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特開2022-114512ウイルス等の微粒子を捕集し、不活化するための部材及び前記微粒子を捕集し、不活化する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022114512
(43)【公開日】2022-08-08
(54)【発明の名称】ウイルス等の微粒子を捕集し、不活化するための部材及び前記微粒子を捕集し、不活化する方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 9/00 20060101AFI20220801BHJP
   A61L 9/16 20060101ALI20220801BHJP
   B03C 3/017 20060101ALI20220801BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20220801BHJP
   B01J 23/42 20060101ALI20220801BHJP
   A61L 2/08 20060101ALI20220801BHJP
【FI】
A61L9/00 C
A61L9/16 Z
B03C3/017 Z
B01J35/02 J
B01J23/42 A
A61L2/08 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021010788
(22)【出願日】2021-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000354
【氏名又は名称】石原産業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 進也
【テーマコード(参考)】
4C058
4C180
4D054
4G169
【Fターム(参考)】
4C058AA02
4C058AA05
4C058AA23
4C058AA30
4C058BB06
4C058EE26
4C058KK01
4C180AA02
4C180AA07
4C180AA16
4C180AA17
4C180AA19
4C180BB03
4C180BB04
4C180BB06
4C180BB07
4C180CC03
4C180CC04
4C180CC12
4C180DD03
4C180DD04
4C180DD11
4C180EA14X
4C180EA21X
4C180EA24X
4C180EA26X
4C180EA29X
4C180EA33X
4C180EA34X
4C180HH01
4C180HH17
4C180HH19
4D054AA11
4D054EA27
4D054EA30
4G169AA02
4G169AA03
4G169BA04B
4G169BC75B
4G169CA01
4G169CA10
4G169CA11
4G169CA17
4G169DA06
4G169EA08
4G169EA11
4G169EB15Y
4G169EB18Y
4G169EE06
4G169FA03
4G169HA02
4G169HA20
4G169HB01
4G169HC22
4G169HD10
4G169HD18
4G169HE03
4G169HE07
4G169HF02
(57)【要約】
【課題】ウイルス、菌、花粉、胞子又は悪臭成分の微粒子を捕集し、不活化するための部材及び前記微粒子を捕集し、不活化する方法を提供する。
【解決手段】静電吸着を有する基材と、その基材の表面の少なくとも一部に固定した光触媒を含む、部材とする。発生した静電吸着力によりウイルス、菌、花粉、胞子又は悪臭成分の微粒子を捕集し、前記光触媒の活性により捕集した微粒子を不活化する。光触媒は可視光応答型光触媒が好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
静電吸着を有する基材と、その基材の表面の少なくとも一部に固定した光触媒を含む、ウイルス、菌、花粉、胞子又は悪臭成分の微粒子を捕集し、不活化するために用いられる部材。
【請求項2】
光触媒が可視光応答型光触媒である、請求項1に記載の部材。
【請求項3】
立体物の少なくとも一部を請求項1又は請求項2に記載の部材で形成する、ウイルス、菌、花粉、胞子又は悪臭成分の微粒子を捕集するために用いられる立体物。
【請求項4】
前記光触媒に照射するための光源を立体物の内部に備える、請求項3に記載の立体物。
【請求項5】
