(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022114552
(43)【公開日】2022-08-08
(54)【発明の名称】セラミック電子部品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 4/30 20060101AFI20220801BHJP
【FI】
H01G4/30 516
H01G4/30 201D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021010854
(22)【出願日】2021-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】増田 秀俊
【テーマコード(参考)】
5E001
5E082
【Fターム(参考)】
5E001AB03
5E001AC09
5E001AH01
5E001AH03
5E001AJ01
5E082AA01
5E082AB03
5E082BC19
5E082EE04
5E082EE23
5E082EE35
5E082EE37
5E082FF05
5E082FG04
5E082FG26
5E082FG46
5E082GG10
5E082PP03
5E082PP09
(57)【要約】
【課題】 ESRを抑制しつつ耐湿性を向上させることができるセラミック電子部品およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 セラミック電子部品は、セラミックを主成分とする複数の誘電体層と、3層以上の内部電極層と、が交互に積層された積層構造を備え、前記3層以上の内部電極層は、NiおよびSnを含み、前記3層以上の内部電極層のうち少なくとも2層の関係において、積層方向の中心側の内部電極層よりも前記積層方向の端側の内部電極層のSn濃度が高いことを特徴とする。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックを主成分とする複数の誘電体層と、3層以上の内部電極層と、が交互に積層された積層構造を備え、
前記3層以上の内部電極層は、NiおよびSnを含み、
前記3層以上の内部電極層のうち少なくとも2層の関係において、積層方向の中心側の内部電極層よりも前記積層方向の端側の内部電極層のSn濃度が高いことを特徴とするセラミック電子部品。
【請求項2】
前記積層方向の中心の内部電極層から前記積層方向の最端の内部電極層までにおいて、前記最端の内部電極層のSn濃度が最も高いことを特徴とする請求項1に記載のセラミック電子部品。
【請求項3】
前記積層方向の最端から中心側にかけての複数の内部電極層の各Sn濃度は、前記積層方向の中心側の残りの内部電極層の各Sn濃度よりも高いことを特徴とする請求項1に記載のセラミック電子部品。
【請求項4】
前記積層方向の中心の内部電極層から前記積層方向の最端の内部電極層までの各内部電極層のSn濃度が、前記積層方向の中心の内部電極層から前記積層方向の最端の内部電極層にかけて段階的または徐々に大きくなることを特徴とする請求項1に記載のセラミック電子部品。
【請求項5】
前記3層以上の内部電極層の厚みは、1μm以下であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項6】
前記3層以上の内部電極層において、Sn濃度は、10at%以下であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項7】
前記3層以上の内部電極層において、Sn濃度は、0.1at%以上であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項8】
前記3層以上の各内部電極層のSn濃度について、最小のSn濃度に対する最大のSn濃度の比は、1を上回り、100以下であることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項9】
前記内部電極層において、厚さ方向の中心部よりも、前記誘電体層との界面近傍において、Snの濃度が高いことを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項10】
誘電体グリーンシート上に、NiおよびSnを含む内部電極パターンを形成することによって積層単位を形成する工程と、
3層以上の前記積層単位を積層することによって積層体を形成する工程と、
前記積層体を焼成する工程と、を含み、
