(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022114405
(43)【公開日】2022-08-05
(54)【発明の名称】複合化アルミニウム合金製セパレーターとその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/0208 20160101AFI20220729BHJP
H01M 8/0223 20160101ALI20220729BHJP
H01M 8/0213 20160101ALI20220729BHJP
H01M 8/0228 20160101ALI20220729BHJP
H01M 8/0206 20160101ALI20220729BHJP
C23C 26/00 20060101ALI20220729BHJP
【FI】
H01M8/0208
H01M8/0223
H01M8/0213
H01M8/0228
H01M8/0206
C23C26/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021045219
(22)【出願日】2021-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】592040815
【氏名又は名称】木内 学
(72)【発明者】
【氏名】木内 学
【テーマコード(参考)】
4K044
5H126
【Fターム(参考)】
4K044AA06
4K044AB10
4K044BA13
4K044BB01
4K044BB11
4K044BC14
4K044CA12
4K044CA16
4K044CA17
5H126AA14
5H126BB06
5H126DD05
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5H126EE22
5H126GG02
5H126GG06
5H126GG12
(57)【要約】
【課題】 燃料電池の構成機素である発電セルの基幹部品であるセパレーターは、該発電セルの隔壁であると同時に、該発電セル内で発生した微弱電流を集電し導電して外部へ引き出す役割も果すことから、良好な導電性が不可欠であり、同時に、該セル内の腐食性環境に耐える強靭な耐食性と長期寿命を必要とする。本発明は、かかる要求に応える軽量廉価な新型セパレーターに関する提案である。
【解決手段】半溶融加工技術を利用し、所要黒鉛粒子を分散内包して内部導電性および接触界面での接触導電性を確保し得るアルミニウム合金薄板を作成し、精密金型による精細張り出し圧造成形法により、該薄板を所要の形状寸法を有するセパレーター予製品へと作り込み、更に、得られた該予製品を酸化雰囲気中に一定時間保持し、その全表面に酸化アルミニウムの厚被膜を形成して強固な耐食性を付与した燃料電池発電セル用セパレーター、および、その製造法を提案した。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所要の元素成分と結晶組織および形状寸法を有するアルミニウム合金の薄板であって、該薄板の内部組織には、所要の数量の黒鉛粒子を分散状態で内包しており、該黒鉛粒子は所要の形状と寸法を有しており、更に、該薄板の表層部位に分散内包されている一部の該黒鉛粒子の一部表面部位が該薄板の表面に露出している状態にあり、かかる該薄板に所要の工具および刃具を用いて成形加工および造形加工を加え、該薄板を所要の形状寸法を有する三次元成形体へと造形し、その際、該三次元成形体の表層に、所要の流体を流通させ得る形状および寸法を持つ開口状溝形流路を作り込み、加えて、該造形加工が終了した該三次元成形体を所要の酸化条件下又は酸化雰囲気中に一定時間保持し、露出している該黒鉛粒子の一部表面部位を除く該アルミニウム合金三次元成形体の全ての表面を酸化して所要の厚さの酸化アルミニウムの被膜を形成せしめ、該酸化アルミニウム被膜と該黒鉛粒子の表面部位で被覆し尽くした該黒鉛粒子分散内包アルミニウム合金薄板製三次元成形体を創成する方法によって製造されたことを特徴とする燃料電池発電セル用セパレーター、および、その製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の該燃料電池発電セル用セパレーターと該製造方法において、該黒鉛粒子に代えて、所要の形状寸法を有するタングステンカーバイト粒子、又は、導電性セラミック粒子を用いることを特徴とする該燃料電池発電セル用セパレーター、および、該製造方法。
