(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022114712
(43)【公開日】2022-08-08
(54)【発明の名称】プレス成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21D 22/26 20060101AFI20220801BHJP
B21D 24/00 20060101ALI20220801BHJP
B21D 24/04 20060101ALI20220801BHJP
【FI】
B21D22/26 C
B21D24/00 F
B21D24/00 H
B21D24/04 Z
B21D22/26 D
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021011118
(22)【出願日】2021-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100180644
【弁理士】
【氏名又は名称】▲崎▼山 博教
(72)【発明者】
【氏名】松浦 侑也
【テーマコード(参考)】
4E137
【Fターム(参考)】
4E137AA04
4E137AA06
4E137AA10
4E137BA01
4E137BB01
4E137BC01
4E137CA09
4E137CA24
4E137EA02
4E137GA01
4E137GB02
4E137HA07
(57)【要約】
【課題】本発明は、線ズレ不具合や面歪不具合などのプレス成形の不具合を抑制し、プレス成形品の品質を改善して、歩留まりを向上することができるプレス成形品の製造方法の提供を目的とした。
【解決手段】本発明のプレス成形品の製造方法は、パッド30によりブランクW1の一部をブランクホルダ50に対して押しつけて保持する保持工程と、保持工程の後、ブランクW1をダイ20及びブランクホルダ50で狭持して曲げ加工を行う先行曲げ工程と、先行曲げ工程の後、ブランクホルダ50及びダイ20によりブランクW1を保持した状態で、パンチ40によりブランクW1を押圧して絞り加工を行う絞り工程と、を含むことを特徴とする。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス装置を用いてブランクを成形するプレス成形品の製造方法であって、
前記プレス装置は、
前記ブランクのプレス加工を行うダイ及びパンチと、
前記ブランクを下方から支持するブランクホルダと、
前記ブランクホルダに対して前記ブランクを押しつけて保持する保持部材と、を有し、
前記保持部材により前記ブランクの一部を前記ブランクホルダに対して押しつけて保持する保持工程と、
前記ブランクを前記ダイ及び前記ブランクホルダで狭持して曲げ加工を行う先行曲げ工程と、
前記先行曲げ工程の後、前記ブランクホルダ及び前記ダイにより前記ブランクを保持した状態で、前記パンチにより前記ブランクを押圧して絞り加工を行う絞り工程と、を含むことを特徴とする、プレス成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス装置を用いたプレス成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ブランク材に絞り加工を施すプレス装置として、ダイ、パンチ、及びブランクホルダを有するものが知られている。このようなプレス装置では、ダイとブランクホルダとでブランクを挟持した状態で、これらを一体に降下させ、ブランク材をポンチに押し付けることにより、所定形状の部品が成形される。
【0003】
ここで、プレス装置を用いて絞り加工を行う場合、成形品の歪みやシワが発生することを抑制するため、様々な手法が検討されている。例えば、下記特許文献1では、成形品に歪みやシワが発生することを抑制するため、ブランクの天板面を先に押さえ、その後周囲を絞り込むプレス成形方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のように、ブランクの天板面の中心を先に押さえ、その後周囲を絞り込むプレス成形方法では、天板面を押さえた状態で周囲を絞り込むと面が歪んだりシワが発生したりする懸念がある。また、その結果歩留まりの低下につながる恐れがある。このように、特許文献1の技術では、絞り加工により部品を成形する場合に、シワや歪みを十分に抑制できるものではなかった。
【0006】
