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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022114576
(43)【公開日】2022-08-08
(54)【発明の名称】レーザダイオード駆動用電源装置
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/042 20060101AFI20220801BHJP
   H02M 3/00 20060101ALI20220801BHJP
【FI】
H01S5/042 630
H02M3/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021010901
(22)【出願日】2021-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】000144393
【氏名又は名称】株式会社三社電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森本 健次
(72)【発明者】
【氏名】中村 亮介
【テーマコード(参考)】
5F173
5H730
【Fターム(参考)】
5F173SC10
5F173SE01
5F173SF13
5F173SF43
5F173SF64
5F173SG07
5H730BB57
5H730CC01
5H730DD04
5H730EE59
5H730FD31
5H730FG05
(57)【要約】
【課題】目標値が変動しても、電流指令値の立ち上がり時間が一定となり、且つ駆動電流のステップ応答が常に最適となるLD駆動用電源装置を提供する。
【解決手段】外部から前記駆動電流の目標値を示す上位指令値を連続的に受信し、且つ外部から電流指令値の立ち上がりの傾きを示す情報を受信し、前記情報に基づいて電流指令値を生成する制御部において、前記電流指令値の立ち上がりの傾きを、前回受信して設定した前回目標値と今回受信して設定した今回目標値との差に基づいて補正する第1補正部と、前記電流指令値を、予め設定した切替点に達したときから、前記今回目標値になるまで補正する第2補正部とを備える。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザダイオードに駆動電流を出力するレーザダイオード駆動用電源装置において、
外部から前記駆動電流の目標値を示す上位指令値を連続的に受信し、且つ外部から電流指令値の立ち上がりの傾きを示す情報を受信し、前記情報に基づいて電流指令値を生成する制御部と、
前記電流指令値に基づいて前記駆動電流を生成する電力変換部と、を備え、
前記制御部は、
前記電流指令値の立ち上がりの傾きを、前回受信して設定した前回目標値と今回受信して設定した今回目標値との差に基づいて補正する第1補正部と、
前記電流指令値を、予め設定した切替点に達したときから、前記今回目標値になるまで補正する第2補正部とを備える、レーザダイオード駆動用電源装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記上位指令値を連続的に受信しているときに、その傾きがなくなったときの上位指令値を前記今回目標値に設定する、請求項1記載のレーザダイオード駆動用電源装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記電流指令値をその値が前記切替点に達するまで前記情報に基づいて計算する、請求項1記載のレーザダイオード駆動用電源装置。
【請求項4】
前記切替点は、前記今回目標値の大きさに応じて変更される、請求項1又は2記載のレーザダイオード駆動用電源装置。
【請求項5】
前記第2補正部は、前記電流指令値を、前記今回目標値と前記電流指令値との偏差量に基づいて補正する、請求項1~4のいずれかに記載のレーザダイオード駆動用電源装置。
【請求項6】
前記第2補正部は、前記電流指令値を、前記偏差量に所定の補正増幅率を乗じて補正する、請求項5記載のレーザダイオード駆動用電源装置。
【請求項7】
前記第2補正部は、前記電流指令値を、一次遅れフィルタを通して補正する、請求項5または6記載のレーザダイオード駆動用電源装置。
【請求項8】
前記情報と前記上位指令値は、上位システムコントローラから受信する、請求項1~7のいずれかに記載のレーザダイオード駆動用電源装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記第1補正部と前記第2補正部との動作を選択的に有効または無効にするスイッチが接続される、請求項1~8のいずれかに記載のレーザダイオード駆動用電源装置。
【請求項10】
前記スイッチは、前記第1補正部の動作を選択的に有効または無効にする第1スイッチと、前記第2補正部の動作を選択的に有効または無効にする第2スイッチとを含む請求項9記載のレーザダイオード駆動用電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、溶接、切断などの金属加工プロセスに適用される、高出力で高速駆動するレーザ発振器の駆動用電源装置に関する。例えば、レーザ発振器としてレーザダイオードを用い、レーザビームを対象物に照射するレーザダイオード加工システムの駆動用電源装置(以下、LD駆動用電源装置)に関する。
【背景技術】
【0002】
LD駆動用電源装置は、パルスレーザ発振器として使用するレーザダイオードを高速に駆動する。このため、駆動電流の急峻な立ち上がりが要求され、例えば60μs~600 μsの範囲で立ち上がり時間が設定される。また、駆動電流の目標値やパルス特性(DC 出力~2kHz)も用途に応じて様々な値に設定される。
【0003】
そこで、LD駆動用電源装置は、駆動電流が任意の特性となるように、スイッチング素子を含む電力変換部と、フィードバック回路などを備えるPWM制御を含む制御部とを備えている。制御部は、ユーザにより設定された駆動電流の目標値に応じて、PWM信号のパルス幅制御を行うようにしている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-240801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
LD駆動用電源装置では、レーザダイオードに出力する駆動電流のパルス特性を設定するために、駆動電流の目標値や駆動電流の立ち上がりの傾きを示す情報が入力される。例えば、駆動電流の目標値として定格の100%や50%が入力され、駆動電流の立ち上がりの傾きを示す情報(以下、単に傾きを示す情報と称することがある)として、駆動電流の立ち上がりのステップ応答特性に対応するSTEP信号が入力される。このような電源装置では、駆動電流の目標値は常時変動し、駆動電流の立ち上がりの傾きを示す情報は一定の値である。
【0006】
一方、LD駆動用電源装置では、レーザダイオードの特性により様々な駆動電流の仕様が要求される。ところが、上記の傾きを示す情報が一定の値であるため、駆動電流の目標値が変動すると、立ち上がり時間も変動してしまう問題がある。
【0007】
この問題について、図1を参照して説明する。
【0008】
