(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022114651
(43)【公開日】2022-08-08
(54)【発明の名称】重荷重用空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/00 20060101AFI20220801BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20220801BHJP
B60C 9/18 20060101ALI20220801BHJP
B60C 9/20 20060101ALI20220801BHJP
【FI】
B60C11/00 D
B60C11/00 B
B60C11/00 F
B60C1/00 A
B60C9/18 G
B60C9/20 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021011029
(22)【出願日】2021-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】特許業務法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】出雲 優
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131AA04
3D131BA02
3D131BA05
3D131BA07
3D131BA08
3D131BA20
3D131BB03
3D131BC02
3D131BC35
3D131DA45
3D131EA02U
3D131EA10U
(57)【要約】 (修正有)
【課題】低燃費性能および耐リブテア性能が改善された重荷重用空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】トレッドを備えた重荷重用空気入りタイヤであって、前記トレッドが、トレッド面を構成するキャップゴム層5および前記キャップゴム層のタイヤ半径方向内側に隣接するベースゴム層4を有し、前記キャップゴム層および前記ベースゴム層が、ゴム成分を含有するゴム組成物により構成され、前記ベースゴム層を構成するゴム組成物のアセトン抽出量が4.0質量%未満であり、前記ベースゴム層を構成するゴム組成物の23℃における200%延伸時のモジュラスをM200b(MPa)、前記キャップゴム層を構成するゴム組成物の23℃における200%延伸時のモジュラスをM200c(MPa)としたとき、M200bおよびM200cが、下記式(1)を満たす、重荷重用空気入りタイヤ。
0≦M200c-M200b≦5・・・(1)
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッドを備えた重荷重用空気入りタイヤであって、
前記トレッドが、トレッド面を構成するキャップゴム層および前記キャップゴム層のタイヤ半径方向内側に隣接するベースゴム層を有し、前記キャップゴム層および前記ベースゴム層が、ゴム成分を含有するゴム組成物により構成され、
前記ベースゴム層を構成するゴム組成物のアセトン抽出量が4.0質量%未満であり、
前記ベースゴム層を構成するゴム組成物の23℃における200%延伸時のモジュラスをM200b(MPa)、前記キャップゴム層を構成するゴム組成物の23℃における200%延伸時のモジュラスをM200c(MPa)としたとき、M200bおよびM200cが、下記式(1)を満たす、重荷重用空気入りタイヤ。
0≦M200c-M200b≦5 ・・・(1)
【請求項2】
前記ベースゴム層を構成するゴム組成物の70℃におけるtanδ(70℃tanδ)が0.040未満である、請求項1記載の重荷重用空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記ベースゴム層を構成するゴム組成物の23℃における破断時強度をTB(MPa)、23℃における破断時伸びをEB(%)としたとき、前記ベースゴム層を構成するゴム組成物の70℃におけるtanδ(70℃tanδ)、TBおよびEBが、下記式(2)を満たす、請求項1または2記載の重荷重用空気入りタイヤ。
TB×EB/70℃tanδ≧4.5×105 ・・・(2)
【請求項4】
前記ベースゴム層を構成するゴム成分がブタジエンゴムを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の重荷重用空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記ベースゴム層の厚みが前記トレッドの総厚みの1~70%である、請求項1~4のいずれか一項に記載の重荷重用空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記ベースゴム層のタイヤ半径方向内側に四層以上のベルト層を備え、
タイヤ半径方向最外側の前記ベルト層のタイヤ半径方向外側面および最広幅の前記ベルト層のタイヤ半径方向外側面のうち少なくとも一面を、タイヤ赤道面に達することなく終了する補強ゴム層で覆い、
前記補強ゴム層を構成するゴム組成物の70℃におけるtanδ(70℃tanδ)の値が、前記ベースゴム層を構成するゴム組成物の70℃におけるtanδ(70℃tanδ)の値よりも大きい、請求項1~5のいずれか一項に記載の重荷重用空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記補強ゴム層の幅wが、前記トレッドの踏面幅Wの10~40%である、請求項1~6のいずれか一項に記載の重荷重用空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記補強ゴム層の最大厚みが、タイヤ赤道線からトレッド踏面幅の1/4の位置に存在する幅方向溝の溝深さの5~25%である、請求項1~7のいずれか一項に記載の重荷重用空気入りタイヤ。
【請求項9】
前記ベースゴム層を構成するゴム組成物がグリセリン脂肪酸エステルを含有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の重荷重用空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重荷重用空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
トラック・バス用タイヤの破壊強度を改良する手法として、カーボンブラックを微粒子化ないし高ストラクチャー化する技術が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のカーボンブラックを微粒子化ないし高ストラクチャー化する手法では、タイヤの低燃費性能や耐リブテア性能の改善については充分とはいえない。また、微粒子化に伴う加工性の悪化によりカーボンブラックの分散性も悪化し、逆にタイヤの耐摩耗性が悪化する場合もある。そのため、従来のカーボンブラックの改良による性能向上手法には限界があった。
【0005】
また、近年の環境規制の影響から、トラック・バス用タイヤにおいても、耐摩耗性能だけでなく、低燃費性能、耐破壊性能等を高度に両立する要求が高まっている。
【0006】
