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特開2022-114295クイック締結ナットおよびこれを用いた吊りボルト施工方法
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  • 特開-クイック締結ナットおよびこれを用いた吊りボルト施工方法 図1
  • 特開-クイック締結ナットおよびこれを用いた吊りボルト施工方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022114295
(43)【公開日】2022-08-05
(54)【発明の名称】クイック締結ナットおよびこれを用いた吊りボルト施工方法
(51)【国際特許分類】
   F16B 37/08 20060101AFI20220729BHJP
   F16B 1/00 20060101ALI20220729BHJP
   E04B 9/18 20060101ALI20220729BHJP
   E04B 5/40 20060101ALI20220729BHJP
   E04B 1/41 20060101ALI20220729BHJP
【FI】
F16B37/08 Z
F16B1/00 A
E04B9/18 D
E04B5/40 J
E04B1/41 502M
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021010539
(22)【出願日】2021-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】000167211
【氏名又は名称】イイファス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110766
【弁理士】
【氏名又は名称】佐川 慎悟
(74)【代理人】
【識別番号】100165515
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 清子
(74)【代理人】
【識別番号】100169340
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 陽輔
(74)【代理人】
【識別番号】100195682
【弁理士】
【氏名又は名称】江部 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100206623
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 智行
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 勝夫
【テーマコード(参考)】
2E125
【Fターム(参考)】
2E125AA02
2E125AA58
2E125AA59
2E125AB13
2E125AC18
2E125AD05
2E125AE13
2E125AG06
2E125AG12
2E125BA03
2E125BA22
2E125BB08
2E125BB29
2E125BB30
2E125BC06
2E125BD01
2E125BE08
2E125BF01
2E125CA04
2E125CA19
2E125EA33
(57)【要約】
【課題】 構造がシンプルでかつ高い強度を有し、締結作業の省力化に寄与し得るクイック締結ナットおよびこれを用いた吊りボルト施工方法を提供する。
【解決手段】 ボルト10を挿通可能な挿通孔21を有するナット本体2と、ナット本体2の外側面23から挿通孔21まで貫通され、かつ軸方向いずれか一方向に傾斜されている複数の傾斜孔3と、各傾斜孔3に沿って摺動可能に嵌め入れられているとともに内側先端面にボルト10と螺合可能な雌ネジ41が形成されているネジコマ4と、傾斜孔3に嵌入されている各ネジコマ4を軸心方向に付勢する付勢部材5とを有する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボルトを挿通可能な挿通孔を有するナット本体と、
前記ナット本体の外側面から前記挿通孔まで貫通され、かつ軸方向いずれか一方向に傾斜されている複数の傾斜孔と、
