(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022115259
(43)【公開日】2022-08-09
(54)【発明の名称】マウスピース及びマウスピースの使用方法
(51)【国際特許分類】
A61C 19/06 20060101AFI20220802BHJP
【FI】
A61C19/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021011776
(22)【出願日】2021-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】593080135
【氏名又は名称】株式会社ナルコーム
(74)【代理人】
【識別番号】100160912
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 寛
(72)【発明者】
【氏名】猪俣 吾郎
(72)【発明者】
【氏名】畑井 洋之
【テーマコード(参考)】
4C052
【Fターム(参考)】
4C052AA06
4C052MM04
(57)【要約】
【課題】簡易な構造で歯のう蝕を適切に防止することができるマウスピース及びマウスピースの使用方法を提供する。
【解決手段】口腔内で装着されるマウスピースにおいて、上顎側の歯の歯列に沿って湾曲して延在して上顎側の歯の表面に接合する第1接合部と、下顎側の歯の歯列に沿って湾曲して延在して下顎側の歯の表面に接合する第2接合部と、第1接合部と第2接合部との間で上顎側の歯の咬合面と下顎側の歯の咬合面とに接合する第3接合部と、を備え、柔軟性を有する基材が折りたたまれて第1接合部、第2接合部及び第3接合部が形成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
口腔内で装着されるマウスピースにおいて、
上顎側の歯の歯列に沿って湾曲して延在して前記上顎側の歯の表面に接合する第1接合部と、
下顎側の歯の歯列に沿って湾曲して延在して前記下顎側の歯の表面に接合する第2接合部と、
前記第1接合部と前記第2接合部との間で前記上顎側の歯の咬合面と前記下顎側の歯の咬合面とに接合する第3接合部と、を備え、
柔軟性を有する基材が折りたたまれて前記第1接合部、前記第2接合部及び前記第3接合部が形成されることを特徴とするマウスピース。
【請求項2】
前記第3接合部は、
前記上顎側の歯の前記咬合面が接合する上顎側接合部及び前記下顎側の歯の前記咬合面が接合する下顎側接合部が設定されることを特徴とする請求項1に記載のマウスピース。
【請求項3】
前記第3接合部は、
前記上顎側の歯の歯列及び前記下顎側の歯の歯列に沿った切り欠きが形成されることを特徴とする請求項1または2に記載のマウスピース。
【請求項4】
前記第1接合部、前記第2接合部及び前記第3接合部に通電する導電材を備えることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のマウスピース。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のマウスピースを使用する、マウスピースの使用方法において、
第1接合部、第2接合部及び第3接合部にフッ素成分を塗布し、
該フッ素成分を塗布した前記第3接合部を上顎側の歯の咬合面と下顎側の歯の咬合面とで咬合して前記上顎側の歯の前記咬合面と前記下顎側の歯の前記咬合面とをそれぞれ前記第3接合部に接合させるとともに、前記上顎側の歯の歯列に沿って前記上顎側の歯の表面に前記第1接合部を接合させ、かつ前記下顎側の歯の歯列に沿って前記下顎側の歯の表面に前記第2接合部を接合させる、
ことを特徴とするマウスピースの使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マウスピース及びマウスピースの使用方法、特に、口腔内で装着されるマウスピース及びこのマウスピースの使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マウスピースは、歯科医療の観点からは、例えば、歯軋りによって歯が摩耗することを抑制したり、顎口腔系の異常発育を抑制したりする等の目的で用いられている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
この歯科医療の観点において、マウストレーとも称される歯の咬合面に接するプレート状のマウスピースにフッ素成分を塗布して、歯の再石灰化を促してう蝕を防止する手法が広く知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、この種のマウストレーにフッ素成分を塗布する手法では、歯の咬合面のみにしかフッ素成分を塗布することができず、歯の表面の全体に亘ってフッ素成分を塗布することができないことから、適切にう蝕を防止することができないことが懸念される。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、簡易な構造で歯のう蝕を適切に防止することができるマウスピース及びマウスピースの使用方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を達成するための本発明に係るマウスピースは、口腔内で装着されるマウスピースにおいて、上顎側の歯の歯列に沿って湾曲して延在して上顎側の歯の表面に接合する第1接合部と、下顎側の歯の歯列に沿って湾曲して延在して下顎側の歯の表面に接合する第2接合部と、第1接合部と第2接合部との間で上顎側の歯の咬合面と下顎側の歯の咬合面とに接合する第3接合部と、を備え、柔軟性を有する基材が折りたたまれて第1接合部、第2接合部及び第3接合部が形成されることを特徴としている。