本発明は、低燃費性能および耐リブテア性能が改善された重荷重用空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、ベースゴム層およびキャップゴム層の200%延伸時のモジュラスの差を所定の範囲とし、かつ、ベースゴム層のアセトン抽出量を所定の範囲とすることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、
〔1〕トレッドを備えた重荷重用空気入りタイヤであって、前記トレッドが、トレッド面を構成するキャップゴム層および前記キャップゴム層のタイヤ半径方向内側に隣接するベースゴム層を有し、前記キャップゴム層および前記ベースゴム層が、ゴム成分を含有するゴム組成物により構成され、前記ベースゴム層を構成するゴム組成物のアセトン抽出量が4.0質量%未満であり、前記ベースゴム層を構成するゴム組成物の23℃における200%延伸時のモジュラスをM200b(MPa)、前記キャップゴム層を構成するゴム組成物の23℃における200%延伸時のモジュラスをM200c(MPa)としたとき、M200bおよびM200cが、下記式(1)を満たす、重荷重用空気入りタイヤ、
0≦M200c-M200b≦5 ・・・(1)
〔2〕前記ベースゴム層を構成するゴム組成物の70℃におけるtanδ(70℃tanδ)が0.040未満である、上記〔1〕記載の重荷重用空気入りタイヤ、
〔3〕前記ベースゴム層を構成するゴム組成物の23℃における破断時強度をTB(MPa)、23℃における破断時伸びをEB(%)としたとき、前記ベースゴム層を構成するゴム組成物の70℃におけるtanδ(70℃tanδ)、TBおよびEBが、下記式(2)を満たす、上記〔1〕または〔2〕記載の重荷重用空気入りタイヤ、
TB×EB/70℃tanδ≧4.5×105 ・・・(2)
〔4〕前記ベースゴム層を構成するゴム成分がブタジエンゴムを含む、上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の重荷重用空気入りタイヤ、
〔5〕前記ベースゴム層の厚みが前記トレッドの総厚みの1~70%である、上記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の重荷重用空気入りタイヤ、
〔6〕前記ベースゴム層のタイヤ半径方向内側に四層以上のベルト層を備え、タイヤ半径方向最外側の前記ベルト層のタイヤ半径方向外側面および最広幅の前記ベルト層のタイヤ半径方向外側面のうち少なくとも一面を、タイヤ赤道面に達することなく終了する補強ゴム層で覆い、前記補強ゴム層を構成するゴム組成物の70℃におけるtanδ(70℃tanδ)の値が、前記ベースゴム層を構成するゴム組成物の70℃におけるtanδ(70℃tanδ)の値よりも大きい、上記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の重荷重用空気入りタイヤ、
〔7〕前記補強ゴム層の幅wが、前記トレッドの踏面幅Wの10~40%である、上記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の重荷重用空気入りタイヤ、
〔8〕前記補強ゴム層の最大厚みが、タイヤ赤道線からトレッド踏面幅の1/4の位置に存在する幅方向溝の溝深さの5~25%である、上記〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の重荷重用空気入りタイヤ、
〔9〕前記ベースゴム層を構成するゴム組成物がグリセリン脂肪酸エステルを含有する、上記〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の重荷重用空気入りタイヤ、に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、低燃費性能および耐リブテア性能が改善された重荷重用空気入りタイヤが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の重荷重用空気入りタイヤのトレッド部の半部について示すトレッド幅方向の断面図である。
【
図2】本開示において重荷重用空気入りタイヤの耐リブテア性能を評価するために用いる試験装置の一例を概略的に示す正面図である。
【
図3】試験装置の突起治具および基準面の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示に係る重荷重用空気入りタイヤは、トレッドを備えた重荷重用空気入りタイヤであって、前記トレッドが、トレッド面を構成するキャップゴム層および前記キャップゴム層のタイヤ半径方向内側に隣接するベースゴム層を有し、前記キャップゴム層および前記ベースゴム層が、ゴム成分を含有するゴム組成物により構成され、前記ベースゴム層を構成するゴム組成物のアセトン抽出量が4.0質量%未満であり、前記ベースゴム層を構成するゴム組成物の23℃における200%延伸時のモジュラスをM200b(MPa)、前記キャップゴム層を構成するゴム組成物の23℃における200%延伸時のモジュラスをM200c(MPa)としたとき、M200bおよびM200cが、下記式(1)を満たす。
0≦M200c-M200b≦5 ・・・(1)
【0012】
理論に拘束されることは意図しないが、本開示の効果が発揮されるメカニズムとしては、例えば以下のように考えられる。
【0013】
ベースゴム層とキャップゴム層とのモジュラスバランスが悪くなると、キャップゴム層とベースゴム層の界面での剥離やベーストレッドゴム内での亀裂など、トレッド損傷の起因となるおそれがある。
【0014】
そこで、ベースゴム層およびキャップゴム層の200%延伸時のモジュラスの差を所定の範囲とし、かつ、ベースゴム層のアセトン抽出量を所定の範囲とすることにより、ベースゴム層とキャップゴム層とのモジュラスバランスを最適化し、トレッドゴムの発熱を抑制しつつ、耐リブテア性能を向上させることができたと考えられる。
【0015】
さらに、後述する補強ゴム層の構造とトレッドの各層を構成するゴム組成物の前記の物性とが協働することにより、低燃費性能および耐リブテア性能を向上させることができたと考えられる。
【0016】
前記ベースゴム層を構成するゴム組成物の70℃におけるtanδ(70℃tanδ)は0.040未満であることが好ましい。
【0017】
前記ベースゴム層を構成するゴム組成物の23℃における破断時強度をTB(MPa)、23℃における破断時伸びをEB(%)としたとき、前記ベースゴム層を構成するゴム組成物の70℃におけるtanδ(70℃tanδ)、TBおよびEBが、下記式(2)を満たすことが好ましい。
TB×EB/70℃tanδ≧4.5×105 ・・・(2)
【0018】
前記ベースゴム層を構成するゴム成分は、ブタジエンゴムを含むことが好ましい。
【0019】
前記ベースゴム層の厚みは、前記トレッドの総厚みの1~70%であることが好ましい。
【0020】
本開示に係る重荷重用空気入りタイヤは、前記ベースゴム層のタイヤ半径方向内側に四層以上のベルト層を備え、タイヤ半径方向最外側の前記ベルト層のタイヤ半径方向外側面および最広幅の前記ベルト層のタイヤ半径方向外側面のうち少なくとも一面を、タイヤ赤道面に達することなく終了する補強ゴム層で覆い、前記補強ゴム層を構成するゴム組成物の70℃におけるtanδ(70℃tanδ)の値が、前記ベースゴム層を構成するゴム組成物の70℃におけるtanδ(70℃tanδ)の値よりも大きいことが好ましい。
【0021】
前記補強ゴム層の幅wは、前記トレッドの踏面幅Wの10~40%であることが好ましい。
【0022】
