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特開2022-114385橙系無機顔料、被覆顔料、樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022114385
(43)【公開日】2022-08-05
(54)【発明の名称】橙系無機顔料、被覆顔料、樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C09C 1/62 20060101AFI20220729BHJP
   C09D 17/00 20060101ALI20220729BHJP
【FI】
C09C1/62
C09D17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021010689
(22)【出願日】2021-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】000229874
【氏名又は名称】TOMATEC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106091
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 直都
(74)【代理人】
【識別番号】100079038
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 彰
(74)【代理人】
【識別番号】100199369
【弁理士】
【氏名又は名称】玉井 尚之
(72)【発明者】
【氏名】島津 拓門
(72)【発明者】
【氏名】江川 一彬
【テーマコード(参考)】
4J037
【Fターム(参考)】
4J037AA08
4J037CC12
4J037CC14
4J037CC16
4J037CC24
4J037CC26
4J037CC27
4J037DD23
4J037DD24
4J037EE02
4J037FF06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】カドミウムやクロム、水銀等の環境負荷が高い重金属を含まない橙系無機顔料を提供する。
【解決手段】組成式(1):ABOで表されるペロブスカイト型構造(式中、AはAサイトの金属元素であってLaを含み、BはBサイトの金属元素であってLi及びMnを含む。)を有するマンガン酸化物よりなる、橙系無機顔料とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式(1):ABO3で表されるペロブスカイト型構造(式中、AはAサイトの金属元素であってLaを含み、BはBサイトの金属元素であってLi及びMnを含む。)を有するマンガン酸化物よりなる、橙系無機顔料。
【請求項2】
CIE L*a*b*色空間におけるL*が60以上、a*が16以上、b*が27以上である、請求項1の橙系無機顔料。
【請求項3】
Aサイトの金属元素がLaのみよりなり、かつ、Bサイトの金属元素がLi及びMnのみよりなる、請求項1又は2の橙系無機顔料。
【請求項4】
Aサイトの金属元素がLa以外の金属元素A1を含み、これがY、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu及びGdからなる群より選ばれる少なくとも一種である、請求項1又は2の橙系無機顔料。
【請求項5】
Bサイトの金属元素がLi及びMn以外の金属元素B1を含み、これがNa、Mg、Al、Si、K、Ti、V、Zn、Sr、Ta及びTiからなる群より選ばれる少なくとも一種である、請求項1、2又は4の橙系無機顔料。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかの橙系無機顔料の表面がコーティング剤で被覆されてなる、被覆顔料。
【請求項7】
請求項1~5のいずれかの橙系無機顔料及び/又は請求項6の被覆顔料と、樹脂とを含む、樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規な橙系無機顔料、及びこの無機顔料を主体とする被覆顔料、並びにそれら顔料と樹脂とを含む樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
無機顔料は、一般に天然の鉱石や金属酸化物を含む顔料であって、元素の組み合わせにより落ち着いた色調を幅広く示すことで知られており、樹脂コンパウンドやガラスペースト、塗料、トラフィックペイント、セラミックス、建材及び化粧品等の着色材として広く利用されている。
【0003】
無機顔料のうち橙系色のものは、暖かみや親しみ、陽気、活力等ポジティブなイメージを与える色材であり、消費量も多い。そのような印象故、橙色は、従来、例えば食品業界や広告業界、サービス業界において、企業ロゴやハウスマークといった図案で積極的に利用されており、コーポレートカラーとしてもポピュラーである。
【0004】
橙系無機顔料としては従来、例えばカドミウムオレンジやクロムバーミリオン等が利用されてきたが、それらはカドミウムやクロム、水銀等環境負荷が高い重金属(以下、特定重金属ともいう。)を含むため、近年はRoHSやPRTR等の有害物質に関する指令の下、製造や輸出入、使用等が制限ないし禁止されつつある。
【0005】
そこで斯界では、特定重金属を用いない橙系無機顔料の検討がなされており、例えば非特許文献1にはストロンチウム・マンガン・銅・亜鉛酸化物よりなる橙系の顔料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Dyes and Pigments 147 (2017) 523-528
