(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022114684
(43)【公開日】2022-08-08
(54)【発明の名称】感知センサ、及び感知装置
(51)【国際特許分類】
G01N 5/02 20060101AFI20220801BHJP
【FI】
G01N5/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021011072
(22)【出願日】2021-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】000232483
【氏名又は名称】日本電波工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002756
【氏名又は名称】弁理士法人弥生特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】茎田 啓行
(57)【要約】 (修正有)
【課題】被感知物質を検出用の励振電極に確実に吸着させると共に、圧電振動子を加熱したとき参照用の励振電極に加わる誤差の要因を抑制する。
【解決手段】互いに離間して配置された第1の振動領域及び第2の振動領域を備える圧電振動子と、圧電振動子の温度を調節する温調機構と、圧電振動子を一面側から覆うカバー部材と、を設けている。カバー部材は、第1の振動領域の励振電極が外部に向けて露出するように開口している。またカバー部材の対向面には、第2の振動領域を構成する励振電極と対向する領域に、黒色加工された黒体面が形成されている。さらに開口部に開口径が次第に拡大するガイドを設け、ガイドのテーパー面と、圧電振動子の一面と直交する軸線とのなす角度が40°以上である。このように構成することで、カバー部材の熱の反射による第1及び第2の振動領域の温度差を抑制し、検出精度の低下を抑制することができる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体である被感知物質を圧電振動子に吸着させ、当該圧電振動子の温度を変化させて被感知物質を脱離させ、圧電振動子の発振周波数の変化と前記温度との関係に基づいて、被感知物質を感知するための感知センサにおいて、
共通の圧電片を挟んで、その一面側及び他面側に対向するように形成された2組の励振電極を互いに離間して設けてなる第1の振動領域及び第2の振動領域を備える前記圧電振動子と、
前記圧電振動子の温度を調節する温調機構と、
前記圧電振動子を前記一面側から覆うカバー部材と、を備え、
前記カバー部材は、前記圧電振動子の一面から離間して対向するように配置された対向面と、前記第1の振動領域を構成する前記一面側の励振電極が外部に向けて露出するように前記対向面に開口すると共に、前記一面から遠ざかるに従い開口径が次第に拡大する環状のテーパー面が形成されたガイドを有する開口部と、を備えることと、
前記カバー部材の前記対向面には、前記第2の振動領域を構成する前記一面側の励振電極と対向する領域に、黒色加工された黒体面が形成されていることと、
前記ガイドのテーパー面の上端と下端とを結んだ直線と、前記圧電振動子の一面と直交する軸線とのなす角度が40°以上であることと、を特徴とする感知センサ。
【請求項2】
前記黒体面が形成されている領域の周縁部から、前記第2の振動領域を構成する励振電極を囲み、前記圧電振動子の一面に近接する高さ位置へ向けて下方側に突出して形成された筒状の壁部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の感知センサ。
【請求項3】
前記壁部の内周面は黒色加工された黒体面となっていることを特徴とする請求項2に記載の感知センサ。
【請求項4】
前記黒体面が形成された領域の前記対向面は、前記黒体面が形成されていない領域の前記対向面よりも前記圧電振動子の一面からの離間距離が大きいことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の感知センサ。
【請求項5】
前記ガイドは、前記テーパー面の下端部に接続され、当該テーパー面よりも傾きが大きい環状の急傾斜面を備え、前記急傾斜面の上端と下端とを結んだ直線と、前記軸線とのなす角度が40°以下であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の感知センサ。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか一項に記載の感知センサと、
