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特開2022-114638ハイブリッド車両駆動装置用フライホイール装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022114638
(43)【公開日】2022-08-08
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両駆動装置用フライホイール装置
(51)【国際特許分類】
   B60K 6/30 20071001AFI20220801BHJP
   B60K 6/40 20071001ALI20220801BHJP
   F16F 15/30 20060101ALI20220801BHJP
【FI】
B60K6/30
B60K6/40 ZHV
F16F15/30 E
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021011010
(22)【出願日】2021-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】519225255
【氏名又は名称】ヴァレオ、カペック、カンパニー、リミテッド
【氏名又は名称原語表記】VALEO KAPEC CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100164688
【弁理士】
【氏名又は名称】金川 良樹
(72)【発明者】
【氏名】土屋 章一
(72)【発明者】
【氏名】角田 康一
【テーマコード(参考)】
3D202
【Fターム(参考)】
3D202EE05
3D202EE23
(57)【要約】
【課題】軽量・コンパクトなサイズであり希望する高慣性効率のハイブリッド車両駆動装置用エンジンのフライホイール装置を提供すること。
【解決手段】リング形状のフライホイールマス1と、内周部2aがクランク軸10の軸端に固定され、外周部2bがフライホイールマス1のクランク軸側の側面部1aに固定された支持プレート2とを備え、さらに、フライホイールマス1と支持プレート2とが協働してフライホイールマス1の慣性効率を向上させる慣性効率向上機構部を備え、慣性効率向上機構部は、フライホイールマスの内径を大きくして重心サークルラインを外周側に近づけることにより、クランク軸回転時のフライホイールマス1の質量に対する慣性力の割合を向上できるようになっている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイブリッド車両駆動装置用エンジンのクランク軸の回転変動を緩和するフライホイール装置であって、
リング形状のフライホイールマスと、
回転方向の剛性が大きくかつ曲げ方向の剛性が小さい鋼製のかつ円板状であって、内周部が前記クランク軸の軸端に第1の締結部材で固定されるとともに、外周部が前記フライホイールマスの前記クランク軸側の側面部に第2の締結部材で固定された支持プレートとを備え、
さらに、前記フライホイールマスと前記支持プレートとが協働して前記フライホイールマスの慣性効率を向上させる慣性効率向上機構部を備え、
前記慣性効率向上機構部は、
前記フライホイールマスの内径を大きくして重心サークルラインを外周側に近づけることにより、クランク軸回転時の前記フライホイールマスの質量に対する慣性力の割合を向上できるようになっている
ことを特徴とするハイブリッド駆動装置用フライホイール装置。
【請求項2】
前記フライホイールマスの内径は外径比で50%以上である
ことを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド駆動装置用フライホイール装置。
【請求項3】
前記フライホイールマスの内径はΦ160mm以上である
ことを特徴とする請求項1または2に記載のハイブリッド駆動装置用フライホイール装置。
【請求項4】
外周部が前記フライホイールマスの前記クランク軸側の側面部に所要深さ窪んで設けられた円環状段差部に位置決めされるとともに、内周部が前記支持プレートの内周部に摺動可能に押圧された皿バネを備えている
ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のハイブリッド駆動装置用フライホイール装置。
【請求項5】
