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特開2022-114396金属印刷用インキ組成物、及びそれを用いた、印刷中のミスチングを低減させる方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022114396
(43)【公開日】2022-08-05
(54)【発明の名称】金属印刷用インキ組成物、及びそれを用いた、印刷中のミスチングを低減させる方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/08 20060101AFI20220729BHJP
   B41M 1/28 20060101ALI20220729BHJP
【FI】
C09D11/08
B41M1/28
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021010707
(22)【出願日】2021-01-26
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000105947
【氏名又は名称】サカタインクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100151183
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】降矢 崇幸
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 康太
(72)【発明者】
【氏名】荒木 隆史
【テーマコード(参考)】
2H113
4J039
【Fターム(参考)】
2H113AA03
2H113BA05
2H113BA06
2H113BB10
2H113BB22
2H113BC02
2H113BC10
2H113DA27
2H113DA33
2H113DA57
2H113DA60
2H113EA01
2H113EA12
2H113EA25
2H113FA54
4J039AB08
4J039AF03
4J039BC35
4J039BE01
4J039BE12
4J039CA05
4J039DA02
4J039EA43
4J039FA01
4J039GA02
(57)【要約】
【課題】実用的な流動性を維持しつつ、ミスチング適性を改善することのできる金属印刷用インキ組成物を提供すること。
【解決手段】インキ組成物を構成する樹脂としてある程度の酸価を備えたものを採用し、併せて、インキ組成物へアルカノールアミンを添加することにより、ミスチングの発生を低減させつつ、実用的な流動性を維持できる。すなわち、色顔料、樹脂及び溶剤を含んでなる金属印刷用インキ組成物であって、上記樹脂の少なくとも一部の酸価が25mgKOH/g以上であり、さらにアルカノールアミン化合物を含むことを特徴とする金属印刷用インキ組成物を用いればよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色顔料、樹脂及び溶剤を含んでなる金属印刷用インキ組成物であって、
前記樹脂の少なくとも一部の酸価が25mgKOH/g以上であり、さらにアルカノールアミン化合物を含むことを特徴とする金属印刷用インキ組成物。
【請求項2】
前記アルカノールアミン化合物が、分子中に2個以上の水酸基を含むことを特徴とする請求項1記載の金属印刷用インキ組成物。
【請求項3】
前記アルカノールアミン化合物が、分子中に4個の水酸基を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の金属印刷用インキ組成物。
【請求項4】
前記少なくとも一部の樹脂が、ロジン変性樹脂である請求項1~3のいずれか1項記載の金属印刷用インキ組成物。
【請求項5】
前記ロジン変性樹脂が、その構造中にマレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸及び無水フマル酸からなる群より選択される少なくとも一つを由来とする部位を含むことを特徴とする請求項4記載の金属印刷用インキ組成物。
【請求項6】
酸価が25mgKOH/g以上である樹脂を含む金属印刷用インキ組成物において、これにアルカノールアミン化合物を添加することを特徴とする、印刷中のミスチングを低減させる方法。
【請求項7】
前記アルカノールアミン化合物が、分子中に2個以上の水酸基を含むことを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記アルカノールアミン化合物が、分子中に4個の水酸基を含むことを特徴とする請求項6又は7記載の方法。
【請求項9】
