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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022011489
(43)【公開日】2022-01-17
(54)【発明の名称】吸着パッド
(51)【国際特許分類】
   B25J 15/06 20060101AFI20220107BHJP
【FI】
B25J15/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020112659
(22)【出願日】2020-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000204240
【氏名又は名称】株式会社TAIYO
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】池 燦圭
(72)【発明者】
【氏名】大貫 一美
(72)【発明者】
【氏名】三浦 隆一
(72)【発明者】
【氏名】阪本 晴康
【テーマコード(参考)】
3C707
【Fターム(参考)】
3C707EV13
3C707EV16
3C707FS01
3C707FT08
(57)【要約】
【課題】発生した異物を検出可能で、耐摩耗性が高く、しかも、素材の段差を吸収可能な吸着パッドを提供する。
【解決手段】空気吸引口7を有し、被吸着物3と対向するハウジング4と、被吸着物3に対して進退する方向と平行な方向に延びる状態で空気吸引口7を囲む位置に設けられ、前進位置と後退位置との間で移動自在に構成された多数のピン5とを備える。多数のピン5を前進位置に向かう方向へ付勢するばね部材33を備える。多数のピン5は、剛体によって形成され、隣り合うピン5どうしが互いに接触する状態でばね部材33のばね力によって押されてハウジング4から突出する。ハウジング4とハウジング4から突出した多数のピン5は、被吸着物3に向けて開口する負圧室を形成している。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気が吸引される空気吸引口を有し、被吸着物と対向するハウジングと、
前記被吸着物に対して進退する方向と平行な方向に延びる状態で前記ハウジングの前記空気吸引口を囲む位置に設けられ、前記被吸着物に向けて前進した前進位置と前記被吸着物とは反対の方向に後退した後退位置との間で移動自在に構成された多数のピンと、
前記多数のピンを前記前進位置に向かう方向へ付勢するばね部材とを備え、
前記多数のピンは、剛体によって形成され、隣り合うピンどうしが互いに接触する状態で前記ばね部材のばね力によって押されて前記ハウジングから突出し、
前記ハウジングと前記ハウジングから突出した前記多数のピンは、前記被吸着物に向けて開口する負圧室を形成していることを特徴とする吸着パッド。
【請求項2】
請求項1記載の吸着パッドにおいて、
前記多数のピンは金属材料によって形成されていることを特徴とする吸着パッド。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の吸着パッドにおいて、
前記ハウジングは、前記空気吸引口が開口する底壁を有しかつ円筒からなる周壁を有する有底円筒状に形成され、
前記周壁には、前記多数のピンと前記ばね部材とを収容する円環状の中空部が設けられ、
前記周壁の前記被吸着物と対向する一端には、前記周壁の周方向の全域にわたって前記中空部の内外を連通する環状の穴が形成され、
前記穴の径方向内側の穴壁面は、前記周壁の外周面に倣って延びる凸曲面によって形成され、
前記穴の径方向外側の穴壁面は、前記周壁の径方向の外側に向けて湾曲するとともに前記周壁の軸線方向に延びる凹曲面を前記多数のピンの本数と同数だけ前記周壁の周方向に並べて形成され、
前記ピンは、
前記凸曲面と前記凹曲面とに摺動自在に嵌合する本体部と、
前記本体部より前記被吸着物とは反対側に設けられ、前記穴の開口部分に前記中空部内から対向するストッパー部とを有し、
前記ばね部材は、前記ストッパー部と前記中空部における前記穴とは反対側の壁との間に設けられていることを特徴とする吸着パッド。
【請求項4】
請求項1~請求項3の何れか一つに記載の吸着パッドにおいて、
前記ばね部材は、前記多数のピンのピン毎に設けられた圧縮コイルばねであることを特徴とする吸着パッド。
【請求項5】
請求項4記載の吸着パッドにおいて、
前記ばね部材は、一端から他端に向かうにしたがって外径が次第に大きくなる円すいコイルばねによって構成されていることを特徴とする吸着パッド。
【請求項6】
請求項1~請求項3の何れか一つに記載の吸着パッドにおいて、
前記ばね部材は、一つの圧縮コイルばねであり、