焼成前の前記内部電極パターンのうち少なくとも2層において、積層方向の中心側の内部電極パターンよりも前記積層方向の端側の内部電極パターンのSn濃度を高くしておくことを特徴とするセラミック電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック電子部品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化に伴い、電子機器に搭載される積層セラミックコンデンサなどのセラミック電子部品についても、さらなる小型化が求められている。基本特性である容量値を大きくするためには、(1)誘電体層の誘電率を大きくする、(2)容量規定面積を大きくする、(3)誘電体層を薄くする、のいずれかの手段が考えられる。誘電率と素子サイズとが既定の場合、誘電体層が薄いほど1層あたりの容量値を大きくできることに加え、誘電体層及び内部電極層を薄くすることにより、既定の厚さ内に積層する数を大きくすることが可能となるため、有利となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、内部電極層を薄くすると、焼成過程で内部電極層が断裂し易くなる。外部環境からの水分が断裂部分に浸入して機能領域に達すると、絶縁不良などの不具合が発生する。誘電体層が薄いと、この不具合はさらに加速することになる。特許文献1では、内部電極層を形成するためのニッケル(Ni)ペーストおよび共材の添加割合と、粒寸法とを調整することで、内部電極層を断裂し難くする方策が記載されている。断裂し難い内部電極層を積層方向の最外層に配することで、外部からの湿度の侵入を防ぎ、耐湿性を改善している。しかしながら、内部電極層が薄くなると、上記の手法では効果が不十分となり、他の対策が必要となってきている。
【0005】
そこで、内部電極層にスズ(Sn)を添加することが考えられる。しかしながら、内部電極層にSnを添加すると、耐湿性が向上するものの、ESR(等価直列抵抗)が高くなってしまう。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、ESRを抑制しつつ耐湿性を向上させることができるセラミック電子部品およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るセラミック電子部品は、セラミックを主成分とする複数の誘電体層と、3層以上の内部電極層と、が交互に積層された積層構造を備え、前記3層以上の内部電極層は、NiおよびSnを含み、前記3層以上の内部電極層のうち少なくとも2層の関係において、積層方向の中心側の内部電極層よりも前記積層方向の端側の内部電極層のSn濃度が高いことを特徴とする。
【0008】
上記セラミック電子部品の前記積層方向の中心の内部電極層から前記積層方向の最端の内部電極層までにおいて、前記最端の内部電極層のSn濃度が最も高くてもよい。
【0009】
上記セラミック電子部品において、前記積層方向の最端から中心側にかけての複数の内部電極層の各Sn濃度は、前記積層方向の中心側の残りの内部電極層の各Sn濃度よりも高くてもよい。
【0010】
上記セラミック電子部品において、前記積層方向の中心の内部電極層から前記積層方向の最端の内部電極層までの各内部電極層のSn濃度が、前記積層方向の中心の内部電極層から前記積層方向の最端の内部電極層にかけて段階的または徐々に大きくなっていてもよい。
【0011】
上記セラミック電子部品において、前記3層以上の内部電極層の厚みは、1μm以下であってもよい。
【0012】
上記セラミック電子部品の前記3層以上の内部電極層において、Sn濃度は、10at%以下であってもよい。
【0013】
上記セラミック電子部品の前記3層以上の内部電極層において、Sn濃度は、0.1at%以上であってもよい。
【0014】
上記セラミック電子部品において、前記3層以上の各内部電極層のSn濃度について、最小のSn濃度に対する最大のSn濃度の比は、1を上回り、100以下であってもよい。
【0015】
上記セラミック電子部品の前記内部電極層において、厚さ方向の中心部よりも、前記誘電体層との界面近傍において、Snの濃度が高くてもよい。
【0016】
本発明に係るセラミック電子部品の製造方法は、誘電体グリーンシート上に、NiおよびSnを含む内部電極パターンを形成することによって積層単位を形成する工程と、3層以上の前記積層単位を積層することによって積層体を形成する工程と、前記積層体を焼成する工程と、を含み、焼成前の前記内部電極パターンのうち少なくとも2層において、積層方向の中心側の内部電極パターンよりも前記積層方向の端側の内部電極パターンのSn濃度を高くしておくことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ESRを抑制しつつ耐湿性を向上させることができるセラミック電子部品およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】積層セラミックコンデンサの部分断面斜視図である。
【
図4】(a)および(b)はSn濃度を例示する図である。
【