【請求項3】
請求項1、2に記載の該燃料電池発電セル用セパレーターと該製造方法において、該黒鉛粒子、又は、該タングステンカーバイト粒子、又は、該導電性セラミック粒子を分散内包する該アルミニウム合金に代えて、純アルミニウム、又は、銅合金、を用いることを特徴とする該燃料電池発電セル用セパレーター、および、該製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池を構成する発電セルの基幹部品であるセパレーターとその製造方法に関するものである。現状、燃料電池は、その構成機素である発電セル内へ外部から供給した燃料ガスと空気中の酸素(以下、“空気中酸素”と云う)とを反応膜上で化学反応させ、発生した電子の流れ即ち電流を外部へ取り出して利用する発電装置である。燃料電池の構造は、燃料ガスと空気中酸素とを反応させる機能を持つ反応膜を両面からガス拡散膜で挟み、更にその両外側をセパレーターと呼ばれる隔壁で挟み、発電機素としての発電セルを構成し、この発電セルを所要の数だけ直列的に重ね連結して全体を一体化固定し、加えて、燃料ガスと空気中酸素とをそれぞれの発電セルに供給する管路、発電反応に伴って発生する水および剰余ガスを排出する管路、および、発電された電流を集電し導電して外部に取り出す電気回路を備えた構造をしている(
図1参照)。
【0002】
燃料電池を構成する基本技術は、燃料ガスと空気中酸素との反応を促進する反応膜に関わる電気化学的反応促進技術、発生した微小電流を効率よく外部に取り出す集電導電技術並びに電気回路構成技術、更に、燃料ガスと空気中酸素を安定的に発電セルに送り込み、内部で発生した水や余剰ガス等を効率的に外部へ排出する微細流路構成制御技術である。
【0003】
燃料ガスと空気中酸素との反応については、その電気化学的挙動制御や発電効率向上に関する多くの研究が行われ、その成果として発電効率が高い反応促進材料およびその薄膜化技術の開発が進み、機能性に優れた反応膜が製造され供給されている。
【0004】
反応膜上で発電された微細電流の取り出しについては、[0001]で説明した該セパレーターが、該発電セルを構成する隔壁として機能すると同時に、微小電流の集電と導電を行う基幹回路部品として位置付けられている。しかしながら、該反応膜上で起こる該発電反応が腐食環境を生み出し、該セパレーターがこの腐食環境にさらされること、および、該発電セル内での該反応膜から該セパレーターへ至る微小電流の流れに対して、該セパレーターの表面における接触電気抵抗が障害になることから、該セパレーターとして利用できる材料に大きな制約が加わり、機能性、耐久性、経済性に優れた有用なセパレーターの開発が滞っている。
【0005】
本発明は、以上の状況に鑑み、特殊処理を施して所要の機能を付与したアルミニウム合金薄板を製造し、該薄板に所要の成形・造形加工および表面処理を施し、形状寸法精度ばかりでなく、耐食性や接触導電性に優れた該セパレーターを製造する技術を考案し、新たな可能性を提示するものである。本発明が提示する該アルミニウム合金製セパレーターは、1)一般的に利用に供されているアルミニウム合金を基材として用いるので廉価であり、当然ながら、軽量である、2)化学的酸化プロセスを利用して、該セパレーターを構成する該アルミニウム合金基材の全表面を酸化アルミニウム被膜で包み込み、腐食環境に露出させず、腐食問題を根本的に回避できる、3)黒鉛粒子又は耐食性導電粒子を該アルミニウム合金基材表層に分散内包させつつ表面に露出させ、発電セル内での該セパレーターと該ガス拡散膜との電気的接点を確保し、該セパレーター界面での接触電気抵抗を低減させることができる、等の特性を有している(
図2参照)。これら特性により、これまで有効な対策を示し得なかった廉価軽量の該発電セル用セパレーターの開発に向けて突破口を開くものである。
