては、アオウキクサ由来の9-LOX及びAOSが挙げられ、後述の実施例で用いたアオウキクサSH株由来の9-LOX及びAOSが好ましい(例えば、特許文献1~2参照)。
【0040】
本明細書において9-LOXは、リノレン酸の9位にヒドロペルオキシ基を導入するリポキシゲナーゼ活性を有するものであれば特に制限されず、アオウキクサSH株由来の9-LOX以外の9-LOXであっても、実施形態に係る9-LOXに包含される。
当業者であれば、例えば実施例で用いた9-LOXの配列情報を元に、9-LOXと同等の機能を有するホモログを取得することができる。
【0041】
前記9-LOXの一例としては、下記(a)~(c)からなる群から選ばれるタンパク質を例示できる。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、9-リポキシゲナーゼ活性を有するタンパク質
(c)配列番号1で表されるアミノ酸配列との配列同一性が90%以上であるアミノ酸配列を有し、9-リポキシゲナーゼ活性を有するタンパク質
【0042】
配列番号1で表されるアミノ酸配列は、アオウキクサSH株由来の9-LOXのアミノ酸配列である。
【0043】
9-LOXをコードする遺伝子としては、前記(a)~(c)からなる群から選ばれるタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。
前記(a)のタンパク質をコードする遺伝子としては、配列番号2で表される塩基配列を有するポリヌクレオチドが挙げられる。配列番号2で表される塩基配列は、アオウキクサSH株由来の9-LOXのコーディング領域の塩基配列である。
【0044】
本明細書においてAOSは、アレンオキシドシンターゼ活性を有するものであれば特に制限されず、後述の実施例で用いたアオウキクサSH株由来のAOS以外のAOSであっても、実施形態に係るAOSに包含される。
当業者であれば、例えば実施例で用いたAOSの配列情報を元に、AOSと同等の機能を有するホモログを取得することができる。
【0045】
前記AOSの一例としては、下記(d)~(f)からなる群から選ばれるタンパク質を例示できる。
(d)配列番号3で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質
(e)配列番号3で表されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、アレンオキシドシンターゼ活性を有するタンパク質
(f)配列番号3で表されるアミノ酸配列との配列同一性が90%以上であるアミノ酸配列を有し、アレンオキシドシンターゼ活性を有するタンパク質
【0046】
配列番号3で表されるアミノ酸配列は、アオウキクサSH株由来のAOSのアミノ酸配列である。
【0047】
AOSをコードする遺伝子としては、前記(d)~(f)からなる群から選ばれるタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。
前記(d)のタンパク質をコードする遺伝子としては、配列番号4で表される塩基配列を有するポリヌクレオチドが挙げられる。配列番号4で表される塩基配列は、アオウキクサSH株由来のAOSのコーディング領域の塩基配列である。
【0048】
ここで、欠失、挿入、置換、若しくは付加されてもよいアミノ酸の数としては、1~30個が好ましく、1~20個が好ましく、1~10個がより好ましく、1~5個がさらに好ましい。
【0049】
配列同一性が90%以上であるアミノ酸配列としては、配列番号1又は3で表されるアミノ酸配列に対して、好ましくは95%以上100%以下、より好ましくは98%以上100%以下、さらに好ましくは99%以上100%以下の同一性を有するアミノ酸配列を例示できる。
【0050】
アミノ酸配列の同一性は、NCBI(National Center of Biotechnology Information)から提供されているBLASTPのプログラムを用いて算出することが挙げられる。
【0051】
上記に示した遺伝子改変の形態は自由に組み合わることができる。KODAの生産効率をより一層向上させる観点から、実施形態の植物としては、例えば、発現を亢進させる発現制御配列と作動可能に連結した、活性が亢進された9-LOX及び/又はAOSをコードする遺伝子が導入された植物を例示できる。より具体的には、高発現プロモーターと作動可能に連結したアオウキクサSH株由来の9-LOX及び/又はAOSが導入された植物を例示できる。
【0052】
前記9-LOX及び/又は前記AOSは、オルガネラ移行シグナル配列と連結されていることが好ましい。
オルガネラ移行シグナル配列とは、それが付与されたタンパク質を、移行対象のオルガネラへと移行させる移行機能を有する配列である。ここで、タンパク質の「移行」とは、タンパク質の輸送、及び局在化を含む。
シグナル配列としては、例えば、葉緑体への移行機能を有する葉緑体移行シグナル配列、ミトコンドリアへの移行機能を有するミトコンドリア移行シグナル配列、及び植物細胞内の油滴への移行機能を有する油滴移行シグナル配列を例示できる。
【0053】
