(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022114917
(43)【公開日】2022-08-08
(54)【発明の名称】ノイズ抑制シート
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20220801BHJP
H01F 1/26 20060101ALI20220801BHJP
【FI】
H05K9/00 M
H01F1/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021011394
(22)【出願日】2021-01-27
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、総務省「5G移動通信等の通信品質安定化に資する高SHF帯対応電磁干渉抑制体の研究開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000134257
【氏名又は名称】株式会社トーキン
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100117341
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 拓哉
(74)【代理人】
【識別番号】100148840
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 健志
(74)【代理人】
【識別番号】100191673
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 久典
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 利行
(72)【発明者】
【氏名】岡本 聡
(72)【発明者】
【氏名】菊池 伸明
(72)【発明者】
【氏名】吉田 栄吉
【テーマコード(参考)】
5E041
5E321
【Fターム(参考)】
5E041AA01
5E041AA02
5E041AA04
5E041AA05
5E041BB03
5E041CA13
5E041NN06
5E041NN15
5E321BB32
5E321BB44
5E321BB53
5E321BB55
5E321GG11
(57)【要約】
【課題】周波数帯が異なる複数のノイズに対して一枚で対応可能なノイズ抑制シートを提供する。
【解決手段】ノイズ抑制シート100は、扁平状の磁性粉末粒子200と、磁性粉末粒子200を結合するバインダ300とを備えている。磁性粉末粒子200は、磁区構造として、還流磁区構造又は磁気ボルテックス構造を有している。磁性粉末粒子200の飽和磁化μ
0M
Sは、0.9T以上である。磁性粉末粒子200の直径Dは、7500μm以下である。磁性粉末粒子200の厚さをtとすると、1≦D/t≦1500を満たしている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
扁平状の磁性粉末粒子と、前記磁性粉末粒子を結合するバインダとを備えるノイズ抑制シートであって、
前記磁性粉末粒子は、磁区構造として、還流磁区構造又は磁気ボルテックス構造を有しており、
前記磁性粉末粒子の飽和磁化μ
0M
Sは、0.9T以上であり、
前記磁性粉末粒子の直径Dは、7500μm以下であり、
前記磁性粉末粒子の厚さをtとすると、1≦D/t≦1500を満たしており、
前記ノイズ抑制シートが遮蔽するノイズの周波数をf、前記磁性粉末粒子の電気抵抗率をρ、前記磁性粉末粒子の透磁率をμとすると、前記磁性粉末粒子の厚さtは、以下の数式1に示す表皮厚さsとの関係を満たす
【数1】
ノイズ抑制シート。
【請求項2】
請求項1記載のノイズ抑制シートであって、
前記飽和磁化μ0MSは、2.0T以上であり、
前記磁性粉末粒子の前記直径Dは、20μm以下であり、
1≦D/t≦4を満たしている
ノイズ抑制シート。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載のノイズ抑制シートであって、
前記磁性粉末粒子の前記直径Dは、交換スティフネス定数をA(J/m)、異方性定数をK(J/m
3)とすると、以下の数式2を満たす
【数2】
ノイズ抑制シート。
【請求項4】
所望の周波数帯域のノイズを抑制可能なノイズ抑制シートの設計方法であって、
1)前記所望の周波数帯域においてノイズを抑制可能とする飽和磁化μ
0M
Sを有する材料を選定する材料選定ステップと、
2)選定した材料からなる扁平状の磁性粉末粒子の形状が円板形状であると仮定して、前記円板形状の直径D及び厚さtに初期値を設定する初期値設定ステップと、
3)前記2)で設定された直径D及び厚さtから、アスペクト比kを以下の数式3で算出するアスペクト比算出ステップと、
【数3】
4)前記3)で算出されたアスペクト比kを用いて、前記円板形状の半径方向における反磁界係数Nρを以下の数式4で算出する反磁界係数算出ステップと、
【数4】
5)前記1)で選定した材料の飽和磁化μ
0M
Sと、前記4)で算出された反磁界係数Nρとを用いて、共鳴周波数f
HF,calcを以下の数式5で算出する共鳴周波数算出ステップと、
【数5】
6)前記5)で算出された共鳴周波数f
HF,calcが前記所望の周波数帯域に含まれていない場合に、前記円板形状の直径D及び厚さtを変更する変更ステップと、
7)前記共鳴周波数f
HF,calcが前記所望の周波数帯域に含まれるまで、前記3)~6)を繰り返すことにより、前記円板形状の直径D及び厚さtを特定する特定ステップと
を備えるノイズ抑制シートの設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノイズ抑制シート及びその設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォンのような小型移動体端末においては、その内部のICなどのノイズ源から電磁波が放射され、キャリアを送受信するアンテナとの電磁干渉が問題となっている。ここで、このような電子干渉に係るノイズ対策として、ノイズ抑制シートが採用されている。
【0003】
特許文献1は、この種のノイズ抑制シート900を開示している。特許文献1のノイズ抑制シート900は、シート状の複合磁性体を備えている。ここで、複合磁性体は、バインダと、バインダ中に分散された軟磁性粉末とを含んでいる。また、ノイズ抑制シート900は、3GHzを超える高周波数帯域のノイズを抑制可能となっている。
【0004】