【背景技術】
【0006】
燃料電池の内部は、発電セルが積層された構造となっているが、その内部隔壁であると同時に各発電セルの外壁の役割を果たしている2枚の該セパレーターの内側の該ガス拡散膜に接している側の表面には、それぞれ流路が作り込まれており、片方の流路には燃料ガスを、他方の流路には空気中酸素を外部から送り込み、該反応膜を挟んでその両側に配設されている該ガス拡散膜を通して、該反応膜のそれぞれの表面、即ち、燃料ガス供給側および空気中酸素供給側の表面の全域にそれぞれ燃料ガスと空気中酸素とをまんべんなく拡散させ、効率よく発電反応を生起せしめることを目指している。併せて、これら流路を使って、又は、該セパレーターの内層に別途作り込んだ付随的な流路を利用して、反応の結果として発生する水や余剰ガスを外部へ取り出すことも行う。加えて、該発電セルの外表面層すなわち該セパレーターの背面層には、該発電反応に伴う発熱による該発電セル内部の温度上昇を抑制するための冷却水又は冷却空気を流通させる流路を作り込む場合もある(
図3参照)。
【0007】
個々の該発電セルに組み込まれた各2枚の該セパレーターは、それぞれ面接する該ガス拡散膜と一体となって燃料ガスと空気中酸素の流路を構成しているだけでなく、各セル内の該反応膜上で発生した微弱な電流を集電して導電する電極および電流回路の役割も果している。故に、該セパレーターは、該燃料ガスと該空気中酸素を該発電セルへ供給する流路を構成する機能、および、該発電セルの外壁を構成し形状寸法を維持する隔壁としての機能に加えて、微弱な発電電流を外部へ導き出す電気回路の構成部品としての良好な導電性を持つことが望まれる。特に、該反応膜上で発生した微弱電流は、該ガス拡散膜と該セパレーターとの接触界面を通して該セパレーター側へ導電されることから、該ガス拡散膜と該セパレーターとの界面における接触電気抵抗が大きな障害になる場合があり、この問題を克服することが、該燃料電池発電セルの効率向上を達成するための重要な課題となる。
【0008】
一方、該燃料電池発電セルにおいては、燃料ガスと空気中酸素との反応に伴って、強い腐食性ガスあるいは腐食性水溶液が発生することから、該セパレーターには、かかる使用環境に耐え得る耐食性が求められる。一般に、金属材料の耐食性は、腐食環境に置かれた材料又は加工品、この場合で云えば該セパレーター、の表面が金属化学的に安定であるほど耐食能力が高まる。他方、金属材料では、材料又は加工品の表面の金属化学的安定度が高まるほど、接触電気抵抗が高まる。即ち、該セパレーターに用いる素材料、この場合で云えば該アルミニウム合金、の表面又は加工品表面の耐食能力を高めることと、接触電気抵抗を出来るだけ低く抑えることとは、相反する特性を同時に求めることになる。
【0009】
該発電セル用セパレーターの開発は、目下の自動車産業において、大きな関心事になっている。[0007]、[0008]に説明した耐食性と導電性を併せ持ち、加えて、低コスト、軽量、長期耐久性、易量産性に優れた該セパレーターの開発を目指して多くの試みが為されているが、未だ、満足できる解決策に至っていない。本発明は、かかる状況に対応できる製品特性と構造機能を併せ持つ該セパレーターとその製造方法の開発に関するものである。
【0010】
発明した技術は、次の3種類の技術を組み合わせて、各技術の特性を有機的に結び付け、目的に合う三次元成形体としての該セパレーターの作り込みを可能にした技術である。第1は、黒鉛粒子分散内包アルミニウム合金薄板を効率良く安定的に製造する技術であり、第2は、該アルミニウム合金薄板を目的に応じて複雑微細な流路を具備する三次元成形体、即ち、所要の形状寸法を有するセパレーターへ成形加工する技術であり、且つ、高能率低コストで大量に製造し得る技術であり、第3は、該セパレーター表面の強固な耐食性を得るため、成形・造形加工が終了した該セパレーターの予製品を一体丸ごと酸化処理し、該セパレーターの露出黒鉛粒子を除く全表面を酸化アルミニウム被膜で覆い、腐食環境に対する抵抗力を高め、長時間の使用に耐える性能を獲得する技術、である。
【0011】
