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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022114421
(43)【公開日】2022-08-05
(54)【発明の名称】シアン化金カリウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 1/01 20210101AFI20220729BHJP
   C01C 3/11 20060101ALI20220729BHJP
【FI】
C25B1/01 Z
C01C3/11
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021118444
(22)【出願日】2021-07-19
(62)【分割の表示】P 2021010640の分割
【原出願日】2021-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】596133201
【氏名又は名称】松田産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 孝生
(72)【発明者】
【氏名】水橋 正英
【テーマコード(参考)】
4K021
【Fターム(参考)】
4K021AB25
4K021BA01
(57)【要約】
【課題】金めっきの電着状態悪化を抑制できるシアン化金カリウムの製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 シアン化カリウム溶液中に金電極と陰極とを配置し、電気分解することでシアン化金カリウム溶液を得るステップ、得られたシアン化金カリウム溶液からシアン化金カリウムを晶出するステップ、及び晶出した結晶を脱水し真空乾燥する乾燥ステップ、を含むシアン化金カリウムの製造方法であって、前記金電極がリサイクル金である製造方法により、課題を解決する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアン化カリウム溶液中に金電極と陰極とを配置し、電気分解することでシアン化金カリウム溶液を得る電気分解ステップ、得られたシアン化金カリウム溶液からシアン化金カリウムを晶出する晶出ステップ、及び晶出した結晶を脱水し真空乾燥する乾燥ステップ、を含むシアン化金カリウムの製造方法であって、前記金電極がリサイクル金である、製造方法。
【請求項2】
前記金電極中の銀含有量が10ppm以下である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記乾燥ステップは、晶出した結晶を3回以下洗浄する、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記乾燥ステップは、真空乾燥時の真空度が0.01~0.1MPaであり、温度が30~95℃である、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシアン化金カリウムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金(Au)は、電気伝導性や熱伝導性に優れていることから、電子部品材料として使用されている。軟質金めっきと呼ばれる純度の高い金めっきは、接触抵抗が低く、硬度が低いため、IC(集積回路)のボンディングワイヤなどに使用される。一方、硬質金めっきと呼ばれる純度の低い金めっきは、硬度が高く、光沢があるため、電子部品のコネクタや装飾用などに使用される。なお、金めっき液の金供給用の薬剤として、化学的な安定性や溶解容易性の観点から、シアン化金カリウムが使用されている。
【0003】
シアン化金カリウムの製造方法として、シアン化カリウム溶液の電解槽中に金の陽極を配置し、陰極として金属板を配置して電解することで、シアン化金カリウムを晶析させ、分離する方法が知られている(例えば特許文献1、2)。また、特許文献3には隔膜電解法によりシアン化金塩を晶析させ、結晶を分離した後、分離した溶液を活性炭処理することで、該溶液を隔膜電解法の陽極液として再使用する技術が知られている
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62-260084号公報
【特許文献2】特開平6-192866号公報
【特許文献3】特開平4-221086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
