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2022-114539排ガス浄化触媒装置およびこれを利用した排ガスの浄化方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022114539
(43)【公開日】2022-08-08
(54)【発明の名称】排ガス浄化触媒装置およびこれを利用した排ガスの浄化方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/04 20060101AFI20220801BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20220801BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20220801BHJP
【FI】
B01J35/04 301L
B01J35/04 301P
B01J35/04 301B
B01J35/04 301H
B01D53/94 280
F01N3/28 L ZAB
F01N3/28 301Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021010837
(22)【出願日】2021-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】000228198
【氏名又は名称】エヌ・イーケムキャット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】特許業務法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高木 由紀夫
【テーマコード(参考)】
3G091
4D148
4G169
【Fターム(参考)】
3G091AA02
3G091AA14
3G091AA17
3G091AA18
3G091AB03
3G091BA03
3G091BA14
3G091BA15
3G091BA19
3G091BA38
3G091BA39
3G091GA06
3G091GA18
3G091GB06W
3G091GB07W
3G091GB09Y
3G091HA03
4D148AA18
4D148AB01
4D148BA03Y
4D148BA07Y
4D148BA08Y
4D148BA10Y
4D148BA11Y
4D148BA19Y
4D148BA30Y
4D148BA31Y
4D148BA33Y
4D148BA34Y
4D148BB02
4D148CC32
4D148CC36
4D148CC45
4D148CC46
4G169AA03
4G169BA07A
4G169BA13B
4G169BB04A
4G169BC32A
4G169BC33A
4G169BC69A
4G169CA02
4G169CA03
4G169DA06
4G169EA08
4G169EA18
4G169EA25
4G169EB16X
4G169EB16Y
4G169EC29
4G169ZA03A
4G169ZA11A
4G169ZA19A
4G169ZA32A
(57)【要約】      (修正有)
【課題】大量のHCを含む排ガスを浄化すると共に、内燃機関の出力低下原因の一つである背圧の上昇も抑制する、排ガス浄化触媒装置を提供する。
【解決手段】燃焼機関から排出される排ガス流中に配置され、排ガスを浄化するためのハニカム触媒を、少なくとも排ガス流中の上流側1及び下流側2に配置し、ハニカム触媒に使用されるハニカム構造体の材質は無機酸化物からなり、ハニカム構造体は両端にセルの開口部を有し、ハニカム構造体を構成するセルは隣接するセルとセル壁を共有して集積したものであり、上流側のハニカム触媒に使用されるハニカム構造体のセル壁上には少なくともゼオライトからなる炭化水素吸着材を含む触媒層が被覆され、下流側のハニカム触媒に使用されるハニカム構造体を構成するセル壁12の厚みが上流側のハニカム触媒に使用されるハニカム構造体を構成するセル壁11の厚みより薄いものであることを特徴とする排ガス浄化触媒装置。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼機関から排出される排ガス流中に配置され、排ガスを浄化するためのハニカム触媒を、少なくとも排ガス流中の上流側および下流側に配置した排ガス浄化触媒装置であって、
ハニカム触媒に使用されるハニカム構造体の材質は無機酸化物からなり、
ハニカム構造体は両端にセルの開口部を有し、
ハニカム構造体を構成するセルは隣接するセルとセル壁を共有して集積したものであり、
上流側のハニカム触媒に使用されるハニカム構造体のセル壁上には少なくともゼオライトからなる炭化水素吸着材を含む触媒層が被覆され、
下流側のハニカム触媒に使用されるハニカム構造体を構成するセル壁の厚みが上流側のハニカム触媒に使用されるハニカム構造体を構成するセル壁の厚みより薄いものであることを特徴とする排ガス浄化触媒装置。
【請求項2】
上流側のハニカム触媒に使用されるハニカム構造体のセル壁上には、ゼオライトからなる炭化水素吸着材を含む触媒層と、ゼオライトを含まない触媒層がこの順で被覆されたものである請求項1に記載の排ガス浄化触媒装置。
【請求項3】
下流側のハニカム触媒に使用されるハニカム構造体のセル壁上には、ゼオライトを含まない触媒層が被覆されたものである請求項1または2に記載の排ガス浄化触媒装置。
【請求項4】
下流側のハニカム触媒に使用されるハニカム構造体のセル壁上には、上流側のハニカム触媒に使用されるハニカム構造体の単位体積当たりのゼオライトの量よりも少ない量でゼオライトを含む触媒層が被覆されたものである請求項1または2に記載の排ガス浄化触媒装置。
【請求項5】