全ての前記ピンが前記ばね部材によって付勢されていることを特徴とする吸着パッド。
【請求項7】
請求項1~請求項6の何れか一つに記載の吸着パッドにおいて、
前記ハウジングは、アルミニウム合金によって形成され、
前記ピンは、アルミニウム合金より剛性が高い材料によって形成され、
前記ハウジングにおける前記ピンと摺接する部分には、硬質アルマイトからなる皮膜が設けられていることを特徴とする吸着パッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被吸着物を真空吸着によって吸着する吸着パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の吸着パッドとしては、例えば特許文献1に記載されているように、ゴム材料や弾性を有する樹脂材料などによってカップ状に形成されたものが多い。
ところで、ゴム製品を製造する過程で使用するワークとしては、ゴム材料からなる複数の板状の素材を積層して形成されたものがある。このワークの上面には、上の板が下の板に対して横方向にずれて接着されることより段差が生じることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-65194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ゴム材料や弾性を有する樹脂材料などによって形成された従来の吸着パッドにおいては、以下のように複数の問題があった。
(1)従来の吸着パッドは、例えば過度の疲労により使用中に一部が破損して切り離されるようなことがある。このように吸着パッドの破損により生じた異物は、ワークに付着または混入するおそれがある。しかし、吸着パッドの材料がワークの材料と似ているから、この異物を検出することが困難である。すなわち、第1の問題点は、従来の吸着パッドで生じた異物を検出できないことである。
(2)従来の吸着パッドは、ワークに繰り返し接触することにより摩耗し易い。すなわち、第2の問題点は、従来の吸着パッドは耐久性が低いということである。
(3)従来の吸着パッドは、複数の板材料を積層して形成されたワークの上面に段差がある場合には、使用できなかった。すなわち、第3の問題点は、従来の吸着パッドは素材の重ね合わせによる段差を吸収することができないということである。
【0005】
本発明の目的は、発生した異物を検出可能で、耐摩耗性が高く、しかも、素材の段差を吸収可能な吸着パッドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために本発明は、空気が吸引される空気吸引口を有し、被吸着物と対向するハウジングと、前記被吸着物に対して進退する方向と平行な方向に延びる状態で前記ハウジングの前記空気吸引口を囲む位置に設けられ、前記被吸着物に向けて前進した前進位置と前記被吸着物とは反対の方向に後退した後退位置との間で移動自在に構成された多数のピンと、前記多数のピンを前記前進位置に向かう方向へ付勢するばね部材とを備え、前記多数のピンは、金属材料によって形成され、隣り合うピンどうしが互いに接触する状態で前記ばね部材のばね力によって押されて前記ハウジングから突出し、前記ハウジングと前記ハウジングから突出した前記多数のピンは、前記被吸着物に向けて開口する負圧室を形成しているものである。
【0007】
本発明は、前記吸着パッドにおいて、前記多数のピンは金属材料によって形成されていてもよい。
【0008】
本発明は、前記吸着パッドにおいて、前記ハウジングは、前記空気吸引口が開口する底壁を有しかつ円筒からなる周壁を有する有底円筒状に形成され、前記周壁には、前記多数のピンと前記ばね部材とを収容する円環状の中空部が設けられ、前記周壁の前記被吸着物と対向する一端には、前記周壁の周方向の全域にわたって前記中空部の内外を連通する環状の穴が形成され、前記穴の径方向内側の穴壁面は、前記周壁の外周面に倣って延びる凸曲面によって形成され、前記穴の径方向外側の穴壁面は、前記周壁の径方向の外側に向けて湾曲するとともに前記周壁の軸線方向に延びる凹曲面を前記多数のピンの本数と同数だけ前記周壁の周方向に並べて形成され、前記ピンは、前記凸曲面と前記凹曲面とに摺動自在に嵌合する本体部と、前記本体部より前記被吸着物とは反対側に設けられ、前記穴の開口部分に前記中空部内から対向するストッパー部とを有し、前記ばね部材は、前記ストッパー部と前記中空部における前記穴とは反対側の壁との間に設けられていてもよい。
【0009】
本発明は、前記吸着パッドにおいて、前記ばね部材は、多数のピンのピン毎に設けられた圧縮コイルばねであってもよい。
【0010】
本発明は、前記吸着パッドにおいて、前記ばね部材は、一端から他端に向かうにしたがって外径が次第に大きくなる円すいコイルばねによって構成されていてもよい。
