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特開2022-115123空気電池正極用の炭素多孔体の製造方法
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  • 特開-空気電池正極用の炭素多孔体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022115123
(43)【公開日】2022-08-09
(54)【発明の名称】空気電池正極用の炭素多孔体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/88 20060101AFI20220802BHJP
   H01M 4/96 20060101ALI20220802BHJP
   H01M 12/08 20060101ALI20220802BHJP
【FI】
H01M4/88 C
H01M4/96 M
H01M12/08 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021011582
(22)【出願日】2021-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】501440684
【氏名又は名称】ソフトバンク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100206829
【弁理士】
【氏名又は名称】相田 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100199691
【弁理士】
【氏名又は名称】吉水 純子
(72)【発明者】
【氏名】安川 栄起
(72)【発明者】
【氏名】亀田 隆
(72)【発明者】
【氏名】山口 祥司
(72)【発明者】
【氏名】松田 翔一
(72)【発明者】
【氏名】角田 宏郁
(72)【発明者】
【氏名】宮川 絢太郎
【テーマコード(参考)】
5H018
5H032
【Fターム(参考)】
5H018AA10
5H018AS03
5H018BB01
5H018BB05
5H018BB06
5H018BB08
5H018BB12
5H018DD01
5H018DD03
5H018DD05
5H018DD08
5H018EE02
5H018EE03
5H018EE04
5H018EE05
5H018EE08
5H018HH02
5H018HH05
5H018HH10
5H032AA01
5H032AS01
5H032AS02
5H032AS12
5H032BB10
5H032CC11
5H032EE11
5H032EE15
5H032HH01
5H032HH04
(57)【要約】
【課題】放電容量が向上された空気電池の正極に用いる炭素多孔体の製造方法を提供する。
【解決手段】炭素質粒子、バインダー、及び溶剤を、音響共振ミキサーで混合して混合物を作製すること、前記混合物を基材に塗布してシートにすること、及び前記シートを炭素化すること、を含む、空気電池正極用の炭素多孔体の製造方法を採用する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素質粒子、バインダー、及び溶剤を、音響共振ミキサーで混合して混合物を作製すること、
前記混合物を基材に塗布してシートにすること、及び
前記シートを炭素化すること、
を含む、空気電池正極用の炭素多孔体の製造方法。
【請求項2】
前記炭素質粒子のBET比表面積が800m/g以上である、請求項1に記載の空気電池正極用の炭素多孔体の製造方法。
【請求項3】
前記混合物中の溶剤以外の成分(非揮発成分)の総量に対する炭素質粒子の割合を50質量%以上とする、請求項1又は2に記載の空気電池正極用の炭素多孔体の製造方法。
【請求項4】
前記混合物に、さらに炭素質繊維を含有させる、請求項1~3のいずれか1項に記載の空気電池正極用の炭素多孔体の製造方法。
【請求項5】
前記音響共振ミキサーでの混合を20G(196m/s)以上の加速度で行う、請求項1~4のいずれか1項に記載の空気電池正極用の炭素多孔体の製造方法。
【請求項6】
前記音響共振ミキサーでの混合を1分以上行う、請求項1~5のいずれか1項に記載の空気電池正極用の炭素多孔体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気電池の正極に用いる炭素多孔体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空気電池は、正極活物質として空気中の酸素を用い、負極活物質として金属を用いた電池であって、金属空気電池とも呼ばれ、燃料電池の一種と位置付けられている電池である。その一例として、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な金属又は化合物を負極活物質として用いたリチウム空気電池がある。リチウム空気電池における各電極での反応は、次式で表される。
【0003】
【数1】
【0004】