前記補強ゴム層の最大厚みは、タイヤ赤道線からトレッド踏面幅の1/4の位置に存在する幅方向溝の溝深さの5~25%であることが好ましい。
【0023】
前記ベースゴム層を構成するゴム組成物は、グリセリン脂肪酸エステルを含有することが好ましい。
【0024】
本開示の一実施形態であるトレッド用ゴム組成物を含む重荷重用空気入りタイヤについて、以下に詳細に説明する。但し、以下の記載は本開示を説明するための例示であり、本発明の技術的範囲をこの記載範囲にのみ限定する趣旨ではない。なお、本明細書において、「~」を用いて数値範囲を示す場合、その両端の数値を含むものとする。
【0025】
<重荷重用空気入りタイヤ>
図1に、本開示の重荷重用空気入りタイヤのトレッド部の半部について示すトレッド幅方向の断面図を示すが、本開示はこれに限定されるものではない。
【0026】
図1において、1はトレッド部を、2は一方のビードコアと他方のビードコア間にトロイダルに延在する、一枚以上のカーカスプライからなるカーカスを、3はカーカス2のタイヤ半径方向外側に配設した五層の積層ベルト層3a~3eからなるベルトを示す。そして、ベルト3のタイヤ半径方向外側に、ベースゴム層4およびキャップゴム層5が積層している。
【0027】
ここで、タイヤ半径方向最外側のベルト層3eのタイヤ半径方向外側面および最広幅のベルト層3cのタイヤ半径方向外側面のうち少なくとも一面(
図1ではタイヤ半径方向最外側のベルト層3eのタイヤ半径方向外側面)は、トレッドゴム6のタイヤ半径方向内側で、タイヤ赤道面Eに達することなく終了する補強ゴム層7で覆われている。
【0028】
補強ゴム層7を構成するゴム組成物の70℃におけるtanδ(70℃tanδ)の値を、前記ベースゴム層を構成するゴム組成物の70℃におけるtanδ(70℃tanδ)の値よりも大きくすることで、タイヤの発熱耐久性およびベルトの耐久性を高い次元で両立させることができる。
【0029】
補強ゴム層7の幅wは、トレッドの踏面幅Wの10~40%であることが好ましく、15~30%であることがより好ましい。また、補強ゴム層7の最大厚みtは、タイヤ赤道線からトレッド踏面幅の1/4の位置に存在する幅方向溝の溝深さの5~25%であることが好ましく、7~20%であることがより好ましい。これらによれば、ベースゴム4内への破壊の進行を有効に阻止しつつ、低発熱性のベースゴム層4にそれ本来の機能を十分に発揮させて、トレッドゴム6に高い耐久性を付与することができる。なお、本開示において「トレッド踏面幅」とは、タイヤを適用リムに装着して、規定の空気圧を充填し、平板に対してキャンバー角零度で垂直に置いて最大負荷能力に相当する負荷を付与した際の、タイヤ軸方向最外側の接地位置(接地端)間の、タイヤ軸線と平行な直線距離になるトレッド接地幅をいうものとする。
【0030】
本開示における「70℃tanδ」は、JIS K 6394:2007に準拠し、温度70℃、初期歪み5%、動歪み±1%、周波数10Hzの条件下での損失正接tanδを指す。
【0031】
ベースゴム層4を構成するゴム組成物の70℃tanδは、低燃費性能の観点から、0.040未満が好ましく、0.039未満がより好ましく、0.037未満がさらに好ましい。
【0032】
なお、ベースゴム層4の70℃tanδは、後述のゴム成分、フィラー、シランカップリング剤、オイル、グリセリン脂肪酸エステル等の種類や配合量により適宜調整することができる。
【0033】
本開示における破断時強度(TB)(MPa)、および破断時伸び(EB)(%)は、JIS K 6251:2017に準じて、23℃雰囲気下にて、引張速度3.3mm/秒の条件で測定された破断時強度および破断時伸び(切断時伸び)を指す。
【0034】
本開示における200%延伸時のモジュラスは、JIS K 6251:2017に準じて、23℃雰囲気下にて、引張速度3.3mm/秒の条件で測定された、列理方向への伸び200%時の引張応力を指す。
【0035】
ベースゴム層4を構成するゴム組成物の200%延伸時のモジュラスM200bは、ごゴムの歪みにより低燃費性能が悪化することを抑制する観点、操縦安定性能の低下を抑制する観点、偏摩耗を抑制する観点から、4.0MPa以上が好ましく、4.5MPa以上がより好ましく、5.0MPa以上がさらに好ましく、5.5MPa以上が特に好ましい。一方、M200bは、15.0MPa以下が好ましく、14.0MPa以上がより好ましく、13.0MPa以下がさらに好ましく、12.0MPa以下が特に好ましい。M200bが15.0MPa超の場合、外力が逃がしづらく、キャップゴム層5とベースゴム層4との界面に入力が集中することで、界面で亀裂進展が生じる懸念がある。
【0036】
本開示のベースゴム層4を構成するゴム組成物の23℃における200%延伸時のモジュラスをM200b(MPa)、キャップゴム層5を構成するゴム組成物の23℃における200%延伸時のモジュラスをM200c(MPa)としたとき、M200bおよびM200cは、下記式(1)を満たす。
0≦M200c-M200b≦5 ・・・(1)
【0037】
M200c-M200bを5MPa以下とし、ベースゴム層4とキャップゴム層5とのモジュラスバランスをよくすることにより、ベースゴム層4とキャップゴム層5の界面での剥離やベースゴム層4内での亀裂等のトレッドの損傷を抑制することができると考えられる。
【0038】
M200c-M200bは4MPa以下が好ましく、3MPa以下がより好ましい。
【0039】
なお、各ゴム層の200%延伸時のモジュラス、TBおよびEBは、後述のゴム成分、フィラー、シランカップリング剤、軟化剤等の種類や配合量により適宜調整することができる。
【0040】
本開示におけるアセトン抽出量は、加硫ゴム組成物に含有される可塑剤中の有機低分子化合物の濃度の指標となるものである。アセトン抽出量は、JIS K 6229-3:2015に準拠して各加硫ゴム試験片を24時間アセトンに浸漬して可溶成分を抽出し、抽出前後の各試験片の質量を測定し、下記式により求めることができる。
アセトン抽出量(%)={(抽出前のゴム試験片の質量-抽出後のゴム試験片の質量)/(抽出前のゴム試験片の質量)}×100
【0041】
ベースゴム層4を構成するゴム組成物のアセトン抽出量は、4.0質量%未満であり、3.9質量%未満が好ましく、3.8質量%未満がより好ましく、3.7質量%未満がさらに好ましく、3.6質量%未満が特に好ましい。アセトン抽出量の差を前記の範囲とすることにより、低燃費性能と耐破壊性能のバランスを高次元で達成できる。
【0042】
ベースゴム層4を構成するゴム組成物の70℃tanδ、23℃における破断時強度TB(MPa)、および23℃における破断時伸びEB(%)は、タイヤの耐久性と低燃費性とのバランスの観点から、下記式(2)を満たすことが好ましい。
TB×EB/70℃tanδ≧4.5×105 ・・・(2)
【0043】
TB×EB/70℃tanδは、4.6×105以上が好ましく、4.7×105以上がより好ましく、4.8×105以上がさらに好ましく、4.9×105以上が特に好ましい。
【0044】
[ゴム組成物]
本開示の重荷重用空気入りタイヤは、前述した補強ゴム層の構造とトレッドの各層を構成するゴム組成物の前記の物性とが協働することにより、低燃費性能および耐リブテア性能を向上させることができる。
【0045】
<ゴム成分>