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、本出願人の認識下、色の鮮やかさや彩りの点で、特定重金属を含む従来の橙系無機顔料に比類するものは依然少なく、種類の拡充が求められている。
【0008】
本発明は、カドミウムやクロム、水銀等の環境負荷が高い重金属を用いない新規な橙系無機顔料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は検討の結果、所定元素組成よりなる特定結晶構造のマンガン酸化物が目的の橙系無機顔料足り得ることを見出し、本発明を完成した。即ち本発明は、以下に示す橙系無機顔料に関する。また本発明は、この無機顔料よりなる被覆顔料、及びそれら顔料を含む樹脂組成物にも関する。
1)組成式(1):ABO3で表されるペロブスカイト型構造(式中、AはAサイトの金属元素であってLaを含み、BはBサイトの金属元素であってLi及びMnを含む。)を有するマンガン酸化物よりなる、橙系無機顔料。
2)CIE L*a*b*色空間におけるL*が60以上、a*が16以上、b*が27以上である、1)の橙系無機顔料
3)Aサイトの金属元素がLaのみよりなり、かつ、Bサイトの金属元素がLi及びMnのみよりなる、1)又は2)の橙系無機顔料。
4)Aサイトの金属元素がLa以外の金属元素A1を含み、これがY、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu及びGdからなる群より選ばれる少なくとも一種である、1)又は2)の橙系無機顔料。
5)Bサイトの金属元素がLi及びMn以外の金属元素B1を含み、これがNa、Mg、Al、Si、K、Ti、V、Zn、Sr、Ta及びTiからなる群より選ばれる少なくとも一種である、1)、2)又は4)の橙系無機顔料。
6)1)~5)のいずれかの橙系無機顔料の表面がコーティング剤で被覆されてなる、被覆顔料。
7)1)~5)のいずれかの橙系無機顔料及び/又は6)の被覆顔料と、樹脂とを含む、樹脂組成物。
【0010】
以下、本発明の橙系無機顔料を単に「顔料」と略すことがある。
【発明の効果】
【0011】
1)の顔料は、La、Li及びMnを含むペロブスカイト型構造の酸化物よりなるため、橙色を呈する。また、この顔料は、耐候性、耐光性、耐熱性、耐水性、耐薬品性、耐ブリードアウト性及び隠ぺい力等の顔料特性(以下、単に顔料特性ともいう。)も良好である。
【0012】
2)の顔料は、1)の顔料の色を、CIE L*a*b*色空間でL*が60以上、a*が16以上、及びb*が27以上の色空間に限定した点に特徴があり、鮮やかな橙色を示す。また、この橙色は、茶み、黄みないし赤みが加わった幅広い色であり得る。この顔料は、顔料特性も良好である。
【0013】
3)の顔料は、1)又は2)の顔料において、それらをなすマンガン酸化物がLa、Li及びMnよりなる三元系の酸化物であり、鮮明な橙色を呈するともに、顔料特性も良好であるため、商品的価値が高い。
【0014】
4)の顔料は、1)又は2)の顔料において、それらをなすマンガン酸化物におけるLaの一部が特定のランタノイド元素で置換されており、鮮やかな橙色を呈する。また、この橙色は、茶み、黄みないし赤みが加わった幅広い色であり得る。この顔料は、顔料特性も良好である。
【0015】
5)の顔料は、1)、2)又は4)の顔料において、それらをなすマンガン酸化物におけるLiの一部及び/又はMnの一部が周期表上の第3~第6周期における特定の金属元素で置換されており、鮮やかな橙色を呈する。また、この橙色は、茶み、黄みないし赤みが加わった幅広い色であり得る。この顔料は、顔料特性も良好である。
【0016】
6)の顔料は、1)~5)のいずれかの顔料の表面を各種コーティング剤で表面処理したものであり、顔料特性、特に堅牢性に関わる耐候性や耐光性、耐熱性、耐水性、耐薬品性に優れるとともに、樹脂媒体中での分散性も良好である。
【0017】
7)の樹脂組成物は、1)~5)のいずれかの顔料及び/又は6)の被覆顔料と、各種樹脂とを含有する組成物であり、幅広い用途、例えば塗料、インク、トラフィックペイント、マスターバッチ、コンパウンド、モルタル、コンクリート、セラミック製品、道路舗装材、建材、屋根材、化粧品、自動車内装材、各種電気・電子製品の筐体に供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】(a)はペロブスカイト型構造の模式図を、(b)はルドルスデン・ポッパー相を有する層状ペロブスカイト型構造の模式図を示す。
図2】実施例1、10、21及び比較例5の各顔料のX線回折スペクトルである。
図3】実施例1、10、21及び比較例5の各顔料の紫外可視近赤外(UV-vis-nIR)反射率スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の顔料は所定組成のマンガン酸化物よりなる。この酸化物は、組成式(1):ABO3で表されるペロブスカイト(Perovskite)型構造(以下、PV構造と略すことがある。)を有する。式中、Aは所謂Aサイトの金属元素(以下、A元素ともいう。)であってLaを含む。Bは所謂Bサイトの金属元素(以下、B元素ともいう。)であってLi及びMnを含む。Oは酸素である。A、B及びOはいずれもイオン状態にあるとされる。
【0020】
PV構造は、A元素とB元素が相互に固溶した構造であり、BO6八面体よりなる面心立方格子の中心にB元素が位置し、このB元素を中心にA元素が体心立方格子を形成しているとされる。
【0021】
図1(a)は、PV構造をその発達面である擬立方〔100〕方向から投影した図である。
【0022】
