(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022114518
(43)【公開日】2022-08-08
(54)【発明の名称】作業車両
(51)【国際特許分類】
F16H 61/32 20060101AFI20220801BHJP
F16H 63/06 20060101ALI20220801BHJP
F16H 63/30 20060101ALI20220801BHJP
B60K 20/00 20060101ALI20220801BHJP
B60K 20/02 20060101ALI20220801BHJP
B60T 7/04 20060101ALI20220801BHJP
A01C 11/02 20060101ALI20220801BHJP
【FI】
F16H61/32
F16H63/06
F16H63/30
B60K20/00 F
B60K20/02 A
B60K20/02 H
B60T7/04 A
B60T7/04 C
A01C11/02 330C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021010798
(22)【出願日】2021-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】000001878
【氏名又は名称】三菱マヒンドラ農機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081673
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100141483
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 生吾
(74)【代理人】
【識別番号】100166659
【弁理士】
【氏名又は名称】楠 和也
(72)【発明者】
【氏名】渡部 瑞樹
(72)【発明者】
【氏名】難波 晟史
【テーマコード(参考)】
2B062
3D040
3D124
3J067
【Fターム(参考)】
2B062AA02
2B062AB01
2B062BA07
2B062BA18
2B062BA23
2B062CA12
3D040AA02
3D040AA03
3D040AA12
3D040AA22
3D040AA35
3D040AB04
3D040AC07
3D040AC28
3D040AC36
3D040AC50
3D040AC65
3D040AD05
3D124AA32
3D124BB01
3D124BB06
3D124BB15
3D124CC59
3D124DD61
3J067AA02
3J067AA21
3J067AB02
3J067AB23
3J067AC42
3J067BA04
3J067BA54
3J067CA22
3J067DA07
3J067DA52
3J067DB32
3J067FA04
3J067FA15
3J067FB63
3J067FB73
3J067FB78
3J067GA14
(57)【要約】
【課題】前記走行機体の走行変速操作として、前記モータを介して制御する電動操作方式と、前記操作具の操作に機械的に連係させる手動操作方式とを有する作業車両において、手動操作方式を確実に優先させて安全性と故障時の対応性を向上させた作業車両を提供することを課題とする。
【解決手段】走行機体と、油圧式無段階変速装置と、前記油圧式無段階変速装置の変速操作を行うための変速操作具と、前記変速操作具の操作位置を検出する操作位置検出手段と、前記油圧式無段階変速装置を操作する操作部材と、前記操作部材を操作するモータと、前記モータを制御可能に構成された制御部とを備え、前記操縦部は、前記油圧式無段階変速装置を手動で変速操作する手動操作具が設けられ、前記モータは、前記手動操作具を介して前記操作部材側が所定以上のトルクで操作された場合には、前記モータと前記操作部材との間の動力伝動が切断されるように構成された。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オペレータが走行操作を行う操縦部を有する走行機体と、
前記走行機体の走行動力を変速する油圧式無段階変速装置と、
前記操縦部に設けられて前記油圧式無段階変速装置の変速操作を行うための変速操作具と、
前記変速操作具の操作位置を検出する操作位置検出手段と、
前記油圧式無段階変速装置を操作する操作部材と、
前記操作部材を操作するモータと、