前記第1の振動領域及び前記第2の振動領域を発振させる発振回路と、
前記発振回路の発振周波数を取得する周波数取得部と、を備えた感知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電振動子の周波数変化により被感知物質を感知する感知センサ、及び感知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス中に含まれる物質を感知する感知センサとして、水晶振動子を用いたQCM(Quartz crystal microbalance)が知られている。このようなQCMを利用した感知手法の一つとして、水晶振動子に被感知物質の検出が行われるガスを吸着させた後、当該水晶振動子の温度を低温の状態から徐々に上げて、当該水晶振動子に吸着したガスを脱離させる手法が知られている。
【0003】
当該手法においては、このガス脱離前後の周波数変化量を測定することでガスの吸着量が測定され、ガスが脱離する際の温度を検出することでガスの成分が特定される。上記の水晶振動子の温度変更を能動的に行うために熱電素子であるペルチェ素子を内蔵したものが知られている。QCMからガスを離脱させるための温度調節手段として、熱電素子を採用した感知装置は、TQCM(Thermoelectric QCM)とも呼ばれる。
【0004】
このようなTQCMにおいて、近年では、測定感度の向上のため水晶振動子にガスを吸着させる励振電極である検出電極と、参照となる周波数を取得する励振電極である参照電極と、を設けた構成が知られている(例えば特許文献1)。このTQCMにおいては、被感知物質を吸着させた検出電極の発振周波数と、参照電極の発振周波数と、の周波数差分値を取得することで、被感知物質の吸着による質量変化以外の外来ノイズをキャンセルした周波数変化量を取得することができる。このようなTQCMにおいては、外来ノイズを確実にキャンセルし被感知物質の吸着による質量変化に基づく周波数変化量を、より正確に取得する要請がある。
【0005】
なお特許文献2には、水中の油、ガス漏洩検知装置において、検知すべき物質をプリズムの検知面に収集するにあたって、検知孔を装置本体の外部から内部に向かってテーパー状に形成した構成が記載されている。しかしながら特許文献1は検出電極と参照電極とを備えた圧電振動子を用いて被感知物質を感知する技術の記載はなく、本発明の課題を解決する構成は開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-174269号公報
【特許文献2】特開平2-49889号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような事情に基づいてなされたものであり、被感知物質を検出用の励振電極に確実に吸着させると共に、圧電振動子を加熱したとき参照用の励振電極に加わる誤差の要因を抑制した感知センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の感知センサは、気体である被感知物質を圧電振動子に吸着させ、当該圧電振動子の温度を変化させて被感知物質を脱離させ、圧電振動子の発振周波数の変化と前記温度との関係に基づいて、被感知物質を感知するための感知センサにおいて、
共通の圧電片を挟んで、その一面側及び他面側に対向するように形成された2組の励振電極を互いに離間して設けてなる第1の振動領域及び第2の振動領域を備える前記圧電振動子と、
前記圧電振動子の温度を調節する温調機構と、
前記圧電振動子を前記一面側から覆うカバー部材と、を備え、
前記カバー部材は、前記圧電振動子の一面から離間して対向するように配置された対向面と、前記第1の振動領域を構成する前記一面側の励振電極が外部に向けて露出するように前記対向面に開口すると共に、前記一面から遠ざかるに従い開口径が次第に拡大する環状のテーパー面が形成されたガイドを有する開口部と、を備えることと、
前記カバー部材の前記対向面には、前記第2の振動領域を構成する前記一面側の励振電極と対向する領域に、黒色加工された黒体面が形成されていることと、
