(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022114769
(43)【公開日】2022-08-08
(54)【発明の名称】磁石損失測定システム及び磁石損失測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/72 20060101AFI20220801BHJP
H01F 7/02 20060101ALI20220801BHJP
H01F 41/00 20060101ALI20220801BHJP
【FI】
G01N27/72
H01F7/02 Z
H01F41/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021011193
(22)【出願日】2021-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】591006298
【氏名又は名称】JFEテクノリサーチ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼▲崎▼ 亜希
(72)【発明者】
【氏名】中田 崇寛
【テーマコード(参考)】
2G053
【Fターム(参考)】
2G053AB01
2G053BA03
2G053BB16
2G053BC02
2G053BC14
2G053CA03
2G053DA01
2G053DA09
2G053DA10
2G053DB01
(57)【要約】
【課題】高周波の交流磁界条件下でも磁石損失を測定することができ、かつ、高温環境下でも高精度に磁石損失を測定することが可能な磁石損失測定システムを提供する。
【解決手段】本発明の磁石損失測定システム100は、測定対象の磁石10と、その外周に取り付けられた同軸2重コイル20と、これらを内部に配置させた励磁コイル30と、この励磁コイル30の両端から挿入され、磁石10及び同軸2重コイル20を両側から挟むカットコアから構成されるヨーク40と、を有し、同軸2重コイル20から取得された、磁石の磁束密度B及び交流磁界強度Hに基づいて、磁石10の磁石損失を測定する。本発明では、同軸2重コイルのボビンは、25℃から200℃に温度上昇した際の熱変形率が0.22%以下である材料からなり、ヨーク40を構成するカットコアは、厚さが0.10mm以下の軟磁性材料板を積層させてなることを特徴とする。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価対象の磁石と、
前記磁石の外周に取り付けられた同軸2重コイルであって、
前記磁石に直接巻き付けられた第1導線を含み、前記磁石の磁束密度Bを検出するか、又は、前記磁石の外周に位置する第1ボビンと、該第1ボビンに巻き付けられた第1導線と、を含み、前記磁石の磁気分極Jを検出する第1コイルと、
前記第1導線の外周に位置する第2ボビンと、該第2ボビンに巻き付けられた第2導線と、を含み、前記磁石に印加される交流磁界の強度Hを検出する第2コイルと、
を有する同軸2重コイルと、
前記磁石及び前記同軸2重コイルを内部に配置させた第3ボビンと、該第3ボビンに巻き付けられた第3導線と、を含み、交流磁界を発生させる励磁コイルと、
前記励磁コイルの前記第3ボビンの両端から挿入され、前記磁石及び前記同軸2重コイルを両側から挟む一対のストレート部を含むカットコアから構成され、前記励磁コイルが発生させる磁束を前記磁石に集中させるヨークと、
を有し、前記同軸2重コイルの前記第1コイルによって検出された前記磁石の磁束密度B、又は、前記同軸2重コイルの前記第1コイルによって検出された前記磁石の磁気分極Jから換算された前記磁石の磁束密度Bと、前記同軸2重コイルの前記第2コイルによって検出された前記交流磁界強度Hとに基づいて、前記磁石の磁石損失を測定する磁石損失測定システムであって、
前記第1ボビン及び前記第2ボビンは、25℃から200℃に温度上昇した際の熱変形率が0.22%以下である材料からなり、
前記カットコアは、厚さが0.10mm以下の軟磁性材料板を積層させてなる
ことを特徴とする磁石損失測定システム。
【請求項2】
前記カットコアは、前記磁石に前記磁束を誘導する円環状誘導路が2つ存在する形状を有する、請求項1に記載の磁石損失測定システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の磁石損失測定システムを用いて、
前記励磁コイルにより交流磁界を発生させつつ、前記ヨークにより前記励磁コイルが発生させる磁束を前記磁石に集中させた状態で、前記同軸2重コイルの前記第1コイルによって、前記磁石の磁束密度B又は磁気分極Jを検出し、かつ、前記同軸2重コイルの前記第2コイルによって、前記磁石に印加される交流磁界の強度Hを検出し、
