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特開2022-115117トランスオイル、当該トランスオイルを備えた変圧器およびトランスオイル生成方法
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  • 特開-トランスオイル、当該トランスオイルを備えた変圧器およびトランスオイル生成方法 図1
  • 特開-トランスオイル、当該トランスオイルを備えた変圧器およびトランスオイル生成方法 図2
  • 特開-トランスオイル、当該トランスオイルを備えた変圧器およびトランスオイル生成方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022115117
(43)【公開日】2022-08-09
(54)【発明の名称】トランスオイル、当該トランスオイルを備えた変圧器およびトランスオイル生成方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/10 20060101AFI20220802BHJP
   H01F 27/12 20060101ALI20220802BHJP
   H01F 1/44 20060101ALI20220802BHJP
【FI】
H01F27/10 150
H01F27/12 Z
H01F1/44 150
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021011574
(22)【出願日】2021-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(71)【出願人】
【識別番号】516186393
【氏名又は名称】株式会社櫻製油所
(71)【出願人】
【識別番号】000108546
【氏名又は名称】株式会社イチネンケミカルズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】特許業務法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 博司
(72)【発明者】
【氏名】川口 達夫
【テーマコード(参考)】
5E041
5E050
【Fターム(参考)】
5E041AB02
5E041BD07
5E041NN02
5E041NN04
5E041NN15
5E050CA10
(57)【要約】
【課題】従来のトランスオイルよりも適切に変圧器本体を冷却することができるトランスオイル、当該トランスオイルを備えた変圧器およびトランスオイル生成方法を提供する。
【解決手段】トランスオイルは、磁性粒子と、界面活性剤と、絶縁油と、を含んでいる。磁性粒子は、1体積%以上10体積%未満であるとともに、絶縁油中に分散させられている。界面活性剤は、磁性粒子をコーティングしている。変圧器は、当該トランスオイルを備えている。また、トランスオイル生成方法は、絶縁油に、磁性流体を添加し、磁性粒子の体積割合を1%以上10%未満に調整して、トランスオイルを生成する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性粒子と、
界面活性剤と、
絶縁油と、を含み、
前記磁性粒子は、1体積%以上10体積%未満であるとともに、前記絶縁油中に分散させられており、
前記界面活性剤は、前記磁性粒子をコーティングしている
ことを特徴とするトランスオイル。
【請求項2】
前記磁性粒子は、マンガン亜鉛フェライトである
ことを特徴とする請求項1に記載のトランスオイル。
【請求項3】
前記磁性粒子のキュリー温度は、150℃以上600℃未満である
ことを特徴とする請求項1または2に記載のトランスオイル。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のトランスオイルを備えた変圧器。
【請求項5】
絶縁油に、磁性流体を添加し、
磁性粒子の体積割合を1%以上10%未満に調整して、トランスオイルを生成する
ことを特徴とするトランスオイル生成方法。
【請求項6】
前記磁性流体は、前記磁性粒子を2体積%以上50体積%未満含み、
前記磁性流体を、前記トランスオイルにおける前記磁性流体の体積割合が2%以上25%未満になるように前記絶縁油に添加する