図6】内部電極層内のSn濃度を例示する図である。
【
図7】積層セラミックコンデンサの製造方法のフローを例示する図である。
【
図8】(a)および(b)は積層工程を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。
【0020】
(実施形態)
図1は、実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100の部分断面斜視図である。
図2は、
図1のA-A線断面図である。
図3は、
図1のB-B線断面図である。
図1~
図3で例示するように、積層セラミックコンデンサ100は、略直方体形状を有する積層チップ10と、積層チップ10のいずれかの対向する2端面に設けられた外部電極20a,20bとを備える。なお、積層チップ10の当該2端面以外の4面のうち、積層方向の上面および下面以外の2面を側面と称する。外部電極20a,20bは、積層チップ10の積層方向の上面、下面および2側面に延在している。ただし、外部電極20a,20bは、互いに離間している。
【0021】
積層チップ10は、誘電体として機能するセラミック材料を含む誘電体層11と、卑金属材料を含む3層以上の内部電極層12とが、交互に積層された構成を有する。各内部電極層12の端縁は、積層チップ10の外部電極20aが設けられた端面と、外部電極20bが設けられた端面とに、交互に露出している。それにより、各内部電極層12は、外部電極20aと外部電極20bとに、交互に導通している。その結果、積層セラミックコンデンサ100は、複数の誘電体層11が内部電極層12を介して積層された構成を有する。また、誘電体層11と内部電極層12との積層体において、積層方向の最外層には内部電極層12が配置され、当該積層体の上面および下面は、カバー層13によって覆われている。カバー層13は、セラミック材料を主成分とする。例えば、カバー層13の材料は、誘電体層11とセラミック材料の主成分が同じである。
【0022】
積層セラミックコンデンサ100のサイズは、例えば、長さ0.25mm、幅0.125mm、高さ0.125mmであり、または長さ0.4mm、幅0.2mm、高さ0.2mm、または長さ0.6mm、幅0.3mm、高さ0.3mmであり、または長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.5mmであり、または長さ3.2mm、幅1.6mm、高さ1.6mmであり、または長さ4.5mm、幅3.2mm、高さ2.5mmであるが、これらのサイズに限定されるものではない。
【0023】
誘電体層11は、例えば、一般式ABO3で表されるペロブスカイト構造を有するセラミック材料を主成分とする。なお、当該ペロブスカイト構造は、化学量論組成から外れたABO3-αを含む。例えば、当該セラミック材料として、BaTiO3(チタン酸バリウム),CaZrO3(ジルコン酸カルシウム),CaTiO3(チタン酸カルシウム),SrTiO3(チタン酸ストロンチウム),ペロブスカイト構造を形成するBa1-x-yCaxSryTi1-zZrzO3(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦1)等を用いることができる。1層あたりの誘電体層11の厚みは、例えば、0.05μm以上5μm以下であり、または0.1μm以上3μm以下であり、または0.2μm以上1μm以下である。
【0024】
図2で例示するように、外部電極20aに接続された内部電極層12と外部電極20bに接続された内部電極層12とが対向する領域は、積層セラミックコンデンサ100において電気容量を生じる領域である。そこで、当該電気容量を生じる領域を、容量領域14と称する。すなわち、容量領域14は、異なる外部電極に接続された隣接する内部電極層12同士が対向する領域である。
【0025】
外部電極20aに接続された内部電極層12同士が、外部電極20bに接続された内部電極層12を介さずに対向する領域を、エンドマージン15と称する。また、外部電極20bに接続された内部電極層12同士が、外部電極20aに接続された内部電極層12を介さずに対向する領域も、エンドマージン15である。すなわち、エンドマージン15は、同じ外部電極に接続された内部電極層12が異なる外部電極に接続された内部電極層12を介さずに対向する領域である。エンドマージン15は、電気容量を生じない領域である。
【0026】
図3で例示するように、積層チップ10において、積層チップ10の2側面から内部電極層12に至るまでの領域をサイドマージン16と称する。すなわち、サイドマージン16は、上記積層構造において積層された複数の内部電極層12が2側面側に延びた端部を覆うように設けられた領域である。サイドマージン16も、電気容量を生じない領域である。
【0027】