本開示に係るトレッドの各ゴム層を構成するゴム組成物(トレッド用ゴム組成物)は、ゴム成分としてイソプレン系ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)およびブタジエンゴム(BR)からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。特に天然ゴムは、耐久性および耐摩耗性能を確保するために配合することが好ましい。トレッドの各ゴム層を構成するゴム成分は、イソプレン系ゴムのみからなるゴム成分としてもよく、イソプレン系ゴムおよびBRのみからなるゴム成分としてもよい。
【0046】
(イソプレン系ゴム)
イソプレン系ゴムとしては、例えば、イソプレンゴム(IR)および天然ゴム等タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。天然ゴムには、非改質天然ゴム(NR)の他に、エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素化天然ゴム(HNR)、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム、グラフト化天然ゴム等の改質天然ゴム等も含まれる。これらのイソプレン系ゴムは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0047】
NRとしては、特に限定されず、タイヤ業界において一般的なものを用いることができ、例えば、SIR20、RSS#3、TSR20等が挙げられる。
【0048】
イソプレン系ゴムのゴム成分中の含有量は、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましく、80質量%以上が特に好ましく、イソプレン系ゴムのみからなるゴム成分としてもよい。
【0049】
(BR)
BRとしては特に限定されず、例えば、シス含量(シス-1,4結合含有率)が90質量%以上のBR(ハイシスBR)、希土類元素系触媒を用いて合成された希土類系ブタジエンゴム(希土類系BR)、シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するBR(SPB含有BR)、変性BR(ハイシス変性BR、ローシス変性BR)等タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。BRとしては、フィラーとの補強性の観点から変性BRが好適に使用される。また、SPB含有BRは、フィラーを減少させたときの強度担保のために使用することができる。
【0050】
ハイシスBRとしては、例えば、日本ゼオン(株)製のもの、宇部興産(株)製のもの、JSR(株)製のもの等が挙げられる。ハイシスBRを含有することで低温特性および耐摩耗性能を向上させることができる。ハイシスBRのシス含量は、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、96質量%以上がさらに好ましく、97質量%以上が特に好ましい。なお、本明細書において、シス含量は、赤外吸収スペクトル分析により算出される値である。
【0051】
希土類系BRとしては、希土類元素系触媒を用いて合成され、ビニル結合量(1,2-結合ブタジエン単位量)が好ましくは1.8モル%以下、より好ましくは1.0モル%以下、さらに好ましくは0.8%モル以下であり、シス含量(シス-1,4結合含有率)が好ましくは95質量%以上、より好ましくは96%質量以上、さらに好ましくは97質量%以上である。希土類系BRとしては、例えば、ランクセス(株)製のものなどを用いることができる。
【0052】
SPB含有BRは、1,2-シンジオタクチックポリブタジエン結晶が、単にBR中に結晶を分散させたものではなく、BRと化学結合したうえで分散しているものが挙げられる。このようなSPB含有BRとしては、宇部興産(株)製のものなどを用いることができる。
【0053】
変性BRとしては、スズでカップリングされた末端変性BR、アルコキシシリル基および/またはアミノ基を有する末端変性BRが好適に用いられる。また、変性BRは、水素添加されていないもの、水素添加されているもののいずれであってもよい。このような変性BRとしては、日本ゼオン(株)製のもの、旭化成ケミカルズ(株)製のものなどを用いることができる。
【0054】
スズでカップリングされた末端変性BRとしては、リチウム開始剤により1,3-ブタジエンの重合をおこなったのち、スズ化合物を添加することにより得られ、さらに変性BR分子の末端がスズ-炭素結合で結合されているものが好ましい。リチウム開始剤としては、アルキルリチウム、アリールリチウム、ビニルリチウム、有機スズリチウムおよび有機窒素リチウム化合物などのリチウム系化合物や、リチウム金属などがあげられる。前記リチウム開始剤を変性BRの開始剤とすることで、高ビニル、低シス含有量の変性BRを作製できる。スズ化合物としては、四塩化スズ、ブチルスズトリクロライド、ジブチルスズジクロライド、ジオクチルスズジクロライド、トリブチルスズクロライド、トリフェニルスズクロライド、ジフェニルジブチルスズ、トリフェニルスズエトキシド、ジフェニルジメチルスズ、ジトリルスズクロライド、ジフェニルスズジオクタノエート、ジビニルジエチルスズ、テトラベンジルスズ、ジブチルスズジステアレート、テトラアリルスズ、p-トリブチルスズスチレンなどがあげられ、これらのスズ化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
前記で列挙されたBRは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0056】
BRの重量平均分子量(Mw)は、耐摩耗性およびグリップ性能等の観点から、30万以上が好ましく、35万以上がより好ましく、40万以上がさらに好ましい。また、架橋均一性等の観点からは、200万以下が好ましく、100万以下がより好ましい。なお、Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(東ソー(株)製のGPC-8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMALTPORE HZ-M)による測定値を基に、標準ポリスチレン換算により求めることができる。
【0057】
BRを含有する場合のゴム成分中の含有量は、低燃費性能の観点から、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、12質量%以上がさらに好ましく、15質量%以上が特に好ましい。また、該含有量は、破断強度の観点から、28質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましく、22質量%以下がさらに好ましく、20質量%以下が特に好ましい。
【0058】
(SBR)
SBRとしては特に限定はなく、溶液重合SBR(S-SBR)、乳化重合SBR(E-SBR)、これらの変性SBR(変性S-SBR、変性E-SBR)等が挙げられる。変性SBRとしては、末端および/または主鎖が変性されたSBR、スズ、ケイ素化合物等でカップリングされた変性SBR(縮合物、分岐構造を有するもの等)等が挙げられる。なかでも、低燃費性能および耐摩耗性能を良好に改善できるという点から、E-SBRが好ましい。これらのSBRは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0059】