前記樹脂が、ロジン変性樹脂である請求項6~8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記ロジン変性樹脂が、その構造中にマレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸及び無水フマル酸からなる群より選択される少なくとも一つを由来とする部位を含むことを特徴とする請求項9記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属印刷用インキ組成物、及びそれを用いた、印刷中のミスチングを低減させる方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属素材、例えば亜鉛引き又は錫引き鉄板、アルミニウム板あるいはこれら金属素材からなる金属缶などの金属外面の印刷には、アルキッド樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂などのバインダー樹脂と鉱物油または高級アルコールなどの有機溶剤を主たるビヒクル成分とする金属印刷用インキ組成物が使用されている。
【0003】
また、これら印刷表面には、インキ塗膜の密着性、耐折り曲げ性、耐衝撃性、耐摩擦性等を向上させるため、オーバープリントニスによるコーティングが行われるのが一般的である。これらオーバープリントニスとしては、アルキッド樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等のバインダー樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等の硬化剤、及び鉱物油やセロソルブ系等の有機溶剤からなる溶剤タイプのものが広く使用されている。
【0004】
そして、金属外面の印刷に際しては、オフセット印刷機、ドライオフセット印刷機等を用いてインキの印刷を行ってから、コーター等を用いてウエットオンウエットでオーバープリントニスをインキ被膜上に塗布し、その後150~280℃で焼付けが行われている。
【0005】
上記のように、金属印刷に際してオフセット印刷機やドライオフセット印刷機を用いる場合、高速で回転するローラー間をインキ組成物が次々に転移する際に、微細な粒子となったインキ組成物が飛び散って印刷機の内部やその周囲を汚すことがある。この現象は、ミスチングと呼ばれ、互いに接触して回転する2本のローラーの間でインキ組成物が分裂する際に、ローラーとローラーの分離箇所でインキ組成物が引き延ばされて微細なフィラメントとなり、このフィラメントが断裂したときにフィラメントの一部が微細な粒子になって生じるとされる。こうしたミスチングを生じやすいか否かは、主としてインキ組成物の粘弾性に関係すると考えられる。すなわち、インキ組成物の弾性が大きい場合にはフィラメントが早期に断裂してミスチングの発生が少なくなると考えられる一方で、インキ組成物の弾性が小さい場合にはフィラメントの断裂が遅れることで長いフィラメントが形成されてミスチングの発生が多くなると考えられる。
【0006】
このような観点から、ミスチングを低減させるためにインキ組成物の弾性を向上させればよいという思想が生じることになる。しかしながら、インキ組成物の弾性を向上させると、今度はインキ組成物の粘性の低下を招き、インキ組成物の適切な流動性が得られなくなるという問題を生じることになる。このように、インキ組成物のミスチング適性と流動性との間にはトレードオフの関係が成立するといえ、これらを両立させるべく各種の処方がこれまでに提案されている(例えば、特許文献1~5を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6-100814号公報
【特許文献2】特開平6-116526号公報
【特許文献3】特開平6-306321号公報
【特許文献4】特開平7-157700号公報
【特許文献5】特開平8-60061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上の状況に鑑みてなされたものであり、実用的な流動性を維持しつつ、ミスチング適性を改善することのできる金属印刷用インキ組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、インキ組成物を構成する樹脂としてある程度の酸価を備えたものを採用し、併せて、インキ組成物へアルカノールアミンを添加することにより、ミスチングの発生を低減させつつ、実用的な流動性を維持できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0010】
(1)本発明は、着色顔料、樹脂及び溶剤を含んでなる金属印刷用インキ組成物であって、上記樹脂の少なくとも一部の酸価が25mgKOH/g以上であり、さらにアルカノールアミン化合物を含むことを特徴とする金属印刷用インキ組成物である。
【0011】
(2)また本発明は、上記アルカノールアミン化合物が、分子中に2個以上の水酸基を含むことを特徴とする(1)項記載の金属印刷用インキ組成物である。