請求項1~請求項4の何れか一項に記載の部材又は立体物を含む、板状部材。
【請求項6】
請求項1~請求項4の何れか一項に記載の部材又は立体物を含む、インテリア用品。
【請求項7】
請求項1~請求項4の何れか一項に記載の部材又は立体物を含む、エクステリア用品。
【請求項8】
請求項1~請求項4の何れか一項に記載の部材又は立体物を含む、装身具。
【請求項9】
請求項1~請求項4の何れか一項に記載の部材又は立体物に発生した静電吸着力で、ウイルス、菌、花粉、胞子又は悪臭成分の微粒子を捕集する方法。
【請求項10】
ウイルス、菌、花粉、胞子又は悪臭成分の微粒子が付着した衣服、動物の体、居住空間の壁や床、居住空間に設置された電気機器、家具等の物品に、請求項1~請求項4の何れか一項に記載の部材又は立体物を接触させて、前記微粒子を捕集する方法。
【請求項11】
請求項1~請求項4の何れか一項に記載の部材又は立体物に発生した静電吸着力で、ウイルス、菌、花粉、胞子又は悪臭成分の微粒子を捕集し、前記光触媒に光照射して、捕集した微粒子を不活化する方法。
【請求項12】
ウイルス、菌、花粉、胞子又は悪臭成分の微粒子が付着した衣服、動物の体、居住空間の壁や床、居住空間に設置された電気機器、家具等の物品に、請求項1~請求項4の何れか一項に記載の部材又は立体物を接触させて、前記微粒子を捕集し、前記光触媒に光照射して、捕集した微粒子を不活化する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルス、菌、花粉、胞子又は悪臭成分の微粒子を捕集するための部材、更には、微粒子を不活化するための部材に関する。
また、本発明は、前記部材を一部に用いる、前記微粒子を捕集するための立体物、更には、前記微粒子を不活化するための立体物に関する。
具体的には前記の部材、立体物を含む、板状の部材、インテリア用品、エクステリア用品、装身具に関する。
更に、前記部材、立体物を用いて前記微粒子を捕集する方法、前記微粒子を不活化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルス、菌、花粉、胞子又は悪臭成分の微粒子は、ウイルスや菌の感染を起こしたり、花粉症等のアレルギー症状を起こしたり、不快な気分にしたりするため、空気調和装置を居住空間に設置して前記の微粒子を捕集している。例えば、特許文献1には、ウイルス又は菌を含む微粒子を捕集する集塵部と、光触媒能を有するアパタイトを含む除菌部とを備える空気清浄部材、更にその空気清浄部材を備える空気調和装置を記載しており、集塵部により捕集されたウイルス又は菌を、光触媒能を有するアパタイトの除菌部により除去する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3649241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記の空気調和装置は、集塵部等の清掃や交換作業を軽減して、メンテナンスを簡便にしているものの、空気調和装置自体が高額であり、空気調和装置を設置した居住空間が広いと微粒子の捕集に時間がかかり易く、一方、空気清浄機を設置していない玄関、台所、トイレ等の空間に浮遊する微粒子の捕集は不十分になるなどの問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、空気調和装置の不十分な捕集範囲を補完したり、空気調和装置よりも大幅に廉価な製品を提供したりするために鋭意研究した結果、静電吸着を有する基材を含む部材を、居住空間又は屋外空間に設置することにより、ウイルス、菌、花粉、胞子又は悪臭成分の微粒子を捕集できること、更に、静電吸着を有する基材の表面の少なくとも一部に備えた光触媒を含む部材を、居住空間又は屋外空間に設置することにより、ウイルス、菌、花粉、胞子又は悪臭成分の微粒子を捕集し、不活化できることなどを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、
(1)静電吸着を有する基材と、その基材の表面の少なくとも一部に固定した光触媒を含む、ウイルス、菌、花粉、胞子又は悪臭成分の微粒子を捕集するために用いられる部材、
(2)光触媒が可視光応答型光触媒である、(1)に記載の部材、
(3)立体物の少なくとも一部を(1)又は(2)に記載の部材で形成する、ウイルス、菌、花粉、胞子又は悪臭成分の微粒子を捕集するために用いられる立体物、
(4)前記光触媒に照射するための光源を立体物の内部に備える、(3)に記載の立体物、