本発明による該黒鉛粒子分散内包アルミニウム合金薄板の製造方法は次の通りである。1)該アルミニウム合金の固体素材を加熱して、又は、該合金の溶湯を冷却して、該合金の固相線温度と液相線温度との間の温度域に維持し、液相と固相が併存する半溶融状態又は半凝固状態を保ちつつ攪拌し、その中へ該黒鉛粒子を混入して均一スラリーになるよう混錬し、2)該混錬スラリー体を所要の形状寸法を持つ鋳型を用いて鋳造し、あるいは、適当なプレス機械およびダイスを用いて押出し、所要の形状寸法を持つ直方体又は帯状体又は板状体に造形しつつ冷却して凝固させ、所要の固相の素形材を作り、3)該直方体又は帯状体又は板状体を、必要に応じてロールを用いて圧延して、所要の幅と厚さと長さを持つ該黒鉛粒子分散内包アルミニウム合金薄板を製造する。なお、この過程で、該黒鉛粒子を内包する該アルミニウム合金が凝固を完了せずに内部に液相成分が残存する状態で圧延する、即ち、半溶融圧延又は半凝固圧延を行う事も可能である(
図4参照)。
【0012】
該黒鉛粒子分散内包アルミニウム合金薄板の製造方法としては、[0011]に示す方法の他に、以下に示す方法、即ち、1)所要の幅および厚さを有する該アルミニウム合金の板材の表面上に所要の形状寸法を有する該黒鉛粒子の所要量を均一に散布した後、該板材の厚さ方向全域又は表層のみが半溶融状態になるように加熱して、それらを圧延ロール間に送り込み、適切な圧下加工を加えて、表面上に散布された該黒鉛粒子を該板材の表層部へ圧入しつつ同時に該板材を求める厚さを持つ板材へと圧延し、所要厚さの表層にだけ該黒鉛粒子を分散内包させた該アルミニウム合金薄板を得る方法(
図5参照)、2)該アルミニウム合金の粉粒と該黒鉛粒子を所要の体積率で混合し、所要の形状寸法へ圧粉成形した後、該圧粉体中の該アルミニウム粉粒が所要の半溶融状態になるまで加熱した後、金型による圧密加工を加え、所要の形状・寸法をもつ該黒鉛粒子分散内包アルミニウム合金の素形材を製造し、これに半溶融圧延又は熱間圧延又は冷間圧延を加えて、求める該黒鉛粒子分散内包アルミニウム合金薄板を製造する方法、がある。
【0013】
本発明が製造を目指す該セパレーターには、該発電セルへの組み付け時の内側表面に、燃料ガス又は空気中酸素を送り込むための微細流路を作り込む必要がある。多くの場合、該セパレーターの単体としての厚さは1.0mm程度であり、作り込むべき流路の幅と深さは数100μm以下の範囲にある。更に、該セパレーター表面上の流路形成域の広がりは、縦横長さが数10mmから数100mmの範囲にある(
図3参照)。これらの流路を形成するには、金型とプレス機械に依る所謂プレス成形加工が有用であるが、該セパレーターの場合のように、該薄板素板の板厚に対する成形域の広がりの比が大きい場合には、成形加工時に該薄板素板各部位の大きな塑性流れを必要とする絞り変形を利用することは難しく、各部位の限られた塑性流れの範囲内で形状創成が可能な固相又は半溶融状態下の張り出し加工や圧造加工の利用が有効である。故に、本発明においても、該アルミニウム合金薄板の該セパレーターへの成形加工に関しては、固相状態下又は半溶融状態下での張り出し圧造加工を行うことを前提とした工程設計および金型設計を行う(
図6参照)。
【0014】
該張り出し圧造用金型を用いての該成形加工を経て、該黒鉛粒子分散内包アルミニウム合金薄板から製造されてその表面に該ガス流路を有する該セパレーター相当三次元成形体は、その後、平坦度の矯正、不要部位の切り取り、穴あけ、曲げ、バリ取り、等の加工を受け、所要の製品形状寸法を持つ該セパレーター予製品へと作り込まれる。しかしながら、このままでは基材となっている該アルミニウム合金が必要十分な耐食性を持たないので、耐食性を付与するための処理が必要である。本発明では、該セパレーター予製品へ耐食性を付与するために、該予製品を丸ごと酸化炉又は酸化槽へ入れ、表面酸化を促進させ、該セパレーター予製品を酸化アルミニウムの膜で覆う処理を行う。この予製品丸ごと酸化処理により、該黒鉛粒子の露出部位を除く全ての該セパレーター製品表面が酸化アルミニウムの被膜で覆われた該セパレーターの完成品が得られる。この一体丸ごと酸化処理により、信頼性の高い防食性を得ることができる(