ことを特徴とする請求項5に記載のトランスオイル生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスオイル、当該トランスオイルを備えた変圧器およびトランスオイル生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、中型の変圧器として、例えば、電信柱に設置された柱上変圧器がある。この柱上変圧器は、収納容器と、収納容器内のトランスオイルと、変圧器本体と、を備えている。変圧器本体は、鉄心と鉄心に巻回された高圧コイルおよび低圧コイルを有し、これらコイルの電磁誘導によって、変電所から送られてくる電圧を各家庭で使用する電圧に変換する。トランスオイルは、絶縁油であって、電気的絶縁と、変圧器によって発生させられた熱の拡散とに利用される。
【0003】
ところで、このような中型以上の変圧器は、通電時に高熱を発生させるので、従来のトランスオイルの放熱作用だけでは熱を適切に拡散できず、その高熱によって変圧器本体が故障するおそれがある。そこで、高熱による変圧器本体の故障を防止するとともに変圧器の耐久性を高めるために、例えば、特許文献1に記載の変圧器用冷却装置が開発されてきた。この冷却装置は、柱上変圧器用の冷却装置であって、変圧器本体の上下いずれかに設けられたファンをモータによって駆動させることにより変圧器本体を冷却する。また、例えば、特許文献2には、柱上変圧器にリブ放熱器を設け、当該放熱器によって柱上変圧器のトランスオイルと外側の空気との間で熱交換を行なわせる冷却方法が開示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1および2に開示の冷却装置や冷却方法では、冷却部の構造が複雑となり、その製造には多大なコストを要するので問題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-90067号公報
【特許文献2】特開2012-074639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、従来のトランスオイルよりも適切に変圧器本体を冷却することができるトランスオイル、当該トランスオイルを備えた変圧器および当該トランスオイルを生成する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係るトランスオイルは、
磁性粒子と、
界面活性剤と、
絶縁油と、を備え、
磁性粒子は、1体積%以上10体積%未満であるとともに、絶縁油中に分散させられており、
界面活性剤は、磁性粒子をコーティングしている、ことを特徴とする。
【0008】
上記トランスオイルは、好ましくは、
磁性粒子が、マンガン亜鉛フェライトである。
【0009】
上記トランスオイルは、好ましくは、
磁性粒子のキュリー温度が、150℃以上600℃未満である。
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係る変圧器は、
上記トランスオイルを備える、ことを特徴とする。
【0011】
上記課題を解決するために、本発明に係るトランスオイル生成方法は、
絶縁油に、磁性流体を添加し、
磁性粒子の体積割合を1%以上10%未満に調整して、トランスオイルを生成する、ことを特徴とする。
【0012】
上記トランスオイル生成方法は、好ましくは、
磁性流体が、磁性粒子を2体積%以上50体積%未満含み、
磁性流体を、トランスオイルにおける前記磁性流体の体積割合が2%以上25%未満になるように前記絶縁油に添加する。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るトランスオイルは、従来のトランスオイルよりも適切に変圧器本体を冷却することができる。また、当該トランスオイルを備えた変圧器は、従来の変圧器よりも適切に変圧器本体を冷却することができる。さらに、本発明に係るトランスオイル生成方法は、従来のトランスオイルよりも適切に変圧器本体を冷却することができるトランスオイルを生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施例に係るトランスオイルを評価する実験装置の概略図である。
図2図1のトランスオイルの評価結果を示すグラフである。
図3図1のトランスオイルの別の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<トランスオイル>
まず、本発明のトランスオイルに係る一実施例について説明する。
【0016】
本発明の一実施例に係るトランスオイル1は、絶縁油と、磁性流体と、を含有する。
【0017】