前記支持プレートの前記内周部と、前記支持プレートの前記内周部と前記外周部との間の中間部とのうち、少なくとも前記中間部が前記フライホイールマスの内径空間部に入り込み、前記フライホイールマスのクランク軸側の側面部が、前記支持プレートと前記クランク軸との固定面の延長平面上にほぼ一致しているか、または前記延長平面よりもクランク軸側に位置し、前記延長平面上から前記フライホイールマスの重心までの距離が小さく、前記フライホイールマスの前記クランク軸に対する片持ち荷重による曲げモーメントを小さくする構成である
ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のハイブリッド駆動装置用フライホイール装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのクランク軸に支持プレートを介してフライホイールマスを連結したハイブリッド車両駆動装置用フライホイール装置に関する。
【背景技術】
【0002】
往復動内燃機関において、フライホイールは、燃料の爆発に伴うクランク軸の周期的な回転変動(トルク変動)を抑制する(平滑化する)ためにクランク軸に取り付けられている。古典的なフライホイールは、外周部の肉厚が慣性マスを得るべく大きく、エンジンのクランク軸の軸端に連結固定される肉厚の内周部が外周部の肉厚よりも小さい円盤状の鋳物から構成されている。
【0003】
しかし、鋳物製のフライホイールは引張り強度、曲げ強度が低いため、外周部の以外の肉厚を小さくするには限界があった。また、フライホールの質量が大きいことがクランク軸の軸端に対する曲げモーメントが大きく、振動が大きく騒音が大きいので低騒音化する改善が指摘された。そこで、特許文献1に開示されたフレキシブルフライホイールが提案されている。
【0004】
特許文献1に開示されたフレキシブルフライホイールは、円環板形のフライホイールマスと、内周側をエンジンのクランク軸の軸端に連結固定され、かつ外周側をフライホイールマスの側面部に締着された略円板形の支持プレートとを含んで構成されている。支持プレートは、回転方向の剛性が大きくかつ曲げ方向の剛性が小さい円板形の鋼板をプレス成形してなる。このフレキシブルフライホイールによれば、上記の古典的な鋳物製のフライホイールの外周部以外の部分について、鋳物に比べて引張り強度および曲げ強度の高い鋼材よりなるフライホイールマスで担持する構成である。
【0005】
このフレキシブルフライホイールによれば、クランク軸とフライホイールマスを剛性の低い鋼板で繋ぐことでクランク軸とフライホイールマスを動的に分離し、これにより、クランク軸の曲げ固有値を常用域外へ上昇させて常用域でのクランク軸の曲げに起因する音振動を低減することを目的としている。すなわち、支持プレートが設けられる理由は、クランク軸の曲げ振動の固有振動数をエンジンの常用域から他の域へ変化させて曲げ振動を低減する機能を有するからである。支持プレートが介在することで、クランク軸の回転動力を支持プレートが周方向の撓みを生ずることなくフライホイールマスに伝達しフライホイールマスが回転を安定させる機能を保ちつつクランク軸の曲げ振動の固有振動数をエンジンの常用域から他の域へ変化させ、異音の発生を低減させている。
【0006】
このフレキシブルフライホイールは、マニュアルクラッチ機能上のトルク伝達、遮断するための摺動面を有し(内周までマス面が必要)、フライホイールマスのクランク軸側と反対側の側面部でクラッチの一方の摩擦板を支持しており、また、熱的強度を確保するため、フライホイールの摺動面周辺の熱容量(体積・板厚)の確保が必要であることから、フライホイールマスの内径が小さい。フライホイールマスの内径が小さいから、近年の燃費向上の要請の観点からフライホイールマスの軽量化はさほど大きくなく、効果は小さい。
【0007】
そこで、特許文献2に開示されたフライホイール装置が提案されている。このフレキシブルフライホイールは、リング形状のフライホイールマスと、周部が前記クランク軸の軸端に固定され外周部がフライホイールマスのクランク軸側の側面部に固定された支持プレートとを備えた構成に加え、外周部がフライホイールマスのクランク軸側の側面部に所要深さ窪んで設けられた円環状段差部に位置決めされるとともに、内周部が支持プレートの内周部2aに摺動可能に押圧された皿バネとを備えている。
【0008】
このフレキシブルフライホイールによれば、皿バネを備えたことにより、フライホィールの曲げモーメントが回転軸に大きく作用する原因であるフライホィールの微小な振れ回りを抑制することができ、これに加え、皿バネが撓むことにより皿バネと支持プレート・フライホイールマスとの間で摩擦を生じ、摩擦抵抗により曲げ振動を一層大きく減衰することができ、曲げ振動に起因する車室内のこもり音等の異音を発生を効果的に低減させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】実開平5-19701号公報
