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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022114559
(43)【公開日】2022-08-08
(54)【発明の名称】真空ポンプ及びスペーサ
(51)【国際特許分類】
   F04D 19/04 20060101AFI20220801BHJP
【FI】
F04D19/04 D
F04D19/04 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021010866
(22)【出願日】2021-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】508275939
【氏名又は名称】エドワーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100156867
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 欣浩
(74)【代理人】
【識別番号】100143786
【弁理士】
【氏名又は名称】根岸 宏子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 春樹
【テーマコード(参考)】
3H131
【Fターム(参考)】
3H131AA02
3H131BA02
3H131BA06
3H131CA01
(57)【要約】
【課題】加熱源からの熱による固定翼の温度上昇を、部品を増やすことなく抑制することができる真空ポンプ、及びこのような真空ポンプに用いられるスペーサを提案する。
【解決手段】本発明は、回転軸103、113とともに回転する複数の回転翼102と、回転翼102の間に多段に配置される複数の固定翼123と、ケーシング114、129の内部に多段に設けられ、固定翼123を所定の位置に保持する複数のスペーサ125と、を備える真空ポンプであって、固定翼123を保持する複数のスペーサ125のうち少なくとも1つのスペーサ125d、125eは、固定翼123と接触する接触面125d3、125e3に凹面125d4、125e4を有することを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングと、
前記ケーシングの内部で回転自在に支持された回転軸と、
前記回転軸の外周に多段に設けられ、前記回転軸とともに回転する複数の回転翼と、
前記回転翼の間に多段に配置される複数の固定翼と、
前記ケーシングの内部に多段に設けられ、前記固定翼を所定の位置に保持する複数のスペーサと、を備える真空ポンプであって、
前記固定翼を保持する複数の前記スペーサのうち少なくとも1つのスペーサは、前記固定翼と接触する接触面に凹面を有することを特徴とする真空ポンプ。
【請求項2】
前記凹面は、排気側に位置する前記接触面に設けられることを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項3】
複数の前記スペーサのうち最も排気側に位置するスペーサは、前記凹面を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の真空ポンプ。
【請求項4】
前記凹面を有する前記スペーサは、展伸材から切削加工で作られたことを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載の真空ポンプ。
【請求項5】
前記展伸材は、アルミニウム合金であることを特徴とする請求項4に記載の真空ポンプ。
【請求項6】
ケーシングと、
前記ケーシングの内部で回転自在に支持された回転軸と、
前記回転軸の外周に多段に設けられ、前記回転軸とともに回転する複数の回転翼と、
前記回転翼の間に多段に配置される複数の固定翼と、を備える真空ポンプに用いられ、前記ケーシングの内部に多段に設けられ、前記固定翼を所定の位置に保持するスペーサであって、
前記固定翼を保持する複数の前記スペーサのうち少なくとも1つのスペーサは、前記固定翼と接触する接触面に凹面を有することを特徴とするスペーサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空ポンプ、及び真空ポンプに用いられるスペーサに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置に設けられた真空チャンバ内の排気処理には、ターボ分子ポンプ等の真空ポンプが使用される。半導体の製造工程では、半導体の基板に様々なプロセスガスを作用させる工程があり、真空ポンプは、半導体装置のチャンバ内を真空にする際に使用されるのみならず、チャンバ内からプロセスガスを排気する際にも使用される。