図1は、LD駆動用電源装置に対して外部から入力されるレーザダイオードの駆動電流の目標値(以下、目標値)と、前記駆動電流を制御するためにLD駆動用電源装置内部で生成される電流指令値の軌跡(点線)とを示す。
【0009】
LD駆動用電源装置が起動されると、LD駆動用電源装置内の制御部は駆動電流の傾きを示す情報を外部から受信し、その情報に基づいて電流指令値の傾きdi/dtを求める。制御部は、その後、di/dtにより電流指令値を設定し、駆動電流がその電流指令値になるように制御する。また、LD駆動用電源装置は、外部から目標値を上位指令値として連続的に受信する。
【0010】
図1に示す例では、同図(A)に示すように起動時で目標値が0%、起動後に立ち上がった時の目標値が定格の100%に設定されると、電流指令値の傾きdi/dtを前記情報に基づいて求め、この傾きdi/dtで電流指令値の制御が行われる。また、同図(B)に示すように前回目標値が定格の0%で今回目標値が定格の50%に変更された場合も、上記の傾きdi/dtで電流指令値の制御が行われる。また、同図(C)に示すように前回目標値が定格の50%で今回目標値が定格の100%に変更された場合も、上記の傾きdi/dtで電流指令値の制御が行われる。いずれの場合も電流指令値の傾きdi/dtは同一である、なお、電流指令値の軌跡(点線)が目標値に対して10%~90%の時間は立ち上がり時間と定義される。図1(A)では、目標値100%に対して10%から90%の時間が立ち上がり時間T1、図1(B)では、目標値50%に対して5%から45%の時間が立ち上がり時間T1´、図1(C)では、目標値100%に対して55%から95%の時間が立ち上がり時間T1´´である。
【0011】
上記の制御において、図1(B)、(C)のときの立ち上がり時間T1´、T1´´は、図1(A)の立ち上がり時間T1の2分の1となる。これは、電流指令値の傾きdi/dtが目標値にかかわらず同一であるためである。
【0012】
このように、電流指令値の傾きdi/dtが一定であると、目標値が変わる毎に立ち上がり時間も変わってしまう。一方、この問題を解決する方法として、目標値が変わる毎に、LD駆動用電源装置に対して外部から電流指令値の傾きを示す情報を変更して再送する再調整の方法がある。
【0013】
しかしながら、上記のように目標値が変わる毎に再調整をする制御内容では、目標値が頻繁に変動する場合に、外部とLD駆動用電源装置との間で信号の入出力または通信を常に行う必要がある。そして、それによる、制御遅延が生じるなど、LD駆動用電源装置の応答性能が悪くなる問題があった。
【0014】
また、特許文献1等に示される装置では、さらに以下の問題もある。
【0015】
すなわち、制御部とフィードバック部を含む制御系の伝達関数で決定される、駆動電流の立ち上がりのステップ応答(過渡応答特性)に起因して、駆動電流の目標値が大きく変動すると、立ち上がり時間が最適な電流波形にならない問題がある。例えば、駆動電流の目標値が定格100%の条件において、立ち上がりのステップ応答が最適であった場合、駆動電流の目標値が定格の25%程度に大きく低下すると、制御系のステップ応答の遅れが大きくなってしまう。ここで立ち上がりのステップ応答が最適とは、駆動電流がオーバーシュート無く目標値の±5%の範囲に落ち着くまでの立ち上がり時間が最速となることをいう。制御系のステップ応答の遅れが大きくなってしまうと、立ち上がり時間が必要以上に遅くなってしまい、目標値に到達するまでの時間も長くなる。これは、目標値が大きく低下すると制御系の伝達経路の増幅率であるループ・ゲイン(以下、ゲイン)が定格の100%に比較して不足するためである。
【0016】
逆に駆動電流の目標値が定格の25%程度でステップ応答が最適となるようゲインを設定すると、目標値が定格100%でのゲインが過剰となり、駆動電流の立ち上がり波形がオーバーシュートを起こしてしまう。
【0017】
このように、目標値が大きく変動する電源装置において制御系のゲインを一義的に設定すると、望ましいステップ応答が得られない可能性があった。
【0018】
この発明の目的は、上記目標値が変化しても、電流指令値の立ち上がり時間を一定にできるLD駆動用電源装置を提供することにある。また、この発明の他の目的は、上記目標値が変化したときに、外部から電流指令値の傾きを示す情報を変更して再送する必要のないLD駆動用電源装置を提供することにある。
【0019】
また、この発明のさらに他の目的は、レーザダイオード駆動電流の電流指令値を適切に補正することで駆動電流のステップ応答が常に最適となるLD駆動用電源装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
この発明のLD駆動用電源装置は、
レーザダイオードに駆動電流を出力するレーザダイオード駆動用電源装置において、
外部から前記駆動電流の目標値を示す上位指令値を連続的に受信し、且つ外部から電流指令値の立ち上がりの傾きを示す情報を受信し、前記情報に基づいて電流指令値を生成する制御部と、
前記電流指令値に基づいて前記駆動電流を生成する電力変換部と、を備え、
前記制御部は、
前記電流指令値の立ち上がりの傾きを、前回受信して設定した前回目標値と今回受信して設定した今回目標値との差に基づいて補正する第1補正部と、
前記電流指令値を、予め設定した切替点に達したときから、前記目標値になるまで補正する第2補正部とを備える。
【0021】
前記第1補正部は、外部から受信した目標値が変動すると、それまでに制御のために使用していた電流指令値の立ち上がりの傾きを、前回受信した前回目標値と今回受信した今回目標値との差分(変化量)に基づいて補正する。
【0022】
図2を参照してこれについて説明する。
【0023】
例えば、同図(A)に示すように起動時で目標値が0%、起動後に立ち上がった時の目標値が定格の100%に設定されると、電流指令値の傾きdi/dtは上記傾きを示す情報に基づいて求められ、この傾きdi/dtで電流指令値の制御が行われる。一方、同図(B)に示すように前回目標値が定格の0%で今回目標値が定格の50%に変更された場合、その差分(変化量)は50%となる。そこで、上記の傾きdi/dtを、50%/100%で補正する。したがって、前記傾きdi/dtは1/2に補正される。また、同図(C)に示すように、前回目標値が定格の50%で今回目標値が定格の100%に変更された場合、その差分(変化量)は50%となる。そこで、上記の傾きdi/dtを、50%/100%で補正する。したがって同図(C)の場合も、前記傾きdi/dtは1/2に補正される。
【0024】
第1補正部において前記傾きdi/dtをこのように補正することで、図2(A)に示す時の立ち上がり時間T1は、図2(B)に示す時の立ち上がり時間T1´と等しくなる。また、図2(A)に示す時間T1は、図2(C)に示す時の立ち上がり時間T1´´とも等しくなる。目標値が変わる毎に、このような補正を行えば、T1=T1´=T1´´を常に保証でき、また、目標値が変わる毎に、LD駆動用電源装置は外部から立ち上がりの傾きを示す情報を受信する必要がない。すなわち、LD駆動用電源装置は、立ち上がりの傾きを示す情報を一度受信すれば、その後目標値が変化しても再度受信する必要がない。
【0025】
前記制御部は、前記上位指令値を連続的に受信しているときに、その傾き(以下、この傾きをスロープと称することがある)がなくなったときの上位指令値を前記今回目標値に設定する。
