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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022114976
(43)【公開日】2022-08-08
(54)【発明の名称】立軸形水車の吸出し管止水方法
(51)【国際特許分類】
   F03B 11/00 20060101AFI20220801BHJP
   F03B 3/02 20060101ALI20220801BHJP
   E02B 9/00 20060101ALN20220801BHJP
【FI】
F03B11/00 E
F03B3/02
E02B9/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021011492
(22)【出願日】2021-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 将尚
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】塩原 和貴
【テーマコード(参考)】
3H072
【Fターム(参考)】
3H072AA07
3H072AA27
3H072BB06
3H072CC74
(57)【要約】
【課題】急激な天候変化に伴う浸水被害を防ぐことができるとともに止水性を長期的に維持できる立軸形水車の吸出し管止水方法を提供する。
【解決手段】立軸形水車の吸出し管止水方法は、立軸形水車が設置されている状態で、点検用マンホールから吸出し管内へ搬入した足場構成材により閉止部材支持用足場を設置する足場設置工程と、吸出し管内へ搬入した金属からなる複数の第1部材により、閉止部材支持用足場の上方に環状形状の第1閉止板を設置する第1の組み立て工程と、吸出し管内へ搬入した金属からなる複数の第2部材により、第1閉止板の中央開口を塞ぐ第2閉止板を設置する第2の組み立て工程と、第1閉止板及び第2閉止板を備える閉止板によって吸出し管内を止水可能な止水位置に、第1閉止板を配置する配置工程とを備え、前記配置工程の後に前記第2の組み立て工程を実施する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸が鉛直な立軸形水車と、前記立軸形水車の下方に接続され前記立軸形水車からの吸出水を放水路へ導く吸出し管と、を備える立軸形水車発電機の吸出し管止水方法において、
前記立軸形水車が設置されている状態で、前記吸出し管における前記立軸形水車側の上端に開設された点検用マンホールから前記吸出し管内へ搬入した足場構成材により閉止部材支持用足場を設置する足場設置工程と、
前記点検用マンホールから前記吸出し管内へ搬入した金属からなる複数の第1部材により、前記閉止部材支持用足場の上方に環状形状の第1閉止板を設置する第1の組み立て工程と、
前記点検用マンホールから前記吸出し管内へ搬入した金属からなる複数の第2部材により、前記第1閉止板の中央開口を塞ぐ第2閉止板を設置する第2の組み立て工程と、
前記第1閉止板及び第2閉止板を備える閉止板によって前記吸出し管内を止水可能な止水位置に、前記第1閉止板を配置する配置工程とを備え、
前記配置工程の後に前記第2の組み立て工程を実施する、
立軸形水車の吸出し管止水方法。
【請求項2】
前記吸出し管は、前記上端側に、前記立軸形水車側から離れるにしたがって拡径した形状をなす拡大管を有している、
請求項1に記載の立軸形水車の吸出し管止水方法。
【請求項3】
前記配置工程において、
前記吸出し管内に外気を取り入れる給気管を支点にして前記第1閉止板を前記立軸形水車側へ吊り上げる、
請求項1または2に記載の立軸形水車の吸出し管止水方法。
【請求項4】
前記配置工程において、
前記第1閉止板と前記閉止部材支持用足場との間に、高さ調整可能な複数の支持部材を配置する、
請求項1から3のいずれか1項に記載の立軸形水車の吸出し管止水方法。
【請求項5】
前記配置工程において、
前記第1閉止板と前記吸出し管の内面との間にパッキン材を配置する、
請求項1から4のいずれか1項に記載の吸出し管止水方法。
【請求項6】
前記パッキン材は、前記第1閉止板上に当該第1閉止板よりも外径が大きい、