【0012】
(3)また本発明は、上記アルカノールアミン化合物が、分子中に4個の水酸基を含むことを特徴とする(1)項又は(2)項記載の金属印刷用インキ組成物である。
【0013】
(4)また本発明は、上記少なくとも一部の樹脂が、ロジン変性樹脂である請求項(1)項~(3)項のいずれか1項記載の金属印刷用インキ組成物である。
【0014】
(5)また本発明は、上記ロジン変性樹脂が、その構造中にマレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸及び無水フマル酸からなる群より選択される少なくとも一つを由来とする部位を含むことを特徴とする(4)項記載の金属印刷用インキ組成物である。
【0015】
(6)本発明は、酸価が25mgKOH/g以上である樹脂を含む金属印刷用インキ組成物において、これにアルカノールアミン化合物を添加することを特徴とする、印刷中のミスチングを低減させる方法でもある。
【0016】
(7)また本発明は、上記アルカノールアミン化合物が、分子中に2個以上の水酸基を含むことを特徴とする(6)項記載の方法である。
【0017】
(8)また本発明は、上記アルカノールアミン化合物が、分子中に4個の水酸基を含むことを特徴とする(6)項又は(7)項記載の方法である。
【0018】
(9)また本発明は、上記樹脂が、ロジン変性樹脂である(6)項~(8)項のいずれか1項記載の方法である。
【0019】
(10)また本発明は、上記ロジン変性樹脂が、その構造中にマレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸及び無水フマル酸からなる群より選択される少なくとも一つを由来とする部位を含むことを特徴とする(9)項記載の方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、実用的な流動性を維持しつつ、ミスチング適性を改善することのできる金属印刷用インキ組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の金属印刷用インキ組成物(本発明のインキ組成物等と適宜省略する。)の一実施形態、及び本発明の印刷中のミスチングを低減させる方法の一実施態様について説明する。なお、本発明は、以下の実施形態及び実施態様に何ら限定されるものでなく、本発明の範囲において適宜変更を加えて実施することができる。
【0022】
<金属印刷用インキ組成物>
本発明のインキ組成物は、金属印刷用であり、刷版として凸版を用いるいわゆるドライオフセット印刷方式や、刷版として平版を用いるオフセット印刷方式での印刷に好ましく適用されるが、金属印刷において通常用いられる印刷方式全般に適用が可能である。また、本発明のインキ組成物は、インキ組成物による印刷の直後にウエットオンウエットで水性オーバープリントニス(OPニス)が塗工される2ピース缶印刷にも適用可能であるし、3ピース缶印刷にも適用可能である。本発明のインキ組成物は、印刷時におけるミスチングの発生を抑制できるばかりでなく、組成物としての良好な流動性を備えるので印刷中の壷上がり等の問題を抑制できる。
【0023】
本発明のインキ組成物は、着色顔料、樹脂及び溶剤を含んでなり、上記樹脂の少なくとも一部の酸価が25mgKOH/g以上であり、さらにアルカノールアミン化合物を含むことを特徴とする。以下、各成分について説明する。
【0024】
[樹脂]
本発明のインキ組成物は、酸価が25mgKOH/g以上である樹脂を含む。本発明のインキ組成物は、このような酸価を備えた高極性樹脂と後述するアルカノールアミンとを含むことにより、印刷時のミスチングの低減が図られる。そのメカニズムは必ずしも明らかではないが、本発明のインキ組成物がこうした比較的高い酸価の樹脂とアルカノールアミンとを含むことにより、高極性の置換基を備えた樹脂がアルカノールアミンに含まれる水酸基により架橋されてインキ組成物全体の弾性が増加して、こうした特性がもたらされるものと推察される。また、インキ組成物の弾性を向上させると流動性の低下を招くのが一般的だが、興味深いことに、上記のように高酸価樹脂とアルカノールアミンとを組み合わせてミスチングの低下を図る場合、インキ組成物の流動性は壷上がりなどの問題を生じない実用的な範囲に留まる。
【0025】
上記樹脂の酸価は、30mgKOH/g以上であることが好ましく、50mgKOH/g以上であることがより好ましい。また、上記樹脂の酸価の上限としては、特に限定されないが、一例として400mgKOH/g程度を好ましく挙げることができ、250mgKOH/g程度をより好ましく挙げることができる。
【0026】