図7、8参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、燃料電池を構成する発電セルの中核部品であるセパレーターとその製造方法に関するものである。該セパレーターには、1)該発電セルを構成する隔壁としての強度を保持する、2)該発電セルへ燃料ガスおよび空気中酸素を導き入れ、該発電反応膜へ等しく供給するためのガス流路を構成する、3)発電された微弱電流を集電し、効率的に外部へ取り出すための導電性に優れた電気回路構成する、4)微弱電流を導電する過程で、導電回路に必然的に存在する接触結節点での接触抵抗による障害を回避する、5)腐食環境で長期の使用に耐えられる高い耐食性を有している、更に、6)大量且つ安価に製造できる易加工性、および、易製造性を持つ,ことなどが要求される。
【0016】
[0015]に説明した発電セル構成部品としての該セパレーターに求められる特性や機能に応えるため、本発明では、1)まず、該黒鉛粒子分散内包アルミニウム合金薄板の製造技術を開発し、次に、該アルミニウム合金薄板を該セパレーターへと成形し造形する技術を開発した。かかる技術開発により、該セパレーター本体に求められる良好な導電性を確保し、併せて、良好な成形性や加工性を確保し、精細複雑な形状寸法を要するセパレーターの作り込みを容易化した。同時に、2)分散内包されている該黒鉛粒子の一部の表面部位を該セパレーター表面に露出させることにより、該セパレーターと該ガス拡散膜との接触面において、該黒鉛粒子を接触点として、良好な導電性を確保した。更に、3)所要の張り出し圧造成形や切断穴開け造形等の加工が終了した該セパレーター予製品を強力な酸化雰囲気中に一定時間保持して全表面酸化を促進させ、該アルミニウム合金基材の全表面を酸化アルミニウムからなる強固な耐食膜で被覆することにより、発電セル内の使用環境に耐える耐食性を付与することを実現した。以上、一連の技術開発、即ち、新たな機能性材料としての該黒鉛粒子分散内包アルミニウム合金薄板とその加工法および表面処理法の開発と有機的連結に依り、該発電セル用セパレーターに要求される諸特性を効果的に満足できるセパレーターを得た。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明による該セパレーター用の素材である該黒鉛粒子分散内包アルミニウム合金薄板の製造には、基材である該アルミニウム合金の半溶融状態又は半凝固状態における特性を利用した半溶融加工技術又は半凝固加工技術を効果的に適用する。一般に、金属材料の中に異材粒子を分散混入して固定化することは容易ではない。通常、当該金属溶湯の中へ所要の異材粒子を投入して攪拌し凝固させる方法が想定されるが、実際には、攪拌を中止した瞬間に比重差による当該異材粒子の分離凝集が起り、均一な分散混入は出来ない。両者の粉末を混ぜ合わせて圧粉成形した後、加熱して当該金属粉のみを溶解し、冷却凝固させて固定し、当該異材粒子が分散内包されている複合素形材を製造する方法も考えられるが、この場合も当該金属基材粉末の溶解に伴って、混入粒子の移動凝集が起る。
【0018】
本発明では、該黒鉛粒子分散内包アルミニウム合金薄板のより合理的且つ簡易な製造法として、半溶融加工法又は半凝固加工法を拡張応用する。即ち、当該アルミニウム合金の基材を固相線温度以上の半溶融状態又は半凝固状態に加熱又は冷却してスラリー状とし、これを攪拌しつつ当該黒鉛粒子を混入する。当該アルミニウム合金のスラリー体は、適度の粘度を持ち、攪拌により該黒鉛粒子の混入を容易化すると同時に、比重差に依る該黒鉛粒子の分離凝集を防ぎ、分散混入状態を容易に維持することが可能である。その後、当該混合スラリー体を所要形状および寸法を持つ鋳型に流し込み凝固させ、該黒鉛粒子分散内包アルミニウム合金の所要の形状寸法を持つ素形材を製造する。さらに、該素形材を、固体又は半溶融体での押出し加工、圧延加工などにより、所要の薄板へと作り込む(
