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  • 特開-リナグリプチン結晶及びその製造法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022114727
(43)【公開日】2022-08-08
(54)【発明の名称】リナグリプチン結晶及びその製造法
(51)【国際特許分類】
   C07D 473/04 20060101AFI20220801BHJP
   A61K 31/522 20060101ALN20220801BHJP
   A61P 3/10 20060101ALN20220801BHJP
【FI】
C07D473/04 CSP
A61K31/522
A61P3/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021011139
(22)【出願日】2021-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】000207252
【氏名又は名称】ダイト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083301
【弁理士】
【氏名又は名称】草間 攻
(72)【発明者】
【氏名】日下部 瑛規
(72)【発明者】
【氏名】住吉 孝志郎
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA03
4C086AA04
4C086CB07
4C086GA15
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA03
4C086ZC20
4C086ZC35
(57)【要約】
【課題】 安定なリナグリプチンの新規多形体を提供すること、及び商業的な大量生産が容易であり、安全かつ簡単な手法によるリナグリプチンの新規多形体の製造方法を提供すること。
【解決手段】 粉末X線回折において、2θ(°)=6.9、7.6、9.2、14.5、17.7、20.9±0.2θにピークを有する化合物1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチンであるリナグリプチンの新規多形体、及びその製造方法である。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末X線回折において、2θ(°)=6.9、7.6、9.2、14.5、17.7、20.9±0.2θにピークを有する化合物1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチンであるリナグリプチンの新規多形体。
【請求項2】
化合物1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチンである新規多形体であって、以下の格子定数:
【表1】

によって特徴づけられる、リナグリプチンの新規多形体。
【請求項3】
図1に示される粉末X線図を有する、リナグリプチンの新規多形体。
【請求項4】
粉末X線回折において、2θ(°)=6.9、7.6、9.2、14.5、17.7、20.9±0.2θにピークを有する、化合物1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチンであるリナグリプチンの新規多形体を調製する方法であって、該方法が、
(a)化合物1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチンのメタノール溶液を得る工程、
(b)前記メタノール溶液への溶媒添加または冷却により、仕込み量の45%以下の結晶が過溶解している溶液を調製する工程、
(c)前記溶液から結晶を得る工程、
(d)必要に応じて、前記操作(b)、(c)を繰り返す工程、
(e)得られた懸濁液をろ過する工程、及び
(f)30℃以上の温度で乾燥する工程、
を含むことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なリナグリプチン結晶形及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リナグリプチン(Linagliptin)(JAN,INN)は、化学名:1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチンを有し、胆汁排泄型選択的DPP-4(ジペプチジルペプチダーゼ-4)阻害作用を有し、2型糖尿病薬として臨床的に使用されている薬剤である(販売名:トラゼンタ(登録商標)錠)。
【0003】
これまでに、リナグリプチンの結晶形態として数多くの出願がなされており、例えば、特許第5323684号において多形体A~Eを開示している(特許文献1)。しかしながら、多形体AとBは25±15℃で相互変換されると記述されており、室温において、一つの結晶形態から他の結晶形態へ転移する可能性が考えられるため、一定の品質を維持しなければならない医薬品の製造には適していない多形体である。
また、多形体C、DおよびEに関しては、これらの多形体を得るために70~100℃の高温で乾燥する工程、または150℃で溶融する工程が必要であると記述されており、工業的な製造方法として好ましくない。
【0004】
特開2018-177769には多形体Fを開示している(特許文献2)。しかしながらこの多形体を得るためには、晶析後の懸濁液を12時間以上攪拌する必要がある。
またその実施例をみると、リナグリプチンに対して20v/w以上の溶媒を使用しており、生産効率が悪い。