そこで本発明は、線ズレ不具合や面歪不具合などのプレス成形の不具合を抑制し、プレス成形品の品質を改善して、歩留まりを向上することができるプレス成形品の製造方法の提供を目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上述の課題を解決するため提供される本発明のプレス成形品の製造方法は、プレス装置を用いてブランクを成形するプレス成形品の製造方法であって、前記プレス装置は、前記ブランクのプレス加工を行うダイ及びパンチと、前記ブランクを下方から支持するブランクホルダと、前記ブランクホルダに対して前記ブランクを押しつけて保持する保持部材と、を有し、前記保持部材により前記ブランクの一部を前記ブランクホルダに対して押しつけて保持する保持工程と、前記ブランクを前記ダイ及び前記ブランクホルダで狭持して曲げ加工を行う先行曲げ工程と、前記先行曲げ工程の後、前記ブランクホルダ及び前記ダイにより前記ブランクを保持した状態で、前記パンチにより前記ブランクを押圧して絞り加工を行う絞り工程と、を含むことを特徴とする。
【0008】
本発明のプレス成形品の製造方法によれば、線ズレ不具合や面歪不具合などのプレス成形の不具合を抑制し、プレス成形品の品質を改善して、歩留まりを向上することができる。
【0009】
より詳細に説明すると、従来のプレス成形品の製造方法のように、ブランクをブランクホルダとダイとの間で狭持して、その後ダイ及びパンチでブランクを押圧して絞り加工を行うと、ブランクが跳ね上がってしまい、ブランクの位置ズレやブランクのシワの要因となりかねない。
【0010】
これに対して本発明のプレス成形品の製造方法では、先ずブランクを位置決めするようにブランクホルダ及び狭持部材によりブランクを位置決めした状態で曲げ加工(先行曲げ工程)を行う。また、本発明のプレス成形品の製造方法では、ブランクに曲げ加工を施して深さを出すように成形した上で絞り加工を行うことができる。そのため、本発明のプレス成形品の製造方法では、ブランクを絞る深さを浅くして、深さのある部品を成形することができる。
【0011】
別の言い方をすれば、本発明のプレス成形品の製造方法では、ブランクに先に曲げ加工を行ってから軽く絞ることで、絞る深さを浅くすることができる(浅絞りとすることができる)。すなわち、本発明のプレス成形品の製造方法では、成形初期段階(先行曲げ工程の段階)で積極的にブランクを曲げて部品のシルエットをある程度形成した上で絞り加工が行われる。そのため、ブランの絞り量を少なくすることができる。
【0012】
また、本発明のプレス成形品の製造方法では、曲げ加工を行う前に、狭持部材によりブランクホルダに対してブランクを押さえて保持する。これにより、成形過程において(曲げ加工時やダイヒット時など)ブランクの跳ね上がりや製品位置のズレを抑制し、線ズレ不具合や面歪不具合、ワレなどのプレス成形の不具合を抑制し、プレス成形品の品質を改善することができる。その結果、本発明のプレス成形品の製造方法は、歩留まりを向上することができる。
【0013】
(2)本発明のプレス成形品の製造方法は、前記ダイには、前記ブランクの曲げ加工を行う曲げ加工部と、前記ブランクの絞り加工を行う絞り加工部と、が形成されており、前記先行曲げ工程では、前記ブランクが、前記ダイの前記曲げ加工部及び前記ブランクホルダで狭持されて曲げ加工が施され、前記絞り工程では、前記ブランクが、前記ダイの前記絞り加工部及び前記パンチで狭持されて絞り加工が施されるものであるとよい。
【0014】
上述の構成によれば、一度のプレスで(パンチ又はダイの一度の昇降動作で)曲げ加工と絞り加工とを施すことができる。
【0015】
(3)本発明のプレス成形品の製造方法は、前記ブランクホルダの最も高い位置をなる部分をダイフェース頂上とした場合、少なくとも一つの前記保持部材が、前記ダイフェース頂上の上方に配置されており、前記保持工程において、前記ダイフェース頂上近傍の前記ブランクが保持されるものであるとよい。
【0016】
上述の構成によれば、より効率的にブランクを保持することができる。
【0017】
(4)本発明のプレス成形品の製造方法は、前記保持部材が、前記ブランクの一端及び他端となる二箇所に配置されており、前記保持工程において、前記ブランクの両端近傍が保持されるものであるとよい。
【0018】
上述の構成によれば、より効率的にブランクを保持することができる。
【0019】
(5)本発明のプレス成形品の製造方法は、前記ダイには、前記ブランクの曲げ加工を行う曲げ加工部と、前記ブランクの絞り加工を行う絞り加工部と、が形成されており、前記ダイ及び前記パンチのうち少なくとも一方の昇降方向に交差する方向を横方向とし、前記横方向のうち任意の方向を第一方向とし、前記横方向において前記第一方向と交差する方向を第二方向とした場合、前記保持部材が、前記第一方向の両端となる二箇所に配置されており、前記曲げ加工部が、前記第二方向の両端となる二箇所に形成されているものであるとよい。