請求項5項に記載の立軸形水車の吸出し管止水方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立軸形水車の吸出し管止水方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水力発電において発電機を回す水車としては、立軸と横軸とがある。立軸形水車では、鉛直に延びる水車主軸の上位側に発電機が設置され、立軸形水車の下方に、上流側の貯水池から給水した水を放水路あるいは河川に導くための吸出し管が接続されている。
【0003】
一般に、水力発電所などにおいては、上述した立軸形水車などの水力機械や発電設備の内部の精密点検・整備、修理などを定期的に実施しているが、その際、水力機械及び発電設備を分解する必要がある。
【0004】
しかしながら、近年の急激な天候変化に伴う豪雨等により河川の水位が著しく上昇すると、河川から吸出し管内へ河川水が流入し、水力機械や発電設備を分解した箇所から水力発電所の屋内に河川水が浸水する恐れがある。そのため、水力機械や発電設備などの水車発電機の点検等を実施する際には、水車に接続された吸出し管を止水させる必要がある。
【0005】
従来は、水車を取り外した後、吸出し管の上端側(水車側)の開口に蓋をすることによって止水していた。しかしながら、水車を取り外してから蓋をするまでに日数を要した場合には、急激な天候変化に伴う浸水被害を確実に防ぐことは難しい。
【0006】
特許文献1には、吸出管(吸出し管)内を水車側と放水路(河川)側とに仕切る仕切部と、空気を入れることで膨らんで仕切部と吸出管の内周面との間を密閉するゴム製のシール部とによって、吸出管を止水する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007-198174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1には、水車が設置されている状態で吸出し管を止水する手法が開示されているが、点検・整備等が長期に及んだ場合に、材質の劣化等に伴う止水性(シール性)の低下に不安があった。
【0009】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、簡単に設置可能で急激な天候変化に伴う浸水被害を防ぐことができるとともに止水性を長期的に維持できる、立軸形水車の吸出し管止水方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、本発明の一態様は、回転軸が鉛直な立軸形水車と、前記立軸形水車の下方に接続され前記立軸形水車からの吸出水を放水路へ導く吸出し管と、を備える立軸形水車の吸出し管止水方法において、前記立軸形水車が設置されている状態で、前記吸出し管における前記立軸形水車側の上端の壁部に開設された点検用マンホールから前記吸出し管内へ搬入した足場構成材により閉止部材支持用足場を設置する足場設置工程と、前記点検用マンホールから前記吸出し管内へ搬入した金属からなる複数の第1部材により、前記閉止部材支持用足場の上方に環状形状の第1閉止板を設置する第1の組み立て工程と、前記点検用マンホールから前記吸出し管内へ搬入した金属からなる複数の第2部材により、前記第1閉止板の中央開口を塞ぐ第2閉止板を設置する第2の組み立て工程と、前記第1閉止板及び第2閉止板を備える閉止板によって前記吸出し管内を止水可能な止水位置に、前記第1閉止板を配置する配置工程と、前記配置工程の後に前記第2の組み立て工程を実施する立軸形水車の吸出し管水止水方法である。
【0011】
また、本発明の一態様において、前記吸出し管は、前記上端側に、前記立軸形水車側から離れるにしたがって拡径した形状をなす拡大管を有している構成としてもよい。
【0012】
また、本発明の一態様において、前記配置工程において、前記吸出し管内に外気を取り入れる給気管を支点にして前記第1閉止板を前記立軸形水車側へ吊り上げる構成としてもよい。
【0013】
また、本発明の一態様において、前記配置工程において、前記第1閉止板と前記閉止部材支持用足場との間に、高さ調整可能な複数の支持部材を配置する構成としてもよい。
【0014】
また、本発明の一態様において、前記配置工程において、前記第1閉止板と前記吸出し管の内面との間にパッキン材を配置する構成としてもよい。
【0015】
また、本発明の一態様において、前記パッキン材は、前記第1閉止板上に当該第1閉止板よりも外径が大きい構成としてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、簡単に設置可能で急激な天候変化に伴う浸水被害を防ぐことができるとともに止水性を長期的に維持できる立軸形水車の吸出し管止水方法を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、実施形態に係る立軸形水車の吸出し管止水方法を適用する水力発電設備の概略構成を示す図である。
