(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022115005
(43)【公開日】2022-08-08
(54)【発明の名称】固体電解質の製造方法
(51)【国際特許分類】
C03C 3/23 20060101AFI20220801BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20220801BHJP
C03C 3/247 20060101ALI20220801BHJP
H01M 10/0562 20100101ALN20220801BHJP
H01M 4/62 20060101ALN20220801BHJP
【FI】
C03C3/23
H01B13/00 Z
C03C3/247
H01M10/0562
H01M4/62 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021011551
(22)【出願日】2021-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 裕輔
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 淳一
(72)【発明者】
【氏名】森下 泰行
(72)【発明者】
【氏名】吉田 周平
(72)【発明者】
【氏名】福本 武文
【テーマコード(参考)】
4G062
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
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(57)【要約】
【課題】固体電解質の抵抗を低減し得る技術を提供すること。
【解決手段】
ハロゲン化リチウム-酸化物ガラス型の固体電解質に対して交流電圧を加える電圧付与サイクルを、複数サイクル行う、低抵抗化工程を具備し、
前記電圧付与サイクルにおいて、前記交流の周波数を7MHzから200mHzまで変化させる、固体電解質の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン化リチウム-酸化物ガラス型の固体電解質に対して交流電圧を加える電圧付与サイクルを、複数サイクル行う、低抵抗化工程を具備し、
前記電圧付与サイクルにおける交流の周波数を7MHzから200mHzまで変化させる、固体電解質の製造方法。
【請求項2】
前記電圧付与サイクルは、65℃以上の雰囲気下で行う、請求項1に記載の固体電解質の製造方法。
【請求項3】
前記電圧付与サイクルにおける前記交流の周波数を7MHzから100mHzまで変化させる、請求項1または請求項2に記載の固体電解質の製造方法。
【請求項4】
前記電圧付与サイクルを10サイクル以上行う、請求項1~請求項3の何れか一項に記載の固体電解質の製造方法。
【請求項5】
前記固体電解質は、リン酸ガラスまたはホウ酸ガラスを含む、請求項1~請求項4の何れか一項に記載の固体電解質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体型リチウムイオン二次電池に使用できる固体電解質を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、二次電池としては、樹脂製セパレータに有機溶媒を含む非水電解液を含浸させた非水系二次電池が主に用いられている。ここで、有機溶媒を含む非水電解液はセパレータで完全に固定化されていないため、電池破損時には非水電解液が液漏れするおそれがある。
【0003】
そのため、非水電解液及び樹脂製セパレータの代わりに、セラミックスや高分子などの固体電解質を用いた、固体型二次電池の開発研究が盛んに行われている。
【0004】
例えば、特許文献1に記載されているように、主に硫化物からなる固体電解質を用いた固体型二次電池の検討が行われている。ここで、硫化物は電荷担体であるリチウムイオンの伝導性が比較的高いとの性質を示す。そのうえ、硫化物材料は比較的やわらかいため成形性に優れており、硫化物材料と電極に用いられる活物質との界面を形成するのが容易であるとの利点を有する。例えば、硫化物材料と活物質とは、これらの混合物を加圧するだけで密着し、上記界面を形成できるため、リチウムイオンの伝導パスが容易に確保できる。
【0005】
しかし、主に硫化物からなる固体電解質をセパレータに用いる際、加圧により粒子同士を接触させるため、疎な部分ができる。そして、当該固体電解質をセパレータとして用いた固体型二次電池を作動すると、上記の疎な部分にリチウムイオンが集中し、その結果として、リチウム金属からなるデンドライトが形成されてしまうとの問題がある。この問題を解決するためには、当該固体電解質からなるセパレータの厚みを増加せざるを得なかった。
【0006】
また、固体電解質として酸化物を用いる検討も行われている。固体電解質として使用され得る酸化物として、Li7La3Zr2O12等のガーネット型酸化物、Li1.5Al0.5Ge1.5P3O12等のNASICON型酸化物等が知られている。
【0007】
通常、酸化物は高温での焼結を経て固体電解質とされる。酸化物からなる固体電解質は、高温下で加圧しつつ製造されるため、高密度であり、緻密な構造体であるためデンドライトの問題は生じにくい。