金めっきの電着においては、金めっき液の金供給用の薬剤としてシアン化金カリウムが補充されるが、その際に金めっきの電着状態が悪化する場合があることに、本発明者らは想到した。本発明は、金めっきの電着状態悪化を抑制できるシアン化金カリウムの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討したところ、金めっきの電着状態の悪化は、シアン化金カリウムに含まれる不純物が原因であるという知見を得た。そして更に検討を進めたところ、シアン化金カリウムに含有される不純物のうち、銀(Ag)と硫黄(S)とが反応して黒色のAgS(硫化銀)が生成したり、銀と塩素(Cl)とが存在することでAgCl(塩化銀)が生成したりする場合があり、該AgS、及びAgClの存在により金めっきの電着状態を悪化させることに想到した。
【0007】
一方で、鉱山より産出したAuには多くのAgが含まれているが、Au中のAgを減らすことは、両元素の性質が似ていることから非常に困難で、溶媒抽出や電解精製を何度も繰り返す必要があるため、製造工数を大幅に増やしてしまうことになった。そこで本発明者らは、シアン化金カリウムの製造において、電極として用いるAuに鉱山より産出したバージンのAuではなくリサイクル品のAuを用いることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明の要旨は、シアン化カリウム溶液中に金電極と陰極とを配置し、電気分解することでシアン化金カリウム溶液を得る電気分解ステップ、得られたシアン化金カリウム溶液
からシアン化金カリウムを晶出する晶出ステップ、及び晶出した結晶を脱水し真空乾燥する乾燥ステップ、を含むシアン化金カリウムの製造方法であって、前記金電極としてリサイクル金を用いる製造方法である。
また、前記金電極中の銀含有量は、10ppm以下であることが好ましい。
また、前記乾燥ステップは、晶出した結晶を3回以下洗浄することが好ましく、真空乾燥時の真空度が0.01~0.1MPaであり、温度が30~95℃であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、金めっき液の金供給用の薬剤として補充した際に、金めっきの電着状態悪化を抑制できるシアン化金カリウムを提供することができる。また、リサイクルしたAuをシアン化金カリウムの原料として用いることで、リサイクルしたAu中のAg含有量は低いことから、溶媒抽出や電解精製による精製工程を大幅に減らすことができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0011】
本発明の一実施形態は、シアン化カリウム溶液中に金電極と陰極とを配置し、電気分解することでシアン化金カリウム溶液を得るステップ(電気分解ステップ)、得られたシアン化金カリウム溶液からシアン化金カリウムを晶出するステップ(晶出ステップ)、及び晶出した結晶を洗浄脱水し真空乾燥するステップ(乾燥ステップ)、を含むシアン化金カリウムの製造方法である。
【0012】
<電気分解ステップ>
電気分解ステップでは、シアン化カリウム溶液、金電極、陰極、及びイオン交換膜などの隔膜を準備する。
シアン化カリウム溶液は、シアン化カリウム結晶を純水に溶かすことで調製できる。シアン化カリウムは、シアン化水素と水酸化カリウムを反応させて製造してもよく、市販されているシアン化カリウムを用いてもよい。
シアン化カリウム溶液は、孔径0.1μm~1μmの濾過フィルタで濾過することが好ましい。この濾過工程により、不純物として混入するSiOなどの酸化物をある程度、除去することができる。
【0013】
次に、シアン化カリウム溶液中で、金を陽極として電解する。陰極は、イオン交換膜などの隔膜で仕切り、陰極に金が電着しないようにシアン化カリウム溶液に対し不溶性の電極を用いる。陰極としては、Ti、Ta、Zr、Nb等の金属を用いることができる。そして、金濃度が一定の濃度になった時点で、陽極室からシアン化金カリウム溶液を抜き出す。
【0014】
本実施形態では、陽極である金電極にリサイクル金を用いる。
一方で、鉱山より産出した金には多くの銀が含まれているが、金中に含まれる銀を減らすことは、両元素の性質が似ていることから非常に困難で、溶媒抽出や電解精製を何度も繰り返す必要があるため、製造工数を大幅に増やしてしまうことになった。そのため、シアン化金カリウムの製造において、鉱山より産出したバージンの金ではなくリサイクル金からなる金電極を用いることで、金めっきの電着状態悪化を抑制するとともに、金の精製に必要な製造工数を抑制することができる。なお、金中の不純物のうちAg(銀)が存在することにより、メッキ液中に微量に存在するS(硫黄)やCl(塩素)と反応して黒色のAgS(硫化銀)やAgCl(塩化銀)を生成する。これらが生成することにより金め
っきの電着状態を悪化させる。
【0015】
本実施形態において、金電極中の銀含有量は、20ppm以下であることが好ましく、
10ppm以下であることがより好ましく、5ppm以下であることが更に好ましく、1ppm以下であることが特に好ましい。リサイクル金を用いることで、通常金電極中の銀含有量は、上記所望の範囲となる可能性が高いが、必要に応じ溶媒抽出や電解精製を行ってもよい。
