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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022114663
(43)【公開日】2022-08-08
(54)【発明の名称】電極製造装置および電極製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/139 20100101AFI20220801BHJP
   H01M 4/04 20060101ALI20220801BHJP
   H01G 13/00 20130101ALI20220801BHJP
   H01G 11/86 20130101ALI20220801BHJP
   B05C 1/12 20060101ALI20220801BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/04
H01G13/00 381
H01G11/86
B05C1/12
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021011046
(22)【出願日】2021-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】榎原 勝志
(72)【発明者】
【氏名】眞下 直大
(72)【発明者】
【氏名】石山 昌
【テーマコード(参考)】
4F040
5E078
5E082
5H050
【Fターム(参考)】
4F040AA22
4F040AB20
4F040AC01
4F040BA25
4F040CB01
4F040CB06
4F040CB16
4F040CB26
5E078AA14
5E078AB02
5E078BA04
5E078BA12
5E078BA44
5E078BA52
5E078BB33
5E078FA02
5E078FA13
5E078LA08
5E082BC38
5E082EE04
5E082EE23
5E082EE28
5E082EE35
5E082PP09
5H050AA19
5H050BA15
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB07
5H050CB08
5H050GA10
5H050GA22
5H050GA29
5H050GA30
5H050HA01
5H050HA04
5H050HA20
(57)【要約】
【課題】電極材料からなる塗膜が、ロール円周面上に付着残りすることなく、好適に転写されることを実現し得る離型性と付着性とを兼ね備える電極製造装置を提供すること。
【解決手段】ここに開示される電極製造装置(10)は、第1のロール(11)の円周面と第2のロール(12)の円周面との間に供給された電極材料(20)を、別途供給される電極集電体(24)の表面に転写することにより、電極集電体上に電極合材層(23)を成膜する製造装置である。前記第1のロールおよび前記第2のロールの円周面には、所定の凹凸形状(30)が形成されており、前記凹凸形状は、所定の凹凸パターンが進行方向に向けて一定のピッチで繰り返し形成されている。前記ピッチ(最小繰り返し単位)と前記凹凸パターンの凹部深さは、前記ピッチx(μm)を、前記凹部深さをy(μm)としたときに、次式:y≦0.2x-20;が成り立つように設計されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のロールと、前記第1のロールに対向して配置されており、前記第1のロールよりも回転速度が速い第2のロールとを備え、
前記第1のロールの円周面と前記第2のロールの円周面との間に供給された電極材料を、前記第2のロールの円周面上に塗膜として付着させるとともに、前記第2のロールに別途供給される電極集電体の表面に、該第2のロールの円周面上から前記塗膜を転写することにより、前記電極集電体上に前記転写した塗膜からなる電極合材層を成膜する、電極製造装置であって、
前記第1のロールの円周面および前記第2のロールの円周面には、所定の凹凸形状が形成されており、
前記凹凸形状は、所定の凹凸パターンが進行方向に向けて一定のピッチで繰り返し形成されており、
ここで、前記ピッチ(最小繰り返し単位)と前記凹凸パターンの凹部深さは、前記ピッチをx(μm)、前記凹部深さをy(μm)としたときに、
次式:y≦0.2x-20;
が成り立つように設計されている、電極製造装置。
【請求項2】
前記第1のロールおよび前記第2のロールにおいて、前記凹凸形状が形成されている円周面の素材はセラミックスである、請求項1に記載の電極製造装置。
【請求項3】
前記凹凸形状における前記ピッチは、150μm以上300μm以下の範囲である、請求項1または2に記載の電極製造装置。
【請求項4】