下流側のハニカム触媒に使用されるハニカム構造体のセル壁上には、上流側のハニカム触媒に使用されるハニカム構造体の単位体積当たりのゼオライトの量よりも少ない量でゼオライトを含む触媒層と、ゼオライトを含まない触媒層がこの順で被覆されたものである請求項1または2に記載の排ガス浄化触媒装置。
【請求項6】
上流側および下流側のハニカム触媒におけるゼオライトを含まない触媒層が、無機酸化物粒子に担持された貴金属成分を含む貴金属触媒層である請求項2、3、5の何れか1に記載の排ガス浄化触媒装置。
【請求項7】
ハニカム触媒のハニカム構造体が、両端が開口したセルを集積したフロースルー型ハニカム構造体である請求項1~6の何れか1に記載の排ガス浄化触媒装置。
【請求項8】
ゼオライトが、MFI型、FAU型、*BEA型、MSE型である請求項1~7の何れか1に記載の排ガス浄化触媒装置。
【請求項9】
燃焼機関から排出される排ガス流中に、請求項1~8の何れか1に記載の排ガス浄化触媒装置を配置したことを特徴とする排ガスの浄化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等に搭載される内燃機関から排出される排ガス中に含まれる有害成分、環境負荷物質を浄化するもので、特に炭化水素成分の浄化能力に優れる排ガス浄化触媒装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の化石燃料を使用して稼働される内燃機関からは排ガスが排出される。このような排ガスには炭化水素(HC)、窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)、化石燃料の燃焼由来の煤成分を含む微粒子(PM:Particulate Matter)等、有害成分や地球温暖化の原因とされている環境負荷物質が含まれている。これらの有害成分、環境負荷物質の浄化にはハニカム触媒を使用した手法が広く普及しており、有害成分、環境負荷物質はハニカム触媒で浄化されたうえで大気中に排出されている。
【0003】
このような有害成分、環境負荷物質の大気中への排出量は、各国の行政機関によって規制値が設定されており、市場における環境問題への意識が高まる中、この規制値も年々厳しさを増している。
【0004】
排ガス中に含まれる有害成分のうち、HCは不完全燃焼の燃料に由来するものである。このようなHCは内燃機関の燃焼室の温度が低い状態で特に多く発生することが知られている。内燃機関の燃焼室の温度が低い代表的な状態は冷間からの内燃機関始動時が挙げられる。
【0005】
自動車の動力源としては内燃機関だけでなく、電力モーターを併用したハイブリッド(HV)システムも知られており、市場の環境意識の高まり、今後も強化が見込まれる行政機関における有害成分、環境負荷物質の排出規制もあり、今後益々普及が見込まれる。
【0006】
自動車から排出される各種の有害成分、環境負荷物質の量は自動車の燃費と相関を有することは言うまでもない。HVシステムでは、自動車を駆動するにあたり、電力モーターの補助だけでなく、電力モーターだけを稼働させて自動車を駆動することもあり、その分、内燃機関の駆動機会が減って燃費が向上する。
【0007】
一方で、HVシステムにおいて電力モーターだけで自動車が走行する場合、また、電力モーターの補助で自動車が走行する場合、当然、内燃機関は非稼働な状態、または低回転稼働な状態になる。
【0008】
電力モーターの駆動だけで自動車を駆動させ、その後内燃機関を稼働させた場合、内燃機関の冷間始動時と同様に大量のHC排出が懸念される。また、電力モーターが補助する場合でも内燃機関における燃料の使用量、すなわち燃焼する燃料の量は減ることになり、その状況では燃焼室の温度は低下する傾向にあり、排ガス中に含まれるHCの量は増加が懸念される。近年、電池と電力モーターの性能向上もあり、今後市場に提供されるHVシステムを搭載した自動車では低温排ガス由来のHCの排出機会も増えることが予想される。
【0009】
また、HVシステムによらずとも、自動車に求められる燃費性能は益々大きなものになることが予測される。燃費の向上は即ち燃焼に使用される燃料の少なさであり、少ない燃料の燃焼から得られる熱量も自ずから小さなものとなり、低燃費型内燃機関の低温稼働にともなうHC排出量の増加は懸念されるものである。
【0010】
このように、内燃機関に含まれるHCの大気中への排出抑制技術の一つとして、炭化水素吸着(HC-trap)機能を有した触媒が知られている(特許文献1~3)。
【0011】
HC-trap触媒は他の触媒、ガソリン自動車排ガスの浄化であればHC、CO、NOxを浄化するための三元触媒(TWC)と組み合わせ、排ガスの流れ中に触媒装置として実装される。また、HC-trap触媒自体にもTWCあるいはHCの酸化機能を有した触媒成分が含有されることも一般的である。
【0012】
車両に実装されるHC-trap触媒、TWC共にハニカム構造体のセル壁上に触媒成分となる組成物を被覆したものである。HC-trap触媒においては、セル壁上にHC-trap機能を有する成分を被覆し、その上にTWCあるいはHC酸化機能を有する触媒組成物層を被覆することが一般的である(特許文献1、3)。このようにHC-trap機能を有する成分の上にHC酸化機能を有する触媒組成物層を設けることで、HC-trapからHCが脱離した際にはHC成分は触媒組成物層を通過することになり、ここである程度のHC成分が浄化されることになる。その後、HC-trap触媒から脱離して排ガスの流れ中に排出されたHC成分は、その下流側にTWCが配置された触媒装置であれば、この下流側のTWCによって更に浄化される(特許文献1)。
【0013】
このようなHC-trap触媒に使用されるHC-trap機能を有する材料としては、MFI型、FAU型、*BEA型、MSE型などの各種ゼオライトが有効な材料として知られている(特許文献1、2)。
【0014】