前記同軸2重コイルの前記第1コイルによって検出された前記磁石の磁束密度B、又は、前記同軸2重コイルの前記第1コイルによって検出された前記磁石の磁気分極Jから換算された前記磁石の磁束密度Bと、前記同軸2重コイルの前記第2コイルによって検出された前記交流磁界強度Hとに基づいて、前記磁石の磁石損失を測定する、磁石損失測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁石損失測定システム及び磁石損失測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二酸化炭素削減の観点から電気自動車(EV)や、ハイブリット電気自動車(HEV)が普及しつつある。これら電気自動車に使われるモータの中でも、永久磁石モータは銅損が小さく、燃費が良いため、主流になりつつある。モータでは、ステータの励磁電流がつくる磁束の高調波成分、又は、ステータコアのスロットによるリプル磁束が、ロータに流れる現象がある。永久磁石モータでは、ロータ内の永久磁石が、この磁束の高調波成分やリプル磁束による磁界の変化を受けることで、永久磁石においてエネルギー損失(磁石損失)が発生する。この磁石損失により、磁石は発熱し、熱減磁を起こすため、磁石損失はモータ性能の低下につながる。永久磁石モータには、エネルギー積の大きな希土類永久磁石が近年用いられるようになったが、電気抵抗率が小さい希土類永久磁石では、大きな渦電流が発生するため、その磁石損失は、フェライト磁石などの他の磁石より大きくなる。
【0003】
そこで、磁石損失を低減化した磁石の研究開発や、ロータ内における磁石の配置や磁石の分割構造の設計、及び、モータ形状を最適化する設計の研究が行われている。
【0004】
磁石損失を低減化した磁石の開発に際し、試作した磁石のテストピースの磁石損失を評価する必要がある。また、ロータ内の磁石の配置や分割構造の設計や、モータ形状の設計においては、磁石損失による磁石の発熱量を知る必要がある。そのため、磁石損失を実測し、評価する必要がある。
【0005】
非特許文献1(特に、非特許文献1の
図1~3参照)には、以下のような、同軸2重コイルを用いたネオジム磁石の交流磁気損失の測定システム及び測定方法が記載されている。測定対象の磁石の外周に同軸2重コイルを取り付ける。そして、励磁コイルの内部に磁石及び同軸2重コイルを配置させる。2つのコの字型カットコア(SC型)のカット面同士を対向させ、片方の対向部では、一対のカットコア先端部を励磁コイルの両端から挿入して、磁石及び同軸2重コイルを挟む。他方の対向部では、一対のカットコア先端部の間に積層ケイ素鋼板を挟む。2つのSC型カットコア及び積層ケイ素鋼板は、励磁コイルが発生させる磁束を外界へ漏らさず、磁石に集中させるためのヨーク(C型ヨーク)として機能する。そして、励磁コイルにより交流磁界を発生させつつ、同軸2重コイルによって、磁石の磁束密度Bと磁石に印加される交流磁界強度Hを検出し、B-H曲線(交流ヒステリシス曲線)を得る。そして、交流ヒステリシス曲線の面積から磁石の磁石損失を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献1】金澤真一、高橋則雄、久保武春、「ネオジム焼結磁石の交流磁気損失の測定並びに解析との比較」、電学論A、124巻、10号、2004年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
インバータ駆動によるモータでは、そのキャリア周波数が20kHz程度に及ぶことから、時間的高調波を考慮した場合の磁石損失測定においては、20kHz程度の高周波までの交流磁界にて行う必要がある。つまり、磁石損失の測定は、モータのロータ内にある磁石に実際に印加される交流磁界の周波数と同等の、20kHzといった高い周波数の交流磁界条件下で行う要請がある。
【0008】
しかしながら、非特許文献1では30~150Hzという低周波の交流磁界を印加した環境下で磁石損失を評価しているに過ぎない。そして、本発明者らの検討によると、非特許文献1の技術では、10kHzを超えるような高周波の交流磁界を印加した環境下では、磁石損失を測定することができないことが判明した。
【0009】
また、モータ駆動時のモータ環境温度は高温にあり、モータ内の磁石も高温にある。このため、モータ設計は室温から高温の範囲に及び、モータ部材の環境試験温度は、最大200℃に及ぶ。このため、磁石損失の評価は、最大200℃までの高温下で行う要請があり、室温だけではなく高温でも磁石損失を評価することが可能な実測手法が求められている。
【0010】
しかしながら、非特許文献1では常温で磁石損失を評価しているに過ぎない。そして、本発明者らの検討によると、非特許文献1の技術では、高温環境下で高精度に磁石損失を測定することができないことが判明した。
【0011】