前記式:y≦0.2x-20;において、前記凹凸パターンの凹部深さが、4~15μmの範囲となるようにxを規定する、請求項1~3のいずれか一項に記載の電極製造装置。
【請求項5】
前記第1のロールの回転速度S1と前記第2のロールの回転速度S2との関係が、
次式:1.5×S1<S2<5×S1;
を満たす、請求項1~4のいずれか一項に記載の電極製造装置。
【請求項6】
第1のロールと、前記第1のロールに対向して配置されており、前記第1のロールよりも回転速度が速い第2のロールとを備え、
前記第1のロールの円周面と前記第2のロールの円周面との間に供給された電極材料を、前記第2のロールの円周面上に塗膜として付着させるとともに、前記第2のロールに別途供給される電極集電箔の表面に該第2のロール上から前記塗膜を転写することにより、前記電極集電体上に前記転写した塗膜からなる電極合材層を成膜する、電極製造方法であって、
前記第1のロールおよび前記第2のロールを備える請求項1~5のいずれか一項に記載の製造装置を使用して電極を製造する、電極製造方法。
【請求項7】
前記電極材料の全重量を100重量%としたときの固形物の重量%が、55重量%以上90重量%以下である、請求項6に記載の電極製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極製造装置および該電極製造装置を用いた電極製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池は、パソコン、携帯端末等のポータブル電源や、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両駆動用電源などに好適に用いられている。
【0003】
かかる非水電解質二次電池は、発電要素として、正極および負極を有する電極体を備える。正極は、典型的には、シート状の正極集電体上に正極活物質を含む正極合材層を有する。負極も同様に、典型的には、シート状の負極集電体上に負極活物質を含む負極合材層を有する。かかる電極の製造方法の一例として、正負極いずれかの活物質を含む電極材料を、対向して配置される一対のロール(第1のロールおよび第2のロール)の間に供給し、該供給された電極材料を塗膜の状態として第2のロールに付着させ、第2のロールは該付着した塗膜を保持しながら回転し、電極集電体上に転写して、当該塗膜からなる電極合材層を成膜する方法が挙げられる。したがって、かかる方法で電極を製造する場合には、一対の対向するロールを備える電極製造装置が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-63776号公報
【特許文献2】特開2016-207340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、この種の電極製造装置を採用する場合、第1のロールと第2のロールとの間、および、第2のロールと電極集電体との間で、電極材料が、付着残りすることなく離型し、好適に転写されることが求められる。また、電極集電体上に転写された塗膜(電極合材層)の表面状態(品質)が、良好であることが求められる。かかる要求を満たすために、従来から種々の提案がなされてきた。例えば、上記特許文献1および2では、第2のロール表面(円周面)を所定の表面粗さ、表面粗さ曲線要素の平均長さ、表面粗さ曲線のクルトシスを具備するように、サンドブラストにより加工する手法が挙げられている。
【0006】
しかしながら、特許文献1および2の手法では、サンドブラストにより金属のロール円周面を加工しているためばらつきが生じやすく、該ロール円周面の一部に局所的な不具合が生じた際の調整が困難であった。ロール円周面にかかる不具合が発生した場合、塗膜の面粗度の悪化や、塗膜の厚さが変動する場合があるため、好ましくない。このため、本発明者が鋭意検討した結果によれば、所望する離型性と付着性とを兼ね備える凹凸形状を規定し、かかる凹凸形状をロール円周面に形成することで、ロール円周面のばらつきが抑制され、塗膜の転写が好適に実施され得ることを見出した。
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、第1のロールと第2のロール、および、第2のロールと電極集電体との間で塗膜の転写を好適に実現し得る離型性と付着性とを兼ね備える電極製造装置を提供することにある。また、他の目的は、かかる電極製造装置を用いて電極集電体上に転写された塗膜(電極合材層)の表面が良好な状態の塗膜(電極合材層)を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を実現するべく、以下の構成の電極製造装置が提供される。