(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022114856
(43)【公開日】2022-08-08
(54)【発明の名称】水中不分離性コンクリート組成物、および水中不分離性コンクリートの製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20220801BHJP
B28C 7/04 20060101ALI20220801BHJP
C04B 22/08 20060101ALI20220801BHJP
C04B 24/00 20060101ALI20220801BHJP
C04B 24/26 20060101ALI20220801BHJP
C04B 24/38 20060101ALI20220801BHJP
【FI】
C04B28/02 ZAB
B28C7/04
C04B22/08 B
C04B24/00
C04B24/26 D
C04B24/38 C
C04B24/38 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021011313
(22)【出願日】2021-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】501173461
【氏名又は名称】太平洋マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 英明
(72)【発明者】
【氏名】丸田 浩
(72)【発明者】
【氏名】長塩 靖祐
【テーマコード(参考)】
4G056
4G112
【Fターム(参考)】
4G056AA06
4G056CB34
4G112MB04
4G112MD00
4G112PB07
4G112PB14
4G112PB31
4G112PB39
4G112PB40
4G112PC08
4G112PE01
(57)【要約】
【課題】水中における懸濁物質の放出が少なく、かつ凍結融解抵抗性とを両立し、さらに高い強度を有する水中不分離性コンクリート組成物、および水中不分離性コンクリートの製造方法の提供。
【解決手段】セメント、固形パラフィン、亜硝酸塩、起泡剤、および増粘剤を含む水中不分離性コンクリート組成物であって、前記水中不分離性コンクリートの単位量として、固形分換算で、前記固形パラフィンを0.5~5.0kg/m3、前記亜硝酸塩を0.5~4.0kg/m3、前記増粘剤を1.5~4.0kg/m3含むことを特徴とする、水中不分離性コンクリート組成物。このコンクリート組成物は、コンクリートに、固形パラフィン、亜硝酸塩、起泡剤、および増粘剤を添加し、練り混ぜることにより製造することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント、固形パラフィン、亜硝酸塩、起泡剤、および増粘剤を含む水中不分離性コンクリート組成物であって、前記水中不分離性コンクリートの単位量として、固形分換算で、前記固形パラフィンを0.5~5.0kg/m3、前記亜硝酸塩を0.5~4.0kg/m3、前記増粘剤を1.5~4.0kg/m3含むことを特徴とする、水中不分離性コンクリート組成物。
【請求項2】
前記増粘剤が、セルロース系増粘剤、ガム系増粘剤およびアクリル系増粘剤からなる群から選択される、請求項1に記載の水中不分離性コンクリート組成物。
【請求項3】
コンクリートに、固形パラフィン、亜硝酸塩、起泡剤、および増粘剤を添加する水中不分離性コンクリートの製造方法であって、前記水中不分離性コンクリートが、単位量として固形分換算で、前記固形パラフィンを0.5~5.0kg/m3、前記亜硝酸塩を0.5~4.0kg/m3、前記増粘剤を1.5~4.0kg/m3含むことを特徴とする、水中不分離性コンクリートの製造方法。
【請求項4】
前記固形パラフィンを分散媒に分散させた分散液として、前記亜硝酸塩を溶媒に溶解させた水溶液として、前記コンクリートに添加する、請求項3に記載の水中不分離性コンクリートの製造方法。
【請求項5】
前記分散液が、起泡剤をさらに含む、請求項4に記載の水中不分離性コンクリートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中不分離性コンクリート組成物、および水中不分離性コンクリートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、海岸、海洋、港湾または河川に橋(橋脚)や防波堤等を建設する場合、土木建築工事において水中に直接コンクリートを打設することとなる。しかし、その際にセメント成分が水により洗い流されることで河川等の水質汚濁や、コンクリート構造物の強度低下を招くことがある。そのため施工には、増粘剤をコンクリートに混和した水中不分離性コンクリート組成物が用いられる。
