(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022114928
(43)【公開日】2022-08-08
(54)【発明の名称】海藻類及び貝類養殖システム
(51)【国際特許分類】
A01G 33/02 20060101AFI20220801BHJP
A01K 61/51 20170101ALI20220801BHJP
A01K 61/54 20170101ALI20220801BHJP
【FI】
A01G33/02 101
A01K61/51
A01K61/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021011414
(22)【出願日】2021-01-27
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ウェブ上で公開 Journal of Aquaculture Research & Development Vol.11 Iss.5 No: doi:35248/2155-9546.20.10.590 公開日(令和2年5月30日) 日本海水学会誌 第74巻 第249~253頁 公開日(令和2年7月22日)
(71)【出願人】
【識別番号】504209655
【氏名又は名称】国立大学法人佐賀大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099634
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 安雄
(72)【発明者】
【氏名】池上 康之
(72)【発明者】
【氏名】平山 伸
【テーマコード(参考)】
2B104
【Fターム(参考)】
2B104AA26
2B104AA27
2B104CA01
2B104CB12
2B104EA01
2B104EB01
2B104EC01
2B104EC24
2B104EF01
2B104FA03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】低コストで海藻類及び貝類養殖を同時に養殖可能とする海藻類及び貝類養殖システムを提供する。
【解決手段】海藻類及び貝類養殖システムは、海藻類を培養すると共に貝類を養殖する海藻類及び貝類養殖システムであって、海藻類を培養するための第一の海水11を収容した水槽から成る海藻類培養槽1と、貝類養殖用に第二の海水21を収容した水槽から成る貝類養殖槽2と、前記第一の海水を前記第二の海水に供給する供給手段3と、前記第一及び第二の海水の溶存酸素量及び温度を含む水質特性を測定する測定手段と、前記測定手段により測定された前記水質特性に基づいて、前記供給手段による供給を前記貝類養殖槽で養殖される貝類の養殖条件を満たすように制御する制御手段5と、を備える
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
海藻類を培養すると共に貝類を養殖する海藻類及び貝類養殖システムであって、
海藻類を培養するための第一の海水を収容した水槽から成る海藻類培養槽と、
貝類養殖用に第二の海水を収容した水槽から成る貝類養殖槽と、
前記第一の海水を前記第二の海水に供給する供給手段と、
前記第一及び第二の海水の溶存酸素量及び温度を含む水質特性を測定する測定手段と、
前記測定手段により測定された前記水質特性に基づいて、前記供給手段による供給を前記貝類養殖槽で養殖される貝類の養殖条件を満たすように制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする
海藻類及び貝類養殖システム。
【請求項2】
請求項1に記載の海藻類及び貝類養殖システムにおいて、
前記制御手段が、前記貝類養殖槽に貯留される第二の海水における溶存酸素量の増加又は減少の変化率に応じて、前記供給手段による供給を減少又は増加させることを特徴とする
海藻類及び貝類養殖システム。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の海藻類及び貝類養殖システムにおいて、
前記制御手段が、前記貝類養殖槽に貯留される第二の海水における溶存酸素量の増加又は減少の変化率に応じて、前記海藻類培養槽に貯留される第一の海水の温度を増加又は減少させることを特徴とする
海藻類及び貝類養殖システム。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の海藻類及び貝類養殖システムにおいて、
前記第二の海水を前記貝類養殖槽から前記海藻類培養槽に環流する還流手段と、を備え、
前記制御手段が、前記測定手段により測定された前記水質特性に基づいて、前記供給手段による供給及び前記還流手段による環流を制御することを特徴とする
海藻類及び貝類養殖システム。
【請求項5】
請求項4に記載の海藻類及び貝類養殖システムにおいて、
前記還流手段により前記貝類養殖槽から前記海藻類培養槽に還流される第二の海水に硝化菌を添加する添加手段と、
を備えることを特徴とする
海藻類及び貝類養殖システム。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の海藻類及び貝類養殖システムにおいて、
前記海藻類が、不稔性アオサ又は海苔であり、
前記貝類が、牡蠣又はアワビであることを特徴とする
海藻類及び貝類養殖システム。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の海藻類及び貝類養殖システムにおいて、
前記第一の海水が、海洋深層水を原料とすることを特徴とする
海藻類及び貝類養殖システム。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の海藻類及び貝類養殖システムにおいて、
前記制御手段が、前記第二の海水の溶存酸素量4ppm~20ppmを維持するように、前記供給手段による供給及び前記還流手段による環流を制御することを特徴とする
海藻類及び貝類養殖システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海藻類と貝類の養殖に関し、特に、海藻類と貝類を同時に養殖可能な海藻類及び貝類養殖システムに関する。