【0008】
これによれば、歯の表面及び咬合面といった歯の要部全体に亘ってマウスピースが接合される。したがって、例えばマウスピースにフッ素成分を塗布して歯科医療に用いるような場合には、フッ素成分の作用によって歯の再石灰化が促進されることから、柔軟性を有する基材を折りたたむことで形成される簡易な構造によって、歯のう蝕を適切に防止することができる。
【0009】
このマウスピースの第3接合部は、上顎側の歯の咬合面が接合する上顎側接合部及び下顎側の歯の咬合面が接合する下顎側接合部が設定されることを特徴としており、さらに、上顎側の歯の歯列及び下顎側の歯の歯列に沿った切り欠きが形成されることを特徴としている。
【0010】
しかも、マウスピースは、第1接合部、第2接合部及び第3接合部に通電する導電材を備えることを特徴としている。
【0011】
上記課題を達成するための本発明に係るマウスピースの使用方法は、第1接合部、第2接合部及び第3接合部にフッ素成分を塗布し、フッ素成分を塗布した第3接合部を上顎側の歯の咬合面と下顎側の歯の咬合面とで咬合して上顎側の歯の咬合面と下顎側の歯の咬合面とをそれぞれ第3接合部に接合させるとともに、上顎側の歯の歯列に沿って上顎側の歯の表面に第1接合部を接合させ、かつ下顎側の歯の歯列に沿って下顎側の歯の表面に第2接合部を接合させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、歯のう蝕を適切に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施の形態に係るマウスピースの構成の概略を説明する斜視図である。
【
図4】同じく、本実施の形態に係るマウスピースとして形成される基材の概略を説明する平面図である。
【
図5】同じく、本実施の形態に係るマウスピースの使用手順の概略を説明する図である。
【
図6】同じく、本実施の形態に係るマウスピースの使用手順の概略を説明する図である。
【
図7】本発明の他の実施の形態に係るマウスピースの構成の概略を説明する平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、
図1~
図6に基づいて、本発明の実施の形態に係るマウスピースについて説明する。
【0015】
図1は、本実施の形態に係るマウスピースの構成の概略を説明する斜視図であり、
図2は
図1のA矢視図であり、
図3は
図1のB矢視図である。図示のように、マウスピース10は、本実施の形態では、柔軟性を有する基材1が折りたたまれて形成される。
【0016】
基材1は、本実施の形態では、不織布1A、導電性を有するシート状の導電材1B及びPEフォーム材1Cの順に重ね合わせられて形成される。
【0017】
この基材1によって形成されるマウスピース10は、本実施の形態では、第1接合部20、第2接合部30、第3接合部40及びイオン導入部50を主要構成として備える。
【0018】
第1接合部20は、本実施の形態では、上顎側の歯の歯列に沿って湾曲して延在して歯列を被覆する帯状に形成され、マウスピース10の装着状態で上顎側の歯の表面に接合する。
【0019】
第2接合部30は、本実施の形態では、下顎側の歯の歯列に沿って湾曲して延在して歯列を被覆する帯状に形成され、マウスピース10の装着状態で下顎側の歯の表面に接合する。
【0020】
第3接合部40は、本実施の形態では、第1接合部20と第2接合部30との間で第1接合部20及び第2接合部30と一体的に連続して形成され、マウスピース10の装着状態で上顎側の歯の咬合面及び下顎側の歯の咬合面に接合する。
【0021】
この第3接合部40は、本実施の形態では、長尺の第3接合部片40A及びこの第3接合部片40Aに対して短尺の第3接合部片40Bによって構成され、上顎側の歯の歯列及び下顎側の歯の歯列の一端から他端に向かって、間隙40Cを介して第3接合部片40A、第3接合部片40B、第3接合部片40B及び第3接合部片40Aの順に配置される。
【0022】
さらに、第3接合部40は、本実施の形態では、第3接合部片40A及び第3接合部片40Bのそれぞれにおいて、上顎側の歯の咬合面に接合する上顎側接合部40a及びこの上顎側接合部40aと表裏となって下顎側の歯の咬合面に接合する下顎側接合部40bが設定される。
【0023】
さらに、第3接合部40には、本実施の形態では、上顎側の歯の歯列及び下顎側の歯の歯列に沿った切り欠き41が第3接合部片40Aに形成される。
【0024】
この第3接合部40が、間隙40Cを介して第3接合部片40A及び第3接合部片40Bが配置されることによって形成され、かつ第3接合部片40Aに切り欠き41が形成されることによって、第1接合部20及び第2接合部30が歯列に沿って湾曲して、第1接合部20が上顎側の歯の表面に接合し、第2接合部30が下顎側の歯の表面に接合する。
【0025】
イオン導入部50は、本実施の形態では、第2接合部30から外側に突出する舌片状に形成され、先端側において基材1を構成する導電材1Bが部分的に露出する。
【0026】
次に、本実施の形態に係るマウスピース10を作成する手順の概略について説明する。
【0027】
図4は、マウスピース10として形成される基材1の概略を説明する平面図である。図示のように、基材1は、長尺な第1辺1a、第1辺1aと対向する第2辺1b、第1辺1aと第2辺1bとを連続する短尺な第3辺1c及び第3辺1cと対向する第4辺1dを有する、矢線xで示す幅方向に長尺な矩形状に形成される。
【0028】
