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特開2022-114617多加水パン類用添加剤、多加水パン類用生地、多加水パン類用生地の製造方法、多加水パン類の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022114617
(43)【公開日】2022-08-08
(54)【発明の名称】多加水パン類用添加剤、多加水パン類用生地、多加水パン類用生地の製造方法、多加水パン類の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 2/18 20060101AFI20220801BHJP
   A21D 2/36 20060101ALI20220801BHJP
   A21D 13/00 20170101ALI20220801BHJP
   A21D 13/80 20170101ALI20220801BHJP
【FI】
A21D2/18
A21D2/36
A21D13/00
A21D13/80
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021010980
(22)【出願日】2021-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】300068030
【氏名又は名称】株式会社キミカ
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】笠原 文善
(72)【発明者】
【氏名】宮島 千尋
(72)【発明者】
【氏名】並木 友亮
【テーマコード(参考)】
4B032
【Fターム(参考)】
4B032DB01
4B032DB02
4B032DK01
4B032DK12
4B032DK17
4B032DK18
4B032DK43
4B032DK47
4B032DP08
4B032DP16
(57)【要約】
【課題】もっちりとした食感を有し、製造機器による大量生産が可能であり、かつ、パンの食味や風味にほとんど影響を与えずに多加水パンを製造することができる多加水パン類用添加剤、その多加水パン類用添加剤を用いた多加水パン類用生地、多加水パン類用生地の製造方法、多加水パン類の製造方法を提供する。
【解決手段】アルギン酸カルシウムを含む多加水パン類用添加剤、その多加水パン類用添加剤を用いた多加水パン類用生地、多加水パン類用生地の製造方法、多加水パン類の製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルギン酸カルシウムを含むことを特徴とする多加水パン類用添加剤。
【請求項2】
請求項1に記載の多加水パン類用添加剤であって、
前記アルギン酸カルシウムの粒子サイズが、180μm以下であることを特徴とする多加水パン類用添加剤。
【請求項3】
穀粉と、水と、請求項1または2に記載の多加水パン類用添加剤と、を含み、
前記穀粉100質量部に対して、前記水を70質量部以上含むことを特徴とする多加水パン類用生地。
【請求項4】
請求項3に記載の多加水パン類用生地であって、
前記穀粉100質量部に対して、前記アルギン酸カルシウムを0.1質量部以上含むことを特徴とする多加水パン類用生地。
【請求項5】
穀粉と、水と、請求項1または2に記載の多加水パン類用添加剤と、を混合し、混捏することによって多加水パン類用生地を作製する混捏工程を含み、
前記多加水パン類用生地は、前記穀粉100質量部に対して、前記水を70質量部以上含むことを特徴とする多加水パン類用生地の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の多加水パン類用生地の製造方法であって、
前記混捏工程は、
穀粉と、水と、を混合し、混捏することによって中種生地を作製する中種混捏工程と、
前記中種に、追加の穀粉と、追加の水と、請求項1または2に記載の多加水パン類用添加剤と、を混合し、混捏することによって前記多加水パン類用生地を作製する本捏工程と、
を含むことを特徴とする多加水パン類用生地の製造方法。
【請求項7】
請求項5または6に記載の多加水パン類用生地の製造方法であって、
前記多加水パン類用生地は、前記穀粉100質量部に対して、前記アルギン酸カルシウムを0.1質量部以上含むことを特徴とする多加水パン類用生地の製造方法。
【請求項8】
請求項5~7のいずれか1項に記載の多加水パン類用生地の製造方法であって、