上記樹脂の一例としては、ロジン変性樹脂を好ましく挙げることができる。ロジン変性樹脂とは、原料の一つとしてロジンを用いて調製された樹脂である。ロジンには、アビエチン酸、パラストリン酸、イソピマール酸、レボピマール酸等の樹脂酸が混合物として含まれ、これら樹脂酸は、親水性で化学活性なカルボキシ基を含み、中には共役二重結合を備えるものもある。そのため、多価アルコールや多塩基酸を組み合わせて縮重合させたり、ロジン骨格に含まれるベンゼン環にフェノールの縮合体であるレゾールを付加させたり、ジエノフィルである無水マレイン酸やマレイン酸とディールスアルダー反応をさせて無水マレイン酸やマレイン酸骨格を付加させさせたりすること等により、様々なロジン変性樹脂が調製されている。このようなロジン変性樹脂は、各種のものが市販されており、それを入手して用いることも可能である。
【0027】
ロジン変性樹脂としては、マレイン化ロジン、フマル化ロジン、ロジン変性マレイン酸樹脂、ロジン変性フマル酸樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性アルキッド樹脂、ロジン変性ポリエステル樹脂等が挙げられる。本発明においては、いずれのロジン変性樹脂を用いてもよいが、ロジン変性樹脂の酸価に基づく極性が高いことが好ましいとの観点からは、これらの中でも、その構造中にマレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸及び無水フマル酸からなる群より選択される少なくとも一つを由来とする部位を含むものが好ましく用いられる。「その構造中にマレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸及び無水フマル酸からなる群より選択される少なくとも一つを由来とする部位を含む」樹脂とは、原料の一部としてマレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸及び無水フマル酸からなる群より選択される少なくとも一つを用いて調製されたものであり、例えば、多塩基酸の一部としてマレイン酸やフマル酸を縮重合させたロジン変性マレイン酸樹脂やロジン変性フマル酸樹脂、ジエノフィルとしてマレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸や無水フマル酸をディールスアルダー反応で付加させた構造を備えるマレイン化ロジン、フマル化ロジン、これらに含まれる官能基を用いてさらに他の化学種を重合させた樹脂等を意味する。
【0028】
上記樹脂は、後述する溶剤とともに加熱されることにより溶解又は分散されてワニスとされた状態で使用される。ワニスを調製する際、樹脂を溶解させて得た溶解ワニス中に2価以上の金属アルコキシ化合物をゲル化剤として投入し、ゲル化ワニスとされることが好ましい。ロジン変性樹脂からゲル化ワニスを調製し、これをインキ組成物の調製に用いることにより、インキ組成物に適度な粘弾性が付与され、流動性の向上とミスチングの低減を図ることができるほか、より強靱な硬化被膜を形成できるので好ましい。
【0029】
インキ組成物中における上記樹脂の含有量としては、組成物全体に対して5~50質量%が好ましく挙げられ、組成物全体に対して5~40質量%がより好ましく挙げられ、組成物全体に対して8~40質量%がさらに好ましく挙げられる。
【0030】
本発明のインキ組成物には、上記樹脂のような酸価の高い樹脂の他に、金属印刷用インキ組成物にこれまで用いられてきた各種の樹脂を含んでもよい。このような樹脂としては、ポリエステル樹脂、石油樹脂、エポキシ樹脂、ケトン樹脂、アミノ樹脂、アルキッド樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、メラミン樹脂等を挙げることができる。これらの中で、ベンゾグアナミン樹脂やメラミン樹脂は、インキ組成物における硬化剤としても用いられる。また、アルキッド樹脂としては、ヤシ油変性アルキッド樹脂が好ましく挙げられる。
【0031】
[溶剤]
本発明のインキ組成物における溶剤としては、金属印刷用インキ組成物に使用されている公知のものを特に制限なく挙げることができる。このような溶剤としては、沸点範囲が230~400℃程度の脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、アルキルベンゼン等の芳香族炭化水素、高級アルコール、ポリオキシエチレングリコールエーテル類等を挙げることができる。これらの中でも、溶剤として下記一般式(1)で表すポリオキシアルキレングリコールエーテル類が好ましく挙げられる。
【0032】
【化1】
【0033】
上記一般式(1)中、各Aは、それぞれ独立に決定され、分岐を有してもよい炭素数2~4のアルキレン基である。このようなアルキレン基としては、エチレン基[-(CH-]、プロピレン基[-CH(CH)-CH-、又は-CHCH(CH)-]、トリメチレン基[-(CH-]、イソプロピリデン基[-C(CH-]等を挙げることができる。
【0034】