前記各傾斜孔に沿って摺動可能に嵌め入れられているとともに内側先端面に前記ボルトと螺合可能な雌ネジが形成されているネジコマと、
前記傾斜孔に嵌入されている前記各ネジコマを軸心方向に付勢する付勢部材と
を有する、クイック締結ナット。
【請求項2】
前記ナット本体において、前記ボルトが挿入される側の端部とは反対側の端部に他のボルトを螺合可能な雌ネジ孔を有する雌ネジ部が形成されている、請求項1に記載のクイック締結ナット。
【請求項3】
請求項2に記載されたクイック締結ナットを用いてデッキプレートに吊りボルトを取り付ける吊りボルト施工方法であって、
雄ネジ付きインサートをデッキプレートの上方から下方に向けて締結するインサート締結工程と、
前記クイック締結ナットの雌ネジ部に吊りボルトを螺合させて締結する吊りボルト締結工程と、
前記吊りボルトを締結した前記クイック締結ナットの挿通孔に前記デッキプレートから突き出た前記雄ネジ付きインサートの雄ネジ部を差し込んで前記デッキプレートに前記吊りボルトを取り付ける吊りボルト取付工程と
を有する、吊りボルト施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転操作せずにボルトに押し込んで締付位置に素早く配置することのできるクイック締結ナットおよびこれを用いた吊りボルト施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ナットは、内周面に雌ネジが形成されており、ボルトに螺合して被締結物などを締結するものである。一般的なナットは、回転操作によりボルトに螺進させて締結位置まで移動させる必要がある。よって、ボルト端部から締結位置までの距離が長い場合には、締結に時間がかかるといった問題がある。
【0003】
このような問題に対し、従来、回転操作せずにボルトの締結位置まで挿入することができるナット(いわゆる「クイック締結ナット」)が実用化されている。例えば、実公昭55-48171号公報(実用新案登録第1397975号)には、ナットが分離したセグメントに分割され、これらナットセグメントがケーシングのテーパ孔内を案内されて拡縮するようにしたものにおいて、ケーシングのテーパ孔はボルトが貫通できるように下端の狭い方の端口に挿入口、上端の広い方の端口に挿通口を有し、ナットセグメントは、テーパ孔に設けた複数の摺動案内爪間に回動を阻止されて上下方向に摺動可能に収納され、単一の押圧バネにより常時テーパ孔の狭い方に圧着されていることを特徴とするナットが提案されている(特許文献1)。この特許文献1によれば、ナットをボルトの先端より定着位置の近傍までの長い道中を単に押圧するのみで挿入できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実公昭55-48171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された発明においては、ナットセグメントがテーパ孔内において軸方向に沿って上下方向にのみ摺動可能に納められており、各ナットセグメントの雌ネジを連続させるためには各ナットセグメントにおける雌ネジ面をそれぞれの配置箇所に合わせて異なる形状にしなければならず、部品加工および製品組み立てが難しく、製造コストが高いという問題がある。仮に同じ雌ネジ面を有するナットセグメントを用いると、各ナットセグメントがボルトと螺合する位置で上下差が生じるため、ボルトにかかる荷重を均等に受け止められないという問題がある。
【0006】
一方、軽量天井用・設備用の吊りボルトを施工する際にも解決すべき課題が存在している。天井を構成するデッキプレートに吊りボルトを取り付ける作業では、従来、雌ネジタイプのインサートを取り付け、当該インサートに吊りボルトを取り付けることが主流となっている。しかし、雌ネジタイプのインサートは、デッキプレートに下穴を開ける工程と、雌ネジタイプのインサートを取り付ける工程の2工程が必要である。これに対し、本件出願人は、デッキプレートの穴開けと締結を一工程で行えるドリルを備えた雄ネジ付きインサートを開発し特許権を得ている(特許第2809584号)。ここで、吊りボルトは、雄ネジ付きインサートに高ナット(長ナット)を介して一本ずつ締結されるが、場合によっては一物件に対して数万個の吊りボルトの締結作業が必要であり、作業者が高齢化していることもあって、吊りボルトの取り付け作業の省力化を可能とするナットの開発が課題として残っている。