SBRを含有する場合のゴム成分中の含有量は特に限定されず、例えば、1質量%以上、5質量%以上、10質量%以上、30質量%以下、25質量%以下、20質量%以下とすることができる。
【0060】
(その他のゴム成分)
本開示に係るゴム成分として、前記のイソプレン系ゴム、SBRおよびBR以外のゴム成分を含有してもよい。他のゴム成分としては、タイヤ工業で一般的に用いられる架橋可能なゴム成分を用いることができ、例えば、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合ゴム(SIBR)、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体(SIBS)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレンゴム、ポリノルボルネンゴム、シリコーンゴム、塩化ポリエチレンゴム、フッ素ゴム(FKM)、アクリルゴム(ACM)、ヒドリンゴム等が挙げられる。これらその他のゴム成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0061】
<フィラー>
本開示に係るトレッド用ゴム組成物は、カーボンブラックおよび/またはシリカを含むフィラーを含有することが好ましい。また、フィラーは、カーボンブラックのみからなるフィラーとしてもよく、カーボンブラックおよびシリカのみからなるフィラーとしてもよい。
【0062】
(シリカ)
本開示に係るトレッド用ゴム組成物にシリカを配合することにより、低燃費性能、耐破壊性能、および耐摩耗性能を向上させることができる。シリカとしては特に限定されず、例えば、乾式法により調製されたシリカ(無水シリカ)、湿式法により調製されたシリカ(含水シリカ)等、タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。なかでもシラノール基が多いという理由から、湿式法により調製された含水シリカが好ましい。これらのシリカは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0063】
シリカの平均粒子径は、50nm以下が好ましく、40nm以下がより好ましく、30nm以下がさらに好ましい。また、シリカの平均粒子径は、13nm以上が好ましく、15nm以上がより好ましく、17nm以上がさらに好ましい。シリカの平均粒子径が上記範囲内であると、本開示の効果をより良好に発揮できる傾向がある。なお、シリカの平均粒子径は数平均粒子径であり、透過型電子顕微鏡により、任意の100個についての平均値として測定される。
【0064】
シリカのセチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)比表面積は、80m2/g以上が好ましく、90m2/g以上がより好ましく、100m2/g以上がさらに好ましい。また、シリカのCTAB比表面積は、300m2/g以下がより好ましく、170m2/g以下がより好ましく、150m2/g以下がさらに好ましい。シリカのCTAB比表面積が上記範囲内であると、本開示の効果をより良好に発揮できる傾向がある。なお、本明細書におけるシリカのCTAB比表面積は、ASTM D3765-92に準拠して測定される値である。
【0065】
シリカの窒素吸着比表面積(N2SA)は、80m2/g以上が好ましく、110m2/g以上がより好ましく、140m2/g以上がさらに好ましく、170m2/g以上が特に好ましい。また、シリカのN2SAは、350m2/g以下が好ましく、300m2/g以下がより好ましく、250m2/g以下がさらに好ましい。シリカのN2SAが上記範囲内であると、本開示の効果をより良好に発揮できる傾向がある。なお、本明細書におけるシリカのN2SAは、ASTM D3037-93に準じてBET法で測定される値である。
【0066】
シリカのゴム成分100質量部に対する含有量は、低燃費性能の観点から、20質量部以下が好ましく、18質量部以下がより好ましく、15質量部以下がさらに好ましく、10質量部以下が特に好ましい。一方、該含有量は、破断伸びの観点から、1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましく、5質量部以上がさらに好ましい。
【0067】
(カーボンブラック)
カーボンブラックとしては特に限定されず、例えば、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAF等タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。これらのカーボンブラックは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0068】
カーボンブラックの平均粒子径は、カーボンブラックの平均粒子径は、90nm以下が好ましく、70nm以下がより好ましく、50nm以下がさらに好ましい。また、カーボンブラックの平均粒子径は、13nm以上が好ましく、15nm以上がより好ましく、17nm以上がさらに好ましい。カーボンブラックの平均粒子径が上記範囲内であると、本開示の効果をより良好に発揮できる傾向がある。なお、カーボンブラックの平均粒子径は数平均粒子径であり、透過型電子顕微鏡により、任意の100個についての平均値として測定される。
【0069】
カーボンブラックのセチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)比表面積は、80m2/g以上が好ましく、90m2/g以上がより好ましく、100m2/g以上がさらに好ましい。また、カーボンブラックのCTAB比表面積は、170m2/g以下がより好ましく、165m2/g以下がより好ましく、160m2/g以下がさらに好ましい。カーボンブラックのCTAB比表面積が上記範囲内であると、本開示の効果をより良好に発揮できる傾向がある。なお、本明細書におけるカーボンブラックのCTAB比表面積は、JIS K 6217-3:2001に準拠して測定される値である。
【0070】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は、破壊強度の観点から、40m2/g以上が好ましく、60m2/g以上がより好ましく、80m2/g以上がさらに好ましい。また、加工性の観点からは、200m2/g以下が好ましく、150m2/g以下がより好ましく、130m2/g以下がさらに好ましい。なお、本明細書におけるカーボンブラックのN2SAは、JIS K 6217-2「ゴム用カーボンブラック基本特性-第2部:比表面積の求め方-窒素吸着法-単点法」のA法に準じて測定される値である。
【0071】
カーボンブラックのゴム成分100質量部に対する含有量は、低燃費性能の観点から、20質量部以上が好ましく、25質量部以上がより好ましく、30質量部以上がさらに好ましい。また、該含有量は、低燃費性能の観点から、60質量部以下が好ましく、55質量部以下がより好ましく、50質量部以下がさらに好ましく、45質量部以下が特に好ましい。
【0072】
シリカおよびカーボンブラック以外のフィラーとしては、例えば、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、アルミナ、クレー、タルク等、タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。