すなわち、ここに開示される電極製造装置は、第1のロールと、前記第1のロールに対向して配置されており、前記第1のロールよりも回転速度が速い第2のロールとを備え、前記第1のロールの円周面と前記第2のロールの円周面との間に供給された電極材料を、前記第2のロールの円周面上に塗膜として付着させるとともに、前記第2のロールに別途供給される電極集電体の表面に、該第2のロールの円周面上から前記塗膜を転写することにより、前記電極集電体上に前記転写した塗膜からなる電極合材層を成膜する、電極製造装置である。前記電極製造装置の前記第1のロールの円周面および前記第2のロールの円周面には、所定の凹凸形状が形成されており、前記凹凸形状は、所定の凹凸パターンが進行方向に向けて一定のピッチで繰り返し形成されている。ここで、前記ピッチ(最小繰り返し単位)と前記凹凸パターンの凹部深さは、前記ピッチをx(μm)、前記凹部深さをy(μm)としたときに、次式:y≦0.2x-20;が成り立つように設計されている。
かかる構成によれば、電極材料からなる塗膜が、第1のロール円周面に付着残りすることなく離型し、第2のロール円周面上に付着し、保持される。そして、第2のロール円周面上に保持された塗膜は、第2のロール円周面に付着残りすることなく離型し、電極集電体に付着する。かかる離型性と付着性とを兼ね備える電極製造装置は、第1のロールと第2のロールとの間、および、第2のロールと電極集電体との間で塗膜の転写を好適に実現することができる。
【0009】
ここに開示される製造装置の好ましい一態様では、前記第1のロールおよび第2のロールにおいて、前記凹凸形状が形成されている円周面の素材はセラミックスである。
かかる構成によれば、電極製造時における金属異物の発生抑制を実現することができる。
【0010】
ここに開示される製造装置の好ましい一態様では、前記凹凸形状における前記ピッチは、150μm以上300μm以下の範囲である。また、別の好ましい一態様では、前記式:y≦0.2x-20;において、前記凹凸パターンの深さが、4~15μmの範囲となるようにxを規定する。
かかる構成によれば、上述した離型性と付着性をより高いレベルで両立する電極製造装置が提供される。
【0011】
ここに開示される製造装置の好ましい一態様では、前記第1のロールの回転速度S1と前記第2のロールの回転速度S2との関係が、次式:1.5×S1<S2<5×S1;を満たす。
かかる構成によれば、第1のロールと第2のロールとの間での塗膜の転写を好適に実現することができる。
【0012】
上記他の目的を実現するべく、電極の製造方法が提供される。すなわち、ここに開示される電極の製造方法は、第1のロールと、前記第1のロールに対向して配置されており、前記第1のロールよりも回転速度が速い第2のロールとを備え、前記第1のロールの円周面と前記第2のロールの円周面との間に供給された電極材料を、前記第2のロールの円周面上に塗膜として付着させるとともに、前記第2のロールに別途供給される電極集電体の表面に該第2のロール上から前記塗膜を転写することにより、前記電極集電体上に前記転写した塗膜からなる電極合材層を成膜する。かかる製造方法において、前記第1のロールおよび前記第2のロールを備える上述した製造装置を使用して電極を製造する。
かかる構成によれば、電極集電体上に転写された塗膜(電極合材層)の表面が良好な状態の塗膜(電極合材層)を製造することを実現する。
【0013】
ここに開示される製造方法の好ましい一態様では、電極材料の全重量を100重量%としたときの固形物の重量%が、55重量%以上90重量%以下である。
かかる構成によれば、表面が良好な状態の塗膜をより好適に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一実施形態に係る電極製造装置を模式的に示す斜視図である。
図2A】一実施形態に係る凹凸形状の一例を模式的に示す説明図である。
図2B】一実施形態に係る凹凸形状の他の一例を模式的に示す説明図である。
図2C】一実施形態に係る凹凸形状の他の一例を模式的に示す説明図である。
図3】第1のロールおよび第2のロールの円周面上に形成される凹凸形状のピッチと凹部深さの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について説明する。ここで説明される実施形態は、ここで開示される電極製造装置および電極製造方法が適用される好適な一例として、リチウムイオン二次電池の電極の製造装置および製造方法を挙げているが、かかる実施形態は、本発明の範囲を限定する意図ではない。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、本発明を特徴付けない電極製造装置の一般的な構成および電極の製造プロセス)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。
また、本明細書において範囲を示す「A~B(ただし、A、Bは任意の値。)」の表記は、A以上B以下を意味するものとする。
【0016】