【特許文献2】特開2007-162792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述した特許文献1および2、その他の特許文献に記載されているフライホイール装置にあっては、クランク軸の曲げに起因する燃焼音を抑制させるために、フライホイールマスを支持プレートを介してクランク軸の軸端に固定した構成を採用しており、これまで、燃費向上の観点から、質量ができるだけ小さくてコンパクトな構成でありながら、かつ要求される慣性力を有するフライホイールマスを設計し提供することについては一切考慮されて来なかった。
【0011】
他方、ハイブリッド(HEV)用のフライホイール装置では、マニュアルトランスミッション用フレキシブルフライホイールと異なり動力伝達用の摺動面の確保が不要になる。低燃費を求める昨今、フライホイールマスの機能はそのまま保持し質量低減が可能となる改善が求められている。従来のフライホイールの基本機能+要求イナーシャの要求を充足することに加え、燃費低減等の目的のため質量の低減する要求が高まっている。この観点から、質量を最小限に抑えてイナーシャを確保するようにイナーシャ効率の高い外周側へ極力マス(体積)を持っていき、クランクエンドとマスを高強度の鋼板でつなぐ構造とする。同必要イナーシャを確保し駄肉を抑え、質量を低減することができる。
【0012】
そこで本発明は、上記の課題を解決し、従来と同様にクランク軸の曲げに起因する燃焼音を抑制させる基本的デバイス機能を有することに加え、フライホイールマスについて軽量でありながら、燃料の爆発に伴うクランク軸の周期的な回転変動(トルク変動)を抑制するために必要な慣性力が保有しうる質量を有しながら、質量に対する慣性効率が高く、燃費やコストの低減ができるハイブリッド車両駆動装置用フライホイール装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願の第1の発明態様に係るフライホイール装置は、ハイブリッド車両駆動装置用エンジンのクランク軸の回転変動を緩和するフライホイール装置であって、リング形状のフライホイールマスと、回転方向の剛性が大きくかつ曲げ方向の剛性が小さい鋼製のかつ円板状であって、内周部が前記クランク軸の軸端に第1の締結部材で固定されるとともに、外周部が前記フライホイールマスの前記クランク軸側の側面部に第2の締結部材で固定された支持プレートとを備えている。
【0014】
さらに、本願の第1の発明態様に係るフライホイール装置は、前記フライホイールマスと前記支持プレートとが協働して前記フライホイールマスの慣性効率を向上させる慣性効率向上機構部を備えている。
【0015】
前記慣性効率向上機構部は、前記フライホイールマスの内径を大きくして重心サークルラインを外周側に近づけることにより、クランク軸回転時の前記フライホイールマスの質量に対する慣性力の割合を向上できるようになっている。
【0016】
本願の第2の発明態様に係るフライホイール装置は、上述した第1の発明態様に係る構成に加え、前記フライホイールマスの内径は外径比で50%以上である構成である。
【0017】
本願の第3の発明態様に係るフライホイール装置は、上述した第1の発明態様に係る構成に加え、前記フライホイールマスの内径はΦ160mm以上である構成である。
【0018】
本願の第4の発明態様に係るフライホイール装置は、上述した第1ないし3のいずれか1つの発明態様に係る構成に加え、外周部が前記フライホイールマスの前記クランク軸側の側面部に所要深さ窪んで設けられた円環状段差部に位置決めされるとともに、内周部が前記支持プレートの内周部に摺動可能に押圧された皿バネとを備えている構成である。
【0019】
