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特開2022-115137電導性組成物及び該電導性組成物を含有する成型体若しくは塗膜
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022115137
(43)【公開日】2022-08-09
(54)【発明の名称】電導性組成物及び該電導性組成物を含有する成型体若しくは塗膜
(51)【国際特許分類】
   C09D 17/00 20060101AFI20220802BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20220802BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20220802BHJP
   C09C 1/44 20060101ALI20220802BHJP
   H01B 1/24 20060101ALI20220802BHJP
   H01B 1/00 20060101ALI20220802BHJP
   H01B 5/16 20060101ALI20220802BHJP
【FI】
C09D17/00
C09D7/61
C09D201/00
C09C1/44
H01B1/24 A
H01B1/00 H
H01B5/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021011607
(22)【出願日】2021-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】599011377
【氏名又は名称】株式会社アルメディオ
(74)【代理人】
【識別番号】110002136
【氏名又は名称】特許業務法人たかはし国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】冨山 昌雄
(72)【発明者】
【氏名】加藤 典之
【テーマコード(参考)】
4J037
4J038
5G301
5G307
【Fターム(参考)】
4J037AA01
4J037CC11
4J037CC21
4J037DD05
4J037DD09
4J037FF11
4J038EA011
4J038HA026
4J038HA036
4J038KA06
4J038KA08
4J038NA20
4J038PB09
5G301DA18
5G301DA42
5G301DD01
5G301DD02
5G301DE01
5G307HA01
5G307HB01
5G307HC01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】電導性の高い「複数種類の炭素質物群を含有する電導性組成物」、それを含有してなる成型体若しくは塗膜又は塗料を提供すること。
【解決手段】以下の(1)及び「(2a)又は(2b)」の炭素質物群をベース材料中に分散状態で含有してなる電導性組成物、それを含有する成型体若しくは塗膜又は塗料。
(1)炭素繊維を粉砕して得られる「直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下の範囲」に、全体の50個数%以上が分布しているカーボンナノファイバー群
(2a)ベーサル面での最大差し渡し長さの数平均値D1及び最小差し渡し長さの数平均値D2が何れも1μm以上300μm以下であって、D1/D2が3以下であり、かつ、数平均アスペクト比[(D1+D2)/2]/dが10以上の鱗片状グラファイト群
(2b)[最大直径の数平均値L1]/[最小直径の数平均値L2]が3以下の略球状炭素粒子群
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(1)及び「(2a)又は(2b)」の炭素質物群をベース材料中に何れも分散状態で含有してなるものであることを特徴とする電導性組成物。
(1)炭素繊維を粉砕して得られる「直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下の範囲」に、カーボンナノファイバー全体の50個数%以上が分布しているカーボンナノファイバー群
(2a)鱗片状グラファイトのベーサル面での最大差し渡し長さの数平均値をD1、最小差し渡し長さの数平均値をD2としたとき、D1及びD2が何れも1μm以上300μm以下であって、D1/D2が3以下であり、かつ、鱗片状グラファイトの数平均厚さをdとしたときに、数平均アスペクト比[(D1+D2)/2]/dが10以上の鱗片状グラファイト群
(2b)略球状炭素粒子の最大直径の数平均値をL1、最小直径の数平均値をL2としたとき、L1/L2が3以下の略球状炭素粒子群
【請求項2】
電導性組成物全体に対して、前記(1)カーボンナノファイバー群[A×r]質量%と、「前記(2a)鱗片状グラファイト群及び/又は前記(2b)略球状炭素粒子群」「B×(1-r)」質量%(rは0より大きく1より小さい実数である)とを、該ベース材料に共分散させることによって、
前記(1)カーボンナノファイバー群のみをA質量%分散させた組成物より電導度を高くし、かつ、
「前記(2a)鱗片状グラファイト群及び/又は前記(2b)略球状炭素粒子群」のみをB質量%分散させた組成物より電導度を高くしてなる請求項1に記載の電導性組成物。
【請求項3】
前記(1)カーボンナノファイバー群に含有されているカーボンナノファイバーの数平均アスペクト比が3以上200以下である請求項1又は請求項2に記載の電導性組成物。
【請求項4】
前記(1)カーボンナノファイバー群に含有されているカーボンナノファイバーの数平均直径が30nm以上1000nm以下であり、かつ、数平均長さが0.2μm以上70μm以下である請求項1ないし請求項3の何れかの請求項に記載の電導性組成物。
【請求項5】
前記(1)カーボンナノファイバー群が、炭素繊維を数平均長さが100μm以下になるまで乾式粉砕をした後に、湿式粉砕をすることによって得られるものである請求項1ないし請求項4の何れかの請求項に記載の電導性組成物。
【請求項6】
前記(1)カーボンナノファイバー群が、前記ベース材料中で、実質的に1本ずつの分散状態になっている請求項1ないし請求項5の何れかの請求項に記載の電導性組成物。
【請求項7】
前記(1)カーボンナノファイバー群が、ピッチ系炭素繊維を原料とし、乾式粉砕をした後に湿式粉砕をすることによって得られるものである請求項1ないし請求項6の何れかの請求項に記載の電導性組成物。
【請求項8】
「前記(1)カーボンナノファイバー群の原料である前記ピッチ系炭素繊維が有するフィラメント」を構成する素フィラメントの数平均厚さ又は数平均太さが、10nm以上200nm以下である請求項7に記載の電導性組成物。
【請求項9】
「前記(1)カーボンナノファイバー群の原料である前記ピッチ系炭素繊維が有するフィラメント」を構成する素フィラメントが2本以上20本以下の範囲で集合して前記カーボンナノファイバー群のカーボンナノファイバーが構成されている請求項7又は請求項8に記載の電導性組成物。
【請求項10】
前記(1)カーボンナノファイバー群の原料である前記ピッチ系炭素繊維が、メソフェーズピッチ系炭素繊維である請求項7ないし請求項9の何れかの請求項に記載の電導性組成物。
【請求項11】
前記メソフェーズピッチ系炭素繊維が、ランダム型メソフェーズピッチ系炭素繊維である請求項10に記載の電導性組成物。
【請求項12】
前記(1)カーボンナノファイバー群が、粉砕前の原料である炭素繊維に混在する混在樹脂を実質的に有さないものである請求項1ないし請求項11の何れかの請求項に記載の電導性組成物。
【請求項13】
前記(1)カーボンナノファイバー群が、乾式粉砕をした後に湿式粉砕をすることによって得られるものであり、該乾式粉砕と該湿式粉砕の間に加熱処理を行うことで、原料に混在する混在樹脂が除去されたものである請求項1ないし請求項12の何れかの請求項に記載の電導性組成物。
【請求項14】
前記(1)カーボンナノファイバー群が、乾式粉砕をした後に湿式粉砕をすることによって得られるものであり、該湿式粉砕が、界面活性剤が存在している水系媒体中で行うビーズミル粉砕又はボールミル粉砕である請求項1ないし請求項13の何れかの請求項に記載の電導性組成物。
【請求項15】
前記(1)カーボンナノファイバー群の体積抵抗率が7×10-4Ω・cm以下のものである請求項1ないし請求項14の何れかの請求項に記載の電導性組成物。
【請求項16】
前記(2a)鱗片状グラファイト群の数平均厚さdが3nm以上1000nm以下である請求項1ないし請求項15の何れかの請求項に記載の電導性組成物。
【請求項17】
前記(2a)鱗片状グラファイト群、又は、前記(2b)略球状炭素粒子群を、前記炭素質物群全体に対して、5質量%以上70質量%以下で含有する請求項1ないし請求項16の何れかの請求項に記載の電導性組成物。
【請求項18】
前記(2a)鱗片状グラファイト群、又は、前記(2b)略球状炭素粒子群を、前記炭素質物群全体に対して、10質量%以上50質量%以下で含有する請求項1ないし請求項17の何れかの請求項に記載の電導性組成物。
【請求項19】
前記ベース材料が、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、熱可塑性ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、アクリロニトリルスチレン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、(変性)ポリフェニレンエーテル、ポリエステル、環状ポリオレフィン、ポリフェニレンスルファイド、ポリテトラフロロエチレン、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリアリレート、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性ポリイミド、及び、ポリアミドイミドからなる群より選ばれた1種以上の熱可塑性樹脂;又は;フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂(ウレア樹脂)、不飽和ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、熱硬化性ポリウレタン、及び、熱硬化性ポリイミドからなる群より選ばれた1種以上の熱硬化性樹脂である請求項1ないし請求項18の何れかの請求項に記載の電導性組成物。
【請求項20】
請求項1ないし請求項19の何れかの請求項に記載の電導性組成物を含有してなるものであることを特徴とする成型体。
【請求項21】
請求項1ないし請求項19の何れかの請求項に記載の電導性組成物を含有してなるものであることを特徴とする塗膜。
【請求項22】
請求項1ないし請求項19の何れかの請求項に記載の電導性組成物と液体分散媒とを含有してなるものであることを特徴とする塗料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素質物がベース材料中に分散状態で含有されてなる電導性組成物に関し、詳細には、異なる形状の炭素質物群を併用することで電導度を上げた電導性組成物、該電導性組成物を含有してなる成型体若しくは塗膜又は電導性組成物形成用塗料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維や、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)(carbon fiber reinforced plastics)は、軽量であり、強靭さとしなやかさを合わせ持っているため、金属の代替等として種々の成形品に多く利用されている。
中でも最も短い炭素繊維は、ミルドファイバーとも言われ、一般には平均繊維長は70μm~200μmであり、平均繊維径は約3μm~20μm(3000nm~20000nm)であり、その形状(サイズ)の小ささから、研磨剤、補強・補助剤等に利用されることが多い。
【0003】
ミルドファイバーより長い平均繊維長を持つチョップドファイバーや長繊維は、プリプレグ、フォージド等の成型品に用いられることが主流である。
また、これ以外のサイズとして、ミルドファイバーを更に粉砕し、繊維長を短くした微粒CFRPは、例えばコンクリートの補強材等に利用されている。
しかし、これらは、短くなるほど加工性が難しくなり、粉砕された後も凝集し易くなることから、良分散が要求される分野には、現在のところ利用価値は少ない。
【0004】
炭素繊維の実際の分散性(1本1本の存在性)や、該炭素繊維の利用価値から離れて、単純にその形状(サイズ)から定義すると、現在の一般的定義では、「直径3μm~10μm、長さ500μm~10000μmと定義されているカーボンファイバー」;「直径50nm~1000nm、長さ0.2μm~200μmのカーボンナノファイバー」;「直径0.4nm~100nm、長さ50nm~20000nmのカーボンナノチューブ」が知られている。
【0005】
炭素繊維の直径やアスペクト比が記載された文献はあるが(例えば、特許文献1、2)、現在のところ、本発明における「(1)カーボンナノファイバー群」のように、形状(サイズ)が実際に小さく、特にアスペクト比が非常に大きく、かつ、略1本ずつ単離(分離)可能な状態になっているか、又は、略1本ずつ分散媒等に(安定的に)分散可能な状態になっているカーボンナノファイバー群は殆ど存在しない。
現在のところ、上記で定義される形状(サイズ)の分離・分散良好なカーボンナノファイバー群は、殆ど存在しないことに加え、該カーボンナノファイバーサイズの炭素繊維の利用度は、その分散性又は再分散性が悪い等のために極めて低いことが現状である。
【0006】
また、アスペクト比が大きいナノサイズの炭素繊維が分散している、又は、それが分散可能な状態になっているものは、少なくとも、市場には(商業的には)存在しない。その理由は、原料となる炭素繊維の粉砕時に、特異的に縦にきれいに割れる、言い換えれば、フィラメントから素フィラメントが好適に剥離させることができていないからだと考えられる。
従って、本発明における「(1)カーボンナノファイバー群」のように、アスペクト比が大きい「カーボンナノファイバー等の炭素繊維」が、安定して良分散している組成物、又は、成型体若しくは塗膜、又は、分散液若しくは塗料は知られていない。
言い換えれば、アスペクト比が大きく、分散可能で分散安定性もあるカーボンナノファイバー群は、種々の広い需要(用途)が考えられるものの、従来は良好なものは実現できていなかった。
【0007】
一方、形状の異なる炭素質物を混合使用することが知られている。
特許文献3には、鱗片状黒鉛質粒子(A)と炭素質粒子(B)を含有する「二次電池の負極用炭素材料」が記載されているが、ここでの炭素質粒子(B)は、その表面形状や表面物性に特徴があるものであり、そもそもカーボンナノファイバーではなく、サイズ的にμmオーダーのものである。
【0008】
特許文献4には、非晶性樹脂と鱗片状グラファイトと炭素繊維を含む摺動部材用樹脂組成物が記載されているが、目的は物理的な物性の向上を図ったものであり、ここでの炭素繊維は、数平均繊維径が5μm~20μmであり、そもそもカーボンナノファイバーではなかった。
【0009】