PV構造は、ルドルスデン・ポッパー相(Ruddlesden-Popper phase)を有する層状ペロブスカイト型構造(以下、RP構造と略すことがある。)であってもよい。これは組成式(2):An+1BnO3n+1で表せる。式中、A、B及びOは前記PV構造のそれらと同じ意味であり、いずれもイオン状態にあるとされる。nは1以上の自然数であり(以下、同様。)、nが大きくなるにつれ、RP構造は巨視的にPV構造と同視し得るようになる。
【0023】
RP構造は、ABO3よりなる1又は2以上の層の間にAOよりなる岩塩層が挿入された結晶相であるため、組成式(3):(AO)(ABO)3nとも表現できる。式中、A、B、O、nは前記同様である。
【0024】
図1(b)は、RP構造をその発達面である擬立方〔100〕方向から投影した図である。
【0025】
組成式(1)~(3)において、AとBは、本発明に係るマンガン酸化物が実質的にPV構造ないしRP構造を有する限り、厳密な整数比をとらなくともよい。また、Aサイト、Bサイト及び酸素(O)サイトには結晶学的な欠損があってもよい。
【0026】
本発明の顔料の橙系色はCIE L*a*b*色空間(JIS Z 8781)で定義できる。ここにL*は明度指数であり、0(黒)~100(白)の値をとる。また、a*及びb*はクロマティクス指数である。a*は負に向かうほど緑系色を、正に向かうほど赤系色を示し、b*は負に向かうほど青系色を、正に向かうほど黄系色を示す。L*、a*、b*の各値は、JIS K 5101に準拠する各種公知の手段で測定できる。
【0027】
本発明の顔料は、彩りと鮮やかさを考慮し、その橙色が、L*a*b*が順に60以上、16以上及び27以上の色空間で定義された色であるのが好ましい。この空間にある橙色は、茶み、黄みないし赤みが加わった幅のある橙色である。L*、a*及びb*の上限は限定されないが、鮮明さを考慮すると、順に80以下、35以下、40以下であればよい。
【0028】
以下、本発明の顔料の具体的な態様を示す。
【0029】
第1態様の顔料(以下、第1顔料ともいう。)は、これをなすマンガン酸化物におけるA元素の全部がLaであり、かつそのB元素の全部がLi及びMnの態様である。かかるマンガン酸化物は、組成式(4):La3LiMnO7で表すことができ、本発明の顔料の基準をなす。
【0030】
第1顔料は鮮やかな橙色であり、L*a*b*は通常、65≦L*≦75、20≦a*≦30、30≦b*≦40であり、好ましくは68≦L*≦72、22≦a*≦27、32≦b*≦37である。
【0031】
第2態様の顔料(以下、第2顔料ともいう。)は、これをなすマンガン酸化物におけるA元素の一部が他の金属元素A1 (以下、A1元素ともいい、Laを含まない。以下、同様。)で置換されており、かつ、B元素の全部がLi及びMnよりなる態様である。A1元素は本発明の顔料の調色手段ともいい得る。
【0032】
A1元素としては、Aサイトを構成できる金属元素であれば特に限定されないが、本発明の目的を好適に達成する上で第3族元素が好ましく、特にY並びに/又はランタノイド(Laを除く。)が好ましい。このランタノイドとしては、第6周期元素が好ましい。具体的には、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm及びLuからなる群より選ばれる一種(以下、特定ランタノイドともいう。)が好ましい。工業的な利便性と経済性も加味すると、特定ランタノイドとしては、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、及びGdからなる群より選ばれる少なくとも一種が好ましい。
【0033】
A1元素によると、第2顔料は、第1顔料との対比において、次の発色傾向を示す。即ち、Yによると、第2顔料は赤みがかった鮮やかな橙色を呈する傾向にある。一方、前記特定ランタノイドのうち例えばCeによると、同等の橙色を呈する場合がある。また、例えばPr、Nd及びPmによると、茶みがかった橙色を呈する場合がある。また、例えばSm、Eu及びGdによると、赤みがかった橙色を呈する場合がある。
【0034】
A1元素としては、第2顔料の橙色を鮮やかにするとともに赤みを与えるものが、その商品的価値の点で好ましく、Y、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu及びGdからなる群より選ばれる少なくとも一種が好適である。
【0035】
第2顔料をなすマンガン酸化物は、前記組成式(4):La3LiMnO7におけるLaの一部置換体であり、組成式(5):(LaxA1 3-x)LiMnO7で表すことができる。式中、xは実数であって、Laの被置換度を示しており、0<x<3である。ただし、第2顔料の橙色における鮮明さとA1元素による加色効果(例えば赤みの追加)とのバランスを考慮すると、好ましくは0.12<x<1.5程度、より好ましくは0.2<x<1.1程度である。
【0036】
第2顔料のL*a*b*は通常、62≦L*≦72、16≦a*≦35、28≦b*≦40であるが、橙色の赤みと鮮やかさのバランスを考慮すると、好ましくは62≦L*≦72、25≦a*≦33、29≦b*≦40、より好ましくは65≦L*≦72、26≦a*≦30、35≦b*≦40である。
【0037】
第3態様の顔料(以下、第3顔料ともいう。)は、これをなすマンガン酸化物のA元素の全部がLaであり、かつ、B元素の一部が他の金属元素B1 (以下、B1元素ともいい、Li及びMnを除く。以下、同様。) で置換された態様である。B1元素もA1元素と同様に本発明の顔料の調色手段とみなし得る。
【0038】
B1元素としては、第2周期、第4周期、第5周期及び第6周期より選ばれる金属元素(ただし第3族元素を除く。)が適している。なかでも、第3顔料の橙色の鮮明さを維持しやすい点で、工業的な利便性と経済性も加味すると、以下の元素が好ましい。
【0039】
第3周期金属元素:Na、Mg、Al、Si