(5)(1)~(4)の何れか一項に記載の部材又は立体物を含む、板状部材、
(6)(1)~(4)の何れか一項に記載の部材又は立体物を含む、インテリア用品、
(7)(1)~(4)の何れか一項に記載の部材又は立体物を含む、エクステリア用品、
(8)(1)~(4)の何れか一項に記載の部材又は立体物を含む、装身具、
(9)(1)~(4)の何れか一項に記載の部材又は立体物に発生した静電吸着力で、ウイルス、菌、花粉、胞子又は悪臭成分の微粒子を捕集する方法、
(10)ウイルス、菌、花粉、胞子又は悪臭成分の微粒子が付着した衣服、動物の体、居住空間の壁や床、居住空間に設置された電気機器、家具等の物品に、(1)~(4)の何れか一項に記載の部材又は立体物を接触させて、前記微粒子を捕集する方法、
(11)(1)~(4)の何れか一項に記載の部材又は立体物に発生した静電吸着力で、ウイルス、菌、花粉、胞子又は悪臭成分の微粒子を捕集し、前記光触媒に光照射して、捕集した微粒子を不活化する方法、
(12)ウイルス、菌、花粉、胞子又は悪臭成分の微粒子が付着した衣服、動物の体、居住空間の壁や床、居住空間に設置された電気機器、家具等の物品に、(1)~(4)の何れか一項に記載の部材又は立体物を接触させて、前記微粒子を捕集し、前記光触媒に光照射して、捕集した微粒子を不活化する方法、などである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の部材又は立体物は、発生した静電吸着力によりウイルス、菌、花粉、胞子又は悪臭成分の微粒子を捕集することができ、光触媒の活性によりそれらを不活化することもできる。このため、空気調和装置を設置していない玄関、台所、トイレ等の狭い空間に浮遊する微粒子を捕集することができる。また、空気調和装置が設置されていても、ビルのエントランス、オフィスの入り口、各自の居室、デスク等の局所的な空間に浮遊する微粒子を捕集するために併置することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、ウイルス、菌、花粉、胞子又は悪臭成分の微粒子を捕集するために用いられる部材である。ウイルスは、細胞構造を有する細菌及び真菌等の微生物と異なり、細胞構造を持たず、ゲノムをカプシドという外殻タンパク質の中に持つ構造体である。具体的には、ヒトヘルペスウイルス、B型肝炎ウイルス、アデノウイルス、B19ウイルス、インフルエンザウイルス、SARS(severe acute respiratory syndrome)コロナウイルス、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)、ノロウイルス、ポリオウイルス、エンテロウイルス等が含まれる。菌は、細胞構造を有する細菌及び真菌等の微生物である。具体的には、細菌としては、ブドウ球菌、大腸菌、サルモネラ菌、緑膿菌、コレラ菌、赤痢菌、炭疽菌、結核菌、ボツリヌス菌、破傷風菌、レンサ球菌等が挙げられ、真菌(カビ)としては、白癬菌、カンジダ、アスペルギルス等が挙げられる。花粉は、種子植物門の植物の花の雄しべから出る粉状の細胞である。具体的には、スギ花粉、ヒノキ花粉、ブタクサ花粉、イネ花粉等が挙げられる。胞子は、シダ植物・コケ植物及び藻類、菌類(キノコ・カビ・酵母等)又は原生生物のうちの変形菌等が形成する生殖細胞である。また、悪臭成分は、人間が不快と感じる成分であり、アンモニア、トリメチルアミン、硫化水素、メチルメルカプタン等が挙げられる。
【0009】
本発明の部材は、静電吸着を有する基材を含む。発生した静電吸着力により、基材の近辺に浮遊するウイルス、菌、花粉、胞子又は悪臭成分の微粒子、ほこりに付着した前記の微粒子が引き寄せられ、部材に捕集される。微粒子を捕集するための静電気量は、微粒子の濃度や種類等に応じて適宜設定することができる。基材は、誘電体、絶縁体が好ましく、セラミック、ガラス、プラスチック、繊維、紙、布、不織布、木等の適当な材質を用いることができる。
【0010】