図4参照)。また、該アルミニウム合金の板状材の表面に所要量の該黒鉛粒子を散布し、そのまま該板状材の表層域又は厚さ方向全域が半溶融状態になる温度に加熱した後、圧延ロールあるいはプレス金型を用いて圧下を加え、表面に散布した該黒鉛粒子を該アルミニウム合金の表層部位に圧入しつつ所要の板厚まで圧下する方法により、所要の該黒鉛粒子分散内包アルミニウム合金薄板を製造することもできる(
図5参照)。この場合、所要の形状寸法を持つ金型を用いて圧下成形を加えることにより、該黒鉛粒子の該アルミニウム合金表層域への圧入と同時に、該セパレーターへの成形および造形を同時に行うこともできる。
【0019】
[0013]で記述した該黒鉛粒子分散内包アルミニウム合金薄板の該セパレーターへの成形および造形には、所要の金型によるプレス加工が有用であるが、該薄板素板の面内広がり寸法が該薄板厚および製品厚に比して大であるため、該薄板素板の各部位が成形加工時に面内方向へ大きく移動することが困難であり、その事実を無視すると、成形加工中に該薄板素板の破断を招く。故に、該薄板素板各部位の板面方向への大きな移動を要しないことを前提とした成形加工、即ち、張り出し加工および圧造加工を主体として、求める製品形状を得る加工設計が必要となる。本発明に依る該黒鉛粒子分散内包アルミニウム合金薄板は、変形抵抗が低く、変形能は高く、成形性は良好と考えられる薄板素板であるが、目的とする所要セパレーターは、表面に細かい流路が密集する微細複雑な形状と寸法を要することから、成形・造形加工は必ずしも容易ではない。又、実生産には大量生産を可能とする製造方式を必要とする。このため、微細寸法精度に優れ、耐摩性が高く、型くずれが起こり難い超硬合金等硬質材金型を用いる高速張り出し圧造プレス加工の適用が有効である(
図6参照)。
【0020】
製造された該セパレーターは、該発電セル部品として該燃料電池内に組み込まれ、長期間、腐食環境下で使用される。故に、該セパレーターの耐食性は、該薄板素板としての初期耐食性ばかりでなく、該発電セル内へ組付けられた該セパレーター製品としての耐食性が要求される。すなわち、該薄板素板を該製品セパレーターへと成形加工あるいは造形加工する際に発生する切断面、剪断面、孔抜き壁面、打痕・こすれ等表面キズ、その他加工に伴い発生する新生面についても、腐食雰囲気への暴露を防ぐ十分な対策をしなくてはならない。該薄板素板そのものが表面のみならず内質に至るまで高い耐食性を有する場合には、かかる問題は発生しないが、該薄板素板には耐食性の他にも導電性等が要求されることから、該セパレーター予製品に表面被覆を施して耐食性を獲得せざるを得ない場合もあり、その場合、該成形・造形中に不可避的に発生する新生面に対する表面被覆処理が不可欠となる。
【0021】
本発明では、[0020]で記述した成形・造形過程における新生面発生に起因する腐食問題を回避するため、該薄板素板から該セパレーターへの作り込み加工がすべて終了した該黒鉛粒子分散内包アルミニウム合金薄板からなる該セパレーター予製品を、酸化促進剤を用いて形成した強い酸化雰囲気炉又は酸化槽の中に入れ、所要温度に加熱したまま一定時間封入維持して、必要十分な厚さを持つ酸化アルミニウムの膜を形成発達させ、該黒鉛粒子の露出部位を除く該セパレーター予製品の全表面を酸化アルミニウムの膜で完全に被覆して、該発電セル部品としての該セパレーターの信頼性の高い耐食性を獲得する。このようにして、該黒鉛粒子分散内包アルミニウム合金薄板材から、所要の形状寸法を持つ該セパレーターを成形・造形し、これを一体丸ごと酸化処理する一連の技術の開発とそれらの総合化により、本体中身は、該アルミニウム合金としての優れた変形能により、微細複雑な形状寸法を要する該セパレーターへの成形・造形を容易に達成し、併せて、微弱電流を容易に導電できる内部導電性を維持し、更に、表面に露出している該黒鉛粒子により他部品との接触界面における電気的結節点を形成して接触抵抗を低下させ、更に、全基材表面を耐食性に優れた酸化アルミニウムで被覆して、長期間の使用に耐える耐食性を保持した軽量廉価な該発電セル用黒鉛粒子分散内包アルミニウム合金製セパレーターを製造する(
図7,8参照)。
【発明の効果】
【0022】