【0005】
さらに、特表2018-527363には、X線回折スペクトル(XRD)で5.6、9.8、11.2、11.8、13.1、14.4、14.9、16.1、16.4、18.4、18.8、19.9、20.2、20.7、22.0の回折角度(2θ±0.2°)でのピークを含むリナグリプチン結晶形が開示されている(特許文献3)。
この結晶形の製造方法にあっては、
(1)水または有機溶媒に上記リナグリプチン4-ヒドロキシ安息香酸塩を入れ、塩基をさらに添加した後撹拌する工程、
(2)上記工程(1)の反応物をろ過し、ろ過された結晶を水及び有機溶媒で洗浄して乾燥する工程
を含むと記述されている。
【0006】
しかしながら、上記工程(1)の攪拌時間は5ないし30分間が好ましく、長くなった場合には、不純物の発生が抑えられないだけでなく、多形体の生成不良によりろ過不良につながる。
したがって固液分離操作に要する時間を考慮すると、工業的な生産工程に適していないものといえる。
また上記工程(2)で使用する有機溶媒として、静電気着火のリスクが高いヘプタン、ヘキサン、ジエチルエーテル、メチルtert-ブチルエーテル、イソプロピルエーテルが挙げられているが、これらの溶媒の単独使用は好ましいものではない。
【0007】
また、国際公開第2013/171756号には安定なアモルファスのリナグリプチンを開示している(特許文献4)。
しかしながら、このアモルファスを得るためには、リナグリプチンの溶液から溶媒を完全に除去する工程が必要となるため、工業的な製造方法として好ましいものではない。
さらに、国際公開第2014/083554号もリナグリプチンのアモルファスを開示している(特許文献5)。しかし安定性に関するデータが示されておらず、室温におけるリナグリプチンの結晶形転移に関する課題は解決されていない。
【0008】
その他、国際公開第2013/074817号はリナグリプチンの多形体Form IないしXXIV(特許文献6)、国際公開第2013/128379号はリナグリプチンの多形体Form I及びII(特許文献7)、国際公開第2020/042939号はリナグリプチンの晶型F(特許文献8)、インド特許出願IN201611032051にはリナグリプチンの多形体Form M(特許文献9)、インド特許出願IN2014MU02250にはリナグリプチンの多形体Form ALを開示している(特許文献10)。
【0009】
このように、上記した各特許を通じてリナグリプチンの新規結晶形が多様に紹介されているにもかかわらず、それらの物質の安定性に関するデータが十分に示されておらず、室温でのリナグリプチンの結晶形転移に関する課題は解決されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第5323684号掲載公報
【特許文献2】特開2018-177769号公報
【特許文献3】特表2018-527363号公報
【特許文献4】国際公開第2013/171756号
【特許文献5】国際公開第2014/083554号
【特許文献6】国際公開第2013/074817号
【特許文献7】国際公開第2013/128379号
【特許文献8】国際公開第2020/042939号
【特許文献9】インド特許出願IN201611032051
【特許文献10】インド特許出願IN2014MU02250
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記の現状に鑑み、本発明の目的は、これまで公知であるリナグリプチン多形体A、多形体B、多形体Cより安定なリナグリプチンの新規多形体を提供することにある。
また、商業的な大量生産が容易であり、安全かつ簡単な手法によるリナグリプチンの新規多形体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討を行った結果、リナグリプチンのメタノール溶液あるいはメタノールとメチルtert-ブチルエーテルの混合溶液から、ゆっくりと結晶を析出させて、固液分離後に乾燥することで安定な新規多形体を得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
したがって、本発明は一つの態様において、
(1)粉末X線回折において、2θ(°)=6.9、7.6、9.2、14.5、17.7、20.9±0.2θにピークを有する化合物1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチンであるリナグリプチンの新規多形体である。
【0014】
また本発明は、別の態様として、
(2)化合物1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチンである新規多形体であって、以下の格子定数:
【0015】
【表1】
【0016】
によって特徴づけられる、リナグリプチンの新規多形体である。
【0017】
さらに本発明は、具体的には、
(3)図1に示される粉末X線図を有する、リナグリプチンの新規多形体である。
【0018】
また、本発明はさらに別の態様として、
(4)粉末X線回折において、2θ(°)=6.9、7.6、9.2、14.5、17.7、20.9±0.2θにピークを有する、化合物1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチンであるリナグリプチンの新規多形体を調製する方法であって、該方法が、
(a)化合物1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチンのメタノール溶液を得る工程、