【背景技術】
【0002】
四方を海に囲まれた我が国では、海産物は、日常的な食材として利用されており、その需要は季節を問わず高い。海産物のうち海藻類や貝類には、海苔やアワビや牡蠣等の高級食材もあり贈答用の需要も高い。
【0003】
このため、海藻類や貝類の培養産業は重要な産業となっており、各種の改良された培養装置が提案されている。
【0004】
従来のアオサの培養装置としては、海洋上でのアオサの培養があり、例えば、周囲が外壁で囲まれ、底部に周囲の海水と連通する有孔壁を有する上部開口培養装置を海洋上に浮遊させ、該培養装置内を海藻、特に不稔性アオサが緩やかに周回する海水に浮遊して流動しうるようにし、前記有孔壁の下部より炭酸ガス含有ガスを通気するものがある(特許文献1参照)。
【0005】
また、例えば、従来の海苔を含む海藻類の陸上養殖装置として、養殖容器内の水位を増減させる事で自然の潮汐と同様の潮汐現象を再現しつつ、養殖容器内の海水温と溶存酸素量と海水中の平均照度を各々測定して養殖容器内の海水中への送気量と照明強度と海水温を増減させ、養殖容器内の海水中に含まれる珪素と燐と窒素と珪酸塩とアンモニア塩のうち一以上の濃度を測定して海水中への養分供給量を増減させたものがある(特許文献2参照)。
【0006】
また、従来では、アワビの甲殻の生育に重要な珪藻を飼育海水中に繁茂させるアワビの養殖システムもあり、例えば、アワビを養殖する水槽である飼育槽、飼育海水中の固形物をサイクロンで分離する固形異物回収装置、飼育海水に薬液、酸素、空気等を吹き込む活性化装置、緑藻類により、飼育海水中の成分を光合成により吸収して栽培する藻類栽培装置、好気性微生物を利用して、飼育海水中に含まれている有機物を硝化細菌により酸化分解する微生物濾過槽からなり、飼育海水中に珪藻を繁茂させるためにケイ酸カリ又はケイ酸ナトリウム水溶液を添加するものがある(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11-289894号公報
【特許文献2】特開2005-328810号公報
【特許文献3】特開2015-89348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1のように、海洋上でのアオサの培養では、海洋上であることからエビやカニなどの食品アレルギー源が混入することから、生産したアオサを食品として安心して利用することが困難となる。また、海洋上での培養生産であるため、温度制御ができないという不便な点もある。
【0009】
この海洋上での培養の問題点を解消するものとして、特許文献2及び3のように、陸上養殖装置も知られているが、自然の海水状態を人工的に再現するために、養殖容器内の海水温、溶存酸素量、海水中の平均照度、及び養分供給量等を常時きめ細かく制御する必要があり、製造コストや維持コストが却って嵩むという課題がある。また、特許文献3のように藻類栽培装置からの培養液をアワビの養殖に利用しようとするものもあるが、当該培養液の成分や溶存成分の状態によっては、その養殖されるアワビの成長状態がまばらとなり、安定的に高い品質でアワビを養殖することは困難である。
【0010】
また、従来の養殖装置は、特許文献1~3のように、本質的には養殖対象が海藻類や貝類のうちの1つに特化したもののみである。複数種類の海産物を同時に養殖できるような養殖システムが実現すれば、効率的な養殖が実現できる可能性があるが、そのようなシステムはこれまでのところ知られていない。
【0011】
本発明は前記課題を解決するためになされたものであり、低コストで海藻類及び貝類養殖を同時に養殖可能とする海藻類及び貝類養殖システムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願に開示する海藻類及び貝類養殖システムは、海藻類を培養すると共に貝類を養殖する海藻類及び貝類養殖システムであって、海藻類を培養するための第一の海水を収容した水槽から成る海藻類培養槽と、貝類養殖用に第二の海水を収容した水槽から成る貝類養殖槽と、前記第一の海水を前記第二の海水に供給する供給手段と、前記第一及び第二の海水の溶存酸素量及び温度を含む水質特性を測定する測定手段と、前記測定手段により測定された前記水質特性に基づいて、前記供給手段による供給を前記貝類養殖槽で養殖される貝類の養殖条件を満たすように制御する制御手段と、を備えるものである。
【0013】
このように、海藻類を培養するための第一の海水を収容した水槽から成る海藻類培養槽と、貝類養殖用に第二の海水を収容した水槽から成る貝類養殖槽と、前記第一の海水を前記第二の海水に供給する供給手段と、前記第一及び第二の海水の溶存酸素量及び温度を含む水質特性を測定する測定手段と、前記測定手段により測定された前記水質特性に基づいて、前記供給手段による供給を前記貝類養殖槽で養殖される貝類の養殖条件を満たすように制御する制御手段と、を備えることから、前記第一の海水が、前記海藻類培養槽中の海藻類の光合成により生じた溶存酸素量が過飽和な酸素リッチな培養液となり、当該培養液が、前記測定手段により測定された前記水質特性に基づいて、前記制御手段により最適に制御されて、前記供給手段により前記第二の海水に供給されることとなり、前記第二の海水を収容する貝類養殖槽において酸素リッチな培養液により貝類の成長が促進され、海藻類及び貝類を効率的に同時に養殖することが可能となる。
【0014】
本願に開示する海藻類及び貝類養殖システムは、必要に応じて、前記制御手段が、前記貝類養殖槽に貯留される第二の海水における溶存酸素量の増加又は減少の変化率に応じて前記供給手段による供給を減少又は増加させるものである。このように、前記制御手段が、前記貝類養殖槽に貯留される第二の海水における溶存酸素量の増加又は減少の変化率に応じて前記供給手段による供給を減少又は増加させることから、貝類養殖槽に貯留される第二の海水中において、生育する貝類の呼吸による酸素消費と前記海藻類培養槽からの酸素供給による溶存酸素量の変動が常にバランス化されることとなり、より安定的に維持された溶存酸素によって貝類の成長を促進させることができる。
【0015】