ここで「葉緑体」とは、その前駆体の色素体を包含する。油滴移行シグナル配列は、油滴表層への移行機能を有する油滴表層移行シグナル配列であることが好ましい。
【0054】
オルガネラ移行シグナル配列との連結の意義は、主に2つ挙げられる。
1つ目は、9-LOX及び/又はAOSの局在化による成長阻害の防止である。KODAは、植物の生長に関与する生理活性物質である。そのため9-LOX及び/又はAOSがオルガネラ移行シグナル配列と連結されていることで、これら酵素をオルガネラに局在化させ、KODAの意図しない生理作用の発現を回避しつつ、KODAの生産性を向上させることができる。
【0055】
2つ目は、オルガネラの膜に含有されるα-リノレン酸とのアクセスを良好とする観点である。かかる観点からは、オルガネラ移行シグナル配列は、葉緑体移行シグナル配列、又は油滴移行シグナル配列であることが好ましい。
葉緑体のチラコイド膜にはα-リノレン酸が含まれ、チラコイド膜は多層構造を形成している。そのため、葉緑体にはKODA原料となるα-リノレン酸が豊富に含有される。また、油滴にもKODA原料となるα-リノレン酸が含有される。そのため、α-リノレン酸を原料としたKODA生産に係る反応効率を向上させることができる。
【0056】
また、上記オルガネラ移行シグナル配列は、葉緑体移行シグナル配列であることが好ましい。葉緑体は植物細胞に占める体積割合が大きく、KODA生産に係る反応効率をさらに向上させることができる。
【0057】
葉緑体移行シグナル配列は、植物の種類等に応じて適宜選択することができる。葉緑体移行シグナル配列としては、配列番号5で表されるアミノ酸配列を有するペプチドが挙げられる。
【0058】
シグナル配列と連結させたタンパク質を発現させる場合には、シグナル配列に対応する塩基配列を有する核酸を、タンパク質をコードする核酸に付加すればよい。
葉緑体移行シグナル配列をコードする核酸としては、配列番号6で表される塩基配列を有するポリヌクレオチドが挙げられる。
【0059】
油滴表層移行シグナル配列は、植物の種類等に応じて適宜選択することができる。油滴表層移行シグナル配列については、既報(Nobusawa et al., 2017 / Takashi Nobusawa, Koichi Hori, Hiroshi Mori, Ken Kurokawa, Hiroyuki Ohta, Differently localized lysophosphatidic acid acyltransferases crucial for triacylglycerol biosynthesis in the oleaginous alga Nannochloropsis, 2017, Plant Journal, 90(3), 547-559, doi: 10.1111/tpj.13512)に記載の内容を参照することができる。油滴表層移行シグナル配列としては、Nannochloropsis oceanica (株番号NIES‐2145)由来の、配列番号7で表されるアミノ酸配列を有するペプチドが挙げられる。油滴表層移行シグナル配列をコードする核酸としては、配列番号8で表される塩基配列を有するポリヌクレオチドが挙げられる。
【0060】
前記9-LOXと前記AOSとは、複合体化されていることが好ましい。かかる構成により、9-LOX及びAOSの位置を接近させ、9-LOX及びAOSによる一連の酵素反応を円滑に進行させることができるため、KODA生産に係る反応効率を向上させることができる。
タンパク質の複合体化の手法は公知の方法を適宜採用することができる。例えば、N末端側とC末端側とに分割されたVenusタンパク質の融合、アビジン-ビオチン結合等の相互作用を利用することができ、例えば、相互作用のための構造を9-LOX及びAOSに付加することで、これらを複合体化できる。
【0061】
遺伝子改変により取得された実施形態の植物は、次世代個体等であっても、9-LOX及び/又はAOSの発現が亢進されている、及び/又は、9-LOX及び/又はAOSの活性が亢進されている限り、本実施形態の植物に含めるものとする。
【0062】
なお、上記のオルガネラ移行シグナル配列との連結と同様の観点から、植物の生育阻害を避けることを目的とし、組織特異的プロモーター等の部位特異的プロモーターや、ヒートショックプロモーター等の誘導性プロモーターを発現制御領域として含むこともできる。
【0063】
実施形態の植物によれば、原料のα-リノレン酸を別途準備せずとも、植物自体から原料が供給され、安価で効率的にKODAを生産できる。
実施形態の植物は、後述の実施形態の9,10-α-ケトールリノレン酸(KODA)の製造方法に使用可能である。
【0064】
≪製造方法≫
実施形態の製造方法は、前記実施形態の植物を用いて、9,10-α-ケトールリノレン酸を取得することを含む、9,10-α-ケトールリノレン酸の製造方法である。
【0065】
実施形態の植物としては、上記の≪植物≫に例示したものが挙げられる。収穫が容易でありバイオマス量が多いことから、植物は、植物の地上部を含むことが好ましく、葉を含むことがより好ましい。
【0066】