空気電池では、正極活物質が空気中の酸素であり、これを電池の外部から取り込むことができる。これは、正極活物質の供給源を電池内に配置する必要がないことを意味するため、空気電池は、原理的に小型・軽量化に適したものといえる。また、正極活物質を外部から取り込めることは、利用可能な正極活物質の量が制限されないことも意味するため、空気電池は、原理的に高容量化、高エネルギー密度化に適するものともいえる。
【0005】
空気電池の正極には、取り扱いの容易さ、コスト、性能の観点から多孔質の炭素材料が用いられるが、現状の空気電池は、高エネルギー密度のポテンシャルが十分引き出されていない。その原因の一つとして、正極容量がまだ十分ではないことが挙げられる。空気電池は放電過程において、負極より移動してくる金属イオン、正極活物質である酸素、さらには正極内を流れる電子が反応し、正極表面に酸素を含む金属化合物が析出する反応である。したがって、前記反応の反応場を増加させて、換言すれば正極の比表面積を増加させて、高容量化を実現するために、正極に用いる多孔質の炭素材料の製造方法について、種々の工夫がなされてきた。
【0006】
特許文献1には、炭素原料をアルカリ処理する賦活工程、及び前記賦活工程後の前記炭素原料を超音波処理する超音波処理工程により、従来の炭素材料よりも酸素還元反応の反応起点が多く、比表面積が大きい空気電池の空気極用炭素材料を製造することが記載されている(請求項1、段落[0016])。具体的には、前記炭素原料としてケッチェンブラック(登録商標)を用いること(段落[0069])、及び、前記空気極用炭素材料をバインダーと混合し、溶媒を加え、ロールプレス圧延し、乾燥させて空気極(正極)を作製することが記載されている(段落[0081])。
【0007】
また、特許文献2には、炭素を含む多孔質体を含む空気電池用正極の製造方法について、炭素を含む導電性粒子および造孔剤を乾式で粉砕しながら混合する第1工程と、前記第1工程で得られた混合物に高分子樹脂、界面活性剤、および水を加えて、混練、分散を行う第2工程と、前記第2工程で得られた混練物を圧延してシート状に成形する第3工程と、前記第3工程で得られたシート状成形品を焼成するとともに、前記造孔剤を昇華させて空孔を形成する第4工程と、前記第4工程で得られた焼成品を再圧延して厚みを調整する第5工程と、を含むことが記載されている(請求項4)。具体的には、前記炭素を含む導電性粒子としてのケッチェンブラック(登録商標)と造孔材としてのフマル酸とをジェットミルで混合した混合物に、純水、界面活性剤及びバインダを添加し、自転・公転ミキサーで攪拌して得た混錬物をロールプレスで圧延してシート成形し、焼成して空気電池用正極層を製造することが記載されている(段落[0111]~[0118])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2014-53271号公報
【特許文献2】特開2020-27686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1、2では、正極形成用の混合物をロールプレスにより成形するため、プレス圧により炭素粒子間の細孔が潰れて細孔容積が減少し、大きな比表面積を有する正極を得ることが困難であった。
大きな比表面積を有する正極を得るためには、炭素原料を溶剤に分散した塗料の塗布工程を経てシート化した炭素多孔体からなる正極層と、酸素流路兼正極集電体とを一体化する方法の採用が好ましい。塗布工程によりシート化するためには、適切な流動性を有する塗料が必要である。ところが、反応場である正極層の比表面積を大きくするために、炭素原料として比表面積が大きい導電性カーボンブラックを用いると、その大きな比表面積に起因して塗料の粘度が高くなり、塗布に好適な流動性を得ることが困難となる。このように、高容量の空気電池を得るために、比表面積の大きい導電性カーボンブラックを用いようとすると、塗料化が困難になる。このため、炭素原料として高比表面積であるケッチェンブラック(登録商標)を用いる場合には、特許文献1、2のように、炭素原料、バインダー、及び溶剤の混錬物を、塗布工程ではなく、ロールプレス等の圧延工程によって正極層をシート化せざるを得なかった。
一方、粘度の低い塗料を得るためには溶剤を用いて希釈する方法もあるが、多量の溶剤を必要とすることからコスト、歩留まり、環境負荷の観点から好ましくない。また、単純に粘度を下げるだけでは、塗料中の導電性カーボンブラックが凝集してその分散が不十分となることで、導電性カーボンブラックの持つ高比表面積の特徴を活かせず、空気電池の高容量化を望めなくなるという問題もあった。
【0010】