HC-trap触媒のHCの吸着脱離はゼオライトにおける温度変動の影響を受ける。すなわち、HC-trap触媒の温度が低いときにはHCがゼオライトに吸着され、HC-trap触媒の温度が高くなると吸着したHCが脱離する作用を利用したものである。このようなゼオライトにおけるHCの吸着脱離挙動は温度変動吸着(TSA:Thermal Swing Adsorption)とも言われている。
【0015】
HC-trap触媒の温度が高まり脱離したHCは、暖まったHC-trap触媒や下流側のTWCによる浄化が期待されるが、HC-trap触媒、下流側のTWCの温度が充分に高くないとHCは浄化されず、下流側のTWCをすり抜けて大気中に排出されてしまう。
【0016】
このようなHCの排出を防ぐためには後段のTWCの温度をいち早く上昇させることが望ましい。そのための手法として特許文献1では下流側ハニカム触媒であるTWCセル密度を高くすることが提案されている。このTWCのセル密度、すなわちハニカム構造体における単位断面積あたりのセルの数を増やすことでハニカム構造体の幾何学的表面積を増して燃焼後の排ガスと接触する面積を増やし、下流側のTWCの温度の速やかな上昇が期待できる。
【0017】
幾何学的表面積の増したTWCでは確かに温度の上昇が期待できるが、一方で単位断面積あたりのセルの数が増すと、排ガスの流れにとっては抵抗となり背圧の増加という問題を生じてしまう。背圧の増加は圧力損失とも言われ、燃焼後の排ガスの流通が妨げられることで燃焼室内の掃気が不充分になったり、TWCの上流側の排ガスの圧力を増すことで、内燃機関の燃焼室内でのピストン上昇にとっても抵抗となって内燃機関における出力低下要因の一つとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2003-200049号公報
【特許文献2】特開2004-105821号公報
【特許文献3】特開平02-56247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
この様に、内燃機関の冷間稼働時のように触媒も充分に暖まっていない状態で排出される排ガスにはHCが大量に含まれたまま大気中に排ガスが放出されてしまっていた。特に低燃費を理由に近年普及が著しいHVシステムを搭載した車両(以下、単に「HV車両」ということがある)の様に、通常駆動時であっても内燃機関自体の稼働が少なく、温度の低い排ガスを排出する機会の多い車両においては、大量のHCを含む排ガスが排出されてしまっていた。
【0020】
また、このような排ガスの浄化に使用されてきた従来の触媒システムではハニカム触媒を早急に暖める手段としてセル密度の高いハニカム構造体が使用されていたため、排ガスの背圧が高まって圧力損失を生み、内燃機関の出力低下を招いてしまっていた。出力が低下した内燃機関では、より出力を得ようとすると更に高回転で稼働させる必要がある。その場合は消費する燃料の量も増え、かえって有害成分や環境負荷物質の排出量を増やしてしまうこともある。
【0021】
そのため、本発明は、大量のHCを含む排ガスを浄化すると共に、内燃機関の出力低下原因の一つである背圧の上昇も抑制する技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、燃焼機関から排出される排ガス流中に配置され、排ガスを浄化するためのハニカム触媒を、少なくとも排ガス流中の上流側および下流側に配置した排ガス浄化触媒装置において、上流側のハニカム触媒に使用されるハニカム構造体のセル壁上には少なくともゼオライトからなる炭化水素吸着材を含む触媒層が被覆され、更に、上流側のハニカム触媒に使用されるハニカム構造体を構成するセル壁よりも、下流側のハニカム触媒に使用されるハニカム構造体を構成するセル壁を薄くすること等により、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0023】
すなわち、本発明は、燃焼機関から排出される排ガス流中に配置され、排ガスを浄化するためのハニカム触媒を、少なくとも排ガス流中の上流側および下流側に配置した排ガス浄化触媒装置であって、
ハニカム触媒に使用されるハニカム構造体の材質は無機酸化物からなり、
ハニカム構造体は両端にセルの開口部を有し、
ハニカム構造体を構成するセルは隣接するセルとセル壁を共有して集積したものであり、
上流側のハニカム触媒に使用されるハニカム構造体のセル壁上には少なくともゼオライトからなる炭化水素吸着材を含む触媒層が被覆され、
下流側のハニカム触媒に使用されるハニカム構造体を構成するセル壁の厚みが上流側のハニカム触媒に使用されるハニカム構造体を構成するセル壁の厚みより薄いものであることを特徴とする排ガス浄化触媒装置である。
【0024】
また、本発明は、燃焼機関から排出される排ガス流中に、上記排ガス浄化触媒装置を配置したことを特徴とする排ガスの浄化方法である。
【発明の効果】
【0025】
本発明の排ガス浄化触媒装置によれば、下流側のハニカム触媒に使用されるハニカム構造体を構成するセル壁の厚みを、ゼオライトからなる炭化水素吸着材を含む触媒層が被覆されていてHC-trap機能を有する上流側のハニカム触媒に使用されるハニカム構造体を構成するセル壁よりも薄くすることで下流側のハニカム触媒を上流側のハニカム触媒に比べて暖まり易くできることで、上流側のハニカム触媒から脱離したHCを、下流側のハニカム触媒がいち早く浄化することができる。
【0026】
更に、本発明の排ガス浄化触媒装置は、下流側ハニカム触媒におけるハニカム構造体のセル壁を薄くすることで、ハニカム構造体におけるセル開口面積の総和を大きなものとすることができ、内燃機関の出力低下原因の一つである背圧の上昇も抑制することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は本発明の実施形態を表す模式図である。
図2図2は特許文献1に記載の従来技術を表した模式図である。