第4周期金属元素:K、Ca、Sc、Ti、V、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge
第5周期金属元素:Rb、Sr、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Ag、In、Sn
第6周期金属元素:Cs、Ba、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Tl、Bi
【0040】
前記第3周期金属元素によると、第3顔料は、第1顔料との比較において、同等の橙色、ないし黄み又は赤みがかった橙色を呈する傾向にある。例えばNaによると、第3顔料は、第1顔料と同等の橙色を呈する。また、例えばMgによると、明るさが増した、やや淡い橙色を呈する場合がある。また、例えばAlによると、より赤みがかった鮮やかな橙色を呈する場合がある。また、Siによると、やや黄みがかった橙色を呈する場合がある。
【0041】
前記第4周期金属元素によると、第3顔料は、第1顔料との比較において、同等の橙色、ないし、茶み、黄み又は赤みがかった橙色を呈する傾向にある。例えばK によると同等の橙色を呈する場合がある。また、Fe及び/又はCuによると、茶みがかった橙色を呈する場合がある。また、Ti、V及びZnからなる群より選ばれる少なくとも一種によると、赤みがかった橙色を呈する場合がある。
【0042】
前記第5周期金属元素によると、第3顔料は、第1顔料との比較において、同等の橙色、ないし茶みがかった橙色を呈する傾向にある。例えばSr及び/又はMoによると茶みが増す場合がある。また、Zr及び/又はNbによると、同等の橙色を呈する場合がある。
【0043】
前記第6周期金属元素によると、第3顔料は、第1顔料との比較において、同等の橙色、ないし、茶み、黄み又は赤みがかった橙色を呈する傾向にある。例えばTaによると、第1顔料と同等ないし、より鮮やかで明るい橙色を呈する場合がある。
【0044】
B1元素としては、本発明の顔料に鮮やかな橙色を与えるとともに赤みを加えるものが、その商品的価値の点で好ましく、Na、Mg、Al、Si、K、Ti、V、Zn、Ta及びTiからなる群より選ばれる少なくとも一種が好ましい。それらの中でもAl、Ti、V、Zn、Ta及びTiが特に好ましく、とりわけZn、Ta及びTiが好ましい。
【0045】
第3顔料をなすマンガン酸化物は、前記組成式(4):La3LiMnO7におけるLi及び/又はMnの一部置換体であり、組成式(6): La3(Liy B1 1-y) (MnzB1 1-z) O7で表せる。式中、yは実数であって、Liの被置換度を示しており、0<y≦1である。また、zも実数であって、Mnの被置換度を示しており、0<z≦1である。ただし、y=1かつz=1の場合除く。
【0046】
かかる式中、y=1のときは、MnのみがB1元素で置換されており、0<z<1である。また、z=1のときは、LiのみがB1元素で置換されており、0<y<1である。また、LiとMnが両方ともB1元素で置換されているときは、0<y<1であるとともに、0<z<1である。
【0047】
第3顔料の橙色におけるB1元素による加色効果(例えば赤みの追加)と鮮明さとバランスを考慮すると、好ましくは0.01<y<0.5程度、0.01<z<0.5程度であり、より好ましくは0.02<y<0.15程度、0.03<z<0.3程度である。
【0048】
第3顔料のL*a*b*は通常、60≦L*≦78、17≦a*≦30、30≦b*≦40であるが、橙色の赤みと鮮やかさのバランスを考慮すると、好ましくは63≦L*≦78、22≦a*≦30、31≦b*≦40、より好ましくは68≦L*≦78、22≦a*≦28、35≦b*≦40であればよい。
【0049】
第4態様の顔料(以下、第4顔料ともいう。)は、これをなすマンガン酸化物のA元素の一部がA1元素で置換されているとともに、B元素の一部もB1元素で置換されている態様である。A1元素及びB1元素は夫々前掲したものを利用できる。特に、A1元素としてYを選択するとともに、B1元素としてAl、Ti、V、Zn、Ta及びTiからなる群より選ばれる少なくとも一種を選択すると、第4顔料は赤みないし黄みがかった非常に鮮明な橙色を呈する場合がある。
【0050】
第4顔料をなすマンガン酸化物は、前記組成式(4):La3LiMnO7におけるLaの一部が置換されているとともに、Li及び/又はMnの一部が置換されたものであり、組成式(7): (LaxA1 3-x)(LiyB1 1-y) (MnzB1 1-z) O7で表せる。式中、xは実数であって、Laの被置換度を示しており、0<x<3である。また、yも実数であって、Liの被置換度を示しており、0<y≦1である。また、zも実数であって、Mnの被置換度を示しており、0<z≦1である。ただし、y=1かつz=1の場合除く。
【0051】
かかる式中、y=1のときは、MnのみがB1元素で置換されており、0<z<1である。また、z=1のときは、LiのみがB1元素で置換されており、0<y<1である。また、LiとMnが両方ともB1元素で置換されているときは、0<z<1であるとともに、0<y<1である。
【0052】
第4顔料の橙色におけるB1元素による加色効果(例えば赤みの追加)と鮮明さとバランスを考慮すると、好ましくは0.12<x<1.5程度、0.01<y<0.5程度、0.01<z<0.5程度であり、より好ましくは0.2<x<1.1程度、0.02<y<0.15程度、0.03<z<0.3程度である。
【0053】
第4顔料は、第2顔料及び第3顔料との対比において、より鮮明な赤みないし黄みがかった橙色を呈させることが可能である。
【0054】