【0003】
プロセスガスが真空ポンプ内の流路を流れる際、蒸気圧曲線で示される圧力と温度の関係が気相から固相に移る箇所において、プロセスガスは固体化して流路の内壁面に堆積する。例えば、固定翼及び回転翼で構成されるターボ分子ポンプ機構部を吸気側に有し、回転体の円筒部とネジ付きスペーサのネジ溝で構成されるネジ溝ポンプ機構部を排気側に有する真空ポンプにおいては、ネジ溝ポンプ機構部でプロセスガスの圧力が高くなる。このため、特に排気側の流路の壁面に固体化した生成物が堆積し、ポンプの性能が低下することがある。
【0004】
このような問題に対し、従前より、ヒータ等の加熱源を用いて真空ポンプの排気側周辺部を加熱して排気側流路でのプロセスガスの温度を高めることによって、生成物の堆積を抑制することが行われている。
【0005】
ところで上記加熱源からの熱は、排気側周辺部に隣接する固定翼や固定翼を所定の位置に保持する固定翼スペーサ(以下、スペーサと称することもある)にも伝わるため、プロセスガスを加熱するためのエネルギーが余分に必要になる。
【0006】
また回転翼は、接触する気体との摩擦熱等によって温度が上昇すると、クリープ現象によって耐久性が損なわれるおそれがあるため、輻射等によって固定翼に熱を逃がして温度上昇を抑えることが肝要である。しかし、加熱源からの熱によって固定翼や固定翼スペーサの温度が高くなると、回転翼から固定翼へ効率よく放熱させることができず、回転翼の温度が上がりすぎるおそれがある。
【0007】
従来、このような不具合を解消することを目的として、特許文献1の真空ポンプが提案されている。この真空ポンプは、ターボ分子ポンプ機構部の外周を覆う上部ケーシングと、ヒータが設けられて上部ケーシングに連設する中間ケーシングとの接続部に、複数個の断熱部材を周方向に断続的に配置していて、これによりヒータの熱が上部ケーシングを介して固定翼へ伝達されるのを抑制して固定翼の温度を抑えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006-37951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一方、特許文献1の真空ポンプでは断熱部材が別途必要になるため、部品コストが増えることになる。また、部品点数の増加に伴って組み立て工数も増えるため、製造コストも嵩むことになる。
【0010】
このような点に鑑み、本発明は、加熱源からの熱による固定翼の温度上昇を、部品を増やすことなく抑制することができる真空ポンプ、及びこのような真空ポンプに用いられるスペーサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ケーシングと、前記ケーシングの内部で回転自在に支持された回転軸と、前記回転軸の外周に多段に設けられ、前記回転軸とともに回転する複数の回転翼と、前記回転翼の間に多段に配置される複数の固定翼と、前記ケーシングの内部に多段に設けられ、前記固定翼を所定の位置に保持する複数のスペーサと、を備える真空ポンプであって、前記固定翼を保持する複数の前記スペーサのうち少なくとも1つのスペーサは、前記固定翼と接触する接触面に凹面を有することを特徴とする。
【0012】
このような真空ポンプにおいて、前記凹面は、排気側に位置する前記接触面に設けられることが好ましい。
【0013】
また、複数の前記スペーサのうち最も排気側に位置するスペーサは、前記凹面を有することが好ましい。
【0014】
そして前記凹面を有する前記スペーサは、展伸材から切削加工で作られることが好ましい。
【0015】
ここで前記展伸材は、アルミニウム合金であることが好ましい。
【0016】
また本発明は、ケーシングと、前記ケーシングの内部で回転自在に支持された回転軸と、前記回転軸の外周に多段に設けられ、前記回転軸とともに回転する複数の回転翼と、前記回転翼の間に多段に配置される複数の固定翼と、を備える真空ポンプに用いられ、前記ケーシングの内部に多段に設けられ、前記固定翼を所定の位置に保持するスペーサであって、前記固定翼を保持する複数の前記スペーサのうち少なくとも1つのスペーサは、前記固定翼と接触する接触面に凹面を有することを特徴とするものでもある。
【発明の効果】
【0017】
本発明の真空ポンプにおいて、固定翼を所定の位置に保持するスペーサは、固定翼と接触する接触面に凹面を有していて、これにより固定翼との接触面積が少なくなって接触面での熱抵抗が大きくなるため、スペーサと固定翼との間での熱の伝達が抑えられて固定翼の温度上昇を抑制することができる。また凹面を設けることによってスペーサの熱経路が狭まり、熱の移動が妨げられるため、ネジ溝ポンプ機構部のように温度を維持したい部位の温度低下を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係る真空ポンプの一実施形態を概略的に示した縦断面図である。