なお、本明細書において「非水電解質二次電池」とは、電解質として非水系の電解液を用いた繰り返し充放電可能な蓄電デバイス一般をいい、いわゆる蓄電池ならびに電気二重層キャパシタ等の蓄電素子を包含する用語である。また、本明細書において「リチウムイオン二次電池」とは、電荷担体としてリチウムイオンを利用し、正負極間におけるリチウムイオンに伴う電荷の移動により充放電が実現される非水電解質二次電池をいう。
【0017】
(1)電極材料
電極材料は、ペースト、スラリー、および造粒体の形態をとり得るが、造粒体、特に湿潤状態の造粒体(溶媒を少量含む造粒体)が、ここに開示される電極製造装置において、電極合材層を電極集電体上に成膜するという目的に適している。かかる湿潤状態の造粒体は、少なくとも粒状の電極活物質と溶媒とを混合することによって作製される。なお、本明細書において、「湿潤状態の造粒体」とは、少なくとも粉体材料と溶媒との混合物であって、粉体状、そぼろ状、チャンク状(粉体状より比較的大きな塊状)の不連続体として複数に分散して存在する造粒体をいう。
【0018】
造粒体の粒径としては、ここに開示される電極製造装置の第1のロールおよび第2のロールの間のギャップ幅より大きな粒径をとり得る。例えば、ギャップ幅は通常、数十μm(例えば30~50μm)であり、造粒体の粒径は、数百μm(例えば200~300μm)であり得る。
【0019】
電極材料は、従来から非水電解質二次電池、特に、リチウムイオン二次電池の電極材料として一般的に使用されているものを用いることができる。例えば、電極材料が正極用の材料であった場合に電極材料(正極材料)は、典型的には、正極活物質および溶媒を含み、その他添加物として導電材、バインダ等を含む。正極活物質としては、例えば、リチウム遷移金属複合酸化物、リチウム遷移金属リン酸化合物(例えば、LiFePO)等を好ましく用いることができる。リチウム遷移金属複合酸化物の例としては、リチウムニッケル系複合酸化物、リチウムコバルト系複合酸化物、リチウムマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルマンガン系複合酸化物(例えば、LiNi0.5Mn1.5)、リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物(例えば、LiNi1/3Co1/3Mn1/3)等が挙げられる。溶媒としては、例えばN-メチル-2-ピロリドン等を使用し得る。導電材としては、例えばアセチレンブラック(AB)等のカーボンブラックやその他(グラファイト等)の炭素材料を好適に使用し得る。バインダとしては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)等を使用し得る。
【0020】
電極材料が負極用の材料であった場合に電極材料(負極材料)10は、典型的には、負極活物質および溶媒を含み、その他添加物としてバインダ、増粘剤等を含む。負極活物質としては、例えば黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素材料を好適に使用し得る。溶媒としては、例えば水等を使用し得る。バインダとしては、例えばスチレンブタジエンラバー(SBR)等を使用し得る。増粘剤としては、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)等を使用し得る。
【0021】
電極材料は、電極材料の全重量を100重量%としたときに、固形物の重量%が55重量%以上90重量%以下になることが好ましい。かかる範囲内の固形物を含有する電極材料であれば、ここに開示される電極製造装置によって好適に成膜され得る。なお、本明細書において、電極材料の全重量とは、上述した電極材料のすべてを混合した際の重量のことであり、固形物とは、上述した電極材料から溶媒を除く材料のことをいう。
【0022】
(2)電極製造装置
図1は、ここに開示される電極製造装置10を模式的に示す斜視図である。電極製造装置10は、第1のロール11と第2のロール12とを備える。第1のロール11の回転軸と第2のロール12の回転軸は水平に並んでいる。しかしながら、第1のロール11と第2のロール12の配置はこれに限られない。また、第1のロール11と第2のロール12とは、電極集電体24上に成膜する電極合材層(塗膜)22の所望の厚さに応じた距離だけ離れている。すなわち、第1のロール11と第2のロール12との間には、所定の幅(厚さ)のギャップがあり、かかるギャップのサイズにより、第2のロール12の表面に付着させる電極材料20からなる塗膜22の厚さを制御することができる。第1のロール11の外周面と第2のロール12の外周面とは互いに対向している。第1のロール11と第2のロール12とは、図1の矢印に示すように逆方向に回転する。
【0023】