電気的性能に優れた炭素質物含有組成物、及び、それを有する成型体や塗膜や塗料が強く求められているが、優れたものは実現できておらず、開発の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2012-188790号公報
【特許文献2】特開2017-066546号公報
【特許文献3】特開2014-165018号公報
【特許文献4】特開2015-067726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、電導性の高い「形状の異なる複数種類の炭素質物群を含有する電導性組成物」、該電導性組成物を含有してなる成型体若しくは塗膜又は塗料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、特定のカーボンナノファイバー群が、今までにない程ベース材料中に好適に分散できることを見出した。
更に、特定範囲の大きさ・形状を有する該(1)カーボンナノファイバー群と、「(2a)鱗片状グラファイト群又は(2b)略球状炭素粒子群」とを併用することによって、それらがベース材料中に好適に分散されて、電導性が極めて良好になることを見出した。
また、それら少なくとも2種の炭素質物群の併用によって、何れであっても一方の単独使用に比較して電導性が上がることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、以下の(1)及び「(2a)又は(2b)」の炭素質物群をベース材料中に何れも分散状態で含有してなるものであることを特徴とする電導性組成物を提供するものである。
(1)炭素繊維を粉砕して得られる「直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下の範囲」に、カーボンナノファイバー全体の50個数%以上が分布しているカーボンナノファイバー群
(2a)鱗片状グラファイトのベーサル面での最大差し渡し長さの数平均値をD1、最小差し渡し長さの数平均値をD2としたとき、D1及びD2が何れも1μm以上300μm以下であって、D1/D2が3以下であり、かつ、鱗片状グラファイトの数平均厚さをdとしたときに、数平均アスペクト比[(D1+D2)/2]/dが10以上の鱗片状グラファイト群
(2b)略球状炭素粒子の最大直径の数平均値をL1、最小直径の数平均値をL2としたとき、L1/L2が3以下の略球状炭素粒子群。
【0014】
また、本発明は、前記電導性組成物全体に対して、前記(1)カーボンナノファイバー群[A×r]質量%と、「前記(2a)鱗片状グラファイト群及び/又は前記(2b)略球状炭素粒子群」「B×(1-r)」質量%(rは0より大きく1より小さい実数である)とを、該ベース材料に共分散させることによって、
前記(1)カーボンナノファイバー群のみをA質量%分散させた組成物より電導度を高くし、かつ、
「前記(2a)鱗片状グラファイト群及び/又は前記(2b)略球状炭素粒子群」のみをB質量%分散させた組成物より電導度を高くしてなる前記の電導性組成物を提供するものである。
【0015】
また、本発明は、前記(1)カーボンナノファイバー群に含有されているカーボンナノファイバーの数平均アスペクト比が3以上200以下である前記の電導性組成物を提供するものである。
【0016】
また、本発明は、前記(1)カーボンナノファイバー群が、炭素繊維を数平均長さが100μm以下になるまで乾式粉砕をした後に、湿式粉砕をすることによって得られるものである前記の電導性組成物を提供するものである。
【0017】
また、本発明は、前記(1)カーボンナノファイバー群の原料が、メソフェーズピッチ系炭素繊維である前記の電導性組成物を提供するものである。
【0018】
また、本発明は、前記(1)カーボンナノファイバー群が、乾式粉砕をした後に湿式粉砕をすることによって得られるものであり、該湿式粉砕が、界面活性剤が存在している水系媒体中で行うビーズミル粉砕又はボールミル粉砕である前記の電導性組成物を提供するものである。
【0019】
また、本発明は、前記(1)カーボンナノファイバー群の体積抵抗率が7×10-4Ω・cm以下のものである前記の電導性組成物を提供するものである。
【0020】
また、本発明は、前記(2a)鱗片状グラファイト群、又は、前記(2b)略球状炭素粒子群を、前記炭素質物群全体に対して、5質量%以上70質量%以下で含有する前記の電導性組成物を提供するものである。
【0021】
また、本発明は、前記の電導性組成物を含有してなるものであることを特徴とする成型体を提供するものである。
【0022】
また、本発明は、前記の電導性組成物を含有してなるものであることを特徴とする塗膜を提供するものである。
【0023】
また、本発明は、前記の電導性組成物と液体分散媒とを含有してなるものであることを特徴とする塗料を提供するものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明の電導性組成物によれば、前記問題点や課題を解決し、直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下と言った、特定の形状をしたアスペクト比が大きい(1)カーボンナノファイバー群を、略1本ずつベース材料に含有させたものは、まず良好な分散状態にできること、そして該分散させたものは、特定の(2a)鱗片状グラファイト群又は特定の(2b)略球状炭素粒子群を混合分散させることによって、含有量を比較できるように統一すると、意外にも、それらの単独分散使用に比較して電導性が上がるようにできた。
【0025】
ここで、「単独分散使用に比較して併用分散で電導性が上がる」とは以下のように定義する。なお、以下、「電導性が上がる」は、「体積電導率が上がる」、「体積抵抗率が下がる」等と読み換えることができる。
【0026】
電導性組成物の体積電導度又は体積抵抗率(の対数)を縦軸にとり、横軸に「(1)カーボンナノファイバー群」と「(2a)鱗片状グラファイト群又は(2b)略球状炭素粒子群」の「それぞれ、全炭素質物に対して100質量%がベース材料に分散含有された電導性組成物」同士の混合割合をとって、体積電導度(の対数)の測定値をプロットする(実施例1の図10、実施例2の図11参照)。
【0027】
横軸の左端を「炭素質物全体に対する(1)カーボンナノファイバー群100質量%」とし、横軸の右端を「炭素質物全体に対する(2a)鱗片状グラファイト100質量%若しくは(2b)略球状炭素粒子群100質量%」又は「(2a)鱗片状グラファイトと(2b)略球状炭素粒子群の合計量として100質量%」とする。すなわち、横軸の左端と右端は、(1)か「(2a)又は(2b)」かのどちらかしか含有していない電導性組成物である。なお、左端・右端は逆でもよい。
【0028】
ここで、左端も右端も、ベース材料中における炭素質物群の含有割合は任意とする。通常は、単独使用における、機械的強度、熱的物性、電気的特性、分散性、分散安定性等を勘案して好適な含有量とする。
左端における(1)カーボンナノファイバー群の電導性組成物中の含有濃度と、右端における「(2a)鱗片状グラファイト及び/又は(2b)略球状炭素粒子群」の電導性組成物中の含有濃度とは、それぞれ(単独使用での)上記物性が良ければ、同一であっても異なっていてもよい。
左端も右端も、ベース材料を含む電導性組成物中における炭素質物群の含有割合(電導性組成物中の単独炭素質物濃度)は任意とするので、左端や右端の対ベース材料に対する濃度(すなわち電導性組成物中の含有濃度)は、それぞれある1点であっても、下記する条件を満たせば、「併用で電導性が上がる」と言う。
【0029】
また、実施例4、表3、図12のように、「電導性組成物全体に対する炭素質物の合計量(総炭素量)」を一定とし(実施例4は40質量%で一定)、その中で、「(1)カーボンナノファイバー群」と、「(2a)鱗片状グラファイト及び/又は(2b)略球状炭素粒子群」とで割り振って含有させて、体積抵抗率や電導度を測定し、左端でも右端でもない混合部分に、例えば、体積抵抗率の最低値(極小値)があるか否かを見てもよい。
【0030】
上記条件のもとに、「単独分散使用に比較して併用で電導性が上がる」とは、「左端の炭素質物」が100質量%の体積電導度ではなく、「右端の炭素質物」が100質量%の体積電導度でもない混合部分(併用部分)の上記プロットに体積電導度の最大値(又は、体積抵抗率の最小値)があることを言う。
「併用で電導性が上がる」とは、縦軸に(電導性組成物の)体積抵抗率の対数をとったときでも、上記併用物におけるプロット(左端でもなく右端でもない中間部分)に最小値があることを言う。
【0031】
本発明における(1)カーボンナノファイバー群は、ベース材料に対する単独分散使用でも、他のカーボンナノファイバー群に比べて、熱的・機械的・電気的に優れた効果を奏する。
一般に、炭素質物群は、ベース材料に含有させればさせる程、電導性は高くなるが、機械的強度等の物性、分散性、分散安定性、コスト等が通常は悪化する。本発明によれば、このような裏腹の関係を打破でき、更に、特定の(2a)鱗片状グラファイト群又は特定の(2b)略球状炭素粒子群との併用によって、電気的物性がより向上する。
【0032】
一般に、電導度が圧倒的に低いベース材料に対して、複数種類の電導度が異なる微粒子群(炭素質物群)を混合含有させた場合、得られる組成物(成型体)の電導度は、同レベルの含有量で比較した場合、高々、電導度が高い方の微粒子群(炭素質物群)を単独で含有させたときの電導度にしかならない。
しかしながら、本発明における特定の複数種類の炭素質物群をベース材料に分散させたものは、同レベルの含有量で比較した場合(含有量を電導性が比較できるようにした場合)、一方の単独分散よりも電導度を上げることができた。
【0033】
特に、(1)カーボンナノファイバー群に関して言えば、特定の原料炭素繊維、特定の粉砕方法、特定の表面処理をしながらの粉砕方法、又は、特定の処理を行えば、ベース材料に対する分散性が従来にない程に高い(1)カーボンナノファイバー群が得られた。
そして、このような(1)カーボンナノファイバー群を用いることによって、「(2a)鱗片状グラファイト群又は(2b)略球状炭素粒子群」と混合分散させることによって、それらの単独分散使用に比較して電導性(特に体積電導度)が上がるようにできた。
【0034】
そもそも、本発明における「直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下の範囲」に、カーボンナノファイバー全体の50個数%以上が分布している(1)カーボンナノファイバー群は、従来存在していなかった。
「カーボンナノファイバー」の定義として上記数値(範囲)が存在していた(知られていた)としても、それは実際には分散性のないもの又は分散安定性のないものであり、分散性等があるカーボンナノファイバーに限れば、上記「(1)カーボンナノファイバー群」は新規である。
【0035】
カーボンナノファイバーは、通常知られている広い意味での炭素繊維の中に、複数本が強固に周囲と結合して一体となっている。従来は、そこから、高いアスペクト比を維持しながらカーボンナノファイバーを分離・剥離等で製造することができなかった。
言い換えれば、カーボンナノファイバーを、高いアスペクト比を維持させながら粉砕等によって製造し、凝集させずに、再現性良く安定的に、分離可能な状態若しくは分散可能な状態にすることは従来技術ではできなかった。
上記したように単独分散に比較して電導性を上げられたのは、このような(1)カーボンナノファイバー群の分散性の良さに起因している。
【0036】
本発明における(1)カーボンナノファイバー群は、ベース樹脂中での分散性が極めて良いため、カーボンナノファイバーの1本1本が、鱗片状グラファイトや略球状炭素粒子に接触して絡み合わせることができ、特に直接接触していない鱗片状グラファイト同士や略球状炭素粒子同士を繋いで導通を確保しつつ連なることで、相乗的に電導性を上げる(抵抗率を下げる)。
【0037】
併用によって電導度が上がるので、本発明の電導性組成物や、本発明の電導性組成物を含有してなる成型体や塗膜は、ベース材料中に、(1)カーボンナノファイバー群、(2)鱗片状グラファイト群、(3)略球状炭素粒子群と言った炭素質物の合計含有量が少なくても又は同じでも、より高い電導性を実現できるので、高い電導性、高い電磁波吸収性等が要求される成型体や塗膜、又は、炭素質物の含有量を減らしたい種類の成型体や塗膜に特に好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】(1)カーボンナノファイバー群を製造するに当たり、粉砕前の原料であるピッチ系炭素繊維の横断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。 (左)ラジアル型メソフェーズピッチ系炭素繊維 (中)ランダム型メソフェーズピッチ系炭素繊維 (右)オニオン型メソフェーズピッチ系炭素繊維
図2】(1)カーボンナノファイバー群を製造するに当たり、粉砕前の原料であるピッチ系炭素繊維の横断面の概略図である。 (a)(a’)ランダム型メソフェーズピッチ系炭素繊維 (b)ラジアル型メソフェーズピッチ系炭素繊維 (c)オニオン型メソフェーズピッチ系炭素繊維
図3】(1)カーボンナノファイバー群の原料として使用することが好ましいランダム型メソフェーズピッチ系炭素繊維1本の横断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
図4】(1)カーボンナノファイバー群の原料として使用することが好ましいランダム型メソフェーズピッチ系炭素繊維(粉砕前)の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。(a)400倍 (b)1300倍
図5】(1)カーボンナノファイバー群を製造するに当たり、乾式粉砕後の炭素繊維の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。(a)600倍 (b)1500倍
図6】(1)カーボンナノファイバー群を製造するに当たり、湿式粉砕の途中の光学顕微鏡(生物顕微鏡)による700倍の写真である(参考図)。
図7】(1)カーボンナノファイバー群を製造するに当たり、湿式粉砕後の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。(a)1500倍 (b)6500倍
図8】(1)カーボンナノファイバー群の原料として使用することが好ましい(ランダム型)メソフェーズピッチ系炭素繊維のフィラメントの製造工程を示す模式図である。
図9】(1)カーボンナノファイバー群を製造するに当たり、乾式粉砕に用いられる装置の一例を示す概略図である。
図10】実施例1のグラフであり、横軸に「(1)カーボンナノファイバー群とポリイミドとの含有物」と「(2a)鱗片状グラファイト(グラフェン)とポリイミドとの含有物」との混合比をとったときの体積抵抗率[Ω・cm](縦軸)の変化を示すグラフである。(a)縦軸(体積抵抗率)が対数目盛 (b)縦軸(体積抵抗率)が線形目盛
図11】実施例2のグラフであり、横軸に「(1)カーボンナノファイバー群とポリイミドとの含有物」と「(2b)略球状炭素粒子群(ケッチェンブラック)とポリイミドとの含有物」との混合比をとったときの体積抵抗率[Ω・cm](縦軸)の変化を示すグラフである。(a)縦軸(体積抵抗率)が対数目盛 (b)縦軸(体積抵抗率)が線形目盛