また、この種の酸化物を用いた固体電解質においては、製造時に加圧して酸化物の粒子同士を密着させることにより、当該酸化物粒子間における界面抵抗を低下させることが期待でき、その結果、固体電解質の抵抗を低減することが期待できる。
【0008】
しかし、一般的に、電気伝導度の高い結晶性の酸化物は非常に硬く変形し難いために、固体電解質の製造時における加圧によっても、当該酸化物粒子同士の接触面積を増大させることは困難である。このため、当該酸化物粒子を用いた固体電解質の抵抗を低減することもまた困難であり、当該固体電解質もまた固体型リチウムイオン二次電池の固体電解質として実用的とは言い難い問題があった。
【0009】
非特許文献1には、(LiI)0.3(LiPO3)0.7を固体電解質として用いる技術が紹介されている。当該(LiI)0.3(LiPO3)0.7は、ハロゲン化リチウムを含有する酸化物ガラスである。本明細書においては、この種の酸化物ガラスを用いた固体電解質を、ハロゲン化リチウム-酸化物ガラス型の固体電解質と称する。
酸化物ガラスの粒子は、上記した酸化物粒子の粒子と比較して柔らかく、比較的変形し易いと考えられる。このため、ハロゲン化リチウム-酸化物ガラス型の固体電解質を加圧すると、酸化物ガラスの粒子同士が密着することが期待できる。つまり、ハロゲン化リチウム-酸化物ガラス型の固体電解質は抵抗の小さな固体電解質である可能性がある。
本発明の発明者は、ハロゲン化リチウム-酸化物ガラス型の固体電解質を実際に作製し、その抵抗を実際に測定してみた。しかし当該ハロゲン化リチウム-酸化物ガラス型の固体電解質においても、期待されたほどの抵抗の低減はみられなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Solid State Ionics 262(2014)833-836
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、かかる事情に鑑みて為されたものであり、固体電解質の抵抗を低減し得る技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、リチウムを含有する酸化物ガラスに着目し、様々な方法で固体電解質を実際に製造した。すると、そのなかで特定の処理を施したものに、抵抗の低減が認められた。本発明者は、さらに鋭意検討を重ねることにより、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、上記課題を解決する本発明の固体電解質の製造方法は、
ハロゲン化リチウム-酸化物ガラス型の固体電解質に対して交流電圧を加える電圧付与サイクルを複数サイクル行う低抵抗化工程を具備し、
前記電圧付与サイクルにおいて、前記交流の周波数を7MHzから200mHzまで変化させる、固体電解質の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の製造方法によると、抵抗の低減した固体電解質を製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施例1の製造方法における電圧付与サイクルのサイクル数とリチウムイオン伝導度との関係を表すグラフである。
【
図2】実施例2--1の製造方法における電圧付与サイクルのサイクル数とリチウムイオン伝導度との関係を表すグラフである。
【
図3】実施例2の原料固体電解質の表面の形状像および反射電子組成像である。
【
図4】実施例2-1の固体電解質の表面の形状像および反射電子組成像である。
【
図5】実施例2の原料固体電解質の内部の形状像および反射電子組成像である。
【
図6】実施例2-1の固体電解質の内部の形状像および反射電子組成像である。
【
図7】実施例2の原料固体電解質および実施例2-1の固体電解質のXRDチャートである。
【
図8】実施例2の原料固体電解質および実施例2-1の固体電解質の
31P-NMRスペクトルである。
【
図9】実施例のハーフセルの充放電曲線であり、図中縦軸は電圧(V)を表し横軸は容量(mAh/g)を表す。
【
図10】実施例3の製造方法における電圧付与サイクルのサイクル数とリチウムイオン伝導度との関係を表すグラフである。
【
図11】実施例4-1の製造方法における電圧付与サイクルのサイクル数と抵抗との関係を表すグラフである。
【
図12】実施例4-1の原料固体電解質および実施例4-1の固体電解質のXRDチャートである。
【
図13】実施例4-2の原料固体電解質および実施例4-2の固体電解質のXRDチャートである。
【
図14】実施例4-2の固体電解質およびホウ酸リチウムの
11B-NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明を実施するための形態を説明する。なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「a~b」は、aおよびbを上限または下限としてその範囲に含む。そして、これらの上限値および下限値、ならびに実施例や参考例等に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。さらに数値範囲内から任意に選択した数値を上限、下限の数値とすることができる。