図2図2は、立軸形フランシス水車11の周辺の構造を示す部分拡大断面図である。
図3図3は、一実施形態のドラフト閉止部材20を示す平面図である。
図4図4は、吸出し管14内にドラフト閉止部材20を設置した状態を示す断面図である。
図5図5は、吸出し管14内に作業足場31及び閉止部材支持用足場30を設置するまでを説明するための図である。
図6図6は、閉止部材支持用足場30の構成を示す図である。
図7図7は、吸出し管14内に半円環状閉止板21Aを分割搬入する様子を示す図である。
図8図8は、第1閉止板21をレバーブロック51によって吊り上げた状態を示す図である。
図9図9は、第1閉止板21と閉止部材支持用足場30との間にジャッキ部40を複数配置した様子を示す図である。
図10図10は、実施形態における立軸形フランシス水車11の吸出し管14の止水方法を説明するための図である、また、第2閉止板22を取り付けた様子を示す図である。
図11A図11Aは、変形例の第1閉止板27を分解して示す平面図である。
図11B図11Bは、図11Aの第1閉止板27のXI-XI線に沿う断面図である。
図12A図12Aは、ドラフト閉止部材29の変形例を示す上面図である。
図12B図12Bは、図12Aに示すドラフト閉止部材29のXII-XII線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
まず、本発明の立軸形水車の吸出し管止水方法を適用する水力発電設備について、図面を参照しながら説明する。
[水力発電設備]
図1は、本実施形態に係る立軸形水車の吸出し管止水方法を適用する水力発電設備の概略構成を示す図である。図2は、立軸形フランシス水車11の周辺の構造を示す部分拡大断面図である。
【0019】
図1に示す立軸形水車発電機100は、発電所建屋101内に設置される。立軸形水車発電機100における発電機13は、例えば、発電所建屋101の地上1階に設置され、立軸形フランシス水車(立軸形水車)11は、例えば、地下1階に設置される。水車と発電機とを上下に配置して設置する立軸形の水車は、横軸形に比べて建屋平面積を縮小できるため、地勢的な制約にとらわれずに設置することができる。
【0020】
立軸形水車発電機100は、上流側の貯水池から立軸形フランシス水車(立軸形水車)11へと高圧水を導く導入管12と、導入管12により導かれた水を流通させる立軸形フランシス水車11と、立軸形フランシス水車11によって駆動する発電機13と、立軸形フランシス水車11内を通過した水を放水路(河川)90へと導く吸出し管14と、を備える。
【0021】
立軸形フランシス水車11の渦巻ケーシング16には、上記導入管12が接続されており、導入管12から導かれた高圧水が流入する。図2に示すように、渦巻ケーシング16の内側に配置されたランナ17は、渦巻ケーシング16に導入された高圧水によって回転することで動力を発生する。ランナ17へ流入する高圧水の流入量は、ランナ17の外周部に設けられたガイドベーン18によって調整される。
【0022】
立軸形フランシス水車11におけるランナ17の回転軸O1には、鉛直方向に延びる主軸19が接続されており、その主軸19の上端側に発電機13が連結されている。
【0023】
発電機13は、主軸19の上端に連結された回転子(不図示)と、当該回転子の周囲に設けられた固定子(不図示)とによって構成され、主軸19を通じてランナ17と接続される。
【0024】
吸出し管14は、ランナ17の羽根出口17bの下流に取り付けられ、ランナ17の直下から鉛直下方に延び、図1に示すように、放水路90(河川)側へと湾曲した形状をなす。図2に示すように、上記羽根出口17bに接続された吸出し管14の上端には、羽根出口17bから鉛直下方へ向かって漸次拡大する拡大管14Aが配置されており、羽根出口17bから流出した水の流速を減速させて、速度エネルギーを圧力エネルギーに変換する。
【0025】
図1及び図2に示すように、吸出し管14における立軸形フランシス水車11側の上端の拡大管14Aの管壁には点検用マンホール141が開口しており、吸出し管14内への点検作業員等の出入りが可能である。また、拡大管14Aには、給気管142が2つ設けられている。これら一対の給気管142を通じて外気を吸出し管14内に取り入れることによって、ランナ17の羽根出口17bにおける旋回流によって吸出し管14内に生じる騒音等を防ぐことができる。