(b)前記メタノール溶液への溶媒添加または冷却により、仕込み量の45%以下の結晶が過溶解している溶液を調製する工程、
(c)前記溶液から結晶を得る工程、
(d)必要に応じて、前記操作(b)、(c)を繰り返す工程、
(e)得られた懸濁液をろ過する工程、及び
(f)30℃以上の温度で乾燥する工程、
を含むことを特徴とする方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るリナグリプチンの新規多形体は、粉末X線回折装置を使用して分析したとき、室温において、他の多形体へ転移しないため、多形体A、Bと比較して、一定の品質を維持しなければならない医薬品の製造に適している。
また水和物形態の多形体Cと比較して、温度に対する安定性に優れており、一定の品質を維持できるという長所を有する。
さらに、本発明のリナグリプチン新規多形体は、残留溶媒量が極めて少なく、薬剤学的組成物の有効成分として適している。
したがって、医薬品原体として、極めて有用性に優れたものである利点を有している。
【0020】
また、本発明が提供するリナグリプチンの新規多形体は、リナグリプチンに対して10v/w以下のメタノール、あるいはメタノールとメチルtert-ブチルエーテルの混合溶媒を再結晶溶媒として使用し、ゆっくりと結晶化させて得られる湿結晶を、30℃以上で乾燥することで製造できる。
【0021】
したがって、70℃以上の加熱が必要な多形体C、DおよびEの製造方法(国際公開第2007/128721号)、リナグリプチンの溶液から溶媒を完全に除去する工程が必要なアモルファスの製造方法(国際公開第2013/171756号)、晶析時の攪拌時間に制限があり、静電気着火のリスクが高い溶媒を単独で使用する特表2018-527363記載の製造方法、および溶媒の使用量が20v/w以上と推定される多形体Fの製造方法(特開2018-177769)より、商業的な大量生産が容易であり、安全に製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本発明が提供するリナグリプチンの新規多形体の粉末X線図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明が提供するリナグリプチンの新規多形体は、具体的には、リナグリプチンに対して10v/w以下のメタノール、あるいはメタノールとメチルtert-ブチルエーテル(以下、「MTBE」と記す場合もある)の混合溶媒を再結晶溶媒として使用し、ゆっくりと結晶化させて得られる湿結晶を、30℃以上で乾燥することで製造できる。
【0024】
ところで、リナグリプチンの多形体Cを得る製法は、既に明らかになっており、例えば特許第6602909号により、以下の工程を含む製法が報告されている。
(a)1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル)-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチンをメタノール中で還流してメタノール性溶液を得る工程、
(b)前記メタノール性溶液を40-60℃の温度まで冷却する工程、
(c)溶媒を加える工程、
(d)得られた懸濁液をまずは15-25℃まで、続いて0-5℃まで冷却して結晶を得る工程、
(e)前記結晶を吸引ろ過する工程、及び
(f)70℃の温度の真空下で乾燥する工程。
【0025】
しかしながら、上述の方法を参考に晶出方法について検討したところ、結晶がゆっくりと成長するように、過溶解している結晶の割合が45%を超えないよう操作することで、多形体Cではなく、新規多形体が得られることを見出した。
最終的に得られた新規多形体の安定性、溶解度などの物理的及び薬剤学的特性を評価して、その有用性を確認することで本発明を完成させるに至った。
【0026】
なお、本発明に使用するリナグリプチンは、例えば、特許文献1(実施例1)、特許文献7(実施例11)に記載の方法により調製することができる。
【実施例0027】
以下に本発明の実施の態様を、実施例、各種試験例を記載することにより詳細に説明する。
【0028】
実施例1:リナグリプチンの新規多形体の調製
メタノール(22.5mL)にリナグリプチン5.0g(9.8mmol)を加えて55℃まで加温し、溶解させた。その後、45℃まで冷却し、同温度でメチルtert-ブチルエーテル(10.0mL)、リナグリプチンの種晶0.025gを添加した。さらに同温度でメチルtert-ブチルエーテル(12.5mL)を添加し、45℃で1時間撹拌後、40℃まで冷却した。40℃で1時間撹拌後、35℃まで冷却し、35℃で1時間撹拌後、20℃まで冷却し、20℃で1時間撹拌後、0~5℃まで冷却した。0~5℃で1時間攪拌後、析出した結晶をろ過し、ろ過物をメタノールとメチルtert-ブチルエーテルの1:1混合溶媒(10.0mL)で洗浄した後、60℃で減圧乾燥し、リナグリプチンの新規多形体を白色結晶として3.51g得た。
【0029】
残留溶媒値はメタノール10ppm、メチルtert-ブチルエーテル51ppmであった(後記の試験例1を参照)。
また、得られた結晶の粉末X線回折パターンは図1に示すとおりであった。
過溶解していない場合の晶出率、晶出率および過溶解している結晶の割合は、以下に示す方法で算出した。その結果を後記表2に示した。
【0030】
A;晶出率の算出
リナグリプチンの晶出率は、検量線法を用いて溶液の屈折率から晶出率を算出した。
なお、検量線は下記表2中に示した作製ポイント(11点)におけるリナグリプチンの均一な溶解溶液(メタノール45mLとMTBE45mLの混合溶媒)の屈折率および晶出率から作成した。