そこで本発明は、上記課題に鑑み、高周波の交流磁界条件下でも磁石損失を測定することができ、かつ、高温環境下でも高精度に磁石損失を測定することが可能な磁石損失測定システム及び磁石損失測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決すべく、本発明者らは鋭意検討し、以下の知見を得た。まず、本発明者らは、カットコアを構成する軟磁性材料板の厚さに着目した。非特許文献1では、カットコアは、23P140(厚さが0.23mm、鉄損W17/50が1.40W/kg以下の方向性電磁鋼板)を積層させてなる。このように、積層鋼板が0.23mmと厚いため、励磁コイルで高周波の交流磁界を発生させても、カットコアにて発生する渦電流が大きくなることによって磁石へ印加される磁束が大きく減衰し、コアの中を流れる磁束がほとんど消失し、その結果、磁石に磁束を印加することができないのではないかと考えた。そこで、本発明者らは、カットコアを構成する軟磁性材料板の厚さを0.10mm以下とすることによって、10kHzを超えるような高周波の交流磁界条件下でも磁石損失を測定することができることを見出した。
【0013】
次に、本発明者らは、同軸2重コイルのボビン材質に着目した。非特許文献1では、同軸2重コイルの導線を巻き付けるボビンの材質は、ガラスエポキシである。ガラスエポキシは、ガラス繊維をエポキシ樹脂で固めたものであるため、そのガラス転移点はエポキシ樹脂よりやや高い130~150℃となる。その結果、ガラスエポキシの熱変形率は、100℃以降で急激に大きくなる。このため、同軸2重コイルのボビンの材質がガラスエポキシであると、温度変化に伴う同軸2重コイルのコイル定数の変化が大きくなる。つまり、高温におけるコイル定数は、室温で校正した値とは解離する。そのため、高温環境下では高精度に磁石損失を測定することができないと考えられる。そこで、本発明者らは、同軸2重コイルの導線を巻き付けるボビンを、25℃から200℃に温度上昇した際の熱変形率が0.22%以下である材料からなるものとすることによって、最大200℃までの高温環境下でも高精度に磁石損失を測定することができることを見出した。
【0014】
以上の知見に基づいて完成された本発明の要旨構成は以下のとおりである。
[1]評価対象の磁石と、
前記磁石の外周に取り付けられた同軸2重コイルであって、
前記磁石に直接巻き付けられた第1導線を含み、前記磁石の磁束密度Bを検出するか、又は、前記磁石の外周に位置する第1ボビンと、該第1ボビンに巻き付けられた第1導線と、を含み、前記磁石の磁気分極Jを検出する第1コイルと、
前記第1導線の外周に位置する第2ボビンと、該第2ボビンに巻き付けられた第2導線と、を含み、前記磁石に印加される交流磁界の強度Hを検出する第2コイルと、
を有する同軸2重コイルと、
前記磁石及び前記同軸2重コイルを内部に配置させた第3ボビンと、該第3ボビンに巻き付けられた第3導線と、を含み、交流磁界を発生させる励磁コイルと、
前記励磁コイルの前記第3ボビンの両端から挿入され、前記磁石及び前記同軸2重コイルを両側から挟む一対のストレート部を含むカットコアから構成され、前記励磁コイルが発生させる磁束を前記磁石に集中させるヨークと、
を有し、前記同軸2重コイルの前記第1コイルによって検出された前記磁石の磁束密度B、又は、前記同軸2重コイルの前記第1コイルによって検出された前記磁石の磁気分極Jから換算された前記磁石の磁束密度Bと、前記同軸2重コイルの前記第2コイルによって検出された前記交流磁界強度Hとに基づいて、前記磁石の磁石損失を測定する磁石損失測定システムであって、
前記第1ボビン及び前記第2ボビンは、25℃から200℃に温度上昇した際の熱変形率が0.22%以下である材料からなり、
前記カットコアは、厚さが0.10mm以下の軟磁性材料板を積層させてなる
ことを特徴とする磁石損失測定システム。
【0015】
[2]前記カットコアは、前記磁石に前記磁束を誘導する円環状誘導路が2つ存在する形状を有する、上記[1]に記載の磁石損失測定システム。
【0016】
[3]上記[1]又は[2]に記載の磁石損失測定システムを用いて、
前記励磁コイルにより交流磁界を発生させつつ、前記ヨークにより前記励磁コイルが発生させる磁束を前記磁石に集中させた状態で、前記同軸2重コイルの前記第1コイルによって、前記磁石の磁束密度B又は磁気分極Jを検出し、かつ、前記同軸2重コイルの前記第2コイルによって、前記磁石に印加される交流磁界の強度Hを検出し、
前記同軸2重コイルの前記第1コイルによって検出された前記磁石の磁束密度B、又は、前記同軸2重コイルの前記第1コイルによって検出された前記磁石の磁気分極Jから換算された前記磁石の磁束密度Bと、前記同軸2重コイルの前記第2コイルによって検出された前記交流磁界強度Hとに基づいて、前記磁石の磁石損失を測定する、磁石損失測定方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の磁石損失測定システム及び磁石損失測定方法によれば、高周波の交流磁界条件下でも磁石損失を測定することができ、かつ、高温環境下でも高精度に磁石損失を測定することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1A】本発明の一実施形態による磁石損失測定システム100の斜視図である。