実施形態の製造方法は、実施形態の植物を栽培する工程を含むことができる。栽培は、栽培する植物の種類等に応じて、適宜選択することができ、通常の温度、湿度、pH、光照射条件で栽培を行えばよい。好適な栽培期間としては数日~10週間、特には3日間~8週間、最適には10日間~6週間である。
例えば、植物体としてタバコ又はシロイヌナズナを用いる場合の栽培条件の一例としては、18~25℃、光強度23~45μmolm-2-1、照射時間6~24時間/日の範囲を例示できる。
なお、栽培に使用される培地や土壌に、α-リノレン酸を添加してもよい。
実施形態の植物を栽培することで、植物体内に9-LOX及び/又はAOSを発現させ、それを利用してKODAを効率的に生産可能である。
【0067】
植物が体内でKODAを生産及び蓄積している場合には、植物体内からKODAを回収してもよい。
【0068】
実施形態の製造方法は、植物の細胞を破砕して破砕物を得て、前記破砕物からKODAを取得してもよい。破砕物は、破砕物に更に任意の処理(例えば、添加物の添加や濃縮などの処理)を施した破砕物の処理物を包含する。
【0069】
ここで破砕物を得る意義は、植物体内からKODAを回収するということにとどまらず、破砕物中でKODAを合成することにある。
【0070】
後述の実施例において示されるように、破砕物のインキュベーションによりKODAの生産量が向上することは、破砕物中でのKODAの合成を示唆するものである。即ち、本実施形態における破砕処理は、従来法である植物体に対するストレス処理とは異なり、異なるメカニズムにより、KODAの生産性を向上させる。
【0071】
実施形態で製造されるKODAは、破砕物中で合成されるものを含んでよい。
細胞が破砕されることで、α-リノレン酸を含む膜構造(細胞膜、葉緑体のチラコイド膜等)が破壊され、遊離のα-リノレン酸が多量に放出されると考えられる。そのため破砕処理により、KODA原料が供給されて即座に基質となり、KODAの生産効率を向上させると推察される。
【0072】
また破砕処理は、9-LOX及び/又はAOSが、オルガネラ移行シグナル配列と連結されている場合にも、好適である。
9-LOX及び/又はAOSがオルガネラに移行されていることで、栽培中は細胞内のオルガネラにこれらの酵素を隔離しておくことができ、植物自身への生育の影響を低減させることができる。次いで、植物の細胞の破砕することで、オルガネラの膜構造が破砕され遊離のリノレン酸が放出されるとともに、オルガネラに局在していた9-LOX及び/又はAOSが放出され、KODA生産に係る酵素反応を促進できる。
【0073】
破砕処理を経ても、細胞内の成分が均一に混合されるとは限られない。そのため、上記の実施形態で例示した、9-LOX及び/又はAOSがオルガネラ移行シグナル配列と連結されていることや、9-LOXとAOSとが複合体化されていることで、α-リノレン酸、9-LOX及びAOSのそれぞれが近くに存在していることも、破砕物におけるKODA生産においても有利となる。
【0074】
破砕物は、9-LOX及び/又はAOSの発現又は活性が亢進されている植物の破砕物として、例えば、以下を例示できる。
1)9-LOXの発現及び/又は活性が亢進されている植物の破砕物。
2)AOSの発現及び/又は活性が亢進されている植物の破砕物。
3)9-LOX及びAOSの発現及び/又は活性が亢進されている植物の破砕物。
4)9-LOXの発現及び/又は活性が亢進されている植物の破砕物と、AOSの発現及び/又は活性が亢進されている植物の破砕物との混合物。
【0075】
実施形態の製造方法によれば、破砕物から9-LOX及び/又はAOSの酵素を抽出・精製せずとも、細胞の破砕物においても高効率にKODAを製造可能であることから、簡易な方法にて安価にKODAを生産できる。
【0076】
実施形態の製造方法は、前記破砕物をインキュベーションすることを含むことが好ましい。インキュベーションにより、破砕物中でのKODAの合成反応を効果的に進めることができる。また、前記破砕物に新たにα-リノレン酸を添加してもよい。
【0077】
前記インキュベーションの時間は、KODAの合成反応を進行させる観点からは長いほどよく、一例として、10分以上であってよく、30分以上であってよく、1時間以上であってよく、3時間以上であってよい。インキュベーションの時間の上限は特に制限されるものではないが、例えば、1週間以下であってよく、3日以下であってよく、24時間以下であってよく、16時間以下であってよい。
上記のインキュベーションの時間の数値範囲の一例としては、10分以上1週間以下であってよく、30分以上3日以下であってよく、1時間以上24時間以下であってよく、3時間以上16時間以下であってよい。
【0078】
前記インキュベーションの温度は、15℃以上の温度を例示でき、20℃以上であってもよく、25℃以上であってもよく、30℃以上であってもよく、35℃以上であってもよく、37℃以上であってもよい。インキュベーション温度の上限値は、酵素が失活しない温度を基準として適宜定めればよい。インキュベーション温度の数値範囲としては、15℃以上45℃以下であってもよく、20℃以上45℃以下であってもよく、25℃以上42℃以下であってもよく、30℃以上42℃以下であってもよく、35℃以上40℃以下であってもよく、37℃以上40℃未満であってもよい。上記の温度範囲で前記破砕物をインキュベーションすることで、KODA生産性を向上できる。