全ての内部電極層12は、NiおよびSnを含んでいる。例えば、各内部電極層12は、Niを主成分とし、Snも含んでいる。内部電極層12がNiおよびSnを含むことで、積層セラミックコンデンサ100の耐湿性を向上させることができる。例えば、NiとSnとが合金化することで、内部電極層12と誘電体層11との界面の状態が変化することで、積層セラミックコンデンサ100の耐湿性が向上すると考えられる。
【0028】
しかしながら、内部電極層12がNiに加えてSnを含むことで、内部電極層12の電気抵抗が高くなるおそれがある。その結果、積層セラミックコンデンサ100の全体のESRが高くなるおそれがある。そこで、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100は、ESRを抑制しつつ耐湿性を向上させる構成を有している。
【0029】
本発明者が鋭意研究したところ、積層セラミックコンデンサ100において、外部環境との距離が短いほど水分が侵入しやすいことがわかった。そこで、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100は、積層方向の中央の内部電極層12から積層方向の最端の内部電極層12に至るまでの範囲の少なくとも2層の関係において、Sn濃度の高い内部電極層12が、Sn濃度の低い内部電極層12よりも積層方向の端側に配置されている構成を有している。この構成により、外部環境との距離が短く水分が侵入しやすい内部電極層12のSn濃度が高くなることから、積層セラミックコンデンサ100の耐湿性向上の効果が高くなる。また、外部環境との距離が長く水分が侵入しにくい内部電極層12のSn濃度が低いことから、積層セラミックコンデンサ100の耐湿性低下を抑制しつつ、ESRを抑制することができる。以上のことから、積層セラミックコンデンサ100のESRを抑制しつつ耐湿性を向上させることができる。なお、内部電極層12の積層数が偶数であれば、積層方向の中央の内部電極層とは、積層方向の中央の2層の内部電極層のことである。内部電極層12の積層数が奇数であれば、積層方向の中央の内部電極層とは、積層方向の中央の1層の内部電極層のことである。
【0030】
例えば、
図4(a)で例示するように、積層方向の中心の内部電極層12から積層方向の最端の内部電極層12までにおいて、当該最端の内部電極層12のSn濃度が最も高くなっていることが好ましい。この構成では、外部環境との距離が最も短い内部電極層12のSn濃度が最大となることから、積層セラミックコンデンサ100の耐湿性向上の効果が高くなる。なお、
図4(a)において、積層方向の最端の内部電極層12を黒く描くことで、当該最端の内部電極層12のSn濃度が最も高くなっていることを表している。
【0031】
例えば、
図4(b)で例示するように、積層方向の最端から中心側にかけての複数層の内部電極層12(外層領域の内部電極層12)の各Sn濃度が、積層方向の中心側の残りの内部電極層12(中心領域の内部電極層12)の各Sn濃度よりも高くなっていることが好ましい。この構成では、外部環境との距離が短い外層領域の各内部電極層12のSn濃度が高くなることから、積層セラミックコンデンサ100の耐湿性向上の効果が高くなる。なお、
図4(b)において、内部電極層12に白から黒までの濃淡を付すことで、Sn濃度の大小関係を表している。
【0032】
図4(b)の構成において、Sn濃度が高くなっている外層領域が狭すぎると、ESRが低くなる一方で十分な耐湿性が得られないおそれがある。したがって、外層領域の範囲に下限を設けることが好ましい。例えば、外層領域は、全内部電極層12のうち、積層方向の上下端から中心側にかけて、0%を上回り、5%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましい。
【0033】
一方、Sn濃度が高くなっている外層領域が広すぎると、十分な耐湿性が得られる一方でESRが大きくなるおそれがある。したがって、外層領域の範囲に上限を設けることが好ましい。例えば、外層領域は、全内部電極層12のうち、積層方向の上下端から中心側にかけて、45%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましく、20%以下であることがさらに好ましい。
【0034】
例えば、
図5で例示するように、積層方向の中心の内部電極層12から積層方向の最端の内部電極層12に至るまでの各内部電極層12のSn濃度が、積層方向の中心の内部電極層12から最端の内部電極層12にかけて段階的にまたは徐々に大きくなっていることが好ましい。この構成では、外部環境との距離が短く水分が侵入しやすい内部電極層12のSn濃度が高くなることから、積層セラミックコンデンサ100の耐湿性向上の効果が高くなる。また、外部環境との距離が長く水分が侵入しにくい内部電極層12のSn濃度が低いことから、積層セラミックコンデンサ100の耐湿性低下を抑制しつつ、ESRを抑制することができる。なお、「徐々に大きくなる」とは、連続的に増加(単調増加)することを含むとともに、積層方向の中心の内部電極層12から最端の内部電極層12に向かって複数のサンプル点でSn濃度を測定した場合に上下を繰り返しつつ全体として増加することを含む。