【0073】
シリカおよびカーボンブラックの合計100質量%中のシリカの含有率は、1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましく、7質量%以上が特に好ましい。また、該シリカの含有率は、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましい。
【0074】
シリカとカーボンブラックのゴム成分100質量部に対する合計含有量は、耐摩耗性能の観点から、25質量部以上が好ましく、30質量部以上がより好ましく、35質量部以上がさらに好ましい。また、低燃費性能および耐摩耗性能が低下することを抑制する観点からは、80質量部以下が好ましく、70質量部以下がより好ましく、60質量部以下がさらに好ましく、55質量部以下が特に好ましい。
【0075】
(シランカップリング剤)
シリカは、シランカップリング剤と併用することが好ましい。シランカップリング剤としては、特に限定されないが、例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド等のスルフィド基を有するシランカップリング剤;3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、Momentive社製のNXT-Z100、NXT-Z45、NXT等のメルカプト基を有するシランカップリング剤;ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のビニル基を有するシランカップリング剤;3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノ基を有するシランカップリング剤;γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のグリシドキシ系のシランカップリング剤;3-ニトロプロピルトリメトキシシラン、3-ニトロプロピルトリエトキシシラン等のニトロ系のシランカップリング剤;3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシラン等のクロロ系のシランカップリング剤等が挙げられ、スルフィド基を有するシランカップリング剤が好ましい。これらのシランカップリング剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0076】
シランカップリング剤を含有する場合のシリカ100質量部に対する含有量は、シリカの分散性を高める観点から、8.0質量部以上が好ましく、8.5質量部以上がより好ましく、9.0質量部以上がさらに好ましく、9.5質量部以上が特に好ましい。また、耐摩耗性能の低下を防止する観点からは、18質量部以下が好ましく、16質量部以下がより好ましく、14質量部以下がさらに好ましく、12質量部以下が特に好ましい。
【0077】
<その他の配合剤>
本開示に係るトレッド用ゴム組成物には、前記成分以外にも、従来タイヤ工業で一般に使用される配合剤、例えば、オイル、ワックス、グリセリン脂肪酸エステル、加工助剤、老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛、硫黄等の加硫剤、加硫促進剤等を適宜含有することができる。
【0078】
オイルとしては、例えば、プロセスオイル、植物油脂、動物油脂等が挙げられる。前記プロセスオイルとしてはパラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル等が挙げられる。また、環境対策で多環式芳香族(polycyclic aromatic compound:PCA)化合物の含量の低いプロセスオイルを使用することもできる。前記低PCA含量プロセスオイルとしては、軽度抽出溶媒和物(MES)、処理留出物芳香族系抽出物(TDAE)、重ナフテン系オイル等が挙げられる。
【0079】
オイルを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、低燃費性能と破壊強度とのバランスの観点から、10質量部以下が好ましく、7質量部以下がより好ましく、4質量部以下がさらに好ましい。なお、本明細書において、オイルの含有量には、油展ゴムに含まれるオイル量も含まれる。
【0080】
ワックスを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ゴムの耐候性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましく、1.5質量部以上がさらに好ましい。また、また、ブルームによるタイヤの白色化防止の観点からは、8.0質量部以下が好ましく、6.0質量部以下がより好ましい。
【0081】
グリセリン脂肪酸エステルは、グリセリンの持つ3つのOH基のうちの少なくとも1つに脂肪酸がエステル結合したものであり、脂肪酸のつく数によって、グリセリン脂肪酸モノエステル、グリセリン脂肪酸ジエステル、グリセリン脂肪酸トリエステルに分かれるものである。グリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸は、好ましくは炭素数8~28、より好ましくは炭素数8~22、さらに好ましくは炭素数10~18、特に好ましくは炭素数12~18の脂肪酸である。また、脂肪酸は飽和、不飽和、直鎖、分岐鎖いずれでもよいが、直鎖状飽和脂肪酸が好ましい。脂肪酸の具体例としては、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、リノール酸等が挙げられる。
【0082】
グリセリン脂肪酸エステルを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、特に制限されないが、0.1質量部以上が好ましく、0.5質量部以上がより好ましく、1.0質量部以上がさらに好ましい。また、該含有量は、10.0質量部以下が好ましく、8.0質量部以下がより好ましく、6.0質量部以下がさらに好ましい。グリセリン脂肪酸エステルの含有量を前記の範囲とすることにより、ゴム組成物中でのフィラーの分散性が向上し、低燃費性能、耐摩耗性能をより改善することができる。
【0083】
加工助剤としては、例えば、脂肪酸金属塩、脂肪酸アミド、アミドエステル、シリカ表面活性剤、脂肪酸エステル、脂肪酸金属塩とアミドエステルとの混合物、脂肪酸金属塩と脂肪酸アミドとの混合物等が挙げられる。これらの加工助剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。加工助剤としては、例えば、Schill+Seilacher社、パフォーマンスアディティブス社等より市販されているものを使用することができる。
【0084】
加工助剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の改善効果を発揮させる観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、耐摩耗性および破壊強度の観点からは、10質量部以下が好ましく、8質量部以下がより好ましい。
【0085】