一方、非特許文献1には、薄膜製法で作製された多結晶Coからなる円板状の磁性体の磁区構造が、磁気ボルテックス構造をとることが開示されている。また、非特許文献2には、軟磁性パーマロイ系材料からなる円板の磁気ボルテックスの振動モードの理論的解析結果が開示されている。しかしながら、鍛造により得られた扁平状の磁性粉末粒子の磁区構造については、現段階において明らかとなっていない。
【0005】
加えて、非特許文献3,4には、直径数10μm程度の単一の磁性粉末粒子の高周波透磁率を高い信号雑音比で測定可能なトランス結合型透磁率測定装置(TC-Perm)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Y.Acremann et al.,Science,290,p492 (2000)
【非特許文献2】K.Yu.Guslienko et al.,Journal of Applied Physics,2002,51,p8037
【非特許文献3】S.Tamaru et al.,Journal of Magnetism and Magnetic Materials,2020,501,p166434
【非特許文献4】田丸慎吾 他,「まぐね」,日本磁気学会,2020年4月1日,第15巻,第2号,p.134
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般的に、小型移動体端末の通信の妨げとなるノイズの周波数は様々な周波数帯に渡っている。しかしながら、特許文献1のノイズ抑制シートでは高周波数帯域のノイズのみに対応している。従って、多数の周波数帯に渡ってノイズ抑制するためにはノイズ各々の周波数帯に対応した複数のノイズ抑制シートが必要となり、製造工程が煩雑となる。このような状況を踏まえて、周波数帯が異なる複数のノイズに対して一枚で対応可能なノイズ抑制シートが求められている。
【0009】
また、現在のノイズ抑制シートの設計においては、試作されたノイズ抑制シートに対して所望の周波数帯域における電波吸収試験を行い、この試験結果を踏まえて材料等の再設計を行うといった試行錯誤を必要としている。これにより、ノイズ抑制シートを構成する材料の物性値に基づいて所望の周波数帯域のノイズを抑制可能なノイズ抑制シートを簡便に設計可能とする、ノイズ抑制シートの設計方法が求められている。
【0010】
そこで、本発明は、周波数帯が異なる複数のノイズに対して一枚で対応可能なノイズ抑制シートを提供することを目的とする。また、本発明は、所望の周波数帯域のノイズを抑制可能なノイズ抑制シートを簡便に設計可能とする、ノイズ抑制シートの設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
出願人は、磁性粉末粒子を含むノイズ抑制シートの複素比透磁率の周波数特性を広範囲に渡って測定し、複素比透磁率の虚数成分μr’’が2つの異なる周波数帯においてピークを生じていることを見出した。また、このような事象が、磁性粉末粒子の磁区構造が還流磁区構造又は磁気ボルテックス構造をとることに由来することを発見した。出願人は、これらの知見に基づいて本発明を完成させた。
【0012】
即ち、本発明は、第1のノイズ抑制シートとして、
扁平状の磁性粉末粒子と、前記磁性粉末粒子を結合するバインダとを備えるノイズ抑制シートであって、
前記磁性粉末粒子は、磁区構造として、還流磁区構造又は磁気ボルテックス構造を有しており、
前記磁性粉末粒子の飽和磁化μ
0M
Sは、0.9T以上であり、
前記磁性粉末粒子の直径Dは、7500μm以下であり、
前記磁性粉末粒子の厚さをtとすると、1≦D/t≦1500を満たしており、
前記ノイズ抑制シートが遮蔽するノイズの周波数をf、前記磁性粉末粒子の電気抵抗率をρ、前記磁性粉末粒子の透磁率をμとすると、前記磁性粉末粒子の厚さtは、以下の数式1に示す表皮厚さsとの関係を満たす
【数1】
ノイズ抑制シートを提供する。
【0013】
また、本発明は、第2のノイズ抑制シートとして、第1のノイズ抑制シートであって、
前記飽和磁化μ0MSは、2.0T以上であり、
前記磁性粉末粒子の前記直径Dは、20μm以下であり、
1≦D/t≦4を満たしている
ノイズ抑制シートを提供する。
【0014】
また、本発明は、第3のノイズ抑制シートとして、第1又は第2のノイズ抑制シートであって、
前記磁性粉末粒子の前記直径Dは、交換スティフネス定数をA(J/m)、異方性定数をK(J/m
3)とすると、以下の数式2を満たす
【数2】
ノイズ抑制シートを提供する。
【0015】
また、本発明は、所望の周波数帯域のノイズを抑制可能なノイズ抑制シートの設計方法であって、
1)前記所望の周波数帯域においてノイズを抑制可能とする飽和磁化μ
0M
Sを有する材料を選定する材料選定ステップと、
2)選定した材料からなる扁平状の磁性粉末粒子の形状が円板形状であると仮定して、前記円板形状の直径D及び厚さtに初期値を設定する初期値設定ステップと、
3)前記2)で設定された直径D及び厚さtから、アスペクト比kを以下の数式3で算出するアスペクト比算出ステップと、
【数3】
4)前記3)で算出されたアスペクト比kを用いて、前記円板形状の半径方向における反磁界係数Nρを以下の数式4で算出する反磁界係数算出ステップと、
【数4】
5)前記1)で選定した材料の飽和磁化μ
0M
Sと、前記4)で算出された反磁界係数Nρとを用いて、共鳴周波数f
HF,calcを以下の数式5で算出する共鳴周波数算出ステップと、
【数5】
6)前記5)で算出された共鳴周波数f
HF,calcが前記所望の周波数帯域に含まれていない場合に、前記円板形状の直径D及び厚さtを変更する変更ステップと、
7)前記共鳴周波数f
HF,calcが前記所望の周波数帯域に含まれるまで、前記3)~6)を繰り返すことにより、前記円板形状の直径D及び厚さtを特定する特定ステップと
を備えるノイズ抑制シートの設計方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明のノイズ抑制シートは、扁平状の磁性粉末粒子と、磁性粉末粒子を結合するバインダとを備えており、磁性粉末粒子は、磁区構造として、還流磁区構造又は磁気ボルテックス構造を有している。これにより、本発明のノイズ抑制シートにおいては、複素比透磁率の虚数成分μr’’が2つの異なる周波数帯においてピークを生じるため、周波数帯が異なる複数のノイズに対して一枚で対応可能となっている。
【0017】