図12】実施例4((1)カーボンナノファイバー群と(2b)略球状炭素粒子群との混合、ベース材料がポリエステル)の体積抵抗率の測定結果を示すグラフである。
図13】比較例1((1)カーボンナノファイバー群とアスペクト比が小さい(2a’)鱗片状グラファイトとの混合、ベース材料がポリエステル)の体積抵抗率の測定結果を示すグラフである。
図14】実施例5と比較例2の体積抵抗率の測定結果を示すグラフである。
図15】実施例1、2で使用した(2a)鱗片状グラファイトの1200倍の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
図16】実施例1、2で使用した(2a)鱗片状グラファイトの5000倍の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
図17】比較例1で使用した(2a’)(球形)鱗片状グラファイトの600倍の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
図18】比較例1で使用した(2a’)(球形)鱗片状グラファイトの4000倍の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明について説明するが、本発明は、以下の具体的形態に限定されるものではなく、技術的思想の範囲内で任意に変形することができる。
【0040】
本発明の電導性組成物は、以下の(1)及び「(2a)又は(2b)」の炭素質物群をベース材料中に何れも分散状態で含有してなるものであることを特徴とする。
(1)炭素繊維を粉砕して得られる「直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下の範囲」に、カーボンナノファイバー全体の50個数%以上が分布しているカーボンナノファイバー群
(2a)鱗片状グラファイトのベーサル面での最大差し渡し長さの数平均値をD1、最小差し渡し長さの数平均値をD2としたとき、D1及びD2が何れも1μm以上300μm以下であって、D1/D2が3以下であり、かつ、鱗片状グラファイトの数平均厚さをdとしたときに、数平均アスペクト比[(D1+D2)/2]/dが10以上の鱗片状グラファイト群
(2b)略球状炭素粒子の最大直径の数平均値をL1、最小直径の数平均値をL2としたとき、L1/L2が3以下の略球状炭素粒子群
【0041】
本発明におけるカーボンナノファイバーの長さや直径;該カーボンナノファイバー製造途中の長さや直径;本発明における(1)カーボンナノファイバー群の数平均直径や数平均長さ;本発明における(2a)鱗片状グラファイト群のベーサル面での最大差し渡し長さや最小差し渡し長さの数平均値;本発明における(2b)略球状炭素粒子群の最大直径や最小直径の数平均値;等、長さや平均長さの測定・算出は、走査型電子顕微鏡(SEM)で、無作為に100本選択し、1本ずつその直径と長さを測定して、それらの相加平均をとることによって求める。
【0042】
本発明における、直径、長さ、アスペクト比等のサイズと平均サイズは、上記のように測定・算出したものとして定義される。
本発明にけるカーボンナノファイバーは、アスペクト比が大きいので、粒度分布計による測定より、顕微鏡を用いて1本ずつその直径と長さを測定する。自動の粒度分布計では、直径と長さを好適には測定できないので、上記のようにせざるを得ない。
【0043】
[(1)カーボンナノファイバー(群)]
本発明における(1)カーボンナノファイバー(群)は、上記した通り、炭素繊維を粉砕して得られる「直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下の範囲」に、カーボンナノファイバー全体の50個数%以上が分布しているものであることが必須である。
【0044】
本発明において、「炭素繊維」とは、グラフェン構造を有するあらゆる炭素質物(炭素材)のうち細長いものを言い、カーボンファイバー、カーボンナノファイバー、及び、それらに近似するサイズの炭素質物(炭素材)等が含まれる。また、「炭素繊維」には、グラフェン構造を有する炭素質物(炭素材)のフィラメント10、それを構成する素フィラメント20、該フィラメント10が縦に並列してなるストランド等が含まれる。
【0045】
本発明におけるカーボンナノファイバー群は、直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下の範囲に、カーボンナノファイバー群全体の50個数%以上が分布しているものである。
上記範囲に全体の50個数%以上が分布していることが必須であるが、好ましくは70個数%以上、より好ましくは80個数%以上、更に好ましくは90個数%以上、特に好ましくは95個数%以上、最も好ましくは98個数%以上が分布しているものである。本発明によれば、上記個数%以上のものは製造することができるので、分散性やそれを含有する成型体や塗料の特性等を考えると分布はシャープなほど好ましいが、生産性等を考えるとブロードでもよい。
【0046】
上記「50個数%以上が分布しているカーボンナノファイバー」の直径は、30nm以上1000nm以下であるが、50nm以上850nm以下が好ましく、100nm以上700nm以下が特に好ましい。本発明によれば上記範囲の直径のものならば収率良く製造することができる。
直径が小さ過ぎると、製造が難しくなる場合や、同時に長さも短くなってしまうためにアスペクト比が小さくなってしまう場合等がある。一方、直径が大き過ぎると、使用先での性能が劣ったり、カーボンナノファイバー群の用途が限定されたりする場合がある。
【0047】
上記「50個数%以上が分布しているカーボンナノファイバー」の長さは、0.2μm以上70μm以下であるが、1μm以上50μm以下がより好ましく、2μm以上30μm以下が更に好ましく、5μm以上20μm以下が特に好ましい。本発明によれば上記範囲の長さのものならば収率良く製造することができる。
長さが短過ぎると、アスペクト比が小さくなってしまう場合や、使用先(例えば、成型体、塗料等)での性能が劣る場合、カーボンナノファイバー群の用途が限定される場合、凝集を防止し難くなる場合等がある。一方、長さが長過ぎると、カーボンナノファイバー群の用途が限定される場合、アスペクト比を大きく保ったままでの製造が難しくなる場合等がある。
【0048】
上記は、カーボンナノファイバー群の中の多くの(例えば、50個数%以上、70個数%以上等の)カーボンナノファイバーが分布している直径範囲と長さ範囲から、サイズ分布を特定したものであるが、平均で特定すると、数平均直径は30nm以上1000nm以下であり、数平均長さは0.2μm以上70μm以下であることが好ましい。
言い換えると、本発明の電導性組成物においては、(1)カーボンナノファイバー群に含有されているカーボンナノファイバーの数平均直径が30nm以上1000nm以下であり、かつ、数平均長さが0.2μm以上70μm以下であることが好ましい。
【0049】
数平均直径は、50nm以上850nm以下がより好ましく、100nm以上700nm以下が特に好ましい。
数平均長さは、1μm以上50μm以下がより好ましく、2μm以上30μm以下が更に好ましく、5μm以上20μm以下が特に好ましい。
【0050】
本発明における単離・分散可能なカーボンナノファイバーは、直径と長さが前記範囲であるので(前記範囲が望ましいので)、そのアスペクト比が大きいことが特徴の一つである。
該カーボンナノファイバーの数平均アスペクト比は、3以上200以下が好ましく、5以上160以下がより好ましく、7以上130以下が更に好ましく、15以上100以下が特に好ましく、20以上70以下が最も好ましい。
【0051】
アスペクト比が小さ過ぎると、鱗片状グラファイト群(2a)又は略球状炭素粒子群(2b)と併用して、好適に電導度を上げることができない場合がある。また、カーボンナノファイバー群が含有されている、例えば、電導性組成物、成型体、塗膜、塗料等での性能が劣ったり、用途が限定されたりする場合がある。
一方、アスペクト比が大き過ぎると、製造が難しくなる場合、無駄になる場合等がある。
【0052】
ピッチ系炭素繊維を原料とし、乾式粉砕をした後に湿式粉砕をすれば、原料となる炭素繊維の粉砕時に、特異的に縦にきれいに割れる、言い換えれば、長さをあまり短くさせずに、フィラメント10から素フィラメント20を好適に剥離させることができる。本発明では、そのことによって、今までになかった分散可能でありつつ好適なアスペクト比を有するカーボンナノファイバーが得られたが、このアスペクト比が大きいことや好適なサイズ・形状によって、得られたカーボンナノファイバー群が分散された成型体・塗膜や塗料の物性が上がったと推認される。また、鱗片状グラファイト群(2a)又は略球状炭素粒子群(2b)と併用して、好適に電導度を上げることができた。
【0053】
カーボンナノファイバー群をベース材料に含有・分散させるときには、固体(粉末)で含有させても、一旦分散液として含有させてもよい。
固体(粉末)で存在している場合は、例えば、図7に示したように、カーボンナノファイバー1本ずつ単離可能な状態になっているか、又は、1本ずつの分散が可能な状態になっている。
【0054】
分散液中(塗料中)又は成型体中若しくは塗膜中に存在している場合は、カーボンナノファイバーは実質的に1本ずつの分散状態になっている。なお、後述する素フィラメントにまでは1本ずつに分離可能であるとは限らないが、カーボンナノファイバー1本1本に分散可能ならばよい。「実質的に1本ずつの分散状態」とは、「略1本ずつの分散状態」であり、並列して強く凝集していない状態で、カーボンナノファイバー間にベース材料が入り込んだ状態を言う。
本発明における(1)カーボンナノファイバー群は、上記したような分散性や分散状態にすることが可能である。
【0055】
<(1)カーボンナノファイバー(群)の製造>
本発明における、上記したような形状(直径と長さ)を有するカーボンナノファイバー、及び、上記したような分布を有するカーボンナノファイバー群は、少なくとも、乾式粉砕を行い、それに次いで湿式粉砕することによって得られる。更に、原料となる炭素繊維を特定のものとすることによって、上記形状と分布を有する、(再)分散可能なカーボンナノファイバー群が得られる。
該乾式粉砕の前、上記2種の粉砕の間若しくは途中、又は、該湿式粉砕の後に、必要に応じて他の処理(操作)を加えることも好ましい。また、上記乾式粉砕と上記湿式粉砕は、それぞれ1段階でも2段階以上で行ってもよい。
【0056】
特に、「ピッチ系炭素繊維を原料とし、乾式粉砕をした後に湿式粉砕をすることによって得られたカーボンナノファイバー群」は、好適にベース材料に分散可能で、分散させた成型体・塗膜若しくは塗料は、後記するように優れた物性を有し、(2a)鱗片状グラファイト群又は(2b)略球状炭素粒子群と併用して、好適に電導度を上げることができる。
【0057】
本発明における(1)カーボンナノファイバー群の「特に好ましい製造工程」を以下に示すが、本発明における(1)カーボンナノファイバー群は、下記する「好ましい製造工程」で実際に製造されたもののみに限定される訳ではない。
ただし、本発明における(1)カーボンナノファイバー群は、下記する「好ましい製造方法」で特定した、原料となる炭素繊維(炭素素材)、粉砕方法・粉砕条件、使用する分散剤や界面活性剤等の種類、処理の種類等の製造条件項目を変化させることで製造することができる。
【0058】
製造工程については、下記の処理を行う場合は、下記順番で行うことが特に好ましいが、途中に他の処理を挟んでもよい。
すなわち、原料炭素繊維用意、前粉砕、乾式粉砕、加熱処理、湿潤処理、湿式粉砕、凝集防止処理、水除去処理。
【0059】
上記のうち、少なくとも、特定の原料炭素繊維を用意すること、乾式粉砕、及び、湿式粉砕は、本発明における(1)カーボンナノファイバー群を得るために特に重要であり、そうすれば、本発明の電導性組成物、それを有する成型体若しくは塗膜又は塗料等が好適に製造可能である。
上記のうち、前粉砕、加熱処理、湿潤処理、凝集防止処理、水除去処理は、何れも必須ではないが、良好に製造するために、必要に応じて、そのうちの幾つか又は全部を行うことが好ましい。特に加熱処理は、原料がサイジング材等の樹脂を含有するときは行うことが好ましく、原料がサイジング処理等されていないときは行わなくてもよい。
以下、好ましい処理順に各処理工程を説明する。
【0060】
<<原料炭素繊維>>
本発明は、粉砕前の炭素繊維(原料の炭素繊維)として、特に限定はないが、ピッチ系炭素繊維を使用することが好ましく、メソフェーズピッチ系炭素繊維を使用することがより好ましく、ランダム型メソフェーズピッチ系炭素繊維を使用することが特に好ましい(図4参照)。
PAN系炭素繊維では、どのような粉砕方法を用いても、直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下のカーボンナノファイバー群であって、前記したような高い数平均アスペクト比を有するものは得られ難い。
【0061】
また、ピッチ系炭素繊維であっても等方性ピッチ系炭素繊維では、上記サイズ・形状・分布のカーボンナノファイバー群が得られ難い場合がある。
【0062】
一方、メソフェーズピッチ系炭素繊維は、その断面形状(すなわち内部形状)から、少なくとも、ラジアル型(図1(左)、図2(b))、ランダム型(図1(中)、図2(a)(a’)、図3)、オニオン型(図1(右)、図2(c))に分類されている。「ランダム型」とは、繊維断面がランダム型になっているものである。そのことから、ランダム型と名付けられた。
【0063】
本発明において、メソフェーズピッチ系炭素繊維であっても、ラジアル型メソフェーズピッチ系炭素繊維又はオニオン型メソフェーズピッチ系炭素繊維では、上記サイズ・形状・分布のカーボンナノファイバー群がやや得られ難い場合がある。原料となる炭素繊維として、ラジアル型やオニオン型を用いると、前記形状・形態・分布のものは、好適には得られない場合もあり、特に個数平均アスペクト比が大きいカーボンナノファイバー群が好適には得られない(例えばアスペクト比が3未満のものしか得られない)場合がある。
【0064】
「上記ランダム型メソフェーズピッチ系炭素繊維を構成するフィラメント」は、棒状又は板状(シート状)の更に小さいサイズのものが集合してできている。例えば、図3では、板状(シート状)のものが縦に集合している。
本明細書では、フィラメント10を構成する該「棒状又は板状(シート状)の更に小さいサイズのもの」を「素フィラメント」20と略記する。
1つの素フィラメント(内で)は、ベンゼン環の縮合したグラフェン構造が同方向を向いて積み重なって1つとなっているか、カーボンナノチューブの1本又は2本以上が同方向を向いて束ねられて1つとなっている、等と考えられる。
【0065】
本発明において原料である炭素繊維は、フィラメント10を構成する該素フィラメント20の数平均厚さ又は数平均太さが、10nm以上200nm以下のものであることが好ましい。より好ましくは15nm以上150nm以下であり、更に好ましくは20nm以上100nm以下であり、特に好ましくは30nm以上70nm以下である。
原料の炭素繊維の素フィラメントのサイズが、上記下限以上であると、鱗片状グラファイト群(2a)又は略球状炭素粒子群(2b)と併用して相乗効果を奏し、好適に電導度を上げる(抵抗値を下げる)ことができる。
一方、上記上限以下であると、そのような素フィラメント20を含有する「フィラメント10や炭素繊維」を原料として用意し易い。