本願に開示する海藻類及び貝類養殖システムは、必要に応じて、前記制御手段が、前記貝類養殖槽に貯留される第二の海水における溶存酸素量の増加又は減少の変化率に応じて、前記海藻類培養槽に貯留される第一の海水の温度を増加又は減少させるものである。このように、前記制御手段が、前記貝類養殖槽に貯留される第二の海水における溶存酸素量の増加又は減少の変化率に応じて、前記海藻類培養槽に貯留される第一の海水の温度を増加又は減少させることから、前記貝類養殖槽に貯留される第二の海水中において、生育する貝類の呼吸による酸素消費と二酸化炭素排出により二酸化炭素が所定量以上にならないように、温度制御された第一の海水により最適な溶存酸素量として前記海藻類培養槽からの第二の海水の流入量が制御され、前記貝類養殖槽における前記海藻類培養槽からの流入する流量と前記貝類養殖槽から排出する流量により割り出される海水流通量が常に最適化されることとなり、前記貝類養殖槽における制御された海水流通量により安定的に維持された溶存酸素によって貝類の成長をさらに促進させることができる。
【0016】
本願に開示する海藻類及び貝類養殖システムは、必要に応じて、前記第二の海水を前記貝類養殖槽から前記海藻類培養槽に環流する還流手段と、を備え、前記制御手段が、前記測定手段により測定された前記水質特性に基づいて、前記供給手段による供給及び前記還流手段による環流を制御するものである。このように、前記第二の海水を前記貝類養殖槽から前記海藻類培養槽に環流する還流手段と、を備え、前記制御手段が、前記測定手段により測定された前記水質特性に基づいて、前記供給手段による供給及び前記還流手段による環流を制御することから、前記貝類養殖槽で養殖された貝類から発生した二酸化炭素リッチな第二の海水が、前記制御手段が前記水質特性に基づく制御により、前記還流手段により前記海藻類培養槽に環流されることとなり、当該第一の海水を収容する海藻類培養槽において二酸化炭素リッチな培養液により海藻類の光合成が促進され、海藻類及び貝類を効率的に同時に養殖することが可能となる。
【0017】
本願に開示する海藻類及び貝類養殖システムは、必要に応じて、前記還流手段により前記貝類養殖槽から前記海藻類培養槽に還流される第二の海水に硝化菌を添加する添加手段と、を備えるものである。このように、前記還流手段により前記貝類養殖槽から前記海藻類培養槽に還流される第二の海水に硝化菌を添加する添加手段と、を備えることから、硝化菌による酸化作用により、第二の海水を収容した水槽で、養殖された貝類が排出した老廃物に含まれるアンモニアが硝酸に無毒化されることとなり、当該硝酸を含む第二の海水が前記還流手段により前記貝類養殖槽から前記海藻類培養槽に第一の海水に還流され、前記第一の海水に培養される海藻類が、当該硝酸を原料として行われる光合成によって、その成長をさらに効率的に促進させることができ、海藻類及び貝類を効率的に同時に養殖することが可能となる。
【0018】
本願に開示する海藻類及び貝類養殖システムは、必要に応じて、前記海藻類が、不稔性アオサであり、前記貝類が、牡蠣又はアワビであるものである。このように、前記海藻類が、不稔性アオサであり、前記貝類が、牡蠣又はアワビであることから、不稔性アオサの光合成により高効率に生じる酸素リッチな培養液により、牡蠣又はアワビの生育し易い状況が形成されることとなり、海藻類及び貝類を効率的に同時に養殖することが可能となると共に、不稔性アオサにはD-システノール酸を豊富に含有することから、化粧品や食品の原料となるD-システノール酸の工業的原料としての用途にも利用することが可能となり、多様な用途への利用が可能となる海藻類が培養できる。
【0019】
本願に開示する海藻類及び貝類養殖システムは、必要に応じて、前記第一の海水が、海洋深層水を原料とするものである。このように、前記第一の海水が、栄養分豊富であり且つ熱源としても利用可能な海洋深層水を原料とすることから、海藻類における栄養分及び温度についての育成条件が天然由来の海洋深層水によって高められることとなり、海藻類及び貝類をさらに効率的且つ安全に同時に養殖することが可能となる。
【0020】
本願に開示する海藻類及び貝類養殖システムは、必要に応じて、前記制御手段が、前記第二の海水の溶存酸素量4ppm~20ppmを維持するように、前記供給手段による供給及び前記還流手段による環流を制御するものである。このように、前記制御手段が、前記第二の海水の溶存酸素量4ppm~20ppmを維持するように、前記供給手段による供給及び前記還流手段による環流を制御することから、貝類が常に必要十分な量の溶存酸素量の中で成長できることとなり、貝類の成長が促され、海藻類及び貝類をさらに効率的且つ安全に同時に養殖することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る海藻類及び貝類養殖システムの機能ブロックを示す図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係る海藻類及び貝類養殖システムの機能ブロックを示す図である。
【
図3】本発明の第2の実施形態に係る海藻類及び貝類養殖システムの機能ブロックを示す図である。
【
図4】本発明の第2の実施形態に係る海藻類及び貝類養殖システムの機能ブロックを示す図である。
【
図5】本発明の第3の実施形態に係る海藻類及び貝類養殖システムの機能ブロックを示す図である。
【
図6】本発明の第3の実施形態に係る海藻類及び貝類養殖システムの機能ブロックを示す図である。
【
図7】本発明の第4の実施形態に係る海藻類及び貝類養殖システムの機能ブロックを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(第1の実施形態)
第1の実施形態に係る海藻類及び貝類養殖システムは、海藻類100を培養すると共に貝類200を養殖する海藻類及び貝類養殖システムであって、海藻類100を培養するための第一の海水11を収容した水槽から成る海藻類培養槽1と、貝類養殖用に第二の海水21を収容した水槽から成る貝類養殖槽2と、この第一の海水11をこの第二の海水21に供給する供給手段3と、この第一及び第二の海水21の溶存酸素量及び温度を含む水質特性を測定する測定手段4と、この測定手段4により測定されたこの水質特性に基づいて、この供給手段3による供給をこの貝類養殖槽2で養殖される貝類200の養殖条件を満たすように制御する制御手段5と、を備えるものである。
【0023】