【
図1B】
図1Aにおいて、一対のストレート部である第1カットコア42A及び第2カットコア42Bが、磁石10及び同軸2重コイル20を挟んだ状態を抜き出して示した図である。
【
図2A】磁石損失測定システム100に用いる同軸2重コイル20の第一例を示す正面図である。
【
図2B】磁石損失測定システム100に用いる同軸2重コイル20の第一例を示す側面図である。
【
図3A】磁石損失測定システム100に用いる同軸2重コイル20の第二例を示す正面図である。
【
図3B】磁石損失測定システム100に用いる同軸2重コイル20の第二例を示す側面図である。
【
図4A】磁石10及び同軸2重コイル20が励磁コイル30内に配置された状態を示す上面図である。
【
図4B】磁石10及び同軸2重コイル20が視認可能な励磁コイル30の斜視図である。
【
図5】磁石損失測定システム100を電気炉70内に配置した状態を示す斜視図である。
【
図6】ヨーク40を構成するカットコアの斜視図である。
【
図7】ヨーク形状の変形例としての、ヨーク50の正面図である。
【
図8】ヨーク形状の変形例としての、ヨーク60の正面図である。
【
図9】交流ヒステリシス曲線を模式的に示したグラフである。
【
図10】実施例2において、磁石損失測定温度と磁石損失の測定誤差との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1Aを参照して、本発明の一実施形態による磁石損失測定システム100は、評価対象の磁石10と、同軸2重コイル20と、励磁コイル30と、ヨーク40と、を有する。以下、これら各要素について詳細に説明する。
【0020】
[磁石]
図2A、
図2B、
図3A、及び
図3Bを参照して、磁石10は、本実施形態において磁石損失を測定する対象の試料である。磁石10の種類は、永久磁石であれば特に限定されず、例えば、合金磁石、フェライト磁石、及び希土類焼結磁石などを例示することができる。磁石10の形状は、
図2A、
図2B、
図3A、及び
図3Bに示すように直方体であることが好ましいが、これに限定されることはなく、後述の同軸2重コイル20の軸方向(図中のz軸)に垂直な一対の平面を有していればよく、例えば、z軸に垂直な一対の同一形状・同一サイズの多角形平面を有する角柱や、z軸に垂直な一対の同一直径の円形平面を有する円柱を例示することができる。角柱は、四角柱(すなわち直方体及び立方体)であり得る。磁石10の寸法は特に限定されないが、
図2A、
図2B、
図3A、及び
図3Bに示すように直方体である場合、z軸に垂直な平面は、同軸2重コイル20の幅を踏まえて、一辺の長さが1~30mmの範囲とすることができ、z軸に沿った長さは1~20mmの範囲とすることができる。磁石10の形状が円柱の場合、z軸に垂直な平面は、直径が1.4~42mmの範囲とすることができ、z軸に沿った長さは、直方体の場合と同じく1~20mmの範囲とすることができる。
図2B及び
図3Bに示すように、磁石10は、z軸に沿った長さが同軸2重コイル20よりも長く、同軸2重コイル20の両側から飛び出ている。よって、
図1Bに示すように、ヨーク40の第1カットコア42A及び第2カットコア42Bは、磁石10のz軸に垂直な一対の平面と直接接触する。すなわち、ヨーク40に直接挟まれるのは、磁石10である。
【0021】
[同軸2重コイル]
図2A及び
図2Bに、同軸2重コイル20の第一例を示す。
図2A及び
図2Bに示す同軸2重コイル20は、第1コイル22及び第2コイル24を有する。第1コイル22は、磁石10に直接巻き付けられた第1導線22Bを含む。第2コイル24は、第1導線22Bの外周に位置する第2ボビン24Aと、この第2ボビン24Aに巻き付けられた第2導線24Bと、を含む。このように、第一例の同軸2重コイル20では、第1コイル22において、第1導線22Bを磁石10に直接巻き付けるタイプである。
【0022】
図3A及び
図3Bに、同軸2重コイル20の第二例を示す。
図3A及び
図3Bに示す同軸2重コイル20は、第1コイル22及び第2コイル24を有する。第1コイル22は、
磁石10の外周に位置する第1ボビン22Aと、この第1ボビン22Aに巻き付けられた第1導線22Bと、を含む。第2コイル24は、第1導線22Bの外周に位置する第2ボビン24Aと、この第2ボビン24Aに巻き付けられた第2導線24Bと、を含む。このように、第二例の同軸2重コイル20では、第1コイル22において、第1導線22Bを第1ボビン22Aに巻き付けるタイプである。
【0023】