【0066】
図8に、メソフェーズピッチ系炭素繊維のフィラメント10の製造工程の概略を示す。ランダム型メソフェーズピッチ系炭素繊維も、図8において、紡糸粘度、ノズル形状、原料ピッチの流動状態等を調整することで得られる。
メソフェーズピッチ系炭素繊維の製造工程には延伸工程が存在しない。紡糸工程で制御されたミクロ構造が、ほぼそのままフィラメント10の結晶構造となり、結晶構造の向きが異なる境界ができ、素フィラメント20が見られる(存在する)ようになる。
【0067】
図8において、原料となるフィラメント10の太さは、通常4000nm~20000nm、多くは5000nm~12000nmであり、一方、本発明において原料となる炭素繊維フィラメント10中の素フィラメント20の数平均厚さ又は数平均太さは、好ましくは10nm以上200nm以下、より好ましくは15nm以上100nm以下であるので、原料となる炭素繊維において、1本のフィラメント10中に、通常40~700本、殆どの場合60~400本の素フィラメント20が存在している。
結晶構造の向きが異なる境界で、1本の素フィラメント20を分ける(定義する)と、上記本数の素フィラメント20が束ねられて1本のフィラメント10ができている。なお、図8では、概略的に見易いように、前面から見てたまたま3本の素フィラメントで、1本のフィラメントができているように描かれている。
【0068】
本発明において、原料としてランダム型メソフェーズピッチ系炭素繊維を用いるときは、限定はされないが、上記のような態様のものであることが特に好ましい。
本発明における(1)カーボンナノファイバー群の、形状・分布等、及び、そもそもそのような(1)カーボンナノファイバー群ができるか否かを含めて、原料である炭素繊維の種類が何であるかに依存する。
【0069】
<<<本発明のカーボンナノファイバーと素フィラメントの関係>>>
本発明におけるカーボンナノファイバーは、「原料となる上記フィラメントを構成する上記素フィラメント」が2本以上20本以下の範囲で集合して構成されていることが好ましい。より好ましくは3本以上16本以下、特に好ましくは4本以上12本以下である。上記素フィラメントの数は、(1)カーボンナノファイバー群において、カーボンナノファイバー毎に平均を採った値である。
カーボンナノファイバーを製造する際に、該素フィラメントの結晶性や外形等が若干崩れる場合もあるが、それを含めて上記のように「本数」と言う。また、素フィラメントがもともと板状の場合であっても、粉砕後、細長くなるので、上記のように「本数」と言う。
【0070】
<<前粉砕>>
原料となる炭素繊維は、チョップドファイバー形状でも、ミルドファイバー形状でもよいが、チョップドファイバー形状であることが好ましい。ミルドファイバー形状の場合、長さが1μm程度の短いものが多く混在するので、アスペクト比の大きいカーボンナノファイバーを得るために、チョップドファイバー形状であることが好ましい。ミルドファイバー形状の場合、例えば「平均長さ70μm」と言って(公表して)いても、長さが1μm程度の短いものが多く混在する場合がある。
【0071】
限定はされないが、前粉砕で原料となる炭素繊維を、平均で1mm~15mmにすることが好ましく、2mm~10mmにすることがより好ましく、5mm~8mmにすることが特に好ましい。例えば、長繊維ボビンタイプの場合は、前粉砕する必要が生じる場合がある。最初から、上記範囲であれば、前粉砕は行わないことも好ましい。
【0072】
前粉砕の粉砕方式は特に限定はなく、市販の乾式粉砕機が何れも使用可能であるが、例えば装置としてカッターミル等が挙げられる。
【0073】
<<乾式粉砕>>
本発明において、「乾式粉砕」は、特に限定はないが、気流式粉砕、カッター式粉砕、又は、「気流式粉砕とカッター式粉砕の両方を同時に行う粉砕」であることが好ましい。「気流式粉砕とカッター式粉砕の両方を同時に行う粉砕」とは、「気流式粉砕機構・機能とカッター式粉砕機構・機能の両方を同時に有しているような粉砕」の意味である。
【0074】
<<<気流式粉砕>>>
気流式粉砕としては、例えば、サイクロンミル等の気流粉砕機や、ジェットミル等を用いた粉砕が挙げられる。
サイクロンミルによる気流式粉砕は、インペラ(回転翼)の回転によって気流を発生させ、気流中に投入された対象物を乾式で粉砕して微粒子を製造するものである。また、ジェットミルによる気流粉砕は、衝突板に対象物を衝突させて対象物を乾式で粉砕して微粒子を製造するものである。
インペラ、回転翼、ブレード、回転刃等の回転体を有さない粉砕機(ジェットミル等)より、それらを有する気流粉砕機や、<<気流式粉砕とカッター式粉砕の両方を同時に行う粉砕>>で後述する粉砕機の方が、湿式粉砕で所定の形状の(1)カーボンナノファイバー群を得るために、「湿式粉砕の前の乾式粉砕」として好ましい。
【0075】
サイクロンミルとしては、市販されている装置も好適に使用できる。市販品としては、例えば、株式会社静岡プラント製のサイクロンミル、静岡製機株式会社製のサイクロンミル、株式会社西村機械製作所製のスーパーパウダーミル、三庄インダストリー株式会社製のトルネードミル、古河産機システムズ株式会社製のドリームミル等が挙げられる。
【0076】
上記サイクロンミルの構造は、特に限定はないが、1個又は2個以上のインペラを有し、該インペラが発生させる旋回気流によって主に粉砕対象物同士を衝突させて粉砕するものであることが、前記気流粉砕機を使用することによる前記効果を奏し易い;金属コンタミが非常に少ない;等の点から特に好ましい。
【0077】
ジェットミルとしては、市販されている装置も好適に使用できる。市販しているメーカーとしては、例えば、株式会社セイシン企業、ホソカワミクロン株式会社、日本ニューマチック株式会社、日清エンジニアリング株式会社が挙げられる。
【0078】
<<<カッター式粉砕>>>
また、カッター式粉砕としては、例えば、クラッシャーミル、ピンミル、カッターミル、ハンマーミル、軸流ミル等を用いた粉砕が挙げられる。
【0079】
<<<気流式粉砕とカッター式粉砕の両方を同時に行う粉砕>>>
本発明における乾式粉砕としては、気流式粉砕とカッター式粉砕の両方を同時に行う粉砕であることが特に好ましい。
特に、本発明における乾式粉砕は、ブレードを有し、剪断と衝撃とを与える乾式粉砕機で行うことが好ましい。又は、「ブレードによる剪断と衝撃」とを加える乾式粉砕機で行うことが好ましい。
かかる乾式粉砕機の一例の概略図を図9に示す。
【0080】
ジェットミル、サイクロンミル、トルネードミル、ドリームミル(登録商標)等の「インペラ等で粉砕させない全気流式粉砕機」の場合は、原料によっては、乾式粉砕の段階で直径が小さくなり過ぎる等のために、次の湿式粉砕でアスペクト比が小さくなり過ぎる(丸い形状になる)場合もあるため、限定はされないが、湿式粉砕の前に行う粉砕としては、あまり向かない場合もある。
【0081】
乾式粉砕する場合の雰囲気温度又は設定温度は、特に限定はなく使用する装置の使用方法に従えばよいが、好ましくは0℃以上50℃以下、特に好ましくは5℃以上35℃以下である。
また、インペラ回転数も、使用する装置の使用方法に従えばよいが、好ましくは4000rpm以上20000rpm以下、特に好ましくは8000rpm以上15000rpm以下である。
【0082】
上記したような装置を用いて、上記した粉砕方法で、数平均長さが100μm以下になるまで乾式粉砕した後に、次の工程に供されることが好ましい。
100μm以下になるまで乾式粉砕してから湿式粉砕をすることによって、カーボンナノファイバーの、直径、長さ、アスペクト比、形状分布等が前記した必須の範囲又は好適な範囲に収まり易くなる。
【0083】
乾式粉砕によって、数平均長さを100μm以下にしておくことが好ましいが、より好ましくは5μm以上70μm以下、更に好ましくは7μm以上50μm以下、特に好ましくは10μm以上40μm以下にしておくことが望ましい。
乾式粉砕後の数平均長さが長過ぎると、次の工程である湿式粉砕で、該湿式粉砕の条件を調整しても、最終的にカーボンナノファイバーの直径や長さが、前記した範囲に入り難い場合がある。
一方、乾式粉砕後の長さが短過ぎると、湿式粉砕後にカーボンナノファイバーの長さがそれ以上にはなり得ないので、最終的にカーボンナノファイバーの長さや個数平均アスペクト比が前記した好ましい範囲になり難い場合等がある。特に、最終的に得られるカーボンナノファイバーのアスペクト比が小さくなり過ぎる場合がある。
【0084】
乾式粉砕後の数平均直径については、そもそも乾式粉砕のみでは小さくし難く、すなわちアスペクト比が大きくなるように粉砕し難く、また、乾式粉砕で無理に直径を小さくしてしまっては、長さも短くなってしまい、湿式粉砕後の最終的なアスペクト比が好適な範囲に収まり難くなる。
乾式粉砕後の直径は、3000nm以上が好ましく、5000nm以上15000nm以下がより好ましく、7000nm以上12000nm以下が特に好ましい。この範囲になるように乾式粉砕を行っておくことが望ましい。
【0085】
乾式粉砕後の数平均アスペクト比は、特に限定はないが、10以下であることが好ましく、より好ましくは1.2以上7以下、特に好ましくは1.5以上5以下である。
乾式粉砕によっては、そもそも平均アスペクト比を上記上限より大きくし難い。すなわち、平均アスペクト比を上記上限より大きくできる程度に平均繊維径を小さくし難い。
本発明において、乾式粉砕によって、数平均長さを、好ましくは100μm以下にしておき、比較的大きな直径や比較的小さな数平均アスペクト比にしておいても、或いは、しておくことによって、後の湿式粉砕によって、最終的に前記したような、好適な「直径や長さ、大きな数平均アスペクト比」のカーボンナノファイバー群が得られることを見出した。
【0086】
<<加熱処理>>
本発明の電導性組成物は、前記(1)カーボンナノファイバー群が、粉砕前の原料である炭素繊維に混在する混在樹脂を実質的に有さないものであることが好ましい。
ここで、混在樹脂を有する場合とは、例えば、原料である炭素繊維にサイジング剤等が含まれている場合等が挙げられる。すなわち、上記混在樹脂としては、限定はないが、例えばサイジング剤等が挙げられる。
【0087】
本発明おいては、乾式粉砕物に樹脂が混在している場合、加熱処理を行って該樹脂を除去することが好ましい。
言い換えると、本発明の電導性組成物は、そこに含有される前記(1)カーボンナノファイバー群が、乾式粉砕をした後に湿式粉砕をすることによって得られるものであり、該乾式粉砕と該湿式粉砕の間に加熱処理を行うことで、原料に混在する混在樹脂が除去されたものであることが好ましい。
なお、例えばサイジング剤等の樹脂の混在がない場合には、該加熱処理を省略することができる。
【0088】
加熱処理の条件は、限定はされないが、例えば、炉の温度320℃~480℃で、5分~15分間加熱し、樹脂の含有を、好ましくは0.1質量%以下に、特に好ましくは0.01質量%以下にまでする。前記「混在樹脂を実質的に有さない」とは、(上記加熱処理等をして)上記含有量以下にした状態のことを言う。
該加熱処理をすることで、好ましくは、乾式粉砕の後であって湿式粉砕の前に該加熱処理をすることで、後の工程である(湿潤処理を行う場合は)湿潤処理や湿式粉砕の際に使用する湿潤剤や界面活性剤が有する粉砕・分散効果が上がる。
【0089】
<<湿潤処理>>
限定はされないが、更に湿潤処理をすることが好ましい。好ましくは乾式粉砕後又は加熱処理後に湿潤処理をすることが特に好ましい。
該湿潤処理は、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、又は、両性界面活性剤を含有する水溶液に、上記で得られたものを浸漬することも好ましい。該界面活性剤は、後の湿式粉砕でも好適に使用できる。
【0090】
上記陰イオン界面活性剤は、高分子陰イオン界面活性剤(「高分子」にはオリゴマーも含まれる)であることが好ましく、酸基を有する(共)重合物の、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩、アルキロールアンモニウム塩等であることがより好ましい。
上記した陰イオン界面活性剤は、単独で用いてもよく、複数種類を併用してもよい。
【0091】
上記「酸基を有する(共)重合物」は、(メタ)アクリル酸の(共)重合物、(無水)フタル酸の(共)重合物、ビニルベンゼンスルホン酸の(共)重合物、及び、ナフタレンスルホン酸の(共)縮合物からなる群より選ばれた少なくとも1種以上の(共)重合物であることが特に好ましい。ここで、「(共)」、「(メタ)」、「(無水)」と言う記載は、括弧がある場合もない場合も含むことを示す。共重合物の場合の共重合モノマーとしては、特に限定はないが、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、スチレン、酢酸ビニル等が挙げられる。
ナフタレンスルホン酸の(共)縮合物とは、ホルムアルデヒド等のアルデヒドで環を結合したものが挙げられる。共縮合物の場合の共縮合モノマーとしては、フェノール、クレゾール、ナフトール等が挙げられる。
【0092】
また、上記陽イオン界面活性剤は、第四級アンモニウムが親水基である界面活性剤であることが好ましく、第四級アンモニウムの「N」への置換基としては、特に限定はないが、ステアリル基、パルミチル基、ドデシル基、メチル基、ベンジル基、ブチル基等の(置換基を有していてもよい)アルキル基等が好ましい。また、炭素数が12個以上の長鎖アルキル基がより好ましい。
対アニオンとしては、特に限定はないが、塩素イオン、臭素イオン等のハロゲンイオンが特に好ましい。
【0093】
両性界面活性剤としては、アルキルベタイン型、脂肪酸アミドプロピルベタイン型、アルキルイミダゾール型、アミノ酸型、アミンオキシド型等が挙げられる。
【0094】
中でも、陰イオン界面活性剤又は両性界面活性剤を用いることが好ましい。
界面活性剤の含有量、及び、水系の分散媒中の(乾式粉砕後の)炭素繊維の含有量は、下記する<湿式粉砕>の数値範囲と同様である。
【0095】
界面活性剤を用いることによって、更には、上記した好ましい陰イオン界面活性剤又は両性界面活性剤を用いることによって、炭素繊維を縦に解く効果を奏し、長さを長いまま保ちつつ直径を細くすることができ、平均アスペクト比の大きなカーボンナノファイバー(群)を得ることができる。
【0096】
<<湿式粉砕>>
本発明における(1)カーボンナノファイバー群の製造法としては、乾式粉砕の後に湿式粉砕をすることが好ましい。該湿式粉砕は、特に限定はされないが、ビーズミル粉砕又はボールミル粉砕であることが好ましい。界面活性剤が存在している水系媒体中で行うビーズミル粉砕又はボールミル粉砕であることが特に好ましい。
なお、乾式粉砕と湿式粉砕の間には、上記した加熱処理、湿潤処理等の「他の処理」を挟んでもよい。「他の処理」としては、更に、予備混合、予備調液等が挙げられる。
【0097】
上記界面活性剤としては、上記湿潤処理をした場合であっても、上記湿潤処理をしなかった場合であっても、何れの場合でも、上の<湿潤処理>の項で記載した界面活性剤が挙げられる。
好ましい界面活性剤も同様のものが挙げられる。すなわち、<湿潤処理>の項で上記したような、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、又は、両性界面活性剤が好ましいものとして挙げられる。なお、湿潤処理の際に用いた界面活性剤をそのまま湿式粉砕において用いてもよいし、湿式粉砕の際に、新たに配合したり、追加したり、湿潤処理のときとは異なる別種類の界面活性剤を配合したりすることができる。
