IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社コシナの特許一覧

<>
  • 特開-撮像レンズ 図1
  • 特開-撮像レンズ 図2
  • 特開-撮像レンズ 図3
  • 特開-撮像レンズ 図4
  • 特開-撮像レンズ 図5
  • 特開-撮像レンズ 図6
  • 特開-撮像レンズ 図7
  • 特開-撮像レンズ 図8
  • 特開-撮像レンズ 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022114327
(43)【公開日】2022-08-05
(54)【発明の名称】撮像レンズ
(51)【国際特許分類】
   G02B 13/20 20060101AFI20220729BHJP
   G02B 7/02 20210101ALI20220729BHJP
【FI】
G02B13/20
G02B7/02 C
G02B7/02 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021010585
(22)【出願日】2021-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】391044915
【氏名又は名称】株式会社コシナ
(74)【代理人】
【識別番号】100088579
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 茂
(72)【発明者】
【氏名】大久保 紀
(72)【発明者】
【氏名】今井 裕章
【テーマコード(参考)】
2H044
2H087
【Fターム(参考)】
2H044AC04
2H044AG00
2H087KA02
2H087KA03
2H087LA01
2H087MA03
2H087NA01
2H087PA03
2H087PA20
2H087PB06
2H087QA02
2H087QA07
2H087QA14
2H087QA22
2H087QA25
2H087QA34
2H087QA42
2H087QA46
2H087RA32
2H087RA37
2H087RA44
(57)【要約】
【課題】 収差の可変機能を備える場合でも、小型コンパクト化,低コスト化及び高精度化を実現するとともに、通常撮影レンズ機能及びソフトフォーカスレンズ機能を容易に実現して多様性や趣味性を高める。
【解決手段】 レンズ鏡筒2の前端部2fに光軸Dc方向へ変位可能に配し、かつ入射光Cを一定量に制限する光量制限開口部3hを有する絞り筒3と、レンズ鏡筒2の前端部2fに、外部から操作可能、かつ周方向Fcへのみ回動可能に配設した絞り筒調整リング4と、絞り筒調整リング4の回動変位を、絞り筒3の光軸Dc方向への進退変位に変換する運動変換機構5と、絞り筒3を、最も物体OBJ側へ変位させた第一位置P1で収差を最小にし、第一位置P1からレンズL1…側に近接する第二位置P2まで変位させることにより収差を増加させる変位範囲規制部6とを有してなる収差調整機構部Mを設ける。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズ鏡筒の内部に複数のレンズを配してなる撮像レンズにおいて、前記レンズ鏡筒の前端部の内周部に光軸方向へ変位可能に配し、かつ入射光を一定量に制限する光量制限開口部を有する絞り筒と、前記レンズ鏡筒の前端部に、外部から操作可能、かつ周方向へのみ回動可能に配設した絞り筒調整リングと、この絞り筒調整リングの回動変位を、前記絞り筒の光軸方向への進退変位に変換する運動変換機構と、前記絞り筒を、最も物体側へ変位させた第一位置で収差を最小にし、かつ前記第一位置からレンズ側に近接する第二位置まで変位させることにより収差を増加させる変位範囲規制部とを有してなる収差調整機構部を備えることを特徴とする撮像レンズ。
【請求項2】
前記収差調整機構部は、前記絞り筒及び前記絞り筒調整リングを、前記レンズ鏡筒における固定筒に配することを特徴とする請求項1記載の撮像レンズ。