第4顔料のL*a*b*は通常、64≦L*≦78、20≦a*≦30、30≦b*≦40であるが、橙色の赤みないし黄みと鮮やかさのバランスを考慮すると、好ましくは64≦L*≦78、22≦a*≦30、32≦b*≦40、より好ましくは64≦L*≦78、22≦a*≦28、35≦b*≦39であればよい。
【0055】
なお、A1元素及び/又はB1元素には、本発明の目的上、特定重金属であるCd、Cr、Pb及びHgを含めない。また、環境負荷の点でAsも含めないほうがよい。また、各国法制(有害物質に関する指令等)を考慮すると、例えばCo、Ni及びBa等は含めないほうがよいケースもある。
【0056】
本発明の顔料は、各種公知の方法で製造できる。かかる製造方法には、A元素を与える原料(以下、A原料ともいう。)及びB元素を与える原料(以下、B原料ともいう。)を混合する工程(以下、混合工程ともいう。)と、混合物を焼成させる工程(以下、焼成工程ともいう。)と、焼結物を粉砕する工程(以下、粉砕工程ともいう。)とが少なくとも含まれる。
【0057】
A原料は、Laを与える原料を含む。この原料にはLa単体及びその誘導体が含まれる。また、A原料とともに、A1元素を含む原料(以下、A1原料ともいう。)を使用できる。A1原料としては、A1元素単体及びその誘導体が挙げられる。
【0058】
B原料は、Liを与える原料及びMnを与える原料を含む。それら原料にはLi単体及びMn単体並びにそれらの誘導体が含まれる。また、B原料とともに、B1元素を含む原料(以下、B1原料ともいう。)を使用できる。B1原料としてはB1元素単体及びその誘導体が挙げられる。
【0059】
前記各誘導体としては、例えば酸化物、水酸化物、硫化物、ハロゲン化物並びに各種塩が挙げられる。塩としては、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、アンモニウム塩、シュウ酸塩、酢酸塩及びステアリン酸塩等を例示できる。
【0060】
A原料及びB原料の使用量、並びに任意のA1原料及びB1原料の使用量は、得られる顔料が組成式(4)、組成式(5)、組成式(6)及び組成式(7)のいずれかの化学量論比を結果的に達成できる範囲において、特に限定されない。例えば第1顔料は前記組成式(4)で示せるところ、A原料とB原料の各使用量は、当該顔料におけるランタン並びにリチウム及びマンガンの原子比(La:(Li,Mn))が化学量論的に3:2となるような量であればよい。具体的には、ランタン、リチウム及びマンガンの原子比(La:Li:Mn)が化学量論的に3:1:1となる量であればよい。
【0061】
混合工程において、前記原料は一度に混合してもよいし、任意の順序で混合してもよい。混合手段は特に限定されず、例えば乳鉢、ペイントコンディショナー、並びに各種ミルが挙げられる。ミルとしては、サンドグラインドミル、ピンミル、媒体撹拌型ミル、遠心式ボールミル、サンプルミル、インパクトミル、ロールミル、ディスクミル、転動ボールミル、振動ミル、遊星ボールミル、ジェットミル及びビーズミル等を例示できる。また、分散媒体としては、ロッド、シリンダー及びボール等が挙げられる。
【0062】
焼成工程は、従来公知の条件で実施する。具体的には、例えば、前記混合工程で得られた混合物を、通常750~1300℃、好ましくは900~1150℃程度で、通常1~10時間程度、好ましくは1~6時間程度、焼結させることにより、セラミック状の焼結体が得られる。
【0063】
粉砕工程では、前記焼結体を各種公知の手段で粉砕し、顔料となす。粉砕手段としては、例えば、乳鉢や前記ミルが挙げられる。粉砕は乾式及び湿式のどちらでもよく、必要に応じて後述の溶媒や分散剤等の添加剤を使用できる。粉砕後の顔料の粒径は特に限定されず、例えば平均一次粒子径が0.5~50μmであるが、用途に応じて適宜決定すればよい。
【0064】
本発明の顔料は、特定のX線回折スペクトルを呈する。具体的には、CuKα線を用いたX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ)が23~24°付近、26~27°付近、32~33°付近、33~34°付近、42~43°付近及び47~48°付近に特性ピークが出現する。また、これら特性ピークに相当するミラー指数は、順に(200)、(220)、(115)、(111)、(118)及び(206)である。
【0065】
本発明の顔料は、紫外可視近赤外(UV-vis-nIR)反射率スペクトルにおいて、主に400~550nmと約690nmの位置に特性吸収が認められ、主に690nmの吸収帯(Mn4+の d-d 遷移)に起因して橙色を呈すると考えられる。
【0066】
本発明の被覆顔料は、本発明の顔料の粒子表面を各種公知のコーティング剤で処理したものである。かかる表面処理により、本発明の顔料の耐熱性、化学的耐久性及び耐候性等を改善することができる。また、プラスチックや塗料等における分散性も向上させることができる。
【0067】
コーティング剤としては、顔料の表面処理に供し得る無機化合物及び/又は有機化合物であれば各種公知のものを特に制限なく使用できる。無機化合物としては、例えばケイ素、ジルコニウム、アルミニウム及びチタン等種々の元素からなる化合物が挙げられる。それらの形態は限定されないが、酸化物、水和酸化物及び水酸化物の形態が好ましい。一方、有機化合物としては、例えば有機ケイ素化合物、ポリオール類、並びに高級脂肪酸類及びその金属塩等が挙げられる。
【0068】
好ましいコーティング剤としては、各種公知のアルコキシシラン及び/又はシランカップリング剤が挙げられる。アルコキシシランとしては、モノアルキルトリメトキシシラン、モノアルキルトリエトキシシラン、トリフルオロアルキルメトキシシラン及びトリフルオロアルキルエトキシシラン等を例示できる。また、シランカップリング剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニル基含有アルキルトリメトキシシラン、ビニル基含有アルキルトリエトキシシラン、(メタ)アクリル基含有アルキルトリメトキシシラン、(メタ)アクリル基含有アルキルトリエトキシシラン、エポキシ基含有アルキルトリメトキシシラン、エポキシ基含有アルキルトリエトキシシラン、アミノ基含有アルキルトリメトキシシラン及びアミノ基含有アルキルトリエトキシシラン等を例示できる。