【0020】
上述の構成によれば、第一方向の両側でブランクを保持して先行曲げ加工を行うとともに、ブランクの第二方向の両端に曲げ加工が施されてブランクが第二方向に位置決めされた状態で絞り加工を行うことができる。これにより、ブランクをより確実に位置決めして、ダイヒット時や成形完了時の製品位置のバラツキをより確実に抑制することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、線ズレ不具合や面歪不具合などのプレス成形の不具合を抑制し、プレス成形品の品質を改善して、歩留まりを向上することができるプレス成形品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明のプレス成形品の製造方法に用いられるプレス装置を示す斜視図である。
【
図2】
図1のプレス成形品の製造方法により成形されたプレス成形品を示す図である。
【
図3】
図1のプレス装置のダイ及びパッドを示す斜視図である。
【
図4】
図1のプレス装置のダイ及びパッドを示す平面図である。
【
図5】
図1のプレス成形品の製造方法の保持工程を示す図である。
【
図6】
図1のプレス成形品の製造方法の先行曲げ工程を示す図である。
【
図7】
図1のプレス成形品の製造方法の先行曲げ工程を示す図である。
【
図8】
図1のプレス成形品の製造方法の絞り工程を示す図である。
【
図9】保持工程が行われない場合を示す参考図である。
【
図10】
図1のプレス装置の変形例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明のプレス成形品の製造方法の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0024】
プレス成形品の製造方法は、プレス装置10を用いてブランクW1を成形し、プレス成形品W2を製造する方法である。以下の説明では、プレス成形品W2の一例やプレス装置10の各構成について説明し、その後プレス成形品の製造方法について説明する。
【0025】
プレス装置10は、板状の金属材料(以下、単に「ブランクW1」と記載して説明する)を成形するものである。ブランクW1は、金属板、例えば鋼板、特にハイテン材からなる。なお、以下の説明では、ブランクW1をプレス成形して得られる成形品(プレス成形品)を、単に「プレス成形品W2」と記載して説明する場合がある。また、プレス成形品W2の余剰部分が除去された状態の製品を、単に「部品」と記載して説明する場合がある。
【0026】
プレス装置10では、自動車のフェンダー、フード、ルーフ、フロントドアやリアドアなど、様々な部品を成形可能とされている。なお、
図2に一例として示すプレス成形品W2は、余剰部分を除去した後にフェンダーとして用いられるものである。
【0027】
図2に示すとおり、プレス成形品W2は、絞り加工により形成される起伏状の部分(絞り成形部W2a)を備えている。また、プレス成形品W2には、端部近傍(
図2の上下方向の端部近傍)が前後方向(
図2中では左右方向)に延びるように屈曲する部分(曲げ稜線部W2b)が形成されている。すなわち、プレス成形品W2は、所定の方向に曲げ稜線が通るようなシルエットを有している。
【0028】
なお、本発明のプレス成形品の製造方法は、フェンダーを成形する場合に限定されず、様々な部品を製造するために用いることができる。特に、屈曲部分が延びるように形成された部品(曲げ稜線が通るような部分を有する部品)を成形する場合に、好適に採用可能である。
【0029】
図1は、プレス装置10が備える各構成の成形面を示す分解斜視図である。
図1に示すとおり、プレス装置10は、ダイ20、パッド30(保持部材)、パンチ40、及びブランクホルダ50を備えている。ダイ20及びパンチ40は、近接あるいは離間するように上下方向に相対的に移動して、ブランクW1を押圧してプレス加工を行うものである。
【0030】
本実施形態のプレス装置10では、ダイ20がパンチ40に対して相対的に昇降可能とされている。より詳細に説明すると、本実施形態のプレス装置10では、ダイ20及びパッド30が、上下方向に昇降可能とされた上型本体(図示を省略)に取り付けられている。また、パンチ40、及びブランクホルダ50は下型本体(図示を省略)に取り付けられている。すなわち、本実施形態のプレス装置10では、ダイ20が可動型であり、パンチ40が固定型となっている。