【0031】
【表2】
【0032】
B:過溶解していない場合の晶出率
過溶解していない場合の晶出率は、以下のようにして算出した。
メタノール22.5mLとメチルtert-ブチルエーテル22.5mLの混合溶媒を使用し、45℃、40℃、35℃、20℃、0~5℃におけるリナグリプチンの飽和溶液を調製。
それぞれの溶液の屈折率から上記の検量線を用いて晶出率を算出した。
【0033】
C:過溶解している結晶の割合の晶出率
過溶解している結晶の割合の晶出率は、過溶解していない場合の晶出率から現時点の溶液の晶出率(懸濁液から結晶をろ過し、そのろ液の屈折率から上記の検量線を用いて算出)を減算することで算出した。
なお、過溶解状態の測定は京都電子工業株式会社の屈折率計(モデル:RA-620)を使用し、測定温度:10℃で測定した。
それらの結果を下記表3に示した。
【0034】
【表3】
【0035】
実施例2:リナグリプチンの新規多形体の調製
メタノール(13.5mL)にリナグリプチン3.0g(5.9mmol)を加えて55℃まで加温し、溶解させた。その後、45℃まで冷却し、同温度でメチルtert-ブチルエーテル(6.0mL)、リナグリプチンの種晶0.015gを添加した。さらに同温度でメチルtert-ブチルエーテル(7.5mL)を添加し、45℃で1時間撹拌後、40℃まで冷却し、40℃で1時間撹拌後、35℃まで冷却し、35℃で1時間撹拌後、0~5℃まで冷却した。0~5℃で24時間攪拌後、析出した結晶をろ過し、ろ過物をメタノールとメチルtert-ブチルエーテルの1:1混合溶媒(6.0mL)で洗浄した後、60℃で減圧乾燥し、リナグリプチンの新規多形体を白色結晶として1.98g得た。
また得られた結晶の粉末X線回折パターンは図1に示すとおりであった。
晶出率および過溶解している結晶の割合は、実施例1に示す方法で算出した。
その結果を、表4に示した。
【0036】
【表4】
【0037】
実施例3:リナグリプチンの新規多形体の調製
メタノール(25.0mL)にリナグリプチン5.0g(9.8mmol)を加えて55℃まで加温し、溶解させた。その後、45℃まで冷却し、同温度で4時間撹拌後、析出した結晶をろ過した。得られた結晶を30℃で減圧乾燥し、リナグリプチンの新規多形体を白色結晶として得た。
得られた結晶の粉末X線回折パターンは図1に示すとおりであった。
【0038】
なお、実施例1~3における粉末X線回折の測定条件は以下のとおりである。
<粉末X線回折>
粉末X線回折の測定はRIGAKU社のUltimaIVを使用した。
X線:Cu/40kV/30mA
発散スリット:1/2°
発散縦制限スリット:10.00mm
散乱スリット:1/2°
受光スリット:0.15mm
モノクロ受光スリット:0.8mm
スキャンスピード:2.0000°/min
サンプリング幅:0.0200°
走査範囲:2.0000~40.0000°
【0039】
その粉末X線解析図から、前記した表1に示した格子定数が得られた。
【0040】
試験例1:残留溶媒試験
各実施例で得られたリナグリプチンの新規多形体について、下記の残留溶媒試験条件により残留溶媒の程度を観察した。
<残留溶媒試験条件>
ガスクロマトグラフ:Agilent Technologies 8890
検出器:水素炎イオン化検出器
カラム:内径0.32MM、長さ30Mのフューズドシリカ管の内面にガスクロマトグラフィー用6%シアノプロピルフェニル-94%ジメチルポリシロキサンを厚さ1.8ΜMで被覆する(AGILENT製DB-624を使用)。
カラム温度:40℃付近の一定温度で注入し、3分間保った後、65℃になるまで毎分5℃、180℃になるまで毎分10℃の割合で昇温する。その後、210℃になるまで毎分60℃で昇温し、5分間保つ。
注入口温度:250℃付近の一定温度
検出器温度:250℃付近の一定温度
キャリヤーガス:ヘリウム
流量:35cm/秒
スプリット比: 1:20
面積測定範囲:約15分間
ヘッドスペースサンプラー:Agilent Technologies 7697A
バイアル内平衡温度:80℃付近の一定温度
バイアル内平衡時間:40分間
ループ温度:95℃付近の一定温度
トランスファーライン温度:105℃付近の一定温度
キャリヤーガス:ヘリウム
加圧時間:30秒間
試料注入量:1.0mL
【0041】
その結果、実施例1で調製した本発明のリナグリプチンの新規多形体について、残留溶媒値はメタノール10ppm、メチルtert-ブチルエーテル51ppmであり、残留溶媒が極めて低いものであった。
【0042】
試験例2:保存安定性試験
本発明のリナグリプチンの新規多形体について、室温下、並びに40℃/75%RHにおける結晶形の安定性を検討した。
なお、40℃/75%RHにおける安定性については、対照品としてリナグリプチンの多形体Cと比較した。
それらの結果を下記表5及び表6に示した。
【0043】
表5:新規多形体の室温での安定性
【0044】
【表5】
【0045】
表6:40℃/75%RHにおける安定性
【0046】
【表6】

【0047】
各表に示した結果から判明するように、本発明のリナグリプチンの新規多形体は、結晶形の転移が認められず、保存安定性に優れたものであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0048】
以上に記載のとおり、本発明が提供するリナグリプチンの新規多形体は、商業的な大量生産が容易で、安全に製造することが可能である。
さらに、本発明のリナグリプチン新規多形体は、残留溶媒量が極めて少なく、薬剤学的組成物の有効成分として適している。
かかる点でその産業上の利用可能性は多大なものである。
図1