(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022114523
(43)【公開日】2022-08-08
(54)【発明の名称】増粘多糖類の粘性増強方法
(51)【国際特許分類】
A61K 8/34 20060101AFI20220801BHJP
A61Q 11/00 20060101ALI20220801BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20220801BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20220801BHJP
【FI】
A61K8/34
A61Q11/00
A61K8/73
A61Q19/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021010804
(22)【出願日】2021-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】519127797
【氏名又は名称】三菱商事ライフサイエンス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】青木 理恵
(72)【発明者】
【氏名】大木 詩帆
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AC131
4C083AC132
4C083AC432
4C083AC482
4C083AD242
4C083AD351
4C083AD352
4C083CC01
4C083CC04
4C083CC41
4C083DD22
4C083DD23
4C083DD27
4C083EE05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】寒天以外の増粘多糖類を含有する組成物の粘性を増強する方法、および該方法に用いられる粘性増強剤を提供する。
【解決手段】増粘多糖類(ただし、寒天を除く)の粘性増強剤は、少なくとも二糖以上の糖アルコールを含有する。粘性増強方法は、増粘多糖類(ただし、寒天を除く)と、二糖以上の糖アルコールとを共存させる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも二糖以上の糖アルコールを含有することを特徴とする、増粘多糖類(ただし、寒天を除く)の粘性増強剤。
【請求項2】
増粘多糖類(ただし、寒天を除く)と、二糖以上の糖アルコールとを共存させることを特徴とする、増粘多糖類(ただし、寒天を除く)の粘性増強方法。
【請求項3】
増粘多糖類と糖アルコールとの共存を化粧料中または口腔用組成物中で行う、請求項2記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、増粘多糖類(ただし、寒天を除く)の粘性を増強する方法および、該方法に用いられる剤に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの多糖類は水溶液中で増粘効果を発揮するとの性質を使用して飲食品等の様々な組成物において使用されているが、液状の化粧料もその一つである。化粧料においては、増粘の他、保水目的でも使用される。しかし、多糖類の濃度を高くするとこれらの効果も高くはなるが使用感がべたつくなどの弊害が生じる。
【0003】
また、増粘多糖類の中には、温度上昇により該増粘多糖類の溶液の粘性が低下するものもあり、高温のみならず、室温付近のわずかな温度差であっても粘性が低下することがある。例えば、現在、増粘多糖類の中で頻繁に使用されているキサンタンガムは、後に示すように、25℃の溶液の粘度は40℃ではほぼ半減する。体温条件下で使用されることの多い化粧料や練り歯磨き等の口腔用組成物においてこのような粘性の変化は望ましくない。
【0004】
一方、糖アルコールも化粧料に使用されることがあり、多糖類を含有する化粧料中に糖アルコールを含有させた例も知られている。例えば特許文献1には、保湿成分としてのムコ多糖類と糖アルコールを含有し可逆的加熱増粘性を示す化粧料が記載されている。また、特許文献2には、植物由来または微生物由来の多糖類と糖アルコールと植物油脂肪酸フィトステリルとを含有する化粧料が記載されている。
【0005】
しかし、糖アルコールは、ガム剤と可逆性ゲル化剤を含むソフトカプセル被膜において可塑剤として使用されたり(特許文献3参照)、澱粉を主成分とし、フィルム強化剤として多糖類を含有する可食性フィルムにおいてフィルム可塑剤として使用され(特許文献4)ていたりするように、可塑剤としても利用されてきた。このように、増粘多糖類と二糖以上の糖アルコールとを併用することにより当該多糖類の粘性を増強できるとの報告はなく、さらに、温度変化による粘性の変化を抑えることができるとの報告もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-143868号公報
【特許文献2】特開2019-11273号公報
【特許文献3】WO2009/123257号パンフレット
【特許文献4】特開2004-248665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、寒天以外の増粘多糖類を含有する組成物の粘性を増強する方法、および該方法に用いられる剤(本発明では粘性増強剤と称する)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の(1)~(3)に関する。
(1)少なくとも二糖以上の糖アルコールを含有することを特徴とする、増粘多糖類(ただし、寒天を除く)の粘性増強剤。