【0007】
本発明は、以上のような問題点や課題を解決するためになされたものであって、構造がシンプルなため部品加工および製品組み立てが容易となり、かつ機能性に優れ、締結作業の省力化を図ることができるクイック締結ナットおよびこれを用いた吊りボルト施工方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るクイック締結ナットは、構造がシンプルかつ機能性に優れ、部品加工および製品組み立てを容易にするという課題を解決するために、ボルトを挿通可能な挿通孔を有するナット本体と、前記ナット本体の外側面から前記挿通孔まで貫通され、かつ軸方向いずれか一方向に傾斜されている複数の傾斜孔と、前記各傾斜孔に沿って摺動可能に嵌め入れられているとともに内側先端面に前記ボルトと螺合可能な雌ネジが形成されているネジコマと、前記傾斜孔に嵌入されている前記各ネジコマを軸心方向に付勢する付勢部材とを有する。
【0009】
また、本発明の一態様として、クイック締結ナットをデッキプレートに設けられた雄ネジ付きインサートに吊りボルトを連結するため等に用いる高ナット(長ナット)として使用できるようにするという課題を解決するために、前記ナット本体において、前記ボルトが挿入される側の端部とは反対側の端部に他のボルトを螺合可能な雌ネジ孔を有する雌ネジ部が形成されていてもよい。
【0010】
本発明に係る吊りボルト施工方法は、デッキプレートに吊りボルトを取り付ける作業の省力化を図るという課題を解決するために、雌ネジ部を有する前記クイック締結ナットを用いてデッキプレートに吊りボルトを取り付ける吊りボルト施工方法であって、雄ネジ付きインサートをデッキプレートの上方から下方に向けて締結するインサート締結工程と、前記クイック締結ナットの雌ネジ部に吊りボルトを螺合させて締結する吊りボルト締結工程と、前記吊りボルトを締結した前記クイック締結ナットの挿通孔に前記デッキプレートから突き出た前記雄ネジ付きインサートの雄ネジ部を差し込んで前記デッキプレートに前記吊りボルトを取り付ける吊りボルト取付工程とを有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、構造がシンプルなため部品加工および製品組み立てが容易となり、かつ機能性に優れ、締結作業の省力化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係るクイック締結ナットの第一実施形態を示す(a)正面図、(b)右側面図、(c)縦断面図、(d)一部断面斜視図および(e)締結状態を示す図である。
図2】本発明に係るクイック締結ナットの第二実施形態を示す(a)正面図、(b)右側面図、(c)縦断面図、(d)一部断面斜視図および(e)~(f)吊りボルト施工方法において、雄ネジ付きインサートに吊りボルトを取り付ける工程および締結状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係るクイック締結ナットの第一実施形態について図面を用いて説明する。
【0014】
本第一実施形態におけるクイック締結ナット1は、図1に示すように、ボルト10を挿通可能な挿通孔21を有するナット本体2、このナット本体2に貫通して形成される複数の傾斜孔3と、この傾斜孔3に嵌め入れられるネジコマ4と、このネジコマ4を軸心方向に付勢する付勢部材5とを有する。以下、各構成について説明する。
【0015】
ナット本体2は、一般的なナットと同様にレンチやスパナなどの回転工具から回転力を受けるものであり、本第一実施形態では、外周面23が六角形状に形成されている。このナット本体2は、締結対象となるボルト10を挿通可能な内周径を有する挿通孔21が軸心を貫通するように形成されている。つまり挿通孔21は、内周面に雌ネジが形成されていないネジの無い孔(ネジ無し孔)として構成されている。また、ナット本体2の外周面23には、巻回させた付勢部材5を収容可能な深さおよび上下幅を備えた凹状の巻回溝22が形成されている。
【0016】