【0031】
なお、以下の説明では、ダイ20の昇降方向(上下方向)を、単に「昇降方向H」又は「上下方向H」と記載して説明する場合がある。
【0032】
ブランクホルダ50は、ブランクW1を下方から支持するものである。言い方を換えれば、ブランクW1は、曲げ加工や絞り加工が行われる前段階で、ブランクW1を保持するための部材としても機能する。ブランクホルダ50は、図示を省略したシリンダを介して下型本体に取り付けられており、パンチ40に対して上下方向Hに相対的に移動可能とされている。
【0033】
なお、以下の説明では、ダイ20の昇降方向Hと交差する方向(水平方向)を、単に「横方向X」と記載して説明する場合がある。また、横方向Xのうち、任意の方向(プレス装置10の左右方向)を単に「第一方向X1」と、横方向Xにおける第一方向X1と交差する方向(プレス装置10の奥行き方向)を単に「第二方向X2」と記載して説明する場合がある。
【0034】
さらに、以下の説明では、ブランクホルダ50の上方面のうち、ブランクW1と接触する面(ブランクW1を掴む面)を、単に「ダイフェース51」と記載して説明する場合がある。また、ブランクホルダ50の最も高い位置をなる部分(ダイフェース51の最も高い部分)を、単に「ダイフェース頂上51a」と記載して説明する場合がある。
【0035】
図1に示すとおり、ブランクホルダ50の上方面(ダイフェース51)には、後述する曲げ加工部22と対向する位置に曲げ型部53が設けられている。また、
図1に示すとおり、ブランクホルダ50には、パンチ40を進退させるための開口(パンチ進退部52)が形成されている。
図1に示すとおり、パンチ進退部52は、ブランクホルダ50の略中央となる位置に形成されている。また、曲げ型部53は、パンチ進退部52を挟むように二箇所に(第二方向X2の両側に)設けられている。
【0036】
図1に示すとおり、ダイ20には、パンチ40との間でブランクW1を狭持してブランクW1の絞り加工を行う絞り加工部23が形成されている。絞り加工部23は、ダイ20の略中央となる位置に形成されている。
【0037】
また、ダイ20には、ブランクホルダ50との間でブランクW1を狭持してブランクW1の曲げ加工を行う曲げ加工部22が形成されている。曲げ加工部22は、絞り加工部23を挟むように二箇所に(第二方向X2の両端に)形成されている。
【0038】
なお、パンチ40には、ダイ20の絞り加工部23に対応する絞り成形面42が形成されている。
【0039】
パッド30(保持部材)は、ブランクホルダ50に対してブランクW1を押しつけて保持するためのものである。本実施形態のプレス装置10では、ブランクホルダ50に対してブランクW1を押しつけて保持する保持部材として、ブランクW1に対して面接触して押しつけるパッド30が用いられている。
図1に示すとおり、プレス装置10には、二つの(一対の)パッド30が設けられている。
【0040】
図3及び
図4に示すとおり、パッド30は、ダイ20の第一方向X1の両端となる二箇所に配置されている(ブランクW1の一端及び他端となる二箇所に配置されている)。別の観点から説明すると、本実施形態のプレス装置10では、ダイ20の両端の一部(第一方向X1の両端)を分割し、パッド30として設けている(
図3(a)及び
図3(b)参照)。さらに付言すると、本実施形態のプレス装置10では、ダイ20の一部(両端)を切り欠くように形成し、切り欠き部を補うようにパッド30が設けられている。すなわち、ダイ20の成形面及びパッド30の成形面(押さえ面)は、略面一となるように構成されている。
【0041】
また、
図1に示すとおり、一対のパッド30は、第一方向X1の両端に形成されたダイフェース頂上51aの上方にそれぞれ配置されている。
【0042】
<プレス成形品の製造方法における各工程>
次に、本発明のプレス成形品の製造方法について説明する。
【0043】
本実施形態のプレス成形品の製造方法には、保持工程、先行曲げ工程、及び絞り工程が含まれる。保持工程では、ブランクW1の一部をパッド30(保持部材)でブランクホルダ50に対して押しつけて保持する。また、先行曲げ工程では、ブランクW1をダイ20及びブランクホルダ50の間で狭持して、これらにより押圧して曲げ加工が行われる。さらに、絞り工程では、ブランクホルダ50及びダイ20の間でブランクW1を保持した状態で、パンチ40によりブランクW1を押圧して絞り加工が行われる。
【0044】
なお、保持工程を示す
図5では、
図4のA1-A1’線断面図(パッド30近傍の断面図)を示している。また、先行曲げ工程を示す
図6、及び
図7、絞り工程を示す