【0098】
界面活性剤の使用量は、特に限定はないが、粉砕・分散の対象である炭素繊維(粉砕途中のカーボンナノファイバー)100質量部に対して、(界面活性剤を2種以上併用するときはその合計量として)、好ましくは0質量部以上100質量部以下であり、より好ましくは0質量部以上50質量部以下であり、特に好ましくは0質量部以上10質量部以下である。
界面活性剤の使用量が多過ぎると、炭素繊維が縦に解けていく途中で凝集を招く場合がある。その結果、カーボンナノファイバーが凝集した状態の分散液になるので、対象物に付与した場合、得られたものの物性に影響が出る場合等がある。
【0099】
前記湿潤処理をした場合、湿式粉砕に際しては、新たに界面活性剤を加えてもよいし、該湿潤処理の際に配合してあった界面活性剤をそのまま使用してもよい。
湿式粉砕に際して新たに界面活性剤を加える場合は、湿潤処理の界面活性剤と同一のものでもよいし、異なるものでもよい。
【0100】
<<<湿式粉砕の方式・装置・条件>>>
湿式粉砕をすることによって、はじめて、前記したような特定の形状(直径、長さ、アスペクト比)や粒度分布を有しつつ、分散性のある(1)カーボンナノファイバー群を製造することができる。
湿式粉砕の条件は、本発明の前記した特定の形状(直径、長さ、アスペクト比)のカーボンナノファイバー(群)が得られるように調整する。
【0101】
湿式粉砕に用いられる粉砕メディアの材質としては、ガラス、アルミナ、ジルコン(ジルコニア・シリカ系セラミックス)、ジルコニア、金属(スチール)等が好ましいものとして挙げられる。
【0102】
ビーズミルを例にすると、用いられるビーズのビーズ径は、0.1mm以上3mm以下が好ましく、0.2mm以上2mm以下がより好ましく、0.3mm以上1mm以下が特に好ましい。
ビーズ径が大き過ぎると、ビーズミル容器内のビーズ個数が減り、接触点が減ることになり、好適に粉砕・分散ができない場合、直径を十分小さく粉砕できない場合等がある。一方、ビーズ径が小さ過ぎると、好適に粉砕・分散できない場合、粉砕に時間がかかり過ぎる場合等がある。
【0103】
ビーズミルに用いられるビーズ充填率としては、45%以上90%以下が好ましく、55%以上87%以下がより好ましく、65%以上85%以下が特に好ましい。
ビーズ充填率が小さ過ぎると、炭素繊維が縦割れし難くなり、アスペクト比の大きなカーボンナノファイバーができ難い場合等がある。一方、ビーズ充填率が大き過ぎると、ビーズミルの撹拌羽根が回り難くなる場合等がある。
【0104】
ビーズミル処理の対象となるスラリー全体に対して、乾式粉砕後の炭素繊維が、1質量%以上20質量%以下が好ましく、3質量%以上15質量%以下がより好ましく、5質量%以上10質量%以下が特に好ましい。
【0105】
上記ビーズミル処理に用いる撹拌羽根の形状は、特に限定はされない。
撹拌羽根(アジテータ)の回転数は、撹拌羽根の差し渡し長さやビーズミルの容量にも依るが、容量2Lの場合に換算して、600rpm以上4500rpm以下が好ましく、800rpm以上4000rpm以下がより好ましく、1000rpm以上3500rpm以下が特に好ましい。
撹拌羽根(アジテータ)の先端の周速度は、撹拌羽根の差し渡し長さにも依るが、直径20cmとして、上記回転数から計算できる範囲が好ましい。具体的には、5m/s以上40m/s以下が好ましく、7m/s以上30m/s以下がより好ましく、9m/s以上20m/s以下が特に好ましい。
【0106】
ビーズミルの粉砕分散の運転方式は、循環式でもバッチ式でもよいが、循環式が好ましい。循環式の場合は、バッチ式のように容器に受け渡しすることがないので、その際に凝集が進んでしまうことがない。
循環式で行う場合、パス回数で微細化の程度が変わってくる。例えば、1パス当たりの滞留時間を長くした場合、処理物のショートパスがないことで、粒度分布はシャープになるが、カーボンナノファイバーのアスペクト比も小さくなってしまう。そのため、例えば、4Lに換算した場合、好ましくは70分以上270分以下、より好ましくは80分以上230分以下、特に好ましくは90分以上180分以下で、循環させてビーズミル処理する。
【0107】
湿式処理における温度は、好ましくは0℃以上50℃以下、特に好ましくは5℃以上35℃以下である。ビーズミルは、縦型でも横型でもよい。
また、ビーズミルは、市販の装置も使用できる。市販の装置としては、例えば、ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社のダイノーミル、ネッチ社(米)のビーズミル等が挙げられる。
【0108】
1パス当たりの時間(連続運転時間)、パス回数、及び、トータルの時間は、装置構造、スラリー濃度、粉砕分散条件、界面活性剤の種類等に依存する場合があるので、1パス毎に又は湿式粉砕の途中で抜き出し、粒子径分布測定装置、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡(SEM)等で逐一観察して適宜調節することが好ましい。
【0109】
前記した「乾式粉砕と湿式粉砕を併用する製造方法」を使用し、前記した範囲で粉砕条件等を適宜調整すれば、直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下のカーボンナノファイバー(群)が得られる。
【0110】
また、カーボンナノファイバーが、1本ずつ単離可能な状態になっているか、又は、後記するベース材料中で、実質的に1本ずつの分散状態になっている(1)カーボンナノファイバー群が得られる。ここで、「実質的に1本ずつの分散状態」とは、「略1本ずつの分散状態」であり、カーボンナノファイバー同士が並列して密着していない状態で、カーボンナノファイバー間にベース材料が入り込んだ状態を言う。
【0111】
また、前記した「乾式粉砕と湿式粉砕を併用する製造方法」を使用し、前記した範囲で粉砕条件等を適宜調整すれば、数平均アスペクト比が3以上200以下のカーボンナノファイバー(群)を得ることができる。
【0112】
<<凝集防止処理>>
湿式粉砕した後、限定はされないが、凝集防止処理をすることが特に好ましい。該凝集防止処理は、限定はされないが、(複合)金属キレート化合物、(複合)金属酸化物の微粒子、金属を含有するワックス、(複合)金属イオン水等の凝集防止剤;又は;界面活性剤を配合することによって行うことが好ましい。
該凝集防止処理は、前記した湿式粉砕した直後に行ってもよいし、後記する水除去処理後に行ってもよく、両方の段階で行ってもよい。
【0113】
凝集防止処理において使用する凝集防止剤としては、上記したような金属含有凝集防止剤が好ましく、(複合)金属キレート化合物がより好ましく、HEDTA、EDTA、PDTA、NTA、エチレンジアミン、ビピリジン、フェナントロリン、ポルフィリン等の金属塩が更に好ましい。
中でも、HEDTA(hydroxyethyl ethylene diamine triacetic acid)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA(ethylenediaminetetraacetic acid))、PDTA(1,3-propanediamine tetraacetic acid)、NTA(nitrilo triacetic Acid)等の酢酸誘導体の金属塩等が特に好ましい。
【0114】
また、凝集防止処理において使用する界面活性剤としては、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、又は、両性界面活性剤が好ましいものとして挙げられ、陰イオン界面活性剤又は両性界面活性剤がより好ましいものとして挙げられる。限定はされないが、特に好ましい具体的界面活性剤としては、前記<湿潤処理>や<湿式粉砕>の項に記載したものと同様のものが挙げられる。
【0115】
金属含有凝集防止剤等の凝集防止剤や、界面活性剤については、該凝集防止処理直前の凝集防止対象物の表面状態を勘案してその種類を決定する。
凝集防止剤や界面活性剤の種類が上記であると、分散媒(水)の除去処理工程、その後の経時等で、凝集し難くなり、保存安定性が良くなる。
【0116】
(複合)金属キレート化合物等の凝集防止剤の使用量は、特に限定はないが、湿式粉砕後のスラリー全体量に対して、0.01質量%以上1質量%以下で加えることが好ましく、0.03質量%以上0.3質量%以下で加えることが特に好ましい。
また、カーボンナノファイバー群と言った凝集防止対象物100質量部に対して、0.01質量部以上5質量部以下で加えておくことも好ましく、0.1質量部以上1質量部以下で加えておくことが特に好ましい。
【0117】
また、凝集防止処理における界面活性剤の使用量は、特に限定はないが、凝集防止対象物100質量部に対して、界面活性剤を2種以上併用するときはその合計量として、好ましくは0質量部以上10質量部以下、より好ましくは0質量部以上5質量部以下、特に好ましくは0質量部以上1質量部以下である。
【0118】
凝集防止剤や界面活性剤の使用量が上記範囲であると、分散媒(水)の除去処理工程、その後の経時等で、凝集し難くなり、保存安定性が良くなる。
【0119】
凝集防止処理中の撹拌は、特に限定はないが、例えば、ハンドミキサー等による撹拌が挙げられる。撹拌速度は、特に限定はないが、300~1200rpmが好ましく、500~1000rpmが特に好ましい。
凝集防止処理の温度は、特に限定はないが、20℃~100℃が好ましく、40℃~90℃がより好ましく、60℃~80℃が特に好ましい。
【0120】
<<水除去処理>>
(1)カーボンナノファイバー群を粉末として得るためには水除去処理を行う。
ただし、ベース材料中に分散させる(1)カーボンナノファイバー群は、湿式粉砕後のスラリーに含有されているカーボンナノファイバー群でもよく、上記凝集防止処理をした後のスラリーに含有されているカーボンナノファイバー群でもよく、該スラリーから水を除去した後の粉末状のカーボンナノファイバー群でもよい。
上記何れの状態の(1)カーボンナノファイバー群であっても、(2a)鱗片状グラファイト又は(2b)略球状炭素粒子と併用し、電導性組成物として、種々の用途に使用することができる。
【0121】
水除去処理における方法は、特に限定はなく、減圧及び/又は昇温によって行うことができる。サイクロン分離回収方法で半ドライアップした後、オーブン内で減圧及び/又は昇温によって水を除去(乾燥)させることが特に好ましい。
水除去処理の温度は、特に限定はないが、40℃~160℃が好ましく、70℃~130℃が特に好ましい。
【0122】
更に、界面活性剤を除去するため、400℃程度で焼成することも好ましい。
本発明の製造方法で製造されるカーボンナノファイバー群を構成するカーボンナノファイバーは、該カーボンナノファイバー自体の分散性が良いので、その表面に分散剤や界面活性剤が付着していないものであることも好ましい。
【0123】
前記した凝集防止処理を、上記水除去処理の後に行うことも好ましい。すなわち、前記した凝集防止剤や界面活性剤を、上記水除去処理の後の、濃縮されたスラリー又は粉末に配合することも好ましい。
【0124】
前記(1)カーボンナノファイバー群は、体積抵抗率が2×10-3Ω・cm以下のものであることが好ましく、7×10-4Ω・cm以下のものであることがより好ましく、4×10-4Ω・cm以下のものであることが特に好ましい。
ここで、体積抵抗率は、JIS R 7222 黒鉛素材の物理特性測定方法に従って測定し、そのように測定したものとして定義される。
【0125】
前記製造方法によれば、上記体積抵抗率のもの(電導度のもの)は製造可能である。
そして、上記体積抵抗率の(1)カーボンナノファイバー群は、後記する(2a)鱗片状グラファイト群又は(2b)略球状炭素粒子群と併用することで、相乗的に電導性(特に体積電導度)を上げて、前記した効果を奏し易くできる。言い換えれば、抵抗率(特に体積抵抗率)を下げて、前記した効果を奏し易くできる。
【0126】
前記製造方法で製造された粉末状の(1)カーボンナノファイバー群は、固形化したものであっても、樹脂エマルジョンや樹脂等のベース材料自体に、容易に分散し凝集せず拡散して電導性組成物を得ることができる。図7に、最終の(1)カーボンナノファイバー群のSEM写真を示す。
該樹脂としては、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂が挙げられ、2液性の熱硬化性樹脂においては、主剤にでも硬化剤にでも良好に分散する。
【0127】
[(2a)鱗片状グラファイト群]
本発明の電導性組成物は、以下の(1)及び「(2a)又は(2b)」の炭素質物群をベース材料中に何れも分散状態で含有してなるものであることを特徴とする。
前記した(1)カーボンナノファイバー群
下記する(2a)鱗片状グラファイト群
後記する(2b)略球状炭素粒子群
【0128】
ここで、(2a)鱗片状グラファイト群は、鱗片状グラファイトのベーサル面での最大差し渡し長さの数平均値をD1、最小差し渡し長さの数平均値をD2としたとき、D1及びD2が何れも1μm以上300μm以下であって、D1/D2が3以下であり、かつ、鱗片状グラファイトの数平均厚さをdとしたときに、数平均アスペクト比[(D1+D2)/2]/dが10以上であることが必須である。
【0129】
ここで、上記「最小差し渡し長さ」とは、上記「最大差し渡し長さ」を与える線分の中点を通ることを条件としたベーサル面での最小の差し渡し長さのことを言う。
D1及びD2は、何れも1μm以上300μm以下であることが必須であるが、D1については、2μm以上300μm以下が好ましく、3μm以上100μm以下がより好ましく、4μm以上30μm以下が特に好ましい。
また、D2については、1μm以上100μm以下が好ましく、1.5μm以上50μm以下がより好ましく、2μm以上30μm以下が特に好ましい。
【0130】
D1/D2は3以下が必須であるが、2以下が好ましく、1.7以下がより好ましく、1.4以下が特に好ましい。
【0131】
dについては、数平均アスペクト比[(D1+D2)/2]/dが下記する範囲を満たすようなdであれば特に限定はないが、3nm以上1000nm以下が好ましく、5nm以上500nm以下がより好ましく、7nm以上300nm以下が特に好ましい。
【0132】
数平均アスペクト比[(D1+D2)/2]/dは、10以上が必須であるが、50以上が好ましく、100以上がより好ましく、300以上が更に好ましく、700以上が特に好ましい。
【0133】
D1、D2、D1/D2、d、[(D1+D2)/2]/dが上記範囲であれば、前記した(1)カーボンナノファイバー群と併用することで、相乗的に電導性(特に体積電導度)を上げて、前記した効果を奏し易くできる。言い換えれば、抵抗率(特に体積抵抗率)を下げて、前記した効果を奏し易くできる。
具体的には、上記範囲であれば、前記した(1)カーボンナノファイバー群のカーボンナノファイバーの1本1本が、ベーサル面に接触して導通を確保し、それが重なりつつ連なって、全体的に接触して導通することで、相乗的に電導性を上げる(抵抗率を下げる)ことが可能である。
なお、dの下限と、[(D1+D2)/2]/dの上限は、製造のし易さ、入手のし易さ、安定性等からも限定される。