【0079】
KODA生産性を向上できる理由については、おそらく、上記の温度範囲での9-LOX及びAOSの酵素活性が良好であるからと推察される。
また、破砕処理により細胞において細胞死が進行し、その過程においてリパーゼ等の酵素類が放出されることによって膜構造(細胞膜、葉緑体のチラコイド膜等)が破壊されると考えられる。即ち、上記の温度範囲において、おそらく、このような細胞の膜構造の破砕に寄与する酵素類の活性が良好となり、上記の温度範囲での破砕物中への遊離のα-リノレン酸の放出量が高められるからと推察される。
【0080】
上記の考察に基づけば、破砕処理とは、細胞の膜構造を破壊することを含むことが好ましい。破砕は、破壊、粉砕及び摩砕の概念を包含する。上記の破砕方法は特に限定されず、凍結処理、浸透圧ショック、超音波処理、凍結融解処理等による細胞破砕を例示でき、胞破に力を与えて破砕する物理的破砕が好ましい。破砕に使用される機器類についても特に限定されず、公知の細胞破砕装置又は器具を使用可能である。細胞破砕装置又は器具の一例として、ホモジナイザー、ビーズミル、乳鉢及び乳棒等を例示できる。
【0081】
破砕物は、そのままKODAを含む製造物として取得してもよいし、更に破砕物からKODAを分離して回収する精製処理を行って、KODAを取得してもよい。実施形態の製造方法は、前記破砕物からKODAを分離する精製工程を更に含んでもよい。分離・回収の方法は特に制限されず、遠心分離、フィルターによる分離、高速液体クロマトグラフィー等のクロマトグラフィーを用いた分離・回収などが挙げられ、種々の方法を組み合わせることができる。
【0082】
実施形態の製造方法による、前記植物の新鮮重量(gFW)あたりのKODA量は、一例として、10μg/gFW以上であってよく、10~400μg/gFWであってよく、20~300μg/gFWであってよく、40~250μg/gFWであってよい。
【0083】
実施形態の方法によれば、原料のα-リノレン酸を別途準備せずとも、植物自体から原料が供給され、安価で効率的にKODAを生産できる。
【0084】
また、前記破砕物からKODAを取得することで、KODAの生産性を更に向上可能である。
従来、植物からのKODAの抽出は、植物体へのストレス処理と植物体からの溶媒抽出により為されていた。一方、破砕物からKODAを取得する場合には、破砕物をインキュベーションして破砕物におけるKODAの合成効率を高め、従来法に比べKODAの生産性を飛躍的に向上させることが可能である。
【実施例0085】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0086】
<遺伝子発現用ベクタープラスミドの作製>
図2に、遺伝子発現用ベクタープラスミドにおけるコンストラクトの構造の概要を示す。pRI201-AN(タカラバイオ社製)バイナリーベクターを使用して、以下のコンストラクトの構成を有するベクターを作製した。
【0087】
・コンストラクト1
配列番号9表される塩基配列からなるCaMV35Sプロモーター(pRI201-AN内配列)の下流に、配列番号10で表される塩基配列からなるシロイヌナズナ アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子由来の5’UTR(pRI201-AN内配列)と、配列番号2で表される塩基配列からなるアオウキクサSH株由来のLOX遺伝子配列と、配列番号11で表される塩基配列(配列番号12:アミノ酸配列)からなる蛍光タンパク質断片mVenusNをコードする配列と、配列番号13で表される塩基配列からなるシロイヌナズナHSP18.2(AT5G59720)由来のターミネーター(pRI201-AN内配列)と、を連結したコンストラクト1-1を得た。
また、上記コンストラクト1-1において、上記LOX遺伝子配列に代えて、配列番号4で表される塩基配列からなるアオウキクサSH株由来のAOS遺伝子配列を連結させ、更に、mVenusNに代えて、配列番号14で表される塩基配列(配列番号15:アミノ酸配列)からなる蛍光タンパク質断片mVenusCをコードする配列を連結させた構成を有するコンストラクト1-2を得た。
次いで、コンストラクト1-1及びコンストラクト1-2を連結させ、コンストラクト1(35S::LpLOX-mVenusN, 35S::cTP-LpAOS-mVenusC)を有するバイナリーベクターを得た。
翻訳後は、mVenusNとmVenusCの蛍光タンパク質断片同士が結合し、LOX及びAOSが複合体を形成すると考えられる。
【0088】
・コンストラクト2
上記コンストラクト1-1において、35SプロモーターとLOX遺伝子配列の間に、配列番号6で表される塩基配列からなるシロイヌナズナRbcS遺伝子由来の葉緑体移行シグナル(cTP)配列を連結させた構成を有するコンストラクト2-1を得た。
同様に、上記コンストラクト1-2において、35SプロモーターとLOX遺伝子配列の間に、cTP配列を連結させた構成を有するコンストラクト2-2を得た。