本発明に依る該黒鉛粒子分散内包アルミニウム合金薄板から作られた該燃料電池発電セル用セパレーターは、導電性に優れ、耐食性が良好であり、軽量で廉価であることから、総体的に見て燃料電池発電セル用セパレーターとしては優れた特性を持ち、高効率な各種燃料電池の開発と普及に大きく貢献することが出来る。これを可能にしたのが、該黒鉛粒子分散内包アルミニウム合金薄板の開発、該薄板を所要セパレーターへと作り込む精細精密な熱間および半溶融又は半凝固成形・造形加工技術の開発、加えて、所要成形・造形加工終了後の該セパレーター予製品の丸ごと酸化処理による全露出基材表面の酸化アルミニウム被覆による必要十分な耐食性獲得技術の開発、等一連の新技術開発と総合化である。
【0023】
[0016]、[0022]に記述した諸開発技術のうち、該黒鉛粒子分散内包アルミニウム合金薄板は、表層に分散内包された該黒鉛粒子の一部部位を該合金薄板表面から露出させて電流接点として用いることにより、発電された微弱電流が該発電セル内の該反応膜および該ガス拡散膜から該セパレーターへ流れ出る際の接触抵抗を低下させることが可能となり、該発電セルの発電効率の向上に大きく貢献している(
図2参照)。
【0024】
[0016]、[0022]に記述した諸開発技術のうち、該黒鉛粒子分散内包アルミニウム合金薄板を所要の形状寸法を有する該セパレーターへ向けて精細成形・複雑造形する加工手段としては、所要の形状寸法精度を有する硬質金属製精密金型を用いての張り出し圧造プレス加工法を採用する。この精細複雑な三次元造形には、上下金型の高精度芯合わせが必須であり、一般のプレス加工では達成が容易ではない±10μm水準の精度が望まれる。この問題に関しては、別途開発した高精度ダイセット技術を用いて解決する(
図6参照)。
【0025】
[0016]、[0022]に記述した諸開発技術の内、該発電セルを組み立てた際の該反応膜上で発生した微弱電流の該セパレーターへ向けての流れ出しに対する該セパレーターと該ガス拡散膜との界面の接触抵抗の低減を図るため、該セパレーターの表面に一部表層部位が露出した該黒鉛粒子を電気接点として分散内包させてあるが、この導電性粒子を電気接点として用いる技術が有効であることを既に確認してあり、全接触面に対しで該黒鉛粒子の露出面積率が数%以上あれば十分であることが見出されている。
【0026】
[0016]、[0022]に記述した諸開発技術の内、成形・造形加工終了後の該セパレーター予製品を丸ごと酸化処理し、表面を酸化アルミニウムで覆いつくす防食処理法としては、湿式処理法、又は、乾式処理法の利用が可能である。湿式処理法としては、所定の酸性溶液中での被処理材を陽極とする所定電気分解法の利用が可能であり、乾式処理法としては、オゾン等特定酸化促進剤を用いる高濃度酸化雰囲気ガス炉中に被処理材を所定温度に加熱維持する手法が利用できる(
図7参照)。いずれの処理法も、該薄板素板表面ばかりでなく、成形・造形加工中に発生した新生面をも含めて、該セパレーター予製品の全表面をくまなく被覆できる特徴と、大量廉価に処理できる技術機能を有している。
【図面の簡単な説明】
【
図1】 燃料電池用発電セルの基本構造と複数の発電セルの積層状況説明図
【
図2】 該黒鉛粒子分散内包アルミニウム合金薄板材の内部構造説明図
【
図3】 本発明が製造を目指すセパレーターの基本的形状および構造の概念図
【
図4】 半溶融混合攪拌鋳造法と圧延法による該黒鉛粒子分散内包アルミニウム合金薄板の製造工程説明図
【
図5】 半溶融圧延法による該アルミニウム合金薄板材表層への該黒鉛粒子圧入法説明図
【
図6】 該黒鉛粒子分散内包アルミニウム合金薄板の金型に依る張り出し圧造成形概念図
【
図7】 成形・造形加工後の該セパレーター予製品の一体丸ごと酸化処理法概念図
【
図8】 一体丸ごと酸化処理後の該セパレーター最終製品の断面構造説明図
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明に依る該黒鉛粒子分散内包アルミニウム合金薄板の製造には、まず、該アルミニウム合金の素片を、所要の坩堝を用いて加熱し半溶融化した後、その中へ該黒鉛粒子を投入し、攪拌混錬して該アルミニウム合金と該黒鉛粒子の混合スラリーを作成する。次に、該混合スラリーを用意した箱状の鋳型へ流し込み、冷却凝固させて、直方体状の該混合体の固形素形材を作成する。続いて、該素形材を熱間域又は半溶融温度域に加熱し、平ロール圧延機に送り込み、必要回数の圧延を繰り返し、所要板厚・幅・長さを有する該黒鉛粒子分散内包アルミニウム合金薄板を作成する(