第1のロール11と第2のロール12の幅方向の両端部には、隔壁15が設けられている。隔壁15は、電極材料20を第1のロール11および第2のロール12上に保持するとともに、2つの隔壁15の間の距離によって、電極集電体24上に成膜される電極合材層(塗膜)22の幅を規定する役割を果たす。この2つの隔壁15の間に、フィーダー(図示せず)等によって電極材料20が供給される。
なお、隔壁15は、ここに開示される電極製造装置10の必須の構成ではなく、電極製造装置10は、隔壁15を有していなくてもよい。例えば、ロールの外周の形状に一致した形状のノズルを有するフィーダーを用い、フィーダーのノズルを、第1のロール11および第2のロール12との間のギャップ上に配置した態様も可能である。この態様では、フィーダーのノズルの側面が、隔壁15の機能を果たす。
【0024】
かかる電極製造装置10は、第2のロール12の隣に第3のロール13が配置されている。第3のロール13は、電極集電体24を第2のロール12まで搬送する役割を果たす。図1では、第2のロール12の回転軸と、第3のロール13の回転軸とが水平に並ぶように配置されているが、第3のロール13の配置は、第2のロール12上の電極材料20が電極集電体24に転写されるように、当該電極集電体24を第2のロール12まで搬送するように構成されている限り、図示される態様に限られない。第2のロール12と第3のロール13とは、図1の矢印に示すように、逆方向に回転する。なお、第3のロール13は、ここに開示される電極製造装置10の必須の構成ではなく、第2のロール12上の電極材料20が電極集電体24に転写される限り、第3のロール13以外の電極集電体24の搬送手段を用いてもよい。
【0025】
第1のロール11および第2のロール12は、円周面上にそれぞれ凹凸形状30が形成されている。かかる凹凸形状30は、所定の凹凸パターンが、進行方向に向けて一定のピッチで繰り返し形成されている。凹凸形状30は、ピッチと凹凸パターンの凹部深さとの関係が、ピッチをx(μm)、凹部深さをy(μm)としたときに、次式:y≦0.2x-20;を満たすように設計されている。このとき、ピッチ(x)は、例えば、150μm以上300μm以下が好ましく、150μm以上250μm以下がより好ましい。また、凹部深さ(y)は、例えば、1μm以上20μm以下であることが好ましく、4μm以上15μm以下であることがより好ましい。かかる構成によれば、離型性と付着性とを兼ね備える電極製造装置を実現することができる。
【0026】
図2は、本実施形態に係る所定の凹凸形状30の例を示したものである。凹凸形状30は、所定の凹凸パターンがX方向(進行方向)に向けて一定のピッチで形成されている。なお、本明細書において「ピッチ」とは、凹部32と凸部34とが繰り返される最小単位のことである。
図2Aは、ドット状に繰り返し形成された凹凸形状30の一例を示す。ここでは、上記「ピッチ」は、凹部32と凸部34とが進行方向に向けて繰り返される最小単位として、図中の符号36で示されている。図2Bは、ひし形状に繰り返し形成された凹凸形状30の一例を示す。ここでは、上記「ピッチ」を図中の符号37と示す。図2Cは、波板状に繰り返し形成された凹凸形状30の一例を示す。ここでは、上記「ピッチ」を図中の符号38と示す。凹凸形状30は、典型的には、図2A図2Cに図示されるようなドット状やひし形状、および波板状である。しかしながら、凹凸形状30はこれに限られたものではなく、上述したピッチと凹部深さとの関係が成り立つ限り、図示例にない形状で形成されていてもよい。
【0027】
かかる繰り返しの凹凸パターンは、レーザ彫刻によって加工される。本発明者らは、種々のピッチおよび凹部深さを有する第1のロール11および第2のロール12を実際に作成し、検討を行った。その結果、数あるピッチと凹部深さの組み合わせの中でも、上述した範囲内のピッチと凹部深さの組み合わせであれば、第1のロール11から第2のロール12へ、および、第2のロール12から電極集電体24へ、塗膜22がスムーズに離型および付着して転写されることを見出した。すなわち、かかる範囲内のピッチと凹部深さを有する凹凸形状30が形成されているロールであれば、良好な表面状態の塗膜(電極合材層)22を製造することができる。
【0028】
なお、上述した範囲のピッチと凹部深さとを得るためには、対象とする第1のロール11および第2ロール12の表面に凹凸形状30を形成するためのレーザ彫刻を行う際の条件を適切に選択すればよい。
【0029】
第1のロール11および第2のロール12の凹凸形状30が形成されている円周面の素材は、セラミックスであることが好ましい。かかるセラミックスとしては、例えば、ジルコニア、アルミナ、窒化クロム、窒化アルミ、チタニア、酸化クロムなどであってよく、特に加工のしやすさ等からアルミナに二酸化チタンを添加したグレーアルミナや、酸化クロム等が好ましい。