前記変速操作具の操作位置に応じて前記モータを制御可能に構成された制御部とを備え、
前記操縦部は、前記変速操作具とは別途に前記操作部材を介して前記油圧式無段階変速装置を手動で変速操作する手動操作具が設けられ、
前記モータは、前記操作部材との間にトルクリミッタ式のクラッチが設けられ、前記手動操作具を介して前記操作部材側が所定以上のトルクで操作された場合には、前記モータと前記操作部材との間の動力伝動が切断されるように構成された
作業車両。
【請求項2】
前記手動操作具を、前記走行機体のブレーキ操作を行うブレーキペダルとし、
前記ブレーキペダルは、踏込み操作されることによって前記油圧式無段階変速装置をニュートラルに操作できるように構成された
請求項1に記載の作業車両。
【請求項3】
前記モータの駆動力は、前記操作部材の操作に必要な操作力よりも大きくなるように構成され、
前記トルクリミッタ式のクラッチで操作力が切断される操作力は、前記モータの駆動力よりも大きくなるように構成され、
前記ブレーキペダルを踏込み操作するための必要な操作力は、前記トルクリミッタで操作力が切断される操作力よりも大きくなるように構成された
請求項1又は2に記載の作業車両。
【請求項4】
前記手動操作具は、前記操作部材を操作可能に構成されたレバー操作具とし、
前記レバー操作具は、前記クラッチの下流側に着脱可能に取付けられるように構成された
請求項1に記載の作業車両。
【請求項5】
前記操縦部は、上端側にオペレータが操向操作を行うステアリングハンドルが支持された上下方向のステアリング軸と、前記ステアリング軸の後方をカバーする着脱可能なリヤカバーとを有し、
前記レバー操作具は、前記リヤカバーを取外すことによって、前記操作部材側から後方且つ上方側に向けて延設された状態で、前記操作部材側に着脱可能となるように構成された
請求項4に記載の作業車両。
【請求項6】
前記操作部材は、左右一方側から前記ブレーキペダルが配置された左右他方側に向けて延設された左右方向の回動軸を軸に揺動可能に軸支され、
前記回動軸の左右一方側の端部には、前記回動軸を軸に軸回転するとともに、前記モータの出力ギヤと噛合う駆動ギヤが設けられ、
前記駆動ギヤの左右外側には、前記駆動ギヤと前記回動軸との間で動力を断続する前記クラッチが設けられた
請求項1乃至5の何れかに記載の作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチュエータを介して無段階変速装置の変速操作を制御する作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
オペレータが操向操作を行う操縦部を有する走行機体と、前記走行機体の走行動力を変速する油圧式無段階変速装置と、前記操縦部に設けられて前記油圧式無段階変速装置の変速操作を行うための変速レバーと、前記変速レバーの操作位置を検出する操作位置検出手段と、前記油圧式無段階変速装置の変速作動を操作する操作部材と、前記操作部材を操作するモータと、前記変速レバーの操作位置に応じて前記モータの動作を制御可能に構成された制御部とを備え、前記変速レバーは、前記モータを介した電動操作方式と、前記変速レバーの操作で前記油圧式無段階変速装置を直接操作する手動操作方式とに切換え可能に構成された作業車両が従来公知である。
【0003】
上記文献の作業車両によれば、前記変速レバーを電動操作方式に切換えた場合には、前記変速レバーの操作性を向上させる一方で、前記モータ等の電動系統等に異常があった場合であっても手動操作方式に切換えることで操作可能となるものであるが、前記手動操作方式に切換えるためには、前記電動操作方式を無効にする操作が必要となり、故障時の対応操作に手間が掛かる場合がある他、例えば、前記モータの出力異常の状態によっては、前記手動操作方式による前記油圧式無段階変速装置の変速操作をスムーズに行うことができない場合が有り得るという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記走行機体の走行変速操作として、前記モータを介して制御する電動操作方式と、前記操作具の操作に機械的に連係させる手動操作方式とを有する作業車両において、手動操作方式を確実に優先させて安全性と故障時の対応性を向上させた作業車両を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本願発明は第1に、オペレータが走行操作を行う操縦部を有する走行機体と、前記走行機体の走行動力を変速