【0003】
水中不分離性コンクリートは、水中に打ち込まれたコンクリートが硬化するまでに組成物中から空気が抜け出す。このとき、空気と一緒にセメントの微粒子が水中に放出され、周辺の水の懸濁がおこることが懸念される。このような水の懸濁を抑制するためには、コンクリート組成物中の空気量は少なくする方が望ましい。
【0004】
しかし、橋脚等の干満帯等に施工される構造物に水中不分離性コンクリートを適用する場合に空気量を少なくすると、凍結融解作用による構造物の劣化が懸念される。そのため、このような構造物を施工する場合には、干満帯の手前まで水中不分離性コンクリートを打設し、その上部に凍結融解抵抗性を有する、水中不分離性コンクリートとは異なるコンクリートを打設することが好ましい。しかしながら、そのように異なるコンクリートを打設することは、費用や手間が嵩むといった問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-079058号公報
【特許文献1】特開2016-124760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、水中における懸濁物質の放出が少なく、かつ凍結融解抵抗性とを両立し、さらに高い強度を有する水中不分離性コンクリート組成物、および水中不分離性コンクリートの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] セメント、固形パラフィン、亜硝酸塩、起泡剤、および増粘剤を含む水中不分離性コンクリート組成物であって、前記水中不分離性コンクリートの単位量として、固形分換算で、前記固形パラフィンを0.5~5.0kg/m3、前記亜硝酸塩を0.5~4.0kg/m3、前記増粘剤を1.5~4.0kg/m3含むことを特徴とする、水中不分離性コンクリート組成物。
[2] 前記増粘剤が、セルロース系増粘剤、ガム系増粘剤およびアクリル系増粘剤からなる群から選択される、[1]に記載の水中不分離性コンクリート組成物。
[3] コンクリートに、固形パラフィン、亜硝酸塩、起泡剤、および増粘剤を添加する水中不分離性コンクリートの製造方法であって、前記水中不分離性コンクリートが、単位量として、固形分換算で、前記固形パラフィンを0.5~5.0kg/m3、前記亜硝酸塩を0.5~4.0kg/m3、前記増粘剤を1.5~4.0kg/m3含むことを特徴とする、水中不分離性コンクリートの製造方法。
[4] 前記固形パラフィンを分散媒に分散させた分散液として、前記亜硝酸塩を溶媒に溶解させた水溶液として、前記コンクリートに添加する、[3]に記載の水中不分離性コンクリートの製造方法。
[5] 前記分散液が、起泡剤をさらに含む[4]に記載の水中不分離性コンクリートの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、水中不分離性と、凍結融解抵抗性とを両立した水中不分離性コンクリートが提供される。この水中不分離性コンクリートを用いることにより、橋脚等の干満帯等におけるコンクリート施工において、単一のコンクリート組成物を用いながら、十分な強度と、水中不分離性と、凍結融解抵抗性とを兼ね備えた構造物を施工することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書において「水中不分離性コンクリート」とは、増粘剤等を混和することにより、水中での材料分離抵抗を高めた水中コンクリートをいう。また、本明細書において「水中不分離性が高い」とは、土木学会で定められた規格であるJSCE-D 104-2013「コンクリート用水中不分離性混和剤品質規格(案)」に準拠して評価した際に、懸濁物質量が50mg/L以下であり、かつ、硬化後の材齢28日における水中気中強度比が80%以上であることをいう。懸濁物質量が50mg/L以下であれば水中でのコンクリートの分離を効果的に抑えることができ、水中気中強度比が80%以上であれば水中での強度発現性を維持することができる。
【0010】
本発明の内容について、以下に詳細に説明する。
【0011】
<水中不分離性コンクリート組成物>