また、本発明のノイズ抑制シートの設計方法は、アスペクト比算出ステップで算出されたアスペクト比kを用いて、円板形状の半径方向における反磁界係数Nρを数式4で算出する反磁界係数算出ステップと、材料選定ステップで選定した材料の飽和磁化μ0MSと、反磁界係数算出ステップで算出された反磁界係数Nρとを用いて、共鳴周波数fHF,calcを数式5で算出する共鳴周波数算出ステップと、を備えている。これにより、磁区構造として還流磁区構造又は磁気ボルテックス構造を有する磁性粉末粒子を含むノイズ抑制シートを、簡便に設計することができるようになっている。即ち、本発明のノイズ抑制シートの設計方法によれば、所望の周波数帯域のノイズを抑制可能なノイズ抑制シートを簡便に設計することができるようになっている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施の形態によるノイズ抑制シートを示す図である。
【
図2】
図1のノイズ抑制シートにおける複素比透磁率を示す周波数特性グラフである。
【
図3】
図1のノイズ抑制シートに含まれる磁性粉末粒子であって単一の磁性粉末粒子の複素磁化率を示す周波数特性グラフである。
【
図4】
図1のノイズ抑制シートの表面を磁気力顕微鏡(MFM)で観察した画像である。図中において、磁壁を点線で、磁気モーメントを矢印で、還流磁区構造又は磁気ボルテックス構造を丸囲みで示している。
【
図5】
図1のノイズ抑制シートに含まれる磁性粉末粒子における磁区構造を模式的示した図である。
【
図6】本発明の実施の形態によるノイズ抑制シートの設計方法を説明するためのフローチャートである。
【
図7】
図6のノイズ抑制シートの設計方法を説明するためのグラフである。
【
図8】
図6のノイズ抑制シートの設計方法を説明するための別のグラフである。
【
図9】
図6のノイズ抑制シートの設計方法を説明するための別のグラフである。
【
図10】
図6のノイズ抑制シートの設計方法を説明するための別のグラフである。
【
図11】
図6のノイズ抑制シートの設計方法を説明するため別のグラフである。
【
図12】
図6のノイズ抑制シートの設計方法を説明するための別のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(ノイズ抑制シート)
図1を参照して、本発明の実施の形態によるノイズ抑制シート100は、扁平状の磁性粉末粒子200と、磁性粉末粒子200を結合するバインダ300とを備えている。
【0020】
(磁性粉末粒子)
本実施の形態の磁性粉末粒子200としては、ノイズ抑制シートに用いられる公知の磁性粉末粒子の中から適宜選択することができる。磁性粉末粒子200は、アトマイズ法等の方法により得られた磁性粒子をボールミル等の扁平化装置を用いて扁平化(鍛造)して得られる。磁性粉末粒子200の原料としては、軟磁性粉末を用いることが好ましく、中でも、Fe(鉄)を主成分とするFe基合金軟磁性粉末を用いることがより好ましい。Fe基合金軟磁性粉末としては、例えば、Fe、Fe-Al合金粉末、Fe-Co-V合金粉末、カルボニル鉄粉、Fe-Si合金粉末、Fe-Ni合金粉末、Fe-Si-Cr合金粉末、Fe-Si-Al合金粉末、少なくともFe-Si-Bを含むFe基合金非晶質粉末、少なくともFe-B-P-Cuを含むFe基合金ナノ結晶粉末などが挙げられる。ここで、前記Fe基合金非晶質粉末とは、Fe基合金軟磁性粉末の内、結晶組織を持たない非晶質(アモルファス)な粉末をいう。また、Fe基合金ナノ結晶粉末とは、上記Fe基合金非晶質粉末に熱処理を実施し、非晶質相中に微細なα-Fe結晶を析出させた材料をいう。Fe基合金ナノ結晶粉末によれば、高磁化のα-Fe、微細化による結晶磁気異方性の低減、アモルファス相の正磁歪とα-Fe相の負磁歪の混相による磁歪の低減により、高飽和磁束密度(Bs)、低損失の良好な磁気特性が得られる。本発明においては、上述の種々の磁性粉末粒子の中から1種単独で、又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
扁平状の磁性粉末粒子200は、ノイズ抑制シート100の主面と平行になるように向きを揃えて配列している。即ち、磁性粉末粒子200の直径Dは、ノイズ抑制シート100の厚さ方向と直交する方向における磁性粉末粒子200のサイズであり、磁性粉末粒子200の厚さtは、ノイズ抑制シート100の厚さ方向と平行な方向における磁性粉末粒子200のサイズである。また、磁性粉末粒子200の直径方向は、電磁波の磁界成分が印加される方向と平行であり、磁性粉末粒子200の厚さ方向は、上記電磁波の磁界成分と直交している。
【0022】
図5を参照して、本実施の形態の磁性粉末粒子200は、磁区構造として、還流磁区構造又は磁気ボルテックス構造を有している。また、磁性粉末粒子200は、磁区構造として、磁気ボルテックス構造を有していることが好ましい。具体的には、磁性粉末粒子200は、磁区構造として、磁気ボルテックスコア450と、磁気ボルテックスコア450の周りに磁気モーメント400とを有している。これにより、
図2を参照して、本実施の形態のノイズ抑制シート100においては、複素比透磁率の虚数成分μ
r’’は、低周波数帯f
LF及び高周波数帯f
HFの2つの周波数帯においてピークを生じることとなる。ここで、
図2及び
図5を参照して、低周波数帯f
LFにおける複素比透磁率の虚数成分μ
r’’のピークは、磁性粉末粒子200の磁気ボルテックスコア450の固有振動によるものと推測される。また、高周波数帯f
HFにおける複素比透磁率の虚数成分μ
r’’のピークは、磁性粉末粒子200の磁気モーメント400の歳差運動の一斉励起によるものと推測される。
【0023】
本実施の形態の磁性粉末粒子200の飽和磁化μ0MSは、0.9T以上である。また、磁性粉末粒子200の飽和磁化μ0MSは、2.0T以上であることが好ましい。ここで、μ0は真空の透磁率(H/m)を表す。磁性粉末粒子200が2.0T以上の飽和磁化μ0MSを有している場合、磁性粉末粒子200の直径D及び厚さtを調節することにより、複素比透磁率の虚数成分μr’’の高周波数帯fHFで生じているピークを28GHz以上とすることが可能となる。第5世代移動通信システム(5G)のキャリア周波数には28GHzの周波数帯域が含まれているが、磁性粉末粒子200の飽和磁化μ0MSが2.0T以上であるノイズ抑制シート100をスマートフォンのような小型移動体端末に用いた場合、この第5世代通信システムのキャリア周波数においてもノイズ抑制効果が発現可能となる。
【0024】
本実施の形態の磁性粉末粒子200の直径Dは、7500μm以下である。また、磁性粉末粒子200の直径Dは、20μm以下が好ましい。なお、磁性粉末粒子200の直径Dは、交換スティフネス定数をA(J/m)、異方性定数をK(J/m
3)とすると、以下の数式6を満たしている必要がある。
【数6】