次いで、コンストラクト2-1及びコンストラクト2-2を連結させ、コンストラクト2(35S::cTP-LpLOX-mVenusN, 35S::cTP-LpAOS-mVenusC)を有するバイナリーベクターを得た。
翻訳後は、図3に示すように、cTP配列により葉緑体へ移行し、cTP配列が切断されて、葉緑体内でLOX及びAOSが複合体を形成すると考えられる。
【0089】
・コンストラクト3
上記コンストラクト2において、cTP配列の代わりに、配列番号8で表される塩基配列からなるナンノクロロプシス(Nannochloropsis)由来の油滴表層への局在配列LPAT4Hpbを連結させ、コンストラクト3(35S::LPAT4Hpb-LpLOX-mVenusN, 35S::LPAT4Hpb-LpAOS-mVenusC)を有するバイナリーベクターを得た。
翻訳後は、LPAT4Hpb配列により油滴表層へ移行し、油滴表層でLOX及びAOSが複合体を形成すると考えられる。
【0090】
・コンストラクト4
上記コンストラクト1-1において、mVenusNに代えて、配列番号16で表される塩基配列(配列番号17:アミノ酸配列)からなる蛍光タンパク質mVenusをコードする配列を連結させた構成を有するコンストラクト4-1を得た。
同様に、mVenusCに代えて、配列番号18で表される塩基配列(配列番号19:アミノ酸配列)からなる蛍光タンパク質mCherryをコードする配列を連結させた構成を有するコンストラクト4-2を得た。
次いで、コンストラクト4-1及びコンストラクト4-2を連結させ、コンストラクト4(35S::LpLOX-mVenus, 35S::cTP-LpAOS-mCherry)を有するバイナリーベクターを得た。
翻訳後は、mVenusとmCherryは結合せず、LOX及びAOSは複合体を形成しないと考えられる。
【0091】
・コンストラクト5(対照群)
35Sプロモーター(pRI201-AN内配列)の下流に、mVenusをコードする配列を連結させたコンストラクト5(35S::mVenus)を有するバイナリーベクターを得た。
【0092】
[タバコ葉一過的発現系を用いたKODA生産]
<タバコの生育条件>
ベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)の種を、含水させたジフィーセブン 30mm(サカタのタネ製)に播種し、本葉展開まで生育させた。その後、ジフィーセブンごと植え替えを行った。生育条件は、ハイポネックス原液(ハイポネックスジャパン製)を2000分の1に希釈して与え、光強度は23~45μmolm-2-1の範囲に収まるように調整した。発芽後4~6週間育てた個体をサンプルとして用いた。
【0093】
<アグロバクテリウムによる一過的な遺伝子発現系>
p19遺伝子を有するプラスミドまたは上記で得た各遺伝子発現用ベクタープラスミドを形質転換により導入したアグロバクテリウムを、それぞれ耐性を持つ抗生物質を含むLB培地(液体)によって一晩培養した。各培養液は5,000 rpm, 5 minで遠心を行い、上清を廃棄したのち超純水によって再懸濁した。各再懸濁液はさらに5,000 rpm, 5 minで遠心を行い、上清を廃棄したのち超純水によって再懸濁した。それぞれのアグロバクテリウム再懸濁液のOD600を測定し、p19プラスミドが導入されたアグロバクテリウム懸濁液は0.2、遺伝子発現用ベクターが導入されたアグロバクテリウム懸濁液は0.5になるように超純水によって希釈を行った。
各遺伝子発現用ベクターのアグロバクテリウム懸濁液とp19のアグロバクテリウム懸濁液とを体積比で1:1になるように混合し、アセトシリンゴンを終濃度100μg/mlになるよう添加し、ベンサミアナタバコの感染に用いた。感染はベンサミアナタバコの葉の裏に1 mlシリンジ(テルモ社製)を用いて、アグロバクテリウム懸濁液を注入することにより行った。この操作により、懸濁液の注入箇所である葉の一部分において、遺伝子発現用ベクターに構築した遺伝子コンストラクトが、植物細胞ゲノムへ導入される。
【0094】
<サンプリング及び新鮮重量の計測>
感染後3日目の葉の懸濁液の注入箇所を、はさみを用いて回収し、微量天秤を用いて新鮮重量を計測した。秤量後、すぐに液体窒素で凍結させた。凍結させたサンプルをKODA精製に使用した。
【0095】
<KODAの精製 破砕及びインキュベーション>
液体窒素で凍結させた植物サンプル3個体分を、乳鉢と乳棒で解凍しないよう素早く破砕し、破砕液を得た。破砕液に植物サンプル新鮮重量10 mgあたり1.5 mLの滅菌水を加えて懸濁した。懸濁液1 mLを1.5 mLエッペンドルフチューブに移し、25℃に保温したヒートブロックで1 hインキュベーションした。その後、卓上遠心機を用いて13,000 rpmで2 min遠心して、上澄み100 μLを採取した。この上澄みに2%(v/v)ギ酸含有メタノールを100 μLを加えてよく撹拌した。混合液は、酸化チタンおよび酸化ジルコニウム結合型シリカモノリスのスピンカラム(MonoSpin(登録商標) Phospholipid、ジーエルサイエンス株式会社)に滴下し、卓上遠心機を用いて5,000 rpmで2 min遠心し、ろ液を回収した。ろ液を、さらに0.22 μm親水性ポリビニリデンフルオライドのメンブレンフィルター(4 mm Millex(登録商標) Syringe Filters、Merck Millipore)でろ過した。得られた溶液を、KODAサンプルとし、これをLC-MS/MS解析に使用した。