図2図1に示した真空ポンプのアンプ回路の回路図である。
図3】電流指令値が検出値より大きい場合の制御を示すタイムチャートである。
図4】電流指令値が検出値より小さい場合の制御を示すタイムチャートである。
図5図1に示すA部の部分拡大図とスペーサの部分拡大図である。
図6】スペーサの変形例について示した図である。
図7図6に示したスペーサの製造方法に関する図である。
図8図5に示したスペーサの製造方法に関する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら本発明に係る真空ポンプの一実施形態であるターボ分子ポンプ100について説明する。まず、図1図4を参照しながらターボ分子ポンプ100の全体的な構成について説明する。なお、上述した本発明に係る「ケーシング」は、本実施形態のターボ分子ポンプ100では、外筒127を備える本体ケーシング部114とベース部129で構成される。また本発明に係る「回転軸」は、本実施形態では下記に説明する回転体103とロータ軸113で構成される。
【0020】
このターボ分子ポンプ100の縦断面図を図1に示す。図1において、ターボ分子ポンプ100には、円筒状の外筒127の上端に吸気口101が備えられている。そして、外筒127の内方には、ガスを吸引排気するためのタービンブレードである複数の回転翼102(102a、102b、102c・・・)を周部に放射状かつ多段に形成した回転体103が備えられている。この回転体103の中心にはロータ軸113が取り付けられており、このロータ軸113は、例えば5軸制御の磁気軸受により空中に浮上支持かつ位置制御されている。回転体103は、一般的に、アルミニウム又はアルミニウム合金などの金属によって構成されている。
【0021】
上側径方向電磁石104は、4個の電磁石がX軸とY軸とに対をなして配置されている。この上側径方向電磁石104に近接して、かつ上側径方向電磁石104のそれぞれに対応して4個の上側径方向センサ107が備えられている。上側径方向センサ107は、例えば伝導巻線を有するインダクタンスセンサや渦電流センサなどが用いられ、ロータ軸113の位置に応じて変化するこの伝導巻線のインダクタンスの変化に基づいてロータ軸113の位置を検出する。この上側径方向センサ107はロータ軸113、すなわちそれに固定された回転体103の径方向変位を検出し、制御装置200に送るように構成されている。
【0022】
この制御装置200においては、例えばPID調節機能を有する補償回路が、上側径方向センサ107によって検出された位置信号に基づいて、上側径方向電磁石104の励磁制御指令信号を生成し、図2に示すアンプ回路150(後述する)が、この励磁制御指令信号に基づいて、上側径方向電磁石104を励磁制御することで、ロータ軸113の上側の径方向位置が調整される。
【0023】
そして、このロータ軸113は、高透磁率材(鉄、ステンレスなど)などにより形成され、上側径方向電磁石104の磁力により吸引されるようになっている。かかる調整は、X軸方向とY軸方向とにそれぞれ独立して行われる。また、下側径方向電磁石105及び下側径方向センサ108が、上側径方向電磁石104及び上側径方向センサ107と同様に配置され、ロータ軸113の下側の径方向位置を上側の径方向位置と同様に調整している。
【0024】
さらに、軸方向電磁石106A、106Bが、ロータ軸113の下部に備えた円板状の金属ディスク111を上下に挟んで配置されている。金属ディスク111は、鉄などの高透磁率材で構成されている。ロータ軸113の軸方向変位を検出するために軸方向センサ109が備えられ、その軸方向位置信号が制御装置200に送られるように構成されている。
【0025】
そして、制御装置200において、例えばPID調節機能を有する補償回路が、軸方向センサ109によって検出された軸方向位置信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bのそれぞれの励磁制御指令信号を生成し、アンプ回路150が、これらの励磁制御指令信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bをそれぞれ励磁制御することで、軸方向電磁石106Aが磁力により金属ディスク111を上方に吸引し、軸方向電磁石106Bが金属ディスク111を下方に吸引し、ロータ軸113の軸方向位置が調整される。
【0026】