【0069】
コーティング剤の使用量は特に制限されず、例えば本発明の顔料100重量部に対して固形分換算で通常0.01~30重量部、好ましくは0.1~10重量部程度であればよい。
【0070】
コーティング手段も特に限定されず、例えば本発明の顔料を含有するスラリーにコーティング剤を添加し、前記混合手段で混合する方法が挙げられる。また、前記湿式粉砕工程のさい反応系にコーティング剤を添加してもよい。
【0071】
本発明の被覆顔料も本発明の顔料と同様に発色が良好な橙色であり、耐候性や耐光性、耐熱性、耐水性、耐薬品性、耐ブリードアウト性及び隠ぺい力等の顔料特性にも優れている。
【0072】
本発明の樹脂組成物は、本発明の顔料及び/又は被覆顔料と各種樹脂とよりなる混合物である。樹脂としては合成樹脂及び/又は天然樹脂が挙げられる。天然樹脂としてはロジンやセラック等を例示できる。一方、合成樹脂としてはポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン-ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、飽和ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、アミノ樹脂、フェノール樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ASB樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂及びポリテトラフルオロエチレン樹脂等を例示できる。以上例示した樹脂は一種又は二種以上を併用できる。樹脂組成物の具体的な態様はコンパウンドやマスターバッチである。マスターバッチの製造法は特に限定されず、各種公知の方法(例:特開2009-227990号公報、特開2019-119836号公報)による。
【0073】
本発明の顔料、被覆顔料及び樹脂組成物は、各種用途に供し得る。用途としては、例えば塗料、インク、トラフィックペイント、道路舗装材、セラミック製品、建材、屋根材、モルタル、コンクリート、化粧品、自動車内装材及び各種電気・電子製品の筐体等が挙げられる。
【0074】
上記用途では各種副材を併用できる。具体的には、溶媒、分散剤、油剤及び添加剤、並びに本発明の顔料以外の顔料等が挙げられる。
【0075】
溶媒としては、n-ヘキサン、トルエン、キシレン、メタノール、エタノール、ブタノール、イソプロパノール、メチルセロソルブ、セルソルブソルベント、ブチルセルソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エステルとして酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸セロソルブ、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエタノールアミン及びトリエタノールアミン、並びに水等を例示でき、二種以上を併用できる。
【0076】
界面活性剤としては、各種公知のアニオン界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤及び両性活性剤を使用できる。具体的には、例えば、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、脂肪族多価カルボン酸エステル、長鎖アミノアマイド燐酸エステル、長鎖アミノアマイドエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、アルキル硫酸塩及びモノアルキルリン酸塩等を例示でき、二種以上を併用できる。
【0077】
油剤としては、亜麻仁油、大豆油、きり油、流動パラフィン、ワセリン、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、スクワラン、セレシンワックス、みつろう、カルナウバろう、キャンデリラろう、硬化ひまし油、オリーブ油及び高級アルコール・脂肪酸エステル油及びシリコーン油等を例示でき、二種以上を併用できる。
【0078】
添加剤としては、分散剤、硬化剤、増粘剤、湿潤剤、可塑剤、安定剤、酸化防止剤、光安定剤及び紫外線吸収剤等を例示でき、二種以上を併用できる。
【0079】
本発明の顔料以外の顔料としては、酸化チタン、酸化亜鉛、カーボンブラック、亜鉛粉末、リン酸アルミニウム、モリブデン酸亜鉛、炭酸カルシウム、タルク、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、マイカ、合成マイカ、合成セリサイト、セリサイト、タルク、カオリン、炭化珪素、硫酸バリウム、ベントナイト及びスメクタイト等を例示でき、二種以上を併用できる。
【実施例0080】
以下、本発明の具体的な態様を実施例及び比較例により説明する。ただし、それらにより本発明の範囲が限定されることはない。
【0081】
各例において、L*a*b*は、顔料を市販のアクリル系ラッカー塗料に分散させた塗料を白紙上に展開してなる乾燥塗膜について、市販の分光光度計(製品名「CM-3600d」、ミノルタ(株)製、標準光源D65、10°視野)を用いて測定した値である。かかる測定法は、JIS K 5101に準拠する。
【0082】