傾斜孔3は、ネジコマ4を摺動可能に嵌め入れるための孔であり、軸方向のいずれか一方に傾斜した状態でナット本体2の外周面23から軸心に向かって挿通孔21まで貫通している。具体的には、図1(c)および図1(d)に示すように、ナット本体2の外周面23から挿通孔21に向かって下り傾斜となるように形成されており、下端部側からボルト10が挿入されるようになっている。傾斜孔3の傾斜角度は限定されるものではないが、本第一実施形態では、ボルト10のネジ山の角度と同程度の角度であって、ナット本体2の上下の端面に対して約30度(ナット本体2の外周面23に対して約60度)の角度を有するように形成されている。
【0017】
また、1つのナット本体2に対して複数の傾斜孔3が設けられている。このとき傾斜孔3同士は円周方向に等間隔で配置されていることが望ましく、本第一実施形態では、1つのナット本体2に対して軸対称となる位置に2つの傾斜孔3,3が形成されている。具体的には、ナット本体2の外周面23から挿通孔21までの厚さが最も厚い六角形状のナット本体2の角部に形成されている。また、本第一実施形態では、前記一対の傾斜孔3,3が、図1(c)に示すように、前記雌ネジ41の1/2ピッチに相当する高さ分、上下にずらして形成されている。但し、一対の傾斜孔3,3の形成位置は、これらに限定されるものではなく、角部ではなく外周面位置に形成されていてもよいし、適度な範囲で上下差ないし同一高さに形成されてもよい。また、傾斜孔3の数は2つが好ましいが、2つに限定されるものではなく、ナット本体2の大きさに応じて3つ以上を形成してもよい。
【0018】
複数のネジコマ4は、図1(c)および図1(d)に示すように、同一形状に形成されており、ボルト10に締結する雌ネジ41として機能するものであり、各傾斜孔3に沿って摺動可能に嵌め入れられている。ネジコマ4の内側先端面にはボルト10と螺合可能な雌ネジ41が形成されており、付勢部材5の付勢力によって雌ネジ41がナット本体2の挿通孔21の内周面より内側に突出することでボルト10に螺合する。また、ネジコマ4の内側先端面は、図1(c)に示すように、丸みを帯びた湾曲状に膨出されており、ボルト10の端部で押された際に互いの当接面が摺動しやすくなっている。
【0019】
また、ネジコマ4の外側後端面には、ナット本体2の外周面23の巻回溝22と連続するように形成されたコマ側巻回溝42が形成されている。これによりネジコマ4を傾斜孔3に嵌め入れると、ナット本体2の外周面23および各ネジコマ4の外側後端面に、付勢部材5を巻回させるための巻回溝22,42が連続して周回する状態に構成される。さらに、本第一実施形態におけるコマ側巻回溝42は、付勢部材5の上下幅に雌ネジ41の1/2ピッチに相当する幅以上を加えた大きさに形成されている。これにより、後述するように付勢部材5がネジコマ4の傾斜孔3に沿って摺動する動作を妨げず、かつ複数のネジコマ4同士の雌ネジ41が連続するよう自動的に調整されるようにしている。
【0020】
付勢部材5は、傾斜孔3に嵌入されている各ネジコマ4をボルト10に螺合させるために軸心方向に付勢するものであり、図1に示すように、ナット本体2の外周面23に形成された巻回溝22および各ネジコマ4の外側後端面に形成されたコイル側巻回溝42に嵌め入れられている。本第一実施形態における付勢部材5は、鋼線を2周程度コイル状に巻いて形成した弦巻バネにより構成されている。なお、付勢部材5は、弦巻バネに限定されるものではなく、C形に形成された鋼線やゴムバンドなど、ネジコマ4を軸心方向に付勢可能な弾性部材から適宜選択することができる。
【0021】
次に、本第一実施形態のクイック締結ナット1における各構成の作用について、図1(e)に示すように、ボルト10を備えた締結物100に被締結物200を締結する工程とともに説明する。
【0022】
被締結物200を挿通させたボルト10にクイック締結ナット1を挿入する。具体的には、ボルト10に下端部側からナット本体2の挿通孔21を挿入する。各ネジコマ4は、図1(c)に示すように、付勢部材5による軸心方向への付勢により挿通孔21よりも内側に突出している。よって、各ネジコマ4は、当接するボルト10の先端によって挿入方向(図1(e)における上方向)に押される。このとき、各ネジコマ4の内側先端面が湾曲状に膨出されているためボルト10に押されて摺動しやすく、かつ、傾斜孔3は挿通孔21からナット本体2の外側面23に向かって上方向に傾斜しており、各ネジコマ4が押される上方向とが一致している。よってボルト10によって押される力は、各ネジコマ4を傾斜孔3に沿って斜め上方向(外側方向)に押す力として伝達される。