本発明による水中不分離性コンクリート組成物は、セメント、固形パラフィン、亜硝酸塩、および増粘剤を含む。そして、固形パラフィン、亜硝酸塩、および増粘剤が所定量含まれていることで、従来の水中不分離性コンクリート組成物と同等以上の強度および水中不分離性を示しながら、さらに高い凍結融解抵抗性をも示す。そのため、干満帯などにおいて、構造物の部分ごとにコンクリート組成物を変更する必要が無く、施工コストを抑制できる。
【0012】
本発明による水中不分離性コンクリート組成物の各構成要素について、以下にそれぞれ説明する。なお、本明細書において、「単位量(kg/m3)」とは、1m3のコンクリートを製造するときに用いる各原料の使用量を意味する。また「単位セメント量」および「単位水量」は、1m3のコンクリートを製造するときに用いるセメントと水の使用量をそれぞれ意味する。
【0013】
[セメント]
本発明に用いるセメントとしては、種々のものを使用することができ、例えば、ポルトランドセメントや混合セメントなどを使用することができる。そのようなポルトランドセメントとしては、例えば、普通、早強、超早強、低熱及び中庸熱等の各種ポルトランドセメントが挙げられる。混合セメントとしては、例えば、フライアッシュ、高炉スラグ、シリカフューム又は石灰石微粉末等が混合された各種の混合セメントが挙げられる。この中でも、高炉スラグが混合された高炉セメントが、海洋環境下での耐久性に優れるため好ましい。また、上記以外のセメントとしては、速硬性を有しない普通セメントタイプのエコセメントなどが挙げられる。これらのセメントは、いずれか1種を選択して使用することもできるが、2種以上のセメントを組み合わせて使用してもよい。
【0014】
本発明による水中不分離性コンクリート組成物中に、セメントは一般に300~500kg/m3の単位セメント量で含まれる。単位セメント量は、水和発熱の観点から300~450kg/m3であることが好ましく、300~400kg/m3であることがより好ましい。
【0015】
水とセメントとの重量比(W/C)は、通常35~65%であり、40~60%であることが、水和発熱低減および圧縮強度の確保の観点から好ましい。
【0016】
[固形パラフィン]
本発明に用いられる固形パラフィンは、CnH2n+2(nは、一般的には、20以上の整数)で表され、常温で固体の脂肪族飽和炭化水素である。この固形パラフィンの形状は任意に選択することができるが、コンクリート中に均一に分散させるために、粒子状であることが好ましい。また、固形パラフィン粒子は通常乳化された固形パラフィン粒子の状態で分散されることが好ましい。固形パラフィン粒子の大きさとしては、粒子径が0.1~2μmが好ましく、0.2~1.0μmがより好ましい。
【0017】
本発明において、固形パラフィンの使用量は水中不分離性コンクリートの単位量として、固形分換算で0.5~5.0kg/m3、好ましくは0.7~3.0kg/m3である。使用量が多い方が凍結融解抵抗性が高くなるので好ましく、過度に含まれても改良効果は飽和するので、一定量以下であることが好ましい。
【0018】
[亜硝酸塩]
本発明による水中不分離性コンクリート組成物は、亜硝酸塩を含む。用いることができる亜硝酸塩としては、例えば亜硝酸リチウム、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、亜硝酸ベリリウム、亜硝酸マグネシウム、亜硝酸カルシウム、亜硝酸亜鉛、亜硝酸ストロンチウム、亜硝酸バリウム等が挙げられる。本発明において、好ましい亜硝酸塩は亜硝酸リチウム、または亜硝酸カルシウムである。
【0019】
本発明において、亜硝酸塩の使用量は水中不分離性コンクリートの単位量として、固形分換算で0.5~4.0kg/m3、好ましくは0.8~2.0kg/m3である。使用量が多い方が凍結融解抵抗性が高くなるので好ましく、過度に含まれてもスランプの低下が大きくなる可能性があるので、一定量以下であることが好ましい。
【0020】
[起泡剤]
本発明による水中不分離性コンクリート組成物は、起泡剤(起泡成分)を含む。
起泡成分としては、一般的なコンクリート用起泡剤の主成分として用いられるものが挙げられる。例えば、樹脂酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、高級アルコールエチレンオキサイド付加物の硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルアリールスルホン酸塩、ロジン酸塩類等が挙げられ。これらのうち樹脂酸塩が特に好ましい。