各例において、顔料の平均一次粒子径は約10μmに調節した。粒子径は、市販の粒度測定装置(製品名:Microtrac MT-3300、マイクロトラック・ベル(株)製)による測定値である。
【0083】
<第1顔料>
実施例1
400mL容の磁性ポットに、La2O3 31.80g、Li2CO34.800g及びMnCO3 7.500gよりなる原料と、アルミナボール300gとを入れ、遊星ボールミルにて30分間混合した。次に、得られた混合物を、アルミナボールを除いた上で、アルミナるつぼに移し、大気中、900℃で6時間焼成させることによって、La3.0Li1.0Mn1.0O7で示せるセラミック状のマンガン酸化物を得た。次に、この酸化物を乳鉢で粉砕して粉末状の顔料1を得た。顔料1は鮮やかな橙色を呈していた。以下、これを基準顔料として他の顔料の色調を評価した。
【0084】
実施例2
実施例1において、各原料を表2で示す量で使用した他は同様にして、顔料2を得た。
【0085】
【表1】
【0086】
顔料1及び2はいずれも鮮やかな橙色を呈していた。また、Li2CO3の使用量を減じた顔料2をなすマンガン酸化物の組成式は、顔料1のそれと略同一であり、いずれもLa:Li:Mn≒3:1:1であった。
【0087】
<第2顔料>
<A1元素=Y>
実施例3
400mL容の磁性ポットに、La2O3 30.20g、Y2O31.100g、Li2CO3 3.600g及びMnCO3 7.500gよりなる原料と、アルミナボール300gとを入れ、遊星ボールミルにて30分間混合した。次に、得られた混合物を、アルミナボールを除いた上で、アルミナるつぼに移し、大気中、900℃で6時間焼成させることによって、La2.95Y0.05Li1.0Mn1.0O7で示せるセラミック状のマンガン酸化物を得た。次に、この酸化物を乳鉢で粉砕し、粉末状の顔料3を得た。
【0088】
実施例4~6
実施例3において、各原料を表2で示す量で使用した他は同様にして、粉末状の顔料4~顔料6を得た。
【0089】
【表2】
【0090】
顔料3~顔料6はいずれも、A1元素としてYを含むところ、顔料1との対比において、赤みがかった橙色を呈していた。また、顔料3からY置換量を増やした顔料4は、L*とb*が大きくなり、鮮明さと赤みが強まった。ただし、更にY置換量を増やした顔料5は、L*とb*が小さくなり、鮮明さと赤みがやや弱まる傾向にあった。この傾向は顔料6にも認められた。以上よりYによるLaの置換効果には極大性があることが判った。
【0091】
<A1元素=Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd>
実施例7~17
実施例3において、マンガン酸化物の原料を表3で示す種及び量で使用した他は同様にして、粉末状の顔料7~顔料17を得た。
【0092】
【表3】
【0093】
顔料7は、A1元素としてCeを含むところ、顔料1との対比において、同等の橙色を呈していた。
【0094】
顔料8は、A1元素としてPrを含むところ、顔料1との対比において、鮮やかではあるが茶みがかった橙色を呈していた。
【0095】
顔料9は、A1元素としてNdを含むところ、顔料1との対比において、鮮やかではあるが茶みがかった橙色を呈していた。また、顔料8との対比において、鮮明さが増していた。
【0096】
顔料10及び顔料11は、A1元素としてSmを含むところ、顔料1との対比において、赤みがかった非常に鮮明橙色を呈していた。
【0097】
顔料12及び顔料13は、A1元素としてEuを含むところ、顔料1との対比において、赤みがかった非常に鮮明な橙色を呈していた。
【0098】
顔料14~顔料17はいずれも、A1元素としてGdを含むところ、顔料1との対比において、赤みがかった非常に鮮明な橙色を呈していた。
【0099】
<第3顔料>
<B1元素=第3周期:Na、Mg、Al、Si>
実施例18
400mL容の磁性ポットに、La2O3 30.20g、Li2CO34.600g、MnCO3 7.500g及びNa2CO3 0.340gよりなる原料と、アルミナボール300gとを入れ、遊星ボールミルにて30分間混合した。次に、得られた混合物を、アルミナボールを除いた上で、アルミナるつぼに移し、大気中、900℃で6時間焼成させることによって、La3.0Li0.95Na0.05Mn1.0O7で示せるセラミック状のマンガン酸化物を得た。次に、この酸化物を乳鉢で粉砕し、粉末状の顔料18を得た。
【0100】
実施例19~24
実施例18において、マンガン酸化物の原料を表4で示す種及び量で使用した他は同様にして、粉末状の顔料19~顔料24を得た。
【0101】
【表4】
【0102】
顔料18及び顔料19は、B1元素としてNaを含むところ、顔料1との対比において、同等の橙色ないしやや茶みがかった橙色を呈していた。
【0103】
顔料20及び顔料21は、B1元素としてMgを含むところ、顔料1との対比において、同等の橙色ないしやや茶みがかった橙色を呈していた。
【0104】
顔料22及び顔料23は、B1元素としてAlを含むところ、顔料1との対比において、同等の橙色ないし赤みがかった橙色を呈していた。
【0105】
顔料24は、B1元素としてSiを含むところ、顔料1との対比において、同等の橙色ないし黄みがかった橙色を呈していた。
【0106】
<B1元素=第4周期元素:K、Ti、Zn>
実施例25~31
実施例18において、マンガン酸化物の原料を表5で示す種及び量で使用した他は同様にして、粉末状の顔料25~顔料31を得た。
【0107】
【表5】
【0108】
顔料25及び顔料26は、B1元素としてKを含むところ、顔料1との対比において、同等の橙色ないし茶みがかった橙色を呈していた。
【0109】
顔料27及び顔料28は、B1元素としてTiを含むところ、顔料1との対比において、同等の橙色ないし赤みがかった橙色を呈していた。
【0110】