【0096】
<KODA産生量の解析>
KODAの測定は高速液体クロマトグラフLC-2040C 3D(島津製作所製)と質量分析計LCMS-8050(島津製作所製)を組み合わせたLC-ESI-MS/MSで行った。装置の操作は、装置に付属の分析データシステムLabSolutionで行った。
LC-2040C 3Dの条件はそれぞれ以下のとおり設定した。カラムはKinetex Polar C18 (2.1 × 100 mm, 粒子径2.6 μm, Phenomenex製)を用いた。流速は0.4 ml / minに設定した。溶媒はA: 0.1 % ギ酸水溶液, B: アセトニトリルを用い、グラジエントは0 min, 30 % B; 5 min, 35 % B; 10 min, 50 % B; 20 min, 75 % B; 20.1 min, 95 % B; 25 min, 95 % B; 26 min, 30 % B; 31 min, 30 % B で行った。カラムオーブンは40 ℃に設定し、オートサンプラー内サンプルラック温度は5 ℃に設定した。分離したサンプルはLCMS-8050に導入された。
LCMS-8050のインターフェイスは以下のとおり設定した。ネブライザーガス流量、ヒーティングガス流量、及びドライイングガス流量はそれぞれ3 L / min、10 L / min、10 L / minに設定し、CIDガス圧はメーカーが作成したチューニングファイルに合わせた。インターフェイス温度、DL温度、ヒートブロック温度はそれぞれ300 ℃、250 ℃、400 ℃に設定した。KODAはイオン源をESI negative, -3 kVにしたMRMモードでm/z = 309.2~200.2のトランジションを10.1~14 minの間モニターし、Q1分解能およびQ3分解能はLow (オフセット値 4800)を用いた。また、イオン源をESI negative, -3 kVにしたQ3 scanモードで10~14 minの間m/z = 150~1000をモニターし、さらにイオン源の安定化のためイオン源をESI positive, 4 kVにしたMRMモードで16~17 minの間900~800のトランジションを測定した。
得られたクロマトグラムはLabSolutionにより解析を行い、手動で波形処理を行いKODAの各分子種のピーク面積からサンプルのKODA濃度を算出し、植物サンプルの新鮮重量当たりのKODA濃度を計算した。
【0097】
実験1.遺伝子導入によるKODA生産性の確認(1)
(参考例1)
上記で得たコンストラクト2(35S::cTP-LpLOX-mVenusN, 35S::cTP-LpAOS-mVenusC)を導入したタバコ葉から、KODAの抽出及び精製を行い、新鮮重量あたりのKODA量を定量した。なお、KODAの精製について、タバコ葉に対して、サンプリング直前に1cm程度の切り傷を与える障害ストレス処理を行った後、タバコ葉をサンプリングした。サンプリングしたタバコ葉を破砕し、1%(v/v)のギ酸を含有したメタノールを加え直ちに精製した。
【0098】
(実施例1)
上記で得たコンストラクト2(35S::cTP-LpLOX-mVenusN, 35S::cTP-LpAOS-mVenusC)を導入したタバコ葉から、KODAの精製を行い、新鮮重量あたりのKODA量を定量した。なお、タバコ葉の破砕液を懸濁した懸濁液は、25℃で1時間インキュベーションした。
【0099】
(比較例1)
遺伝子導入を行っていない野生株のタバコ葉から、KODAの精製を行い、新鮮重量あたりのKODA量を定量した。なお、タバコ葉の破砕液を懸濁した懸濁液のインキュベーションは行わなかった。
【0100】
結果を図4に示す。図中の<LOQは、定量下限値(Limit of Quantitation)以下であることを表す。アオウキクサSH株由来の高活性のLOX及びAOSを過剰発現させ葉緑体に移行させた実施例1で、KODAの生産が確認された。
一方、LOX及びAOSの遺伝子導入を行っていない比較例1では、KODAの生産は確認されなかった。
さらに、実施例1と参考例1との比較から、従来法であるストレス処理及び溶媒抽出を適用した参考例1に比べ、植物葉の破砕液をインキュベーションした実施例1で、効果的にKODAを取得可能であることが明らかとなった。
【0101】
実験2.遺伝子導入によるKODA生産性の確認(2)
(参考例2)
コンストラクト1(35S:: LpLOX-mVenusN, 35S::LpAOS-mVenusC)を導入したタバコ葉から、KODAの精製を行い、新鮮重量あたりのKODA量を定量した。なお、タバコ葉の破砕液を懸濁した懸濁液のインキュベーションは行わなかった。
【0102】
(実施例2)
上記で得たコンストラクト1(35S:: LpLOX-mVenusN, 35S::LpAOS-mVenusC)を導入したタバコ葉から、KODAの精製を行い、新鮮重量あたりのKODA量を定量した。なお、タバコ葉の破砕液を懸濁した懸濁液は、25℃で1時間インキュベーションした。