第一例及び第二例の同軸2重コイル20ともに、磁石10の外周に取り付けられている。第1コイル22の軸方向と第2コイル24の軸方向とは同軸であり、図中のz軸である。第1コイル22は、磁石の磁束密度Bを直接検出する又は取得することができる。第2コイル24は、磁石に印加される交流磁界の強度Hを検出する。第一例の同軸2重コイル20では、第1コイル22が磁石の磁束密度Bを直接検出するのに対して、第二例の同軸2重コイル20では、第1コイル22は磁石の磁気分極Jを直接検出し、その後、B=μ
0H+Jの式に従って、Bを算出し取得する。ここで、μ
0は真空の透磁率である。そのため、第一例の同軸2重コイル20は「B-Hコイル」とも称され、第二例の同軸2重コイル20は「J-Hコイル」とも称される。このようにして、第一例及び第二例の同軸2重コイル20によって、
図9に例示するような交流ヒステリシス曲線(B-H曲線)を取得することができる。なお、
図2A、
図2B、
図3A、及び
図3Bでは、各コイル22,24から引き出した配線と、その配線を取り付ける端子は省略している。前記端子を中継して各コイル22,24は、電磁誘導現象によって第1コイル22と第2コイル24に誘起される電圧を積分計測する機器に接続される。前記機器にて各コイル22,24に誘起される電圧を計測し、この機器が前記電圧から磁束密度B又は磁気分極Jと、交流磁界強度Hを自動換算する。J-Hコイルを用いる場合には、前記機器が磁気分極Jから磁束密度Bを算出する。
【0024】
第1ボビン22Aの形状及び寸法は、特に限定されず、磁石10及びヨーク40の形状に応じて適宜選定すればよく、第1ボビン22Aの内壁面が磁石10の外周面と接触するようにすればよい。第1ボビン22Aのz軸に沿った長さは、磁石10とヨーク40が直接接触することを妨げないものであればよい。また、第2ボビン24Aの形状及び寸法は、特に限定されず、磁石10、第1コイル22、及びヨーク40の形状に応じて適宜選定すればよく、第2ボビン24Aの内壁面に、磁石10を取り付けた第1コイル22が収まればよい。第2ボビン22Bのz軸に沿った長さは、磁石10とヨーク40が直接接触することを妨げないものであればよい。
【0025】
第1導線22Bは特に限定されず、公知又は任意の導線を用いることができる。第1導線22Bの巻幅、巻き数、及び層数も特に限定されない。巻幅は、磁石10の厚みに応じて適宜設定すればよいが、例えば2~19mm程度とすることができる。巻き数は、巻幅と使用する導線の線径によって制限されるが、例えば5~200程度とすることができる。層数は1層でよい。
【0026】
第2導線24Bは特に限定されず、公知又は任意の導線を用いることができる。第2導線24Bの巻幅、巻き数、及び層数も特に限定されない。巻幅は、磁石10の厚みに応じて適宜設定すればよいが、例えば2~19mm程度とすることができる。巻き数は、巻幅と使用する導線の線径によって制限されるが、例えば5~200程度とすることができる。層数は1層でよい。
【0027】
[励磁コイル]
図1Aに加えて
図4A及び
図4Bも参照して、励磁コイル30は、第3ボビン32と、この第3ボビン32に巻き付けられた第3導線34と、を含む。第3ボビン32の内部には、帯状台座90が貫通しており、この帯状台座90上に固定されたサンプル保持具92に、磁石10及び同軸2重コイル20の組立体がセットされる。よって、磁石10及び同軸2重コイル20の組立体は、励磁コイル30の第3ボビン32の内部に配置される。このとき、
図4A及び
図4Bに示すように、励磁コイル30の軸方向が同軸2重コイル20の軸方向と一致するように、磁石10及び同軸2重コイル20を配置する。なお、
図4A及び
図4Bでは、励磁コイル30から引き出した配線と、配線を接続する電源装置は省略しているが、電源装置によって励磁コイル30に交流の電流を流すことによって、励磁コイル30は交流磁界を発生させる。
【0028】
第3ボビン32の形状及び寸法は、特に限定されず、内部に磁石10及び同軸2重コイル20を配置する空間を十分に有し、かつ、後述のヨーク40が挿入可能なように、適宜決定すればよい。例えば、
図4A及び
図4Bに示すように、第3ボビン32は四角筒形状とすることができるが、これに限定されず、円筒形状などであってもよい。第3ボビン32が四角筒形状の場合、軸に垂直な内壁面形状(長方形又は正方形)の一辺の長さが50~90mmの範囲とすることができる。また、第3ボビン32が円筒形状の場合、軸に垂直な内壁面形状(円)の直径が70~112mmの範囲とすることができる。また、第3ボビン32の軸方向長さは、特に限定されないが、50~350mmの範囲とすることができる。第3ボビン32の材質は、耐熱性を有する非磁性体であればよく、例えば、窒化アルミニウムなどのセラミックスを挙げることができる。
【0029】