前記混捏工程は、混捏装置を用いて行われることを特徴とする多加水パン類用生地の製造方法。
【請求項9】
請求項5~8のいずれか1項に記載の多加水パン類用生地の製造方法で得られた多加水パン類用生地を焼成する焼成工程を含むことを特徴とする多加水パン類の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多加水パン類用添加剤、その多加水パン類用添加剤を用いた多加水パン類用生地、多加水パン類用生地の製造方法、多加水パン類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パンにもっちりとした特徴のある食感を付与するために、通常よりも水分含有量を高めた(例えば、小麦粉に対して70質量%以上)「多加水パン」が知られている。多加水パンは、もっちりとした食感に特徴のあるパンである。
【0003】
しかし、多加水パンでは生地を作製する際に水を多量に加えるため、一般的な製パン工程において使用される製造機器に生地が付着する等の問題があり、大量生産が非常に困難であった。したがって、今までに多加水パンはほとんど市場に出回っておらず、現在わずかに市場に出回っている多加水パンは手作りであり、大量生産ができず価格が高い。
【0004】
従来、パンの製造でカルボキシメチルセルロースやデンプン等の水の吸収を上げる材料が用いられることがあったが、添加できる水の量は小麦粉の量に対してせいぜい数%程度であった。
【0005】
食感に特徴のあるパンの製造は、従来から検討されている。例えば、特許文献1には、穀粉100質量部に対し、水100~200質量部を含む多加水パン類の製造方法であり、(a)穀粉100質量部のうちの30~60質量部の穀粉、および(b)(a)の穀粉100質量部に対し、200~250質量部の水を混捏して湯種を作製する工程を含む、多加水パン類の製造方法が記載されている。特許文献1では、従来の多加水パンは、ねちゃついた食感となってしまい、口どけが良好でしっとり感のあるものが得られず、また、多加水パン用の生地は、水分量が多いためにべたつきが生じやすく、作業性が劣るのに対して、口どけが良好でしっとり感があり、製造時の作業性が良好であるとしている。
【0006】
特許文献2には、蛋白質含量が7~17重量%の小麦粉100重量部に対して油脂2~30重量部およびパン酵母0.2~2重量部を含有し、かつトランスグルタミナーゼを小麦粉100gあたり0.5~15U含有し、水分が中種生地全体中42~55重量%である中種生地と、蛋白質含量が7~17重量%の小麦粉100重量部に対して糖類8~100重量部および食塩3~15重量部を含有する中種生地を除く本捏生地材料とを、中種生地中の小麦粉/中種生地を除く本捏生地材料中の小麦粉(重量比)=30/70~80/20となるように混捏して得られ、本捏生地中の水分が本捏生地全体中46~57重量%である多加水パン用本捏生地が記載されている。特許文献2では、中種法において、トランスグルタミナーゼを中種生地に特定量添加することで酵素を十分に働かせ、生地に弾力と保形性を確保した上で、通常は本捏の後半に添加する油脂を中種生地に特定量添加することで、本捏時の中種の分散性を向上させて生地の纏まりを早くし、本捏の混捏時間が極端に長くならないようにすることで、含水量が多く、しっとりとしてモチモチとした弾力性のある食感を有するパンを、機械により大量生産できるとしている。
【0007】
しかし、特許文献1に記載の多加水パン類の製造方法は、穀粉に湯を加えて捏ねることによって、穀粉に含まれる澱粉をα化させて湯種を作製する方法であり、汎用性が低いという問題があった。特許文献2に記載の多加水パン用本捏生地を用いた多加水パンは、口どけが悪くなる等の問題があった。
【0008】
したがって、もっちりとした食感を有し、製造機器による大量生産が可能であり、かつ、パンの食味や風味にほとんど影響を与えずに多加水パンを製造する方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2016-077202号公報
【特許文献2】特開2016-174577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、もっちりとした食感を有し、製造機器による大量生産が可能であり、かつ、パンの食味や風味にほとんど影響を与えずに多加水パンを製造することができる多加水パン類用添加剤、その多加水パン類用添加剤を用いた多加水パン類用生地、多加水パン類用生地の製造方法、多加水パン類の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、アルギン酸カルシウムを含む、多加水パン類用添加剤である。