図8では、
図4のA2-A2’線断面図を示している。
【0045】
<保持工程>
まず、
図5(a)に示すように、ブランクホルダ50のダイフェース51上にブランクW1を載置する。このとき、ブランクW1は、ダイフェース頂上51aに接触して略水平の姿勢となる。次に、
図5(b)に示すとおり、パッド30を下降させてブランクホルダ50に対してパッド30を押しつけ、パッド30とブランクホルダ50との間でブランクW1を保持する。上述のとおり、パッド30は、ダイ20の両端に設けられている。そのため、ブランクW1は、周部の一部(第一方向X1の両端)が押しつけられて保持された状態となる。
【0046】
ここで、上述のとおり、一対のパッド30は、ダイフェース頂上51aの上方に配置されている。そのため、保持工程において、ダイフェース頂上51a近傍のブランクW1が保持される(折り起点となる部分が保持される)。これにより、より効率的にブランクを保持することができる。
【0047】
<先行曲げ工程>
保持工程の後、先行曲げ工程が行われる。先行曲げ工程では、ブランクW1の第二方向X2の端部が、ダイ20の曲げ加工部22とブランクホルダ50の曲げ型部53との間で狭持されて、曲げ加工が施される。なお、このとき、ブランクW1は、パッド30により保持された部分以外の部分がダイ20とブランクホルダ50とにより狭持される。このように、本実施形態のプレス成形品の製造方法では、絞り加工の前段階で、予めブランクW1に深さのある形状が形成される。
【0048】
先行曲げ工程についてより詳細に説明する。
図6(a)に示すとおり、先ずブランクホルダ50と離間する位置からダイ20が下降して、ダイ20の絞り加工部23の周辺の面(絞り加工部23よりも下方にある成形面)がブランクW1と接触する。
図6(b)に示すとおり、ブランクW1は、ダイ20の下降に伴って下方に押される。このとき、ブランクW1の第一方向X1の両端部はパッド30とブランクホルダ50とにより保持されているため、中央部の跳ね上がりを抑制することができる。
【0049】
また、先行曲げ工程の際、ブランクW1はパッド30及びブランクホルダ50により狭持された状態となっている。そのため、
図7(b)に示すとおり、ブランクW1の端部の曲げ加工を行う際に、ブランクW1の中央部の跳ね上がりを抑制して、製品位置がズレることを抑制することができる。
【0050】
<絞り工程>
先行曲げ工程の後、絞り工程が行われる。より詳細に説明すると、ダイ20が、ブランクホルダ50との間でブランクW1を狭持する位置まで下降すると、ダイ20及びブランクホルダ50がブランクW1を挟持した状態で一体に下降する。言い方を換えれば、ダイ20及びブランクホルダ50は、パンチ40に対して近接するように一体的に移動する。また、この過程で、ブランクW1はパンチ40の絞り成形面42に押される。これにより、ブランクW1がパンチ40の絞り成形面42に押し付けられて、絞り加工が開始される(
図8(a)参照)。
【0051】
さらにダイ20及びブランクホルダ50を下降させることにより、ブランクW1の絞り加工が進行する。
図8(b)に示すとおり、その後、さらにダイ20を下降させてダイ20が下端位置(下死点)に達すると、ブランクW1の成形が完了する。そして、
図8(c)に示すプレス成形品W2の成形が得られる。
【0052】
図8(c)に示すとおり、プレス成形が完了した後のプレス成形品W2には、絞り成形部W2aや曲げ稜線部W2bが形成されている。その後、ダイ20を上昇させて、プレス成形品W2をプレス装置10から取り出す。そして、プレス成形品W2の不要部分を除去する切断加工を施すことにより、部品(フェンダー)が得られる。
【0053】
ここで、仮に、ブランクW1をパッド30により保持せず、ブランクホルダ50とダイ20との間で狭持して、その後ダイ20及びパンチ40でブランクW1を押圧して絞り加工を行うとすると、ブランクW1がダイ20の絞り加工部23の周部と当たった時点でブランクW1の中央部が跳ね上がってしまう(
図9参照)。その結果、ブランクW1の位置ズレやブランクW1のシワの要因となりかねない。
【0054】
これに対して本実施形態のプレス成形品の製造方法では、先ずブランクW1を位置決めするようにブランクホルダ50及びパッド30(狭持部材)によりブランクW1を位置決めした状態で曲げ加工(先行曲げ工程)を行う。また、本実施形態のプレス成形品の製造方法では、ブランクW1に曲げ加工を施して深さを出すように成形した上で絞り加工を行うことができる。そのため、本実施形態のプレス成形品の製造方法では、ブランクW1を絞る深さ(絞り加工の深さ)を浅くして、深さのある部品を成形することができる。