本願の第5の発明態様に係るフライホイール装置は、上述した第1ないし4のいずれか1つの発明態様に係る構成に加え、前記支持プレートの前記内周部と、前記支持プレートの前記内周部と前記外周部との間の中間部とのうち、少なくとも前記中間部が前記フライホイールマスの内径空間部に入り込み、前記フライホイールマスのクランク軸側の側面部が、前記支持プレートと前記クランク軸との固定面の延長平面上にほぼ一致しているか、または前記延長平面よりもクランク軸側に位置し、前記延長平面上から前記フライホイールマスの重心までの距離が小さく、前記フライホイールマスの前記クランク軸に対する片持ち荷重による曲げモーメントを小さくする構成である。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るフライホイール装置によれば、従来と同様にクランク軸の曲げに起因する燃焼音を抑制させる基本的デバイス機能を有することに加え、フライホイールマスについて軽量でありながら、燃料の爆発に伴うクランク軸の周期的な回転変動(トルク変動)を抑制するために必要な慣性力が保有しうる質量を有しながら、質量に対する慣性効率が高く、燃費やコストの低減ができるフライホイール装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の第1の実施の形態に係るフライホイール装置を示す正面図である。
図2】本発明の第1の実施の形態に係るフライホイール装置を示す縦断図である。
図3】本発明の第2の実施の形態に係るフライホイール装置を示す正面図である。
図4】本発明の第2の実施の形態に係るフライホイール装置を示す縦断図である。
図5】本発明の第3の実施の形態に係るフライホイール装置を示す縦断図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明によるハイブリッド車両駆動装置用フライホイール装置の実施の形態を説明する。ハイブリッド車両駆動装置には、大きく分けてパラレル方式、シリーズ方式、スプリット方式の3種類があり、本発明によるハイブリッド車両駆動装置はいずれの方式も含み、従来のようなガソリン車のクラッチの一対の摩擦板の一方を支持する構成ではなく、クランク軸に設けられるフライホイールには、出力部材としてのダンパーが取り付けられる。
【0023】
[第1の実施の形態]
図1(A),(B)は第1の実施の形態に係るフライホイール装置100を示す。フライホイール装置100は、フライホイールマス1と、支持プレート2と、皿バネ3と、リングプレート4と、慣性効率向上機構部(符号なし)とを備えている。
【0024】
[フライホイールマス1について]
以下詳述する。フライホイールマス1は、クランク軸10に取り付けられ燃料の爆発に伴うクランク軸10の周期的な回転変動を抑制する役目を果たす。フライホイールマス1は、少なくとも要求される大きさの慣性力を有する質量を持つように設けられる必要がある。
【0025】
[支持プレート2について]
支持プレート2は、中心線を通る平面で截断したときの断面形状により、回転方向の剛性が大きくかつ曲げ方向の剛性が小さい鋼製のかつ円板状とされている。支持プレート2は、内周部2aがクランク軸10の軸端に第1の締結部材5で固定されるとともに、外周部2bがフライホイールマス1のクランク軸側の側面部1aに第2の締結部材6で固定されている。リングプレート4は、支持プレート2の内周部2aに重ねられ支持プレート2の強度を補強することができる。第1の締結部材5と第2の締結部材6は、この実施の形態ではボルト締結が採用されているが、溶接、リベットによる締結であってもよい。
【0026】
支持プレート2は、鋳物に比べて引張り強度および曲げ強度の高い鋼材よりなり、クランク軸10とフライホイールマス1を剛性の低い鋼板で繋ぐことでクランク軸10とフライホイールマス1を動的に分離し、これにより、クランク軸10の曲げ固有値を常用域外へ上昇させて常用域でのクランク軸10の曲げに起因する音振動を低減し、こもり音等の異音を発生を低減させる役目を果たす。
【0027】
[皿バネ3について]
皿バネ3は、外周部3aがフライホイールマス1のクランク軸側の側面部1aに所要深さ窪んで設けられた円環状段差部1bに位置決めされるとともに、内周部3bが支持プレート2の内周部2aに摺動可能に押圧されている構成である。皿バネ3は、当該皿バネ3と支持プレート2との間で摩擦を生じ、摩擦抵抗により曲げ振動を一層大きく減衰する役目を果たす。
【0028】
[慣性効率向上機構部について]
慣性効率向上機構部は、クランク軸回転時のフライホイールマス1の慣性効率(質量に対する慣性力の割合)を向上できるように構成された要素である。
【0029】
フライホイールマス1の慣性効率は、できるだけ内径を大きくし重心サークルラインを外径側に近づけかつ要求される大きさの慣性力を有する質量を持つ構成であることにより、クランク軸回転時の前記フライホイールマスの質量に対する慣性力の割合を向上できるようになっている。
【0030】
フライホイールマス1の内径は外径比で50%以上とするのがよい。さらに、フライホイールマス1の内径はΦ160mm以上とするのがよい。