【0026】
図1に示すドラフト閉止部材20は、立軸形フランシス水車11及び発電機13を点検、整備等を実施する際に吸出し管14内を止水する際に適用される。ドラフト閉止部材20は、図2に示すように、吸出し管14における上記拡大管14A内の下端側であって、点検用マンホール141及び一対の給気管142よりも下方に設置される。ドラフト閉止部材20は、上下方向に延びる吸出し管14内においてほぼ水平に設置され、吸出し管14内を塞ぐことで止水している。
【0027】
図3は、本実施形態のドラフト閉止部材20を示す平面図である。図4は、吸出し管14内にドラフト閉止部材20を設置した状態を示す断面図である。
ドラフト閉止部材20は、図3および図4に示すように、金属からなる第1閉止板21、第2閉止板22及び一対の押さえ部材23と、板ゴムパッキン(パッキン材)24A,24Bと、シール材25とにより構成され、上方(Z方向)側から見たときの外形が全体的に円形状をなす。
ドラフト閉止部材20の外径は、吸出し管14における拡大管14Aのうち下端側の所定の位置における内径に一致する。ドラフト閉止部材20は、吸出し管14に対して水密に設置される。ここで、「水密」とは、ドラフト閉止部材20によって吸出し管14内が塞がれて止水された状態である。
【0028】
図3に示すように、第1閉止板21は、一対の半円環状閉止板(第1部材)21Aにより構成される。一対の半円環状閉止板21Aは、互いの円弧中心を吸出し管14の中心軸O2に一致させて水平に並べて配置されることで、吸出し管14の円筒形状に沿った環状形状をなし、これによって中央に円形の開口(以下、中央開口21B)が形成される。
【0029】
各半円環状閉止板21Aの上面21aにおける所定位置には、第1閉止板21を上方へ吊り上げる際に使用する係止部21bが設けられている。断面視L字形状の係止部21bは、半円環状閉止板21Aの重心位置に設けられ、半円環状閉止板21Aの水平姿勢を保つ。
【0030】
図4に示すように、第1閉止板21の上面21aにおける外周縁には、第1閉止板21の外周縁と吸出し管14の管壁との間の隙間を密閉する第1板ゴムパッキン24Aが配置される。図3に示すように、第1板ゴムパッキン24Aは、軸方向から見た第1閉止板21の外形に沿って環状形状をなし、押さえ部材23によって第1閉止板21に対して固定される。
【0031】
図3および図4に示すように、押さえ部材23、第1板ゴムパッキン24A、第1閉止板21のそれぞれには複数の螺子穴26が形成されており、各々の螺子穴26に挿入される複数の螺子によって押さえ部材23が締め付けられることで、第1閉止板21に対して第1板ゴムパッキン24Aが固定される。
【0032】
第1板ゴムパッキン24Aは、第1閉止板21よりも僅かに大きい外径を有している。第1板ゴムパッキン24Aの外周縁が、第1閉止板21の外周縁と吸出し管14の内壁面14bとの間に入り込んだ状態で上記押さえ部材23により圧縮され、これらの間の隙間がシールされている。第1板ゴムパッキン24Aが挿入された隙間には、気密性及び伸縮性を有するシール材25が充填されている。シール材25としては、例えば、泡ゴム等の液状ガスケットが用いられる。
【0033】
第2閉止板22は、図3に示すように、一対の半円板部材(第2部材)22Aからなり、これらを組み合わせることによって全体的に円形状を呈する。図3および図4に示すように、第2閉止板22は、第1閉止板21の中央開口21Bを塞ぐようにして、第1閉止板21の上面21a側に配置される。第2閉止板22の直径は、中央開口21Bの直径よりも僅かに大きいため、第2閉止板22を第1閉止板21上に配置することで中央開口21Bの全体が閉塞される。
【0034】
第2閉止板22の外周縁及び第1閉止板21(各半円環状閉止板21A)の内周縁のそれぞれには複数の螺子穴26が形成されており、各々に挿入される複数の螺子によって、第2閉止板22が第1閉止板21に対して固定される。第1閉止板21と第2閉止板22との間には、環状の第2板ゴムパッキン24Bが配置されているとともに、これら部材間に気密性及び伸縮性を有するシール材25が充填されている。このようにして、第1閉止板21に対して第2閉止板22が隙間なく取り付けられている。
【0035】
ドラフト閉止部材20は、図4に示すように、吸出し管14内に組み立てた閉止部材支持用足場30上に、複数のジャッキ部(支持部材)40を介して設置される。ジャッキ部40としては、ねじ式、ラック式、電動式、手動式を問わない。
【0036】