【請求項3】
前記運動変換機構は、前記絞り筒の周方向への回動変位を規制する周方向規制部と、前記絞り筒調整リングの内周面に形成した雌ネジ部及びこの雌ネジ部に螺合する前記絞り筒の外周面に形成した雄ネジ部からなる螺子係合部とを備えることを特徴とする請求項1記載の撮像レンズ。
【請求項4】
前記変位範囲規制部は、前記絞り筒調整リングの回動変位範囲を規制する周方向変位規制部により構成することを特徴とする請求項1記載の撮像レンズ。
【請求項5】
前記複数のレンズは、物体側から像側へ、両凸レンズと両凹レンズを接合した第一接合レンズ、正メニスカスレンズと両凹レンズを接合した第二接合レンズ、負メニスカスレンズと両凸レンズを接合した第三接合レンズを備えることを特徴とする請求項1記載の撮像レンズ。
【請求項6】
前記第一接合レンズと前記第二接合レンズ間に、開口絞りを配することを特徴とする請求項5記載の撮像レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタルスチルカメラ等に使用する交換レンズとして用いて好適な撮像レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シャープな描写を行う通常撮像レンズとソフトフォーカス描写が可能なソフトフォーカスレンズは知られており、この種のソフトフォーカスレンズとしては、既に本出願人が提案した特許文献1に記載されるソフトフォーカスレンズが知られている。このソフトフォーカスレンズは、通常撮像レンズとソフトフォーカスレンズの光学要素を共通化して、設計及び製造等に伴うコストの大幅な削減を図るとともに、レンズ性能を確保し、かつ高品位ソフトフォーカス描写が得られるようにしたことを目的としたものであり、具体的には、正屈折力の第一レンズ群及び正屈折力の第二レンズ群を前後に配した通常撮影レンズの光学系に対して、一つのソフトフォーカス形成レンズを追加又は置換することにより、光学系全体の球面収差が、開放F値の三倍以上の絞り領域で所定の収差以下となり、かつ開放で所定の収差以上となるように設定したものである。
【0003】
また、ソフトフォーカスレンズのソフトフォーカス効果を可変、即ち、収差を可変できるようにしたいわゆるバリアブルソフトフォーカスレンズも知られており、この種のレンズとしては、特許文献2に記載される収差可変光学系が知られている。この収差可変光学系は、十分大きな画角を有し、シャープな画質状態を挟んで球面収差を負の値から正の値まで連続的に変化させることができる収差可変光学系の提供を目的としたものであり、具体的には、正屈折力の第1部分レンズ群と、負屈折力の第2部分レンズ群と、正屈折力の第3部分レンズ群とを有するマスターレンズ群を備えるとともに、正レンズ成分と負レンズ成分とを有するコンバータレンズ群を備え、正レンズ成分と負レンズ成分との軸上空気間隔を変化させることにより主に球面収差を変化させることができるようにし、Fmを無限遠合焦状態におけるマスターレンズ群の焦点距離,Fcを無限遠合焦状態でかつ球面収差の発生量が最も少ないレンズ位置状態におけるコンバータレンズ群の焦点距離としたとき、-1<Fm/Fc<0になるように設定したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-301883号公報
【特許文献2】特開平10-68879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した特許文献2に記載のレンズをはじめ、従来におけるバリアブルソフトフォーカスレンズは、次のような難点があった。
【0006】
即ち、収差の可変は、レンズ鏡筒の内部における特定のレンズ又はレンズ群を移動させて行うため、レンズ群等を移動させる構造が煩雑になる。特に、レンズ又はレンズ群を移動させてフォーカス調整を行うフォーカス調整機構などの他の調整機構に干渉する虞れがあり、光学系の複雑化及び大型化、更には精度の低下を招きやすい。
【0007】