する油圧式無段階変速装置と、前記操縦部に設けられて前記油圧式無段階変速装置の変速操作を行うための変速操作具と、前記変速操作具の操作位置を検出する操作位置検出手段と、前記油圧式無段階変速装置を操作する操作部材と、前記操作部材を操作するモータと、前記変速操作具の操作位置に応じて前記モータを制御可能に構成された制御部とを備え、前記操縦部は、前記変速操作具とは別途に前記操作部材を介して前記油圧式無段階変速装置を手動で変速操作する手動操作具が設けられ、前記モータは、前記操作部材との間にトルクリミッタ式のクラッチが設けられ、前記手動操作具を介して前記操作部材側が所定以上のトルクで操作された場合には、前記モータと前記操作部材との間の動力伝動が切断されるように構成されたことを特徴としている。
【0007】
第2に、前記手動操作具を、前記走行機体のブレーキ操作を行うブレーキペダルとし、前記ブレーキペダルは、踏込み操作されることによって前記油圧式無段階変速装置をニュートラルに操作できるように構成されたことを特徴としている。
【0008】
第3に、前記モータの駆動力は、前記操作部材の操作に必要な操作力よりも大きくなるように構成され、前記トルクリミッタ式のクラッチで操作力が切断される操作力は、前記モータの駆動力よりも大きくなるように構成され、前記ブレーキペダルを踏込み操作するための必要な操作力は、前記トルクリミッタで操作力が切断される操作力よりも大きくなるように構成されたことを特徴としている。
【0009】
第4に、前記手動操作具は、前記操作部材を操作可能に構成されたレバー操作具とし、前記レバー操作具は、前記クラッチの下流側に着脱可能に取付けられるように構成されたことを特徴としている。
【0010】
第5に、前記操縦部は、上端側にオペレータが操向操作を行うステアリングハンドルが支持された上下方向のステアリング軸と、前記ステアリング軸の後方をカバーする着脱可能なリヤカバーとを有し、前記レバー操作具は、前記リヤカバーを取外すことによって、前記操作部材側から後方且つ上方側に向けて延設された状態で、前記操作部材側に着脱可能となるように構成されたことを特徴としている。
【0011】
第6に、前記操作部材は、左右一方側から前記ブレーキペダルが配置された左右他方側に向けて延設された左右方向の回動軸を軸に揺動可能に軸支され、前記回動軸の左右一方側の端部には、前記回動軸を軸に軸回転するとともに、前記モータの出力ギヤと噛合う駆動ギヤが設けられ、前記駆動ギヤの左右外側には、前記駆動ギヤと前記回動軸との間で動力を断続する前記クラッチが設けられたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
前記操縦部は、前記変速操作具とは別途に前記操作部材を操作する手動操作具が設けられ、前記モータと前記操作部材との間にトルクリミッタ式のクラッチを設け、前記手動操作具を介して前記操作部材側が所定以上のトルクで操作された場合には、前記モータと前記操作部材との間の動力伝動が切断されるように構成したことにより、前記モータを介した変速操作よりも前記手動操作具を介した変速操作を確実に優先することができるため、安全性と故障時の対応性が向上する。
【0013】
また、前記手動操作具を、前記走行機体のブレーキ操作を行うブレーキペダルとし、前記ブレーキペダルは、踏込み操作されることによって前記油圧式無段階変速装置をニュートラルに操作できるように構成されたものによれば、前記変速操作具の操作よりも機械的な連係によって前記走行機体の停止させる前記ブレーキペダルの踏込み操作を優先して前記油圧式無段階変速装置をニュートラルに変速操作することができるため、安全性がより向上する。
【0014】
また、前記モータの駆動力は、前記操作部材の操作に必要な操作力よりも大きくなるように構成され、前記トルクリミッタ式のクラッチで操作力が切断される操作力は、前記モータの駆動力よりも大きくなるように構成され、前記ブレーキペダルを踏込み操作するための必要な操作力は、前記クラッチで操作力が切断される操作力よりも大きくなるように構成されたものによれば、前記制御部によって前記クラッチを制御等することなく、確実に前記手動操作具を介した手動操作を優先して前記油圧式無段階変速装置の変速操作を行うことができる。
【0015】