【0018】
本発明の固体電解質の製造方法は、ハロゲン化リチウム-酸化物ガラス型の固体電解質に対して交流電圧を加える電圧付与サイクルを複数サイクル行う低抵抗化工程を具備する。そして、前記電圧付与サイクルにおいて、前記交流の周波数を7MHzから200mHzまで変化させる。
【0019】
本発明の固体電解質の製造方法において、低抵抗化工程を行う対象であるハロゲン化リチウム-酸化物ガラス型固体電解質は、ハロゲン化リチウムを含む酸化物ガラスを材料とする。なお、ハロゲン化リチウムを含む酸化物ガラスは一般的に粒子状をなすところ、ハロゲン化リチウム-酸化物ガラス型固体電解質は、当該ハロゲン化リチウムを含む酸化物ガラスを加圧し成形したもの全般を意味する。当該ハロゲン化リチウム-酸化物ガラス型固体電解質は、ハロゲン化リチウムを含む酸化物ガラスのみからなっても良いし、その他の組成物を含んでも良い。
【0020】
本発明者は、種々のハロゲン化リチウム-酸化物ガラス型固体電解質につき、様々な評価方法によりその特性を評価した。そしてその一つとして、様々な環境下での当該固体電解質の抵抗を測定した。本発明者は、同一のハロゲン化リチウム-酸化物ガラス型固体電解質に対して複数回の測定を行った場合に、当該固体電解質の抵抗、具体的にはインピーダンスが回を重ねる毎に低下することを見出した。
【0021】
本発明者は、このハロゲン化リチウム-酸化物ガラス型固体電解質のインピーダンスの低下が、その測定方法である交流インピーダンス法に因るという着想を得た。本発明者は、当該着想を基にさらに研究を進めて、同一のハロゲン化リチウム-酸化物ガラス型固体電解質に対して交流インピーダンス法と同様の電圧負荷、すなわち7MHzから200mHzまで周波数が変化するように交流電圧を加える電圧付与サイクルを、複数サイクル繰り返し行うことで、ハロゲン化リチウム-酸化物ガラス型固体電解質が改質され、抵抗の低減した固体電解質が得られることに到達した。
【0022】
その理由は明らかではないが、後述するように、上記の電圧付与サイクルをおこなうことで、ハロゲン化リチウム-酸化物ガラス型固体電解質に含まれるハロゲン化リチウムを含む酸化物ガラスに、構造変化が生じると考えられる。そして、当該構造変化が、ハロゲン化リチウム-酸化物ガラス型固体電解質の抵抗低減に関与している可能性がある。
【0023】
以下、必要に応じて、低抵抗化工程を行う対象としてのハロゲン化リチウム-酸化物ガラス型固体電解質を、原料固体電解質と称する場合がある。また、本発明の固体電解質の製造方法で製造される固体電解質を、必要に応じて、本発明の固体電解質と称する場合がある。本発明の固体電解質は、改質されたハロゲン化リチウム-酸化物ガラス型ともいい得る。さらに、本発明の固体電解質の製造方法を、必要に応じて、本発明の製造方法と称する場合がある。
【0024】
本発明の製造方法に用いる原料固体電解質は、ハロゲン化リチウムを含む酸化物ガラスである。当該ハロゲン化リチウムを含む酸化物ガラスは、ハロゲン化リチウム成分と酸化物ガラス成分とを有する。なお、ハロゲン化リチウム成分と酸化物ガラス成分とは、その少なくとも一部が反応して化合物を形成していても良いし、反応せず共存するだけであっても良い。
当該ハロゲン化リチウムを含む酸化物ガラスは、下式(1)で表すことが可能である。
yLiX・(100-y)LiaEbOc……(1)
【0025】
なお、式(1)中のLiXはハロゲン化リチウム成分を表し、LiaEbOdは酸化物ガラス成分を表す。y、100-yはハロゲン化リチウム成分と酸化物ガラス成分との比を表す。
yは正の数であり、30≦y≦70の範囲内、40≦y≦75の範囲内または45≦y≦75の範囲内であるのが好ましい。
Xはハロゲン元素であり、I、Br、FまたはClから選ばれる少なくとも一種であるのが好ましい。
Eは酸素よりも電気陰性度の小さな元素であり、P、B、Si、Ge、Ti、Te、Al、Bi、V、Sb、Pb、Cuから選ばれる少なくとも一種であるのが好ましい。さらに、EはP、B、Si、Geから選ばれる少なくとも一種を必須とするのが好ましい。
a、b、cは各々正の数である。
【0026】
具体的なハロゲン化リチウムを含む酸化物ガラスとして、50LiI・50Li4P2O7、50LiI・50LiPO3、50LiI・50Li3PO4、50LiI・50Li3BO3、30LiI・70LiPO4、40LiF・60LiPO3、30LiCl・70LiPO3、33LiBr・67LiPO3、33LiI・67LiPO3、33LiI・67Li4P2O3、33LiI・67Li3PO4を例示できる。
【0027】
上記のハロゲン化リチウムを含む酸化物ガラスは、粉末状のハロゲン化リチウム成分と粉末状の酸化物ガラス成分とを、メカニカルミリング等の方法で剪断力を加えつつ混合することで製造することが可能である。場合によっては、ハロゲン化リチウム成分と酸化物ガラス成分とを溶融状態で混合しても良い。
【0028】
本発明の製造方法では、上記したハロゲン化リチウムを含む酸化物ガラスを材料とする原料固体電解質に対して、低抵抗化工程を行う。低抵抗化工程を行う際の原料固体電解質の性状は特に限定しない。例えば、原料固体電解質として、粉末状のハロゲン化リチウムを含む酸化物ガラスを板状やシート状に形成したものを用いても良いし、これらを正極や負極に一体化したものを用いても良い。さらには、粉末状のハロゲン化リチウムを含む酸化物ガラスを正極や負極に配合した、固体電解質一体型の負極や正極を原料固体電解質に対して低抵抗化工程を行っても良い。