したがって、スペース的にある程度の余裕があるレンズ鏡筒の場合には可能であるとしても、小型コンパクト化を目的とした撮像レンズに適用する場合、小型コンパクト化の大きな支障となり、目標とする小型コンパクト化を実現するには限界がある。しかも、ある程度の小型コンパクト化を実現したとしてもコストアップが無視できないとともに、収差に対する十分な可変調整を容易かつスムースに行うことができないなど、レンズの光学性能やソフトフォーカス性能、更には収差に対する十分な可変を行うことができず、多様性や趣味性を確保する観点からも十分な効果を得にくい。
本発明は、このような背景技術に存在する課題を解決した撮像レンズの提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述した課題を解決するため、レンズ鏡筒2の内部に複数のレンズL1,L2…を配してなる撮像レンズ1を構成するに際して、レンズ鏡筒2の前端部2fの内周部2fiに光軸Dc方向へ変位可能に配し、かつ入射光Cを一定量に制限する光量制限開口部3hを有する絞り筒3と、レンズ鏡筒2の前端部2fに、外部から操作可能、かつ周方向Fcへのみ回動可能に配設した絞り筒調整リング4と、この絞り筒調整リング4の回動変位を、絞り筒3の光軸Dc方向への進退変位に変換する運動変換機構5と、絞り筒3を、最も物体OBJ側へ変位させた第一位置P1で収差を最小にし、かつ第一位置P1からレンズL1…側に近接する第二位置P2まで変位させることにより収差を増加させる変位範囲規制部6とを有してなる収差調整機構部Mを備えることを特徴とする。
【0009】
この場合、発明の好適な態様により、収差調整機構部Mは、絞り筒3及び絞り筒調整リング4を、レンズ鏡筒2における固定筒11に配して構成することができる。また、運動変換機構5は、絞り筒3の周方向Fcへの回動変位を規制する周方向規制部12と、絞り筒調整リング4の内周面に形成した雌ネジ部13n及びこの雌ネジ部13nに螺合する絞り筒3の外周面に形成した雄ネジ部13sからなる螺子係合部13とを備えて構成できるとともに、変位範囲規制部6は、絞り筒調整リング4の回動変位範囲Zrを規制する周方向変位規制部14により構成することができる。一方、複数のレンズL1,L2…は、物体OBJ側から像IMG側へ、両凸レンズL1と両凹レンズL2を接合した第一接合レンズJ1、正メニスカスレンズL3と両凹レンズL4を接合した第二接合レンズJ2、負メニスカスレンズL5と両凸レンズL6を接合した第三接合レンズJ3を備えて構成できるとともに、第一接合レンズJ1と第二接合レンズJ2間に、開口絞りSTOを配することができる。
【発明の効果】
【0010】
このような構成を有する本発明に係る撮像レンズ1によれば、次のような顕著な効果を奏する。
【0011】
(1) 絞り筒調整リング4を回動操作し、レンズ鏡筒2の前端部2fに配した絞り筒3を光軸Dc方向へ進退変位させるようにしたため、撮像レンズ1に対する入射光Cの周辺側のカット量を絞り筒3の光軸Dc方向の位置に応じて可変することができる。したがって、レンズ鏡筒2の内部における本来の光学系の構成を変更しないため、収差(フレア)の可変機能を備えた撮像レンズ1を構築する場合であっても、大型化したり複雑化する弊害を極力回避でき、撮像レンズ1の小型コンパクト化及び低コスト化、更には高精度化を実現することができる。
【0012】
(2) レンズ鏡筒2の前端部2fに設けた絞り筒3を、最も物体OBJ側へ変位させた第一位置P1で収差を最小にし、かつ第一位置P1からレンズL1…側に近接する第二位置P2まで変位させることにより収差を増加させる収差の可変機能を備えるため、シャープな描写を行う通常撮影レンズ機能と収差に対する可変調整を容易かつスムースに行うことができるソフトフォーカス機能(ボカシ機能)を容易に実現可能となり、多様性や趣味性を高めることができる。
【0013】
(3) 好適な態様により、収差調整機構部Mに備える絞り筒3及び絞り筒調整リング4を、レンズ鏡筒2における固定筒11に配して構成すれば、撮影シーンで被写体を捕らえている状態であっても安定した調整操作を行うことができるため、シャッタチャンスを逃すことなく最適な撮影を行うことができる。