第3導線34は特に限定されず、公知又は任意の導線を用いることができる。第3導線34の巻き数、巻幅、及び層数も特に限定されないが、巻き数は100~400程度とすることができ、巻幅は上記第3ボビン32の軸方向長さの範囲内であればよく、層数は1層でよい。
【0030】
[ヨーク]
図1A及び
図1Bを参照して、ヨーク40は、複数のカットコアから構成され、本実施形態では、ヨーク40は、一対のストレート部である直方体の第1カットコア42A及び第2カットコア42Bと、一対のコの字型カットコア(SC型)である第3カットコア44A及び第4カットコア44Bと、の計4つのカットコアから構成される。
図1A及び
図1Bに示すように、一対のストレート部である直方体の第1カットコア42A及び第2カットコア42Bは、励磁コイル30の第3ボビンの32両端から挿入され、同軸2重コイル20が取り付けられた磁石10を両側から挟む。第3カットコア44A及び第4カットコア44Bは、互いにカット面同士が対向しており、片方の対向部では、一対のカットコア先端部間で第1カットコア42Aを挟み、他方の対向部では、一対のカットコア先端部間で第2カットコア42Bを挟む。このようにして、ヨーク40は、励磁コイル30が発生させる磁束を磁石10に集中させる機能を有する。そのため、磁石10に印加する磁束密度Bを、モータ内で実際に磁石に印加される磁束密度と同等に調整することができる。本実施形態では、ヨーク40は、磁石10に磁束を誘導する円環状誘導路が2つ存在する形状を有する、いわゆる「ダブルヨーク」であり、励磁コイル30が発生させる磁束が外界に漏れることを抑え、磁石10に集中させる機能を十分に発揮することができる。ヨーク40の形状は、前記ダブルヨークであることが好ましいが、これに限定されることはなく、一対のコアの先端部で磁石10を挟んだ時に、コアが閉じた環を形成し、円環状誘導路を有していればよく、例えば、円形などもあり得る。
【0031】
ヨーク40の寸法は特に限定されないが、磁石10に磁束を誘導する円環状誘導路の方向に垂直な断面(長方形又は正方形)における一辺の長さは40~60mmの範囲とすることができる。また、ヨーク40の全体の縦、横、及び高さも特に限定されず、励磁コイル30の寸法に合わせて適宜決定すればよい。
【0032】
[磁石損失の測定原理]
以上の構成を有する磁石損失測定システム100を用いて、励磁コイル30により交流磁界を発生させつつ、ヨーク40により励磁コイル30が発生させる磁束を磁石10に集中させた状態で、同軸2重コイル20の第1コイル22によって、磁石10の磁束密度B又は磁気分極Jを検出し、かつ、同軸2重コイル20の第2コイル24によって、磁石10に印加される交流磁界の強度Hを検出する。磁気分極Jを検出した場合は、前記B=μ0H+Jの式に従ってBを算出し取得する。このように直接検出又は取得された磁石10の磁束密度Bと、同軸2重コイル20の第2コイル24によって検出された交流磁界強度Hとに基づいて、磁石10の磁石損失を測定する。
【0033】
具体的には、磁束密度B及び交流磁界強度Hに基づいて、
図9に例示するような交流ヒステリシス曲線(B-H曲線)を取得し、このB-H曲線を積分して得られる面積から、以下の式に基づいて磁石損失を算出することができる。
W=f・∫HdB/ρ
ここで、
W:磁石損失[W/kg]
f:交流磁界の周波数[Hz]
B:磁石の磁束密度[T]
H:交流磁界の強度[A/m]
ρ:磁石の密度[kg/m
3]
である。
【0034】
[同軸2重コイル20のボビン材質]
本実施形態では、同軸2重コイル20のボビン材質が重要である。樹脂を含む材料の場合、そのガラス転移点は、樹脂に依存し、100~200℃となるため、100~200℃における熱変形率は大きく、不適当である。このため、200℃以上にガラス転移点を持つ材料であるガラスが適しており、その中でも非磁性の性質を有するものである必要がある。ガラスの中でも、熱変形率の大きいリン酸ガラスは、25℃から200℃に温度上昇した際の熱変形率が0.22%であることから、ボビンの材質として適している材料は、当該熱変形率が0.22%以下のものである。また、ガラス転移点をもたないセラミックスはより好適である。ただし、そのセラミックスは非磁性の性質を有するものである必要がある。すなわち、
図2A及び
図2Bに示すB-Hコイルの場合は第2ボビン24Aが、25℃から200℃温度上昇した際の熱変形率が0.22%以下である材料からなることが重要であり、
図3A及び