また、前記手動操作具は、前記操作部材を操作可能に構成されたレバー操作具とし、前記レバー操作具は、前記クラッチの下流側に着脱可能に取付けられるように構成されたものによれば、前記モータを介した電動操作方式を実現する構成が故障した場合に、機械的な構成で前記油圧式無段階変速装置を操作可能に変更することができるため、不測のタイミングで前記油圧式無段階変速装置を変速操作することを防止できるとともに、修理やメンテナンス作業をよりスムーズに行うことができる。
【0016】
また、前記操縦部は、上端側にオペレータが操向操作を行うステアリングハンドルが支持された上下方向のステアリング軸と、前記ステアリング軸の後方をカバーする着脱可能なリヤカバーとを有し、前記レバー操作具は、前記リヤカバーを取外すことによって、前記操作部材側から後方且つ上方側に向けて延設された状態で、前記操作部材側に着脱可能となるように構成されたものによれば、前記レバー操作具を介した機械的な連係によって前記油圧式無段階変速装置を軽い操作力でスムーズに操作できるとともに、前記レバー操作具を電装系が多く配置された前記ステアリング軸の上面側ではなく、電装系の少ない前記リヤカバー側を取外すことにより取付けることができるため、該レバー操作具の着脱作業を容易に行うことができる。
【0017】
なお、前記操作部材は、左右一方側から前記ブレーキペダルが配置された左右他方側に向けて延設された左右方向の回動軸を軸に揺動可能に軸支され、前記回動軸の左右一方側の端部には、前記回動軸を軸に軸回転するとともに、前記モータの出力ギヤと噛合う駆動ギヤが設けられ、前記駆動ギヤの左右外側には、前記駆動ギヤと前記回動軸との間で動力を断続する前記クラッチが設けられたものによれば、トルクリミッタ式の前記クラッチが前記回動軸の一端側に配置されるため、前記クラッチが切断されるトルク調整の作業を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の作業車両を適用した移植機の側面図である。
【
図2】本発明の作業車両を適用した移植機の平面図である。
【
図3】操舵機構及びHST制御機構を示した要部側面図である。
【
図4】操舵機構及びHST制御機構を示した要部前方斜視図である。
【
図5】操舵機構及びHST制御機構を示した要部後方斜視図である。
【
図6】走行HSTを操作する操作アームを示した要部拡大図である。
【
図7】(A)及び(B)は、ブレーキ操作具の操作前と、操作中のブレーキ操作連係機構を示した要部側面図である。
【
図8】レバー操作具の着脱態様を示した要部後方斜視図である。
【
図9】HST制御の制御内容を示したブロック図である。
【
図10】(A)乃至(C)は、主変速レバーによって走行HSTを制御する際の制御内容を示したグラフである。
【
図11】(A)乃至(C)は、HST出力と操作アームの回動位置を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1及び
図2は、本発明の作業車両を適用した乗用田植機(移植機)の全体側面図及び全体平面図である。本乗用田植機は、左右一対の前輪1,1及び後輪2,2によって支持される走行機体3と、前記走行機体3の後方に昇降リンク4を介して昇降自在に連結された植付作業機6とを備えている。
【0020】
前記走行機体3を支持する機体フレーム8は、前方側にボンネット9で囲繞されたエンジン(図示しない)と、前記エンジンから入力されたエンジン動力を無段階で変速する走行HST(油圧式無段階変速装置)10と、前記走行HST10から出力された動力が入力されるミッションケース11とを備え、前記エンジンの後方側には、作業者が乗込んで操向操作等を行う操縦部7が設けられている。
【0021】
前記操縦部7は、オペレータが着座する座席12と、詳しくは後述する操舵機構20を介して前記走行機体3(前輪1)の操向操作を行うステアリングハンドル13と、前記ステアリングハンドル13の左右一方側に設けられて少なくとも前後揺動操作される主変速レバー(変速操作具、前後進切換レバー)14と、前記走行機体3のギヤ変速を操作する副変速レバー16と、前記ステアリングハンドル13の下側のフロアステップ17と、該フロアステップ17の前側に踏込み操作可能に設けられて前記走行機体のブレーキ作動を操作するブレーキペダル(手動操作具)18とが配置されている。
【0022】
上記ステアリングハンドル13は、前記ステアリングハンドル13と一体的に自身の軸回りに回転可能であって且つ前方に向かって下方傾斜した状態で軸支されたステアリング軸19の上端側に操向操作可能に設けられており、該ステアリング軸19の後方側は着脱可能に構成されたリヤカバー21によってカバーされている。
【0023】