静電吸着の原理については、電極と被吸着物の微粒子との間で発生した静電吸着力を利用するクーロン力型や、被吸着物を載置した誘電体と被吸着物の微粒子との間に発生した静電吸着力を利用するジョンソン・ラーベック力型のほか、例えば櫛歯状をした2つの電極間に電位差を生じさせて不均一な電界を形成し、この不均一電界に起因して生じる吸着力を利用するグラディエント力型が知られている。また、基材に設ける電気回路に曲線部を設け、この曲線部で分極させて発生した静電気を静電吸着力に利用することもできる。更に、これらの静電吸着力を個別に利用したり、複数の力を組み合わせて利用したりすることができる。そして、この静電吸着原理の違いや部材の使用目的に応じて、電極を単極型にしたり双極型にしたりするほか、誘電体の種類や特性を選択したり、電気回路を設計したりして、所定の静電吸着を有する基材を形成する。例えば、ジョンソン・ラーベック力を利用する静電吸着を有する基材の場合、所定の体積抵抗率を有したセラミック材料を誘電体として用いて、電極を挟むようにしてホットプレスすることで、誘電体内に電極を埋設したり、また、発塵を防ぐ目的から絶縁性のフィルムが用いられ、例えばポリイミドフィルムで電極を挟むようにして、接着フィルムや接着剤を介して熱圧着したりする。
【0011】
本発明では、電気回路に設けた曲線部で分極させて静電吸着力を発生させる手段が好ましい。基材に備える電気回路は、通常のニクロム線、銅線等を配置したり、銅メッシュ、銀メッシュ等を配置したり、金属銅粉、銀粉、ニッケル粉等の金属粉を配合したインキ、ペーストで描画したり、スズドープ酸化インジウム、アンチモンドープ酸化スズ等の導電性金属酸化物を配合したインキ、ペーストで描画して形成することができる。前記の導電性金属酸化物で描画すると透明な電気回路を作製することができるため好ましい。電気回路の曲線部は、所望の静電吸着力を得るために適宜設計することができる。電気回路を覆うように絶縁物を設けてもよい。基材の表面に電気回路を作製し、もう一枚の基材で電気回路を挟み込んだサンドウィッチ構造とすることもできる。
【0012】
部材には、静電吸着力を発生させるために所定の電圧を印加する電源を備えてもよい。例えば、持ち運び可能な形態にするために電池を利用してもよい。この電源は、光触媒に照射するための光源用の電源としても用いることができる。また、印加電源、照射電源として家庭用電源を用いてもよいため、部材には電源プラグを備えてもよい。部材には、微粒子の汚れを検知する手段を設けるのが好ましい。検知手段としては、部材の抵抗値を測定したり、色目を測定したりしてもよい。検知手段により所定以上になれば、通知できるような通知手段(インジケーター)を設けるのがより好ましい。通知手段としては、ランプ等が好ましい。
【0013】
本発明の部材は、静電吸着を有する基材の表面(基材の裏面を含める)の少なくとも一部に、光触媒を固定させる。このようにして、部材に発生した静電吸着力でウイルス、菌、花粉、胞子又は悪臭成分の微粒子を捕集し、捕集した微粒子を光触媒活性により不活化させる。不活化とは、一部又は全部を死滅させること、又は効力を有さない程度に一部又は全部を分解することをいい、浮遊しない程度に固定化させることでもよい。
【0014】
固定する光触媒は、基材の表面の少なくとも一部でもよく、全面でもよい。また、基材の一つの表面だけでもよく、他方の裏面を含めてもよい。また、基材の電気回路を備えていない面だけでもよく、電気回路を備えた面でもよい。電気回路を備えた面である場合、電気回路の隙間に光触媒を固定させてもよく、電気回路の上に光触媒を固定させてもよい。
【0015】
光触媒とはそのバンドギャップ以上のエネルギーを有する光を照射すると光触媒活性を発現する粒子のことであり、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化タングステン、酸化鉄、チタン酸ストロンチウム等の公知の金属化合物半導体を一種又は二種以上用いることができる。特に、優れた光触媒活性を有し、化学的に安定でかつ無害である酸化チタンが望ましい。酸化チタンとは、酸化チタンの他、含水酸化チタン、水和酸化チタン、オルソチタン酸、メタチタン酸、水酸化チタンと一般によばれるものを含み、アナターゼ型、ブルッカイト型、ルチル型等のうちいずれの結晶形であってもよく、また、これらの混晶形であってもよい。更に、光触媒活性を向上させるために、その粒子内部及び/又はその粒子表面にV、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ru、Rh、Pt、Pd及びAgからなる群より選ばれる元素の少なくとも一種の金属及び/又はその化合物を含有させてもよい。光触媒の粒径は、優れた光触媒活性を有することから微細なものが好ましく、より好ましくは1~500nmの範囲、更に好ましくは1~400nmの範囲、最も好ましくは1~300nmの範囲である。
【0016】