そこで、本発明は、高い比表面積を有し、放電容量が向上された空気電池を得ることが可能な、空気電池正極用の炭素多孔体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、前記課題を解決するために種々の検討を行ったところ、原料の混合に音響共振ミキサーを使用することで、塗布に好適な粘度を有する混合物が得られ、該混合物を用いて製造した炭素多孔体の比表面積が大きくなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、前記課題を解決するための本発明の一実施形態は、炭素質粒子、バインダー、及び溶剤を、音響共振ミキサーで混合して混合物を作製すること、前記混合物を基材に塗布してシートにすること、及び前記シートを炭素化すること、を含む、空気電池正極用の炭素多孔体の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、高い比表面積を有し、放電容量が向上された空気電池を得ることが可能な、空気電池正極用の炭素多孔体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態における空気電池の構造を示す断面模式図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の構成及び作用効果について、技術的思想を交えて説明する。但し、作用機構については推定を含んでおり、その正否は、本発明を制限するものではない。また、以下の本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)における構成要素のうち、最上位概念を示す請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。なお、数値範囲の記載(2つの数値を「~」でつないだ記載)については、下限及び上限として記載された数値をも含む意味である。
【0016】
[混合物の成分及びその配合量]
本発明の一実施形態に係る炭素多孔体の製造方法(以下、単に「本実施形態」と記載することがある)では、炭素質粒子、バインダー、及び溶剤を含む混合対象物質を混合して混合物を得る。以下、混合物の各成分及びその配合量について説明する。
【0017】
炭素質粒子としては、その表面が正極における電極反応の反応場となることから、比表面積が大きく、かつ電子電導性に優れたものを使用する。好適に使用される炭素質粒子としては、ケッチェンブラック(登録商標)等の導電性カーボンブラック、及びテンプレート法にて形成された炭素粒子等が例示される。炭素質粒子の比表面積は、BET法にて測定した値が800m/g以上であることが好ましく、1000m/g以上であることがより好ましい。比表面積の上限値は特に限定されず、大きいほど好ましいが、通常入手可能なもののBET比表面積は、概ね2000m/g以下である。
【0018】
炭素質粒子の配合量は、特に限定されるものではないが、空気電池の正極を形成した際には、その表面が電極反応の反応場となることから、所期の特性が得られる範囲内で極力多くすることが好ましい。具体的には、混合物中の溶剤以外の成分(非揮発成分)の総量に対して50質量%以上とすることが好ましく、55質量%以上とすることがより好ましく、60質量%以上とすることがさらに好ましく、65質量%以上とすることが最も好ましい。他方、混合物を塗布して形成されるシートの強度及び保形性を十分なものとする点からは、混合物中の非揮発成分の総量に対して85質量%以下とすることが好ましく、80質量%以下とすることがより好ましく、75質量%以下とすることがさらに好ましい。
【0019】
バインダーとしては、後述するシートを形成した際に、該シートを構成する成分同士を結着し、その形状を保持できるものであれば特に限定されない。使用可能なバインダーとしては、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリフッ化ビニリデンを挙げることができる。
【0020】
バインダーの配合量は、特に限定されるものではないが、混合物を塗布して形成されるシートの強度及び保形性を十分なものとする点からは、混合物中の非揮発成分の総量に対して5質量%以上とすることが好ましく、10質量%以上とすることが好ましく、15質量%以上とすることがさらに好ましい。他方、混合物から製造される正極を、高容量のものとする点からは、混合物中の非揮発成分の総量に対して50質量%以下とすることが好ましく、45質量%以下とすることがより好ましく、40質量%以下とすることがさらに好ましい。
【0021】
溶剤としては、他の材料を分散させて、塗布に好適な粘度を有する混合物を組成できると共に、塗布後の乾燥により揮発して安定した形状のシートが得られるものであれば特に限定されない。使用可能な溶剤としては、例えば、N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMA)等を挙げることができる。
【0022】
溶剤の配合量は、特に限定されるものではないが、混合物を塗布した後に除去される成分であるため、混合物が所期の粘度となる範囲内で極力少なくすることが好ましい。具体的には、乾燥(溶剤除去)前の混合物の質量に対する乾燥後の混合物の質量割合であるNv値が8%以上となる量とすることが好ましく、10%以上となる量とすることがより好ましい。他方、混合物を、塗布可能な粘度を有する均一性の高いものとする点からは、溶剤の配合量は、Nv値が20%以下となる量とすることが好ましく、18%以下となる量とすることがより好ましく、15%以下となる量とすることがさらに好ましい。
【0023】