【0012】
前記多加水パン類用添加剤において、前記アルギン酸カルシウムの粒子サイズが、180μm以下であることが好ましい。
【0013】
本発明は、穀粉と、水と、前記多加水パン類用添加剤と、を含み、前記穀粉100質量部に対して、前記水を70質量部以上含む、多加水パン類用生地である。
【0014】
前記多加水パン類用生地において、前記穀粉100質量部に対して、前記アルギン酸カルシウムを0.1質量部以上含むことが好ましい。
【0015】
本発明は、穀粉と、水と、前記多加水パン類用添加剤と、を混合し、混捏することによって多加水パン類用生地を作製する混捏工程を含み、前記多加水パン類用生地は、前記穀粉100質量部に対して、前記水を70質量部以上含む、多加水パン類用生地の製造方法である。
【0016】
前記多加水パン類用生地の製造方法において、前記混捏工程は、穀粉と、水と、を混合し、混捏することによって中種生地を作製する中種混捏工程と、前記中種に、追加の穀粉と、追加の水と、前記多加水パン類用添加剤と、を混合し、混捏することによって前記多加水パン類用生地を作製する本捏工程と、を含む、多加水パン類用生地の製造方法である。
【0017】
前記多加水パン類用生地の製造方法において、前記多加水パン類用生地は、前記穀粉100質量部に対して、前記アルギン酸カルシウムを0.1質量部以上含むことが好ましい。
【0018】
前記多加水パン類用生地の製造方法において、前記混捏工程は、混捏装置を用いて行われることが好ましい。
【0019】
本発明は、前記多加水パン類用生地の製造方法で得られた多加水パン類用生地を焼成する焼成工程を含む、多加水パン類の製造方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によって、もっちりとした食感を有し、製造機器による大量生産が可能であり、かつ、パンの食味や風味にほとんど影響を与えずに多加水パンを製造することができる多加水パン類用添加剤、その多加水パン類用添加剤を用いた多加水パン類用生地、多加水パン類用生地の製造方法、多加水パン類の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0022】
<多加水パン類用添加剤>
本実施形態に係る多加水パン類用添加剤は、アルギン酸カルシウムを含む。
【0023】
アルギン酸は、コンブ、ワカメ等の褐藻類等に含まれる天然の食物繊維である。アルギン酸類は、古くから増粘剤や安定剤として食品添加物として利用されている。このような用途に利用されるアルギン酸は、遊離酸、ナトリウム塩またはエステル化された誘導体等の構造となっている。アルギン酸類は、JECFA(Joint FAO/WHO Expert Committee on Food Additives:FAO/WHO合同食品添加物専門家会議)においてグループADI(Acceptable Daily Intake:1日許容摂取量)を「not specified(1日許容摂取量を特定しない)」とされており(Thirty-ninth Report of the JECFA, Alginic acid and Its Ammonium, Calcium, Potassium and Sodium Salts, WHO Food Additives Series 30, WHO, Geneva1993.)、きわめて安全な食品添加物として認知されている。アルギン酸カルシウムは、日本国内においては平成18年に食品添加物として追加指定されている(平成18年厚生労働省令第195号、平成18年厚生労働省告示第662号)。
【0024】
アルギン酸カルシウムは、アルギン酸のカルボキシル基にカルシウムイオンが結合した形の塩であり、水に対して不溶な塩である。アルギン酸カルシウムは、水にほとんど溶解せず、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム等の他のアルギン酸塩において顕著な物性である「粘性」はほとんど発現しない。このため、アルギン酸カルシウムは、食品添加物としての利用は可能であるとは考えられていたものの、食品への利用例は皆無であった。アルギン酸カルシウムは、これらの点から、本来パンに使用する材料ではないが、本発明者らの鋭意研究の結果、驚くべきことに、アルギン酸カルシウムをパンの製造工程において生地に添加することによって、通常(例えば、穀粉100質量部に対して、水を50質量部以上70質量部未満)を上回る量の水を加えることが可能となることが見出された。さらに、アルギン酸カルシウムを添加した生地は、多くの量の水を加えているにもかかわらずほとんどべたつかないため、機械耐性に優れ、一般的な製パン工程において使用される製造機器での扱いが可能であることが見出された。