上記一般式(1)中、Rは、分岐及び/又は環構造を備えてもよい炭素数1~13のアルキル基である。なお、このアルキル基は、脂肪族基のみならず脂環式基であってもよい。このようなアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、オクチル基、デシル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0035】
上記一般式(1)中、nは、2~6の整数である。nが2以上であることにより、印刷機上でのインキ組成物の安定性を付与するための十分な沸点を確保できるので好ましく、nが6以下であることにより、インキ組成物の溶剤として好ましい粘度とすることができる。
【0036】
上記一般式(1)で表すポリオキシアルキレングリコールエーテル類の例としては、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノオクチルエーテル、ジプロピレングリコールトリデシルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノデシルエーテル、テトラプロピレングリコールモノヘキシルエーテル、ペンタプロピレングリコールモノブチルエーテル、ヘキサプロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
【0037】
インキ組成物中における溶剤の量は、所望するインキ組成物の粘度によって異なる。すなわち、インキ組成物が所望とする粘度となるように溶剤の量を決定すればよい。このような粘度としては、ラレー粘度計による25℃での値が10~70Pa・sであることを例示できるが、特に限定されない。
【0038】
[アルカノールアミン化合物]
本発明のインキ組成物は、アルカノールアミン化合物を含有する。アルカノールアミンとは、アルキレン骨格中にアミノ基と水酸基とを備えた化合物である。本発明では、このようなアルカノールアミン化合物の中でも、3級のアミノ基にヒドロキシアルキレン基が結合した化合物が好ましく挙げられ、特に、3級のアミノ基に複数のヒドロキシアルキレン基が結合した構造を備えた化合物が好ましく挙げられる。このようなアルカノールアミン化合物としては、下記一般式(2)で表すものを挙げることができる。
【0039】
【化2】
【0040】
上記一般式(2)中、各Xは、それぞれ独立に、分岐を有してもよいアルキル基又はヒドロキシアルキル基であり、各Xは、それぞれ独立に、分岐を有してもよいアルキレン基であり、nは、0~3の整数である。このような化合物の一例として、下記化学式(2-1)~(2-4)で表すものを挙げることができる。
【0041】
【化3】
【0042】
本発明のインキ組成物では、アルカノールアミン化合物に含まれる水酸基の数が増加するにつれて、印刷中のミスチング抑制の効果が高くなる傾向が見られる。このため、アルカノールアミン化合物としては、上記化学式(2-2)~(2-4)で表すように2個以上の水酸基を含む化合物であることが好ましく、上記化学式(2-4)で表すように4個以上の水酸基を含む化合物であることがより好ましい。
【0043】
インキ組成物の全体に対するアルカノールアミン化合物の含有量としては、0.1質量%~20質量%であることが好ましく挙げられ、1質量%~12質量%であることがより好ましく挙げられ、3質量%~10質量%であることがさらに好ましく挙げられる。
【0044】
[着色顔料]
着色顔料は、インキ組成物に着色力を付与するための成分である。着色顔料としては、従来から金属印刷用インキ組成物に使用される有機及び/又は無機顔料を特に制限無く挙げることができる。
【0045】
このような着色顔料としては、ジスアゾイエロー(ピグメントイエロー12、ピグメントイエロー13、ピグメントイエロー17、ピグメントイエロー1)、ハンザイエロー等のイエロー顔料、ブリリアントカーミン6B、レーキレッドC、ウオッチングレッド等のマゼンタ顔料、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、アルカリブルー等のシアン顔料、カーボンブラック等の黒色顔料、蛍光顔料等が例示される。また、インキ組成物に金色や銀色等の金属色を付与するための金属粉顔料も本発明では着色顔料として扱う。このような金属粉顔料としては、金粉、ブロンズパウダー、アルミニウムパウダーをペースト状に加工したアルミニウムペースト、雲母パウダー等を挙げることができる。
【0046】
着色顔料の添加量としては、インキ組成物の全体に対して5~50質量%程度が例示されるが、特に限定されない。なお、イエロー顔料を使用してイエローインキ組成物を、マゼンタ顔料を使用してマゼンタインキ組成物を、シアン顔料を使用してシアンインキ組成物を、黒色顔料を使用してブラックインキ組成物をそれぞれ調製する場合には、補色として、他の色の顔料を併用したり、他の色のインキ組成物を添加したりすることも可能である。