【0014】
(4) 好適な態様により、運動変換機構5を、絞り筒3の周方向Fcへの回動変位を規制する周方向規制部12と、絞り筒調整リング4の内周面に形成した雌ネジ部13n及びこの雌ネジ部13nに螺合する絞り筒3の外周面に形成した雄ネジ部13sからなる螺子係合部13とを備えて構成すれば、最もシンプルな運動変換機構5として構成できるため、小型化及び低コスト化を図る観点から最適な形態として実施できる。
【0015】
(5) 好適な態様により、変位範囲規制部6を、絞り筒調整リング4の回動変位範囲Zrを規制する周方向変位規制部14により構成すれば、変位範囲規制部6を設ける位置を最も操作側に選定できるため、衝撃的な荒い調整操作等を行った場合であっても、絞り筒3への悪影響を最小限に抑えることができる。これにより、調整位置を安定に保持可能となり、撮影画質の向上及び安定化に寄与できる。
【0016】
(6) 好適な態様により、複数のレンズL1,L2…として、物体OBJ側から像IMG側へ、両凸レンズL1と両凹レンズL2を接合した第一接合レンズJ1、正メニスカスレンズL3と両凹レンズL4を接合した第二接合レンズJ2、負メニスカスレンズL5と両凸レンズL6を接合した第三接合レンズJ3を備えて構成すれば、単レンズを含まない三組の接合レンズJ1,J2,J3のみで全光学系を構築できるため、収差の可変機能を有する撮像レンズ1の更なる小型コンパクト化を図ることができる。
【0017】
(7) 好適な態様により、第一接合レンズJ1と第二接合レンズJ2間に、開口絞りSTOを配すれば、通常の絞り機能を有する第一の開口絞りSTOと絞り筒3を光軸Dc方向へ変位させる第二の絞り機能を組合わせることができるため、ソフトフォーカス撮影を含めた多彩な撮影を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の好適実施形態に係る撮像レンズの円A部の抽出拡大図を含む要部の断面側面図、
図2図1中の円B部の抽出拡大図、
図3】同撮像レンズの要部の機能を説明するための断面側面図、
図4】同撮像レンズの要部における図1中Ax-Ax断面及び図2中Bx-Bx断面を一部に含む正面図、
図5】同撮像レンズの原理構成図、
図6】同撮像レンズにおけるレンズ全系のレンズデータ、
図7】同撮像レンズの諸元データ、
図8】同撮像レンズにおける絞り筒を第一位置にセッティングしたときの無限遠時の横収差図、
図9】同撮像レンズにおける絞り筒を第二位置にセッティングしたときの無限遠時の横収差図、
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明に係る好適実施形態を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
【0020】
最初に、本実施形態に係る撮像レンズ1の基本構成について、図1図5及び図6を参照して説明する。
【0021】
図1中、1は撮像レンズ1の断面側面図であり、本発明の要部を含む撮像レンズ1の前半部を実線で示すとともに、他の部位となる後半部を仮想線で示している。例示の撮像レンズ1は、デジタルスチルカメラに用いることができる交換レンズである。なお、図1中、矢印Ffが撮像レンズ1の前方(物体OBJ側)となる。
【0022】
撮像レンズ1は、レンズ鏡筒2を備え、11はレンズ鏡筒2における固定筒を示す。この固定筒11は、前端に、フードやフィルタ等のカメラアクセサリが着脱するアクセサリ装着部21を備えるとともに、後端に、カメラ側のマウントに装着(着脱)するレンズ側マウント部22を備える。また、固定筒11の外周部には、仮想線で示すフォーカス調整リング23を備えるとともに、このフォーカス調整リング23の前側に絞り調整リング24を備える。フォーカス調整リング23の回動操作により、フォーカシング調整を行うことができるとともに、絞り調整リング24の回動操作により、レンズ鏡筒2の内部に備える開口絞りSTOの絞り調整を行うことができる。一方、レンズ鏡筒2(固定筒11)の内部には、レンズ保持部25,26,27により保持された複数のレンズL1,L2…が配される。