【0103】
(比較例2)
上記のコンストラクト1に代えて、対照としてコンストラクト5(35S::mVenus)を導入したタバコ葉から、KODAの精製を行い、新鮮重量あたりのKODA量を定量した。なお、タバコ葉の破砕液を懸濁した懸濁液のインキュベーションは行わなかった。
【0104】
(比較例3)
コンストラクト5(35S::mVenus)を導入したタバコ葉から、KODAの精製を行い、新鮮重量あたりのKODA量を定量した。なお、タバコ葉の破砕液を懸濁した懸濁液は、25℃で1時間インキュベーションした。
【0105】
結果を図5に示す。アオウキクサSH株由来の高活性のLOX及びAOSを過剰発現させ葉緑体に移行させた実施例2で、KODAの生産が確認された。
一方、LOX及びAOSの遺伝子導入を行っていない比較例2~3では、KODAの生産は確認されなかった。
また、実施例2と参考例2との比較から、植物葉の破砕液のインキュベーションにより、得られるKODA量が顕著に増加することが明らかとなった。
【0106】
実験3.遺伝子導入によるKODA生産性の確認(3)
(実施例3)
コンストラクト1(35S::LpLOX-mVenusN, 35S::LpAOS-mVenusC)を導入したタバコ葉から、KODAの精製を行い、新鮮重量あたりのKODA量を定量した。なお、タバコ葉の破砕液を懸濁した懸濁液は、25℃で1時間インキュベーションした。
【0107】
(実施例4)
実施例3において、コンストラクト1に代えて、コンストラクト2(35S::cTP-LpLOX-mVenusN, 35S::cTP-LpAOS-mVenusC)を導入したこと以外は、実施例3と同様にして、KODAの精製を行い、新鮮重量あたりのKODA量を定量した。
【0108】
(実施例5)
実施例3において、コンストラクト1に代えて、コンストラクト3(35S::LPAT4Hpb-LpLOX-mVenusN, 35S::LPAT4Hpb-LpAOS-mVenusC)を導入したこと以外は、実施例3と同様にして、KODAの精製を行い、新鮮重量あたりのKODA量を定量した。
【0109】
(実施例6)
実施例3において、コンストラクト1に代えて、コンストラクト4(35S::LpLOX-mVenus, 35S::cTP-LpAOS-mCherry)を導入したこと以外は、実施例3と同様にして、KODAの精製を行い、新鮮重量あたりのKODA量を定量した。
【0110】
(比較例4)
実施例3において、コンストラクト1に代えて、コンストラクト5(35S::mVenus)を導入したこと以外は、実施例3と同様にして、KODAの精製を行い、新鮮重量あたりのKODA量を定量した。
【0111】
結果を図6に示す。アオウキクサSH株由来の高活性のLOX及びAOSを過剰発現させた実施例3~6において、いずれもKODAの生産が確認された。
実施例6と実施例3との対比から、LOX及びAOSの複合体化により、KODA生産性を向上可能であることが示唆された。
また、実施例3~5の比較によれば、LOX及びAOSを過剰発現させ葉緑体に移行させた実施例4が、特にKODAの生産性に優れる傾向にあることが明らかとなった。
【0112】
実験4.インキュベーションの温度及び時間とKODA生産量の関係
先の実験1及び2により、破砕液をインキュベーションすることにより、得られるKODA量が顕著に増加することが明らかとなったことから、インキュベーションの温度及び時間とKODA生産量の関係について検証した。
【0113】
(参考例3~4、実施例7~20)
コンストラクト2(35S::cTP-LpLOX-mVenusN, 35S::cTP-LpAOS-mVenusC)を導入したタバコ葉から、KODAの精製を行い、新鮮重量あたりのKODA量を定量した。なお、タバコ葉の破砕液を懸濁した懸濁液は、図7に示す各温度(15、25、35又は45℃)にて、図7に示す時間(0、1、2又は3時間)インキュベーションした。
【0114】
結果を図7及び表1[表中の数値はKODA量(μg/gFW)means ± SD]に示す。
【0115】
【表1】
【0116】
図7及び表1に示される結果から、35℃にてインキュベーションした場合で、KODAの産生量が最も向上することが明らかとなった。この結果は、35℃が、他のインキュベーション温度よりもLOX及びAOSの活性の至適温度に近く、KODAの産生が向上したためと考えられる。更には、破砕により放出された細胞内の分解酵素の活性が高められたことにより、懸濁液内のKODAの原料となる遊離のα-リノレン酸の量が増加したことが考えられる。
また、図7及び表1に示される結果から、インキュベーション時間が長くなるほどKODAの産生量が向上することが明らかとなった。これは、細胞の破砕により得られた懸濁液内で、LOX及びAOSの働きにより、KODAが生産されていることを示唆している。
【0117】
[シロイヌナズナ形質転換体を用いたKODA生産]
<シロイヌナズナの生育条件>
シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)の野生株及び各種過剰発現体の種子を用いた。0.1% Tween20, 20% 次亜塩素酸ナトリウム溶液で滅菌処理し、滅菌水で5回すすいだ。滅菌後の種子を、1% スクロース, 0.8% INA Agar を含むMS培地に播種し、3日間遮光・4℃条件で春化処理を行った。その後、23℃、光強度23~45μmolm-2-1、連続光照射下で10日間生育させた。この植物サンプルを各解析に使用した。
【0118】
<アグロバクテリウムによる形質転換>
シロイヌナズナの形質転換は、花序浸し法により行った。形質転換対象のシロイヌナズナを、花芽が形成されるまで生育させた後、目的遺伝子を導入したアグロバクテリウム懸濁液に、花芽を3分間浸した。次いで、シロイヌナズナの花序をラップに包み、弱光下にて一晩静置した後、翌日から通常条件で生育させ、種子を回収した。薬剤入りのMS培地に種子を播種し、ベクター上の薬剤耐性遺伝子により形質転換体のスクリーニングを行い、目的の形質転換体を得た。
なお、アグロバクテリウム懸濁液には、上記の[タバコ葉一過的発現系を用いたKODA生産]の場合と同様、各遺伝子発現用ベクターのアグロバクテリウム懸濁液に、スクロースを終濃度50g/L(50 mg/mL)、SILWET L-77(Momentive Performance Material)500 μL/L(500 nL/mL)になるよう添加したものを用いた。
【0119】
<サンプリング及び新鮮重量の計測>
3日間の春化処理の後、連続光にて10日間生育させた個体の地上部を、はさみで切り取り、微量天秤を用いて新鮮重量を計測した。秤量後、すぐに液体窒素で凍結させた。凍結させたサンプルをKODA精製に使用した。
【0120】
<KODAの精製>
液体窒素で凍結させた植物サンプル3個体分を、乳鉢と乳棒で解凍しないよう素早く破砕し、破砕液を得た。破砕液に植物サンプル新鮮重量1 mgあたり250 μLの滅菌水を加えて懸濁した。懸濁液1 mLを1.5 mLエッペンドルフチューブに移し、25℃に保温したヒートブロックで1 hインキュベーションした。その後、卓上遠心機を用いて13,000 rpmで2 min遠心して、上澄み100 μLを採取した。この上澄みに2%(v/v)ギ酸含有メタノールを100 μLを加えてよく撹拌した。混合液は、酸化チタンおよび酸化ジルコニウム結合型シリカモノリスのスピンカラム(MonoSpin(登録商標) Phospholipid、ジーエルサイエンス株式会社)に滴下し、卓上遠心機を用いて5,000 rpmで2 min遠心し、ろ液を回収した。ろ液を、さらに0.22 μm親水性ポリビニリデンフルオライドのメンブレンフィルター(4 mm Millex(登録商標) Syringe Filters、Merck Millipore)でろ過した。得られた溶液を、KODAサンプルとし、これをLC-MS/MS解析に使用した。
【0121】
<KODA産生量の解析>
KODA生産量の解析は、上記の[タバコ葉一過的発現系を用いたKODA生産]と同様に行った。
【0122】
実験5.形質転換体におけるKODA生産性の確認
(実施例21)
上記で得たコンストラクト2(35S::cTP-LpLOX-mVenusN, 35S::cTP-LpAOS-mVenusC)が導入されたシロイヌナズナ形質転換体から、KODAの精製を行い、新鮮重量あたりのKODA量を定量した。なお、シロイヌナズナ地上部の破砕液を懸濁した懸濁液は、25℃で1時間インキュベーションした。
実施例21のシロイヌナズナ形質転換体は、ゲノムへの導入位置が異なると推定される2系統使用し、それぞれ実施例21-1、21-2とした。
【0123】
(比較例5)
遺伝子導入を行っていない野生株のシロイヌナズナから、KODAの精製を行い、新鮮重量あたりのKODA量を定量した。なお、シロイヌナズナ地上部の破砕液を懸濁した懸濁液は、25℃で1時間インキュベーションした。
【0124】
(比較例6)
上記のコンストラクト2に代えて、対照としてコンストラクト5(35S::mVenus)が導入されたシロイヌナズナ形質転換体から、KODAの精製を行い、新鮮重量あたりのKODA量を定量した。なお、シロイヌナズナ地上部の破砕液を懸濁した懸濁液は、25℃で1時間インキュベーションした。
【0125】
結果を図8~9及び表2(means ± SD)に示す。
【0126】
【表2】
【0127】
図8及び表2は、サンプリング対象とした地上部(3日間の春化処理の後、連続光にて10日間生育させた個体の地上部)の1個体あたりの新鮮重量を示す結果である。野生株と形質転換体とで、生育に大きな差はみられなかった。
【0128】
図9及び表2は、新鮮重量あたりのKODA量の定量結果である。アオウキクサSH株由来の高活性のLOX及びAOSを過剰発現させ葉緑体に移行させた実施例21で、良好なKODAの生産が確認された。
【0129】
各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本発明は各実施形態によって限定されることはなく、請求項(クレーム)の範囲によってのみ限定される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
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