【0047】
[その他の成分]
本発明のインキ組成物には、その他の成分として、必要に応じて公知の硬化剤、顔料分散剤、ワックス、安定剤等を添加することができる。
【0048】
硬化剤としては、例えば、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等のアミノ樹脂を用いることができる。
【0049】
本発明のインキ組成物は、着色顔料、樹脂、溶剤等の各成分を混合し、ロールミル、ボールミル、ビーズミル等を用いて常法によって調製できる。既に述べたように、インキ組成物の粘度としては、ラレー粘度計による25℃での値が10~70Pa・sであることを例示できるが、特に限定されない。
【0050】
本発明のインキ組成物において、印刷対象となる金属としては、特に限定されないが、例えば亜鉛引き又は錫引き鉄板、アルミニウム板、あるいはこれら金属素材からなる金属缶等が挙げられる。
【0051】
また、印刷されたインキ組成物の上に塗工する水性OPニスとしては、通常使用されているものを用いることができ、具体的には、水性アクリル樹脂、水性ポリエステル樹脂、水性アルキッド樹脂、水性エポキシ樹脂又はこれら2種以上の変性樹脂等をバインダーとし、硬化剤としてのアミノ樹脂を併用したもの等を挙げることができる。
【0052】
インキ組成物及び水性OPニスを用いて金属素材面に印刷する場合は、まず、本発明のインキ組成物を用いてドライオフセット印刷機やオフセット印刷機等により印刷を行い、インキ組成物が乾燥しない状態(ウエットオンウエット)で、水性OPニスをコーター等によりオーバーコーティングし、その後、150~280℃で数秒~数分間焼き付けを行えばよい。
【0053】
<印刷中のミスチングを低減させる方法>
次に、本発明に係る印刷中のミスチングを低減させる方法について説明する。この方法は、酸価が25mgKOH/g以上である樹脂を含む金属印刷用インキ組成物において、これにアルカノールアミン化合物を添加することを特徴とする。すなわち、印刷に用いるインキ組成物を上記本発明のインキ組成物と同様の組成として、印刷中のミスチングを抑制させるのが本発明の方法である。
【0054】
本発明の方法において、添加されるアルカノールアミン化合物は、分子中に2個以上の水酸基を含むことが好ましく、分子中に4個以上の水酸基を含むことがより好ましい。このことは既に説明した通りである。
【0055】
また、本発明の方法において、上記樹脂は、ロジン変性樹脂であることが好ましく、このロジン変性樹脂は、その構造中にマレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸及び無水フマル酸からなる群より選択される少なくとも一つを由来とする部位を含むことがより好ましい。このことも既に説明した通りである。
【0056】
その他、本発明の方法で用いるインキ組成物については、上記本発明のインキ組成物にて既に説明した通りであるので、ここでの説明を省略する。
【実施例0057】
以下、実施例を示すことにより本発明のインキ組成物をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0058】
[ワニス1の調製]
ネオペンチルグリコール17.4質量部、ペンタエリスリトール23.0質量部、ヤシ油脂肪酸22.2質量部、イソフタル酸36.8質量部及びテレフタル酸7.01質量部を窒素雰囲気下にて230℃で加熱して1段階目のエステル化を行い、その後無水トリメリット酸4.7質量部を加えて、窒素雰囲気下にて155℃で加熱して2段階目のエステル化を行った。これらのエステル化反応は、常法に従って行い、酸価34.0mgKOH/g、油長23.5、重量平均分子量6720、数平均分子量1270のアルキッド樹脂Aを得た。このアルキッド樹脂A51.7質量部を48.2質量部のトリプロピレングリコールモノブチルエーテルに溶解させ、ワニス1を得た。ワニス1は、ヤシ油変性アルキッド樹脂(酸価34.0mgKOH/g)のワニスである。
【0059】
[ワニス2の調製]
マレイン化ロジン樹脂(酸価205.5mgKOH/g、重量平均分子量536、数平均分子量312、軟化点108℃≦)56.7質量部及びトリプロピレングリコールモノブチルエーテル40.5質量部を130℃にて1時間加熱及び撹拌してこれらを溶解させ、その後、アルミニウムエチルアセトアセテートジイソプロピレート(ALCH)1.3質量部を加えて130℃にて40分間加熱及び撹拌してゲル化を行うことで、ワニス2を得た。ワニス2は、マレイン化ロジン樹脂(酸価205.5mgKOH/g)のゲル化ワニスである。
【0060】
[ワニス3の調製]