【0023】
図5は、本実施形態に係る撮像レンズ1におけるレンズ全系100の構成を示すとともに、図6及び図7に、レンズ全系100のレンズデータ及び諸元データを示す。
【0024】
レンズ全系100は、物体OBJ側から像IMG側へ、両凸レンズL1と両凹レンズL2を接合した第一接合レンズJ1、像IMG側が凸に湾曲した正メニスカスレンズL3と両凹レンズL4を接合した第二接合レンズJ2、物体OBJ側が凸に湾曲した負メニスカスレンズL5と両凸レンズL6を接合した第三接合レンズJ3を備える。レンズ全系100を、このように構成すれば、単レンズを含まない三組の接合レンズJ1,J2,J3のみで全光学系を構築できるため、収差の可変機能を有する撮像レンズ1の更なる小型コンパクト化を図ることができる。そして、上述した開口絞りSTOは、第一接合レンズJ1と第二接合レンズJ2間に配設される。図5中、Dcは光軸を示し、矢印Ffが前側(物体OBJ側)となる。
【0025】
また、図6に示すレンズデータにおいて、物体OBJ側から数えたレンズ面の面番号をiで示し、図5に示した符号(数字)に一致する。これに対応して、レンズ面の曲率半径R(i)、軸上面間隔D(i)、レンズの屈折率nd(i)、レンズのアッベ数νd(i)をそれぞれ示す。nd(i)及びνd(i)はd線(587.6〔nm〕)に対する数値である。軸上面間隔D(i)は相対向する面と面間のレンズ厚或いは空気空間を示す。なお、曲率半径R(i)と面間隔D(i)の単位は〔mm〕である。面番号のOBJは物体、STOは開口絞り、IMGは像の位置を示す。曲率半径R(i)の「∞」は平面を示す。屈折率nd(i)とアッベ数νd(i)の空欄は空気であることを示す。
【0026】
さらに、図7に示すように、撮像レンズ1の無限物点時のレンズ全系100の諸元データは、焦点距離f:50.5〔mm〕,Fナンバー:F1.562,画角:46.311〔゜〕,像高:21.633〔mm〕,レンズ全長:76.576〔mm〕,BF(バックフォーカス):31.879〔mm〕である。
【0027】
次に、本実施形態に係る撮像レンズ1の要部である収差調整機構部Mの構成について、図1図6を参照して具体的に説明する。
【0028】
図1に示すように、収差調整機構部Mは、レンズ鏡筒2の前端部2fに配設する。この収差調整機構部Mは、大きく分けて、絞り筒3,絞り筒調整リング4,運動変換機構5,及び変位範囲規制部6を備える。
【0029】
絞り筒3は、図1に示すように、円形の端板部3sとこの端板部3sの周縁から後方へ延出した円筒状の周板部3cをプラスチック素材等により一体形成し、この端板部3sには、入射光Cを一定量に制限する円形の光量制限開口部3hを有する。この場合、光量制限開口部3hを形成する内周面は、内径を、第一接合レンズJ1の外径とほぼ同程度に選定するとともに、前側が漸次小径となるテーパ面により形成する。また、端板部3sは、前述したアクセサリ装着部21の内方に位置するように配し、周板部3cの外周面は、レンズ鏡筒2(固定筒11)の前端部2fに一体に設け、かつ内方に突出したリング縁部の先端に当接させる。これにより、絞り筒3は光軸Dc方向へ変位可能に配される。
【0030】
絞り筒調整リング4は、レンズ鏡筒2の前端部2fに、外部から操作可能、かつ周方向Fcへのみ回動可能となるように配設する。即ち、絞り筒調整リング4は、筒状の内リング部4iを有し、この内リング部4iは、前述した絞り筒3の周板部3cの外周面とレンズ鏡筒2(固定筒11)の前端部2fにおける内周面間に配する。また、この内リング部4iの外周面から固定筒11を貫通して固定筒11の外周面に露出する操作リング部4gを一体に有する。この操作リング部4gは、図1に示すように、絞り調整リング24の前方に隣接して配する。
【0031】