この海藻類培養槽1中に培養される海藻類100としては、紅藻類又は緑藻類を用いることが好適であり、紅藻類としては、例えば、スサビノリ(Porphyra yezoensis Ueda)またはナラワスサビノリ(Neopyropia yezoensis f. narawaensis)を用いることが好適であり、タウリンの含有量が多く栄養価に優れるとともに、陸上での培養生産も容易に可能となる。
【0024】
この海藻類100である緑藻類としては、例えば、アオサ属の海藻類を用いることが好適であり、例えば、不稔性アオサとして知られているUlva lactuca及び/又はUlva pertusaを用いることができ、また、通称「あおさ」として知られているアナアオサ、リボンアオサ、アミアオサ、及び/又はミナミアオサを用いることができ、また、通称「青のり」として知られているすじ青のり、うすば青のり、ひら青のり、Porphyra Ueda、及び/又はNeopyropia vezoensis f.narawaensisを用いることができる。この他にも、緑藻類として、例えば、ヒトエグサ属の海藻類100を用いることも可能である。これらの緑藻類は、栄養価に優れるとともに、陸上での培養生産も容易に可能となる。
【0025】
この海藻類培養槽1に収容される第一の海水11としては、海水であれば特に限定されないが、海洋深層水、又は海洋深層水を含む海洋中層水が好ましく、特に海洋深層水が好ましい。このように、この第一の海水11が、栄養分豊富であり且つ熱源7bとしても利用可能な海洋深層水を原料とすることにより、海藻類100における栄養分及び温度についての育成条件が天然由来の海洋深層水によって高められることとなり、海藻類及び貝類をさらに効率的且つ安全に同時に養殖することが可能となる。この海藻類培養槽1により、海藻類100を陸上培養することが可能となる。
【0026】
この第一の海水11は、海水をそのまま用いてもよいが、海水をろ過して用いることも可能である。また、用途に応じて、この海藻類培養槽1に収容された第一の海水11にエアレーションを行いながら海藻類100を培養することも可能であり、第一の海水11に対してより効率的に窒素源や炭素源を供給することができる。
【0027】
この貝類養殖槽2に収容される第二の海水21は、この制御手段5がこの測定手段4に基づいてこの供給手段3により上記の第一の海水11が供給されて形成される。また、この貝類養殖槽2には、排出口2aを備えており、排出口2aからこの貝類養殖槽2に貯留される第二の海水21を適宜排出することができ、この排出は、ポンプによる汲み上げでもよいし、溢流でもよい。
【0028】
この供給手段3は、溶液を輸送する手段であれば特に限定されないが、例えば、ポンプを用いることができ、連続式でもよいし間歇式でもよく、用途に応じて、適宜選択可能である。また、供給時期は、日照時間帯であること、特に昼間~夕方であることが好ましい。この海藻類100の光合成が呼吸よりも比重が高い日照時間帯の第一の海水11であることから、より高い溶存酸素量の第一の海水11がこの貝類養殖槽2に供給されることとなり、高い溶存酸素量中で貝類200の成長が促進される。
【0029】
この測定手段4は、この海藻類培養槽1において、第一の海水11の溶存酸素量を測定する第一温度測定部41aと、第一の海水11の温度を含む水質特性を測定する第一温度測定部41aと、を備える第一測定手段41として構成されると共に、この貝類養殖槽2において、第二の海水21の溶存酸素量を測定する第二温度測定部42aと、第二の海水21の温度を含む水質特性を測定する第二温度測定部42aと、を備える第二測定手段42として構成される。その測定装置としては、各々、溶存酸素計及び温度計を用いることができる。
【0030】
この制御手段5は、特に、この第二の海水21の溶存酸素量4ppm(mg/L)~20ppm(mg/L)を維持するように制御を行うことが好ましい。この溶存酸素量が4ppmより低いと貝類200が酸素不足により成長が阻害されやすくなり、また20ppmより多いと酸素過多となり貝類200の成長が阻害されやすくなる。これにより、貝類200が常に必要十分な量の溶存酸素量の中で成長できることとなり、貝類200の成長が促され、海藻類及び貝類をさらに効率的且つ安全に同時に養殖することが可能となる。
【0031】
この制御手段5による制御については、例えば、この海藻類100の成長最適温度がこの貝類200のそれよりも高温であることに起因してこの海藻類培養槽1の第一の海水11の温度が貝類養殖槽2の第二の海水21の温度より高くなることや、この貝類200が第二の海水21中の溶存酸素を摂取(呼吸)することによって、この貝類養殖槽2に貯留される第二の海水21における溶存酸素量の増加又は減少に経時的な変化が生じ得るが、この変化の度合いに応じた制御を行うことが可能である。この観点から、例えば、この制御手段5は、この貝類養殖槽2に貯留される第二の海水21における溶存酸素量の増加又は減少の変化率に応じてこの供給手段3による供給を減少又は増加させることができる。このような供給の制御は、例えば、この貝類養殖槽2の槽内の第二の海水21の供給と排出(ポンプによる汲み上げでも溢流でもよい)を調整することにより流量を制御することにより行うことが可能である。これにより、貝類養殖槽2に貯留される第二の海水21中において、生育する貝類200の呼吸による酸素消費とこの海藻類培養槽1からの酸素供給による溶存酸素量の変動が常にバランス化されることとなり、より安定的に溶存酸素が維持されて貝類200の成長を促進させることが可能となる。
【0032】
この他にも、例えば、この制御手段5は、上述の貝類養殖槽2に貯留される第二の海水21における溶存酸素量の増加又は減少の変化率に応じて、この供給手段3による供給を減少又は増加させることができる。このような供給の制御としては、例えば、この貝類養殖槽2の槽内の第二の海水21の流量と排出(ポンプによる汲み上げでも溢流でもよい)を制御することにより行うことが可能である。これにより、この貝類養殖槽2に貯留される第二の海水21中において、貝類養殖槽に貯留される第二の海水21中において、生育する貝類200の呼吸による酸素消費と二酸化炭素排出により二酸化炭素が所定量以上にならないように、温度制御された第一の海水11により最適な溶存酸素量としてこの海藻類培養槽1からのこの第二の海水21の流入量が制御され、この貝類養殖槽2におけるこの海藻類培養槽1からの流入する流量とこの貝類養殖槽2の排出口2aから排出する流量により割り出される海水流通量が常に最適化されることとなり、この貝類養殖槽2における制御された海水流通量により安定的に維持された溶存酸素によって貝類の成長をさらに促進させることができる。