【0011】
本発明は、前記吸着パッドにおいて、前記ばね部材は、一つの圧縮コイルばねであり、全ての前記ピンが前記ばね部材によって付勢されていてもよい。
【0012】
本発明は、前記吸着パッドにおいて、前記ハウジングは、アルミニウム合金によって形成され、前記ピンは、アルミニウム合金より剛性が高い材料によって形成され、前記ハウジングにおける前記ピンと摺接する部分には、硬質アルマイトからなる皮膜が設けられていてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、被吸着物に接触するピンは剛体であるから、このピンで生じた異物は、ゴム材料や樹脂材料などからなる被吸着物とは容易に見分けることができる。また、このピンは、ゴム材料や樹脂材料からなる吸着パッドと較べると耐摩耗性が高い。さらに、ピンは、ハウジングから突出する部分の長さを1本ずつ変えることができるから、被吸着物の吸着面に形成された段差を吸着パッドが跨ぐ状態であったとしても、この吸着パッドで被吸着物を吸着することができる。
したがって、本発明によれば、発生した異物を検出可能で、耐摩耗性が高く、しかも、被吸着物の段差を吸収可能な吸着パッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明に係る吸着パッドの側面図である。
図2図2は、吸着パッドの被吸着物側から見た底面図である。
図3図3は、図2におけるIII-III線切断部端面図である。
図4図4は、ストッパリングの斜視図である。
図5図5は、アウターカバーの斜視図である。
図6図6は、ピンを示す図である。
図7図7は、ピンの組み付け手順を説明するための断面図である。
図8図8は、吸着パッドの使用形態を示す側面図である。
図9図9は、ばね部材の変形例を示す断面図である。
図10図10は、ばね部材の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る吸着パッドの一実施の形態を図1図8を参照して詳細に説明する。
図1に示す吸着パッド1は、図示していない搬送用ロボットのハンド2に取付けられ、被吸着物3(図8参照)をハンド2で搬送する際に真空吸着によって吸着するものである。ハンド2としては、多数の吸着パッド1が同一方向を指向する状態で取付けられるものを用いることができる。被吸着物3としては、例えばゴム製品、樹脂製品、食品等で、製品を製造する製造工程において吸着されて搬送される物品であれば、どのようなものでも用いることができる。
【0016】
この吸着パッド1は、図1に示すように、ハンド2に取付けられて被吸着物3と対向するハウジング4と、このハウジング4に設けられた多数のピン5とを備えている。以下において、吸着パッド1の各部品を説明するにあたって方向を示す場合は、吸着パッド1に対して被吸着物3が位置する方向を前方とし、吸着パッド1に対してハンド2が位置する方向を後方として行う。
【0017】
この実施の形態によるハウジング4は、被吸着物3に向けて(前方に向けて)開口する有底円筒状に形成されている。図3に示すように、ハウジング4の円筒からなる周壁4aの上端を閉塞する底壁4bには、吸着パッド1をハンド2に取り付けるためのボルト6が通されている。ボルト6の頭部6aには、工具(図示せず)が嵌合する六角形の穴6bが形成されている。また、ボルト6の中心部には、六角形の穴6bに一端が開口するように貫通孔6cが穿設されている。ボルト6の先端部6dには、図示してはいないが、空気吸引装置が接続されている。空気吸引装置は、ボルト6の貫通孔6cから空気を吸引するように構成されている。このため、空気吸引装置が動作することにより、ボルト6の六角形の穴6bが空気吸引口7となってハウジング4内の空気が六角形の穴6bに吸引される。
【0018】
多数のピン5は、ハウジング4の周壁4aに、被吸着物3に対して進退する方向と平行な方向(前後方向)に延びるとともに周壁4aの周方向に並ぶ状態で設けられている。すなわち、多数のピン5は、図2に示すように、ハウジング4の空気吸引口7を囲む位置に設けられている。ピン5の詳細な説明は後述する。
【0019】
ボルト6のハウジング4から後方に突出する部分には、図3に示すように、抜け止めワッシャー8がねじ込まれている。ボルト6は、抜け止めワッシャー8と頭部6aとでハウジング4の底壁4bを挟むことによって、ハウジング4に保持されている。
【0020】
ハウジング4は、複数の部品を組み合わせて形成されており、周壁4aの内部に円環状の中空部11を有している。ハウジング4を構成する各部品は、金属材料によって形成されている。この実施の形態によるハウジング4を構成する各部品は、アルミニウム合金によって形成されている。ハウジング4の径方向において最も内側には、軸心部に上述したボルト6が通された有底円筒状のストッパリング12が設けられている。