【0025】
従来から存在する水を多量に加える多加水パンは、前述の通り、一般的な製パン工程において生地の付着性が増す等の問題があり、製造機器による大量生産が非常に困難であった。しかしながら、アルギン酸カルシウムを含む多加水パン類用添加剤を用いることによって、機械耐性に優れ、製造機器による製造が可能となる。機械製パンが可能になるため、大量生産が可能となり原価を安くすることができる。さらに、本発明者らの検討により、アルギン酸カルシウムはパンの食味や風味にほとんど影響を与えない一方で、多加水パンの特徴であるもっちりとした食感を付与することができることも確認された。このように、アルギン酸カルシウムを含む多加水パン類用添加剤を用いることによって、もっちりとした食感を有し、製造機器による大量生産が可能であり、かつ、パンの食味や風味にほとんど影響を与えずに多加水パンを製造することができることが見出された。また、多加水パンがアルギン酸カルシウムを含むことによって、これを喫食する者はアルギン酸という有益な食物繊維を摂取することができる。
【0026】
以上の通り、食品への利用例が皆無であったアルギン酸カルシウムを利用した点、アルギン酸カルシウムの添加によって多加水パンが製造可能となった点、アルギン酸カルシウムの添加によって多加水パンの機械製造が可能となった点、アルギン酸カルシウムを添加しても多加水パンの食味や風味をほとんど損なわずに、多加水パンに独特なテクスチャーを付与できる点で、本実施形態に係るアルギン酸カルシウムを含む多加水パン類用添加剤は、極めて優れたものである。しかも、多加水パンが製造可能となった点、多加水パンの機械製造が可能となった点、多加水パンの食味や風味をほとんど損なわずに、多加水パンに独特なテクスチャーを付与できる点は、アルギン酸、アルギン酸エステルや、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム等のアルギン酸カルシウム以外のアルギン酸塩、一般的な製パン工程において使用される他の添加剤では実現できないものである。
【0027】
アルギン酸カルシウムは、通常水に不溶であるが、パンの生地発酵中のpHの変化、食塩等から供給されるナトリウム分の存在、また、生地温度の変化等の周辺環境の変化によって、適度に水を抱くようになり、多加水パンの製造が可能となると考えられる。アルギン酸カルシウムは、必要以上に水を吸収しないため、グルテンネットワークの形成に必要な水分量をほとんど奪わないため、パンへ添加が可能となる。アルギン酸カルシウムは、粘性をほとんど有さず、パン生地の粘性増加にはほとんど関与しないため、機械製造での多加水パンが作製可能となると考えられる。一方、アルギン酸、アルギン酸エステルや、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム等のアルギン酸カルシウム以外のアルギン酸塩は、水に溶解し、水を吸収して「粘性」を発現する性質があるため、高濃度で添加するとパン生地からグルテンネットワークの形成に必要な水分量を奪い、パンとはなりにくい。
【0028】
アルギン酸は、生分解性の高分子多糖類であって、D-マンヌロン酸(M)とL-グルロン酸(G)という2種類のウロン酸が直鎖状に重合したポリマーである。より具体的には、D-マンヌロン酸のホモポリマー画分(MM画分)、L-グルロン酸のホモポリマー画分(GG画分)、およびD-マンヌロン酸とL-グルロン酸がランダムに配列した画分(MG画分)が任意に結合したブロック共重合体である。アルギン酸のD-マンヌロン酸とL-グルロン酸の構成比(M/G比)は、主に海藻等の由来となる生物の種類によって異なる。本実施形態において用いるアルギン酸カルシウムのM/G比は、特に制限はない。
【0029】