【0026】
上位指令値は連続的に送られてくるため、目標値となる指令値を判断する必要があるが、制御部は、上位指令値のスロープがなくなったときに、その値を今回目標値として設定する。これにより、今回目標値を正しく設定できる。また、前回目標値と今回目標値の差分(変化量)は、たとえば、前回受信した上位指令値にスロープがあり、今回受信した上位指令値にスロープがない条件のときにのみ更新する。このように制御することで差分(変化量)は正しく求められるから、電流指令値の傾きdi/dtも正しく補正することが出来る。
【0027】
制御部は、前記電流指令値をその値が予め設定した切替点に達するまで前記情報に基づいて計算する。切替点は、制御部において電流指令値の傾き制御を切り替えるタイミングである。電流指令値が切替点に達するまでの期間では、前記電流指令値を前記情報に基づいて生成する。電流指令値が切替点を過ぎると、電流指令値が適正な上昇カーブで今回目標値に達するように制御する。
【0028】
前記第2補正部は、電流指令値を、予め設定した切替点に達したときから、今回目標値になるまで補正する。
【0029】
これにより、今回目標値が変動しても、補正量を今回目標値に応じた値に設定することで、切替点から今回目標値に達するまでの駆動電流の上昇波形が適正なものとなる。すなわち、立ち上がり時間が遅くなったり、オーバーシュートが生じたりすることを防ぐことが出来る。
【0030】
前記切替点は、今回目標値の大きさに応じて変更される。
【0031】
今回目標値が定格の100%よりも低下すると、今回目標値と切替点との電流差が小さくなる。この電流差が一定以上に小さくなると、切替点以降の電流指令値の制御が困難となる。そこで、今回目標値が定格の100%よりも一定以上に低下すると切替点も変更することが望ましい。例えば、今回目標値に対する予め定めた比率で切替点を変更することが可能である。
【0032】
前記第2補正部は、電流指令値を、今回目標値と電流指令値との偏差量に基づいて補正する。
【0033】
前記第2補正部においての補正量の演算は、今回目標値と前記電流指令値との偏差量を求めるだけであるため、演算が簡易であり、制御部の負担も小さい。なお、制御部がCPUによって構成される場合は、前記電流指令値の取得は所定のサンプリング毎に行われる。したがって、上記偏差量の計算もサンプリング毎に行われる。
【0034】
前記第2補正部は、電流指令値を、前記偏差量に所定の補正増幅率を乗じて補正する。
【0035】
補正量の演算を、今回目標値と電流指令値との偏差量を求めることだけでなく、偏差量に所定の補正増幅率を乗じることにより、補正信号のピーク値の調整を行う。
【0036】
また、前記補正部は、電流指令値を、一次遅れフィルタを通して補正量の急峻な変化を抑制することが出来る。
【0037】
一次遅れフィルタは、ステップ応答のカーブを緩やかにするため、オーバーシュートを防ぐことが出来る。
【0038】
前記補正増幅率および1次遅れフィルタにより補正量を最適化して駆動電流が今回目標値に達するまでの上昇波形のカーブの適正化が実現可能である。
【0039】
また、前記情報と前記上位指令値は、上位システムコントローラから受信することが可能である。
【0040】
例えば、上位システムコントローラから前記情報を間接的に示すSTEP信号を受信する。設定部は、STEP信号と傾きを示すパラメータとの対応関係を示すテーブルを備え、上位システムから受信したSTEP番号に対応するパラメータをテーブルから取得する。このパラメータが電流指令値を制御するための傾き情報となる。
【0041】
また、第1補正部21dと第2補正部21fとの動作を選択的に有効または無効にするスイッチSWを制御部に接続することもできる。このようにすると、補正を行う必要がない場合にはスイッチSWをオフすれば良く、接続されるレーザダイオードの容量や負荷の種類に応じてユーザが適切な制御を選択できる。
【発明の効果】
【0042】
この発明によれば、今回目標値が変動しても、電流指令値の立ち上がりの傾きが第1補正部で自動的に補正され、その立ち上がり時間が変わらず常に一定である。また、目標値が変わる毎にLD駆動用電源装置に対して外部から電流指令値の傾きを示す情報を再送する必要がない。
【0043】
また、今回目標値が変動しても、電流指令値を適正に補正することで、切替点から今回目標値に達するまでの駆動電流の立ち上がり時間の適正化を図ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】従来のレーザダイオード加工装置において、駆動電流の目標値(以下、目標値)と電流指令値の軌跡(点線)とを示す。
図2】この発明の実施形態のレーザダイオード加工装置において、駆動電流の目標値(以下、目標値)と電流指令値の軌跡(点線)とを示す。
図3】この発明の第1の実施形態のレーザダイオード加工装置の構成図である。
図4】LD駆動用電源装置2を含むレーザダイオードシステムの構成図である。
図5】テーブルTを示す。
図6】制御部21のブロック図である。
図7】今回目標値Pが変動した場合の電流指令値Dのステップ応答特性を示している。
図8】補正量Rを含む電流指令値Dのステップ応答特性を示している。
図9】制御部21の動作を示すフローチャートである。
図10】制御部21の動作を示すフローチャートである。
図11】上位指令値と変化量を示す図である。
図12】補正指令値D´を求める方法を分かりやすく示す図である。
図13】補正量Rの調整を行う実施例である。
図14】補正量Rの調整をさらに実用的にした実施例である。
図15】一次遅れフィルタを示す
図16】第2の実施形態の制御部21のブロック図である。
図17】第2の実施形態の制御部21の動作を示すフローチャートである。
図18】第2の実施形態の制御部21の動作を示すフローチャートである。
図19】第2の実施形態の制御部21の動作を示すフローチャートである。
図20】第3の実施形態の制御部21のブロック図である。
図21】第3の実施形態のテーブルTAを示す
図22】第3の実施形態の制御部21の動作を示すフローチャートである。
図23】第3の実施形態の制御部21の動作を示すフローチャートである。
図24】第3の実施形態の制御部21の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0045】
図3は、この発明の第1の実施形態のレーザダイオード加工装置の構成図である。
【0046】
レーザダイオード加工装置は、上位システムコントローラ1と、レーザダイオード駆動用電源装置(以下、LD駆動用電源装置)2と、レーザダイオード(以下、LDと称する)3と、LD3にファイバー接続される加工ヘッド4とで構成される。LD3は複数のレーザダイオードを含んでいる。LD駆動用電源装置2とLD3とでレーザ発振器を構成する。
【0047】
上位システムコントローラ1は、LD駆動用電源装置2に対し起動信号を出力し、LD3の起動前に、電流指令値Dの傾きを間接的に示すSTEP信号を出力する。また、上位システムコントローラ1は、LD3の起動前および起動後に、駆動電流の今回目標値Pを含む上位指令値をアナログ信号で連続的に出力する。なお、以下の説明で、演算周期(サンプリング周期)での演算時を示す場合、nを付加することがある。例えば、電流指令値D(n)は今回の演算時の電流指令値、電流指令値D(n-1)は前回の演算時の電流指令値を示す。