【0021】
ストッパリング12は、円筒部12aと、ハウジング4の底壁4bの一部を構成する環状の円板部12bとによって有底円筒状に形成されている。円板部12bの軸心部には、ボルト6を通すための貫通孔12cが穿設されている。円筒部12aの前端は、図4に示すように、フランジ13によって構成されている。フランジ13は、円筒部12aの他の部分より径方向の外側に向けて突出する円環の板状に形成されている。フランジ13の外周面13aは、ハウジング4の周壁4aの外周面(図2参照)に倣って延びる凸曲面によって形成されている。このフランジ13の外周面13aには、硬質アルマイトからなる皮膜が設けられている。
【0022】
ストッパリング12の円筒部12aには、図3に示すように、円筒からなるスリーブ14が嵌合している。スリーブ14の前端はフランジ13に当接し、後端は後述するキャップ15の内面に当接している。スリーブ14の外径は、フランジ13の外径より小さい。 スリーブ14は、周壁4aに設けられている環状の中空部11の内周壁を構成している。
【0023】
キャップ15は、ハウジング4の周壁4aの一部を構成する円筒部15aと、この円筒部15aの後端から径方向の内側に延びる環状の円板部15bとを有する有底円筒状に形成されている。円板部15bは、上述したスリーブ14の後端と対接している。円板部15bの軸心部には円形の穴15cが形成されている。この穴15cには、ストッパリング12の円板部12bに凸設された環状の突起16が嵌合している。キャップ15の円板部15bは、穴15cに突起16が嵌合するようにストッパリング12に後方から重ねられている。キャップ15は、ボルト6がハンド2にねじ込まれ、円板部15bがストッパリング12とハンド2とに挟まれることによって、ストッパリング12に対して固定されている。
【0024】
円筒部15aの内周部には、雌ねじ17がキャップ15の開口端から円板部15bに向けて形成されている。この雌ねじ17には、円筒状のアウターカバー21の雄ねじ22が螺合している。キャップ15の円筒部15aとアウターカバー21は、ハウジング4の周壁4aにおける中空部11より径方向外側の部分を構成している。
アウターカバー21は、図5に示すように、前端部にフランジ23を有している。フランジ23は、アウターカバー21の他の部分より径方向の外側に突出するように形成されている。アウターカバー21の雄ねじ22をキャップ15の雌ねじ17にねじ込む作業は、フランジ23がキャップ15の前端に当接するまで行われる。
アウターカバー21の内周部には、図5に示すように、多数の凹曲面24が形成されている。
【0025】
これらの凹曲面24は、ハウジング4の周壁4aの径方向の外側に向けて湾曲するとともに、周壁4aの軸線方向(ハウジング4の前後方向)にアウターカバー21の前端から後端まで途切れることなく延びるように形成されている。また、これらの凹曲面24は、多数のピン5の本数と同数だけアウターカバー21の周方向(ハウジング4の周壁4aの周方向)に並べて形成されている。さらに、凹曲面24には、硬質アルマイトからなる皮膜が設けられている。
【0026】
このアウターカバー21とキャップ15とからなる組立体25をストッパリング12に取付けると、ハウジング4の周壁4aの前端(被吸着物3と対向する一端)に、周壁4aの周方向の全域にわたって中空部11の内外を連通する環状の穴26(図3参照)が形成される。この環状の穴26の径方向内側の穴壁面は、ストッパリング12のフランジ13の外周面13a(周壁4aの外周面に倣って延びる凸曲面)によって形成されている。また、この環状の穴26の径方向外側の穴壁面は、アウターカバー21の多数の凹曲面24によって形成されている。図2に示すように、これらの多数の凹曲面24とフランジ13の外周面13aとの間に形成された環状の穴26に多数のピン5が通されている。
【0027】
ピン5は、図6(A)~(C)に示すように、円柱の周面の一部を切り欠いたような形状に形成されている。図6(A)は、ピン5をハウジング4の軸心側から見た正面図、図6(B)は、ピン5の斜め前方から見た斜視図、図6(C)は、ピン5を前方から見た底面図である。この実施の形態によるピン5は、ステンレス鋼によって形成されている。なお、ピン5を形成する材料は、ピン5が剛体となるような材料であればどのような材料であってもよく、例えばステンレス鋼とは異なる金属材料、非金属材料などの材料でもよい。この実施の形態によるピン5は、円柱の周面の一部を切り欠いて残存した部分である本体部5aと、円柱の残りの部分であるストッパー部5bとを有している。
【0028】