上記主変速レバー14は、上端側の把持部にオペレータが握った状態で押操作可能に設けられた後述するスイッチ操作具14aが設けられている。また、該主変速レバー14は、若干前方傾斜した基本位置(初期位置)から前後揺動可能に構成されるとともに、該主変速レバー14が基本位置に付勢されるように構成されている。すなわち、上記主変速レバー14は、前後揺動操作(前後進切換操作)がされた後は、自動的に基本位置に復帰するように構成されている(
図3等参照)。
【0024】
また、上記主変速レバー14は、操作位置検出ポテンショ(操作位置検出手段、操作位置検出センサ)によって前後方向の揺動操作位置が検出可能に構成されており、詳しくは後述する制御部50を介して前記走行HST10(を変速するトラニオン軸35)を操作するHST制御機構(変速制御機構、変速制御手段)30の作動を制御することにより、前記走行機体3の前進走行状態と、停止状態と、後進走行状態とを切換えることができるように構成されている。前記HST制御機構30の詳しい構成については後述する。
【0025】
上記ブレーキペダル18は、オペレータが踏込み操作を行う踏板部18aと、該踏板部18aから下方及び後方に向けてU字状に延設された棒状の延設部18bと、該延設部18bの後端側を前記フロアステップ17下方に配置された左右方向の支持軸15に軸支する軸支部18cとを有し、前記踏板部18aが上方揺動された初期位置に付勢されている(
図5等参照)。なお、該ブレーキペダル18(の軸支部18c)には、前記HST制御機構30を介して、前記走行HSTを変速操作可能に連係するブレーキ操作連係機構40が設けられている。詳しくは後述する。
【0026】
前記植付作業機6は、圃場へ植付けられる苗が載置される苗載台22と、該苗載台22に載置された苗の圃場への植付作業を実行する植付部23とを有し、前記昇降シリンダ4を介して前記走行機体3に対して昇降作動されるとともに、前記エンジンから伝動された動力が植付クラッチ(図示しない)を介して断続伝動される。
【0027】
次に、
図3乃至6に基づき、前記操舵機構と、前記HST制御機構について説明する。
図3乃至5は、操舵機構及びHST制御機構を示した要部側面図、要部前方斜視図及び、要部後方斜視図であり、
図6は、走行HSTを操作する操作アームを示した要部拡大図である。
【0028】
前記操舵機構20は、上下方向に延設された前記ステアリング軸19と、エンジン動力を各部に変速する変速機構が内装されて左右の前輪1,1の間に配置された前記ミッションケース11と、該ミッションケース11の下面側に左右揺動自在に支持されたピットマンアーム(図示しない)と、前記ステアリング軸19の下方側で且つ前記ミッションケース11の上面側に配置されるパワーステアリング装置32と、前記ステアリング軸19が挿通された筒状のステアリングコラム31とを備え、前記パワーステアリング装置32の上部側には、上方側が開放されたコ字状に形成された支持ブラケット33が設けられている。
【0029】
前記HST制御機構30は、前記支持ブラケット33の左側面と右側面とを左右方向に貫通するようにして設けられる支持軸36と、前記支持軸36を軸に上下方向に揺動可能に取付けられるとともに前記支持ブラケット33の左側面外側に配置された揺動アーム37と、前記走行HST10を変速操作するトラニオン軸35と一体回動するように軸支された操作アーム38と、上端側が前記揺動アーム37側に連結されて下端側が前記操作アーム38側に連結された上下方向の操作ロッド39と、後述するクラッチ41を介して前記支持軸36を軸回転可能に設けられるモータ42と、前記制御部50とを備え、前記支持軸36の左端側には、トルクリミッタ式の前記クラッチ41が設けられている(
図3乃至5等参照)。
【0030】
なお、前記HST制御機構30は、前記走行HST10を前記ブレーキペダル18により操作するブレーキ操作連係機構(手動操作連係機構)40と、前記走行HST10を手動操作するためのレバー操作具45(手動操作具)を前記操作アーム37側に着脱可能に連結する手動操作具支持部55と有し、オペレータによって直接手動操作もすることができるように構成されている。前記ブレーキ操作連係機構40と、前記レバー操作具45の具体的な構成については後述する。
【0031】
該構成によれば、前記HST制御機構30は、前記モータ42の駆動力によって前記支持軸36を軸回転させ、該支持軸36の軸回転によって前記揺動アーム37を上下揺動させ、前記揺動アーム37の上下揺動作動によって前記操作ロッド39を上下移動させ、前記操作ロッド39の上下移動によって、前記トラニオン軸35を操作する前記操作アーム38の操作位置を操作することができるように構成されている(
