(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022114947
(43)【公開日】2022-08-08
(54)【発明の名称】ケーブル
(51)【国際特許分類】
H01B 7/36 20060101AFI20220801BHJP
【FI】
H01B7/36 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021011449
(22)【出願日】2021-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】501418498
【氏名又は名称】矢崎エナジーシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 由祐
【テーマコード(参考)】
5G315
【Fターム(参考)】
5G315JA02
5G315JB03
5G315JC02
5G315JC03
5G315JC04
(57)【要約】
【課題】紫外線が当たる環境下に布設された場合であっても、ケーブル端末において露出した絶縁体の紫外線による劣化を防止できるケーブルを提供する。
【解決手段】ケーブル10は、互いに撚り合わされた複数本の絶縁線心3と、複数本の絶縁線心3の外周を被覆するシース5と、を備える。絶縁線心3は、導体1と、導体1の外周を被覆する絶縁体2と、を有し、絶縁体2の外周面に、蓄光性材料によるマーキングMが長手方向螺旋状に施される。絶縁体2は、オレフィン系樹脂を含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに撚り合わされた複数本の絶縁線心と、
前記複数本の絶縁線心の外周を被覆するシースと、を備えるケーブルであって、
前記絶縁線心は、
導体と、
前記導体の外周を被覆するオレフィン系絶縁体と、を有し、
前記絶縁体の外周面に、蓄光性材料によるマーキングが長手方向螺旋状に施された、
ケーブル。
【請求項2】
前記絶縁体の前記外周面に、凹凸部が設けられ、
前記凹凸部に前記マーキングが施された、
請求項1に記載のケーブル。
【請求項3】
前記導体の断面積は2平方ミリメートル以下である、
請求項1又は2に記載のケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
配電用などに用いられるケーブルは、導体の外周を絶縁体で被覆した絶縁線心が複数本、撚り合わされ、撚り合わされた絶縁線心の外周を覆うシースが設けられている。このようなケーブルには、誤配線を防止するため、シースの外周面に識別表示が設けられているものがある(例えば、特許文献1参照。)。また、このようなケーブルにおいて、複数本の絶縁線心を識別するため、絶縁線心の絶縁体に識別表示が設けられているものもある(例えば、特許文献2、3参照。)。
【0003】
特許文献1に記載されたケーブルにおいては、シースの外周面に凹凸形状を設け、凹部に蓄光蛍光塗料による印字を施すことで、擦れに対する識別表示の消失を防いでいる。
特許文献2に記載されたケーブルにおいては、絶縁線心の絶縁体に、剥離性を有するストライプを形成して、ケーブル施工時における導体の配線間違いを予防している。
特許文献3に記載されたケーブルにおいては、絶縁線心の絶縁体に、周方向に亘って繋がったリング状のマークを印刷して、全方向から視認可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-27678号公報
【特許文献2】特開2006-324085号公報
【特許文献3】特開2014-17124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ポリエチレン絶縁体は紫外線に弱いため、紫外線が当たる環境下でケーブルが用いられる場合には、通常、絶縁線心の絶縁体の上に対候性テープを予め巻く等の遮光処理が施される。しかし、紫外線が当たらないと判断された環境下においては、遮光処理が施されない場合がある。この場合、屋外の配電盤内等といった布設環境において、夜間に施工及び点検をする際、作業者は、扉の隙間や水抜き孔から配電盤内への紫外線の侵入を見逃してしまう可能性が高い。特に、配電盤内で電力計に接続されたケーブルの端末部は、外部から視認が困難であるため、作業者は、この端末部に紫外線が当たっていることに気付きにくい。
【0006】
施工時に紫外線の侵入を見逃してしまいテープ巻きを行わず、点検でも紫外線の侵入に気付けなかった場合、紫外線が長期にわたり当たり続けることで、ケーブル端末においてシースが皮剥きされて露出している絶縁体の劣化が進行してしまう。上記特許文献1~3のケーブルを敷設した場合であっても、作業者は、ケーブル端末において露出している絶縁体に紫外線が当たっていることを、点検時等に気付くことができない。