本体部5aは、図2に示すように、フランジ13の外周面13a(凸曲面)とアウターカバー21の凹曲面24とに摺動自在に嵌合する形状に形成されている。すなわち、本体部5aは、フランジ13の外周面13aと曲率が略等しい切り欠き面31{図6(B)参照}と、凹曲面24と曲率が略等しい周面32とを有している。切り欠き面31は、ピン5の前端から後述するストッパー部5bまで延びており、周面32は、ピン5の前端から後端まで延びている。ピン5の本体部5aがフランジ13の外周面13aとアウターカバー21の凹曲面24とに嵌合した状態においては、図2に示すように、隣り合うピン5の周面32どうしが互いに接触する。このように接触する範囲は、ピン5の前端から後端に至るピン5の長手方向の全域である。
【0029】
ストッパー部5bは、円柱状に形成され、図3に示すように、ハウジング4に組み込まれた状態にあるピン5の後端部に位置している。本体部5aがフランジ13の外周面13aとアウターカバー21の凹曲面24との間に嵌合している状態においては、ストッパー部5bにおけるハウジング4の軸心側に位置する一部がフランジ13(環状の穴26の開口部分)に中空部11内から対向する。
【0030】
多数のピン5の各々は、図3において左側に示すようにストッパー部5bが環状の穴26の開口部分に中空部11内から当接するまで被吸着物3に向けて前進した前進位置と、図3において右側に示すように、ピン5が中空部11内に収容されるように被吸着物3とは反対の方向に後退した後退位置との間で移動自在である。この実施の形態においては、ピン5のストッパー部5bと、中空部11における環状の穴26とは反対側の壁(キャップ15の円板部15b)との間にピン5毎のばね部材33が設けられている。これらのばね部材33は、圧縮コイルばねによって構成され、ピン5をそれぞれ前進位置に向かう方向へ付勢している。ばね部材33は、外径が一端から他端まで一定となる円筒コイルばねである。
【0031】
このようにばね部材33が中空部11内に設けられていることにより、多数のピン5が互いに接触する状態でばね部材33のばね力によって押されてハウジング4から突出する。ハウジング4から突出した多数のピン5は、隣り合うピン5どうしが互いに接触しているから、実質的にハウジング4の軸線方向に移動可能な可動隔壁を構成するようになり、ハウジング4と協働して被吸着物3に向けて開口する負圧室34(図2参照)を形成する。
【0032】
多数のピン5をハウジング4に組み込むためには、先ず、図7に示すように、キャップ15とアウターカバー21とからなる組立体25を開口部が上方を指向する姿勢で図示していないハンド2や作業台の上に載置し、軸心部にスリーブ14を挿入する。このとき、スリーブ14は、図示していない治具を使って組立体25と同一軸線上に位置する状態に保持する。次に、アウターカバー21とスリーブ14との間に形成されている中空部11に上方からばね部材33を挿入し、その後、ピン5をストッパー部5bが下に位置する姿勢として挿入する。これらのばね部材33とピン5の挿入作業は、これらの部材がアウターカバー21の多数の凹曲面24に沿うように行う。
【0033】
このようにばね部材33とピン5とを中空部11内に挿入した後、ストッパリング12を上方からスリーブ14の中に挿入し、ストッパリング12とキャップ15とを組み合わせる。このとき、フランジ13の外周面13aに各ピン5の切り欠き面31が重なるように各ピン5の位置合わせを行う。このようにストッパリング12がキャップ15に組み合わせられることによって、ハウジング4にピン5が外れることがないように組み付けられる。ハウジング4は、ボルト6をストッパリング12の貫通孔12cに通して例えばハンド2や仮の保持具(図示せず)にねじ込むことによって、ハンド2あるいは仮の保持具に固定される。このようにハウジング4がハンド2や仮の保持具に固定されることにより、吸着パッド1が完成する。
【0034】
この吸着パッド1のボルト6に形成されている貫通孔6cから図示していない空気吸引装置に空気が吸引されると、負圧室34内が負圧になる。この状態で図8(A)に示すようにピン5を被吸着物3に押し付けると、被吸着物3が吸着パッド1に吸着される。図8(B)や図8(C)に示すように、被吸着物3がゴム材料を重ねて形成された積層体である場合は、被吸着物3に段差41が生じることがある。図8(A)は段差41が1段である場合を示し、図8(C)は段差41が2段である場合を示す。このような段差41を跨ぐように吸着パッド1が被吸着物3に押し付けられると、高い吸着面42,43に押し付けられたピン5が低い吸着面44に押し付けられたピン5より多くハウジング4内に収容され、段差41が吸収された状態で被吸着物3が吸着パッド1に吸着される。
【0035】