(2)増粘多糖類(ただし、寒天を除く)と、二糖以上の糖アルコールとを共存させることを特徴とする、増粘多糖類(ただし、寒天を除く)の粘性増強方法。
(3)増粘多糖類と糖アルコールとの共存を化粧料中または口腔用組成物中で行う、上記(2)の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、寒天以外の増粘多糖類の粘性を増強することができる。とくに、本発明を増粘多糖類を含有する化粧料に適用した場合、べたつきを抑えつつも伸びの良い化粧料とすることができる。また、該伸びの良さに関連する本発明における粘性増強効果は温度変化による差が少ないため、例えば冬季と夏季において一定の使用感を保ちやすいという利点を有する。当該温度変化による粘性の変化、とくに温度上昇による粘性の低下が少ないことは、歯磨剤等の口腔用組成物においても有用である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に用いられる増粘多糖類としては、水分により粘性が発現される多糖類であれば寒天以外のいずれの多糖類も用いることができ、例えばカラギーナン、キサンタンガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、カードラン、タマリンドシードガム、グアーガム、ペクチン、アラビアガム、ヒドロキシメチルセルロース、カラヤガム等があげられるが、キサンタンガムおよびカラギーナンが好ましくあげられる。カラギーナンとしては、カッパ-カラギーナン、イオタ-カラギーナン、ラムダ-カラギーナンがあげられるが、イオタ-カラギーナンが好ましく用いられる。
【0011】
本発明に用いられる糖アルコールとしては、二糖以上の糖アルコールがあげられる。二糖の糖アルコールとしては、マルチトール、パラチニット(還元パラチノース)、ラクチトール等があげられる。三糖の糖アルコールとしてはマルトトリイトール等があげられる。二糖の糖アルコールおよび三糖以上の糖アルコールは、還元水飴、還元澱粉糖化物等の糖アルコール含有組成物に含有されている状態で用いてもよい。
【0012】
本発明に用いられる糖アルコールを、本発明に用いられる増粘多糖類と共存させることで、該多糖類が水分により発現する粘性を増強することができる。したがって、本発明に用いられる糖アルコールは、そのまま、または必要に応じて本発明に用いられる増粘多糖類(寒天以外の増粘多糖類)の粘性の発現を阻害しない成分と併用して、本発明に用いられる増粘多糖類の粘性の増強剤として用いることができる。
【0013】
本発明に用いられる増粘多糖類と本発明に用いられる糖アルコールとの共存においては両者が接触していることが好ましい。両者を共存させるために接触させる方法としては、両者を混合して混合物とする方法があげられる。両者が共存している組成物(以下、本発明の組成物ともいう。)は増粘剤としての用途以外に、必要に応じて粘性増強効果の阻害とならない他の成分を含有させて、飲食品(飲料、液状の菓子、栄養剤、タレ等の調味料、嚥下困難者用の補助食品等)、飼料、医薬品、農薬、化粧料、皮膚外用組成物(水溶性基剤、クリーム剤、ローション基剤、ゲル基剤等)、口腔用組成物(歯磨剤、洗口剤等)、インク等の工業用化学品組成物等としてそのまま用いてもよく、これらの組成物調製のための原料として用いてもよい。
【0014】
本発明の組成物としては、本発明の効果であるところの、べたつきを少なくし、また、展延性をよくする等の利点を活かしやすい点で、化粧料、皮膚外用組成物が好ましくあげられる。また、同様に本発明の効果であるところの、温度変化、とくに温度上昇による粘性の低下が少ない利点を活かしやすい点で、例えば歯磨剤等の口腔用組成物も好ましくあげられる。
【0015】
本発明の組成物における増粘多糖類の含有量は、該増粘多糖類の種類や本発明の組成物の用途に応じて、必要とされる粘度となるように適宜設定すればよく、通常、組成物中0.001~2.0質量%程度であるが、本発明による増粘効果により、本発明を適用しない場合と比較して少なめでよい。
【0016】
本発明において増粘多糖類と共存させる糖アルコールの量も、増粘多糖類の種類や量により適宜設定すればよいが、通常、本発明の組成物中0.01~60質量%となる量であり、0.1~50質量%となる量が好ましい。
本発明の組成物のpHは特に限定されないが、通常、pH4~11である。
本発明の組成物は、その用途に応じ、通常の使用方法に準じて使用することができる。
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0017】
(1) 糖アルコールによるカラギーナンの粘性増強効果の確認
イオタ-カラギーナン(三菱商事ライフサイエンス社。以下、単にカラギーナンという。)を0.63g、および表1に示す糖質をそれぞれ固形換算で17.0gずつ、約90mlの水に加えて混合し、85℃まで加熱した後、温度を保ったまま10分間撹拌し完全に溶解させた。10分後、室温となるまで水冷し、塩酸溶液あるいは水酸化ナトリウム溶液でpHを7.7に調整しつつ100gとなるように調整した。
【0018】
つぎに、溶液の温度を別々に25℃および40℃に調整し、B型粘度計にて20rpmで粘度を測定した。測定に用いるロータはB型粘度計の回転数が揃うように適宜選択した。粘度の測定は1日後にも同様に行い、粘度が十分に発現していると思われた1日後の測定値を採用した。以下の試験においても同様の条件で測定した。
【0019】