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、紫外線が当たる環境下に布設された場合であっても、ケーブル端末において露出した絶縁体の紫外線による劣化を防止できるケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した目的を達成するために、本発明に係るケーブルは、下記(1)~(3)を特徴としている。
(1)互いに撚り合わされた複数本の絶縁線心と、
前記複数本の絶縁線心の外周を被覆するシースと、を備えるケーブルであって、
前記絶縁線心は、
導体と、
前記導体の外周を被覆するオレフィン系絶縁体と、を有し、
前記絶縁体の外周面に、蓄光性材料によるマーキングが長手方向螺旋状に施された、
ケーブル。
(2)前記絶縁体の前記外周面に、凹凸部が設けられ、
前記凹凸部に前記マーキングが施された、
上記(1)に記載のケーブル。
(3)前記導体の断面積は2平方ミリメートル以下である、
上記(1)又は(2)に記載のケーブル。
【0009】
上記(1)の構成のケーブルによれば、紫外線が当たる環境下であることが看過され、ケーブルが遮光処理されることなく敷設された場合であっても、夜間の点検作業時にマーキングが発光することで、紫外線の進入を作業者に気付かせることができる。したがって、作業者はこのケーブルにテープ巻き等の遮光処理を施して、絶縁体の劣化を防止できる。
【0010】
上記(2)の構成のケーブルによれば、蓄光性材料が凹部に入り込むことで、擦れに対する印字強度が向上する。
【0011】
上記(3)の構成のケーブルによれば、細物サイズの絶縁線心を用いた場合に、紫外線による絶縁体の劣化を効果的に防止できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のケーブルによれば、紫外線が当たる環境下に布設された場合であっても、ケーブル端末において露出した絶縁体の紫外線による劣化を防止できる。
【0013】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る絶縁線心の斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態のケーブルの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に関する具体的な実施形態について、各図を参照しながら以下に説明する。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係る絶縁線心3の斜視図であり、
図2は、
図1の絶縁線心3を含むケーブル10の斜視図である。ケーブル10は、例えば電力ケーブルであり、配電盤内等に布設される。
【0017】
図1に示す絶縁線心3は、軟銅、銅、アルミ等の導体1と、導体1の外周を被覆する絶縁体2とを有する。絶縁体2は、ポリエチレン等のオレフィン系樹脂を含むオレフィン系絶縁体であり、紫外線が当たることで劣化する。
【0018】
絶縁体2の外周面には、蓄光塗料によるマーキングM1、M2(「マーキングM」と称する場合がある。)が絶縁線心3の長手方向において螺旋状(スパイラル状)に施されている。蓄光塗料は、受けた光のエネルギーの一部(紫外線領域)を蓄えて可視光として放出する性質を有する。蓄光塗料は、太陽光等の紫外線(UV)を受けていた場合には発光するため、夜間等の暗い環境下でマーキングM1、M2が発光して視認しやすくなる。
【0019】
マーキングM1、M2は、絶縁体2の外周面において、絶縁線心の軸心に対して対称となる位置に、長手方向螺旋状に、例えば「UV注意」といった内容が、それぞれ印字されている。マーキングM1、M2は、絶縁体2の外周面において、それぞれスパイラルピッチSP1、SP2の間隔を有して設けられる。
【0020】
マーキングM1、M2がこのように施されることで、絶縁線心3をいずれの方向から視てもマーキングM1、M2を視認しやすくなり、かつ、絶縁線心3の外周面全体(前面)に印字する場合と比べて、蓄光塗料の使用量を抑えることができる。
【0021】
また、絶縁体2は、導体1の外周に樹脂材料を押出成形する際の冷却条件を、絶縁体2の表面(外周面)を適度に荒らして微小凹凸部が形成されるように調整して形成され、マーキングM1、M2は、この凹凸部に施される。このように、蓄光塗料が凹部に入り込むことで、擦れに対する印字強度が向上する。
【0022】
図2に示すように、ケーブル10は、互いに撚り合わされた複数本(
図2では3本)の絶縁線心3と、複数本の絶縁線心3の外周を被覆するシース5とを備える。シース5は、ポリ塩化ビニル等の樹脂からなる。ケーブル10において、複数本の絶縁線心3には、螺旋状のマーキングMが付されている。
【0023】
ケーブル10の製造方法の一例について説明する。
まず、導体1上に絶縁体2を押出成形する。このとき、絶縁体2の表面に微細な凹凸が形成されるように、冷却条件を調整する。次に、絶縁体2の外周面に、導体1の長手方向において直線状に「UV注意」の文字を連続して印刷し、印字付き絶縁線心を作成する。印刷において、蓄光塗料が絶縁体2の表面に形成された凹部に入り込むことで、擦れに対する印字強度が向上する。