絶縁油は、JISC2320に規定される1種の鉱物油である。本実施例では、鉱物油は、JISC2320に規定される1種2号絶縁油の規定を満たす谷口石油製の高圧絶縁油であるが、単なる一例であって、これに限定されない。絶縁油は、トランスオイル1のベースオイルである。本実施例の絶縁油の特性を次の表に示す。
【0018】
【表1】
【0019】
磁性流体は、ベースオイルと、磁性粒子と、界面活性剤と、を含有する。ベースオイルが溶媒であり、磁性粒子が溶質である。
【0020】
ベースオイルは、本実施例では、上述と同様の鉱物油である。この鉱物油は、単なる一例であって、上述の絶縁油と親和性があり、JISC2320に規定される1種の鉱物油であれば、例えば、種類の異なる鉱物油でもよい。
【0021】
磁性粒子の粒径は、7~11nmであって、磁性流体のキュリー温度は、150℃以上~600℃未満である。磁性粒子のキュリー温度は、250℃以下が好ましい。本実施例では、磁性粒子は、キュリー温度が250℃以下のマンガン亜鉛フェライトであるが、単なる一例であって、本発明における磁性粒子はこれに限定されない。磁性粒子は、例えば、マグネタイトでもよい。
【0022】
界面活性剤は、磁性粒子の表面に吸着させられており、磁性粒子同士の凝集を防止する。界面活性剤は、本実施例では、長鎖不飽和脂肪酸を多く含んだ界面活性剤であるオレイン酸であるが単なる一例であって、本発明における界面活性剤はこれに限定されない。界面活性剤は、磁性粒子の表面を2nm~3nmの厚さでコーティングしている。
【0023】
磁性流体における磁性粒子の体積割合は、2%以上かつ50%未満である。本実施例では、磁性流体は、イチネンケミカルズ製の磁性流体であって、磁性流体における磁性粒子の体積割合は、40%であるが単なる一例であって、本発明の磁性流体における磁性粒子の体積割合はこれに限定されない。
【0024】
界面活性剤にコーティングされた磁性粒子は、ベースオイル中に分散させられている。磁性粒子は、界面活性剤にコーティングされていることにより、磁場をかけられたりベースオイル中で流れによる遠心力がかかっても、互いに凝集することなく均一な分散状態を維持する。磁性流体は、温度を上昇させられると次第に磁性が弱まる特性があり、キュリー温度以上では強磁性の性質を消失する。本発明における磁性粒子は、キュリー温度が150℃以上600℃未満であるので、本発明における磁性流体は、比較的低い温度でも温度依存性を示す感温性磁性流体である。また、本実施例における磁性粒子は、キュリー温度の低い酸化物磁性粒子であるマンガン亜鉛フェライトであるので、本実施例における磁性流体は、100℃以下の低温においても温度依存性がある。
【0025】
トランスオイル1は、磁性流体の体積割合が2%以上25%未満になるように、磁性流体を絶縁油に添加されるとともに、磁性流体を添加された絶縁油を撹拌されることにより生成される。トランスオイル1のベースオイルである絶縁油と、磁性流体のベースオイルである絶縁油とが同様の絶縁油であるので、当該絶縁油同士に親和性がある。したがって、磁性粒子は、トランスオイル1中において均一に分散している。
【0026】
本実施例におけるトランスオイル1は、例えば、一般の柱上変圧器のトランスオイルとして利用することができる。この場合、トランスオイル1を備えた柱上変圧器は、収納容器と、変圧器本体とを備え、収納容器内にトランスオイル1を収納するとともにトランスオイル1内に変圧器本体を配置する。変圧器本体は、電流を印加されることにより磁場と熱を発生させる。トランスオイル1は、感温性磁性流体であるので、温度差に応じた磁場勾配によって対流を発生させられ、温度差による絶縁油自体の自然対流に相まってさらに対流を促進させられる。これにより、本実施例におけるトランスオイル1は、従来のトランスオイル1よりも適切に変圧器本体を冷却することができる。本実施例におけるトランスオイル1は、高い絶縁性を有するとともに、100℃以下の低温においても温度依存性がある磁性流体を添加されているので、幅広い種類の変圧器や冷却装置に利用することができる。
【0027】
<実験方法>
次に、図1を参照しつつ、本実施例におけるトランスオイル1の実験方法について説明する。本実験は、変圧器にトランスオイル1を利用したときを仮定してトランスオイル1の冷却能力を評価することを目的としている。トランスオイル1の冷却能力の評価は、ヌセルト数を算出することにより行う。
【0028】