【0023】
各ネジコマ4を押す力が付勢部材5によって軸心方向への付勢力よりも強くなると、各ネジコマ4は傾斜孔3に沿って外方向(斜め上方向)に摺動する。このとき各ネジコマ4の摺動により、コマ側巻回溝42の位置が上下方向に移動するが、前記コマ側巻回溝42の上下幅が付勢部材5の上下幅に雌ネジ41の1/2ピッチに相当する幅以上を加えた大きさに形成されているために、ネジコマ4の上下動する隙間を確保し付勢部材5により妨げられることがない。
【0024】
各ネジコマ4の内側先端面同士の間隔がボルト10の直径より大きく広げられると、ボルト10の奥まで挿入することができる。これによりクイック締結ナット1を回転させることなく締結位置まで素早く配置することができる。
【0025】
締結位置に配置されたクイック締結ナット1では、各ネジコマ4の内側先端面に形成された雌ネジ41は、付勢部材5によってボルト10側に押し付けられて螺合する。本第一実施形態のように各ネジコマ4が同一形状であっても、コマ側巻回溝42が、上下動できる十分な上下幅を有しているため、ボルト10側の雄ネジに応じて雌ネジ41が連続するように各ネジコマ4の上下位置が自動的に調整される。また、一対の傾斜孔3,3が雌ネジ41の1/2ピッチに相当する高さ分、上下にずらして形成されていて連続した雌ネジ41を構成しやすい。
【0026】
雌ネジ41がボルト10に螺合した状態でナット本体2を回転工具により締め付け方向に回転させると、クイック締結ナット1は被締結物200の方向に螺進し、ナット本体2の下端面は被締結物200側に押し付けられる。このときボルト10はナット本体2の押し付ける力の反力によって、各ネジコマ4を下方(螺進方向)に引き寄せる力を発揮する。各ネジコマ4は、下方に引き寄せる力により、傾斜孔3に沿って内方向(斜め下方向)への力となる。よって、付勢部材5による軸心方向の付勢力とともに各ネジコマ4が引き寄せられる力によって、各ネジコマ4の雌ネジ41がボルト10に螺合した状態が保たれ、クイック締結ナット1を前記ボルト10に沿って螺進させ、被締結物200を締結物100に締結することができる。また、本第一実施形態における各ネジコマ4は、同一形状に形成されており、ボルトに対して等しい接地面積で螺合するため、締結力やボルトにかかる荷重を均等に受けることができる。
【0027】
締結後のクイック締結ナット1を締め付け方向とは逆方向に回転させることで緩めることができる。各ネジコマ4は、付勢部材5による軸心方向の付勢力よってボルト10に螺合されているため、さらに回転させて螺進させることでボルト10から取り外すことができる。
【0028】
以上のような本第一実施形態のクイック締結ナット1によれば、以下の効果を奏することができる。
1.挿通孔21に挿入されたボルト10によって押された各ネジコマ4が外方向に摺動、待避して前記ボルト10を挿通させる隙間を形成するため、回転操作させずにクイック締結ナット1を所望の締結位置に簡単かつ素早く配置することができる。
2.付勢部材5に軸心方向への付勢力と、ボルト10による各ネジコマ4を軸心方向に引き寄せる力によって、雌ネジ41がボルト10に螺合した状態を保つことができ、被締結物200を強固に締結させることができる。
3.付勢部材5を巻回溝22に収容させることにより、スパナなどの一般的な回転工具によって締結作業を行うことができる。
4.傾斜孔3にネジコマ4を嵌め入れ、付勢部材5を巻回させるだけのシンプルな構造であって簡単に組み立てることができる。
5.コマ側巻回溝42の上下幅が大きく形成されているため、各ネジコマ4の上下位置を自動的に調整してボルト10と螺合させることができる。
【0029】
次に、本発明に係るクイック締結ナットの第二実施形態およびこれを用いた吊りボルト施工方法について図面を用いて説明する。なお、前述した第一実施形態で説明した構成と同一または相当する構成については同一の符号を付して再度の説明を省略する。
【0030】
本第二実施形態におけるクイック締結ナット1は、図2に示すように、ナット本体2が軸方向に長く形成された高ナット状(長ナット状)に形成されているとともに、ボルト10が挿入される側の端部とは反対側の端部に雌ネジ部6が形成されている。