なお、例示の場合、絞り筒調整リング4の回動変位範囲Zr(図4)は、90〔゜〕に設定されるため、操作リング部4gが固定筒11を貫通する場合であっても固定筒11の一部を操作リング部4gに形成した円弧状のスリットに貫通させるなどにより、絞り筒調整リング4の回動変位範囲Zrを確保できる。また、例示の場合、絞り筒3及び絞り筒調整リング4を、レンズ鏡筒2における固定筒11に配して構成したが、レンズ鏡筒2の前端部2fが回動変位又は進退変位する可動筒として構成されている場合であっても、絞り筒3及び絞り筒調整リング4を配設することができる。しかし、本実施形態のように、固定筒11に配して構成すれば、撮影シーンで被写体を捕らえている状態であっても安定した調整操作を行うことができるため、シャッタチャンスを逃すことなく最適な撮影を行うことができる。
【0032】
運動変換機構5は、絞り筒調整リング4の回動変位を、絞り筒3の光軸Dc方向への進退変位に変換する機能を備える。したがって、運動変換機構5は、絞り筒3の周方向Fcへの回動変位を規制する周方向規制部12と、図1に示すように、絞り筒調整リング4における内リング部4iの内周面に形成したヘリコイドを用いた雌ネジ部13n及びこの雌ネジ部13nに螺合する絞り筒3の外周面に形成したヘリコイドを用いた雄ネジ部13sからなる螺子係合部13とを備えて構成する。この場合、周方向規制部12は、図2及び図4に示すように、固定筒11の内周面に固定し、かつ径方向中心に向けて突出した係合ピン31と、周板部3cの外周面に光軸Dc方向平行に形成し、かつ係合ピン31の先端側が係合するスリット状のガイド溝32により構成することができる。
【0033】
このように、運動変換機構5を構成するに際し、絞り筒3の周方向Fcへの回動変位を規制する周方向規制部12と、絞り筒調整リング4の内周面に形成した雌ネジ部13n及びこの雌ネジ部13nに螺合する絞り筒3の外周面に形成した雄ネジ部13sにより構成すれば、最もシンプルな運動変換機構5として構成できるため、小型化及び低コスト化を図る観点から最適な形態として実施できる。
【0034】
変位範囲規制部6は、絞り筒調整リング4の回動変位範囲Zrを規制する周方向変位規制部14により構成する。例示の回動変位範囲Zrは、図4に示すように、90〔゜〕に設定した。この場合、図1及び図4に示すように、絞り筒調整リング4の操作リング部4gに形成したストッパ凸部6sと、このストッパ凸部6sが対向する固定筒11に形成した断面が切欠状の凹溝部6rにより形成することができ、この凹溝部6rは図4に示すように固定筒11の内周面の周方向における90〔゜〕の角度範囲にわたって形成する。
【0035】
これにより、ストッパ凸部6sが凹溝部6rの一端側に係止した位置が、絞り筒3の第一位置P1となり、ストッパ凸部6sが凹溝部6rの他端側に係止した位置が、絞り筒3の第二位置P2となる。この際、絞り筒3(操作リング部4g)を、最も物体OBJ側へ変位させた第一位置P1で収差を最小にし、かつ第一位置P1からレンズL1…側に近接する第二位置P2まで変位させることにより収差を増加させるように、第一位置P1と第二位置P2の各位置や両者の間隔(ストローク量)、更に光量制限開口部3hの内径等の要素を設定する。なお、例示の場合、第一位置P1と第二位置P2間の間隔として、4-6〔mm〕程度に設定すれば、良好な効果を得ることができる。
【0036】
変位範囲規制部6を構成するに際し、絞り筒調整リング4の回動変位範囲Zrを規制する周方向変位規制部14により構成すれば、変位範囲規制部6を設ける位置を最も操作側に選定できるため、衝撃的な荒い調整操作等を行った場合であっても、絞り筒3への悪影響を最小限に抑えることができる。これにより、調整位置を安定に保持可能となり、撮影画質の向上及び安定化に寄与できる。
【0037】
次に、このように構成する収差調整機構部Mの機能及び使用方法について、図1図9を参照して説明する。
【0038】