混合物には、後述するシートの強度を増大させると共に、取り扱い性に優れる自立したシートとするために、炭素繊維を含有させてもよい。この場合に使用する炭素繊維としては、繊維径が0.1μm以上20μm以下、長さが1mm以上20m以下のものが例示される。
【0024】
混合物に炭素繊維を含有させる場合、その含有量は特に限定されるものではないが、シートに十分な強度と自立性とを付与する点からは、混合物中の非揮発成分の総量に対して1質量%以上とすることが好ましく、3質量%以上とすることがより好ましく、5質量%以上とすることがさらに好ましい。他方、混合物から製造される正極を、高容量のものとする点からは、混合物中の非揮発成分の総量に対して15質量%以下とすることが好ましく、10質量%以下とすることがより好ましい。
【0025】
[混合工程]
本実施形態では、炭素質粒子、バインダー、及び溶剤が音響共振ミキサーを用いて混合される。
比表面積が大きい炭素質粒子を多量に含む混合物は、粘度が極めて高いため、プラネタリーミキサーのような汎用混合装置では、高い均一性、及び塗布によりシートを形成可能な粘度が両立するものとすることが困難であった。しかし、本実施形態においては、音響共振ミキサーを使用することによって、混合物中の炭素質粒子、バインダー及び溶剤の分布の均一性が高まり、塗布が可能な程度にまで粘度を低下させることが可能となる。そして、この混合物を塗布してシート化、炭素化することにより、高容量の空気電池用正極を作製することが可能となる。
【0026】
音響共振ミキサーは、音響共振エネルギーを利用した混合装置である。音響共振エネルギーを利用した混合の原理は、混合対象物質に対して音響振動を与えてこれを振動させ、当該音響振動の周波数にて共振を発生させることで、混合対象物質及びこれを収容した容器を含む混合系全体に均一なせん断力(せん断力場)を発生させて混合するものである。なお、混合対象物質に対して同様に振動を与える超音波処理は、液体内に気泡を発生させ、その気泡の破裂によって生じる衝撃波を利用するものであり、音響共振エネルギーを利用する混合とは原理的に異なるものである。また、超音波処理は、付与する振動が高周波であるため波の減衰が大きく、大きな混合系や粘度の高い混合対象物質に対する有効性が低いため、作用効果の点でも音響共振エネルギーを利用する混合とは異なるものである。音響共振ミキサーでは、音響振動の周波数を一定とすることで振動の加速度(G)、換言すればミキシングの衝撃度のみを制御対象パラメータとすることができ、加速度を大きくするほど大きな分散エネルギーを発生させることができる。
音響共振ミキサーの一例として、アルテック株式会社製の低周波音響共振ミキサー LabRAM IIを挙げることができる。
【0027】
音響共振ミキサーでの混合条件は、混合対象物質に付与する音響振動の周波数を50~70Hzとし、20G(196m/s)以上の加速度で混合を行うことが好ましい。より大きな分散エネルギーを発生させて混合を促進する点からは、混合の加速度は、30G(294m/s)以上とすることがより好ましく、40G(392m/s)以上とすることがさらに好ましい。加速度の上限値は特に限定されるものではないが、通常使用可能な装置においては概ね100G(980m/s)以下である。また、混合時間は、均一性の高い混合物を得る点からは、1分間以上とすることが好ましい。他方、短時間で混合を終えて生産性を高める点からは、5分間以内とすることが好ましい。
【0028】
本実施形態においては、音響共振ミキサーでの混合に先立って、炭素質粒子、バインダー、及び溶剤、並びに必要に応じて添加される炭素繊維を含む混合対象物質を、自転・公転ミキサー等を用いて予備分散してもよい。使用可能な予備分散装置としては、株式会社シンキー製のあわとり練太郎(登録商標)が例示される。予備分散は、例えば、バインダーと炭素繊維とを含む溶剤を一次予備分散し、これに炭素質粒子を加え、Nv値を適宜調整した後、二次予備分散する等、複数回に分けて行ってもよい。
【0029】
本実施形態では、音響共振ミキサーを混合手段に用いることで、比表面積の大きい炭素質粒子を多量に含む混合対象物質であっても、均一性が高く、塗布に好適な粘度を有する混合物を得ることができる。
【0030】
[シート化工程]
本実施形態では、音響共振ミキサーで混合された混合物を基材に塗布してシート状に成型する。シート化の方法としては、例えば、ドクターブレード等を用いた湿式製膜法を挙げることができる。このほか、ロールコーター法、ダイコーター法、スピンコート法、スプレーコーティング法などを採用してもよい。シート状に成型された混合物は、目的に応じて様々な形状に加工してもよい。
【0031】
シート状に成型された混合物は、バインダーの溶解度が低い溶媒中に浸漬し、バインダーの濃厚相と希薄相とが相分離する非溶媒誘起相分離法にて、多孔膜化してもよい。前記溶媒としては、例えば、水、エチルアルコール、メチルアルコール、及びイソプロピルアルコールなどのアルコール、並びにこれらの混合溶媒などを挙げることができる。
【0032】