この実施の形態による吸着パッド1は、被吸着物3に接触するピン5が剛体であるから、このピン5が仮に破損したとしても、破損により生じた異物は、ゴム材料や樹脂材料などからなる被吸着物3とは容易に見分けることができる。また、このピン5は、ゴム材料や樹脂材料からなる従来の吸着パッドと較べると耐摩耗性が高い。さらに、このピン5は、ハウジング4から突出する部分の長さを1本ずつ変えることができるから、被吸着物3に形成された段差41を吸着パッド1が跨ぐ状態であったとしても、この吸着パッド1で被吸着物3を吸着することができる。
したがって、この実施の形態によれば、発生した異物を検出可能で、耐摩耗性が高く、しかも、被吸着物の段差を吸収可能な吸着パッドを提供することができる。
【0036】
この実施の形態による多数のピン5は、金属材料によって形成されている。このため、ピン5が仮に破損したとしても、破損により生じた異物を金属探知機で確実に発見することができる。
【0037】
この実施の形態によるハウジング4は、空気吸引口7が開口する底壁4bを有しかつ円筒からなる周壁4aを有する有底円筒状に形成されている。周壁4aには、多数のピン5とばね部材33とを収容する円環状の中空部11が設けられている。周壁4aの被吸着物3と対向する一端には、周壁4aの周方向の全域にわたって中空部11の内外を連通する環状の穴26が形成されている。この環状の穴26の径方向内側の穴壁面は、周壁4aの外周面に倣って延びるフランジ13の外周面13a(凸曲面)によって形成されている。環状の穴26の径方向外側の穴壁面は、周壁4aの径方向の外側に向けて湾曲するとともに周壁4aの軸線方向に延びる凹曲面24を多数のピン5の本数と同数だけ周壁4aの周方向に並べて形成されている。ピン5は、フランジ13の外周面13aとアウターカバー21の凹曲面24とに摺動自在に嵌合する本体部5aと、本体部5aにおける被吸着物3とは反対側の端部(後端部)に設けられて環状の穴26の開口部分に中空部11内から対向するストッパー部5bとを有している。ばね部材33は、ストッパー部5bと、中空部11における環状の穴26とは反対側に位置するキャップ15の円板部15bとの間に設けられている。
このため、ハウジング4とピン5との接続部分に生じる隙間を可及的狭くすることができるとともに、ピン5を長手方向の軸線回りに回転させることなく長手方向に移動自在に支持できるから、ピン5の周辺から負圧室34に漏れ込んで吸引される空気の量を可及的少なく抑えることができる。
【0038】
この実施の形態によるばね部材33は、ピン5毎に設けられた圧縮コイルばねである。このため、個々のピン5をそれぞればね部材33で付勢することができるから、各ピン5が移動して被吸着物3の段差41を吸収することができる。
【0039】
この実施の形態によるハウジング4は、アルミニウム合金によって形成されている。また、ピン5は、アルミニウム合金より剛性が高い材料であるステンレス鋼によって形成されている。ハウジング4におけるピン5と摺接する部分、すなわちフランジ13の外周面13aとアウターカバー21の凹曲面24とには、硬質アルマイトからなる皮膜が設けられている。このため、ピン5がハウジング4に対して移動することによるハウジング4の摩耗を可及的少なく抑えることができる。
【0040】
(ばね部材の変形例)
ピンを付勢するばね部材は、図9および図10に示すように構成することができる。図9および図10において、図1図8によって説明したものと同一もしくは同等の部材については、同一符号を付し詳細な説明を適宜省略する。
図9に示すばね部材51は、一端から他端に向かうにしたがって外径が次第に大きくなる円すいコイルばねによって構成されている。このばね部材51は、ピン5と接する前端が後端より細くなる姿勢で中空部11内に挿入されている。
この円すいコイルばねからなるばね部材51を使用することにより、隣り合うばね部材51どうしの干渉を避けることが可能になる。
【0041】
図10に示すばね部材52は、一つの圧縮コイルばねによって構成されている。この場合は、全てのピン5が一つのばね部材52によって付勢されることになる。この構成を採る場合は、被吸着物3の段差41の吸収は難しくなるが、耐摩耗性が高くなるという効果や、破損時の異物の発見が容易になるという効果は、図1図9に示す吸着パッド1と同様に得られる。
【符号の説明】
【0042】
1…吸着パッド、3…被吸着物、4…ハウジング、4a…周壁、4b…底壁、5…ピン、5a…本体部、5b…ストッパー部、7…空気吸引口、11…中空部、13a…外周面(凸曲面)、24…凹曲面、26…環状の穴、33,51,52…ばね部材、34…負圧室。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10