このように、制御装置200は、この軸方向電磁石106A、106Bが金属ディスク111に及ぼす磁力を適当に調節し、ロータ軸113を軸方向に磁気浮上させ、空間に非接触で保持するようになっている。なお、これら上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150については、後述する。
【0027】
一方、モータ121は、ロータ軸113を取り囲むように周状に配置された複数の磁極を備えている。各磁極は、ロータ軸113との間に作用する電磁力を介してロータ軸113を回転駆動するように、制御装置200によって制御されている。また、モータ121には図示しない例えばホール素子、レゾルバ、エンコーダなどの回転速度センサが組み込まれており、この回転速度センサの検出信号によりロータ軸113の回転速度が検出されるようになっている。
【0028】
さらに、例えば下側径方向センサ108近傍に、図示しない位相センサが取り付けてあり、ロータ軸113の回転の位相を検出するようになっている。制御装置200では、この位相センサと回転速度センサの検出信号を共に用いて磁極の位置を検出するようになっている。
【0029】
回転翼102(102a、102b、102c・・・)とわずかの空隙を隔てて複数枚の固定翼123(123a、123b、123c・・・)が配設されている。回転翼102(102a、102b、102c・・・)は、それぞれ排気ガスの分子を衝突により下方向に移送するため、ロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成されている。固定翼123(123a、123b、123c・・・)は、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。
【0030】
また、固定翼123も、同様にロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成され、かつ外筒127の内方に向けて回転翼102の段と互い違いに配設されている。そして、固定翼123の外周端は、複数の段積みされた固定翼スペーサ125(125a、125b、125c・・・)の間に嵌挿された状態で支持されている。
【0031】
固定翼スペーサ125はリング状の部材であり、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。固定翼スペーサ125の外周には、わずかの空隙を隔てて外筒127が固定されている。外筒127の底部にはベース部129が配設されている。ベース部129には排気口133が形成され、外部に連通されている。チャンバ(真空チャンバ)側から吸気口101に入ってベース部129に移送されてきた排気ガスは、排気口133へと送られる。
【0032】
さらに、ターボ分子ポンプ100の用途によって、固定翼スペーサ125の下部とベース部129の間には、ネジ付スペーサ131が配設される。ネジ付スペーサ131は、アルミニウム、銅、ステンレス、鉄、又はこれらの金属を成分とする合金などの金属によって構成された円筒状の部材であり、その内周面に螺旋状のネジ溝131aが複数条刻設されている。ネジ溝131aの螺旋の方向は、回転体103の回転方向に排気ガスの分子が移動したときに、この分子が排気口133の方へ移送される方向である。回転体103の回転翼102(102a、102b、102c・・・)に続く最下部には円筒部102dが垂下されている。この円筒部102dの外周面は、円筒状で、かつネジ付スペーサ131の内周面に向かって張り出されており、このネジ付スペーサ131の内周面と所定の隙間を隔てて近接されている。回転翼102および固定翼123によってネジ溝131aに移送されてきた排気ガスは、ネジ溝131aに案内されつつベース部129へと送られる。
【0033】
ベース部129は、ターボ分子ポンプ100の基底部を構成する円盤状の部材であり、一般には鉄、アルミニウム、ステンレスなどの金属によって構成されている。ベース部129はターボ分子ポンプ100を物理的に保持すると共に、熱の伝導路の機能も兼ね備えているので、鉄、アルミニウムや銅などの剛性があり、熱伝導率も高い金属が使用されるのが望ましい。
【0034】
かかる構成において、回転翼102がロータ軸113と共にモータ121により回転駆動されると、回転翼102と固定翼123の作用により、吸気口101を通じてチャンバから排気ガスが吸気される。回転翼102の回転速度は通常20000rpm~90000rpmであり、回転翼102の先端での周速度は200m/s~400m/sに達する。吸気口101から吸気された排気ガスは、回転翼102と固定翼123の間を通り、ベース部129へ移送される。このとき、排気ガスが回転翼102に接触する際に生ずる摩擦熱や、モータ121で発生した熱の伝導などにより、回転翼102の温度は上昇するが、この熱は、輻射又は排気ガスの気体分子などによる伝導により固定翼123側に伝達される。