これにより、本実施の形態の磁性粉末粒子200は、磁区構造として、単磁区構造ではなく磁気ボルテックス構造を有することができる。
【0025】
本実施の形態の磁性粉末粒子200の厚さtは、1≦D/t≦1500を満たしている。また、磁性粉末粒子200の厚さtは、1≦D/t≦4を満たしていることが好ましい。
【0026】
本実施の形態のノイズ抑制シート100において、遮蔽するノイズの周波数をf、磁性粉末粒子200の電気抵抗率をρ、磁性粉末粒子200の透磁率をμとすると、磁性粉末粒子200の厚さtは、以下の数式7に示す表皮厚さsとの関係を満たしている。
【数7】
【0027】
即ち、磁性粉末粒子200の厚さtは、以下の数式8を満たしている。
【数8】
(バインダ)
本実施の形態のバインダ300としては、成形に用いられる公知のバインダを適宜選択して用いることができる。本発明においては、バインダとしては、アクリルゴム、アクリル酸アルキル共重合体等の(メタ)アクリル系ポリマー、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、シリコーンゴム、ポリウレタン、ポリエチレン、エチレン・プロピレンゴム(EPM)やエチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)などのオレフィン系ゴム、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリアミド(PA)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ビスマストリアジンレジンなどが挙げられる。また、バインダ300は、1種類を単独で、又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
本実施の形態のノイズ抑制シート100の製造方法は特に限定されないが、たとえば、以下の方法により製造することができる。まず、扁平状の磁性粉末粒子、バインダ、溶剤を配合してスラリー化されたものを、ドクターブレード法などにより、シート状に成形して成形体を得る。その後、シート状に成形された成形体を加熱して溶剤を除去し、シート形状を固定化してノイズ抑制シート100を得る。ここで、加熱により架橋反応を行い、架橋物としてシート形状を固定化してもよい。また、上記の加熱工程は、加熱プレス成形によって行ってもよい。
【0029】
このようにして得られた本実施の形態のノイズ抑制シート100は、透磁率が高く、優れたノイズ抑制効果を有するものである。そのため、本実施の形態のノイズ抑制シート100は、このような特性を活かし、不要輻射対策、内部干渉対策、RFID通信品質改善、ESD対策、SAR対策などに好適に用いることができる。
【0030】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、これらの記載により本発明を制限するものではない。
【0031】
<実施例>
磁性粉末粒子200は、アトマイズ法により得られたFe粒子をボールミル等の扁平化装置を用いて扁平化(鍛造)した。得られた磁性粉末粒子200は、直径Dが147μm、厚さtが0.4μmであった。バインダとして、アクリルゴムを用いた。得られた扁平状の磁性粉末粒子100と、バインダと、溶剤(トルエン)を配合してスラリー化されたものを、シート状に成形して成形体を得た。その後、成形体を加熱して溶剤を除去し、シート形状を固定化して、縦3mm×横35mm×厚さ0.05mmのノイズ抑制シート100を作製した。この作製されたノイズ抑制シート100について、複素誘電率測定器PMM-9G1(菱和電子製)を用いて複素比透磁率の周波数特性の測定を実施した。また、作製されたノイズ抑制シート100について、磁気力顕微鏡(MFM)による表面観察を実施した。更に、ノイズ抑制シート100を原料である磁性粉末粒子200について、非特許文献3,4に記載のトランス結合型透磁率測定装置(TC-Perm)を用いて、単一の磁性粉末粒子200の複素磁化率の周波数スペクトルを測定した。具体的には、まず、2つの短絡終端された平面導波路(CPW1,2)より構成された治具を、カプトンテープで絶縁しつつ重ね合わせることより、弱く結合したトランスを形成する。その後、磁性粉末粒子200を平面導波路(CPW1,2)の信号線の間に挿入する。平面導波路(CPW1,2)を、ベクターネットワークアナライザ(VNA)のポート1,2に夫々接続し、ベクターネットワークアナライザ(VNA)により測定磁場及び飽和磁場における治具の透過係数S21を実測した。これにより得られた測定磁場及び飽和磁場における治具の透過係数S21の差分ΔS21に、校正のためのデータ処理を施した。これにより、測定磁場における磁性粉末粒子200の複素磁化率χを得た。
【0032】
図2は、作製されたノイズ抑制シート100の複素比透磁率の周波数特性を表すグラフである。これにより、作製されたノイズ抑制シート100は、複素比透磁率の虚数成分μ
r’’が2つの異なる周波数帯(f
LF,f
HF)においてピークを生じていることが分かる。より詳しくは、作製されたノイズ抑制シート100の複素透磁率の虚数成分μ
r’’は、低周波数帯f
LFとして150MHz付近に一つのピークを生じており、また高周波数帯f
HFとして3GHz付近にもう一つのピークを生じていることが分かる。即ち、ノイズ抑制シート100は、バイモダル型のμ
r’’スペクトルを有していることが分かる。
【0033】
図3は、磁性粉末粒子200の複素磁化率の周波数特性を表すグラフである。これにより、磁性粉末粒子200は、複素磁化率の虚数成分χ’’が2つの異なる周波数帯(f
LF,f
HF)においてピークを生じていることが分かる。より詳しくは、磁性粉末粒子200の複素磁化率の虚数成分χ’’は、低周波数帯f
LFとして200MHz付近に一つのピークを生じており、また高周波数帯f
HFとして3GHz付近にもう一つのピークを生じていることが分かる。これにより、ノイズ抑制シート100のバイモダル型のμ
r’’スペクトルは、単一の磁性粉末粒子200のμ
r’’スペクトルを反映していることが見出された。
【0034】
非特許文献2において、円板状の磁性体における複素比透磁率の虚数成分μ
r’’の低周波数帯におけるピーク周波数f
LFは、磁気ボルテックスコアの周回運動による共鳴から生じると結論付けられ、磁気回転比をγ、Vortex磁化分布のモデルパラメータをξ、静的な初磁化率をχ(0)とすると、以下の数式9にて記述できることが開示されている。
【数9】
【0035】