【0134】
鱗片状グラファイト(flake graphite)は、天然の若しくは天然のものを粉砕した鱗片状黒鉛でもよいし、合成のものでもよいし、天然のものを物理的又は化学的に加工したもの(半合成品)でもよい。天然黒鉛の産地は、中国、インド、ブラジル、ウクライナ、日本等、特に限定はない。結晶性が高いものが好ましく、ベーサル面に平行方向と直角方向とで、電導性等の物性に異方性が大きいものが好ましい。
【0135】
(2a)鱗片状グラファイトとしては、天然黒鉛、人造黒鉛、グラフェン等が挙げられ、特に好ましくは、人造黒鉛、グラフェン等が挙げられる。
また、上記要件を満たすものであれば、市販品も使用することができる。
【0136】
(2a)鱗片状グラファイト群は、体積抵抗率が1×10-3Ω・cm以下のものであることが好ましく、5×10-4Ω・cm以下のものであることがより好ましく、1.5×10-4Ω・cm以下のものであることが特に好ましい。上記「(2a)鱗片状グラファイト群の体積抵抗率」は、ベーサル面(A-B面)での測定値である。
ここで、体積抵抗率は、前記「(1)カーボンナノファイバー群」の個所に記載した方法に従って測定し、そのように測定したものとして定義される。
【0137】
上記体積抵抗率の(2a)鱗片状グラファイト群は、前記(1)カーボンナノファイバー群と併用することで、相乗的に電導性(特に体積電導度)を上げて、前記した効果を奏し易くできる。言い換えれば、抵抗率(特に体積抵抗率)を下げて、前記した効果を奏し易くできる。
【0138】
[(2b)略球状炭素粒子群]
本発明の電導性組成物は、以下の(1)及び「(2a)又は(2b)」の炭素質物群をベース材料中に何れも分散状態で含有してなるものであることを特徴とする。
前記した(1)カーボンナノファイバー群
上記した(2a)鱗片状グラファイト群
下記する(2b)略球状炭素粒子群
【0139】
ここで、(2b)略球状炭素粒子群は、略球状炭素粒子の最大直径の数平均値をL1、最小直径の数平均値をL2としたとき、L1/L2が3以下であることが必須である。
【0140】
ここで、上記「最小直径」とは、上記「最大直径」を与える線分の中点を通ることを条件とした最小の直径(差し渡し長さ)のことを言う。
【0141】
L1は、5nm以上200nm以下がより好ましく、10nm以上100nm以下が特に好ましい。
L2は、5nm以上100nm以下が好ましく、10nm以上70nm以下がより好ましく、20nm以上50nm以下が特に好ましい。
【0142】
L1/L2は3以下が必須であるが、2以下が好ましく、1.7以下がより好ましく、1.4以下が特に好ましい。
【0143】
L1、L2、L1/L2が上記範囲であれば、前記した(1)カーボンナノファイバー群と併用することで、相乗的に電導性(特に体積電導度)を上げて、前記した効果を奏し易くできる。言い換えれば、抵抗率(特に体積抵抗率)を下げて、前記した効果を奏し易くできる。
具体的には、上記範囲であれば、前記した(1)カーボンナノファイバー群のカーボンナノファイバー同士が、略球状炭素粒子を介して接触し、直接接触していないカーボンナノファイバー群のカーボンナノファイバーを繋いで導通を確保し、連なって接続することで、相乗的に電導性を上げる(抵抗率を下げる)。
【0144】
略球状炭素粒子は、天然のものでもよいし、合成のものでもよいし、天然のものを要すれば粉砕し物理的又は化学的に加工したもの(半合成品)でもよい。また、鱗片状グラファイトを物理的又は化学的に球状化したものでもよい。天然由来のものの場合、産地等は、特に限定はない。
【0145】
(2b)略球状炭素粒子群としては、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、ケッチェンブラック等が挙げられ、特に好ましくは、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等が挙げられる。
また、上記要件を満たすものであれば、市販品も使用することができる。市販品としては、(高)導電性カーボンブラック等として市販されているものが好ましく、具体的には、例えば、ケッチェンブラック等が挙げられる。
【0146】
上記体積抵抗率の(2b)略球状炭素粒子群は、前記(1)カーボンナノファイバー群と併用することで、相乗的に電導性(特に体積電導度)を上げて、前記した効果を奏し易くできる。言い換えれば、抵抗率(特に体積抵抗率)を下げて、前記した効果を奏し易くできる。
【0147】
[ベース材料]
本発明の電導性組成物では、ベース材料は、特に限定はされず、具体的には、樹脂等の有機物;ガラス、セラミックス、金属、合金等の無機物;等が挙げられる。
<ベース樹脂>
特に好ましいベース材料は、樹脂であり、該樹脂としては、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0148】
該熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、熱可塑性ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、アクリロニトリルスチレン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、(変性)ポリフェニレンエーテル、ポリエステル、環状ポリオレフィン、ポリフェニレンスルファイド、ポリテトラフロロエチレン、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリアリレート、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性ポリイミド、及び、ポリアミドイミドからなる群より選ばれた1種以上の熱可塑性樹脂であることが特に好ましい。
【0149】
樹脂が樹脂エマルジョンの形態になっているときは、該樹脂としては、限定はされないが、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン・(無水)マレイン酸樹脂、ウレタン樹脂等が、特に炭素質物群分散性が良いものとして挙げられる。
【0150】
本発明における前記したカーボンナノファイバー(群)は、熱可塑性樹脂に好適に分散されて、他のカーボンナノファイバー(群)に比べて、前記したように、熱的・機械的・電気的に優れた効果を奏する。特に、(2a)鱗片状グラファイト群又は(2b)略球状炭素粒子群と併用して電導性が相乗的に高くなる電導性組成物を得ることができる。
【0151】
該熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂(ウレア樹脂)、不飽和ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、熱硬化性ポリウレタン、及び、熱硬化性ポリイミドからなる群より選ばれた1種以上の熱硬化性樹脂であることが特に好ましい。
【0152】
本発明における前記した(1)カーボンナノファイバー(群)は、熱硬化性樹脂の(官能基を有する未反応樹脂を含有する)主剤、及び/又は、(該官能基を架橋・反応・重合させる)硬化剤に、好適に分散されて、他のカーボンナノファイバー(群)に比べて、前記したように、熱的・機械的・電気的に優れた効果を奏する。特に、(2a)鱗片状グラファイト群又は(2b)略球状炭素粒子群と併用されて電導性が高い電導性組成物を得ることができる。
【0153】
<その他の成分>
本発明の電導性組成物、「本発明の電導性組成物」を有してなる成型体若しくは塗膜又は電導性組成物形成用塗料には、本発明の効果が得られる範囲で、必要に応じて、「その他の成分」を含有することができる。
【0154】
該「その他の成分」としては、例えば、無機顔料、有機染料等の着色剤;酸化防止剤;造核剤等の結晶化調節剤;ワックス等の離型剤;滑剤;帯電防止剤;光安定剤;紫外線吸収剤;無機フィラー、有機フィラー等の粒子;各ベース材料用の加工助剤;難燃剤;可塑剤等が挙げられる。これらの「その他の成分」は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、その含有量は、適宜決められる。
【0155】
[各炭素質物群のベース材料を含有する電導性組成物中の濃度と各炭素質物群の混合比]
(1)カーボンナノファイバー群、及び、(2a)鱗片状グラファイト群又は(2b)略球状炭素粒子群は、ベース材料に含有させて電導性組成物を構成させるが、各炭素質物群の電導性組成物全体に対する濃度は、電導性が相乗的に上がれば特に限定はない。
すなわち、ベース材料が有機物質か無機物質かに依存し、該有機物質が樹脂の場合には、該樹脂の種類にも依存する。また、該電導性組成物を含有してなるものが、成型体であるか塗膜であるかにも依存し、重要な電導性が、体積電導度(体積抵抗率)であるか、表面電導度(表面抵抗)であるかにも依存する。
【0156】
ただ、何れにおいても、下記範囲が好ましい。
総炭素量(炭素質物の合計量)は、電導性組成物全体、成型体全体又は塗膜全体に対して、6質量%以上90質量%以下が好ましく、10質量%以上85質量%以下がより好ましく、15質量%以上65質量%以下が更に好ましく、20質量%以上55質量%以下が特に好ましい。
【0157】
(1)カーボンナノファイバー群は、電導性組成物全体、成型体全体又は塗膜全体に対して、6質量%以上90質量%以下が好ましく、10質量%以上85質量%以下がより好ましく、14質量%以上65質量%以下が特に好ましい。
(2b)略球状炭素粒子群を使用しない場合、(2a)鱗片状グラファイト群は、電導性組成物全体に対して、5質量%以上60質量%以下が好ましく、10質量%以上50質量%以下がより好ましく、15質量%以上40質量%以下が特に好ましい。
(2a)鱗片状グラファイト群を使用しない場合、(2b)略球状炭素粒子群は、電導性組成物全体に対して、3質量%以上20質量%以下が好ましく、4質量%以上15質量%以下がより好ましく、5質量%以上10質量%以下が特に好ましい。
(2a)鱗片状グラファイト群と(2b)略球状炭素粒子群とを共に使用して、(1)カーボンナノファイバー群と併用する場合、(2a)鱗片状グラファイト群と(2b)略球状炭素粒子群の合計質量は、電導性組成物全体に対して、3質量%以上40質量%以下が好ましく、4質量%以上20質量%以下がより好ましく、5質量%以上15質量%以下が特に好ましい。
【0158】
各炭素質物群の混合比は、以下が望ましい。
すなわち、(2a)鱗片状グラファイト群、又は、(2b)略球状炭素粒子群は、「(1)カーボンナノファイバー群を含めた炭素質物群」全体(総炭素量)に対して、3質量%以上50質量%以下で含有することが好ましく、5質量%以上45質量%以下で含有することがより好ましく、10質量%以上40質量以下で含有することが更に好ましく、15質量%以上35質量以下で含有することが特に好ましい。
【0159】
本発明の電導性組成物は、特に限定はされないが、そこに含有される(1)カーボンナノファイバー等の炭素質物に対して、あえて外部から配向処理を加えないで製造したものが好ましい。本発明においては、配向を目的とした配向処理を加えなくても体積抵抗率を混合によって下げることができる(極小値をとるようにできる)。
すなわち、(1)カーボンナノファイバー、(2a)鱗片状グラファイト、(2b)略球状炭素粒子は、本発明の電導性組成物の中で、自ずから配向して分散していてもよく、ランダムに分散していてもよい。炭素質物は、外部から配向を目的とした処理を加えなくても、塗布、混錬等によって配向することがあり、そのような配向は本発明の好ましい態様として含まれる。
【0160】
[併用による電導性組成物等の電導性の増加と電導性(体積抵抗率)の絶対値]
本発明の電導性組成物は、ベース樹脂中に2種以上の炭素質物群が混合分散(併用分散)されてなるものであるが、「単独分散に比較して併用分散で電導性が上がる」とは、前記「発明の効果」に記載したように定義される。
【0161】
そして、本発明の好ましい態様は、ベース材料全体に対して、前記(1)カーボンナノファイバー群[A×r]質量%と、「前記(2a)鱗片状グラファイト群及び/又は前記(2b)略球状炭素粒子群」「B×(1-r)」質量%(rは0より大きく1より小さい実数である)とを、該ベース材料に共分散させることによって、
前記(1)カーボンナノファイバー群のみをA質量%分散させた組成物より電導度を高くし、かつ、
「前記(2a)鱗片状グラファイト群及び/又は前記(2b)略球状炭素粒子群」のみをB質量%分散させた組成物より電導度を高くしたものである前記の電導性組成物である。
【0162】
上記「r」は、0.30~0.98が好ましく、0.40~0.94がより好ましく、0.50~0.90が更に好ましく、0.60~0.86が特に好ましい。
この範囲であれば、「発明の効果」で前記した効果を奏し易くなる。あるいは、この範囲に、「発明の効果」に記載した「混合による電導率の最大値(体積抵抗率の最小値)」が現出する。
【0163】
上記の「好ましい態様」を満たした上で、前記した各炭素質物群の「ベース材料を含有する電導性組成物」中の濃度、及び/又は、各炭素質物群の混合比を満たした組成物が好ましい。
【0164】
種々の物性を考慮して最適量の「(1)カーボンナノファイバー群、及び、(2a)鱗片状グラファイト群若しくは(2b)略球状炭素粒子群」を、絶縁体である好適なベース樹脂に分散含有させてなる電導性組成物(固体)の体積抵抗率は、0.01~100[Ω・cm]となる。より最適化することで、0.1~10[Ω・cm]とでき、更に最適化することで、0.5~1[Ω・cm]とできる。
【0165】
本発明の電導性組成物は、特に、そこに含まれる(1)カーボンナノファイバー群に最大の特徴があり、(1)カーボンナノファイバー群の特殊性によって、「炭素質物が混合分散された電導性組成物」の電導性を相乗的に高くするものであるが、単独での電導性に関しては、(2a)鱗片状グラファイト群又は(2b)略球状炭素粒子群の方が、(1)カーボンナノファイバー群よりも高くてもよい。
【0166】
[成型体若しくは塗膜又は電導性組成物形成用塗料]
本発明の電導性組成物は、それを含有させて成型体若しくは塗膜とすることができ、該成型体や塗膜も、炭素質物の単独使用(含有)よりも、相乗的に電導性が向上する。
また、本発明の電導性組成物と液体分散媒とを含有してなる塗料は、それを用いて塗膜を形成すれば、該塗膜は、炭素質物の単独使用(含有)よりも、相乗的に電導性が向上する。
【0167】
上記成型体や塗膜の製造方法は、特に限定はないが、射出成型、押出成型、ブロー(空中)成型、真空成型、圧空成型、圧延成型、注型成型、圧縮成型、塗料の塗布乾燥、塗料への含浸等が挙げられる。必要ならば、成型前に組成物を、混錬機(ニーダー)、ミキサー等で混錬することもできる。
【0168】
また、塗料の製造方法としては、特に限定はないが、電導性組成物((1)カーボンナノファイバー群;(2a)鱗片状グラファイト群又は(2b)略球状炭素粒子群;ベース材料;及び;「その他の成分」)、液体分散媒、及び、必要に応じて塗料用添加剤等を容器に入れ、撹拌機等で、該液体分散媒に、混合撹拌・分散させて、該塗料を得ることができる。
【0169】
[用途]