図3図1における上流側ハニカム触媒のセル壁の一部を拡大した模式図である。
図4図1における下流側ハニカム触媒のセル壁の一部を拡大した模式図である。
図5図5は本発明の別の実施形態における上流側、下流側ハニカム触媒のセル壁の一部を拡大した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の排ガス浄化触媒装置(以下、「本発明装置」という)は、燃焼機関から排出される排ガス流中に配置され、排ガスを浄化するためのハニカム触媒を、少なくとも排ガス流中の上流側および下流側に配置した排ガス浄化触媒装置であって、ハニカム触媒に使用されるハニカム構造体の材質は無機酸化物からなり、ハニカム構造体は両端にセルの開口部を有し、ハニカム構造体を構成するセルは隣接するセルとセル壁を共有して集積したものであり、上流側のハニカム触媒に使用されるハニカム構造体のセル壁上には少なくともゼオライトからなる炭化水素吸着材を含む触媒層が被覆され、下流側のハニカム触媒に使用されるハニカム構造体を構成するセル壁の厚みが上流側のハニカム触媒に使用されるハニカム構造体を構成するセル壁の厚みより薄いものであることを特徴とするものである。
【0029】
[内燃機関、車両]
本発明装置が配置される内燃機関は特に限定されず、HCを含む化石燃料を燃焼することで稼働する全ての内燃機関に使用することができる。このような内燃機関としては、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジンが挙げられる。このうち、ガソリンエンジンは燃料と空気の混合比率(空燃比:空気質量/燃料質量)がディーゼルエンジンよりも小さく、冷間始動時の様に燃焼室や排ガス浄化触媒が暖まっていない状態では、大気中に排出される排ガス中に大量のHCを含んでしまう。
【0030】
本発明装置では、冷間始動時のように排ガスや排ガス浄化触媒の温度が低い状態からの始動であっても、後述する後段ハニカム触媒を早急に昇温することが可能で、これも後述する上流側ハニカム触媒中のHC-trapから脱離したHCに対してもいち早く浄化することが可能になる。特にHV車両の様に、駆動時であっても内燃機関の稼働機会が少なく、温度の低い大量のHCを含む排ガスを排出しがちな車両においては、本発明の排ガス浄化触媒装置における触媒の昇温作用は効果的に機能する。
【0031】
また、本発明装置においていち早い昇温を図れる下流側ハニカム触媒では後述する様にハニカム構造体における開口面積が大きなことから著しい背圧の上昇を招くことがなく、排ガスの流れ中にハニカム触媒を配置することによる内燃機関における出力の低下も抑制される。
【0032】
[配置位置]
本発明装置を構成する上流側のハニカム触媒と、下流側のハニカム触媒の配置は特に限定されるものでは無く、上流側ハニカム触媒と下流側ハニカム触媒をエキゾーストマニホールド直下に隣接して配置してよく、上流側ハニカム触媒と下流側ハニカム触媒を車両の床下に隣接(タンデム)して配置してよく、上流側ハニカム触媒を内燃機関のエキゾーストマニホールド直下に下流側ハニカム触媒を車両床下に配置してもよい。また、これらの触媒配置における上流側ハニカム触媒を内燃機関のエキゾーストポート直下に配置し、更にハニカム触媒の昇温を図ってもよい。この様に多様な触媒配置に対応できる本発明装置であるが、排ガスの熱を効果的に利用する点からは、上流側のハニカム触媒と下流側のハニカム触媒はタンデムに配置される事が好ましく、上流側のハニカム触媒をエキゾーストマニホールド直下に配置したタンデムな配置である事がより好ましく、上流側のハニカム触媒をエキゾーストポート直下に配置したタンデムな配置であることがより好ましい。
【0033】
[ハニカム触媒]
本発明装置は、内燃機関から排出される排ガスを浄化するためのハニカム触媒を、少なくとも排ガス流中の上流側および下流側に配置したものである。ハニカム触媒に使用されるハニカム構造体の材質は無機酸化物からなり、ハニカム構造体は両端にセルの開口部を有し、ハニカム構造体を構成するセルは隣接するセルとセル壁を共有して集積したものである。
【0034】
[ハニカム構造体:材質]
ハニカム触媒に使用されるハニカム構造体の材質は無機酸化物からなるものであり、その例としては、コージェライト、シリカ、アルミナ、炭化ケイ素、ゼオライト等の無機酸化物の一種以上からなる物が挙げられる。中でもコージェライトは価格も安く、過酷な排ガス環境中にあっても耐久性にも優れ、自動車用の排ガス浄化用のハニカム構造体材料として最も普及した材質であり、本発明への適用においても好ましいものであるといえる。
【0035】
また、本発明の排ガス浄化触媒装置では、後述する様に下流側のハニカム触媒に使用されるハニカム構造体のセル壁を、上流側のハニカム触媒に使用されるハニカム構造体のセル壁よりも薄くすることで後段ハニカム触媒をいち早く昇温できる様にするものであることから、上流側と下流側のハニカム構造体としては同じような比熱を持つ材質であるときにも効果を発揮する。自動車等の内燃機関の排ガス浄化に使用されるハニカム構造体の材質は前述のとおりコージェライトが好ましく最も普及しているものであり本発明装置の上流側、下流側のハニカム構造体としても好ましいものであり、本発明装置のハニカム構造体はこのように同質で同じような比熱を持つ材質であるときに特に効果的であるといえる。
【0036】
[ハニカム構造体:構造]
ハニカム触媒に使用されるハニカム構造体の構造は、特に限定されるものでは無く、従来から市場に流通しているハニカム構造体の構造の中から触媒が使用される目的に応じて適宜選択して採用することができる。
【0037】
市場に流通し、従来から使用されてきたハニカム構造体の構造には大きく2つあり、一つがフロースルー型ハニカム構造体であり、もう一つがウォールフロー型ハニカム構造体である。いずれも排ガスの流れ方向の一方の端面から他方に端面に向けて延設された管状の流路が集積したもので隣接する管状流路(セル)とはその壁を共有している。