【0048】
LD駆動用電源装置2内の制御部21(図4参照)は、後述のテーブルTを参照して上記STEP信号に対応するパラメータCを取得する。パラメータCは、目標値が定格の100%のときの電流指令値Dの傾き(di/dt:サンプリング毎の電流変化率)を得るための値である。制御部21は、サンプリング毎に、電流指令値Dの傾き制御を、後述のパラメータCを用いた演算により制御する。また、制御部21は、後述のように、今回目標値P(n)が前回目標値P(n-1)から変わると、その変化量に基づいてパラメータCをパラメータC´に補正する。
【0049】
なお、今回目標値P(n)とは、目標値Pが変化して新たに設定された目標値Pであり、前回目標値P(n-1)とは、今回目標値P(n)が設定される前の目標値Pである。
【0050】
また、LD駆動用電源装置2内の制御部21は、上位システムコントローラ1から受信した上位指令値をサンプリング毎に取得する。
【0051】
LD駆動用電源装置2は、前記起動信号を受けてから、三相交流電源を電力源としてPWM信号で駆動され、LD3の駆動電流を出力する。LD3は、複数のレーザダイオード素子を組み合わせて構成される。LD3は、加工ヘッド4を介して高出力のレーザビーム5をワーク6に照射する。LD駆動用電源装置2は20KWを超える大容量であり、大電流を生成するため、レーザビーム5はワーク6のビームスポットを溶融させるパワーを備える。
【0052】
図4は、LD駆動用電源装置2を含むレーザダイオードシステムの構成図である。
【0053】
LD駆動用電源装置2は、三相交流電圧を整流後にPWM信号でスイッチング素子SWの制御を行い、リアクトルLとコンデンサCを介して出力する電力変換部20を備えている。また、LD駆動用電源装置2は、PWM信号を生成する制御部21と、出力電流を検出して制御部21にフィードバックするホールCT22とを備えている。
【0054】
制御部21は、電流指令値Dの立ち上がりの傾きを制御するための情報(後述するようにこの情報はパラメータC)と電流指令値Dの今回目標値P(n)とを設定する設定部21aと、PWM信号を生成して電力変換部20に出力するPWM生成部21bとを備えている。
【0055】
上位システムコントローラ1は、信号線7を介して、LD駆動用電源装置2を起動するための起動信号を出力する。また、制御部21に対しSTEP信号を1度送り、さらに、連続的にアナログ量で上位指令値を出力する。STEP信号は、駆動電流の立ち上がりの傾きを示す情報である。
【0056】
制御部21は、STEP信号を受信すると、設定部21aにあるテーブルTを参照してパラメータCを取得する。パラメータCは、電流指令値Dの立ち上がりの傾き制御を行うための値である。後述のように、本実施形態では、上位システムコントローラ1から送られるSTEP信号は立ち上がり時間が60μs~600μsの間の16段階で設定される。電流指令値Dの立ち上がり時間をどの程度にするかは、LD3の定格電流および定格電圧などが参照されて、上位システムコントローラ1においてユーザにより決められる。また、制御部21の第1補正部21d(図6参照)は、今回目標値P(n)が前回目標値P(n-1)から変わると、その差分(変化量)に基づいてパラメータCを補正してパラメータC´を設定する。
【0057】
図5はテーブルTを示す。
【0058】
テーブルTは、STEP信号とパラメータCとの対応関係を示している。パラメータCは、目標値が定格の100%のときの電流指令値Dの傾き(di/dt:サンプリング毎の電流変化率)を求めるための値である。この例では、STEP信号は1~16の16種類あり、数値が小さいほどパラメータCの値が大きい(傾きが大きい)。例えば、STEP信号=1のときのパラメータCは100であるが、パラメータC=100は電流指令値Dの傾きが最大、すなわち、電流指令値Dの上昇時間が最短であることを表している。また、例えば、STEP信号=16のときのパラメータCは50であるが、パラメータC=50は電流指令値Dの傾きが最小、すなわち、電流指令値Dの上昇時間が最長であることを表している。
【0059】
なお、テーブルTに示しているパラメータCは例示的に示している値である。
【0060】
制御部21は、テーブルTを参照して得られたパラメータCを、電流指令値Dの立ち上がりの傾き制御の値として設定部21aに設定する。また、制御部21は、上位システムコントローラ1からアナログ量として連続的に送られてくる上位指令値を受信する。この上位指令値の傾き(スロープ)がなくなるときの値が今回目標値P(n)となる。制御部21は、さらに、制御部21に設けられている第1補正部21d(図6参照)により、前回目標値P(n-1)と今回目標値P(n)の差(以下、変化量)に基づいてパラメータCを補正し、下記の式でパラメータC´を求める。
【0061】
パラメータC´=パラメータC×変化量(%)―――――(1)
ただし、変化量(%)=今回目標値P(n)(%)―前回目標値P(n-1)(%)
たとえば、LD駆動用電源装置2の運転起動直後はゼロからゆるやかなアップスロー運転となるため、前回目標値P(n-1)がゼロであり、変化量は今回目標値P(n)に等しい。したがって、パラメータC´=パラメータCであり、パラメータの値に変化はない。また、前回目標値P(n-1)が50%で、今回目標値P(n)が100%に変化すると、変化量は50%である。したがって、パラメータC´=パラメータC×(50%)となる。このとき、電流指令値Dの立ち上がりの傾きdi/dtは前回の1/2となる。なお、前回目標値P(n-1)が100%で、今回目標値P(n)が50%に低下すると、今回目標値P(n)は立ち下がりとなり、その変化量は-50%である。しかし、ソフトウエアでの演算処理では変化量を絶対値で扱う。したがって、立ち下がり時のパラメータC´は立ち上がり時と同様に、パラメータC´=パラメータC×(50%)となる。このとき、電流指令値Dの立ち下がりの傾きdi/dtは前回の1/2となる。本実施形態では、このように今回目標値P(n)が減少するときにも上記式(1)を適用することが可能である。
【0062】
制御部21は、上位システムコントローラ1からSTEP信号を受けると設定部21aに格納(設定)されているパラメータCを抽出する。また、上位システムコントローラ1から連続的に送られてくる上位指令値を受信し、その傾き(スロープ)の変化がなくなったときの上指令値を今回目標値P(n)として確定する。制御部21は、取得した今回目標値P(n)と前回目標値P(n-1)とに差があるときは、その差を変化量として求め、制御部21に設けられている第1補正部21d(図6参照)は、その変化量に基づいて、パラメータCを上記のように補正しパラメータC´を得る。制御部21は、このパラメータC´に基づいて上記傾きdi/dtを求め、このdi/dtにより電流指令値Dの立ち上がりの傾き制御を行う。この傾き制御は、後述のように図7(A)~(C)の処理1において行われる。PWM生成部21bと後述の誤差増幅器21eは、電流指令値Dに基づいてPWM信号を生成し、電力変換部20に出力する。
【0063】
電力変換部20から出力される駆動電流の大きさはホールCT22で検出され、制御部21にフィードバックされる。PWM生成部21bは、フィードバックされた検出値が電流指令値DとなるようにPWM信号のパルス幅を制御する。