【0033】
この制御手段5によるこのような温度制御には、各種の熱源を用いることが可能であり、このような熱源としては、例えば、地中熱、海洋深層水、及び/又は、海洋中層水を利用することが可能である。この制御手段5は、例えば、海藻類100として不稔性アオサを培養する場合には、増殖速度が高い20~29℃の温度帯に培養海水温度を調整する。また、この制御手段5による温度調整は、例えば、海藻類100として海苔を培養する場合には、18℃以下に調整されることが好ましく、特に11~13℃に調整されるよう制御されることが好ましい。このような熱源の熱交換には、プレート式熱交換器を用いることができ、高い熱交換率での熱交換が可能となる。
【0034】
この制御手段5は、この海藻類培養槽1及び貝類養殖槽2の各々の飽和溶存酸素量に応じて、この海藻類培養槽1から貝類養殖槽2へ供給する第一の海水11の供給量(流量)を制御することができる。例えば、第一の海水11又は第二の海水12中の飽和溶存酸素が閾値以下の場合には、この貝類養殖槽2への第一の海水11の供給量を増大させるようにする制御によって、この貝類養殖槽2の溶存酸素量を常に高い水準に維持することが可能となり、貝類200の成長が促進される。特に、この海藻類100は、この貝類200よりも一般に高温で育成可能とされることから、この海藻類培養槽1で高温下(例えば30℃)で海藻類100による光合成により溶存酸素量の多い状態となっている第一の海水11が、第一の海水11よりも低温(例えば20℃)に制御された貝類養殖槽2へ供給されることから、この海藻類100と貝類200の最適成長温度の違いを利用して、この貝類養殖槽2中の溶存酸素量が常に過飽和状態を維持できることとなり、貝類200の成長が一層促進される。
【0035】
また、この制御手段5は、例えば、第一の海水11又は第二の海水12中の飽和溶存酸素が閾値以上の場合には、この貝類養殖槽2への第一の海水11の供給量を一時的に減少させるように制御することによって、第一の海水11からの低い供給量でも効率的に貝類養殖槽2の溶存酸素量を常に高い水準に維持することが可能となり、貝類200の成長が促進される。
【0036】
この他にも、例えば、この制御手段5による溶存酸素制御は、第一の海水11中の各水温での飽和溶存酸素が閾値以上の濃度になった時点で、第一の海水11を貝類養殖槽2へ供給することも可能である。この閾値としては、例えば、飽和溶存酸素の70%を指標とすることができる。第一の海水11中の溶存酸素濃度が飽和溶存酸素70%以上になった際にアラームを発する出力部を有することも可能であり、これにより培養液の状況を随時確認することが可能となる。また、各水温での飽和溶存酸素が閾値以下の濃度になった時点には、飽和溶存酸素が閾値に達するまで貝類養殖槽2への供給を一時的に停止することも可能である。このような制御手段5による溶存酸素量に基づく流量制御により、常に安定した溶存酸素の第一の海水11を貝類養殖槽2に供給することが可能となる。
【0037】
この制御手段5は、特に、海藻類100として不稔性アオサを培養し、貝類200として牡蠣を養殖する場合には、第一の海水11の温度を25℃~30℃に維持することで、不稔性アオサの増殖速度を最大化できる。これにより、第一の海水11では、不稔性アオサの光合成が活発化されることとなり、その溶存酸素量が10ppm以上という極めて過飽和な状態が得られる。例えば、不稔性アオサは、一般に、30℃でも旺盛に生育し、32℃の高温下でも生育し、その際の溶存酸素量は10ppm以上という過飽和な状態となることが知られている。
【0038】
他方、一般に牡蠣をこのような30℃近くの高温の海水で養殖すると空気を曝気しても必要な溶存酸素量が不足となりその成長が阻害されるが、本実施形態ではこのような高温であっても過飽和な第一の海水11が供給手段3によって貝類養殖槽2に供給されることで、極めて高い溶存酸素量の海水が牡蠣に供給されることとなり、一般に溶存酸素不足により牡蠣の成長がし難いとされる夏場の高温下であっても牡蠣を容易に生育させることが可能となる。つまり、夏場の牡蠣の溶存酸素量不足を海藻類100である不稔性アオサ培養による過飽和酸素の海水で補えることとなる。さらに、この制御手段5の制御によるこの第一の海水11の供給には、第一の海水11を例えば夜間に水温15℃~25℃まで低温化されてから貝類養殖槽2に供給することがより好ましく、これにより溶存酸素量がさらに過飽和な状態になると共に、牡蠣の成長にとって最適な温度ともなり、牡蠣の成長を一層促進させることが可能となる。
【0039】
また、この制御手段5は、この貝類養殖槽2における貝類200の成長度合いに応じて、この貝類養殖槽2への供給量を制御することも可能である。例えば、貝類200の成長度合いとして貝類200の月齢及び/又は全長により判断される貝類200の成長期に応じて、成長に最適な温度と溶存酸素量を算出し、この測定手段4により測定された第一の海水11及び第二の海水21の各々の温度及び溶存酸素量から、第二の海水21に供給する第一の海水11の流量を制御し、貝類200が最も成長しやすい温度と溶存酸素量に第二の海水21が維持される。これにより、経時的に動的な制御が可能となり、貝類200の成長を効率よく促進することができる。
【0040】
さらに、この制御に加えて、海藻類100の月齢及び/又は全長により判断される海藻類100の成長期にも応じて、この測定手段4により測定された第一の海水11の温度と溶存酸素量から、第二の海水21に供給する第一の海水11の流量を制御することも可能である。例えば、海藻類100の発芽時期と成長時期の2つの成長段階に応じて海藻類培養槽1から貝類養殖槽2への第一の海水11の供給量を変動させて制御する。
【0041】