アルギン酸カルシウムは低分子であろうが高分子であろうが水に不溶の塩であるため、水に入れても粘性をほとんど示さない。本実施形態において用いるアルギン酸カルシウムをイオン交換反応でアルギン酸ナトリウムにした際の粘度は特に制限はないが、10%水溶液粘度が60mPa・s以上のものを用いることができる。さらに好ましくは10%水溶液粘度が1000mPa・s以上、より好ましくは1%水溶液粘度が100mPa・s以上のものを用いることができる。
【0030】
本明細書において、「多加水パン」とは、穀粉100質量部に対して、水を70質量部以上含む多加水パン類用生地を用いて製造されるパン類、好ましくは水を70~200質量部含む多加水パン類用生地を用いて製造されるパン類のことをいう。本実施形態に係る多加水パン類用添加剤を用いて得られる多加水パンは、もっちりとした食感に特徴のあるパンであり、今までない食感を有するパンである。また、水分を多く含んでいる点から老化が遅いという特徴もある。
【0031】
多加水パンとしては、パン類であればよく特に制限はないが、例えば、食パン、菓子パン、フランスパン、食事パン等が挙げられる。
【0032】
本実施形態に係る多加水パン類用添加剤において、アルギン酸カルシウムは、目開き180μmの篩を通過する粉末であることが好ましく、目開き53μmの篩を通過する粉末であることがより好ましい。すなわち、アルギン酸カルシウムの粒子サイズが、180μm以下であることが好ましく、53μm以下であることがより好ましい。アルギン酸カルシウムの粒子サイズが180μmを超えると、食感に影響を与える可能性がある。アルギン酸カルシウムの粒子サイズの下限値には、特に制限はないが、例えば、1μm以上である。アルギン酸カルシウムの粒子サイズが1μm未満であると、粉塵の発生等、粉末の扱いに不都合が生じる可能性がある。
【0033】
本実施形態に係る多加水パン類用添加剤は、アルギン酸カルシウムの他に、製パンに必要な他の添加剤等の他の成分を含んでもよい。
【0034】
他の成分の含有量は、特に制限はないが、例えば、アルギン酸カルシウムの質量に対して0~10,000質量部の範囲であり、0~100質量部の範囲であってもよい。
【0035】
本実施形態に係る多加水パン類用添加剤の形態は特に制限されず、例えば、顆粒状、粉末状、固形状等のいずれの形態であってもよい。
【0036】
本実施形態に係る多加水パン類用添加剤は、例えば、下記に示す多加水パン類用生地を製造する際に添加すればよい。
【0037】
<多加水パン類用生地>
本実施形態に係る多加水パン類用生地は、穀粉と、水と、上記多加水パン類用添加剤と、を含み、穀粉100質量部に対して、水を70質量部以上、好ましくは70~110質量部含む。多加水パン類用生地は、穀粉100質量部に対して、水を78質量部以上含むことが好ましく、86質量部以上含むことがより好ましい。
【0038】
本実施形態に係る多加水パン類用生地において、穀粉100質量部に対して、アルギン酸カルシウムを0.1質量部以上含むことが好ましく、1質量部以上含むことがより好ましく、9質量部以上含むことがさらに好ましい。穀粉100質量部に対してアルギン酸カルシウムの含有量が0.1質量部未満であると、機械耐性効果が発現されない場合がある。アルギン酸カルシウムの含有量の上限には、特に制限はないが、例えば、穀粉100質量部に対して15質量部以下である。アルギン酸カルシウムの含有量が穀粉100質量部に対して15質量部を超えると、カルシウムの摂取量が過多となる可能性がある。
【0039】
穀粉としては、麦、米、そば、ヒエ、アワ、とうもろこし等の穀物を粉にしたものであり、特に制限はないが、例えば、小麦粉、大麦粉、ライ麦粉、米粉、オーツ粉、そば粉、ヒエ粉、アワ粉、とうもろこし粉等が挙げられる。穀粉は、これらのうち1種を用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。穀粉は、食感、風味および製パン性が良好である等の点から、少なくとも小麦粉を用いることが好ましい。
【0040】
水としては、特に制限はないが、例えば、水道水、純水等が挙げられる。
【0041】
本実施形態に係る多加水パン類用生地は、イースト(酵母)を含んでもよい。イーストによって、小麦粉等に含まれる糖が分解されて、炭酸ガスとアルコールが生成される。イーストとしては、特に制限はなく、例えば、インスタントドライイースト、生イースト、ドライイースト、天然酵母、液種等、通常パン類の製造で用いられるものが挙げられる。イーストは、これらのうち1種を用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