ドラフト閉止部材20は、上記閉止部材支持用足場30及び複数のジャッキ部40によって下方から支持されるとともに、一対の給気管142に取り付けられたレバーブロック(商標登録)51により上方側へと吊り上げられている。
ドラフト閉止部材20は、吊り上げられた高さ位置において各ジャッキ部40によって支持される。ドラフト閉止部材20は、閉止部材支持用足場30により下側から支持されるとともに、レバーブロック51により上側からも支持されるため、吸出し管14内への安定した設置状態が長期的に維持される。
【0037】
本実施形態では、上述のようなドラフト閉止部材20を用いて吸出し管14内をランナ17側と放水路90側とに仕切ることによって、吸出し管14を止水する。
【0038】
[立軸形フランシス水車の吸出し管止水方法]
次に、上述したドラフト閉止部材20を用いて、立軸形フランシス水車11の吸出し管14を閉止する方法について述べる。
図5図10は、本実施形態における立軸形フランシス水車11の吸出し管14の止水方法を説明するための図である。
【0039】
図5は、吸出し管14内に作業足場31及び閉止部材支持用足場30を設置するまでを説明するための図である。図6は、閉止部材支持用足場30の構成を示す図である。
【0040】
まずは、図5に示すように、立軸形フランシス水車11(ランナ17)が設置された状態のままで吸出し管14内に作業足場31を設置する。作業足場31を点検用マンホール141から外部へ張り出すように設置することで、吸出し管14内への作業者の出入りを可能にする。作業足場31は、吸出し管14の閉止作業が終了するまで設置されるが、図6以降の図面では、作業足場31の図示を省略する。
【0041】
次に、吸出し管14内における作業足場31よりも下方側に、閉止部材支持用足場30を設置する(足場設置工程)。例えば、図6に示すように、点検用マンホール141から搬入した複数の鋼材(足場構成材)32同士を格子状に溶接しながら吸出し管14の内壁面14bにも各鋼材32を溶接することで、閉止部材支持用足場30を作製する。このとき、複数の鋼材32を互い上面が一致するように格子状に溶接する。
【0042】
図7は、吸出し管14内に半円環状閉止板21Aを分割搬入する様子を示す図である。
次に、図7に示すように、点検用マンホール141から半円環状閉止板(部材)21Aを1つずつ分割した状態で搬入し、吸出し管14内において環状に組み立てる(第1の組み立て工程)。円環状とした一対の半円環状閉止板21A同士を溶接によって接合することによって、閉止部材支持用足場30の上に第1閉止板21を仮置きする。
【0043】
その後、閉止部材支持用足場30上に仮置きした環状の第1閉止板21の上面側に、押さえ部材23を用いて第1板ゴムパッキン24Aを取り付ける。吊り上げられる前の第1閉止板21上に取り付けられた第1板ゴムパッキン24Aの外周縁は、第1閉止板21の外周縁よりも径方向外側に僅かにはみ出る。
【0044】
図8は、第1閉止板21をレバーブロック51によって吊り上げた状態を示す図である。
その後、図8に示すように、例えば、一対の給気管142に接続したレバーブロック51を用いて第1閉止板21を立軸形フランシス水車11側へと吊り上げる。このとき、レバーブロック51を第1閉止板21を構成している一対の半円環状閉止板21Aの各係止部21bにそれぞれ取り付け、各給気管142を支点として第1閉止板21を拡大管14Aの上方へ吊り上げる。
【0045】
吸出し管14の拡大管14Aは、上方へ行くにしたがって縮径していることから、当該拡大管14A内において第1閉止板21を上方へ引き上げることにより、その周縁に取り付けられた第1板ゴムパッキン24Aの外周縁が、第1閉止板21の外周縁と吸出し管14の内壁面14bとの間に入り込んで管壁に密着し、圧縮されることで上下方向の所定の位置(止水位置)において第1閉止板21が停止する(配置工程)。
【0046】
図9は、第1閉止板21と閉止部材支持用足場30との間にジャッキ部40を複数配置した様子を示す図である。
次に、図9に示すように、吊り上げた第1閉止板21と閉止部材支持用足場30との間に複数のジャッキ部40を配置し、溶接することで閉止部材支持用足場30の上面に固定する。ジャッキ部40の数や配置位置は、第1閉止板21の水平姿勢を好適に支持できるように適宜設定される。第1閉止板21が吊り上げられた位置において、各ジャッキ部40の突っ張り高さを調整することによって、吸出し管14の管壁に密着したドラフト閉止部材20を下面側から支持し、ドラフト閉止部材20が止水位置に配置された状態を維持する。