【0064】
図6は、制御部21のブロック図である。
【0065】
制御部21は、設定部21aと、傾き制御部21cと、誤差増幅器21eと、PWM生成部21bとを備えている。また、傾き制御部21cは、第1補正部21dと第2補正部21fとを備えている。
【0066】
上位システムコントローラ1から送られてきたSTEP信号は設定部21aで受信される。STEP信号からテーブルTを参照してパラメータCが抽出され、パラメータCは設定部21a内に設定される。設定部21aは、上位システムコントローラ1から連続的に送られてくる上位指令値から今回目標値P(n)を判定し、この今回目標値P(n)を設定部21a内に設定する。前回目標値P(n-1)も設定部21aに設定される。後述のように、設定部21aでは、今回目標値P(n)の判定を、上位指令値の傾きを検出するスロープ判定により行う。なお、スロープ判定は、目標値の変化量に対して通常の移動平均(符号付き)および絶対値の移動平均(符号なし)の二つの演算結果に基づいて判定する。これは、目標値の変化量が短時間に上下振動するノイズに対してスロープ判定の誤検知を防止するためである。
【0067】
傾き制御部21cは、設定部21aに設定されているパラメータCをデジタル値として読み出す。また、傾き制御部21cは、設定部21aに設定されている今回目標値P(n)と前回目標値P(n-1)を取得する。
【0068】
傾き制御部21cに設けられている第1補正部21dは、今回目標値P(n)と前回目標値P(n-1)との差分(変化量)に基づいてパラメータCを補正しパラメータC´を求める。傾き制御部21cは、このようにして求めたパラメータC´に基づくdi/dtにより電流指令値Dの立ち上がりの傾き制御を行う。この傾き制御は、図7の処理1において行われる。
【0069】
また、傾き制御部21cに設けられている第2補正部21fは、電流指令値Dが予め設定した切替点に達したときから、今回目標値(n)になるまで電流指令値Dの補正を行う。この補正は、図7の処理2において行われる。
【0070】
傾き制御部21cの出力は電流指令値Dとして誤差増幅器21eに出力される。誤差増幅器21eにはホールCT22の出力も入力される。誤差増幅器21eは、電流指令値DとホールCT22の誤差をPWM生成部21bに出力する。PWM生成部21bと誤差増幅器21eは、前記誤差がゼロとなるようにPWM信号のパルス幅を制御する。
【0071】
前記傾き制御部21cは、その機能をCPUとソフトウエアで実現される。CPUでの傾き制御と補正制御の演算周期(CPUのタイマー割り込み周期)は高速(例えば10μs程度)に設定される。
【0072】
次に、図7図8を参照して傾き制御部21cの動作の概要を説明する。
【0073】
図7は、電流指令値Dのステップ応答特性を示している。同図(A)は、起動後に今回目標値Pが定格の100%に指令された場合の電流指令値Dの軌跡の立ち上がりを示す。また、同図(B)は、前回目標値Pが定格の0%で、今回目標値Pが定格の50%に指令された場合、同図(C)は、前回目標値Pが定格の50%で、今回目標値Pが定格の100%に指令された場合、のぞれぞれの電流指令値Dの軌跡の立ち上がりを示す。図7(A)、(B)、(C)において、設定部21aは、今回目標値Pを連続的に受信するため、図の矢印点線で示すような今回目標値Pの軌跡となる。
【0074】
図7(A)において、時間T1は、電流指令値Dの立ち上がり時間を示す。時間T1は、電流指令値Dが定格の10%となる時刻t1から、今回目標値P(定格の100%)までの変化量に対して90%となる時刻t2までの時間である。
【0075】
また、図7(B)において、時間T1´は、電流指令値Dが今回目標値Pまでの変化量に対して10%(定格の5%)となる時刻t1´から、今回目標値Pまでの変化量に対して90%(定格の45%)となる時刻t2´までの時間である。図7(C)においては、時間T1´´は、電流指令値Dが今回目標値Pまでの変化量に対して10%(定格の55%)となる時刻t1´´から、今回目標値Pまでの変化量に対して90%(定格の95%)となる時刻t2´´までの時間である。
【0076】
本実施形態では、電流指令値Dの傾き制御を切り替えるための切替点dを傾き制御部21cに設定している。図7(A)、(B)、(C)に切替点dを示している。同図において、電流指令値Dの立ち上がり開始時刻はt3、t3´、t3´´、切替点dの時刻はt4、t4´、t4´´、電流指令値Dが今回目標値Pに達して安定した時刻をt5、t5´、t5´´とする。切替点dは、軽負荷以外の時に電流値が今回目標値Pの80%の比率の電流となる位置である。この切替点dは、制御部21内で設計者が任意に決定することができ、今回目標値Pの変化量の大きさ(電流の偏差量)に基づいて制御部21内で自動調整される。切替点dは、傾き制御を、t3-t4間、t3´-t4´間またはt3´´-t4´´間の制御(処理1)からt4-t5間、t4´―t5´間またはt4´´―t5´´間の制御(処理2)に切り替えるタイミングとして参照される。
【0077】
なお、今回目標値Pは、傾き制御部21cにおいてサンプリング周期で設定部21aから読み出される。
【0078】
図8は、電流指令値Dのステップ応答特性を示している。図8においてハッチングで示す領域は処理2において電流指令値Dに対する補正量Rを表している。
【0079】
同図で、実線はサンプリング毎に演算で求められる電流指令値Dの軌跡である。電流指令値Dの立ち上がり開始時刻はT1(図7のt3、t3´、t3´´に対応)、切替点dの時刻はT2(図7のt4、t4´、t4´´に対応)、電流指令値Dが今回目標値Pに達して安定した時刻をT3(図7のt5、t5´、t5´´に対応)である。立ち上がり時間は、電流指令値Dで示す電流値が、目標値Pに対して10%から90%に達するまでの時間である。切替点dは、軽負荷以外の時に電流値が目標値Pの80%の電流となる位置である。この切替点dは、制御部21内で設計者が任意に決定することができ、目標値Pの変動の大きさ(電流の偏差量)に基づいて制御部21内で自動調整される。切替点dは、傾き制御を、T1-T2間の制御(処理1)からT2-T3間の制御(処理2)に切り替えるタイミングとして参照される。
【0080】
次に、上記処理1と処理2においての傾き制御部21cの動作の概要を説明する。
【0081】
(処理1においての傾き制御部21cの動作の概要)
処理1では、第1補正部21dによりパラメータC´が求められてから傾き制御が行われる。第1補正部21dは、電流指令値Dの傾き制御を行う前に上記式(1)により、パラメータC´を求める。そして、傾き制御部21cはパラメータC´に基づくdi/dtにより電流指令値Dの傾き制御を行う。
【0082】
たとえば、図7(A)のように、起動後に今回目標値Pが定格の100%に指令された場合は、上記式(1)により、パラメータC´は、
C´=C×変化量((100%-0%)/100%)=C
となる。
【0083】
また、図7(B)のように、今回目標値Pが定格の0%から50%に変化した場合は、上記式(1)によりパラメータC´は、
C´=C×変化量((50%-0%)/100%)=1/2×C