また、光触媒は、可視光の照射により励起される可視光応答能を持つ光触媒が好ましい。通常酸化チタンを励起しうる紫外光は、自然光中に数%しか含まれていないため、光触媒を可視光応答型光触媒とすることにより、自然光を有効に利用して光触媒活性を発現させることができるため好ましい。可視光応答型光触媒として、公知のものを用いることができ、例えば、酸化チタン粒子に硫黄(S)、窒素(N)、炭素(C)等の異種元素をドープしたもの、酸化チタン粒子に異種の金属イオンを固溶させたもの、ハロゲン化白金化合物やオキシ水酸化鉄等を酸化チタン粒子の表面に担持させたもの、又は酸化チタン粒子と酸化鉄、酸化タングステン等可視光領域で光触媒活性が発現する化合物とを複合したもの、酸化チタンのチタンと酸素の組成を変えたものなどを好適に用いることができる。
【0017】
光触媒を基材の表面の少なくとも一部に固定させるには、光触媒と溶媒とを少なくとも含む組成物、更には、光触媒と溶媒と光触媒を固定するためのバインダとを少なくとも含む組成物を用いるのが好ましい。溶媒は、トルエン、キシレン等の芳香族系、ブタノール、イソプロピルアルコール、エタノール等のアルコール系、シクロヘキサン等の炭化水素系、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルブチルケトン又は水等を用いることができる。また、バインダとしては、有機系バインダ、無機系バインダのいずれでも使用することができる。有機系バインダとしては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール、尿素樹脂、フェノール樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、オルガノポリシロキサン、ポリウレタン樹脂、紫外線硬化樹脂、電子線硬化樹脂等が挙げられる。有機系バインダとしては、フッ素樹脂等の撥水性樹脂が好ましい。また、無機系バインダとしては、水ガラス、コロイダルシリカ、セメント、セッコウ、水ガラス、ホウロウ等が挙げられる。
【0018】
光触媒、溶媒、必要に応じてバインダとを公知の方法を用いて混合して組成物を得る。組成物中の光触媒の量は、5~98質量%が好ましく、より好ましくは25~98質量%、より一層好ましくは30~98質量%、更に好ましくは40~98質量%である。セメント又はセッコウを用いる場合には、光触媒の含有量は5~40質量%が好ましく、5~25質量%がより好ましい。光触媒の量が前記の下限範囲より少ないと、光触媒活性が不十分になり易く、また、前記の上限範囲より多いと分散でき難いため、前記範囲が好ましい。なお、組成物には、適宜、分散剤、分散安定化剤、カップリング剤、硬化剤、架橋剤、重合開始剤、粘度調整剤、増粘剤等を配合させてもよい。
【0019】
前記の組成物を基材に塗布又は吹き付け、次いで、20~200℃程度の温度で乾燥して光触媒を固定することが好ましい。また、必要に応じて200~700℃程度の温度で焼成してもよい。組成物を塗布又は吹き付けするには、従来公知の方法で行うことができ、例えば、含浸法、ディップコーティング法、スピナーコーティング法、ブレードコーティング法、ローラーコーティング法、ワイヤーバーコーティング法、リバースロールコーティング法、刷毛塗り等で塗布したり、又はスプレーコーティング法等の方法で吹き付けることができる。光触媒層の厚みは適宜設定することができるが、透明性を確保するためには0.001~1000μm程度が好ましい。
【0020】
このようにして、基材の表面に光触媒を固定させることができる。基材には、予め電気回路を形成した後に、電気回路を形成していない基材の一つの面に光触媒を固定してもよく、電気回路を形成した面の上に光触媒を固定してもよい。一方、基材の一つの表面に光触媒を形成した後に、光触媒を固定していない基材の裏面に電気回路を形成して部材としてもよい。
【0021】
光触媒に、それが励起するエネルギーを有する光を照射するには、例えば、紫外線照射ランプ、ブラックランプ等の光源を用いたり、太陽光が照射される場所に部材を置くこともできる。可視光応答型光触媒を用いる場合は、蛍光灯、LED(発光ダイオード)等の光源を用いたり、太陽光が照射される場所に部材を置くと光触媒活性を発現するため、このような光が照射される室内に部材を配置して使用することができる。また、光源は、部材に備えてもよく、部材の上部、下部又は横部に設置し、光触媒に照射されるようにすることもできる。
【0022】