【0047】
図10は、第2閉止板22を取り付けた様子を示す図である。
次に、図10に示すように、第1閉止板21の中央開口21Bを塞ぐ第2閉止板22を設置する(第2の組み立て工程)。具体的には、第1閉止板21上に第2板ゴムパッキン24Bを配置した後、点検用マンホール141から一対の半円板部材22Aを1つずつ分割した状態で搬入し、吸出し管14内において円形状に組み立てることによって第2閉止板22を形成する。第1閉止板21上に、第2板ゴムパッキン24Bを介して上記第2閉止板22を配置した後、ボルトで締め付けることによって、第1閉止板21に対して第2閉止板22を取り付ける。さらに、第1閉止板21に対して第2閉止板22を溶接することで、第1閉止板21の中央開口21Bを第2閉止板22で閉塞する。
【0048】
次に、第1板ゴムパッキン24Aおよび第2板ゴムパッキン24Bを挿入した部分をシール材25でコーキングする。部材間に各パッキンを挿入した箇所をシール材25でコーキングすることによって、部材間に生じる隙間が埋まり、水密性が向上する。
以上により、吸出し管14内へのドラフト閉止部材20の取り付け作業が終了し、設置したドラフト閉止部材20によって吸出し管14内を止水する。
【0049】
上述した立軸形フランシス水車11の吸出し管14の止水方法によれば、点検・整備等を実施する際に、立軸形フランシス水車11が設置されている状態のまま、吸出し管14内にドラフト閉止部材20を設置することができる。すなわち、立軸形フランシス水車11を分解する前に、吸出し管14内にドラフト閉止部材20を設置することができるので、立軸形フランシス水車11の設置フロアの浸水被害を確実に防ぐことができる。
【0050】
水力発電所によって立軸形フランシス水車11及び発電機13の点検・整備等を実施する間隔は異なるが、凡そ10年~20年の間隔で行われることが多い。発電機13、立軸形フランシス水車11の順に分解していくが、立軸形フランシス水車11のランナ17を取り外してから吸出し管14を蓋で塞ぐまでの間に数日かかるため、発電所建屋101内の水車設置フロアが浸水するリスクがあった。これまで、梅雨や台風の多い時期を避けて点検を行ってきたが、近年のゲリラ豪雨による浸水リスクが大きくなってきたことから、吸出し管14の迅速な止水が必要であった。
【0051】
本実施形態の立軸形フランシス水車11の吸出し管14の止水方法を採用することにより、予め吸出し管14内に設置したドラフト閉止部材20によって吸出し管14を止水した状態で、発電機13や立軸形フランシス水車11を分解することができるので、分解作業に数日を要したとしてもその間の発電所建屋101内の浸水被害を確実に防ぐことができる。
【0052】
また、ドラフト閉止部材20が設置される吸出し管14の拡大管14Aは、上方へ行くにしたがって縮径していることから、河川側の水が吸出し管14内へ逆流した場合に、ドラフト閉止部材20が上方へ押し上げられることで第1板ゴムパッキン24Aがより圧縮されることになり、吸出し管14の止水効果がさらに高まる。このように、立軸形フランシス水車11を分割する前にドラフト閉止部材20を設置することで、万が一、河川側から逆流があった場合の浸水リスクをより効果的に減らすことができる。
【0053】
また、ドラフト閉止部材20を上方へ吊り上げながらその下方側を、閉止部材支持用足場30及び複数のジャッキ部40によって支持する仕組みとなっている。このため、ドラフト閉止部材20の荷重は、複数のジャッキ部40を介して閉止部材支持用足場30へと分散させることができる。また、ドラフト閉止部材20の吊り上げ構造の不具合が生じた場合でも、下方側の閉止部材支持用足場30によってドラフト閉止部材20の傾きや落下等を防ぐことができるため、吸出し管14内にドラフト閉止部材20を安定して設置できるとともにその設置状態を長期的に維持することが可能である。
【0054】
本実施形態の立軸形フランシス水車11の吸出し管14の止水方法で用いるドラフト閉止部材20としては、上述した構成のものに限られず、適宜変更が可能である。
【0055】
図11Aは、変形例の第1閉止板27を分解して示す平面図、図11Bは、図11Aの第1閉止板27のXI-XI線に沿う断面図である。図12Aは、ドラフト閉止部材29の変形例を示す上面図であり、図12Bは、図12Aに示すドラフト閉止部材29のXII-XII線に沿う断面図である。
【0056】