第3のロール13の円周面の素材については、上述したセラミックスであってもよいし、従来公知の電極製造装置のロールの表面の材質と同じであってもよい。従来公知の材質としては、例えば、SUS鋼、SUJ鋼などであってよく、特に高硬度であることから、焼き入れされたSUS鋼および焼き入れされたSUJ鋼が好ましい。
【0030】
第1のロール11および第2のロール12の回転速度は、従来の電極製造装置のロールの回転速度と同様の速度であってよい。第1のロール11および第2のロール12の回転速度は、第2のロール12の回転速度が、第1のロール11の回転速度よりも速いことが求められる。具体的には、第1のロール11の回転速度S1と第2のロール12の回転速度S2との関係が、次式:1.5×S1<S2<5×S1;を満たすことが好ましい。かかる範囲の速度比であれば、第1のロール11から第2のロール12への塗膜22の転写が、好適に実現し得る。
【0031】
第1のロール11、第2のロール12、第3のロール13の直径は、従来公知の電極製造装置のロールの直径と同じであってよく、通常、数十mm程度(例えば50mm)から数百mm程度(例えば300mm)である。なお、第1のロール11、第2のロール12、第3のロール13の直径は同一の直径であってもよく、異なる直径であってもよい。第1のロール11、第2のロール12、第3のロール13の幅(回転軸方向の長さ)は、従来公知の電極製造装置のロールの幅と同じであってよく、作製する電極合材層22の幅と使用する電極集電体24の幅によって適宜決定することができる。
【0032】
第1のロール11、第2のロール12、第3のロール13には、本発明の効果を阻害しない範囲内で、公知の表面処理(例えば、高撥水処理)が施されていてもよい。
【0033】
(3)電極製造方法
ここに開示される電極製造装置10は、第1のロール11の円周面と第2のロール12の円周面との間に供給された電極材料20を、第1のロール11と第2のロール12との間のギャップにより規定される厚さの塗膜22とした状態で第2のロール12に付着させ、さらに該塗膜22を電極集電体24上に転写して、電極合材層(塗膜)22が成膜されるように構成されている。以下、かかる構成の電極製造装置10を用いた電極の製造方法について説明する。
【0034】
電極材料20としては、上述したように少なくとも電極活物質と溶媒とを混合することによって製造された、湿潤状態の造粒体であることが好ましい。電極材料20を、2つの隔壁15間にフィーダーなどによって投入し、電極材料20を第1のロール11および第2のロール12の間に供給する。第2のロール12の回転速度は、第1のロール11の回転速度よりも速く設定されている。また、第1のロール11と第2のロール12とは、逆方向に回転している。
【0035】
本発明者らが検討した結果によれば、電極材料と各ロール円周面との間における離型性と付着性との関係によって、付着残りが発生することなく好適に転写を実施し得る範囲が規定されている。特に限定されるものではないが、活物質粒子群内での活物質粒子同士の結合力(F)、第1のロール円周面と活物質粒子1つとの付着力(F)、および、第2のロール円周面と活物質粒子1つとの付着力(F)の関係が、F<F<Fであるときに、好適に転写を実施できると考えられる。各ロール円周面と活物質粒子1つとの付着力は、活物質粒子1つとロール円周面とが接触する面積によって規定されている。すなわち、ロール円周面と活物質粒子1つとの接触する面積が大きくなりすぎると、ロール円周面と活物質粒子1つとの付着性が高くなりすぎるために、ロール円周面に付着残りが発生する。換言すれば、ピッチが短く凹部が深い場合には、ロール円周面と活物質粒子1つとの接触する面積が増大するために、上述した範囲を満たさない場合には、ロール円周面に付着残りが発生する。このため、上述した範囲のピッチと凹部深さを有する凹凸形状を、各ロール円周面上に形成することで、付着残りを発生させることなく好適に塗膜の転写を実施することができる。
【0036】
供給された電極材料20は、第1のロール11と第2のロール12との間隙を通過する。このとき、電極材料20が所定の厚さの塗膜22に形成されて第2のロール12に付着する。特に限定されるものではないが、第1のロール11と第2のロール12とを回転させると、電極材料20として供給された湿潤状態の造粒体が圧延されて、造粒体同士が一体化し、膜状の塗膜22を形成する。このとき、上述した活物質粒子同士の結合力(F)を大きくしながら塗膜22が成膜されると考えられ得る。膜状の塗膜22となった電極材料20は、回転速度が相対的に速い第2のロール12の円周面に順次付着していく。
【0037】
一方で、第3のロール13により、電極集電体24が搬送され、第2のロール12まで供給される。電極集電体24が正極集電体である場合には、電極集電体24は、典型的にはアルミ箔である。電極集電体24が負極集電体である場合には、電極集電体24は、典型的には銅箔である。第3のロール13と第2のロール12とは、逆方向に回転している。第3のロール13の回転速度は、従来の電極製造装置のロールの回転速度と同様の速度であってよい。第2のロール12と第3のロール13の回転速度は、2つが同一の速度であってもよいし、異なる速度であってもよい。