【0035】
固定翼スペーサ125は、外周部で互いに接合しており、固定翼123が回転翼102から受け取った熱や排気ガスが固定翼123に接触する際に生ずる摩擦熱などを本体ケーシング部114へと伝達する。本実施形態では、本体ケーシング部114へ伝達された熱を効率よく逃がすため、外筒127の上部における外周面に環状の水冷管115を巻着させている。
【0036】
なお、上記では、ネジ付スペーサ131は回転体103の円筒部102dの外周に配設し、ネジ付スペーサ131の内周面にネジ溝131aが刻設されているとして説明した。しかしながら、これとは逆に円筒部102dの外周面にネジ溝が刻設され、その周囲に円筒状の内周面を有するスペーサが配置される場合もある。
【0037】
また、ターボ分子ポンプ100の用途によっては、吸気口101から吸引されたガスが上側径方向電磁石104、上側径方向センサ107、モータ121、下側径方向電磁石105、下側径方向センサ108、軸方向電磁石106A、106B、軸方向センサ109などで構成される電装部に侵入することのないよう、電装部は周囲をステータコラム122で覆われ、このステータコラム122内はパージガスにて所定圧に保たれる場合もある。
【0038】
この場合には、ベース部129には図示しない配管が配設され、この配管を通じてパージガスが導入される。導入されたパージガスは、保護ベアリング120とロータ軸113間、モータ121のロータとステータ間、ステータコラム122と回転翼102の内周側円筒部の間の隙間を通じて排気口133へ送出される。
【0039】
ここに、ターボ分子ポンプ100は、機種の特定と、個々に調整された固有のパラメータ(例えば、機種に対応する諸特性)に基づいた制御を要する。この制御パラメータを格納するために、上記ターボ分子ポンプ100は、その本体内に電子回路部141を備えている。電子回路部141は、EEP-ROM等の半導体メモリ及びそのアクセスのための半導体素子等の電子部品、それらの実装用の基板143等から構成される。この電子回路部141は、ターボ分子ポンプ100の下部を構成するベース部129の例えば中央付近の図示しない回転速度センサの下部に収容され、気密性の底蓋145によって閉じられている。
【0040】
ところで、半導体の製造工程では、チャンバに導入されるプロセスガスの中には、その圧力が所定値よりも高くなり、或いは、その温度が所定値よりも低くなると、固体となる性質を有するものがある。ターボ分子ポンプ100内部では、排気ガスの圧力は、吸気口101で最も低く排気口133で最も高い。プロセスガスが吸気口101から排気口133へ移送される途中で、その圧力が所定値よりも高くなったり、その温度が所定値よりも低くなったりすると、プロセスガスは、固体状となり、ターボ分子ポンプ100内部に付着して堆積する。
【0041】
例えば、Alエッチング装置にプロセスガスとしてSiCl4が使用された場合、低真空(760[torr]~10-2[torr])かつ、低温(約20[℃])のとき、固体生成物(例えばAlCl3)が析出し、ターボ分子ポンプ100内部に付着堆積することが蒸気圧曲線からわかる。これにより、ターボ分子ポンプ100内部にプロセスガスの析出物が堆積すると、この堆積物がポンプ流路を狭め、ターボ分子ポンプ100の性能を低下させる原因となる。そして、前述した生成物は、排気口133付近やネジ付スペーサ131付近の圧力が高い部分で凝固、付着し易い状況にあった。
【0042】
そのため、この問題を解決するために、従来は本体ケーシング部114やベース部129等の外周にヒータ116を配置するとともに環状の水冷管115や水冷管149を巻着させ、かつ例えばベース部129に図示しない温度センサ(例えばサーミスタ)を埋め込み、この温度センサの信号に基づいてベース部129の温度を一定の高い温度(設定温度)に保つようにヒータの加熱や水冷管149による冷却の制御(以下TMSという。TMS;Temperature Management System)が行われている。
【0043】
次に、このように構成されるターボ分子ポンプ100に関して、その上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150について説明する。このアンプ回路150の回路図を図2に示す。
【0044】