【0055】
別の言い方をすれば、本実施形態のプレス成形品の製造方法では、ブランクW1に先に曲げ加工を行ってから軽く絞ることで、絞る深さを浅くすることができる(浅絞りとすることができる)。すなわち、本実施形態のプレス成形品の製造方法では、成形初期段階(先行曲げ工程の段階)で積極的にブランクW1を曲げて部品のシルエットをある程度形成した上で絞り加工が行われる。そのため、ブランクW1の絞り量を少なくすることができる。
【0056】
また、本実施形態のプレス成形品の製造方法では、曲げ加工を行う前に、パッド30(狭持部材)によりブランクホルダ50に対してブランクW1を押さえて保持する。これにより、成形過程において(曲げ加工時やダイヒット時など)ブランクW1の跳ね上がりや製品位置のズレを抑制し、線ズレ不具合や面歪不具合、ワレなどのプレス成形の不具合を抑制し、プレス成形品の品質を改善することができる。その結果、本実施形態のプレス成形品の製造方法は、歩留まりを向上することができる。
【0057】
このように、本実施形態のプレス成形品の製造方法によれば、線ズレ不具合や面歪不具合などのプレス成形の不具合を抑制し、プレス成形品の品質を改善して、歩留まりを向上することができる。
【0058】
また、上述のとおり、本実施形態のプレス成形品の製造方法では、先行曲げ工程では、ブランクW1がダイ20の曲げ加工部22とブランクホルダ50の曲げ型部53との間で狭持されて曲げ加工が施され、絞り工程では、ブランクW1がダイ20の絞り加工部23とパンチ40の絞り成形面42との間で狭持されて押圧されて絞り加工が施される。
【0059】
そのため、本実施形態のプレス成形品の製造方法によれば、一度のプレスで(ダイ20の一度の昇降動作で)曲げ加工と絞り加工とを施すことができる。
【0060】
さらに、上述のとおり、本実施形態のプレス成形品の製造方法では、パッド30(保持部材)が、ブランクW1の第一方向X1の両端となる二箇所に配置されており、保持工程において、ブランクW1の両端近傍が保持される。そのため、より効率的にブランクを保持することができる。
【0061】
さらに、上述のとおり、本実施形態のプレス成形品の製造方法では、パッド30(保持部材)が第一方向X1の両端となる二箇所に配置されるとともに、曲げ加工部22が第二方向X2の両端となる二箇所に形成されている。
【0062】
すなわち、第一方向X1の両側でブランクW1を保持して先行曲げ加工を行うとともに、ブランクW1の第二方向X2の両端に曲げ加工が施されて、ブランクW1が第二方向X2に位置決めされた状態で絞り加工を行うことができる。これにより、ブランクW1をより確実に位置決めして、ダイヒット時や成形完了時の製品位置のバラツキをより確実に抑制することができる。
【0063】
以上、本発明のプレス成形品の製造方法の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されない。
【0064】
例えば、上述の実施形態では、プレス装置10の保持部材をパッド30とした例を示したが、本発明ではプレス装置の保持部材をシートクランパとしてもよい。例えば、本発明のプレス成形品の製造方法では、
図10に示すようなシートクランパ130を有するプレス装置100を用いてブランクW1の成形を行うものであってもよい。シートクランパ130は、パッド30と同様に、ブランクホルダ50に対してブランクW1を押しつけて保持するためのものである。なお、シートクランパ130は、パッド30と比較して細長い形状の保持部材である。なお、成形しようとする部品が大きい場合(大型部品の場合)には、面接触してブランクを保持することができるパッドが用いられることが望ましい。
【0065】
また、上述の実施形態で説明したプレス装置10では、ダイ20を昇降可能な可動型とし、パンチ40を固定型とした例を示したが、本発明のプレス成形品の製造方法に用いられるプレス装置はこれに限定されず、ダイ20を固定型とし、パンチ40を可動型とさせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、絞り加工によるプレス成形品を製造する方法として、好適に採用することができる。
【符号の説明】
【0067】
10 プレス装置
20 ダイ
22 曲げ加工部
23 絞り加工部
30 パッド(保持部材)
40 パンチ
50 ブランクホルダ
51 ダイフェース
51a ダイフェース頂上
H 昇降方向
W1 ブランク
W2 プレス成形品
X 横方向
X1 第一方向(横方向)
X2 第二方向(横方向)