【0038】
このうち、フロースルー型ハニカム構造体は各管状のセルの両端が開口しており、排ガスは一方の開口端から流入して他方の開口端から排出される。ここでセルの壁上に触媒組成物が被覆されていると排ガスは触媒組成物に接触しながらセル内を通過することになり、この間に排ガス中の環境負荷物質や有害成分が浄化される。
【0039】
一方のウォールフロー型ハニカム構造体のセルの壁は排ガスが通過可能な多孔質体からなるもので、管状のセルは柱形のハニカム構造体の両底面において互い違いに目封じされ、一つのセルにおける開口は一つのみとなっている。すなわち、排ガスの入口側端面において目封じされたセルは出口側端面においては開口されており、入口側端面において目封じされているセルは出口側端面では開口している状態になり、隣接するセルではその逆になっている。このようなウォールフロー型ハニカム構造体に後述するウオッシュコート法をもって触媒組成物スラリーを被覆した場合、触媒組成物は多孔質体からなる壁の上に被覆もしくは壁の中に含侵、あるいはその両方に被覆される。そして、排ガスはセルの壁の表面や壁の中を通過し、その間に煤等の微粒子成分が濾しとられ、濾しとられた微粒子成分は排ガスの昇温をもって燃焼除去され、煤以外の環境負荷物質や有害成分も浄化するものであれば排ガスの通過に際してそれらも浄化される。
【0040】
本発明装置では、下流側のハニカム触媒に使用されるハニカム構造体のセル壁には薄さが必要であることから、フィルター機能を持たせたうえで実用上の強度を得るためにセル壁に所定の厚みが必要なウォールフロー型ハニカム構造体よりも、そのような機能を必要とせず、セル壁を薄くし易いフロースルー型ハニカム構造体であることが下流側のハニカム触媒に使用されるハニカム構造体として好ましい。また、本発明の効果の一つである背圧が上昇し難いことはセル壁が薄いことで達成されるものである点からも、セル壁が厚くなりがちなウォールフロー型ハニカム構造体よりもフロースルー型ハニカム構造体であることが好ましい。加えて、ウォールフロー型ハニカム構造体はフィルター機能を有するものであるため、このフィルター機能自体が排ガスの流れにとっては流通抵抗になり易いこともあり、背圧の上昇の抑制という点ではフロースルー型ハニカム構造体であることが好ましいものといえる。
【0041】
[ハニカム構造体:セル壁の厚さ]
本発明装置に使用される下流側のハニカム触媒に使用されるハニカム構造体のセル壁の厚さは、上流側のハニカム触媒に使用されるハニカム構造体のセル壁に対して相対的に薄いものであればその効果を発揮可能なものである。
【0042】
一般的に、ハニカム構造体のセル壁の厚みは、ミリインチ「mil」として表されることがある。本発明装置においては、上流側および下流側のハニカム触媒に使用されるハニカム構造体のセル壁の厚みが、0.025~0.3mm(1~12mil)の範囲、0.05~0.2mm(2~8mil)の範囲が好ましく、0.05~0.125mm(2~5mil)の範囲がより好ましい。
【0043】
このようなセル壁の厚みの範囲において、下流側のハニカム触媒に使用されるハニカム構造体のセル壁の厚みが、上流側のハニカム触媒に使用されるハニカム構造体のセル壁の厚みの2/3以下であることが好ましく、1/3以下であることがより好ましい。上流側のハニカム触媒と、下流側のハニカム触媒のセル壁の厚みの差が少な過ぎると、上流側のハニカム触媒からHCが脱離した時点で下流側のハニカム触媒における適切な昇温が得られず、下流側のハニカム触媒において充分なHC浄化が行えなくなってしまうことがある。ハニカム構造体は無機酸化物からなる成形体であり、ハニカム構造体自体は触媒としての活性を有さず、後述するようなTWC触媒層のような酸化反応による発熱機能を有しないことから、下流側ハニカム触媒においては、いかに外部から供給される熱を効果的に自身の昇温に利用できるかが重要な要素となる。
【0044】
また、本発明装置に使用される上流側のハニカム触媒を構成するハニカム構造体のセル壁が下流側のハニカム触媒を構成するハニカム構造体のセル壁よりも厚いことで、上流側のハニカム触媒は昇温し難い状態になるとも言え、後述するゼオライトにおける吸着HCの脱離開始が遅くなり、その間、下流側ハニカム触媒は昇温に要する時間を長く得られることになり、本発明の効果が得られ易くなるともいえる。
【0045】
[ハニカム構造体:セル密度]
ハニカム構造体の構造を決定する要素としては、材質、セル壁の厚さの他にセル密度が挙げられる。セル密度は、ハニカム構造体における軸線と直交する断面の単位面積あたりのセルの数で表される。本発明の排ガス浄化触媒装置に使用される下流側ハニカム触媒を構成するハニカム構造体のセル密度は特に限定されるものでは無く、広く市場に流通し、当業者に利用されてきたセル密度のハニカム構造体の中から適宜選択することができる。このようなセル密度の具体的な例としては、62~124セル/cm(400~800セル/inch)が好ましく、62~93セル/cm(400~600セル/inch)がより好ましい。
【0046】
また、本発明装置では著しい背圧の上昇を招かないことも効果であることから、上流側のハニカム触媒に使用されるハニカム構造体と、下流側のハニカム触媒に使用されるハニカム構造体のセル密度には大きな違いが無いときにより効果的であることから、62~93セル/cm(400~600セル/inch)の範囲でそれぞれ選択されることが好ましいといえる。
【0047】
この様に上流側、下流側のハニカム構造体のセル密度に大きな違いが無い仕様には、例えば、上流側、下流側のハニカム構造体のセル密度が同一である場合、あるいは下流側のハニカム触媒のセル密度が上流側よりも小さい場合も含まれる。この様な仕様によれば下流側のハニカム構造体を原因とした背圧の上昇をより効果的に抑制する事ができる。
【0048】
[上流側のハニカム触媒:炭化水素吸着材]