続いて、電線撚り機において、複数本の印字付き絶縁線心をそれぞれ一次撚りして絶縁線心3を作成し、複数本の絶縁線心3を互いに撚り合わせて(二次撚りして)線心撚体を作成する。一次撚りピッチが、マーキングのスパイラルピッチ(SP1、SP2)となる。その後、線心撚体の周囲にシース5を押出成形してケーブル10を作成する。
【0024】
上述したように、絶縁線心3は、撚り合わされる前の段階では、絶縁体2の外周面に長手方向において直線状に「UV注意」の文字が連続して印刷されている。そして、複数本の絶縁線心3を互いに撚り合わせる際、各絶縁線心3が所定ピッチで撚られることにより、絶縁線心3の外周面に螺旋状のマーキングM1、M2が施される。このため、マーキングM1、M2の各スパイラルピッチSP1、SP2は、絶縁線心3の所定ピッチに一致する。すなわち、絶縁体2の外周面において直線状に文字列「UV注意」を印刷しておけば、その後は通常のケーブル製造方法と同じ工程を経ることにより、螺旋状のマーキングM1、M2を絶縁体2の外周面に形成できる。したがって、特殊な印刷機を用いることなく、文字を直線状に印刷する通常の印刷機を用いて、マーキングM付き絶縁線心3を撚り合わせた形状のケーブル10を実現できる。
【0025】
オレフィン系絶縁体は紫外線に弱いため、紫外線が当たる環境下でケーブルが用いられる場合には、通常、絶縁線心の絶縁体の上に対候性テープを予め巻く等の遮光処理が施される。しかし、紫外線が当たらないと判断された環境下においては、遮光処理が施されない場合がある。この場合、屋外の配電盤内等といった布設環境において、夜間に施工及び点検をする際、扉の隙間や水抜き孔から配電盤内への紫外線の侵入を見逃してしまう可能性が高い。特に、配電盤内で電力計に接続されたケーブルの端末部は、外部から視認が困難であるため、作業者は、この端末部に紫外線が当たっていることに気付きにくい。
【0026】
このため、一般的なケーブルでは、施工時に紫外線の侵入を見逃してしまいテープ巻きを行わず、点検でも紫外線の侵入に気付けなかった場合、紫外線が長期にわたり当たり続ける。この結果、ケーブル端末においてシースが皮剥きされて露出している絶縁体の劣化が進行してしまう。
【0027】
本実施形態のケーブル10によれば、紫外線が当たる環境下であることが看過され、ケーブル10が遮光処理されることなく敷設された場合であっても、夜間の点検作業時にマーキングMが発光することで、紫外線の進入を作業者に気付かせることができる。したがって、作業者はこのケーブル10にテープ巻き等の遮光処理を施して、絶縁体2の劣化を防止できる。
【0028】
なお、導体断面積が例えば3.5mm2以上といった太物サイズの絶縁線心3では、スパイラルピッチSP1、SP2に一致する絶縁線心3の撚りピッチが、広くなり、狭い配電盤内に布設された場合に視認性が低下し得る。また、絶縁体2の厚みが薄い方が絶縁体2の劣化が進行しやすい。したがって、本実施形態のケーブル10は、絶縁線心3の導体断面積が2mm2以下の場合に、夜間の点検作業時にマーキングMが発光することで、紫外線の進入を作業者に気付かせることができるという効果を一層発揮できる。
【0029】
上記実施形態では、絶縁体2の外周面に蓄光塗料による印刷を行うことで絶縁線心3にマーキングMを施す例を示したが、マーキングMの施し方はこれに限定されない。例えば、絶縁体2の上に、蓄光性を有する樹脂を押し出してマーキングMを施す等、蓄光性材料を用いてマーキングMを施せばよい。
【0030】
ここで、上述した本発明の実施形態に係るケーブルの特徴をそれぞれ以下[1]~[4]に簡潔に纏めて列記する。
[1]互いに撚り合わされた複数本の絶縁線心(3)と、
前記複数本の絶縁線心の外周を被覆するシース(5)と、を備えるケーブル(10)であって、
前記絶縁線心(3)は、
導体(1)と、
前記導体の外周を被覆するオレフィン系絶縁体(2)と、を有し、
前記絶縁体の外周面に、蓄光性材料によるマーキング(M)が前記絶縁線心の長手方向において螺旋状に施された、
ケーブル(10)。
[2]前記絶縁体の前記外周面に、凹凸部が設けられ、
前記凹凸部に前記マーキングが施された、
上記[1]に記載のケーブル。
[3]前記導体の断面積は2平方ミリメートル以下である、
上記[1]又は[2]に記載のケーブル。
[4]上記[1]~[3]のいずれか一に記載されたケーブル(10)の製造方法であって、
前記導体(1)上に前記絶縁体(2)を押出成形し、
前記絶縁体(2)の前記外周面に、前記導体(1)の長手方向において直線状にマーキングを施してマーキング付き絶縁線心を作成し、
複数本の前記マーキング付き絶縁線心のそれぞれを一次撚りして前記マーキングが螺旋状に施された絶縁線心(3)を作成し、複数本の前記絶縁線心を互いに撚り合わせて線心撚体を作成し、
前記線心撚体の周囲にシース(5)を押出成形する、
ケーブル(10)の製造方法。
【符号の説明】
【0031】
1 導体
2 絶縁体
3 絶縁線心
5 シース
M、M1、M2 マーキング
SP1、SP2 スパイラルピッチ