【0035】
各内部電極層12の厚みは、例えば、0.01μm以上5μm以下であり、または0.05μm以上3μm以下であり、または0.1μm以上1μm以下である。例えば、内部電極層12の厚みが1μm以下であると、焼成時の断裂によって連続率が低下しやすいため、本実施形態に係る構成の効果が顕著に発揮されるようになる。積層セラミックコンデンサ100において、内部電極層12の積層数は、例えば、10から5000であり、50から4000であり、100から3000である。
【0036】
各内部電極層12の各Sn濃度が大きすぎると、積層セラミックコンデンサ100のESRが高くなるおそれがあり、または焼成時に内部電極層12が溶解するおそれがある。そこで、各Sn濃度に上限を設けることが好ましい。例えば、各内部電極層12の各Sn濃度は、10at%以下であることが好ましく、5at%以下であることがより好ましく、1at%以下であることがさらに好ましい。なお、Snのat%とは、NiとSnの総量を100at%とした場合のSnの原子濃度比率のことである。
【0037】
一方、各内部電極層12の各Sn濃度が小さすぎると、積層セラミックコンデンサ100に十分な耐湿性が得られないおそれがある。そこで、各Sn濃度に下限を設けることが好ましい。例えば、各内部電極層12の各Sn濃度は、0.01at%以上であることが好ましく、0.05at%以上であることがより好ましく、0.1at%以上であることがさらに好ましい。
【0038】
例えば、各内部電極層12の各Sn濃度について、最小のSn濃度に対する最大のSn濃度の比は、1を上回り、1000以下であることが好ましく、1.5以上100以下であることがより好ましく、2以上50以下であることがさらに好ましい。
【0039】
なお、内部電極層12における誘電体層11との界面近傍において、Sn濃度が高くなっていることが好ましい。信頼性を支配するのは内部電極層全体ではなく、誘電体層11と内部電極層12との界面の近傍のみだからである。そこで、
図6で例示するように、内部電極層12においては、厚さ方向の中心部においてはSn濃度が低く、誘電体層11との界面近傍においてはSn濃度が高くなるような濃度勾配が形成されていることが好ましい。
【0040】
なお、内部電極層12がNiに加えてSnを含むことから、各内部電極層12の機械的強度が向上する。全ての内部電極層12がNiに加えてSnを含むことで、積層セラミックコンデンサ100の機械的強度が向上する。
【0041】
続いて、積層セラミックコンデンサ100の製造方法について説明する。
図7は、積層セラミックコンデンサ100の製造方法のフローを例示する図である。
【0042】
(原料粉末作製工程)
まず、誘電体層11を形成するための誘電体材料を用意する。誘電体層11に含まれるAサイト元素およびBサイト元素は、通常はABO3の粒子の焼結体の形で誘電体層11に含まれる。例えば、BaTiO3は、ペロブスカイト構造を有する正方晶化合物であって、高い誘電率を示す。このBaTiO3は、一般的に、二酸化チタンなどのチタン原料と炭酸バリウムなどのバリウム原料とを反応させてチタン酸バリウムを合成することで得ることができる。誘電体層11の主成分セラミックの合成方法としては、従来種々の方法が知られており、例えば固相法、ゾル-ゲル法、水熱法等が知られている。本実施形態においては、これらのいずれも採用することができる。
【0043】
得られたセラミック粉末に、目的に応じて所定の添加化合物を添加する。添加化合物としては、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、希土類元素(イットリウム(Y)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホロミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)およびイッテルビウム(Yb))の酸化物、または、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、リチウム(Li)、ホウ素(B)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)もしくはケイ素(Si)を含む酸化物、または、コバルト、ニッケル、リチウム、ホウ素、ナトリウム、カリウムもしくはケイ素を含むガラスが挙げられる。
【0044】