図4参照)。
【0028】
[0027]で記述した該半溶融攪拌鋳造圧延法の代わりに、所要の形状寸法を有する該アルミニウム合金の板材を用意し、該合金板材の表面上に該黒鉛粒子の所要量を散布し、該黒鉛粒子を乗せたままの該合金板材を加熱して、その表層域、又は、板厚方向全域を半溶融化したのち、1)加熱された該アルミニウム合金板材と該黒鉛粒子を一体的にロールで圧延して該黒鉛粒子を該合金板材表層域へ圧入すると同時に、該合金板材を所要の板厚まで圧下して、該黒鉛粒子分散内包アルミニウム合金薄板を製造する(
図5参照)、2)所要の金型とプレス機械を用いて、半溶融化した該合金板材とその表面に散布した該黒鉛粒子に成形加工および圧造加工を加え、所要の三次元成形体、即ち、該セパレーターへと成形し造形する、と同時に、該セパレーターの所要の表層域に該黒鉛粒子を圧入し、該黒鉛粒子分散内包型セパレーターを一気に製造することも出来る。これらは、該セパレーターの製造合理化を実現する技術として、若干の温度制御や加工同調制御が必要であるが、実施可能であることは確認済みであり、製造コスト削減の方策として有用である。
【0029】
[0027]に記述した該黒鉛粒子分散内包アルミニウム合金薄板を製造する場合、その後工程で、所要の金型を用いて、該合金薄板に張り出し圧造成形および抜き・剪断等の造形加工を加え、所要の形状寸法を有する該セパレーター予製品へと作り込む。加工対象となる該合金薄板は、該アルミニウム合金を基材としているので、プレス加工性は良好である。但し、該成形・造形加工は比較的容易と見えるが、該合金薄板の厚さおよび成形後の該予製品の厚さに比して、該薄板素板の面内寸法が大きく、また、該セパレーターが必要とする形状寸法が精細複雑であるので、必要とされる張り出し圧造成形には高度な技術を要する(
図6参照)。そこで、採用する金型には、安定性確保に十分な硬度と耐摩性が必要であり、且つ、負荷時の歪みあるいは撓みを極力減らすための強度・剛性が必要である。このため、金型材料としては、超硬合金等硬質金属を使用することが望ましい。又、プレス機械としては、必要十分な剛性を持ち、高速運転に耐えるものを選ぶ必要がある。
【0030】
所要の成形・造形加工が終了した該黒鉛粒子分散内包アルミニウム合金薄板製の該セパレータ―予製品の全表面酸化処理は、乾式法としては酸化雰囲気炉、又、湿式法としては酸性溶液電解槽、を用いて行う。乾式法としては酸化雰囲気炉中で、該予製品セパレーターを所要温度に加熱し、一定時間保持する。湿式法としては、該予製品を陽極とする電気分解法を適用する。いずれの方法でも、該アルミニウム合金が露出している全表面に厚さが概ね30μm又はそれ以上、の酸化アルミニウムの層を形成する。酸化アルミニウムは強い耐食性を持つので、成形加工終了後の丸ごと全表面酸化被覆処理を受けた該セパレーター製品は、部品として組み立てた状態で、安定的な耐食性を持つことが出来る(
図7参照)。
【符号の説明】
1 発電セル
2 セパレーター
3 発電反応膜
4 ガス拡散膜
5 燃料ガス流路
6 空気中酸素流路
7 冷却水又は冷却ガス流路
8 アルミニウム合金
9 黒鉛粒子
10 燃料ガス又は空気中酸素の供給孔
11 供給された燃料ガス又は空気中酸素の貯留槽
12 供給された燃料ガス又は空気中酸素流路
13 使用済廃ガス貯留槽
14 使用済廃ガス排出孔
15 黒鉛粒子分散内包アルミニウム合金薄板部位
16 配管孔
17 半溶融攪拌混入坩堝
18 鋳造ビレット
19 圧延ロール
20 圧延後の黒鉛粒子分散内包アルミニウム合金板
21 加熱炉
22 半溶融化加熱域
23 張り出し圧造成形用金型(下型)
24 張り出し圧造成形用金型(上型)
25 張り出し成形域
26 圧造成形域
27 稀硫酸・しゅう酸水溶液
28 張り出し圧造成形終了後のセパレーター予製品
29 陰極
30 酸化雰囲気炉
31 発熱体
32 酸化促進剤
33 酸化アルミニウム層