ウイルス、菌、花粉、胞子又は悪臭成分の微粒子は静電吸着力により捕集されるが、より吸着力を高めるため、吸着剤を用いてもよい。吸着剤としては、公知の吸着剤を用いることができ、例えば、活性炭、ゼオライト、シリカゲル、アパタイト等を用いることができる。吸着剤は、それ自身単独で、又は光触媒と混合したり、複合したりして、又は光触媒とは個別に基材の表面に付着させて用いることができる。
【0023】
本発明の立体物は、前記の静電吸着を有する基材の表面の少なくとも一部に固定した光触媒を含む部材を用いて、立体物の一部又は全部を形成する。立体物の形状は、適宜設計することができる。例えば、直方体、立方体、筒形等がよく、具体的には、黒板(白板)消し型、アイロン型、棒状型、ワイパー型、それらの類似型等が挙げられる。立体物の大きさは、設置場所、使用目的等に応じて適宜設計することができる。立体物は内部に空間を有するものが好ましく、前記部材に含まれる光触媒に照射するための光源をその内部に備えるのがより好ましい。内部に備えた光源で光触媒を照射するためには、光触媒を固定する部材が光透過性を有するか、又は、光を透過するような隙間を有するものが好ましく、例えば、布、不織布等が好ましい。立体物の部材以外の部分は、セラミック、ガラス、プラスチック、繊維、紙、布、不織布、木等の適当な材質を用いることができる。更に、立体物には、静電吸着力を発生し、光照射のための電源を内部に備えたり、印加電源、照射電源としての家庭用電源のプラグを備えてもよい。また、立体物を移動させながら使ったり、手に持って使えるものとすることもできる。このため、移動させるための移動手段(車輪等)を備えたり、取っ手を備えることもできる。
【0024】
前記の静電吸着を有する基材の表面の少なくとも一部に固定した光触媒を含む部材、更にはその部材を用いた立体物は、屋内又は屋外にも設置することができる。屋内では、空気調和装置を設置していない玄関、台所、トイレ等の狭い空間に設置して用いるのが好ましい。また、空気調和装置が設置されていても、ビルのエントランス、オフィスの入り口、各自の居室、デスク等の局所的な空間に設置するのが好ましい。具体的には、屋内や屋外のパーティションとして用いたり、進入禁止や目隠しとして用いたりすることができる仕切り板、衝立板や、掲示板等の板状の部材、置物、照明器具、装飾品、写真立て、鏡等や傘立て、傘のしずくとり、下駄箱等の家具、壁やその一部、カーテン、ブラインド、ロールスクリーン等のインテリア用品、シャッター、扉、外壁等のエクステリア用品が挙げられる。また、ネックレス、ブレスレット、カードホルダー、フェイスガード、マスク等の装身具とすることもできる。
【0025】
本発明は、前記の部材又は立体物に発生した静電吸着力で、ウイルス、菌、花粉、胞子又は悪臭成分の微粒子を捕集する方法である。また、ウイルス、菌、花粉、胞子又は悪臭成分の微粒子が付着した衣服、動物の体、居住空間の壁や床、居住空間に設置された電気機器、家具等の物品に前記の部材又は立体物を接触させ、前記微粒子を捕集する方法である。静電吸着については、前記のとおりであり、静電吸着量、時間等は適宜設定することができる。部材又は立体物を接触させるには、手に持った部材又は立体物で拭くのが好ましく、また、立体物を車輪等で移動させながら接触させることもできる。
【0026】
また、部材又は立体物に発生した静電吸着力で、ウイルス、菌、花粉、胞子又は悪臭成分の微粒子を捕集し、前記部材又は立体物に固定した光触媒に光照射して、捕集した微粒子を不活化する方法である。また、ウイルス、菌、花粉、胞子又は悪臭成分の微粒子が付着した衣服、動物の体、居住空間の壁や床、居住空間に設置された電気機器、家具等の物品に、前記の部材又は立体物を接触させ、前記微粒子を捕集し、前記部材又は立体物に固定した光触媒に光照射して、捕集した前記微粒子を不活化する方法である。静電吸着については、前記のとおりである。部材又は立体物を接触させるには、手に持った部材又は立体物で拭くのが好ましく、また、立体物を車輪等で移動させながら接触させることもできる。光照射については、前記のとおりであり、照射時間、照射強度等は適宜設定することができる。
【実施例0027】
本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0028】
実施例1
プラスチック基材(10cm×5cm)に銅線で複数の曲線部を備えた電気回路を設置し、更に電気回路の表面にプラスチック基材を設置して電極を覆った。この曲線部で微弱な静電気を発生させるように、1.5Vの単三電池4本を基材の下部に固定した。電気回路を設けた面の反対の基材の面に、可視光応答型光触媒塗料(石原産業社製MPT-623、塩化白金酸を担持した二酸化チタン、バインダとしてシリコーン樹脂を使用)を塗布し、乾燥して、静電吸着と光触媒粒子を有する部材(試料1)とした。