本発明装置では、上流側のハニカム触媒に使用されるハニカム構造体のセル壁上には少なくともゼオライトからなる炭化水素吸着材を含む触媒層が被覆される。このような炭化水素吸着材(以下、「HC-trap材」ということもある)となるゼオライトとしては従来から当業者が使用してきたものを適宜使用すれば問題ないが、例えば、特許文献1、2にも挙げられているような、MFI型、FAU型(USY等)、*BEA型、MSE型(MCM-68等)等の比較的大細孔なゼオライトの中から選択して使用することが好ましい。
【0049】
内燃機関から排出されるHC成分はガソリンや軽油など化石燃料の燃焼に由来して発生するものでありその分子サイズも多様性を有し、メタンのような分子サイズが小さなものだけでなく、キシレン等の様に大きな分子サイズのHC成分も含まれる。HC-trap材はこのような多様な分子サイズのHC成分を吸着する必要性があることから、採用されるゼオライトも大細孔なものであることが望ましい。また、このような大細孔なゼオライトはそのまま使用しても良いが、鉄や銅などの遷移金属をイオン交換等の手法で担持させたものであっても良い。なお、このようなHC-trap材は前記のような大細孔なゼオライトの他、CHA、AEI、AFXの様に小細孔なゼオライトを組み合わせて使用してもよい。
【0050】
[上流側のハニカム触媒:層構造]
本発明装置の上流側のハニカム触媒に使用されるハニカム構造体のセル壁上には少なくともHC-trap材を含む触媒層が被覆されているので、HC-trap材が含まれていることは前述のとおりであるが、この他にも上流側ハニカム触媒に含まれるHC-trap材から脱離したHCを浄化するために更にHC-trap材であるゼオライトを含まない触媒成分を含んでいても良い。
【0051】
本発明装置の上流側のハニカム触媒に、HC-trap材と共にゼオライトを含まない触媒成分を併せて使用する場合、HC-trap材と混合して使用しても良いが、ハニカム構造体のセル壁上にHC-trap材を含む触媒層を被覆した後、その上にゼオライトを含まない触媒成分を含む触媒層を被覆することが望ましい。
【0052】
上流側のハニカム触媒に使用されるゼオライトを含まない触媒成分としては、従来の内燃機関から排出される排ガスの浄化に使用される組成から適宜選択されるものであるが、自動車排ガス、特にガソリン自動車から排出される排ガスの浄化に使用する場合は、無機酸化物粒子に担持された貴金属成分を含む貴金属触媒が挙げられる。この貴金属触媒は、TWCとも言われる三元触媒が含まれることが望ましい。TWCの組成は各個別の仕様に応じて細部が多様に調整されるが、その基本的な構成はアルミナ、ジルコニア、セリア、チタニア等の一種以上を含む無機酸化物粒子を担体とし、これに白金、パラジウム、ロジウムなどの貴金属を担持させ、セリア粒子等に代表される酸素吸蔵法放出材料と組合せたものである。TWCではこれらの触媒成分の相互作用によって、HCの酸化による浄化のみならず、NOx、CO等の浄化も行われる。
【0053】
本発明装置の上流側のハニカム触媒として好ましい態様としては、ハニカム構造体のセル壁上にHC-trap材を含む触媒層(以下、「HC-trap触媒層」ということもある)を被覆した後、その上に無機酸化物粒子に担持された貴金属成分(ゼオライトを含まない触媒成分)を含む貴金属触媒層(以下、「TWC触媒層」ということもある)を被覆することが望ましい。前述の様にTWC組成物は粒子状の触媒成分からなるものであるが、このような粒子状の成分をHC-trap触媒層の表面に被覆することで、HC-trap触媒層から脱離したHCの幾らかはTWC触媒層で浄化することができる。また、HC-trap触媒層の表面がTWC触媒層で覆われていることで、HC-trap触媒層から脱離したHCが再び排ガスの流れの中に戻されることを遅延させる作用も期待できる。このようにして生じた遅延時間の間に、後段ハニカム触媒の昇温は促されてより効率的はHC浄化が可能になる。
【0054】
また、TWC触媒層における排ガス中のHCやCOの浄化は排ガス中の酸素を利用する酸化反応であることから発熱を伴う。一方で、コージェライト等の無機酸化物からなるハニカム構造体ではセル壁そのものが反応に寄与することは殆どない。HCに限らず、排ガス浄化における触媒反応は相応に高い温度下において促進するものであることから、TWC触媒層におけるHCやCOの酸化はハニカム触媒そのものの発熱を促し浄化率の更なる向上が見込める。このような触媒の発熱を促す為にも、TWC触媒層は排ガスと直接接触する最表面に形成されることが望ましいため、上流側のハニカム構造体のセル壁上には、HC-trap触媒層およびTWC触媒層がこの順で被覆されることが好ましい。
【0055】
[下流側のハニカム触媒]
本発明装置の下流側のハニカム触媒は、これに使用されるハニカム構造体を構成するセル壁の厚みが上流側のハニカム触媒に使用されるハニカム構造体を構成するセル壁の厚みより薄ければよい。
【0056】
下流側のハニカム触媒に使用されるハニカム構造体のセル壁上には、触媒層が被覆される。このような触媒層としては、例えば、ゼオライトを含まない触媒層等が挙げられる。このゼオライトを含まない触媒層としては、上流側のハニカム触媒から放出されたHCを浄化するために酸化機能を有するものが好ましく、このような酸化機能を有する触媒としては白金、パラジウム、ロジウム等、酸化機能を有する貴金属が含まれることが望ましい。また、本発明装置が設置される内燃機関がガソリン自動車に搭載されているものであれば、HCの酸化の他NOxの還元浄化も行われることが望ましいことから、下流側のハニカム触媒に含まれる触媒組成物は上流側ハニカム触媒同様に白金、パラジウム、Rhを組み合わせて使用するTWCであることが望ましい。
【0057】