図4乃至6等参照)。
【0032】
このとき、前記操作アーム38側には、前記操作アーム38の操作位置を検出する操作アーム検出ポテンショ47が設けられており、前記制御部50は、前記操作アーム38の操作位置を検出することによって、前記走行HST10の変速状態を確認することができるように構成されている(
図6等参照)。
【0033】
上述の構成により、前記制御部50は、前記操作位置検出ポテンショ46により検出された前記主変速レバー14の前後揺動操作と、前記操作アーム検出ポテンショ47により検出された現在の前記走行機体3(走行HST10)の変速状態とに基づいて、前記モータ42の駆動を制御することにより、前記走行HST10の変速操作を制御するHST制御が実行可能に構成されている。前記HST制御の具体的な制御内容については後述する。
【0034】
前記クラッチ41は、前記支持ブラケット33の左側面外側で、前記支持軸36と一体回転するように該支持軸36の左端側に設けられており、前記モータ42の出力ギヤ42aと噛合うことによって前記支持軸36回りに空転する駆動ギヤ41Aと、該駆動ギヤ41Aと前記支持軸36との間で動力の伝動を断続するトルクリミッタ式のクラッチ部41Bとを有し、該クラッチ部41Bは、前記モータ42の駆動力よりも強いトルクが掛かった場合に、前記モータ42と前記支持軸36との間の動力伝動が切断されるように構成されている。
【0035】
言い換えると、前記クラッチ41は、前記モータ42が駆動した場合には、前記支持軸36を介して前記揺動アーム37(操作アーム38)を操作することができる一方で、前記ブレーキ操作連係機構40や、前記レバー操作具45を介して、前記支持軸36(操作アーム37)側が、前記モータ42の駆動力よりも大きな力(トルク)で操作された場合には、該操作力が前記モータ42側に伝動することを防止することができるように構成されている。
【0036】
さらに具体的に説明すると、前記クラッチ41の伝動上流側は、前記モータ42が配置される一方で、前記クラッチ41の伝動下流側は、前記支持軸36→前記揺動アーム37→前記操作ロッド39→前記操作アーム38→前記トラニオン軸35の順番で動力が伝わって前記走行HST10と連係する。
【0037】
次に、
図3乃至7に基づき、前記ブレーキ操作連係機構の構成について具体的に説明する。
図7(A)及び(B)は、ブレーキ操作具の操作前と、操作中のブレーキ操作連係機構を示した要部側面図である。
【0038】
前記ブレーキ操作連係機構40は、踏込み操作される前記ブレーキペダルの前記軸支部18cに設けられた揺動片51と、前記揺動片51から前方に延設されて前記ブレーキペダル18の操作に応じて前後方向に押引き操作される連係ロッド52と、前記連係ロッド52の前端側が連結されて該連係ロッド52の動きに応じて前後揺動する第1連係アーム53と、前記第1連係アーム53の揺動操作に応じて上下方向に揺動する第2連係アーム54と、前記第1連係アーム53と前記第2連係アーム54とを軸支する連係アーム支持軸56と、前後方向に延設されて前記支持軸36の右端側で該支持軸36と一体回動するように設けられた菱形状のブレーキ操作連係アーム57と、前記ブレーキ操作連係アーム57の前端側と前記第2連係アーム54とを連係させる上下方向の第1連係部材58と、前記ブレーキ操作連係アーム57の後端側と前記第2連係アーム54とを連係させる上下方向の第2連係部材59とを備えている(
図7等参照)。
【0039】
上記ブレーキ操作連係アーム57の前後端側とそれぞれ連結する上記第1連係部材58の上端側と、上記第2連係部材59の上端側には、上下方向に沿った長孔である融通孔58a、59aが形成されている(
図7参照)。
【0040】
このとき、各融通孔58a、59aは、前記ブレーキペダル18が踏込み操作されていない場合(
図7(A)参照)には、前記モータ42を介して前記支持軸36が軸回転操作された場合であっても、前記ブレーキ操作連係アーム57が、前記融通孔58a、59aの範囲内で揺動するように構成されている。
【0041】
該構成により、前記ブレーキ操作連係機構40は、前記ブレーキペダル18が踏込み操作されていない場合には、前記制御部50(モータ42)を介した前記走行HST10の操作が前記ブレーキペダル18側に影響することを確実に規制することができる。