図2において、上側径方向電磁石104等を構成する電磁石巻線151は、その一端がトランジスタ161を介して電源171の正極171aに接続されており、また、その他端が電流検出回路181及びトランジスタ162を介して電源171の負極171bに接続されている。そして、トランジスタ161、162は、いわゆるパワーMOSFETとなっており、そのソース-ドレイン間にダイオードが接続された構造を有している。
【0045】
このとき、トランジスタ161は、そのダイオードのカソード端子161aが正極171aに接続されるとともに、アノード端子161bが電磁石巻線151の一端と接続されるようになっている。また、トランジスタ162は、そのダイオードのカソード端子162aが電流検出回路181に接続されるとともに、アノード端子162bが負極171bと接続されるようになっている。
【0046】
一方、電流回生用のダイオード165は、そのカソード端子165aが電磁石巻線151の一端に接続されるとともに、そのアノード端子165bが負極171bに接続されるようになっている。また、これと同様に、電流回生用のダイオード166は、そのカソード端子166aが正極171aに接続されるとともに、そのアノード端子166bが電流検出回路181を介して電磁石巻線151の他端に接続されるようになっている。そして、電流検出回路181は、例えばホールセンサ式電流センサや電気抵抗素子で構成されている。
【0047】
以上のように構成されるアンプ回路150は、一つの電磁石に対応されるものである。そのため、磁気軸受が5軸制御で、電磁石104、105、106A、106Bが合計10個ある場合には、電磁石のそれぞれについて同様のアンプ回路150が構成され、電源171に対して10個のアンプ回路150が並列に接続されるようになっている。
【0048】
さらに、アンプ制御回路191は、例えば、制御装置200の図示しないディジタル・シグナル・プロセッサ部(以下、DSP部という)によって構成され、このアンプ制御回路191は、トランジスタ161、162のon/offを切り替えるようになっている。
【0049】
アンプ制御回路191は、電流検出回路181が検出した電流値(この電流値を反映した信号を電流検出信号191cという)と所定の電流指令値とを比較するようになっている。そして、この比較結果に基づき、PWM制御による1周期である制御サイクルTs内に発生させるパルス幅の大きさ(パルス幅時間Tp1、Tp2)を決めるようになっている。その結果、このパルス幅を有するゲート駆動信号191a、191bを、アンプ制御回路191からトランジスタ161、162のゲート端子に出力するようになっている。
【0050】
なお、回転体103の回転速度の加速運転中に共振点を通過する際や定速運転中に外乱が発生した際等に、高速かつ強い力での回転体103の位置制御をする必要がある。そのため、電磁石巻線151に流れる電流の急激な増加(あるいは減少)ができるように、電源171としては、例えば50V程度の高電圧が使用されるようになっている。また、電源171の正極171aと負極171bとの間には、電源171の安定化のために、通常コンデンサが接続されている(図示略)。
【0051】
かかる構成において、トランジスタ161、162の両方をonにすると、電磁石巻線151に流れる電流(以下、電磁石電流iLという)が増加し、両方をoffにすると、電磁石電流iLが減少する。
【0052】
また、トランジスタ161、162の一方をonにし他方をoffにすると、いわゆるフライホイール電流が保持される。そして、このようにアンプ回路150にフライホイール電流を流すことで、アンプ回路150におけるヒステリシス損を減少させ、回路全体としての消費電力を低く抑えることができる。また、このようにトランジスタ161、162を制御することにより、ターボ分子ポンプ100に生じる高調波等の高周波ノイズを低減することができる。さらに、このフライホイール電流を電流検出回路181で測定することで電磁石巻線151を流れる電磁石電流iLが検出可能となる。
【0053】
すなわち、検出した電流値が電流指令値より小さい場合には、図3に示すように制御サイクルTs(例えば100μs)中で1回だけ、パルス幅時間Tp1に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をonにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、正極171aから負極171bへ、トランジスタ161、162を介して流し得る電流値iLmax(図示せず)に向かって増加する。
【0054】
一方、検出した電流値が電流指令値より大きい場合には、図4に示すように制御サイクルTs中で1回だけパルス幅時間Tp2に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をoffにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、負極171bから正極171aへ、ダイオード165、166を介して回生し得る電流値iLmin(図示せず)に向かって減少する。