イーストの含有量は、特に制限はなく、例えば、穀粉100質量部に対して、1~7質量部の範囲であり、2~5質量部の範囲であることが好ましい。イーストの含有量が穀粉100質量部に対して1質量部未満であると、未熟成の生地になる場合があり、7質量部を超えると、過熟成の生地になる場合がある。
【0043】
本実施形態に係る多加水パン類用生地は、穀粉、水、上記多加水パン類用添加剤、イーストの他に、塩類、糖類、油脂、全卵等の卵成分、乳成分等の通常パン類の製造で使用される他の成分を含んでもよい。
【0044】
塩類としては、食塩、岩塩等が挙げられる。塩類は、これらのうち1種を用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
塩類の含有量は、特に制限はなく、例えば、穀粉100質量部に対して、0.5~3質量部の範囲であり、0.8~2質量部の範囲であってもよい。
【0046】
糖類としては、砂糖、グルコース、液糖等が挙げられる。糖類は、これらのうち1種を用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
糖類の含有量は、特に制限はなく、例えば、穀粉100質量部に対して、0~30質量部の範囲である。
【0048】
油脂としては、バター、マーガリン、ショートニング、ラード、菜種油、大豆油、オリーブ油等が挙げられる。油脂は、これらのうち1種を用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
油脂の含有量は、特に制限はなく、例えば、穀粉100質量部に対して、2~15質量部の範囲である。
【0050】
卵成分としては、卵黄、卵白、全卵、粉末卵等が挙げられる。卵成分は、これらのうち1種を用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
卵成分の含有量は、特に制限はなく、例えば、穀粉100質量部に対して、0~15質量部の範囲である。
【0052】
乳成分としては、脱脂粉乳、無糖練乳、加糖練乳、牛乳、粉乳等が挙げられる。乳成分は、これらのうち1種を用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
乳成分の含有量は、特に制限はなく、例えば、穀粉100質量部に対して、0~15質量部の範囲である。
【0054】
<多加水パン類用生地の製造方法および多加水パン類の製造方法>
本実施形態に係る多加水パン類用生地および多加水パン類は、上記多加水パン類用添加剤を用いて、通常のパン類の製造方法により製造されればよい。
【0055】
本実施形態に係る多加水パン類用生地の製造方法は、例えば、穀粉と、水と、上記多加水パン類用添加剤と、を混合し、混捏することによって多加水パン類用生地を作製する混捏工程を含む。得られる多加水パン類用生地は、穀粉100質量部に対して、水を70質量部以上、好ましくは70~110質量部含む。
【0056】
本実施形態に係る多加水パン類用生地の製造方法において、混捏工程は、穀粉と、水と、を混合し、混捏することによって中種生地を作製する中種混捏工程と、中種に、追加の穀粉と、追加の水と、上記多加水パン類用添加剤と、を混合し、混捏することによって多加水パン類用生地を作製する本捏工程と、を含んでもよい。
【0057】
本実施形態に係る多加水パン類の製造方法は、例えば、上記多加水パン類用生地の製造方法で得られた多加水パン類用生地を焼成する焼成工程を含む。すなわち、本実施形態に係る多加水パン類の製造方法は、例えば、穀粉と、水と、上記多加水パン類用添加剤と、を混合し、混捏することによって多加水パン類用生地を作製する混捏工程と、得られた多加水パン類用生地を焼成する焼成工程を含む。また、本実施形態に係る多加水パン類の製造方法は、穀粉と、水と、を混合し、混捏することによって中種生地を作製する中種混捏工程と、中種に、追加の穀粉と、追加の水と、上記多加水パン類用添加剤と、を混合し、混捏することによって多加水パン類用生地を作製する本捏工程と、得られた多加水パン類用生地を焼成する焼成工程を含んでもよい。
【0058】
混捏工程の後に、得られた生地を所定の条件で所定の量に分割する分割工程、分割した後の生地を丸めるため丸目工程、丸めた生地を所定の形状に成形する成形工程等を含んでもよい。混捏工程の後、中種混捏工程の後、本捏工程の後、分割工程の後、丸目工程の後、成形工程の後のうちの少なくともいずれかに、生地を所定の温度、所定の湿度で発酵させる発酵工程を含んでもよい。
【0059】