となる。この場合、パラメータC´はパラメータCの1/2となるため、電流指令値Dの立ち上がりの傾きdi/dtも1/2となる。その結果、電流指令値Dの立ち上がり時間は図7(B)のT1´となる。このとき、立ち上がり時間T1´は、図7(A)に示す立ち上がり時間T1と同じとなる。
【0084】
また、図7(C)のように、今回目標値Pが定格の50%から100%に変化した場合は、上記式(1)によりパラメータC´は、
C´=C×変化量((100%-50%)/100%)=1/2×C
となる。この場合、パラメータC´はパラメータCの1/2となるため、電流指令値Dの立ち上がりの傾きdi/dtも1/2となる。その結果、電流指令値Dの立ち上がり時間は図7(C)のT1´´となる。このとき、立ち上がり時間T1´´は、図7(A)に示す立ち上がり時間T1、および図7(B)に示す立ち上がり時間T1´と同じとなる。
【0085】
このようにして、今回目標値Pが変動するとパラメータC´もそれに比例して変わり、電流指令値Dの立ち上がり時間(T1、T1´、T1´´)は、常に同一となる。しかも、パラメータC´の計算は上記式(1)のように簡単である。
【0086】
なお、上記の説明では、今回目標値Pが前回よりも大きい値に変化した場合を示したが、今回目標値Pが前回よりも小さい値に変化した場合でも、ソフトウエアでの演算処理では変化量を絶対値として扱うため計算結果は同一となる。たとえば、図7(A)の今回目標値Pが定格の100%の状態から、図7(B)の今回目標値Pが定格の50%に変化した場合の立ち下がり時のパラメータC´は、立ち上がり時と同様に上記式(1)で求められる。すなわち、電流指令値Dの立ち下がり時間は図7(B)のT1´と等しい。したがって、今回目標値Pが前回よりも小さい値に変化した場合でも電流指令値Dの立ち上がり時間は一定に保たれる。
【0087】
以上のように、図7(A)~(C)または図8の処理1において、第1補正部21dによりパラメータC´を求め、傾き制御部21cによって、パラメータC´から上記di/dtを求め、このdi/dtにより電流指令値Dの傾き制御を行う。
【0088】
(処理2においての傾き制御部21cの動作の概要)
処理2では、第2補正部21fにより電流指令値Dに対する補正量Rが求められてから傾き制御が行われる。すなわち、図7(A)、(B)、(C)または図8の切替点d以降の、t4-t5間、t4´―t5´間またはt4´´―t5´´間の処理2で電流指令値Dの傾き制御を行う。処理2では、電流指令値Dがオーバーシュートすることなく緩やかに今回目標値Pに到達するように制御される。
【0089】
図8において補正量Rは、サンプリング毎の補正値Sの積分値である。
【0090】
なお、処理1は、上述のように、T1―T2間で電流指令値Dの傾き制御をする処理である。この処理1では、第2補正部21fでの補正は行わない。実際の処理では後述のように、処理1では、サンプリング毎の補正値Sをゼロとしている。
【0091】
処理2は、T2―T3間で電流指令値Dの傾き制御をする処理である。処理2では、電流指令値Dがオーバーシュートすることなく緩やかに今回目標値Pに到達するように制御される。本実施形態では、処理2において、今回目標値Pが100%の時は電流立ち上がりのステップ応答特性が最適であるので補正量Rをゼロとする。そこから今回目標値Pが低下するにしたがい電流指令値Dに対する補正量Rを増加していく処理が行われる。例えば、今回目標値Pが定格の25%であると、電流指令値Dに対し、第2補正部21fから75%分(100%-25%)の補正量Rが加算される。
【0092】
第2補正部21fには、補正値Sを得るための固有の数値テーブルが準備されており、上位STEP信号に応じて電流立ち上り時間が緩やかになれば補正値Sを低減もしくはゼロにする処理が行われる。
【0093】
今回目標値Pが定格より低下すると、処理2では、補正後の電流指令値(以下、補正指令値)D´=電流指令値D+補正値Sの計算が演算周期毎に行われる。補正値Sは、補正値S=(今回目標値P-電流指令値D)で求められ、図8のハッチングで示す領域が、T2-T3間において電流指令値Dに対する全体の補正量Rとなる。
【0094】
切替点dから今回目標値Pに至るT2―T3間の特性カーブは、誤差増幅器21e、PWM生成部21bの一部、ホールCTを含むアナログ制御系の伝達経路の増幅率(ゲイン)に依存する。そこで、通常は、このゲインは、今回目標値Pが定格100%のときにステップ応答特性のカーブが最適となるように校正される。最適な電流上昇カーブは、電流指令値Dがオーバーシュートすることがなく最速で今回目標値Pに達して安定するカーブである。一方、ゲインは、今回目標値Pの大小で最適値が異なってくる、特に、今回目標値Pが定格よりもかなり低い場合(例えば25%以下)、ゲインが不足してしまう。その結果、図8の時刻T3までの電流上昇時間が長時間になってしまう。
【0095】
本実施形態では、今回目標値Pが100%から低下するにしたがって上記のように、処理2において、第2補正部21fにより、補正指令値D´=電流指令値D+補正値Sの計算を行う。これにより、実質的に上記アナログ制御系のゲインを上げる処理を行う。図8のT2-T3間のハッチングで示す領域の補正量(面積)Rが実線で示す電流指令値Dに加算される。
【0096】
上記補正は選択的である。例えば、今回目標値Pが定格100%では補正は行わない。今回目標値Pが定格以下のときは上記補正を行う。この値は例示的であって、補正を行う今回目標値Pの設定は、アナログ制御系の伝達経路の特性やLD3の特性などに基づいて実験により求めるのが望ましい。
【0097】
サンプリング毎の補正値Sを求める他の実施例として、補正指令値D´=電流指令値D+k(今回目標値P-電流指令値D)の計算により補正値Sを求めることが出来る。k(今回目標値P-電流指令値D)が補正値Sであり、係数kは、目標値Pの大きさにより変動させる。例えば、今回目標値Pが定格100%のときはk=0、今回目標値Pが定格に対して99%~1%のときは今回目標値Pの大きさに応じてk=0.01~1.00に変動させて指令値に加算する。
【0098】
以上のように、図7(A)~(C)または図8の処理2において、第2補正部21fによりサンプリング毎の補正値S(積分値は補正量R)を求め、傾き制御部21cによって電流指令値Dの傾き制御を行う。
【0099】
図9図10は、制御部21の動作を示すフローチャートである。
【0100】
このフローチャートで示す動作周期(サンプリング周期)はこの例では10μsであり、この動作周期は、傾き制御部21cが電流指令値Dの傾き制御を行う演算周期(CPUのタイマー割り込み周期)である。このフローチャートでは、演算時をnで示し、たとえば、今回の演算時で制御される電流指令値Dを今回電流指令値D(n)、前回の演算時で制御される電流指令値Dを前回電流指令値D(n-1)としている。また、今回の演算時で使用される今回目標値Pは今回目標値P(n)、前回の演算時で使用された前回目標値Pは、前回目標値P(n-1)としている。今回か前回かを特定しない場合は、単に目標値Pと称する。
【0101】
ST1では、設定部21aにおいて上位システムコントローラ1から今回目標値P(n)の指令値を取得する。この指令値は上位システムコントローラ1から連続的に送られてくる。図11は、今回目標値P(n)の指令値を取得するサンプリング時(〇印で示す)を示している。この値は、急激な変化を避け、精度を高めるために所定回数のサンプリング時の取得値と移動平均されデジタル値に変換される。