ネオペンチルグリコール16.7質量部、ペンタエリスリトール22.2質量部、ヤシ油脂肪酸34.7質量部、イソフタル酸30.4質量部及びテレフタル酸6.8質量部を窒素雰囲気下にて230℃で加熱してエステル化を行った。エステル化反応は、常法に従って行い、酸価10.6mgKOH/g、油長36.7、重量平均分子量9204、数平均分子量1299のアルキッド樹脂Bを得た。このアルキッド樹脂B51.7質量部を48.2質量部のトリプロピレングリコールモノブチルエーテルに溶解させ、ワニス3を得た。ワニス3は、ヤシ油変性アルキッド樹脂(酸価10.6mgKOH/g)のワニスである。
【0061】
[実施例1~17、比較例1~5]
表1~3に示す処方にて、実施例1~17、及び比較例1~5のインキ組成物を調製した。インキ組成物の調製に際しては、各成分を混合した後、40℃に加熱したロールミルにて混練を行った。なお、表1~3に記載した各配合量は、質量部である。また、表1~3において、「着色顔料」はフタロシアニンブルー15:3であり、「硬化剤」はフルエーテル型メチル化メラミン樹脂(オルネクス社製、Cymel303LF)であり、「溶剤」はトリプロピレングリコールモノブチルエーテルであり、「アルカノールアミン4」は上記化学式(2-4)に示す4つの水酸基を備えたアルカノールアミン(Quadrol(登録商標)、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン)であり、「アルカノールアミン3」は上記化学式(2-3)に示す3つの水酸基を備えたアルカノールアミン(トリエタノールアミン)であり、「アルカノールアミン2」は上記化学式(2-2)に示す2つの水酸基を備えたアルカノールアミン(N-メチルジエタノールアミン)であり、「アルカノールアミン1」は上記化学式(2-1)に示す1つの水酸基を備えたアルカノールアミン(2-(ジブチルアミノ)エタノール)である。
【0062】
[流動性評価]
各実施例及び比較例のインキ組成物のそれぞれについて、スプレッドメーターにてフロー値を測定し、フロー傾斜(スロープ)値にて流動性を評価した。なお、フロー傾斜値とは、スプレッドメーターで100秒後の広がり直径をmm単位で計った数値から、10秒後の広がり直径をmm単位で計った数値を差し引いた数値であり、この値が大きいほど流動性が良好となる。算出されたフロー傾斜(スロープ)値(mm)を表1~3の「フロー傾斜値」欄に示した。
【0063】
[耐ミスチング評価]
各実施例及び比較例のインキ組成物のそれぞれについて、インキ組成物2.6ccをとってインコメーターの回転ローラーに塗布し、均一にならした後、1200rpmで1分間回転させた。この間、ローラーの下に白紙を置いておき、その上へのミスチングの多少を比較した。測定はローラーを30℃に保って行った。測定前後の白紙の質量変化を求め、これをミスチング量(mg)とした。測定前後の白紙の質量変化が大きいほど、インキ組成物の飛散量が多いことになるので、この値が小さいほど良好な結果といえる。算出されたミスチング量(mg)を表1~3の「ミスチング量」欄に示した。
【0064】
[鉛筆硬度]
各実施例及び比較例のインキ組成物のそれぞれについて、RIテスター(株式会社明製作所製)4分割ロールを用いてインキ組成物0.1ccをアルミニウム板上に展色し、得られた展色片を電気オーブンで200℃にて2分間加熱した。その後、展色片を室温に戻し、JIS K5600に基づき展色表面の鉛筆硬度を測定した。その結果を表1~3の「鉛筆硬度」欄に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
【表3】
【0068】
表1及び2に示すように、アルカノールアミンを含まない比較例1に比べて、アルカノールアミンを含む実施例1~17ではミスチング量が低減した。また、実施例1~17の各インキ組成物は、いずれもフロー傾斜値が3.0以上であり、印刷中に壷上がりを生じない、実用的な流動性を示すことがわかる。さらに、アルカノールアミンに含まれる水酸基の数が2以上であれば、ミスチング量が大きく低減され、その効果は、アルカノールアミンに含まれる水酸基の数が4である実施例1~5でより顕著であることがわかる。また、表3にて比較例2と比較例3~5とを対比すると、用いた樹脂の酸価が25mgKOH/gよりも小さい場合には、アルカノールアミン化合物を添加したときのミスチング量の低減効果が得られないことがわかる。
【手続補正書】
【提出日】2021-11-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色顔料、樹脂及び溶剤を含んでなる金属印刷用インキ組成物であって、
前記樹脂の少なくとも一部酸価50mgKOH/g以上のロジン変性樹脂であり、さらにアルカノールアミン化合物を含むことを特徴とする金属印刷用インキ組成物。
【請求項2】
前記アルカノールアミン化合物が、分子中に2個以上の水酸基を含むことを特徴とする請求項1記載の金属印刷用インキ組成物。
【請求項3】