【0021】
一般にモルタルやコンクリート中の空気量を調整する場合、起泡剤を添加して調整される。起泡剤(起泡成分)は水中不分離性コンクリート組成物中に、0.01~0.5kg/m3、好ましくは0.03~0.3kg/m3含まれる。
【0022】
[増粘剤]
本発明に用いる増粘剤としては、通常コンクリートに使用されているものであれば特に制限されるものではないが、コンクリートに増粘性を付与し、水中に投入された場合における材料の分離抵抗性に優れたものが望まれる。そのような増粘剤として、例えば、セルロース系増粘剤、ガム系増粘剤およびアクリル系増粘剤等が挙げられる。セルロース系増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロースおよびヒドロキシアルキルアルキルセルロース等が挙げられる。アクリル系増粘剤としては、カルボキシビニルポリマー等が挙げられる。ガム系増粘剤としては、ローカストビーンガム、キサンタンガムおよびジェランガム等が挙げられる。これらの中では、特にセルロース系増粘剤が好ましい。
【0023】
増粘剤の使用量は、好ましくは、1.5~4.0kg/m3であり、2.0~3.0kg/m3であることが好ましい。増粘剤の使用量が多い方がコンクリートに水中不分離性を十分に付与することができるが、一定量以下で少ないほうが凝結の遅延を抑制することができるので、増粘剤の使用量はこの範囲内とすることが好ましい。
【0024】
[その他の構成要素]
本発明による水中不分離性コンクリート組成物は、上記の必須成分に加えて、以下の構成要素を含有することができる。
【0025】
[分散剤]
本発明で用いる分散剤は、一般的にモルタルやコンクリートの製造に使用されるセメント用の分散剤を用いることができる。そのような分散剤としては、例えば、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤および流動化剤等が挙げられる。具体的には、メラミンスルホン酸系分散剤、ポリカルボン酸系分散剤およびナフタレンスルホン酸系分散剤等の分散剤が挙げられる。これらの中では、特にポリカルボン酸系の分散剤が好ましい。
【0026】
分散剤の使用量は、単位セメント量に対して、4.0重量%以下である。使用量を4.0質量%以下とすることで、所要の流動性および初期強度が得られる。分散剤の使用量は、3.5質量%以下であることがより好ましい。
【0027】
分散剤の添加方法としては、例えば、コンクリートプラントにおいて他の使用材料と併せて添加して混練する方法、あるいはコンクリート施工現場において最後に添加し混練する方法があるが、特にこれらに制限されるものではない。
【0028】
(骨材)
本発明に用いられる骨材は、特に制限されるものではなく、通常のコンクリートの製造に使用される細骨材および粗骨材を何れも使用することができる。そのような細骨材および粗骨材として、例えば川砂、海砂、山砂、砕砂、人工細骨材、スラグ細骨材、再生細骨材、珪砂、川砂利、陸砂利、砕石、人工粗骨材、スラグ粗骨材および再生粗骨材等が挙げられる。
【0029】
骨材の使用量は、単位量で1500~2000kg/m3であり、さらに1600~1800kg/m3とするのが、発熱および乾燥収縮の抑制ならびにワーカビリティー確保のバランスの点で好ましい。
【0030】
また、全骨材の容積に対する細骨材の容積の占める割合(s/a)は、通常35~50%であり、40~45%であることがワーカビリティー確保の観点から好ましい。
【0031】
(水)
本発明に用いられる水は、特に制限されるものではなく、通常のコンクリートの製造に用いる水を使用することができる。水の使用量(単位水量)は、一般に180~250kg/m3である。単位水量は、材料分離抵抗性を高め、かつ、乾燥収縮を抑制する観点から、190~230kg/m3が好ましい。混練には、コンクリートミキサを用いることが好ましい。
【0032】
(任意の混和剤)
さらに、本発明による水中不分離性コンクリート組成物は、本発明の効果を実質失わない範囲で、例えばモルタルやコンクリートに使用できる他の成分(混和剤(材))を含有するものであっても良い。このような成分として、具体的には、収縮低減剤、膨張材、保水剤、防錆剤、空気連行剤、消泡剤、防水材、撥水剤、白華防止剤、顔料、繊維、シリカフューム、スラグおよびフライアッシュ等が例示される。
【0033】