例えば、この制御手段5によって、海藻類100の初期の発芽時期には海藻類培養槽1中の第一の海水11を15℃~20℃の比較的低温を維持するように制御すると共に、この第一の海水11をそのまま貝類養殖槽2に供給する。この貝類養殖槽2に供給された第一の海水11の温度は、貝類200(例えば牡蠣)の生育にとって最適な温度である。このように、海藻類100の発芽時期に海藻類100の発芽を促進させると共に貝類200の成長も同時に促進される。
【0042】
さらに、例えば、発芽を終えた海藻類100の成長時期には海藻類培養槽1中の第一の海水11を20℃~30℃の比較的高温を維持するように制御すると共に、この第一の海水11が低温となる例えば夜間に15℃~25℃となった時点で貝類養殖槽2に供給する。この貝類養殖槽2に供給された第一の海水11の温度は、貝類200(例えば牡蠣)の生育にとって最適な温度である。このように、海藻類100の成長時期においても海藻類100の発芽を促進させると共に貝類200の成長も同時に促進される。
【0043】
これにより、海藻類100側及び貝類200側の成長の段階に応じて、経時的に動的な制御が可能となり、海藻類及び貝類の両方の成長をその成長時期に応じて効率よく促進することができる。
【0044】
このように、海藻類100を培養するための第一の海水11を収容した水槽から成る海藻類培養槽1と、貝類養殖用に第二の海水21を収容した水槽から成る貝類養殖槽2と、この第一の海水11をこの第二の海水21に供給する供給手段3と、この第一及び第二の海水21の溶存酸素量及び温度を含む水質特性を測定する測定手段4と、この測定手段4により測定されたこの水質特性に基づいて、この供給手段3による供給を制御する制御手段5と、を備えることから、この第一の海水11が、この海藻類培養槽1中の海藻類100の光合成により溶存酸素量が過飽和となる酸素リッチな培養液となり、この培養液が、この測定手段4により測定されたこの水質特性に基づいて、この制御手段5により最適に制御されて、この供給手段3によりこの第二の海水21に供給されることとなり、この第二の海水21を収容する貝類養殖槽2において酸素リッチな培養液により貝類200の成長が促進され、海藻類及び貝類を効率的に同時に養殖することが可能となる。
【0045】
なお、
図2に示すように、この海藻類培養槽1を、海藻類育成用培養槽1aと培養液用制御槽1bの二段階の構成としてもよい。これにより、測定される海藻類培養槽1の水質特性が、海藻類100からの影響を抑えて安定的に測定されることとなり、制御手段5による制御の精度をより高めることができる。
【0046】
(第2の実施形態)
第2の実施形態に係る海藻類及び貝類養殖システムは、上記第1の実施形態と同様に、前記海藻類培養槽1と、前記貝類養殖槽2と、前記供給手段3と、前記測定手段4と、前記制御手段5と、を備え、さらに、
図3に示すように、前記第二の海水21を前記貝類養殖槽2から前記海藻類培養槽1に環流する還流手段6と、を備え、前記制御手段5が、前記測定手段4により測定された前記水質特性に基づいて、前記供給手段3による供給及び前記還流手段6による環流を制御するものである。
【0047】
この還流手段6としては、溶液を輸送する手段であれば特に限定されないが、例えば、ポンプを用いることができ、連続式でもよいし間歇式でもよく、用途に応じて、適宜選択可能である。
【0048】
この還流手段6は、この制御手段5のもとで、この貝類養殖槽2で貝類200から発生した二酸化炭素リッチな第二の海水21を、この貝類養殖槽2から海藻類培養槽1に環流することで、この第一の海水11を収容する海藻類培養槽1中の海藻類100の光合成が二酸化炭素リッチな状況下で促進されることとなり、海藻類100の成長がさらに促進される。
【0049】
また、海藻類培養槽1の海藻類100(例えば不稔性アオサ)は、貝類200(例えば牡蠣)の排出する糞に含まれるアンモニアを栄養源として吸収できることから、第二の海水21を第一の海水11に環流することで、栄養源供給の観点からも、海藻類100の成長がさらに促進される。
【0050】
この環流を制御する制御手段5は、溶存酸素量の観点以外にも、例えば、海藻類100として不稔性アオサを培養する場合には、増殖速度が高い20~29℃の温度帯に培養海水温度を調整するように、この貝類養殖槽2からの第二の海水21の環流を制御することができる。
【0051】
また、この制御手段5は、例えば、海藻類100として海苔を培養する場合には、好適な18℃以下に培養海水温度を調整するように、この貝類養殖槽2からの第二の海水21の環流を制御することができる。これにより、外部の熱交換器を必要とせずに温度調整が自在に行えることとなり、装置の簡素化及び装置コスト軽減が可能となる。
【0052】
このように、本実施形態では、この第二の海水21をこの貝類養殖槽2からこの海藻類培養槽1に環流する還流手段6とを備え、この制御手段5が、この測定手段4により測定されたこの水質特性に基づいて、この供給手段3による供給及びこの還流手段6による環流を制御することから、この貝類養殖槽2で養殖された貝類200から発生した二酸化炭素リッチな第二の海水21が、この制御手段5がこの水質特性に基づく制御により、この還流手段6によりこの貝類養殖槽2からこの海藻類培養槽1に環流されることとなり、この第一の海水11を収容する海藻類培養槽1において二酸化炭素リッチな培養液により海藻類100の光合成が促進され、海藻類及び貝類を効率的に同時に養殖することが可能となる。
【0053】
なお、
図4に示すように、この海藻類培養槽1を、海藻類育成用培養槽1aと培養液用制御槽1bの二段階の構成としてもよい。これにより、測定される海藻類培養槽1の水質特性が、海藻類100からの影響を抑えて安定的に測定されることとなり、制御手段5による制御の精度をより高めることができる。
【0054】
(第3の実施形態)
第3の実施形態に係る海藻類及び貝類養殖システムは、上記第2の実施形態と同様に、前記海藻類培養槽1と、前記貝類養殖槽2と、前記供給手段3と、前記測定手段4と、前記制御手段5と、前記還流手段6と、を備え、さらに、
図5に示すように、前記還流手段6により貝類養殖槽2から海藻類培養槽1に還流される第二の海水21に硝化菌を添加する添加手段7と、を備えるものである。
【0055】
この硝化菌は、亜硝酸菌(アンモニア酸化細菌)と硝酸菌を含むものである。この亜硝酸菌によって、この貝類養殖槽2中の貝類200(例えば牡蠣)から排出された糞に含まれるアンモニアが以下のように酸化反応する。