カラギーナン溶液の25℃および40℃での粘度測定の結果を表1に示す。表中、糖質無添加の試験区(対照区)の粘度を100%とした各試験区の粘度の相対値も併せて示した(以下の試験においても同様。)。また、40℃と25℃の粘度の差分を25℃における粘度で除した値に100を乗した値を粘性変化率として示した。粘性変化率が小さいほど、25℃と40℃の粘度の差が少ないことを示す。
【0020】
【0021】
表1に示したとおり、25℃および40℃のいずれの場合においても、糖質無添加の試験区(対照区)と比較して、糖質を添加した試験区においては溶液の粘度が上昇した。
25℃の試験区と比較して40℃の試験区においては粘度が低下したが、二糖以上の糖アルコールを多く含有する試験区(マルチトールの試験区および還元水飴の試験区)においては、単糖糖アルコールを多く含有する試験区(ソルビトール)及びグリセロールを含有する試験区と比べて粘性変化率が低く抑えられていた。
(2) 糖アルコールの濃度とカラギーナンの粘性増強効果の関係の確認
【0022】
カラギーナン溶液中の糖アルコールの濃度を、それぞれ固形換算で0.10質量%、5.00質量%、17.00質量%および50.00質量%となるように調整する以外は(1)と同様の操作を行って、該カラギーナン溶液の25℃および40℃における粘度を測定した。糖質としては(1)で用いた糖質の内、ソルビトール、マルチトールおよび還元水飴を含有する溶液を使用した。
25℃および40℃における粘度測定の結果を表2および3に示す。また、上記(1)と同様に算出した25℃と40℃での粘性変化率を表4に示す。
【0023】
【0024】
【0025】
【0026】
表2および3に示すとおり、マルチトールおよび還元水飴は25℃および40℃のいずれにおいても0.10質量%で糖質無添加およびソルビトール添加の場合と比較してカラギーナン溶液の粘性増強効果が高く、溶液における糖アルコール含有量が増加するにつれてその効果の向上が認められた。また、表4に示すとおり、25℃と40℃における粘度の変化(粘性変化)については、5.00質量%以上の糖質濃度において、糖質無添加およびソルビトール添加と比較して抑制されていた。
(3) カラギーナンの濃度と糖アルコールによる粘性増強効果の関係
【0027】
カラギーナン溶液におけるカラギーナンの含有量を、0.63質量%および1.50質量%とし、カラギーナン溶液中の糖アルコールの濃度を固形換算で17.00質量%とする以外は(1)と同様の操作を行って、糖アルコールとカラギーナンによる粘性との関係について調べた。25℃および40℃における粘度の測定結果を、それぞれ表5および6に示す。
また、上記(1)と同様に25℃と40℃での粘性変化率を表7に示す。
【0028】
【0029】
【0030】
【0031】
表5および6に示すとおり、いずれのカラギーナン濃度においても糖アルコールによる粘性増強効果は認められたが、二糖糖アルコールであるマルチトール、および四糖以上の糖アルコールを高含有する還元水飴は、単糖糖アルコールであるソルビトールより高い粘性増強効果を示す傾向が認められた。また、表7に示すとおり、いずれのカラギーナン濃度においても、温度変化による粘性変化は抑制されていた。
(4) 増粘多糖類の種類と糖アルコールによる粘性増強効果の関係
【0032】
上記(1)~(3)において糖アルコールによるカラギーナンの粘性増強効果および温度変化による粘性変化の抑制効果を示したが、これらの効果が他の増粘多糖類にも認められることを確認する試験を行った。
増粘多糖類として、カラギーナンの代わりにキサンタンガムを0.63%となる量用いること以外は、上記(1)と同様の操作を行って、多糖類溶液の粘性に及ぼす糖アルコールの影響を調べた。25℃および40℃での粘度測定結果を、表8に示す。また、25℃と40℃における粘性変化率も合わせて示す。
【0033】
【0034】
表8に示したとおり、キサンタンガム溶液においても、カラギーナンと同様に糖アルコールによる粘性の増強効果および温度変化による粘性変化の抑制効果が認められた。
(5) 糖アルコールおよび増粘多糖類を含有する組成物の肌への使用感
【0035】
表9記載の量のメチルパラベンとキサンタンガムとを混合し、水を加え、さらにPEG-60水添ヒマシ油を加えて約70℃となるまで加温してメチルパラベンを溶解させた。溶解後、室温に戻し、表9記載の各糖質をそれぞれ固形換算量で加え、混合して化粧水を調製した。
【0036】
【0037】
調製した各化粧水を、それぞれ25℃および40℃となるように温度調整し、前腕部に約10μl塗布し、化粧水の「のびのよさ」および「べたつきのなさ」を評価した。評価は4名のパネラーで行い、25℃の化粧水使用時に対する40℃の化粧水使用時の各項目について、25℃と同等の場合の評点を0(ゼロ)点として-3点~3点の7点で評価した。4名の評価の平均を求め、該平均値が±0.25点~1.0点の場合は、25℃の化粧水と比較して「やや異なる」とし、±1.5点以上の場合は25℃の化粧水と比較して「異なる」と判断した。
結果を表10に示す。
【0038】
【0039】
表10に示したとおり、二糖糖アルコールであるマルチトール、および四糖以上の糖アルコールを高含有する還元水飴を含有する化粧水では、いずれも、冬季と夏季を想定した25℃と40℃のものの使用感について「のびのよさ」および「べたつきのなさ」の点において差が認められなかった。
本発明により、寒天以外の増粘多糖類の粘性を増強することができる。とくに本発明を増粘多糖類を含有する化粧料に適用した場合、粘性増強効果は温度変化による差が少ないため、例えば冬季と夏季において一定の使用感を保ちやすく、さらにべたつきを抑えつつ、のびの良さを付与することが可能とする利点を有する。また、温度変化、とくに温度上昇による粘性増強効果の低下が少ないことは、例えば歯磨剤等の口腔用組成物においても有用である。