【0029】
低抵抗化工程は、上記の原料固体電解質に対して交流電圧を加える電圧付与サイクルを、複数サイクル行う工程である。このとき、交流の周波数を7MHzから200mHzまで変化させる。
【0030】
なお、このときの周波数は、少なくとも7MHzから200mHzまで変化すれば良く、上限値がこの範囲を上回っても良いし下限値がこの範囲を下回っても良い。
また、当該周波数は、高周波数側から低周波数側に向けて変化しても良いし、低周波数側から高周波数側に向けて変化しても良い。さらに、固体電解質に加える交流電圧は、交流の周波数が7MHzから200mHzまで変化するような大きさであれば良い。さらに、当該電圧付与サイクルは2サイクル以上行えば良く、そのサイクル数に特に上限は無い。
電圧付与サイクルにおいて固体電解質に加える電圧の好適な範囲は、固体電解質毎に異なると考えられるものの、0.001V~2.5Vの範囲内、0.01V~2Vの範囲内を例示できる。
【0031】
電圧付与サイクルの回を重ねるのに伴い、原料固体電解質の抵抗は低減する。その理由は明らかではないが、低抵抗化工程を行うことに因り原料固体電解質が改質されるものと推測される。
【0032】
なお、後述するように、アモルファス状の原料固体電解質に低抵抗化工程を行うことで得られた本発明の固体電解質は、結晶化していることが確認された。
【0033】
また、後述するように、原料固体電解質と本発明の固体電解質とでは、その組成も変化することが確認された。したがって、低抵抗化工程は原料固体電解質の組成を変化させる工程と捉えることが可能である。具体的には、原料固体電解質中のハロゲン量は、低抵抗化工程により低下する。低抵抗化工程は、XPS分析により測定したハロゲン量の原子比が20%以上、30%以上、50%以上または60%以上低減するよう、原料固体電解質の組成を変化させるのが好ましい。
【0034】
原料固体電解質の改質が為されれば、それ以上の電圧付与サイクルは不要であるため、当該サイクル数は最小に留めるのが合理的である。当該最小のサイクル数は、電圧付与サイクルの対象とする原料固体電解質の組成や性状に応じて異なると考えられるが、電圧付与サイクルのサイクル数には好ましい範囲があると考えられる。当該サイクル数の好ましい範囲として、2サイクル~200サイクルの範囲内、10サイクル~175サイクルの範囲内、20サイクル~150サイクルの範囲内、30サイクル~125サイクルの範囲内、または、50サイクル~100サイクルの範囲内を挙げることができる。
【0035】
電圧付与サイクルは連続的に行っても良いし、間隔をおいて行っても良いが、低抵抗化工程に要する時間が過大であれば、固体電解質の意図せぬ変質が生じる虞がある。したがって、電圧付与サイクルの速度には好ましい範囲があると考えられる。具体的には、電圧付与サイクルの1サイクルあたりに要する時間の好ましい範囲として、2分~30分の範囲内、5分~15分の範囲内、または、8分~12分の範囲内の各範囲を挙げることができる。
【0036】
電圧付与サイクルは如何なる温度で行っても良いが、加熱雰囲気下で行うのが好ましい。好適な雰囲気の温度として、具体的には、室温(25℃)~250℃の範囲内、室温~200℃の範囲内、または、60℃~150℃の範囲内を挙げることができる。なお、ここでいう雰囲気とは、固体電解質のある雰囲気を意味する。
【0037】
低抵抗化工程において、原料固体電解質は電圧付与サイクルの際にのみ加熱しても良いし、これに加えて、その前後やサイクル間に加熱し続けても良い。低抵抗化工程における原料固体電解質の加熱時間は特に限定しないが、1時間~30時間の範囲内、2時間~25時間の範囲内、5時間~20時間の範囲内を挙げることができる。なお、電圧付与サイクルの前および/または後にも原料固体電解質を加熱する場合、その雰囲気温度は、電圧付与サイクルの雰囲気温度と同じであっても良いし、異なっていても良い。この場合の好適な温度範囲は上記した電圧付与サイクルの好適な温度範囲と同様である。
【0038】
本発明の製造方法で得られた本発明の固体電解質は、固体型リチウムイオン二次電池のセパレータとして使用できる。または、酸化物リチウムイオン電池の正極や負極の一部としても使用できる。
【0039】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【実施例0040】
以下に、実施例等を示し、本発明を具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
〔原料固体電解質製造工程〕
実施例1ではハロゲン化リチウムを含む酸化物ガラスとして、リン酸ガラスの一種である50LiI・50LiPO3を用いた。
市販のLiPO3とLiIとをモル比50:50となるように秤量し、ボールミルにて380rpmのミリングを、休止を交えつつ合計40時間行った。これにより、ガラス状かつ粉末状の50LiI・50LiPO3を得た。なお、50LiI・50LiPO3はハロゲン化リチウムを含む酸化物ガラスであり、ハロゲン化リチウム成分としてLiIを、酸化物ガラス成分としてLiPO3を各々含有する。さらに、当該50LiI・50LiPO3は、yLiX・(100-y)LiaEbOcにおいてy=50のものに相当する。