【0031】
さらに、フライホイールマス1のクランク軸側の側面部1aが、支持プレート2とクランク軸10との固定面の延長平面上にほぼ一致するように支持プレート2の所要の断面屈曲形状に形成することにより、フライホイールマス1の慣性効率(慣性力と質量との比率)を高めるようにするのがよい。具体的には、支持プレート2は、所要の支持プレート2の内周部2aと、支持プレート2の内周部2aと外周部2bとの間の中間部2cとのうち、少なくとも中間部2cがフライホイールマス1の内径空間部に入り込んで、フライホイールマス1のクランク軸側の側面部1aが、支持プレート2とクランク軸10との固定面の延長平面Y上にほぼ一致させて延長平面Yからフライホイールマス1のクランク軸方向の厚み寸法の半分値を小さくし曲げモーメントを小さく抑えて質量が慣性力に有効に作用する構成とするのがよい。
【0032】
なお、慣性効率向上機構部は、フライホイールマスの中心線を通る平面で截断したときの断面形状の大きさであるクランク軸方向の厚み寸法Aと、直径方向の内径面から外径面までの寸法Bとの比率A/Bが所要範囲とされかつ要求される大きさの慣性力を有する質量を持つ構成であるのがよい。具体的には、比率A/Bが3/10~5/10であって、前記フライホイールマスが要求される慣性力を有する質量ないし要求される慣性力を有する質量の25%増しの慣性力を有する質量となるように設定されているのがよい。
【0033】
上記のように構成された第1の実施の形態に係るフライホイール装置によれば、従来と同様にクランク軸10とフライホイールマス1とを支持プレート2により支持する構成であるから、クランク軸10の曲げ振動に起因する車室内のこもり音等の異音を発生を低減させる基本的デバイス機能を有し、これに加え、フライホイールマス1についてクランク軸方向の厚み寸法Aを押さえて内径を可能な限り大きくして軽量でありながら、燃料の爆発に伴うクランク軸の周期的な回転変動(トルク変動)を抑制するために必要な慣性力が保有しうる質量を有する構成としたので、質量に対する慣性効率が高く、燃費やコストの低減ができる。
【0034】
なお、昨今、ハイブリッド用のエンジンとして、燃費のよい3気筒エンジンを組み合わせるケースが多い。3気筒のエンジンではその構造上、回転モーメントのアンバランスが大きいので4気筒、6気筒に比べて振動が大きく、回転モーメントのアンバランスを解消するための大きなカウンターウェイトが必要になる。従来では、フライホイールに所定位置に大きなカウンターウェイトを求められた場合、フライホイールでは外周部の体積(質量)が多い部分を機械加工して削減することと、そして、削減することで減った不足回転慣性力分を補填するために、機械加工と反対側の内径位置(慣性効率の低い部位)に肉盛りして対応するカウンターウェイトを設けている。カウンターウェイトを設ける場合にも、慣性効率の高い部位へ容易にかつ要求される大きさの質量を有するようにカウンターウェイトを設けられる工夫が望まれている。
【0035】
第1の実施の形態に係るフライホイール装置によれば、回転モーメントのアンバランスを解消するためのカウンターウェイトを設けている。このカウンターウェイトによれば、簡単に大きなアンバランスを解消することができる。このカウンターウェイトは、タイミング歯車7を支持する歯車支持プレート8を利用している。すなわち、歯車支持プレート8は、一の第2の締結部材6とこれに隣接する第2の締結部材6との間で第3の固定部材9(リベット)により支持プレート2に固定される。フライホイールマス1には第3の固定部材9に対応する位置に干渉回避用の孔が設けられている。歯車支持プレート8は、各第2の締結部材6を避けた形状に形成されている。したがって、フライホイールマス1と支持プレート2を連結した後に歯車支持プレート8を設けることができる。歯車支持プレート8は、アンバランスを生じている円周方向の位置と反対側の位置(バランスウエイトを設ける位置)を矢印Gで示す場合、矢印Gを通る直径方向の対し中心を通る直交方向の直径線Hで分けられる矢印G側の180度の領域に大きな面積を有し、反対側の領域に小さな面積を有し、大きな面積と小さな面積との差分がバランスウエイトとして機能するようになっている。さらに、歯車支持プレート8は、フライホイールマス1の外周側に設けられることにより、質量に対する慣性効率が高く、燃費やコストの低減ができる機能を有する。
【0036】
[第2の実施の形態]