シート状に成型された混合物、又はこれに非溶媒誘起相分離法を適用して多孔膜としたシートは、乾燥により溶媒が揮発除去される。前記溶媒を揮発させるための乾燥方法としては、乾燥空気環境下に置く方法、減圧乾燥法、真空乾燥法などを挙げることができる。この乾燥に際しては、乾燥速度を速めるために、前記溶媒の沸点を超える程度の温度までシートを加温してもよい。
【0033】
[炭素化工程]
本実施形態では、成型により得られたシートを焼成して炭素化する。焼成は、例えばオーブン炉、赤外線照射炉などを用いて行うことができる。焼成の温度は800℃以上1400℃以下が好ましく、そのときの雰囲気はアルゴン(Ar)ガス、窒素(N)ガスなどの不活性雰囲気が好ましい。焼成工程は一度の熱処理とすることもできるが、不融化と焼成の二段階熱処理とすることもできる。例えば、バインダーとしてPANを用いた場合は、不融化を約300℃の空気中にて行い、その後、Arガス、Nガスなどによる不活性雰囲気中にて800℃以上1400℃以下の熱処理を行うことが好ましい。
以上の工程により製造された炭素多孔体は、高い空気透過性、高いイオン輸送効率及び広い反応場を兼ね備える。さらに、炭素繊維を含む場合には、自立するのに十分で実用的な機械的強度を有する。
【0034】
[空気電池]
本実施形態により得られる炭素多孔体は、空気電池の正極を構成する。
以下、図1を参照して、本実施形態により得られる炭素多孔体が正極を構成する空気電池について、リチウム空気電池を例にとって説明する。空気電池100は、正極101と負極105とがセパレータ108を介して積層された積層構造体からなり、この積層構造体はスプリング114を介して、ガラスプレート109及びステンレス板110により拘束されている。以下、空気電池100の各構成について詳述する。
【0035】
(正極)
正極101は、正極層102、酸素流路兼正極集電体103、及び正極リード104から構成される。
正極層102は、本実施形態により得られる炭素多孔体で構成される。
前記酸素流路兼正極集電体103は、酸素が透過でき、また集電機能を有するものであれば限定されない。後述の実施例では、燃料電池のガス拡散層に使用されているカーボンペーパー(TGP-060、東レ株式会社製)を使用した。しかし、酸素が透過でき、かつ集電機能を有すれば、カーボンペーパーに限らず、例えば、銅(Cu)、タングステン(W)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)の群から選ばれる金属を有するメッシュなどを使用することができる。
正極リード104は、その一端が酸素流路兼正極集電体103に取り付けられ、他端は外部回路(図示せず)に接続される。
【0036】
(負極)
負極105は、通常空気電池に用いられる負極をそのまま使用できる。一例として、負極集電体107と、その上に付与されたリチウムを吸放出する金属もしくは合金を含有する負極活物質層106とからなる構造体を挙げることができる。負極活物質層106としては、代表的にはリチウム金属からなる材料を挙げることができる。また、負極集電体107としては、例えば銅箔を用いることができる。
【0037】
(セパレータ)
正極101と負極105の間にはセパレータ108が配置される。セパレータ108としては、リチウムイオンが通過可能であり、多孔質構造を有する絶縁性材料で、かつ、正極層102、負極活物質層106、および電解液との反応性を有さない有機材料が用いられる。また、セパレータ108は、後述する電解液を保液する役割も果たす。好適なセパレータ108として、ポリオレフィン樹脂からなる熱溶融性の微多孔膜、例えばポリエチレン製の微多孔膜が挙げられるが、これに限定されるものではない。セパレータ108は、正極層102と負極活物質層106との間の短絡を防ぐために、正極層102及び負極活物質層106よりも大きなサイズにすることが好ましい。
【0038】
(電解液)
電解液は、リチウムイオンを電解質とするものを用いる場合には、後述する非水溶媒にリチウム塩を溶解させた非水電解液とする。リチウム塩としては、LiPF、LiBF、LiSbF、LiSiF、LiAsF、LiN(SO、Li(FSON、LiCFSO(LiTfO)、Li(CFSON(LiTFSI)、LiCSO、LiClO、LiAlO、LiAlCl、LiB(C等が例示される。
【0039】
非水電解液の非水溶媒は、グライム類(モノグライム、ジグライム、トリグライム、テトラグライム)、メチルブチルエーテル、ジエチルエーテル、エチルブチルエーテル、ジブチルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、シクロヘキサノン、ジオキサン、ジメトキシエタン、2-メチルテトラヒドロフラン、2,2-ジメチルテトラヒドロフラン、2,5-ジメチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロフラン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸ジメチル、メチルプロピオネート、エチルプロピオネート、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ポリエチレンカーボネート、γ-ブチロラクトン、デカノリド、バレロラクトン、メバロノラクトン、カプロラクトン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、ニトロメタン、ニトロベンゼン、トリエチルアミン、トリフェニルアミン、テトラエチレングリコールジアミン、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホン、トリエチルホスフィンオキシド、1,3-ジオキソラン及びスルホランからなる群から選択することができる。