本発明の電導性組成物は、成型体若しくは塗膜又は塗料として、好適に使用できるが、更に、本発明の電導性組成物は、炭素繊維、ガラス繊維、有機繊維等で織られた若しくは編まれた布(シート)の網目等に含浸・侵入させて、繊維強化プラスチック(FRP)(fiber reinforced plastics)と言う成型体の形態で使用することもできる。すなわち、本発明の電導性組成物は、繊維強化プラスチック(FRP)のマトリックス樹脂としても好適に使用できる。
【0170】
本発明の電導性組成物を有してなる、成型体若しくは塗膜、塗料、繊維強化プラスチック(FRP)等は、電導性を必要とする用途・分野;電導性が高いために生じる種々の電磁波吸収用途・分野等、種々の用途・分野に好適に利用される。
【0171】
[作用・原理]
本発明において、炭素質物の併用によって、それらを含有する電導性組成物(やその成型体や塗膜)の電導度が相乗的に上がった(又は、体積抵抗率が相乗的に下がった)作用・原理は、特に明確でないが、以下のように考えられる。
すなわち、本発明における前記(1)カーボンナノファイバー群は、アスペクト比が大きいにもかかわらず分散性が極めて良いため、ベース材料中で、カーボンナノファイバーが1本1本に解れ、鱗片状グラファイト(のベーサル面)や略球状炭素粒子(の表面)に接触して、それらを絡み合わせて導通を得ることができたためと考えられる。
すなわち、直接接触していない鱗片状グラファイト同士や略球状炭素粒子同士を、アスペクト比が大きく分散性の良いカーボンナノファイバーが繋いで導通を確保しつつ連なることで、相乗的に電導性を上げた(抵抗率を下げた)と考えられる。
【実施例0172】
以下に、製造例、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限りこれらに限定されるものではない。
【0173】
製造例1
[(1)カーボンナノファイバー群の原料となる炭素繊維]
<乾式粉砕>
サイジング処理がされていないランダム型メソフェーズピッチ系炭素繊維である「約6mmのチョップドファイバー」を、前粉砕をせずに、図9に示したような、「ブレードを持った剪断と衝撃による粉砕機」を用いて、直径10μm、かつ、長さについては、10μm~40μmの範囲に全体の90個数%が入るように、1000gを、10分かけて、30℃で乾式粉砕を行った。
【0174】
<湿潤処理>
乾式粉砕された炭素繊維(例えば、図5(a)(b))で、加熱処理を行っていないもの100質量部;湿潤剤(界面活性剤)1質量部;及び;精製水1500質量部を混合し撹拌して、スラリーを得た。
ここで、上記湿潤剤(界面活性剤)は、酸基を有する化合物のアンモニウム塩とした。
【0175】
上記スラリーを、30℃で、10分間、ハンドミキサーで、800rpmで撹拌させることで、湿潤処理を行った。
【0176】
<湿式粉砕>
容積0.6Lのビーズミルを用い、ビーズの直径0.3mmφ、ビーズ充填量60%、ベッセルモーター回転数1500rpm、循環ポンプはチューブ式ポンプを用い、移送量毎分500mLで、上記で得たスラリー4Lを90分以上循環させた。
【0177】
<凝集防止処理>
得られたスラリーを、3500mLだけ、上記ビーズミルの容器から別容器に移した後、凝集防止剤として、コブロックポリマーを、スラリー全体(3500mL)に対して、0.01質量%を添加した。
添加後、常温(15~25℃)にて、ハンドミキサーを用いて800rpmで5分間撹拌して、凝集防止処理を行った。
【0178】
<水除去処理>
加熱と減圧を加えて、サイクロン分離回収方法で、半ドライアップしたものを回収し、120℃のオーブンで、240分間加熱して、水を除去して、固体状のカーボンナノファイバー群を調製した。
【0179】
<製造例1で得られたカーボンナノファイバー群の評価>
得られた固体状の(1)カーボンナノファイバー群、及び、水除去処理前の分散液(スラリー)中のカーボンナノファイバー群を、光学顕微鏡及び走査型電子顕微鏡で観測して前記のように測定したところ、直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下のカーボンナノファイバーが、上記範囲に全体の90個数%が分布している(1)カーボンナノファイバー群が得られた。
【0180】
上記のようにして得られた(1)カーボンナノファイバー群に含有されているカーボンナノファイバーの数平均直径は700nmであり、数平均長さは5μmであり、数平均アスペクト比は7であった。
【0181】
得られた固体状の(1)カーボンナノファイバー群を、アクリル樹脂の水性エマルジョン、スチレン・(無水)マレイン酸樹脂の水性エマルジョン、ポリウレタン樹脂の水性エマルジョンに、それぞれ投入し、通常に撹拌することで、固体状の(1)カーボンナノファイバー群から、カーボンナノファイバーが、略1本ずつ好適に水中に分散した。分散中に凝集せず、経時でも凝集しなかった。
【0182】
また、得られた固体状のカーボンナノファイバー群を、汎用のあらゆる熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とし、該樹脂中に常用の混錬機(ニーダー)を用いて分散させたところ、略1本ずつ好適にマトリックス樹脂中に分散した。
【0183】
また、得られた固体状のカーボンナノファイバー群を、汎用のあらゆる熱硬化性樹脂の硬化剤側に、常用の撹拌機を用いて分散させたところ、略1本ずつ好適に硬化剤中に分散した。
カーボンナノファイバーが分散した硬化剤と、エポキシ樹脂又はウレタン樹脂をそれぞれ含有する主剤とを混合したところ、何れも分散が保持され凝集せずに、熱硬化性樹脂として好適に使用できた。
【0184】
原料として、ランダム型メソフェーズピッチ系炭素繊維に代えて、等方性ピッチ系炭素繊維、ラジアル型メソフェーズピッチ系炭素繊維、オニオン型メソフェーズピッチ系炭素繊維を使用した以外は、製造例1と同様にして、カーボンナノファイバー群を調製した。
【0185】
「直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下、好ましくは数平均アスペクト比が3以上のカーボンナノファイバー」の製造し易さは、以下の通りであった。
なお、「>>」「>」「≒」に関しては、上(左)に行く程、優れていることを示す。また、優劣の程度も、「>>」「>」「≒」で示す。
ランダム型メソフェーズピッチ系炭素繊維
>>ラジアル型メソフェーズピッチ系炭素繊維
≒ オニオン型メソフェーズピッチ系炭素繊維
>>PAN系炭素繊維
【0186】
また、分散性、分散安定性、高濃度分散性、熱的特性、機械的特性、及び、電気的特性についても、概ね上記の順番であった。また、優劣の程度も、上記「>>」「>」「≒」のようであった。
【0187】
製造例2
製造例1において、原料を、チョップドファイバーに代えて、直径10μm、長さ70μmのミルドファイバーを用いた以外は、製造例1と同様にして、(1)カーボンナノファイバー群を得た。
【0188】
上記のようにして得られた(1)カーボンナノファイバー群は、「直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下の範囲」に、カーボンナノファイバー全体の90個数%が分布していた。
また、そこに含有されているカーボンナノファイバーの数平均直径は700nmであり、数平均長さは5μmであり、数平均アスペクト比は7であった。
【0189】
長さが約1μmと言った短いものが多く混在したため、数平均アスペクト比が小さくなる傾向があったが、良好にカーボンナノファイバー群が得られ、分散性等の評価も良好であった。
【0190】
製造例3
製造例1の「6mmのチョップドファイバー」に代えて、原料として、長繊維ボビンタイプを用いた。
【0191】
上記のようにして得られた(1)カーボンナノファイバー群は、「直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下の範囲」に、カーボンナノファイバー全体の90個数%が分布していた。
また、そこに含有されているカーボンナノファイバーの数平均直径は700nmであり、数平均長さは5μmであった。
【0192】
カッターミルでの前粉砕が必要であったが、製造例1と同様にして、良好に(1)カーボンナノファイバー群が得られ、分散性等の評価も良好であった。
【0193】
製造例4
製造例1の乾式粉砕の段階で、「ブレードを持った剪断と衝撃による粉砕機」に代えて、ジェットミル、サイクロンミル、トルネードミル、ドリームミルと言った、インペラ、ブレード等で粉砕しない(又はインペラ等を使用していない)全気流式粉砕機を用いた以外は、製造例1と同様に処理した。
【0194】
上記のようにして得られた(1)カーボンナノファイバー群は、「直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下の範囲」に、カーボンナノファイバー全体の90個数%が分布していた。
また、そこに含有されているカーボンナノファイバーの数平均直径は700nmであり、数平均長さは5μmであった。
【0195】
好適に(1)カーボンナノファイバー群が得られ、分散性等の評価も良好であったが、若干、乾式粉砕の段階で、数平均アスペクト比が小さくなる傾向があり、次の湿式粉砕を行った後も、数平均アスペクト比が小さくなる傾向が若干残存した。
【0196】
製造例5
製造例1において、サイジング処理がされていないランダム型メソフェーズピッチ系炭素繊維に代えて、サイジング処理がされているランダム型メソフェーズピッチ系炭素繊維を原料として用い、更に、乾式粉砕後に加熱処理を行った以外は、製造例1と同様にして、カーボンナノファイバー群を得た。
加熱処理は、電気炉内で、温度400℃で10分間、加熱した。
【0197】
原料に含まれていたエポキシ樹脂が、0.01質量%以下にまで減少した。その結果、フィラメント内に(素フィラメント同士の隙間に)、界面活性剤(湿潤剤)が効果的に入っていって、好適に数平均アスペクト比の大きいカーボンナノファイバーができた。
【0198】
上記のようにして得られた(1)カーボンナノファイバー群は、「直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下の範囲」に、カーボンナノファイバー全体の90個数%が分布していた。
また、そこに含有されているカーボンナノファイバーの数平均直径は700nmであり、数平均長さは5μmであった。
【0199】
製造例6
製造例1において、湿潤処理を行わず、その代わりに、製造例1で湿潤処理に用いた湿潤剤(界面活性剤)と同一のものを、湿式粉砕において界面活性剤として配合した。
それ以外は、製造例1と同様にして、カーボンナノファイバー群を得た。
【0200】
上記のようにして得られた(1)カーボンナノファイバー群は、「直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下の範囲」に、カーボンナノファイバー全体の90個数%が分布していた。
また、そこに含有されているカーボンナノファイバーの数平均直径は700nmであり、数平均長さは5μmであった。
【0201】
若干、製造例1より、湿潤剤(界面活性剤)の効果が下がり、数平均アスペクト比が小さくなる傾向ではあったが、良好にカーボンナノファイバー群が得られ、分散性等の評価も良好であった。
【0202】
製造例7
製造例6において使用した界面活性剤(製造例1で湿潤処理に用いた湿潤剤(界面活性剤))に代えて、カルボベタイン型、イミダゾリン型、アミドベタイン型、アミドスルホベタイン型、又は、アミドアミンオキシド型の両性界面活性剤を用いた以外は、製造例6と同様にして、複数種類のカーボンナノファイバー群を得た。両性界面活性剤を用いたものは、硬水及び幅広いpH領域で高い起泡性を示し良好であった。
カルボベタイン型の両性界面活性剤としては、ソフタゾリン(川研フィンケミカル株式会社製)を用いた。
【0203】
上記のようにして得られた(1)カーボンナノファイバー群は、「直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下の範囲」に、カーボンナノファイバー全体の90個数%が分布していた。
また、そこに含有されているカーボンナノファイバーの数平均直径は700nmであり、数平均長さは5μmであった。
【0204】
製造例1や製造例6と同様に、良好にカーボンナノファイバー群が得られ、分散性等の評価も良好であった。
【0205】
製造例8
製造例5の原料を用い、製造例1において、凝集防止処理を行わなかった以外は、製造例1及び製造例5と同様にして、カーボンナノファイバー群を得た。
【0206】
上記のようにして得られた(1)カーボンナノファイバー群は、「直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下の範囲」に、カーボンナノファイバー全体の90個数%が分布していた。
また、そこに含有されているカーボンナノファイバーの数平均直径は700nmであり、数平均長さは5μmであった。
【0207】
何れも良好に(1)カーボンナノファイバー群が得られ、分散性等の評価も良好であった。ただ、得られたカーボンナノファイバー分散液は、製造例1で得られた分散液より、経時で若干凝集する方向であったが、問題にならないレベルであった。
【0208】
製造例9
製造例1において、水除去処理を行わず、カーボンナノファイバー分散液を得た。分散性に優れ、分散液のまま次の用途に提供することができた。
【0209】
上記のようにして得られた(1)カーボンナノファイバー群は、「直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下の範囲」に、カーボンナノファイバー全体の90個数%が分布していた。
また、そこに含有されているカーボンナノファイバーの数平均直径は700nmであり、数平均長さは5μmであった。
【0210】
製造例10
製造例1の凝集防止処理において、製造例1で用いた複合金属キレートに代えて、陰イオン界面活性剤である高縮合ナフタレンスルホン酸ナトリウムを、スラリー全体(3500mL)に対して5質量%添加した。すなわち、対象物100質量部に対して50質量部を添加した。それ以外は製造例1と同様にして、カーボンナノファイバー群を得た。
【0211】
上記のようにして得られた(1)カーボンナノファイバー群は、「直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下の範囲」に、カーボンナノファイバー全体の90個数%が分布していた。
また、そこに含有されているカーボンナノファイバーの数平均直径は700nmであり、数平均長さは5μmであった。
【0212】
良好に(1)カーボンナノファイバー群が得られ、分散性等の評価も分散安定性の評価も良好であった。
【0213】
製造例11
製造例1と製造例10において、凝集防止処理と水除去処理の順番を逆にして、水除去処理を行って濃厚なスラリー又は粉末とした対象物に、製造例10の「陰イオン界面活性剤である界面活性剤」、又は、製造例1の「凝集防止剤である複合金属キレート」を配合した以外は、製造例1と製造例10と同様にして、カーボンナノファイバー群を得た。
【0214】
上記のようにして得られた(1)カーボンナノファイバー群は、「直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下の範囲」に、カーボンナノファイバー全体の90個数%が分布していた。