【0031】
具体的には、ナット本体2の挿通孔21が、上方側に形成されている。また傾斜孔3は、図2(c)に示すように、ナット本体2の外周面23から挿通孔21に向かって上り傾斜となるように形成されており、上端部側からボルト10が挿入されるようになっている。
【0032】
雌ネジ部6は、ナット本体2の下端部側に形成されており、他のボルト(本第二実施形態では吊りボルト400)を螺合可能な雌ネジ孔61を有している。本第二実施形態における雌ネジ部6の外周面は、挿通孔21が設けられている上端側のナット本体2の外周面23より一回り小さい六角形状に形成されている。また、雌ネジ部6の雌ネジ孔61は、各ネジコマ4により構成される雌ネジ41と同径の雌ネジ孔61により形成されている。
【0033】
次に、本第二実施形態のクイック締結ナット1を用いてデッキプレート300に吊りボルト400を取り付ける吊りボルト施工方法について説明する。
【0034】
吊りボルト施工方法は、図2(e)~(g)に示すように、雄ネジ付きインサート7をデッキプレート300に締結するインサート締結工程と、クイック締結ナット1に吊りボルト400を締結する吊りボルト締結工程と、吊りボルト400を締結したクイック締結ナット1を雄ネジ付きインサート7の雄ネジ部71に取り付ける吊りボルト取付工程とを有する。以下、各工程について説明する。
【0035】
インサート締結工程は、雄ネジ付きインサート7をデッキプレート300に上方から下方に向けて締結する工程である。本第二実施形態では、図2(e)の上図に示すように、雄ネジ部71の先端にドリル72を備えた雄ネジ付きインサート7を用いており、穴開けから締結まで一工程で行える。これによりクイック締結ナット1を螺合させるインサートの雄ネジ部71がデッキプレート300の下方に突出して配置される。
【0036】
吊りボルト締結工程は、クイック締結ナット1に吊りボルト400を締結する工程であり、本第二実施形態では、図2(e)の下図に示すように、クイック締結ナット1の雌ネジ部6に形成された雌ネジ孔61に、下端側から吊りボルト400を締結する。
【0037】
吊りボルト取付工程は、吊りボルト400を締結したクイック締結ナット1を雄ネジ付きインサート7に取り付ける工程であり、本第二実施形態では、図2(e)~(g)に示すように、ナット本体2の上端側の挿通孔21にデッキプレート300に締結された雄ネジ付きインサート7の雄ネジ部71を差し込む。各ネジコマ4は、雄ネジ付きインサート7の雄ネジ部71によって押され、傾斜孔3に沿って外方向(斜め下方向)に摺動する。これにより、クイック締結ナット1は、前記雄ネジ部71の奥まで挿入され、取り付け位置まで簡単かつ素早く配置することができる。
【0038】
また、各ネジコマ4の内側先端面に形成された雌ネジ41が、雄ネジ付きインサート7の雄ネジ部71に螺合する。よって、回転工具などによりナット本体2を回転させてデッキプレート300側に螺進させることで、吊りボルト400を締結したクイック締結ナット1をデッキプレート300に締結させることができる。
【0039】
以上のように、本第二実施形態のクイック締結ナット1およびこれを用いた吊りボルト施工方法によれば、前記クイック締結ナット1を雄ネジ付きインサート7の雄ネジ部71の締結位置に極めて迅速かつ簡単に配置することができる。よって、前記クイック締結ナット1に予め吊りボルト400を締結させておくことで、デッキプレート300に膨大な数の吊りボルト400を取り付ける施工作業が極めて省力化することができる。
【0040】
なお、本発明に係るクイック締結ナットおよびこれを用いた吊りボルト施工方法は、前述した各実施形態に限定されるものではなく、適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0041】
1 クイック締結ナット
2 ナット本体
3 傾斜孔
4 ネジコマ
5 付勢部材
6 雌ネジ部
7 雄ネジ付きインサート
10 ボルト
21 挿通孔
22 巻回溝
23 外周面
41 雌ネジ
42 コマ側巻回溝
61 雌ネジ孔
71 雄ネジ部
72 ドリル
100 締結物
200 被締結物
300 デッキプレート
400 吊りボルト
図1
図2