本発明による水中不分離性コンクリート組成物は、セメントと、固形パラフィンと、亜硝酸塩と、起泡剤と、増粘剤とを含み、コンクリートの単位量として、固形分換算で、前記固形パラフィンを0.5~5.0kg/m3、前記亜硝酸塩を0.5~4.0kg/m3、前記増粘剤を1.5~4.0kg/m3含むものであって、土木学会で定められた規格であるJSCE-D 104-2013「コンクリート用水中不分離性混和剤品質規格(案)」に準拠して評価した際に、懸濁物質量を50mg/L以下とし、かつ、硬化後の材齢28日における水中気中強度比を80%以上とすることができる。
【0034】
<水中不分離性コンクリートの製造方法>
本発明による水中不分離性コンクリートは、上記の各成分を練混ぜることにより製造することができる。これらの各成分、および必要に応じて組み合わせる、その他の構成要素の添加順序は、本発明の効果を損なわない範囲で任意の順序で行うことができる。
【0035】
しかしながら、上記したとおり、前記固形パラフィンは、分散媒に分散させた分散物としてコンクリートに添加することが好ましい。分散媒は、一般的には水を主成分とする水性媒体であり、好ましくは水が用いられる。この分散媒は必要に応じて少量の有機溶媒、例えばアルコール類を含んでいてもよい。
【0036】
さらに、その分散物には、乳化剤を添加することが好ましい。分散物に乳化剤が添加されると固形パラフィン分散物の安定性が改良されるためである。その結果、水中不分離性コンクリートにおいても固形パラフィン粒子が均一に混和される。
【0037】
また上記乳化剤は、固形パラフィン粒子を乳化し、μmオーダーの粒子として分散可能なものであれば特に限定されるものではない。したがって、各種の界面活性剤などから任意に選択できるが、コンクリート中の空気量の安定性の点から、非イオン系界面活性剤が好ましい。
【0038】
この分散物における固形パラフィンの固形分濃度は、分散物の総質量を基準として、例えば10~50質量%である。また、乳化剤の含有量は、分散物の総質量を基準として、5.0~10.0質量%が好ましい。
【0039】
さらに、本発明者らの検討によれば、固形パラフィンをコンクリートに添加した場合は、一般的なコンクリート用空気連行剤(AE剤)を添加しても、空気量を調整することが難しいことがわかった。一方、固形パラフィンを含む分散物に予め起泡剤が含まれることによって、コンクリート中の空気量の制御が容易になることが判明した。このために、固形パラフィン分散物中に起泡剤を添加しておくことが好ましい。この場合、分散物中の起泡剤の含有量としては、分散物の総質量を基準として、固形分換算で0.1~4.0質量%が好ましく、0.5~3.0質量%がより好ましい。
【0040】
さらに、亜硝酸塩は、コンクリートに溶液の形態で添加することが便利である。溶媒は、一般的には水を主成分とする水性溶媒であり、好ましくは水が用いられる。この溶媒は必要に応じて少量の有機溶媒、例えばアルコール類を含んでいてもよい。亜硝酸塩を含む水溶液の濃度は特に限定されないが、一般に固形分濃度が5~50質量%であり、10~40質量%であることが好ましい。
【0041】
ここで、固形パラフィンと亜硝酸塩とを単一の組成物として調製した場合、その組成物の安定性を確保することが困難となりやすいため、前記固形パラフィンを分散媒に分散させた分散液として、前記亜硝酸塩を溶媒に溶解させた水溶液として、それぞれ独立に前記コンクリートに添加することが好ましい。また、個別に添加することに代えて、分散物と溶液とを、使用の直前にコンクリートの練混ぜ水に添加して使用してもよい。
【0042】
なお、本願発明における水中不分離性コンクリートの空気量は、主として、固形パラフィンを含む分散物中に添加される起泡剤によって調製される。しかしながら、さらなる空気量調整のために、補助的にAE剤をコンクリートに添加することもできる。このような場合には、AE剤をコンクリートの練混ぜ水に添加して使用することが好ましい。
【0043】
増粘剤、およびその他の必要に応じて用いる構成要素の添加順序は、得られる硬化体の性能に大きな影響を与えないので、特に限定されない。それぞれ個別にコンクリートに添加してもよいし、一度にコンクリートへ添加してもよい。また、液状の混和剤については、あらかじめ練り混ぜ水に添加して使用することもできる。
【実施例0044】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明が実施例により限定されるものではない。
【0045】