ここで、ξ=2/3、及びχ(0)に単一の磁性粉末粒子200で実測された磁化率χ’の値を、上記の数式9に代入するとfLF,calcが算出されるが、この算出されたfLF,calcは、単一の磁性粉末粒子200で実測された磁化率χ’の値に対応する実測のピーク周波数fLFと一致した。これにより、ノイズ抑制シート100の低周波数帯fLFにおける複素比透磁率の虚数成分μr’’のピークが、数式9により説明可能であることが分かった。従って、低周波数帯fLFにおける複素比透磁率の虚数成分μr’’のピークは、磁性粉末粒子200の磁気ボルテックスコアの固有振動によるものであると推測された。
【0036】
非特許文献1において、Cоからなる円板状の磁性体において、高周波数帯f
HFにおける複素比透磁率の虚数成分μ
r’’のピークは、磁気ボルテックス内の磁気モーメントの歳差運動の一斉励起と結論付けられ、磁性体の飽和磁化をμ
0M
S、円板の半径方向の反磁界係数をNρとすると、以下の数式10にて記述できることが開示されている。
【数10】
【0037】
ここで、磁性粉末粒子200に係るγ,MS,Nρの値(データ示さず)を、上記の数式10に代入するとfHF,calcが算出されるが、この算出されたfHF,calcは、単一の磁性粉末粒子200において実測されたピーク周波数fHFと一致した。これにより、ノイズ抑制シート100の高周波数帯fHFにおける複素比透磁率の虚数成分μr’’のピークが、数式10により説明可能であることが分かった。従って、高周波数帯fHFにおける複素比透磁率の虚数成分μr’’のピークは、磁性粉末粒子200の磁気ボルテックス内の磁気モーメントの歳差運動の一斉励起によるものであると推測された。
【0038】
図4は、作製されたノイズ抑制シート100の表面を磁気力顕微鏡(MFM)で観察することにより得られたMFM画像である。これにより、作製されたノイズ抑制シート100の磁性粉末粒子200においては、磁気モーメント400の一群と、磁壁500とが観測された。即ち、作製されたノイズ抑制シート100の磁性粉末粒子200は、磁区構造として、複数の還流磁区構造600又は磁気ボルテックス構造600を有していることが確認された。
【0039】
(ノイズ抑制シートの設計方法)
上述のように、本出願人は、ノイズ抑制シート100のバイモダル型のμr’’スペクトルが単一の磁性粉末粒子200のμr’’スペクトルを反映していることを見出したことから、単一の磁性粉末粒子200の物性等を設計することにより、ノイズ抑制シート100のスペクトル設計が可能であるとの知見を得た。本発明のノイズ抑制シートの設計方法は、このような知見に基づくものである。
【0040】
図6を参照して、本実施の形態によるノイズ抑制シート100の設計方法は、所望の周波数帯域のノイズを抑制可能なノイズ抑制シート100を設計可能な方法である。具体的には、本実施の形態のノイズ抑制シート100の設計方法は、材料選定ステップと、初期値設定ステップと、アスペクト比算出ステップと、反磁界係数算出ステップと、共鳴周波数算出ステップと、変更ステップと、特定ステップとを有している。各ステップの内容について、以下詳述する。
【0041】
まず、所望の周波数帯域においてノイズを抑制可能とする飽和磁化μ0MSを有する材料を選定する、材料選定ステップを遂行する。このステップにおいては、ノイズを抑制する周波数帯に対応可能な飽和磁化μ0MSを有する材料を選定する。
【0042】
材料選定ステップの遂行後、選定した材料からなる扁平状の磁性粉末粒子200の形状が円板形状であると仮定して、この円板形状の直径D及び厚さtに初期値を設定する、初期値設定ステップを遂行する。より詳しくは、材料選定ステップの遂行後、選定した材料からなり、且つ鍛造により得られた扁平状の磁性粉末粒子200の形状が円板形状であると仮定して、この円板形状の直径D及び厚さtに初期値を設定する、初期値設定ステップを遂行する。
【0043】
初期値設定ステップの遂行後、初期値設定ステップで設定された直径D及び厚さtから、アスペクト比kを以下の数式11で算出する、アスペクト比算出ステップを遂行する。
【数11】
【0044】
アスペクト比算出ステップの遂行後、アスペクト比算出ステップで算出されたアスペクト比kを用いて、上記円板形状の半径方向における反磁界係数Nρを以下の数式12で算出する、反磁界係数算出ステップを遂行する。
【数12】
【0045】
反磁界係数算出ステップの遂行後、材料選定ステップで選定した材料の飽和磁化μ
0M
Sと、反磁界係数算出ステップで算出された反磁界係数Nρとを用いて、共鳴周波数f
HF,calcを以下の数式13で算出する、共鳴周波数算出ステップを遂行する。
【数13】
なお、この数式13は、前述の数式10と同じ式であり、ノイズ抑制シート100の高周波数帯f
HFにおける複素比透磁率の虚数成分μ
r’’のピークが数式10により説明可能であるとの上記論理付けに基づいたものである。
【0046】
共鳴周波数算出ステップの遂行後、共鳴周波数算出ステップで算出された共鳴周波数fHF,calcが上記所望の周波数帯域に含まれていない場合に、上記円板形状の直径D及び厚さtを変更する、変更ステップを遂行する。
【0047】
変更ステップの遂行後、上記共鳴周波数fHF,calcが上記所望の周波数帯域に含まれるまで、アスペクト比算出ステップ、反磁界係数算出ステップ、共鳴周波数算出ステップ及び変更ステップを順次繰り返すことにより、上記円板形状の直径D及び厚さtを特定する、特定ステップを遂行する。これにより、上記所望の周波数帯域のノイズを抑制可能なノイズ抑制シート100が設計される。
【0048】
なお、本実施の形態によるノイズ抑制シート100の設計方法において、ノイズ抑制シート100に含まれる扁平状の磁性粉末粒子200は、ノイズ抑制シート100の主面と平行になるように向きを揃えて配列されることを想定している。即ち、上記円板形状の直径Dは、ノイズ抑制シート100の厚さ方向と直交する方向における上記円板形状のサイズであり、上記円板形状の厚さtは、ノイズ抑制シート100の厚さ方向と平行な方向における上記円板形状のサイズである。また、上記円板形状の直径方向は、電磁波の磁界成分が印加される方向と平行であり、上記円板形状の厚さ方向は、上記電磁波の磁界成分と直交している。
【0049】
以下、具体例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
図7は、材料選定ステップにおいて飽和磁化μ
0M
Sが2.35Tとなるパーメンジュール(Fe-49%Co-2%V)を磁性粉末粒子200の材料として選定し、初期値設定ステップにおいて円板形状の厚さtを、0.1μm,0.5μm,1μm,4μm,5μmに夫々設定した場合の、上記数式13を満たす円板形状の直径Dと共鳴周波数f