例えば、セラミック原料粉末に添加化合物を含む化合物を湿式混合し、乾燥および粉砕してセラミック材料を調製する。例えば、上記のようにして得られたセラミック材料について、必要に応じて粉砕処理して粒径を調節し、あるいは分級処理と組み合わせることで粒径を整えてもよい。以上の工程により、誘電体材料が得られる。
【0045】
(積層工程)
次に、得られた誘電体材料に、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂等のバインダと、エタノール、トルエン等の有機溶剤と、可塑剤とを加えて湿式混合する。得られたスラリを使用して、例えばダイコータ法やドクターブレード法により、基材51上に誘電体グリーンシート52を塗工して乾燥させる。基材51は、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムである。
【0046】
次に、
図8(a)で例示するように、誘電体グリーンシート52上に、内部電極パターン53を成膜する。
図8(a)では、一例として、誘電体グリーンシート52上に4層の内部電極パターン53が所定の間隔を空けて成膜されている。成膜手法は、特に限定されるものではないが、例えば、NiSn合金粉、またはNi粉およびSn粉の混合物を含む電極ペーストを用いる。または、NiSn合金ターゲットを用いたスパッタなどの真空成膜、NiおよびSnの個別ターゲットを用いた同時スパッタなどを用いてもよい。内部電極パターン53が成膜された誘電体グリーンシート52を、積層単位とする。
【0047】
次に、誘電体グリーンシート52を基材51から剥がしつつ、
図8(b)で例示するように、積層単位を3層以上積層する。この場合において、各内部電極パターンのうち少なくとも2層において、積層方向の中心側の内部電極パターンよりも積層方向の端側の内部電極パターンのSn濃度を高くしておく。
図4(a)~
図5のSn濃度分布が得られるように、各内部電極パターンのSn濃度を調整しておいてもよい。
【0048】
次に、積層単位が積層されることで得られた積層体の上下にカバーシートを所定数(例えば2~10層)だけ積層して熱圧着させ、所定チップ寸法(例えば1.0mm×0.5mm)にカットする。
図8(b)の例では、点線に沿ってカットする。カバーシートは、誘電体グリーンシート52と同じ成分であってもよく、添加化合物が異なっていてもよい。
【0049】
(焼成工程)
このようにして得られたセラミック積層体を、N2雰囲気で脱バインダ処理した後に外部電極20a,20bの下地層となる金属ペーストをディップ法で塗布し、酸素分圧10-5~10-8atmの還元雰囲気中で1100~1300℃で10分~2時間焼成する。このようにして、積層セラミックコンデンサ100が得られる。
【0050】
(再酸化処理工程)
その後、N2ガス雰囲気中で600℃~1000℃で再酸化処理を行ってもよい。
【0051】
(めっき処理工程)
その後、めっき処理により、外部電極20a,20bに、Cu,Ni,Sn等の金属コーティングを行ってもよい。
【0052】
本実施形態に係る製造方法によれば、積層方向の中央の内部電極層12から積層方向の最端の内部電極層12に至るまでの範囲の少なくとも2層の関係において、Sn濃度の高い内部電極層12が、Sn濃度の低い内部電極層12よりも積層方向の端側に配置されるようになる。それにより、積層セラミックコンデンサ100のESRを抑制しつつ耐湿性を向上させることができる。
【0053】
なお、上記各実施形態においては、セラミック電子部品の一例として積層セラミックコンデンサについて説明したが、それに限られない。例えば、バリスタやサーミスタなどの、他の電子部品を用いてもよい。
【実施例0054】
以下、実施形態に係る積層セラミックコンデンサを作製し、特性について調べた。
【0055】
(実施例1)
チタン酸バリウム粉末に対して添加物を添加し、ボールミルで十分に湿式混合粉砕して誘電体材料を得た。誘電体材料に有機バインダとしてブチラール系、溶剤としてトルエン、エチルアルコールを加えてドクターブレード法にてPETの基材上に誘電体グリーンシートを塗工した。誘電体グリーンシートの厚みは、1μmとした。
【0056】
次に、誘電体グリーンシート上に、Ni-Sn合金を含むペーストを用いて内部電極パターンを成膜した。
【0057】
次に、誘電体グリーンシートを基材から剥がしつつ、積層単位を積層した。積層数は1000とした。次に、積層単位が積層されることで得られた積層体の上下にカバーシートを所定数だけ積層して熱圧着した。その後、所定チップ寸法(1.0mm×0.5mm×0.5mm)にカットした。
【0058】
このようにして得られたセラミック積層体を、N2雰囲気で脱バインダ処理した後に外部電極の下地層となる金属ペーストをディップ法で塗布し、還元雰囲気下で焼成した。
【0059】