【0042】
その一方で、各融通孔58a、59aは、前記ブレーキペダル18が踏込み操作された場合(
図7(B)参照)には、前記ブレーキペダル18→前記揺動片51→前記連係ロッド52→前記第1連係アーム53→前記連係アーム支持軸56→前記第2連係アーム54→前記第1連係部材58→前記ブレーキ操作連係アーム57の順に連係することによって、前記支持軸36を所定方向に軸回転させることができるように構成されている。これにより、前記ブレーキ操作連係機構40と前記HST制御機構30とを介することで、前記ブレーキペダル18の踏込み操作によって、前記走行HST10を走行停止状態に変速操作することができる。
【0043】
これにより、前記ブレーキ操作連係機構40は、前記ブレーキペダル18が踏込み操作された場合には、前記制御部50によって制御される前記モータ42の駆動位置に関わらず、前記走行HST10を強制的に停止状態に操作して前記走行機体3をより確実に停止させることができるように構成されている。
【0044】
ちなみに、前記ブレーキペダル18が踏込み操作されたことによって、前記ブレーキ操作連係機構40を介して、前記支持軸36(走行HST10)が操作された場合には、前記クラッチ41によって、前記支持軸36の軸回転が前記モータ42側に伝動することを確実に防止することができる。これにより、オペレータによるブレーキ操作(手動操作)によって、前記走行HST10を強制的に手動操作した場合に、前記モータ42側を無理やり駆動させることがないため、前記モータ42に負荷を掛けたり故障したりすることを防止することができる。
【0045】
次に、
図3乃至8に基づき、前記レバー操作具の構成について具体的に説明する。
図8は、レバー操作具の着脱態様を示した要部後方斜視図である。
【0046】
前記レバー操作具45は、L字状に屈曲形成された棒状の操作具であって、(前記HST制御機構30の)前記揺動アーム37と一体的に揺動するように取付固定された筒状の前記手動操作具支持部55に着脱可能に構成されている。前記レバー操作具45は、前記手動操作具支持部55に取付けられることにより、前記HST制御機構30側から後方に向かって上方傾斜した状態で取付けられる(
図8参照)。
【0047】
上記手動操作具支持部55は、オペレータが前記操縦部7側から前記リヤカバー21を取外すことにより前記操縦部7側に露出するように構成されている(
図8参照)。これにより、例えば、前記モータ42等に問題が生じて前記レバー操作具45を用いて前記走行HST10を手動操作する必要があった場合に、スムーズ且つ容易に前記レバー操作具45を前記HST制御機構30側に取付けることができる。
【0048】
上記構成によれば、オペレータは、前記手動操作支持具55側に取付けられることにより、前記操縦部7側に突出された前記レバー操作具45を上下揺動操作することによって、前記走行HST10(のトラニオン軸35)を直接手動操作することができる。
【0049】
また、上記構成によって、前記レバー操作具45を介して前記揺動アーム37が操作された場合、前記揺動アーム37を介して軸回転する前記支持軸36の回転トルクは、前記クラッチ41を介したことによって前記モータ42側には伝動しないように構成されている。すなわち、前記レバー操作具45を介して前記走行HST10を強制的に手動操作した場合であっても、前記モータ42に負荷を掛けることがないため、安全性が向上する。
【0050】
ちなみに、前記レバー操作具45を着脱可能に支持する前記手動操作支持具55は、前記揺動アーム37以外の前記クラッチ42の伝動下流側の部材に設けた構成としても良い。具体的に説明すると、前記手動操作支持具55は、前記クラッチ42の伝動下流側である前記支持軸36や、前記操作ロッド39、前記操作アーム38側に設けた構成としても良い。
【0051】
次に、
図9乃至11に基づき、前記制御部によるHST制御の制御内容について説明する。
図9は、HST制御の制御内容を示したブロック図であり、
図10(A)乃至(C)は、主変速レバーによって走行HSTを制御する際の制御内容を示したグラフであり、
図11(A)乃至(C)は、HST出力と操作アームの回動位置を示したグラフである。
【0052】