HF,calcとの関係を表している。これにより、ノイズを抑制する所望の周波数帯域を仮に28GHzと設定した場合、円板形状の厚さtが0.1μmのときには、0.2μm≦D≦0.5μmにおいて、28GHz≦f
HF,calcを満たすことになるため、直径Dの初期値が上記範囲に入っていない場合、上記範囲に入るまで直径Dの値を変更しながら、アスペクト比算出ステップ、反磁界係数算出ステップ、共鳴周波数算出ステップ及び変更ステップを順次繰り返すこととなる。
【0051】
同様に、
図7を参照して、所望の周波数帯域が28GHzであって円板形状の厚さtが0.5μmのときには、0.6μm≦D≦2μmにおいて、28GHz≦f
HF,calcを満たすことになるため、直径Dの初期値が上記範囲に入っていない場合、上記範囲に入るまで直径Dの値を変更しながら、アスペクト比算出ステップ、反磁界係数算出ステップ、共鳴周波数算出ステップ及び変更ステップを順次繰り返すこととなる。
【0052】
また、
図7参照して、所望の周波数帯域が28GHzであって円板形状の厚さtが1μmのときには、2μm≦D≦5μmにおいて、28GHz≦f
HFを満たすことになるため、直径Dの初期値が上記範囲に入っていない場合、上記範囲に入るまで直径Dの値を変更しながら、アスペクト比算出ステップ、反磁界係数算出ステップ、共鳴周波数算出ステップ及び変更ステップを順次繰り返すこととなる。
【0053】
更に、
図7を参照して、所望の周波数帯域が28GHzであって円板形状の厚さtが4μmのときには、4μm≦D≦10μmにおいて、28GHz≦f
HF,calcを満たすことになるため、直径Dの初期値が上記範囲に入っていない場合、上記範囲に入るまで直径Dの値を変更しながら、アスペクト比算出ステップ、反磁界係数算出ステップ、共鳴周波数算出ステップ及び変更ステップを順次繰り返すこととなる。
【0054】
更に加えて、
図7を参照して、所望の周波数帯域が28GHzであって円板形状の厚さtが5μmのときには、5μm≦D≦20μmにおいて、28GHz≦f
HF,calcを満たすことになるため、直径Dの初期値が上記範囲に入っていない場合、上記範囲に入るまで直径Dの値を変更しながら、アスペクト比算出ステップ、反磁界係数算出ステップ、共鳴周波数算出ステップ及び変更ステップを順次繰り返すこととなる。
【0055】
このように、ノイズを抑制する所望の周波数帯域を仮に28GHzと設定し、且つ、材料選定ステップにおいて飽和磁化μ0MSが2.35Tとなるパーメンジュール(Fe-49%Co-2%V)を磁性粉末粒子200の材料として選定した場合において、円板形状の直径D及び厚さtが特定されることとなる。なお、上記事例においては、ノイズを抑制する所望の周波数帯域を28GHzと設定した場合における円板形状の直径D及び厚さtが特定される過程を示したが、ノイズを抑制する所望の周波数帯域を28GHz以外の周波数帯に設定した場合においても、同様に円板形状の直径D及び厚さtが特定されることとなる。
【0056】
図8は、材料選定ステップにおいて飽和磁化μ
0M
Sが2.15TとなるFeを磁性粉末粒子200の材料として選定し、初期値設定ステップにおいて円板形状の厚さtを、0.1μm,0.5μm,1μm,4μm,5μmに夫々設定した場合の、上記数式13を満たす円板形状の直径Dと共鳴周波数f
HF,calcとの関係を表している。これにより、ノイズを抑制する所望の周波数帯域を仮に28GHzと設定した場合、円板形状の厚さtが0.1μmのときには、0.2μm≦D≦0.3μmにおいて、28GHz≦f
HF,calcを満たすことになるため、直径Dの初期値が上記範囲に入っていない場合、上記範囲に入るまで直径Dの値を変更しながら、アスペクト比算出ステップ、反磁界係数算出ステップ、共鳴周波数算出ステップ及び変更ステップを順次繰り返すこととなる。
【0057】
同様に、
図8を参照して、所望の周波数帯域が28GHzであって円板形状の厚さtが0.5μmのときには、0.6μm≦D≦1μmにおいて、28GHz≦f
HF,calcを満たすことになるため、直径Dの初期値が上記範囲に入っていない場合、上記範囲に入るまで直径Dの値を変更しながら、アスペクト比算出ステップ、反磁界係数算出ステップ、共鳴周波数算出ステップ及び変更ステップを順次繰り返すこととなる。
【0058】
また、
図8を参照して、所望の周波数帯域が28GHzであって円板形状の厚さtが1μmのときには、2μm≦D≦3μmにおいて、28GHz≦f
HF,calcを満たすことになるため、直径Dの初期値が上記範囲に入っていない場合、上記範囲に入るまで直径Dの値を変更しながら、アスペクト比算出ステップ、反磁界係数算出ステップ、共鳴周波数算出ステップ及び変更ステップを順次繰り返すこととなる。
【0059】
更に、
図8を参照して、所望の周波数帯域が28GHzであって円板形状の厚さtが4μmのときには、4μm≦D≦10μmにおいて、28GHz≦f
HF,calcを満たすことになるため、直径Dの初期値が上記範囲に入っていない場合、上記範囲に入るまで直径Dの値を変更しながら、アスペクト比算出ステップ、反磁界係数算出ステップ、共鳴周波数算出ステップ及び変更ステップを順次繰り返すこととなる。
【0060】
更に加えて、
図8を参照して、所望の周波数帯域が28GHzであって円板形状の厚さtが5μmのときには、6μm≦D≦10μmにおいて、28GHz≦f
HF,calcを満たすことになるため、直径Dの初期値が上記範囲に入っていない場合、上記範囲に入るまで直径Dの値を変更しながら、アスペクト比算出ステップ、反磁界係数算出ステップ、共鳴周波数算出ステップ及び変更ステップを順次繰り返すこととなる。
【0061】
このように、ノイズを抑制する所望の周波数帯域を仮に28GHzと設定し、且つ、材料選定ステップにおいて飽和磁化μ0MSが2.15TとなるFeを磁性粉末粒子200の材料として選定した場合においても、円板形状の直径D及び厚さtが特定されることになる。なお、上記事例においては、ノイズを抑制する所望の周波数帯域を28GHzと設定した場合における円板形状の直径D及び厚さtが特定される過程を示したが、ノイズを抑制する所望の周波数帯域を28GHz以外の周波数帯に設定した場合においても、同様に円板形状の直径D及び厚さtが特定されることとなる。
【0062】
図9は、材料選定ステップにおいて飽和磁化μ
0M
Sが2.0Tとなるケイ素鋼(Fe-3%Si)を磁性粉末粒子200の材料として選定し、初期値設定ステップにおいて円板形状の厚さtを、0.1μm,0.5μm,1μm,4μm,5μmに夫々設定した場合の、上記数式13を満たす円板形状の直径Dと共鳴周波数f