【0042】
上記の工程で得られた粉末状の50LiI・50LiPO3を、室温下、380MPaで加圧して、ペレット状に成形することで原料固体電解質を得た。
【0043】
〔低抵抗化工程〕
上記の原料固体電解質製造工程で得られた原料固体電解質を、ステンレス鋼(SUS)製のパンチで挟み、室温下、5mNでシャコ万力を用いて加圧した。このときの原料固体電解質の厚さは0.6mmであった。パンチで挟んだ状態の原料固体電解質につき、測定雰囲気を100℃とし、7MHzから200mHzまで周波数が変化するように交流電圧を加える電圧付与サイクルを、60サイクル行った。このときの所要時間は30時間であった。また、このとき印加した電圧は100mVであった。これにより、実施例1の固体電解質を得た。なお、このとき、交流インピーダンス法に基づくリチウムイオン伝導度(S/cm)をサイクル毎に測定した。
【0044】
<評価試験1 抵抗評価>
上記の低抵抗化工程の際に測定した、電圧付与サイクルのサイクル数とリチウムイオン伝導度(S/cm)との関係を
図1に示す。
図1に示すように、原料固体電解質のリチウムイオン伝導度は、電圧付与サイクルのサイクル数が増加するのに伴って徐々に上昇し、60サイクル目には3.9×10
-3(S/cm)にまで到達した。なお、リチウムイオン伝導度の上昇は、60サイクル程度でほぼ飽和した。
【0045】
ところで、上記の抵抗評価はSUS電極間の伝導度を測定するものであり、ここで測定される伝導度はリチウムイオン伝導度と電子伝導度との総和である。本発明の発明者は、実施例1の原料固体電解質をSUS電極間に挟んだセル、および、リチウム電極とSUS電極とで挟んだセルにつき、直流分極法により、電流値を測定した。すると、実施例1の原料固体電解質をSUS電極間に挟んだセルの電流値に比べて、実施例1の原料固体電解質をリチウム電極とSUS電極とで挟んだセルの電流値は、103倍程度大きかった。この結果から、当該固体電解質においてはリチウムイオンの移動が優勢であることがわかった。
【0046】
これらの結果から、原料固体電解質に電圧付与サイクルを複数回行う低抵抗化工程を行うことで、リチウムイオン伝導度が向上し抵抗の低減した固体電解質が得られることが裏付けられた。
【0047】
なお、実施例1では低抵抗化工程を100℃で行ったが、同様の低抵抗化工程を65℃で行った場合にも、抵抗の低減した固体電解質が得られた。
【0048】
(実施例2-1)
原料固体電解質用のハロゲン化リチウムを含む酸化物ガラスとして、50LiI・50Li4P2O7を用いたこと以外は、実施例1と概略同じ方法で、実施例2の原料固体電解質を得た。
なお、50LiI・50Li4P2O7の原料としてはLiIおよびLi4P2O7を用い、このうちLi4P2O7としては、以下の方法で製造したものを用いた。
(NH4)2HPO4とLi2CO3(富士フイルム和光純薬株式会社製)とを目的組成となるよう秤量し、900℃で加熱して溶融させた。得られた融液をカーボンロッドに流し出し、急冷させてLi4P2O7を得た。
50LiI・50Li4P2O7はハロゲン化リチウムを含む酸化物ガラスであり、ハロゲン化リチウム成分としてLiIを、酸化物ガラス成分としてLi4P2O7を各々含有する。さらに、当該50LiI・50Li4P2O7は、yLiX・(100-y)LiaEbOcにおいてy=50のものに相当する。
【0049】
〔低抵抗化工程〕
上記した実施例2の原料固体電解質につき、実施例1と同様の電圧付与サイクルを、100℃で30時間かけて19サイクル行った。これにより、実施例2-1の固体電解質を得た。このときの、交流インピーダンス法に基づくリチウムイオン伝導度(S/cm)をサイクル毎に測定した。
【0050】
<評価試験2-1 抵抗評価>
実施例2-1の低抵抗化工程における電圧付与サイクルのサイクル数とリチウムイオン伝導度(S/cm)との関係を
図2に示す。
図2に示すように、ハロゲン化リチウムを含む酸化物ガラスとして、50LiI・50Li
4P
2O
7を用いた実施例2-1においても、原料固体電解質のリチウムイオン伝導度は、電圧付与サイクルのサイクル数が増加するのに伴って徐々に上昇し、19サイクル目には4.93×10
-3(S/cm)にまで到達した。
この結果から、原料固体電解質に50LiI・50Li
4P
2O
7を用いる場合にも、原料固体電解質に50LiI・50LiPO
3を用いる場合と同様に、低抵抗化工程によりリチウムイオン伝導度が向上し抵抗の低減した固体電解質が得られることが裏付けられた。
【0051】
<評価試験2-2 表面観察>
実施例2の原料固体電解質、および、実施例2-1の固体電解質の表面を走査型電子顕微鏡にて観察した。実施例2の原料固体電解質の表面の形状像(SEM像)を
図3中の左に示し、実施例2の原料固体電解質の表面の反射電子組成像(COMPO像)を
図3中の右に示す。実施例2-1の固体電解質の表面の形状像を
図4中の左に示し、実施例2-1の固体電解質の表面の反射電子組成像を
図4中の右に示す。
【0052】
図3に示すように、原料固体電解質の表面の反射電子組成像には、全体的に、LiIに起因する白色の部分が確認される。これに対して、