【0056】
〔化1〕
NH4++3/2O2 →NO2
-+H2O
【0057】
引き続いて、硝酸菌による亜硝酸化として、以下の酸化反応が起きる。
【0058】
〔化2〕
NO2
-+1/2O2 →NO3
-
【0059】
この硝化菌による酸化反応により、この貝類養殖槽2の貝類200(例えば牡蠣)から排出された糞に含まれる魚貝類200に有毒なNH4+及びNO2
-が、魚貝類200に無毒なNO3
-まで無毒化される。さらに、このNO3
-を含む第二の海水21が第一の海水11として還流された海藻類培養槽1では、海藻類100(例えば不稔性アオサ)がこのNO3
-Nを栄養源として吸収することとなり、貝類200(例えば牡蠣)による汚水を水質浄化することのみならず海藻類100の成長も促進することができる。
【0060】
このように、この第二の海水21に硝化菌を添加する添加手段7を備えることから、硝化菌(亜硝酸菌と硝酸菌を含む)による酸化作用により、第二の海水21を収容した水槽で、養殖された貝類200が排出した老廃物に含まれるアンモニアが化学変換して硝酸として無毒化されることとなり、この硝酸を含む第二の海水21がこの還流手段6により第一の海水11に還流され、第一の海水11に培養される海藻類100が、この硝酸を原料として行われる光合成によって、その成長をさらに効率的に促進させることができ、海藻類及び貝類を効率的に同時に養殖することが可能となる。
【0061】
なお、
図6に示すように、この海藻類培養槽1を、海藻類育成用培養槽1aと培養液用制御槽1bの二段階の構成としてもよい。これにより、測定される海藻類培養槽1の水質特性が、海藻類100からの影響を抑えて安定的に測定されることとなり、制御手段5による制御の精度をより高めることができる。
【0062】
(第4の実施形態)
第4の実施形態に係る海藻類及び貝類養殖システムは、上記第3の実施形態と同様に、前記海藻類培養槽1と、前記貝類養殖槽2と、前記供給手段3と、前記測定手段4と、前記制御手段5と、前記還流手段6と、を備え、さらに、
図7に示すように、海水をろ過して培養海水(第一の海水11)に供給するろ過海水供給部7aと、培養により成長した海藻類100としての不稔性アオサを回収するアオサ回収部と、前記不稔性アオサを化粧品及び/又は食品の原料として供給する化粧品・食品原料供給部7eと、前記不稔性アオサをアワビ及び/又はウニの養殖の餌として供給するアワビ・ウニ養殖部8と、を備え、さらに、前記海藻類培養槽1が、前記海藻類100を陸上で培養する海藻類100陸上培養部として、培養海水(第一の海水11)に海藻類100の栄養分となる窒素源を供給する窒素源供給部7c(N供給部)と、培養海水(第一の海水11)中の窒素濃度を測定する窒素濃度測定部41c(N濃度測定部)、培養海水(第一の海水11)に二酸化炭素ガスを供給するエアー供給部7d、地中熱及び/又は海洋深層水(含む海洋中層水)からなり熱エネルギーを供給する熱源7bを含んで構成されるものである。
【0063】
また、この供給手段3は、培養海水回収・供給部31から構成される。この測定手段4は、培養海水(第一の海水11)の温度を測定する温度測定部、及び培養海水(第一の海水11)中の溶存酸素量を測定する溶存酸素測定部から構成される。この制御手段5は、得られた溶存酸素量の測定結果から飽和度を算出する溶存酸素測定結果飽和度算出部5a、得られた溶存酸素飽和度算出結果をモニターに発信して表示する溶存酸素測定結果飽和度算出結果発信部5a、及び、培養海水(第一の海水11)の温度を制御する温度制御部5cから構成される。
【0064】
この貝類養殖槽2は、牡蠣を養殖する牡蠣養殖部から構成される。この供給手段3は、上記海藻類培養槽1の培養海水(第一の海水11)を牡蠣養殖部へ回収・供給する培養海水回収・供給部31から構成される。
【0065】
本実施形態に係る養殖システムは、海水から海水ろ過部1cを経て、不稔性アオサ培養部へ海水が供給され、このろ過水を用いて不稔性アオサを陸上にてエアー供給部によりエアレーションしながら培養する。窒素源供給部7c(N供給部)からは無機物の窒素源(NO3-N等)や有機物の窒素源(堆肥の熱水抽出物のろ過液等)をアオサ陸上培養部のうちの培養海水(第一の海水11)に供給することができる。
【0066】
その際、窒素濃度(N濃度)は窒素濃度測定部41c(N濃度測定部)にて測定され、0.3~1.5ppmに濃度制御しながら培養を行う。なお、窒素濃度(N濃度)が2ppmを超えると珪藻などの他の藻類が生えやすくなり、コンタミの要因となる。また、海藻類100として海苔を用いる場合は、0.3~0.8ppmに濃度制御しながら培養を行うことが好適である。なお、窒素濃度(N濃度)が1ppmを超えると珪藻などの他の藻類が生えやすくなり、同様にコンタミの要因となる。
【0067】
また、アオサの有効成分であるD-システノール酸の生産効率を高めるという観点からは、0.5~1.5ppmの高い窒素濃度でアオサを培養させることが好適である。特に、0.8~1.5ppmの高い窒素濃度ではアオサの増殖速度が向上し、含有率が高まる傾向(0.3~0.5%)にある。他方、0.3ppmNではアオサの増殖速度も低下してその含有率も低くなる(0.2%前後)傾向がある。
【0068】
そのため、アオサ培養海水の溶存酸素リッチ海水の牡蠣への供給は、0.8~1.5ppmの高濃度窒素条件で行うことにより、効率的に酸素リッチな海水が生産・供給可能となり、アオサ増殖速度とアオサ濃度の両者が共に高い条件下で成長促進することができる。
【0069】
培養により海藻類100(例えば、不稔性アオサや海苔)が増殖するにつれて、光合成から生じる酸素が発生する。その酸素は第一溶存酸素測定部41bにて測定され、第一温度測定部41aのデータを元に溶存酸素測定結果飽和度算出部5aで算出され、測定温度での酸素飽和度が70%以上になった際に、溶存酸素飽和度算出結果発信部5bからアラームが発信され、培養海水回収・供給部31から溶存酸素を必要とする牡蠣の養殖部にこの海水を供給する。この海水の供給に際しては、牡蠣の養殖部では、第二溶存酸素測定部42bで測定された溶存酸素と、第二温度測定部42aで測定された温度に基づいて、制御手段5によって、この海水の供給量が制御される。
【0070】