<水中不分離性コンクリートの製造>
まず、固形パラフィンと、乳化剤と、起泡剤と、水とを含む分散物(以下、A剤という)と、亜硝酸カルシウムを含む水溶液(以下、B剤という)を準備した。これらの含有量は表1に示すとおりであった(それぞれ質量%)。なお、乳化剤として非イオン性界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルエーテル)を、起泡剤として樹脂酸塩を用いた。
【0046】
環境温度20℃にて、強制二軸コンクリートミキサを用いて表2に示す割合で各成分を練り混ぜて水中不分離性コンクリートを製造した。なお、各成分としては以下のものを用いた。
・練混ぜ水(記号W):上水道水
・セメント(記号C):普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製、密度3.16g/cm3)
・細骨材(記号S):山砂(静岡県掛川市産、表乾密度2.57g/cm3)
・粗骨材(記号G):硬質砂岩2005(茨城県桜川市産、表乾密度2.65g/cm3)
・増粘剤(記号L1):セルロース系増粘剤(メチルセルロース)
・増粘剤(記号L2):アクリル系増粘剤(ポリアクリルアミド)
・増粘剤(記号L3):ガム系増粘剤(グアガム)
・分散剤(記号SP):ポリカルボン酸系減水剤
【0047】
【0048】
【0049】
得られた組成物について、以下の通りの方法で性能を評価した。得られた結果は表3に示すとおりであった。
【0050】
<スランプフロー>
スランプフローの測定は、JIS A 1150「コンクリートのスランプフロー試験方法」に準拠して行い、スランプコーン引き抜き後、5分後にスランプフロー値を測定した。
【0051】
<空気量>
空気量の測定は、JIS A 1128「フレッシュコンクリートの空気量の圧力による試験方法‐空気室圧力方法」に準拠して行った。
【0052】
<懸濁物質量>
コンクリートを水中に投入した際の懸濁物質量は、土木学会で定められた規格であるJSCE-D104-2013「コンクリート用水中不分離性混和剤品質規格(案)」に準拠して測定した。具体的な測定方法は以下に示す通りである。
【0053】
まず、コンクリート試料を所定の形状の投入容器に500g計り取り、800mlの蒸留水中に10回に分けて投入した。全ての試料を水中に投入した後、3分間静置し、静かに上澄み液を約600ml分取した。分取した水を均一に混合し、その一部を正確に計り取って被検水とした。その被検水をろ過し、残渣を乾燥させて重量を測定した。懸濁物質量(mg/L)は、残渣の重量(mg)を被検水の量(L)で除して算出した。
【0054】
<水中気中圧縮強度比>
(気中での供試体の作製)
練り混ぜた試料を、型枠(内径100mm、高さ200mm)の充填部内に流し込んだ。コンクリートが十分に硬化するまで、24時間放置し、その後型枠を外してコンクリート供試体を得た。その後、供試体を20℃水中養生し、材齢28日まで養生してから圧縮強度試験に用いた。
【0055】
(水中での供試体の作製)
水槽いっぱいに水道水を入れ、その水槽の中に型枠の開口部が上を向くように、型枠を置いた。型枠は、気中での供試体の作製に用いたものと同じものを用いた。表2に記載の原料を、記載された使用量となるように混合してミキサを用いて練り混ぜた試料を、約10回に分けてその型枠の中に静かに投入した。試料を充填した型枠を水中から静かに取り出し、そのまま大気中に15分間静置した後、養生場所に移して2日間養生した。その後、供試体を型枠から取り外し、直ちに20℃水中養生を開始し、材齢28日まで養生してから圧縮強度試験に用いた。
【0056】
(圧縮強度)
圧縮強度は、JIS A 1108「コンクリートの圧縮強度試験方法」に準拠して行った。
【0057】
(水中気中圧縮強度比算出方法)
上記手順に従って気中および水中で得られたそれぞれの供試体の圧縮強度を算出し、水中気中強度比を求めた。水中気中強度比は、水中で得られた供試体の圧縮強度を気中で得られた供試体の圧縮強度で除し、百分率で表わしたものである。
【0058】
<耐凍害性>
耐凍害性は、JIS A 1148「コンクリートの凍結融解試験方法」に準拠して、耐久性指数を算出して評価した。
【0059】
【0060】
上記結果より、増粘剤が過剰に含まれると十分に硬化するのに長時間かかり、少ないと、懸濁物質量が多くなることがわかる。また、固形パラフィン、亜硝酸塩、または起泡剤のいずれかが含まれないと、耐凍害性の改良効果が劣ることがわかる。