焼成後の各内部電極層12の厚さは、0.5μmであった。積層チップ10において、積層方向の最端から20μmの外層領域の内部電極層12のSn濃度を3at%とした。積層方向の最端から20μmの外層領域には、内部電極層12が9層含まれる。当該外層領域を除く中心領域の内部電極層12のSn濃度を0.2at%とした。
※「積層チップ10の積層方向の最端」はカバー層表面のことですので、10μm足した数値に修正しました。
【0060】
(実施例2)
実施例2では、積層チップ10において、積層方向の最端から10μmの外層領域を除く中心領域の内部電極層12のSn濃度を0.05at%とした。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0061】
(実施例3)
実施例3では、積層チップ10において、積層方向の最端から10μmの外層領域の内部電極層12のSn濃度を10at%とした。当該外層領域を除く中心領域の内部電極層12のSn濃度を0.1at%とした。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0062】
(比較例1)
比較例1では、いずれの内部電極層12に対してもSnを添加しなかった。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0063】
(比較例2)
比較例2では、積層チップ10において、積層方向の最端から10μmの外層領域の内部電極層12でも、当該外層領域を除く中心領域の内部電極層12でも、Sn濃度を3at%とした。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0064】
(比較例3)
比較例3では、積層チップ10において、積層方向の最端から10μmの外層領域の内部電極層12のSn濃度を0.2at%とした。当該外層領域を除く中心領域の内部電極層12のSn濃度を3at%とした。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0065】
(分析)
実施例1~3および比較例1~3のそれぞれについて、耐湿負荷寿命(min)、抗折強度(N)、およびESR(mΩ)を測定した。耐湿負荷寿命は、温度85℃、湿度85%で測定した。抗折強度(N)は、素子の両端をブリッジに渡し、所定の先端径を有するブレードで中央部を上から押さえ、素子が破壊したタイミングの加重を測定した。ESRは、インピーダンスの周波数特性から算出した。結果を表1に示す。なお、表1では、外層領域のSn濃度と中心領域のSn濃度との比も記載してある。
【表1】
【0066】
耐湿負荷寿命については、1000minを上回っていれば合格と判断した。ESRについては、15mΩ未満であれば合格と判断した。実施例1~3のいずれにおいても、耐湿負荷寿命およびESRの両方が合格と判断された。これは、外部環境との距離が短い内部電極層のSn濃度を大きくし、外部環境との距離が長い内部電極層のSn濃度を小さくしたからであると考えられる。なお、実施例1~実施例3のいずれにおいても、大きい抗折強度が得られた。これは、内部電極層にNiとともにSnを添加したことで機械的強度が向上したからであると考えられる。
【0067】
比較例1については、耐湿負荷寿命が不合格と判断された。これは、内部電極層にSnを添加しなかったことで、十分な耐湿性が得られなかったからであると考えられる。
【0068】
比較例2については、ESRが不合格と判断された。これは、外部環境との距離が長い内部電極層のSn濃度も大きくしたからであると考えられる。
【0069】
比較例3については、耐湿負荷寿命が不合格と判断された。これは、外部環境との距離が短い内部電極層のSnを小さくしたことで、十分な耐湿性が得られなかったからであると考えられる。
【0070】
(実施例4)
実施例4では、積層方向の最端の内部電極層のSn濃度を3at%とし、積層方向の中心の内部電極層のSn濃度を0.2at%とし、積層方向の中心から最端に向かってSn濃度が段階的に高くなるようにした。具体的には、中心から最端に向かって、10層ずつ内部電極層のSn濃度が段階的に高くなるようにし、Sn濃度を50段階とした。実施例4についても、耐湿負荷寿命(min)、抗折強度(N)、およびESR(mΩ)を測定した。結果を表2に示す。表2に示すように、耐湿負荷寿命およびESRの両方が合格と判断された。これは、外部環境との距離が短い内部電極層のSn濃度を大きくし、外部環境との距離が長い内部電極層のSn濃度を小さくしたからであると考えられる。また、大きい抗折強度が得られた。これは、内部電極層にNiとともにSnを添加したことで機械的強度が向上したからであると考えられる。
【表2】
【0071】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。