なお、下流側のハニカム触媒には上流側のハニカム触媒のようにゼオライトからなるHC-trap材が含まれていてもよいが、その場合、上流側のハニカム触媒に使用されるハニカム構造体の単位体積当たりのゼオライトの量よりも少ない量でゼオライトを含むことが望ましい。下流側のハニカム触媒にHC-trap材が多量に含まれてしまうと、仮に下流側のハニカム触媒のHC-trap材にHCが吸着した場合であっても、下流側のハニカム触媒自体がHCを酸化するのに充分に昇温していない場合や、昇温しつつある途中でHCが脱離した場合にHCが浄化されずにそのまま大気中に排出されてしまう恐れがある。このような懸念を無くすため、下流側のハニカム触媒の後方に更に別の触媒を配置することや、下流側のハニカム触媒を電気的に加熱することも考えられるが、そのような仕様の場合、自動車であればそのコスト増は車両価格に反映されしまい市場における商品価値を低下させてしまう。
【0058】
下流側のハニカム触媒にHC-trap材を含ませる場合、HC-trap材と前記のゼオライトを含まない触媒、好ましくは酸化機能を有する触媒、より好ましくはTWCと混合した触媒組成層としてハニカム構造体のセル壁表面に被覆するものであっても良いが、下流側のハニカム触媒のセル壁上に上流側のハニカム触媒よりも担持量が少ないHC-trap触媒層を被覆し、その上にゼオライトを含まない触媒層、好ましくは酸化機能を有する触媒層、より好ましくはTWC触媒層を被覆するものであっても良い。このような層構造を構成することで、上流側のハニカム触媒と同様の効果が期待できる。
【0059】
このような上流側のハニカム触媒や下流側ハニカム触媒の触媒成分の量は、当業者においてはハニカム構造体の単位体積当たりの量[g/L]として特定される。すなわち、下流側ハニカム触媒に含まれるゼオライトのようなHC-trap材の量が上流側のハニカム触媒よりも少ないとは、この単位体積あたりの量[g/L]をもって特定することができる。下流側のハニカム触媒にHC-trap材を含む場合、ハニカム構造体の単位体積あたりで、上流側のハニカム触媒に含まれるHC-trap材の量の1/2以下であることが好ましく、1/3以下であることがより好ましい。
【0060】
また、触媒成分の量は前記のような単位体積当たりの量[g/L]の他、触媒層の厚みとして特定されるもので有ってもよい。触媒層の厚みとして特定されるものである場合、ハニカム構造体の軸線と直交する方向の断面から観察されるセル壁に被覆された触媒層の厚みの平均値として特定することができる。このような触媒層の厚みの平均値は触媒層の厚いところと薄いところの平均値であるが、例えば、比較的触媒層が厚くなり易いセル角部と、比較的触媒層が薄くなり易いセル壁中央部分との平均値であっても良い。
【0061】
[他の触媒層]
本発明装置における上流側のハニカム触媒、下流側のハニカム触媒における好ましい触媒層の構成は前述のとおりであるが、本発明においては他の機能を期待して多様な触媒層と組み合わせてハニカム触媒を構成して良い。このような他の機能を有する触媒層としては、例えば、上流側のハニカム触媒におけるHC-trap触媒層とセル壁との密着性を向上させるためにセル壁とHC-trap触媒層との間にベースコート層といわれる被覆層を設けたり、TWC触媒層における活性を制御するために組成の異なるTWC触媒層を2層以上積層した仕様などが挙げられる。この様なベースコート層やTWCの多層化は下流側のハニカム触媒における触媒層の構成においても同様である。
【0062】
[ハニカム触媒の製法]
本発明装置に使用される上流側のハニカム触媒、下流側のハニカム触媒共に、ハニカム構造体のセル壁上に触媒層を被覆したものであることは前述のとおりである。本発明装置に使用されるハニカム触媒に触媒組成物層を被覆する手法は特に限定されるものでは無く、当業者によって広く実施されているウオッシュコート法をもって被覆することができる。
【0063】
ウオッシュコート法は当業者において様々な仕様が検討され、出願(特表2003-506211号公報、特表2011-529788号公報)も実施もされているが、その概要は、ハニカム構造体の一方の開口端面から所定量の触媒組成物スラリーを供給し、これを風圧等の手段を用いてハニカム構造体の他の開口端面に向けて触媒組成物スラリーを所定長さで塗り伸ばし、あるいは余分な触媒組成物スラリーを除去するものである。
【0064】
また、ウオッシュコート法においては、異なる触媒組成物をハニカム構造体の部分で塗り分けるゾーンコートを施す場合もあり、本発明装置に使用されるハニカム触媒を製造する場合にも同様であるが、その場合でも上流側のハニカム触媒、下流側のハニカム触媒における望ましい層構造は前述のとおりである。
【0065】
なお、上流側のハニカム触媒において下層にゼオライトからなるHT-trap触媒層を設けた場合、そのHC-trap触媒層は排ガスの流れに直接露出する部分を有さず、酸化機能を有するTWC触媒層のような触媒組成物層で完全に覆われていることが望ましい。HC-trap触媒層に排ガスの流れに直接露出する部分があると、前段ハニカム触媒からのHC脱離の遅延効果やHC-trap材から脱離したHCの浄化効果が得られなかったり低減したりすることがある。
【0066】
以上説明した、本発明装置は、燃焼機関から排出される排ガス流中に配置することにより排ガスを浄化することができる。
【実施例0067】
[実施形態1]
以下、本発明の実施形態の例について詳述する。図1は本発明装置の実施形態を表す模式図であって触媒層は省略している。図1では上流側のハニカム触媒の後方、すなわち排ガスの流れに対して後段の下流側のハニカム触媒を配置しており、下流側のハニカム触媒に使用されるハニカム構造体のセル壁は上流側のハニカム触媒に使用されるハニカム構造体のセル壁よりも薄くなっている。
【0068】
図1の実施形態におけるハニカム構造体の材質は特に限定されるものでは無いことは前述のとおりであるが、産業目的の実施、特に自動車に実装されることを想定した場合、廉価で高強度、高耐久性であることからコージェライト製が望ましいことも前述のとおりであり、本実施形態の上流側のハニカム触媒、下流側のハニカム触媒どちらの材質としても望ましいものである。