本願の第2の実施の形態に係るフライホイール装置100Aは、フライホイールマス1Aと、支持プレート2Aと、皿ばね3Aと、リングプレート4Aとを有する。フライホイールマス1Aは、タイミング歯車7を一体に有する。支持プレート2Aは、クランク軸10Aの軸端のフランジとフライホイールマス1Aとを連結・固定している。この実施の形態に係るフライホイールマス1Aは、支持プレート2Aと反対側の側面に捩じり振動減衰装置のフランジを連結・支持している。フライホイールマス1Aは、フランジ9aの外周に環状突出部1dを有し、環状突出部1dにバランスウエイトを取り付けることができる雌ねじ部1dが設けられている。バランスウエイト8Aは第1の実施の形態とは異なり第2の固定部材9,9間にて2つのリベットで支持プレート2Aに固定されている。その他の構成は第1の実施の形態と同様である。
【0037】
[第3の実施の形態]
本願の第3の実施の形態に係るフライホイール装置100Bは、フライホイールマス1Bと、支持プレート2Bと、支持プレート2Bの内周部の両面に重ねられる2つのリングプレート4B1,4B2とを有し、皿ばねは有していない。
【0038】
フライホイール装置100Bは、支持プレート2Bの中間部2cがフライホイールマス1Bの内径空間部に入り込み、フライホイールマス1Bのクランク軸側の側面部1aの内方への延長平面Y2が、支持プレート2Bとクランク軸10Bとの固定面の延長平面Y1よりもクランク軸側に位置し、もって、延長平面Y1からフライホイールマス1Bの重心までの距離(延長平面Y1からフライホイールマス1Bの厚み寸法Aの半分までの距離)が小さく、フライホイールマス1Bのクランク軸10に対する片持ち荷重による曲げモーメントを小さくする構成である。その他の構成は第1の実施の形態と同様である。
【符号の説明】
【0039】
1,1A,1B…フライホイールマス
1a…側面部
1b…円環状段差部
1c…内径空間部
2,2A,2B…支持プレート
2a…内周部
2b…外周部
2c…中間部
3,3A…皿バネ
3a…外周部
3b…内周部
4…リングプレート
5…第1の締結部材
6…第2の締結部材
7…タイミング歯車
8…歯車支持プレート(カウンタプレート)
9…第3の固定部材(リベット)
10,10A,10B…クランク軸
100,100A,100B…フライホイール装置
G…矢印;バランスウエイトを設ける位置
H…矢印Gを通る直径方向の対し中心を通る直交方向の直径線
Y…延長平面
図1
図2
図3
図4
図5
【手続補正書】
【提出日】2022-06-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイブリッド車両駆動装置用エンジンのクランク軸の回転変動を緩和するフライホイール装置であって、
リング形状のフライホイールマスと、
回転方向の剛性が大きくかつ曲げ方向の剛性が小さい鋼製のかつ円板状であって、内周部が前記クランク軸の軸端に第1の締結部材で固定されるとともに、外周部が前記フライホイールマスの前記クランク軸側の側面部に第2の締結部材で固定された支持プレートとを備え、
さらに、前記フライホイールマスと前記支持プレートとが協働して前記フライホイールマスの慣性効率を向上させる慣性効率向上機構部を備え、
前記慣性効率向上機構部は、
前記フライホイールマスの内径が外径比で50%以上であることにより、クランク軸回転時の前記フライホイールマスの質量に対する慣性力の割合を向上できるようになっており、
前記支持プレートの前記内周部と、前記支持プレートの前記内周部と前記外周部との間の中間部とのうち、少なくとも前記中間部が前記フライホイールマスの内径空間部に入り込み、前記フライホイールマスのクランク軸側の側面部のうちの前記支持プレートの前記外周部に固定される部分が、前記側面部と同じ方向を向く前記支持プレートと前記クランク軸との固定面の延長平面よりも前記クランク軸における前記支持プレートに固定される軸端とは反対の軸端側に位置し、前記フライホイールマスの前記クランク軸に対する片持ち荷重による曲げモーメントを小さくする構成である
ことを特徴とするハイブリッド駆動装置用フライホイール装置。
【請求項2】
前記フライホイールマスの内径はΦ160mm以上である
ことを特徴とする請求項に記載のハイブリッド駆動装置用フライホイール装置。
【請求項3】
外周部が前記フライホイールマスの前記クランク軸側の側面部に所要深さ窪んで設けられた円環状段差部に位置決めされるとともに、内周部が前記支持プレートの内周部に摺動可能に押圧された皿バネを備えている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のハイブリッド駆動装置用フライホイール装置。