HF,calcとの関係を表している。これにより、ノイズを抑制する所望の周波数帯域を仮に25GHzと設定した場合、円板形状の厚さtが0.1μmのときには、0.2μm≦D≦0.4μmにおいて、25GHz≦f
HF,calcを満たすことになるため、直径Dの初期値が上記範囲に入っていない場合、上記範囲に入るまで直径Dの値を変更しながら、アスペクト比算出ステップ、反磁界係数算出ステップ、共鳴周波数算出ステップ及び変更ステップを順次繰り返すこととなる。
【0063】
同様に、
図9を参照して、所望の周波数帯域が25GHzであって円板形状の厚さtが0.5μmのときには、0.6μm≦D≦2μmにおいて、25GHz≦f
HF,calcを満たすことになるため、直径Dの初期値が上記範囲に入っていない場合、上記範囲に入るまで直径Dの値を変更しながら、アスペクト比算出ステップ、反磁界係数算出ステップ、共鳴周波数算出ステップ及び変更ステップを順次繰り返すこととなる。
【0064】
また、
図9参照して、所望の周波数帯域が25GHzであって円板形状の厚さtが1μmのときには、2μm≦D≦4μmにおいて、25GHz≦f
HF,calcを満たすことになるため、直径Dの初期値が上記範囲に入っていない場合、上記範囲に入るまで直径Dの値を変更しながら、アスペクト比算出ステップ、反磁界係数算出ステップ、共鳴周波数算出ステップ及び変更ステップを順次繰り返すこととなる。
【0065】
更に、
図9を参照して、所望の周波数帯域が25GHzであって円板形状の厚さtが4μmのときには、4μm≦D≦10μmにおいて、25GHz≦f
HF,calcを満たすことになるため、直径Dの初期値が上記範囲に入っていない場合、上記範囲に入るまで直径Dの値を変更しながら、アスペクト比算出ステップ、反磁界係数算出ステップ、共鳴周波数算出ステップ及び変更ステップを順次繰り返すこととなる。
【0066】
更に加えて、
図9を参照して、所望の周波数帯域が25GHzであって円板形状の厚さtが5μmのときには、6μm≦D≦20μmにおいて、25GHz≦f
HF,calcを満たすことになるため、直径Dの初期値が上記範囲に入っていない場合、上記範囲に入るまで直径Dの値を変更しながら、アスペクト比算出ステップ、反磁界係数算出ステップ、共鳴周波数算出ステップ及び変更ステップを順次繰り返すこととなる。
【0067】
このように、ノイズを抑制する所望の周波数帯域を仮に25GHzと設定し、且つ、材料選定ステップにおいて飽和磁化μ0MSが2.0Tとなるケイ素鋼(Fe-3%Si)を磁性粉末粒子200の材料として選定した場合においても、円板形状の直径D及び厚さtが特定されることとなる。なお、上記事例においては、ノイズを抑制する所望の周波数帯域を25GHzと設定した場合における円板形状の直径D及び厚さtが特定される過程を示したが、ノイズを抑制する所望の周波数帯域を25GHz以外の周波数帯に設定した場合においても、同様に円板形状の直径D及び厚さtが特定されることとなる。
【0068】
図10は、材料選定ステップにおいて飽和磁化μ
0M
Sが1.5TとなるFe-3.5%Alを磁性粉末粒子200の材料として選定し、初期値設定ステップにおいて円板形状の厚さtを、0.1μm,0.5μm,1μm,4μm,5μmに夫々設定した場合の、上記数式13を満たす円板形状の直径Dと共鳴周波数f
HF,calcとの関係を表している。これにより、ノイズを抑制する所望の周波数帯域を仮に20GHzと設定した場合、円板形状の厚さtが0.1μmのときには、0.2μm≦D≦0.3μmにおいて、20GHz≦f
HF,calcを満たすことになるため、直径Dの初期値が上記範囲に入っていない場合、上記範囲に入るまで直径Dの値を変更しながら、アスペクト比算出ステップ、反磁界係数算出ステップ、共鳴周波数算出ステップ及び変更ステップを順次繰り返すこととなる。
【0069】
同様に、
図10を参照して、所望の周波数帯域が20GHzであって円板形状の厚さtが0.5μmのときには、0.6μm≦D≦1μmにおいて、20GHz≦f
HF,calcを満たすことになるため、直径Dの初期値が上記範囲に入っていない場合、上記範囲に入るまで直径Dの値を変更しながら、アスペクト比算出ステップ、反磁界係数算出ステップ、共鳴周波数算出ステップ及び変更ステップを順次繰り返すこととなる。
【0070】
また、
図10参照して、所望の周波数帯域が20GHzであって円板形状の厚さtが1μmのときには、2μm≦D≦3μmにおいて、20GHz≦f
HF,calcを満たすことになるため、直径Dの初期値が上記範囲に入っていない場合、上記範囲に入るまで直径Dの値を変更しながら、アスペクト比算出ステップ、反磁界係数算出ステップ、共鳴周波数算出ステップ及び変更ステップを順次繰り返すこととなる。
【0071】
更に、
図10を参照して、所望の周波数帯域が20GHzであって円板形状の厚さtが4μmのときには、4μm≦D≦10μmにおいて、20GHz≦f
HF,calcを満たすことになるため、直径Dの初期値が上記範囲に入っていない場合、上記範囲に入るまで直径Dの値を変更しながら、アスペクト比算出ステップ、反磁界係数算出ステップ、共鳴周波数算出ステップ及び変更ステップを順次繰り返すこととなる。
【0072】
更に加えて、
図10を参照して、所望の周波数帯域が20GHzであって円板形状の厚さtが5μmのときには、6μm≦D≦10μmにおいて、20GHz≦f
HF,calcを満たすことになるため、直径Dの初期値が上記範囲に入っていない場合、上記範囲に入るまで直径Dの値を変更しながら、アスペクト比算出ステップ、反磁界係数算出ステップ、共鳴周波数算出ステップ及び変更ステップを順次繰り返すこととなる。
【0073】
このように、ノイズを抑制する所望の周波数帯域を仮に20GHzと設定し、且つ、材料選定ステップにおいて飽和磁化μ0MSが1.5TとなるFe-3.5%Alを磁性粉末粒子200の材料として選定した場合においても、円板形状の直径D及び厚さtが特定されることとなる。なお、上記事例においては、ノイズを抑制する所望の周波数帯域を20GHzと設定した場合における円板形状の直径D及び厚さtが特定される過程を示したが、ノイズを抑制する所望の周波数帯域を20GHz以外の周波数帯に設定した場合においても、同様に円板形状の直径D及び厚さtが特定されることとなる。
【0074】
図11は、材料選定ステップにおいて飽和磁化μ
0M
Sが0.9Tとなるセンダスト(登録商標)を磁性粉末粒子200の材料として選定し、初期値設定ステップにおいて円板形状の厚さtを、0.1μm,0.5μm,1μm,4μm,5μmに夫々設定した場合の、上記数式13を満たす円板形状の直径Dと共鳴周波数f