前記ガイドのテーパー面の上端と下端とを結んだ直線と、前記圧電振動子の一面と直交する軸線とのなす角度が40°以上であることと、を特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本感知センサは、被感知物質を吸着させる励振電極を有する第1の振動領域が外部に向けて露出するように開口する開口部を備えたカバー部材を用いて圧電振動子を覆う。この開口部は、電振動子の一面と直交する軸線とのなす角度が40°以上のテーパー面が形成されたガイドを有しているので、外部環境の広い範囲からより確実に被感知物質を第1の振動領域に吸着させることができる。また参照用の励振電極を有する第2の振動領域と対向するカバー部材の対向面には、黒色加工された黒体面が形成されている。このように構成することで、カバー部材からの熱放射に伴う第2の振動領域の温度上昇を抑制し、安定した参照用の周波数信号を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る感知装置の縦断側面図である。
【
図2】前記感知装置の一部を拡大した縦断側面図である。
【
図4】感知センサを本体部に接続した感知装置を示すブロック図である。
【
図5】前記感知装置を用いてガス中の被感知物質を検出する実験装置の縦断側面図である。
【
図6】実施例及び比較例における昇温温度に対する周波数差分値の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態であるTQCMを利用した感知センサ1について、
図1の縦断側面図を参照して説明する。感知センサ1は、ベース部2の上方に、回路収納部3、スペーサ61、ペルチェ素子部6が積層され、ペルチェ素子部6の上方に水晶振動子4を支持するセンサ基板5が設けられている。以下明細書中では、ベース部2側を下方側、センサ基板5側を上方側として説明する。ただしこの方向については説明の便宜上設定したものであり、ここで示す方向となるように使用時の感知センサ1の配置方向が限定されるものでは無い。そしてこれら回路収納部3、スペーサ61及びペルチェ素子部6、センサ基板5の上方を覆うようにカバー部材(以下、単に「カバー」という)10が設けられている。
【0012】
この感知センサ1は、ペルチェ素子部6によって、水晶振動子4の温度を例えば-80℃~+125℃の範囲内で変更できるように構成されている。ペルチェ素子部6は、温調機構に相当する。回路収納部3は水晶振動子4の発振周波数を感知センサ1の外部の装置へ取り出すための後述の発振回路91、92が収容される。またベース部2は、ペルチェ素子部6から放出される熱を外部へ排熱するための冷却部71に接続できるように構成されている。
【0013】
ベース部2は、例えばニッケル鍍金がされた銅により構成されている。ベース部2は平面視円形なブロックとして構成されており、高い伝熱性が得られるように成形されている。
回路収納部3は、ベース部2の上方にFPGA(Field-Programmable Gate Array)などからなる集積回路31を収納する密閉された収納空間30形成する。集積回路31はシリコン製の半導体素子によって構成されており、水晶振動子4に接続されて当該水晶振動子4を発振させる発振回路を含む。
【0014】
ペルチェ素子部6は、その上面及び下面のうちの一方の面が放熱面(加熱面)、他方の面が冷却面となる。本例においては、ペルチェ素子部6へ供給される電流の方向が切り替えられることによって放熱面と冷却面とが互いに切り替えられて、水晶振動子4の冷却と加熱とを行うことができる。水晶振動子4を冷却する際にはペルチェ素子部6の上面が冷却面となり、その下面が放熱面となる。水晶振動子4を加熱する際にはペルチェ素子部6の上面が放熱面となり、その下面が冷却面となる。
【0015】
図1に示すようにセンサ基板5は、凹部51を備え、後述する水晶振動子4の第1及び第2の振動領域45、46の下面側が凹部51に臨むように、水晶振動子4の周縁部を下面側から支え、且つ水平姿勢で保持できるように構成されている。またセンサ基板5は、その下面側中央がペルチェ素子部6の一面と接触した状態で保持されている。
【0016】
図1に示すように、水晶振動子4は、例えばATカットの圧電片である円形の水晶片40を備えている。この水晶片40の一面側(上面側)及び他面側(下面側)には、夫々例えば金(Au)などからなり、各々円形に形成された一対の第1の励振電極(検出電極)41、43と、一対の第2の励振電極(参照電極)42、44とが互いに離間して配置されている。水晶振動子4における第1の励振電極41、43に挟まれた領域は、第1の振動領域45を構成し、第2の励振電極42、44に挟まれた領域は第2の振動領域46を構成する。なお第1及び第2の励振電極41~44は、水晶片40と比較して極めて薄い膜厚であるが、
図1、