混捏工程、中種混捏工程、本捏工程、分割工程、丸目工程、成形工程の際の温度は、通常のパン類の製造方法における温度とすればよく、特に制限はない。これらの工程の温度は、例えば、20~30℃とすればよい。
【0060】
発酵工程における発酵条件は、通常のパン類の製造方法における発酵条件とすればよく、特に制限はない。発酵条件は、例えば、温度27~30℃、湿度65~85%、時間60~90分間とすればよい。
【0061】
焼成工程における焼成条件は、通常のパン類の製造方法における焼成条件とすればよく、特に制限はない。焼成条件は、例えば、温度180~220℃、時間8~40分間とすればよい。
【0062】
本実施形態に係る多加水パン類用生地の製造方法および多加水パン類の製造方法において、一部の工程または全ての工程を手作りによって実施してもよいし、一部の工程または全ての工程を、製造機器を使用する機械製造によって実施してもよい。本実施形態に係る多加水パン類用生地の製造方法および多加水パン類の製造方法においては、一部の工程または全ての工程を、製造機器を使用する機械製造によって実施することが可能となる。上述の通り、上記多加水パン類用添加剤を用いて得られる多加水パン類用生地は、多くの量の水を加えているにもかかわらずほとんどべたつかないため、機械耐性に優れ、一般的な製パン工程において使用される製造機器での扱いが可能である。
【0063】
多加水パン類を製造するためのパン製造装置としては、通常パン類の製造で使用されるパン製造装置を用いればよく、特に制限はない。パン製造装置としては、例えば、穀粉と水と上記多加水パン類用添加剤とその他必要な成分とを混合し、混捏して生地を作製するための混捏機と、生地を所定の温度、所定の湿度で発酵させるための発酵機と、得られた生地を所定の条件で所定の量に分割するための分割機と、分割した後の生地を丸めるための丸目機と、丸めた生地を所定の形状に成形するための成形機と、成形した生地を所定の温度で焼成するための焼成機と、を備える。
【実施例0064】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0065】
<実施例1、比較例1~5>
「添加剤の検討」
添加剤として、アルギン酸カルシウム(実施例1)、アルギン酸エステル(比較例1)、アルギン酸ナトリウム(比較例2)、アルギン酸(比較例3)、グアーガム(比較例4)、ペクチン(比較例5)をそれぞれ用い、表1に示す配合量で下記の方法(標準中種法)によって多加水パンとして食パンの作製が可能かどうかを検討した。配合量は、小麦粉の合計質量を100としたときの質量%を表す。なお、製パン改良剤としては、オリエンタル酵母工業株式会社のCオリエンタルフードを用いた。
【0066】
[多加水パン(食パン)の作製]
(1)中種の各原料をミキサーに入れ、低速1分、高速2~3分ミキシングして中種を作製した。
(2)(1)の中種を、温度28℃、湿度75%で4時間発酵させた。
(3)本捏の原料の油脂以外を計りミキサーに入れた後、そこに(2)の発酵させた中種を加え、低速1分、中速3分、高速1分ミキシングした。その後、油脂を入れ、低速1分、中速2分、高速1~2分ミキシングした。
(4)(3)で得た生地を、温度28℃、湿度75%で20分発酵させた。
(5)(4)の発酵させた生地を取り出し、200gずつ分割し丸め、温度28℃、湿度75%で20分発酵させた。
(6)(5)の発酵させた生地を取り出し、成型機(モルダー)に通し成形をし、3斤棒の食パン型に6個詰めた。その後、温度38℃、湿度80%で50~60分発酵させた。
(7)(6)の発酵させた成形生地を、上火200℃、下火200℃のオーブンで30~35分焼成した。
【0067】
[評価]
多加水パンの作製が可能かどうかを下記基準で評価した。結果を表1に示す。
〇:多加水パンの作製が可能
×:多加水パンの作製が不可能
【0068】
【表1】
【0069】
添加剤としてアルギン酸カルシウム(実施例1)を用いた場合、多加水パンの作製が可能であった。一方、添加剤として、アルギン酸エステル(比較例1)、アルギン酸ナトリウム(比較例2)、アルギン酸(比較例3)、グアーガム(比較例4)、ペクチン(比較例5)を用いた場合、上記(3)の工程でグルテンが上手く形成されずパン生地が作製不可能であった。また上記(5),(6)の工程で粘着性が著しく、作業性が悪くなり成型機(モルダー)による成型が不可能であった。
【0070】
<実施例1-1~1-8、比較例6,7>