【0102】
ST2では、指令値の傾きを検出する。傾きは、図11に示すように、前回に取得した指令値(移動平均後)と今回に取得した指令値(移動平均後)の差(スロープ)があるかどうかで検出する。スロープがあれば、指令値は目標値Pに達していないため、目標値Pを更新せずST4に進む。スロープがなければ、指令値の傾きがなくなったので、ST3においてST1で取得した指令値を今回目標値P(n)と確定し、設定部21aに設定する。設定部21aには、前回目標値P(n-1)も設定されている。
【0103】
ST4では、今回目標値P(n)と前回電流指令値D(n-1)との偏差量DFを求める。
【0104】
偏差量DFはST9で使用される。
【0105】
ST5では、前回スロープあり(前回のST2でNo)で、且つ今回スロープなし(今回のST2でYes)かどうかを判定する。この判定がYesであるときにのみ、ST6に進んで変化量を更新する。Noの場合はST7に進み変化量の更新をしない。このように制御することで変化量を正しく求めることができるため、電流指令値の傾きdi/dtも正しく補正することが出来る。
【0106】
ST6では、前回目標値P(n-1)から今回目標値P(n)への変化量Vを%で求める。たとえば、前回目標値P(n-1)が50%で、今回目標値P(n)が100%であると、変化量Vは、
V(%)=100%-50%
で50%である。
【0107】
ST7では、設定部21aのテーブルTを参照しパラメータCを得る、また、切替点d(図7参照)を設定する。切替点dは、上述のように軽負荷以外の時に電流値が今回目標値P(n)の80%の電流となる位置である。今回目標値P(n)が低くなり電流変化量が定格比の2%以下であれば、今回目標値P(n)Pの50%に固定される。具体的には実験などにより予め適切に設定される。切替点dの設定位置を変える理由は、電流変化量が低いと、切替点dと目標値Pとの電流差が小さくなり、処理2が上手く制御できなくなるからである。
【0108】
ST8では、変化量Vに基づいてパラメータC´を次の式により求める。このステップは第1補正部21d(図6)で実行される。
【0109】
パラメータC´(%)=パラメータC×変化量V(%)
パラメータC´から傾きdi/dtを求め、これに基づく電流指令値Dの傾き制御を行えば、今回目標値P(n)の変動があっても、電流指令値Dの立ち上がり時間を一定に制御できる。
【0110】
ST9では、偏差量DFと切替点dとを比較する。ST7での切替点dは、偏差量DFとの比較のため、今回目標値P(n)を100%として、そこからの差分で示される。すなわち、ST7での切替点dは、切替点dが今回目標値P(n)に対し80%の位置にある時は、100%-80%=20%として表される。そして、偏差量DFが切替点d未満なら図7において、t3-t4、t3´-t4´またはt3´´-t4´´の期間であるため処理1に進む(ST10)。また、偏差量DFが切替点d以上なら図7において、t4-t5、t4´-t5´またはt4´´-t5´´の期間であるため処理2に進む(ST11)。
【0111】
ST10での処理1は、図7(A)のt3-t4間、図7(B)のt3´―t4´間または図7(C)のt3´´―t4´´間においてステップ信号に応じた立ち上り時間で今回電流指令値D(n)を演算で求める処理である。今回電流指令値D(n)は下記の計算式で求められる。
【0112】
D(n)=f(C´、D(n―1)、DF)
ここで、C´はST8で補正されたパラメータであり、D(n-1)は、前回の演算時に得られた電流指令値である。DFはST4で得られた、今回目標値P(n)と前回電流指令値D(n-1)との偏差量である。
【0113】
ST11での処理2は、図7(A)のt4-t5間、図7(B)のt4´―t5´間または図7(C)のt4´´―t5´´間においてオーバーシュートを抑えつつ最速で目標値に到達する今回電流指令値D(n)を演算する処理である。処理1では、今回電流指令値D(n)が直線的に傾くように制御され、処理2では今回電流指令値D(n)が適切なカーブで今回目標値P(n)に達するように制御される。処理2において、今回電流指令値D(n)は以下の計算式で求められる。
【0114】
D(n)=f´(D(n―1))
なお、上記式において、関数fは直線を表すが、関数f´は目標値Pに適切なカーブで達する対数関数である。
【0115】
本実施形態では、ST11の処理2において求められたD(n)について、図10に示すST12以下で補正する。この補正は第2補正部21f(図6)で行われる。
【0116】
次に、ST12以下の第2補正部21fの補正処理について説明する。
【0117】
ST12~ST15はこの補正処理を行うステップである。
【0118】
ST12では、偏差量DFと切替点dとを比較する。ST9と同様に、ST12においても、切替点dは、偏差量DFとの比較のため100%からの差分で示される。そして、偏差量DFが切替点d未満ならST13に進み、偏差量DFが切替点d以上ならST14に進む。
【0119】
ST13では、T1-T2の期間なので、補正値Sはゼロである。
【0120】
ST14では、T2-T3の期間なので、補正値Sを求める。
【0121】
補正値Sは、ST11の処理2で求めた電流指令値D(n)と今回目標値Pとから求める。簡易的には、補正値S(n)=今回目標値P-電流指令値D(n)で求めることが可能である。
【0122】
ST12-ST14の補正処理を終えると、ST15において、補正指令値D(n)´をD(n)´=D(n)+Sで求める。補正指令値D(n)´は今回の補正によって得られた電流指令値である。
【0123】
なお、T1-T2の期間ではST13において補正を行わないから、処理2においてのみ補正を行うことになる。
【0124】
ST16は、ST10又はST11の演算で得られた電流指令値D(n)、およびST15の演算で得られた補正指令値D(n)´を、今回の電流指令値D(n)および今回の補正指令値D(n)´に更新する処理である。ST16で更新された電流指令値D(n)は、次回の演算の処理で、D(n-1)として使用される。
【0125】
以上の制御により、電流指令値Dが演算周期で更新される。また、処理2では、目標値Pの大きさにより電流指令値Dの補正処理が行われる(補正指令値D´が求められる)。
【0126】
図12は、補正値Sを求める方法を分かりやすく示す図である。
【0127】
補正値Sの積分値である補正量Rの元値はST14の計算を繰り返すことで求められるから、この補正量Rを反転した反転値R´を求め、この反転値R´を切替点d以降の電流指令値Dに加算する。
【0128】
このように、ST14での補正値Sの計算は簡単であるため、ST15での補正指令値D´も簡単に求めることが出来る。このため、傾き制御部21cの負担は軽い。
【0129】
図13は、補正量Rの調整を行う実施例である。
【0130】
図13では、補正量Rを求める際に、アナログ制御系の伝達経路の補正増幅率を操作する。すなわち、偏差量に補正増幅率を乗じて補正値Sを求める。補正増幅率を大きくすると、補正量Rの面積(補正値Sの積分値)が大きくなる。補正増幅率を小さくすると、補正量Rの面積(補正値Sの積分値)が小さくなる。補正増幅率の設定は、第2補正部21fの増幅器で行い、その値は実験により求められる。