老化防止剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、アミン系、キノリン系、キノン系、フェノール系、イミダゾール系の各化合物や、カルバミン酸金属塩等の老化防止剤が挙げられ、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N-イソプロピル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン、N-シクロヘキシル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン等のフェニレンジアミン系老化防止剤、および2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体、6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン等のキノリン系老化防止剤が好ましい。これらの老化防止剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0086】
老化防止剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ゴムの耐オゾンクラック性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましく、1.5質量部以上がさらに好ましい。また、耐摩耗性能やウェットグリップ性能の観点からは、10.0質量部以下が好ましく、5.0質量部以下がより好ましい。
【0087】
ステアリン酸を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、加硫速度の観点からは、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0088】
酸化亜鉛を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましく、1.5質量部以上がさらに好ましい。また、耐摩耗性能の観点からは、10.0質量部以下が好ましく、5.0質量部以下がより好ましい。
【0089】
加硫剤としては硫黄が好適に用いられる。硫黄としては、粉末硫黄、油処理硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄等を用いることができる。
【0090】
加硫剤として硫黄を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、十分な加硫反応を確保し、良好なグリップ性能および耐摩耗性能を得るという観点から、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましい。また、劣化の観点からは、3.0質量部以下が好ましく、2.5質量部以下がより好ましく、2.0質量部以下がさらに好ましい。なお、加硫剤として、オイル含有硫黄を使用する場合の加硫剤の含有量は、オイル含有硫黄に含まれる純硫黄分の合計含有量とする。
【0091】
硫黄以外の加硫剤としては、例えば、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物、1,6-ヘキサメチレン-ジチオ硫酸ナトリウム・二水和物、1,6-ビス(N,N’-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサン等が挙げられる。これらの硫黄以外の加硫剤は、田岡化学工業(株)、ランクセス(株)、フレクシス社等より市販されているものを使用することができる。
【0092】
加硫促進剤としては、例えば、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸系、アルデヒド-アミン系若しくはアルデヒド-アンモニア系、イミダゾリン系、またはキサンテート系加硫促進剤等が挙げられる。これらの加硫促進剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、スルフェンアミド系、グアニジン系、およびチアゾール系加硫促進剤からなる群から選ばれる1以上の加硫促進剤が好ましい。
【0093】
スルフェンアミド系加硫促進剤としては、例えば、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(DCBS)等が挙げられる。なかでも、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)が好ましい。
【0094】
グアニジン系加硫促進剤としては、例えば、1,3-ジフェニルグアニジン(DPG)、1,3-ジ-o-トリルグアニジン、1-o-トリルビグアニド、ジカテコールボレートのジ-o-トリルグアニジン塩、1,3-ジ-o-クメニルグアニジン、1,3-ジ-o-ビフェニルグアニジン、1,3-ジ-o-クメニル-2-プロピオニルグアニジン等が挙げられる。なかでも、1,3-ジフェニルグアニジン(DPG)が好ましい。
【0095】
チアゾール系加硫促進剤としては、例えば、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-メルカプトベンゾチアゾールのシクロヘキシルアミン塩、ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド等が挙げられる。なかでも、2-メルカプトベンゾチアゾールが好ましい。
【0096】
加硫促進剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましい。また、加硫促進剤のゴム成分100質量部に対する含有量は、8質量部以下が好ましく、7質量部以下がより好ましく、6質量部以下がさらに好ましい。加硫促進剤の含有量を上記範囲内とすることにより、破壊強度および伸びが確保できる傾向がある。
【0097】
本開示に係るゴム組成物は、公知の方法により製造することができる。例えば、前記の各成分をオープンロール、密閉式混練機(バンバリーミキサー、ニーダー等)等のゴム混練装置を用いて混練りすることにより製造できる。
【0098】
混練り工程は、例えば、加硫剤および加硫促進剤以外の配合剤および添加剤を混練りするベース練り工程と、ベース練り工程で得られた混練物に加硫剤および加硫促進剤を添加して混練りするファイナル練り(F練り)工程とを含んでなるものである。さらに、前記ベース練り工程は、所望により、複数の工程に分けることもできる。
【0099】
混練条件としては特に限定されるものではないが、例えば、ベース練り工程では、排出温度150~170℃で3~10分間混練りし、ファイナル練り工程では、70~110℃で1~5分間混練りする方法が挙げられる。加硫条件としては、特に限定されるものではなく、例えば、150~200℃で10~30分間加硫する方法が挙げられる。
【0100】
キャップゴム層およびベースゴム層を含むトレッドを備えたタイヤは、前記のゴム組成物を用いて、通常の方法により製造できる。すなわち、ゴム成分に対して上記各成分を必要に応じて配合した未加硫のゴム組成物を、所定の形状の口金を備えた押し出し機でキャップゴム層およびベースゴム層の形状に合わせて押し出し加工し、タイヤ成型機上で他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、通常の方法にて成型することにより、未加硫タイヤを形成し、この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することにより、本開示のタイヤを製造することができる。