図1に示すように、実験装置Dは、本実施例に係るトランスオイル1と、2重円筒容器2と、鉄心3と、鉄心3に巻回された1次コイル4および2次コイル5と、エチレングリコール6と、温度測定用データロガー7と、交流電源8と、を備えている。2重円筒容器2は、アクリル製であって、中心の空間2aにはトランスオイル1が満たされ、その外側の空間2bにはエチレングリコール6が満たされている。鉄心3は、1次コイル4および2次コイル5とともにトランスオイル1内において中心に配置されている。データロガーは、トランスオイル1内に配置された熱電対の電気信号からトランスオイル1の温度を計測する。
【0029】
本実験では、エチレングリコール6を-20度で循環させ、アクリル容器の温度が定常状態となった後、交流電流をコイルに印加した。また、本実験では、トランスオイル1における磁性流体の体積割合を2%、5%、10%、25%、50%とし、かつ、各体積割合において、4A、4.5A、5A、5.5A、6Aの電流を印加した。
【0030】
磁性流体を用いた磁気熱対流の研究に関する実験においては、直流磁場が印加されることが一般的である。本実験では、変圧器を模しているため、1次コイル4および2次コイル5には交流磁場が印加されている。磁気熱対流は、空間磁場勾配に起因して生じるところ、トランスオイル1内に交流磁場を発生させても磁気熱対流が生じるかについて明らかではなかった。そこで、本実験前に、磁気ナビエストークス方程式を用いて、交流磁場がトランスオイル1に及ぼす影響について確認したところ、直流磁場を印加した際と同様に、交流磁場を印加した際にも磁気熱対流が生じることがわかった。
【0031】
<実験結果>
次に、図2および図3を参照しつつ、本実施例に係るトランスオイル1の実験結果について説明する。図2は、本実施例におけるトランスオイル1の熱磁気対流の実験結果を示している。各グラフは、トランスオイル1における磁性流体の体積割合ごとのグラフであって、縦軸は、ヌセルト数を示し、横軸は、プラントル数(Pr)とグラスホフ数(Gr)との積を示している。グラフ内における各ポイントは、1次コイル4および2次コイル5に印加された電流値ごとのポイントであって、左から右に向かって、4A、4.5A、5A、5.5A、6Aの電流が印加されたときの値にプロットされている。
【0032】
図3は、各条件における磁性流体の体積割合とヌセルト数の関係を示している。縦軸は、ヌセルト数を示し、横軸は、トランスオイル1における磁性流体の体積割合を示している。図3に示すように、磁性流体の体積割合5%のときのヌセルト数が他の体積割合よりも高くなっている。これは、ヌセルト数が、一般に、プラントル数とグラスホフ数との積の上昇に伴って高くなるところ、磁性流体の体積割合5%のときのプラントル数とグラスホフ数とのバランスがよかったものと思われる。磁性流体のヌセルト数は、一般的には、磁性粒子の体積割合を増加させることによって増加傾向を示すことがわかっていたが、本実験により、本実施例のトランスオイル1のヌセルト数は、トランスオイル1における磁性流体の体積割合が2%以上25%未満において、磁性流体の体積割合25%よりも高いことがわかった。すなわち、本実験により、本実施例のトランスオイル1のヌセルト数は、トランスオイル1における磁性粒子の体積割合が1%以上10%未満において、磁性粒子の体積割合10%よりも高いことがわかった。
【0033】
さらに、本実施例のトランスオイル1のヌセルト数は、磁性流体の体積割合5%の方が磁性流体の体積割合50%のときよりも高いことがわかった。すなわち、本実施例のトランスオイル1のヌセルト数は、磁性粒子の体積割合が0.02%の方が磁性粒子の体積割合が0.2%のときよりも高いことがわかった。これにより、本実施例におけるトランスオイル1は、トランスオイル1における磁性粒子の体積割合を1%以上10%未満で構成することにより、比較的安価で製造することができる。
【0034】
しかも、本実施例によるトランスオイルの生成方法によれば、既存の変圧器のトランスオイルに上記磁性流体を添加することによりトランスオイル1を生成することができる。したがって、既存の変圧器内のトランスオイルをトランスオイル1に変更することに比して、変圧器の冷却性能を高めるコストを低く抑えることができる。
【0035】
以上、本発明の一実施例に係るトランスオイル1について説明してきたが、本発明に係るトランスオイルは、上記実施例に限定されるものではない。
【0036】
例えば、磁性粒子と、界面活性剤と、絶縁油と、を備えたトランスオイルを生成するに際し、トランスオイルにおける磁性粒子の体積割合を1%以上10%未満にすることにより、本発明に係るトランスオイルを生成してもよい。
【符号の説明】
【0037】
D 実験装置
1 トランスオイル
2 2重円筒容器
3 鉄心
4 1次コイル
5 2次コイル
6 エチレングリコール
7 温度測定用データロガー
8 交流電源
図1
図2
図3