【0131】
図14は、補正量Rの調整をさらに実用的にした実施例である。
【0132】
図14では、補正量Rを求める際に、補正値Sを一次遅れフィルタでフィルタリングする
。補正値Sを一次遅れフィルタでフィルタリング処理することで、補正量Rの立ち上がりが緩やかとなり、操作しやすくなることから、より実用的な補正値Sとなる。
【0133】
一次遅れフィルタは、抵抗とコンデンサ等で簡単に構成される。例えば図15のようなRC直列回路で構成出来る。フィルタ量の設定は、抵抗やコンデンサの大きさで任意に決めることが可能であり、その値は実験により求められる。一次遅れフィルタは、実際には、CPUからなる傾き制御部21cにおいて、ソフトウエアにより実現される。
【0134】
以上のように、補正増幅率の調整や一次遅れフィルタの挿入により、今回目標値Pが定格よりも大きく変動した時に補正量Rをより適正な値に出来る。
【0135】
図16は、第2の実施形態の制御部21のブロック図である。
【0136】
構成において、図6と相違する点は、制御部21にスイッチSW23が接続されていることである。このスイッチSW23は、第1補正部21dと第2補正部21fの両方の動作を選択的に有効(SW23がオン)または無効(SW23がオフ)にする。レーザダイオード3の容量や負荷の種類によっては、第1補正部21dと第2補正部21fの動作が不要な場合がある。例えば、図1のように、目標値が変動しても電流指令値の傾きが一定で良い場合、且つ、図12に示すような補正を行う必要がない場合がある。このような場合は、ユーザ側で選択できるようにしておけば都合が良い。そこで、スイッチSW23により、第1補正部21dと第2補正部21fの両方の動作を選択的に有効または無効にする。
【0137】
図17図19は、この第2の実施形態の制御部21の動作を示している。
【0138】
図17において、ST20でスイッチSW23の入力状態を判別する。SW23がONなら、第1補正部21dと第2補正部21fの両方の動作を有効にするため図9の動作に進む。SW23がOFFなら、第1補正部21dと第2補正部21fの両方の動作を無効にするため図18の動作に進む、
図18図19は、点線で示す第1補正部21dと第2補正部21fの動作が無効であることを示している。点線で示すステップが無効であり実行されない。図18図19において、ST2、ST5、ST6、ST8が第1補正部21dによる処理1での補正動作のステップであり、ST12~ST15が第2補正部21fによる処理2での補正動作のステップであり、これらの点線で示すステップが無効とされる。ここでは、図9図10との対比がし易いように、無効であるステップを点線で示しているが、実際には、図9図10において、これらの無効ステップが実行されないように制御される。
【0139】
このように、スイッチSWを設けることで、第1補正部21dと第2補正部21fの両方動作を選択的に有効または無効にできる。
【0140】
図20は、第3の実施形態の制御部21のブロック図である。
【0141】
構成において、図16と相違する点は、制御部21に第1スイッチである第1SW24、第2スイッチである第2SW25が接続され、傾き制御部21cにテーブルTAが設けられていることである。第1SW24は、第1補正部21dの動作を選択的に有効または無効にする。第2SW25は、第2補正部21fの動作を選択的に有効または無効にする。また、テーブルTAは、第1SW24、第2SW25のオンオフの組み合わせに基づいて第1補正部21dと第2補正部21fの補正パターンを決定するためのテーブルである。
【0142】
図21はテーブルTAを示す。
【0143】
テーブルTAは、第1SW24、第2SW25のオンオフの組み合わせと、各組合せに対応する補正パターン1~4と、各補正パターン1~4に対応するステップであるSA~SDのオンオフとを示す。SA~SDは、図23図24に示されている。SA、SB、SCは第1補正部21dによるステップであり、SDは第2補正部21fによるステップである。
【0144】
テーブルTAにおいて、
第1SW24がオフ、第2SW25がオフの場合は、補正パターンがパターン1であり、SA~SDはオフである。
【0145】
第1SW24がオフ、第2SW25がオンの場合は、補正パターンがパターン2であり、SA~SCはオン、SDはオフである。
【0146】
第1SW24がオン、第2SW25がオフの場合は、補正パターンがパターン3であり、SA~SCはオフ、SDはオンである。
【0147】
第1SW24がオン、第2SW25がオンの場合は、補正パターンがパターン4であり、SA~SDはオンである。
【0148】
図22図24は、この第3の実施形態の制御部21の動作を示している。
【0149】
図22は、100ms毎に実行される動作である。ST30でSW入力状態が判別され、ST31でテーブルTAが参照され、ST32で補正パターンの選択が行われる。これにより、ユーザにより設定されたSW入力状態に対応する補正パターンの選択が確定する。
【0150】
図23図24は、10μs毎に実行される。図18図19に示す第2の実施形態のフローチャートと相違する点は、動作中にST100、ST101、ST102、ST103の判定ステップを挿入し、図22のST32で確定した補正パターンに対応するSA~SDのオンオフを判定する。すなわち、ST100では、SAがONならST2に進みSAを実行する。また、ST101では、SBがONならST5に進みSBを実行する。また、ST102では、SCがONならST8に進みSCを実行する。また、ST103では、SDがONならST12に進みSDを実行する。
【0151】
上記の動作により、第1SW24、第2SW25のそれぞれのオンオフ状態に応じてSA~SDの実行有無を制御できる。
【0152】
このように、第1補正部21dの動作を選択的に有効または無効にする第1SW24と、第2補正部21fの動作を選択的に有効または無効にする第2SW25を設けることで、ユーザの選択幅が広がる。
【0153】
以上の制御により、今回目標値P(n)が変化した場合に、簡単な計算でパラメータC´が求められ、このパラメータC´に基づいて今回電流指令値D(n)の傾き制御が行われる。このため、今回目標値P(n)が変動しても立ち上がり時間を一定に出来る。また、テーブルTは一つだけ用意すれば足り、目標値に応じた多数のテーブルを用意する必要もない。
【0154】
また、電流指令値は、切替点dに達してから最適なステップ応答となるように補正される。
【0155】
また、スイッチSWによって、第1補正部21dと第2補正部21fとの動作を選択的に有効または無効にできる。
【符号の説明】
【0156】
1-上位システムコントローラ
2-レーザダイオード駆動用電源装置3-レーザ発振器
3-レーザダイオード
21-制御部
21c-傾き制御部
21d-第1補正部
21f-第2補正部
図1
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図3
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図22
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