顔料29及び顔料30は、B1元素としてZnを含むところ、顔料1との対比において、非常に鮮明で黄みがかった橙色を呈していた。
【0111】
顔料31は、B1元素としてTi及びZnを含むところ、顔料1との対比において、非常に鮮明な橙色を呈していた。
【0112】
<B1元素=第5周期:Zr、Nb、Mo>
実施例32~35
実施例18において、マンガン酸化物の原料を表6で示す種及び量で使用した他は同様にして、粉末状の顔料32~顔料35を得た。
【0113】
【表6】
【0114】
顔料32は、B1元素としてZrを含むところ、顔料1との対比において、赤みがかった橙色を呈していた。
【0115】
顔料33及び顔料34はいずれも、B1元素としてNbを含むところ、顔料1との対比において、同等の橙色を呈していた。
【0116】
顔料35は、B1元素としてMoを含むところ、顔料1との対比において、茶みがかった橙色を呈していた。
【0117】
<B1元素=第6周期:Ta>
実施例36~38
実施例18において、マンガン酸化物の原料を表7で示す種及び量で使用した他は同様にして、粉末状の顔料36~顔料38を得た。
【0118】
【表7】
【0119】
顔料36~顔料38はいずれも、B1元素としてTaを含むところ、顔料1との対比において、同等ないし、より鮮やかな橙色を呈していた。
【0120】
<第4顔料>
< A1元素=Y、B1元素=Zn、Al>
実施例39
400mL容の磁性ポットに、La2O3 30.18g、Y2O31.100g、Li2CO3 4.800g、MnCO3 7.100g及びAl2O3 0.170gよりなる原料と、アルミナボール300gとを入れ、遊星ボールミルにて30分間混合した。次に、得られた混合物を、アルミナボールを除いた上で、アルミナるつぼに移し、大気中、900℃で6時間焼成させることによって、La2.85Y0.05Li1.0Mn0.95Al0.05O7で示せるセラミック状のマンガン酸化物を得た。次に、この酸化物を乳鉢で粉砕し、粉末状の顔料39を得た。
【0121】
実施例40
実施例39において、マンガン酸化物の原料を表8で示す種及び量で使用した他は同様にして、粉末状の顔料40を得た。
【0122】
【表8】
【0123】
顔料39は、A1元素としてYを含むとともに、B1元素としてAlを含むところ、顔料1との対比において、非常に鮮やかな赤みがかった橙色を呈していた。
【0124】
顔料40は、A1元素としてYを含むとともに、B1元素としZnを含むところ、顔料1との対比において、非常に鮮やかな黄みがかった橙色を呈していた。
【0125】
比較例1
400mL容の磁性ポットに、La2O3 31.77g、MnCO37.470g及びK2CO3 4.490gよりなる原料と、アルミナボール300gとを入れ、遊星ボールミルにて30分間混合した。次に、得られた混合物を、アルミナボールを除いた上で、アルミナるつぼに移し、大気中、900℃で6時間焼成させることによって、La3.0K1.0Mn1.0O7で示せるセラミック状のマンガン酸化物を得た。次に、この酸化物を乳鉢で粉砕し、粉末状の顔料41を得た。
【0126】
比較例2~5
比較例1において、マンガン酸化物の原料を表9で示す種及び量で使用した他は同様にして、粉末状の顔料41~顔料45を得た。
【0127】
【表9】
【0128】
顔料41は、顔料1の構成元素のうちLiを全てKに置換したものであり、黒色であった。
【0129】
顔料42は、顔料1の構成元素のうちLiを全てNaに置換したものであり、黒色であった。
【0130】
顔料43は、顔料1の構成元素のうちLiを全てTiに置換したものであり、黒色であった。
【0131】
顔料44は、顔料1の構成元素のうちLaの一部をYに置換するとともに、Mnを全て省略したものであり、白色であった。
【0132】
顔料45は、顔料1の構成元素のうちLaを全て省略したものであり、橙色ではあったが、鮮明さを欠いていた。
【0133】
<X線回折スペクトルの測定>
実施例の全顔料について、X線回折(XRD)スペクトルの測定と特性ピーク値(ラジアン角度2θ)の同定を、市販のX線回折装置(製品名「X'Pert PRO」、PANalytical社製、線源Cu)により行った。
【0134】
測定の結果、実施例に係る顔料は全てPV構造であると判断できた。表10に、実施例に係る一部の顔料について、最も強度(Int.)が大きなピークを基準に、このピークよりも相対的に強度が小さな5の主要ピークについて、それらのピーク位置(2θ)とミラー指数を示した。
【0135】
【表10】
【0136】
一方、比較例に係る顔料41~顔料44も、PV構造であると判断できた(表略)。他方、顔料45は、橙色を呈するものの、PV構造ではなく、所謂岩塩構造であると判明した。表11に、顔料45のピーク位置(2θ)とミラー指数を示す。
【0137】
【表11】
【0138】
図2のXRDスペクトルは、(a)が顔料1の、(b)が顔料10の、(c)が顔料18の、(d)が顔料45についてのそれである。
【0139】
<紫外可視近赤外反射率スペクトルの測定>
測定は、市販の紫外可視近赤外分光光度計(製品名:V-770、日本分光(株)製、スキャン波長域300nm~2500nm)を用いて行った。実施例に係る顔料は全て約400~550nmと約 690nmに特性吸収帯が認められた。
【0140】
図3のUVスペクトルは、(a)が顔料1の、(b)が顔料10の、(c)が顔料18の、(d)が顔料45についてのそれである。
【産業上の利用可能性】
【0141】
本発明の橙系無機顔料は、塗料、インク、トラフィックペイント、マスターバッチ、コンパウンド、モルタル、コンクリート、セラミック製品、道路舗装材、建材、屋根材、化粧品、自動車内装材、各種電気・電子製品の筐体等の幅広い用途で有用である。
図1
図2
図3