【0069】
図1に示すとおり、本実施形態におけるハニカム構造体のセル壁の厚みは、上流側のハニカム触媒に比べ下流側のハニカム触媒の方が薄くなっている。これにより、下流側のハニカム触媒におけるセル壁はいち早く暖まることができ、下流側のハニカム触媒に被覆された酸化機能を有する触媒成分の働きで下流側ハニカム触媒に含まれるHC-trap材から脱離したHCの浄化を促進することができる。
【0070】
図3は本発明の実施形態である図1における上流側のハニカム触媒のセル壁の部分11の拡大図である。上流側のハニカム触媒のセル壁12は、後述する下流側のハニカム触媒のセル壁22よりも厚く、排ガスの熱を受けても暖まり難くなっている。また、図3では図で省略した触媒組成物層がここでは模式的に記載されており、セル壁12の上にはHC-trap触媒層14が、HC-trap触媒層14の上にはTWC触媒層13が被覆されている。
【0071】
図3に表された触媒組成物層の構成であると、HC-trap触媒層が吸着したHCが脱離する際には上層であるTWC層を通過することになり、完全とはいかないまでも、脱離HCの幾何かは浄化され、下流側のハニカム触媒で浄化しなければならないHCの量を減らすことができ、総合的に大気中に排出されるHCの量も減らすことができる。
【0072】
また、図3の様にHC-trap触媒層14をTWC層13で覆うことで、TWC層13が障害となり、HC-trap触媒層14からの脱離したHCが下流側ハニカム触媒に到達する時間を遅らせ、下流側ハニカム触媒が暖まる時間を稼ぐことができる。加えて、TWC層13が障害となることで、HC-trap触媒層14が暖まった時にも一度に多量のHCを脱離して排ガス中に放出してしまうことなく、少量ずつ長い時間をかけて下流側ハニカム触媒2にHCを供給することになり、反応時間が長くなり下流側ハニカム触媒2でのHC浄化活性を向上させることが可能になり、最終的に大気中に排出されるHCの量も減らすことができる。
【0073】
図4は本発明の実施形態である図1における下流側ハニカム触媒のセル壁の部分21の拡大図である。下流側ハニカム触媒2におけるハニカム構造体のセル壁22は上流側ハニカム触媒1におけるセル壁12よりも薄くなっている。これにより、排ガスの熱を受けてセル壁22がいち早く暖まることが可能になる。
【0074】
本実施形態ではセル壁22の表面にTWC触媒層23が被覆されており、いち早く暖まった下流側ハニカム触媒2によって、上流側ハニカム触媒1のHC-trap材層から脱離したHCを効果的に浄化することが可能になり、大気中に排出されるHCの量を減らすことができる。また、実施形態における下流側ハニカム触媒はそのセル壁の厚みが薄いものであることから、ハニカム構造体におけるセルの開口面積の総和は大きなものとなり、内燃機関の出力低下の原因となる排ガスにおける背圧の上昇を小さなものとすることができる。
【0075】
[実施形態2]
図5は本発明の別の実施形態であり、図1における上流側のハニカム触媒のセル壁の部分拡大図11と、下流側のハニカム触媒のセル壁の部分拡大図21の拡大図である。この実施形態では、上流側、下流側のハニカム触媒共にセル壁上にはHC-trap触媒層が被覆されている。上流側のハニカム触媒は実施形態1と同様であるが、下流側のハニカム触媒におけるHC-trap触媒層24のHC-trap材の量が上流側のハニカム触媒におけるHC-trap触媒層のHC-trap材の量よりも少なくなっている。これにより、圧力損失と下流側ハニカム触媒が充分に加熱されていない時にも大量のHCの脱離を招くことなく、セル壁の薄さによる下流側ハニカム触媒の加熱され易さを生かしていち早く下流側のHC-trap触媒層23を昇温することが可能になる。
【0076】
なお、図示はしていないが上流側のハニカム触媒と下流側のハニカム触媒における触媒層はTWCのように貴金属を含む触媒成分とゼオライトのようなHC-trap機能を有する触媒成分を混合して組成した触媒層であって良いが、本発明を実施する点では、このような混合組成である触媒であっても、下流側のハニカム触媒に被覆される触媒層に含まれるHC-trap材の量は上流側のハニカム触媒に被覆される触媒層に含まれるHC-trap材の量よりも少ない事が望ましい事は言うまでもない。
【0077】
[比較形態]
図2は特許文献1に表された従来の触媒装置を比較形態として表している。ここでの下流側のハニカム触媒に使用される2’のハニカム構造体では、実施形態の下流側のハニカム触媒2に比べてセル壁を薄いものとはせず、単にセル密度のみを大きくしたものになっている。
【0078】
ここで、図2の比較形態における上流側のハニカム触媒1は実施形態の上流側のハニカム触媒1と同一で、下流側のハニカム触媒に被覆されているTWC触媒層が実施形態の下流側のハニカム触媒におけるTWC触媒層23、あるいはHC-trap触媒層24と同一である場合、比較形態の様にセル密度のみを大きくした触媒装置では、下流側のハニカム触媒のハニカム構造体におけるセルの開口面積の総和は小さなものとなってしまい、下流側のハニカム触媒におけるハニカム構造体の昇温が遅れるのみならず、内燃機関の出力低下の原因となる排ガスにおける背圧の上昇を招いてしまう。
【符号の説明】
【0079】
1 上流側のハニカム触媒
2 下流側のハニカム触媒
2’ セル密度のみを大きくした下流側のハニカム触媒
11 上流側のハニカム触媒におけるセル壁の一部
12 下流側のハニカム触媒におけるハニカム構造体のセル壁
13 TWC触媒層
14 HC-trap触媒層
21 下流側のハニカム触媒におけるセル壁の一部
22 下流側のハニカム触媒におけるハニカム構造体のセル壁
23 TWC触媒層
24 下流側のHC-trap触媒層
図1
図2
図3
図4
図5