この基材1には、本実施の形態では、幅方向xに沿って切り欠き41、間隙40C、間隙40C、間隙40C及び切り欠き41が順に形成される。
【0029】
一方、基材1には、基材1を構成する不織布1A側を表面とした場合において、幅方向xに沿って延在する第1谷折線F1、山折線F2及び第2谷折線F3が矢線yで示す高さ方向において順次設定される。
【0030】
本実施の形態では、第1辺1aと第1谷折線F1との間に第1領域R1が設定され、第1谷折線F1と山折線F2との間に第2領域R2が設定され、山折線F2と第2谷折線F3との間に第3領域R3が設定され、かつ第2谷折線F3と第2辺1bとの間に第4領域R4が設定される。
【0031】
このような基材1において、第1谷折線F1に沿って谷折りをすると第1領域R1が第1接合部20として形成され、山折線F2に沿って山折りをすると第2領域R2が第3接合部40の上顎側接合部40aとして形成されるとともに第3領域R3が第3接合部40の下顎側接合部40bとして形成される。
【0032】
さらに、第2谷折線F3に沿って谷折りをすると第4領域R4が第2接合部30として形成される。
【0033】
このように、柔軟性を有する基材1を折りたたむという簡易な手法によって、マウスピース10が形成される。
【0034】
次に、本実施の形態に係るマウスピース10の使用手順について説明する。
【0035】
まず、不織布1A側を表面とした基材1を折りたたんで形成したマウスピース10の表面に、フッ素成分であるフッ化ナトリウム溶液を塗布する。具体的には、第1接合部20、第2接合部30及び第3接合部40(上顎側接合部40a及び下顎側接合部40b)にまんべんなくフッ化ナトリウム溶液を塗布する。
【0036】
続いて、第3接合部40を、上顎側の歯の咬合面と下顎側の歯の咬合面とで咬合して、上顎側の歯の咬合面を第3接合部40の上顎側接合部40aに接合させるとともに、下顎側の歯の咬合面を第3接合部40の下顎側接合部40bに接合させる。
【0037】
このとき、上顎側の歯の歯列に沿って上顎側の歯の表面に第1接合部20を接合させるとともに、下顎側の歯の歯列に沿って下顎側の歯の表面に第2接合部30を接合させる。
【0038】
これにより、
図5で示すように、イオン導入部50が装着者Pの口唇から突出した状態で、装着者Pの口腔内にマウスピース10が装着される。このとき、歯の表面及び咬合面といった歯の要部全体に亘ってマウスピース10が接合されることから、例えば歯科医療に用いる場合には、装着者Pの歯のう蝕を適切に防止することができる。
【0039】
本実施の形態では、装着者Pがマウスピース10を口腔内に装着した状態で4分から5分程度が経過すると、装着者Pの歯の全体に亘って接合するように装着されたマウスピース10に塗布されたフッ化ナトリウム溶液の作用によってフッ化カルシウムが形成され、その後、フルオロアパタイトに置換されることから、、歯の再石灰化が促進されることから、装着者Pの歯のう蝕を適切に防止することができる。
【0040】
しかも、本実施の形態のマウスピース10は、汎用性のある材料を用いて構成された基材1を用いて形成されることから、簡易かつ安価に量産可能であることが想定される。
【0041】
したがって、都度の使用ごとに廃棄することが可能な、いわゆる「使い捨て」のマウスピース10とすることも可能であることから、衛生面の安全性が向上する。
【0042】
ところで、
図6で示すように、イオン導入装置100を用いる場合は、装着者Pがマウスピース10を口腔内に装着した状態で、イオン導入装置100のクリップ状の電極101をマウスピース10のイオン導入部50に接続する。
【0043】
イオン導入装置100でマウスピース10に3分ほど通電すると、マウスピース10に塗布されたフッ化ナトリウム溶液が電解作用によってイオン化されて、歯質にフッ素イオンが取り込まれることによってフッ化カルシウムが生成されることから、歯のエナメル質の歯質の主成分であるハイドロキシアパタイトが、高度なう蝕抵抗性を示すフルオロアパタイトに置換される。
【0044】
したがって、装着者Pの歯のう蝕を適切にかつより高度に防止することができる。
【0045】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されることはなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0046】
上記実施の形態では、第3接合部40が、間隙40Cを介して第3接合部片40A及び第3接合部片40Bが配置されることによって形成され、かつ第3接合部片40Aに切り欠き41が形成される場合を説明したが、第1接合部20及び第2接合部30が歯列に沿って湾曲する形状を賦形することができるのであれば、種々の構造を採用することができる。
【0047】
例えば、
図7で示すように、第3接合部40αを、間隙を介在させない構造とする一方で、第3接合部40αに、上顎側の歯の歯列及び下顎側の歯の歯列に沿って適宜の間隔で複数の切り欠き41を形成するという構造を採用したマウスピース11とすることもできるし、この場合においても、第1接合部20及び第2接合部30が歯列に沿って湾曲する形状に賦形される。
【0048】
マウスピース10は、装着者Pの性別や年齢(あるいは例えば「幼児」や「成人」といった年代)に応じて、それぞれの性別や年齢等に適した複数の寸法のものが準備される。
【符号の説明】
【0049】
1 基材
1A 不織布
1B 導電材
10、11 マウスピース
20 第1接合部
30 第2接合部
40 第3接合部
40A、40B 第3接合部片
40C 間隙
40a 上顎側接合部
40b 下顎側接合部
41 切り欠き
50 イオン導入部