図4に示すように、実施例2-1の固体電解質の表面の反射電子組成像には、当該白色の部分が殆ど確認されない。このことから、低抵抗化工程により、固体電解質の表面からLiIが失われたと推測される。
【0053】
<評価試験2-3 内部観察>
実施例2の原料固体電解質、および、実施例2-1の固体電解質に集束イオンビームを作用させることで断面を形成し、各固体電解質の内部を露出させた。当該断面を走査型電子顕微鏡にて観察した。実施例2の原料固体電解質の内部の形状像を
図5中の左に示し、実施例2の原料固体電解質の内部の反射電子組成像を
図5中の右に示す。実施例2-1の固体電解質の内部の形状像を
図6中の左に示し、実施例2-1の固体電解質の内部の反射電子組成像を
図6中の右に示す。
【0054】
図5に示すように、原料固体電解質の内部の反射電子組成像には、全体的に、LiIに起因する白色の部分が確認される。これに対して、
図6に示すように、実施例2-1の固体電解質の内部の反射電子組成像には、当該白色の部分が殆ど確認されない。このことから、低抵抗化工程により、固体電解質の内部からもLiIが失われたと推測される。
【0055】
<評価試験2-4 XPS分析>
実施例2の原料固体電解質、および、実施例2-1の固体電解質につき、X線光電分光法(XPS)により、表面から2nm程度の深さまでの元素分析を行った。結果を表1に示す。
【0056】
【0057】
表1に示すように、固体電解質表面のリチウム、リンおよび酸素に関しては、低抵抗化工程の前後でさほど大きな変化はみられなかったが、ヨウ素については低抵抗化工程後に大きく減少していた。この結果から、低抵抗化工程により原料固体電解質の表面からヨウ素が失われたと推測される。そして、ヨウ素の元素濃度は、原料固体電解質においては6.1元素%であったところ、低抵抗化工程後の実施例2-1の固体電解質においては2.0元素%であったことから、低抵抗化工程後には低抵抗化工程前の50%以下にまで低減したということができる。より具体的には、実施例2-1の固体電解質のヨウ素濃度は、低抵抗化工程により、低抵抗化工程前の40%以下にまで低減したといい得る。
【0058】
<評価試験2-5 ICP分析>
実施例2の原料固体電解質、および、実施例2-1の固体電解質につき、ICP-発光分光分析(ICP-AES)により元素分析を行った。分析結果を基に、各固体電解質におけるリチウム、ヨウ素およびリンの組成比(mol%)を算出した。また、各元素につき、低抵抗化工程後の減少率を算出した。具体的には、100×(実施例2の原料固体電解質における該当元素の組成比-実施例2-1の固体電解質における該当元素の組成比)/(実施例2の原料固体電解質における該当元素の組成比)を、各元素の低抵抗化工程後の減少率(%)とした。結果を表2に示す。
【0059】
【0060】
表2に示すように、低抵抗化工程により固体電解質の組成に変化が生じた。表1、2を比較すると、当該固体電解質の組成変化は、固体電解質の表面だけで生じているのではなく内部にも生じていることがわかる。
【0061】
<評価試験2-6 放射光X線回折分析>
実施例2の原料固体電解質および実施例2-1の固体電解質につき、放射光を用いたX線回折により固体電解質の変化を分析した。分析条件は以下のとおりとした。
<分析条件>
測定ビームライン:あいちシンクロトロン BL5S2
測定エネルギー:12.4keV
カメラ長:340mm
露光時間:300s
キャピラリー:径0.3mm
評価試験2-6で得られたXRDチャートを重ね書きしたものを
図7に示す。
【0062】
図7に示すように、実施例2-1の固体電解質にはLi
4P
2O
7と認められるピークやLi
3PO
4と認められるピークが確認された。また、実施例2の原料固体電解質ではLiIと認められるピークが確認されたが、実施例2-1の固体電解質ではLiIと認められるピークは確認されなかった。
【0063】
なお、
図7に示すXRDチャートを基に、シェラーの式から、実施例2-1の固体電解質におけるLi
4P
2O
7およびLi
3PO
4の結晶子径を算出した。また、実施例2-1の固体電解質におけるLi
4P
2O
7およびLi
3PO
4の含有量も算出した。その結果、実施例2-1の固体電解質におけるLi
4P
2O
7の結晶子径は178nmであり、Li
3PO
4の結晶子径は141nmであった。実施例2-1の固体電解質におけるLi
4P
2O
7の含有量は64質量%であり、Li
3PO
4の含有量は33質量%であった。なお、当該含有量は、実施例2-1の固体電解質の質量を100質量%とした場合の結果である。
【0064】
<評価試験2-7 NMR分析>
実施例2の原料固体電解質および実施例2-1の固体電解質につき、
31P-NMRによる構造分析を行った。得られたNMRスペクトルを
図8に示す。
図8に示すように、原料固体電解質に低抵抗化工程を行った実施例2-1の固体電解質のNMRスペクトルには、原料固体電解質には殆どみられなかった10~20ppmの間のピークが確認された。当該ピークはオルトリン酸のピークと考えられ、LiPO
3に由来するものと推測される。
実施例2-1の固体電解質のNMRスペクトルには、0ppmおよび3ppm付近に、ピロリン酸に由来するダブレットが観察された。また、オルトリン酸に由来するピークおよびピロリン酸に由来するピークの強度から、低抵抗化工程によりオルトリン酸が増加したことがわかる。