図3Bに示すJ-Hコイルの場合には第1ボビン22A及び第2ボビン24Aが、25℃から200℃に温度上昇した際の熱変形率が0.22%以下である材料からなることが重要である。同軸2重コイル20のボビン材質の25℃から200℃に温度上昇した際の熱変形率が0.22%以下であることにより、高温環境下でボビンが変形してボビンの内部面積が増大することを十分に抑制することができ、すなわち、コイル定数の変化を十分に抑制することができる。その結果、最大200℃までの高温環境下でも高精度に磁石損失を測定することができる。ここで、200℃における熱変形率に着目したのは、モータ部材の環境試験温度が概ね200℃程度までであり、磁石損失測定で求められる温度も概ね200℃までであるためである。ボビン材質の熱変形率は小さいほど好ましいため、下限は特に限定されないが、ボビン材質の制約上、25℃から200℃に温度上昇した際の熱変形率は0.01%以上となる。これは、低膨張のコージライトやチタン酸アルミニウムなどの熱変形率の小さいセラミックスを用いた場合である。高温環境下における磁石損失測定は、
図5に示すように、磁石損失測定システム100を電気炉70内に配置し、炉内の雰囲気を所望の温度に設定して行うことができる。
【0035】
本発明において「25℃から200℃に温度上昇した際の熱変形率」は、以下の式及び方法によって決定する。
熱変形率=100×α200×(200℃-25℃)
上記式の線熱膨張率α200は、熱機械測定装置によって室温25℃から210℃程度まで熱機械測定を行って取得する。なお、熱機械測定を210℃程度まで行うこととした理由は、温度を上昇させながら伸びを測定する熱機械測定装置の特性を踏まえると、200℃までの測定では、200℃の測定点の精度を十分に得られない懸念があるためである。後述の実施例においては、熱機械測定装置(株式会社Rigaku製、TMA8311)を使用した。
【0036】
25℃から200℃に温度上昇した際の熱変形率が0.22%以下である材料は、ガラスやセラミックスなど、200℃以下にガラス転移点を持たず、かつ非磁性を有する材料であれば特に限定されないが、例えば、ガラスである場合は、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、リン酸ガラスなどを挙げることができ、セラミックスであれば、窒化アルミニウム、チタン酸アルミニウム、コージライトなどを挙げることができる。この材料を変更することによって熱変形率を調整することができる。
【0037】
[ヨークのカットコアを構成する軟磁性材料板]
図6を参照して、ヨーク40を構成するカットコアは、複数の軟磁性材料板46を積層させてなるものである。具体的には、複数の軟磁性材料板46を巻加工などで積層させ、歪取り焼鈍、接着、切断、研磨などの加工を施したものである。軟磁性材料板46の種類は特に限定されないが、例えば、方向性電磁鋼板、無方向性電磁鋼板、純鉄(α-Fe)、パーマロイなどを挙げることができる。この中でも、透磁率が比較的高く、安価である方向性電磁鋼板は好適である。本実施形態では、ヨーク40を構成するカットコア(具体的には、第1カットコア42A、第2カットコア42B、第3カットコア44A、及び第4カットコア44B)は、厚さが0.10mm以下の軟磁性材料板46を積層させてなるものであることが肝要である。積層させる軟磁性材料板46の厚さを0.10mm以下とすることによって、カットコアにて発生する渦電流を十分に小さくすることができ、その結果、磁石に10kHzを超えるような高周波の交流磁界を印加することができるようになり、高周波の交流磁界を印加した環境下でも磁石損失を測定することができる。ただし、ヨーク40の透磁率を高くし、印加できる磁束の密度を大きくする観点から、積層させる軟磁性材料板46の厚さは0.05mm以上であることが好ましい。なお、磁束を磁石10に集中させるためには、第1カットコア42A、第2カットコア42B、第3カットコア44A、及び第4カットコア44Bにおいて、軟磁性材料板の厚さ方向が、各カットコアを流れる磁束の向きと垂直になるように、軟磁性材料板を積層させる必要がある。
【0038】
[ヨーク形状の変形例]
ヨークの形状は、
図1Aに示すヨーク40の形状には限定されない。
図7を参照して、ヨーク50は、一対のコの字型カットコア(SC型)である第1カットコア52A及び第2カットコア52Bから構成される。
図7に示すように、一対の第1カットコア52A及び第2カットコア52Bのカット面同士を対向させ、片方の対向部では一対のカットコア先端部間で、同軸2重コイル20を取り付けた磁石10を挟み、他方の対向部では、一対のカットコアのカット面同士が突き合わされる。このヨーク50は、磁石10に磁束を誘導する円環状誘導路が1つ存在する形状を有する、いわゆる「C型ヨーク」である。
【0039】
図8を参照して、ヨーク60は、一対のE型カットコア(EC型)である第1カットコア62A及び第2カットコア62Bから構成される。
図8に示すように、一対の第1カットコア62A及び第2カットコア62Bのカット面同士を対向させ、中央の対向部では、一対のカットコア先端部間で、同軸2重コイル20を取り付けた磁石10を挟み、両側の対向部では、それぞれ一対のカットコアのカット面同士が突き合わされる。ヨーク60は、ヨーク40と同様に、磁石10に磁束を誘導する円環状誘導路が2つ存在する形状を有する、いわゆる「ダブルヨーク」であり、励磁コイル30が発生させる磁束を磁石10に集中させる機能を十分に発揮することができる。