前記制御部によるHST制御は、前記走行機体3が停止状態(前記操作アーム検出ポテンショ47により前記走行HST10の停止状態が検出された状態)において、前記操作位置検出ポテンショにより前記主変速レバー14が基本位置から操作されていないことが検出された場合には、前記走行HST10(トラニオン軸35)をニュートラル位置に保持することで、前記走行機体3の停止状態を維持するように構成されている。このとき、前記制御部50は、前記主変速レバー14を基本位置から後方揺動操作する側に所定幅の遊びを設けるように構成されている(
図9及び
図11(C)参照)。
【0053】
また、前記HST制御は、前記走行機体3の停止状態で、前記主変速レバー14が基本位置から前方へ揺動操作されたことが検出された場合には、前記走行HST10(のトラニオン軸35)をニュートラル位置→前進域(低速位置)→前進域(中速位置)→前進域(高速位置)の順で変速操作するように構成されている(
図9参照)。このとき、前記制御部50は、前記主変速レバー14を現在の操作位置から後方揺動操作する側に所定幅の遊びを設けるように構成されている(
図9及び
図11(C)参照)。
【0054】
また、前記HST制御は、前記走行機体3の停止状態で、前記主変速レバー14が基本位置から後方へ揺動操作されたことが検出された場合には、前記走行HST10(のトラニオン軸35)をニュートラル位置→後進域(低速位置)→後進域(中速位置)→後進域(高速位置)の順で変速操作するように構成されている(
図9参照)。このとき、前記制御部50は、前記主変速レバー14を現在の操作位置から前方揺動操作する側に所定幅の遊びを設けるように構成されている(
図9及び
図11(C)参照)。
【0055】
また、前記HST制御は、前記走行機体3が前進走行中において、前記主変速レバー14が基本位置から後方へ揺動操作されたことが検出された場合には、前記走行HST10(のトラニオン軸35)を前進域(高速位置)→前進域(中速位置)→前進域(低速位置)→ニュートラル位置の順で変速操作するように構成されている(
図9参照)。
【0056】
このとき、前記制御部50は、前記走行HST10が前進域に操作されている場合には、前記主変速レバー14を現在の操作位置から後方揺動操作する側に所定幅の遊びを設ける一方で、前記走行HST10がニュートラル位置に操作された場合には、前記主変速レバー14を現在の操作位置から前方揺動操作する側に所定幅の遊びを設けるように構成されている(
図9及び
図11(A)参照)。
【0057】
また、前記HST制御は、前記走行機体3が後進走行中において、前記主変速レバーの基本位置から前方へ揺動操作されたことが検出された場合には、前記走行HST10(のトラニオン軸35)を後進域(高速位置)→後進域(中速位置)→後進域(低速位置)→ニュートラル位置→前進域(低速位置)→ニュートラル位置の順で変速操作するように構成されている(
図9参照)。
【0058】
このとき、前記制御部50は、前記走行HST10が後進域に操作されている場合には、前記主変速レバー14の現在の操作位置から前方側に所定幅の遊びを設け、前記走行HST10がニュートラル位置に操作された場合には、前記主変速レバー14を現在の操作位置から後方揺動操作する側に所定幅の遊びを設け、前記走行HTS10が前進域に操作されている場合には、前記主変速レバー14を現在の操作位置から前方揺動操作する側に所定幅の遊びを設けるように構成されている(
図9及び
図11(B)参照)。
【0059】
ちなみに、前記制御部50は、前記主変速レバー14の前方揺動操作に応じて、前記走行HST10(のトラニオン軸35)を、無段階変速する構成であっても、有段変速する構成であっても良く、これらを切換え可能に構成しても良い(
図10(A)参照)。
【0060】
また、前記制御部50は、前記主変速レバー14の基本位置からの揺動操作された操作角度の大きさに応じて、前記走行HST10(のトラニオン軸35)を操作する速度を変えるように構成しても良い(
図10(B)参照)。
【0061】
さらに、前記制御部50は、前記主変速レバー14のスイッチ操作具14aを押操作しながら前後揺動操作することによって、前記走行HST10(のトラニオン軸35)を操作する速度を早くすることができるように構成されている(
図10(C)参照)。
【符号の説明】
【0062】
3 走行機体
7 操縦部
10 走行HST(油圧式無段階変速装置)
13 ステアリングハンドル
14 主変速レバー(変速操作具)
18 ブレーキペダル(手動操作具)
19 ステアリング軸
21 リヤカバー
30 HST制御機構(操作部材)
38 操作アーム(操作部材)
41 クラッチ
41A 駆動ギヤ
42 モータ
45 レバー操作具(手動操作具)
50 制御部