【実施例0101】
以下、本開示を実施例に基づいて説明するが、本開示はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0102】
以下、実施例および比較例において用いた各種薬品をまとめて示す。
NR:TSR20
BR1:宇部興産(株)製のUBEPOL BR150B(シス含量:97質量%、Mw:44万)
BR2:日本ゼオン(株)製のBR1250H(スズ変性BR、開始剤としてリチウムを用いて重合、シス含量:42質量%、Mw:57万)
カーボンブラック1:下記製造例1により製造されたカーボンブラック(平均粒子径:19nm、CTAB:150m2/g、N2SA:155m2/g)
カーボンブラック2:三菱ケミカル(株)製のダイアブラックN330(平均粒子径:31nm、CTAB:78m2/g、N2SA:79m2/g)
カーボンブラック3:三菱ケミカル(株)製のダイアブラックN220(平均粒子径:23nm、CTAB:110m2/g、N2SA:114m2/g)
シリカ:エボニックデグサ社製のウルトラシルVN3(平均粒子径:18nm、CTAB:153m2/g、N2SA:175m2/g)
ワックス:日本精蝋(株)製のオゾエース0355
老化防止剤1:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン)
老化防止剤2:大内新興化学工業(株)製のノクラックRD(ポリ(2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン))
ステアリン酸:日油(株)製のビーズステアリン酸つばき
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
硫黄1:細井化学工業(株)製のHK-200-5(5%オイル含有粉末硫黄)
硫黄2:日本乾溜工業(株)製のセイミOT(10%オイル含有不溶性硫黄)
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS))
【0103】
(製造例1)
空気導入ダクトと燃焼バーナーを備える内径800mm、長さ1600mmの燃焼帯域、該燃焼帯域から連接され、周辺から原料ノズルを貫通接続した内径175mm、長さ1000mmの狭径部からなる原料導入帯域、クエンチ装置を備えた内径400mm、長さ3000mmの後部反応帯域を順次接合したカーボンブラック反応炉を用い、燃料にC重油、および原料炭化水素にクレオソート油を使用し、各条件を設定しカーボンブラック1を製造した。
【0104】
(実施例および比較例)
表1および表2に示す配合処方にしたがい、1.7Lの密閉型バンバリーミキサーを用いて、硫黄および加硫促進剤以外の薬品を排出温度170℃になるまで5分間混練りし、混練物を得た。さらに、得られた混練物を前記バンバリーミキサーにより、排出温度150℃で4分間、再度混練りした(リミル)。次に、2軸オープンロールを用いて、得られた混練物に硫黄および加硫促進剤を添加し、4分間、105℃になるまで練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。得られた未加硫ゴム組成物を170℃で12分間プレス加硫することで、試験用加硫ゴム組成物を作製した。
【0105】
また、前記未加硫ゴム組成物を、所定の形状の口金を備えた押し出し機でキャップゴム層およびベースゴム層の形状に押し出し成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせて未加硫タイヤを形成し、プレス加硫することにより、表3に記載の試験用タイヤ(12R22.5、トラック・バス用タイヤ)を製造した。
【0106】
得られた試験用加硫ゴム組成物および試験用タイヤについて下記の評価を行った。評価結果を表1~表3に示す。
【0107】
<アセトン抽出量(AE量)の測定>
ベースゴム層用の加硫ゴム組成物B1~B12から作製した各ゴム試験片を24時間アセトンに浸漬し、可溶成分を抽出した。抽出前後の各試験片の質量を測定し、下記計算式によりアセトン抽出量を求めた。
アセトン抽出量(%)={(抽出前のゴム試験片の質量-抽出後のゴム試験片の質量)/(抽出前のゴム試験片の質量)}×100
【0108】
<粘弾性試験>
ベースゴム層用の加硫ゴム組成物B1~B12をシート状の加硫ゴム試験片とし、JIS K 6394:2007に準拠し、TA Instruments社製の粘弾性スペクトロメーターRSA-G2を用いて、温度70℃、初期歪み5%、動歪み±1%、周波数10Hzで、損失正接(tanδ)を測定した。また、ベースゴム層の70℃tanδの逆数の値について比較例1を100として指数表示した(低燃費性能指数)。指数が大きいほど低燃費性能に優れることを示す。
(低燃費性能指数)=(比較例1のベースゴム層の70℃tanδ)/(各試験用タイヤのベースゴム層の70℃tanδ)×100
【0109】
<引張試験>
キャップゴム層用の加硫ゴム組成物A1、およびベースゴム層用の加硫ゴム組成物B1~B12からそれぞれダンベル状7号形の試験片を作製した。JIS K 6251:2017に準拠し、23℃雰囲気下にて、引張速度3.3mm/秒の条件で引張試験を実施し、200%延伸時のモジュラス(MPa)、破断時強度(TB)(MPa)、および破断時伸び(EB)(%)を測定した。
【0110】
<耐久試験>
各試験用タイヤの耐リブテア性能を、特開2020-26257号公報に記載の、
図2に示す試験装置52を用いて評価した。
図3は、試験装置52の突起治具および基準面の平面図である。突起治具56としては、
図4に示した外観形状を有し、鋼製で、上面56aの長さLが200mm、幅Wが50mm、突起部72の高さHが150mm、かつ上面56aの傾斜角度θが3°の突起治具56を用意した。この突起治具56を試験装置52のベース部材58に取付けた。
【0111】
(1)タイヤ組立体
各試験用タイヤを正規リムに組み込んでタイヤ組立体51とした。
【0112】
(2)前処理工程
タイヤ組立体51を温度90℃の乾熱オーブンに投入して10日間加熱した。その後、タイヤ組立体51をオーブンから取り出し、常温に戻した。
【0113】
(3)本処理工程
前処理後のタイヤ組立体51を試験装置52に取付けた。このとき、トレッド部1が有する、非図示のショルダーリブ(タイヤ軸方向最外側の周方向溝とトレッド接地端との間に形成されるリブ)のみが突起治具56の上面56aに接触するように、タイヤ組立体51と突起治具56とを位置合わせした。その後、タイヤ組立体51(軸66)を50.0mm/分の速度で下降させ、各試験用タイヤが突起治具56からずり落ちるまで下降を継続した。
【0114】
(4)評価工程
本処理工程を終えたタイヤ組立体51を試験装置52から取り外し、タイヤ2の突起治具56に押し付けた箇所を目視観察した。リブテアの発生が確認されなかったタイヤを「+」、リブテアの発生が確認されたタイヤを「-」と表示した。
【0115】
【0116】
【0117】
【0118】
表1~表3の結果より、ベースゴム層およびキャップゴム層の200%延伸時のモジュラスの差を所定の範囲とし、かつ、ベースゴム層のアセトン抽出量を所定の範囲とした本開示の重荷重用空気入りは、低燃費性能および耐リブテア性能が改善されていることがわかる。