【0055】
そして、いずれの場合にも、パルス幅時間Tp1、Tp2の経過後は、トランジスタ161、162のどちらか1個をonにする。そのため、この期間中は、アンプ回路150にフライホイール電流が保持される。
【0056】
次に、上述した固定翼スペーサ125(125a、125b、125c・・・)について、図1図5を参照しながら詳細に説明する。本実施形態のターボ分子ポンプ100は、固定翼スペーサ125として、第一固定翼スペーサ125a、125b、125cと、第二固定翼スペーサ125d、125eとを備えている。
【0057】
第一固定翼スペーサ125a、125b、125cは、図1図5に示すように、中心軸CAを中心としてリング状になる部材である。第一固定翼スペーサ125a、125b、125cは、水平方向に延在する平坦状の上面125a1、125b1、125c1を備えている。上面125a1、125b1、125c1の外縁部には、下方に向けて凹む形状となる第一位置決め部125a2、125b2、125c2が設けられている。また第一固定翼スペーサ125a、125b、125cは、上面125a1、125b1、125c1に対して平行に延在する平坦状の下面125a3、125b3、125c3を備えている。下面125a3、125b3、125c3の外縁部には、下方に向けて突出する形状となる第二位置決め部125a5、125b5、125c5が設けられている。
【0058】
第二固定翼スペーサ125d、125eも、図1図5に示すように、中心軸CAを中心としてリング状になる部材であって、水平方向に延在する平坦状の上面125d1、125e1と、上面125d1、125e1の外縁部に設けられ、下方に向けて凹む形状となる第一位置決め部125d2、125e2とを備えている。また第二固定翼スペーサ125d、125eは、上面125d1、125e1に対して平行に延在する下面125d3、125e3を有していて、下面125d3、125e3には、下面125d3、125e3を上方に向けて凹ませた凹面125d4、125e4が設けられている。下面125d3、125e3の外縁部には、下方に向けて突出する形状となる第二位置決め部125d5、125e5が設けられている。
【0059】
このような形態になる第一固定翼スペーサ125a、125b、125cと、第二固定翼スペーサ125d、125eは、図1図5に示すように外筒127の内部において、本体ケーシング部114の上部に設けられた張出し部114aとネジ付スペーサ131との間に、上方から下方に向けて(吸気口101側から排気口133側に向けて)第一固定翼スペーサ125a、125b、125c、第二固定翼スペーサ125d、125eの順で多段に配置される。このとき、段積みされた各固定翼スペーサ125の間には、固定翼123(123a、123b、123c・・・)の外周端が嵌挿される。ここで、固定翼123(123a、123b、123c・・・)の外周端上面には、第一固定翼スペーサ125a等の下面125a3、125b3、125c3、125d3、125e3が接触し、固定翼123の外周端下面には、第一固定翼スペーサ125b等の上面125b1、125c1、125d1、125e1、又はネジ付スペーサ131の上面が接触していて、固定翼123は挟持されている。すなわち固定翼123は、第一固定翼スペーサ125a等によって上下方向の所定の位置に保持される。また固定翼123の外周面は、第一固定翼スペーサ125a等の第二位置決め部125a5、125b5、125c5、125d5、125e5の内周面に接触している。ここで第二位置決め部125a5、125b5、125c5、125d5、125e5の内周面は、第一位置決め部125a2、125b2、125c2、125d2、125e2の内周面にも接触している。すなわち固定翼123(123a、123b、123c・・・)は、第一固定翼スペーサ125a等によって径方向の所定の位置に保持される。
【0060】
ところで、本実施形態では、ネジ付スペーサ131への析出物の堆積を抑制するため、ネジ付スペーサ131にヒータ116が設けられていて、ネジ付スペーサ131が加熱されている。そして、この熱は、ネジ付スペーサ131に接触する最下段の固定翼123eにも伝わることになる。なお、ネジ付スペーサ131を加熱する構造としては、上述したようにベース部129に、ヒータ116を設けても良い。