【0040】
(外装)
図1に示す空気電池100は、正極層102及び負極活物質層106の形状がそれぞれ正方形であるリチウム空気電池であり、外装体として上下一組のガラスプレート109、上下一組のステンレス板110、並びに各4個の固定ねじ111、固定用座金112、支柱113、スプリング114、及びスペーサ115を備える。
ガラスプレート109は、、正極101と負極105とがステンレス板110及び支柱113を通じて短絡することを防ぐ絶縁体として機能している。
下側ステンレス板110のコーナー部4か所は、円柱状の4本の支柱113と予め接合されている。また、上側のステンレス板には、各支柱113に相対する位置に、各支柱113が通る穴が開けられている。
正極101、セパレータ108、負極105及び2枚のガラスプレート109は、ステンレス板110にて上下から挟み込まれている。このとき、上側に位置するステンレス板110の四隅の穴を支柱113が下から突き抜け、支柱113の突き抜けた部分に通されたスペーサ115、スプリング114及び固定用座金112を挟み込むように、支柱113に切られた雄ねじに固定ねじ111が螺合して固定されている。固定ねじ111の締め付け度合いによりステンレス板110の間にかかる圧力を制御することができる。
【0041】
(電池の組立方法)
空気電池100の組立は、以下のように行う。まず、正極101、セパレータ108、負極105、及び2枚のガラスプレート109を、正極リード104と負極集電体107とが反対方向に引き出されるように配置してステンレス板110にて上下から挟み込む。このとき、上側ステンレス板110の4隅の穴に支柱113を通して挟み込むようにする。次いで、上側に位置するステンレス板110の穴を通じて突き抜けた支柱113に、スペーサ115、スプリング114及び固定用座金112をそれぞれ通す。次いで、支柱113に切られた雄ねじに固定ねじ111(雌ねじ)を螺合する。最後に、固定ねじ111の締め付け度合いを調節することにより、ステンレス板110の間にかかる圧力を13~14N/cmに調整する。
ここで、リチウム空気電池の組立は、乾燥空気下、例えば露点温度-50℃以下の乾燥空気下で行うことが好ましい。以上の工程により、空気電池100が製造される。
【0042】
以上、リチウム空気電池について詳述したが、本発明は、リチウム空気電池に限らず、任意の金属空気電池に適用できる。
【実施例0043】
以下、本実施形態に係る炭素多孔体の製造方法、及びこれにより得られる炭素多孔体を正極に用いた空気電池について、実施例により詳細に説明するが、本実施形態はこれらに限定されるものではない。
【0044】
<実施例1>
[炭素多孔体の作製及びその比表面積測定]
まず、バインダーとしてポリアクリロニトリル(PAN)を用い、これを溶剤としてのジメチルスルホキシド(DMSO)に10質量%になるよう溶解し、PANのDMSO溶液(PAN溶液)を作製した。
次いで、繊維平均径7μm、平均長さ3mmの炭素繊維(東レ株式会社製、トレカ(登録商標)カットファイバー、T010-003)を、炭素繊維と前記PAN溶液中のPANとの質量比が9:23になるように秤量して前記PAN溶液に加え、自転・公転ミキサー(株式会社シンキー製、あわとり練太郎 ARE-310(以後、「あわとり練太郎」と表記))を用いて、2000rpmにて2分間混合した。
次いで、炭素質粒子としてケッチェンブラック(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製、EC600JD)(比表面積1270m/g)を用い、前記炭素繊維とケッチェンブラックとの質量比が9:68となるように秤量して前記混合物に加え、さらに前記混合物のNv値が11%になるようにN-メチルピロリドンを加えて希釈した。この混合物を再びあわとり練太郎を用いて2000rpmにて2分間混合して、予備分散塗料とした。
次いで、前記予備分散塗料を、音響共振ミキサー(アルテック株式会社製、LabRAM II)を用いて、加速度40Gにて1分間混合して、正極用塗料を調製した。塗料に含まれる非揮発成分中の各成分の割合は、炭素質粒子68質量%、炭素繊維9質量%、バインダー23質量%である。
次いで、前記正極用塗料を、ドクターブレードを用いた湿式製膜法にてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製の基材上に均一な厚みに塗布してシート状にした。成形後のシートを、メタノール(バインダーに対する貧溶媒)中に浸漬して、非溶媒誘起相分離法により多孔質膜化した。