【0038】
第2のロール12の表面に付着した塗膜22が、第3のロール13により搬送されてきた電極集電体24に接触すると、該塗膜22は、第2のロール12の表面から電極集電体24上に転写される。これにより、電極集電体24上に、転写した塗膜からなる電極合材層22が成膜される。
第1のロール11および第2のロール12の凹凸形状30のピッチおよび凹部深さが、上述した範囲内にあり、第1のロール11の回転速度よりも第2のロール12の回転速度が速く設定されているため、第1のロール11と第2のロール12との間において、塗膜22は、第1のロール11円周面に付着残りすることなく離型し、第2のロール12円周面上に付着し保持される。そして、第2のロール12円周面上に保持された塗膜22は、第2のロール12円周面に付着残りすることなく離型し、電極集電体24に付着する。また、第1のロール11および第2のロール12の円周面がセラミックスにより構成されている場合は、電極集電体24上に転写された塗膜(電極合材層)22の表面に金属異物が発生することなく、表面状態が良好な塗膜(電極合材層)22を製造することを実現する。
【0039】
電極合材層22が成膜された電極集電体24は、乾燥炉(図示せず)に搬送され、乾燥炉において電極合材層22に含まれる溶媒が除去される。このようにして、電極が製造される。なお、電極材料20が溶媒を含まない場合には、乾燥炉による乾燥処理は不要である。
【0040】
電極製造装置10によって製造された電極は、リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池の電極として好適に用いることができる。したがって、電極製造装置10は、好適には、非水電解質二次電池(特にリチウムイオン二次電池)用の電極製造装置である。また、かかる電極製造装置10を用いて電極を製造する方法は、好適には、非水電解質二次電池(特にリチウムイオン二次電池)用の電極の製造方法である。
【0041】
ここに開示される電極製造装置を用いて製造される電極は、リチウムイオン二次電池などの非水電解質二次電池の電極として、好適に用いることができる。かかる電極を備える非水電解質二次電池、特にリチウムイオン二次電池は、例えば、車両に搭載されるモーター用の高出力動力源(駆動用電源)として好適に用いることができる。車両の種類は特に限定されないが、典型的には自動車、例えばプラグインハイブリッド自動車(PHV)、ハイブリッド自動車(HV)、電気自動車(EV)等が挙げられる。
【0042】
次に、本発明に関する試験例を説明するが、本発明を試験例に限定することを意図したものではない。
【0043】
円周面がグレーアルミナで構成され、円周面上の凹凸形状(ピッチと凹部深さの組み合わせ)が異なる第1のロールおよび第2のロールを複数用意した。各例の凹凸形状は、プラクスエア工学株式会社製のレーザを用いて、レーザ彫刻により作製した。各例のロール円周面のピッチ(μm)と凹部深さ(μm)の関係を図3に示した。
【0044】
各例のロールを用いて電極集電体上に電極合材層を成膜した。具体的には、図1の電極製造装置を用いて、各例の第1のロールおよび第2のロールの間に供給された電極材料を、第2のロール上に塗膜として付着させるとともに、該第2のロールに別途供給された電極集電体上に該第2のロール上から塗膜を転写することにより、電極集電体上に転写した塗膜からなる電極合材層を成膜した。各例のロール円周面の塗膜(電極材料)の付着残りを評価し、結果を図3に示した。なお、離形性が良好なものは「●」のプロットで示し、ロール円周面に付着残りが発生するものは「×」のプロットで示した。
【0045】
図3に示すように、次式:y≦0.2x-20;を満たす範囲内であれば、第1のロール、第2のロールのどちらの円周面上にも塗膜が付着残りすることなく離型し、好適に転写されていることが確認された。また、電極集電体上に成膜された塗膜は、金属異物が確認されず、良好な表面状態であることが確認された。
【0046】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定
するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、
変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0047】
10 電極製造装置
11 第1のロール
12 第2のロール
13 第3のロール
20 電極材料
22 塗膜(電極合材層)
24 電極集電体
30 凹凸形状
32 凹部
34 凸部
36 ピッチ
37 ピッチ
38 ピッチ
図1
図2A
図2B
図2C
図3