【0065】
<評価試験2-8 充放電試験>
実施例2-1の固体電解質をセパレータおよび負極に用いてハーフセルすなわち評価用の固体型リチウムイオン二次電池を製造し、その充放電を確認した。
セパレータとしては以下のものを用いた。
【0066】
〔セパレータ〕
実施例2の原料固体電解質をステンレス鋼製のセルに挟み、室温下、380MPaでプレスした。このときの原料固体電解質の厚さは0.6mmであった。セルに挟んだ状態の原料固体電解質につき、実施例1と同様の電圧付与サイクルを行うことで、セパレータを作製した。
【0067】
〔電池〕
負極活物質として、SiO2とSiとに不均化されたSiOを用いた。
実施例2の原料固体電解質を40質量部、負極活物質としてのSiOを40質量部、および導電助剤としての気相法炭素繊維20質量部を混合して負極合材とした。
セラミックス製であって内径10mmの円筒状の側部成形型及びステンレス鋼製(SUS316に相当する。)の下部成形型で区画された凹部に、上記の負極合材を入れ、その上に上記のセパレータを載置した。ステンレス鋼製(SUS316に相当する。)の上部成形型を用いて、室温下、380MPaで加圧して、負極活物質層とセパレータとが一体化した積層体を製造した。さらに、セパレータ上に厚さ300μmの金属リチウムを積層し、上部成形型を用いて加圧して、実施例のハーフセルを製造した。なお、当該ハーフセルは、約0.3N/m2で加圧された。
【0068】
〔充放電評価〕
65℃の恒温層中で、上記の固体型リチウムイオン二次電池に対して、カットオフ電圧は2V~0.1Vで10μAの試験電流を流し、充放電曲線を観察した。結果を
図9に示す。
【0069】
図9に示すように、実施例のハーフセルは充放電することが確認され、実施例2-1の固体電解質は固体型のリチウムイオン二次電池用の固体電解質として機能することが確認された。
【0070】
(実施例2-2)
実施例2-2の製造方法は、低抵抗化工程に要する時間および電圧付与サイクルのサイクル数以外は、実施例2-1と概略同じである。
【0071】
〔低抵抗化工程〕
実施例2の原料固体電解質につき、実施例1と同様の電圧付与サイクルを、100℃で16時間時間かけて10サイクル行った。これにより、実施例2-2の固体電解質を得た。このときの、交流インピーダンス法に基づくリチウムイオン伝導度(S/cm)をサイクル毎に測定した。
【0072】
<評価試験2-9 抵抗評価>
実施例2-2の固体電解質につき、100℃での低抵抗化工程の10サイクル時における導電率は約4.0×10-3S/cmであった。
この実施例2-2の固体電解質につき、低抵抗化工程後に室温(25℃)でインピーダンス測定を行った。その結果、室温における実施例2-2の固体電解質の導電率は約2.5×10-3S/cmであり、上記した100℃での導電率と比較しても十分に高い値を示した。一般に、温度が低くなると導電率は低下するために、実施例2-2の固体電解質は導電率が高く抵抗の低減したものといい得る。
実施例2-2の製造方法では、他の実施例の製造方法に比べて、低抵抗化工程に要する時間が短い。このことが、室温での導電率の向上に寄与していると考えられる。この結果から、低抵抗化工程に要する時間は25時間以下であるのが好ましく、20時間以下であるのがより好ましいといい得る。
【0073】
(実施例3)
原料固体電解質用のハロゲン化リチウムを含む酸化物ガラスとして、40LiI・60Li4P2O7を用いたこと以外は、実施例1と概略同じ方法で、実施例3の原料固体電解質を得た。
なお、40LiI・60Li4P2O7の原料としてはLiIおよびLi4PO7を用い、このうちLi4P2O7としては、実施例2-1と同様に製造したものを用いた。
40LiI・60Li4P2O7は、yLiX・(100-y)LiaEbOcにおいてy=40のものに相当する。
【0074】
〔低抵抗化工程〕
上記した実施例3の原料固体電解質につき、実施例1と同様の電圧付与サイクルを、100℃で100サイクル行った。これにより、実施例3の固体電解質を得た。このときの、交流インピーダンス法に基づくリチウムイオン伝導度(S/cm)をサイクル毎に測定した。
【0075】
<評価試験3 抵抗評価>
実施例3の低抵抗化工程における電圧付与サイクルのサイクル数とリチウムイオン伝導度(S/cm)との関係を
図10に示す。
図10に示すように、ハロゲン化リチウムを含む酸化物ガラスとして、40LiI・60Li
4P
2O
7を用いた実施例3においても、原料固体電解質のリチウムイオン伝導度は、電圧付与サイクルのサイクル数が増加するのに伴って徐々に上昇し、25サイクル目には1.27×10
-3(S/cm)にまで到達した。
この結果から、原料固体電解質に40LiI・60Li
4P
2O
7を用いる場合にも、原料固体電解質に50LiI・50LiPO
3や40LiI・60Li
4P
2O
7を用いる場合と同様に、低抵抗化工程によりリチウムイオン伝導度が向上し抵抗の低減した固体電解質が得られることが裏付けられた。
【0076】
(実施例4-1)
実施例4-1ではハロゲン化リチウムを含む酸化物ガラスとして、ホウ酸ガラスの一種である50LiI・50Li3BO3を用いた。これ以外は実施例1と概略同じ方法で、実施例4-1の原料固体電解質を得た。