「アルギン酸カルシウムの配合量の検討」
[多加水パン(食パン)の作製]
添加剤としてアルギン酸カルシウム(粒子サイズ:目開き53μmの篩を通過する粉末が98質量%以上含まれている粉末)を用い、アルギン酸カルシウムの配合量を変えて、表2に示す配合量で実施例1と同様の方法(標準中種法)によって多加水パン(食パン)の作製を行った。比較例6(control 1)および比較例7(control 2)では、添加剤(アルギン酸カルシウム)を添加しなかった。作業性(機械耐性があるか)、食感(もっちり感)の評価を下記基準で行った。結果を表2に示す。
【0071】
[評価]
(作業性)
A:非常に良好
B:良好
C:control
D:やや不良
E:不良
(食感)
A:かなりもっちり感
B:もっちり
C:control
【0072】
【表2】
【0073】
添加剤(アルギン酸カルシウム)を添加しない比較例7(control 2)では、生地にべたつきが生じたため、上記(5),(6)の工程での作業性が悪く、パンの作製が不可能であった。一方、添加剤としてアルギン酸カルシウムを用いた実施例1-1~1-8では、作業性、パン生地の粘着性等の問題もなく、焼成後のパンの食感も良好であった。特に、アルギン酸カルシウムを小麦粉に対して9質量%~15質量%用いた実施例1-6~1-8では、作業性、パン生地の粘着性等の問題もなく、焼成後のパンはもっちり感が良好であった。
【0074】
<実施例2-1~2-2>
[アルギン酸カルシウムの粒子サイズの検討]
添加剤としてアルギン酸カルシウムを用い、アルギン酸カルシウムの粒子サイズを変えて(粒子サイズ180μm以下(実施例2-1)、53μm以下(実施例2-2))、表3に示す配合量で実施例1と同様の方法(標準中種法)によって多加水パン(食パン)の作製を行った。実施例2-1および実施例2-2で用いたアルギン酸カルシウムは、一般的なアルギン酸塩の製造方法に則り作製し、粉砕条件を変えて粒子サイズを調整した。粒子サイズは、目開き180μmまたは53μmの篩を用いて測定した。製パンの際の作業性(機械耐性があるか)、および焼成後の食感(もっちり感)の評価を上記基準で行った。結果を表3に示す。
【0075】
【表3】
【0076】
アルギン酸カルシウムの粒子サイズの違いによる製パンの際の作業性と焼成後の食感は、どちらも差はほとんど無かった。
【0077】
<実施例3、比較例8,9>
「菓子パンの作製の検討」
添加剤としてアルギン酸カルシウム(粒子サイズ:目開き53μmの篩を通過する粉末が98質量%以上含まれている粉末)を用い、表4に示す配合量で下記の方法によって多加水パンとして菓子パンの作製を行った。比較例8(control 1)および比較例9(control 2)では、添加剤(アルギン酸カルシウム)を添加しなかった。作業性(機械耐性があるか)、食感(もっちり感)の評価を上記基準で行った。結果を表4に示す。
【0078】
[多加水パン(菓子パン)の作製]
(1)中種の各原料をミキサーに入れ、低速1分、高速2~3分ミキシングして中種を作製した。
(2)(1)の中種を、温度28℃、湿度75%で2時間半発酵させた。
(3)本捏の原料の油脂以外を計りミキサーに入れた後、そこに(2)の発酵させた中種を加え、低速1分、中速3分、高速1分ミキシングした。その後、油脂を入れ、低速1分、中速2分、高速1~2分ミキシングした。
(4)(3)で得た生地を、温度28℃、湿度75%で20分発酵させた。
(5)(4)の発酵させた生地を取り出し、50gずつ分割し丸め、温度28℃、湿度75%で20分発酵させた。
(6)(5)の発酵させた生地を取り出し、再度丸めて天板に乗せた。その後、温度38℃、湿度80%で50~60分発酵させた。
(7)(6)の発酵させた生地を、上火190℃、下火190℃のオーブンで10~15分焼成した。
【0079】
【表4】
【0080】
添加剤(アルギン酸カルシウム)を添加しない比較例9(control 2)では、生地にべたつきが生じたため、上記(5),(6)の工程での作業性が悪く、パンの作製が不可能であった。一方、添加剤としてアルギン酸カルシウムを用いた実施例3では、作業性、パン生地の粘着性等の問題もなく、焼成後のパンも特徴のあるもっちりとした食感であり、非常に良好であった。
【0081】
このように添加剤としてアルギン酸カルシウムを用いた実施例では、もっちりとした食感を有し、製造機器による大量生産が可能であり、かつ、パンの食味や風味にほとんど影響を与えずに、多加水パンを製造することができた。