【0040】
ヨーク50及びヨーク60の寸法は特に限定されないが、ヨーク40と同様に、磁石10に磁束を誘導する円環状誘導路の方向に垂直な断面(長方形又は正方形)における一辺の長さは40~60mmの範囲とすることができる。また、ヨーク50及びヨーク60の全体の縦、横、及び高さも特に限定されず、励磁コイル30の寸法に合わせて適宜決定すればよい。
【0041】
これらヨーク50及びヨーク60を構成するカットコアも、既述のヨーク40と同様に、複数の軟磁性材料板を積層させてなるものであり、その厚さを0.10mm以下とし、好ましくは0.05mm以上とする。ヨーク50及びヨーク60を構成するカットコアにおいても、軟磁性材料板の厚さ方向が、各カットコアを流れる磁束の向きと垂直になるように、軟磁性材料板を積層させる必要がある。
【実施例0042】
(実施例1)
図1Aに示す構成の磁石損失測定システムを用いて、以下のとおり磁石損失測定試験を行った。一辺が10mm×10mm角で厚さが5mmの角柱体の磁石を測定対象とした。同軸2重コイルとしては、
図3A及び
図3Bに示すJ-Hコイルを用いた。第1ボビンは、軸に垂直な内壁面形状が11mm×11mmの正方形であり、軸方向に沿った長さは4mmである。第1導線は、巻き数20、巻幅2mm、層数は1層である。第2ボビンは、その内壁面に第1ボビンが入る寸法を有し、軸方向に沿った長さは4mmである。第2導線は、巻き数20、巻幅2mm、層数は1層である。第1ボビン及び第2ボビンの材質はリン酸ガラスであり、25℃から200℃に温度上昇した際の熱変形率は、表1に示すように0.22%であった。
【0043】
励磁コイルにおいて、四角筒形状の第3ボビンの、軸に垂直な内壁面形状の一辺の長さは70mm×70mmとし、軸方向長さ(第3導線を巻いた部分)は、100mmとした。第2導線は、巻き数100、層数は1層である。
【0044】
ヨークの寸法に関して、磁石に磁束を誘導する円環状誘導路の方向に垂直な断面における一辺の長さは40mm×40mmとした。また、ヨーク40の全体の縦、横、及び高さは、それぞれ195mm、165mm、及び40mmとした。ヨークを構成するカットコアは、表1に示す厚さ及び規格の方向性電磁鋼板を積層させてなる。
【0045】
表1に示す交流磁界周波数、かつ、雰囲気温度:200℃の条件下で、Bコイルが0.01Tになるまで励磁コイルに通電し、磁石損失を測定した。結果を表1に示す。
【0046】
【0047】
表1に示すように、比較例であるNo.3-7では、励磁コイルに20kHzの交流電流を通電し、磁石損失の測定を試みたものの、カットコアにて発生する渦電流が大きくなり、その結果、磁石に所定の磁束密度を印加することができず、磁石損失の測定ができなかった。これに対して、発明例であるNo.1-2では、20kHzという高周波の交流磁界条件下で0.01Tの磁束密度を印加することができ、磁石損失を測定することができた。
【0048】
(実施例2)
表2に示すように、ヨークを構成するカットコアは、厚さ0.10mmの方向性電磁鋼板を積層させてなるものに固定し、他方で、第1ボビン及び第2ボビンの25℃から、50℃、150℃、及び200℃にそれぞれ温度上昇した際の熱変形率を表2に示すように種々変更して、実施例1と同様の磁石損失測定試験を行った。比較例No.1-2では、ボビン材質はガラスエポキシとしたため、25℃から200℃に温度上昇した際の熱変形率は、表2に示すとおり高い。発明例No.3ではボビン材質はリン酸ガラスとし、発明例No.4ではボビン材質は低膨張コージライトとしたため、25℃から200℃に温度上昇した際の熱変形率は、表2に示すように0.22%以下であった。
【0049】
印加磁束強度:0.01T、交流磁界周波数:20kHz、かつ、雰囲気温度:50℃、150℃、200℃の条件下で、磁石損失を測定した。次いで、この測定における熱変形により発生する磁石損失の測定誤差を求め、
図2に記載した。なお、測定誤差は、ボビンに熱膨張がない場合の損失値を計算によりあらかじめ求め、熱膨張がない場合の損失値と測定した損失値との差である。比較例であるNo.1-2は、ボビンの熱変形率が本発明範囲外のため、150℃以上で、測定誤差は急激に大きくなっている。これに対して、本発明例であるNo.3では、熱変形率が本発明範囲内のため、100℃以上の測定誤差の増加を抑えることができている。さらに、より熱変形率の低い本発明例No.4では、測定誤差は0%に近い。以上より、高温環境下でも高精度に磁石損失を測定できた。
【0050】
本発明によれば、高周波の交流磁界条件下でも磁石損失を測定することができ、かつ、高温環境下でも高精度に磁石損失を測定することが可能である。そのため、モータ実機の様々な環境を模擬した磁石損失評価を精度良く行うことができ、低損失磁石の開発やモータ設計の最適化に貢献する。