図2では膜厚を誇張して記載している。従って水晶振動子4における水晶片40の上面の高さ位置と、上面側の第1の励振電極41、第2の励振電極42の一面の高さ位置とは実際にはほぼ面一となっている。
【0017】
続いてカバー10について、
図2、
図3も参照して説明する。カバー10は例えば銅やアルミニウムで構成され、天板10aによって上面が覆われた円筒として構成されている。当該カバー10の下面は開口しており、既述の回路収納部3からセンサ基板5に至る積層体を収容した状態で、ベース部2上に配置される。このときカバー10の天板10aは水平に配置され、センサ基板5に支持された水晶振動子4の一面(上面)と、当該一面に対向する天板10aの下面(対向面)とが隙間を開けて離間して配置される。
【0018】
そして、カバー10の天板10aには、水晶振動子4の上面側に設けられた検出電極である第1の励振電極41が外部へ向けて露出するように、円形の開口部11開口している。さらに開口部11には、上記の水晶振動子4の上面側の第1の振動領域45を構成する第1の励振電極41に被感知物質であるガスを第1の振動領域45の一面に案内するための、ガイド12が形成されている。ガイド12の上面側には、カバー9の上面から下方へと延伸されると共に、水晶片40の上面から遠ざかるに従い開口径が次第に拡大する環状のテーパー面12bが形成されている。ガイド12の下端は、水晶振動子4の上面からわずかに離間し(例えば離間間隔が0.5mm)、第1の振動領域45の周縁を囲むように配置されている。
【0019】
また水晶振動子4の上面に対して鉛直に伸びる軸線Lとの間に形成される角度に着目したとき、ガイド12には、既述のテーパー面12bの下端部に、当該テーパー面12bよりも傾きが大きい急傾斜面12aが接続されている。
この例では軸線Lに対して急傾斜面12aのなす角度は、20°、テーパー面12bのなす角度が60°に設定されている。
【0020】
また
図2、
図3に示すように、カバー10の天板10aの下面には、筒状の壁部13が設けられている。壁部13は、天板10aの下面、即ち、水晶振動子4の上面と対向する対向面から、水晶振動子4の上面に近接する高さ位置へ向けて下方側に突出して形成されている。壁部13の下端は、水晶振動子4の上面からわずかに離間し(例えば離間間隔が0.5mm)、参照電極側の第2の励振電極42の周縁を囲むように配置されている。
【0021】
また壁部13で囲まれた領域は、壁部13の外側の領域と比較して天板10aが薄くなっている。従って、
図2に示すように、壁部13の内側における天板10aの下面は、壁部13の外側の領域における天板10aの下面と比較して、水晶振動子4の上面からの離間距離が大きくなっている。ここでは壁部13の内側における離間距離h1は、4mm、外側における離間距離h2は2mmとする場合を例示できる。
そしてカバー9の内面には、全面に亘って黒色メッキ14の層を形成することにより黒色加工が成されている。
【0022】
図4は、感知センサ1を感知装置の本体部100に接続したときに形成される電気的構成を示している。感知センサ1の第1及び第2の励振電極41~44は、集積回路31に設けられた第1及び第2の発振回路91、92に接続されている。そして感知センサ1を感知装置の本体部100に接続すると第1及び第2の発振回路91、92は、スイッチ90を介して周波数取得部であるデータ処理部93に接続される。データ処理部93は、第1及び第2の発振回路91、92から入力された周波数信号の周波数データのディジタル値を取得する。この結果、経時的出力される周波数信号につき、第1の発振回路91より出力される第1の発振周波数「F1」の時系列データと、第2の発振回路92より出力される第2の発振周波数「F2」の時系列データとが得られる。
【0023】
本例の感知装置では、スイッチ90により、第1の発振回路91とデータ処理部93とを接続するチャンネル1と、第2の発振回路92とデータ処理部93とを接続するチャンネル2とを交互に切り替えた間欠発振を行う。この手法により、感知センサ1の検出電極である第1の励振電極41、43と、参照電極である第2の励振電極42、44と、間の干渉を避け、安定した周波数信号を取得できるようにしている。そしてこれらの周波数信号は、例えば時分割されて、データ処理部93に取り込まれる。データ処理部93では、周ディジタル値の時分割データに基づいて、演算処理を行い、第1の発振回路91の発振周波数と、第2の発振回路92の発振周波数との周波数差分値を取得する。
【0024】