前記アルカノールアミン化合物が、分子中に4個の水酸基を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の金属印刷用インキ組成物。
【請求項4】
前記ロジン変性樹脂が、その構造中にマレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸及び無水フマル酸からなる群より選択される少なくとも一つを由来とする部位を含むことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項記載の金属印刷用インキ組成物。
【請求項5】
酸価50mgKOH/g以上であるロジン変性樹脂を含む金属印刷用インキ組成物において、これにアルカノールアミン化合物を添加することを特徴とする、印刷中のミスチングを低減させる方法。
【請求項6】
前記アルカノールアミン化合物が、分子中に2個以上の水酸基を含むことを特徴とする請求項記載の方法。
【請求項7】
前記アルカノールアミン化合物が、分子中に4個の水酸基を含むことを特徴とする請求項又は記載の方法。
【請求項8】
前記ロジン変性樹脂が、その構造中にマレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸及び無水フマル酸からなる群より選択される少なくとも一つを由来とする部位を含むことを特徴とする請求項5~7のいずれか1項記載の方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0010
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0010】
(1)本発明は、着色顔料、樹脂及び溶剤を含んでなる金属印刷用インキ組成物であって、上記樹脂の少なくとも一部酸価50mgKOH/g以上のロジン変性樹脂であり、さらにアルカノールアミン化合物を含むことを特徴とする金属印刷用インキ組成物である。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0013
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0014
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0014】
)また本発明は、上記ロジン変性樹脂が、その構造中にマレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸及び無水フマル酸からなる群より選択される少なくとも一つを由来とする部位を含むことを特徴とする(1)項~(3)項のいずれか1項記載の金属印刷用インキ組成物である。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0015
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0015】
)本発明は、酸価50mgKOH/g以上であるロジン変性樹脂を含む金属印刷用インキ組成物において、これにアルカノールアミン化合物を添加することを特徴とする、印刷中のミスチングを低減させる方法でもある。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0016
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0016】
)また本発明は、上記アルカノールアミン化合物が、分子中に2個以上の水酸基を含むことを特徴とする()項記載の方法である。
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0017
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0017】
)また本発明は、上記アルカノールアミン化合物が、分子中に4個の水酸基を含むことを特徴とする()項又は()項記載の方法である。
【手続補正8】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0018
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正9】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0019
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0019】
)また本発明は、上記ロジン変性樹脂が、その構造中にマレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸及び無水フマル酸からなる群より選択される少なくとも一つを由来とする部位を含むことを特徴とする(5)項~(7)項のいずれか1項記載の方法である。