まず、収差調整機構部Mは、撮像レンズ1のユーザーが絞り筒調整リング4を手で回動操作して使用することができる。絞り筒調整リング4を回動操作すれば、その回動変位により、運動変換機構5の雌ネジ部13nが周方向へ回動変位する。一方、運動変換機構5を構成する絞り筒3の雄ネジ部13sは、当該雌ネジ部13nに螺合し、かつ周方向の変位が規制されているため、雌ネジ部13nの回動変位は、絞り筒3の進退変位に変換される。
【0039】
今、絞り筒調整リング4が図4における第一位置(P1)にセッティングした場合を想定する。この第一位置(P1)は、図3及び図5において、絞り筒3が最も物体OBJ側の位置、即ち、レンズ全系100から最も遠くなる第一位置P1となる。この第一位置P1は、図3に実線で示す絞り筒3の位置となる。これにより、入射光Cは実線で示す光線のようになり、撮像レンズ1のレンズ全系100にとって、周辺側の光量(明るさ)がカットされる状態になる。したがって、第一位置P1における収差は最小となり、シャープな描写を行う通常撮影レンズとして使用することができる。
【0040】
このように、絞り筒3を第一位置P1にセッティングした場合、前述した図6のレンズデータにおける面番号i=1の軸上面間隔D(i)は、5.000〔mm〕となり、無限遠時の横収差特性は、図8に示すように、比較的変化の少ない良好な収差特性を得ることができる。
【0041】
一方、絞り筒調整リング4を回動操作し、絞り筒3を第二位置P2にセッティングした場合を想定する.この場合、絞り筒調整リング4は、図4において、第一位置(P1)から第二位置(P2)へ変位した状態となる。即ち、例示の場合、90〔゜〕回動変位した位置となる。絞り筒3の第二位置P2は、図3及び図5に示すように、第一位置P1から像IMG側へ、ストローク量(変位量)Msだけ離れた位置となり、例示の場合、4-6〔mm〕となる。第二位置P2における絞り筒3は、図3に仮想線で示す位置となり、入射光Cは仮想線で示す光線のようになり、撮像レンズ1のレンズ全系100にとって、最大の明るさとなり、第二位置P2における周辺側の収差が増大する。即ち、周辺側にボケが生じるソフトフォーカス機能(ボカシ機能)を有する特殊効果レンズとして使用することができる。
【0042】
このように、絞り筒3を第二位置P2にセッティングした場合、前述した図6のレンズデータにおける面番号i=1の軸上面間隔D(i)は、0.000〔mm〕となり、無限遠時の横収差特性は、図9に示すように、周辺側が相対的に収差が大きくなるソフトフォーカス効果を生じる収差特性を得ることができる。
【0043】
さらに、第二位置P2における収差を最大にできるため、例えば、絞り筒調整リング4の回動変位量(回動変位角)を、第一位置(P1)と第二位置(P2)の中間位置にセッティングすれば、絞り筒3の位置も、第一位置P1と第二位置P2の中間位置にすることができ、収差量を、図8図9の中間的な特性にすることができる。即ち、絞り筒調整リング4の回動操作により、収差量を連続的に可変することができる。
【0044】
加えて、第一接合レンズJ1と第二接合レンズJ2間には、前述した開口絞りSTOを備え、また、絞り筒調整リング4と絞り調整リング24を隣接して配置するため、通常の絞り機能を有する第一の開口絞りSTOと絞り筒3を光軸Dc方向へ変位させる第二の絞り機能を組合わせることができるため、ソフトフォーカス撮影を含めた多彩な撮影を行うことができる。
【0045】
このように、本実施形態に係る撮像レンズ1によれば、基本構成として、レンズ鏡筒2の前端部2fの内周部2fiに光軸Dc方向へ変位可能に配し、かつ入射光Cを一定量に制限する光量制限開口部3hを有する絞り筒3と、レンズ鏡筒2の前端部2fに、外部から操作可能、かつ周方向Fcへのみ回動可能に配設した絞り筒調整リング4と、この絞り筒調整リング4の回動変位を、絞り筒3の光軸Dc方向への進退変位に変換する運動変換機構5と、絞り筒3を、最も物体OBJ側へ変位させた第一位置P1で収差を最小にし、かつ第一位置P1からレンズL1…側に近接する第二位置P2まで変位させることにより収差を増加させる変位範囲規制部6とを有してなる収差調整機構部Mを備えるため、撮像レンズ1に対する入射光Cの周辺側のカット量を絞り筒3の光軸Dc方向の位置に応じて可変することができる。したがって、レンズ鏡筒2の内部における本来の光学系の構成を変更しないため、収差(フレア)の可変機能を備えた撮像レンズ1を構築する場合であっても、大型化したり複雑化する弊害を極力回避でき、撮像レンズ1の小型コンパクト化及び低コスト化、更には高精度化を実現することができる。