図5は、上述の感知センサ1を備えた感知装置を用いて、ガス中の被感知物質を検出する実験装置の一例を示している。実験装置は、真空容器70を備え、この真空容器70の一面(
図5に示す例では側面)は、感知センサ1を冷却するための冷却部71として構成されている。そして
図5に示す例において、感知センサ1は、冷却部71にベース部2が固定され、開口部11が側方を向くように取り付けられる。冷却部71は例えば冷媒が流通する流路71aを備えたチラーにより構成され、ベース部2を冷却できるように構成されている。これにより感知センサ1は、ベース部2を介して、その全体が冷却される。これを言い替えると、感知センサ1内のペルチェ素子部6から放出された熱は、ベース部2に排出される。反対に、ペルチェ素子部6が、水晶振動子4を冷却部71よりも低温に冷却している場合には、冷却部71からペルチェ素子部6へ向けて給熱が行われる。
【0025】
真空容器70の内部には、感知センサ1の開口部11と対向する位置に試料77を支持するための台部73が設けられている。この台部73は、加熱機構74により試料77を所定の温度に加熱できるようになっている。真空容器70は、排気路75を介して真空排気機構76に接続され、所定の真空度に真空排気されるように構成されている。そしてまた感知センサ1を冷却部71に取り付けたときに、集積回路31と本体部100とが互いに接続され、水晶振動子4の発振周波数を取得できるように構成されている。
【0026】
この実験装置においては、台部73に試料77を支持させた後、真空容器70を閉じ、真空容器70内を所定の真空度に真空排気すると共に、台部73を加熱機構74により例えば125℃に加熱する。これにより、試料77に含まれる被感知物質であるガスが昇華し、真空容器70内に放出される。一方、冷却部71に冷却媒体を供給すると共に、ペルチェ素子部6により温度を調整し、水晶振動子4を、例えば-80℃に冷却する。これにより、試料77の加熱により発生したガスが開口部11を介して感知センサ1内に進入し一面側の第1の励振電極41に吸着する。これにより質量負荷効果により、第1の振動領域45側の発振周波数が変化する。
【0027】
このように、第1の振動領域45においては、ガスが吸着して発振周波数が変化する一方で、第2の振動領域46においては、ガスは吸着しない。このことから第1の振動領域45と第2の振動領域46との間で発振周波数の差が発生する。そこでこれらの発振周波数の差分値を得ることにより、温度変化などの外来ノイズをキャンセルし、ガスの吸着量の差に基づく発振周波数の変化量を取得することができる。
【0028】
次いで、周波数差分値の取得を行いながらペルチェ素子部6により温度を調節し、水晶振動子4を例えば1℃/分の速度で昇温させる。この昇温により、第1の振動領域45に吸着した被感知物質が次第に昇華して脱離していく。この結果、第1、第2の振動領域45、46間の周波数差分値が小さくなる。圧力を一定にした条件下(本例では真空雰囲気)では、各物質の昇華温度が相違するので、水晶振動子4の温度と、周波数差分値の変化との対応関係から、被感知物質の特定し、各被感知物質の吸着量を求めることができる。
【0029】
図5に示す実験装置において、感知センサ1の開口部11のガイド12のテーパー面12bの角度を大きくすると開口径が大きくなり被感知物質が開口部11に進入しやすくなる。この結果、第1の振動領域45に被感知物質を確実に吸着させることができる。
【0030】
しかしながら、テーパー面12bの角度を大きくしていくと、水晶振動子4に対してカバー10の天板10aが近づく。
このように天板10aと水晶振動子4との距離が近くなると、例えば加熱されている水晶振動子4から放射された熱が、天板10aの下面にて反射し、水晶振動子4に到達し、水晶振動子4の温度制御に影響を及ぼしやすくなるおそれが生じる。
【0031】
一方、第1の振動領域45は、開口部11に臨むように配置され、天板10aとは対向していないため、既述の熱反射の影響を受けにくい。
そのため共通の水晶片40に形成された第2の振動領域46の温度が第1の振動領域45の温度よりも高くなることがある。このように第1の振動領域45と第2の振動領域46との間で温度差が生じると、温度差の影響をキャンセルすることができず、被感知物質の吸着に基づく周波数差分値を正確に取得できなくなり、検出精度が低下してしまうおそれが生じる。
【0032】
本例の感知センサ1は、既述の軸線Lに対してガイド12のテーパー面12bがなす角度を60°に設定している(