なお、50LiI・50Li3BO3の原料としてはLiIおよびLi3BO3を用い、このうちLi4BO3については市販のものを用いた。
50LiI・50Li3BO3は、yLiX・(100-y)LiaEbOcにおいてy=50のものに相当する。
【0077】
〔低抵抗化工程〕
上記した実施例4-1の原料固体電解質につき、実施例1と同様の電圧付与サイクルを、100℃で130サイクル行った。これにより、実施例4-1の固体電解質を得た。このときの、交流インピーダンス法に基づくリチウムイオン伝導度(S/cm)をサイクル毎に測定した。
【0078】
<評価試験4-1 抵抗評価>
実施例4-1の低抵抗化工程における電圧付与サイクルのサイクル数と抵抗(Ω)との関係を
図11に示す。
図11に示すように、ハロゲン化リチウムを含む酸化物ガラスとして、50LiI・50Li
3BO
3を用いた実施例4-1においても、原料固体電解質の抵抗は、電圧付与サイクルのサイクル数が増加するのに伴って徐々に低減し、1サイクル目に2.5×10
5Ω程度であったにも拘わらず100サイクル付近で40Ωにまで到達した。また、特に図示しないが、100サイクル付近でのリチウムイオン伝導度は1.0×10-2(S/cm)にまで向上した。
この結果から、ホウ素を含有する50LiI・50Li
3BO
3を原料固体電解質に用いる場合にも、リンを含有する50LiI・50LiPO
3等を原料固体電解質に用いる場合と同様に、低抵抗化工程によりリチウムイオン伝導度が向上し抵抗の低減した固体電解質が得られることが裏付けられた。
【0079】
(実施例4-2)
原料固体電解質用のハロゲン化リチウムを含む酸化物ガラスとして、33LiI・67Li3BO3を用いたこと以外は、実施例1と概略同じ方法で、実施例4-2の原料固体電解質を得た。
なお、33LiI・67Li3BO3の原料としてはLiIおよびLi3BO3を用い、このうちLi4BO3については市販のものを用いた。
33LiI・67Li3BO3は、yLiX・(100-y)LiaEbOcにおいてy=33のものに相当する。
【0080】
〔低抵抗化工程〕
上記した実施例4-2の原料固体電解質につき、実施例1と同様の電圧付与サイクルを、100℃で100サイクル行った。これにより、実施例4-2の固体電解質を得た。このときの、交流インピーダンス法に基づくリチウムイオン伝導度(S/cm)をサイクル毎に測定した。
【0081】
<評価試験4-2 抵抗評価>
ハロゲン化リチウムを含む酸化物ガラスとして、33LiI・67Li3BO3を用いた実施例4-2においても、原料固体電解質の抵抗は、電圧付与サイクルのサイクル数が増加するのに伴って徐々に低減し、1サイクル目に4.4×106Ω程度であったにも拘わらず100サイクル付近で9×103Ω程度にまで到達した。また、特に図示しないが、リチウムイオン伝導度については103程度向上した。
この結果から、33LiI・67Li3BO3を原料固体電解質に用いる場合にも、50LiI・50Li3BO3を原料固体電解質に用いる場合と同様に、低抵抗化工程によりリチウムイオン伝導度が向上し抵抗の低減した固体電解質が得られることが裏付けられた。
【0082】
<評価試験4-3 放射光X線回折分析>
既述した「評価試験2-6 放射光X線回折分析」と同様の方法で、実施例4-1の原料固体電解質、実施例4-1の固体電解質、実施例4-2の原料固体電解質および実施例4-2の固体電解質につき、放射光X線回折により固体電解質の変化を分析した。
実施例4-1の原料固体電解質のXRDチャートと実施例4-1の固体電解質のXRDチャートとを重ね書きしたものを
図12に示す。実施例4-2の原料固体電解質のXRDチャートと実施例4-2の固体電解質のXRDチャートとを重ね書きしたものを
図13に示す。
【0083】
図12に示すように、実施例4-1の固体電解質のXRDチャートでは実施例4-1の原料固体電解質のXRDチャートにはほとんど認められない12°~14°付近のピーク、および、17°~19°付近のピークが確認された。さらに、実施例4-1の固体電解質のXRDチャートでは実施例4-1の原料固体電解質のXRDチャートに比べてシャープなピークが多く認められた。
図13に示すように、実施例4-2の固体電解質のXRDチャートでもまた、実施例4-1の原料固体電解質のXRDチャートに比べてシャープなピークが多く認められた。
これらの結果から、原料固体電解質としてホウ酸ガラスの一種である50LiI・50Li
3BO
3や33LiI・67Li
3BO
3を用いる場合にも、低抵抗化工程を行うことに因り固体電解質が改質されその構造が変化するとともに結晶化が進行するといえる。
【0084】
<評価試験4-4 NMR分析>
実施例4-2の固体電解質およびホウ酸リチウムにつき、
11B-NMRによる構造分析を行った。得られたNMRスペクトルを
図14に示す。
図14に示すように、実施例4-2の固体電解質のNMRスペクトルには、ホウ酸リチウムにも認められた10ppm付近のピークおよび20ppm付近のピークが確認された。これらのピークは3配位の成分であると推測される。また、実施例4-2の固体電解質のNMRスペクトルには、ホウ酸リチウムには認められなかった0~2.5ppmの間のピークが確認された。当該ピークは4配位の成分であると推測される。