【0029】
実施例2
布基材(10cm×5cm)に銅線で複数の曲線部を備えた電気回路を設置し、更に電気回路の表面に布基材を設置して電極を覆った。この曲線部で微弱な静電気を発生させるように、1.5Vの単三電池4本を外部に取り付けた。電気回路を設けた面の反対の基材の面に、可視光応答型光触媒塗料(石原産業社製MPT-623、塩化白金酸を担持した二酸化チタン、バインダとしてシリコーン樹脂を使用)を塗布し、乾燥して、静電吸着と光触媒粒子を有する部材(試料2)とした。
【0030】
実施例3、4
実施例1又は実施例2の試料1、2を用いて立体物を作製した(試料3、4)。箱形の立体物(10cm×5cm×5cm)を予め作製し、下部の一面に試料1、2をはめ込めるようにしたものである。用いた立体物の内部は空洞になっており、試料4を用いた立体物の内部にはLEDランプと電源を設置した。
【0031】
部材、立体物の評価
試料1~4はいずれも静電吸着力を有することを確認でき、ウイルス、菌、花粉、胞子又は悪臭成分の微粒子を捕集できると考えられる。また、試料1~3を室内灯又は太陽光が照射する場所に置くことにより、又は、試料4に内蔵したLEDランプで光照射することにより、試料1~4はいずれも光触媒活性を有することを確認でき、下記の光触媒による抗ウイルス性試験結果、抗菌性試験結果からウイルス、菌、花粉、胞子又は悪臭成分の微粒子を不活化できると考えられる。
【0032】
光触媒の評価方法1
可視光応答型光触媒(石原産業社製MPT-623、塩化白金酸を担持した二酸化チタン、バインダとしてシリコーン樹脂を使用、光触媒量1.20g/m)を加工した不織布の抗ウイルス性能を以下のように評価した。
【0033】
1)試験に用いた株
バクテリオファージQβ NBRC20012
【0034】
2)光照射条件
500lx(シャープカットフィルタTypeB使用)、4 時間
【0035】
3)試験方法
1)試験品の前処理
試験品は、ブラックライトを約1.0 mW/cm で約24時間照射し有機物を除去した。
【0036】
2)バクテリオファージ液の調製
所定の方法によって準備した精製バクテリオファージ液を1/500濃度の普通ブイヨン培地(栄研化学)で希釈して約10pfu/mLに調製し、これを試験バクテリオファージ液(以下、試験液)とした。
【0037】
3)大腸菌液の調製
凍結保存された菌株をLB Agar(Difco,以下、LB寒天培地)に接種して、37±1℃で24時間培養した。発育した集落をカルシウム添加LB培地3mLに接種して、37±1℃で16時間静置培養した。この培養菌液0.05mLを新たなカルシウム添加LB培地50mLに接種して、37±1℃で毎分110往復(振幅3cm)で約5時間振とう培養した。1.6×10個/mLになった菌液を、試験用大腸菌液とした。
【0038】
4)試験液の接種
試験品に試験液0.075mLを滴下した。この上に、40×40mmのポリプロピレンフィルムを載せて保湿されたシャーレ内に収めた。試験品に対する照射条件は、暗幕内に蛍光灯2本を点灯して、試験品表面での照度が500lxとなるよう調整した。また、暗幕内の温度は25±3℃とした。照射時間は4時間とした。また、蛍光灯と試験片の間にシャープカットフィルタTypeB(UVカットアクリル板、380nm以下の光をカット)を設置した。
【0039】
5)バクテリオファージの洗い出し及び感染価の測定
所定作用時間後の試験品をストマッカー用滅菌袋に回収し、SCDLPブイヨン培地(ダイゴ)10mLを加えてバクテリオファージを洗い出した。これを試料原液として、ペプトン加生理食塩水で10倍段階希釈列を作製した。カルシウム添加LB軟寒天培地2.0mLに大腸菌液0.1mLを加えて混合し、ここに試料原液又は希釈液の各1.0mLを加えて混合した。これをカルシウム添加LB 寒天培地に重層し、37±1℃で18時間培養した。培養後に発生したプラークを数えて、洗い出し液のバクテリオファージ感染価を算出した(定量下限値10pfu/試験品)。
【0040】
6)抗ウイルス活性値の計算
得られた感染価から、無加工試験品を対照として、抗ウイルス活性値を以下の式で算出した。抗ウイルス活性値は、小数点以下2桁目を切り捨て、小数点以下1桁で表示した。
【0041】
抗ウィルス活性値;VB-500=[log(BB-500/A)-log(CB-500/A)]=log[BB-500/CB-500]