【0016】
<晶析ステップ>
晶析ステップでは、電気分解ステップで得られたシアン化金カリウム溶液から、シアン化金カリウムを晶析させる。シアン化金カリウム溶液を100℃以上で加熱することで溶液を濃縮してシアン化金カリウム結晶を晶出させる。
【0017】
<乾燥ステップ>
前記晶析ステップで得られたシアン化金カリウム結晶には、水分が残存しているため脱水する。脱水の方法は特に限定されず、遠心脱水や乾燥脱水などが例示されるが、遠心脱水することが好ましい。脱水する際は、純水あるいはアルコールを適当量添加することで、洗浄脱水することが好ましい。純水あるいはアルコールを適当量添加して洗浄脱水することにより、結晶表面に付着した不純物を除去し、結晶の凝集を防ぐことが可能となる。脱水した結晶は、乾燥機に投入する。乾燥機による乾燥の方法は特に限定されないが、真空乾燥が好ましい。その際の真空度は0.01~0.1MPaであることが好ましく、乾
燥温度は30~95℃であることが好ましい。より好ましくは、真空度が0.05~0.1MPaであり、乾燥温度は60~90℃である。
真空度が上記範囲内であることで、効率的に脱水が可能となり、生産性が向上する、また、乾燥温度が上記範囲内にあることでも生産性が向上する。
特に金電極としてリサイクル金を用いる場合には、Ag含有量が少ないため結晶表面に付着した不純物量が少ないことより、簡単な洗浄、例えば3回以下、好ましくは2回以下、より好ましくは1回以下の洗浄で不純物除去が可能となる。
【実施例0018】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の範囲が実施例の記載により限定されないことはいうまでもない。まず、実施例で用いた評価方法について説明する。
【0019】
(Au中のAg濃度の測定)
ICP発光分光分析装置により測定した。
【0020】
(電解金めっきの条件)
金イオン供給源:シアン化金カリウム 8g/L
電導性向上:クエン酸及びクエン酸カリウム 100g/L
pH:4.5
浴温:50℃
電流密度:1A/dm
膜厚:5μm
【0021】
(無電解金めっきの条件)
金イオン供給源:シアン化金カリウム 6g/L
安定性向上:シアン化カリウム 12g/L
pH調整:水酸化カリウム 12g/L
還元剤:水素化ホウ素ナトリウム 20g/L
pH:13
浴温:70℃
【0022】
(めっき膜の膨れの評価)
めっき膜をSEM(走査型電子顕微鏡:JEOL製JSM-7000F)で観察し、めっき膜に生じている凹凸のうち、凸部のサイズが5μm以上の拡がりを持つものを「ふくれ」と定義した。
【0023】
<実施例1>
市販のシアン化カリウム結晶400gを1Lの純水溶液に溶かした。次に、得られたシアン化カリウム溶液を0.1μmのろ過フィルタでろ過した後、ろ過液を陽極電極用の溶液とした。そして、陽極に金(リサイクル品、Ag含有量<1wtppm)を用いて電気分解を行った。陽極電解液中の金濃度が10g/Lになった時点で陽極電解液を抜き出し、その後、100℃以上で濃縮しシアン化金カリウム結晶とした。
この結晶を遠心分離機で脱水するが、脱水途中でさらに純水を入れ遠心分離機でシアン化金カリウム結晶を脱水した。その後真空乾燥機に入れ真空ポンプで引きながら真空度0.09MPa、温度80℃で乾燥した。
このようにして得られた実施例1のシアン化金カリウム結晶について、Agの含有量を分析した結果、1wtppm未満であった。
【0024】
実施例1のシアン化金カリウム溶液を用いて、電解めっき/無電解めっきを実施して、金めっき皮膜を形成し、得られた金めっき膜の表面を観察した結果、膨れの数は0個であった。
【0025】
<実施例2>
陽極に金(リサイクル品、Ag含有量10wtppm)を用い、脱水時に純水を3回入れた以外は、実施例1と同様に行った。得られた実施例2のシアン化金カリウム結晶について、Agの含有量を分析した結果、1wtppmであった。また同様にめっきを実施したところ、その結果、膨れの数は1個であった。
【0026】
<比較例1>
電気分解において、陽極の金を鉱山から産出した金(バージン品、Ag含有量25wtppm)を用い、脱水時に純水を10回入れた以外は、実施例1と同様であった。
このようにして得られた実施例1のシアン化金カリウム結晶について、Agの含有量を分析した結果、12wtppmであった。
【0027】
比較例1のシアン化金カリウム溶液を用いて、電解めっき/無電解めっきを実施して、金めっき皮膜を形成し、得られた金めっき膜の表面を観察した結果、膨れの数は10個であった。
【0028】
【表1】
【0029】
以上の結果より、シアン化金カリウムを製造する際の原料(陽極の金電極)については、鉱山から算出したバージン品ではなく、Ag濃度が低減されたリサイクル品を用いることで、良好な金めっきを提供することができる。