次いで、多孔質膜化したシートから溶媒を取り除くため、50~80℃で10時間以上の乾燥処理を行った後、引き続き大気中にて280℃、3時間の不融化熱処理を行った。
最後に、真空置換した後窒素ガス雰囲気とした焼成炉にて、1050℃、3時間の焼成を行い、長さ140mm、幅100mm、厚さ200μmの炭素多孔体を得た。
【0045】
得られた炭素多孔体について、直径20nm~1μmの細孔の比表面積を測定・算出した。具体的な手順としては、前記炭素多孔体を多検体高性能比表面積/細孔分布測定装置(3Flex)(Micromeritics Instrument Corp.製)にセットし、窒素吸着法により得られた吸着等温線から、BJH法により、直径20nm~1μmの細孔の比表面積を算出した。その結果、比表面積は111.8m/gであった。
【0046】
[正極の作製]
得られた炭素多孔体から20mm×20mmの正方形を切り出して、正極層102とした。
他方、酸素流路兼正極集電体103として、カーボンペーパー(TGP-060、東レ株式会社製)を25mm×20mmの矩形に切り出し、その短辺の一つに正極リード104を取り付けた。
そして、この正極層102と酸素流路兼正極集電体103とを、後述するセル組立において積層することで、正極101とした。
【0047】
[負極の作製]
負極活物質層106は、厚み100μmのリチウム箔を20mm×20mmの正方形に切り出して作製した。
負極集電体107は、厚み12μmの銅箔を60mm×20mmの矩形に切り出して作製した。
そして、負極活物質層106の3辺が負極集電体107の3辺に重なるように貼り合わせることで、負極105を作製した。
【0048】
[電解液の調製]
電解液は、0.5mol/LのLi(CFSON(LiTFSI)、0.5mol/LのLiNO、及び0.2mol/LのLiBrの3種類の電解質を、テトラグライム(TEGDME)溶媒に溶解して得た。
【0049】
[セパレータの作製]
セパレータ108は、W-SCOPE社製のポリエチレン微多孔膜(厚み20μm)を22mm×22mmの正方形に切り出して得た。
【0050】
[セル組立]
空気電池100の組立は、露点温度-50℃以下の乾燥空気下で、以下の手順で行った。
まず、負極105の負極活物質層106の上に、セパレータ108を、それぞれの正方形の幾何学的な重心が重なるように配置し、前記電解液15μL(3.75μL/cm)をセパレータ108に充填した。
次いで、セパレータ108の上に正極層102を、それぞれの正方形の幾何学的な重心が重なるように載置し、前記電解液72μL(18μL/cm)を正極層102に充填した。その後、酸素流路兼正極集電体103を、正極リード104が取り付けられた辺以外の3辺が、正極層102の3辺と重なるように積層した。
最後に、得られた積層体を、ガラスプレート109とステンレス板110とにより挟み込んで拘束し、スペーサ115及びスプリング114を介在させて固定用座金112及び固定ねじ111で固定した。このとき正極101、負極105、及びセパレータ108に13~14N/cmの圧力が印加されるように固定ねじ111で調整し、空気電池100を得た。
【0051】
[空気電池の放電容量測定]
得られた空気電池100について、東洋システム株式会社製の充放電評価装置(TOSCAT―3100)を用いて放電容量の測定を行った。印加電流は電極面積当たり0.4mA/cmの電流密度(4cmの電極を持つセルに対し1.6mA)とし、2.0Vのカットオフ電圧に達するまで放電試験を行い、容量を測定した。得られた放電容量を、電池の組み立てに先立って測定しておいた炭素多孔体の質量で割ることで、正極質量あたりの放電容量を算出した。その結果、放電容量は、4148mAh/gであった。
【0052】
<実施例2~4>
[炭素多孔体の作製及びその比表面積測定]
音響共振ミキサーによる混合時間を、2分間(実施例2)、3分間(実施例3)、及び5分間(実施例4)とした以外は実施例1と同様の方法で、実施例2~4に係る炭素多孔体をそれぞれ作製した。
【0053】
得られた各炭素多孔体について、実施例1と同様の方法で直径20nm~1μmの細孔の比表面積を測定・算出したところ、実施例2に係る炭素多孔体が107.9m/g、実施例3に係る炭素多孔体が112.0m/g、実施例4にかかる炭素多孔体が113.8m/gであった。
【0054】
[空気電池の作製及びその放電容量測定]
得られた各炭素多孔体から、実施例1と同様の方法で空気電池100をそれぞれ作製し、正極質量あたりの放電容量を測定・算出したところ、実施例2に係る空気電池が4689mAh/g、実施例3に係る炭素多孔体が3958mAh/g、実施例4にかかる炭素多孔体が4248mAh/gであった。
【0055】
<実施例5>
[炭素多孔体の作製及びその比表面積測定]
音響共振ミキサーによる混合の加速度を80Gとした以外は実施例1と同様の方法で、実施例5に係る炭素多孔体を作製した。
【0056】
得られた炭素多孔体について、実施例1と同様の方法で直径20nm~1μmの細孔の比表面積を測定・算出したところ、115.0m/gであった。
【0057】
[空気電池の作製及びその放電容量測定]