一方、最下段の固定翼123eに接触する第二固定翼スペーサ125eの下面125e3には、凹面125e4が設けられている。すなわち、固定翼123と第二固定翼スペーサ125eとの接触面積が少なくなって接触面での熱抵抗が大きくなるため、最下段の固定翼123eから第二固定翼スペーサ125eへの熱の伝達を抑制することができ、最下段より上の固定翼123(123a、123b、123c・・・)の温度上昇を抑えることができる。また、凹面125e4を設けることによって第二固定翼スペーサ125eの熱経路が狭まるため、ネジ付スペーサ131からの熱の移動が妨げられ、ネジ付スペーサ131の温度低下を抑えることができる。
【0061】
本実施形態においては、第二固定翼スペーサ125eの一段上に位置する第二固定翼スペーサ125dも、その下面125d3に凹面125d4を備えている。従って、固定翼123の温度上昇とネジ付スペーサ131の温度低下を更に効果的に抑制することができる。
【0062】
なお、本実施形態では第二固定翼スペーサ125d、125eは2つであったが、1つでもよいし3つ以上でもよい。また第二固定翼スペーサ125d・・・を配置する位置は図示例に限られず、例えば下から2段目、3段目・・・に配置してもよい。なお、本実施形態の第二固定翼スペーサ125eのように最下段に配置すると、温度上昇を抑えることができる固定翼123が増えて回転翼102(102a、102b、102c・・・)の温度上昇を効果的に抑えることができるため、より好ましい。
【0063】
上述した第二固定翼スペーサ125d、125eは、下面125d3、125e3に凹面125d4、125e4を設けていたが、図6に示す第二固定翼スペーサ125d、125eのように、上面125d1、125e1に凹面125d4、125e4を設けてもよい。
【0064】
なお、第二固定翼スペーサ125d、125eは、鋳造で形成することも、展伸材から切削加工で形成することも可能であるが、展伸材から切削加工で形成する場合、凹面125d4、125e4は、第二固定翼スペーサ125d、125eの下面125d3、125e3に設けることが好ましい。この点について図7図8を参照しながら説明する。
【0065】
図7は、展伸材から切削加工で第二固定翼スペーサ125d、125eを形成するにあたり、凹面125d4、125e4を上面125d1、125e1に設ける場合について示している。ここで展伸材は、円筒状になるパイプ材Pを使用するものとする。展伸材の材質に特段の限定はないが、展伸材を円筒状にする際の加工のしやすさやその後の切削加工の行いやすさを考慮すると、アルミニウム合金を使用することが好ましい。このようなパイプ材Pから第二固定翼スペーサ125d、125eを形成するにあたっては、図示したようにパイプ材Pの一端部をチャックC等で保持し、他端部におけるハッチングを付したh1部とh2部を切削工具Tで切削する。そしてラインLに沿ってパイプ材Pの他端部を切削工具Tで切り離し、更に切り離した部分からh3部を切削工具Tで切削する。すなわち、h3部を切削するにあたっては、切り離した部分を、チャックC等で再び保持する必要がある。
【0066】
一方、凹面125d4、125e4を第二固定翼スペーサ125d、125eの下面125d3、125e3に設けるにあたっては、図8に示すように、パイプ材Pの一端部をチャックC等で保持した後、他端部におけるハッチングを付したh4部とh5部を切削工具Tで切削する。その後は、ラインLに沿ってパイプ材Pの他端部を切り離すことにより、第二固定翼スペーサ125d、125eが形作られる。すなわち、凹面125d4、125e4を下面125d3、125e3に設ける場合は、チャックC等による再保持が不要となって製造工程が簡素化できるため、加工時間の短縮とコスト削減を図ることができる。
【0067】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、上記の説明で特に限定しない限り、特許請求の範囲に記載された本発明の趣旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。また、上記の実施形態における効果は、本発明から生じる効果を例示したに過ぎず、本発明による効果が上記の効果に限定されることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0068】
100:ターボ分子ポンプ(真空ポンプ)
102:回転翼
103:回転体(回転軸)
113:ロータ軸(回転軸)
114:本体ケーシング部(ケーシング)
123:固定翼
125:固定翼スペーサ(スペーサ)
125d1、125e1:上面(接触面)
125d3、125e3:下面(接触面)
125d4、125e4:凹面
129:ベース部(ケーシング)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8