また、本発明者らは、午後の時間帯の溶存酸素濃度に関して、20℃の海水で培養したアオサの培養液では8mg/Lであり、15℃の海水で培養した海苔の培養液では8mg/Lという高値であることも確認している。
【0071】
溶存酸素が2~3mg/L(飽和の1/3程度)まで低い場合には、牡蠣の生育に深刻な影響があるとされるが、このような海藻類100(例えばアオサや海苔)の培養で得られた酸素リッチな海水を貝類200(例えば牡蠣)の養殖液に供給することのみによって、噴流装置等の特別な装置を使わずに溶存酸素量を増大させることとなり、貝類200を安定に生育させることが可能となる。
【0072】
この温度制御部5cにより温度制御される熱源7bとしては、上述のように、地中熱、海洋深層水(海洋中層水を含む)が挙げられ、海藻類100として例えばアオサの培養では増殖速度が高い20~29℃の温度帯に培養海水温度を常時調整する。また、アオサ以外の海藻類100として例えば海苔の培養を行う際には18℃以下、望ましくは11~13℃が好適である。熱源7bとの熱交換には熱交換率の高いプレート式熱交換器を用いる。
【0073】
更に、培養される海藻類100のうちアオサとしては、D-システノール酸の含有が乾燥重量当たり0.3%以上であることが確認されているUlva lactucaまたはUlva pertusaを用いることが好適であり、培養される海苔としてはタウリンが乾燥重量当たり1%以上含まれるスサビノリナラまたはワスサビノリが好適である。
【0074】
これにより、培養により成長したアオサを化粧品・食品原料供給部7eへ供給することで、この海藻類100に含有されるD-システノール酸やタウリンを化粧品や食品原料の有効成分として利用することができ、幅広い用途に利用可能となる。
【0075】
この化粧品・食品原料供給部7eは、アオサの洗浄、脱水、乾燥設備から構成され、腐食しやすいアオサや海苔を短時間に洗浄・乾燥させて化粧品・食品原料として加工する。アワビ・ウニ養殖部8へは回収したアオサや海苔を未洗浄のまま、生で餌として供給することが可能となる。また、海水返送部61は、このアワビ・ウニ養殖部8の海水をアオサ陸上培養部(海藻類培養槽1)に返送する。これにより、アオサ陸上培養部(海藻類培養槽1)に二酸化炭素リッチな海水が供給され、アオサの光合成がさらに促進される。
【0076】
このように、本実施形態では、D-システノール酸を含有する不稔性アオサとしてUlva lactuca及びまたは、Ulva pertusa種とし、タウリンを含有する海苔としてスサビノリまたはナラワスサビノリを夫々選定することによって、温度制御の元、エアレーション下で培養生産したアオサや海苔を化粧品や食品の原料や、アワビやウニの餌料として供給すると共に、不稔性アオサ等の海藻類100の培養で発生した酸素リッチな海水を牡蠣等の貝類200に供給できるという海藻類及び貝類の同時生産システムを提供することができる。
【0077】
以下、本発明を説明するための具体例として実施例を挙げるが、これは具体例の1つであり、この実施例に本発明が限定されるものではない。
【0078】
(実施例)
牡蠣の養殖に必要な酸素要求量がアオサの光合成で発生する酸素にて賄えるか否か、光合成とバイオマス生産速度の関係式からの算出を元に確認した。
【0079】
以下の前提を用いた。
アオサ生産(増殖)速度/日:10g/m2=1mg/cm2(条件1)
培養面積(表面積):10,000cm2(=100cm×100cm)(条件2)
1日あたり:1mg/cm2×10,000cm2=10,000mg=10gのアオサが生産され、同時に10.6gの02が発生し、この10.6gの02は全て溶存する。
【0080】
文献(https://www.jstage.jst.go.jp/article/suisan/71/5/71_5_762/_pdf/-char/ja)から、牡蠣の酸素要求量として、生重60g(乾重10g)の個体あたり、5mg-02/h×24h=120mg02/日=0.12g 02/日となる(光合成:6C02+12H2O+光エネルギー→C6H12O6(180g)+6H2O + 6O2(192g))と共に、生重60gの牡蠣は0.12g 02/日で酸素を消費することが確認された。このことから、10.6g02/日÷0.12g02/日=88個の牡蠣を賄えることが確認された。
【0081】
また、文献(https://www.jfa.maff.go.jp/j/kenkyu/pdf/pdf/3-3.pdf)から、牡蠣はDO(溶存酸素)2-3mg/L(飽和の1/3程度)で生育に深刻な影響があることから、飽和DO9mg/Lの半分量を維持できれば、88個×2=176個の牡蠣を養殖できる。
【0082】
また、海水1tの牡蠣養殖液の溶存酸素量が2ppmに低下した場合には、溶存酸素量2ppmの海水1tから0.5tを排水し、アオサ培養液からの6ppmの海水を0.5t投入(酸素投入量としては3g)することにより、牡蠣培養槽の溶存酸素量は生育に適する4ppmを維持することが可能となる。これにより、光合成が終わる夕方までに牡蠣培養槽にアオサの培養液(酸素リッチ海水)を供給した。その結果、アオサの培養液中の溶存酸素量が最大な状態で牡蠣培養槽にアオサの培養液を供給することが可能となった。
【0083】
得られた結果から、牡蠣養殖とアオサ培養をリンクさせた養殖システムは、計算上も成立し、このことから、1m2のアオサ培養面積と0.53tの牡蠣の養殖水槽の大きさのスケールで構築することが可能となった。
【符号の説明】
【0084】
1 海藻類培養槽(アオサ陸上養殖部)
1a 海藻類育成用培養槽
1b 培養液用制御槽
1c 海水ろ過部
11 第一の海水
2 貝類養殖槽(牡蠣養殖部)
2a 排出口
21 第二の海水
3 供給手段
31 培養海水回収・供給部
4 測定手段
41 第一測定手段
41a 第一温度測定部
41b 第一溶存酸素測定部
41c 窒素濃度測定部
42 第二測定手段
42a 第二温度測定部
42b 第二溶存酸素測定部
5 制御手段
5a 溶存酸素測定結果飽和度算出部
5b 溶存酸素飽和度算出結果発信部
6 還流手段
61 海水返送部
7 添加手段
7a ろ過海水供給部
7b 熱源
7c 窒素源供給部
7d エアー供給部
7e 化粧品・食品原料供給部
8 アワビ・ウニ養殖部
100 海藻類
200 貝類