得られた炭素多孔体から、実施例1と同様の方法で空気電池100を作製し、正極質量あたりの放電容量を測定・算出したところ、4431mAh/gであった。
【0058】
<実施例6~8>
[炭素多孔体の作製及びその比表面積測定]
音響共振ミキサーによる混合時間を、2分間(実施例6)、3分間(実施例7)、及び5分間(実施例8)とした以外は、実施例5と同様の方法で、実施例6~8に係る炭素多孔体を作製した。
【0059】
得られた各炭素多孔体について、実施例1と同様の方法で直径20nm~1μmの細孔の比表面積を測定・算出したところ、実施例6に係る炭素多孔体が106.7m/g、実施例7に係る炭素多孔体が106.5m/g、実施例8にかかる炭素多孔体が107.2m/gであった。
【0060】
[空気電池の作製及びその放電容量測定]
得られた各炭素多孔体から、実施例1と同様の方法で空気電池100をそれぞれ作製し、正極質量あたりの放電容量を測定・算出したところ、実施例6に係る空気電池が4333mAh/g、実施例7に係る炭素多孔体が4085mAh/g、実施例8にかかる炭素多孔体が4030mAh/gであった。
【0061】
<比較例1>
[炭素多孔体の作製及びその比表面積測定]
音響共振ミキサーによる混合を行わず、あわとり練太郎で作製した予備分散塗料を正極用塗料とした以外は実施例1と同様の方法で、比較例1に係る炭素多孔体を製造した。
【0062】
得られた炭素多孔体について、実施例1と同様の方法で直径20nm~1μmの細孔の比表面積を測定・算出したところ、99.9m/gであった。
【0063】
[空気電池の作製及びその放電容量測定]
得られた炭素多孔体から、実施例1と同様の方法で空気電池100を作製し、正極質量あたりの放電容量を測定・算出したところ、3861mAh/gであった。
【0064】
<比較例2>
音響共振ミキサーに代えて、新東工業株式会社製のスラリー分散システムであるディスパライザー(CDMX-150TH)を用いて予備分散塗料の混合を試みたこと以外は実施例1と同様に、正極用塗料の作製操作を行った。しかし、混合物の粘度が高すぎて、これを塗料とすることはできなかった。
【0065】
<比較例3>
音響共振ミキサーに代えて、アシザワ・ファインテック株式会社製の湿式メディアレス分散・乳化機であるOMEGA LABを用いて予備分散塗料の混合を試みたこと以外は実施例1と同様に、正極用塗料の作製操作を行った。しかし、混合物の粘度が高すぎて、これを塗料とすることはできなかった。
【0066】
以上に説明した実施例1~8及び比較例1について、混合の加速度及び時間、並びに得られた炭素多孔体における直径20nm~1μmの細孔の比表面積及び空気電池における正極質量あたりの放電容量を、表1にまとめて示す。
【0067】
【表1】
【0068】
表1から見て取れるように、音響共振ミキサーによる混合処理(以下、「共振混合処理」という。)を施した正極用塗料を用いて作製した炭素多孔体(実施例1~8)の比表面積はいずれも、共振混合処理を施していない正極用塗料を用いて作製した炭素多孔体(比較例1)の比表面積に比べて高い値を示している。また、共振混合処理を施した正極用塗料を用いて作製した炭素多孔体を備える正極(実施例1~8)は、空気電池とした際の単位質量あたりの放電容量が、共振混合処理を施していない正極用塗料を用いて作製した炭素多孔体を備えるもの(比較例1)よりも高い値を示している。これらの結果は、共振混合処理により正極用塗料における炭素質粒子の凝集が低減され、炭素質粒子間に存在する細孔量が増加することで、放電生成物であるLiの生成サイト(反応場)が増加したことを示していると考えられる。
【0069】
以上の結果より、本実施形態に係る炭素多孔体の製造方法によれば、比表面積の高い炭素多孔体正極が得られ、さらには前記炭素多孔体正極を用いることで、高容量な空気電池を提供することができるといえる。これは、共振混合処理の採用により、炭素質粒子の凝集が低減された、塗布に好適な粘度を有する正極用塗料が得られることによるものといえる。
【0070】
以上、本発明に係る炭素多孔体の製造方法を、主にリチウム空気電池の正極に用いる場合について述べたが、本発明は、リチウム空気電池のような非水系電解液電池に限らず、水系電解液電池に適用してもよい。また、リチウム空気電池以外の空気電池、例えばナトリウム空気電池、マグネシウム空気電池、アルミニウム空気電池にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明によれば、比表面積の大きい炭素質粒子を多量に用いた場合であっても、均一性が高く、塗布に好適な粘度を有する混合物が得られ、これを用いて比表面積の大きな炭素多孔体を製造することができるから、高容量の空気電池を提供できる点で、本発明は有用なものである。
【符号の説明】
【0072】
100 空気電池
101 正極
102 正極層
103 酸素流路兼正極集電体
104 正極リード
105 負極
106 負極活物質層
107 負極集電体
108 セパレータ
109 ガラスプレート
110 ステンレス板
111 固定ねじ
112 固定用座金
113 支柱
114 スプリング
115 スペーサ
図1