また、そこに含有されているカーボンナノファイバーの数平均直径は700nmであり、数平均長さは5μmであった。
【0215】
良好に(1)カーボンナノファイバー群が得られ、分散性等の評価も分散安定性の評価も良好であった。
【0216】
製造例12
製造例1において、湿式粉砕を行わずに乾式粉砕だけで、カーボンナノファイバーを得ようとしたが、直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下のカーボンナノファイバーが、上記範囲に全体の50個数%以上が分布しているカーボンナノファイバー群が得られ難かった。
また、そこに含有されているカーボンナノファイバーの数平均直径は7000nmであり、数平均長さは、150μmであった。
【0217】
製造例13
製造例1において、乾式粉砕を行わずに湿式粉砕だけで、カーボンナノファイバーを得ようとしたが、粉砕がなかなか進行せず、直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下のカーボンナノファイバーが、上記範囲に全体の50個数%以上が分布しているカーボンナノファイバー群が得られ難かった。
【0218】
実施例1
<[(1)+(2a)]/ポリイミド>
熱硬化性のポリイミドワニス(宇部興産株式会社製、U-ワニス-A(登録商標))を、ポリイミドとして70質量部となる量だけ用意した。
上記の量のポリイミドワニス(ポリイミドを70質量部含有している量)に、製造例2で得られた(1)カーボンナノファイバー群を、固体として30質量部加え、更に分散媒であるNMP(N-メチルピロリドン)を加え、室温で、自公転式撹拌機を用いて撹拌して(1)カーボンナノファイバー群を分散させた。
得られたものを、「CNF30%」と略記する。
【0219】
一方、上記したポリイミドワニスを、ポリイミドとして90質量部となる量だけ用意した。
上記の量のポリイミドワニス(ポリイミドを90質量部含有している量)に、「鱗片状グラファイト」として販売されている(2a)鱗片状グラファイト群(図15図16にSEM写真を示す)を、固体として10質量部加え、同様に分散させた。
得られたものを、「GRF10%」と略記する。
【0220】
ここで用いた、上記「鱗片状グラファイト」は、ベーサル面での最大差し渡し長さの数平均値をD1、最小差し渡し長さの数平均値をD2としたとき、D1及びD2が何れも10μmであり、D1/D2が1であった。すなわち、ベーサル面を見たときに、ゆがみ(縦横に方向性)がなく、略正円であった。
また、その数平均厚さをdとしたときに、dは13nmであり、従って、数平均アスペクト比[(D1+D2)/2]/dは770であった。
【0221】
「CNF30%」と「GRF10%」とを、0質量部/1質量部から、1質量部/0質量部まで、図10(a)(b)の横軸に示す混合比で段階的に振って塗料を調製した。
得られた塗料を、体積抵抗率の測定用に、乾燥膜厚50μmとなるように、バーコーターを用いてガラス基板上に塗布して、その後、200℃で加熱乾燥させて塗膜を形成させた。該塗膜は、本発明における「電導性組成物」でもあり、「成型体」でもある。
【0222】
得られた塗膜(電導性組成物)に対して、体積抵抗率の測定を、JIS・K・7194「導電性プラスチックの4探針法による抵抗率試験方法」に準拠して行った。
【0223】
結果を、表1及び図10(a)(b)に示す。本明細書及び図面において、塗膜(電導性組成物)全体に対して含有されている炭素質物の合計質量%を、「総炭素量[質量%]」と記載することがある。
図10(a)(b)では、「CNF30%」/「GRF10%」=0質量部/1質量部を、横軸の左端にとり、「CNF30%」/「GRF10%」=1質量部/0質量部を、横軸の右端にとってある。
【0224】
【表1】
【0225】
表1及び図10(a)(b)から分かるように、「CNF30%」/「GRF10%」を0.5質量部/0.5質量部で混合して調製した塗膜の体積抵抗率は、「CNF30%」/「GRF10%」を0質量部/1質量部で混合して調製した塗膜(左端)の体積抵抗率より小さく、かつ、「CNF30%」/「GRF10%」を1質量部/0質量部で混合して調製した塗膜(右端)の体積抵抗率より小さかった。
すなわち、混合使用により(2種の炭素質物の併用)によって、何れの単独使用よりも体積抵抗率が低くなった。言い換えると、上記含有比近傍に、体積抵抗率の最小値が存在した。言い換えると、0<r<1の点に、体積抵抗率の最小値が存在した。
【0226】
実施例2
<[(1)+(2b)]/ポリイミド>
実施例1と同様の(1)カーボンナノファイバー群を用い、実施例1と同様にして、「CNF30%」を調製した。
【0227】
一方、実施例1と同じポリイミドワニスを、ポリイミドとして90質量部となる量だけ用意した。
上記の量のポリイミドワニス(ポリイミドを90質量部含有している量)に、「ケッチェンブラック(Ketjen black)」として市販されている(2b)略球状炭素粒子群を、固体として10質量部加え、ディスパー及びロールミルで分散させた。
得られたものを、「KTJ10%」と略記する。
【0228】
ここで用いた、上記「ケッチェンブラック」は、最大直径の数平均値をL1、最小直径の数平均値をL2としたとき、何れも30nmであり、L1/L2が1の略球状炭素粒子群であった。
【0229】
「CNF30%」と「KTJ10%」とを、0質量部/1質量部から、1質量部/0質量部まで、図11(a)(b)に示す混合比を段階的に振って塗料を調製した。
得られた塗料を、体積抵抗率の測定用に、乾燥膜厚50μmとなるように、バーコーターを用いて基板に塗布して、その後、乾燥させて塗膜を形成した。該塗膜は、本発明における「電導性組成物」でもあり、「成型体」でもある。
【0230】
得られた塗膜(電導性組成物)に対して、体積抵抗率の測定を、JISK7194に準拠して行った。
結果を、表2及び図11(a)(b)に示す。図11(a)(b)では、「CNF30%」/「KTJ10%」=0質量部/1質量部を、横軸の左端にとり、「CNF30%」/「KTJ10%」=1質量部/0質量部を、横軸の右端にとってある。
【0231】
【表2】
【0232】
表2及び図11(a)(b)から分かるように、「CNF30%」/「KTJ10%」を0.75質量部/0.25質量部で混合して調製した塗膜の体積抵抗率は、「CNF30%」/「KTJ10%」を0質量部/1質量部で混合して調製した塗膜(左端)の体積抵抗率より小さく、かつ、「CNF30%」/「KTJ10%」を1質量部/0質量部で混合して調製した塗膜(右端)の体積抵抗率より小さかった。
すなわち、混合使用により(2種の炭素質物の併用)によって、何れの単独使用よりも体積抵抗率が低くなった。言い換えると、0<r<1の点に、体積抵抗率の最小値が存在した。
【0233】
実施例3
<[(1)+(2a)]/ポリイミド>
実施例1、2で用いた「製造例2で得られた(1)カーボンナノファイバー群」に代えて、「製造例1、3~11で得られた(1)カーボンナノファイバー群」を用いた以外は、実施例1、2と同様に電導性組成物を調製し体積抵抗率測定用の塗膜を形成させた。
【0234】
実施例1、2と同様にして、炭素質物の混合比を振って、実施例1、2と同様の方法で体積抵抗率を測定したところ、混合部分に体積抵抗率の最低値が存在した。
製造例1、3~11で得られた(1)カーボンナノファイバー群を用いたときに、製造例2で得られた(1)カーボンナノファイバー群を用いた実施例1、2と同様に、(2a)鱗片状グラファイト又は(2b)略球状炭素粒子との併用による体積抵抗率の減少(相乗効果)が、(2a)(2b)何れとの組み合わせ場合でも顕著に見られた。
【0235】
実施例4
<[(1)+(2b)]/ポリエステル>
市販ポリエステル系のワニス(荒川塗料工業株式会社製 FS-7733(固形分:28質量%)に、実施例1、2で用いた「製造例2で得られた(1)カーボンナノファイバー群」と、「『ケッチェンブラック(Ketjen black)』として販売されている(2b)略球状炭素粒子群」との総量(炭素質物量の合計、総炭素量)を、塗膜固形分全体に対して40質量%で一定とし、その中において、(1)と(2b)の比率を振った。すなわち、樹脂60質量%と、炭素質物の合計(総炭素量)40質量%とを混合した。
【0236】
(1)カーボンナノファイバー群を塗膜固形分全体に対して40.0~27.5質量%と振って、(2b)略球状炭素粒子群を塗膜固形分全体に対して0~12.5質量%と振って、適正な粘度になるように溶剤(トルエン/酢酸ブチル=7/3)で希釈し塗料を作製した。
【0237】
ここで用いた、上記「ケッチェンブラック」は、最大直径の数平均値をL1、最小直径の数平均値をL2としたとき、何れも30nmであり、L1/L2が1の略球状炭素粒子群であった。
【0238】
上記のようにして作製した塗料を、実施例1、2と同様の方法で、乾燥膜厚で30μmになるように塗布し、得られた塗膜の体積抵抗率を同様に測定した。該塗膜は、本発明における「電導性組成物」でもあり、「成型体」でもある。
測定結果を、以下の表3及び図12に示す。
【0239】
【表3】
【0240】
表3及び図12から分かる通り、総炭素量(炭素質物量の合計)が同一でありながら、体積抵抗率が下がる点(極小となる点)が存在し、上記2種類の炭素質物の相乗効果が示された。
【0241】
導電性組成物(実施例4では「塗膜」)全体に対して、(1)カーボンナノファイバー(群)[40×r]質量%と、「(2b)略球状炭素粒子(群)「40×(1-r)」質量%(rは0より大きく1より小さい実数である)とを、該ベース材料に共分散させることによって上記導電性組成物(塗膜)が得られている。
すなわち、前記A、Bについては、A=B=40である。
【0242】
表3及び図12より明らかなように、(1)カーボンナノファイバー(群)については、40×r=35近傍に極小値がある。よって、r=35/40=0.88、である。
一方、同じことではあるが、表3及び図12より明らかなように、(2b)略球状炭素粒子(群)については、40×(1-r)=5近傍に極小値がある。
よって、1-r=5/40、r=1-5/40=35/40=0.88である。
【0243】
上記した「r=0.88の配合(炭素質物の含有割合)」における体積抵抗率は、(1)カーボンナノファイバー群のみを40質量%分散させたものより低く(電導度が高く)、かつ、(2b)略球状炭素粒子群のみを40質量%分散させたものより低く(電導度が高く)なっていた。
【0244】
比較例1
<[(1)+(2a’)数平均アスペクト比が4の(球形)鱗片状グラファイト群]
/ポリエステル>
(2a)鱗片状グラファイト群に代えて、数平均アスペクト比[(D1+D2)/2]/dが4の(2a’)(球形)鱗片状グラファイト群(図17及び図18にSEM写真を示す)を使用し塗料を作製した。
【0245】
市販ポリエステル系のワニス(荒川塗料工業株式会社製 FS-7733 固形分28質量%)に、「実施例1、2で用いた「製造例2で得られた(1)カーボンナノファイバー群」と、「(2a’)(球形)鱗片状グラファイト(株式会社NSC製モザンビーク産天然黒鉛 高純度化品 D50=9μm)」との総量(炭素質物の合計量、総炭素量)を、塗膜固形分全体に対して40質量%で一定とし、その中において、「(1)カーボンナノファイバー群」を塗膜固形分全体に対して40~30質量%に、「(2a’)(球形)鱗片状グラファイト」を塗膜固形分全体に対して0~10質量%と振って、適正な粘度になるように溶剤(トルエン/酢酸ブチル=7/3)で希釈し塗料を作製した。
【0246】
上記のようにして作製した塗料を、実施例1、2と同様の方法で、乾燥膜厚で30μmになるように塗布し、得られた塗膜の体積抵抗率を同様に測定した。
測定結果を、以下の表4及び図13に示す。
【0247】
【表4】
【0248】
表4及び図13に示す通り、実施例4と異なり、(1)カーボンナノファイバー群のみを含有する塗膜の体積抵抗率が最も低く、混合により体積抵抗率が下がる点(極小となる点)が存在せず、2種類の炭素質物の相乗効果が示されなかった。
【0249】
実施例5、比較例2
<[(1)+(2b)]/ポリエステル>
市販ポリエステル系のワニス(荒川塗料製 FS-7733 固形分28質量%)に、実施例1、2で用いた「製造例2で得られた(1)カーボンナノファイバー群」を表5の「実施例5」に示した含有量[質量%]、及び、「ケッチェンブラック(Ketjen black)」として販売されている(2b)略球状炭素粒子群」5.0質量%を配合した。
それに、表5の「実施例5」に示したように、27.5質量%~32.5質量%の(1)カーボンナノファイバー群を配合し、適正な粘度になるように、溶剤(トルエン/酢酸ブチル=7/3)で希釈して塗料を作製した。
【0250】
その塗料を、実施例1、2と同様の方法で、乾燥膜厚で30μmになるように塗布し、得られた塗膜の体積抵抗率を同様に測定した。
【0251】
比較例2として、上記実施例5において、塗膜中の総炭素量(炭素質物の量)が30質量%~50質量%になるように、(1)カーボンナノファイバー群のみを配合し、適正な粘度になるように、溶剤(トルエン/酢酸ブチル=7/3)で希釈して塗料を作製した(表5参照)。
【0252】
その塗料を、実施例1、2と同様の方法で、乾燥膜厚で30μmになるように塗布し、得られた塗膜の体積抵抗率を同様に測定した。
【0253】
その結果、(1)カーボンナノファイバー群に、(2b)略球状炭素粒子群を、塗膜中に5質量%加えたもの(実施例5)は、(1)カーボンナノファイバー群単独のもの(比較例2)より、同一の総炭素量で比較した場合、体積抵抗率が低くなった(図14参照)。
【0254】
【表5】
【0255】
実施例6
実施例2において、ベース材料を、熱可塑性樹脂であるポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、ユーピロン(登録商標)に代えた以外は、実施例2と同様に電導性組成物を調製し、体積抵抗率測定用の塗膜を形成させた。
【0256】
実施例2と同様に評価したところ、2種類の炭素質物の混合部分に体積抵抗率の最低値が存在した。
【0257】
実施例7
実施例2において、ベース材料を熱硬化性のエポキシ樹脂に代えて評価した。
すなわち、エポキシ樹脂の主剤である(三菱ケミカル株式会社製、jER828(登録商標))と、専用のエポキシ樹脂の硬化剤(同社製、jERキュアST14(登録商標))を説明書に記載の比率で混合して、ベース材料とした。
それ以外は、実施例2と同様に電導性組成物を調製し、体積抵抗率測定用の塗膜を形成させた。
【0258】
実施例2と同様に評価したところ、2種類の炭素質物の混合部分に体積抵抗率の最低値が存在した。
【産業上の利用可能性】
【0259】
本発明の電導性組成物は、そこに含有される(1)カーボンナノファイバー群が、優れた形状・サイズ・分布等と分散性の良い表面状態とを有している。また、カーボンナノファイバー1本1本の集合であり、ベース材料や分散媒への分散性が良いので、分散液、成型体、塗膜、塗料、フィルム、塗料、層(膜)、回路、粉末等の形態で、電気伝導性物体、電磁波吸収等、種々の性能が要求される種々の分野に広く利用されるものである。
【符号の説明】
【0260】
10・・・フィラメント
20・・・素フィラメント

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18