HF,calcとの関係を表している。これにより、ノイズを抑制する所望の周波数帯域を仮に12GHzと設定した場合、円板形状の厚さtが0.1μmのときには、0.2μm≦D≦0.3μmにおいて、12GHz≦f
HF,calcを満たすことになるため、直径Dの初期値が上記範囲に入っていない場合、上記範囲に入るまで直径Dの値を変更しながら、アスペクト比算出ステップ、反磁界係数算出ステップ、共鳴周波数算出ステップ及び変更ステップを順次繰り返すこととなる。
【0075】
同様に、
図11を参照して、所望の周波数帯域が12GHzであって円板形状の厚さtが0.5μmのときには、0.6μm≦D≦1μmにおいて、12GHz≦f
HF,calcを満たすことになるため、直径Dの初期値が上記範囲に入っていない場合、上記範囲に入るまで直径Dの値を変更しながら、アスペクト比算出ステップ、反磁界係数算出ステップ、共鳴周波数算出ステップ及び変更ステップを順次繰り返すこととなる。
【0076】
また、
図11参照して、所望の周波数帯域が12GHzであって円板形状の厚さtが1μmのときには、2μm≦D≦3μmにおいて、12GHz≦f
HF,calcを満たすことになるため、直径Dの初期値が上記範囲に入っていない場合、上記範囲に入るまで直径Dの値を変更しながら、アスペクト比算出ステップ、反磁界係数算出ステップ、共鳴周波数算出ステップ及び変更ステップを順次繰り返すこととなる。
【0077】
更に、
図11を参照して、所望の周波数帯域が12GHzであって円板形状の厚さtが4μmのときには、4μm≦D≦9μmにおいて、12GHz≦f
HF,calcを満たすことになるため、直径Dの初期値が上記範囲に入っていない場合、上記範囲に入るまで直径Dの値を変更しながら、アスペクト比算出ステップ、反磁界係数算出ステップ、共鳴周波数算出ステップ及び変更ステップを順次繰り返すこととなる。
【0078】
更に加えて、
図11を参照して、所望の周波数帯域が12GHzであって円板形状の厚さtが5μmのときには、6μm≦D≦10μmにおいて、12GHz≦f
HF,calcを満たすことになるため、直径Dの初期値が上記範囲に入っていない場合、上記範囲に入るまで直径Dの値を変更しながら、アスペクト比算出ステップ、反磁界係数算出ステップ、共鳴周波数算出ステップ及び変更ステップを順次繰り返すこととなる。
【0079】
このように、ノイズを抑制する所望の周波数帯域を仮に12GHzと設定し、且つ、材料選定ステップにおいて飽和磁化μ0MSが0.9Tとなるセンダスト(登録商標)を磁性粉末粒子200の材料として選定した場合においても、円板形状の直径D及び厚さtが特定されることとなる。なお、上記事例においては、ノイズを抑制する所望の周波数帯域を12GHzと設定した場合における円板形状の直径D及び厚さtが特定される過程を示したが、ノイズを抑制する所望の周波数帯域を12GHz以外の周波数帯に設定した場合においても、同様に円板形状の直径D及び厚さtが特定されることとなる。
【0080】
図12は、材料選定ステップにおいて飽和磁化μ
0M
Sが0.5Tとなるミューメタル(Fe―77Ni―2Cr―5Cu)を磁性粉末粒子200の材料として選定し、初期値設定ステップにおいて円板形状の厚さtを、0.1μm,0.5μm,1μm,4μm,5μmに夫々設定した場合の、上記数式13を満たす円板形状の直径Dと共鳴周波数f
HF,calcとの関係を表している。これにより、ノイズを抑制する所望の周波数帯域を仮に6GHzと設定した場合、円板形状の厚さtが0.1μmのときには、0.2μm≦D≦0.5μmにおいて、6GHz≦f
HF,calcを満たすことになるため、直径Dの初期値が上記範囲に入っていない場合、上記範囲に入るまで直径Dの値を変更しながら、アスペクト比算出ステップ、反磁界係数算出ステップ、共鳴周波数算出ステップ及び変更ステップを順次繰り返すこととなる。
【0081】
同様に、
図12を参照して、所望の周波数帯域が6GHzであって円板形状の厚さtが0.5μmのときには、0.6μm≦D≦2μmにおいて、6GHz≦f
HF,calcを満たすことになるため、直径Dの初期値が上記範囲に入っていない場合、上記範囲に入るまで直径Dの値を変更しながら、アスペクト比算出ステップ、反磁界係数算出ステップ、共鳴周波数算出ステップ及び変更ステップを順次繰り返すこととなる。
【0082】
また、
図12参照して、所望の周波数帯域が6GHzであって円板形状の厚さtが1μmのときには、2μm≦D≦5μmにおいて、6GHz≦f
HF,calcを満たすことになるため、直径Dの初期値が上記範囲に入っていない場合、上記範囲に入るまで直径Dの値を変更しながら、アスペクト比算出ステップ、反磁界係数算出ステップ、共鳴周波数算出ステップ及び変更ステップを順次繰り返すこととなる。
【0083】
更に、
図12を参照して、所望の周波数帯域が6GHzであって円板形状の厚さtが4μmのときには、4μm≦D≦10μmにおいて、6GHz≦f
HF,calcを満たすことになるため、直径Dの初期値が上記範囲に入っていない場合、上記範囲に入るまで直径Dの値を変更しながら、アスペクト比算出ステップ、反磁界係数算出ステップ、共鳴周波数算出ステップ及び変更ステップを順次繰り返すこととなる。
【0084】
更に加えて、
図12を参照して、所望の周波数帯域が6GHzであって円板形状の厚さtが5μmのときには、6μm≦D≦20μmにおいて、6GHz≦f
HF,calcを満たすことになるため、直径Dの初期値が上記範囲に入っていない場合、上記範囲に入るまで直径Dの値を変更しながら、アスペクト比算出ステップ、反磁界係数算出ステップ、共鳴周波数算出ステップ及び変更ステップを順次繰り返すこととなる。
【0085】
このように、ノイズを抑制する所望の周波数帯域を仮に6GHzと設定し、且つ、材料選定ステップにおいて飽和磁化μ0MSが0.5Tとなるミューメタル(Fe―77Ni―2Cr―5Cu)を磁性粉末粒子200の材料として選定した場合においても、円板形状の直径D及び厚さtが特定されることとなる。なお、上記事例においては、ノイズを抑制する所望の周波数帯域を6GHzと設定した場合における円板形状の直径D及び厚さtが特定される過程を示したが、ノイズを抑制する所望の周波数帯域を6GHz以外の周波数帯に設定した場合においても、同様に円板形状の直径D及び厚さtが特定されることとなる。
【0086】
以上、本発明について実施の形態を掲げて具体的に説明してきたが、本発明はこれに限定されるものではなく、種々の変形、変更が可能である。
【符号の説明】
【0087】
100 ノイズ抑制シート
200 磁性粉末粒子
300 バインダ
400 磁気モーメント
450 磁気ボルテックスコア
500 磁壁
600 還流磁区構造
600 磁気ボルテックス構造