上述した第1閉止板21を構成する一対の半円環状閉止板21Aには、レバーブロック51で吊り上げる際に使用する係止部21bが、各第1閉止板21の重心と重なる位置にそれぞれ1つだけ設けられていたが、例えば図11Aに示す第1閉止板27のように、各半円環状閉止板27Aに2つずつ係止部21bが設けられていてもよい。各半円環状閉止板27Aの重心位置を介してのその両側に均等に配置された一対の係止部21bにレバーブロック51を係止させることによって、吊り上げ時における半円環状閉止板27Aの横ぶれを防ぐことができる。これにより、各半円環状閉止板27Aの水平姿勢を維持しやすく、安定した状態で第1閉止板27を上方へ吊り上げることができる。
【0057】
一方の半円環状閉止板27Aには、他方の半円環状閉止板27Aを下面27c側から支持する複数(4つ)の支持部27dが設けられている。支持部27dは、半円環状閉止板27Aの径方向に沿う側部に2つずつ設けられ、各側部から、他方の半円環状閉止板27A側へ向かって突出している。これら複数の支持部27dにより、一対の半円環状閉止板27A同士を環状に組み合わせた際に、互いの突き合わせ端部の位置ずれが防止される。
【0058】
また、上述した第1閉止板21では、当該第1閉止板21の上面21a側に、中央開口21Bよりも大きい直径を有する第2閉止板22を配置した構成となっていたが、図12A及び図12Bに示すように、第1閉止板27の中央開口27Bと略等しい直径を有する第2閉止板28を上記中央開口27B内に挿入させることによって閉塞してもよい。第2閉止板28は、中央開口27Bからの抜け落ち防止のために、各半円環状閉止板27Aの下面27c側にそれぞれ設けられた一対の第2閉止板支持部27fによって支持されている。
このようなドラフト閉止部材29を、本実施形態の立軸形フランシス水車11の吸出し管14の止水方法において用いてもよい。
【0059】
以上、図面を参照してこの発明の一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な止水方法の手順やドラフト閉止部材の構成等は上述のものに限られることはなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な設計変更等をすることが可能である。
【0060】
例えば、上述の実施形態では、ドラフト閉止部材20の吊り上げ作業時に、一対の給気管142を支点として上方へと吊り上げているが、これに限られず、例えば、発電機13のみ点検等を実施するのであれば、立軸形フランシス水車11のランナ17等を支点としてドラフト閉止部材20を吊り上げてもよい。立軸形フランシス水車11に対する点検等を実施する場合は、給気管142を利用することが好ましい。
【0061】
一対の給気管142は図示した形状に限らず、逆さT字型など、他の形状をなす給気管142が設けられていてもよい。
【0062】
また、上述の実施形態では、レバーブロック51によって止水位置まで吊り上げられたドラフト閉止部材20の位置を下方から複数のジャッキ部40によって維持することで止水するようになっているが、止水方法はこれに限らない。
【0063】
例えば、吸出し管14に給気管142が設置されていない場合は、レバーブロック51を用いてドラフト閉止部材20を吊り上げるのではなく、複数のジャッキ部40によってドラフト閉止部材20を下側から持ち上げることによって、ドラフト閉止部材20を止水位置に配置するようにしてもよい。
【0064】
なお、ドラフト閉止部材20を下側から持ち上げる部材としては、ジャッキ部40だけに限られず、ばね部材などを用いて持ち上げるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0065】
11…立軸形フランシス水車(立軸形水車)、13…発電機、14…吸出し管、14A…拡大管、21,27…第1閉止板、21A…半円環状閉止板(第1部材)、21B,27B…中央開口、22…第2閉止板、22A…半円板部材(第2部材)、24A…板ゴムパッキン(パッキン材)、27d…支持部、28…第2閉止板、30…閉止部材支持用足場、32…鋼材(足場構成材)、40…ジャッキ部(支持部材)、90…放水路、100…立軸形水車発電機、141…点検用マンホール、142…給気管、O1…回転軸
図1
図2
図3
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図5
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図8
図9
図10
図11A
図11B
図12A
図12B