【0046】
しかも、レンズ鏡筒2の前端部2fに設けた絞り筒3を、最も物体OBJ側へ変位させた第一位置P1で収差を最小にし、かつ第一位置P1からレンズL1…側に近接する第二位置P2まで変位させることにより収差を増加させる収差の可変機能を備えるため、シャープな描写を行う通常撮影レンズ機能と収差に対する可変調整を容易かつスムースに行うことができるソフトフォーカス機能(ボカシ機能)を容易に実現可能となり、多様性や趣味性を高めることができる。
【0047】
以上、好適実施形態について詳細に説明したが、本発明は、このような実施形態に限定されるものではなく、細部の構成,形状,素材,数量,数値等において、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。
【0048】
例えば、収差調整機構部Mは、絞り筒3及び絞り筒調整リング4を、レンズ鏡筒2における固定筒11に配して構成することが望ましいが、レンズ鏡筒2の前端部2fに可動筒を有する撮像レンズ1の場合には、この可動筒に配することができる。また、運動変換機構5は、絞り筒3の周方向Fcへの回動変位を規制する周方向規制部12と、絞り筒調整リング4の内周面に形成した雌ネジ部13n及びこの雌ネジ部13nに螺合する絞り筒3の外周面に形成した雄ネジ部13sからなる螺子係合部13により構成することが望ましいが、必ずしもこの構成に限定されるものではなく、要は回動変位を進退変位に変換する機能を有する構成であればよい。さらに、変位範囲規制部6は、絞り筒調整リング4の回動変位範囲Zrを規制する周方向変位規制部14により構成することが望ましいが、他の部位に設けて構成する場合を排除するものではない。一方、複数のレンズL1,L2…として、物体OBJ側から像IMG側へ、両凸レンズL1と両凹レンズL2を接合した第一接合レンズJ1、正メニスカスレンズL3と両凹レンズL4を接合した第二接合レンズJ2、負メニスカスレンズL5と両凸レンズL6を接合した第三接合レンズJ3を用いた場合を例示したが、レンズL1…の枚数や構成は任意である。したがって、開口絞りSTOの位置も任意である。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明に係る撮像レンズは、デジタルスチルカメラやビデオカメラ等の各種光学機器における専用レンズ或いは交換レンズとして利用できる。
【符号の説明】
【0050】
1:撮像レンズ,2:レンズ鏡筒,2f:レンズ鏡筒の前端部,2fi:レンズ鏡筒の前端部の内周部,2fo:レンズ鏡筒の前端部の外周部,3:絞り筒,3h:光量制限開口部,4:絞り筒調整リング,5:運動変換機構,6:変位範囲規制部,11:固定筒,12:周方向規制部,13:螺子係合部,13n:雌ネジ部,13s:雄ネジ部,14:周方向変位規制部,M:収差調整機構部,C:入射光,Dc:光軸,Ff:周方向,IMG:像,OBJ:物体,STO:開口絞り,P1:絞り筒の第一位置,P2:絞り筒の第二位置,(P1):絞り筒調整リングの第一位置,(P2):絞り筒調整リングの第二位置,Zr:絞り筒調整リングの回動変位範囲,L1:両凸レンズ,L2:両凹レンズ,L3:正メニスカスレンズ,L4:両凹レンズ,L5:負メニスカスレンズ,L6:両凸レンズ,J1:第一接合レンズ,J2:第二接合レンズ,J3:第三接合レンズ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2021-04-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図5
【補正方法】変更
【補正の内容】
図5