図2の角度b)。このようにガイド12の角度を比較的大きくすることで、被感知物質を確実に第1の振動領域45に吸着させることができる。一方で、感知センサ1のカバー10の内面に黒色メッキ14の層を設ける黒色加工を行っている。この結果、水晶振動子4に対向する天板10aの下面(対向面)が黒体面となり、熱の反射を抑えることができる。そのため、水晶振動子4の加熱に伴う第1、第2の振動領域45、46間の温度差の発生を抑制し、被感知物質の検出精度の低下を抑えることができる。
【0033】
特に第2の振動領域46に対向する領域に黒色メッキ14の層を設けることで、第2の振動領域46の温度の上昇を効果的に抑制し、検出精度の低下を抑えることができる。
さらに本例の感知センサ1は、第2の振動領域46の周囲を囲むようにカバー10の内面に壁部13を設けている。この構成により、開口部11から侵入した被感知物質を含むガスが第2の振動領域46に表面に流れ込むことを抑制することができる。またこの壁部13にも黒色メッキ14の層を設けることでも第2の振動領域46に対する熱反射の影響を抑えることができる。
【0034】
ここでカバー10の内部に壁部13を設けた構成の場合、黒色メッキ14の層は、少なくとも壁部13の内周面を含む、壁部13で囲まれた領域に設ければよい。
また一般に、ガイド12のテーパー面12b開口角度が大きくなると、天板10aと水晶振動子4が近くなり反射した熱の影響を受けやすくなる。この点、軸線Lに対し、テーパー面12bの上端と下端とを結んだ直線がなす角度が40°以上の場合には、天板10aの下面に黒色メッキ14の層を設けるなどの黒色加工を行うことが好ましい。なお、黒色加工の手法は、黒色メッキ14に限定されず、黒色塗装であってもよい。
【0035】
一方で、本例のガイド12においては、テーパー面12bの下端部に、軸線Lとのなす角度が40°以下の急傾斜面12aを接続している。このように構成することでガイド12の上端の開口径が大きくなりすぎることを抑制している。また、急傾斜面12aを設けることにより、ガイド12の上端から下端までの高さ寸法(軸線Lに沿った方向の寸法)を大きくすることができ、天板10aと水晶振動子4との離間距離が小さくなりすぎることを抑えることができる。
【0036】
また
図2を用いて説明したように、壁部13で囲まれた領域における第2の振動領域46と天板10aの下面との離間距離h1が、その外部の領域における離間距離h2よりも大きくなるように構成してもよい。この構成により天板10aの下面にて入射し、反射する熱エネルギーの減衰量を大きくすることができる。この構成によっても、水晶振動子4の加熱に伴う第1、第2の振動領域45、46間の温度差の発生を抑制することができる。
さらにここで、第1及び第2の発振回路91、92は、感知センサ1内に設けられていることは必須の要件ではない。例えば感知装置の本体部100にこれらの発振回路91、92を設けてもよい。
【0037】
[実施例]
天板10aの下面を黒色加工する効果を検証するため以下の試験を行った。
[実施例]
図1~
図5を用いて説明した実施の形態に係る感知センサ1を用い実験を行った例を実施例とした。
[比較例]
カバー10の内面に黒色メッキ14の層を設けないことを除いて実施例1と同様に構成した感知センサを用いて実験を行った例を比較例とした。
[参照例]
またガイド12の斜面部分を軸線Lに対して20°の角度に設定したことを除いて比較例と同様に構成した感知センサを用いて実験を行った例を参照例とした。
【0038】
実施例、比較例、及び参照例について各々基準温度から温度を昇温させたときの周波数差分値を測定した。
図6は実施例、比較例、及び参照例の感知センサ1を用いて測定を行ったときに水晶振動子4の基準温度(-80℃)から昇温した温度ごとに検出された周波数差分値を示す。
【0039】
図6に示すように温度を50℃上昇させたときに比較例と参照例の間で周波数差分値に差が生じ、80℃上昇させたときに1.3ppm程度の差が生じていた。これに対して実施例1にて取得された周波数差分値は、参照例とほぼ値が得られていた。
この結果によれば開口部11に設置するガイド12の開口角度を大きくすることで周波数差分値の誤差が出やすくなるが、カバー10の内面に黒色メッキ14の層を設けることで周波数差分値の誤差を抑制できると言える。
【符号の説明】
【0040】
1 感知センサ
6 ペルチェ素子部
10 カバー
11 開口部
12 ガイド
14 黒色メッキ
45 第1の振動領域
46 第2の振動領域
40 水晶片