A:無加工試験品の接種直後の感染価(pfu)
B-500:無加工試験品の所定時間照射後の感染価(pfu)
B-500:光触媒加工試験品の所定時間照射後の感染価(pfu)
B-500:500lx所定時間照射後の光触媒加工試験品の光触媒抗ウイルス活性値
【0042】
4)試験結果を表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
抗ウイルス活性値(VB-500)は4.6であり、抗ウイルス効果が認められた。
【0045】
光触媒の評価方法2
可視光応答型光触媒(石原産業社製MPT-623、塩化白金酸を担持した二酸化チタン、バインダとしてシリコーン樹脂を使用、光触媒量1.20g/m)を加工した不織布の抗菌性能を評価した。
【0046】
1)試験に用いた菌
(1)Klebsiella pneumoniae NBRC 13277(肺炎桿菌)
(2)Staphylococcus aureus subsp. aureus NBRC 12732(黄色ぶどう球菌)
【0047】
2)光照射条件
3,000lx(シャープカットフィルタTypeB使用)、8時間
【0048】
3)試験方法
1)試験品の前処理
試験品は、ブラックライトを約1.0mW/cmで約24時間照射し有機物を除去した。その後、試験品の両面にパルスドキセノンランプ(コメット,BHX-200)を、それぞれ20秒間照射してから試験に用いた。
【0049】
2)試験菌液の調製
凍結保存された菌株をNutrient Agar(Difco,以下、NA培地)に接種して37±1℃で24時間培養した。発育した集落の1白金耳量をNutrient Broth (Difco,以下、NB培地)に接種して37±1℃で24時間振とう培養した。培養した菌液を、更に同培地に接種して37±1℃で4時間振とう培養後、1/20濃度の普通ブイヨン培地(栄研化学)で約105個/mLになるよう希釈し、これを試験菌液とした。
【0050】
3)試験菌液の接種
不織布試験品は、保湿されたシャーレ内に60mm角の下敷きガラス(ソーダライムガラス)を設置し、その上に約50mm角の試験品を置いた。試験品に試験菌液0.15mLを滴下してから、60mm角の被覆ガラス(ホウケイ酸ガラス,TEMPAX)を載せた。対照の無加工ガラス板は、保湿されたシャーレ内に60mm角のガラス板を設置し、試験菌液0.15mLを滴下した。この上に50mm角のポリプロピレンフィルムを載せた。試験品に対する照射条件は、暗幕内に蛍光灯2本を点灯して、試験品表面での照度が3,000lxとなるよう調整し、暗幕内の温度は25±3℃とした。照射時間は8時間とした。また、蛍光灯と試験品の間にシャープカットフィルタTypeB(UVカットアクリル板,380nm以下の光をカット)を設置した。
【0051】
4)試験菌の洗い出し及び菌数測定
所定作用時間後の試験品をストマッカー用滅菌袋に回収し、SCDLPブイヨン培地(ダイゴ)20mLを加えて試験菌を洗い出した。これを試料原液として、希釈液で10倍段階希釈列を作製した。試料原液又は希釈液の各1mLを無菌的にシャーレに移し、NA培地約20mLと混合後、固化させて37±1℃で45時間培養した。培養後の発育集落を数えて、試験品あたりの生菌数を求めた(定量下限値20個/試験品)。
【0052】
5)抗菌活性値の計算
得られた生菌数から、無加工ガラス板を対照として、抗菌活性値を以下の式で算出した。抗菌活性値は、小数点以下2桁目を切り捨て、小数点以下1桁で表示した。
【0053】
抗菌活性値;SB-3000=[log(M B-3000/M)-log(MB-3000/M)]=log[M B-3000/MB-3000]
:無加工ガラス板の接種直後の生菌数(個)
B-3000 :無加工ガラス板の所定時間照射後の生菌数(個)
B-3000:光触媒加工試験品の所定時間照射後の生菌数(個)
B-3000:所定時間照射後の光触媒加工試験品の抗菌活性値
【0054】
4)試験結果を表2に示す。
【0055】
【表2】
【0056】
抗菌活性値(SB-3000)は、肺炎桿菌では3.5であり、黄色ぶどう球菌では3.6であり、抗菌効果が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、発生した静電吸着力によりウイルス、菌、花粉、胞子又は悪臭成分の微粒子を捕集することができ、更には、光触媒の光触媒活性によりそれらを不活化することもできるため、ウイルス、菌等の簡便な捕集材として有用である。